編集者:❃虹色うさぎ❃
見知らぬ森で目覚めた少女、冬見小夏は、人を探すために灯りの元へと向かう。辿り着いた街で一際目を引いた服屋さんは透明人間が経営していて…。
これは、あの世とこの世の境目にある世界から、服屋さんで働きながら戻る方法を探していく物語。
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透明人間の服屋さん 第一話
遠い、昔の記憶。全身が水に埋もれ、服が重たくなり、酸素を取り込もうと藻掻けば藻掻くほどに呼吸は浅くなり、沈んでいく。(あぁ…、もうダメなんだな…。)そう悟り足掻くことを諦めたとき、どこからか手が伸ばされた。
(…だれ?)
記憶はそこで途絶えている…。
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薄暗い森の中、私、|冬見 小夏《ふゆみ こなつ》は目を覚ました。ムクリと起き上がり、頭の中を整理しようとする…が、ここが何処なのか皆目見当もつかない。少し先に小さな灯りが見えたので、そこへ向かうことにした。
灯りの正体は一軒の服屋さんだった。茶色の屋根に白い壁、窓には鉢植えが並べられており、白いマネキンたちが着せられた服は、暖かい色の照明に照らされてレトロな雰囲気を漂わせていた。思わず私は暫くその様子に見惚れてしまったが、目的を思い出し、お店の人を探そうとドアノブに手を掛けようとした…が、ドアノブを握る前に扉が開き、
「…すみません。もう閉めるところでして…って!?」
その声の主とお互いに驚愕の声を上げることになる。
「透明「人間!?」」
二つの声が同時に木霊した。
---
暖かい店内の中、私はソファに腰掛けていた。すると、コトンっと目の前のローテーブルにもくもくと白い湯気を立てた紅茶が置かれた。
「すみません…。わざわざもてなして頂いて…。」
「いえいえ、丁度閉店時間だったし、暇だから気にしないで。」
そう言うと、彼が被っていたシルクハットについていたマスコットのような顔がニッコリと微笑んだ。どういう仕組みなのかが気になるが名を名乗っていないことを思い出し、席を立つ。
「改めまして…。私は|冬見 小夏《ふゆみ こなつ》、十四歳です!」
ペコリと勢い良くお辞儀をする。
「…ふふ、ご丁寧にどうも。でも敬語じゃなくて良いよ?僕の名前はセネル。この店のオーナーをさせて貰ってます。」
セネルさんも私のお辞儀に応えるかのように紳士的なお辞儀を披露してくれた。
「いえ、敬語は癖みたいなものなのでお気になさらず!!それよりもこのお店とっても素敵ですよね!!!こんなに素敵なお店を経営しているなんて凄すぎます!!!」
瞳を輝かせて興奮しながら熱弁すると、セネルさんのシルクハットの表情が照れ出した。どうやらシルクハットは透明人間である彼の表情を表す役割を担っているようだ…。
「ありがとう…。それで、此処がどういう場所なのか分かってないんだよね?」
「はい…。気がついたらあそこの森で寝てて…。」
「…そっか。ここは生と死の狭間の世界…。死にかけているけどまだ死んでいない人がここに迷い込むんだ…。だから、ここにいるってことは君は何かに巻き込まれて死にかけたか、あるいは…」
ドクンと胸の鼓動が速くなり、血の気が引いていく。
「えっ!?そんな…。じゃあもう私は帰れないんですか?」
震える私の手をセネルさんが握りしめた。その温度で少し落ち着きを取り戻す。
「大丈夫、簡単じゃないけど帰る方法はちゃんとあるよ。だけど早くしないと僕みたいにここの世界の住人になってしまうんだ。そしたら帰れなくなってしまう。だから一緒に帰る方法を探そう?」
「ありがとうございます。…セネルさんも、元は私と同じ人間だったんですか?」
服の動きで首肯したのが伝わってきた。
「だけど、まだ帰れる人間の身体を乗っ取ることで自分も生き返れると勘違いしている人もいるんだ。…そんなわけないのに。だから狙ってくる奴もいると思うけど襲われないように気をつけてね。」
その言葉を聞いてドキリとする。ということはここに居たらセネルさんに迷惑が掛かってしまうということだ。だから…。
「そうなんですね…。だったら迷惑は掛けられません!ありがとうございました!」
私は、勢い良くお辞儀をすると走って店を出る。セネルさんの呼び止める声が聞こえたが振り向くことはしなかった。
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それから一度森へと戻って来た。とりあえず食べられるものでもないかと、木の実を探す。その道中歩きながら私はセネルさんのことを思い出していた。
(あんなに親切にしてもらったの初めてだな…。それにセネルさんの声や体温、とっても落ち着いたなぁ。…もしかしてこれが恋だったりして!?)
なんて、わざとおちゃらけて気持ちを落ち着かせようとする。…けれど、そんなことを考えていたら本当に顔が熱くなってきたので、パタパタと手で顔を扇ぐ。すると、二十メートル程先に倒れている、着物を着た髪の長い女の人を見つけた。慌てて「大丈夫ですか!?」と駆け寄るも反応も息もない。しかし、脈はあるようだ。保健の授業で習ったように胸骨圧迫をしようと構えたとき、急にこちらに顔を向けてきて「ねぇ…」と話しかけられた。無事だったことへの安堵をその女性の険しい剣幕への恐怖と驚きが上回る。
「ぶ、無事だったんですね…。良かったです。歩けそうですか…?」
震える声で尋ねると、突如両腕をがっしりと掴まれた。思わず「ヒッ」と悲鳴が漏れる。
「あ、あの…」
「あなた、人間…よね?」
「え、えっと…」
「人間よね???って聞いてるの!!!」
「は、はい…!」
「…そう。良かったぁ!!これで生き返れるわ!!」
女性はニッコリと微笑み、包丁を取り出した。
(逃げなきゃ…!!!)
本能的にそう悟り、私は勢い良く走り出した。しかし、すぐ後ろから女性が追いかけてくる。(どうしよう…。誰かに助けを…いや、迷惑は掛けれないし、敵が増えるだけかも…。セネルさんなら助けてくれる?でも、危険に晒したくない!)
そう思った矢先、ランタンの灯りが見えた。持ち主はセネルさんだった。こちらに気付いたセネルさんは、ランタンを道端に捨て去りこちらに近づいてくる。それに気を取られ、うっかり転んでしまった。急いで立ち上がろうとするも、もう目の前まで追いつかれていた。女性は私の顎を左手で掴むと、右手で持っていた包丁を首の前まで突きつけてきた。もうダメだと悟ったとき、突如女性が大きく仰け反った。原因はセネルさんが全力の力で私から女性を引き離したからだ。転がった包丁をセネルさんが回収する。そして、女性上に跨り首に包丁を突きつけるとこう言った。
「いいですか…。人間を乗っ取ったら生き返れるって言うのはデマなんです。もう僕達は生き返ることはできないし、輪廻の輪からも外れています。なので、もうこれに懲りたら人間を乗っ取ろうとか無駄なことしないで貰えますか?僕、手を汚すのは嫌いなんです…。」
女性が「は…い…。」と言うと、セネルさんは首から包丁を離し、女性から離れた。女性は一目散に逃げていく。それを見た私は急いで立ち上がりセネルさんの元へと駆け寄った。
「あの…!ありがとうございました!」
「いえいえ、それよりもこれで分かったでしょう?一人では危険なんだよ。だから僕にも君が帰る手伝いをさせて?小夏。」
その言葉を聞いた瞬間、目から涙が溢れてきた。
「はいっ…!よろしくお願いします…!」
満面の笑みを浮かべて言うと、セネルさんが私の涙を指で拭った。
「ふふ、じゃあとりあえず店に戻ろうか。2階が居住スペースになってるんだ。空いている部屋があるからそこを使って。」
それから私達は服屋さんへと向かった。
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お店の階段を登って部屋を案内される。
「少し埃っぽいけど…掃除すれば大丈夫だろうから明日一緒に掃除しようか。今日は僕の部屋を使って、僕は1回のソファで寝てるから何かあったら呼んでね。」
「いえ!そんなのダメですよ!!私がソファで寝るのでセネルさんはちゃんとベッドで寝てください!!」
「一階だと誰かが来たら危険だから…」
「じゃあ多少埃っぽくても大丈夫なので…!」
「…いや、ごめん…。実は埃だけじゃなくて蜘蛛の巣とかあるんだよね…。」
それを聞いて背筋に寒気が走る。蜘蛛とかの虫は普通に無理すぎる…。「う〜ん」と唸り声を上げているとセネルさんが
「…じゃあ僕の部屋に布団を敷いて、お互いどっちかに寝る?」
「えっ…!は、はい!それなら…。あ、私は布団でお願いします!」
「了解。」
一緒の部屋で寝ることになるのは流石に予想外だった…。けど、セネルさんがいつも使っているベッドを使うのは緊張でおかしくなっちゃいそうだったのでそこだけは譲ってもらえて良かった。
「あ、あとお願いがあるんですけど…。」
「ん?なぁに?」
「お礼に明日からお店のお手伝いをさせて下さい!!」
「えっ…、そんなの気にしなくて良いのに…。」
「私の自己満足なので!…それに、服屋さんにちょっと憧れてたんです。」
キラキラと目を輝かせて上目遣いで頼む。
「まぁ、それなら…。じゃあ明日からお願いね、小夏。」
「はいっ!」
するとセネルさんが思い出したように「あっ、そうそう…。」と人差し指を口の位置まで持ってくると、
「じゃあ僕のお願いも聞いてくれる?」
「もちろんです!」
「セネルさんじゃなくて、セネルって呼んで。」
セネルさんのシルクハットの表情がニッコリと微笑んだ。恩人に向かって呼び捨てにするなんて気が引けるけど、それがセネルさんの頼みなら…
「…わかりました!改めてよろしくお願いします!セネル。」
「もちろん!…いつか敬語も取ってくれるとありがたいな…。」
「は、うん!頑張りま…頑張るね!」
「少しずつで良いよ。」
セネルがクスリと笑った。その後、夜ご飯にパスタを頂いてから、私達は眠りに落ちるのだった…。