作者・紫桜の明るくも暗くもない5年生生活を物語(伝記)風にアレンジしたもの。もちろん登場人物はすべて仮名、身バレ防止のために多少のフィクションを入れています。
こういう生き方もあるんだな、という参考までに。決して道徳っぽいシーンなんてありません。
5年生編はこちら
https://tanpen.net/novel/series/992b81ca-b6e9-4a26-aa5e-024625d58da6/
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目次
キラキラの6年生
昇降口に、人がわんさかいた。
今日は4月7日。紛れもない、始業式の日だ。
スー、と深呼吸をする。狙いは4年生の時の担任である大北先生だ。大北一華先生。おもしろくて、優しくて、授業がわかりやすい先生だ。
去年、6年生の担任をしていた。可能性は、十分あるだろう。
「む…」
人混みをかき分けて、とにかく「村」を探す。
「あった!」
黄色い画用紙に貼られている紙。黄色い画用紙は、3組であることを意味していた。また、3組か。
恐る恐る、担任の名前を見る。
『担任 大北一華』
「きたああああっ!!」
大北先生が来た。
優香と直子がクラスメートにいた。花蓮はいいけど、乃々葉や彩葉、梨花とわかれたのは残念だ。
意気揚々とあいさつした。
「おはようございます!」
「紫央ちゃん!」
「大北先生!」
大北先生が、わたしのことを覚えていてくれた。それだけで、今後の学校生活がいい結果を招くと言っているようだった。
やった、よかった__
いい学校生活が、送れそうだった。
いい学校生活《《は》》送れていた。それなのに____
親のプレッシャー
大北先生が担任になってくれたことは、両親も喜んでいた。
「これから良い生活が満喫できそう!」
にこにことして、言った。
---
「行くの、行かないの?」
お母さんの言葉が、脳裏に焼き付いた。
わたしは成績がいい方で、中学受験をして東西中学校に行ってみたら、と言われていた。乃々葉も同じく受けるらしい。
でも、行きたくない。
仮に合格したとして、本当にいい学校生活は送れるのだろうか?
乃々葉しか知り合いがいない状況で。だいいち、乃々葉だって同じクラスになれるとは限らない。
ここから、すごく遠い。電車に乗って、としなければいけない。公立中学校だったら、歩いて15分もかからない。わたしの嫌いなお弁当制。公立中学校は給食制。
正直、デメリットばかりだった。唯一のメリットが、「将来の選択肢が広がる」だった。
でも、いまいちピンと来なかった。どう広がるんだろう。なぜ、東西中に行ったら、どう、幸せになれるんだろう。
親の誘いで見つけた東西中。本当に、行く必要はあるのだろうか?
こんなことなら、東西中なんて知らないで普通に公立中学校に行きたかった。高校で頑張りたかった。
授業だってついていけるか分からない。習い事だって、いつやめるの?
1時間の家庭学習もできないわたしに、できるの?
習い事だっていっぱいしている。さらに塾に行くというのだから、もっと忙しくなる。
前に体験した塾は怖かった。鬼のように怒ってきて、とにかく厳しい。4時間も座らされた。55分の授業で休憩が5分。その5分でみんなが喋って、それも苦痛だった。
今度体験するのはまた別の塾だ。でも、本当に大丈夫なのだろうか。
乃々葉は楽しい、と言っていた。彼女の言葉が、もしも違ったら。親を心配させないために、わたしと一緒に行くために、言っていたとしたら。
怖い。すごく、怖い。
なんでいつもこうなんだろう。
2年前、4年生の時もこうだった。
また東西中の話は出ていなかったけど、苦しめられていた。弟の暴力に。
学校から帰りたくない、という気持ちが2年前と重なった。今でも弟の暴力には苦しめられているけど、東西中についての話がいちばん苦しい。
1年前は慰めてくれたお母さんも、もう別人だった。
「助けて」
その叫びは、お母さんに届かない。
進路
東西中。家から電車で約1時間のところにある、私立の学校。
わたしは成績がひとつ抜けていて、通知表には「よくできている」を表す「◎」がずらりと並んでいた。
そんなわたしを、みんなは褒めてくれた。
授業と宿題をちゃんとしたら、誰だってできるんだ。みんな、「帰ったら勉強してるんでしょ?」って聞いてくるけど、大してしていない。
そんなわたしは、6年になって、はじめて塾にいった。けっこう面白いし、乃々葉や恵利という子も通っている。家からもけっこう近い。授業も面白いし。
___でも、やっぱり不安は募る。
もう学校生活に対する不安は、一切ない。先生とクラスガチャ、どちらも当たりだったから。
でも、学校以外のところに不安がある。
弟は、小2になっても、まだ暴力を振るったり、物を取ったり。
母は、弟に対してすごいストレスを抱えたり、ヒステリックになったり。
父は、あんなに温厚だったのに、弟のせいでこんなになった。
弟に、すべてを狂わされた。正直、生まれてこなくても良かったのに。生まれてこなかったら、本当に幸せだった。
英検3級に受かるのだろうか。
東西中、本当に受かるのだろうか。
不安がぐるぐる渦巻き、だんだんと家が嫌になってきた。学校にずっと住んでいたい。家は、時々帰るぐらいでいい。
偶に、塾で大きなテストを受ける。そのとき、学校ではほとんどが、「100」の赤い数字だ。それなのに、そのテストは「87」とか、ひどいときには「65」とか、さんざんな点数だ。そのたびに、「調子に乗るな、現実を見ろ」って突きつけられている気がする。
歴史の授業だって、何がなんだかわからない。理科だって覚えることが多いし、算数はケアリスミスが怖い。国語の「〜〜を用いて」というのは、未だにコツが不明。英語は、ライティングができないのだ。
とにかく、できない。できないだらけ。追いついていくのに必死で、シャープペンシルを走らせる。家庭環境も悪い。係活動だって嫌だし、委員会だって最悪だ。
唯一の光をともしてくれたのが、先生の存在だった。クラスメートも。
だからこそ、わたしは生きていける。
___もしも。もしも、その学校という環境が打ちのめされたら。わたしは、もう生きていけなくなるだろう。