閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
【東方単発二次創作小説】市のあと
登場キャラクター
天弓千亦
十六夜咲夜
飯綱丸龍
菅牧典
姫虫百々世
夢を、視た。
いずれ正夢になる夢を。
その部屋には誰もいなかった。
私は薄暗い部屋を歩きながら探し人の名前を呼ぶ。そして気づいた。自分が今探している人達は、もうこの世にはいないことを。
体が宙に浮くような感覚を覚え、目を覚ます。いつもの朝。
私はゆっくり体を起こす。
(またあの夢か…最近よく見るなぁ)
時計を見る。朝4時。
寝るにも起きるにも中途半端な時間。
ふと隣を見ると、飯綱丸達が静かな寝息を立てていた。
共に新たな市場を立ち上げ、この山の経済を動かしてきた、私の大事な共同経営者たち。
起きている時は互いに譲らない彼女たちが、今はただ静かに眠っている。
私は彼女たちの布団を動かさないよう、そっと布団を出た。
朝の人里は、思いの外寒かった。
いつもの虹色の服にしておけばよかった、とマフラーの裾を引き上げながら、私は少しだけ後悔していた。
人里の外れへと続く道を、あてもなく歩く。
行き着いたのは、早朝の冷気に白い霧を立たせる川辺だった。ごうごうと音を立てて流れる水面を見つめながら、私は先ほど見た夢の、あのガランとした部屋の静寂を思い出していた。
ふいに、後方から声がかかる。
「おはようございます」
私は思わず振り向く。
そこには見覚えのあるメイド服の少女が立っていた。
「あなたは……確か、アビリティカードのとき、市場に来た」
「ええ、そうです。十六夜咲夜です。
いつもの服ではなかったのでためらいましたが、やはり天弓様でしたね」
と言って、彼女は私の隣に移動する。
さっき買い物をしてきたばかりなのだろう。肩にはいっぱいに野菜の入ったバッグがかかっている。
「朝から買い物、か。貴方も熱心ねぇ」
「お嬢様方のお食事の準備がありますので。
それにしてもこんな朝から一人でどうされたのですか。もしかして同居の方々と喧嘩を……?」
「そんな訳ないでしょ……それより、ねぇ、少し話を聞いてもらってもいいかしら」
咲夜は首を傾げる。
私は空を仰ぎ、ゆっくりと白い息を吐いた。
「人間って、せっかく色んな経験や知識を買い揃えても、たった数十年で全部手放して店じまいしちゃうでしょう。どんなに価値あるものも、最後は手元に残らない。……ねえ、十六夜咲夜。あなたもいつか、あのお嬢様方を置いて、そうやって勝手に取引を終了しちゃうわけ?」
咲夜は驚きも動揺もしなかった。ただ、見据えるような目でこちらを見ている。私が何を言わんとしているのか、彼女は即座に理解したようだった。
「……私は人間です。いつかはきっと、お嬢様を置いて旅立つ日が来ます」
咲夜の声に悲壮感はなかった。
「ですが、終わるからといって、今ここにある忠誠や、共に過ごす時間が偽物になるわけではありません。私は私の時間を、ただここで全うするだけです」
「……全うする、ね」
ええ、と咲夜は目を閉じる。
「前にお嬢様に、永遠の命を持ちかけられたことがありました。ですが、私は一生死ぬ人間。きっと時間を持て余してしまうはずです」
悲しさは感じなかった。寂しい、可哀想というのも少し違う。人間はこういう考え方をするのかと思った。
遠くの山から眩い朝日が顔を出す。
眩しさに目を細めた私に、咲夜は言った。
「私はそろそろ行かなければ。お嬢様方のお食事は朝早くから作らないと間に合いませんからね」
そう言って彼女は頭を下げ、迷いのない足取りで人里の道を戻っていった。その背中を見送りながら、私はもう一度、マフラーの裾をぎゅっと握り直す。
家に帰ると、部屋の電気がついていた。多分みんなもう起きているのだろう。
「……あ、千亦。朝っぱらからどこ行ってたんだよ」
飯綱丸が湯呑みを置いて振り向く。
「あ、飯綱丸おはよう。…うーんと、まぁちょっと人里の見回り?」
「千亦殿、おはようございます。いつもの虹色の服が居間に置いてあったので、家出でもしたのかと思いましたよ。」
典が隣の部屋から湯呑みを持って来る。
「んな訳ないでしょ……」
「んで?人里警備の成果はどうだったんだよ?」
百々世が炬燵から身を乗り出す。
「んまー……ぼちぼち、かな」
「なんだよ、その曖昧な返事」
「っていうか百々世殿、服着替えて来てくださいよ。」
「うるせーな典。あとでやるからいーの。」
「今日も採掘の仕事あるんだろ?頼むぞ……」
いつも通りの会話を聞き流しながら、私は今日見た夢を思い出していた。
命の取引に『永遠』なんて商品は存在しない以上、あの静寂はいつか必ず、この部屋にやってくる。神である私を置いて、彼女たちは一方的に取引を終了させる。それは決定された未来だ。
だが、世界とはそういう仕組みで、命とはいつか手放すからこそ、今ここにある時間が狂おしいほどの価値を持つのだ。あのメイドの言う通りに。
「千亦? なんだよ、お茶持ったままぼんやりして」
飯綱丸が私の顔を覗き込む。
「ん?あー、いや今日寒いなって。」
「じゃあなんで外出たんですか……」
「まぁいいでしょ、とにかく朝ごはんにしましょうよ」
窓の外からは、すっかり昇った朝の光が静かに差し込み、部屋の隅の影を淡く照らし始めていた。
こいつらがいなくなったら、私はまた新しい市場を開くだけよ。そう、それでいい。
私は席を立ち、いつも通りの日常に溶け込んでいく。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。まだ納得がいっていない作品ですが、今作を通して東方プロジェクトや登場キャラクターに関心を持っていただけたら幸いです。
…あとこれ、絶対黒歴史になるやつですよね。