単発の二次創作などを入れてゆきます。シリーズのタイトルは妄想癖が強くて些細なことでファンタジーしてしまう事から。
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目次
「ド屑」考察小説<望む末路(まつろ)>(二次創作)
なきそ様「ド屑」の自分的考察をもとにした小説です。
つらつらと起伏のないセリフばかり書いてしまいました。僕の悪い癖。
お楽しみいただければ幸いです。
薄暗い部屋。ベッドの上。くたびれたクッション。画面からのびる光。絶えず動く指。
--- 流れるタイムラインに待ったをかけた「もう死にたい」の四文字。 ---
「よかったら今度話しませんか」ちょっと考えた。
--- "送信" ---
返信がかえって来た「是非」
、、、馬鹿な女だ。まんまとかかった。
---
|名瀬 瑠妃《なぜ るひ》は約束したとおりに待ち合わせの駅へ着いた。優しく相談に誘ってくれた彼女を探す。
「ふう、、、二つ結びに白いリボン、、、どこかなぁ?」
「ここですよ」
「うわぁ!?」
気づいたら"彼女"が後ろにいた。
「遅かったですねぇ」
「え、でも今って丁度待ち合わせの時間じゃ、、、」
「まぁいいです。行きましょう、ついて来てください」瑠妃の言葉を遮るように彼女が言う。
「あなたの望みにきっと合います」
言葉の意味は分からなかったが、とりあえず瑠妃は楽しさを抱えながらついていった。
さっきからずっと彼女がワンピースのフリルの中で両手を繋いでいるのが気になり、瑠妃は言った。
「ねぇ、手をつなごうよ。」
「嫌」強めにかえってきた言葉に、瑠妃は一瞬たじろぐ。
「無理」
「え、でも、、、」
「無理って言ってんの」
「、、、っ、、、!」あまりにも冷たい態度。瑠妃は息をのむことしかできなかった。
---
「さぁ入って」
白いドアの前。アパートの一室だろうか。
「ここどこなんですか?」
彼女は一瞬眉をしかめたが、すぐ微笑んで言った。「私の家です」
「え、お母さんやお父さ、、、」
「関係ありません」
「あ、うん、、、」瑠妃は彼女の反応を悟り、抵抗を諦めた。
中に入ると、部屋は薄暗く埃っぽい。くたびれた感じのクッションが点々と置いてあったり、得体の知れない糸がそこら中に散らばっていたり。なんだか少し不気味だった。
「ここに座って」
「うん」
ようやく安心できる、と思ったのもつかの間、無数の糸が伸びてきて瑠妃の体を絡めとった。
「、、、!?」
銀色のハンマーを持った彼女が嬉しそうにほほ笑む。
「さぁ、あなたの望みを叶えましょう」
「望みってどういうこと?私は監禁されることなんて望んでない!どうしたの!?」瑠妃は訳が分からなくなって言う。
しゅるんっ
「、、、ッ!!」
目に見えぬくらい細い細い糸が高速で飛び回り、瑠妃の首をかすめ髪の先が散った。
「だから、どうしたって言ってるの!殺す気!?」
「自ら望んだんでしょ、自由にさせて」
「殺されることなんて望んでない!!」
「自ら望んだと言ってんじゃん」
「待ってよ、、そんなこと言ってない!考えてよ、非常識にも程があるよ!?」
彼女は少しの間左上に視線を向け、眉をひそめて考えるようなそぶりを見せた。
「、、、少々考えましたが、、、何がおかしいの。ちょっと考えたよ、それで?だからどうした?」
彼女は話し続ける。「お望み通りの末路ですよ、、、!?何故文句を文句を垂れ私が悪いように見るの?」
瑠妃はもう何を言えばいいのか分からなくてひたすら叫ぶ。「何で!?何でなの!?どういうつもり!?」
「こっちが聞きたいの、あなたこそどういうつもり!?」
瑠妃がふいにあることを思い出し、落ち着きを取り戻した。「あ、、、もしかしてあの投稿?死にたいってかいたけど、、、なぁんだ!そんなことか!」
「、、、!!どういうこと!?」
「あのね、あーいう"死にたい"ってのは、大体本気じゃないんだよ。私もそう。誰かにかまってほしかっただけ。」
「、、死にたいって、そんなもん、なの?誰かに殺してほしいとか、そういうことではない、ってこと?」
「とりあえず、ネットによくあるのはね。」
瑠妃は安心したが、なんでか彼女が自分を連れてきたのは"末路を与え、望みを叶える"とかそういうことではない気がしていた。
「、、、そう」
「ふぅ、よかった。これで一件落着だね。そろそろ放してもらってもいい?」
「、、、ず」
「、、、?今、何て?」
--- 「ド屑」 ---
「、、、!?」
彼女が急にブツブツと続けざまにつぶやく。
「嗚呼、たかがそんなもんなのか、、きっとそうだ、違いないよ、、」
「どうしたの??」
「はぁ、、、しょうがない、、、」
瑠妃を縛っていた糸が急に力が抜けたようにほどける。
「!!やった、ありが、、」
--- 「黙って私に従って」 ---
「え?どういうこt、、」
「黙って私に従って」
「え、、、!?急にどういうこと??」
「黙って私に従って」
「え、、なんで従わなきゃいけな、、」
「従え」
「何で命令なんてするの?」
「従って。君に一切の拒否権ないよ」
「、、、!!何でそんなことが言えるの!!せっかく分かり合えたと思っ、、」
「黙って従えよ」
「何で同じようなことしか言ってくれないの?何が目的なの!?」
「黙って私に従ってよ、、お願い、、お願いだから、、」
彼女は今にも泣きそうだ。しかし、それは瑠妃も同じであった。
「黙って私に従って、、」
「なんで、、何で私にそんなに執着するの??」
「従えって言ってんの、、、黙って従って、、??」
「あなたは何がしたいの、、、私は何をすればいいの、、、??」
「黙って私に従って、、お願い、、お願い、、お願い、、、、」
彼女の眼からはとめどなく涙があふれ出ていた。瞳の奥は寂しそうで、苦しそうで、瑠妃を見つめ「一人にしないで」と訴えているようであった。
--- 「、、、お願い」 ---
-2251文字-
どうだったでしょうか。皆様もネットコミュニケーションには気を付けましょう。
ボカロの考察小説、これやってほしい!というリクエスト、ファンレターなど受け付けております。お待ちしてるっす~
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二次創作 「静謐(せいひつ)」 <グローディ・ロイコディウム_王様戦隊キングオージャー>
静謐 (せいひつ)
静かで穏やかなこと。「静」も「謐」も「しずか」の意。
--- ーーー無駄と分かって何故足掻く、、、?ーーー ---
--- ーーーいちいち覚えてられるか、、、ーーー ---
--- ーーーいいかげん静かにしてくれよ、、、ーーー ---
--- 世界は何故こんなにも、うるさいのだろうか。 ---
---
爆ぜる景色、燃える体。
潰えゆく意識、あたりを包む轟音。
感じた"最期"は、騒がしくも静かで、荒々しくも綺麗だった。
屍の友をたずさえて、生無き世界へ千鳥足、、、
憧れ焦がれた死が、やっと、俺の手を引いた。
---
気が付くと、知らない場所にいた。
木々が光っている。 影がそよいでいる。
驚くほどに綺麗で、涼しかった。
"生きる"ということなど、初めからまやかしだったのだろうか。そう思えてしまう程、そこに"命"の気配はなかった。
、、、静かだ、、、。
なんと心地よいのだろう。これが、俺の追い求めていた「死」か、、、。
体中に絡みついていた嫌気が、はらり、と落ちて消えてゆく。
久しぶりに、ゆっくりできそうだ。
柔らかく冷たい光に包まれながら、静かな眠りへと溶けるように目を閉じた。
はずだった。
[ううう、、、]
、、か細い、うめき声。今にも消え入りそうな程小さいのに、恐ろしいほど鮮明に聞こえる。
[恨めしい、、、許せない、、、、]
段々と声が増えてゆき、あちこちから聞こえるようになった。
心地よい静けさが、一瞬で台無しだ。黙ってくれないか。そう言おうと体を起こした時には、声の主が俺を囲んでいた。
[帰りたい、、、帰りたい、、、] [おい、、、ここから出せ、、、]
数多の黒い影が、苦しそうにのたうち回る。
怨霊、だろうか? あまり触れてはいけないものであることは嫌でも分かる。
戸惑っている間にも声は増え続け、影が勢いを増してゆく。腐った果実にたかる蝿のように、耳障りで鬱陶しい。
うるさい、静かにしてくれ。影の声にかき消されそうになりながら叫ぶが、返ってくるものは禍々しい声だけだった。
[こっちに来い、こっちに来い、こっちに来い、、、] [出せ、、、助けてくれ、、、出してくれ、、、] [ううう、、、ああああ、、、]
勘弁してくれ。うるさい、、、ただでさえ騒がしいのは苦手なんだ。出せと言われたって俺にどうにかできるわけがない。お前が消えない限り俺もそっちへは行かない。頼むからやめてくれ。
迫る影の大群と声から、ひたすら逃げるように惑い続けた。
どれだけ叫んだ? 今俺はどこにいる? いつになったら黙ってくれるんだ?
怒りと焦りが、狂気へと変わってゆく。駄目だ。押しつぶされるんじゃない。ここで溺れたら影に呑まれてしまう気がして、理性に入ったヒビを必死で押さえていた。
いくら耳を塞いでも、声が響いてくる。耳が千切れそうなほど痛い。脳が痺れている。うるさい。黙ってくれ。うるさい。来るな。
【これがお前の、やったことだろう?】
どこからだろう。他の影の叫びが聞こえなくなるぐらいに鮮明な声がした。
場違いな程温かく、ぞっとする程冷たい。優しく包み込み、胸をえぐるような声だった。何故だろうか、少し懐かしい。
ふっと緊張がほどけた瞬間、それが言葉であった事を思い出した。何だ、なんて言っていた?
【そのまま償っていろ、グズめ】
顎と頬を軽く、はたかれた気がした。
それきり、その声は聞こえなくなった。影の叫び声が、また波となって押し寄せる。待て、俺を置いていくな。「そのまま償え」とはどういう事なんだ、、、。混乱と影の声がぐちゃぐちゃに重なり、脆くなりゆく理性を激しく蹴っているのが分かる。やめてくれ。うるさい。叫ぶことに、もう意味すらないのだろう。なのに。無駄と分かっているが、声を張り上げてしまう。救いがないのは分かりきっているから、だから。せめて足掻いてやろうと思っているのだろう。
ふいに、ざらついていた心が動きを止めた。
たとえいくら耳が千切れようと、どれだけ脳が溶けようと、影の叫びは俺を苦しめ続けるのだろう。
そうなのであれば。
あの影のように、自らなど捨て。
ただ黒く、虚しく、揺蕩うのも悪くはないのではないか、、、?
[嫌だ、嫌だぁぁぁあ、、、]
ふと目の前に影が飛び出し、今までよりもっと悲痛な叫びをあげた。
いや。
駄目だ。絶対に。
今、分かった。影の中にあるのは、黒い虚無ではない。自らを失い理由すら無くなった、ただ禍々しい負の感情だけだ。
こんなものになって、何かから解放されるわけがない。やはり俺は、抗い続けるしかないのだろう。
だが、理性はもうヒビ割れだらけだった。いつまでもつか、見当が大体つく。ずっと押さえてきた狂気。押さえてきたからからこそ、溜まって取り返しのつかない事になっている。
そうか。何を選ぼうと、救いは無いのか。ジョークを聞いた時のような滑稽さを覚えた。
笑いが、こみ上げてくる。まだ笑えたのか、と一瞬安堵を覚えたが、この笑みが理性から来るものでないのは明らかだった。
笑い声が、止まった。
まずい。影のうめき声が、今までは練習程度だ、と言わんばかりに強くなる。鼓膜なんてとうに破れているのではないだろうか。あらん限りの怨念と恐怖が、俺に降り注いでいる。
[うわああ、、、あ゛あ゛ぁ、、、、] [お前のせいだ、、、] [早く助けて、、、はやく、、、]
嗚呼、もう無理だ。長らく抑え込んでいた狂気が、理性に入ったヒビから染み出してゆくのが分かる。おしまいだ。きっとすぐに、おぞましい黒に呑まれてゆくのだ。いや、まだ!! まだ終わってはいない、圧倒されるんじゃない。俺は耐えられる、俺は耐えられる。あがき続けろ。
とどめを刺すように、影のうめき声が響く。今までと、何かが違う。
ひとつの叫び声が、聞こえる。
今まで聞いてきたどの叫びよりも、長く、儚く、痛々しい。
恐怖と悲しみと怒りが、ぐちゃぐちゃに重なっている。何度もどこかで、聞いた声。
思い出した。
俺の、声だった。
理性の砕け散る、音がした。
-2490文字-
夢はまだ覚めない <廃工場のビスクドール スピンオフ作品>
Sui様の短編カフェ内で連載されていた小説「廃工場のビスクドール」のスピンオフ作品となっています。本編を最終話まで読了した状態での閲覧を推奨しております。
※工場の過去、その後など、かなりの捏造あり。各位、すいません。もし「これは流石にアカン」となりましたらご連絡くださるとうれしいです。
※他の方のスピンオフの世界観と食い違っている箇所がございます(本編、番外編、スピンオフはすべて読ませていただきました)。ご了承ください。
※少しきつい精神描写がございます。
ブロードさんが空間を歪めて、瓦礫が降り注いで。
どうしたことか猫が飛び込んで。
他のドールたちも一斉に飛びついて。
僕は跳ね返った自分の能力に動けなくなったまま、最後となるであろう大騒ぎを俯瞰していた。
少しずつ、少しずつボロボロになってゆく数多のドール。
どこかで見たことのある気がして、一人だけ場違いに固まっていた。
嗚呼、思い出した。
あれは、、、何年、何十年前だろう。
---
まだ工場が歌い、電飾が踊り、人々がドールを抱きしめていたあの頃。
「舞台のような工場」という二つ名の通り、あの工場は僕らビスクドールにとってこの上ない舞台だった。
動くことができたのはXが来てからだけれど、その前に感じた事も確かに覚えているようで、今だって心の中で誰かの歓声が聞こえる。
皆が笑顔で、泣いてる子ですら笑顔のドールを見ればすぐにつられて笑う。
歯車とワルツと歓声の音が、誰の沈んだ表情も許さなかった。
ただ僕を除いて。
---
何故こうも、物好きな職人がいたのだろうか。
その職人の作るドールは、柔らかい肌の色と幸せに満ちた表情、繊細な作り込みで、工場で最も「人間に近いドールたち」と賞賛されていた。
そう言われると彼はいつも、どのドールより眩しい笑顔を見せた。誰かに幸せをくれるようなドールを作るのが人生で一番の幸せだ、とも言っていた。
しかしある日。彼はとあるドールを作った。今までの作品よりずっと、時間も心も込めて。
繊細な作り込み。柔らかい肌の色。いつもと何一つ変わらない。
ただそのドールは、他と一か所だけ違う所があった。
少しだけ開かれた口に、笑顔の色は微塵もない。
繊細で柔らかい全体の質感を忘れさせる程に、冷たい表情をしていた。
ミントブルーの瞳の宝石を思わせる輝きですら、見た者を鋭く突き放すようだった。
そのドールは「トラウム」と名付けられた。
職人の次のドールを心待ちにしていた大勢は、僕を見るなり眉をひそめた。
当然だろう。こっちが笑っていないのだから。
沢山の人が、ひそひそ、わあわあと僕に毒づく。
「なんだあのドール、気持ち悪い表情で」
「見ているだけで凍りつきそうだわ、、、!」
「何でこんなふてぶてしいドールを作ったんだよ?おかしくなったのか?」
「こんなドール、誰も笑顔にしないじゃない」
「それは違う」
僕を作った職人が、はっきり通る声で言った。いつも小声のはずなのに。
「トラウムが傷つけられるくらいなら、僕は今後一切ドールを作らない。誰が何と言おうと、トラウムは僕にとって最高のドールだ」
そう言う職人の顔は、今まで見た中で一番の笑顔に包まれていた。
まるで、僕の分まで笑ってくれているみたいだった。
---
職人は僕を完成させた後、次のドールを作ろうとしなかった。
既にドールの人気は危うくなり始めていたし、彼は僕の一件でかなり思い詰めていたから無理はなかったかもしれない。
彼はやがて事務や工場の整備を任されるようになり、人形と向き合っていられる時間もほとんど無くなった。
ある日彼は、僕を狭いロフトの隅のロッキングチェアにちょこんと飾った。
まるで「ごめんね、お別れだ」とでも言うかのように。
彼の眩しい笑顔は、彼自身の姿は、その日を最後にぱたりと消えた。
悲しい。どうか置いていかないで。そんなことをするなら、何故僕をあんなに大切にしていたの?
思えば、何かを感じるようになったのはあれが初めてだった気がする。
ガラスでできた瞳からは、どんなに頑張っても涙を流せなかった。
ロフトは工場のほぼ全体を見下ろせる場所だった。隅から隅まで、全部が僕に飛び込んできた。
不協和音が混ざる古い機械の音。だんだんと消えてゆく電飾。僕らを忘れてゆく人々の声。
さっきまで笑顔だった誰かが、止まらぬ機械に巻き込まれる瞬間。音、色、香り。
閉ざされる門のきしみ。積もる埃。少しずつボロボロになってゆく数多のドール。
僕にはそれを全て受け止められる器なんざ、到底なかった。
僕が「変化」を嫌うようになったのは、きっとあの日々からだろう。
---
ふっ、と頭の中の思い出が消えた。能力の効果が切れ、動けるようになったらしい。
手前を見れば、様々な所に傷を負った沢山のドールが立っていた。
奥には"かつてドールだったもの"が転がっている。
動けるようになった、はずなのに。僕は動けなかった。いや、動こうとしなかった。
ただ、朝日だけが昇り続けている。
長い長い沈黙の後。少しずつ、動く気力を取り戻してきた。指先が小さな音を立てる。
そうだ。ロフトは大丈夫だろうか? 急がなくては。あの人が残してくれた、最後のプレゼント。あれだけはどうか、壊れていませんように。
「ねぇ、、、待って!工場の様子がおかしい!!」
リーヴァさんが今までにない声色で叫んでいた。
嘘だろう? 嘘だろう、夢であってくれ。いや、夢ですらこんな事になるのは嫌だ。
地響きを立てて、僕らの住みかが崩れ始めている。
嫌だ。ここに残りたい。ロフトは? 書庫は? 僕はここで生まれて、ここで動いて、ここで夢をみる。それだけは絶対に譲れない。譲れないんだ。
「早く!こっち!!」
涙をためて叫ぶドールたちの声に、はっと気がついた。
僕に、手を伸ばしている。
何故僕を助けようとするの? ただ知り合い程度のドールに、何故そんなに優しくできるの?
喉が痛くきしんで、視界が悲しみで溢れて、、、僕は涙を流しているようだった。
「仕方ありませんね、、、」
、、、少し、恥ずかしい。涙を拭って、悟られないようにしながらその手を握った。
がらん、ごとん、と大きな音を立てて、工場が動いている。
Xがやってきたあの日の音とそっくりだ。あの日の事が、懐かしく憎らしい。
待った、これは走馬灯とかではないだろうな、、、? そんな心配を抱えながら走った。
---
工場は曇り、中では時間すら動きを止めてしまいそうだったあの日。
金属のきしむ音と、暗闇に慣れた僕らには眩しすぎる光が飛び込んできた。
門を開けたのは、、、人間、だろうか? あちこちを見回り、ドール達に何かしている。
ふと、彼に足を直してもらったドールが、倒れそうになった。
そのドールはそのまま起き上がり、自分の足で立ったのだ。
どういう事だろう? ドールが、動いた?自分の足で、自分の手で?
何もかも意味が分からない。工場の中の何かが変わってしまいそうで、ただただ不気味で怖かった。
---
それからも彼はドールを直し続けていた。その度に一体、また一体と立ち上がり、会釈し、歩く。中には笑い声をあげるドールまでいた。
それとともに工場の機械も次々動き出し、いつかのような活気が工場に戻った。
騒がしい。騒がしすぎる。頭がずんずんと痛い。どうか誰も僕を見つけないで。
下からは見えにくく入り口も分かりづらいロフトにいたからか、僕はかなり最後までXに気づかれなかった。
それでもタイムリミットは来てしまった。
階段を上る彼の足音がする。久しぶりに見る人間の大きな声や手に、僕はもう以前のような愛しさは微塵も感じなかった。
「おや、これはまた珍しい。ちょっと不機嫌さんかな?」
彼が僕に手を伸ばす。防ぎようがないのが恨めしくてたまらない。
「すごく状態がいいじゃないか。、、、おっと。私はX。この工場の長となる者だ。これからどうぞよろしく。」
彼が僕におりた埃を払うと同時に、とんでもない目まいが僕を襲った。熱い。頭が痛い。心が「動け」としきりに叫んでいる。ああ、信じたくない。僕はずっとここに座っていてもいい。ずっと独りがいい。
「あぁ、びっくりしてしまったかな? すまないね、起こしてあげよう。」
いくら状態がいいとはいえ、作られてからだいぶ経っている。少し脆くなっていたのだろうか。彼が僕を抱き上げたその瞬間、ぴきっ、と音がした。
心の中で凝り固まった「不安」という歪みが、頬の小さなヒビへと姿を変えた。
---
じっと考え込む癖は直した方がよさそうだ。気づけば、"かつて人形だったもの"は二つに増えていた。誰だったかなんて、とても聞くことができなかった。
思えば僕は、色んなドールに助けられてきたのだな、と痛感した。
こんなに長い時間が経ったというのに、僕はまだ誰かに「ありがとう」すら言えない。ああ、これはきっと僕を作った職人のせいだ。最初っから不機嫌な顔なんかで作るから。本当に、しょうがない人だなぁ。、、、
「ふふ」
「、、、え!?」
周りのドールが一斉に不思議そうな顔でこっちを見た。
「トラウムさん、、、今笑いました?」
、、、笑う? 僕が、、、?
「見たこと、ない、お顔、です!」
「わぁ、珍しい!いいんじゃない?」
「貴方、一応笑えたんですね、、、」
「違和感ありすぎて逆に面白いかも、、、w」
皆が一斉に喋る。理解が追い付かない、、、。
「笑うなんて、、、笑って、、、ました、、、??」
ただただ戸惑う事しかできなかったけれど、それがまた皆の目には面白かったようで、結局やあやあとはやし立てられてしまった。
ちょっと貴重な体験ができた、気がする。
---
皆はどうやら、これからについて話しているみたいだった。
これから、、、そうだ、これからが残っているんだ。
「そーだ、外に出られるんじゃん!!」
「楽しみねぇ、、、!」
前々から「外へ行きたい」と話していたドールたちが、一気に盛り上がる。
外に出られるのか、、、
だとしても、僕に選択肢と言えるほどのものはない。
「自分は御免ですね。変化は嫌いです。」
、、、周りの空気がしんとしてしまった。もうちょっと後で言うべきだったかな、、、
いたたまれなくて、少し輪から離れて話の続きを聞くことにした。
少し意外だったのは、リーヴァさんが「外の世界へ行く」と決めた事だった。
、、、彼女に起きた「変化」をひたと感じて悲しくなったが、その中に「成長」という暖かさがあるような気がして不思議だった。
「みんな、しばしのお別れだね。」
、、、リーヴァさんは少しうつむいていた。
ドールたちが一人ずつ、別れの言葉をかけるみたいだ。
ええっと、何を言おう。詰まらせてしまっても悪いし、簡潔に、、、でもまだ「ありがとう」なんて言えない、、、
「特に言うことはありません。、、、きっとまた、会えますから」
それが僕にかけられる、精一杯の言葉だった。
、、、ヴィスさんが最初ムッとして僕を睨みかけたのは、少し面白かった。
---
工場は、想像もできないくらい変わってしまっていた。もうもはや、原型すら留めていないだろう。蜘蛛の巣は何処へ行っただろう? 光を遮る重い窓のあった場所では、日光がほしいままに輝いている。本ももうほとんど読めないだろう。
辛うじて残っているロッキングチェアが、僕の居場所を守ってくれている気がして少しだけ嬉しかった。
レンガが砕けて、得体の知れない液体がどこかから流れて、埃と思い出が散り散りに宙を舞って、、、
僕が長い時を過ごしてきた場所。こんなに"変わって"しまった、、、
のに。
僕の頭に浮かぶのは、
「綺麗だなぁ」
という一言。
ただ、それだけだった。
ぞくっ、と背筋の冷える心地がした。
、、、僕は何故、こんなことを考えているんだろう?
あの時僕は、確かに誰かの手を取った。
あの時僕は、確かに笑った。
あの時僕は、確かに別れを惜しんだ。
あの時僕は、確かに変わったものを受け止めた。
じわり、と恐ろしい言葉が押し寄せてくる。どうかやめて欲しい。信じたくない。手遅れなのは分かっているのに、信じなければそれは形を得ない、とその一言を必死で拒んでいる。
僕は、変わりかけているんだ。
あまりにも嫌な心地がする。自分が信じられなくなりそうだ。もしそうなってしまったら、、、僕は何にこだわって生き続けるんだろう?
エンドロールが聞こえてくる気がして、そこから逃げたくて。ぐっと後ずさった。
そのとき、レンガに右腕の先が当たった。がりっ、と音がする。
心の中で大きく腫れた「恐怖」という歪みが、腕の大きなヒビへと姿を変えた。
ああ、何をやっているんだろう。
守りたいものなど、もう無くなってしまったのかもしれない。
全てを失ってしまうことも、怖くない気がする。
今の僕をあの職人が見たら、どう思うだろうか、、、?
思い出に浸ることも、これで無くなるかも知れない。
最後に少し、ロフトのあった場所を歩いてみることにした。
読みかけだった小説は、ずたずたになっていた。いつか読みたかった伝記は、家具のかけらで串刺しになっていた。他もほとんど同じ有様だ。
一つだけ、古いノートが転がっていた。読めるみたいだ。
ノートなんてあったかな、、、? と疑問に思いながら表紙を開いて、目がくらみそうになる。
表紙にはこう書いてあった。
---
トラウムの日記(ホントはしがない職人の作り話)
---
僕のために、書いていたのだろうか。僕のことを本当に大切にしてくれていたんだ、それにしてもかっこを付けてわざと自分を卑下しなくてもいいのにな、、、と暖かい気持ちになった。
でも。これ以上は読んじゃいけない。それだけは分かる。読んだら何もかもが壊れてしまいそうで、心が必死に手をなだめている。
そのとき。どっ、と強い風が吹いて、ノートは最後のページまでめくれてしまった。
もう読まずには、いられなかった。
---
さいごに
トラウムへ
元気で過ごしてるかなあ。この文がどこかで読まれたら、僕は最高にうれしいなと思います。(読まれてしまったらそれはそれで恥ずかしいかな、、、?)
僕が君を作ろうと決めたその日から、にやにやが止まりませんでした。作っているときも、君を初めて誰かに見せたときも、そのあとも、ずっと幸せでいられました。
トラウム、君は他の人にさんざん言われていたけど、どうか気にしないでほしい。
君は僕を世界の誰より笑顔にしてくれる、素晴らしいドールだから。
僕の夢を、「誰かに幸せをくれるようなドールを作る」ことを、叶えてくれたね。本当にありがとう。
君を笑顔にできなかったのは心残りのような気もするけど、作ったのは僕だから仕方がないね。いくらでも責めてください。
ただ君が笑ってしまうと、周りの人たちはたいそう驚くだろうね。
、、、やっぱりむすっとしていてください。僕の笑顔のためだけに、、、(笑)
僕は人間です。八十年くらいでぱたりと倒れて、それで灰になる。きっと偉人でも、こんなしがない職人でも同じです。
でも君は「人形」だ。
ちゃんと扱えば数十年はゆうに持つ。百年、千年経ったって、もしかしたら綺麗なままかもしれない。
だから僕は、トラウムに一つお願いをしたいと思います。
この場所に、変わらず座り続けてください。
僕がいたことを、君がいることを、いつまでもここに残してください。
君を邪魔するような奴がいたら、お得意の冷たい視線で追い払ってしまっていいかと思います(笑)
「すべてのものは変わる」と、この場所で深く実感しました。
でも。だからこそ。思い出とか、僕たちがいた証拠くらいは、いつまでも残してやりたい、と思ってしまった。
「覚めない夢」が、見てみたくなってしまったのです。
ちょっと無理やりでわがままだけど、頼めるかな。
それじゃあ、ご機嫌よう。
---
「覚めない夢」
その言葉が、いつまでも心の中でこだましていた。
彼は僕に、この「夢」に、何を望んだか。
分からないはずがない。
血迷ってしまった自分が情けない。不思議と足取りが軽くなる。
ロッキングチェアに、静かに腰掛けた。
揺れているけど、その場でずっと留まっている。
誰かの歓声も、埃のレンガも、ヒビも涙も微笑みも、全ては夢の中。
そうして僕らはいつまでも、覚めない夢を見ている。
---
<トラウム (traum)>
「夢」、「幻想」という意味をもつドイツ語。
「廃工場のビスクドール」、完結おめでとうございます。美しくも時に悲しい世界観や繊細な描写が最高でした、、、!!(語彙力の消失)
本当にありがとうございました!!!
-6606文字-
夢の終わり <廃工場のビスクドール スピンオフ作品>
Sui様の短編カフェ内で連載されていた小説「廃工場のビスクドール」のスピンオフ作品となっています。本編を最終話まで読了した状態での閲覧を推奨しております。
※工場の過去、その後など、かなりの捏造あり。各位、すいません。もし「これは流石にアカン」となりましたらご連絡くださるとうれしいです。
※他の方のスピンオフの世界観と食い違っている箇所がございます、すいません(本編、スピンオフはすべて読了しております)。ご了承ください。
※きつい精神描写があるため、レーティングをPG12とさせていただきます。また、原作の雰囲気と少し差異がある内容のため、検索除外とさせていただきます。
今作の文章は前スピンオフ「夢はまだ覚めない」の「心の中で大きく腫れた「恐怖」という歪みが、、、」という部分を起点とし、その部分以降とは別軸の出来事として始まっています。今作を、「夢はまだ覚めない」の該当部分まで読破した後に読まれることをお勧めいたします。
https://tanpen.net/novel/192dc968-c422-4aa4-be21-a935b297fd28/
心の中で大きく腫れた「恐怖」という歪みが、腕の大きなヒビへと姿を変えた。
それを待っていたかのように、強い風が体を直撃した。初めて感じる「風」に、古く小さな陶器の体はいとも簡単に押し退けられる。
そのままよろけて、気が付いた時には床の感触が頬を伝っていた。反響がないのが、何故かこの上なく寂しい。
なんて惨めなんだろう。意地張って、一人で焦って、転んで。これだから動き回ることは好きになれない。
今までずっと信じてきたもの、「変わらない自分」がどんどん消えていっている。生憎、悲しみを晴らせるようなものは全て壊れてしまった。
何をすればいいのだろうか。ぱっくりとした不安と虚無感をどうにかしたくて、取り敢えず立ち上が、、、れない。
右手が動かないのだ。
手だけじゃない。右肘から先が動かない。
見ればさっきの傷は更に大きく広がり、右肘のすぐ上のところをぐるりと一周囲っていた。
体を動かすと、その線より付け根側だけがついてくる。
右腕が、壊れた。
「う、嘘でしょう、、、!?」
いつになく大きく、中身のない声が漏れ出る。
離れてしまった肘から先を、左手で持ち上げる。ぞっとするほど重く、冷たい。
そうだ。直さないと。一刻でも早く。
『アンフォームド・エターナイト、、、!』
できる限りの力で唱える。くっつかない。止まらない。
『アンフォームド・エターナイト!』
『|アンフォームド・エターナイト《En forme d'éternité》!!』
必死で叫ぶ。頼む。止まってくれ。壊れないでくれ。
よく考えてみれば、人形の修復を得意とする仲間が居たはずだ。でもそんな大事な事が脳の引き出しにあることすら忘れて僕は、孤独で頑固な人形は、ひたすら呪文を、、、呪文としての意味を失いただ願いだけとなった言葉を、狂い狂いに叫んでいた。
止まって。壊れないで。
「|En forme d'éternité《変わらないで》!!!」
ああ、もう。もう無理だ。直らない。「変わらない自分」が、今まで何があっても信じてきたたった一つの居場所が、粉々になってしまった。
何をする気力も無くなって、何故か周りを見渡す。
気持ち悪さを感じるほどに、青々と広がる雲のない空。
日の光に反射する、鮮やかな草木。
茶けた灰色の煉瓦くず。
全て知っているはずなのに、ここにある何もかも僕は知らなかった。
串刺しになった本。
折れ曲がった鉄骨。
ぼろぼろのロッキングチェア。
何も知らない。
のに、この景色は僕の中にある「大切なもの」の記憶をことごとく掘り返してくる。
煉瓦の隙間から、埃と蜘蛛の巣の香りがする。
なんて、、、なんて腹立たしいのだろう。
許せない。
煉瓦の欠片が、使えなくなったコンクリートが、白い土の塊ごときが、僕の大切な思い出の面をするな。思い出を汚すな。もうアミアンジュファクトリーは、ここにはない。だとしたらこの瓦礫は、何の意味も持たない。目に入れるだけで思い出を冒涜する。悲しみを生み出す。
そんなもの、壊れてしまえ。
僕の知っている右腕は、ヒビなんて入っていない。僕の知っている煉瓦の壁は、こんな歪な形じゃない。
僕の前にもう二度と、現れないで。
右腕を煉瓦の山に叩きつける。鋭利な音がする。
まだ消えない。
ありったけの力で煉瓦を持ち上げる。叩き落とす。踏み潰す。
足元から乾いた音がする。落ちていたノートを拾い上げて、引き破る。
まだ、まだ消えない。
僕の知っているロッキングチェアは、こんなにきしまない。傾いていない。
恨めしい。
恨めしくてたまらない。蹴り飛ばして、飛び乗って、木の繊維の一本一本までへし折らなくては。何も残してはいけない。
ひっつかんで叩きつける。叩きつける。左手の指に木片が引っ掛かる。踏みつける足に亀裂の入る音がする。
それなのに消えない。
周りのすべてのものが、思い出が、ぐるぐる回って、嘲笑う。襲い掛かる。
もういい加減にしてくれ!!
「ぅ、、、うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
何もわからない。知らない。消えない。目を覆いながら、まだあまり崩れていない側の煉瓦壁へ飛び込んだ。
何かが割れて、崩れる音がする。
重いものが上にのしかかる。
何も、見えない。
音が止んだ。
静かになった。
懐かしい。こんなに静かなのは、いつぶりだろうか。
、、、ふと、何かが見えた。
狭い通路に、ありえないほど曇ったガラス窓。張り付いた蜘蛛の巣と、かすかに揺れるロッキングチェア。
ああ、僕のロフトだ。
帰ってきたんだ。
そういえば、あの小説は読みかけだったっけ。書庫の整理もしたいな。
しあわせな記憶。何故今まで忘れていたんだろう。
薄暗く静かな空間の中、ロッキングチェアに手をかける。
その瞬間、目の前は冷たい闇一色に染まった。
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ほうきでフロアを掃除していたある人形は、大きな叫び声を聞いた。
何かが崩れる音もする。
「大騒ぎ」はさっきで終わりだと思っていたのに。
まだ走ってもいないのに、息が荒くなる。
早くなった息に合わせるかのように駆け出した。
工場跡の隅の方が、不自然な壊れ方をしていたのだ。
大きな木片や紙きれ、煉瓦の欠片が細々と散らばっている。
その中には、陶器の欠片や布の切れ端も混じっていた。
叫び声の主が何を思い何をしたのかは、彼も何となく察した。
大丈夫だろうか。そう思い瓦礫をどけ始めた人形はあるものを見つけた。
ガラスでできた、割れかけの眼だった。
虹彩にあたる部分は青色とも緑色ともつかない色で宝石のような輝きをたたえているが、黒々とした瞳の中心から広がるように伸びているヒビが冷たく痛々しい。
何故かは彼自身にも分からないが、彼はその眼をポケットに入れて瓦礫に背を向け、再び歩き始めた。
この事をまず誰に、どう伝えたらいいだろう。
この人形は、どんな人だったんだろう。
そんな事を想いながら。
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