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目次
ウマ娘〜オンリーワン〜 イントロダクション
【Introduction】
これは、とある一人の少女の物語。
その少女は、|唯一《オンリーワン》になりたいと望んだ。
そして、夢も個性もバラバラな同期の8人のウマ娘とともに切磋琢磨していく。
少女は、仲間と共に幾多の災難を乗り越え、成長していく---
=====
二次創作ですが、本家の「ウマ娘」に出てくるキャラは一切出てきません。みんな作者が考えたオリジナルキャラです。ご了承下さい。(名前も架空。とある実在の競走馬をモデルとしているキャラもいます。)
だいたい週1くらいのペースで投稿していくつもりです。(飽きっぽいので更新ペースが遅くなってしまったらごめんなさい……)
ここで作品を読む際の注意点です。
〜注意点〜
・誤字脱字があるかもしれない
・文章がおかしいことがあるかも
・競馬についての知識はありますが、時々競馬が好きな方は「?」と思うところがあるかもしれない。
・「そんな訳ないだろ」というような、ちょっと現実世界の競走馬とかけ離れてしまっている部分がある。(例えば、あまりにもGⅠレースを勝ち過ぎだったり、中2週ローテが頻繁に出てくるなど。)
・1話1話が長い(5000字前後)
短編カフェの機能が気に入り、どうしてもこのサイトで書きたかったので、短編カフェですが長めの小説を書かせていただきます。
最後に、お願いが二つあります。
1つ目は、競馬用語などが時々出てくると思うので、分からない言葉があれば、調べていただくことをお勧めします。理解していただいた上で読んだ方が、分かりやすいし、作者自身もとても嬉しいです。
2つ目は、完全に趣味なので、色々暖かい目で読んでいただけると幸いです。
以上です。
作者
ウマ娘〜オンリーワン〜 01R
【注意】イントロダクションは読みましたか?
この小説を楽しく読んでいただくために、この小説のイントロダクション(諸注意)を読むことをおすすめします。
イントロダクションの閲覧方法は、お手数ですがこのページの上部にある「有未」と書かれたリンクをタップするか、ユーザーページ検索で「有未」と入力していただければ、ユーザーページから閲覧することが出来ます。
==========
「ピピピッピピピッ……」
目覚まし時計を止め、むくりと起き上がる。
見慣れた景色だ。だが、この景色を目に焼き付けるのも、しばらくは無理だ。
なぜなら、今日でこの家を出ていくから。
私は、ベッドから出て、すぐ脇にある鏡台の前に向かった。
明るめの栗色の髪の毛を二つに結(ゆわ)く。そして、結び目に白いリボンを付ける。
そして右耳には少し大きめのオレンジ色のリボンを付ける。
それから、パジャマを脱いで数日前に届いたばかりの新品の制服―――紫を貴重としたセーラー服を着る。
スカートの後ろにある穴に尻尾を通し、毛並みを軽くブラシで整える。
そう、私はウマ娘だ。
ウマ娘とは、特殊な耳と尻尾。そして超人的な走力が備わっている特別な存在。
多くのウマ娘は、レースに出走する。
私も今日からその一人だ。
「―――朝ごはんよー。」
お母さんの声が聞こえた。
私は、階段を降りて、一階のリビングへと向かった。
======
「6時10分発、府中行きの電車が参ります。」
駅のホームに、アナウンスが鳴り響く。私の乗る電車だ。
まもなく、電車が来た。
扉が開く。これから、1時間半の長旅だ。
電車に乗り、しばらくすると扉が閉まる。
そして、電車が動く。
この電車を降りた先には、どんな世界が待っているのだろう。
私は、ワクワクする反面、少し不安だった。
でも、私は決めたんだ。
強くなるって。
きっとなってみせる。
オンリーワン〈唯一無二〉のウマ娘に。
窓から見えるまばゆいばかりに晴れた景色は、少し私の背中を押してくれているように感じた。
01R「夢にまで見た光景」
「ふぅー、やっと着いたー。」
盛大に構える門の前に、私―――アルノオンリーワンは立っていた。
夢にまで見たトレセン学園。
そこに、制服を着て生徒として入学できるのだ。
トレセン学園へ入学するまでの時間は長かった。
筆記試験に、実技試験。さらに面接もあった。
勉強はそこそこ出来るものの、それ以外はあまり得意ではない私だったが、懸命な努力の末、今ここに立っている。
私は、緊張した面持ちでトレセン学園の門をくぐろうとした―――その時―――
「あれー?あなた“も”新入生?」
後ろの方から声がした。
私は、くるっと後ろを振り向いた。
その声の主は、そのまま私の方へ近づいてくる。
そして私の隣に来る。
「やっほー♪あたしたち、同期だね!あっ、あたしクリスタルビリー。よろしく!クリスって呼んで!」
アルノ「わ、私はアルノオンリーワンです。よろしく、クリスちゃん!私はアルノでいいよ。」
クリス「オッケー♪」
その子は、青みがかった黒髪をポニーテールに結んでいた。耳には丸や星の飾りを付けている。
右耳には、大小二つの真珠が通された輪っかを付けていた。
私は周りに比べたら少し小柄な方だが、その子は、私よりも背が高く、大人っぽかった。
=====
クリス「アルノちゃんは何でトレセン学園に入ったの?」
私たちは、新入生の集合場所になっている教室へと向かっていた。
クリスちゃん曰く、私とクリスちゃんは同じクラスらしい。
アルノ「うーん……えっとねー、テレビでレースを見たときに、憧れたって言うか―――」
そう、私がトレセン学園に入った理由は、レースの世界に憧れたからだ。
小さい頃から、私は内気で人見知りで、友達も少なかった。
だけどある日、テレビでたまたまウマ娘のレース中継を見たのだ。
レースに出ているウマ娘みんなが一生懸命走っている姿に、私はとても心打たれた。
ウマ娘としてレースで走りたい―――
内気な自分を変えたい―――
その日から、私はレースのことについてたくさん調べたり、見たりするようになった。
クリス「―――そっかー。」
アルノ「クリスちゃんは、どうして入ったの?」
クリス「え?あたし?あたしはねー、憧れの人に自分を見てもらうため!―――かな?」
アルノ「憧れの人?――なんか、それ素敵だね!」
クリス「えへへ。ありがとー!―――あ、もう教室着いたみたいだよー。」
確かに、気がつくと、教室の扉の前に立っていた。
扉の側の壁には、「1-A」と書いてある。
どうやら、今年の新入生は非常に少ないらしく、1クラスしかないのだという。クリスちゃんが教えてくれた。
クリス「緊張するね……開けるよ!」
クリスちゃんは、教室の扉の手すりに手をかけた。
扉は、新品みたく綺麗で、引き戸だった。
そして、扉が開く。
そこには、六人程の新入生が席についていた。
しかし、空いている席は二つしかない。恐らく、私とクリスちゃんの席だろう。
席は縦に三列、横に三列と言った形で並んでいた。
私とクリスちゃんは、それぞれ空いた席に適当に座る。
私は後ろの方の席。クリスちゃんは左前の一番端の席。
沈黙が漂う。みんながみんな初対面で緊張しているのだろう。
私だって緊張している。
しかし、沈黙はすぐに破れた。
クリス「あ!ユニバちゃんだよね!久しぶりー!小学校以来だね!トレセン学園入学してたんだ!」
ユニバちゃんと呼ばれたその子は、焦げ茶色のうねり気味のロングヘアー、後頭部に大きな赤いリボン。横の髪は密編みで結われており、右耳に黄色いシュシュが結びつけられている。
その子も、私よりは背が高いように見える。
その子が喋る。
「……あ、クリスちゃん…久しぶり……!」
おっとりと静かな声でそう言った。
クリス「このクラス―――てゆうかあたしたちの学年って八人しかいないの?」
クリスちゃんがみんなの方に椅子ごと体を向けてそう言った。
「そうだな!そのようだ!」
私の前の席に座っている子がそう言った。
ストレートヘアーの大分小柄な子だった。
今のところ、この二人以外、誰も口を開いていない。
そんな中、タイミングが良いのか悪いのか、扉が開く音がして、誰かが入ってきた。
大人の女性だ。ウマ娘にある耳や尻尾が無い。どうやら人間の女性のようだ。
恐らく、私たちのクラスを担任する先生だろう。私たちは、全員揃って背筋をピンと伸ばした。
紺色のスーツを着こなし、黒髪のいかにも清楚な感じの女性だ。先生は、口を開く。
「―――皆さん、初めまして。私は、あなたたちのクラスを担当する|瑞城亜水《みずきあみ》と言います。よろしくお願いします。」
やはり、口調も清楚そのものだった。おっとりしていて、柔らかい、そんな口調。
瑞城先生「みなさん、よく我がトレセン学園の難関試験を合格しましたね!あなたたちはその選ばれし八人です!」
先生―――瑞城先生の予想外のその言葉に、私は、とても驚いた。
そして、みんなも同じようで、周りが少しざわついた気がした。
瑞城先生「……正直に言います。あなたたちの学年が非常に少ない理由を……それは、さっき言った通り、試験を難しくしすぎてしまったからなのです。実は、今年度から試験をより難しくし、より才能あるウマ娘を絞り込もう―――と、トレセン学園の理事長がおっしゃいまして……しかし、難易度を間違え、たくさんのウマ娘の方々が試験に落ちました。しかし、あなたたちはそんな試験にも見事合格し、トレセン学園に入学することが出来ました。私はもちろん、他のトレセン学園関係者はみんなあなたたち全員が大きな結果を残せると期待しています!私たちも全力でサポートいたしますので、頑張ってくださいね!」
私は、周りを見渡す。
どの子も、強そうな子ばかりだ。
この中で頑張っていけるのか、とても不安になった。
でも、みんなが私たちに―――私に期待してくれているんだ。
そう思うと、少しずつ不安が取れていく気がした。
=====
「ボフッ」
アルノ「ふわぁ~気持ちいい~っ!」
寮の部屋に入って、早速私はベッドに飛びのった。
あの後、先生はレースについてたくさんのことを教えてくれた。
逃げや差しなどの脚質について、
レースに出走する流れ、
GⅠレースや勝負服についてなど―――
私は、入学するまでにたくさんのレースのことを調べていたので、大まかな知識はあったが、先生が教えてくれたことは、どれも初めて聞くような内容ばかりだった。
私は、ベッドに寝そべり、先生が教えてくれたことをもう一度思い出しながら、ふと横を見た。
使われなくなってしまったもう一つのベッド――――
寮は基本二人部屋―――らしいのだが、私の部屋には私しかいない。
私の入っている寮・美浦寮の寮長さんの説明によると、部屋の配分の関係で私は一人部屋になったのだという。
ただし、来年になったら新入生の子が入ってくるから、それまでは一人部屋として使ってほしい―――とお願いされた。
ちなみに、ベッドや勉強机などはそれぞれ二つずつあるのだが、片方しか使ってはいけないと言われた。
私は、早速カーペットの上に積み重なっている段ボール箱を次々と開封した。
中身は、私の家から引っ越しのトラックに運んでもらった日用品類や小物、洋服などだ。
開封し、中身を出し、次々とここがいいかも―――と決めた場所に置いていく。
小一時間ほどでこの作業は終わった。
窓の外をみると、もう夕方だ。時が経つのは早いのだな―――そう改めて感じた。
先生のレースについての説明が終わり、また明日―――ということで、その日は解散になった。
ちなみに明日は、実際にみんなでグラウンドのコースを走るのだとか。
しかし、ちょうどお昼時なのもあって、最初に、私に話しかけてくれたクリスちゃんが、「みんなで食堂のお昼ご飯食べない?」と言った。
私を含め、みんな賛成だったので、みんなで食堂へ向かった。
そして、みんなでご飯を食べながら、たくさんのことを話した。
まずは自己紹介。それから、目標や夢まで。
この食堂は食べ放題制だったので、遠慮なく私は大量の料理をよそった。みんなに、「よく食べるね」と、驚かれた。恐らく、あのメンバーの中で私が一番食べていただろう。
そう、実は私は大食いなのだ。
まあ、それは置いておいて、とにかく、今日は色々なことがあった。
でもこれから、そんな日々が当たり前になっていく。日常になっていく。
気がつけば、不安よりもワクワクの方が勝っていた。
アルノ(明日が楽しみだな……)
そうだ、夢に見たあのレースに使われるコースを実際に走るのだ。
私は、明日がとてもとても待ち遠しかった。
〈翌朝〉
当日はジャージを着てグラウンド集合と言われた。
私は、ジャージを着て部屋を出た。
私は、集合時間の五分前にグラウンドに着いた。しかし、みんなもう揃っているようだった。
グラウンドには、本物のレース場のように観客席のようなものが設置されていた。
その観客席を見て、私はとてもびっくりした。
たくさんの人たちが、わんさかと群がり、私たちの様子を見ている。
すると、そこへ先生がやって来た。
瑞城先生「みなさーん!もうお揃いでしたか。優秀ですね。……さあ、昨日も言った通り、本日は実際にグラウンドで皆さんに走ってもらいます。しっかりタイムも計りますし、着順もつけるので、手を抜くことがないように。実際にゲートに入ってスタートしてもらいますからね~。コースは芝1200メートル。始めから終わりまで全力で走るも良し。逃げや差しなどの脚質を使うもよし。走り方は自由で構いません。そして枠順は、くじ引きで決定します。」
そう言って、先生は、手に八本の割り箸のような棒を握って私たちに見せた。
瑞城先生「では、みなさん、好きな棒を持ってくださいね。まだ引かないでくださいね。早い者勝ちですよーっ!」
そう言われ、私はとっさに目についた棒を掴んだ。
他のみんなも棒を掴んだ。
瑞城先生「それではいきますよ~!せーのっ!」
先生の掛け声と同時に、私たちは棒を勢いよく引っ張った。
私が引いた棒は、オレンジ色に塗られ、マジックで「7」と書かれていた。
外枠の方だ。聞いたことがある。レースで外枠の方は不利だと……
大丈夫なのだろうか。少々不安になった。
=====
瑞城先生「さあっ、みなさん。枠順も決まったところで、いよいよスタートします。そして、みなさん気になっていると思いますが、あちらの観客席にたくさんいる人達―――あちらはトレーナーの方々です。昨日言ったことを覚えていますか?トレーナーの方々はみなさんの走りを見て、スカウトするウマ娘を決めるのです。そうして、スカウトを了承すれば、晴れ晴れチームに入ることができます。しかし、スカウトを受けるか受けないかはみなさんの自由です。この人だ―――と思ったトレーナーさんを見つけられることを願っております。……いけない、話が長くなってしまいましたね。では、いよいよスタートです!」
先生に言われるがまま、私たちは、ゲートに入った。
ゲートは以外と狭い感じがした。
そして、目の前をみると驚いた。
目の前に広がる芝。これも夢にまで見た景色だ。これから、この芝を走るのかと思うと、胸がざわついた。
(―――1200…少し短い。マイルなら確実に勝てるのに。でも、関係ない。私は勝つ。最強マイラーになるために……!)
1枠1番・アスターウールー
黒髪のショートヘアー。左耳辺りにピンクのリボンがついている。ジト目の子だ。
とてもクールで落ち着いている雰囲気だ。
(このレース……絶対に勝って未来の世界王者・グッドラックナイトの存在を知らしめる!)
2枠2番・グッドラックナイト
明るめのストレートヘアーの茶髪で右耳に黄色い耳カバーを付けている。頭に赤いヘアバンドを巻いている小柄な子だ。
とてもハキハキしている性格で、クリスちゃんと同じくらい、あの教室で喋っていた子だ。夢は世界一のウマ娘。
(あたしの走り、みんなが見てくれるのか……それじゃあ、頑張らないと!)
3枠3番・アスカウイング
こちらも明るめの茶髪でボサボサ気味のロングヘアー。右耳に鳥の羽が二枚くっついたリング状の飾りを付けている。
背は高めで、スラッとした体格だ。性格は飄々としていて、どこか掴めない感じがする。
(憧れのあの人を越えるために……“まず”は芝で頑張ろう……!!)
4枠4番・クリスタルビリー
青みがかった黒髪のポニーテールに結んだ子。入学したときに話しかけてくれた子でもある。
明るく明朗快活。夢は、憧れの人を越えること。
(ここが三冠ウマ娘のスタートライン……ママ、見ていてね。私、頑張ります………!)
5枠5番・ユニバースライト
焦げ茶色のロングヘアーで横髪を両方密編みに結んでいる後頭部に着いた大きな赤いリボンがトレードマークの子。
クリスちゃんに小学校ぶりだね、と話しかけられていた子だ。夢は、亡くなった母親のなし得なかった三冠ウマ娘になること。
(お袋や先祖代々の夢の為に……まずはここで勝たねぇと……!)
6枠6番・ガーネットクイン
私よりも少し暗めの栗色の髪を後ろに一つに束ねている。左耳に赤紫の丸い珠状の飾りを付けている。
大柄で私たち同期の中で一番背が高い。すこし威喝目の顔をしていて、すこし怖い。夢は、先祖代々惜しくも破れてきた、とあるレースを勝つこと。
(オンリーワンになるために……頑張らないと!)
7枠7番・アルノオンリーワン
夢は、オンリーワンのウマ娘になること!
(このレース、ウイニングライブないのかなー。でも、頑張らないと!いつかセンターを勝ち取るためにねっ♪)
8枠8番・マロンホワイト
芦毛のボーイッシュな髪型の子。背は小さく、くりくりとしたかわいい目が特徴。緑と紫が入ったカチューシャを付けており、両方の耳に緑の耳カバーを付けている。そして左耳に黄色い鈴のような飾りを付けている。
ウイニングライブに憧れているらしく、夢はGⅠレースのウイニングライブでセンターとして歌って踊ること。
瑞城先生「それではみなさん。準備はいいですかー?それでは、スタートです!」
「ガシャン!」
ゲートが一斉に開いた音がした。
私たちは、一斉に走り出す。
負けられない1200mの戦いが、
今、繰り広げられる―――――
-To next 02R-
ウマ娘~オンリーワン~ 02R
02R「うちに入らないか」
「タッタッタッタッ―――」
私―――アルノオンリーワンはトレセン学園のグラウンドの芝1000mを全速力で走っていた。
他のみんなは私と同じく全速力だったり、最後方で足をためたりと、様々だった。
私は、前から三番手の位置にいた。
先頭は、茶髪のストレートヘアーの子―――グッドラックナイトさん。
二番手はクリスちゃんだ。
そして、私の後ろからもたくさんの足音が聞こえ、プレッシャーにもなった。
それに加え、私は、全速力なのもあってか、だんだん脚が遅くなっていくような感じがした。
すると、大分遠くだが、ゴールが見えてきた。
私は、残りの体力を一気に使う感じでラストスパートをかけようとした―――いや、残りと言うよりかは、全く疲れはないのだが、脚がこれ以上加速できない。
それどころか、どんどん遅くなっていく。
すると、先頭を走っていたグッドさんがさらに加速し、クリスちゃんも同じく加速して私を突き放した。
すると、後ろから目にも留まらぬ速さで誰かが駆け抜けていった。
黒髪をなびかせた―――アスターウールーさん。
そして、グッドさんに追い付き、先頭争いを繰り広げていた。
その間に、私は後ろからきた人達にどんどん抜かされていく。
悔しい―――
でも、脚が動かない………!!
そして、気がついたらゴール地点を過ぎていたようで、周りをみたらみんなその場に座り込んだり、腰をかがめたりして、ハァ、ハァと疲れている様子だった。
私は、疲れてその場に崩れるわけでもなく、ただ呆然と立ちすくんでいた。
疲れはない。でもそれが悔しかった。
自分は全力を出しきれなかったのだ―――
=====
瑞城先生「―――みなさん!お疲れさまでした!みなさんとてもいい走りでしたよ~♪それでは、結果着順を発表します。一着―――グッドラックナイト!タイム58秒00!」
すると、観客席からどよめきと歓喜の声が次々とした。
きっととても速いタイムだったのだろう。
瑞城「――続いて、二着・アスターウールー!タイム58秒01!三着・ユニバースライト、タイム58秒02!四着・アスカウイング、タイム58秒03!五着・ガーネットクイン、タイム58秒03!六着・クリスタルビリー、タイム58秒05!七着・マロンホワイト、タイム58秒06!八着・アルノオンリーワン、タイム59秒01!――――」
最下位――――
私は、絶望した。
私は、みんなよりも劣っていた。
しかし、もっと悲しいことはその後に起きた。
=====
「君、一着だったよね!それに、このタイムはすごいよ!うちのチームに来てくれないか!」
「いーや、こっちが先だ!ねぇ君、僕のチームに来なよ!僕のチームはすごいぞー!重賞ウマ娘がたくさんいるんだ!」
「ねぇ、そこのあなた!私のチームに入ってくれない?私のチームは小さいけど……きっとあなたはすごいウマ娘になると思うの!」
マロン「え~?マロンちゃんに~?とっても嬉しい♪」
みんなみんな、たくさんのトレーナーさんからスカウトを受けていた。しかし、私だけには来なかった。
=====
「今年の新入生は、人数も少ないし、取り合いですねー。」
「なー。あー、最下位あの子か~。でも確かに見てて脚も他のウマ娘より大分遅いし、ラストでの加速力も欠けてるしな~。」
「それに、ジンクスもありますしねー。ほら、『新入生同士の最初の模擬レースで最下位になったウマ娘は、誰もレースで大成したことがない』って!だからトレーナーはみんなそれを信じて誰もスカウトしに来ないし、スカウトしたとしてもそれは数合わせのためだったりとかして………」
「一定数揃えないとレース出れませんもんねー。しかも最下位になったウマ娘の半数は辛くなって途中で退学しちゃうって噂もありますし。」
「―――こらこら。タイチくんにユウくんも。あまり信用性のないことを話しちゃだめですよ。この世には、偶然だってあるのですから。」
「えーっ………確かにそうかもしれないですけど……じゃあ、あの子はどう思いますか?“マキさん”!」
「あの子……ああ、最下位の子ですか。あの子は、確かに走りは他のウマ娘よりは劣っている。でも、見てください。あの子。他のウマ娘はそのばに座りこんだりとみんな疲れている様子ですが、あの子だけは平然としている。走り方から見ても、手を抜いて走っている感じはしない―――」
「あっ、確かに。」
「へぇー、ほんとだ。」
「走りや加速力では、あの子は他のウマ娘より劣っているかもしれない。」
「でも、他のウマ娘より抜きん出ているものが、きっと何かある―――」
=====
時刻はお昼時。
この日は、午前中で解散となった。
結局、誰からもスカウトは来なかった。
どうして……?
どうして私だけ………
そう思うと、次第に涙が溢れてきた。
人前では泣かないようにしようとさっきまでずっと我慢していた涙が、一気に溢れた。
溢れて溢れて止まらなかった。
幸い、周りに人もいなかったので、その場にうずくまり、たくさん泣いた。
きっとたくさん泣けば涙も止まるだろうと思ったからだ。
しかし、涙はなかなか止まってくれない。
すると―――――
「どうしたんだい?何かあったのか?お嬢ちゃん。」
いきなり、誰かに話しかけられた。
男の人の声だった。
私は、即座に涙を拭って、声のした方向へと顔を向けた。
その人は四、五十代の男の人で、頭には少々年季の入った帽子を被っていた。
顔は、どこか優しげで、だけど、わずかに厳格さや誠実さも感じられた。
私は、呼吸を整えて、口を開いた。
アルノ「レースで……レースで最下位になっちゃって……私だけスカウト来なくて…私って才能ないのかなって思っちゃって………きっと私は、才能あるって思い込んだだけだったんだ……きっと難しい入学試験に合格してすごいって言われたから調子乗ったりしちゃって……」
「そうか……見てたよ。君が走ってるところ。確かに、他のウマ娘たちはすごかった!一着の子なんか、このままメイクデビューに出走させても戦えるんじゃないかって思うくらいすごかった。でも、君も十分すごい。だって、タイムだけ見ても、君もメイクデビューで十分張り合えると思う。」
アルノ「………本当ですか?」
「ああ、もちろん!……そうだ、入るチームがないなら、うちのチームに入らないか?俺は大歓迎だし!」
アルノ「え………いいんですか?私なんかで……」
「もちろん!」
せっかくスカウトされたんだ。このチャンスは無駄にしたくない。
しかも、このトレーナーさんは、いい人だ。そんな確信が私の中であった。
アルノ「それじゃあ……よ、よろしくお願いします…!」
私は、立ち上がり、トレーナーさんに深くお辞儀をした。
「ああ!よろしく!そうだ、名前言い忘れたな。俺は|牧村《まきむら》ひろし。君は?」
アルノ「あっ、私は、アルノオンリーワンです。呼び方はアルノで良いです。」
牧村「分かった。よろしくな!アルノ。さあ、早速だが明日チーム室に来てくれ。えっと、場所はー……ちょっと待ってな。」
トレーナーさんは、服のポケットからメモ帳とペンをとりだし、何かを書いていた。
牧村「―――よし、できたっ!このメモを頼りに行けば分かるから。」
トレーナーさんに渡された手のひらサイズの四角い紙切れには、簡単な地図が書かれていた。
牧村「それじゃあ、また明日!あっ、時間は放課後なーっ!」
トレーナーさんは、私に手を振って駆け足で去っていった。
色々あったが、チームに入れてもらうことができた。
これからもっと頑張らないと。
私は、トレーナーさんにもらった地図を見つめながらそう思った。
〈翌日の放課後〉
アルノ「――――ここかなー。」
昨日トレーナーさんにもらった地図を片手に、手探り状態で私はチーム室を探していた。
そして、やっとそれらしき場所を見つけたのだ。
チーム室は、すこし小さめなプレハブ小屋だった。
入り口のドアを私は、恐る恐るノックする。
「コンコン」
すると、「はーい」という声とほぼ同時に、ドアが開く。
「ガチャ」
牧村「おう!よく来たな!ささ、入って入って。」
トレーナーさんに招かれるまま、私は中へと入った。
外の地面に対し、中の床は一段上に造られていた。
外見は小さいと感じたが、以外と中は広かった。
トレーナーさんに勧められ、私は応接間のような場所にあるソファーに座った。
結構柔らかく、沈み込む。
壁には至るところに賞状のようなものが飾られており、壁の隅にある大きなガラスのショーケースには、三段の棚にまたたくさんのトロフィーや盾が飾られていた。
そして、そのショーケースの棚の上には、たくさんの額縁に入れてある写真がたくさんある。
まじまじと見てみると、それはどれも集合写真のようだった。
年期が入ったものから新しそうな最近のものまでたくさん飾ってあった。
きっと歴代のチームの人たちで撮った集合写真とかなのだろう。
きっと凄く強いし、昔からあるようなチームなんだな、と私がまじまじと見ていると、トレーナーさんが、カップに入ったお茶を二人分出して来て、一つを私の方に差し出した。
そして、もう一つのカップを持ちながらトレーナーさんは、机を挟んで私の向かい側のソファーに座る。
牧村「今はみんなウォーミングアップ中なんだ。それまで、少し待っていてくれないか?」
アルノ「……はい。」
そう言いながら、私はカップに入ったお茶をすする。
アルノ「―――熱っ!!」
思ったよりも熱く、猫舌である私にはとても熱く感じた。
「おいおい、大丈夫か?」とトレーナーさんは心配し、その後の暫くの沈黙の間に、トレーナーさんは話を切り出す。
牧村「アルノはさ、レースで走ってどんなウマ娘になりたい?」
アルノ「そ、それは……ちょっと大まかなんですけど……|唯一無二《オンリーワン》のウマ娘になりたいです。過去にも未来にも、同じようなウマ娘が誰一人いない、そんな強くて飛び抜けているようなウマ娘になりたいです!……でも、もう無理かも、って思っちゃって……」
牧村「―――それ、とっても言い夢じゃないか!きっと君ならなれる!夢は言うだけタダなんだから、願い続けていればきっと叶うさ!」
アルノ「本当ですか?!」
牧村「ああ!あ、もうウォーミングアップ終わったかな。ちょっと待ってな。」
そういって、トレーナーさんはソファから立ち上がり、私が入った方―――とは逆の位置にある扉を開け、チームの人たちを呼びに行った。
多分、その扉からの方が、グラウンドに近いのだろう。
どんなウマ娘なんだろう……
すると、暫くしてトレーナーさんがチームのみんなを引き連れてやって来た。
牧村「お待たせ。さ、みんな整列!新しくうちに入った新入部員だ!アルノ、自己紹介。」
アルノ「ア、アルノオンリーワンです!よろしくお願いします……!」
牧村「さ、こっちも左から順に。」
「あたしは、マリーノンタビレです!よろしくお願いします!」
その人は体格がよく、口調もハキハキしていた。薄茶色の髪を後ろで縛っている。
「私は、ブリザードシーでーす♪よろしくお願いします♪」
白いくるくるしたボーイッシュな天然パーマの人だった。おっとりとした口調をしている。
「あたしは、ショートサマーって言います。よろしくー!」
その人はぱっつん前髪の黒髪をショートカットにした明るそうな人だった。
「私は、サンエレクトです。よろしくお願いします。」
小柄な茶髪をポニーテールで結んだ人だった。目はつり目で、気が強そうな感じがする。
牧村「俺のチームは、まあその……結構強いチームでトレセン学園の中では数あるチームの中でありがたいことに毎年“三位”だ。ここにいるマリーはGⅠ三勝。ブリザードやショートもGⅠは一勝ずつで重賞も何勝かしている。まあ、サンはまだ条件クラスだけど……」
サン「いずれ重賞は勝ちますんで!」
牧村「だからまあ、いずれ重賞やGⅠも勝つだろうな……」
私は、唾を飲んだ。こんなにも強いチームでやっていけるのか………
しかし、小さな期待もあった。やはり、このトレーナーさんなら、私の夢を叶えてくれるかもしれない、と。
その日から、私はトレーナーさんにたくさんのことを教わった。
速く走れるコツ、走るときのフォーム、脚質の具体的な走り方など。
やはり、習うより慣れろとはこのことで、授業で先生に教わった様々なことを、実際に走ってみると、瞬時に覚えられた。
そして、月日は経ち、私はチームの先輩たちと並んで走れるくらいにまで成長した。
=====
牧村「おーい、みんなーっ、アルノと一緒に走ってくれないかーっ!」
みんな「はーいっ!」
牧村「じゃあみんな準備はいいなー?」
みんな「はーい!」
牧村「それじゃあ、用意、スタート!」
私の物語は、まだまだ先だ。
これはちょっとした|序章《プロローグ》に過ぎない。
私の本当の物語は―――――
ここからはじまる――――
第一章『トレセン学園入学編』完
-To next 03R-
~キャラ紹介01~
アルノオンリーワン(Aruno Only One)
誕生日…4月19日
身長…154cm
体重…微増(食べ過ぎた)
スリーサイズ…B72W60H83
真面目で優等生気質のウマ娘。内気で人見知りな自分を変えたいと思い、トレセン学園に入学した。大食い。髪は二つ結び。(ツインテールではなく、おさげの位置)前髪の真ん中に流星。
一人称・私
毛色・栗毛
所属寮・美浦寮
イメージカラー・黄
ウマ娘~オンリーワン~ 03R
第2章『憧れのレース編』
03R「私のメイクデビュー」
アルノ「話って、何ですか?」
いつもの練習中に、トレーナーさんに「大事な話がある」と呼ばれた。
季節は夏。制服も夏服に変わり、トレセン学園では、まもなく夏休みに入ろうとしていた。
トレーナーさんにチーム室の応接間に通される。
そして、トレーナーさんは口を開く。
牧村「――アルノのデビュー戦が決まった。」
アルノ「―――えっ……ええーーっっ!!!」
私は、驚いてつい大声を出してしまった。
牧村「いや、そんな驚かなくても……」
アルノ「いや、その……嬉しいです!やっと私、レースに出られるんだ……!」
牧村「……そうか。嬉しいなら良かった。で、レースの日は7月最後の週で日曜。場所は札幌レース場。いいな?」
アルノ「はい。」
7月の最後の週―――丁度今日から3週間後くらいだ。
牧村「で、距離は、2000m。――それでいいか?まあ、別に嫌だったらまだ出走登録はしてないから変えても構わないが………」
アルノ「大丈夫です!それでやらせてください!」
牧村「オッケー!じゃあ、早速トレーニングだな!」
=====
牧村「いいか?本番のコースは、初めスタンド前を通って、ゴールもスタンド前の直線。つまり、コースを一周するんだ。結構スタミナが必要になってくる。だが、アルノは、俺から見ても大分スタミナがある方だと思う。それで――アルノ。お前は逃げが向いていると思うんだ。ちょっと他の先輩たちと併走トレーニングしてみよう。アルノは、逃げでな。」
私は、うなずいた。そして、さらにトレーナーさんにあることを耳打ちされた。
私は、不安で迷い気に再度うなずき、すぐさまスタート地点へ向かった。
逃げのやり方はもうトレーナーさんから教わった。
今はどの脚質を指定されても、柔軟に対応できる程だ。
スタート地点へ行くと、先輩たちにも声が掛かっていたらしく、みんなスタート地点へついていた。
あわてて私もスタート位置につく。
マリー「アルノ、デビュー戦頑張ってね!あたしたち、いくらでも練習付き合うから!」
ショート「かわいい後輩のため。あたしたちも手を抜かずに本気でやるからね!」
先輩たちの頼もしい言葉に、私は本気のスイッチが入った。
そして、トレーナーさんの掛け声が響く。
牧村「位置について――用意、スタート!!」
その掛け声と共に、私は勢いよくダッシュした。
ショート「うぇっ!?そ、そんなに!?」
そう先輩が驚くのも無理はない。
私は結構先輩たちに差をつけていた。
あまり後ろからも足音が聞こえない。
牧村「そうだ!その調子!あと一周!」
スタート地点に戻り、一周終えたところでトレーナーさんがそう言った。
そう、さっき耳打ちされた内容――――
牧村「――アルノ。さっきも言ったけど、アルノはスタミナがある。だから、スタートしたら、先輩たちから大きく差を離せ。つまり、大逃げだ。」
アルノ「えっ…いいんですか?そんなことして。」
牧村「ああ。俺を信じろ。」
アルノ「…わ、分かりました……」
私は、あまりトレーナーさんの言うことが理解できなかった。
しかし、しぶしぶうなずき、とりあえずトレーナーさんを信じて、言う通りにしようと思った。
しかし、実際走ってみて分かった。
こんなに差を突き放しているのに、全然疲れない。
牧村「残り400!」
私は、一気にスパートを掛けた。
やはり、加速力には欠けるが、あんなに突き放せば、もしかしたら先輩に勝てるかもしれない。
だが、しかし―――
「うおりゃあああっ!!」
後ろから一気に追い込んできた先輩4人にゴール前ギリギリで抜かされてしまった………。
牧村「よくやった!すごい!初めてなのに、こんなに先輩たちと僅差なんて……」
ショート「いやー、あたしも大分焦った~っ!後輩に負けるのかなーって一瞬思っちゃったよ!」
マリー「やるじゃん。アルノ。アルノのその天才的な逃げ、あたし気に入った!」
アルノ「いや、でもやっぱり先輩たちには敵いませんねー。」
ブリザード「でも、アルノちゃんならきっと私たちを越えるすごいウマ娘になるかもね!」
サン「く、悔しいけど……先に重賞勝つのは私ですからね!」
そう言って、私たちは共に笑い合った。
=====
クリス「へえー、もうアルノちゃんデビュー戦決まったんだー!」
マロン「マロンちゃんは、7月のはじめにデビューして2着だったけど先週の未勝利戦で勝てたんだ~♪」
アルノ「すごい……!もうそんなに走ってるの!?」
クリス「あたしは、確かトレーナーが8月辺りって言ってたなー。」
そんな感じで、あっという間にレース当日がやって来た。
〈レース当日〉
牧村「ついに来たなあ。アルノ!」
アルノ「はい!」
ここまでの道のりは長かった。飛行機で北海道までやって来たのだ。
ちなみに、人生初の飛行機だ。
ここまで苦労してやって来たのだから、もう勝つしかない。
そして、前日に教えてもらったトレーナーさんの情報によると、私の出るレースは私含め6人しか出走しないという。
最大で16人が出走できるので、よほど少ないことが分かる。
そして、私は1枠1番。とても運が良い。
この絶好のチャンス、逃すわけにはいかない……!
=====
実況「さあ、はじまりました。札幌05レースはメイクデビュー。新たなスターの誕生となるか!出走ウマ娘の紹介です。」
実況「まずは1番・アルノオンリーワン!4番人気です。」
私は、肩にかけたジャージの上着をバサッと脱ぎ捨てた。
これをパドックと言い、みんなこうやるらしい。
今日の札幌レース場のメインレースが重賞ということもあってか、大勢の観客が見ていた。
とにかく、頑張らないと!
=====
実況「さあ、各ウマ娘続々とゲートへ入っていきます。メイクデビュー札幌。制すのはどのウマ娘なのか。そして最後。6番・ドリームミラーがゲートに入り、体制が整いました。」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!おっと、1番・アルノオンリーワンが早くも先頭。それ以外は固まっております。」
私は、練習した通り、後ろとの差を突き放した。
実況「アルノオンリーワン、差をぐんぐんと突き放す!現在10バ身!そして、まもなく第3コーナーに差し掛かります。」
私は、やはり全く疲れなかった。もしかしたら、私は、トレーナーさんの言う通り、スタミナがあるのかもしれない。
実況「第4コーナーをカーブし、最後の直線です!アルノオンリーワン、まだリードを広げたままです。すると、1番人気・ライトリュウオーが最後方から上がってきた!しかし、先頭はアルノオンリーワン!アルノオンリーワンです!アルノオンリーワン、圧勝、逃げ切りでゴールです!」
あっという間だった。気がつくと、歓声が溢れていた。
あれ……?私、勝ったの?
スタンド前の掲示板には、1着の欄に、「1」というランプが点灯している。
そして、2着との着差は、5バ身―――
本当に勝ったのだ。
私は、飛び上がるほど嬉しかった。
=====
「それでは、ウイニングライブです!」
♪響け ファンファーレ
届け ゴールまで
輝く未来を君と見たいから
♪駆け出したらきっと始まるstory いつでも近くにあるから
手を伸ばせばもっと掴めるglory
1番目指して
let's challenge
加速してゆこう
♪勝利の女神も夢中にさせるよ
スペシャルな明日へ繋がる
Make debut!
♪響け ファンファーレ
届け ゴールまで
輝く未来を君と見たいから
ここまで来れたのも、全部トレーナーさんのおかげだ。
色々迷惑を掛けたけど、勝って恩返しをすることができた。
でも、私はまだまだこれからだ。
先輩のように重賞やGⅠを勝ってオンリーワンのウマ娘になりたい!
♪響け ファンファーレ
届け ゴールまで
輝く未来を君と見たいから
駆け抜けてゆこう
君だけの道を
もっと
速く
I believe in
♪響け ファンファーレ
届け 遠くまで
輝く希望は君だけの強さ
飛び込んでみたら変わってゆくから
走れ 走れ 誰より速く
いつか笑える
最高だけ目指してゆこう
♪I believe
夢の先まで
「わああああっ!!!」
歓声と拍手が沸き上がった。
こんなに嬉しいことはない。
この喜びを、もっと上で――――
牧村「ふっ、やるなぁアルノ。絶対にアイツは強いウマ娘になれる!ようし、次のレースは――――」
牧村「札幌ジュニアステークス!重賞にしよう!」
〈数日後〉
「ええーーーっっ!!!」
チーム室内に叫び声が響き渡る。私の。
牧村「いや、驚きすぎだって……みんな来ちゃうから―――あ、ほら来ちまった。」
ショート「アルノ!何かあったの!?―――はっ!さてはトレーナー………かわいいアルノを―――」
牧村「違うわ!そんな目で見るなって!」
ショート「も~冗談に決まってるじゃないですか~♪……で、何かあったんですか?」
牧村「……アルノの次のレースは、札幌ジュニアステークス―――重賞に決まった。」
みんな「……ええーーーっっ!!」
牧村「お前たちもか!」
ショート「いや……だって、早いな~って。だってあたしの初重賞出走は、クラシック級になってからなんですよー!やっぱアルノは凄いわ!」
サン「わ、私なんて……今年の夏にやっと重賞初出走できたばかりなのに……」
牧村「まあまあみんな落ち着け!はい、解散!それぞれトレーニングに戻れーっ!」
みんな「…はーい。」
そういって、みんなしぶしぶグラウンドへと戻っていった。
牧村「―――さ、続きを話そう。で、距離は、1800m。この前より200m距離が短い。そして場所はこの間と同じ札幌レース場。でも、札幌レース場はもう経験済みだから、アルノにとって大きく有利になるだろう。」
アルノ「なるほど……私、勝ちます!」
牧村「頼もしいな。まあ、無理はするなよ。」
アルノ「はい!早速グラウンド一周してきまーす!」
しかし、現実はそう上手くはいかなかった。
=====
実況「――――1番・アルノオンリーワン逃げる逃げる!第4コーナーに差し掛かりました!」
レース当日。私は3番人気。そしてまた1枠1番を引き当てたのだ。
もしかしたら勝てるかも――そう甘く考えていた。
実況「第4コーナーをカーブし、最後の直線に差し掛かりました!アルノオンリーワン、後続集団から5バ身差を突き放しております!―――しかし、内から1番人気の13番・ルナビクトリーが追い上げる!物凄い末脚だ!あっという間に交わしました!残り200m!独走状態!外から2番・ロングキックが追い上げる!」
アルノ(嘘でしょ……!こんなに離したつもりなのに……)
そして、加速力がないのが仇となり、どんどん後ろからきたウマ娘に抜かされていく……
実況「ゴーーーールっ!1着は13番・ルナビクトリー!デビューから3連勝です!強い強い!」
後から全着順が分かった。
私は10着だった。
悔し涙がこぼれ落ちる。
やっぱり、私は弱いままだったんだ。
あのとき、たまたま人数が少なかっただけで、
最内枠を引いただけで、
やっぱり私は、まだまだ弱いままだったんだ――――
「ズキッ」
歩こうとした私の左膝に、激痛が走る。
あまりの痛みに、私はその場にしゃがみこんでしまった。
そして、再び立ち上がり歩き出そうとする。
しかし、あまりの痛さで歩けない。
すると、そんな私を見かねた救急隊員の人たちが駆けつけ、私は担架に乗せられ、救急車で運ばれた。
=====
「ガラッ」
牧村「アルノ、大丈夫か!?」
医務室の扉が開き、血相を変えたトレーナーさんが飛び込んできた。
私は、左膝を包帯でぐるぐる巻きにされ、ベッドに寝かされていた。
アルノ「トレーナーさん、全然大丈夫です!こんなの、大したことないですよーっ!」
牧村「そ、そうか………」
「あ、トレーナーさん!いらっしゃいましたね。」
医務室の奥からお医者さんが出てきた。
牧村「あ、先生!アルノは、走れますよね……怪我しちゃったけど、すぐ走れますよね……?」
先生「いや………しばらくは安静にしておいた方がいいでしょうね。無理をすると一生走れなくなる可能性も出てくるので………」
牧村「そんな……『しばらく』ってどのくらいですか?」
先生「最低でも、“2ヶ月”は安静にしておいた方がいいですね。」
牧村「そ、そんな……」
トレーナーさんは絶句していた。もちろん、私もだ。
私はまだまだ弱いけど、走るのが大好きだ。
それにたくさんレースで勝ちたい。
なのに、2ヶ月も安静にしろと……?
絶望的な現実を突きつけられた私は、ベッドの上で天を仰いだ。
-To next 04R-
~キャラ紹介02~
クリスタルビリー(Crystal Billy)
誕生日…2月27日
身長…162cm
体重…増減なし
スリーサイズ…B82W57H83
非常に明朗快活でハキハキとした性格の持ち主。誰とでも気兼ねなく話すことが出来る。憧れの“あの人”に近づくためにどんな練習でもストイックにこなす。
一人称・あたし
毛色・黒鹿毛
所属寮・美浦寮
イメージカラー・青
作中に出てきたウイニングライブ曲の題名
『Make debut!』
(よかったら聴いてみて下さい!)
ウマ娘~オンリーワン~ 04R
04R「絶対に勝ってやる」
「ザー、ザー……」
外は雨だった。
どしゃ降りの雨。
私は部屋の窓のカーテンをめくり、ただぼーっとその様子を眺めていた。
外はもう真っ暗。街灯が道を照らし、雨も街灯の光で細長くて白い糸が降っているように見える。
|札幌《向こう》には大分長い時間いた。
怪我をしてしまったからだ。
お医者さんに説明された。ズバリ骨折だ、と。
小一時間ほど医務室にいたあと、骨折についての説明をされ、私は、松葉杖をつきながらトレーナーさんと一緒にトレセン学園へと帰った。
私が松葉杖なのもあってか、行きよりは、わずかに時間がかかったが、何とか帰ることができた。
しかし、帰った頃にはもう日付が変わってしまっていた。
これからどうすればいいのだろう………
不安で仕方がない面持ちで、左膝に巻かれたギプスを、私はそっと撫でた。
〈二日後〉
レースがあった日は土曜日。
そして二日経ち、今日は月曜日。
私はいつものように教室に入った。
「ガララッ」
アルノ「おはよう……」
クリス「おはよ……えっ!?アルノちゃんどうしたの?怪我しちゃったの!?」
アルノ「うん……ちょっと、おとといのレースでね……」
グッド「アルノ殿!大丈夫か!あまり無理はしないように!」
アルノ「うん。ありがとう!全然大丈夫だから。」
ガーネット「・・・・・・」
=====
アルノ(授業終わったー。さ、次はトレーニングだー。)
しかし、来るのは少し億劫だった。トレーナーさんにも迷惑をかけてしまったし。
しかし、松葉杖で一生懸命地面をつきながら、私はチーム室へと歩みを進めた。
すると、道の途中の並木道で、腕を組んで木に寄っ掛かっている人がいた。
――――ガーネットさんだ。
アルノ「あっ………」
ガーネット「……よお。」
=====
私とガーネットさんは、道の小脇のベンチに座っていた。
ガーネット「――――アルノ、札幌ジュニアステークス出走したんだろ?見たよ。テレビで。凄かった。最終コーナーまで先頭でみんなを引っ張っていて。」
アルノ「そんなことないよ……私、十着だったし、おまけに骨折までしちゃって………」
ガーネット「でも、やっぱアルノは凄い。メイクデビューも勝って。アタシは、メイクデビューで一番人気で期待されてたのに、二着だった。全力を出しきれなかったから。」
アルノ「そうだったんだ………」
ガーネット「……実は、アタシも出たんだ。重賞。札幌ジュニアステークスの一週間前に。新潟ジュニアステークスだったんだが、結果は散々だった。でも、重賞出走したことあるの、アタシとアルノだけみたいだな。」
アルノ「えっ!?そうなの?」
ガーネット「ああ。デビューしてない人だっているしな。だから、結構アタシたち、意外と実力あったりするのかなー。アタシも、トレーナーと相談して、あとジュニア級のうちに重賞二、三戦は出走する、って決めたし。」
アルノ「凄いね……私は、怪我もしちゃったし、十着だから、次は条件戦かな……」
ガーネット「そうか……ま、でもお互い頑張ろうな。いつか、二人揃って頂点になることが出来たらいいな。」
アルノ「うん!そうだね!」
=====
「ガララッ」
アルノ「こんにちはー。いますか?トレーナーさん。」
牧村「アルノ!脚の怪我は大丈夫か?」
アルノ「はい!全然大丈夫です。トレーナーさん……私、これからどうしたらいいですかね……」
牧村「そうだろうと思って……ほら、これ!」
トレーナーさんは、資料がたくさん積み重なった山から一つのファイルを取りだし、差し出した。
そのファイルの表紙のラベルには、『上半身のみのトレーニング』とマジックで書かれていた。
牧村「ちょっと中見ててもいいぞ。俺はちょっとみんなの様子を見てくるから。すぐ戻るよ。」
そう言って、トレーナーさんはグラウンド側の出入口へと消えていった。
その間に、私は表紙をめくる。
パラパラと適当にめくっていくと、本の中身をそのままコピーしたページだったり、丁寧に色塗りまでしてある手書きのページまでと、色々なページがあった。
いったい、この中に書いてあるのだけで何種類あるのだろう………
これを全部やれと言うのか………
すると、トレーナーさんが戻ってきた。
牧村「どうだ?読んでみたか?」
アルノ「はい……一つ一つ丁寧に手書きされていて、すごいです……これ、全部トレーナーさんが?」
牧村「ああ。まあな。新しい本を見つけて、いいのがあったら書き足していく―――みたいな感じだよ。俺ももうトレーナーになって何十年も経つし、経験上アルノのように怪我したウマ娘を数えきれないほど見てきた。マリーだって、ジュニア級の頃は怪我ばかりしてまともに走れなかったしな。」
アルノ「そうなんですか………」
あんなに強いマリー先輩が怪我ばかりしてたなんて………
牧村「今日は、ファイルを渡したかっただけだから。今日はアルノは休み。その代わり、そのファイル持って帰ってもいいから、全部じゃなくていいけど、気になるのがあったら試して見たりして自分に合ったメニューを考えてきて欲しい。明日から毎日それをやってもらう。怪我が治るまではな。」
アルノ「分かりました。それでやってみます!」
その後、私は部屋に戻り、ファイルの中身を広げ、気になったメニューを片っ端から実践してみた。
全部終わった頃には、もう夜になっていた。
そして、次の日も、その次の日も、私はチーム室に来て、トレーナーさんに用意してもらった椅子に座り、自分で考えたメニューに取り組んだ。
先輩たちが楽しそうに走っているのを見ると、とても羨ましいし悔しくて仕方がなかったのだが、今はどうしても走れない身体なので仕方がない。
私は、黙々と何日も上半身トレーニングに取り組んだ。
そうしている間に、月日は過ぎ、2ヶ月が経った。
季節はまだ秋のままだったが、9月の残暑の暖かさは、いつの間にかもうすぐ冬になる11月の涼しさに置き換わっていた。
骨折もようやく治り、お医者さんも、『もう走っても大丈夫だよ。』と言ってくれた。
私は、病院からの帰り道、嬉しすぎて街中をつい全力疾走してしまい、付き添いでついて来てくれたトレーナーさんを置いてきぼりにしてしまう程だった。
そして、そこからさらに数日が経った――――――
〈数日後〉
牧村「アルノ。次のレースが決まった!」
アルノ「ほ、本当ですか!!」
私は、数日前から軽く走るトレーニングに取り組んでいた。なんせ、2ヶ月も全く走っていなかったからだ。
そんな中、次のレースが決まった。一体どんなレースなのだろう。
牧村「次のレースは、条件戦。一勝クラスだ。」
一勝クラス―――その名前の通り、レースで一勝したウマ娘たちが集まるクラスだ。
牧村「名前は、エリカ賞。場所は阪神レース場。距離は2000m。歴代の優勝ウマ娘には、後のGⅠウマ娘、ましてやダービーウマ娘もいるれっきとした出世レースだ。レースは一ヶ月後にある。」
ダービーウマ娘―――つまり、クラシック級の頂点を決めるレース・日本ダービーを勝ったウマ娘――――
私は、意気込んだ。絶対、勝ってやる、って。
〈レース当日・阪神レース場〉
実況「さあ、今年もジュニア級ウマ娘たちによる出世レース・エリカ賞がやって参りました。1番人気は、札幌ジュニアステークスで3着、オープン戦である芙蓉ステークスでも3着と、好成績を残す2枠3番・カルラージェです。続く2番人気は、前走の野路菊ステークスで2着をおさめた3枠5番・ナナプライミング。そして3番人気は、デビュー戦で5バ身差の圧勝劇をおさめ、3ヶ月間の怪我での休養から復帰した6枠12番・アルノオンリーワン。……この3人が注目のウマ娘です。」
ついにこの日がやって来た。
このレースは15人で行われる。
天候も晴れ。私にとっていい要素ばかり揃っている。
実況「各ウマ娘、ゲート入りが進んでおります。」
私がエリカ賞を勝ちたい理由は、もう一つある。
次のレースを教えてもらった際に、トレーナーさんに言われたのだ。
=====
牧村「アルノがエリカ賞勝ったら、次走はホープフルステークスにしようと思ってるんだ。分かるか?GⅠレースだ。」
ホープフルステークス―――――もちろん知っている。ジュニア級の頂点を決めるレースの一つだ。
このレースを勝てば、念願のGⅠに出られる―――――
絶対に勝ってやる!
実況「――――体制が整いました。エリカ賞――――」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!先頭は……おっと、やはりアルノオンリーワンが行きました。あとは14人全員固まっている状態です。」
スタートも上手くいった。
よし、これなら―――――――
実況「さあ、まもなく第4コーナー。先頭はやはりアルノオンリーワンです。そして、第4コーナーを曲がり、最後の直線です。」
コーナーも思ったよりゆったりしていて、曲がりやすかった。
さあ、ここからだ。
私は、残りの体力を存分に使い、ラストスパートをかけた。
加速力が欠けている私だが、そこも必死のトレーニングで多少は加速力が上がった。
私は、この直線に全てを懸けた。
全ては、|GⅠレース《ホープフルステークス》に出走するために!!
実況「アルノオンリーワン!どんどん離していく!1番人気・カルラージェは―――伸びない!そして、2番手にはナナプライミングが挙がって来たが、届かない!アルノオンリーワンです!アルノオンリーワンです!アルノオンリーワン、またしても圧勝ーっ!」
「わああああ!!!」
観客の歓声が響き渡る。
勝った………勝った!!
ホープフルステークスに出られるんだ!
私は、嬉しくてその場でガッツポーズをした。
これで2勝目――――
そして、次はホープフルステークス。
怪我で2ヶ月間走れなくなってしまい、絶望的だった私は、見事な復活を遂げることが出来た。
オンリーワンのウマ娘に、確実に私は近づいてきている――――
そんな実感が、私の中で湧いてきたのだった。
-To next 05R-
~キャラ紹介03~
ユニバースライト(Universe Light)
誕生日…3月5日
身長…160cm
体重…増減なし
スリーサイズ…B92W60H88
人並み外れた才能とポテンシャルを持ち合わせているが何故か自分に自身がなく、弱気なウマ娘。二冠ウマ娘である亡き母を持ち、自分は三冠ウマ娘になって母を超えるのが目標。前髪の真ん中に流星。タレ目。
一人称・私
毛色・鹿毛
所属寮・栗東寮
イメージカラー・紫
ウマ娘〜オンリーワン〜 05R
05R「みんなの分まで」
牧村「アルノ、先週のレース、よくやった!素晴らしい走りだったよ。――――というわけで、次走は――」
アルノ「ホープフルステークスですよね!」
牧村「えっ、覚えてたのか?」
アルノ「もちろん!私、ホープフルステークスに出たくてエリカ賞頑張ったんです!」
牧村「そうか!じゃあ、よかったな!晴れてお前はGⅠデビューだ!」
アルノ「はい!」
牧村「じゃあ、改めて説明するが、ホープフルステークス―――ジュニア級限定のGⅠレース。距離はエリカ賞と同じで2000メートル。場所は中山レース場。これもエリカ賞と同じで全く経験したことのないレース場だな。日付はというと、年末。今年最後のGⅠレースがホープフルステークスだ。ホープフルステークスまであと二週間ちょっと。エリカ賞のときと比べて大分余裕はない。」
アルノ「なるほど………」
牧村「それから、アルノにちょっと見せたいものがある。ちょっと待ってな。」
そして、トレーナーさんは奥の方の部屋に消えていった。そして、しばらくし、布で覆われた“何か”を持ってきた。
そして、トレーナーさんはその布を剥がす。
それは、マネキンに着せられた洋服だった。
ワイシャツにリボンが通され、結び目に赤い星の飾り。
そしてさらにその上にはクリーム色の半袖セーターが着せられ、そのさらに上には焦げ茶色の袖無しロングコートが着せられていた。
下は短いズボン。そしてオレンジ色のハイソックス。
靴はオシャレな茶色の膝下まであるロングブーツだった。
とてもオシャレだが、普段着としては大分派手だ。一体何の服だろう。
すると、トレーナーさんが口を開いた。
牧村「これはアルノの“勝負服”だ。」
アルノ「えっ……勝負服?……これが、私の……」
勝負服。それは、GⅠレースでのみ着ることが許される特別な服。
一人一人が違う個性がある勝負服。
それを一生のうちに一回でも着用してレースに出走することができるウマ娘はごくわずか。
そして、その勝負服で勝利を掴めるウマ娘はその中でもひと握りしかいない。
そんな勝負服を、私は着ることができるのだ。
この勝負服を私が着るんだ………
牧村「どうだ?気に入ったか?腕のあるデザイナーに発注してつくってもらったんだが……」
アルノ「はい!とっても気に入りました!」
牧村「そうか、それは良かった!」
「二人とも、何してるのー?」
振り返ると、先輩たちの姿が見えた。
ショート「あっ!その服……もしかしてアルノの?すっごーい!かわいい~!」
ブリザード「アルノちゃんにピッタリだね!」
牧村「おい、お前たちまたサボって……」
ショート「休憩中だからいいんですよ〜っ!」
マリー「いいなぁ。あたしだってズボンが良かったのに。スカートじゃ動きにくい……」
牧村「そんなこと言って、もう5年か?そのくらいずっと世話になってるじゃないか。」
マリー「まあ……今さら変えたくはないけど…案外気に入ってるし。」
サン「そんなぁ……私なんて秋ぐらいに勝負服つくってもらったばかりなのに……」
ブリザード「GⅠ、惜しかったねぇ。だって……3着でしょ?初めてで3着はすごいよ!」
マリー「今のところ、今年入ってずっと3着以内だもんねぇ。さっすがあたしの後輩!よしよ〜し。」
サン「こ、子供扱いしないでください!」
――――すごいなあ。
みんなレースでいい成績を残して。
私も、そんなウマ娘になりたい―――――
=====
実況「―――今年も残すところあとわずか。そして、今年のGⅠレースも、このホープフルステークスで、締めくくります。衝撃の有マ記念から数日。中山レース場は今日も大歓声に包まれております。」
とうとう、この日がやって来た。
やはり、流石GⅠという感じで、重賞のときよりも比べ物にならないほどたくさんの観客がいた。
レースに出走するウマ娘は、16人。フルゲートだ。
そして、私は4枠8番。ちょうど真ん中あたり。
勝負服は、ピッタリでとても着心地が良かった。そして、冬のこの季節でも十分暖かかった。
実況「注目ウマ娘は、2番の1番人気、カナタサンセット。東京スポーツ杯ジュニアステークスを圧勝。3戦3勝。未だに無敗です。――――そして、2番人気は13番・ライトフラワー。オープン戦の萩ステークスを制しました。3戦2勝。2着1回。―――そして、3番人気は10番・アルノオンリーワン。こちらも3戦2勝。前走のエリカ賞を3馬身差つけて優勝。浮き沈みはありますが、こちらも実力のあるウマ娘です。」
今回も3番人気。16人中で3番目に人気があるのだ。
みんなが、私に期待してくれている。
だから、その期待に応えられるようにしなければ―――
周りの同期はみんな重賞、ましてやGⅠを勝っている。
だから、私もそれに続けるようにならないと―――
実況「―――枠入り順調。最後に16番・カヤノマーチが入ります。2戦1勝。前走の未勝利戦を勝利しました。―――体制が整いました。希望に満ちたスタート。ホープフルステークス―――」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!まずは先行争い。アルノオンリーワンが制しました。デビューから3戦全て逃げです。そして2番手は同じく逃げの16番・カヤノマーチ――――−」
トレーナーさんに教えてもらった。
中山2000mのコースは、最初と最後に急な坂があるから十分なスタミナが必要だ、と――――――
私は、いつものように大逃げで後続を突き放した。
先頭の景色―――私が一番最初にみることができる景色。
先頭で受ける風は、ひんやりしていて、とても気持ちが良かった。
体力もまだちゃんとある。
すると、いつの間にかスタート地点へ戻っていた。
実況「アルノオンリーワン、先頭!第4コーナーを曲がり、最後の直線です!」
よし、ここだ!!
一気に足を踏み込む。
ラストスパート!
私は一気に加速する。
足音は聞こえない。まだみんなを離しているようだ。
そして、はるか遠くに、ゴールが見えた。
実況「アルノオンリーワン、先頭!4バ身差です!しかし、徐々にリードがなくなってきている!残り200m!そして坂をのぼる!」
坂は、急できつかった。そして、何とかのぼりきったときに、気がついた。
たくさんの足音が聞こえる……
高いハイヒールの音、太い厚めのブーツの音、スニーカーの音、たくさんの音だ。
実況「ここで、2番のカナタサンセットが上がってきた!届くか、届くか!いや、余裕だ!そして2番手にライトフラワー!差を詰めていく―――だが、先頭は依然とカナタサンセット!カナタサンセットだ!残り100!大逃げのアルノオンリーワンは集団の中に沈んでいった!先頭はカナタサンセット!カナタサンセットだぁーっ!カナタサンセット、見事1番人気の期待に答えました!2着はライトフラワー!」
ゴールを通り過ぎた。脚を止める。
ただ、呆然とスタンド前のモニターを見つめる。
私は、何着なのだろう……
しかし、1番手ではないことは確かだ。
凄かった。物凄い末脚で、あっという間に過ぎて、勝ちを持っていかれた。
みんな凄かった。私の自慢のスタミナも、あの実力のある人たちと比べれば、無力に等しかった。
やがて、結果が確定した。
1着は2番。2着13番、3着5番―――私の番号はなかった。
モニターに表示される着順は、5着まで。その中にも入れなかった。
こうして、私のはじめてのGⅠは、何も結果を残せずに終わった。
=====
「先頭は、アルノオンリーワン!圧勝ーっ!」
「やっぱすごいねぇっ!」
アルノ「もう……何回見てるの―――お母さん!」
母「だってー。かっこいいじゃん!無限に見ても飽きないわ!」
ここは実家。そう。今は冬休み。そして、今年も今日で終わりだ。
アルノ「だからって、本人の前でそんなに見せられても恥ずかしいじゃん!……それに、この前のホープフルステークスだって、12着だったし……」
すると、お母さんは突然私をぎゅっと抱きしめた。
母「そんなことない。アルノはとーってもすごい!この前、話したの覚えてる?―――お母さんも、前トレセン学園に通ってたこと。……お母さん、全然勝てなくてね……おまけに怪我までしちゃって。チームもトレセン学園もやめちゃったんだ。だから、1勝でも勝っただけで、お母さんは、すごいと思う。ホント、アルノは私の自慢の娘だよ!」
アルノ(お母さん……)
お母さんのその言葉に、私は元気づけられた。
そうだ。勝つことだけが凄いわけじゃない。
挑戦できる|切符《チケット》を持っているだけでも、凄いんだ。多分。
頑張ろう。私はまだまだこれからだ。
お母さんみたいに夢が叶わなかった人たちの分まで―――――
〈年明け〉
年が明け、今年からクラシック級。
牧村「次走は―――アルノにはもう一度重賞で走ってもらう。だが、あまり良い結果を出せなければ、今後は条件戦で頑張ってもらう。その場合、皐月賞は無理だと考えた方がいい。」
皐月賞ーーークラシック三冠の最初のレース。
なら、勝たなければ行けない。
私の今の目標は、クラシック三冠に出ること。一つでも欠かしたくない。
牧村「大丈夫。アルノならきっとやれるさ。信じてる。」
トレーナーさんに、肩をポン、と優しく押される。
私は、それがありがたかった。
暖かかった。そんな、トレーナーさんのためにも勝ちたい。
=====
クリス「へぇー!アルノちゃんもクラシック路線なんだー!あたしと同じだね!」
アルノ「えっ!そうなんだ!」
クリス「うん!あ、あとユニバちゃんも一緒だよ!」
ユニバ「うん……私も、出るんだ……」
アルノ「そっかー!ユニバちゃんクラシック三冠ウマ娘になることが夢って言ってたもんね!」
マロン「へえーっ!3人はクラシックかー。マロンちゃんはティアラ路線にしようと思ってて。ね、ガーネットさんもそうでしょ?」
ガーネット「……ああ。新潟ジュニアステークスのあと、サウジアラビアロイヤルカップはアスカに1本とられ、デイリー杯ジュニアステークスも散々な結果で……だが、次は勝ちたい。大事なレースがあるんだ。ティアラ路線に。」
アルノ「きっと、ガーネットさんなら勝てる。その大事なレースだってきっと。」
ガーネット「そうか……ありがとう。」
「――――うわあぁぁああん!!!」
教室のどこからか誰かの叫び声か泣き声のような声がした。
みんな驚いてその声の方に一斉に振り返る。
グッドちゃんだった。いつも自信満々でハキハキとしたグッドちゃんが、今までで一番暗い顔つきでじっとこちらを見ていた。
グッド「すごいな……みんなは。あたしなんて、あたしなんて、まだ未出走なのにぃーっ!!」
クリス「えっ!!そうだったの!」
グッド「じ、実は……そうなんだ!トレーナー殿に、あたしは走りの成長が遅いから、デビューはクラシック級になってからになってしまう、って!みんな重賞もGⅠも出走して、勝った人もいて……キラキラ輝いているのに、あたしだけまだなにもやれてない!悔しい……世界一のウマ娘になりたかったのに!」
私は、驚いた。
あのときの、入学して最初の模擬レースでみんなよりも遥かに強くて、私よりも遥かに小柄なのに、あんなにもかっこよくて………
でも、目の前にはあのときのように胸を張っているグッドちゃんの姿はなく、ただ弱々しく背中を丸めて涙ぐんでいるグッドちゃんの姿だけがあった。
すると―――――――
「ポンッ」
グッドちゃんの肩を、誰かがポンと叩いた。
――――アスカさんだ。小柄で同期の私たちで1番背の低いグッドちゃんと、背が高くスラッとした体型のアスカさんは、並ぶと物凄い身長差で違和感がある。
アスカ「そんな泣くことないじゃん。ほらグッド。君もNHKマイルカップ、出るんでしょ?あたしと一緒に勝負しようよ。大丈夫。まだ4ヶ月以上もあるよ。」
グッド「アスカ殿……」
そうか、2人はNHKマイルカップに出たいんだ………
グッド「みんな、すまない。みんなが重賞やGⅠレースについて楽しそうに話しているのをみてて、我ながら恥ずかしいが、嫉妬して感情が爆発してしまった!心配させて申し訳ない……」
グッドちゃんは、制服の袖で涙を拭った。
グッド「しかし、アスカ殿には勝つ!GⅠそして重賞それぞれ1勝ずつのあたしたちの中で1番強いアスカ殿には!」
グッドちゃんは、さっきの弱気さはどこへ行ったのか、いつもの自信満々の表情に戻っていた。
そう。アスカさんは去年のサウジアラビアロイヤルカップ(GⅢ)と、朝日杯フューチュリティステークス(GⅠ)を制したのだ。本当にすごいと思う。
アスカ「いや、それは否定しないけど……」
ガーネット「しないのかよ。」
アスカ「でも、GⅠと重賞それぞれ1勝ずつしているこの同期のなかで1番強いウマ娘は、あたしの他にもいるよ。」
そのアスカさんの言葉に、私たちはハッと思い出し、1人のとある人物に視線を向ける。
その人は、私たちの視線、ましてや今までの会話には目もくれず、静かに席に座って本を読んでいる。
グッド「そうか!アスター殿も確かに強いな!」
そうだ。アスターちゃんもアルテミスステークス(GⅢ)と阪神ジュベナイルフィリーズ(GⅠ)を制している。
アスター「―――あの…そんなに見られたら、読むのに集中できないんだけど。」
観念したのか、やっとアスターさんは本を読む手を止め、私たちを軽く睨みつける。
しかし、グッドちゃんはそれに怯むことなく話しかける。
グッド「すまない!アスター殿。悪気はないんだ……」
そして、もう一人グッドちゃんみたいな勇者が現れる。
マロン「アスターさんって、どこの路線に進むの?」
アスター「ティアラ。」
再び本を読み始めたアスターさんは、こちらを見もせず淡々と言った。……いや、淡々と言うほど長くはないのだが。そして、言葉に余計なことを一切入れなかった。
マロン「そっか〜やっぱり!アスターさんはティアラって感じしてたんだよね〜っ!」
マロンちゃんはそれでも怯むことなく、話を続ける。
そして後々、話して分かったことなのだが………
2人―――クリスちゃんとユニバちゃんもきさらぎ賞に出走するらしい。
もう早速クラシック組同士で被るなんて…
同期の人と同じレースを走るのは初めてだ。
でも、勝ちたい!
=====
牧村「ほら、アルノ。きさらぎ賞の枠順が確定したぞー。」
アルノ「本当ですか!」
牧村「えーっと、アルノはー。6枠9番だって。おっ!2番人気!」
トレーナーさんは、タブレットを片手に操作する。
2番人気……ここ最近では高い方だ。
牧村「えーっと、一番人気は、8番・ユニバースライト。3番人気は、12番・クリスタルビリー。特に人気なのはアルノ含めてこの3人だな。」
2人共、十分強いのは知っている。だからこそ、勝てるか不安になってくる。
だけど、だけど――――|きさらぎ賞《これ》を勝たないと皐月賞には出走できない。
私は覚悟を決めた。
2人に挑む覚悟を―――――
-To next 06R-
~キャラ紹介04~
アルノの先輩たち
マリーノンタビレ(Marry Nontabile)
身長…162㎝くらい
勝ち気でしっかり者のウマ娘。体格がよく、とても器用で、何をやってもそれなりに上手く出来る。でも、勉強は苦手。芝の長距離、中距離が得意。GⅠ3勝、重賞も何勝かしてる。イメージだとジャパンカップや大阪杯辺り。高等部三年。
ショートサマー(Short Summer)
身長…159㎝くらい
陽気で活発なチームのムードメーカー。女子力が高く、チームのオシャレ担当。マイルが得意。GⅠ1勝。(マイルチャンピオンシップ辺り?)重賞は3勝。全部マイル。高等部1年。
ブリザードシー(Blizzard Sea)
身長…158㎝くらい
ほんわか能天気なチームの癒し担当。ダートが得意で、地方レース(ローカルシリーズ)も含めて、GⅠ2勝。(JBCレディスクラシックとフェブラリーステークス。重賞だと関東オークスも勝ってそう。)高等部1年。特にショートサマーと仲が良い。
サンエレクト(Sun Erect)
身長…150㎝くらい
気の強いチームの末っ子キャラ。誰にでも敬語を使う。子供扱いされるのが嫌い。低身長なのを気にしてる。ストイックで十分な才能もある。絶賛活躍中の期待されるウマ娘。中距離、長距離が得意。マリーノンタビレに憧れてチームに入ったのはここだけの話。語呂が悪いので「さん」付けされるのは嫌い。中等部三年。
ウマ娘〜オンリーワン〜 06R
ネガティブって程ではないですが、ちょっと暗めで人が変わっちゃう的な要素があるかもです。(人によって感じ方は違うかも。)
もし、苦手な方がいたらお気をつけ下さい。
あと、いつもより大分長くなってしまいました。すみません。
06R「超えたい」
「ハァ、ハァ、ハァ…………」
脚がおぼつかない。ガクガク震える。
まただ。また実力を発揮できなかった。
涙が落ちる。またダメだった。
実況「―――結果が確定しました!1着は8番・ユニバースライト!2着は12番・クリスタルビリー!そして3着は、9番・アルノオンリーワン!」
「わあああ!!!」
観客の歓声が響く。
やっぱりユニバちゃんは凄い。クリスちゃんも凄かった。
どうして?結構いい逃げだと思ったのにな。
二人には敵わなかった。
もう、皐月賞はダメなのかな…………
=====
牧村「よく頑張った!アルノ!二人が凄かっただけだ、気にすることはない。また次だ!」
アルノ「……皐月賞、出れますか……?」
牧村「ああ。3着ぐらいならな。また次頑張ろう!次も重賞にするか。えーっと毎日杯とか………」
アルノ「トレーナーさん。私、条件戦でいいです。」
牧村「えっ!?本当か?本当にいいのか?」
アルノ「はい………なんか自信なくなっちゃって。だって、私重賞やGⅠで1回も結果残してない……だから、徐々に条件戦で積み重ねていった方が勝てると思うから……もういいです。菊花賞に間に合えば。」
牧村「アルノ……分かった。だが、条件戦じゃなくてオープン戦かリステッドにする。よさげなレースを探すから。」
アルノ「本当ですか……?ありがとうございます……!」
それから、私はしばらくは毎日トレーナーさんとレースのローテーションについて話し合った。
最初はリステッド戦のすみれステークス。(阪神レース場・芝2200m)、
次に同じくリステッド戦の若葉ステークス(阪神レース場・芝2000m)、
そして若葉ステークスに優勝したら皐月賞へ
ダメだったら次は日本ダービーの前哨戦・青葉賞へ
トレーナーさん曰く、優勝しないと日本ダービーへの優先出走権は獲得できないらしい。
私は皐月賞で、二人への再戦を誓った。
私は、死に物狂いで頑張った。
苦手な加速力の練習、スターとしたときの反応の速さ、
とにかくたくさんのことを頑張った。
すると、私は大逃げの最後に本気で再加速することに成功した。
加速力が、上がったのだ。
その加速力のおかげか、私は凄まじい成長を遂げることが出来た。
=====
実況「――――11番・アルノオンリーワン!さらに加速して6バ身!もう誰にも止められません!圧勝です!すみれステークス、1番人気に応え、勝ったのはアルノオンリーワン!―――――」
=====
実況「先頭は未だアルノオンリーワン!5バ身、6バ身と徐々に差を離す!楽勝だ!アルノオンリーワン、リステッド2連勝!皐月賞への切符を手に入れましたーっ!」
=====
牧村「――――というわけで、アルノ、リステッド2連勝、おめでとう!!」
トレーナーさんがパチパチと手を叩く。
ショート「いぇーい!やったーっ!」
ブリザード「おめでとう♪アルノちゃん!」
マリー「やっぱ強いじゃん。アルノ!……あと、サンもね!重賞初勝利、おめでとう!」
サン「いや、今さら、遅いですよ。もう1ヶ月も前なのに。」
アルノ「えっ!?重賞勝ったんですか!?すごーい!おめでとうございます!」
サン「ありがとうございます。まあ、8人と少なかったし、偶然内枠の方を引いたのもあったけど勝てて嬉しかったです。」
マリー「うう……2人の活躍、もっと見たかったなあ…」
サン「泣かないでくださいよ。」
牧村「マリーも、よく最後まで頑張ったな。最後の有マ記念、すごかったぞ。いい末脚だったよ。」
そう、マリー先輩は去年の有マ記念でレースを引退し、今年の春でトレセン学園も離れていってしまう。
マリー「うう……ありがとうございます……アルノもサンもこれからだから!頑張ってね!」
アルノ&サン「はい!」
ショート「ちょっと〜!あたしたちもバリバリ現役なんですけどー!」
ブリザード「そうですよ〜あまり目まぐるしい活躍はしてないけど…」
牧村「3人共、頑張れよー!シニア級の意地を見せてくれ!ショートはマイラーズカップで目指すは安田記念!ブリザードはマーチステークス、そして|地方レース《ローカルシリーズ》のかしわ記念のローテーションでいくからなー!」
ショート&ブリザード「はい!」
牧村「サンは次は日経賞だ!勝って天皇賞(春)行くぞ!」
サン「はい!」
ショート「打倒、“ヘキサグラムスター”!だね!」
アルノ「……え?誰ですか?」
ショート「えーっ!知らないのー?去年の“三冠ウマ娘”だよ!」
牧村「ヘキサグラムスターの方も今年は阪神大賞典からの天皇賞(春)に行くと予定しているからな。」
サン「でも、私とは同い年。なので、負けたくありません。」
サン先輩は烈火の如く燃えていた。
牧村「よし、その調子なら負けないだろうな!……で、アルノは見事皐月賞出走だ!おめでとう!」
アルノ「はい……!あ、ありがとうございます……」
牧村「ん?どうかしたか?」
アルノ「いえ、なんでもないです……」
牧村「・・・・??」
若葉ステークスを勝ち、皐月賞に出走できたことは、正直とっても嬉しい。
目標のクラシック三冠レース全出走の夢が叶わないところだったから。
でも、正直なんだか心から喜べない感じがする。
なんだろう、この気持ちは………
=====
牧村「いいか。皐月賞は中山の芝2000メートルコース。あのホープフルステークスと同じコースだ。」
アルノ「はい。」
牧村「ホープフルステークスと同じだが、序盤と終盤で2度急な坂を経験する。だから、よほどのスタミナが必要だ。だが、アルノは、十分にスタミナがあるからそこは大丈夫だろうな。」
アルノ「はい………」
牧村「…どうした?」
アルノ「何か、私勝てるのかな、って。」
牧村「えっ……?どうしてそう思うんだ?」
アルノ「きさらぎ賞のときに、あの2人に負けて……最初は、強いな、あの2人を超えたいな……って。そう思っていたんですけど……でもすみれステークスも若葉ステークスも、私は圧勝することができました。」
牧村「そうだ。出来たんならいいじゃないか。」
アルノ「違うんです。“出来た”から怖いんです。出来れば出来るほど、負けるのが怖い……きっと、あの2人はとても凄かった。すみれステークスも、若葉ステークスも強い人はたくさんいた。でも、その人たちよりはるかにあの2人は強い。だから、どんなに頑張っても、きっと私には超えることが出来ないんです……」
牧村「そんなことはない!アルノ、いいか。超えられないものなんてないんだ。“2人は強い”?じゃあ超えてみればいいじゃないか。2人がどんなに強くても、お前が2人より強くなりたい場合、お前がやることはただ一つ。2人以上の努力をすることだ。そうすれば、お前は絶対に2人を超えられる!」
私は、初めてトレーナーさんに怒られた。
口調こそ怒り口調で怖かったが、目は真剣そのものだった。
決して感情的ではない。私のことを思って怒ってくれているのだと、私は即座に受け取った。
アルノ「……ごめんなさい!目が…覚めました。私が間違ってました。私、皐月賞頑張ります!皐月賞がダメだったら、日本ダービーで!日本ダービーがダメだったら菊花賞で!菊花賞がダメでも、絶対いつか、2人に勝ちます!」
牧村「そうだ。そう思い続けていれば、必ず勝てる。………いつものアルノに戻ったな。」
アルノ「はい!早速、2000メートル、5本走ってきまーす!」
牧村「い、いや、待て!まだ何も準備してなーいっ!」
急に私の身体全体は、自身でみなぎってきた――――
そんな感じが不思議とした。
今の私なら、何をやっても無敵だ。
なぜか、そう思えた。
=====
月日は経ち、4月。この日でちょうど私がトレセン学園に入学して1年になる。
そして、この日も新しい新入生が入ってきた。
そして、重大なニュースが私の元に来た。
アルノ(どんな子なんだろう……私の同室の子。)
そう。今日、寮に帰ると美浦寮の寮長さんから、「今日から君の部屋に新入生が入ってくるからよろしく。」と言われた。
寮長さん曰く、「素直で人懐っこくて誠実な子」らしい。
とりあえず、仲良くはなれるんじゃないかと思った。
ドアの前に立つ。
手が震えた。
覚悟を決めてドアのノブを回す。
「ガチャ」
そーっとドアを開けると、電気が着いていた。……ということは部屋に人がいる。
そして、人影が見えた。
玄関に入り、さらに歩みを進めると、やはり、人がいた。
その人はベッド―――私が使ってない方のベッドに座り、窓の外を眺めていた。
すると、私の存在に気がついたのか、くるりと顔をこちらに向ける。
目が合った。
綺麗で、キラキラした目だ。
そして、その子はあわててベッドから立ち上がり、私に向けて気をつけをする。
「―――あの、アルノオンリーワンさんですか?」
アルノ「あ、はい。」
「はじめまして!私、今日からアルノさんと同じ部屋になりました、“プロミスクイーン”って言います!今日から、よろしくお願いします!」
その子は、深々とお辞儀をする。
茶髪で、くるくる巻きの天然パーマ。左耳には宝石の飾りがついたオシャレなリボンをつけていた。
声も、表情も、寮長さんの言うとおり、やはり素直さそのものだ。表も裏もないような、純粋な。
アルノ「あっ、私はアルノオンリーワンって言います!こちらこそ、よろしくお願いします!」
慌てて、私も挨拶する。
プロミス「あっ!全然タメ口で大丈夫です!私のことは、プロミスって呼んでください!えーっと、アルノさんは……」
アルノ「アルノでいいよ。」
プロミス「分かりました!アルノ“先輩”!」
私は、人生で先輩と呼ばれたのが初めてだった。
すこし嬉しいし、すこし恥ずかしいような、そんなむず痒い感じがした。
プロミス「あっ、アルノ先輩!これ、良かったらどうぞ!地元のお菓子です!」
アルノ「わあ〜!ありがとう〜!」
プロミス「……あっ、よかったら一緒にお茶しませんか?いろいろアルノ先輩のこと、知りたいです!せっかく同室になったんだし!」
アルノ「うん!いいよ。私もプロミスちゃんのことたくさん知りたいし!」
それから、私たちはプロミスちゃんの淹れてくれた紅茶で、プロミスちゃんのお菓子を食べながらたくさんのことを話した。
夜遅くまで話した。
私とプロミスちゃんの距離は、一夜でグッと縮まった。
これで、もう寂しくない。
=====
皐月賞一週間前。
私は、今までで一番、ストイックに自分を追い込んだ。
休み無しで、ずっと練習してた。
多い日は、一日で2000メートルを10本消化した。
雨の日も、風の日も、休まずに走った。
レースは、よほどひどくない限り、どんな強さの雨でも決行される。万が一本番が雨だったときにも備え、雨でもしっかりと練習した。
トレーナーさんも最初はやめとけ、と言っていたけど、渋々頷いてくれた。
「ザー、ザー……」
大雨で、風がすごい。でも、負けない。
あの2人を超えたい―――――
アルノ「はああああ!!!」
でも、正直、あのときの私はまだ目が覚めきっていなかったのかもしれない。そう今の私は思う。
私は、もともと努力することが苦手だった。誰よりも飽きっぽくて、面倒くさがり屋で、どんなこともすぐに辞めてしまって。
でも、あのときの私は違かった。
どんな妥協も許さない。限界まで自分を追い込む。
2人の背中に追いつきたい。その為なら、何だってやってやる。
自分を|省《かえり》みなかった。
牧村「おーい!そろそろもう終わりにしよーう!こっちへこーい!」
アルノ「あと……!あと1本だけ走りたいです!」
牧村「1本?……しょうがないなあ……もうこれで本当に最後だからなーっ!」
アルノ「ありがとうございまーす!」
私は、再び走り出す。全く疲れはない。
いくらでも走れる。
ショート「―――トレーナー。アルノ、大丈夫?」
牧村「……ああ、お前たちまだ帰ってなかったのか。」
ブリザード「はい。ちょっと、様子が気になっちゃって。だってこんな大雨なのに……私たちだって今日は室内トレーニングだったし……」
牧村「やっぱり、|一生に一度しかないレース《クラシック》だからな。気合は他のレースよりはすごいだろうな。」
サン「……アルノさん、すごいですよね。私たちより遥かに体力がある。羨ましい。……でも、心配です。」
サン「―――――何をやっても疲れない人ほど、気づかないんじゃないでしょうか。……自分の身体が、悲鳴をあげていることに―――――」
=====
牧村「アルノ、お疲れ。ジャージ、ちゃんと部屋で乾かすんだぞ。アレだったらちゃんと洗濯もして、な?」
アルノ「はい。……あれ?先輩たちは?」
牧村「3人ならさっき帰ったよ。さっきまでアルノが走ってるとこ一緒に見てたんだ。みんな心配してたぞ。『頑張りすぎてないか』って。」
アルノ「それは全然大丈夫です。『心配しないで』って言っておいて下さい。」
牧村「本当か?皐月賞もうすぐだからな。無理はしないように。……あーっ、あと風引くなよ。」
アルノ「はい。それじゃあまた、明日。よろしくお願いします。」
牧村「おう……暗いから気をつけてな…」
外は、真っ暗だった。そして、まだ土砂降りの雨が続いていた。
寮の部屋に帰る。
プロミスちゃんがいた。
プロミス「アルノ先輩!今日も遅かったですね……今日もトレーニングですか?」
アルノ「うん。まあね。」
プロミス「……もうすぐ、皐月賞ですもんね……凄いです。アルノさんは。でも、私も今日、担当トレーナーさんが決まったんですよ!」
プロミスちゃんの輝く笑顔。見ているだけで元気が出てくる。
プロミス「このあいだ、模擬レースで、10人ずつで走ったんですよ。そしたら、見事1着になりました!しかも、今年の新入生の中で1番速いタイムだったって……たくさんのトレーナーさんがスカウトしに来て……どのトレーナーさんも良さげでとても迷いました……で、悩みに悩んだ結果、今のトレーナーさんにしました!」
アルノ「そうなんだ。すごいね〜!私なんて、その模擬レースでビリだったのに……」
プロミス「ええっ!そうなんですか!こんなに強いアルノ先輩が……やっぱ模擬レースは当てにならないかもしれませんね。私も才能に|胡座《あぐら》をかかないでちゃんと頑張ろうと思います!」
アルノ「うん、偉い!頑張ってね!」
プロミスちゃん……将来大物になりそう……
この日も、私たちは随分長い間たくさん話してしまった。
プロミスちゃんのコミュニケーション能力がすごいのもあると思うが、やはり私たちは気が合うのだと思う。
だから、つい今日あったことに話を咲かせてしまうのだ。
=====
プロミス「アルノ先輩、おやすみなさーい!」
アルノ「うん。おやすみ。」
「パチッ」
私は、部屋の明かりを消した。
明日も、トレーニング頑張ろう。
どんなトレーニングをしようかな……まずは2000メートル10本走って……
あ、その前にいつものように朝、街中を1時間ランニングして……
そんなことを考えている内に、いつの間にか私は眠りに落ちていた。
〈翌朝〉
「ピピピッ、ピピピッ……」
スマホのアラーム音で目が覚める。
アラームは朝の5時にセットしていた。
朝も走るためだ。
私は、ジャージに着替えて、プロミスちゃんを起こさないようにそーっとドアを開けて外へ出る。
意外と、プロミスちゃんは寝付きが良く、なかなか起きないので、さっきのアラームの音ぐらいでは、全然起きない。
人に起こされると、ちゃんと起きれるらしいので、毎朝私が起こしている。
街中を1時間走る。夢中だったので、あっという間だった。
部屋に戻り、プロミスちゃんを起こし、一緒に朝ごはんを食べに行く。そして、一緒にトレセン学園へ登校する。
いつもの変わらない日常だ。
やがて授業が終わり、トレーニングの時間だ。
昨日の大雨が嘘のように快晴だ。
よし、これならたくさん走れる………!!
牧村「よし、まずアルノは2000メートル、1本目、走ってくれ!」
アルノ「はい!」
牧村「位置について、用意……スタート!!」
「タッタッタッタ………」
いつものように、私は軽快に走り出した。
ここのことろは、皐月賞のレコードタイムに迫るようなタイムを出し続けている。
いつものように勢いよく走る。
―――すると、1000メートルを過ぎたあたりで、脚がなんだか重くなってきた。
脚を上手く動かせない。
牧村(……ん?スピードが下がった……?)
そして、最後の直線に入る。ここで一気に加速だ。
だが、脚が言うことを聞かない。
次第に、視界がぐらついた。そして、目の前が急にパッと真っ暗闇に変わった。
「バタッ!」
牧村「――――!!アルノーっ!!!大丈夫か!」
ショート「アルノ!しっかり!!」
サン「アルノさん、大丈夫ですかっ!?」
ブリザード「私、保健室の先生呼んでくる!」
何を言っているのかは全く分からないが、かすかにトレーナーさんや先輩たちの声が聞こえる。
それを最後に、私の意識は途絶えた。
-To next 07R-
〜キャラ紹介05〜
マロンホワイト(Maron White)
誕生日…5月3日
身長…149cm
体重…増減なし
スリーサイズ…B80W54H76
無邪気で可愛げのあるウマ娘。夢は歌って踊れるウマ娘になることで、ウイニングライブのセンターに立つことが何よりの憧れ。ウマ娘である姉がいて、今は地方レース(ローカルシリーズ)で活躍中。重賞も勝ってる。姉とは大の仲良し。
一人称・マロンちゃん/あたし
毛色・芦毛
所属寮・美浦寮
イメージカラー・緑
ウマ娘〜オンリーワン〜 07R
07R「チャンス」
「タッタッタッタ………」
私は、暗闇の霧の中を走っていた。
周りを見渡しても、誰一人いない。
すると、目の前の僅かな霧の隙間に、人二人の姿が見えた。見覚えがある。
クリスちゃんとユニバちゃんだ。
アルノ(……もっと走って、追い着かないと!)
私は、走るスピードを上げる。
すると、二人は私から逃げるようにもっと加速して走っていく。
二人との距離を縮めるどころか、全く追い付けない。
でも、大丈夫。二人よりももっと早く走ればいいんだから。
単純なことだ。
あの二人に、追い付く―――――
そして、再度もっと速く走ろうと、加速しようとした。
その瞬間―――――
アルノ「…………あれ?」
全く前に進めない。脚が上がらない。急に地面が沼のようにふにゃふにゃになり、私の体は沈みこんでいく。
二人の姿が見えなくなる。
このままだと見失ってしまう。
私は、胸まで沼に浸かった体から手を必死に伸ばして、叫んだ。
アルノ「――――待って!!!」
すると、突然背景が白くなり、沼も、霧も、そして二人も、何もかも消えてしまった。
そして、誰かの声が聞こえる。
その声は、次第に大きくなっていく。
「――――ノ!アルノ!アルノっ!!」
すると、突然白い視界がぼやけ、背景がだんだんと色づいていった。
遠のいた意識が、次第にはっきりしていく。
ここはどこだろう………?
牧村「アルノっ!大丈夫か!?」
アルノ「あれ……?私…なんでここに……」
周りに空いたベッドがたくさんある。どうやらここは、保健室のようだ。
牧村「トレーニング中、突然倒れたんだ。心配したぞ!俺も先輩たちもみんな!」
トレーナーさんのその言葉に、はっと我に返る。
アルノ「そうだ!トレーニング!!」
私は、急いでグラウンドに向かおうと、寝かされていたベッドから降りようとする。
牧村「やめろ!その身体じゃ、今日は……いや、“しばらく”は無理だ。」
アルノ「しばらくって、どういうことですか!?私、元気ですよ!………あれっ?」
そう言って立ち上がろうとすると、頭がクラっとし、わずかにふらつく。すかさず頭をおさえる。
手がおでこに触れて、驚いた。とても熱い。
牧村「ほら見ろ。……アルノ、落ち着いて聞いてくれ。保健室の先生に言われたんだ。アルノは風邪で、なおかつ身体にも疲労がたまっている―――と。1週間の療養が必要だ、って。ほら、昨日も雨の中走ったし………」
アルノ「1週間……??じゃ、じゃあ、皐月賞はどうなるんですか?」
牧村「残念だが………出走は出来ない。」
アルノ「そんなっ………なんで…せっかく練習したのに!二人に追い付くためにどんなトレーニングもしたのに………!」
牧村「気持ちは分かる。だが、アルノ。一番大事なのはお前の身体だ。結果でも、二人を越すことでもない。いくら強くなったって、お前の身体が大丈夫じゃなかったら元も子もないだろ!」
トレーナーさんにそう言われた私は、今までの自分の行いを振り返る。
ここ最近は1日10本以上は走らないと気がすまないほどになっていた。
朝はどんな天気でも、街中にマラソンに出掛けた。
夜は、時々遅くまで二人の過去のレースを見ては、二人の走りを研究していた。
そして、寝るのがいつも遅くなってしまっていた。
休むことは許されなかった。
だって、一日でも休んだら、二人に追い着けなくなるかもしれないから。
とにかく、気が休まるまで、走り続けた。苦痛ではなかったし、疲れた感じもしなかった。
でも、身体はいつのまにか悲鳴を上げていたのかもしれない………
アルノ「……二人に、追い着きたかった………本当は、気づいてた。こんなの、私らしくないって………でも、辞めるのが怖かったんです。また、|きさらぎ賞《あのとき》みたいに二人に負けるから。あのとき、こうしておけば良かったって後悔するのは嫌だったから……だから、例え負けても、後悔しないぐらいちゃんとやろうって………こんなことになるなら、もっと自分のことも気にすれば良かった………!!う………うわあ~っっ!!」
たくさんの涙が溢れた。涙が溢れて、止まらなかった。
私は、自分のことを後回しにしていた。勝つことだけを考えていた。
こんなことなら、もっと自分ともちゃんと向き合うべきだった。
でも、今さら後悔しても、もう遅いんだ。
皐月賞で二人勝つことだけを考えていたら、いつのまにか私は、二人と同じ土俵にすら立つことが出来なくなってしまった………
悔しい。悔しい。せっかく、若葉ステークスも勝って、優先出走権も手に入れて、二人とまた走れるって思ってたのに。
そう思うと、やはり涙が溢れて止まらなかった。
=====
プロミス「――――アルノ先輩、大丈夫ですか…………?」
アルノ「うん………大丈夫。」
時は過ぎ、夜。目が覚めたばかりのあのときから、体調は徐々に悪化していき、だるくて起き上がれない程になってしまった。熱もいまだに下がらない。
プロミスちゃんが、水で絞ったタオルを私のおでこにのせる。
ひんやりして、気持がいい。
私は、プロミスちゃんに看病してもらっていた。
アルノ「ごめんね……急にこんな看病してもらっちゃって……」
プロミス「全然大丈夫です!気にしないでください!むしろ、お役に立ててすごく嬉しいって言うか………」
前から思っていたが、やっぱりプロミスちゃんは謙虚だ。
やっぱり、その謙虚さも強さの一つなのかな………
プロミス「実は、私も思ってました。アルノ先輩、頑張りすぎてないかなって。毎日夜遅くにトレーニングから帰ってきて、寝る前もずっとレース映像とかみて、勉強して……そして朝は起きてまたランニング……先輩いつ休んでるんだろう、って思ってました。でも、私はそんなアルノ先輩を止めることが出来ませんでした。だから、皐月賞にも出走出来なくなって………本当に私のせいで……………」
アルノ「な、何言ってるの?プロミスちゃんは全く悪くないよ。悪いのは全部私。自分の体調も疎かにしてて、だからこうなっちゃって……」
プロミス「………寮長さんに頼んで、お粥つくってもらって来ます。寮長さん、料理お上手だし、きっと美味しいですよっ!」
そういって、プロミスちゃんは部屋をあとにした。
本当に、情けないな。
こんな初めて会ってから1ヶ月も経ってない子に看病させるなんて。
本当に、情けない。
〈数日後〉
風邪を引いて、数日が経った。
熱は下がり、身体も少しぐらいは動くようになってきた。
朝、目が覚める。
本当なら、憧れの舞台に立てた日。
プロミスちゃんがジャージに着替えている。
プロミス「あっ!アルノ先輩、起こしちゃいましたか?」
アルノ「ううん。全然。たまたま起きただけ。トレーニング?」
プロミス「はい。」
アルノ「早いね。頑張って。」
プロミス「はい!頑張ります!………あっ、あと、アルノ先輩……えと、その…こんなこと言うのもお節介かもしれないし、気分悪くされたらごめんなさい!でも、これだけは言わせてください。……今日の皐月賞、アルノさん、絶対見た方がいいです!私のチームのトレーナーさんが言ってたんです。『ライバルが出走するレースや、出走する筈だったけど出走できなくなったレースほど、ちゃんと見た方がいい』って。『自分が出走してたらこうしてたってイメージが湧いて、とても悔しくなって、次のレースへの原動力となる。』って。後輩である立場の私が言うのも変なんですけどね………これだけは言っておきたかったので!それじゃあ、行ってきます!夕方には帰ってくるので!」
そういって、プロミスちゃんはそそくさと部屋を出ていった。
アルノ(次の……レースの、原動力……………)
もともと、皐月賞は観たくなかった。
悔しくて観れないと思ったから。
観て、やっぱり2人は強かったんだな―――って思うのが怖かったから。
でも、そうか。自分は逃げてるだけだったんだ。
部屋でゆっくり過ごし、やがて3時を過ぎ、時計の長針が南西方向を指す。もうすぐだ。
私は、恐る恐るテレビのリモコンを手に取り、電源ボタンを押す。
レース中継のチャンネルに合わせると、「皐月賞まもなく発走!」とテロップがあった。
やがて、ファンファーレが鳴り響き、観客の拍手や声援が送られる。
そして、実況のアナウンスが流れる。
実況「――――さあ、今年も皐月賞がやって参りました。選ばれし17人のウマ娘。1番人気は、15番・ルナビクトリー。6戦5勝。2着1 回。そして重賞3勝。今年は共同通信杯、そして弥生賞を制覇しました。」
ルナビクトリー――――私が走った札幌ジュニアステークスで勝った人だ。こんに強い人だったなんて……
実況「続いて2番人気は、3番・ユニバースライト。今年はきさらぎ賞、そしてスプリングステークスを制し、5戦4勝。3着1回。ルナビクトリーとの2強対決が注目されます。そして、その他の注目ウマ娘は、9番・クリスタルビリー。現在4番人気です。今年はきさらぎ賞2着。弥生賞3着と、堅実な走りを見せています。」
やっぱり、2人はいた。みんなから注目されていた。
みんな勝負服を着ていた。2人も着ていた。
クリスちゃんは、白地に青のラインが入ったスポーティーな勝負服だった。長袖のジャケットを羽織り、下はスカート。足元はタイツで、さらに上にはレッグウォーマーを穿いている。
ユニバちゃんは、薄いラベンダー色のワンピースを着ていた。下は赤いロングブーツを履いている。
ゲート入りがはじまった。
固唾を呑んで見守る。
全員がゲートに入ったようだ。
実況「――――体制が整いました。さあ、栄光の一冠目を手にするのは。皐月賞――――」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!揃ったスタートです。さあ、誰が行くか。おっと、13番・プリンスポーレが先頭!2番手との差をぐーんと離す!後続集団、あとはみんな固まっております。」
アルノ(クリスちゃん、ユニバちゃん………頑張って!)
私は、心の中でそう応援した。
実況「ユニバースライト、クリスタルビリーは中段の位置。ルナビクトリーは、やや後方という展開です。さあ、先頭は依然とプリンスポーレ。まだ3バ身ほど差を保っております。まもなく、第4コーナー。徐々にクリスタルビリー上がってくる!」
実況「さあ、直線です!プリンスポーレ、逃げ切れるか!クリスタルビリー徐々に差を詰める!内からユニバースライトも上がってきた!―――先頭はユニバースライト!2番手はクリスタルビリーです!―――おっと、後方からルナビクトリーも上がってくる!残り200メートル!先頭はユニバースライト!ユニバースライト!外から1番人気・ルナビクトリーが上がってくるが――――届かない!先頭ユニバースライトでゴーールっ!!2着はクリスタルビリーでーす!ルナビクトリーは4着かーっ?」
凄かった。ユニバちゃんも、クリスちゃんも。
私がいたら、どうなっていたのだろうか。
やっぱり、悔しい。
でも、プロミスちゃんに言われたことを思い出す。
『レースを見ることは、次の原動力になる。』
私は、溢れそうな涙をぐっとこらえ、心の中で誓った。
日本ダービーでは、2人に勝つ、と
〈数日後〉
アルノ「―――話って、何ですか……?」
体調もやっと治り、昨日からトレーニングも再開した。
そして、トレーナーさんからレースの話があると呼び出された。
次は日本ダービーだろうか。それとも…………
牧村「次走の話だ。次のレースは――――青葉賞にしようと思う。」
青葉賞――――もし私が皐月賞に出走できなかったときに出走するつもりだったレースだ。
牧村「日本ダービーの|前哨戦《トライアル》。勝てば、日本ダービーに出走できる。東京レース場の芝2400メートル。時間はあまりない。来週の土曜だ。やるか?」
答えは、もちろん一択だ。
アルノ「――――やらせてください!」
今こそ、皐月賞への無念を晴らす|チャンス《とき》がやってきた。
勝って、2人の背中に追いつくんだ…………!!
-To next 08R-
〜キャラ紹介06〜
アスターウールー(Aster Wooloo)
誕生日…3月17日
身長…158cm
体重…増減なし
スリーサイズ…B82W56H79
ドライで人に興味を持たない性格のウマ娘。ストイックでレースのことしか考えておらず、幼い頃から人と接してこなかったためか、人付き合いは苦手な方。額に丸い星がある。
一人称・私
毛色・青鹿毛
所属寮・栗東寮
イメージカラー・黒
ウマ娘〜オンリーワン〜 08R
08R「決戦の舞台」
私の次走は、青葉賞に決まった。
トレーナーさん曰く、優先出走権を獲得できるのは、1着になったウマ娘のみだと言う。
もう勝つしかないんだ。時間はあまりない。本番は明後日に迫ってきた。
牧村「―――タイム2分25秒!また自己記録更新だ!」
私は、走るのを止め、トレーナーさんの元へ駆け寄る。
アルノ「やったー!」
牧村「青葉賞、これなら勝てそうだな!」
アルノ「はい!」
牧村「………よし、今日もたくさん走ったし、今日のトレーニングは、終わりにしよう。」
アルノ「えっ……!もっと……せめてあと1本くらいは………」
私は、まだ走り足りない感じがしていたのだ。
牧村「ダメだっ!皐月賞で勝ちたいと頑張りすぎて、体調崩して皐月賞に出走できなくなったのは、どこのどいつだーっ?」
トレセン学園の|アルノ《私》です………
アルノ「わ、分かりました………」
牧村「なにも、完璧を求めなくてもいい。あんまり自分自身を追い込みすぎると、自分自身が辛いことになってしまうからな。俺も今回の件で反省した。ずっと、アルノが頑張りすぎているのに、止めなかった。だから、アルノの夢を壊すことになってしまった。でも、これからは気を付ける。アルノの為にも、アルノがこれ以上頑張るなら、俺も容赦なく制限させてもらうからな。」
アルノ「はい。分かりました!それでは、今日のところは、ここで。お疲れ様です!」
牧村「ああ!お疲れ。」
そして、また一日、また一日と、時間が過ぎて行く。
そして、あっと言う間に青葉賞がやって来た。
〈レース当日・東京レース場〉
実況「さあ、雨の中、東京レース場は、GⅠレースが開催されないにも関わらず、今日も多くの観客が押し寄せております。」
青葉賞当日。まず、不吉なことが起きた。
雨になってしまったのだ。
そう。私は、雨の芝が嫌いだ。ぬかるんでいて、滑ると思うと、怖くてあまり本気で走ることが出来ないからだ。
本当に不吉だ。今までずっとレースは晴ればかりだったのに………
実況「本日のメインレースは、青葉賞。日本ダービーのトライアルです。それでは、人気のウマ娘を紹介します。まずは圧倒的1番人気、5番・エキサイトアワー。オープン戦である若駒ステークスでは2着。そして前走の2勝クラスで3勝目をあげ、今勢いをつけています。重賞は初挑戦です。そして2番人気は、6番・アルノオンリーワン。皐月賞は残念ながら体調不良で回避してしまいましたが、およそ2週間後のこの舞台で再び強さを知らしめられるか。リステッド競走を2勝しております。しかし、重賞ではあまり良い結果は残せていません。さあ、果たして今回はどうか。次に3番人気です。11番・グロウサマーアイズ。京都ジュニアステークスでハナ差の2着。毎日杯では5着。そして前走の1勝クラスは2バ身差の圧勝。期待が寄せられております。」
「――――なるほど、三強対決ねぇ。どのウマ娘も強そうだ。」
「――――さあ、ここはひとまず彼女たちの実力を見せてもらおう………」
---
いよいよ、ゲート入りだ。雨も少しは止み、小雨程度になってきた。芝はまだ重だけど。
人数は12人。この間観た皐月賞よりはるかに少なかった。
でも、日本ダービーの|優先出走権《チケット》を獲得できるのは、ただ一人。
私が、その一人になってみせる!
実況「―――体制が整いました。青葉賞―――」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!さあ、先頭はアルノオンリーワン!早くもリードを広げ、4バ身、5バ身と差を離します。1番人気、5番のエキサイトアワーは3番手の位置です。そして最後方は3番人気・グロウサマーアイズ。先頭から最後方まで14バ身ほどあります。――――先頭はまだ6番・アルノオンリーワンです。なんと、10バ身差!そして、1000m通過は、かなりのハイペース!」
長い。私が今まで走ってた距離よりだいぶ長い。
それもそのはず、2400mは、私がこれまで走ってきた距離の中で1番最長なのだ。
体力はある方なので、そこまで気にはしないが、やはりとても長く感じる。私がよく走っていた2000mはここで半分なのに、あと3分の2くらいの距離がある。
それに、今回は走る向きも違う。
今回は左回りコース。
私はほとんどのレースを右回りコースで走っていた。
もちろん、左回りコースのトレーニングもしたが、やはり慣れない。
そして、トレーナーさんが教えてくれた情報によると、東京レース場の芝2400メートルは、直線が長いという。少なくとも私が走っていたレースの直線距離のプラス200mくらいなのだと………
私の体力が持つかちょっと心配だ。
実況「さあ間もなく第4コーナーに差し掛かります。アルノオンリーワン、リード10バ身!さあ、他のウマ娘は追い付けるのか!そして、第4コーナーをカーブし、直線!さあ、アルノオンリーワン、逃げ切れるのか!リードはまだ10バ身です!エキサイトアワーはまだ集団の中!アルノオンリーワン、アルノオンリーワン先頭!残り200!」
誰の足音も聞こえない。体力もちゃんとある。
勝てる………!勝てる!
実況「―――おっと、大外からグロウサマーアイズが伸びて来た!届くのか!物凄い末脚です!アルノオンリーワンとぐんぐん差を縮めていく!そして、なんと交わしたーっ!そのままゴーール!」
何が起きたか、分からなかった。
瞬きもしない間に、一気に後ろから来た。
あっという間だった。………こんなに、差を広げたのに……………
もう、二人とは戦えないのかな………
ダービーも、ダメだった。
いつも、あと一歩なのに、いつも手が届かない。
どうしてだろう。
あんなに、頑張ったのに…………
実況「タイムはなんと2分22秒05!レコードタイムです!―――――」
「――――ふうん。最後方からの追い込み一気。なかなかの末脚だ。しかし、僕はずっと先頭を走った彼女に才能を感じた。きっと僕と同じくらい強いウマ娘になるかもしれない!」
「――――そして、“僕”を超えることは出来るかな………?」
通行人A「―――あっ!あなたひょっとして……!!」
「あっ、ああ!そうだ!才能あるウマ娘はいないかと偵察に来ていてね。」
通行人A「明日の天皇賞、楽しみにしてます!頑張ってください!あっ、握手!」
「ああ、いいとも!」
通行人B「あ!私も!」
「俺も!」
「ボクも!」
「私もーっ!」
「わっ、わぁーっ!押さないで、一人ずつ!」
---
アルノ「トレーナーさん………ごめんなさい!ダービー、出走はダメでした………本当に、あと少しだったのに……」
涙声で、私は話した。また、トレーナーさんをがっかりさせてしまった。
牧村「アルノ………まず、アルノに謝らなければいけないことがある。」
アルノ「………何ですか?謝りたいのはこっちの方なのに…」
牧村「……騙してすまなかった!」
アルノ「………へ?」
トレーナーさんの意外な言葉に、私は、悲しさも吹き飛ぶくらい驚いた。
牧村「……アルノ、落ち着いて聞いてくれ。実は……青葉賞の日本ダービーの優先出走権が与えられるのは、2着以内なんだ!」
私は、2着だ。
アルノ「………えっ!?…てことは………」
牧村「そうだ!アルノ!ダービー出走おめでとう!!」
アルノ「えっ……!?えと……」
状況が全く理解できない。
アルノ「ちょっ、ちょっとどういうことか説明してもらえますか?」
困惑と、嬉しさと、騙された腹立たしさで、私はとても複雑な心境だった。
牧村「いや………『2着以内』って言ったらアルノ、本気で打ち込めないんじゃないかと心配で………全然悪気はない!ゆ、許してくれ!」
トレーナーさんは、私に手を合わせ、頭を下げる。
アルノ「そっ、それは許しますけど……………でも、トレーナーさん。私は、きっとトレーナーさんが『2着以内』って言ったとしても、私は手なんか抜かないと思います。|ダービートライアル《ここ》で手なんか抜いてたら、二人に失礼だし、追い越せないと思います。私は、これで満足はしていません。やっぱり1着が良かった。でも、二人に挑戦する|優先出走権《チケット》は手に入れることが出来た。私は、まだまだこれから頑張らないとですね!」
牧村「アルノ………!!よし、一緒にダービー優勝目指そう!俺も、ここ10年はダービーに勝ててないから……!」
アルノ「はい!私、トレーナーさんを勝たせます!」
〈数日後〉
クリス「―――というわけで、アルノちゃん、ダービー出走おめでとーう!」
ユニバ「おめでとうございます………!!」
アルノ「ありがとう!二人とも。」
今は、お昼時。二人に誘われて、3人で一緒に食堂でお昼ご飯を食べている。
クリス「いやー、しかし、アルノちゃんは強いねーっ!リステッド2連勝の上に、重賞2着。凄いよ!」
アルノ「いや、二人はもっと凄いよ……そうだ、遅くなったけど、ユニバちゃん、皐月賞優勝おめでとう!」
ユニバ「あっ…ありがとう…!!」
アルノ「ごめんね。青葉賞出走でバタバタしてて、なかなか言うタイミングが無くて。クリスちゃんも2着、凄いよ!私は、GⅠで二桁着だったのに…………」
クリス「うーん、でもユニバちゃんには全然勝てないよ……それに、あたしは実を言うと2勝しかしてないから、アルノちゃんよりは弱いと思うよ。」
アルノ「なっ、何言ってるの!?私、ずっと二人が目標だったんだよ!きさらぎ賞で負けてから、ずっと……二人に勝つことだけを考えて、ここまで来た。………こんなところで、あれかもしれないけど…二人のきさらぎ賞の借り、ダービーで返すから!」
クリス「おっ!宣戦布告かー!じゃあ、あたしも!……あたしは、二人よりはずっと弱くて……日本ダービーに出られるのも、皐月賞でたまたま2着に食い込んで、優先出走権が貰えただけで………でも、あたしも頑張る!二人に勝つよ!……あと、これから二人のことは………アルノ!ユニバ!………って呼ぶから!」
ユニバ「わ………私だって負けてられません。ママが勝ったダービーの景色、私も見てみたい………三冠ウマ娘目指して、まずはダービーを勝って二冠ウマ娘になります!………それと、私もお二人のことは、これからアルノちゃん、クリスちゃんとよっ、呼んでもいいでしょうか………?」
クリス「もちろんだよ!」
アルノ「いいよっ!」
クリス「……でもさ、あたしたち数少ない同期で、今までだってあたしたちなりにお互いを支え合って来たじゃん?……でも、もうあたしたちライバルなんだね……」
アルノ「……そうだね。」
ユニバ「……はい………」
クリスちゃんの発した言葉に、私たちはただそう返すしかなかった。
沈黙が、私たちを包んだ。
ダービーは、刻一刻と迫ってくる。
私も、この間ほど過度なトレーニングはしていないが、ストイックな練習を続けた。
トレーナーさんが言うには、私の逃げのスタイルの場合、距離が長くなるほど大逃げでの2番手との距離も比例して長くなるだろうと言う。そして、勝てる確率も上がるという。
私は、それを信じて、精一杯走り続けた。
---
プロミス「ダービー、あと2日ですねー!」
アルノ「うん!」
プロミス「私、応援してます!……実は、アルノ先輩が皐月賞や日本ダービーに向けて頑張ってるのを見て、私も新しい目標が出来ました!……日本ダービー……いや、クラシック三冠に出走することです!」
アルノ「おお!いいじゃん!」
プロミス「はい!……実は、もともとティアラ三冠路線に行こうと思ってたんです。……親からも、トレーナーさんからも、みんなからも、『その才能なら、ティアラ三冠取れる。』ってよく言われるんです。でも、アルノさんを見て思いました。才能じゃなくて、努力して取ってみよう……って!無謀かもしれないですけど、あわよくばクラシック三冠ウマ娘になりたいです!」
アルノ「プロミスちゃん……」
私の頑張りで、目標を持ってくれる人もいる。
その人の為に、私も―――――
---
実況「さあ、今年も日本ダービーがやって参りました。世代の頂点を決める、年に一度の頂上決戦。さあ、まずは1番人気です。二冠達成に期待がかかります。13番・ユニバースライト。今年に入り、4連勝中の負け知らずです。
次に、2番人気です。4番・カナタサンセット。骨折で、残念ながら皐月賞には出走できませんでした。しかし、休養明け最初の初戦・京都新聞杯では、GⅠウマ娘の意地を見せつけ、3バ身差の快勝。こちらも期待が高まっております。
続く3番人気は、10番・ルナビクトリー。皐月賞は4着と惜敗しましたが、こちらもダービー制覇への期待が高まる一人です。あとは、4番人気、15番・グロウサマーアイズ。5番人気、11番・クリスタルビリー。6番人気、6番・アルノオンリーワンといった人気です。非常に大混戦となりそうな予感です。」
私は、思った。他の5人全員、私は負けている。
ルナビクトリーさんには、札幌ジュニアステークスで。
カナタサンセットさんには、ホープフルステークスで。
クリスちゃんとユニバちゃんには、きさらぎ賞で。
グロウサマーアイズさんには、青葉賞で。
でも、勝ったらその全員にリベンジを果たせる。
こんなチャンス、二度とない。
勝とう!私が世代の頂点に!
---
実況「各ウマ娘、ゲート入りが進んでおります。最後に、18番・ライクユーがゲートに入ります。GⅠ初挑戦です。――――さあ、体制が整いました。日本一のウマ娘は、一体誰なのか!日本ダービー――――」
「ガシャン!」
実況「スタートです!……揃ったスタートになりました。さあまずは先行争い。やはりここは、6番アルノオンリーワンが制しました!現在もうすでに10バ身差です!これは凄い大逃げだ!1番人気のユニバースライトは、集団のやや後方。その前を行く2番人気のカナタサンセット。それに並ぶ3番人気のルナビクトリー。前走の青葉賞も追い込み一気で優勝しました、グロウサマーアイズはやはり最後方の位置につけました。そして、クリスタルビリーは6番手でしょうか。集団の前の方をキープしております。しかし、先頭はアルノオンリーワン!――なんということでしょう!ここで1000m通過タイム56秒03!これまでの日本ダービーで史上最速のタイムです!」
アルノ(体力はまだある……あとは、加速力の問題だ。)
クリス(―――やっぱり、アルノちゃんはすごい。でも、あたしも負けてられない!少しずつ加速して、最後の直線で一気にスパートをかければ……!!)
ユニバ(相手が誰だろうと関係ない。私は、勝つだけ。ママが空から見ているかもしれない。だから、こんな弱い自分は、みせたくない……!!)
カナタサンセット(皐月賞は、骨折して出走できなかった。でも、このメンバーの中でも、僕はGⅠを勝っている!勝って世代の代表ウマ娘の座に!)
ルナビクトリー(皐月賞は、調子が悪かっただけ。でも、ダービーだけは……!!)
グロウサマーアイズ(青葉賞を勝ったウマ娘で、日本ダービーを勝ったウマ娘は、誰一人いないという。でも、そんな常識、この私が打ち砕いてみせる!!)
実況「さあ、3、4コーナー中間。まもなく第4コーナー!アルノオンリーワンが一足先に第4コーナーをカーブしました!」
この|直線《525m》に全てを懸ける!!!
アルノ「はあああああ!!!」
クリス「うおおおおおっっ!!!」
ユニバ「やああああ!!」
実況「クリスタルビリー!そしてユニバースライトが抜け出した!果たして、届くのか!」
足音が近づいてくる。でも、負けない。
絶対に負けたくない!!
『俺も、ここ10年はダービーに勝ててないから……!』
『アルノさんを見て思いました。才能じゃなくて、努力して取ってみよう……って!』
『アルノは私の自慢の娘だよ!』
負けない!私が、皆の|憧れ《ゆめ》になれるなら!
もう何ヶ月も考えていたのは、2人に勝つことだけ。
今こそ、決戦の舞台なんだ。
実況「アルノオンリーワン、先頭!しかし外からユニバースライトが上がってくる!クリスタルビリーも負けじと追い詰める!後方からカナタサンセットも上がって来た!しかし、アルノオンリーワン粘る!粘る!ユニバースライトが徐々に差を詰める!この2人の叩き合いだ!両者一歩も譲りません!アルノオンリーワン、ユニバースライト、並んでゴーーールっ!しかし、ユニバースライトがわずかに差し返したかっ!?」
アルノ「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ………」
ユニバちゃんと、並んでゴールした。
実況の人は、わずかにユニバちゃんか、って言ってたけど……
でも、信じたくない。またこんなに手が届きそうだったのに……
実況「………おっと、結果がまだ確定していませんね……な、なんと、たった今、審議のランプが点灯しました!」
観客の歓声が、一気にザワつく。
スタンド前の掲示板の右上に、いつも「確定」と赤く光っているはずの場所が、今は、「審議」という青いランプに変わっていた。
しかし、何故審議のランプが点灯しているのかは、後で分かった。
つまり、その原因は、私にあったのだ―――
-To next 09R-
〜キャラ紹介07〜
ガーネットクイン(Garnet Quen)
誕生日…4月30日
身長…169cm
体重…増減なし
スリーサイズ…B89W57H85
とあるレースに勝つために全力をかけているウマ娘。先祖代々そのレースに負け続けているので自分が無念を晴らそうと必死に頑張る。大柄で他のウマ娘によく怖がられてしまうが、見た目に反して根は優しい。結構周りより常識人で、ツッコミ役にまわることもしばしば。
一人称・アタシ
毛色・栗毛
所属寮・栗東寮
イメージカラー・橙
ウマ娘〜オンリーワン〜 09R
09R「意味がない」
私とトレーナーさんは、検量室前へと呼び出された。
検量室とは、レースの前に体重を量るところだ。
そして、黒いスーツを来た何人かの人たちが私たちの前に立ち、話す。
審査委員「………えーっ、6番・アルノオンリーワンは、スタート直後、先頭に上がる際、斜行して5番・トゥインクルタイムの進路を妨害したとして、6番・アルノオンリーワン、2着。5番・トゥインクルタイム6着から、トゥインクルタイムの1つ下に繰り下げ、6番・アルノオンリーワン、6着。5番・トゥインクルタイム、5着とします。」
牧村「……どうも、すみませんでした。…ほら、アルノも。」
アルノ「…す、すみませんでした………」
要は、私がスタート直後に先頭へ上がる際に、内の方へ行こうとしたら、左隣のゲートの人の進路を妨害していたのだと言う。
そして、その人は私が斜行したことにより、一時的に前に進めなくなり、不利を受けたのだ。
そんな自覚、全然無かった。
知らない間に、人に迷惑をかけてしまっていたのだ……
とても悔しい……
ダービーなのに…
一生に一度しかない最高のレースなのに…
とても悔いの残る結果で終わってしまった。
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プロミス「――――いや、でもアルノ先輩はすごいです!2着に入線したんですから。元気出してください。降着なんて気にしない!降着なんて、稀なんですからっ!……あ、いや下の立場の私が言うことじゃないですけど……」
アルノ「ありがとう。プロミスちゃん……」
プロミス「……アルノ先輩、とってもかっこよかったです。アルノ先輩のレース、全部見ましたけど、|日本ダービー《あのレース》が、いっちばんかっこよかったです!最初から最終コーナーまで、ずっと先頭でみんなを引っ張って。例え、アルノ先輩が1着だろうと、2着だろうと、6着だろうと、最下位だろうと、その大逃げで、沢山の人を魅了出来た――――印象に残せたんじゃないかと思います!優勝したウマ娘―――ユニバースライトさんでしたっけ?その人とおんなじくらい……いや、それ以上にアルノ先輩は私の中で光り輝いていました!」
アルノ「ちょ、ちょっと……いくらお世辞でもそんなに褒められると恥ずかしいなぁ……」
プロミス「お世辞なんかじゃないです!」
プロミスちゃんはほっぺたをむぅっと膨らませ、真っ直ぐな瞳でこちらを見つめる。
非常に彼女は感情が豊かだ。そしてすぐさま、柔らかな微笑みを浮かべながら、語り始める。
プロミス「アルノ先輩のこと、本当に尊敬してます。まだ出会ってもうすぐ2ヶ月っていう短い間だけど、私は、アルノ先輩は誰よりもかっこいいウマ娘です!そして、私はそんなアルノ先輩のことが―――――大好きです!」
突然の告白に、私は顔がカァーっと赤くなった。
アルノ「プ、プロミスちゃん………???」
プロミス「えっ……あっ、ああっ!もっ、もちろん『先輩として』って言う意味ですよ!」
アルノ「だっ……だよねーっ。」
プロミス「アルノ先輩のダービー見て、私も決心しました。クラシックに挑戦するって。実は、クラシックに出走したいってこと、トレーナーさんに伝えにくくて……絶対反対されそうな気がして……昔からずっと言われてたんです。『プロミスならティアラ三冠絶対獲れるよ!』『ティアラ界で伝説のウマ娘になるかもね!』って…………でも、私は挑戦するなら、簡単に越えられそうな壁より、難しくて相当頑張らないと登れないような、そんな壁に登りたい……だから、私はクラシックに出走します!……そして、ダービーウマ娘になりたいです!!」
アルノ「プロミスちゃん……」
なんて偉い子なのだろう。楽をしないで、わざわざ苦の道を選ぶ。
でも、それはきっと達成感が強く得られるからだろう。
プロミスちゃんらしい考え方だ。
プロミス「もう、私は誰に反対されても、諦めません。いつか、アルノ先輩も走っていたターフに立つために。」
アルノ「頑張って!プロミスちゃん。私も応援してる!例え誰もプロミスを応援してくれなくても、私だけは応援するから!」
プロミス「ありがとうございます!じゃあ、アルノ先輩は私のファン第1号で!」
アルノ「だっ、第1号だなんてそんな〜っ!」
私は、プロミスちゃんの勇気と、励ましに、元気づけられた。
プロミスちゃんと、同室になれて、本当に良かったと思う。
---
「―――アルノオンリーワン、リステッド2連勝!皐月賞への切符を手に入れましたーっ!」
母「やっぱ何回見ても飽きないわね〜」
今は夏休み。実家に帰省中。
アルノ「ちょっとー!前も言ったけど本人の前でレース映像みるの、やめてくれる?……恥ずかしいし。」
母「でも、凄いわ。皐月賞は体調不良で出走出来なかったけど、日本ダービーに出走できたんだもの。もうそれだけでも凄いわ!」
アルノ「そ、そうかな……だって2着だったけど、6着に降着しちゃったし……」
母「そんなの気にしない気にしない!結果としては、6着だけど、アルノが2着に入線したのは凄いわ!だって、同世代のウマ娘の中で日本で2番目に強いってことじゃない!」
確かに、考え方を変えてみるとそうだ。
私は、ユニバちゃんよりは強くないが、3着のクリスちゃんよりは強いということがわかる。
そうか、私はもうクリスちゃんは超えたんだ。
だから、あとはユニバちゃんを超えれば―――――
---
実況「――――ゴーールっ!!神戸新聞杯、1着は15番・クリスタルビリー!見事1番人気に応えました!重賞初勝利!そして2着は10番・アルノオンリーワン!今回も圧倒的な大逃げを披露したものの、惜しくも重賞初勝利は届きませんでした。そして、3着は11番・ユニバースライト。三強対決は、クリスタルビリーが制しました。」
「わああああああ!!!」
クリス「やっ……やったぁ〜っっ!!!」
大きな歓声と共に、クリスちゃんは溢れるばかりの笑顔で、ガッツポーズをした。
観客の声が、かすかにまた大きくなった気がした。
アルノ「ハァッ、ハァッ、ハァッ………」
また、届かなかった。
あと少しなのに。
どうして……?
今度はユニバちゃんには勝つことが出来た。
でも、クリスちゃんに負けた。
2人同時に超せないと、意味がない。
どちらかに勝っても、どちらかに負けては意味がないのだ。
お母さんの言う通り、確かに、私は日本で2番目に強いかもしれない。
でも、2人を超せないと全く意味がない…………
---
休み明けのトレーニング。私とトレーナーさんは、次のレースについて話していた。
牧村「アルノ、この間の神戸新聞杯、お疲れ様。よく頑張ったよ。ダービーもそうだったが、また2着だろう?あともう一息だな。見事、3着以内に入って優先出走権も獲得できた。次は、菊花賞だな!……って、おい。聞いてるのか?」
アルノ「…………トレーナーさん………私、いいです。菊花賞出走しなくて。」
牧村「は、はっ!?な、何言ってんだ!せっかく優先出走権も獲得したのに……」
アルノ「だって……全く2人に刃が立たなくて……きさらぎ賞、日本ダービー、神戸新聞杯……全部二人に負けた。全然2人に勝ててない。菊花賞もきっと、ユニバちゃんが勝って三冠ウマ娘に。そうじゃなくても、クリスちゃんが勝って菊花賞ウマ娘に。きっと私がいてもいなくても、そんな結末になるに違いないんです………もう、2人には勝つことは出来ない………」
そうだ。私の頭の中では、いつも2人の背中は大きく見える。
身長も3人とも大して違わないのに、2人だけがずっと高く見えてしまう。
かっこよく見えてしまう。
未熟なのは、私だけで。
牧村「………分かった。お前がやめたきゃ勝手にやめればいい。でも、後でいくら後悔しても知らないからな。2人に負けたままにしたいんなら、それでいい。せっかくここまで来たのに、全てお前は水の泡にするんだな。………もう勝手にしろっ……!」
そして、トレーナーさんは、私からくるりと背を向け、グラウンド側の出入り口から外へと消えていってしまった。
バタン、と扉を閉める音は、あまりにも無機質で、少し怒りが混じっているようだった。
私は、混乱した。
トレーナーさんを怒らせるようなことをしてしまった。
こんなの、初めてだ。私がいくら弱音を吐いても、元気づけてくれているトレーナーさんが、今日は冷たく感じた。
私は、耐えきれなかった。涙が溢れてきそうだった。
頭が混乱したまま、私は、チーム室を飛び出した。
トレーナーさんと、喧嘩してしまった――――――
-To next 10R-
〜キャラ紹介08〜
アスカウイング (Asuka Wing)
誕生日…3月15日
身長…167cm
体重…増減なし
スリーサイズ…B84W56H80
飄々としたカリスマ性のあるウマ娘。ドライで執着心はないと思われがちだが、実際は非常に仲間思いで優しい性格の持ち主。グッドラックナイトをライバル視している。
一人称・あたし
毛色・鹿毛
所属寮・栗東寮、
イメージカラー・水色、黄緑
ウマ娘〜オンリーワン〜 番外編
これは、トレーナー・牧村ひろしの話。
-Exhibition Race(番外編)-
なぜだろう。アルノはあんなに強いのに、いつも勝てない。
大逃げを得意とするウマ娘――――それは、俺がトレーナーをはじめてから何人かそんなウマ娘は見たことがあった。
しかし、俺が担当するチームには、そんなウマ娘はいなかった。
アルノはすごい。最初模擬レースで見かけたときからそうだった。あんなに|体力《スタミナ》があるウマ娘を、俺は見たことがない。
アルノなら、絶対大物に、下手したら歴史に刻まれるようなウマ娘になれるかもしれない。
長年トレーナーをやっている俺の中で、そんな確信性があった。
しかし、アルノは全然勝てない。
今のところアルノが勝ったレースは、全部圧勝なのに、重賞では、中々勝ちきれない。
言い方は悪いが、ユニバースライト、クリスタルビリー――――あの2人が邪魔をしている。
あの2人は、アルノをしのぐほどに強い。
やっぱり、選ばれし8人の中の2人だ。才能やポテンシャルが十分にあるのだろう。
しかし、アルノだってその8人の中の1人だ。それに並外れた|体力《ポテンシャル》だってある。
いつか、アルノの才能が開花すると信じて、俺はここまでやって来た。
本当は、あのとき、新入生は8人しかいないから、「じゃあ、今年は新しい子は諦めよう」と考えていた。
でも、道端でうずくまっているひとりの彼女を見たら、流石に可哀想になってきた。
ジンクスやらなんやらのせいで、一人の子がこんなに悲しい思いをしている。
模擬レースで最下位の子は、大成しない。―――誰が広めた噂か俺は知らないが、そいつを俺は少し憎たらしいと思った。
俺が、この子を立派なウマ娘にしてあげよう。そう思った。
正直、俺には自身があった。
俺のチームは、重賞は勝てずともほとんどが1勝はしている。
それに、重賞を勝てなかったウマ娘も数えるほどだ。
だから、俺はアルノを強いウマ娘に出来る自身があったのだ。
でも、一つだけ気がかりなことがある。
アルノは、“あの子”のようにならないだろうか………
〈数十年前〉
俺は、当時4年目くらいの新人トレーナーだった。
しかし、すでに俺のチームはGⅠを5勝くらいしていて、他のトレーナーも一目置く期待の新人トレーナーだった。
その頃、トレセン学園にあの子が入学してきた。
4月。俺もトレーナー5年目になり、新入生の模擬レースで、良い子はいないかスカウトに回っていた。
しかし、どの子もあまりぱっとするような才能を感じ取れなかった。
もちろん、才能があるウマ娘は何人かはいたが、その子は他のトレーナーのスカウトの行列でたくさんだった。俺は実力はあれど、まだ新人トレーナーの身なので、入れる余地はない。
そんな中、1人だけポツン、とグラウンドに佇んでいる子がいた。
どの子を見ても、1人のウマ娘につき1人はトレーナーが話しかけに行っているような感じだった。
しかし、その子だけは1人でいた。
俺は、どうもその様子が気になったので、話しかけてみることにした。
牧村「お嬢ちゃん、まだスカウトされてないのか?」
「―――はい。意外と、来ないものなんですね。……やっぱ私ビリだったからかな〜?」
栗毛のショートヘアーの髪型。瞳は、真っ直ぐで綺麗な目だった。笑顔がとても良く似合う。
えへへ、と後頭部に手をおいて微笑むその子には、どこか寂しさが感じられた。
俺は、才能とか関係なく、この子を放っておけないような気がした。
牧村「よ、よかったら俺の|チーム《とこ》来ないか?」
「えっ?い、いいんですか……?私、ビリなのに……」
牧村「なあに。グラウンドで走るの初めてだったんだろ?なら、ビリでも仕方ないさ!ここからが肝心なんだから。」
するとその子は、ぱあっと明るい笑顔になった。
俺でも見惚れてしまうほど、キラキラした笑顔だ。
「分かりました。これから、よろしくお願いします!」
牧村「ああ!よろしく。」
しかし、現実は厳しかった。
その子は、いわばチームみんなから置いていかれてしまった。
トレーニングで何度レースをしても|最下位《ビリ》。
脚も遅いし、瞬発力もない。
その子の他にも4人の同期が俺のチームに入ったが、完全にその4人にも置いていかれていた。
ある日、その同期の中の1人が、ジュニア級重賞に優勝した。
しかし、あの子はまだデビューしていなかった。
またある日、別の同期の子がジュニア級の|リステッド《準重賞》戦で圧勝した。
しかし、あの子はまだ未勝利だった。
何度レースに出走しても、勝てない。いつも最下位か、良くて下から2、3番目。
レースのとある規則には、1着との差が一定の時間を超えてしまうと、2、3ヶ月出走できなくなってしまうことがある。
ちゃんとトレーニングをして、出直してこい、ということだ。
あの子は、それに何度も引っかかっていた。
しかし、彼女は、後ろを向くことはなかった。いつも笑顔だった。
牧村「――――また負けちゃったな……それに、2ヶ月の出走停止……大丈夫か?」
「はい!全然。また2ヶ月みっちり|練習《トレーニング》して、次こそは勝ちます!」
彼女は、いつでも前向きだった。俺はそんな言葉に励まされていた。
しかし、俺はそんな彼女の言葉や笑顔を信じ切ってしまっていたのかもしれない。
彼女の本当の心の傷に、俺は気づくことが出来なかった。
4月。あの子がチームに入ってから2年。
他の同期のみんなは何かしらの重賞やGⅠを勝っていた。
しかし、あの子だけはまだ未勝利のままだった。
そして、この間、彼女にとって6戦目となる未勝利戦で、彼女は競走中止になってしまった。
原因は、左足の骨折。
最悪の事態が起こった。
そして、それから数日後。
---
牧村「や、辞めるってどういうことだよ!?まだまだお前はこれからだろう?また骨折が治ったら一緒に頑張ろう!俺がいつまでも面倒を見るから……」
「でも、本当はトレーナーさんも、私のこと邪魔だと思ってるんじゃないですか?だって、他のみんなは重賞やGⅠ勝ってるのに、私だけで未勝利のままで……いい機会です。私はチームを辞めます。あと、今日中にトレセン学園の退学届も出します。」
彼女は、穏やかな顔をして微笑んでいた。
しかし、その目からは涙がこぼれ落ちていた。
あの子が俺の前で涙を見せた、最初で最後の日だった。
本当は悔しかったのだろう、泣きたかったのだろう、辛かったのだろう。
気づいてやれなくて、ごめんな。
彼女の松葉杖をつきながらチーム室から出ていく後ろ姿を俺はたまに思い出してしまう。
あの子を、勝たせてあげたかった。
本当の笑顔が見たかった。
今までで1回も勝たせてあげられなかったのは、あの子だけだ。
そして、途中でチームを辞めてしまったのも、あの子だけだ。
でも、もうあの子で最後にしたい。
あの子と同じ思いを二度と他のウマ娘にさせたくない。
しかし、たまにアルノを見ると、あの子を思い出してしまう。
髪の色も似ていて、雰囲気もよく似ていた。
それが、怖かった。
アルノも、あの子みたいになってしまうのか。
正直、なかなか勝てないアルノに焦りを感じていた。
あの子のようにはなってほしくなかったから。
だから、あのときはついカッとなってきつい言葉を言ってしまった。
しばらくしてグラウンドから戻ると、アルノの姿は消えていた。
そりゃそうだ。なんてバカなことをしてしまったんだろう………
アルノを辞めさせるわけにはいかない。
なんとか、仲直りしてアルノをまた勝たせてやりたい。
菊花賞は、諦めよう。何か、いい重賞を探さないと。
アルノ、それにあの子も、
ごめんな。
ウマ娘~オンリーワン~ 10R
最初に謝っておきます。長くなってしまいました………(もはや短編でもない)
ですが、いつも通り楽しんで読んでいただけたら幸いです。
10R「強いウマ娘」
トレーナーさんと喧嘩してから一週間。
トレーニングも後ろめたくて出れていない。
でも、私は意を決した。
トレーナーさんと、ちゃんと話そう。
部屋を出て歩き出した。
気がついたら、私はチーム室の扉の前に立っていた。
扉を開ける手が震える。
そんな震える手でドアノブに手をかける。
すると――――――
「バタン!」
扉が開いたしかし、私が開けのではない。チーム室の中から誰かが開けたのだ。
扉の前に立っていたものだから、私は弾き飛ばされ、一瞬宙に浮いた。
そして、数十センチ先の地面に尻もちをついて倒れた。
アルノ「いてて……」
幸い、怪我は扉にぶつかったおでこと、尻もちをついたお尻だけという軽いもので済んだ。
「す、すまない!だっ、大丈夫か!?……ってア、アルノ?」
アルノ「トっ、トレーナーさん!?」
一週間ぶりのトレーナーさんの顔。いきなりトレーナーさんに会うことになってしまった。
牧村「お、俺、ちょうどアルノのところに行こうと思ってて……ひょっとしてお前もか?」
アルノ「はい……トレーナーさんに謝ろうと思って…………色々勝手なこと言ってすみませんでした!」
私は、頭を下げ、深く謝罪した。
牧村「か、顔を上げてくれ!悪いのは全部俺なんだ!アルノがなかなかレースに勝てなくて……それで焦っててつい……菊花賞では絶対獲るってすごく意気込んでたから……でも、アルノが菊花賞出たくないなら、俺はアルノの気持ちを尊重したい。考えたんだ。アルノがいない間に、代わりに出走できそうな重賞を。次、アルゼンチン共和国杯なんかどうだ?2500mだし、アルノは長い距離に向いてると思うから……ダメだったら距離は短いけど、福島記念なんて選択肢もあるぞ。それに――――」
アルノ「トレーナーさん。こんなに考えてくれてありがとうございます……!……でも、私、休んでる間に色々考えたんです。トレーナーさんに言われた言葉が、思ったより心に刺さっちゃって。確かに、2人に負けっぱなしは嫌だ。私は、レースは大逃げですけど、もう2人からは逃げません!出ます、菊花賞!やらせてください。次こそ勝ちます!」
牧村「ほっ、本当か……??」
アルノ「はい。トレーニング休んでる間に、1日1回、街中で3000mマラソンしてきたんです。菊花賞は、3000mですから。下準備はOKです!」
牧村「アルノ……よーし!次こそ頑張ろう!!打倒2人!!一緒に菊花賞目指そうな!」
アルノ「はい!」
私の中で、曇った世界がぱあっと明るくなった気がした。
今なら、何をやっても出来る。そんな気がしていた。
そして、私は本当に2人に勝てるんじゃないかと思った。
---
アルノ「――――うおおおおおおっっ!!!」
牧村「ゴーール!アルノ、また自己ベスト更新だな。菊花賞のレコードタイムまで1秒差に迫ったぞ!」
ショート「ハァッ、ハァッ……長距離だとアルノには敵わないよ……強すぎ……」
ブリザード「2着のサンちゃんに5バ身差だもんね〜♪」
サン「す、すごすぎる……距離が長いほど、逃げの勢力が上がるって、どんな身体してるんでしょうか……??」
もう私は、長距離だったら先輩にでさえ圧勝してしまうほどに成長していた。
絶対勝つ。今度こそ。
いや、勝たなければいけないんだ。
〈レース当日・京都レース場〉
実況「さあ、やって参りました。クラシック三冠レース最終戦・菊花賞。圧倒的な1番人気は17番・ユニバースライト。41年ぶりの2年連続クラシック三冠ウマ娘の誕生が期待されております。前走の神戸新聞杯では3着。ですが、周りからの期待は厚いです。
続く2番人気です。14番・クリスタルビリー。前走の神戸新聞杯で重賞初勝利。こちらも期待がかかります。
続く3番人気です。18番・アルノオンリーワン。今年に入り、全て3着以内。こちらもGⅠ制覇に期待がかかります。
その他にセントライト記念を勝利した15番のバルカシエル。そして5番人気に同じくセントライト記念6着の5番・カナタサンセットがいますが、菊花賞は、注目の三強対決となります。―――――」
ユニバ(絶対に負けない………ママの代わりに、三冠ウマ娘に…………!!)
〈約10年前〉
幼い頃のユニバ「ママ~!今日もおみまいにきたよ~!」
ユニバの母「あらー。今日も来てくれたの?ママ、嬉しいな~!」
私のママは、ウマ娘だった。
現役時代も、レースでたくさんの勝利を挙げた。
そして、ママはクラシック二冠ウマ娘でもあった。
そんなママの夢は、クラシック三冠ウマ娘になることだった。
しかし、菊花賞トライアルの神戸新聞杯から、ママは調子を崩してしまい、神戸新聞杯も、菊花賞も3着に終わった。
その頃は、まだ私は生まれていなかった。全部ママやパパから聞いたことだ。
ママはあまり長くは走れず、現役を引退したのも早かった。
そして、ママは私を生んでわずか3年で、病気で寝込んでしまった。
私が物心ついたときから、ママは病院にいた。
私の記憶の中で、ママが我が家に帰ってきたことは一度もない。
---
ユニバ「わたしねぇ~、ママみたいなウマむすめになりたいんだ!そして、ママの代わりに“さんかんウマむすめ”になりたい!」
ママ「あら、ママの代わりに?じゃあ、私はずっとユニバのファンでいるからね。」
ユニバ「ほんと?やったーぁ!」
しかし、それが叶うことはなかった。
私が5歳になった時に、ママは死んだ。
病気は、治らなかった。
ユニバ「う………う”ぇ~~っっ……!!ママはどこにいったの~っっ!!ママにあいたいよ~~!」
幼くして母親を無くした私は、谷底に突き落とされたような絶望感に陥った。
「………大丈夫だ。きっと、ママはお空からユニバとパパを見守ってるよ。」
ユニバ「本当……?」
パパは、優しく微笑んで私にそう言った。
パパ「そうさ。きっと、もっと成長したユニバがレースに出て走っているところを、ママはしっかり見守っているさ。」
ユニバ「………わたし、ママの代わりになる!さんかんうまむすめになる!!」
それから、私の三冠ウマ娘に向けてのトレーニングは、幼い頃から始まった。
幸い、パパは昔とあるスポーツの指導者をしていたこともあって、トレーニングのサポートは、得意分野であった。
私は、死に物狂いで頑張った。
だから、ここまで来た。
皐月賞も勝った。日本ダービーも勝った。
神戸新聞杯は、負けちゃったけど、そのあとも猛特訓した。
全ては、|菊花賞《三冠目》の為に!!
私は、今ママと同じ場所に立っている。
あとは、ママを超えることが出来るかどうかだ。
アルノ(ついにこのときが来た。今度こそ二人には勝つ!同期の中で重賞を勝ってないのは私だけ。だから、|このレース《菊花賞》で決めて見せる!トレーナーさんも、プロミスちゃんも、お母さんも!みんなみんな私に期待してくれている!その為にも………)
実況「――――さあ各ウマ娘、続々とゲートへ入っていきます。―――最後に、18番・アルノオンリーワンがゲートに入り、体制が整いました。」
私は、ゲートに入る。
天候は雨。それに大外枠。
ついてない。でも、そんな不幸だって乗り越えてやるんだ。
皐月賞は回避。日本ダービーは降着。
十分な結果を出せていない。
だから菊花賞こそは、私が主役になるんだ。
二人を引き立てる脇役じゃなくて、二人と同じ舞台に!
「ガシャン!」
実況「スタートしました!おっと、アルノオンリーワン、好スタート!先頭からすでに7バ身のリードです。2番手は――――」
よし、完璧なスタート。ペース配分も完璧。
実況「―――後方集団、クリスタルビリーが先頭。三冠がかかるユニバースライトは集団よりやや後方の位置です。そして、アルノオンリーワンは……なんと言うことでしょう!2番手から大差で突き放しております!こんなに逃げて最後は持つのか!?そして、1000m通過タイムは………な、なんと従来の通過タイムを3秒更新しました!かなりのハイペースだ!」
もっと大胆に!
まだまだ体力はあるんだから。
クリス(離れすぎててアルノが見えない………なら、いっそ2番手でアルノの様子を伺えば!)
クリス「はあああっ!!」
実況「おっと、なんと内からクリスタルビリーが上がり、2番手に出ました。ユニバースライトはまだ後方に控えております。半分を切りました。アルノオンリーワンとの差は未だにその差は縮まりません。京都レース場はどよめきと歓声で包まれております。」
足音もなにも聞こえない。まるで、たった独りで走っているかのようだ。
やっぱり、走るのは楽しいな。
すっかり忘れていた。二人に勝つことだけを考えてしまい、走る楽しさなんて優先していなかった。
先頭で受ける風。冷たくて気持ちがいい。
実況「さあ、アルノオンリーワンが真っ先に第3コーナーをカーブし、第4コーナーへ!――そして、直線に入りました!!」
来た。待ちに待ったこの景色が。
まだ足音は聞こえない。
脚に、全ての力を溜め込んで――――
アルノ「うおおおおおおおおおっっっ!!!!」
実況「アルノオンリーワン先頭!まだ10バ身ほど差があります!しかし、ここでクリスタルビリーが追い詰める!………そして、来ました来ました!間からユニバースライト!三冠まであと10バ身だ!届くか、届くのか!?しかし未だにアルノオンリーワンが先頭だ!」
クリス(負けない………“あの人”に近づきたい!あの人に見てもらうんだ!)
クリス「はああああっっ!!」
ユニバ(ママが見ている前で、負けるわけにはいかない!)
ユニバ「やあああああっ!!」
実況「クリスタルビリー、ユニバースライト、先頭に一気に迫る!」
「タッ、タッ、タッ………」
聞こえた。足音が。
でも、もうそんなので怯まない。
三冠レース。それぞれのレースでは、勝つウマ娘のタイプが違う。
皐月賞は、最も速いウマ娘が。
日本ダービーは、最も運のあるウマ娘が。
そして菊花賞は、最も強いウマ娘が。
私は、脚も遅いし、肝心なときに雨だったり大外枠だったりと、運もない。
だけど、強いウマ娘――――それなら、私にだって当てはまる。
それに、昔から私はずっと強いウマ娘になりたかった。
大丈夫。あとはゴール板を越えるだけ。
それだけで、私は強いウマ娘だと証明される。
実況「残り200メートル!徐々に差は縮まっているが、中々追い着けません!もうアルノオンリーワンの勝利は確定か!?」
ユニバ(どうして!?こんなに一生懸命なのに………クリスちゃんも交わせない…)
クリス(―――まだだ!!ゴール板を通過するまでは勝利は決まらない!勝つのはあたしだ。神戸新聞杯でも勝った!あたしの|番《ターン》が来たんだ!負けてたまるか!!)
クリス「はああああああっっ!!負けるかぁぁーーっっ!!」
まだ、体力はある。最後まで、全力を出しきるんだ。
ラストスパート。加速力には自信がないが、今の私には、できるような気がした。
アルノ「うおおおおおおっっ!!!!!」
実況「残り100メートル!クリスタルビリー猛追!しかし、さらにアルノオンリーワンはラストスパートをかける!!」
ユニバ(……どうして、どうして………こんなに速く走っているつもりなのに……追い付けない…悔しいよ。)
実況「ユニバースライト、3番手のまま届かない!三冠の夢は散ってしまった!先頭は、逃げる!アルノオンリーワン!アルノオンリーワン!オンリーワンです!……まさに底無しの体力ーっ!!……2番手は、クリスタルビリー。そして3番手は、ユニバースライト。三冠の夢は叶いませんでした。」
ふと、我に返る。周りの景色を見渡す。スタンドから響き渡る歓声。スタンド前の掲示板を見ると、1着の欄には「18」と点滅していた。
私の番号だ。2着との着差は9バ身――――
タイムは3分00秒01―――その横に「レコード」と書かれていた。
そして、パッと右上に「確定」の赤い文字が光った。
さらに歓声は大きくなる。
実況「アルノオンリーワン、なんとレコードを0.9秒更新!それと同時に、URAの菊花賞最大着差、さらにURAのGⅠレース最大着差タイでもあります!!本日、新たな歴史が刻まれました!」
歓声が、とめどなく溢れてくる。
みんなが、私を祝福してくれた。涙が、ツーっとこぼれ落ちる。
私は、両手で思い切りガッツポーズをした。
人生で一番忘れられない日になった。
クリス「―――あーあ……また、越せなかったなぁ………」
ユニバ「……ごめんなさい………ママ。」
---
牧村「アルノ!よく頑張った!おめでとう!とっても嬉しい。ああ、俺も涙が出て来そうだ……」
アルノ「私も、すっごく嬉しいです!ここまで来れたのも、全部トレーナーさんのお陰です。私を強くしてくれて、ありがとうございました!」
牧村「おいおい。引退レースで言うようなセリフを言いやがって。まだまだこれからだ。ここからが、本当のアルノオンリーワンの幕開けなんだから。」
アルノ「……そうですね。トレーナーさん、これからも、お世話になります!」
すると、どこからか甲高い拍手が聞こえてきた。そして、その拍手の音は段々大きくなっていく。
「ブラボーだったよ!アルノ君。」
その人は、会ったこともないような知らない人だった。
黄色い耳カバー。お団子結びのツインテール。私と同じような色の栗毛に頭頂部から流れる流星。
右耳には赤い星の飾りをつけ、トレセン学園の制服を着ている。
堂々として、威厳のある立ち振舞いだった。
どうして、私の名前を………??
「君のレースは、ずっと拝見させてもらったよ。やっぱり僕の目に狂いは無かった!GⅠ初勝利、おめでとう!」
アルノ「す、すみません。誰ですか………?」
牧村「ああーーっ!!き、君は!去年の三冠ウマ娘・ヘキサグラムスター!!」
アルノ「えっ………ああ!!」
ヘキサグラムスターさん―――今一番勢いを増しているチームの先輩・サンエレクトさんでさえ春の天皇賞で歯が立たなかったすごいウマ娘。
でも、そんな人がどうして………
ヘキサ「青葉賞のときから、君には惹かれた!君の大逃げはすごい才能だ!僕は君のことが気に入った。いつか、一緒に戦おうじゃないか。そのときも、素晴らしい大逃げを頼むよ。アルノ君。」
そして、ヘキサさんには私の肩をポン、と叩いたあと、くるりと後ろを向き、甲高い笑い声を発しながら、どこかに消えていった。
私は、状況がすぐに飲み込めず、しばらく立ち尽くしていた。
牧村「……お、お前、三冠ウマ娘に気に入られたようだな………」
簡潔にまとまったトレーナーさんの一言で、私は、状況を全て理解した。そして、とても驚いた。
アルノ「えっ………ええーーーっっっ!!!」
---
ユニバ「……パパ、ごめんなさい。あんなに協力してくれたのに……私、なれなかった。」
パパ「いいんだ。さっきのレース見て、パパは昔を思い出したよ。ママが走った菊花賞と重ねて見てた。ママもきっと喜んでいるさ。これからまた頑張ればいい。――――ユニバ。君はまだ、終わっていない。」
ユニバ「うっ…………うわああああーーっっ!!わあああーーん!わああーっ!!!」
---
司会「それでは、京都11R・菊花賞のウイニングライブです!」
かっこいいギターのロックな感じのイントロが流れる。
♪光の速さで駆け抜ける衝動は
何を犠牲にしても叶えたい強さの覚悟
♪(no fear)一度きりの
(trust you)この瞬間に
賭けてみろ 自分を信じて
♪時には運だって必要と言うのなら
宿命の旋律も引き寄せてみせよう
♪走れ今を まだ終われない
辿り着きたい
場所があるから その先へと進め
涙さえも強く胸に抱きしめ
そこから始まるストーリー
果てしなく続く
winning the soul
♪掴め今を 変えたいなら
描いた夢を未来に掲げ
恐れないで挑め
♪走れ今を まだ終われない
辿り着きたい場所があるから
その先へと進め
涙さえも強く胸に抱きしめ
そこから始まるストーリー
果てしなく続く
winning the soul
♪woh woh woh
「わああああああ!!!」
こうして、私の二人へのリベンジは、幕を閉じた。
でも、まだまだ私はこれからだ。
再び二人と戦うことになっても、勝ってみせる。
私は―――――――
強いウマ娘だから!
第2章『憧れのレース』第1部 完
-Next to 11R
今回は長すぎてしまったので、キャラ紹介はお休みです。
作中に出てきたウイニングライブ曲の題名
『winnig the soul』
(かっこいい曲なので是非聴いてみて下さい!)
ウマ娘~オンリーワン~ 11R
「――――間から、6番・アスターウールー!アスターウールーです!強い強い!無傷の3連しょーう!」
「わああああ!!!」
「強い強い!見事、ジュニア級マイル女王の座に輝きました!」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ………」
あと少しだったのに、あと少しだったのに………
でも、諦めない。
いつか、|GⅠ《トップ》の|舞台《ステージ》で、|1着《センター》になる、その日まで―――――
第2章『憧れのレース編』第2部
---
11R「諦めない」
マロン「えぇ、“くいーんかっぷ”ぅ?」
あたし―――マロンホワイトはそう言う。
「そう!“クイーンカップ”!」
あたしのトレーナーさんは、そう言った。
名前は、|桂小雪《かつらこゆき》。ポニーテールに明るめの茶髪をセンター分けした頼れるトレーナーさん♪なんだけど………いつも上か下、または上下いつもジャージを着ていて、ジャージじゃないトレーナーさんを見たことがないくらいジャージオンリー。ファッションや流行にも疎い。
でも、そんなトレーナーさんも、とってもかわいい♪
桂「距離は、1600。東京レース場。優勝して、阪神レース場に行くわよ!」
マロン「はーい!」
阪神レース場―――桜花賞が開催されるレース場だ。
前走の阪神ジュベナイルフィリーズも、あたしは|阪神レース場《ここ》で走った。
リベンジが出来る。あたしは、勝ってアスターさんにリベンジを果たすんだ。
---
実況「――――――1番人気、1番・ダンシングソングは伸びないか!マロンホワイトだ!マロンホワイトだ!勝ったのは、2番人気・マロンホワイト!圧倒的1番人気・ダンシングソングを抑え、堂々勝利です!!」
マロン「やったー♪」
2番人気だけど、なんとか勝つことができた。
次は、桜花賞だ。
---
司会「それでは、東京11レース・ウイニングライブでーす!」
♪響けファンファーレ
♪届けゴールまで
センターとして歌えることは、もちろん嬉しいし、ありがたいと思わなければいけない。
でも、やっぱりなんだか物足りない。
もっと、もっと……………
アスター「――――夢のゲート開いてー♪――――」
あの、GⅠの大舞台で、
|端っこ《2着》じゃなくて、|センター《1着》で―――――
あたしは、もっと輝きたい―――!!
〈桜花賞・当日〉
桂「マロン、いよいよだね。あー、あたしも緊張するなー。」
マロン「任せてください!マロンちゃん、絶対1着とって見せますから!」
桂「よし!頼んだよ!」
トレーナーさんは、あたしの肩をポン、と叩く。
マロン「行ってきます!」
私は、控え室のドアを開けた。
---
実況「さあ、やって参りました。ティアラ三冠路線の1戦目・桜花賞。1番人気は、16番・マロンホワイト。6戦3勝2着2回。期待できるウマ娘です。前走のクイーンカップで重賞初制覇を成し遂げました。
2番人気は、4番・アスターウールー。4戦4勝。未だに無敗です。前走の桜花賞トライアル・チューリップ賞を1番人気に答えて勝利しました。
そして3番人気は、8番・ラウンズレイナ。前走はエルフィンステークス1着。
その他には前走のクイーンカップでマロンホワイトに敗北し、リベンジに燃えているダンシングソングなどがいます。」
正直、アスターさんだったりとこれだけの実力者を抑えて1番人気なのは、とても嬉しい。
だから、勝たなくちゃいけない。
私の勝負服は、タートルネックのクリーム色の長袖ワンピース。その上から緑のセーターを着て、首にはピンクのリボンを着けたようなかわいい勝負服だ。
いつもジャージオンリーでファッションセンス0のトレーナーさんが、最近のファッション雑誌をたくさん読み漁り、頑張って考えてくれたのだ。
だから、かわいくないはずがない!
アスターさんは、全身真っ黒のスーツみたいな勝負服を着ていた。
ネクタイを通す部分は、ピンクのリボン。
下は裾の広いズボン。
いかにも強そうだ。
だけど、負けない!
---
実況「さあ、各ウマ娘ゲートに入っていきます。――――体制が整いました。桜の女王はいったい誰なのか。桜花賞―――」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!揃ったスタートです――――」
マイルは1600m。コースは、1周もない――――
でも、大丈夫。あたしが得意なのはマイルだ。マイルで負けたのはあのアスターさんに負けた阪神ジュベナイルフィリーズだけ。
芙蓉ステークスも、“勝つことは不可能”だと言われていた相手に勝った。
クイーンカップも圧倒的1番人気の相手に勝てた。
あたしは、きっと証明して見せる。
マイルで強いのは、アスターさんじゃなくて、
|あたし《マロンホワイト》なんだと―――――
---
「君には無理だよ。クラシックなんて勝てるわけがない。」
「アルテミスステークスも、チューリップ賞も、阪神ジュベナイルフィリーズも、きっと勝ったのは偶然なんだよ。」
「いくら無敗でも、あなたには|クラシック《桜花賞》なんて無謀だわ。この世には|壁《強者》というものがあるのだから―――――」
負けない。今まで私をバカにしてきた人たちを、見返して見せる。
壁なんて、越えればいいだけ。
私は、十分壁を越せる能力がある。
壁なんて、越えるためにあるのだから―――――
---
実況「―――さあ、第4コーナーを曲がり、最後の直線へ!さあ、誰が行くのか。」
よし、今だ!
マロン「やああああああっっ!!」
実況「早くもマロンホワイトが抜け出した!歓声が沸き起こります!」
よし、先頭。そして、ゴールが見えた。
あとは全力を出しきるだけ!
――――しかし、
実況「おっと、内からアスターウールー、内からアスターウールー!なんという末脚!漆黒の女王が芦毛のマロンホワイトに襲いかかります!」
足音が聞こえる。アスターさんだ。
そして、あたしはいとも簡単にアスターさんに差されてしまった…………
目の前は真っ黒の髪をなびかせた真っ黒な背中。
また、届かなかった…………
実況「アスターウールー、マロンホワイトを抜かし、今1着でゴールしました!やはり強かった!漆黒のジュニア級女王は、漆黒の桜の女王に!2着は、マロンホワイト。またしても敗れました――――」
マロン「ハア、ハア、ハア…………」
届かなかった。いや、最初から無理だったんだ。
たとえどう頑張っても、どうあがいても、1番人気でも、
あたしは、|天才女王《アスターウールー》には勝てないんだ―――――
---
司会「それでは、阪神レース場・11Rのウイニングライブでーす!」
♪day by day 憧れて
step by step 積み重ね
君とつむぐ未来
one by one 乗り越えて
by and by 手繰り寄せた
たった一度の|舞台《ステージ》
♪舞い散る花びらを従えて
いま羽ばたこう
時空飛んで 次元も超えて
|天《そら》が堕ちてく fragrance
神さま 惑わせたい
このまま
離さない
ゆずれない
渡さない
♪ドキドキってもっと phantasia
手を伸ばし つかもう
きゅんとぎゅっと鼓動が
こんなに苦しい
ねえ やった逢えたこの|瞬間《とき》
素直に ありがとう
ずっとずっと待っていた
わたしは flowering phantasia
♪いいよね このまま
世界中 敵に回っても
いいよね いいよね いいよね このまま
離さない ゆずれない 逃がさない 渡さない
♪ドキドキってもっと phantasia
手を伸ばし つかもう
きゅんとぎゅっと鼓動が こんなに苦しい
ねえ やった逢えたこの|瞬間《とき》
素直に ありがとう
ずっとずっと待っていた
わたしは flowering phantasia
ありがとう
「わああああ!!」
また2着だ。悔しい。
あと少しなのに。
それでも、あたしは諦めない。
いつか、|1着《センター》で、みんなの大歓声を受けるその日まで―――――
-To next 12R-
~キャラ紹介09~
グッドラックナイト(Good Luck Knight)
誕生日…6月24日
身長…145cm
体重…増減なし
スリーサイズ…B76W53H86
とても小柄なウマ娘。夢は世界一のウマ娘になること。自信家で堂々とした態度は、まるで世界を見据えているかのよう。アスカウイングは同じような道を行く仲間であり、ライバル。ちなみに、とても少食。趣味はサッカー観戦。
一人称・あたし/グッド
所属寮・美浦寮
毛色・鹿毛
イメージカラー・赤
作中に出てきたウイニングライブ曲……『彩Phantasia』(華やかな曲なので是非聴いてみてください!)
ウマ娘~オンリーワン~ 12R
12R「プレゼント」
「―――1、2、3………」
トレーニングルームで、アタシ―――ガーネットクインはバーベル上げをする。
つい最近、オークス出走が決まった。
今年は1勝クラスを勝ち上がり、なんとか重賞勝ちも出来た。
だが、桜花賞は距離が合わなかったのと実力不足なこともあり、断念した。
だが、なんとかオークスの出走は叶った。
まずは|ここ《オークス》で実力を試す――――
---
「タッ、タッ、タッ、タッ…………」
私――――アスターウールーはトレーニングをしていた。
2400m――――私にとって未知の領域だ。
でも、壁を越えられた私になら、きっと――――!
〈オークス当日・東京レース場〉
実況「――――さあ、各ウマ娘、続々とゲート入りが進んでおります。やはり、注目は1番人気・11番のアスターウールー。ティアラ二冠制覇が期待されています。その他には、2番人気・6番のマロンホワイト。デビュー以来3着以内をキープしております。そして、三番人気は、9番のラウンズレイナ。桜花賞は3着です。」
いよいよ、今日はオークス。
ティアラ三冠路線に挑むウマ娘の中の世代最強を決める一戦だ。
このレースには、アスターさんもガーネットさんも出走する。
二人が強いことはもちろん分かっている。
アスターさんは、マイルの壁を越えるかもしれない。
ガーネットさんは対戦したことがないから、あたしにとっては未知の存在だ。
だけど、あたしだって負けたくはない――――――
実況「――――最後に、18番・ナチュラリーゼが入り…………さあ、体制が整いました。樫の女王は誰の手に。オークス――――」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!まずは先行争い。大外、ナチュラリーゼが制しました。アスターウールーは最後方から2番手。人気のマロンホワイトは集団のやや後方といった形をとりました。その後ろには桜花賞3着、ラウンズレイナ。そしてその後ろにはアスターウールーといった形で、1000m通過――――」
長い。そして、みんなが一生懸命に走っている。
これが、オークス―――――
ガーネット(――――どうしてだ!アタシは、重賞だって勝ったのに、10番人気……でも、勝ってやる!勝ってアタシの真の実力を知らしめてやるんだ!)
アスター(スタートも、位置取りも、ペースも全て完璧。|2400m《オークス》だからって心配することはなかったわ。後は、直線で力を出しきるだけ…………!)
実況「さあ、第4コーナーをカーブし、直線へ!!先頭は未だに18番・ナチュラリーゼ!――――おっと!2番・ガーネットクインが間から割って早くも仕掛ける!ナチュラリーゼ粘るか!ガーネットクイン差すか!」
ガーネットさん―――――よし、あたしだって負けてられない!!
マロン「はああああっっ!!」
実況「来ました!後方からマロンホワイトです!徐々に先頭に差を詰めていく!アスターウールーはどうか、まだ後方か!?」
アスター(よし、ここだ。ここから、一気に!)
アスター「やああああああっっ!!」
実況「アスターウールー、ここで動き出した!先頭はまだ粘る、ナチュラリーゼ!しかし、ここでガーネットクインが交わした!先頭だ!!」
ガーネット(よし、見えた!先頭の景色!よし、このまま――――)
実況「――――おっと、なんと外から7番・マッシュリターンが上がってきた!マッシュリターン!一気にガーネットクインに迫る!伏兵同士の争い!ラウンズレイナも上がってくる!アスターウールーは―――伸びない!集団の中に沈んでいきました!」
アスターさんが、来ない――――
目の前には、ガーネットさんがいる。
なのに、届かない。追いつけない。
やっと、やっと、アスターさんに勝てたと思ったのに―――――
実況「先頭は、変わってマッシュリターン!ゴォーール!!条件戦、オープン戦、そしてオークスで三連勝を果たしましたーっ!!そして2着はガーネットクイン。3着は、マロンホワイトか――――」
マロン「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ…………」
やっと、やっとアスターさんを越えられたと思ったのに………
今度は、今度は、ガーネットさんに勝てなかった。
アスター(―――どうして……?いつもと同じ脚が出せなかった………こんなに、全力を出したのに………どうして………??)
ガーネット(あと一歩だったのに………だが、まだオークスだ。次は、絶対に《《負けられない》》んだ……!!)
桜花賞は2着、オークスは3着………
目の前に見えているのに、なかなか掴めない。
それが、あたしには余計に悔しい。
---
桂「マロン!お疲れ様。3着なんて、大健闘じゃーん!」
マロン「ええっ、でも、3着ですよ?」
桂「3着でもすごい!また、次頑張ろう!」
トレーナーさんは、いつものように明るく話しかけてくれる。
それが、余計に申し訳なかった。
トレーナーさんだって、きっとあたしが勝つことを期待していたのだろう。
なのに、あたしは負けてしまった。
トレーナーさんだってきっと悲しいだろう。
マロン「……あの………悲しくないんですか?」
桂「……え?何で?」
トレーナーさんはいつものようにニコニコ顔で答える。
マロン「だって、あたし負けちゃったからトレーナーさん、悲しいんじゃないかな……って。あたしのせいでトレーナーさんの期待を裏切っちゃったかもって………」
そう言う内に目の奥が熱くなり、次第に涙が溢れてきた。
桂「………そんなことないよ。あたしはマロンのこと、何があっても信じるって決めたから。」
トレーナーさんは、変わらず優しい口調で話す。
桂「マロンはね、あたしにとって大切な存在なの。昔……今もそうだけど、あたしはまだまだ新人トレーナーで、あたしの担当してきたウマ娘はみんな重賞を勝てなかった。もちろん、あたしの実力不足だと思っていたし、逆にもっと良いトレーナーさんに巡り会えていたら、重賞を勝てたウマ娘もいたんじゃないかって思って、申し訳なかった。でも、マロンは違う。あたしが何もしなくても、マロンはあたしに“重賞初勝利”をプレゼントしてくれた。とっても嬉しかった。正直、ここまで来れたのも、あたしの力じゃない。マロン自身の才能だと思う。もう、これ以上いらない。マロンは、もうあたしに、誰にも叶えさせてあげられなかった重賞初勝利を叶えてくれた。もう、それだけで十分だよ………!!」
そう優しく語りかけてくれたトレーナーさんの目も、潤んでいるようだった。
あたしは、目からはさらに涙が溢れてきた。
マロン「う………うわああああ~~ん!!」
残すは秋華賞。あと一冠しかない。
でも、絶対に勝って見せるんだ。
あたしには、夢が二つある。
一つは、GⅠを勝って、ウイニングライブのセンターに立つこと。
もう一つは、今出来た。
GⅠを勝って、トレーナーさんにGⅠ初勝利をプレゼントする。
あたしを支えてくれたトレーナーさんを、もっと幸せにしてあげたい。
次こそ勝って、あたし―――そしてトレーナーさんの夢を叶えて見せるんだ!
-To next 13R-
ウマ娘〜オンリーワン〜 13R
13R「一番大切なこと」
夏休み。あたし――――マロンホワイトは実家に帰っていた。
実家は北海道の都市の外れにある。
飛行機に乗り、電車を乗り継ぎ、やっと着いた。
実家は結構な田舎で、家の回りには田園風景が広がっている。
冬には、ここが辺り一面雪で覆われる。
実家に着き、チャイムを鳴らす。
「ピンポーン」
すぐに「はーい」という声が聞こえ、扉が開く。
「わあ~、マロン久しぶり!よく帰って来たね~っ!」
マロン「お母さん!久しぶり!」
母に出迎えられ、すぐにリビングに通された。
居間には、お姉ちゃんがスマホをいじっていたが、あたしに気づいたらしく、すぐ手を止めてこちらを向いた。
マロン「お姉ちゃん!久しぶり!帰ってたの?」
「おー、マロン久しぶり。なんとか今年は休みをもらえてね。……って言っても、レースがあるからすぐ帰らなきゃいけないんだけど……」
そう、お姉ちゃんはあたしと同じウマ娘。
あたしと同じ芦毛でツインテールの髪型をした、強くて自慢のあたしの大好きなお姉ちゃんだ。
お姉ちゃんは、|地方レース《ローカルシリーズ》で活躍しており、重賞も何勝かしている。
姉「……うーん………フォロワーまだ10万だ………全然足りないなー……」
10万でも、あたしにとってはすごいと思うけど………
マロン「お姉ちゃん、またウマスタグラム?」
姉「そ。すごい写真をアップしたのに、一向にフォロワー増えないなー。そうだ、マロンに見せてあげるよ。きっとマロンも驚くよ~」
そういって、お姉ちゃんはあたしにスマホを向けて、とある写真を見せた。
マロン「えっっ!?なっ、なんで??」
その写真は、あの有名なとあるウマスタグラマー兼ウマ娘である人と、お姉ちゃんが写っている写真だった。
笑顔がとても素敵で、可憐で可愛らしい。
あたしとお姉ちゃんはその人の大ファンである。
お姉ちゃんもウマスタグラマーで、あの人レベルのウマスタグラマーになろうと日々奮闘しているのだ。
姉「ふっふーん、すごいでしょ?あの人の引退式を見に京都まで駆けつけたら、運良く一緒に写真撮れたんだー。でも、やっぱ近くで見ても可愛いなー!」
マロン「お姉ちゃん、いつの間に……いいな~!もっと早く教えてくれればよかったのにーっ!」
姉「だって、こういうのはサプライズのほうがいいじゃん。」
マロン「まあ、そうだけどねー……」
実家での滞在期間は、2週間。
ちなみに、お姉ちゃんは次の日には帰ってしまった。
そして、帰り際に「よかったら私のレース見てよ。」と言われた。
レースの日は、ちょうどあたしが東京に帰る日だ。
レースは夜。本当は、その日に帰る予定だったのだが、あまりにも遅いため、あたしはもう一泊することにした。
トレーニングが始まるのはまだ先なので影響はない。
そして、あっという間に一週間、二週間と過ぎ、お姉ちゃんが走るレースの日がやって来た。
〈レース当日〉
母「じゃあね、気をつけてね。お姉ちゃんによろしくね。」
マロン「はーい♪行ってきます!」
昼過ぎ。あたしはレース場に行くため、実家を出発した。
目指すは南東。あたしは近くの駅へと急いだ。
---
どれほどの時間がたったのだろうか。
やっと、あたしはレース場に着いた。
電車に乗り、バスに乗り換え、何十分もかけて移動した。
北海道は広い。だから、ちょっとの移動でも一苦労なのだ。
時刻はまだ夕方。あたしは、売店で食べ物を買って暇を潰すことにした。
時間が過ぎていく。しだいに空の色も夕焼けから暗闇に変わっていく。
夏の北海道の夜は、|東京《あっち》に比べて少し寒い。
あたしは、半袖のワンピースで出掛けたが、やはり持って来て良かった。持参したカーデガンを羽織る。
しかし、一向にお姉ちゃんの出走するレースはやってこない。
その間、あたしはたくさんのことを思い返していた。
このレース場は、昔から家族みんなでよく行っていた。
確か、お姉ちゃんと「2人でウイニングライブのセンターに立てるようなウマ娘になろう」と約束したのも、このときだっけ。
でも、お姉ちゃんはあっという間に地方レースで実績を出すウマ娘になっていて、あっという間に重賞もたくさん勝てるようになっていた。
でも、あたしは「GIレースのウイニングライブでセンターになる」という目標を言っているだけで、全然達成できてない。
周りの同期のみんなも、GIを勝っている子はたくさんいるのに………
そんなことを思っていると、場内アナウンスが流れた。
アナウンス「―――まもなく、11Rの発走です。」
あたしは、ハッと我に返りスタンドの方を見つめる。
ゲート近くには、出走ウマ娘全員が集まり、ゲートに一人ずつ入っていく。
そして、お姉ちゃんの姿を見つけた。
お姉ちゃんは、係員に誘導され、ゲートに入っていく。
マロン(頑張れ……お姉ちゃん……!!)
あたしは、心の中で応援した。
実況「さあ、体制が整いました。北のダート女王決定戦―――」
「ガシャン!」
実況「今、スタートしました!」
スタートと同時に、歓声が沸き上がる。あたしも、負けずにお姉ちゃんを応援する。
茶髪、黒髪のウマ娘がみんな走る中、一人だけ全く違う銀髪の髪をなびかせ、懸命にお姉ちゃんは走っていた。
そして、あっという間に第4コーナーが来てしまった。
実況「さあ、各ウマ娘第4コーナーへと差し掛かりました!」
歓声がより一層大きくなる。どちらかと言えば田舎の北海道とは思えないような大歓声。
熱かった。肌寒い真夏の北海道の夜を、一気にひっくり返してしまうほどだった。
あたしも、負けじと声援を送った。
共に同じ目標をもち、共に頑張った、
大好きな、姉に―――――
マロン「―――がんばれぇーーっっ!!おねえちゃーーーんっっ!!!」
あたしの声が届いたのか分からないが、お姉ちゃんはそれに応えるように一気に中団から3番手まであがってきた。
先頭まで、あと少し。
あたしは、さらに声援を送った。
2番手との距離がじわじわと縮まる。
あと少し、あと少しだ。
届け、届け、届け!!!
――――しかし、
実況「――――届かない、届かない!先頭は――――」
あっという間だった。
お姉ちゃんは、3着だった。
そんな……そんな――――
---
姉「マロン、今日は来てくれてありがとねっ♪」
ウイニングライブの後、お姉ちゃんの控室に来たあたしに、お姉ちゃんはそう言った。
マロン「3着……惜しかったね。あたしは、勝てると思ったんだけどな〜!」
お姉ちゃんを悲しませたくなかった。
姉「まあ、これが現実だよ……|中央〈トゥインクルシリーズ〉のウマ娘には全く歯が立たない。」
マロン「……ああ、お姉ちゃんのセンター、見たかったなあ……」
あたしは、独り言のようにそうつぶやいた。
姉「―――センターに立つことだけが、良いって訳じゃないよ。」
お姉ちゃんは、そう言った。
お姉ちゃんの意外な反応に、あたしは目を見開いた。
マロン「……えっ?」
姉「ウイニングライブの本当の目的は、応援してくれたみんなに、感謝を伝えること。決してセンターに立って目立ったり、アピールするためのライブじゃない。たとえ、勝っても負けても、ちゃんとウイニングライブで応援してくれたみんなに感謝を伝えることが出来なきゃ、一人前のウマ娘とは言えない。マロン、あんたはウイニングライブでセンターになるってずっといってたけど、本来の目的、忘れてない?」
お姉ちゃんのその言葉に、あたしは今までの行いを思い返した。
そう言えば、あたしはウイニングライブでセンターになることばかり考えていた。
本来の目的を知らなかったわけではないが、すっかり忘れてしまっていた。
そっか、あたしはまだまだ半人前のウマ娘。
|一人前のウマ娘《おねえちゃん》には、まだまだ追いつけないのかな……
マロン「お姉ちゃん。ありがとう。あたし、目が覚めた。今度こそ、あたしGI勝つよ。次は一人前のウマ娘として。もしあたしがGI勝ったら、お姉ちゃん、みんなにあたしのこと自慢していいよ!それじゃあ、元気でね!」
そう言って、あたしは控室を出た。
なんだか、心に余裕が出来た感じがした。
姉「―――もうマロンは、私にとって自慢の妹なんだけどなぁ……」
---
実況「―――抜け出した、抜け出した!8番・マロンホワイト!先頭のまま、ゴールしましたーっ!一番人気に応え、見事ローズステークスを勝利!秋華賞への視界は良好です!!」
お姉ちゃん、見てる?
あたし、また勝てたよ。
GIIIも勝った、GIIも勝った。
後は、GIを勝つだけ!
待ってて、アスター《《ちゃん》》。
あたし、勝ってみせる。
〈ある日〉
マロン「ふっふふ〜ん……」
あたしは、トレセン学園の廊下を歩いていた。すると、廊下の端で二人組の生徒がお喋りをしていた。
構わず、通り過ぎようとすると――――
「―――ねぇ、アスターウールーさんって知ってる?」
アスターちゃん……??
あたしは、歩く歩幅を緩めて、聞き耳を立てた。
「―――ああ、知ってる!あの強い子でしょ?この前のオークス、駄目だったけど……」
「そう。そのアスターウールーさんね……秋華賞出走しないんだって。」
「……えっ!?本当??あんなに強いのに……」
「うちのトレーナーがアスターウールーさんのトレーナーさんと知り合いなんだけど、『そう言ってた』って――――」
あたしは、歩幅を再び速めた。
聞きたくなかった。好奇心に負けて聞いてしまったあたしが悪いのだが。
嘘だ、絶対嘘だ。
嘘だよね。
アスターちゃん――――
-To next 14R-
ウマ娘〜オンリーワン〜 14R
14R「たくさんの涙の上にあたしは」
マロン「―――いただきます……」
手を合わせ、箸を取ってハンバーグ定食を頬張る。
しかし、味はしない。
あのときから、あたしはずっとアスターちゃんのことばかり考えていた。
授業も上の空だった。
アスターちゃんのことばかり見つめていた。
どうして………?
何でアスターちゃんは秋華賞に出走しないの……??
考えれば考えるほど、ハンバーグの味は消えていく。
―――すると、
「―――前、いい?」
あたしは、顔を見上げる。黒髪のショートヘアー―――アスターちゃんだ。
あたしは口の中のハンバーグを、一気に飲み込んだ。
マロン「……あっ、うんいいよ……!」
アスター「……どうも。」
そう言いながら控えめなお辞儀をしたアスターちゃんは、あたしの目の前の席に座り、黙ったまま鯖の味噌煮定食を食べる。
幸か不幸か、タイミングが良いのか悪いのか………
このままモヤモヤするのも嫌だったので、あたしは思いきって聞くことにする。
マロン「……あのぅ、アスターちゃん。一つ聞いても良い?」
アスター「……何?」
アスターちゃんは、あたしに見向きもせず、鯖の味噌煮を食べながらそう話す。
マロン「あの、アスターちゃんって、秋華賞出走しないの?」
アスター「……そうだけど。」
再び、あたしは地の底に叩きつけられたような感じがした。
信じたくなかった。でも、本人が言うなら信じるしかない。
マロン「……何で、出走しないの?」
アスター「出走しようがしないが勝手でしょ。」
アスターちゃんに、勢い良く突き返される。
でも、あたしはそれでも怯まない。その理由を知りたかった。
マロン「ご、ごめん。でも、もし言えたら、教えて欲しいなー………」
恐る恐る、そう言ってみる。
ハァ、とアスターちゃんは軽くため息をこぼし、渋々とあたしに話しはじめた。
アスター「……新しい目標が出来たの。中距離でも最強になるって。」
マロン「……中距離?」
アスター「私は、正直マイルだけ最強になれればいいと思っていた。……だけど、オークスで負けたことが思ったよりも悔しかった。だから、決めたの。マイルはもちろん、中距離でも最強になって見せるって。そして、シニア級のウマ娘たちと勝負して、さらにそこで最強を示したい。だから、私は秋華賞に出走しない。」
マロン「……そうだったんだ…」
やっぱり、アスターちゃんはすごいな。
いつもあたしの数歩先を走っている。
もう、アスターちゃんには追い付けないのかな。
だって、まるで|格《せかい》が違うから………
アスター「……次走は、毎日王冠。そして目指すは秋の天皇賞。どこで走っても、私は最強になってみせる。」
そんなアスターちゃんの言葉には、覚悟も感じられた。
アスター「……ごちそうさま。」
いつの間に食べ終わったのか、アスターちゃんは手を合わせ、席を立つ。
あたしにくるりと背を向け、立ち去ろうとする。
すると、その去り際―――――
アスター「………この間のローズステークス、凄かった。秋華賞、頑張って。」
そう言い残し、アスターさんはあたしの前から姿を消した。
アスターちゃんが、あたしのレースを………
あたしは、嬉しすぎてたまらなかった。
あたしは、3分の2ほど残ったハンバーグ定食を再び食べはじめる。
ハンバーグ定食は、すっかり冷めきっていたが、今のあたしには、しっかりとデミグラスソースに肉汁がしみ込んだ美味しい味を感じた。
---
「《―――今週末は、秋華賞。桜花賞ウマ娘のアスターウールーはまさかの天皇賞(秋)へ。本命不在の中、制するのはどのウマ娘なのか。注目は、秋華賞トライアルのローズステークスの勝者・マロンホワイト。桜花賞では2着、オークスでは3着。3度目の正直となるか。そして、オークスを人気薄ながら勝利した伏兵・マッシュリターンも人気の1人です。その他には、桜花賞3着の、ラウンズレイナ、そしてクイーンステークスでシニア級ウマ娘を相手に見事勝利した期待の新星・アヴァンティも注目です。待ちきれないですね!続いては……》」
「ブチッ」
リモコンのボタンを押し、テレビの電源を消す。
アタシは何をやっても注目されないのだろうか。
重賞であるフラワーカップを勝ってもオークスでは10番人気。
そのオークスで頑張って2着に食い込み、その後に秋華賞トライアル・|紫苑《しおん》ステークスでは、1番人気で1着になれた。
なのに、なのに、アタシは注目もされてない……??
勝たなきゃいけないレースなのに、調子も万全なのに………
このままじゃ、お袋も不安になっちまう……
昔から、アタシの家系はとあるレースになかなか勝てなかった。
そう、それが秋華賞だ。
アタシのお袋は2着。祖母は3着。
秋華賞の前に、みんな敗れてきた。
だから、アタシで終わらせるんだ。
一族の無念は、アタシが晴らして見せる……!!
……なのに、こんなんじゃ駄目だ。
アタシを応援してくれているお袋を不安な気持ちにさせたくない。
だから、トライアルも勝って、秋華賞では期待の1番人気――――になりたかった。
だが、思わぬ刺客がいた。
同期のマロンホワイト。
かなり手強い。アタシと同じく重賞2勝。
しかし、GIでは全て2着か3着。
ましてやデビュー以来ずっと3着以内だ。
かなり手強くなる。
だが、心配しないでくれ。お袋。
絶対、勝ってみせるから。
---
「タッタッタ………」
桂「ゴール!順調だね、マロン。」
走り終えたあたしは、トレーナーさんの元に駆け寄る。
マロン「はい!アスターちゃんもいないし、こんなチャンスないと思うから、秋華賞はマロンちゃんにとってチャンスだと思うんで!」
桂「あのメンバーの中で1番実力があるのは、マロン。あなたよ。マロンならきっと大丈夫!あたしも最後まで精一杯サポートするわ!」
マロン「はい!えへへ〜心強いな〜♪」
桂「……あ、そうだ!確か、枠順発表が今日だったのよ。今から、見ない?」
マロン「はい!」
桂「オッケー!……えーと、そうだ。確かタブレットトレーナー室に置きっぱなしなんだよなー……そうだ、一緒に行く?」
マロン「はい!」
---
桂「ここ、ここ!」
あたしたちはトレーナー室の前まで来た。
トレーナーさんが扉を開ける。
マロン「失礼しまーす……」
中に入ると、結構広く、デスクが無数に並んでいた。
数人、自分の席に座ってレース新聞を読んでいるトレーナーさんや、なにやら本を読みながら熱心に書き込んでいるトレーナーさんがいたりと、各々の時間を過ごしていた。
しかし、今は大体のウマ娘がトレーニングをしているような時間なので、ほとんどの席は空席だった。
そして、トレーナーさんの席に案内される。
トレーナーさんは自分のタブレットを取り出し、テキパキと枠順のページを開く。
桂「……えーっと…これだ!……おっ、マロンはー、12番!……えっ!マロン!1番人気だよ!」
マロン「えっ!本当ですか!」
桂「うん。ほら!」
トレーナーさんは、あたしにタブレットを見せた。
マロン「すごい……こんなに強い人ばかりなのにあたしが1番人気……」
桂「当然よ!だって、マロン頑張ってるもの!よし、人気に応えられるように頑張らなきゃね!」
「すごいですねー!1番人気なんて。」
近くの席に座っていたトレーナーさんが、立ち上がって喜んでいるあたしたちに声を掛ける。
やや年配の優しい顔つきをした男の人だ。
トレーナーさん「秋華賞ですよね?すごいです。私のチームのウマ娘にも、今年の秋華賞出走する予定の子がいたんですが……やはり壁は大きくて、実力の関係で出走できなくなってしまったんですよ。18人は多いと思うかもしれませんが、出走したくても出走できない悔しい思いをした子がもっとたくさんいます。しかし、お嬢さんはその選ばれた18人の中で1番期待されているし、強い。その強さを誇ってくださいね。」
桂「ジョーさん。ありがとうございます!ジョーさんも、来週は富士ステークスですよね?頑張ってください!」
トレーナーさん「はい。どうもありがとうございます。……頑張ってくださいね。応援してますよ!――――」
〈秋華賞当日・京都レース場〉
「キュッ」
桂「――よしっ、これで完璧!」
トレーナーさんが、あたしの勝負服のリボンを結ぶ。
GIレースのときはいつもそうだ。
桂「いよいよ最後だねぇ……まあ、第一は怪我なく楽しむこと!いいね?」
マロン「はい。あたし、今度こそ勝ちます!」
桂「うん。マロンなら絶対、ぜぇーったい、勝てる!」
マロン「よしっ、それじゃあ、行ってきまーす♪」
「バタン」
控室の扉を閉め、あたしは地下道へと向かった。
---
地下道を歩いている途中、目の前に見覚えのある人がいた。
マロン「―――あっ……!!ガーネット!」
あたしは、大きな声でそう呼んだ。すると、ガーネットも振り向き、
ガーネット「おう、マロン。」
そう言った。
マロン「レース、お互い頑張ろうね!」
ガーネット「ああ。」
マロン「マロンちゃん、ずっとアスターちゃんに勝ちたいって思ってたんだけど……今回いないからな〜でも、マロンちゃん1番人気だから、今度こそ勝ちたい!お互い、頑張ろーね♪」
そう言って、あたしはガーネットの前に拳を突き出した。
しかし、
ガーネット「……ああ、そうだな。…お互い、頑張ろうな。……それじゃあ、アタシ先に行ってるから。」
ガーネットは、あたしの突き出した拳に一切反応することなく、スタスタと先に行ってしまった。
マロン(……どうしたんだろう…)
でも、こんなところで考えてちゃ駄目だ。レースに集中しないと。
あたしはすぐに気持ちを切り替えて、地下道をさらに進んだ。
実況「―――さあ、ついにこの日がやって参りました。ティアラ三冠最終レース・秋華賞。やはり、人気のウマ娘は、12番・マロンホワイト。桜花賞では2着、オークスでは3着と春のティアラ戦線で実力を発揮しております。さらに、前走の秋華賞トライアル・ローズステークスでは、見事一番人気に応え、勝利。三度目の正直となるか。
続いて2番人気です。4番・アヴァンティ。前走のクイーンステークスでは、シニア級ウマ娘を交えて見事勝利。勢いを増しております。
続く三番人気は、18番・ラウンズレイナ。桜花賞3着、そしてオークスでは4着と堅実な走りを見せています。今回は大外枠だが、実力を発揮できるのか。
そして4番人気です。9番・マッシュリターン。7番人気ながらオークスを制した伏兵です。
5番人気は、7番・ガーネットクイン。オークスでは10番人気ながら2着。前走の紫苑ステークスでは1番人気で見事1着。重賞2勝目を上げました。
桜の女王・アスターウールーはまさかの天皇賞(秋)へ。女王不在の中、いったいどのウマ娘が制するのか。最後に、大外枠のラウンズレイナがゲートにおさまりますと………体制が整いました。秋の女王は誰だ、秋華賞――――」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!先行争い、14番のイヤーズメモリーが制しました。ぐんぐん伸び、単独トップに立ちます。夏は地方のダート重賞を勝利。芝でも実績は出せるか。」
あたしは、集団の前の方に位置を取った。
これで、もうティアラ戦線を走ることもなくなるのか。
そう思うと、少し寂しかった。それと同時に、絶対に勝たなければいけないんだという使命感も芽生えた。
あたしは選ばれた18人のウマ娘の中の1人。
そして、あたしは1番人気。
あのトレーナーさんも言ったように、|秋華賞《ここ》に出走したくてもできなくて涙を流したウマ娘がたくさんいる。
だから、あたしは今この場で走っているだけでもすごいんだ、多分。
だけど、あたしはもっと上を極めたい。
たくさんの涙や悔しさの上に、あたしは立っているんだ。
だから、その舞台にたった以上、あたしは勝つしかない。
主役は、今度こそ|あたし《マロンホワイト》なんだ――――!!
-To next 15R-
ウマ娘〜オンリーワン〜 15R
15R「今までも、今も」
実況「―――さあ、1000mを通過。半分を切りました。先頭は未だに粘るイヤーズメモリー。しかし、後方集団との差は徐々に縮まっている!―――おっと!2番手に伏せていたアヴァンティが、徐々に差を詰める!イヤーズメモリーはまだ粘れるのか!」
動き出した―――よしっ、あたしも!!
マロン「はあああああっっ!!」
状況「先頭はまだ粘ります、イヤーズメモリー。1番人気マロンホワイトは――集団の真ん中辺りから前方の位置に上がりました。」
「タッタッタッタッ……」
体力はしっかり温存できている。
阪神ジュベナイルフィリーズ、桜花賞、オークス。
どれも、思うようにはうまくいかなかった。
アスターちゃん、ガーネット、そして他のウマ娘のみんなに、あたしは勝つことができなかった。
でも、|秋華賞《いま》は違う。
アスターさんはいない。そして、1番人気。
やっとあたしが勝てるチャンスが来たんだ。
勝って、ウイニングライブのセンターに立ちたい。
勝って、トレーナーさんにGI初勝利をプレゼントしたい。
勝って、お姉ちゃんにとって自慢の妹になりたい。
なれる、きっとなれる。
あたしが、思い描いた|理想《ゆめ》の|マロンホワイト《あたし》に―――――
地面をグッと大きく踏み込んで、あたしは大きく前進した。
実況「―――ワイト!マロンホワイト大きく集団を離す!最後の直線!もう誰も彼女を止めることは出来ないのか!?悲願の4度目の挑戦にしてGI初制覇なるのかっ!!」
“誰にも止められない”………??
上等だ。アタシが止めれば良いのだから。
マロンは凄い。阪神ジュベナイルフィリーズ、桜花賞、オークス。全てで結果を残している。
それに、素直で人懐っこくて、でもトレーニングのときは真面目で。
アタシにないものをたくさん持っていて。
アタシだって、マロンに勝ってほしい。GIを勝ってほしい。
でも、こればかりは仕方がないんだ。
これは、お袋の――――いや、“我が一族”全ての人たちの想いが懸かっているんだ。
マロン、ごめんな。
でも、アタシにとっては、そっちの方が大切なことだから――――
ガーネット「――――うおりやぁぁぁぁああああっっ!!!」
実況「なんとなんと!間を割って7番・ガーネットクイン!ガーネットクインです!マロンホワイトに届くか!」
ガーネット「マロンホワイトーっ!!勝つのはアタシだぁあーーっっ!!」
実況「7番です!7番ガーネットクイン!これは強い!さらに内から4番のアヴァンティも伸びてくるが……先頭はガーネットクイン!ガーネットクインだぁ〜っっ!……2着は4番・アヴァンティかーっ?!」
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ………」
吐きそうなほど息が荒くなる。
目の前が真っ暗闇みたいになってしまった。
悔しい。勝つと思っていただけに、余計に悔しい。
ああ、もう終わっちゃったんだ。
一回くらいは勝ちたかったのに……
お姉ちゃんとトレーナーさんの顔が交互に思い浮かぶ。
ごめんなさい、ごめんなさい……
やっと気持ちが落ち着き、周りを見渡す。
ガーネットはとっても嬉しそうだった。
とっても笑顔で、そして、泣いているようにも見えた。
あんなに笑っているガーネットを見るのは初めてだ。
あたしは涙を拭い、ガーネットの元に歩み寄る。
マロン「――――ガーネット!良かったね!おめでとう♪」
ガーネット「……ああ。ありがとう。マロン。あのさ、アタシ、マロンにずっと言いたいことがあって……」
マロン「……えっ?何?」
ガーネット「マロン。お前は、アタシのことちゃんとライバルだと思って見ていてくれたのか?」
マロン「えっ……」
一瞬、ガーネットが何を言っているのか全く理解できなかった。
ガーネットは話を続ける。
ガーネット「さっきだって、|秋華賞《ここ》にはいないアスターのことばっかり話してた。マロン、お前にとってアタシは何なんだ……?ただの同期か……?簡単に勝てる相手なのか……??――アタシは、ずっとマロンが憧れだった。だから、そんなマロンを越したくて、越したくて、必死に頑張った。マロンと初めて一緒に走ったオークスだって、勝つことは出来なかったけど、マロンよりも先にゴールすることが出来た。やっとマロンにとっても意識してもらえるような存在になれたと思ったのに……マロンはずっとアスターのことばっかり。アタシのことなんてどうでもいいのかよ。アタシを忘れてんじゃねぇよ……!!」
ガーネットは、涙を流していた。
秋華賞を勝てて、嬉しかっただろうに、あたしのせいでこんな悲しい思いをさせてしまったんだ。
ガーネットの言う通りだ。確かに、あたしはずっとアスターちゃんのことしか考えていなかった。
冷静に見たら、いないアスターちゃんのことをずっと考えていたなんておかしいよね。
レース前の地下道でも――――
マロン「―――マロンちゃん、ずっとアスターちゃんに勝ちたいって思ってたんだけど……今回いないからな〜でも、マロンちゃん1番人気だから、今度こそ勝ちたい!お互い、頑張ろーね♪――」
やっとガーネットがあたしの差し出した手を握ってくれなかった理由が分かった。
ガーネット、嫌だったよね。
ごめんね、ごめんね――――
〈数日後〉
あれから、ガーネットとは話せていない。
とても申し訳なくて、話しかける勇気がないのだ。
正直、秋華賞3着よりもとってもショックだった。
あたしのこと、ガーネットは越えたいと思ってたのに、あたしは、あたしは、そんなガーネットの気持ちを踏みにじってしまったんだ。
――――そう考えながらあたしは学園内の廊下を歩いていた。
教室の前で立ち止まり、ふと前を見る。
相手も、同時に同じことをしたみたいで、目が合った。
鋭いツリ目に、右目は髪で隠れ気味になっている、あたしよりも遥かに背が高く、大柄なウマ娘。
マロン「――――ガーネット……」
ガーネット「マロン………」
今しかないと思った。今謝らなければ、多分一生ガーネットと今までのような距離感には戻れない。
ずっと後悔する。
あたしは、勇気を振り絞った。
マロン「―――ガーネット、この間はごめん!あたし、ガーネットの気持ち全然分かってなかった。ずっとアスターちゃんのことしか考えてなくて……だから、ずっとあたしのこと見てくれたガーネットに負けても仕方ないよね。でも、勘違いしないでほしい。あたしも、ガーネットのこと、今までも、今も、ずっとライバルだと思ってるよ。だって、数少ないあたしの同期で、仲間で、親友だからっ!」
ガーネット「………マロン……アタシの方こそ悪かった!謝るのはアタシの方なんだ。アタシもあの日、つい今までマロンに溜めていた不満が爆発しちゃって……すまなかった!……その、また一緒にレースしよう!」
マロン「……もっちろん!」
すると、ガーネットの顔がぱあっと明るくなった。
ガーネット「アタシ、次走はエリザベス女王杯にしようと思ってるんだ。マロンは?」
マロン「あたしはー、まだ決まってない。でも、あたしもエリザベス女王杯にしようかな!」
ガーネット「じゃあ、次はエリザベス女王杯だな。」
マロン「うん。次こそ、負けないよ。次こそあたし、ガーネットに勝ちたい!」
ガーネット「アタシもだ。大きな目標を達成できたからってまだまだ終わりじゃない。アタシはまだまだこれからなんだ。」
ガーネットはすごいと思った。
大きな目標を達成してもなお、頑張っていて。
でも、あたしはまだ何も達成できてない。
ティアラ三冠レースだって全部勝てなかった。
エリザベス女王杯は、距離が結構長いし、経験を積んでいるシニア級ウマ娘と戦わなければいけない。
ティアラ三冠レースより勝つことが難しいだろう。
でも、だからって諦めない。
GIレースのウイニングライブでセンターになるというあたし自身の目標を叶えるために!!
第2章『憧れのレース編』第2部 完
-To next 16R-
ウマ娘~オンリーワン~ 16R
ちょっと長すぎてしまいました。
ごめんなさい。
第2章『憧れのレース編』第3部
「パシャ、パシャ――」
司会「それでは、URA賞最優秀ジュニア級ウマ娘を受賞された、アスターウールーさん、アスカウイングさんのお二人でーす!」
「パチパチパチパチ!!」
司会「それでは、まずはアスターウールーさんから。昨年は、アルテミスステークス、そして阪神ジュベナイルフィリーズを制覇し、晴れて最優秀ジュニア級ウマ娘に選ばれましたが、その上での今年の目標を教えてください。」
アスター「はい。今年の目標は――世代最強マイラーになることです。」
司会「世代最強マイラー……素晴らしい目標ですね!応援しています。さあ、続いて、アスカウイングさん。アスカウイングさんも、昨年はサウジアラビアロイヤルカップ、そして朝日杯フューチュリティステークスを勝ち、最優秀ジュニア級ウマ娘に選ばれましたね。それでは、今年の目標をどうぞ―――」
この|瞬間《とき》が、あたしはとても嬉しかった。
だから、誓ったんだ。
これからも、たくさんのレースで1着になって見せるって。
---
16R「君にだけは」
実況「――――なんとなんと!!アスカウイング4バ身差で圧しょーう!ここは負けられない、GⅢ・アーリントンカップで、見事NHKマイルカップへの切符をつかみました!昨年のURA賞最優秀ジュニア級ウマ娘の意地を見せました!」
〈控え室〉
「すばらしいです!!アスカさん!」
あたし―――アスカウイングのトレーナー・|篠原譲次《しのはらじょうじ》はそう言い、手を叩く。
あたしは、彼があたしの祖父の古くからの友達であった縁もあり、彼のチームに入った。
とても紳士的で、年も大分下のあたしにでさえ敬語で話す。そして、いつもスーツを着こなす。
篠原「目標のNHKマイルカップ、見事出走できましたね!」
アスカ「うん!この調子で、頑張らないと!」
篠原「そうですね。NHKマイルカップには、最近勢いを増している強敵も参戦して来ますからね―――」
---
「タッ、タッ、タッ………」
「よし、そこまで!……よく頑張ったね!」
「ああ。やっぱり負けられないからな!アスカ殿には……」
あたし―――グッドラックナイトは、ジュニア級のとき、一度もレースで走れなかった。
デビューしたのも1月と、同期の中で1番遅かった。
トレーナー―――|五十嵐砂夜《いがらしさよ》殿曰く、あたしは、晩成タイプで、成長が遅いとのこと。
でも、それをはねのけるように、メイクデビュー、1勝クラス、重賞のニュージーランドトロフィーと勝ち上がってきた。
今はアスカ殿と同じで無敗だ。
やっと、アスカ殿と同じ舞台に立つことが出来た。
立つことが出来たからには、絶対に勝たなければいけない―――
---
実況「さあ!やってまいりました!本日のメインレースは、GI・NHKマイルカップ!今年も、期待のクラシック級マイラーがたくさん集いました!
まずは1番人気!5番・アスカウイング。昨年、URA賞最優秀ジュニア級ウマ娘に選出。朝日杯フューチュリティステークスの覇者であり、前走のアーリントンカップは4バ身差での圧勝。4戦4勝。NHKマイルカップの制覇はもはや死角なしと言って良いでしょう。
続いて、11番・グッドラックナイト。こちらは今このメンバーの中で最も勢いのあるウマ娘であります。デビューはなんと3ヶ月前!前走のニュージーランドトロフィーを1番人気で制し、3戦3勝。アスカウイングとの直接対決となります。
続く3番人気です。8番・グレイトタイムズ。前走のファルコンステークスにて重賞初制覇。こちらも4戦4勝です。
続きまして、4番人気は、4番・シンタルカ。前走のニュージーランドトロフィーでは悔しい2着。重賞は未制覇ですが、オープン線のクロッカスステークスは1番人気で制しています。
5番人気は、12番・ラブリーマイン。前走のアーリントンカップでは2着。さらに朝日杯フューチュリティステークスでもアスカウイングに敗れ2着。アスカウイングに勝利し、逆襲なるか。
6番人気は、3番・レオフラペチーノ。ファルコンSをグレイトタイムズとの同着で制覇。前走のニュージーランドトロフィーは3着で敗れました。
以上、主な出走ウマ娘の紹介でした。」
ついに、来た。NHKマイルカップ!
この勝負服を着るのも、二回目だ。
紫色の肩出ししたワンピース。
その上に片方だけ羽織った茶色のカーディガン。
まるでどこかの国の民族衣装のような勝負服だ。
露出は少し多い気がするものの、あたしはこの勝負服を案外気に入っていた。
遠くの方に目をやると、そこにはグッドの姿があった。
裾が長い半袖の洋服。
その下にはピンクのスカートを履き、白いラインの入った青いニーハイソックスも履いている。
靴はサッカーで使うスパイクを模したものを身に着けていた。
背中には剣を指している。
グッドらしい勝負服だ。
グッドは初めてのGIで緊張しているかもしれない。
だけど、あたしは2回目。それに1回目は勝っている。
自分でも驚くほど、そんなに緊張はしていない。
あたしは勝つんだ。
勝って、クラシック級でも最強ウマ娘に――――!!
---
「パーッ、パパパーッ……」
辺りにファンファーレが鳴り響く。
まもなく発走時間だ。
みんなゲートの近くに集まり、それぞれのゲートに入る。
しばらくし、あたしもゲートの中に入った。
実況「さあっ、体制が整いました。クラシック級マイル王は誰の手に!!NHKマイルカップ………」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!まず先頭に立ったのは、7番・アイルです。GI初出走。およそ1バ身半差離れて2番手は3番のレオフラペチーノと8番・グレイトタイムズが並ぶという形になりました。そして半バ身差離れ、ここにいます。11番・グッドラックナイト。デビューからの先行策、GIの舞台でも同じでした。―――」
東京レース場の芝1600mは、あたしがジュニア級のとき、サウジアラビアロイヤルカップで経験している。そして、勝っている。
あたしにとってはとても有利……!!
実況「4番手グッドラックナイト、真ん中の方に位置するアスカウイング、全く動きません。さあ、だれから動くのか。――おっと、12番・ラブリーマインがグッドラックナイトとの差を縮めます――そして、グッドラックナイトを見る形で、ピッタリとマーク。」
ラブリーマイン(アスカウイング……今日こそは絶対に勝つ!朝日杯フューチュリティステークスだって、アーリントンカップだってずっと私はアスカウイングに負けてきた。だけど、今度こそは……!!)
実況「さあ、まもなく第4コーナーに差し掛かります。……おっと、12番・ラブリーマイン、仕掛けた!!あっという間に2番手です!」
動いた!
ウマ娘のレースでの、暗黙の了解。
一人が仕掛けたら、みんなが一斉に動く。
もちろん、あたしも仕掛ける。
実況「ラブリーマイン、先頭!おおーっと、しかし、間からやって来ました!グッドラックナイト!グッドラックナイトです!あっという間に交わし、先頭!1バ身、2バ身と差を広げていく!」
グッド……??
いや、まだだ。まだあたしが来ていないんだから!!
アスカ「うおおおおおっっ!!!」
実況「来ました、来ました!外からアスカウイング!外からアスカウイング!ものすごい末脚だ!アスカウイングがグッドラックナイトを猛追!………しかし、先頭はグッドラックナイトだぁーーっっ!!――勝ったのは、グッドラックナイト!なんと、デビュー3ヶ月半で頂点の座を掴みました!これで4戦4勝!アスカウイングの無敗記録は無念のストップです――――」
「ハァッ、ハァッ、ハァッ………」
嘘でしょ……
もう終わっちゃったの…?
負けるのって、こんなにあっさりなの?
今まででも出したことのないものすごい末脚だった。
グッドとの差が一気に縮まって………
でも、届かなかった。
ああ、あたしはグッドより弱かったんだな。
あたしは、気持ちの整理もつかないまま、天を仰いだ。
こんな時に限って、空は雲一つない快晴だった。
こうして、あたしの一生に一度しかないNHKマイルカップは終わった。
〈2週間後〉
「タッ、タッ、タッ……」
篠原「いいですよ!その調子!」
メガホン片手にトレーナーが叫ぶ。
NHKマイルカップから2週間。
次走は安田記念。
今は安田記念に向けてのトレーニングをしている。
しかし、グッドラックナイトも安田記念参戦の意向を示しているようだ。
また、グッドと戦う。
リベンジできるチャンスだ。
今度こそ、グッドに思い知らせてやる。
クラシック級のマイル王は、|アスカウイング《あたし》だと………!!
〈安田記念当日〉
実況「さあ、やって参りました。春のマイル王者決定戦・安田記念。降りしきる雨の中、去年に変わらず、今年もたくさんの実力のあるウマ娘が出走します。
まずは一番人気です。2番・グッドラックナイト。前走のNHKマイルカップを勝利し、4戦4勝。期待の新星です。
続いて2番人気です。3番・ヤマトレギュラー。おととしの皐月賞ウマ娘であり、その他にも重賞を2勝しています。
3番人気は、13番・ダークイーグルス。前走のダービー卿チャレンジトロフィーで勝利。重賞初制覇を成し遂げました。現在三連勝中です。
4番人気は、5番・アスカウイング。5戦4勝。前走のNHKマイルカップではグッドラックナイトに敗れ4着。リベンジは果たせるのか。
続いて、5番人気です。1番・フォアシズプライド。アメリカからの刺客で、去年の凱旋門賞に出走し、7着という経験があります。
6番人気は、12番・ワールズファスター。去年の安田記念では3着。重賞優勝経験もあります。
さあ、選ばれし17名のウマ娘たち。その中で春のマイル王者の称号を掴むのは、一体どのウマ娘なのでしょうか?」
今、あたしたちはゲート前にいる。まもなく出走だ。
周りを見渡すと、どれも強そうなウマ娘ばかりだ。やはりシニア級ウマ娘という|風格《オーラ》があるからなのだろうか。
――――前回のNHKマイルカップでは4着。
絶対に勝ってみせる。
少なくとも、|グッド《君》だけには………!!
すると、出走時間がやってきたのか、次々と周りのウマ娘たちがゲート内に入っていく。
あたしも、割と早めにゲートの中に誘導された。
―――ゲートの中。少し狭くて落ち着かない。
あたしは、ゲートが開くのをひたすら待った。
そして、その時は来た。
「―――ガシャン!」
パッと視界が開ける。
あたしは、反射的に勢いよく走り出した。
観客の歓声、かすかに聞こえる実況アナウンス。
これが、安田記念!!
実況「――――さあ、まずは誰が行くか!4番・バールセイリンがグイグイと来ました。重賞4勝です。1バ身差で2番手は、1番・フォアシズプライド。さらに1/2バ身差と開き、3番手は3番・ヤマトレギュラー。それを見る形で2番・グッドラックナイト、並んで16番・ラージパルフェが追走しております。人気ウマ娘はほとんど前の方です!」
――――ここはGIを勝利したウマ娘がたくさんいる。
アスカ殿もそうだし、前を走っているヤマトレギュラー殿も皐月賞を勝っている。
でも、あたしだってその中の一人だ。
大丈夫。4戦4勝。
内、安田記念のコースでもある東京芝1600mは3戦3勝。
メイクデビューも、その次の条件戦も、NHKマイルカップも、全部勝てたじゃないか。
シニア級ウマ娘がいたって、アスカ殿がいたって、全く関係ない。
今まであたしと共に歩んできたこのコースで負けるわけにはいかないんだ!
実況「さあ、第3コーナー直前!17人のウマ娘たちが、坂を駆け上がり、第3コーナーをカーブします!」
―――グッドはあそこか……
外はスタミナも使うし、重バ場でやりづらいけど、やるしかない……!
実況「さあ、1000m通過タイムは、1分00秒01!平均よりややスローペースです。さあ、まもなく第4コーナー!2番・グッドラックナイトは位置を6番手に下げました。そして、その後ろの5番・アスカウイングはグッドラックナイトをピッタリマークしています。」
グッドが動いたら、あたしも一気に……
実況「さあ、先頭は未だに4番・バールセイリンのまま、各ウマ娘、第4コーナーをカーブし、直線へ!」
歓声が一気に大きくなる。
さあ、グッド。君はいつ動くんだ……??
実況「バールセイリン、差が徐々に縮まってく!ここまでか!後ろに控えた12番・ワールズファスターと13番・ダークイーグルスが共に上がってくるが、伸びない!そして内から3番のヤマトレギュラーが伸びてきた!―――来た、来た!外からグッドラックナイト!グッドラックナイト!天才少女が外から襲ってくる!さらにもう一人外からアスカウイングがやって来た!クラシック級ウマ娘同士の一騎討ちかーっ!?」
逃さない!逃さない!
君に見せてやるんだ!
強いのは君じゃなくて、あたしだって!!
アスカ「うおおおおおおおっっっ!!!!」
負けたくない、負けたくない!
あたしをいつも勝たせてくれた、このコースで、今回も勝ちたい!!
あたしは、|幸運の騎士《グッドラックナイト》なんだ。
だから、運も味方につけるし、堂々と立ち向かう!!
グッド「やああああああああっっっ!!!」
実況「グッドラックナイト、物凄い末脚!他のウマ娘を蹴散らします!アスカウイングは追いつけない!残り100m!もう誰も彼女に追いつけないのか!?」
どうして……
こんなに全力で走ってるのに、どうして……
追いつけない、追いつけない……!!
実況「先頭はグッドラックナイト!グッドラックナイト!2番手に大きな差をつけ、グッドラックナイト、文句なしの先頭で、ゴォーールッ!!勝ったのはグッドラックナイト!グッドラックナイトです!!なんとなんと!クラシック級ウマ娘が安田記念を制しましたーっ!」
歓声「わあああああああっっ!!!」
息が乱れる。足がおぼつかない。
また負けた……
あたしは、本当は強くなんかなかったのだろうか――――
---
「ガチャ」
あたしは、控室のドアを開ける。
篠原「――ああっ、アスカさん!」
中で待っていたトレーナーがあたしの元に駆け寄る。
篠原「よく頑張りましたね。安田記念、残念だとは思いますが、クラシック級ウマ娘としての4着はすごいことですよ。だから、そう気落ちせずに………ど、どうされましたか?」
トレーナーが驚くのも無理はない。
あたしは、泣きながら笑っていた。
アスカ「……トレーナー…あたし、あたし……」
アスカ「何のために走ってるのか、分かんなくなっちゃった……」
第2章『憧れのレース編』第3部 完
-To next 17R-
ウマ娘~オンリーワン~ 17R
「《―――先週の天皇賞(秋)。1番人気・グッドラックナイト、2番人気・ルナビクトリー、3番人気・アスターウールーと、異例のクラシック級ウマ娘たちが人気を集めたこのレース。しかし、勝ったのはグッドラックナイトでもなく、ルナビクトリーでもなく、アスターウールーでもなく、4番人気のヤマトレギュラーでした!見事な先行策で、GI2勝目を飾りました。さて、明日は――――》」
「ブチッ」
あたし―――マロンホワイトはテレビの電源を消した。
びっくりだ。アスターちゃんが負けたなんて。それに、グッドさんも無敗だったのに負けてしまった。
それだけ、シニア級ウマ娘の壁は高いのかな……
でも、あたしは越えて見せる!
シニア級の壁を!
ジャージのファスナーを閉め、あたしは部屋のドアを開けた。
第3章『立ちはだかるシニア級ウマ娘編』第1部〈エリザベス女王杯〉
17R「二人の勝者」
「タッ、タッ、タッ、タッ………」
桂「いいよ、いいよ!その調子!」
マロン「はい!よーし、マロンちゃん、いっきま〜っす!うおおおおっっ!!」
桂「ゴール!よし!記録更新!」
マロン「やったぁ〜♪」
桂「よし。じゃあ、一旦休憩ね。」
マロン「は〜い♪」
---
桂「エリザベス女王杯、誰が出走するのかしら……」
休憩しているあたしの隣りに座ったトレーナーさんが、そう言った。
あたしは、ハッとなる。
マロン「ガーネットはっ!ガーネットは出てますか……??」
ガーネットとは、あのときから毎日のように会話するようになったものの、そういった話は一切していない。
桂「ガーネットクインは……あっ、『エリザベス女王杯に出走を表明』だって!良かったじゃない!また戦えるわね!」
マロン「はい!次はエリザベス女王杯って二人で約束したので!」
良かった……ガーネット、約束守ってくれた……
あたしはほっと胸をなでおろすと同時に、絶対に負けないという強い気持ちも湧いてきた。
---
「タッ、タッ、タッ、タッ……」
「ガーネット!そろそろ上がっていいわよ!」
アタシのトレーナーがそう叫んだ。
「そうだ、エリザベス女王杯、どんなウマ娘が出走するんだろうね……」
アタシは、ハッと気づき、思い出した。
ガーネット「マロンは!マロンホワイトは出るか!?」
「えっ、急にどうしたのよ〜。――うん。『マロンホワイト、次走はエリザベス女王杯』って書いてるわよ。」
ガーネット「そうか。すまねぇ、急に思い出して……二人で約束したんだ。『次走はエリザベス女王杯』って。あぁ、良かったーっ。」
「あらあら。それなら、なおさら負けられないわね。」
ガーネット「ああ。絶対負けらんねぇ……!!」
〈エリザベス女王杯当日・京都レース場〉
実況「さあ、やってまいりました。エリザベス女王杯!今年も、昨年のエリザベス女王杯で、秋の京都レース場に雪を降らせた、ティンカフローズンが参戦!今年も豪華な顔ぶれが揃いました。それでは、人気ウマ娘の紹介です。
まずはやはり1番人気はこのウマ娘!18番・ティンカフローズン。昨年の覇者です。アイルランド出身であり、主にイギリスのレースで活躍しております。GI4勝!世界最高峰のレースと呼ばれるフランスの凱旋門賞では3着という経験もあります。2連覇なるか。
続いて2番人気です。10番・ガーネットクイン。前走の秋華賞でGI初制覇。今勢いのあるクラシック級ウマ娘の一人です。
続く3番人気は、1番・アヴァンティ。前走の秋華賞では2着。クラシック級ウマ娘の中で唯一過去のレースでシニア級ウマ娘を抑えて優勝した経験があります。
続く4番人気です。4番・アポロン。おととしのティアラ三冠ウマ娘であり、昨年のヴィクトリアマイルの覇者でもあります。さあ、勝って三冠ウマ娘の実力を知らしめることはできるのか。」
あたしは、GI未勝利ということもあってか、6番人気だった。
悔しい。ガーネットの方が人気が上だなんて。
でも、勝ってみせる。
---
実況「―――さあ各ウマ娘、順番にゲートへと入っていきます。」
いよいよだ。絶対に負けたくない。
ガーネットに勝つんだ。
そして、もちろん1着になってウイニングライブのセンターとして踊ることも忘れちゃいけない。
勝ちたい。勝ちたい。
あたしは、ガーネットクインに勝ちたい。
実況「――さあ、すべてのウマ娘のゲート入りが完了しました。さあ、中距離クイーンの座は誰の手に。エリザベス女王杯―――」
「ガシャン!」
実況「スタートです!さあ、まずは12番・フジノテンメイが上がってきました。先頭です。そこからやや1バ身差離れ、3番・マロンホワイトが追走。そこから半バ身差で7番・テクノスタメイト、少し下がって4番・ティアラ三冠ウマ娘のアポロン。そして2バ身差と大分離れて10番・秋華賞ウマ娘、ガーネットクインという位置取りです。18番・ティンカフローズンは集団の真ん中辺りに控えています。」
2番手。大分思いきった。
ガーネットをマークできないデメリットはあるものの、最終コーナーで早めに先頭につきやすい。
ガーネット(………マロンはこの位置か……)
正直、驚いた。マロンが二番手なんて。いつもは集団の真ん中辺りにいるのに。
だからアタシも、マロンの近くに位置取り、今は5番手。
こんなに前の方にいるのは、アタシにとってはめったにない。
実況「―――さあ、1000m通過タイム57秒05!平均ペースです。―――さあ、間もなく第3コーナー!先頭は粘る12番・フジノテンメイ!クラシック級ダート女王に輝いたその脚を、芝の中距離女王を決める舞台でも発揮できるのか!―――さあ、3コーナー手前の大きな坂を乗り越え、第3コーナーをカーブ!おっと、少しアポロンが上がってきました。三番手です!」
アポロン(エリザベス女王杯は……エリザベス女王杯こそは……今年に入って、あたしはまだ何も掴んでない。去年制覇できたヴィクトリアマイルだって、GⅠでもない重賞までも、あたしは何も掴めなかった。もう一年以上勝ててない……!絶対に、絶対に勝って、知らしめるんだ!トゥインクルシリーズで最強なのはあたしだって!!)
実況「さあ、第4コーナーをカーブ!どのウマ娘がいくのか!まずは先頭、マロンホワイトに変わった!アポロン追走!そして内からアヴァンティが迫ってくる!」
譲らない!譲らない!
全力を出せ!出しきるんだ!
まだ体力はある!まだゴール板は見えないけど、まだ、まだ………
実況「―――ットクイン!間を割って、ガーネットクイン!ガーネットクイン!まとめて交わした!先頭はガーネットクイン!アヴァンティ、必死で追い上げる!マロンホワイトも何とかついていく!」
―――そんな、そんな。
いや、諦めない。まだゴールしてないじゃん。
もう一度、全力を出して、ガーネットを差すんだ。
まだ、ゴールしてないじゃん。
負けたくない。負けたくない。
ガーネットだけには、絶対に………!!
………なのに、何だろう。いくら全力出しても、追い付けない。
ガーネットや周りのみんなと同じくらい全力を出してるはずなのに、
なのに、なのに、
この差は、何だろう………
実況「先頭、ガーネットクイン!アヴァンティは必死に猛追!しかし届かないか!―――外からティンカフローズン!ティンカフローズン!ティンカフローズンです!何という末脚!今年も秋の京都に雪を降らせるのか!アヴァンティを交わした!ガーネットクインはどうか!」
来たか。やっぱり。
だが、ぜってぇ負けねぇ!
ガーネット「はあああああああああっっ!!!!」
ティンカフローズン(ふっ、今年は去年とはかなりレベルが違う……しかし、そこでも勝つのは私。降らして見せようじゃないか。雪……いや、大吹雪を!!)
実況「残り100!ティンカフローズン追い詰める!しかし、ガーネットクイン譲らない!ティンカフローズン、差そうとするが、ガーネットクインは止まらない!ティンカフローズン、ガーネットクイン、ティンカフローズン、ガーネットクイン!どっちだぁ~っっ!!両者並んでゴール!3着はアヴァンティかーっ!!これは際どい!」
ガーネット「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ………」
心臓の鼓動が止まらない。
何だか、気持ち悪い。勝ったことも分からないし、負けたことも分からない。
しかも、相手はアタシとあんな死闘を繰り広げたのに、すっかり呼吸を整えて、涼しい顔をしてやがる………!
一方のアタシは、その場にしゃがみこんで立てなくなっちまった。
情けねぇ……
アタシは、手を合わせる。
ガーネット(勝てますように……勝てますように……神様。お願いだ。アタシを勝たせてくれっ……!!)
実況「―――さあ、結果が確定しました。写真判定の末、1着・18番、ティンカフローズン!――――そして、同じく1着・10番、ガーネットクイン!同着です!今年のエリザベス女王杯は、優勝者が二人!GⅠでの1着同着判定が出たのは、おととしのオークス以来2年ぶり!―――」
おい、嘘だろ………?
よしっ!よしっ!
アタシは、大きくガッツポーズした。
すると、向こうで観客に向かって手を降っていたティンカフローズンが、こちらへやって来た。
ティンカフローズン「……Can you stand up?(立てるか?)」
そして、アタシに手を差し出す。
ガーネット「セ、センキュー……」
彼女の手を取り、アタシはようやく立ち上がることが出来た。
すると、彼女は自分の右手でアタシの左手を掴み、それを高々に上げ、叫んだ。
ティンカフローズン「We are wenners!(私たちが勝者だ!)」
観客席からはより一層の歓声が響いた。
そして、再度ティンカフローズンがアタシに言う。
ティンカフローズン「Your run is so excellent.(あなたの走りはとても素晴らしい。)
Come race with me again.(また私とレースしよう。)」
ガーネット「――Yes,of course.(ああ、もちろんだ。)」
彼女とあたしは、堅い握手を交わした。
アポロン「ふふっ、同着なんて、あのときを思い出すわね………ねっ、あなたもそう思うでしょ?」
「――そうですね。僕とアポロンさんの二人が制したオークス――――」
マロン「すごいなあ、同着なんて……また負けちゃった。」
アヴァンティ「――また、負けた……でも、次もし一緒に戦えたら……次は絶対………!!」
お袋、見てるか?
アタシ、秋華賞どころかシニア級ウマ娘を差し置いて、エリザベス女王杯まで優勝できたんだ。
お袋、喜んでくれるだろうか。
アタシ、もっともっと強いウマ娘になって見せるから。
お袋、見守っててくれ……!!
アタシは、いつまでも、いつまでも、
観客に向けて、
お袋に向けて、
手をいつまでも、いつまでも、振っていた。
-To next 18R-
~作中に出てきたウマ娘~
・アヴァンティ(158㎝くらい)
実力のあるウマ娘。優等生で人の言うことを素直に聞く。トゥインクルレースで結果を残したいと闘志を燃やしている。マロンらと同世代。
見た目・明るめの茶髪。短めのお団子ツインテール。
勝負服・チェックのモコモコポンチョ型勝負服。
・ティンカフローズン(157㎝くらい)
アイルランド出身でイギリスで活躍するウマ娘。好きな日本食は豚汁。マロンらの一つ上の世代。
見た目・金髪の七三分けの前髪。髪は一つ結び。真っ白な肌。
勝負服・スケートの選手が着ているようなフリルのついたワンピース。
ウマ娘〜オンリーワン〜 18R
ネガティブ要素がちょっと多めなので、苦手な人は注意して読んでください。
実況「―――抜けた抜けた!11番・アスカウイング!他のウマ娘を寄せ付けず、圧勝でゴールイン!!見事、一番人気の期待に応えました!!」
――あれ?勝った?
そっか………勝ったんだ……
勝っ《《ちゃった》》んだ………
第2部〈マイルチャンピオンシップ〉
18R「祝福の後に」
『アスカウイング マイルCS前哨戦の富士S圧勝!マイルCSへの視界は良好か』
どこの店に行ってもそんな内容が書かれた新聞ばかりで、思わずため息が漏れる。
何が何だか、よく分からなくなってしまった。
何でだろう。勝って嬉しいはずなのに、喜べない。
正直、勝ちたくなかった。
勝ったら、また期待されて、走らなければいけないから。
こんなモヤモヤした気持ちのまま走りたくはない。
でも、こんな気持ち、誰にも分かってもらえないんだろう。
あたしは、どうしたらいいのだろうか………
---
実況「さあ、秋のマイル王者決定戦・マイルチャンピオンシップ。出走ウマ娘を紹介していきます!
まずは1番人気・7番、重賞4勝。アスカウイングです!前走のマイルチャンピオンシップトライアル・富士ステークスをシニア級のウマ娘を抑えて圧勝。春シーズンでは良い結果を出せなかったものの、秋シーズンはと期待が高まっております。
続いて、2番人気は、10番・ヤマトレギュラー。前走の天皇賞(秋)では、あのグッドラックナイトやルナビクトリーに勝利。GI2勝目を果たしました。この勢いのまま、GI3勝目を挙げられるのか。
3番人気は、1番・アスターウールー。GI2勝。秋は毎日王冠、天皇賞(秋)とマイル以外のレースにも出走し、なかなか思うような結果を出せませんでしたが、得意のマイルである今回は、結果を残せるか。
続く4番人気は、15番・ダークイーグルス。前走のマイルチャンピオンシップトライアルのスワンステークスを勝利。今年に入り、重賞2勝目です。今年は3着以内になることが多いが、今回こそは悲願のGI初制覇なるか。
最後に、5番人気です。14番のミラクルサンシャ。重賞は未勝利ですが、NHKマイルカップではグッドラックナイトの3着。前走の3勝クラスを一番人気で制しました。
さあ、今年はレベルの高いクラシック級ウマ娘が揃いました。今、一番勢いのあるクラシック勢が勝つか、それとも経験豊富なシニア勢がそれを阻むか、さあ果たしてどちらになるのでしょうか!」
1番人気――――どうしてあたしが?
こんなに勝つ気力もないのに、どうしてあたしが?
富士ステークスだって、勝った時は罪悪感でいっぱいだった。
他のウマ娘は、みんな努力して一生懸命走っているのに、
なんも努力してないあたしが勝ってしまった―――
その結果、頑張っているみんなを差し置いてあたしが期待されることになってしまった。
ああ、どうしよう。唯一の頑張れる理由――――グッドはこのレースには出走しない。
ちょうど1週間前、グッドは『次走は、香港のレースにする』と発表した。
マイルチャンピオンシップで、またグッドと戦えると思ったのに……
力の入らない体を振り絞って、グッドと戦えることただ一つに希望を見出して、今まで頑張ってきたのに――――
グッドが出走しないんなら、意味ないじゃないか。
それに、グッドはもう海外に行けるレベルにまで到達しているのに、あたしはまだ日本にいる。
悔しい、寂しい。
あたしは、天を仰ぎ、刻々と出走時刻の迫るマイルチャンピオンシップに、ただ呆然とするしかなかった。
---
いよいよ、この日が来た。
この秋は、毎日王冠、天皇賞(秋)と、マイル以外のレースに挑戦してきた。
だけど、どれも惨敗………
けど、今回は私得意のマイル。
ここで勝たなきゃ、次いつ勝てるか分からない。
強敵はたくさんいる。
特に、アスカさん―――アスカウイング。
私と同じくらいのレベルのウマ娘。
かなり手強い。
ティアラ三冠路線で走るようなウマ娘は軽蔑されやすいけど、私は、不可能だと言われた桜花賞も勝てた。桜花賞以来、勝ち星を挙げられてないけど、ここで、必ず―――
---
実況「さあ、各ウマ娘の枠入り、順調です。2番人気のヤマトレギュラー・ゲートに収まりました。」
ヤマトレギュラー(マイルチャンピオンシップ、勝つのは私です。私は、前走で勝つことができました。皐月賞以来、2年半振りにGⅠレースを制することができました。もう『終わった』だの『世代交代』だの、そんなことはもう言わせません。むしろ、ここから私の時代の襲来なのです………!!)
ゲートに入った私は、深く深呼吸をし、集中力を高める。
目の前には、深い緑色の青々とした芝生が広がっていた。
実況「―――おっと、7番・アスカウイングがゲートに中々入れません。一体、どうしたのでしょうか?」
そんな場内アナウンスの声に、私は、驚いた。
確かに、ゲート入りを拒むウマ娘は少なからずいる。
それは、気性難で落ち着きのないウマ娘だったり、緊張して入りたがらないウマ娘だったりと、様々だ。
だけど、アスカさんがゲート入りを拒むなんて、珍しい。
アスカさんは、気性難とか、そんな性格ではないはず。
一体どうしたんだろう――――
アスター(―――いや、人のことを気にしてる場合じゃない。まずは、レースのことに集中しないと……!)
そうだ。他人に興味を持つことほど、無駄なことはない。
どうせ、いつかは《《なかったこと》》になってしまうのだから――――
実況「―――7番・アスカウイング、ようやくゲートに収まりました。さあ、いよいよ発送です。秋のマイル王者決定戦。マイルチャンピオンシップ――――」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!さあ、まずは先行争い、9番・トゥワイスフルエが一歩リード。今年の毎日杯の覇者です。そこから半バ身差で、2番手に17番・ハヤブサプレイスがピッタリマーク。前走の京成杯オータムトロフィーを一番人気で制しました。内からは10番・ヤマトレギュラー。ここにいました、2番人気です。一番人気のアスカウイングは、後方から3番手の位置にいます。」
アスター(スタートも良し、位置取りも完璧。何か、大きなアクシデントさえ無ければ………!!)
実況「―――さあ、大きな坂を越え、各ウマ娘たちが一斉に第四コーナーをカーブ!おっとここで先頭は17番・ハヤブサプレイスに変わりました。ヤマトレギュラーはまだ2番手だ。さあ、直線です!先頭はハヤブサプレイス!しかし、先頭は変わった!10番のヤマトレギュラーだ!さあ、後は誰が来るのか!―――おっと、内の方から漆黒の勝負服と共にやって来た!1番・アスターウールー!アスターウールーです!まとめて交わしてしまうのか!ヤマトレギュラーまだ粘る!しかし、先頭は変わった、1番・アスターウールー!アスターウールー!アスターウールーだぁーーっっ!!桜花賞ウマ娘、シニア級を抑え、完封勝利~っ!!2着は、ヤマトレギュラー。毎日王冠、天皇賞(秋)に続く三連勝とはなりませんでした。」
いつの間にか終わっていた。
夢中だった。いつも、そうなのだが。
掲示板を見ると、一着の欄に、「1」という数字が点滅している。
勝った―――私が、勝った………!!
実況「なんと、史上初!ティアラ路線で走ったウマ娘が、クラシック級のままこのレースを制しました!!」
そんな史上初の偉業を達成したこともあり、京都レース場は祝福ムードに包まれていた。
――――場内アナウンスが流れるまでは。
場内アナウンス「―――お知らせします。京都11レースにて、7番・アスカウイングは、他のウマ娘に関係なく、第4コーナーを曲がった直後に故障が発生したため、競走を中止したものとします。―――」
私含め、会場が一気にざわついた。
---
発送時刻が迫っていく度に、あたしの足は動かしづらくなった。
もちろん、本当に動かないんじゃなくて、《《気持ち》》の問題だ。
ああ、情けないなぁ。バカみたい。
みんなの期待に応えて、一番人気で期待されて。
それは、あたしがとても望んでいたことの筈なのに。
こんなヤツが一番人気だなんて………やる気もないのに、走りたくないのに。
分からなくなっちゃったんだ。
グッドラックナイト―――君と戦ってから。
努力しても、叶わないものがあることを知った。
努力はしてた。だから、朝日杯フューチュリティステークスも勝てたし、アスターと一緒に最優秀ジュニア級ウマ娘にも選ばれた。
そこまでは、とっても順調だった。
だけど、グッドという存在が現れた。
正直、あたしは君のことを軽く見ていたよ。
だって、あたしがGⅠを勝ったときには、君はデビューさえしていなかった。
だから、君がニュージーランドトロフィーを勝ったときも、きっとまぐれだと思った。
なのに、NHKマイルカップで、そんな考えがガラリと変わった。
グッド。君は、あたしが知らない間に、こんなに強くなってたんだね。
悔しいよ。軽く見ていたあたしがバカみたいで。
だから、あたしはそれ以来、グッドに勝つことだけを考えて―――それだけに希望を求めて、トレーニングに励んだ。
グッドに勝つ、グッドに勝つ―――
でも、君は香港に行ってしまうんだね。
とてもショックだった。
じゃあ、何のためにあたしは、トレーニングを――――
それに、グッドは、もう海外でも戦えるぐらいに、強くなっていたのが、悔しかった。
あたしだって、海外のレースで走りたかったよ。
日に日に、あたしの才能の無さに嫌気が差してきた。
GⅠを勝ったのも、たまたまなんじゃないかと思うようになった。
だから、お願いだからみんなこれ以上あたしに期待しないで。
メイクデビューも、
サウジアラビアロイヤルカップも、
朝日杯フューチュリティステークスも、
アーリントンカップも、
富士ステークスも、
全部全部、勝ったのはたまたまだから。
あたしに才能なんて、一切ないから。
どうせ期待しても、裏切っちゃうだけだから。
だから、お願い。
あたしに期待なんかしないでよ………!!
---
実況「―――おっと、7番・アスカウイングがゲートに中々入れません。一体、どうしたのでしょうか?」
分かってる。あたしが入らないと、レース始まらないんだよね。
………でも、怖い。あたしがゲートに入って、レースが始まって、負けたら、みんなの期待を裏切っちゃう。
それに、一着で勝てても、またみんなからの期待が大きくなるばかりだ。
だから、どっちにしろあたしには地獄しか待っていないんだ。
怖い。怖い。
走ることがこんなに怖くなる日が来るなんて。
勇気を振り絞り、やっとの思いで、あたしはゲートの中に入った。
「――ガシャン!」
すぐにゲートは開いた。
あたしは、後方の位置についた。
動きたいのに、足が動かない。
わがままだって分かってるけど、そんなの真面目にやっている人たちにとっては迷惑だけど、
誰でもいいから、あたしのこの気持ちを分かってはくれないのだろうか。
―――3コーナーを過ぎた辺りだろうか。
あたしの左足は、突然痛くなった。
これは、気持ちとかそんな問題じゃなくて、本当の痛みが、あたしを襲った。
ぼやっとしていた意識が、ビリっと体に電流が走ったように、一気にはっきりとしてきた。
あたしは、なんとか踏ん張った。
ダメだ。ここで走るのを止めるなんて、絶対ダメだ。
期待してくれているみんなを裏切ることになっちゃう―――
でも、ダメだった。
あたしは、気づいたときには膝から崩れ落ち、その場に倒れこんだ。
その場で、意識を失った。
-To next 19R-
〜作中に出てきたウマ娘〜
・ヤマトレギュラー(166㎝くらい)
凛々しい大和撫子なウマ娘。大人しく、無口。基本食べるものも和食だが、おやつだけは和菓子ではなくケーキ派。三冠ウマ娘・ヘキサグラムスターと見た目でキャラ被りしているのが最近の悩み。アスカらの二つ上の世代。
見た目・栗色のお団子ツインテール。細長い横髪。額に小さい流星。
勝負服・オレンジの着物風勝負服。
・ダークイーグルス(168㎝くらい)
ちょっと厨二病気味なウマ娘。彼女の世界観はあまり他のウマ娘には理解してもらえない。家ではワシはもちろん、カラスも飼っている。鳥とお話しできる。アスカらの一つ上の世代。
見た目・黒髪のボサボサのロングヘアー。左目が隠れている。アホ毛。右側を円状の謎の器具で覆っている。(本人しかその器具のことを知らない。)
勝負服・紫を基調とした奇抜な勝負服。
ウマ娘~オンリーワン~ 19R
前回に引き続き、ややネガティブな表現があるかもしれません。ご注意ください。
あと、めっちゃ長くなってしまいました。ごめんなさい。
19R「もっと大切なこと」
アスカ「―――あれ、ここは?」
目を覚ますと、あたしは真っ暗闇の中に立っていた。
後ろから、誰かの足音が聞こえる。
「タッ、タッ、タッ、タッ……」
そして、あっという間にあたしの方へと近づき、そしてあっという間に去っていった。
アスカ「―――あっ、アスターっ!」
それは、アスターだった。しかし、あたしの声に気づかなかったのか、振り向きもしないで彼女は去っていった。
そして、また複数の足音が聞こえてくる。
クリスとユニバだ。二人で話しながらあたしの横を通りすぎる。
アスカ「クリス!ユニバ!」
すると、二人は気づいてくれたが、
クリス「あ、アスカちゃん!先行ってるね!」
ユニバ「お待ちしていますので………」
そう言い残し、二人は去っていった。
また足音が聞こえる。
ガーネット「よお、アスカ。何突っ立ってんだ?早く走らないとどんどん置いてっちまうからな。んじゃ、先行ってるぞ。」
アスカ「……ガーネット!」
「タッ、タッ、タッ、タッ……」
アルノ「あっ、アスカさん!先行ってますね。それでは!」
アスカ「……アルノ!」
「タッ、タッ、タッ………」
マロン「うわあ~っ!アスカさんだぁーっ♪マロンちゃんたちみんなで、アスカさんのこと待ってますからね。ゆっくりでいいですよ~!それじゃあまた!」
アスカ「………待って、マロン!」
みんな、行ってしまった。
あれ?でも、誰かもう一人忘れているような…………
すると、誰かに後ろから背中をポン、と叩かれた。
振り返る。
アスカ「―――グッド!」
グッド「アスカ殿!やっと追い付いた!寂しかったんだ。ずっと一人で真っ暗闇を走ってて。よかった。もう安心だな。それじゃあ!」
アスカ「待って!」
あたしは、再び走り出そうとするグッドの腕を掴んだ。
アスカ「……ここはどこなの!?なんでみんな走ってるの?“先行ってる”ってどういう意味!?教えてよ、グッド!」
グッド「……どうしたんだ?アスカ殿。熱でもあるのか?“みんな走ってる”って、そんなの当たり前じゃないか。逆に聞くが、何故アスカ殿はそこに立っているんだ?そこに立ったままだと、みんなに《《負けてしまう》》ぞ。」
グッドは、不思議そうな顔をして、あたしの顔を覗きこむ。
アスカ「“負ける”って………??」
グッド「……おっといけない。こんなところで立ち止まってちゃ、みんなに追い付けない。それじゃあな、アスカ殿!あたしもみんなに追い付いて、その先で待ってるから!アスカはアスカなりのペースで進んでいけばいいからなーっ!」
グッドは、目にも留まらぬ速さで走りだし、あっという間に真っ暗闇の中へ消えてしまった。
もう、足音も何も聞こえない。
アスカ「―――みんなぁーーっっ!!どこにいるのーっ!!アスターっ!クリス!ユニバーっ!ガーネット!アルノ!マロン!グッドーっ!!」
しかし聞こえてくるのは、あたしの発した声が跳ね返り、反響した音だけ。
アスカ「先に進めば、みんないるのかな……??」
あたしは、足を踏み出して、走り出す。
「ズキッ」
アスカ「い"っ………!!!」
左足が、とても痛くなり、走れない。
あたしは、あまりの痛さに、その場に倒れこんでしまった。
視界がぼやける。意識がもうろうとする。
ああ、なんだか分かった気がする。
あたしは、なんてことを――――
アスカ「―――ハッ!!」
目が覚めた。周りを見渡すと、そこには真っ暗闇ではなく、ありがちな病室の風景が広がっていた。
「あっ………!アスカさん!大丈夫ですか!?」
ベッドのそばには、トレーナーがいた。
心配そうな目でこちらを見ている。
アスカ「………あれ…何であたし………」
あたしは、勝負服を着ていた。
――――そうだ、レース!!
アスカ「トレーナー、レースは!?」
篠原「レースは、中止です。だって、途中で骨折して、その場に倒れこんだものですから。しかし、無事で本当によかったです。」
そうだ、あたし、急に左足が痛くなって、それで…………
アスカ「……あたし、迷惑かけちゃったよね………」
篠原「そんなことないです!迷惑だなんてとんでもない!」
トレーナーがそう否定するほど、あたしは申し訳なくなっていた。
悪いのは全部あたしだ。こんな奴が骨折したって、自業自得なんだ。だから、そんな奴の心配なんて、することないのに。
アスカ「…………あたしね、本当は、マイルチャンピオンシップなんて、走りたくなかった。だけど、無理して走ってた。中途半端な気持ちで走ってた。トレーナー、ごめん。あんなにあたしに尽くしてくれたのに。期待してくれてるみんなにも申し訳ないよ………ごめんなさい、ごめんなさい………ごめんなさい……!!……うっ…うわぁーーーっっ!!」
あたしは、今まで思っていた全てを、吐き出した。
口が、言うことを聞かない。
今まで溜めていたモヤモヤが、たくさんあたしの口から流れ出ていく。
そして、涙がとめどなく溢れてくる。
いままで、あたしに溜まっていたモヤモヤが、一気に爆発した。
篠原「………そんなこと、ないですよ。申し訳ないなんて、思わなくていいんです。アスカさんは、アスカさんのままで走ればいいんですよ。それに、中途半端でもいいんです。気持ちがこもってなくても、そんな時だってありますから。アスカさんは、アスカさんなりのやり方で走ってください。」
あたしは、さっき見た夢を思い出していた。
『ゆっくりでいいですよ~!』
『アスカはアスカなりのペースで進んでいけばいいからーっ!』
そっか、そういうことだったんだ。
あたしは、みんなに追い付かないと、ということばかり考えてしまっていた。
でも、あたしなりのペースでも、いいんだ。
期待だって、全く気にしなくてもいいんだ。
そう思うと、なんだか走るのが怖くなくなってきた。
あたしは、あたしなりのペースで進んでいけばいいんだ。
もう相手と比べるのはやめよう。
期待に応えようとするのは、やめよう。
---
グッド「―――あっ!アスター殿!マイルチャンピオンシップ、凄かったぞ!優勝おめでとう!」
アスター「………ありがとう。………何で、あなたがここに?」
グッド「アスカ殿が、気になってな。アスカ殿が走っている姿が見たかったんだ。だから、トレーナー殿に頼み込んで、香港遠征前の練習を、今日は無しにしてもらった!……しかし、まさか競走中止とはなあ……アスター殿、なんかアスカ殿に変わりはなかったか?」
アスター「………そうね………ゲート入りを嫌がってた………ひょっとして、走るのを嫌がっていたんじゃないかしら。」
グッド「なるほど。アスカ殿も、色々悩んでたんだな。アスカ殿も、骨折してしまい、色々大変だろうし、今日は折角来たが、会うのはやめておこう!それじゃあ、また学園で!」
アスター「……ええ。」
---
お医者さんの説明によると、あたしは、やはり骨折らしく、早くて全治6ヶ月だといわれた。
そして、一週間ほど病院に入院することになった。
クリス「―――アスカちゃーんっ!お見舞いに来たよーっ!」
ガーネット「土産もあるぞ。」
アスカ「みんなありがとう!」
マロン「みんなで選んだんですよ!アスカさんに元気になってほしいから!」
ユニバ「アスカさん……お体大切にしてください………」
ガーネット「そうそう。お前がいなきゃ、寂しいんだよ。アタシ一人きりの部屋なんて、ゴメンだからな。」
アルノ「早く退院できるといいですね!私も骨折したことあるので、アスカさんの気持ち、とっても分かります。早く治して走りたいですよね。」
アスカ「うん。そうだね。」
不思議だ。今までだったら、アルノの言うことも否定していただろう。
だけど、今はすごく共感できる。今すぐにでも走りたい。
―――だからこそ、後悔したことはいっぱいある。
なんで、あの時ちゃんと走れなかったんだろう。
なんで、あの時ちゃんと喜べなかったんだろう。
あたしの様な立場に、立ちたくても立てない人なんて大勢いるのに、あたしはそれを無駄にした。
でも、まだ間に合う。
まだシニア級にもなってないんだから。
これから一生懸命走って、
たくさんたくさん走って、
この後悔を埋めるんだ。
だから、まずは骨折を治さなきゃ!
クリス「―――あっ、そうそう。香港に遠征したグッドちゃんとも、なんと繋がっていまーすっ!グッドちゃーんっ!」
そう言って、クリスはスマートフォンの画面をあたしに見せた。
グッド「≪――あ!アスカ殿!元気か?骨折は大丈夫なのか?≫」
グッドは、ジャージを着ていた。きっと向こうでトレーニングをしていたのだろう。
アスカ「う、うん!へーきへーき!」
グッド「≪そうか!それはよかった!骨折、早く治してくれたまえ!じゃなきゃあたし、アスカ殿と全然勝負出来ないからなー!≫」
アスカ「……えっ……?」
グッド「≪すまない。アスカ殿。あたしも、マイルチャンピオンシップで、アスカ殿と一緒に戦いたかった。でも、『香港のレースに出ないか』って香港から招待状が届いてな。トレーナー殿と真剣に話し合ったんだが、『こんな機会、二度と訪れないかもしれない』ってなって、あたしは香港に遠征することにしたんだ。でも、ここまで来れたのも、全部、アスカ殿のお陰だ。アスカ殿がいなかったら、あたし、こんなに強くなれなかった。目標があるから、あたしは強くなれたんだ。感謝してるぞ!だから、その恩返しに、あたしは香港マイルを勝って見せる。見ていてくれ!アスカ殿!そしてみんなも!あたしの夢を叶えて見せる。だって、あたしの夢は、“世界一のウマ娘”だからな!……それじゃあ、あたし練習に戻るから。じゃあな、アスカ殿、みんな!≫」
その言葉を最後に、グッドとの通話は切れた。
アスカ「……みんな、お見舞いありがとう。とっても元気でたよ。みんなも、色々忙しいでしょ?あたしはもう大丈夫だから。お土産もおいしく食べるね。じゃあ、みんな今度は学園で!」
ガーネット「……お、おう。お大事にな………」
クリス「うん!じゃあね、アスカちゃん!」
マロン「マロンちゃんたち、待ってるから~♪」
そう言って、みんな病室から出ていった。
---
ガーネット「な、なあ。アスカ、なんか冷たくなかったか?なんかアタシたちを急かしているような感じがしたんだが……」
マロン「もぉーーっ!ガーネットは察しが悪いんだからーっ!あんなこと言われたら、誰だって泣きたくなるでしょっ?」
アルノ「――うぅ……うわあ~っ!」
クリス「もーっ、アルノまで泣くことないのにー!」
ユニバ「アっ……アルノちゃん、大丈夫ですか……??」
アルノ「うえーん……だって、グッドちゃんの言ったこと、とっても感動的だったから……いいライバル関係だなあって……うわーん……!!」
ガーネット(………なるほどな。アイツ、アタシたちの前で泣くところ、見せたくなかったのか。)
アスカ「う……うわぁぁぁああっっ!!!」
みんなの前では、中々泣けなかったが、みんながいなくなった途端、涙が出てきた。
グッドは、あたしをずっと目標にしていたなんて………
それに、“あたしがいなかったら、こんなに強くなれなかった”って。
あたしにも、ちゃんと走る意味あったんだ。
例え、重賞やGⅠを勝ったことがまぐれでもあたしは、グッドを勇気づけることが出来たんだ。
じゃあ、余計に頑張らないと!
見ていてよ、グッド。あたし、君よりも強くなって見せるから。
あたしがグッドの目標なら、やっぱりあたしはグッドより上に立ってないと、ダメなんだ……!
〈一週間後〉
松葉杖をつきながら、あたしはようやく退院し、トレセン学園へ通えるようになった。
トレーニングも、少なくとも春になるまでは休みだとトレーナーに言われた。
トレセン学園の校舎内に入り、教室に行くために松葉杖をつきながら廊下を歩く。
すると、向かい側には、アスターがいた。
目が合う。
アスカ「あっ……、アスター!久しぶり。」
アスター「……久しぶり。脚は大丈夫なの?……その…お見舞い、みんなと行けなくてごめんなさい。ここ最近、トレーニングとか雑誌のインタビューとか、色々と忙しくて………」
アスカ「ううん、全然。マイルチャンピオンシップ、優勝したもんね。おめでとう。さっすがアスター!」
アスター「……言い過ぎよ。………お節介かもしれないけど、少し心配してたのよ。でも、元気そうで良かったわ。」
アスカ「うん。実は、ちょっと何のために走っているのか分からなくなっちゃってさ。……でも、もう見つけたから。走る理由を!」
アスター「そう。そうだったのね………あなた、URAの賞を私と一緒に受賞したときに、『目標は?』って聞かれて、何て答えたか覚えてる?」
アスカ「……えっ…………」
その言葉で、あたしは思い出した。
司会「―――さあ、続いて、アスカウイングさん。アスカウイングさんも、昨年はサウジアラビアロイヤルカップ、そして朝日杯フューチュリティステークスを勝ち、最優秀ジュニア級ウマ娘に選ばれましたね。それでは、今年の目標をどうぞ!」
アスカ「はい。あたしの目標は、たくさんのライバルたちと切磋琢磨することです。ライバルがいるからこそ、乗り越えられる壁があると思うので!だから、ただ強くなりたいって思うだけじゃなくて、周りにいるたくさんのライバル―――仲間を大切にしたいです!……もちろん、今となりにいるアスターも、大切なライバルの一人です!―――」
思い出した。そうだ。そんなことを言っていた。
アスター「――珍しく、私は今でもあなたの言ったその言葉を覚えているわ。私は、あなたの大切な|仲間《ライバル》なんでしょう?あんなことを言ったあなたが、ライバルの私に負けてどうするのよ。それに、グッドさんにだって負けてるし、このままじゃ、あなたみんなに負けてしまうわよ。ライバルと切磋琢磨するどころか、あなた、置いてかれちゃうわ。―――アスカウイングは、そんなウマ娘じゃないって見せつけてやりなさいよ……!」
―――そうだ。アスターの言う通りだ。
何やってんだ、あたし。
そうだよ。のんきにアスターの優勝を祝福している場合じゃなかった。
そうだよね。このままじゃみんなに置いていかれちゃう。
この間見た、夢みたいに。
あたしは、もっと頑張らなきゃいけない。
グッドだけじゃなくて、アスター、ガーネット、クリス、ユニバ、アルノ、マロン………一緒に走る機会は、ないかもしれないけど、みんなみんな、あたしの大切な仲間だ。
仲間がいるだけでも、すごいことなんだ。
アスター「……あ、ごめんなさい。ちょっと言い過ぎてしまったかもしれないわね……」
アスカ「ありがとう。アスター。あたし、もっと大切なこと見つけられた気がする!それじゃあ、先教室行ってるね!」
アスター「あっ……どう、いたしまして………?」
あたしは、松葉杖をつくスピードを早めた。
なんだか、教室に行くのが、待ち遠しかった。
-To next 20R-
ウマ娘~オンリーワン~ 20R
第3部〈ジャパンカップ〉
20R「デジャヴ」
「―――ママ、行ってきます。」
亡き母の笑顔が写った写真に向かい、私は手を合わせた。
私―――ユニバースライトは、三冠ウマ娘になれなかった。
クラシック三冠レース最後の菊花賞で、アルノちゃんとクリスちゃんに負けた。
私の実力不足だ。アルノちゃんとクリスちゃんはとても強かった。
でも、私は新たな目標を決めた。
ママを越えるウマ娘になるって。
ママは皐月賞、日本ダービーと、GⅠを2勝している。
今の私も、全く同じだ。
だから、私はさらにGⅠを勝ってみせる。
GⅠをたくさん勝って、ママを越えたい。そして、ママを喜ばせたい!
でも、今回は初めてのシニア級のウマ娘たちとレースをする。
それに、シニア級のウマ娘の人たちはみんな強い人たちばかりだ。
特に去年の三冠ウマ娘―――ヘキサグラムスターさんが強敵だ。
前走のGⅡ・オールカマーも勝って、ジャパンカップ勝利に大手をかけている。
私、勝てるのでしょうか……?
〈ジャパンカップ当日〉
実況「―――さあ!ジャパンカップがやって参りました!今年も、強い海外のウマ娘が9名揃いました!しかし、そんな中での一番人気は、やはりこのウマ娘!1番・ヘキサグラムスター!去年の三冠ウマ娘であり、今年もGⅠを含む重賞4勝!今年も大活躍です。ジャパンカップを勝利し、GⅠ5勝目となるか!
続いて二番人気は、8番・ユニバースライト!こちらは今年の二冠ウマ娘です。ヘキサグラムスターを下し、GⅠ3勝目となるか!
四冠ウマ娘vs二冠ウマ娘の2強対決が注目となります!――――」
やっぱり、ダメかな………
ヘキサさんは、間近で見てもとても強そうに見える。
でも、ヘキサさんとは実は一度だけ戦ったことがある。
あれは、宝塚記念の時だ――――
---
実況「―――さあ、第4コーナーを曲がり、最後の直線へ!16番・ヘキサグラムスター、リードが無くなって来たか!?二番手との差が縮まっていく!四冠ウマ娘、破れてしまうのか!?―――先頭は変わった!伏兵だ!6番人気の伏兵だぁーっ!!これでGⅠ3勝目!まさにミラクル!四冠ウマ娘、敗れました!」
ヘキサさんは3着。
私は4着。
あと少しだった。
今回は、勝てるかな………?
---
実況「さあ、枠入り順調。最後に18番・ヒノデウイングがゲートに入り、体制が整いました。日本勢が勝つか、それとも海外勢が勝つのか。ジャパンカップ―――」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!まずは先行争い!やはり1番・ヘキサグラムスターが制しました!四冠ウマ娘が、17人のウマ娘を引き連れます!2番手は―――なんと、8番・ユニバースライトだ!先行策に躍り出ました!」
私は、ヘキサさんの後ろに位置を取った。
いつもとは違うポジションだけど、ここならヘキサさんが見れる。
ヘキサさんがスパートをかけたら、すぐに私も――――
実況「飛ばしに飛ばす!1番・ヘキサグラムスター!リードは4バ身!2番手はユニバースライト!虎視眈々とタイミングを伺う!」
ヘキサさんの逃げがこんなにすごいなんて………
まるで、アルノちゃんみたい………
---
実況「―――ユニバースライト、3番手のまま届かない!三冠の夢は散った!先頭は、逃げる!アルノオンリーワン!アルノオンリーワン!オンリーワンです!―――」
――――負けたくない。
|あのとき《菊花賞》みたいには、絶対になりたくない。
上等です、ヘキサさん。
そんなに逃げるのなら………
私はどこまで逃げても、捕まえて見せます。
ユニバ「―――はぁぁぁああああっっ!!!」
実況「さあ、第4コーナー手前!ユニバースライト、早くもここで仕掛ける!先頭は四冠ウマ娘・ヘキサグラムスター!リードはまだある!ユニバースライト、追い詰める!しかし、差は全く縮まりません!」
―――そんな、なんで??
こんなに全力なのに……
なのに、全然追いつけない。
実況「ユニバースライト、ズルズルと後退していく!先頭はヘキサグラムスター!」
なんだ、全く一緒じゃん。
|あのとき《菊花賞》と、全く一緒じゃん――――
私、なんにも変われてないんだ………
実況「―――ゴォーールっ!!先頭はヘキサグラムスター!5バ身差で圧勝!海外にその強さを示しました!」
私は4着―――――
ヘキサさんとアルノちゃん、とても似ていた。
三冠ウマ娘にふさわしいのは、私じゃなくてアルノちゃんだったのかな。
いずれ、アルノちゃんは私よりも強くなるのだろうか。
ああ、悔しいな―――――
---
レースが終わった。
私は、控室の扉を開けようとした。
そのとき―――
「―――ユニバ君!」
誰かに話しかけられた。後ろに目をやると――――
ヘキサ「やあ。君と合うのは初めてだね。」
ヘキサグラムスターさんだった。
ユニバ「……私に、何か用でも……?」
ヘキサ「ああ。君と会って話がしたいと思ったんだ。君は、二冠ウマ娘だろう?同じクラシック戦線で活躍した者同士、どこか気が合うんじゃないかと思ってね。」
気が合う―――――
ううん、気が合うのは私じゃなくて―――――
ユニバ「……私とヘキサさんは、気なんて合わないと思います。ヘキサさんは私じゃなくて――――アルノちゃんとの方が気が合うと思いますよ。だって……走りも、雰囲気も、何もかも違った。私なんかより、アルノちゃんの方がヘキサさんみたいに強いウマ娘になるのにふさわしいと思うんです。……それでは。」
私はくるりとヘキサさんから背を向け、再び控室のドアノブに手を掛けた。
ヘキサ「――――どうしてだ?」
ユニバ「―――えっ……??」
ヘキサ「どうして、君はそんなに自信がないんだ?どうして、君はそんなに弱気なんだ?君は二冠ウマ娘だろう?もっと誇りに思うべきだ。君はクラシック級でもトップレベルのウマ娘だ。そんなウマ娘が、“私なんか”?……自信は、実力にも現れる。僕も、レースに勝てないときもあった。だけど、『僕なら|出来《やれ》る』と信じて、今まで走ってきた。『私なんか』と言っているようじゃ、トゥインクルレースを引っ張っていけるようなウマ娘にはなれない。君も最強になりたいんだろ?ユニバースライト。僕を越したければ、“私なんか”と言うのはやめて、自分を信じてひたむきに努力するのみだ。―――次は有マ記念で待ってるよ。ユニバ君。」
そう言いながら、ヘキサ先輩は私の前から去っていった。
ヘキサ「―――……まぁ、ユニバ君の言う通り、僕とアルノ君は似ているのかもしれないがね……―――」
有マ記念―――――
本当なら、ジャパンカップが年内最後のレースの予定だったけど、どうしよう………
……トレーナーさんに相談してみよう。
アルノちゃんも、もしかしたら有マ記念に出走するかもしれない。
次こそ、アルノちゃんとヘキサさんに勝ってみせるんだ。
そして、ママも越えて見せる――――
-To next 21R-
ウマ娘~オンリーワン~ 21R
第4部〈ステイヤーズステークス〉
21R「違う」
菊花賞から2ヶ月。
私―――アルノオンリーワンは、次のレースに向けて動いていた。
次走はステイヤーズステークス。
中山レース場の芝3600mのGⅡ。
芝のレースでは日本一の長さを誇ると言われるレースだ。
菊花賞よりも600m長い。
長距離を得意とする私にはうってつけのレースだ。
残りの年内はステイヤーズステークス、有マ記念の順に出走する予定でいる。
初めてのシニア級ウマ娘とのレース。
緊張する。だけど、私の得意な長距離レースだ。負けるわけにはいかない。
〈レース当日・中山レース場〉
実況「さあ、はじまりました!現役最強ステイヤー決定戦・ステイヤーズステークス!今年は、菊花賞ウマ娘のアルノオンリーワンが参戦!期待が高まっております!それでは、出走ウマ娘を紹介します。まずは圧倒的一番人気!2番・アルノオンリーワン!前走の菊花賞では9バ身差の圧勝。そしてレコードタイムをマークしました。現役最強ステイヤーに名乗りを上げるのか!続きまして、2番人気は、11番・ショウジマジック。重賞での2着を2回経験しています。重賞初制覇なるか。――――」
1番人気――――
春に走った若葉ステークスの時以来だ。
私は、みんなに期待されている――――
ショウジマジック「・・・・・」
---
実況「さあ、各ウマ娘、順調に枠入りがすすんでおります。―――体制が整いました。日本一距離の長いレースを制するのは、いったい誰なのか。ステイヤーズステークス――――」
「――ガシャン!」
実況「スタートしました!さあ、内からグングン伸びてアルノオンリーワンが先頭!早くも7バ身、8バ身と後続集団に差を付けております。」
よし、スタートは上手くいった。
後は先頭をキープするだけ――――
---
ショウジマジック(――――アルノオンリーワン………絶対勝つ。長距離最強はこの私………昔から、体力だけが取り柄だった。だから、長距離で頑張った。長距離の座は譲れない。ましてや、クラシック級のウマ娘なんかには!)
実況「――――さーあ、アルノオンリーワン、独走状態!アルノオンリーワンただ一人だけが最初に第4コーナーをカーブしました!」
よし、直線!
ここからスパートだ―――――
と言っても、あまりスパートは掛けられない。
私は、加速力が弱い。
だから、最初から後続を引き離し、誰にも追い付かれないようにする。
私は、ずっとそれで勝ってきた。
大丈夫。これだけ差があれば、きっと―――――
ショウジマジック(――――逃がさない。アルノオンリーワン。)
実況「さあ、他のウマ娘も続々と第4コーナーを曲がる!おっと、外目を突いて11番・ショウジマジックが2番手に上がってきた。なんと、アルノオンリーワンとの差を詰めていく!なんという末脚!アルノオンリーワン、ピンチだ!」
ショウジマジック(阪神大賞典で、僕は同世代のヘキサグラムスターに負けた。アルノオンリーワン、お前はアイツと同じ何かを感じる。気に入らない。お前も、ヘキサグラムスターも。一人だけ、先に先に進んで………絶対追い付く!敗北を教えてやる!!)
実況「残り200メートル!ショウジマジック、アルノオンリーワンに届くか、届くか、届いた!そして、捕らえた!先頭は11番のショウジマジックだ!」
嘘………!?
何で!?あんなに離したつもりなのに………
想定外の事が起き、私はパニックになる。
知らなかった。こんなにも、こんなにも、
シニア級ウマ娘の実力がすごいなんて。
どうしよう。差し返す?
いや、加速力が弱い私にそんなことは出来ない。
いや、充分頑張ったじゃん。
3番手以下との差は何バ身差もある。
もう二着以上は確定。
大丈夫だよ。よく頑張った。
2着でもきっとみんな祝福してくれる。
それに、あんなに派手に大逃げしたんだし、充分活躍できたよ。
次頑張ればいい。次は、もっと序盤から引き離して―――――――
いや、違う。
ダメだ。こんなんじゃダメだ。
みんなが私に期待しているのに、2着じゃ満足できるわけがない。
大逃げもかっこいいけど、大逃げして1着になった方が、もっとかっこいい。
ユニバちゃんは、三冠ウマ娘になりたかったんだよ……?
クリスちゃんも、クラシック三冠レース最後の菊花賞こそ、勝ちたかったかもしれないんだよ……?
なのに、その二人の思いを差し置いて、私が勝った。
そんな|菊花賞《強い》ウマ娘が、こんなんでいいの………??
――――ダメに決まってる。
全身全ての力を、この脚に溜めて。
失敗するかもしれない。
意味無いかもしれない。
でも、ここで本気を出さなかったら、きっと後悔するから。
100%でダメなら、120%で。
それでもダメなら、200%で。
私は………………
勝って見せるっ!!!!
アルノ「――――はぁぁぁあああああああーーーーっっっ!!!!!!」
実況「アルノオンリーワンだ!アルノオンリーワン!再び加速した!驚いた!これだけの体力がまだあったのか!先頭は再び変わった!アルノオンリーワン!アルノオンリーワン!アルノオンリーワーンっ!!!―――勝ったのは、アルノオンリーワンです!菊花賞に続き、重賞2勝目!クラシック級ウマ娘にして、現役最強ステイヤーの座をモノにしました!」
アルノ「はあっ、はあっ、はあっ…………」
私、勝てたんだ…………
あれだけ苦手だった加速が、出来た!
やった!やったーっ!!
ショウジマジック「ハアッ、ハアッ、ハアッ…………」
ショウジマジック(どうしてだ………どうしてまた2着なんだ、クソっ!あんなに頑張ったのに!……それほど、アルノオンリーワンも、ヘキサグラムスターも、すごいってことなのかよ…………)
こうして、晴れて私は重賞2勝目を挙げ、ステイヤーズステークスは幕を閉じた。
〈数日後〉
牧村「みんなーっ!ちょっと集まってくれ!」
トレーニング中、トレーナーさんは、チームのみんなにそう呼び掛けた。
チームのみんなが集まる。
牧村「有マ記念の、ファン投票の結果が発表された。」
ショート「えっ!!本当ですか!!」
ブリザード「……って言っても、有マ記念は2500m……ショートはマイルだし、私はダートだから、関係ないけどね………」
ショート「でも、サンとアルノは載ってるかもしれないよ!トレーナー、ちゃんと見て!」
牧村「お、おう。分かったから……なになに……『第1位・ヘキサグラムスター』『第2位・ユニバースライト』『第3位・ヤマトレギュラー』で、第4位は――――」
牧村「『アルノオンリーワン』!!だってよ!よかったな、アルノ!」
アルノ「―――ほ、本当ですかっ!?」
牧村「ああ。よし、次は無事、有マ記念出走だな!」
ショート「おめでとう、アルノ!」
ブリザード「やったね~♪」
サン「――うう、私の名前が載ってません………」
次走は有マ記念――――
きっとヘキサさんやユニバちゃんも出走するだろう――――
もっと強いシニア級ウマ娘と競うことになる。
私は、そんな有マ記念に挑む覚悟を決めた。
-To next 22R-
~作中に出てきたウマ娘紹介~
・ショウジマジック(152㎝くらい)
無愛想で勝ちに貪欲なウマ娘。いつも論理的に行動するが、たまに衝動的に行動することもある。トランプを使うゲームはだいたい得意。
見た目……薄めの茶髪。ボサボサのショートヘアー。毛先が白い。右目が隠れている。
勝負服……青いパーカー。ところどころにピンクの飾り。短めのスカート。(今回は重賞なので着てません。)
ウマ娘~オンリーワン~ 22R
第5部〈有マ記念〉
22R「なんで私が」
私―――アルノオンリーワンは、有マ記念ファン投票の結果、4位。
晴れて、有マ記念への出走が叶った。
---
今はお昼時。今日はクリスちゃん、ユニバちゃんと三人でランチだ。
クリス「―――へぇーっ!アルノも有マ記念出走するんだ!」
アルノ「え?……てことはクリスちゃんも?」
クリス「うん!……まあ、11位だからギリギリって感じかな。ユニバも出走するよね?だって2位だよー?出走しないとは言わせないよーっ?」
ユニバ「………もちろん、私も出走します。その……“約束”があるので。」
クリス「……約束?」
ヘキサ「―――次は有マ記念で待ってるよ。ユニバ君。」
待ってて下さい。ヘキサさん。
堂々と、自信を持った私になって、
あなたを倒してみせます………!!
---
三人「いっただっきまーーすっ!!」
そう言い、三人でそれぞれのご飯を食べ始める。
クリス「……アルノ、今日もよく食べるね………」
ユニバ「すごいです…………」
アルノ「えっ?そうかな………有マ記念控えてるから、増えたら不味いと思って控えめにしたつもりなんだけど…………」
そんな私のお盆の上には、ご飯大盛り5杯分と、おかずはしょうが焼きを普通の3倍盛り、サラダも大きなボウルに溢れるほど盛りつけられていた。
アルノ「いつもの2/3ぐらいに減らしたんだけどな~。」
クリス「アルノってこう見えてあたしたち同期の中で一番食べるからね……」
アルノ「えへへっ、私はただ普通に食べてるつもりなんだけどね~っ――――」
「《――ヘキサグラムスターさん、有マ記念への意気込みは?》」
そんな声が聞こえ、私は思わずその声のする方を振り返った。
テレビだ。食堂にはテレビが設置されている。
画面にはヘキサさんが勝負服姿で映っている。
テロップには、『三冠ウマ娘・ヘキサグラムスター 有マ記念直前インタビュー!』と書かれていた。
そして、次の質問に移る。
記者「《――それでは、ヘキサグラムスターさんが、今回の有マ記念で一番意識しているウマ娘はおりますか?》」
ヘキサ「《――そうですね。僕は、アルノオンリーワンというウマ娘を特に意識していますね。》」
アルノ「ブーーーーっっ!!!」
私は、たまたま飲んでいた麦茶を思わず吹き出しそうになった。
クリス「だっ、大丈夫!?」
アルノ「……うん、ごめん、ちょっとびっくりしただけ………」
ヘキサ「《―――彼女、僕に似てると思うんです。彼女の逃げは、まるで僕自身を見ているかのような――そんな感じがするんです。彼女は、青葉賞の時から見ていました。その時から、『彼女と戦いたい』とずっと思ってきました。そして、やっと実現したんです。僕は、楽しみでたまりません。彼女と戦えるくらいなら、引退してもいいくらいです。……なんてね。――》」
クリス「―――一途だね。」
アルノ「クっ、クリスちゃん!?」
ユニバ「………ヘキサさん……やっぱり、私よりアルノちゃんの方が良いって、|解《わか》ってたんですね………」
私はあのときから、より一層トレーニングに励むようになった。
また三人で走れると思うと、とても嬉しかった。
それと同時に、負けられないという思いもあった。
しかし、トレーニング中も、私はヘキサさんの事が頭から離れなかった。
なんで、ヘキサさんは、私を――――
次第に、本番は近づいていった。
〈有マ記念当日・中山レース場〉
年末の有マ記念は、多くの人たちで賑わっていた。
やっぱり、他のレースとは|格《レベル》が違う。
みんなのお目当ては、やっぱり三冠ウマ娘・ヘキサグラムスターさんなのだろうか。
緊張する。ヘキサグラムスターさんと戦うのは初めてだ。
私は、初めてヘキサさんに会った菊花賞の時から、疑問があった。
『何で私なの?』
ずっと消えなかった。
だって、私よりも注目するべきウマ娘は山ほどいる。
二冠ウマ娘のユニバちゃん、
クラシック三冠全部2着のクリスちゃん、
それに重賞4勝のルナビクトリーさんに、ホープフルSを勝ったカナタサンセットさん、
有マ記念に出走するメンバーだったら、ヤマトレギュラーさんがいる。
何で、私なんだろう………
---
「パーパパーパパーッ♪」
ファンファーレが鳴り響く。
実況「さあ、有マ記念が始まりました!人気のウマ娘は、一番人気、6番・ヘキサグラムスター!五冠ウマ娘です!去年は香港に遠征していたため、有マ記念には出走出来ませんでした。――」
「――おお!香港!あたしと同じだ!」
グッド「奇遇だな~!」
マロン「アルノちゃんたち、どこだろう?」
アスカ「サプライズってことで三人には内緒で見に来たからねー。びっくりするかな?」
グッド「ああ!もちろんだ!みんなで三人を勇気づけようじゃないか!」
アスカ「香港で負けたのに、すごい元気だねー、君は。」
マロン「えっ!?やっぱ負けちゃったの??グッドさんから香港のこと何も言わないから、負けちゃったのかなーって思ってたけど………」
グッド「ああ。みんなには後ろめたくて話せなかった。アスカ殿には言ったのだが………全く、情けない。アスカ殿にもあんなに堂々と自信一杯に言ったのに……」
アスカ「ううん、全然。君のお陰であたし、元気になれたから。」
マロン「……にしても、アスターちゃんも出れば良かったのに。有マ記念。アルノさんといい勝負してたよ?だって《《5位》》でしょ?」
アスター「……いくらなんでも、距離が合わないわよ……」
アスカ「アスターはファンに人気だからねー。だって、この間のマイルチャンピオンシップは、歴史に残る偉業を成し遂げたわけだし!」
マロン「アスターちゃんのぬいぐるみ、たくさん売れてるしね!とっても似てた!マロンちゃんもゲットした~♪」
アスター「………ッ…!いつの間に………」
ガーネット「………それに比べ、アタシは7位……まあ、これが妥当なのか………」
マロン「マロンちゃん15位ー♪」
グッド「あたしは17位だった!マイルが得意距離だったからこの結果は意外だな!」
アスカ「うっ………あたし圏外………得意距離伸ばしたら、もっと上がるのかな…………」
ガーネット「―――おい!お前ら、もうすぐ始まるぞ!」
実況「―――が最後にゲートに入り、体制が―――」
グッド「ああーっっ!!結局三人見つけられなかったーっ!!」
実況「――有マ記念―――」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!」
みんな「三人共頑張れーっ!!」
---
「ガシャン!」
ゲートが開いた。
私は、勢いよく前に飛び出した。
こんな時に限り、となりのゲートがヘキサグラムスターさん。
とっても緊張した。
実況「5番・アルノオンリーワン、良いスタートを切り、先頭に躍り出ました!そして、2番手には6番・ヘキサグラムスターが控えます。」
ヘキサさんが後ろ――――
なんだろう…………
|威圧感《プレッシャー》を強く感じる………
実況「先頭は5番・アルノオンリーワン!そして、5バ身差で2番手は6番・五冠ウマ娘ヘキサグラムスター!さらにニバ身差で8番・ディスイズプレーン!ジャパンカップは2着でした。さらにそこから半バ身差で7番・三番人気ヤマトレギュラー!それを見る形で9番・ユニバースライトと14番・クリスタルビリーが並んでおります!後続集団は前方の方で固まっている状態です!」
ヘキサ(………ははっ、やっぱりすごいなあ、アルノ君は。)
彼女がバテたのを一度も見たことがない。
負けるときはいつも加速力の問題で追いつかれてしまうだけだ。
しかし、前走のステイヤーズステークスは、その加速力の問題を克服し、見事差し返して優勝。
彼女に加速力さえ備われば、この僕でさえ負けてしまうほど無敵になるだろう。
だが、体力があるのは、君だけではない!
僕は菊花賞、阪神大賞典、天皇賞(春)――――
3000m超えのレースに三度優勝している。
スタミナは君にも負けない。
さあ、君を眺められるこの|特等席《二番手》から、
君の|実力《おてなみ》を拝見するとしようじゃないか―――――
実力「さあ、1000m通過タイムは、なんと58秒!!過去のタイムとは比べ物にならないほど速いです!」
ユニバ(アルノちゃん!?でも確かに、私は結構前の方で走っているのに、アルノちゃんの姿は全く見えない…………どこまでいっちゃうの!?)
クリス(さすがアルノ……だけど、あたしだって負けてられない!)
実況「さあ現在第3コーナーを過ぎたところ!14番・クリスタルビリー!ぐんぐん上がってきた!さあ、ここまで速いと、心配になります!アルノオンリーワンは最後の直線まで持つのか!?」
クリス(有マ記念は、トゥインクルシリーズのレースでは1番と言って良いほど有名なレース―――だから、見てもらうんだ!“あの人”に!!私は、|トゥインクルシリーズ《ここ》に、いるよって!!)
実況「さあ、アルノオンリーワンが先に第4コーナーをカーブ!後続のウマ娘も続々とカーブしていきます!」
ヘキサ(へぇ………まだこんなに差が………アルノ君。僕は少し君を見くびっていたみたいだね。……でも、僕は絶対に君を捕まえて見せる………!!)
さあ、お遊びはここまで。
これからが|本当のレース《ほんばん》なんだから……………
-To next 23R-
ウマ娘~オンリーワン~ 23R
23R「六冠ウマ娘からの呼び出し」
胸がドクドクと脈打つ。
緊張して上手く息を吸えない。
いつ抜かされるか分からない恐怖が、私を襲う。
今にも脚が止まりそうだ。
でも、ヘキサさんの前でそんなことできるはずがない。
あと、何メートルだろうか。
耐えろ、私!!
ヘキサ(――――さあ、アルノ君は僕の末脚に勝てるかな…………?)
ヘキサ「はぁぁぁああああっ!!!」
実況「来ました!来ました!6番・ヘキサグラムスター!徐々に差を積めていく!なんという末脚!これが五冠ウマ娘の実力!!あっと言う間に並んで、交わした!先頭はヘキサグラムスター!」
―――何が起こったの???
誰に抜かされた?
そもそも抜かされたの?
それも分からないくらい、とても速かった。
あんなの、勝てるわけないじゃん。
私の弱り果てた心は、直ぐに絶望へと切り変わった。
そして、今までの疲れが、ここでドッと来てしまった。
実力「―――アルノオンリーワン失速!後退していく!外からユニバースライト!間からヤマトレギュラーがヘキサグラムスターに打ち掛かりましたが、全く届かない!勝ったのは、ヘキサグラムスター!………完封勝利!まさに横綱相撲です!|星《スター》は|六芒星《ヘキサグラム》となってさらに輝きを増しました!!―――2着は、ユニバースライト!3着はヤマトレギュラー!」
気がついたときには、目の前の景色は、たくさんのウマ娘で埋め尽くされていた。
私は、負けた。
掲示板にすら載っていない。
負けた。
負けた。負けた。
負けてしまった―――――
---
アルノ「―――トレーナーさん、ごめんなさい………!!」
控え室で、私はトレーナーさんに頭を下げた。
また、失望させてしまったに違いない。
牧村「いいって、いいって。爪痕はちゃんと残せたんだから。それにアルノが失速するまではどっちが勝つか分からないくらいアルノの大逃げは、すごかったんだぞ。」
アルノ「――ほ、本当ですか……?」
そう私が言ったとき―――――
「コンコン」
控え室のドアをノックする音が聞こえた。
牧村「……はい。」
トレーナーさんがそう返事をすると、控え室の扉はガチャリと開いた。
訪ねてきたのは、女性だった。
黒い女性用スーツをビシッと着こなし、黒髪の眼鏡を掛けたいかにも几帳面で真面目そうな女性だ。
いったい何の用だろう…………
「―――突然失礼致します。わたくし、ヘキサグラムスターのトレーナーをやっております、黒井と申します。申し訳ありませんが、アルノオンリーワンさんをお連してもよろしいでしょうか?……何でも、本人が『連れてこい』って聞かないもので…………」
牧村「あっ、ああ………全然、良いですけど……………」
アルノ「じ……じゃあ、いってきますね…………」
トレーナーさんも私も、キョトンとしていた。
---
連れてこられたのは、ヘキサさんの控え室だった。
黒井と言ったその女性は、ドアをノックし、開ける。
黒井「ほら、連れてきたわよ。」
ヘキサ「―――ああ、ありがとう。済まないね。」
ヘキサさんは、まだ勝負服を着ていた。
そして、椅子に座り、お茶を飲んでいた。
黒井「では、わたくしはここをしばらく外しますので、ごゆっくり。」
そう言って、黒井さんは控え室を出ていってしまった。
え………?二人きり…………??
急に呼び出され、いきなり二人きりにさせられ、私は、何がなんだか全く理解できなかった。
ようやく、ヘキサさんが口を開く。
ヘキサ「………お茶でも飲むかい?」
アルノ「………あ、はい。」
わざわざお茶を淹れてくれるということは、ここに長時間いることになるのだろうか。
ヘキサ「まあ、座るといい。」
ヘキサさんがお茶を注ぎながら、自分の前の席を示す。
言われるがまま座り、淹れてもらったお茶を飲む。
アルノ「――――あっつ!!!」
ヘキサ「……おや、大丈夫かい?よく冷ましてから飲んでくれたまえ。」
アルノ「……はい。」
ヘキサ「………君に、是非話しておきたいことがたくさんあってね。……だから君を呼んだんだ。」
アルノ「…………なんで私なんですか?」
ずっと疑問に思っていたことをぶつける。
ヘキサ「………何でって、僕と君は同じ逃げの才能があるし、髪色も似てるし、得意距離も同じ長距離だ。………だから―――」
アルノ「私とヘキサさんは全然似てないです。だって今日、有マ記念で負けちゃったし…………8着ですよ?私は、ヘキサさんとは違うんです………」
ヘキサ「僕はこの有マ記念で引退する。」
アルノ「…………………えっ……!?」
ヘキサ「………少しは聞く耳をもってくれたかな?」
アルノ「どっ、どうして………」
ヘキサ「……脚の状態が悪くてね。これ以上走ったら悪化すると医者に言われたんだ。だから、有マ記念をもって、僕はトゥインクルシリーズを引退する。」
アルノ「…………そ、そんな……私、ヘキサさんともっと戦いたかったのに…………あんなので最後だなんて…………!」
目の周りがジーンと熱くなる。
ヘキサ「僕だって、君ともっと戦いたかった。だけど、こればかりは仕方がない………アルノ君と戦えて、本当に良かった。ありがとう。」
アルノ「そんな………お礼を言われる筋合いなんてないですよ…………」
ヘキサ「……最後に、君に言っておきたいことがあってね。聞いてくれるかい?」
アルノ「……はい。」
ヘキサ「アルノ君。君はいつか絶対に最強のウマ娘になる。僕がそう保証する。」
アルノ「―――な、何を言い出すかと思ったら、何ですか急に……」
ヘキサ「君に、自信を持ってもらいたくて。今日の有マ記念だって、8着だったことに君はすごく落ち込んでいた。……分かるよ。その気持ち。僕にもそんな時期があった。」
菊花賞で三冠を達成したあと、僕は香港に遠征することになった。
僕は、日本中の期待を背負って挑んだ。
だが―――――
実況「―――――11番・ヘキサグラムスター、ここまでか!先頭は8番――――」
世界の壁は、高かった。
あんなに全力で走ったのに、意図も簡単にとらえられてしまう。
三冠ウマ娘も、海外では無力に等しかった。
ヘキサ「―――――あの時は悔しかったし、どんな面持ちで日本に帰れば良いか分からなかったよ。………だけど、その日から僕は決めたんだ。『自信を持とう』って。そしたら、レースもリラックスして挑めるようになって、たくさんのレースに勝つことができた。アルノ君、これは|経験者《せんぱい》からの助言だ。どんなに無謀なことでも、願っていればきっと叶う。現実になって返ってくる。それを信じて、前を向いて進むんだ。」
アルノ「………はい…!!」
ヘキサ「君は、いつか僕を超えるウマ娘になるだろう。―――どのようには分からないがな。」
アルノ「………な、なんでそんなことが言えるんですか……??」
ヘキサ「……ははっ、僕の勘は当たるんだよ。今回の有マ記念だって、アルノ君はきっと出走するだろうと思ってた。……あーっ、にしても、現役最後のレースになった有マ記念で、アルノ君とも戦えて、番号も僕の好きな数字になって、六冠ウマ娘にもなれて…………僕は、幸せ者だよ。“有終の美”というものは、まさにこの事だと理解したね。」
アルノ「―――――な勝すれば良いですか?」
ヘキサ「……ん?なんだい?」
アルノ「………7勝すれば良いですか?GⅠを。ヘキサさんはGⅠを6勝しました。だから、それを超えるGⅠ7勝すれば、私はヘキサさんを超えられるんですか?」
ヘキサ「………ああ。………《《もし》》そうなったらな。」
アルノ「………なってみせますよ。あなたが勝った天皇賞(春)だって、たくさん勝つし、ジャパンカップだって、有マ記念だって、あなたの勝てなかった宝塚記念だって………!!全部全部、勝って見せます。まだ私は一勝しかしてないけど………私には、まだまだ時間はたくさんある。ヘキサさんを、絶対超えて見せますから!……それでは!」
私は、控え室のドアを勢いよく開け、控え室から飛び出した。
ヘキサ「あっ、ウイニングライブ、是非見に来てくれたまえーーっっ!!」
ヘキサさんのそんな大声に反応する暇もなく、私は駆け足で自分の控え室へと向かった。
アルノ(――うーーっっ!!私ったらつい勢いであんな事を!!それもよりによって|六冠ウマ娘《ヘキサグラムスター》の前で!!!……………でも……)
アルノ(―――そういえば、私があんな事を言ったにも関わらず、険しい表情一つもしなかった………ヘキサさん、本当に私なら出来ると―――)
---
ヘキサ「はーあ。……全く。あんなこと言っちゃって。」
ヘキサ「……………でも、アルノ君は本当に言った通りのことをしてしまうから、怖いんだよなぁ…………」
「ガチャ」
アルノ「ゼェ、ハァ、ゼェ……ト、トレーナー……ゼェ、ゼェ………さん………ただいま……戻りました……………ゼェ、ゼェ、ハァ、ハァ………」
牧村「ど、どうした!?何があった!?」
アルノ「………いや、これは……ハァ、ハァ…………何でも……無いんです………………ト、トレーナーさん…………」
牧村「……何だ?」
アルノ「………私、ヘキサさんと約束してきました。……て言っても、一方的なんですけど…………」
牧村「??」
GⅠ7勝――――とても大きい目標だと思う。
でも、私はずっと思ってたんだ。
|唯一無二《オンリーワン》のウマ娘になりたいって。
それなら、そうするしかない。
星の数ほどいるウマ娘の中で、GⅠ7勝したウマ娘は、僅か6人。
私が、その7人目のウマ娘に、なってみせる。
誰にバカにされても、笑われても、構わない。
でもきっと、ヘキサさんは最後まで笑わないで私を見守ってくれるのかな。
そんな確信が、不思議と私にはあった。
-To next 24R-
ウマ娘~オンリーワン~ 24R
24R「一生に一度の時期」
アルノちゃんは、やっぱりすごかった。
あんなに飛ばして、逃げているのに、全然疲れていなさそうで。
ヘキサさんも、すごかった。
そんなアルノちゃんにぴったりとくっついて、最後は一瞬にして差し切ってしまった。
悔しいな。
私も頑張ったんだけどな。
あと少しだった。
あと少しだったのにな…………
いつもそうだ。
すぐその先に、光があるのに、
透明な硝子の壁で遮られ、触ることすら出来ない。
私には、無理だったのでしょうか……………
あんな光輝く、強くて………まるでスターのようなウマ娘には、なれないのでしょうか。
私は、そんなスターを引き立てる、
|脇役《おかざり》でしかないのでしょうか…………
---
もうすぐウイニングライブが始まる。
私と、他の1着、2着の二人は、セットの裏で待っていた。
ヘキサ「―――ユニバ君。」
ヘキサさんが、そう小声で話しかける。
ユニバ「………な、なんですか……?」
ヘキサ「………有マ記念、とても良い走りだった。流石、二冠ウマ娘だな。」
ユニバ「………|六冠ウマ娘《ヘキサさん》には言われたくないです…………。…………ヘキサさん。私、来年は|有マ記念《この舞台》で、勝って見せます。…………その時は一緒に走ってくれますか………??」
ヘキサ「…………さあな。それは約束できない。」
ユニバ「…………どっ…どうしてですか…………??」
ヘキサ「はははっ………僕は、気まぐれなんでね。………それに、もし僕がいなくても、僕の代わりに君の相手になってくれる強力なウマ娘がいるんだよ。……君の有マ記念制覇も、阻んでくるかもね。」
ユニバ「………それって、一体……」
ヘキサ「全く、そのウマ娘と来たら、『僕を超えて見せる』なんて言っちゃってね。レースの世界は、そんな甘くないのに。………分かったかい?…………今も、君のライバルとして走っている―――――」
―――――|唯一無二になりたいウマ娘《アルノオンリーワン》だよ――
私は、トレーナーさんと共に、控え室を出て、ウイニングライブの会場へと向かった。
その途中で、クリスちゃんとそのトレーナーさんも誘った。
会場へ行くと、既にグッドちゃん、アスカさん、ガーネットさん、マロンちゃん、アスターさんの5人がいて、クリスちゃんと私は、とてもビックリした。
丁度来たタイミングで、ライブが始まった。
♪選ばれしこの道をひたすらに駆け抜けて
♪頂点に立つ そう決めたら
♪力の限り 先へ
ただでさえ大人数なのに、トレーナーさんは、『せっかくだからトレーナー仲間も連れてくる』と言い、どこかへ行ってしまった。
しばらくして、ヘキサさんのトレーナーさんと、ユニバちゃんのトレーナーさんを連れてきた。
私たち7人と、トレーナーさんたち4人で、一緒にウイニングライブを楽しんだ。
♪本気の夢があるから
♪何も恐れたりしない
♪こんなもんじゃない 本当の
♪私 見せてあげる
♪一生に一度きりの
♪“今”を後悔したくない
♪有言実行 言葉にしたら
♪世界は動き出した
♪最速の輝き
♪この手に掴み取って
♪新しい 幕開けを越えて 進んでゆこう
♪情熱に鳴り響く
♪高鳴りというファンファーレ
♪抱きしめたら ♪解き放とう
♪目指す場所があるから
♪選ばれしこの道を
♪ひたすらに駆け抜けて
♪頂点に立つ ♪立ってみせる!
♪NEXT FRONTIER
♪力の限り 先へ
ヘキサさんも、ユニバちゃんも、とてもかっこよかった。
あの|舞台《ステージ》に、私は立ちたい。
あの舞台でしか味わえない、|頂《いただき》の景色を見てみたい。
ヘキサさんは、やっぱりかっこよかった。
ヘキサさんは、やっぱり強かった。
でも、私だって負けてられない。
GⅠ1勝ウマ娘じゃ、満足できない。
さらなる高みを目指して―――――
---
〈岩手県のとあるレース場〉
「《――勝ったのは、ヘキサグラムスター!完封勝利!まさに横綱相撲です!星は六芒星となってさらに輝きを増しました!!―――》」
「―――これが中央…………」
「……面白いですね。私にはピッタリの場所………………」
「中央でさらに強くなって、いずれは中央を代表するようなウマ娘になってみせます…………」
「努力は、裏切らない―――――」
この一年間、たくさんのことがあった。
ユニバちゃんと、クリスちゃんに初めて負けた、きさらぎ賞。
リステッド競走で二連勝を飾り、皐月賞の優先出走権を獲得した、若葉ステークス。
必死に練習したのが裏目となり、出走できなくなってしまった、皐月賞。
なんとか2着になり、日本ダービーの優先出走権を獲得した、青葉賞。
2着だったけど、斜行で降着になってしまった日本ダービー。
クリスちゃんに負けた、神戸新聞杯。
初めて二人に勝てた、菊花賞。
苦手な加速力を克服した、ステイヤーズステークス。
そして、ヘキサさんと最初で最後の対戦となった、有マ記念。
本当に、嬉しいことも、悲しいことも、悔しいことも、涙を流したこともたくさんあった。
クラシック級は、全てのウマ娘にとって、とっても大切な時期なのだと思った。
だけど、今度は、私たちがクラシック級ウマ娘を迎い入れる番だ。
ヘキサさんみたいに、クラシック級ウマ娘を、圧倒して見せるんだ。
そう誓いを立てて、私の有マ記念――――
そして、一生に一度の、“クラシック級ウマ娘”という時期は、幕を閉じた。
第3章『立ちはだかるシニア級ウマ娘編』完
第4章『シニア級ウマ娘-first-編』へと続く
-To next 25R-
〜キャラ紹介10〜
ヘキサグラムスター (Hexagram Star)
誕生日…2月26日
身長…165cm
体重…当たり前に完璧☆
スリーサイズ…B86W58H84
自信家でややナルシスト気味のウマ娘。勝負勘が強く、走ることにおいては天性の才能のようなものがある。非常に後輩想い。
一人称・僕
毛色・栗毛
所属寮・栗東寮
イメージカラー・黄色、茶
ーーーーーー
作中に出てきたウイニングライブ曲……『NEXT FRONTIER』
(個人的にウマ娘の曲の中で一番好きなのでオススメです。)
ウマ娘~オンリーワン~ 25R
25R「新しい仲間」
「―――ピピピッ、ピピピッ………」
ベッドの脇に置いたスマホのアラームが鳴る。
寝ぼけながら、スマホのアラームを止めた。
アルノ「―――ふぁ〜……」
「―――おはようございます。アルノ先輩。」
私のルームメイト―――プロミスちゃんがそう言う。
プロミスちゃんは、髪をブラシでとかしていた。
プロミス「今日からお互い、一つ上の級に進みますね〜♪」
そう。今日から冬休みが終わり、新学期。
プロミスちゃんはクラシック級、私はシニア級に進むのだ。
プロミス「お互い、頑張りましょうね♪」
アルノ「うん……!」
私たちは拳をつき合わせた。
プロミスちゃんはとてもすごい。
去年、夏のメイクデビューを見事勝利。
そこから無傷の4連勝。
最終的にはGI・朝日杯フューチュリティステークスも勝ってしまった。
そして、プロミスちゃんは見事URA賞最優秀ジュニア級ウマ娘を受賞したのだ。
流石に、私は受賞できなかった。
最優秀クラシック級ウマ娘を受賞したのは、ユニバちゃんとアスターちゃんだった。
当然と言わんばかりの結果だと思う。
ユニバちゃんは、クラシック二冠ウマ娘になった上に、シニア級ウマ娘相手にジャパンカップでは4着、有マ記念では2着と好成績を収めた。
アスターちゃんも、桜花賞を制覇。その上、史上初・ティアラ路線のレースを走ったクラシック級ウマ娘によるマイルチャンピオンシップ制覇を成し遂げた。
そして、グッドちゃんも最優秀マイラーを受賞。
秋戦線のレースはあまり奮わなかったものの、春は5戦5勝と無敗でNHKマイルカップと安田記念の制覇を成し遂げた。
そして、去年の年度代表ウマ娘は―――
ヘキサグラムスターさんだった。
やっぱりそうだよね。
今年に入り、GI3勝。
合わせて6勝。
文句無しだ。
でも、私だって負けていられないんだ。
だって、ヘキサさんに約束したんだ。
“ヘキサさんを超えてみせる”って。
だから、年度代表ウマ娘にだってなってみせる。
―――有マ記念の翌週、世間を大きく賑わせたニュースがあった。
――――ヘキサグラムスター、現役を電撃引退。
本当に、引退してしまった。
突然の電撃引退に、みんなが驚いた。
中には『早すぎる』などの声もあった。
私も、これを知るのは初めてじゃないはずなのに、寂しいという感情がこみ上げてきた。
やっぱり信じたくなかった。
もう、これでヘキサさんと走れないことが確定してしまった。
とてもとても悲しくて仕方がない。
---
トレセン学園の教室に着いた。
シニア級ウマ娘になって初めてのトレセン学園。
私は、教室の扉を開けた。
「ガラララッ」
アルノ「――みんな、おは………」
「――――ホントだってば!!」
突然大声が聞こえた。
教室にはみんないたが、ただ事ではない様子だ。
クリス「本当にアレは“編入生”だって!!」
アルノ「……く、クリスちゃん………??どうしたの?朝から……」
クリス「あっ、アルノ!聞いてよっ!朝ね、教室行こうとしたら、廊下にトレセン学園の制服着た見知らぬウマ娘が歩いてたの!」
アルノ「見知らぬウマ娘………??」
クリス「そう!アレは絶対編入生だよ!!」
アルノ「“編入生”………??え、他の学年の生徒とかじゃなくて?」
クリス「だって、あのフロアを行き来するのはあたしたちしかいないはずだよ?だから編入生に違いない!やったー!8人から9人になる!!」
本当にそうなの………??
にわかに信じがたい………
グッド「確かに、クリス殿の言うことが本当なら、嬉しい話ではあるな!」
マロン「どんな子なんだろう〜!きっと可愛い子だよね♪」
みんな、まだ本当なのか分からない編入生の話でとても盛り上がっていた。
でも、もし編入生だとしたら、私も嬉しい。
どんな子なのだろうか―――――
相変わらず編入生の話でみんなが盛り上がっていると、
「ガラララッ」
瑞城先生「さあ、皆さん席についてくださーい!」
瑞城先生がそう言うと、みんな素早く自分の席へと戻った。
瑞城先生「………みなさん、おはようございます。今日から、みなさんは晴れてシニア級ウマ娘になりました。今、あなたたちはトゥインクルシリーズで最も上の世代なのです。シニア級ウマ娘になると、フェブラリーステークス、高松宮記念、大阪杯、天皇賞(春)、ヴィクトリアマイルという5つのGIレースに出走できます。―――さあ、みなさんは、約1年9ヶ月間、8人で頑張ってきましたが―――――今日から、なんと9人になります!新しいみなさんの仲間です!…………どうぞ!」
「ガラララッ」
扉が開き、教室に誰かが入る。
「――――エフォートドリームです。よろしくお願いします。」
-To next 26R-
ウマ娘〜オンリーワン〜 26R
26R「新学期」
「――――エフォートドリームです。よろしくお願いします。」
エフォートドリームと名乗ったその人は、赤茶髪のサイドテール、
目はキリッとしたツリ目に右耳には耳カバーと十字星の飾りがついた青いリボン。
片方の耳にもフェルトの飾りが耳に巻かれていた。
瑞城先生「……はい。エフォートさんは、ローカルシリーズの“ミズサワレース場”で活躍されたウマ娘なんです。ローカルシリーズでは……なんと15戦15勝の無敗でした!無敗のままこのトゥインクルシリーズに移籍して来たのです。そして、エフォートさんの目標は……」
エフォート「GI制覇です。出来るだけ早く制覇したいです。」
エフォートさんのそんな突然の宣言にみんなとても驚いた。
クリス「う、嘘でしょ……?」
ガーネット「地方から来た奴がいきなりG I制覇なんて……|中央《トゥインクルシリーズ》はそんな甘くねぇよ……」
瑞城先生「……じ、じゃあ、エフォートさんは、あそこの窓際の後ろの席に座りましょうか。」
エフォート「はい。」
エフォートさんは、先生に案内された席にそのまま座った。
---
休み時間、エフォートさんはみんなから引っ張りだこだった。
エフォートさんの席の周りを、みんなが囲っていた。
クリス「ーーーねぇっ、ミズサワレース場ってどこにあるの?」
エフォート「岩手です。」
グッド「エフォート殿は、地方で重賞は勝ったのか??」
エフォート「……一応3勝しています。」
マロン「得意距離ってなあに〜?」
エフォート「……強いて言えばマイルでしょうか?」
マロン「やったぁ〜♪マロンちゃんと一緒!」
エフォートさんの周りは、とても賑わっていた。
---
授業が終わり、私はチーム室に入る。
牧村「―――お、来たか!アルノ!」
アルノ「トレーナーさん!明けましておめでとうございます。」
牧村「おう。今年もよろしくな。他の3人も来てるぞ。」
ショート「やっほ〜アルノ!」
ブリザード「今年もよろしくね♪」
サン「アルノさん、今年もよろしくお願いします。」
牧村「よし!全員集まったし、これより4人の次走を発表する!」
ショート「よっ!待ってました〜!」
ブリザード「楽しみ〜♪」
牧村「えぇ、まずはショート!ショートは次走は阪急杯だ。結果次第で高松宮記念に行くか、ダービー卿チャレンジトロフィーに行くかを決める。」
ショート「はい!オッケー♪」
牧村「次はブリザード!ブリザードは次走は東海ステークスからのフェブラリーステークス、川崎記念、エンプレス杯、帝王賞のローテーションでいく。春はこんな感じだ。詰めすぎかもしれないが、もうすぐ引退の時期が近づいてると思ってな。許してくれ!」
ブリザード「全然♪たくさん走りたいので!」
牧村「次はサン!まずはこの間の中山金杯、お疲れ様!3着!よく頑張ったな!」
ブリザード「サンちゃんすご〜い♪」
サン「ありがとうございます。私はあまり納得していませんが……」
牧村「なあに。サンはまだまだこれからだ。サンはサンのペースでゆっくり成長していけば良い。……さあ、話を戻す。サンの次走は、去年と同じ。日経賞で、天皇賞(春)を目指す。」
サン「はい!」
牧村「さあ、最後はアルノ!アルノは次走はダイヤモンドステークス、阪神大賞典、天皇賞(春)……このローテーションだ。全て3000メートル以上の長距離だが、アルノは長距離で走りたいんだろ?」
アルノ「はい!ありがとうございます!」
牧村「じゃあ、これで頑張ろうな!3つ全部取りにいくぞ!天皇賞(春)、サンとアルノが一緒に走れるかもしれないからな。遠慮しないで、先輩に勝とう!」
サン「わ……私だって負けませんから!後輩だからって手加減はしませんよ!」
アルノ「私だって、長距離は誰にも譲れないので!……でも、エレクトさんとは一緒に走りたいです!」
サン「………私も、アルノさんと走りたい……日経賞、頑張ります。天皇賞(春)に出走するために。」
牧村「―――さっ!次走も発表したことだし、みんなトレーニング始めるぞ!まずは4人ともトラック2周!」
みんな「はい!」
そう言って、私たちはチーム室を出た。
こんなに長距離のレースに出られるなんて……
もう楽しみで仕方がない。
でも、やるからには3つ全部勝ちたい。
よし、頑張るぞ!
〈数日後〉
クリス「アルノ!生徒会長が『生徒会室に来い』って……」
授業が終わった後の休み時間、クリスちゃんにそう伝えられた。
アルノ「えっ……??生徒会長?」
クリス「アルノ、何かしたの……?」
アルノ「分からない……行ってくるね。」
私は、生徒会室へと向かった。
そういえば、今年から生徒会長が新しくかわったんだっけ。
どんな人なんだろう………
---
「―――さあ、ここに座りたまえ。」
アルノ「………ヘキサさんだったんですね……」
ヘキサ「そうだ。…………どうしてそんな顔するんだ?」
アルノ「……いや、なんか怒られるのかなって思って……でも、生徒会長がヘキサさんで逆に安心したって言うか……」
ヘキサ「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。……そう。1月からこの僕・ヘキサグラムスターがトレセン学園の生徒会長になった。よろしく頼む。アルノ君。」
アルノ「はい……よろしくお願いします。……で、何の用ですか?」
ヘキサ「生徒会長になったのでその挨拶と、近況を聞こうと思ってね。」
アルノ「近況って……2週間前くらいにヘキサさんと話したばかりなのに……」
ヘキサ「でも、階級も一つ上になって色々動きがあっただろう?次走は、決まったのかい?」
アルノ「一応……ダイヤモンドステークスです。で、その後阪神大賞典、天皇賞(春)のローテーションです。」
ヘキサ「ふむ。全て長距離レース……アルノ君らしいな。まずは天皇賞(春)で2勝目か……」
アルノ「はい。」
ヘキサ「面白い。楽しみにしているよ。なんせ、僕は君の大ファンだからね。」
アルノ「フ……ファンだなんてそんな………ところで、ヘキサさんはもう走らないんですか?」
ヘキサ「…ああ。そうそう。ちょうど君にその話をしようと思ってて。僕はトゥインクルシリーズを引退したわけで、こうして生徒会長というみんなの活躍を見守る役職に就いたのだが………やっぱどうしても走りたくなってな。また4月から|DTR《ドリームトロフィーリーグ》に移籍して走ろうと思ってて。」
ドリームトロフィーリーグ――――引退したウマ娘たちが、第二のレース人生を歩む場所だ。
トゥインクルシリーズで活躍し、ドリームトロフィーリーグでもなお活躍しているウマ娘もいる。
アルノ「よかったです。やっぱり、ヘキサさんは走ったほうがかっこいいので!」
ヘキサ「……そうか。またまた嬉しいことを言ってくれるじゃないか。……ところで、君のクラスに編入生が入ってきたようだね。……確か、“エフォートドリーム”とか言う……」
アルノ「あっ、はい。」
ヘキサ「そのエフォート君、編入してから最初に、僕のところに挨拶に来てくれたんだ。『目標は?』って聞いてたら、『トゥインクルシリーズの頂点に立つ』って言ってね………これまたかなり手ごわそうなウマ娘が来たね。本当、君のクラスは面白いウマ娘ばかりだな!――――」
エフォートさん――――――――
---
エフォート「……トレーナーさん、元気にしていますか。私………」
エフォート「トゥインクルシリーズの頂点に立って、強くなった私になって、トレーナーさんに会いに行きますから―――――」
-To next 27R-
ウマ娘〜オンリーワン〜 27R
27R「天皇賞(春)に向けて」
実況「――――さあ、先頭は12番・アルノオンリーワン!リードは5バ身から6バ身!内から徐々に2番・ショウジマジックが差を詰めるが、全く届きません!!先頭はアルノオンリーワンのまま、ゴォーールっ!!ここでは負けていられません!ダイヤモンドステークス、アルノオンリーワンが圧勝でゴールしましたーっ!」
掲示板は1着・12番で確定している。
ショウジマジック「――――クソっ………!」
私は両手でガッツポーズをした。
次は、阪神大賞典―――――
〈阪神大賞典・1週間前〉
牧村「いよいよ、来週は阪神大賞典だな。……準備はできてるか?」
アルノ「もちろんです!」
牧村「阪神大賞典、今年はなかなかのメンバーだからなあ………ほら。」
トレーナーさんは読んでいたレース雑誌を私に見せる。
牧村「―――阪神大賞典の有力ウマ娘………まずはディスイズプレーン―――彼女はジュニア級重賞を勝った経験があり、日本ダービーは3着。さらにジャパンカップでもシニア級ウマ娘相手に2着と時折強いレースをする。それと………ショウジマジック………アルノは2回対戦しているな。彼女も生粋のステイヤー………やや手強いぞ………彼女もだ。ミシッピバラード………菊花賞とオーストラリアの長距離GI・メルボルンカップを勝った………長距離が得意なようだな。みんな阪神大賞典でステップを踏んで天皇賞(春)を目指している。――――他にも、お前の同期のクリスタルビリーは日経賞の結果次第で天皇賞(春)に出走するかしないかを決めるらしい。ユニバースライトも、大阪杯から天皇賞(春)に出走することを表明している。」
アルノ「あの2人も………」
牧村「これは、負けられないな。さあ、まずは、阪神大賞典を勝たないとな!」
アルノ「はい!」
---
「タッ、タッ、タッ、タッ………」
エフォートのトレーナー「おーい、そこまでにしよう!ほら、水持ってきたから……」
エフォート「いいえ。もう少し練習します。まだ疲れてないので。」
エフォートのトレーナー「そ、そうか………」
走る度に、トレーナーさんの顔が思い浮かぶ。
トレーナーさん、私、きっと………
必ず――――
トレーナーさんに強くなった私を見せたい…………!!
---
「――クスクス。」
「あなた、脚も遅いし、大した才能もないのね。どうしてここに来たの?」
「周りはみんなデビューしてるのに、あなただけじゃない。デビューしてないのは。あなたなんか、チームのお荷物なのよ。」
「―――大丈夫さ。エフォートはエフォートなりのペースで成長していけば良い。エフォートがレースに勝てるようになるまで、俺がいつまでも面倒見てやるから―――」
---
「――強い強い!!リードは5バ身差!圧勝です!破竹の勢いでデビューから10連勝!エフォートドリームが、無敗で重賞を制覇しましたーっ!」
「なんだよアレ……強すぎんだろ……」
「絶対地方のレベル超えてる……下手したら中央レベルかも………」
私は、もう“あのとき”の私なんかじゃない。
私にいつも寄り添ってくれたトレーナーさんに、恩返しがしたい。
だから、私は|中央《ここ》に来たんだ――――
「タッ、タッ、タッ、タッ…………」
エフォート(―――いけない。つい考え事をしてしまった。集中、集中。中央デビューは3週間後のオープン戦。妥協は許されない―――――)
---
〈1週間後〉
実況「―――アルノオンリーワン重賞4勝目!!止まらない!この勢い!最強ステイヤーの座に君臨するのは、アルノオンリーワンで決まりなのか!?ここでも強かった!!阪神大賞典!!天皇賞(春)への視界は良好です!」
これで、天皇賞(春)に出走できる……!!
1年前、ヘキサさんも勝った天皇賞(春)に………!!
私は、1ヶ月半後の天皇賞(春)が待ちきれなくなった。
-To next 28R-
〜キャラ紹介11〜
エフォートドリーム
(Efort Dream)
誕生日・3月20日
身長・163cm
体重・増減なし
スリーサイズ・B75W54H78
毛色・鹿毛
所属寮・栗東寮
一人称・私
イメージカラー・茶、赤
几帳面で非常にストイックなウマ娘。表情は全く変えず、隙を見せない。誰にでも敬語で話す。
ウマ娘〜オンリーワン〜 28R
28R「憧れのあの人」
実況「――――ゴォーーールっ!!日経賞、勝ったのは3番人気のボトルセンネヴァです!」
あたしは2番人気の3着。
悔しいよ。
あたしだって、早く二人に追いつきたいのに、全然勝てない。
クラシック三冠全て2着。
神戸新聞杯は勝てたけど、この日経賞だって3着。
これじゃああの人を超せない。
あたしは、強くならないといけない。
強くなって、あの人に知ってもらうんだ。
あたしは、《《あのとき》》の子なんだって。
〈数年前〉
実況「―――抜けた抜けた!!3バ身差がある!ゴーーール!!………オープン戦からの二連勝で重賞初制覇!5度目の挑戦でやっと重賞の勝利を手にしました!!」
クリス「――――すごぉーい………!!」
あたしには、昔からまるで自分のように応援していたウマ娘がいた。
そのウマ娘を最初にテレビで見たときから、あたしは不思議な何かを感じた。
以来、その人のレースを見に、毎回レース場へと駆けつけていた。
---
実況「―――が内から上がってくるが、届かない!!先頭は14番―――」
---
実況「―――後ろから懸命に上がってきた!!しかし、先頭は変わらない!2バ身差でゴーーール!!」
中々、勝てなかった。
重賞でも3着。GⅠでも3着。
どうしてだろう。こんなに強いはずなのに―――――
しかし、神様は全く彼女の敵ではないのだった。
この1年半でさらに重賞を2勝したのだ。
次走は地方の交流GⅠ。
風は、彼女に吹いていると感じた。
---
実況「さあ、3番人気・10番――――――収まりました。」
クリス「頑張れぇーーっ!!」
「ガシャン!」
実況「さあ!第4コーナーを曲がって最後の直線!!先頭は10番――――――」
よし!!先頭だ!!
このまま逃げ切れば――――
実況「――――内の方から6番・――――――――だ!!――――――――が交わして先頭!そしてそのままゴール!10番・――――――は惜しくも2着でした!」
クリス「――――そんな…………」
なんで神様はこういう時に限って味方してくれないの?
あの人は頑張ってるのに…………
どうして………どうして…………
---
レースが終わり、あたしは、レース場を後にしようとした。
「――――そこのあなた!待って!!」
クリス「――え………?」
誰かに呼び止められ、後ろを振り向く。
青と白のカラーが入った勝負服。
そして黒髪の背が高くてガタイの良い身体。
……あの人だった。
「――あなた、いつもあたしの出るレース、最前列で応援してくれてるよね?いつもありがとね!」
クリス「い……いえ、そんな!あたしもあなたの走りに、いつも元気や勇気をもらっているので………」
「えーっ?ホント?へへっ、嬉しいな~♪」
クリス「―――あっ、あの!………負けたのに、悔しく無いんですか………??あたしは、あなたが負けてすっごく悔しいのに………」
「…………悔しいよ。もちろん。でも、あたしはそれ以前に走ることが大好きだから!それに、あたしが走ることであなたや他のみんなに元気と勇気を与えられるなら、あたしは1着にこだわらない。………でも、あなたはあたしをずっと応援してくれてるから、次こそはそれに応えて1着とらないとだよね!………………そうだ、これあげるよ!」
そう言い、彼女が首に巻いていたネックレスを取り外す。
そのネックレスは、大小二つの真珠のような玉を通したものだった。
クリス「そっ、そんな………!いだけませんよ…………勝負服の一部なんて……」
「いいの。あたしもあなたと同じ。あなたとは何か運命を感じるの。………いつか、あたしの想いを受け継いで、あなたが走ってくれたらどんなに素晴らしいのかしら。」
そのネックレスをあたしの右耳に巻き付けながら、彼女はそう言った。
「―――よし。うん、似合ってる!」
クリス「………あの……あたし、絶対トゥインクルシリーズで活躍できるようなウマ娘になります!!あなたを超えて見せます!」
「…………ふふっ。大丈夫。あなたならきっとあたしを超せる。だって、あたしが見込んだんだもの。一緒に走れるかは、分からないけど………絶対にあなたの活躍を見届けるわ。約束する。…………そうだ、あなたの名前は?」
クリス「…………クリスタルビリーです!」
「うん。良い名前!クリスタルビリー…………あたしは、あなたを信じてるわ。絶対にトゥインクルシリーズで活躍出来るウマ娘になると………あたしを超せるウマ娘になると―――――」
あたしは、とても嬉しかった。
トレセン学園に入学しようと決心したのは、その日からだったっけ。
だから、死に物狂いで頑張った。
………しかし、あの日以来、彼女がレースで走ることは一切無かった。
あの日以来、彼女に会っていないし、姿さえ見たことがない。
見ていますか?あたしのこと。
あたし、この前日経賞3着でしたよ。
あたし、重賞1勝しか出来てない。
あなたを超せるのはまだまだ難しそうです。
あなたは、どこにいるんですか?
あなたに、会いたいです。
会って、また勇気や元気をもらいたい。
あなたの走りを見れないのは寂しいけど、
あなたに会えないのは、もっと寂しい――――――
「――――そんなこと言わないで。クリス。」
クリス「――――え………??」
「ごめんなさいね。あんなこといったそばから走れなくなっちゃって。本当に申し訳ない。」
クリス「………そっ、そんな!あなたに会えただけであたしは嬉しいんです。………会えて、本当に良かった…………!!」
「……そう。クリス、あたしはあなたのことを誇りに思ってるわ。……だから、あたしは行かなきゃ。後を、よろしく頼むわ。」
クリス「えっ………い、行くってどこに…
……??…………待って!!」
「――――さようなら。」
どうして?
どうしてそんな悲しいこと言うの……??
このままお別れなんてイヤ………
絶対にイヤだっ…………!!!
クリス「――――――ハッ!!!…………………ゆ、夢……………??」
時計を見ると、朝の5時だった。
――――何としてでも勝たなきゃ。
じゃないと、“あの人”とあのままお別れになっちゃう。
あの日のことを無かったことにはしたくない。
天皇賞(春)―――絶対に勝つ。
あの人にあたしを…………あの日のことを忘れないでいてもらうために。
あたしは、あの人にもらったネックレスの髪飾りを、ギュッと握りしめた。
〈一方、日経賞の翌日・阪神レース場〉
実況「―――なんとなんと!!7番人気、エフォートドリームが勝ちました!今年の六甲ステークスは、波乱だ!!エフォートドリームが地方転向後、中央初戦を制しました!!」
―――中央の皆さんに、教えてあげましょう。
中央で一番強いのは、|この私《エフォートドリーム》だと…………
-To next 29R-
ウマ娘~オンリーワン~ 29R
29R「絶対に」
〈天皇賞(春)・前日〉
プロミス「アルノ先輩!いよいよ明日ですね。天皇賞(春)!楽しみです!」
アルノ「うん!私もすっごく楽しみ!」
プロミス「私は、絶対アルノ先輩が勝つと思ってますから!だって、ダイヤモンドステークス、阪神大賞典、どれも圧勝でしたからね〜!……応援してます!絶対勝ってくださいね!」
アルノ「うん!早く勝ってプロミスちゃんに追いつかないと……!プロミスちゃん、皐月賞も勝ってすごいよ〜。私は1年前はあんなに強くなかったから……」
そうなのだ。プロミスちゃんは、この間、堂々の一番人気でクラシック三冠の一戦目である皐月賞を勝ったのだ。しかも無敗で。
プロミス「そんな、アルノ先輩に比べたら………………私の目標は、いつかアルノ先輩と戦えるくらい強いウマ娘になることですから!私は三冠ウマ娘目指してるので!」
アルノ「すごい!きっとプロミスちゃんなら出来るよ!」
プロミス「えへへ♪ありがとうございます!………私も、いつかは天皇賞(春)の舞台に立ちたい……約束します。私は、この天皇賞(春)の舞台で、アルノ先輩に勝ってみせます!」
アルノ「そ、そんなのすごく先の話じゃん………でも、もしプロミスちゃんがいても、負けないよ。私は、現役最強の長距離ウマ娘になってみせるから!」
〈天皇賞(春)当日・京都レース場〉
実況「―――今年は見事に晴れました。天皇賞(春)。昨年は絶対王者・ヘキサグラムスターが堂々制覇しました。今年もそのヘキサグラムスターに引けをとらない豪華メンバーが勢揃いしました!
まずは一番人気、10番・アルノオンリーワン!ダイヤモンドステークス、阪神大賞典と長距離重賞を二連勝。3000m以上のレースでは無敗!今年の天皇賞(春)の大本命であります!
続いて、2番人気です。8番・ユニバースライト!前走はGⅠ・大阪杯を制し、二冠ウマ娘としての実力をはっきりと示しました。菊花賞ではアルノオンリーワンの3着でしたが、今回は果たしてどうなるのか。
3番人気です。12番・ショウジマジック。昨年のステイヤーズステークス、今年のダイヤモンドステークスと、アルノオンリーワンの2着と悔しい結果が続きました。
4番人気は、14番・ジェイムズ。前走の阪神大賞典では2着でした。
5番人気は、15番・ミシッピバラード。昨年のオーストラリアの長距離GⅠ・メルボルンカップを制しました。
その他には、阪神大賞典3着の1番・ディスイズプレーン。日経賞を勝った13番・ボトルセンネヴァ。日経賞3着で昨年のクラシック三冠全て2着の3番・クリスタルビリー。同じく日経賞4着の2番・モネフェスティバルの順に人気が続いております。
―――さあ、順調に枠入りが進んでおります。一番人気・アルノオンリーワン、ゲートに入りました。」
一番人気―――――
それに、トゥインクルシリーズの最高峰とも言えるGⅠで……………
すごく緊張する。
みんなの期待は大きい。
でも、自信がある。長距離は絶対に負けない。
走れなかったヘキサさん………そして、《《先輩》》の為にも!!
〈数日前〉
サン「―――ごめんなさい!あんなに出たいって言ったのに、私、出れませんでした……………本当に、ごめんなさい………日経賞は11着………………アルノさんとはほど遠かったですね……………」
アルノ「そ、そんな…………仕方ないですよ…………正直、私もエレクトさんと走るの、すごく楽しみにしてたので、残念ですけど………………走れなかったエレクトさんの分まで、私が勝ってみせます!だから、エレクトさんは私を応援してくれるだけでいいです!」
サン「…………アルノさん……………絶対、勝ってくださいね………!!私、死ぬほど応援しますから!レース場には行けないけど、声枯れるくらい応援しますから…………いつかは絶対、アルノさんと走りたいです!――――」
今ごろ、エレクトさんはテレビの前で応援してくれてるに違いない。
エレクトさんの悔しさ、無駄には出来ない。
実況「さあ、体制が整いました!――今年の長距離日本一は誰だ!天皇賞(春)――――――」
「ガシャン!」
実況「―――スタートです!――まずはアルノオンリーワン勢いよく飛び出し、先頭へ。アルノオンリーワン以外は後ろで固まっている状態です。人気のユニバースライト、ショウジマジック、ジェイムズは集団の中で様子を伺っております。アルノオンリーワン、集団をぐーんと突き放し、8バ身差でしょうか、差を広げております!集団の先頭、2番手はモネフェスティバル。さらに1/2バ身差でミシッピバラード、それを見るようにしてクリスタルビリーと集団の先頭はこのような感じです。」
クリス(―――落ち着け、あたし!みんなも分かってる。アルノのあのペースにうかつについていこうとしたら、確実に体力は持たない。むやみにアルノをマークしないであたしは、前の方でいつでも抜け出せる状態で………!!)
ユニバ(やっぱりアルノちゃんは今回も大逃げ…………まずは4コーナー手前でみんな抜かして先頭に。アルノちゃんの相手は、それから。………大丈夫。8バ身なんて私の末脚だったらものの数秒で詰められる…………)
ショウジマジック(アルノオンリーワン…………次こそは………逃げようもんなら、僕が捕まえて見せる!長距離最強はこの僕だ!!)
ジェイムズ(アルノオンリーワン…………予想外に強かった。今までのウマ娘とは格が違う。しかし、この天皇賞(春)に向けてたくさんのパターンを分析した。これで完璧。GⅠを勝って、引き立て役の私を変えるんだ!!)
ミシッピバラード(オーストラリアに比べたら、日本のレースなんて…………!!まだアルノオンリーワンは世界を知らない。世界レベルの私の走りを、見せてあげる!!)
みんな(((アルノオンリーワン!!絶対に倒してみせる!!)))
-To next 30R-
ウマ娘~オンリーワン~ 30R
30R「届け!」
実況「―――内からセイナンマイティン猛追!セイナンマイティン猛追!しかし、しのいだ!大阪杯、勝ったのは、一番人気の5番・ユニバースライト!!2番人気のセイナンマイティンはアタマ差の2着です!3番人気・ゲーミングシーソー、中距離挑戦の4人気・アスターウールーは共に4着、6着と悔しい結果になりました。これでGⅠ3勝目!さらに勢いを増して、長距離王者候補のアルノオンリーワンが出走する天皇賞(春)に自信をもって挑むことができます!」
ママ、見ていますか…………??
私、やっとママを越えることが出来たよ。
だから、ここから先は未知なる|領域《せかい》。
ここで満足なんか出来ない!!
ママより強くなった私は、もっともっと強くなれるはずだから!!
実況「さあ、3,4コーナー中間!一足先にアルノオンリーワンは第4コーナーをカーブしました!!」
負けない。
負けない。
負けない!
負けない!!
絶対勝つ!!!
次こそは、捕まえて見せる!!
ユニバ「―――――やぁぁぁあああああああーーーっっ!!!」
実況「早くもここでユニバースライトが仕掛けた!あっという間に2番手です!」
クリス(しまった!有利な進路を空けてしまった……!!……よし、ここで、取り返して見せる!!!)
クリス「はああああああああっっ!!!」
実況「続いて、クリスタルビリーも仕掛けた!後方からショウジマジックも追い上げる!」
もう、悠々とは逃げてられない。
ここからが、本当の勝負だ!!
アルノ「うおおおおおおおおおっっっ!!!!」
実況「ここでアルノオンリーワンもスピードをあげる!ユニバースライト、届くか!クリスタルビリー、ショウジマジックも追い上げる!先頭はまだアルノオンリーワンだ!残り200m!」
耐えろ、耐えろ!!
耐えろっ!!
「――――来ました!来ました!6番・ヘキサグラムスター!徐々に差を詰めていく!なんという末脚!これが五冠ウマ娘の実力!!あっと言う間に並んで、交わした!先頭はヘキサグラムスター!」
アルノ(―――えっ………???)
………ヘキサさんの幻覚が見えた。ほんの一瞬だけ。
―――もし、ヘキサさんが|天皇賞(春)《このレース》に出走していたら、どうなっていた?
多分、|有マ記念《まえ》みたいに、最終的に抜かされて終わるんだ。
何度挑戦したって、やり直したって、誰も彼女に勝てっこない。
それが、ヘキサグラムスター。
私には、彼女を越えることは出来なかった。
――前を見ると、一瞬だけ見えたヘキサさんの幻覚が、再び現れた。
私の数メートル先を走っている。
実況「ユニバースライト!!アルノオンリーワンとの差を詰める!!クリスタルビリーとショウジマジックは二人を必死に追う!!」
全て想定内………!
私の|想像《よみ》通り………!!
体力もなんとか持つ。
あと少し。あと少し………!!
アルノ(―――――お願い。ヘキサさん。私に、力を貸して………!!)
――これなら、絶対アルノちゃんに勝て……………
アルノ「―――うおりゃあああああああああっっ!!!」
実況「アルノオンリーワン!!また差を広げる!!止まらない!止まらない!他のウマ娘をみんな置いていってしまう!!ユニバースライト、懸命に追うも届きそうにない!!先頭はアルノオンリーワン!アルノオンリーワン!」
徐々にヘキサさんの背中が大きくなっていく。
届く、届く!!
ユニバ(まただっ…………なんで……………こんなにも届きそうなのにっ……………!!どうして………っ!?)
――――届いた!!ゴールだ!!
実況「ゴォーーールッ!!アルノオンリーワン、圧勝!!2着との差はなんと7バ身!!2着はユニバースライト!3着、4着はクリスタルビリー、ショウジマジックが並んでゴール!写真判定となります!そして気になるタイムは――――な、なんと!去年ヘキサグラムスターがマークした3分11秒8を上回り、3分11秒3!レースレコードであると共に、芝3200mの世界レコードであります!!」
「わあああああ!!」
歓声が、より一層大きくなった。
菊花賞の時みたいだ。
私は、ヘキサさんに勝てた。
こんなに幸せなのは、生まれて初めてだ。
私は、長距離王者になることが出来た。
きっと、ユニバちゃんとも同じレベルに立てたかな。
あと5勝。まだまだ本当にヘキサさんを越えるにはほど遠い。
宝塚記念、天皇賞(秋)、ジャパンカップ、そして有マ記念。
この調子で、全て勝つ勢いで!!
---
これから、ウイニングライブだ。
3着以内に入った私とユニバちゃん、クリスちゃんはそれぞれ支度をしていた。
ユニバ「―――アルノちゃん、お疲れ様。………凄かった。流石だね。長距離では全くアルノちゃんに勝てないや。」
そう言ってユニバちゃんは私に手を差し出す。
アルノ「……ううん。勝てたのはユニバちゃんがいたからだよ。追い詰められた時は、正直負けるかもって思った。だから、私は自分の限界を越えることが出来た。」
そう言いながら私は、ユニバちゃんの手を握ろうとする。
「――ガシッ!」
私はユニバちゃんに勢いよく手を捕まれる。
ユニバ「―――長距離《《以外》》なら絶対に負けません。今度こそは、あなたに勝ちます。宝塚記念、天皇賞(秋)、ジャパンカップ、有マ記念。あなたに負けた分だけ、私は必ず勝ちます。」
ユニバちゃんの目は、本気そのものだった。
とても真剣で、こんなユニバちゃんの顔を見たのは初めてだった。
私は、もの凄く戸惑った。
ユニバ「――――あっ、ご、ごめんなさい!つい!…………お願いします!さっき言ったレース、全部アルノちゃんに出走してほしくて……………その……私…………………アルノちゃんのいないレースは、全然楽しくないので…………!!」
アルノ「…………私も、ユニバちゃんとレースしてて、とっても楽しい!………私も、レース4つ全部出走したいと思ってたから、全然いいよ!……次は、宝塚記念だね!もちろん、私も負ける気はないから!」
ユニバ「………私もです………!!」
クリス「―――おーい!二人とも!もうすぐ出番だって!!」
アルノ「あっ!今行く!」
ユニバ「……待っててください………!!」
こうして、私の天皇賞(春)は終わった。
次は宝塚記念。
|長距離《3200m》ではなく、|中距離《2200m》。
勝てる保証はない。
だけど、ヘキサさんに勝てた私なら…………!!
〈天皇賞(春)の一週間前・京都レース場〉
実況「5番・ヤングコーセンリード!2バ身ほどの差があります!残り200m!追うものはいないのか!?―――――来ました来ました!!外から9番・エフォートドリーム!エフォートドリームです!なんという末脚!あっという間に並んだ!交わした!そしてゴォーール!!勝ったのは、エフォートドリーム!中央2戦目のGⅡ・マイラーズカップを制し、重賞初制覇!そして地方含め、未だに無敗です!!勢いは止まらない!並みいる強豪が勢揃いする安田記念に、挑戦状を叩き付けました!!」
「う………嘘だろ……こんな田舎から来たヤツが勝なんて…………」
「これ、下手したら安田記念であのグッドラックナイトと張り合えるんじゃ…………!?」
「おいおい、中央にとんでもない大物が来たぞ!!」
このくらい、当然の結果。
またGⅠ勝利にぐんと近づいてきた。
簡単なことです。目標に糸か何かを張りさえすれば、手繰り寄せれば向こうから私の元へと来る。
さあ、最後はGⅠ。
トレーナーさんは、私のこと見てくれてるかな。
見ていてください。トレーナーさん。
私、絶対に中央で最強のウマ娘になりますから!
-To next 31R-
ウマ娘〜オンリーワン〜 31R
実況「―――さあ、4コーナー手前!マロンホワイト来た!マロンホワイト来た!――しかし、先頭は変わらない!12番・ローズカラーナイト!ローズカラーナイト!なんと先頭は8番人気、ローズカラーナイトだ!2番人気マロンホワイトはここで失速!ローズカラーナイト、先頭でゴール!一着は8番人気のローズカラーナイト!人気を分け合った1番人気・ポットフォンフィズと2番人気・マロンホワイトは共に8着、5着と敗れました!―――」
マロン「………ハァ、ハァ、ハァ…………ッッ……」
ダメだ。こんなんじゃ。
GⅢで5着じゃ、こんなの……………
31R「もう、見たくない」
「《さあ、今週の注目レースはなんと言っても、GⅠ・ヴィクトリアマイル!去年のマイルチャンピオンシップをクラシック級で制したアスターウールー、そしてトリプルティアラであり、おととしのヴィクトリアマイルを制覇したアポロンなど、注目ウマ娘が目白押しです!ーーーー》」
そりゃそうだ。やっぱ注目されるのは、アスターちゃんとか、他の強いウマ娘たちばかりだ。
こんな善戦ウマ娘、誰も期待などしてくれない。
シニア級初の初戦・中山ウマ娘ステークスでは、2番人気の5着。
シニア級重賞も制覇できないようじゃ、GⅠなんて……………
---
「《――――そんなこと言ってちゃ、ダメダメ!》」
マロン「――――え……?」
お姉ちゃんに電話越しに叱られる。
お姉ちゃん「《マロンはすごいんだから!だって、中央重賞2勝でしょ?それに、GIでも2着経験が2回あんだし。》」
マロン「―――でも、お姉ちゃんは重賞3勝でしょう?」
お姉ちゃん「《………あのねぇ、地方と中央の重賞は天と地ぐらい差があるの!それに、重賞は重賞でも、GIIとかGⅢとかグレードはついてないし………それに、あたしは中央から来たウマ娘もいなかったから………………とにかく!マロンがそんなこと言ってたら、たくさん努力してるのに勝てないようなウマ娘たちが浮かばれないよ。もっとポジティブに!これ、レースの基本!………あ、言ってなかったけど、あたしも行くから!レース場!》」
マロン「――――へ?」
お姉ちゃん「《東京レース場!……よね…?ヴィクトリアマイルやる場所って………あたし、行くから!マロンのレース生で見たいし!》」
マロン「えっ………ほっ、ホント!?お姉ちゃん来てくれるの!?」
お姉ちゃん「《うん。まあ、この間はマロンがあたしのレース見に来てくれたし、そのお返しにね。その時にはレース終わったばかりで余裕あるし。だから、マロンも頑張りなさいよ。あたしがちゃんと応援してあげるから!》」
マロン「うん!あたし頑張るね!」
大好きなお姉ちゃんが、あたしのレースを観に来てくれるんだ!
恥ずかしい走りなんて出来ない!
ここは、前向きになった者勝ち!
ヴィクトリアマイルまではまだ2ヶ月もある。
アスターちゃんも出るし、もしかしたらガーネットも出るかもしれない。
二人には、勝ちたい!
---
桂「―――えっ………?『トレーニングをきつくしろ』って……??」
マロン「はい!お願いします!あたし、ヴィクトリアマイルは勝ちたいんです!マイルは阪神ジュベナイルフィリーズも、桜花賞も全部アスターさんに負けちゃったので、今度こそは勝ちたいんです!それに、その…………大好きお姉ちゃんが北海道から見に来てくれるので………」
桂「うーん、そうねぇ………確かに、マロンはマイルが得意…………それに、ヴィクトリアマイルと同じ東京1600mのクイーンカップを勝ってるし…………そうね!このヴィクトリアマイルは、マロンにとって一番のチャンスかも知れない!この機会は逃したくないわよね!よし!あたしもマロンを精一杯サポートする!一緒に頑張ろ!」
マロン「わぁっ……!!ありがとうございます!あたし、頑張ります!」
桂「よーし、まずはランニングからね!打倒!アスターウールー!」
マロン「はい!」
――――拝啓、お姉ちゃん。
たまにはと思い、手紙を書いてみました。
あたし、トレーニングとても頑張ってるよ。
キツいと思う時もあるけど、毎日勝つことだけを考えて打ち込んでいます。
あたしは、お姉ちゃんをとても尊敬しています。
誰よりも強くて、可愛くて、無敵な自慢のお姉ちゃんです。
そんなお姉ちゃんが、あたしのレースを観に来てくれるなんて、あたしはとっても嬉しいです。
だから、勝つよ。
見ていてね。お姉ちゃん。
お姉ちゃん、大好き!!
敬具
マロンホワイトーーーーー
お姉ちゃん「ーーーマロン…………あたしも、マロンのこと大好きだよ―――――」
〈10年前〉
「―――さあ、第4コーナーをカーブして直線へ!先頭は逃げる逃げる!ーーーしかし、外から5番ーーーーが追い上げてきた!交わした!先頭は5番のーーーー1着でゴォーール!!無敗で、重賞を勝利しました!」
「ーーーーさあ、第11Rのウイニングライブです!」
「ーーーすごーい!あんなにつよいのに、おどったらかわいいなんて!!………お姉ちゃんがおどったらマロンちゃんもっとうれしいのになあ………」
「ホント!?じゃあ、約束する!あたしも、ここでレースして、勝って、この舞台に立ってみせるよ!」
「本当??やったぁーーっ!!じゃあ、いつかマロンちゃんも走っておどれるようなかっこよくてかわいいウマ娘になる!!」
「ーーーお姉ちゃん!見て見て!!あたし、トレセン学園合格した!!」
「嘘!?やったじゃん!!さっすがあたしの妹!!」
「えっへへ〜♪」
「――――間から、6番・アスターウールー!アスターウールーです!強い強い!無傷の3連しょーう!」
「先頭は、変わってマッシュリターン!ゴォーール!!条件戦、オープン戦、そしてオークスで三連勝を果たしましたーっ!!そして2着はガーネットクイン。3着は、マロンホワイトか――――」
「7番です!7番ガーネットクイン!これは強い!さらに内から4番のアヴァンティも伸びてくるが……先頭はガーネットクイン!ガーネットクインだぁ〜っっ!……2着は4番・アヴァンティかーっ?!」
ーーーもう、たくさんだよ。
お願いです、神様。たった《《一度だけ》》でいいから…………
|妹《マロン》を勝たせてください。
もう、大好きな妹の涙は見たくないからーーーーー
-To next 32R-
ウマ娘〜オンリーワン〜 32R
長い間投稿できなくてごめんなさい!
お待たせしました。次の話も一応書けてるので今週中に投稿したいと思います。
32R「恩返しの勝利を」
「――――府中本町〜府中本町〜ご乗車、ありがとうございました〜」
「―――よしっ、着いた。ここが―――」
「|東京レース場《マロンが走るところ》………!!」
〈ヴィクトリアマイル当日・東京レース場〉
実況「ーーーさあ、今年もやってまいりました。マイル女王決定戦、ヴィクトリアマイル!1番人気は、16番・アスターウールー!マイルチャンピオンシップなど、GI3勝!マイルの絶対女王です!
続いて、2番人気は、7番・アポロン!おととしの覇者で、トリプルティアラも成し遂げたウマ娘です!
3番人気は、1番・ラウンズレイナ!桜花賞では3着!マイルは5戦2勝3着2回と安定した走りを見せています。
4番人気は、12番・マロンホワイト!重賞2勝!東京1600mはクイーンカップと一度だけですが、勝利しています!
5番人気は、5番・ガーネットクイン!GI2勝!距離短縮だが、マイルは果たしてどうなのか!?
以上、主なウマ娘の紹介でしたーっ!」
勝負服のリボンを結ぶ手が震える。
今まで以上に緊張してしまう。
何故って?…………このレースに、あたしはとても懸けているから。
ここで負けたら、次はいつチャンスが訪れるかわからない。
お姉ちゃんも観に来るんだ。恥ずかしい走りなんて出来ない。
私は、背筋をピシッと伸ばして、控室を出た。
ああ、緊張するなあ………
アスターちゃんも、ガーネットも、
トリプルティアラのアポロンさんも、
桜花賞3着のラウンズレイナさんも、
この前の中山ウマ娘ステークスで負けたローズカラーナイトさんも、
みんなみんな、|ヴィクトリアマイル《ここ》にたどり着いた。
勝ちたいと思わないで走っているウマ娘なんていない。
みんな、勝ちたいって思っている。
あたしだって、今までも、今も、ずっと勝ちたいと思ってきた。
でも、気持ちだけじゃどうにもならなくて。
自分の弱さに打ちのめされて、相手の強さに圧倒されて、
努力でも、頑張りでも、これはどうにもならないんだって思い知らされて、
自分がわからなくなったこともあって、相手を傷つけたこともあって、
たくさんの事があったなあ。
だけど、それが起こるたびに、あたしは成長してきた。
勝とう。勝って、みんなに見せるんだ。成長したあたしを。
みんながいなかったら、あたしは成長出来なかった。勝つことだって、出来なかったはずだから。
だからこの感謝を、勝利で返す。
---
実況「―――各ウマ娘、続々とゲートに入っていきます。」
「――――マロン!」
マロン「――――あっ、ガーネット!!」
ガーネット「調子どうだ?アタシはもちろんバッチリだ。」
マロン「うん!マロンちゃんもだよ!………あのさ、ガーネット…………その……あたしは、ガーネットと走ってきて、たくさんの事に気付かされた。ありがとう!ガーネットがいなかったら、きっとあたし、強くなんてなれなかった。だから、その恩をあたしはここで勝つことで返したいと思ってる!負けないから!」
ガーネット「――――………良い顔してるじゃねぇか。だが、マロンに感謝なんかさせねぇ。………アタシが勝って、お前に感謝の気持ちを捧げてやるよ。マロン、お前がいなかったらアタシだってこの舞台に立っていなかったかもしれねぇからな。」
マロン「……ガーネット…………望むところだよ!ガーネットにだけ良い想いはさせないから!」
ガーネット「上等だ!」
---
マロン「―――アスターちゃん!」
全身真っ黒の勝負服を着た、アスターちゃんに声をかけた。
マロン「―――あたし、これだけはアスターちゃんに言っておきたいと思ってて………」
アスター「―――何?」
マロン「今まで、一緒に走ってくれてありがとう!アスターちゃんがいなかったら、あたしは強くなれなかった!………だからこそ、あたしはあなたに勝ちたい。絶対に。…………それじゃあ、お互い頑張ろう!」
あたしは、アスターさんの元を去った。
アスター「―――……………どうして………??どうして、あなたはそんなにも人に――――」
---
実況「――――さあ、発走準備が整いました!勝利の女神は、誰に微笑むのか…………!?マイル女王決定戦・ヴィクトリアマイル――――――」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!まずは先行争い!8番のタカラプリンセスが行きました!2番手はダブルブルー、そして3番手はマロンホワイト、そして外からフォードセイリンが並んでおります!―――――さあ、人気のアスターウールーはいつものように後方待機といった形です!まもなく1000mを通過!」
マロン(いつでも抜け出せるように、前の方の位置をキープ!誰かが動いたら、あたしも動く!)
マロン(―――いや、そんなんじゃダメだ。なんのために必死にトレーニングしてきたか分かんないじゃん。――――大丈夫。みんな追いつけないほどの末脚を出すことさえ出来れば、最初に仕掛けるのは、あたしでも良い。)
お姉ちゃん「――――マロン、お願い…………!!」
桂「大丈夫、マロンなら絶対やってくれる……!!」
マロン、あなたはどうしたいの?
勝つんでしょ?勝って、ウイニングライブのセンターに立ちたいんでしょ?
大丈夫。その強い想いさえあれば、あなたは、
――何でも乗り越えられるわよね!
―――まだ、第4コーナー手前…………
でも、もう待ってられない!!
大丈夫。今なら、アルノさんくらいの体力が、あたしにはある。
―――不思議と、そんな気がする。
あたしを信じて。この脚を信じて。
お姉ちゃん、トレーナーさん。
あたし―――――
絶対勝つよ!!!
マロン「………はぁぁぁぁああああああっっーーーー!!!」
実況「―――なんとなんと、早くも仕掛けた!マロンホワイト!ロングスパートなのか!?先頭マロンホワイトに変わり、最終コーナーをカーブ!先頭はマロンホワイトだ!!」
ゴールまで500m。
東京の直線は長いし、その先に上り坂もある。
でも、負けない。……負けない!
実況「マロンホワイト、抜け出した!ゴールまで持つのか!!―――――しかし、外からアスターウールーが追い詰めてくる!!なんという末脚だ!!」
………マロンさん、どうしてーーーーー
どうしてそんなにもあなたはーーーー
あなたという人は………………!!!
-To next 33R-
ウマ娘〜オンリーワン〜 33R
33R「孤高」
実況「マロンホワイト、抜け出した!ゴールまで持つのか!!―――――しかし、外からアスターウールーが追い詰めてくる!!なんという末脚だ!!」
………マロンさん、どうしてーーーーー
どうしてそんなにもあなたはーーーー
あなたという人は………………!!!
そんなにも、人と仲良くしようとするの…………???
人と関わったって、良いことなんか何も無いのに………!!!
〈数年前〉
「ーー寂しいよ〜っ、アスターちゃん!もっと一緒にいたかった〜っ!」
アスター「ごめんね………親の都合で……………短い1年だったけど、とっても楽しかったよ!ありがとう!また会おうね!」
「う"ぇ〜〜ん!ま"だね〜〜っ……!!」
「また遊ぼうね〜〜!!」
「いつか遊びに来てね〜っ!!絶対だよーっ!!」
お別れの時間を知らせるかのように、新幹線がホームに停車した。
---
「―――本日は、ご乗車いただき、誠にありがとうございます。」
アスター「―――私だって、もっとみんなと一緒にいたかったのに…………っ!!」
これで、引っ越すのは3回目。
友達ができたと思ったら、もうお別れ。
友達と仲良くなるのはそう簡単じゃないのに………!!
――――だから、もうやめた。
どうせ、いつかはお別れしなきゃいけないんだから。
私は、人と関わることを避けた。
人と関わって感情が芽生えて、またお別れして悲しい思いなんかしたくなかったから。
人への感情を閉ざした。人に興味を持たないようにした。
同時に、興味を持たれないようにもした。
学校の休み時間、ずっと本を読んだ。
誰も、私に話しかけなくなった。
話しかけられても、冷たくあしらった。
誰も、私に話しかけなくなった。
大丈夫、本を読んでたほうが楽。
一人で走ってたほうが楽。
馴れ合いなんて、要らない。
――――そう、これでいい。
これで、良かったんだ。
再び引っ越すため、新幹線に乗った私は、同級生が誰一人いないホームを見て、そう思った。
これで、もう悲しくない。
小学5年生の、夏だった。
なのに―――――
「今まで、一緒に走ってくれてありがとう!アスターちゃんがいなかったら、あたしは強くなれなかった!だからこそ、あたしはあなたに勝ちたい。絶対に。…………それじゃあ、お互い頑張ろう!」
あなたはどうして、私から離れてくれないの…………!?
あんなに………あんなにあなたに冷たくあたったのに………!
どうしよう、このままじゃ、私…………っっ!!!
実況「―――んと、早くも仕掛けた!マロンホワイト!ロングスパートなのか!?先頭マロンホワイトに変わり、最終コーナーをカーブ!先頭はマロンホワイトだ!!」
アスター「―――ハッ!!」
―――いけない……!!!今はレースでしょ!!!何考えてるの!!
勝つことだけを、考えるんだ。
そう。“孤高”―――――私は孤独でいい。だから、さらなる高みを目指して、誰も追いつけないような、誰もついていけないような、そんな孤独なウマ娘に――――――
マロンホワイト―――私に宣戦布告すら出来なくなるくらい、あなたを圧倒して見せる!!
私は、ひとりで十分――――――
|孤高《ひとり》が、いいんだ………!!!
アスター「…………やぁぁああああああああああっっっ!!!」
実況「――――外からアスターウールーが追い詰めてくる!!なんという末脚だ!!」
あなたは、仕掛けるのが早すぎたようね。
あなたは、もうじきバテる…………!!
マロンホワイト、あなたは私には勝てない!!
それを、ここで証明してみせる!!
実況「アスターウールー、どんどん差を詰める!!マロンホワイト、またしても敗れてしまうのか!!」
――――これまで、散々アスターさんに負けて来た。
私は、いつもアスターさんの背中しか見れなかった。
でも、今日は決めたんだ。
絶対、あなたの背中は見ないって!!
私が見るのは、アスターさんの背中じゃない!
栄光の景色だっ!!!!
マロン「うりゃあああああーーーっっ!!………負けない!!負けるもんかぁーーっっ!!」
実況「マロンホワイト、粘る!アスターウールーはこれ以上伸びないかーっ!」
アスター(ーーーそんな!?あれだけのロングスパートで、まだ体力が尽きない!?ウソ…………力は出し切っているはずなのに!!)
…………ねぇ、アスターちゃん。
仲間がいることで、ライバルがいることで、どんどん成長できる。強くなれる。
|孤高《ひとり》もいいけど、みんなでいることにも意味があるんだよ。
―――それを、あなたに教えたい。
あぁ、もうすぐゴールだ。
不思議だ、全く疲れない。このままずっと走っていたいような、そんな感覚。
お姉ちゃん、見てる?
あたし、少しは成長出来たかな?
前は、ウイニングライブでセンターをすることばかり考えてたけど、今は、ウイニングライブで歌って踊れること自体に感謝してるよ。
トレーナーさんも見てる?
いつも、あたしを支えてくれてありがとう。
本当に頼りになったよ。トレーナーさんが、あたしのトレーナーさんで本当に良かった。
勝った時も、負けた時も、一緒になって泣いたり喜んでくれたよね。
お姉ちゃんも、トレーナーさんも、大好きだよ!
ガーネットも、あたしがアスターさんのことばかり考えて、ガーネットのこと忘れちゃったことあったよね。
だけど、そんなあたしに真正面から怒ってくれて、
大切なことを気づかせてくれて、
本当に嬉しかった。
だから、そんなみんなに感謝の気持ちを捧げるよ。
もちろん、アスターちゃんにも。
あたしに、|目標《きぼう》をくれて、ありがとう…………!!
実況「ーーーマロンホワイト、先頭!残り100mもない!アスターウールー敗れてしまうのか!?」
お姉ちゃん「マロン!頑張れぇーーーーっっ!!!!」
桂「マローーーンっっ!!ファイトーーーっっ!!」
ガーネット「ーーーフッ………やるじゃねぇか、マロン。……………今回は、完敗だな。」
実況「…………先頭は、マロンホワイト!マロンホワイト!1着でゴォーーールッ!!ヴィクトリアマイル、勝ったのは12番・マロンホワイト!!2着は16番・アスターウールー!女王の豪脚すら揺るがす執念のロングスパートで、見事粘り勝ちを納めました!!6度目の挑戦にしてやっと掴んだGI初勝利!苦しいときもありましたが、マロンホワイト、お見事です!!」
え…………!????本当に勝ったの????
あたしが!??GIを!?
マロン「…………う…………うわあぁぁあ〜〜〜ん!!う〜〜わ〜あ〜〜〜っ!!」
ここまで長かった。
やっと、やっと、あたしは頂点に立てたんだ…………!!
「―――マロン!!」
マロン「―――あ、お姉ちゃん!!……それに、トレーナーさん!一緒だったの!?」
お姉ちゃん「うん!同じマロンを推す者同士ね〜!………にしてもマロン、よくやった!!姉として誇らしいよ!北海道帰ったらトレセン学園のみんなにうちのマロン布教するから!」
マロン「や、やめてよ〜!」
桂「う……うぅ………ここまで本当に頑張った!!マロンなら、絶対いつかGI穫れるって思ってたけど、その“いつか”っていつ来るんだろう………って、正直ずっと思ってた………でも、ここまで頑張ってきた甲斐があった!!」
マロン「えっへへ♪これで、GI初勝利を、トレーナーさんにプレゼントすることが出来ました!」
桂「うぇ〜ん……!!なんて良い子なの〜っっ!!」
こうして、あたしのヴィクトリアマイルは、幕を閉じた。
―――と言いたいところだが、あたしにはもう一つの叶った夢があった。
マロン「――――えーーっ!!《《ソロ》》曲!?」
桂「そう………なんか、今日はいつもの曲じゃない違った曲らしくて………でも、こんな機会ないわよ!宝くじにでもあたったと思って、楽しんで行ってきな!」
マロン「―――はい!」
---
♪Let's go!start!!駆け抜けて
♪今のこの時代を
♪さぁ輝こう もっと果てしなく
♪始まる予感 トキメク予感信じて
♪走り出したら 止められない
♪未来の予想 あなたと一緒だったら
♪どこまでだって行けそうなんだ
♪自信が持てなくて弱気になる時には
♪あの日の気持ち思い出そう
♪また熱くなった心信じて
♪Let's go!start!!駆け抜けて 今のこの時代を
♪さぁ輝こう もっと果てしなく
♪知らない(知らない) 知りたい(知りたい)
♪もう諦めない
♪期待や夢を背中に乗せ(Try again)
♪Let's fly high 飛び出そう 真っ直ぐ前を見て
♪さぁ踏み出そう最初の一歩
♪どんな(時も) みんな(一つ) 君を待ってる
♪あの輝く夢のステージで色づくMagic
「わああああああ!!!」
-To next 34R-
ウマ娘〜オンリーワン〜 34R
34R「特別なレース」
「――――抜けた抜けた!14番・プロミスクイーンだ!プロミスだ、プロミスだ!誰も並べない!圧勝、ゴールイン!!」
「―――やはり来ました!プロミスクイーン!外からプロミスクイーン!届くか、余裕だ!届いた!先頭でゴールイン!」
「―――後方からやって来た!プロミスクイーンだ!女王プロミスクイーン!あっという間に並んでしまった!強すぎる!こんなウマ娘がいるのか!圧倒的強さ!先頭でゴール!」
「パシャ、パシャ」
「来週の日本ダービー、プロミスクイーンさんの意気込みを教えていただけますか?」
プロミス「はい。もちろん、勝つことしか考えていません。人生で一度の大舞台なので、悔いのないレースにしたいと思っています。応援、よろしくお願いします!」
---
アルノ「――すごーい!『日本ダービー、今年は無敗二冠制覇かかるプロミスクイーンの一強か』だって!プロミスちゃんかっこいい!」
レース雑誌を広げ、私の同室の先輩――――アルノ先輩が話す。
プロミス「そんな〜!記事が大袈裟すぎるだけですってば~っ!」
私は、アルノ先輩をとても尊敬している。
この間なんて、天皇賞(春)をレコードで勝ってしまった。
だから、私もその後を追いかけたいと思った。
周りの『“トリプルティアラ”を目指せ』という反対を押しきり、朝日杯フューチュリティステークス、そして皐月賞トライアルの弥生賞を順々に勝っていった。
そしてついに、私は皐月賞も制覇した。
徐々に少なくなりつつあった反対の声も、皐月賞を勝ったことでそれは一切無くなった。
逆に、今はむしろクラシック三冠ウマ娘を目指せとたくさん言われる。
次は、日本ダービー。
アルノ先輩は、実質2着。
アルノ先輩は勝てなかったけど、私は勝ちたい!!
私は、そう強く決心していた。
〈日本ダービー当日・東京レース場〉
ついにやって来た。
日本ダービー――――私が、2着から6着に降着しちゃって、もう1年か。
プロミスちゃんにはあんな思いしてほしくない。
だから、朝プロミスちゃんがレースに向かう前も、『進路には気を付けて』と強めに言った。………だから、きっと大丈夫だよね。
プロミスちゃんのレース、生で観るの初めてだな。
皐月賞も、本当は生で観たかったけど、天皇賞(春)の1週間前だったこともあって忙がしくて観れなかった。
プロミスちゃんの晴れ舞台、観れて嬉しい………!!
「わあああああっ!!!」
アルノ「……えっ?」
実況「さーあ、1番人気・プロミスクイーンがターフにやって来ました!!」
急いで目の前のコースに目をやると、歓声に包まれ、ピンクの肩出しワンピースに包まれた勝負服のプロミスちゃんが、赤いマントをひるがえし、やって来た。
同室の後輩としてのプロミスちゃんとは全く違う、王者のような堂々とした立ち振舞いだった。
私の近くまでプロミスちゃんが来た。
プロミスちゃんは、私に気がついたのか、ニコッと微笑んだ。
その瞬間だけは、いつものプロミスちゃんだった。
アルノ(プロミスちゃん、頑張れ…………!!!)
---
実況「さあ、選ばれし18名のウマ娘。世代の日本一が決まります。さあ、日本ダービー――――」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!先ずは先行争い、―――――――」
プロミスちゃんは後方寄り。
プロミスちゃんは器用だから、レースによって前の方にいたり、最後方にいたりと、決まっていないのだ。
―――――スタートは完璧。
手応えも良い。
………今までのレースで、一番緊張する。
これが……………
―――これが、|世代最強決定戦《日本ダービー》……………!!!
こんな大舞台で走れるなんて、本当にありがたい。
だからこそ、勝ちたいっ!!
実況「さあ、1000m通過!ややスローペースかーっ?」
アルノ(プロミスちゃん…………頑張れっ…………!!)
―――アルノ先輩、私、頑張りますよ!!
あなたが観ている前で、情けないレースなんて出来ないですから!!
ずっと前から思ってたんです。
私が、アルノ先輩だったらなって。
あんなに体力があって、みんなを魅了して、
すごい。すごい。すごすぎる。
あなたを一番尊敬しています。
日本ダービー。ここは、特別な舞台。
だから私も、今日だけはみんな、ましてやアルノ先輩も驚くような最初で最後の特別な走りを披露します!!
プロミス「―――いきます!!」
実況「―――なっ、なんと!!3コーナー手前で、後方からプロミスクイーンが上がってきた!!もうラストスパートなのかーっ!?」
アルノ「えっ………!?プロミスちゃん?!」
いや、これはラストスパートじゃない……………
“逃げ”に作戦を変えた…………???
実況「――――プロミスクイーン先頭のまま、第4コーナーをカーブ!まだ5、6バ身もの距離があります!!場内はどよめきに包まれている!!」
何だろう、これ………
まるで、私が走っているような………………
いつもよりだいぶ息が苦しい。
このまま、バテて失速してしまうのではないかという不安に襲われる。
でも、きっと大丈夫!!
どんなレースも勝ってきた私なら、きっと!!!
プロミス「―――はああああああああああーーーーっっ!!!」
実況「プロミスクイーン、さらに加速!!誰も追い付けません!!2番手との差がどんどん開く!!」
苦しい。こんなに体力を消耗するなんて……!
アルノ先輩の体力に、ますます尊敬する。
観てますか、アルノ先輩。
いつも私が観ているカッコいいアルノ先輩のような走りをしてみました。
まだまだアルノ先輩には敵わないだろうけど。
ああ、やっぱ走るのって楽しいなぁ。
ウマ娘として、この世に生まれて、走れて、アルノ先輩にも出会えて、本当に私は幸せだ。
アルノ先輩。やっぱり、こういう特別なレースでこそ、
先頭で観る景色は本当に美しいですよね……………!!!
実況「ゴォーーールッ!!!プロミスクイーン、圧勝!!まさに横綱相撲!無敗の二冠ウマ娘の誕生です!!これは、ますます将来が楽しみになりました!!」
アルノ「―――やったっ………!!!流石プロミスちゃん………!!―――やっぱプロミスちゃんはすごいなあ……………」
---
「パシャ、パシャ」
プロミスちゃんの勝利インタビューが始まった。
記者「――では、勝利インタビューです。プロミスクイーンさん、日本ダービー勝利、おめでとうございます。まずは感想を。」
プロミス「はい。一生に一度の日本ダービーに勝てて、とーーーっても嬉しいです!!途中、苦しいときもありましたが、自分を奮い立たせて、なんとかやりきることが出来ました。」
記者「今回は、中盤、大胆な逃げに転向しましたが、どんな意図だったのでしょうか。」
プロミス「……私、すごく尊敬して憧れているとあるウマ娘がいて…………今日の日本ダービーも見に来てくれてて…………その尊敬している先輩の走りを真似しました!逃げで走ったことはなくて、不安な面もありましたが、先輩が観に来てくれて、本当に嬉しかったから、先輩が喜ぶようなレースをしようと思って!前からずっと決めてたんです!」
プロミスちゃんは、記者団の後ろにいる私を見つけて、手でOKサインをつくり、ウインクした。
「――“とあるウマ娘”ってアルノオンリーワンじゃ…………」
「だよな。さっきのレースも、まるでアルノオンリーワンの走りそっくりだし。」
アルノ(……プロミスちゃん、全然隠しきれてないよ…………あと、普通に『先輩』って言っちゃってるし………)
プロミスちゃんの、絶対バレないとでも言うような自信満々のウインクに、思わず私は苦笑いした。
---
記者「―――では、勝利インタビューは以上です。日本ダービーを優勝した、プロミスクイーンさんでした。ありがとうございました。」
プロミス「ありがとうございました!」
「プロミスクイーン、もう三冠いけるんじゃない?」
「ねーっ!このまま三冠ウマ娘目指してほしい!」
プロミス「………………みんな、ごめんなさい……………」
プロミスちゃんは、強かった。
いつか、プロミスちゃんとレースしたいな。
私は、とんでもないウマ娘と同室になってしまったと思った。
でも、そんなプロミスちゃんと同室になれて、本当によかったと思った。
-To next 35R-
ウマ娘〜オンリーワン〜 35R
35R「カウントダウン」
〈安田記念の139日前〉
「――――エフォートドリームです。よろしくお願いします。」
瑞城先生「――エフォートさんの目標は……」
エフォート「GI制覇です。出来るだけ早く制覇したいです。」
「――う、嘘でしょ……?」
「地方から来た奴がいきなりG I制覇なんて……|中央《トゥインクルシリーズ》はそんな甘くねぇよ……」
〈安田記念の70日前〉
実況「―――なんとなんと!!7番人気、エフォートドリームが勝ちました!今年の六甲ステークスは、波乱だ!!エフォートドリームが地方転向後、中央初戦を制しました!!」
〈安田記念の42日前〉
実況「5番・ヤングコーセンリード!2バ身ほどの差があります!残り200m!追うものはいないのか!?―――――来ました来ました!!外から9番・エフォートドリーム!エフォートドリームです!なんという末脚!あっという間に並んだ!交わした!そしてゴォーール!!勝ったのは、エフォートドリーム!中央2戦目のGⅡ・マイラーズカップを制し、重賞初制覇!そして地方含め、未だに無敗です!!勢いは止まらない!並みいる強豪が勢揃いする安田記念に、挑戦状を叩き付けました!!」
「う………嘘だろ……こんな田舎から来たヤツが勝つなんて…………」
「これ、下手したら安田記念であのグッドラックナイトと張り合えるんじゃ…………!?」
「おいおい、中央にとんでもない大物が来たぞ!!」
〈安田記念の4日前〉
「《さあ、今週日曜は、5週連続東京GIのクライマックス、安田記念です!注目のウマ娘は、やはり昨年の覇者・グッドラックナイトでしょうか。去年、香港マイルで敗れ、無敗記録が途絶えましたが、今年最初のレース・東京新聞杯を制しました。その後、スプリントに挑戦し、あまり良い結果は出なかったものの、前走のトライアル・京王杯スプリングカップを制しております。マイルは国内で無敗を誇るグッドラックナイトに、勝てる者はいるのでしょうか!
そして、今一番勢いを増しているのが、エフォートドリームです。今年1月に中央移籍後、2連勝を果たし、重賞も制覇しています。地方含め、17戦17勝と無敗で、怖い存在です。―――》」
―――やっぱり、世間は地方から来た私の実力を認めてなんかくれない。
何でわからないのだろう。“無敗”こそ素晴らしいのだということが。
負けるということは、つまりそと勝った人より“劣っている”ということ。
一つでも黒星がつけば、意味がない。
無敗の強いままの私でなければ、
そうじゃなきゃ、トレーナーさんに恩返し出来ない――――
〈安田記念の4日前〉
〈安田記念の42日前〉
〈安田記念の70日前〉
〈安田記念の139日前〉
〈安田記念の790日前〉
「さあ!皆さんは今日から晴れて立派なミズサワトレセン学園のウマ娘です!」
〈安田記念の788日前〉
「―――俺でよければ、拾ってやるよ。」
〈安田記念の759日前〉
「模擬レース、1着は――――」
「ゼェ、ハァ、ゼェ、ハァ…………」
「見て、あの子、またビリだよ。……エフォート……ドリームだっけ?」
「ひょっとして、才能ないんじゃない?才能ないやつは、トレセン学園に来んなっつーの。」
「―――トレーナーさん………また負けてしまいました………」
「大丈夫さ。エフォートはエフォートなりのペースで成長していけば良い。エフォートがレースに勝てるようになるまで、俺がいつまでも面倒見てやるから―――」
〈安田記念の592日前〉
「――バタッ!」
「―――とっ、トレーナーさん!?誰か、救急車!!」
「ピーポーピーポー―――」
「―――脳梗塞だってよ………情けねぇ。まだエフォートをデビューすらさせてねぇのに………」
「―――トレーナーさん。強くなった私になって、帰ってきます―――」
〈安田記念の564日前〉
実況「―――エフォートドリーム!なんて速さだ!7バ身もの差をつけて、優勝!これがデビュー戦とは思えません!!」
〈安田記念の522日前〉
――――トレーナーさん。
「もう一本走ります。」
「えっ!?もう今日で20本だぞ!?」
〈安田記念の366日前〉
「エフォートドリーム!!重賞初制覇です!!」
誰もスカウトに来なかったとき、私すごく不安で、
だけど、
〈安田記念の271日前〉
「エフォートドリーム、無敗で10勝達成!ミズサワに新たなスターが生まれました!!」
トレーナーさんが声をかけてくれたとき、本当に嬉しかったです。
〈安田記念の243日前〉
「タッ、タッ、タッ、タッ……………」
「―――まだまだッ…………!!」
―――だからこそ、トレーナーさんが元気なときに、デビューして勝ちたかった。
〈安田記念の187日前〉
「―――エフォートドリームを、中央で走らせたい………!??」
「――エフォート!『中央に移籍しないか』って今中央トレセン学園の関係者の方があちらにいらっしゃってて…………」
「………私が、|中央《トゥインクルシリーズ》に……………」
〈安田記念の139日前〉
「――――エフォートドリームです。よろしくお願いします。」
だから、
〈安田記念の70日前〉
実況「―――なんとなんと!!7番人気、エフォートドリームが勝ちました!今年の六甲ステークスは、波乱だ!!エフォートドリームが地方転向後、中央初戦を制しました!!」
もう、
〈安田記念の42日前〉
実況「勝ったのは、エフォートドリーム!中央2戦目のGⅡ・マイラーズカップを制し、重賞初制覇!そして地方含め、未だに無敗です!!」
―――間違えません………!!
〈安田記念の0日前・岩手県内のとある総合病院〉
「《―――さあ、2番人気、ミズサワからの刺客、エフォートドリームの入場です!無敗のウマ娘です!》」
「―――エフォート。《《何》》が、お前を変えちまったんだ………?」
「……あのときのお前は、どこに行ってしまったんだ………??」
-To next 36R-
ウマ娘〜オンリーワン〜 36R
36R「カウントダウンII」
実況「―――さあ、先頭はグッドラックナイト!グッドラックナイトです!連覇なるか!?しかし、間から割って入る、エフォートドリーム!!この2人の一騎打ちか!?」
〈安田記念の22日前〉
実況「グッドラックナイト先頭!グッドラックナイト先頭!楽勝だ!グッドラックナイト、先頭でゴォーールっ!!京王杯スプリングカップ、勝ったのはグッドラックナイト!安田記念連覇への視界は良好です!!」
―――よし、勝った!
目指すは世界一のウマ娘!
トライアルは余裕で勝てるようにならないとだな!
〈安田記念の3836日前〉
「ポンッ!」
「――ほらグッド、パス!いけーっ!シュートだー!」
グッド「――うん!」
「……ドテッ!」
後ろに振り上げた足は、ボールに命中せずに空振り、あたしはバランスを崩して倒れる。
「――グッド、大丈夫!?」
グッド「……へーきへーき!いつものことだ!」
「――もう、次はちゃんと決めてよ!ただでさえグッドはちっちゃいから、ボール蹴りづらいんだからさ!」
---
グッド「―――ねえ、母上!グッドはいつになれば背がのびるんだ??なんでグッドはみんなとくらべてちっちゃいんだ??」
「――大丈夫よ。あのね、人間の身体には、“成長期”ってものがあって、そのときになればきっとたくさん背は伸びるわ。あと、牛乳をたくさん飲むとか、自分で背を伸ばすことだって出来るんだから。」
グッド「……それは、本当か!?じゃあ『セイチョウキ』になれば、グッドはたくさん伸びてみんなと同じ身長になれるんだな!?」
「うん。―――まあ、今のグッドの年齢じゃ、まだまだ先だけどね。」
グッド「―――そんなあ………」
あたしは、がっかりしながら、何気にテレビを付け、ウマ娘のレース中継を見ていた。
「―――抜けた抜けた!先頭は11番の――――――だ!――――――だ!ゴォール!!今年のジャパンカップ、勝ったのは、イギリスから来ました、11番の――――――です!!これでGⅠ3勝目!」
その勝ったウマ娘は、とても小柄だった。
グッド「………すごい……………こんなにちっちゃくても、世界で活躍するウマ娘がいるんだな…………………決めた!あたしも、小っちゃくても強くて無敵のウマ娘になる!――――世界一のウマ娘になって見せる!!」
一度目標にしては諦めた目標を、あたしはようやく口に出した。
〈安田記念の3164日前〉
「――グッド、またレースビリじゃん!何が“世界一のウマ娘”よ!口だけじゃない!」
「クスクス」
グッド「口だけじゃない!まだ分からないじゃないか!あたしはきっと――いや、絶対世界一のウマ娘になるんだ!」
「あはは、グッドには無理だよー!だって、グッド、背とかすごくちっちゃいじゃん!レース見てても、強いウマ娘に、ちっちゃいウマ娘なんていないよ?ちっちゃいウマ娘は、みんな弱いんだよ!強くなんてなれないさ!」
グッド「そんなことない!なら、あたしが証明して見せる!『ちっちゃくても、強いウマ娘はいる』って!ちっちゃいウマ娘の希望の星になるんだ!」
「ふん、そんなの無理に決まってる!」
「…まあいいじゃない。言いたいだけ言わせておけば?どうせ、無理なんだから。」
「アハハハハ」
---
グッド「―――ねぇ、母上!成長期はまだなのか?!グッド全然背が伸びないぞ!」
「……うーん、まだ先ね。あと…………早くて2年後くらい?」
グッド「2年も待ってられない!背が高くないと強くなれないんだ!」
その日、夕飯を食べ終え、もう寝る時間になったとき、何気にテレビのレース中継を見た。
「―――さあ、今日は、待ちに待った世界最高峰のレース、凱旋門賞です!今年も、名だたる世界のウマ娘たちがこの、フランス・パリに集結しました。日本のウマ娘は未だにこのレースを制覇したことがありません。さあ、今年こそ快挙なるか。」
「――グッドー、明日起きれなくなるわよー!」
グッド「待ってくれ!これだけ見させてくれ!」
「………もう、仕方ないわね…………」
「――ガシャン!」
「スタートです!」
すごかった。
日本のレースよりも、全然格が違うような、そんな感じだった。
どのウマ娘も強そうなウマ娘ばかり。
―――しかし、一人だけ小柄なウマ娘がいた。
このウマ娘は、勝てるのだろうか…………??
「―――さあ、最後の直線です!先頭は、―――――しかし、外から―――――です!外から―――――です!なんと言う末脚でしょうか!そのまま1着でゴォーーールッ!勝ったのは、―――――です!」
なんと、勝ったのはその小柄なウマ娘だった。
「これでGⅠ5連勝!そしてクラシック級ウマ娘ながら、世界最高峰の凱旋門賞を制しました!」
グッド「―――すごい!こんなウマ娘がいたなんて!やっぱり、ちっちゃくても世界一になれるんだ!―――決めた!あたし、いつか凱旋門賞を勝って、世界一のウマ娘になる!」
結局、成長期は来たものの、あたしは身長が小さいままだった。
しかし、あたしに希望をくれた二人のウマ娘が、ちゃんと示してくれたんだ。
〈安田記念の0日前〉
―――だから、これだけは負けてられない!!
勝って、あたしはフランスに行くんだ!!
実況「―――さあ、第4コーナーをカーブして最後の直線!――グッドラックナイト徐々に上がってくる!!」
―――よし、ここだ!
グッド「うおおおおおおおっっ!!!」
実況「先頭は、グッドラックナイト!グッドラックナイトです!さあ、連覇なるか!」
「――――みんな、単純ですね…………」
みんな、揃いも揃って、私を忘れて。
勢いを増しているウマ娘こそ、|警戒《マーク》するべきなのに。
やはり所詮、地方から来たウマ娘と軽く|軽蔑《み》てるんでしょうか。
―――私の|実力《おそろしさ》を、見せてあげましょう…………!!!
「やああああああああっ!!!」
実況「なんと、内からエフォートドリームだ!なんと言う末脚でしょうか!!あっという間にグッドラックナイトに追い付いた!この二人の一騎討ちとなるのかーっ??」
グッド「―――何っ……!?」
エフォート「―――皆さん、甘すぎます。………ここ、本当に中央ですか………?ナメてもらっては困ります。――――私は、“あなたたち”とは違いますから。」
グッド「…………ぐぅっ…!!」
実況「グッドラックナイト、伸びない!代わりに、エフォートドリームが先頭に立った!誰も追い付けません!そしてそのままゴーーール!!………勝ったのは、10番・エフォートドリーム!中央に来て3連勝でGⅠを制覇しました!グッドラックナイトは連覇なりませんでした………!!」
グッド「………ハア、ハア…………」
………どうしてだ………??
あたしは、エフォート殿を|軽く見《なめ》てたのか…………??
………悔しい…!!自分はそんなつもりじゃなくても、無意識にそう思ってたんだ。だから、負けた…………
グッド「―――エフォート殿!すごかったぞ!優勝、おめでとう!」
あたしは、エフォート殿の元へ歩み寄る。
エフォート「……ありがとうございます。」
グッド「強いな、エフォート殿は。……でも、次は絶対あたしが勝つ!」
エフォート「………勝ちたいと思ったのなら、どうぞご勝手に。―――私は、負ける気なんて全くありませんから。」
グッド「…それは、あたしもだ!なんせ、あたしは世界一のウマ娘になるからな!案外、あたしとエフォート殿は似ているかもな!」
エフォート「………一緒にしないでください。私は…………あなたとは違いますから。……私は、あなたたちとは違い、人一倍努力してここに立っているんです。|才能《ポテンシャル》だけで上り詰めたあなちちとは違う。………では。」
そう冷たく言い放ち、エフォート殿は立ち去っていった。
グッド「………ははっ、それは違うぞ、エフォート殿。あたしだって、人一倍努力して来たんだ。」
―――そう、人一倍、がむしゃらに。
がむしゃらに、
がむしゃらに。
だから、あたしはここに立っている。
グッド「…やっぱり、あたしとエフォート殿は似ているのかもな。」
あたしは、そう静かに呟いた。
-To next 37R-
ウマ娘〜オンリーワン〜 37R
37R「挑戦」
「――グッドラックナイト、伸びない!代わりに、エフォートドリームが先頭に立った!誰も追い付けません!そしてそのままゴーーール!!………勝ったのは、10番・エフォートドリーム!中央に来て3連勝でGⅠを制覇しました!グッドラックナイトは連覇なりませんでした………!!」
「――あたしも、のんびりしてられないな。」
「ガチャ」
あたしはジャージに着替え、部屋を出た。
「タッ、タッ、タッ、タッ…………」
あたし―――アスカウイングは、1週間前に、やっと走れるようになった。
骨折の完治までにおよそ3ヶ月、そこから歩けるようになるまで1ヶ月、そして今までのように走れるようになるまで2ヶ月。
半年もの時間を要した。
その期間、自分を見つめ直すことにあてた。
改めて実感したこの走る楽しさ。
もう、間違えたくない。
どれだけ|期待《プレッシャー》をかけられても、あたしは、あたしだから。
あたしのペースで、ゆっくりと―――――
---
アスカ「――『完全復帰ローテーション』??」
篠原「そうです。アスカさんはマイルが得意ですが、私には中距離も得意なのではないかと見こしました。そこで、これです!」
篠原トレーナーは、そのローテーションを書いたボードをあたしに見せた。
篠原「この、GⅠのない夏の期間を利用して、重賞にたくさん出走しようというプランです。まずは今月末に行われるエプソムカップ、次に中京記念、そしてその次に2000mの新潟記念で力試し。そして最終目標は天皇賞(秋)。頑張りましょう!」
アスカ「うわあ………結構詰め込んだね。」
篠原「当然です!アスカさん、半年もずっと走れなくって、私もとても悔しかったんです。……だから、アスカさんには思う存分走ってもらおうと思いまして!」
アスカ「……そっか。嬉しいよ、トレーナー。……あたし、頑張るね!」
みんながレースを休む中、あたしはたくさんレースに勝ってみせる!
〈東京芝1800m・エプソムカップ(GⅢ)〉
実況「外から12番・アスカウイング!12番・アスカウイング!これがジュニア級王者の貫禄!他のウマ娘を寄せ付けず、堂々圧勝です!」
〈中京1600m・中京記念(GⅢ)〉
実況「5番・アスカウイング、アスカウイングです!完全に抜け出した!強い!一番人気に応え、見事勝利!二連勝です!」
〈新潟2000m・新潟記念(GⅢ)〉
実況「さあ、最後の直線!注目のアスカウイングは、4番手まで上がってきた!そしてそのままぐんぐん加速する!そしてゴールしました!三連勝!マイルからの距離延長で不安視されていましたが、杞憂に終わりました!」
---
篠原「すごいです!重賞三連勝!これで、天皇賞(秋)も名だたる同期のウマ娘たちと対等に戦えますね!結構みなさん、秋の初戦は天皇賞(秋)を目指している方が多いらしいですよ。ほら、えーと、宝塚記念を勝ったユニバースライトさんは直行、アルノオンリーワンさんはオールカマーから天皇賞(秋)――――――」
トレーナーは、雑誌を声に出して読む。
アスカ「――あっ、ねぇグッドは?その雑誌に書いてない?」
篠原「――えっ??……あ、そうでした……すみません。アスカさんを集中させるために言ってなかったんですけど……………」
トレーナーが真顔でこちらに目を向ける。
篠原「……グッドラックナイトさん、今フランスにいますよ。凱旋門賞出るために………」
アスカ「……がっっ……………」
アスカ「《《凱旋門賞》》だってぇぇーーーーっっっ!!!!」
---
アスカ「――えっ、あ、ホントだったんだ………」
どうも信じられない内容に、あたしはあの後グッドに電話した。
グッド「《嘘なわけないじゃないかー!第一、アスカ殿は耳にしなかったのか?そういった情報を。凱旋門賞だぞ?一流ウマ娘だろうが、三流ウマ娘だろうが、日本のウマ娘が出走するなら、絶対に注目される。》」
凱旋門賞――――それは、フランス・パリで行われる世界最高峰のレース。
由緒ある106年の歴史の中で、日本のウマ娘は未だかつて勝ったことが無い。
日本のウマ娘が凱旋門賞を勝つことは、日本のウマ娘のレース界においての悲願であるのだ。
アスカ「そっか………あたし、ここんとこレースにたくさん出てて、トレーニングにも明け暮れてたから、そういった話を耳にする機会があんまり無かったから………やっとレース復帰して重賞三連勝して、これでまたグッドたちと対等に戦えるって思ったのに…………またお預けか。」
グッド「《そうか………重賞三連勝もするなんて、やっぱアスカ殿はすごいな。そんなアスカ殿とあたしも戦って見たかったものだ。………だが、見ていてくれ。2週間後のフォワ賞も、一ヶ月後の凱旋門賞も。君が、その悲願達成の目撃者になるんだからな!》」
グッドらしいいつもの自信満々の言葉に、あたしはクスッと笑った。
―――そうそう。
実は、凱旋門賞に出走する日本のウマ娘は、グッドだけではないようで―――――
---
「パシャパシャ」
「――本日は、お集まりいただき、ありがとうございます。」
「――今日、わたくし―――――プロミスクイーンがこうして記者会見に望んだのは、みなさんにお伝えしたいことがあったからであります。」
プロミス「わたくし、プロミスクイーンは、クラシック戦線を離脱し、凱旋門賞に出走します………!!」
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アルノ「うわぁーっ………すごい……トップ記事だよ………!?『プロミスクイーン凱旋門賞緊急参戦!賛否両論の声続々』………」
プロミス「思い切って記者会見してみました。……あーっ、すっきりした!本当は、ダービー勝った時から、考えてたんです。でも、みんなの三冠制覇の期待が高まる度に中々言い出せなくて………」
アルノ「そっか………でも、私はプロミスちゃんがどんな道に行っても、応援するから!胸張ってフランスに行ってきな!」
プロミス「はい!」
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凱旋門賞―――世界の|頂点《いただき》。
世界一のウマ娘になるために――――
さらなる可能性を広げるために――――
-To next 37R-
ウマ娘〜オンリーワン〜 38R
38R「世界最高峰の舞台」
名だたるウマ娘が世界中から集う、年に一度の世界最高峰の舞台――――それは…………
凱旋門賞――――
今年も、世界各国から強豪が、フランス・パリに集う。
「C'est moi qui remporterai ce Prix de l'Arc de Triomphe…!(この凱旋門賞、勝つのは私よ…!)」
1番・ラソワイユ(6番人気)シニア級
フォワ賞2着、
|BC《ブリーダーズカップ》フィリー&メアターフ(米)二連覇、
|仏《フランス》オークス覇者。
フランスのウマ娘。
「……あっ!ハイハーイ!ボンジュール、ラソワイユ殿!」
「C'est un plaisir de jouer à nouveau contre vous!(また君と対戦できて嬉しいよ!)」
2番・グッドラックナイト(7番人気)シニア級
凱旋門賞トライアル・フォワ賞制覇、
NHKマイルカップ、安田記念制覇。
日本のウマ娘。
ラソワイユ「Je suis heureux aussi.Good Luck Knight.Je ne perdrai pas la prochaine fois!(私も嬉しいわ。グッドラックナイト。次は負けないから!)」
「――Salut!La Soie Iu et Good Luck Knight!(――やあ!ラソワイユとグッドラックナイト!)」
「Mon cœur battait la chamade car j'avais hâte de jouer contre vous !(君たちと対戦するのが待ち遠しくて心が踊ったよ!)」
14番・イマジナルトラベラー(4番人気)シニア級
香港ヴァース、ドバイシーマクラシック、BCターフ(米)、コックスプレート(豪)、サンクルー大賞(仏)制覇。
世界を又にかける|旅人《トラベラー》。
イギリスのウマ娘。
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「―Strong Splash!!」
「Today, I will win against you!(今日こそは君に勝つ!)」
3番・セカンドマーキュリー(8番人気)クラシック級
クラシック級ウマ娘限定の凱旋門賞トライアル・ニエル賞で重賞初勝利。
イギリスのウマ娘。
「Hmm……(ふーん……)」
「interesting. If you can defeat it, try to defeat it.(面白い。倒せるものなら倒してみなよ。)」
5番・ストロングスプラッシュ(3番人気)クラシック級
|英《イギリス》ダービー、|愛《アイルランド》ダービー制覇、
彗星のごとく表れた若き天才。
8戦6勝2着2回。
イギリスのウマ娘。
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「…Es ist lästig, dort zu sein.(…そこにいると邪魔だ。)」
イマジナルトラベラー「Is it german? Sorry. I only understand English and French. Can you speak English or French?(それはドイツ語かな?すまない。私は英語とフランス語しか話せないんだ。英語かフランス語で話してくれるかい?)」
「…I beg your pardon.Let me say it again. Being there is a nuisance.(…失礼。ではもう一度言う。そこにいると邪魔だ。)」
11番・プリマシュテルク(1番人気)シニア級
昨年の凱旋門賞を無敗で制す。
|独《ドイツ》ダービー、英ダービー、バーデン大賞(独)、インターナショナルステークス(英)制覇。
ドイツからの最強の刺客
イマジナルトラベラーとは二度戦って一度も勝てていない。
グッド(……あたしドイツ語も話せるから通訳できるけどな……(※グッドは日本語、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、広東語、アラビア語の7ヶ国語が話せる))
イマジナルトラベラー「Oh, I see. I felt bad for interfering.(おー、そうかそうか。邪魔して悪かった。)」
プリマシュテルク「Imaginal Traveler…I never expected it to come to the Prix de l'Arc de Triomphe… I hate you. If you interfere during the race, you won't be left alone.(イマジナルトラベラー……まさか凱旋門賞にまで来るとは……私は君が嫌いだ。レース中にまで邪魔したらただじゃおかないからな。)」
イマジナルトラベラー「Well, well. Don't be so angry. Just because you've never beaten me.(まあ、まあ。そんなに怒らないでくれよ。私に一度も勝ったことが無いからって。)」
プリマシュテルク「What!? Don't get carried away!(何だと!?調子に乗るな!)」
「…An bhféadfá a bheith ciúin le do thoil? Ní féidir liom cabhrú ach mothaím torannach.(…静かにしてもらえませんか?うるさくて仕方ない。)」
「Ní haon mhaith é do na himreoirí is láidre ar domhan a leithéid de fuss a dhéanamh. Má dhéanann tú sin, caillfidh tú dom.(世界の強豪が、この程度で騒いでるようじゃ駄目ね。そんなんじゃ私に負けるわよ。)」
9番・トゥインクリング(6番人気)シニア級
BCフィリー&メアターフ2着、愛オークス3着、|QEⅡ世C《クイーンエリザベスにせいカップ》2着
アイルランドのウマ娘
悲願の初GⅠ制覇へ
イマジナルトラベラー「…I don't even understand Lrish... Good, do you understand?(…アイルランド語も分からないんだよね……グッド、君は分かるかい?)」
グッド「Sorry. I don't speak Lrish either...I need to learn it soon.(すまない。あたしもアイルランド語は話せないんだ……早く習得しないと。)」
イマジナルトラベラー「By the way, besides you, there is another person from Japan, isn't there? Introduce her to me. I've heard that she is the strongest in Japan.(ところで、君の他にももう一人日本から来ているんだよね?彼女を紹介してくれ。日本では最強と聞いているのだが。)」
プリマシュテルク「Das beschäftigt mich auch.(それは私も気になる。)」
ラソワイユ「Je suis curieux aussi!(私も!)」
トゥインクリング「Táim fiosrach freisin!(私もだ!)」
セカンドマーキュリー&ストロングスプラッシュ「Us too!(私たちも!)」
グッド「wait a minute…(ちょっと待ってくれ……)……プロミス殿はどこに行ったのだ?」
すると、高いヒールの足音が聞こえる。
「――ツーン、カツーン………」
グッド「プロミス殿!」
「――あっ!グッド先輩!」
8番・プロミスクイーン(2番人気)クラシック級
無敗の二冠ウマ娘、
ダービーウマ娘
凱旋門賞に電撃参戦。
日本のウマ娘。
ラソワイユ「Êtes-vous Promise Queen!? tu m'as manqué!(あなたがプロミスクイーン!?会いたかったわ!)」
プリマシュテルク「Ich habe gehört, dass Sie noch ungeschlagen sind - stimmt das?Oh, du verstehst doch Deutsch, oder?(君は無敗だと聞いたが、それは本当か?…あ、君にはドイツ語分かるよな?)」
トゥインクリング「Tá sé an-suimiúil a bheith undefeated! An féidir liom fiafraí díot níos déanaí cén cineál oiliúna a dhéanann tú de ghnáth?(無敗なんてとても興味深いわ!後で、いつもどんなトレーニングをしているか聞いても?)」
プロミス「……あわ………あわわ………私、英語しか分かりませ~ん!!」
グッド「Stop,stop! …Sorry, she only speaks English. Please ask questions in English.(ストップ、ストップ!すまない、彼女は英語しか分からないそうなんだ。質問は英語で頼む。)」
プロミス「グッド先輩……ありがとうございます!」
グッド「うむ!どうってことない。借りなら、レースで返してくれたまえ。もちろん、負ける気はないがな!」
プロミス「はい!絶対返します!」
〈一方凱旋門賞と同日の日本・京都レース場〉
実況「さあ、本日京都レース場のメインレースは、GⅡ・京都大賞典。芝2400mで1着を争います。一番人気は、重賞3連勝。そして重賞7勝の――――アスカウイングです!」
-To next 38R-
ウマ娘〜オンリーワン〜 39R
39R「パリと京都」
実況「――さあ、京都大賞典――――」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!11名のウマ娘で争います。京都大賞典。アスカウイングは後方待機。」
なぜ、天皇賞(秋)に直行するはずだったあたしが、京都大賞典で走っているのかと言うと――――
篠原「えっ!?ジャパンカップに出走したい…………!?」
アスカ「うん。お願い!天皇賞(秋)の後、ジャパンカップで走らせて欲しいんだ!」
篠原「なるほど………マイルチャンピオンシップを《《捨てて》》、ジャパンカップですか…………なぜジャパンカップに出たいんです?」
アスカ「……グッドと走りたいから。……グッドは、凱旋門賞に出走する。トライアルのフォワ賞も勝ったし、彼女は中距離も適性だったんだと思う。今後グッドはマイルじゃなくて凱旋門賞と同じ2400m前後のレースに出走するんじゃないかと思う。……だから、あたしはグッドとジャパンカップで戦いたいんだ………!」
篠原「……理由は、よく分かりましたが、グッドさんがジャパンカップに出走する保証はどこにあるんです?」
アスカ「……大丈夫。あたしに、考えがあるんだ。」
篠原「……そうですか。良いでしょう。ただし、条件があります。一ヶ月後の京都大賞典に出走してください。距離はジャパンカップと同じ2400mです。それに勝てばジャパンカップに直行。その間、ジャパンカップで勝てるようにみっちりトレーニングしていただきます。もし負けたら、ジャパンカップは諦め、予定通り天皇賞(秋)、マイルチャンピオンシップのローテーションで行きます。いいですね?」
アスカ「……うん。分かった。」
---
アスカ(――大丈夫…………これに勝てば、グッドと戦える……!!)
実況「さあ、第4コーナーをカーブし、最後の直線へ!――外からアスカウイング!外からアスカウイング!」
――よし。体力も十分ある。
もしかすれば、グッドも中距離適性あるけど、あたしも中距離適性あるのかも…………!
アスカ「――うおおおおおっっっ!!!」
実況「やはり来ました、アスカウイングだ!アスカウイングだ!先頭でゴーールっ!!これで重賞4連勝!」
やっぱり走るのって――――
楽しい!!!
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篠原「京都大賞典勝利おめでとうございます。約束通り、ジャパンカップへの出走を認めます。」
アスカ「……ありがとう!……これで、グッドと…………」
篠原「ジャパンカップは、世界の強豪ウマ娘も招待されるれっきとしたレースです。勝つにはそこらのレースよりも難易度が高いですよ。……これから2ヶ月ビシバシ鍛えますからね!」
トレーナーの目は、恐ろしいくらいやる気に満ち溢れていた。
アスカ(グッド………次は、君の番だよ。)
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〈フランスのパリ・ロンシャンレース場〉
グッド「……ふぅーーーー……………」
プロミス「――いよいよですね!グッド先輩!」
グッド「……ああ。まさか、プロミス殿との初対戦が凱旋門賞になるとはな。」
プロミス「私もビックリです。こんなに強いグッドさんと戦えて光栄です!お互い、頑張りましょうね!」
グッド「ああ!………ところで、プロミス殿。他のウマ娘の|警戒《マーク》には、気を付けた方がいいぞ。」
プロミス「マーク………ですか?」
グッド「ああ。|欧州《ヨーロッパ》のウマ娘は、プライドが高い。この凱旋門賞は特に、意地でも私たち日本のウマ娘に勝たせたくないと思っているだろう。」
プロミス「……えっ?!でも、みなさん、とっても気さくな方たちに見えましたが………」
グッド「表ではそうでも、みんな心の中ではそう思っているはず。……だから、未だに日本のウマ娘は勝てない。特に、プロミス殿は無敗で、二冠ウマ娘なんだから、あたしよりも警戒は強くなると思う。」
プロミス「…そうですか。ご忠告、ありがとうございます。……でも、私は今までもずっとみんなに警戒され続け、レースでも進路を塞がれたり不利なレースを受け続けてきました。……でも、それでも勝ってきました!警戒なんて気にしてちゃ最強ウマ娘にはなれません!」
グッド「……そうか。流石はプロミス殿だな。実は、ちょっと怖がらせようと思ったのだが関係なかったな。あたしだって夢の世界一のウマ娘になる権利をようやく手にしたんだ。|同じ日本のウマ娘《みかた》だからって容赦しない。」
プロミス「……こっちもですよ。」
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実況「《パリ・ロンシャンに、14名の選ばれしウマ娘が、世界中から集いました。その中には、日本のプロミスクイーンとグッドラックナイトもいます。》」
アスカ「グッド―――頑張れっ………!!」
実況「さあ、枠入り順調。ーーー体制が整いました。」
グッド(ーーこの舞台に立つために、血の滲むような努力をしてきた………世界一のウマ娘という夢の一歩手前まで来た。それなら、勝つしかない。ーーー勝つのは、あたしだ!)
ラソワイユ(C'est moi, cet amoureux de la France, qui gagnerai la course française !(フランスのレースを制するのは、フランスを愛するこの私よ!))
セカンドマーキュリー(Next time we'll beat Strong Splash and give them a shot!(次こそはストロングスプラッシュに勝って、一泡吹かせるんだ!))
ストロングスプラッシュ(I don't care if everyone is older than me. I'm going to be the undefeated classic-class Prix de l'Arc de Triomphe winner!(年上だろうが関係ない。僕は無敗のクラシック級凱旋門賞ウマ娘になるんだ!))
トゥインクリング(Má bhuann mise, an t-aon chapall Éireannach, táim cinnte go mbeidh gach duine in Éirinn sásta...!(唯一のアイルランドウマ娘の私が勝てば、きっとアイルランドのみんなは喜んでくれるわ……!))
イマジナルトラベラー(It's the most exciting thing I've ever done! After all, there is no race more exciting than the Prix de l'Arc de Triomphe!(最高にエキサイティングだよ!やっぱり凱旋門賞ほどワクワクするレースは無いね!))
プリマシュテルク(Prix de l'Arc de Triomphe--das ist mein Platz zum Glänzen. Ich kann es mir nicht erlauben, mich von einem solchen Idioten besiegen zu lassen…(凱旋門賞ーーここは、私の輝ける場所。あんな能天気なバカに負けることは断じて許されない………))
プロミス「ーーふぅ………」
プロミス(デビューして1年ちょっとでもうこんな世界最高峰の舞台に立ってしまった………私は、走るのが大好きだ。誰よりも大好きだ。……今日は、それを証明してみせる!!)
「ガシャン!」
実況「スタートしました!まずは快調に飛ばしました、イギリスのイマジナルトラベラー!リードは早くも6バ身です!」
イマジナルトラベラー(Everyone is getting nervous. This race is all about having fun!(みんな緊張しちゃって〜。このレースは、楽しんだ者勝ちなのに!))
プリマシュテルク(Hunh, du Idiot. Wenn du von Anfang an so schnell fliegst, wirst du nicht durchhalten. .........? Okay, ich kann ihn heute schlagen. ...... Abgesehen davon, ............ ist das Problem Japans Promise Queen.(フン、バカが。初めからそんなに飛ばしたら最後まで持たないぞ………?よし、今日はアイツに勝てる。……それはさておき…………問題は日本のプロミスクイーンだな。))
実況「先頭はイマジナルトラベラー!6バ身差で2番手は日本のグッドラックナイト、それを見る形でアイルランドのトゥインクリング、1バ身差離れフランスのラソワイユ、2連覇目指すドイツのプリマシュテルクは後方に位置しています。」
プロミス(……ペースが速い!先頭のイマジナルトラベラーさんがペースを上げているんだ!)
グッド(………やるな、トラベラー殿………!!)
実況「さあ、異例のハイペースです!ドバイシーマクラシック以来の大逃げ!イマジナルトラベラー、凱旋門賞というレースを操ります!」
イマジナルトラベラー(Hmmm, you're all confused.can you keep up with my speed .........?(ふふん、みんな混乱してるね♪私の速さについていけるかな………??))
トゥインクリング(...Guh! Bhí mé ag scaoll... ní raibh mé ach ag iarraidh coinneáil suas leis an gceannaire... Bhain mé úsáid as leath de mo stamina cheana féin...(……ぐぅ!焦ってしまった………先頭についていこうとばかり考えて………もう体力も半分使ってしまった………))
グッド(大丈夫!あたしは2番手。仕掛けるのには有利な位置にいる!大丈夫。タイミングを見誤るな………!)
実況「さあ、第四コーナーをカーブして、|偽りの直線《フォルスストレート》に入ります!まだまだ飛ばす!イマジナルトラベラー!他のウマ娘は追いつけるのか!」
プリマシュテルク(Scheiße! Ich kann nicht glauben, dass er nicht nur ein Idiot ist, sondern ein Manöver, um das Tempo zu erhöhen…Ich habe ihn unterschätzt. ...... Es geht nicht mehr darum, wer den Prix de l'Arc de Triomphe gewinnt - es geht darum, wer mit dem Imaginary Traveller mithalten kann…(クソっ!アイツ、ただのバカじゃなくて、ペースを上げるための作戦だったなんて…………!見くびっていた……もはや、この凱旋門賞、誰が勝つかじゃなくてーーーーー《《誰がイマジナルトラベラーに追いつけるか》》になってしまっている………!!))
実況「さあ、フォルスストレートを抜け、直線!今年の凱旋門賞ウマ娘は誰なのか!」
イマジナルトラベラー(…Okay, 533m to go! I still have plenty of energy left! From here, if we accelerate further…(……よし、残り533m!まだ体力も十分にある!ここから、さらに加速すれば……))
「ーーHi! How's it going? Imaginal Traveller.(ーーやあ!調子はどうだ?イマジナル殿。)」
イマジナルトラベラー「…What…?」
イマジナルトラベラー(...... No, wait, wait! When did this guy get here!? I didn't even hear him approach! And I can't believe he caught up so quickly after making such a gap! And he's even breathing! ...... Good Luck Night, you, you.........(……いや、待て待て!コイツ、いつの間に!?近づく音すらしなかったぞ!?それに、あんなに差をつけたのに、すぐに追いつくなんて!それに息だって整ってる!……グッドラックナイト、君は、君は………))
イマジナルトラベラー(…Who the hell are you!?(……何者なんだ!?))
グッド「―――お先だ!」
実況「グッドラックナイト先頭!グッドラックナイト先頭!なんとイマジナルトラベラーにいとも簡単に追いついてしまった!」
プリマシュテルク(Was soll's, es ist Good Luck Knight! Ich kann nicht glauben, dass er mit dieser Geschwindigkeit mithalten kann… Scheiße, ich hätte es richtig markieren müssen…!(何!?グッドラックナイトだと!?あのスピードに追いつけるなんて………しまった、ちゃんとマークしておくべきだった………!!))
グッド(プロミス殿は、何処にいるのだろう………まさか囲まれて抜け出せなかったりしないだろうな………??)
プロミス(どうしよう、前も横も塞がれた…………まだこんなに体力もあるのに………)
プリマシュテルク(Lassen Sie zumindest nicht zu, dass die Promise Queen entkommt, niemals!(せめて、プロミスクイーンだけでも抜け出させまい、絶対に!))
ラソワイユ(On ne sait jamais quand cette fille va le déclencher……(この子はいつ仕掛けてくるか分からない……))
ストロングスプラッシュ(To increase my chances of winning as much as possible!(僕が勝てる可能性を少しでも上げるために!))
みんな(We will never let the Promise Queen win!
/Nous ne laisserons jamais la Reine de la Promise Queen !
/Wir werden niemals zulassen, dass die Promise Queen gewinnt!
/Ní ligfidh mé do Promise Queen an bua a fháil! !(ーー|日本のウマ娘《プロミスクイーン》を絶対に勝たせない!!))
-To next 40R-
〜作中に出てきたウマ娘〜
①イマジナルトラベラー
イギリス出身のウマ娘。新しもの好きで、ワクワクすることとスリルが大好き。いつもキャリーケースをカバン代わりに使用している。
身長……166cm
見た目……金髪のツインテール。制服風のワイシャツと短いスカート。
②プリマシュテルク
ドイツ出身のウマ娘。頑固で短気。特にイマジナルトラベラーとの相性が悪いようで、イマジナルトラベラーに対してはいつも口が悪くなる。生真面目だが、趣味はサボテンを育てることと小動物を飼うことと小さいものが好き。
身長……166cm(イマジナルトラベラーと身長も同じなので嫌がっている。)
見た目……黒髪のロングヘアー。鋭い目つき。焦げ茶色のロングコートを羽織っている。
③トゥインクリング
アイルランド出身のウマ娘。負けず嫌いで、やや自信家。自分を過信しすぎて失敗することもしばしば。根は素直であまり嘘をつかない性格。アイルランドのみんなが大好きで、そんなみんなの期待に応えたいと思っている。
身長……148cm
見た目……栗色のくるくるしたサイドテール。ややつり目でまつ毛が長い。マントを羽織っている。
ウマ娘〜オンリーワン〜 40R
【お知らせ】
これから学生である故に勉強が忙しくなってくる時期に入り、このまま小説を書き続けることが困難になるのではと思いました。なので突然ですが、今回から「ウマ娘〜オンリーワン〜」は週1投稿ではなく隔週投稿にしたいと思っております。ですので、次回の投稿は来週ではなく再来週になります。少なくとも今年度いっぱいまでそうするつもりです。更新頻度は減りますが、引き続き読んでいただければとても嬉しいです。
有未
40R「世界一強いのは」
「タッ、タッ、タッ………」
「がんばれー!」
「ガンバレーっ!」
「ハアッ、ハアッ………!!」
「わーっ!!」
「またプロミスちゃんが勝ったよー!」
「プロミスちゃんは強いねー!」
「――プロミス、あなたは速くて強いわね。将来はティアラ三冠ウマ娘かしら。」
「てぃあらさんかん?」
「そう。それは、ティアラ路線のウマ娘にとって最高の栄誉なのよ。きっとプロミスならなれる。期待してるわ。――あなたのその脚で、みんなを笑顔にするのよ。」
私は、走るのが大好きだ。
レースへの愛なら、誰にも負けない。
私は、みんなの期待をたくさん裏切った。
ティアラ路線ではなくクラシック路線に、
菊花賞ではなく凱旋門賞に、
どんなに怖かったか。みんなのがっかりした声を聞くのは、顔を見るのは。
だから、言わせてやるんだ。
「菊花賞じゃなくて凱旋門賞に出てよかったね。」って。
―――なのに、
なのにっ………!!!
プロミス(前も右も左も、進路を全部塞がれている……!!)
やっぱり、グッド先輩の言う通りだったんだ。
こんなにも徹底的に|警戒《マーク》されるなんて……!!
まだ、抜け出せる体力は全然あるのに……!!
プリマシュテルク(Tut mir leid, Promise Queen. Wir können die Japaner nicht einfach gewinnen lassen.(悪いな、プロミスクイーン。日本のウマ娘にだけは勝ってもらっては困るんだ。))
プリマシュテルク(Ich habe einen Außenweg und kann jederzeit aussteigen.(私は、外の進路を確保していつでも抜け出せるように―――))
プロミス(落ち着け!タイミングを見逃すな!少しでも隙間が空いたら、そこへ切り込む!)
トゥインクリング(Is mise uimhir 3...má thosaím anois, beidh buntáiste agam! Tá mo neart coirp níos lú ná leath mar gheall ar Imaginal Traveller, ach tá sé ar fad i! ... cuir ar bun é! !(――私は、3番手……今仕掛ければ、有利!体力はイマジナルトラベラーのせいで半分もないけど、一か八か!……仕掛ける!!))
実況「トゥインクリング上がってきた!日本のプロミスクイーンはまだ後方にいる!」
プロミス(――――!!トゥインクリングさんがスパートを掛けたから、前が空いた!よし、ここから……)
ラソワイユ(D'accord, maintenant!(よし、今ね!))
ストロングスプラッシュ(I'll catch up with you soon!(すぐに追いついてやる!))
セカンドマーキュリー(Don't let Strong Splash get ahead of me!(ストロングスプラッシュに先は行かせない!!))
プリマシュテルク(Das ist ein guter Anfang......(ここからが勝負だな……!))
実況「他のウマ娘も一斉にスパートをかける!プロミスクイーン完全に出遅れたようです!」
プロミス(………っっ!!完全に前が塞がれた……!!)
横は空いたものの、10mほど先では、みんなが先頭争いを繰り広げていた。
私だけ、完全に置いてきぼりだ。
全力で走っているのに、全然追いつけない。
そりゃそうだ。みんなも全力で走ってるんだもん。
全ては、タイミングだったんだ。
プロミス(……うぅっっ……!!!悔しいよっ!こんな、不完全燃焼で終わりたくなんかない………!!だってここは凱旋門賞……!凱旋門賞なのにっ!!)
前も塞がれていれば、空いている進路はたった一つしかない。
この進路は一番体力を削る。かつ、先頭のグッド先輩に追いつけるほどの体力も残っているかどうか。
―――でも、やるしかない。
後悔なんかしたくない。
三冠ウマ娘になるチャンスを捨てて、無謀な凱旋門賞に挑戦したにも関わらず、応援してくれたみんなのためにも!!
こんな形で終わりたくなんかない!!
プロミス「――はあああああああーーーーっっっ!!!」
「タッ、タッ、タッ………!!」
プロミス「……見ていろよぉーっ!私のレースへの愛は誰も負けないんだからぁーーっ!!………ダービー2勝ウマ娘だろうが、ニエル賞ウマ娘だろうが、凱旋門賞ウマ娘だろうが、これだけは負けない!!」
プリマシュテルク「…Wie!?(何だと!?)」
トゥインクリング「Ní féidir liom a chreidiúint go bhfuil tú ag teacht ón achar sin! ?(あの距離から来るなんて信じられない!!)」
ラソワイユ「Êtes-vous sérieux au sujet du cours extérieur?(大外って本気なの??)」
セカンドマーキュリー「Yes, even if the front is blocked, the outer track is open. but....(たしかに、前を塞がれても、大外なら空いてる。……だけど……)」
ストロングスプラッシュ「I can't believe you've already caught up with us after running the outside course large......!(大外を走っておいて、もう僕たちに追いつくなんて……!!)」
プロミス「I'm Promise Queen…」
イマジナルトラベラー「……まさに、クレイジーだね。」
プロミス「…I love race! I most love race!!」
実況「な、なんと、大外からプロミスクイーンです!なんということでしょうか!誰もがプロミスクイーンの凱旋門賞制覇を諦めていましたが、まだ希望は残っていました!グッドラックナイトもまだ先頭で粘っています!今こそ二人のウマ娘が、歴史を変えてくれるのでしょうか!?」
プロミス「はぁぁぁあああああああーーーーっっっ!!!!負けてたまるかーーっ!!」
グッド「……来たか、プロミス殿。……だが、あたしだって負けない!!世界一のウマ娘になるんだ!!!」
プロミス「私だって、レースの愛を証明するために!!!」
あたしは、―――|幸運の騎士《グッドラックナイト》!!!
私は、|約束の女王《プロミスクイーン》!!!
グッド「やぁぁぁあああああああっっ!!!!」
プロミス「はああぁぁぁあああああーーーーっっ!!!」
イマジナルトラベラー「Sigh, there's no room for me in this! I wonder if these person will create a new future.........(はぁ〜っ、これじゃあ、私の入る余地なんてないね〜。こういうウマ娘たちが、新しい未来を創るのかなぁ………)」
実況「こんなことが予想できたのでしょうか!?グッドラックナイトとプロミスクイーンの一騎打ちとなりました!!イマジナルトラベラーは3番手!恐らく日本のウマ娘の制覇は確定!しかし、両者一歩も譲りません!!」
世界一のウマ娘になる!!
バカにされても、駄目だと言われても、これだけは譲れなかった!諦められなかった!
世界一のウマ娘になるためにどんな努力もした!絶対に勝ちたい!勝ちたい!勝ちたい!!!
私は、走るのが大好きだ!!
みんなの期待に応えるために!!
「やっぱ菊花賞に出た方がよかったじゃん」って言わせないために!!
絶対に凱旋門賞で結果を出して見せるんだ!!絶対に凱旋門賞に出走したことが無駄じゃないことを、レースへの愛は世界一なんだということを、証明してみせるんだっっ!!!
勝ちたい!!
勝ちたい!!
負けたくない!!
負けてたまるか!!
世界一強いのは、
―――|グッドラックナイト《あたし》/|プロミスクイーン《私》だっっっ!!!
実況「―――ゴォーーールっ!!!なんと、この日、歴史が変わりました!日本のウマ娘が凱旋門賞を制しました!!……勝ったのは――――――プロミスクイーンです!!日本から無敗の凱旋門賞ウマ娘が誕生しました!!同じく日本のグッドラックナイトはハナ差で2着。序盤に大逃げを披露したイギリスのイマジナルトラベラーはグッドラックナイトから2バ身離れた3着となりました!!」
グッド「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」
プロミス「ハア、ハア、ハア………」
グッド「おめでとう。プロミス殿。世界一のウマ娘は、プロミス殿だったな。心から祝福する!」
プロミス「グッド先輩………グッド先輩も、とっても良い走りでした!」
「パチ、パチ、パチ……」
「…congratulations!!」
イマジナルトラベラー「……二人共、とても良い走りだったよ!!今回は完敗だね。」
グッド「トラベラー殿!……に、日本語喋れたのか!?」
イマジナルトラベラー「ああ。…まだ勉強中の身だけどね。」
プリマシュテルク「Imaginal Traveler! Du hast mich wieder geschlagen. ...... Und auf Good Luck Knight und Promise Queen auch. Nächstes Mal werde ich nicht verlieren. .(イマジナルトラベラー!またお前には負けた……!そして、グッドラックナイト、プロミスクイーンにもな。……次は絶対負けない。)」
イマジナルトラベラー「I hope you can beat me next time.(次こそは私を倒せるといいね♪)」
プリマシュテルク「Halt die Klappe! sagte ich zu den beiden Japanern! Das ist das letzte Mal, dass ich mit euch um die Wette reiten werde!(うるさい!私は日本のウマ娘二人に言ったんだ!もうお前とレースするのはこれで最後だ!)」
イマジナルトラベラー「……彼女はツンデレだからね。また次のレースで一緒になるかもなー。」
ラソワイユ「Félicitations. Promise Queen! Brillante !(―――おめでとう。プロミスクイーン!素晴らしかったわ!)」
セカンドマーキュリー「I didn't think there was a stronger person than Strong Splash in my generation!(同世代にストロングスプラッシュより強いウマ娘がいたとは思わなかったよ!)」
ストロングスプラッシュ「I want to race with you again.(また君とレースがしたい。)」
トゥインクリング「Rinne mé gannmheas ort...ach an chéad uair eile a bhainfidh mé GI amach!(あなたを見くびっていた………でも、次こそはGI制覇するんだから!)」
プロミス殿の周りは共にレースに出たウマ娘たちが集まっていた。
あたしは、何も言わずにそっと離れ、人目につかない場所に行く。
グッド(―――駄目だった………折角凱旋門賞の舞台に立てたのに…………2着じゃ意味ないじゃないか………っっ!!!)
グッド「う、うわぁぁぁああああ〜〜〜っっ!!!わぁぁあーーーっ!!!―――絶対、絶対来年は勝ってやる!!世界一のウマ娘になってやるんだーーーっっ!!!」
こうして、凱旋門賞は幕を閉じた。
「《プルルル、プルルル》」
アスカ「――――あっ、もしもし。グッド。急にごめんね。凱旋門賞お疲れ様。すごかった。惜しかったね。あたしもとっても悔しい。……その、グッドにお願いがあって。―――ジャパンカップに出て欲しいんだ!」
グッド「えっ、あたしが…………??」
凱旋門賞の1ヶ月半後、再び、世紀の熱戦が繰り広げられるとは、誰も予想していなかった。
-To next 41R-
〜作中に出てきたキャラ紹介〜
・ラソワイユ
フランスから来たウマ娘。美人でファッションにうるさい。ウマ娘としてレースをしつつ、フランスではモデル活動もしている。お姉さんキャラ。
身長……155cm
見た目……茶髪のカールのかかったボブ。赤いリボンの飾りがついたカチューシャ。肩出しワンピースの勝負服。
・ストロングスプラッシュ
イギリスから来たウマ娘。自信家で自分が一番強いウマ娘でありたいと思っている。セカンドマーキュリーとは犬猿の仲だがまあまあいいコンビ。
身長……152cm
見た目……金髪のロングヘアー。大きめのゆったりとした黄色と青のジャンパー。
・セカンドマーキュリー
イギリスから来たウマ娘。レースではいつも2着や3着ばかり。ぱっとしない地味で目立たないウマ娘。ストロングスプラッシュをライバル視していて、いつか倒したいと思っている。「セカンドマーキュリー」から「ファーストマーキュリー」に改名できないかと密かに思っている。
身長……159cm
見た目……赤みがかった灰色のショートヘアー。スポーティーな勝負服。
ウマ娘〜オンリーワン〜 41R
先週投稿するはずがうっかり投稿するのを忘れてしまいました。
1日遅れで大変申し訳ないです。
次回は来週中に投稿予定です。
41R「エフォートの間違い」
クリス「――おっはよー!アルノ!昨日の凱旋門賞見た?すごかったよね!あ、プロミスクイーンちゃんってアルノと同室だったっけ?」
アルノ「うん。すっごく嬉しかった!抜け出すのが遅れたときはすっごくヒヤヒヤしたよ〜!」
「ガララ」
エフォート「――おはようございます。」
いつものようにエフォートさんは真顔で教室に入る。
「おはようございます」の挨拶も、感情がこもっていなかった。
クリス「――ねぇ、最近エフォートちゃんなんか機嫌悪くない………?」
クリスちゃんがコソッと話す。
確かに、ここ最近エフォートさんはいつにも増して無口で、ムッとした顔をしている。
クリス「どうしたんだろう………??」
---
牧村「さあっ、今日もトレーニング始めるぞ!まずアルノはウォーミングアップでコース3周な!」
アルノ「はい!」
トレーナーさんに言われ、すかさず走る。
牧村「――よし、お疲れ!5分休憩な!」
3周走り終え、トレーナーさんに休憩と言われる。
「――タッタッタッタッタッ………」
どこからか聞こえるとても速い足音に、私は思わず足音の方を見る。
アルノ(……エフォートさん……!?)
向こうのコースで、エフォートさんは走っていたのだが、ただただ無心に速く走っていた。
私には、エフォートさんには負けられない“何か”があるのだと感じた。
「――ハヤブサプレイス先頭!ハヤブサプレイス先頭!なんと、なんと、無敗のエフォートドリームは2番手だ!ハヤブサプレイス、他のウマ娘を寄せ付けず圧勝!エフォートドリームは、初黒星となりましたー!」
エフォート「――クッッ…………!!!」
「タッタッタッタッタッ…………」
次は負けられない。負けたくない。
負けたら、トレーナーさんにどう顔見せすればいいか分からない………!!
私は、もう|地方《あのとき》の弱い私じゃないんだ……!!
中央で無敵の最強のウマ娘になるんだ………!!
〈3週間後〉
実況「《抜け出した抜け出した!ダークイーグルス先頭!さらにウォースペシャルも来た!そして外からはエフォートドリーム!3人の一騎打ちだ!そしてそのままゴォーールっ!大混戦となりました、スワンステークス!僅かに3着はエフォートドリームでしょうか………??》」
アルノ「えっ………エフォートさん負けちゃった…………」
プロミスちゃんと一緒に食堂で昼ごはんを食べていた私は、テレビを見て唖然とした。
プロミスちゃんはつい1週間前にフランスから帰ってきたばかりだ。
プロミス「もうこれで二度目ですね。負けるの。」
アルノ「えっ??2回目なの!?」
プロミス「そうみたいですよ。京成杯オータムハンデキャップで2着だったそうですし。あ、私のトレーナーさんから聞いた話なんですが。」
アルノ(だから、あんなに不機嫌そうだったんだ………すごく勝ち負けにこだわってそうだもんなぁ………)
---
「――ドンッ!」
エフォート「――どうしてっ…!!どうしてこんな《《GⅡごとき》》でっ……!!何で勝てないんだ!あんなにたくさん努力したのに!!努力は裏切らないのに!!クソっ!クソっ!」
「――ブー、ブー」
エフォート「……こんなときに電話……?それに知らない番号………」
エフォート「……もしもし?」
「《よお、エフォート。覚えてるか?春山だ。》」
エフォート「……トレーナーさん……!?」
電話の相手は、かつて地方時代に私の担当トレーナーだった|春山一志《はるやまひとし》だった。
春山「《探したぞー。知り合いのトレーナー伝いでお前のトレーナー探して連絡先教えてもらったんだ。…あのときは色々心配かけて済まなかったな。お前の活躍、見てるぞ。本当に強くなったんだなぁ……嬉しいよ。》」
エフォート「と、トレーナーさんにそう言ってもらえるなんて嬉しいです。」
春山「《どうだ?来週の土日にでも会えないか?病院教えるからさ。》」
エフォート「………ごめんなさい。今の私じゃ、トレーナーさんに会う資格なんて……」
春山「《いいから来い。……会えるときでいいから。……待ってるぞ。××総合病院な。》」
「ブツッ……プーッ、プーッ………」
一方的にトレーナーさんに電話を切られる。
エフォート「…………行くしか、ないですね。」
〈1週間後・都内某所の総合病院〉
エフォート「――すみません、『ハルヤマヒトシ』は、どこの病室でしょうか……?」
---
「ガラッ」
エフォート「…トレーナーさん、来ましたよ……??」
春山「おーお!エフォート!よく来たな!さ、こっちこっち。座れ。」
トレーナーさんは手招きする。
私は見舞いに来た人用の丸椅子に座る。
エフォート「体調はどうですか?もう2年経ちますけど……」
春山「ああ。……ズルズルだが、回復傾向だよ!このまま順調にいけば半年以内に退院かも、だってさ。……ただ、もうトレーナーの仕事はやめた方がいいと………」
エフォート「……そうですか。」
春山「お前の活躍、見てるぞ!お前が活躍する度に、『俺はコイツの一番最初のトレーナーなんだ!』って周りの患者に自慢してる。……まあ、って言ってもエフォートの担当してたのは半年の間だけだけどな。」
エフォート「……でも、トレーナーさんは私がどんなに弱くても私を見捨てませんでした。だから、そんなトレーナーさんに恩返しがしたくて私は強くなろうと必死に走ってきました。」
春山「『恩返し』なんて大げさな………自分の担当したウマ娘を信用するのは当たり前のことだろ?」
トレーナーさんは、気さくに笑う。
春山「次走は?決まってるのか?」
エフォート「………一応。マイルチャンピオンシップです。」
春山「そうか………エフォート、もう俺の為に走らなくたっていいんだ。エフォートはエフォートの為に走れ。俺は、一着でも二着でもビリでもエフォートが元気に走ってる姿を見たらそれで満足だからさ。」
エフォート「ーーでも、一着じゃ意味がありません。強いウマ娘は、常に一着であり続けないと………」
春山「エフォート。」
トレーナーさんは私の言葉を制した。
トレーナーさんは真剣な顔つきで私を見つめる。そして、話し始める。
春山「レースで常に一着を取れるだけが強いウマ娘って訳じゃない。どんな困難にも、へこたれずに立ち向かえるーーそれが、強いウマ娘なんじゃないかと俺は思うよ。努力するだけじゃつまんないだろ?努力したのに結果が返ってこないなら、なおさらだ。たまには楽しんで走ってみるのも良いかもしれないな。そしたら、今までじゃ気が付かなかったことに気がつけるかもしれないしな。」
エフォート「楽しんで………走るーーー」
---
「ガラッ」
エフォート「……おはようございます。」
教室にエフォートさんが入って来る。
アルノ「……おは…えっ!?エフォートさん!?髪切ったの!?」
クリス「……ホントだ!」
エフォートさんは前のとても長いサイドテールから、バッサリ髪を切ってショートヘアーになっていた。
エフォート「はい……こうでもしないと、中々気持ち切り替えられないと思いまして…………みなさん、ごめんなさい!!」
エフォートさんは急に頭を下げる。
エフォート「私は、今までずっと自分がレースで一番にさえなれれば他のことはどうでもいいと思っていました。だから、みなさんにも冷たく当たってしまった……でも、私が間違ってました。ある人に教えてもらったんです。『レースで一着になることだけが強いウマ娘じゃない』って………こんな私が言うことじゃないかもしれませんが、私を、みなさんの競い合う同期として……ライバルとして、仲間に入れて下さい!お願いします!!」
エフォートさんは再び頭を下げた。
クリス「そんなの………当たり前じゃん!てゆうか、エフォートちゃんはとっくにあたしたちの仲間でしょ!」
グッド「そうだそうだ!エフォート殿はあたしにも勝ったんだぞ!何も縮こまることはあるまい!」
マロン「これからは壁なくみんなで競い合えるねっ♪」
エフォート「みなさん…………ありがとうございます!!」
うっすらと泣きながらエフォートさんはそう言った。
---
アナウンサー「《――さあ、秋のGI戦線が始まり、一ヶ月半………それでは、秋の主なGIレースをプレイバックしていきましょう。
初めはスプリンターズステークス。有力なウマ娘が不在の中、関屋記念1着、京成杯オータムハンデキャップ3着とマイル重賞で結果を残していたダークイーグルスが念願のGI勝利を果たしました。
そして、日本時間同日に行われた凱旋門賞。日本のウマ娘ではグッドラックナイトとプロミスクイーンが出走。グッドラックナイトはGI2勝。そして凱旋門賞トライアルのフォワ賞を勝利。プロミスクイーンは無敗のダービーウマ娘であり、菊花賞への挑戦が期待された中での凱旋門賞出走という形になりました。そして、2人のウマ娘は期待通り、いや、それ以上の走り方をしてくれました。なんと、勝ったのはプロミスクイーン、そして2着はグッドラックナイトという形での決着。日本中から歓声が湧き上がりました。
続く天皇賞(秋)。ユニバースライト、アルノオンリーワン、ヤマトレギュラー、ルナビクトリー、ガーネットクイーンと、豪華メンバーが集結しました。そして勝ったのはゾクタイジェイソン!ユニバースライトらと同世代のウマ娘がここで頭角を現しました。
エリザベス女王杯では、2連覇がかかるガーネットクイン、今年のヴィクトリアマイルを制覇したマロンホワイトの二強という形になりましたが、ここは期待通りガーネットクインが勝利。見事2連覇を飾りました。マロンホワイトは10着でした。
さあ、秋のGIレースはもう折り返し地点を過ぎました。クラシック級ウマ娘とシニア級ウマ娘の闘い、そしてジュニア級王者を決めるジュニア級GIもあります。楽しみが止まりません!
残る11月のGIレースは、秋のマイル王者決定戦・マイルチャンピオンシップ、そして外国のウマ娘と競う由緒正しき国際招待GIレース・ジャパンカップ!どちらもビッグレースとなっております!
まずはマイルチャンピオンシップ!主な出走ウマ娘は、あの凱旋門賞2着のグッドラックナイトを破った地方出身ウマ娘・エフォートドリーム、クラシックレースでは全て2着のクリスタルビリー、スプリンターズステークスを勝ったダークイーグルス、GI2勝のヤマトレギュラーとなっております!
そして特に注目なのはジャパンカップ!なんと、凱旋門賞2着のグッドラックナイトが出走を表明!その他にもドバイターフを勝ったルナビクトリー、ジュニア級王者アスカウイング、オーストラリアGI・メルボルンカップを勝ったミシッピバラードと日本勢は今年も豪華メンバーが揃いました。
そして気になる海外勢!なんと凱旋門賞3着のイマジナルトラベラーと昨年の凱旋門賞ウマ娘・プリマシュテルクが電撃参戦!今年のジャパンカップは去年以上の豪華キャストが揃いました!
さあ、果たして、誰が勝つのでしょうか。そのレースの結果は、誰も分かりません―――》」
-To next 42R-
ウマ娘〜オンリーワン〜 42R
大変長らくお待たせしました!
正直に言うと受験生でして、本格的に勉強しなければならない時期に突入しました。
なので、更新頻度が2週間に一回どころかそれよりも遅くなってしまうかもしれません。
しかし、できる範囲で投稿を続けていくので、これからも読んでいただけると嬉しいです。
投稿をやめるといったことはしませんので、安心してください。
有未
42R「次こそは」
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」
――負けるもんか。負けるもんか。
――あたしだって、みんなみたいに輝きたいんだ!
――あともう少し。もう少し……
――“あの人”の代わりに、GIを………!!
――ここで勝たなきゃ、いつ勝つの…?
――身体中に、力を溜め込んで。
――でも、もうダメだ。届かない。
―――ごめんなさい。また、ダメだった。
まるで、ゴールとあたしだけの間に、透明な壁があるかのように、
掴みかけたゴールが、手から零れ落ち、泡となって消えるように、
目の前で、あたしの“夢”は、過ぎ去っていった。
「―――わああああ!!!」
歓声が湧き上がる。あたしに向けてじゃない、歓声が。
まただ。また、目の前で逃してしまった。
どうしてだろう。もう何回勝利を取りこぼせば気が済むのだろうか?
あのときだ。あのとき、もっとタイミングを見計らって、抜け出すのが早くなかったら。
次だ。次こそは絶対……!!
―――でも、あたしに“次”が訪れることは、無かった。
---
あたし、あなたをずっと探してたよ。
あの日、あたしに夢を与えてくれた、あなたを。
いくら探しても、見つからなかった。
あなたに、会いたい……!!
だから、トレーナーにも協力してもらって、《《やっと見つけた》》。
マイルチャンピオンシップが終わって、落ち着いたら会いに行くから。
---
実況「さあ今年も、マイルチャンピオンシップ、豪華キャストが揃いました。まずは1番人気、14番・エフォートドリーム!続く2番人気は8番・ヤマトレギュラー!この2人の人気が高いです!続く3番人気は、10番・クリスタルビリー!富士ステークス2着です。4番人気は9番のサプライ。重賞3勝です。さあ、エフォートドリームは春秋マイルGIレース制覇なるか!マイルチャンピオンシップ――――」
「ガシャン!」
あたしは、スタートと共に大きく出た。
実況「スタートしました!おっと、クリスタルビリーは珍しく先行策に出た!現在2番手です!1馬身差でヤマトレギュラーは3番手の位置につけています。エフォートドリームも集団よりやや前!人気のウマ娘はみんな前の位置にいる!」
今回こそは……今回こそは絶対にっ……!!
春にはマロンちゃんも初めてGIを勝った。
これで、同期の中でGIを勝ってないのはあたしだけ。
悔しくないワケないじゃん。
だからこそ、必死で頑張った。
だけど、結果はいつだって私の味方はしてくれなかった。
走りに走って戦績を重ね、ようやくもぎ取った重賞初制覇の神戸新聞杯。
もう、あれから1年以上経つ。
あの日以来、私は一度も勝っていない。
なんでだろうなあ……
皆には才能があって、あたしには何もない。
ただの平凡な善戦ウマ娘。
――でも、あたしだって輝きたいよ。皆みたいに。
一度で良い。一度でいいから、この最高のGIの舞台で、誰よりも早くゴールを駆け抜けたい………!!
あたしは、そう強く思いながらスピードを速めた。
実況「1000m通過タイムは、56秒2!やや速いペースです!先頭は変わってクリスタルビリー!クリスタルビリーです!今回は逃げに徹するつもりなのでしょうか??」
クリスさんが《《逃げ》》――――――
これは想定外です……
しかし、もし仮に力んでいるだけなのだとしたら、こちらにも十分|勝機《チャンス》はある。
---
「タッタッタッタッ……」
クリス(次こそは……次こそは……っっ!!)
「―――先頭はユニバースライト!ユニバースライト!外から1番人気・ルナビクトリーが上がってくるが――――届かない!先頭ユニバースライトでゴーールっ!!」
「――ユニバースライトが徐々に差を詰める!この2人の叩き合いだ!両者一歩も譲りません!アルノオンリーワン、ユニバースライト、並んでゴーーールっ!しかし、ユニバースライトがわずかに差し返したかっ!?」
「――先頭は、逃げる!アルノオンリーワン!アルノオンリーワン!オンリーワンです!まさに底無しの体力ーっ!!」
見てて、みんな。絶対に勝ってみせるからっ!
もう、あたしは|善戦ウマ娘《わきやく》なんかじゃない!!
-To next 43R-
ウマ娘~オンリーワン~ 43R
超超超お久しぶりです!
長い間休んでしまい、大変申し訳ありませんでした!
超久々に書いた、「ウマ娘~オンリーワン~」、読んでいただけたら嬉しいです!
43R「今は今」
実況「――さあ、第4コーナーを曲がり、最後の直線に差し掛かりました!」
「タッタッタッタッ……」
「ハアッ、ハアッ……」
辛い。息が出来ない。
アルノは、こんなにも大変な思いをしているんだね。
最後の直線なのに、なんだかとても長く感じる。
それに、今に抜かされそうな、そんな恐怖が私を襲う。
実力のあるウマ娘なんか、いっぱいいる。
特に、エフォートちゃんが気がかりだ。
いつ、スパートをかけるか分からない。
お願いです。神様。
一度だけでいいから、勝たせて―――
---
よし、体力も十分にある。
クリスさん、《《あの時》》の借り、返させてもらいますよ。
あの時、あなたは私がみんなの前で謝ったとき、一番に、
「――そんなの………当たり前じゃん!てゆうか、エフォートちゃんはとっくにあたしたちの仲間でしょ!」
私は、あなたの言葉に救われた。
あなたはいつも明るく、私と接してくれた。
だから、そんなあなたに、今ここで、
勝ちたい!!
実況「――さあ、来たぞ来たぞ!外からミズサワからの刺客・エフォートドリーム!先頭は変わってエフォートドリーム!クリスタルビリーはここまでか!?」
やっぱりね………
悔しい、悔しい。
どうしていつもこうなるんだろう。
人一倍の努力をしてきたつもりなのに。
才能の無いウマ娘は何をやっても勝てないの……??
あたしは、斜め前を走るエフォートちゃんを、ただただ見つめた。
――いや、待って。
違う。まだ終わってない。
こんなんじゃ終われない。
あたしの本気は、こんなもんじゃない。
いつもは負けそうなとき、次は勝とうって、心のどこかでそう割りきっていたあたしがいた。
でも、そんなのおかしい。
今は今だもん。
このマイルチャンピオンシップは、たった一度しかない。
もしかしたら、エフォートちゃんと走ることも無くなるかもしれない。
他の強いウマ娘たちと走ることも、無くなっちゃうのかもしれない。
なのに、そんな心意気でいいの??
頑張れ!あたし!
あたしは、輝く|水晶《クリスタル》!!
あたしは、あたしの走りを信じる!
何故って?
あたしは、クリスタルビリーだからっ!!!
クリス「――やぁぁぁあああおあっっ!!!!」
実況「おっと、クリスタルビリー!再び加速した!エフォートに追い付くのか!?」
負けない!負けない!負けない!負けない!
あの人に言ったんだ!!
“あなたを超えるウマ娘になる”って!!
いま、あの人が|マイルCS《このレース》を見てくれているかもしれないでしょ!
根性見せろ!!
エフォート(やりますね……クリスさん………でも、勝ちたいのは私だって同じ…!この栄冠は、誰にも渡さない!!)
エフォート「はぁぁぁああああっっ!!」
実況「さあ、今年のマイルチャンピオンシップは二名の一騎討ちだ!エフォートか!?クリスタルか!?9人目の春秋マイル制覇か?!悲願の初GⅠ勝利か?!」
クリス「やぁぁぁああああっっ!!!」
エフォート「はぁぁぁああああっ!!」
実況「―――わずかにエフォートだあぁぁーーっっ!!勝ったのは、エフォートドリーム!エフォートドリームです!!春秋マイル制覇!秋の重賞連敗に終止符を打ちました!勢いは止まりません!惜しくも2着は逃げで挑んだクリスタルビリー!――」
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ………」
また、ダメだった。
すると、あたしのいる方に向かって、芝を踏む誰かの足音がした。
エフォート「……正直、あなたを見誤っていました。クリスさん。」
クリス「…エ、エフォートちゃん……」
エフォート「ありがとうございます。あなたの言葉に救われました。あの日、私が謝ったときに、あなたが一番に掛けてくれた言葉です。あれがなければ、私は勝てなかった。……次のレース、私と同じレースにならなかったら―――」
エフォート「――私は、一番にあなたを応援します。大丈夫です。あなたはいつかきっとGⅠを勝てます。……って、なんかごめんなさい。偉そうに言ってしまって。」
クリス「――ううん。こちらこそありがとう。エフォートちゃんと走ったら、なんかやる気が湧いてきちゃったんだ。…優勝、おめでとう!」
エフォート「はい。ありがとうございます。」
あたしとエフォートちゃんは握手を交わした。
クリス「―――…あーあ。結局、エフォートちゃんに負けちゃったの、あたしのせいじゃん。」
エフォートちゃんが去ったあと、あたしは小さな声でそっと呟いた。
でも、全く悪い気はしなかった。
次こそは、絶対に――――
応援してくれる人が増えた今、あたしは、そう強く誓った。
〈数日後〉
「ガララッ!」
アルノ「――大変!みんな聞いて!!」
グッド「どうしたのだ?そんな大声出して…」
アルノ「出すに決まってるよ!クリスちゃんが……クリスちゃんが……!!」
ユニバ「…ク、クリスちゃんが、どうしたんですか………??」
アルノ「《《二度と》》走れないかもしれないって!!」
-To next 44R-