舞台は東京。
小説家を目指す高校生『蒼井 海斗』の物語。
1,原案
2,小説版
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目次
聖夜の奇跡
キャラクター
カイ
男子高校生。将来の夢は小説家。
アヤ
カイの幼馴染。
天使
クリスマスなので人間界にやってきた天使。
ユウ
カイの同級生。
菅野(スガノ)
カイの転生後。
三田真冬(ミタマフユ)
アヤの転生後。
《開幕》
天使:板付き
天使「さて、突然ですが皆さんに質問です。奇跡とは何でしょう。正解は常識ではおこることが考えられないような出来事のこと。神が起こすと一般的には考えられていますが、もちろん僕も可能です。おっと、そろそろ行かないと。それではまた後程」
---
場面:駅前イルミネーション
BGM:クリスマスっぽいやつ
カイ&アヤ:登場
カイ「うーん、既読つかないな」
アヤ「お、お待たせ。結構待たせちゃったよね」
カイ「大丈夫、今来たところだから。一度来たことがあるとはいえ、迎えに行ったほうがよかったか?」
アヤ「二回来たことあるよ!」
カイ「悪い悪い」
アヤ「にしても東京は人が多いね。カイと離れないようにしないと」
カイ「荷物、ちゃんと駅のロッカーに…」
アヤ「早くイルミネーション見に行こ!レッツゴー!(手を引く)」
カイ「ちょ、引っ張るな!」
カイ&アヤ:|捌《は》け
ユウ:登場
ユウ「おぉ、イルミネーション凄いな(辺りを見渡す)…カップルしかいないけど。さっきまでバイトだったからいいし、恋人とイルミネーションとか見たかったけど、家族と仲良く楽しく過ごすからいいし」
カイ&アヤ:登場
ユウ「あ、カイじゃん」
カイ「げ、ユウ…」
ユウ「げ、は酷すぎない?」
アヤ「えっと、カイの友達?」
ユウ「まままさかカイの彼女!?急いで写真撮ってクラスのグループに…」
カイ「バカ、お前やめろ、」
アヤ「初めまして、カイの幼馴染のアヤです」
ユウ「あ、カイの同級生のユウです」
アヤ「カイって学校ではどんな感じなんです?」
ユウ「陽キャでも陰キャでもないごく普通の人間。運動が出来るから一応モテる。あと文芸部で小説を書いてるね」
カイ「ユウ、少し黙ろうか」
アヤ「良かった。まだ小説家になる夢、諦めてないんだ」
ユウ「え、カイの将来の夢って小説家なの!?」
カイ「…言ったことなかったか」
ユウ「初耳だよ!」
アヤ「カイの小説、私すごく好きだよ」
カイ「ありがとな」
ユウ「あ、二人の写真撮ってあげる。ほらほら近寄って~」
カイ「おま、急になんだよ、てか押すな」
ユウ「はい、チーズ」
効果音:シャッター音
ユウ「よし、それじゃこれをクラスのグループに…」
カイ「やめろ、本気と書いてマジで」
ユウ「冗談だって。カイに送っとくからアヤさんに送っといてね」
アヤ「アヤで大丈夫ですよ、ユウさん」
ユウ「それならユウって呼んで」
アヤ「よろしくね、ユウ」
ユウ「あ、幼馴染ということはカイの秘密とか恥ずかしいエピソード知ってるんじゃ!?よかったら教えてくれない?」
アヤ「もちろん。あ、森で迷子になったときにカイが大泣きした時の話とか…」
カイ「アヤ、そんな話をしなくてもいいから。お前絶対にクラスのグループに流すだろ」
ユウ「もちろん」
カイ「せめて誤魔化そうとしろよ…」
ユウ「アヤ、よかったら連絡先交換しようよ。カイの前じゃ妨害されるし」
アヤ「(スマホを取り出す)あ、スマホの充電ない」
カイ「だから既読つかなかったのか」
アヤ「三人のグループ作っといてよ」
カイ「はいはい」
ユウ「んじゃ、そろそろ行くかな」
カイ「バイトか?」
ユウ「いや、家に帰るよ。家族が待ってるから」
カイ「そうか」
ユウ「そういえばカイの出身って結構遠いよね。アヤは東京にしばらく滞在するの?」
カイ「俺の家に泊まるぞ」
アヤ「明日から東京観光するの。上野動物園でパンダ見たりとかする予定なんだよね」
カイ「動物園とか地元にもあっただろ」
アヤ「赤ちゃんいないじゃん!」
ユウ「そうだそうだ!」
アヤ「赤ちゃんパンダが見たいんだ!」
ユウ「そうだそうだ!」
カイ「分かったから騒ぐな。ユウは帰れ」
ユウ「やば、また連絡するわ、カイ。それからアヤも」
アヤ「…うん」
ユウ:捌け
カイ「さて、そろそろ俺たちも帰らないと。母さんもごちそう作って待ってるしな」
アヤ「…あのさ、カイ」
効果音:着信音
BGM:徐々に消す
カイ「噂をすれば母さんだ。ちょっと待ってろ」
アヤ「う、うん」
カイ「…どうしたんだよ、そんな暗い声して。…は?いや、でも、」
アヤ「カイ?」
カイ「…分かった」
効果音:電話を切る音
天使:登場
カイ「アヤ、お前は生きているか?」
アヤ「え?」
カイ「お前が交通事故にあって死んだって母さんが…」
アヤ「……」
カイ「今、ここにアヤは存在してる。お前は生きてる…よな?」
アヤ「私は…カイのお母さんが言ったように東京へ向かうときに交通事故にあって、緊急搬送されたけど…その…」
天使「(カイの後ろから)アヤは死んでいる」
カイ「うわっ」
天使「家から最寄り駅までバスで向かってたんだけど運悪く巻き込まれてね」
カイ「そんな…いや、でもユウに見えてたし、写真にも…!」
天使「写っている、だろう?僕が起こした奇跡で一時的に生き返ってるからね。君に会いたいというアヤの願いを叶えるために」
カイ「一時的にって、そんな現実離れしたこと…まさかお前みたいな奴が神様!?」
天使「お前みたいな、はひどくない?あぁ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕は天使。天界に住む神の使いさ。今日はクリスマスだから人間界に遊びに来てるんだ」
カイ「お前みたいなのが天使…?」
天使「ん?」
アヤ「カイ」
BGM:感動系
カイ「アヤ…お前本当に…」
アヤ「ごめんね、先に死んじゃって」
カイ「なんで俺のとこなんだ。家族に会ったほうがいいだろ」
アヤ「そうだね。でもこうやってイルミネーションをカイと見るのをずっと楽しみにしてたからさ、貴方を選んだの」
天使「アヤ、そろそろ…」
アヤ「うん、分かってる。それじゃもう行くね」
カイ「お前っ、そんなあっさりと受け入れんなよ!おい天使!奇跡が起こせるなら…」
アヤ「もういいの。私はカイとイルミネーションを見れただけで幸せだから。でも、もしカイが小説家になれなかったら化けて出るからね(笑)」
カイ「…俺、絶対小説家になるから。だから転生して読めよ!約束だからな!」
アヤ「分かった。さようなら、カイ」
カイ「バカ、さよならじゃないだろ。また会おうな、アヤ」
アヤ「…うん!またね!」
アヤ:捌け
BGM:徐々に消す
天使「悪かったね、カイ」
カイ「何が」
天使「天使はクリスマスとか特別な日にしか奇跡を起こせない。でも、もし僕が神様だったらアヤを生き返らせるほどの奇跡を起こせた」
カイ「別に謝らなくていい。別れを言えただけで十分だ」
天使「君は優しいね」
カイ「…なぁ、今日起こった奇跡を誰かに話しちゃだめか?」
天使「大丈夫だけど…どうして?」
カイ「ユウに全部説明しないといけないからな。それと、この奇跡を小説にしたいんだ」
天使「小説に?」
カイ「この奇跡を小説にして新人賞に応募する。アヤと一緒に賞を取りたいんだ」
天使「うん、それはいいアイデアだね。また人間界に来る頃には製本されてるかな」
カイ「どうだろうな。落選してるかも」
天使「…題名を教えてくれないかい?」
カイ「題名?」
天使「ヒントなしに本を探すのは大変だろう?」
カイ「そうだな…この本の題名は…」
カイ:捌け
---
天使:センター
天使「翌年、カイの小説は大賞を受賞した。まるでその奇跡を体験したような文章が高評価だったらしい。まぁ、本当に体験してるんだけどね。さて、この劇もそろそろ終幕…しようと思ったんだけど、あれから百年ほど経った人間界を見てほしいんだ」
---
場面:学校(放課後
菅野&三田:登場
三田「(一人で転ぶ)いてて…」
菅野「大丈夫ですか?(手を差し出す)」
三田「あ、ありがとうございます」
菅野「あれ、この本どこかで…」
三田「聖夜の奇跡をしってるの!?えっと一組の菅野君だよね。私、二組の三田真冬。聖夜の奇跡について話したいから連絡先教えてよ!というか今時間ある?」
菅野「え、あ、その、時間はあります」
三田「それじゃ今からカフェ行こうよ!レッツゴー!(手を引く)」
菅野「…うん、アヤ」
三田「え?」
菅野「何でもない」
菅野&三田:捌け
天使「カイ、アヤ。それから観劇してくれた皆さん。メリークリスマス」
《閉幕》
*どうでしたか?
初投稿は『聖夜の奇跡』を小説にしたものがいいかな、と考えていました。
その時に、どうせなら原作?原案?も皆さんに見てもらえたら小説がより引き立つのではと思いました。
全く弄っていないので文章が少しおかしいところがあったかと思います。
小説の方は少しずつ投稿していく予定です。
劇に入れられなかった台詞とかも残していたので、それをうまく使いながら書いていきます。
それでは次の更新まで by生きる。
小説「聖夜の奇跡」 No.9
登場人物
・蒼井海斗
・神薙夕
・???
・???
「あのさ、ずっと聞こうと思ってたんだけど」
「何だ、急に改まって」
「最後のシーン、結局使わなかったよね」
本編はアヤの『またね』というセリフだけが書いてある右のページ。
そして、涙を流して消える少女の絵が左のページで終わっている。
「……個人の感想だけど、あの続きが一番感情が込められてた気がした。|海斗《カイ》の心象描写が胸をギュッと締めて、涙が止まらなかった」
夕の言っていることが、分からないわけではない。
「でも、アレは使えなかった。いや、自分で考えた結果使わなかったんだ」
泣いた彩に手を伸ばすが、届かない。
もし掴めたとしてもあの奇跡は終わっていただろう。
数年後の墓参りの様子と、転生後に出会えた物語も書いてはみたが海斗は納得できなかった。
「お前にあげた原稿用紙は本物だ。まぁ、好きにしてくれて構わないから」
「オークションで幾らになると思う?」
「そんなことしないだろ、お前は」
会計を済ませて、二人は夕焼けに照らされながら歩いて家へと帰っていった。
その時にしたのは、季節外れのくだらない話。
---
聖なる夜に奇跡は起こる。
大切な幼馴染に、天使が会わせてくれた。
きっとサンタクロースや神様もいるのだろう。
初めから否定するのではなく、少しは信じてみてもいいのかもしれない。
そしたら、気まぐれで|俺《海斗》の願いを叶えてくれるような気がする。
ふと顔を上げると、電柱の上に誰かが立っていた。
しかし、一瞬にして見えなくなったから気のせいだと思う。
俺は小説家になったよ、彩。
そっちに行くのは当分先のことだろうし、気長に待っていてくれ。
あ、もし天使がいたら|新人大賞を取った《約束は果たせた》って伝言を頼む。
「伝言を頼まなくても聞いてるよ。ねぇ?」
「まぁ、私たち見えてないから……」
「電柱に降り立ったところは一瞬だけ見えてたよ」
多分だけどね、と付け足す綺麗な白色の服を着た男。
彼の発言に影のない少女は驚いた。
「長生きできるように祝福でも贈る?」
提案を即座に断られ、男は凹んだ。
しかし、少女は別のことを頼んだのだった。
その願いは、彼女だけのものではない。
「生まれ変わってもまた出会えますように、なんて『奇跡』じゃ無理だよ」
「天使を辞めた貴方なら叶えてくれるでしょ?」
勿論、と男は笑みを浮かべる。
『奇跡』を使えるのは特別な日に短時間など《《制限》》が多かった。
だが男が使えるようになった『祝福』に制限など《《存在しない》》。
世界で一番偉い『神』を縛れるものなどないのだ。
「|海斗《カイ》、|彩《アヤ》、|夕《ユウ》。君らに祝福を」
--- 完? ---
*なんか、最初に思い描いていた構想から結構変わった
ということで『聖夜の奇跡』の小説版でした
見出しが気になる方がいると思うので、少しばかり説明させていただきます
とは言いましたが、そのままの意味になります
一応元になった演劇台本を中心に書き進めてみたのですが、上手くまとめられずこのような形になりました
台本の原作者?は私なので展開がどうなっても別に問題はありません
なんか、納得がいかない
初めてだから仕方ないと割り切ることにします
一応原作?とシリーズにまとめてあります
理由としては、気が向いたら番外編でも書こうかと思っているからです
ちなみに、今のところ書く内容は思い浮かんでません
リクエストを募集するときは日記の方に何か書くと思います
それでは次回の更新まで by生きる。
小説「聖夜の奇跡」 No.1
登場人物
・カイ
・ユウ
奇跡。
それは常識ではおこることが考えられないような出来事のこと。
「お前、まさか信じてるのか?」
呆れながら男子高校生──カイは言った。
クリスマスイブというのに部活はあり、もう日が暮れ始めている。
「サンタクロースはいるし、奇跡は起きるだろ!」
あと妖怪も神様も、とカイの友人──ユウは続ける。
カイは苦笑いを浮かべた。
高校二年生にもなって信じているのは、どうなのだろうか。
「あー、バイト嫌だな……」
ユウはスマホを見てため息をつく。
それに対して、カイは小さく笑みを浮かべた。
「え、は、お前笑ったのか……?」
うるさいわ、とユウの頭を叩いてスマホをしまう。
母親の前でもそんな顔はしていない。
そう言われたことが衝撃だったが、その後に連絡相手を問い詰められてカイは逃げた。
足が早いカイにユウは追い付くことが出来ず、少しして立ち止まる。
肩で息をし、呼吸が整うまで時間が掛かった。
「……まさか彼女じゃないよね?」
No.2は2022/09/14/12:00公開予定です
ーーー
すみません
予約投稿が出来てませんでした
小説「聖夜の奇跡」 No.2
登場人物
・カイ
・アヤ
時が少し経ち、完全に日が落ちて夜が始まる。
イルミネーションで有名な駅前が街が彩られた。
家族や恋人など、皆が大切な人とこの時間を過ごしている。
そんな中、一人でベンチに座る影。
気まずいとは思いながらも影は人を待っていた。
スマホを開いては閉じる。
また開いて、ため息をつきながら閉じる。
「うーん、既読つかないな」
マフラーを巻いていてもまだ寒く、鼻の先が赤く染まっていた。
冷たい手に、温かく白い息をかける。
「カイ!」
自分の名前を呼ばれた影は顔を上げる。
懐かしい声と姿に、スマホをしまって立ち上がったカイ。
「お、お待たせ。結構待たせちゃったよね」
「大丈夫、今来たところだから。一度来たことがあるとはいえ、迎えに行ったほうがよかったか?」
「二回来たことあるよ!」
悪い悪い、とカイは笑う。
頬を膨らませて怒っていたのはアヤ。
遠く離れたカイの地元から来た、幼馴染だ。
「それにしても東京は人が多いね。カイと離れないようにしないと」
初めて東京に来たような反応を見せるアヤ。
そういえば、とカイは疑問に思った。
数日間東京にいるのに小さな荷物しかない。
駅のロッカーに入れてきたのか聞こうとしたが、手を引いて走ったアヤに聞くことは出来なかった。
やっと止まったかと思えば、イルミネーションに目を輝かせている。
カイは息を整えながらスマホを構えた。
自身やアヤの母親に写真を送る約束をしており、撮らないと後が面倒くさいのだ。
No.3は2022/09/15/12:00公開予定です
小説「聖夜の奇跡」 No.3
登場人物
・カイ
・アヤ
・ユウ
「あ、カイじゃん」
聞き覚えのある声に、思わず顔を歪める。
まるでロボットのようにカクカクとカイは振り返った。
その顔を見た瞬間に声が漏れたのは『げ』という声。
「ユウ……」
「げ、は酷すぎない?」
ここにいるとアヤが来てしまう。
帰らそうとしたが、時すでに遅し。
「えっと、カイの友達?」
「まままさかカイの彼女!?急いで写真撮ってクラスのグループに……」
「バカ、お前やめろ!」
カメラを起動するユウはアヤを盾にし、カイは立ち止まるしかなかった。
ユウを睨んでいる間に自己紹介が済み、何故か高校での話になっている。
「カイって学校ではどんな感じなんです?」
「陽キャでも陰キャでもないごく普通の人間。運動が出来るから一応モテる。あと文芸部で小説を書いてるね」
何でもかんでも話すユウのこめかみをグリグリするカイ。
イタタ、とスマホを落とさないように頑張るユウ。
「良かった。まだ小説家になる夢、諦めてないんだ」
「え、カイの将来の夢って小説家なの!?」
少し考えた後、言っていないことに気がつく。
コノヤロー、と今度はユウがやり返していた。
No.4は2022/09/16/12:00公開予定です
小説「聖夜の奇跡」 No.4
登場人物
・カイ
・アヤ
・ユウ
「あ、二人の写真撮ってあげる」
ほら寄って~、とアヤの方へと押したユウ。
突然の行動にカイは少し怒りながらもポーズを取る。
アヤはニコニコと笑っていた。
「よし、それじゃこれをクラスのグループに……」
「やめろ、本気と書いてマジで」
ユウは冗談だと言うが、カイは信用できなかった。
「カイに送っとくからアヤさんに送っといてね」
「アヤで大丈夫ですよ、ユウさん」
「それならユウって呼んで」
「よろしくね、ユウ」
カイが頭を抱えている間に二人は仲良くなっていた。
そして、何故かユウは恥ずかしいエピソードを探っている。
アヤも悪ノリし、このままだとクラスだけではなく学校全体まで伝わってしまう。
「アヤ、よかったら連絡先交換しようよ。カイの前じゃ妨害されるし」
「あ、スマホの充電ない」
「だから既読つかなかったのか」
三人のグループを作ることになり、ユウは家に帰ることになった。
それから少しして、カイの母親も待っているので駅へと向かった。
「あのさ、カイ……」
「おっと噂をすれば母さんだ」
電話に出て今から帰ることを伝えたが、母親の様子がおかしいことに気がついた。
少し間があってから伝えられた事実にカイは戸惑う。
うまく声が出せない。
とりあえず電話を切り、自分の中で少し考えた。
「アヤ」
突然名前を呼ばれたアヤは息を飲んだ。
「お前が交通事故にあって死んだって母さんが…」
「……」
「今、ここにアヤは存在してる。お前は生きてる…よな?」
カイは下を向いたまま問いかけた。
しかし、すぐに返事は帰ってこない。
No.5は2022/09/17/12:00公開予定です。
小説「聖夜の奇跡」 No.5
登場人物
・カイ
・アヤ
・天使
「私は、カイのお母さんが言ったように東京へ向かうときに交通事故にあったの。緊急搬送されたけど、その……」
世界から音が消えたような気がした。
否、本当に消えていた。
時が止まったかのように人々は動かない。
「アヤは死んでいる」
後ろから聞こえた声にカイは驚く。
止まった世界で動く、薄汚れたパーカーを着た男。
「家から最寄り駅までバスで向かってたんだけど運悪く巻き込まれてね」
「そんな…いや、でもユウに見えてたし、写真にも…!」
写っている、というカイと男の声が重なる。
「僕が起こした奇跡で一時的に生き返ってるからね。君に会いたいというアヤの願いを叶えるために」
一時的に生き返る。
そんな現実離れしたことを信じられるわけがなかった。
「まさかお前みたいなやつが神様?」
「お前みたいな、はひどくない?あぁ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕は天使。天界に住む神の使いさ。今日はクリスマスだから人間界に遊びに来てるんだ」
「お前みたいなのが天使…?」
「ん?」
天使の額に青筋が浮かぶ。
あ、これは死ぬかもしれない。
カイは神の使いである天使を怒らせたら大変な気がした。
「ごめんね」
今にも消えそうな声が聞こえた。
「先に死んじゃって」
「……なんで俺のとこなんだ。家族に会ったほうがいいだろ」
「でも、こうやってイルミネーションをカイと見るのをずっと楽しみにしてたからさ」
少しずつアヤの姿が光に包まれ、透けていく。
別れが近づいてきているのがカイにも分かった。
「アヤ、そろそろ……」
天使の奇跡が、終わる。
カイは天使の胸ぐらを掴んで叫んでいた。
「おい天使!奇跡が起こせるなら…」
「もういいの。私はカイとイルミネーションを見れただけで幸せだから」
でも、もし小説家になれなかったら化けて出るからね。
そう笑ったアヤを見て、カイは自分の行動が酷く思えてきた。
「……俺、絶対小説家になるから。だから転生して読めよ!」
「分かった」
「約束だからな!」
うんうん、と子供を説得するように返事をするアヤ。
少しずつ姿が見えなくなっていく。
「さようなら、カイ」
No.6は2022/09/18/12:00公開予定です
小説「聖夜の奇跡」 No.6
登場人物
・カイ
・アヤ
・???(男子高校生)
アヤは人として強かった。
だから最後まで泣くつもりはないのを、カイは知っている。
それについて何かを言おうとは思わなかった。
でもアレは、あの言葉だけは許せない。
「バカ!」
カイは声をあげる。
「《《さよなら》》じゃないだろ。《《また会おう》》な、アヤ」
驚いたアヤは、少しの間顔を伏せた。
そして地面にポタポタと《《それ》》が落ちる。
「……うん!」
--- またね ---
---
会場に響き渡る、ドラムロールの音。
あと数秒もすれば新人小説家発掘コンテストで大賞を受賞した作品が発表される。
見事入賞した数人の若き小説家たちが、その時を待っていた。
ある者は息を呑み、ある者は神に願う。
そして、ある男子高校生は幼馴染と経験した奇跡を思い出している。
(きっと大丈夫。天国から応援してくれよ、|彩《アヤ》)
ドラムロールの音が、シンバルと共に止まる。
発表者の息を吸う音をマイクが拾った。
「聖夜の奇跡」
声と共にスクリーンに映し出された綺麗な表紙。
著者の氏名などが続いたが、男子高校生の耳には入ってこなかった。
何度か壇上に来るように言われ、周りに引きずられる。
会場中の視線が集まり、スポットライトが嫌というほど熱い。
No.7の2022/09/19/12:00に投稿予定です
小説「聖夜の奇跡」 No.7
登場人物
・蒼井海斗
・神薙夕
「それではコメントをお願いします、蒼井海斗さん」
高校三年生の蒼井海斗。
彼こそが『聖夜の奇跡』の著者だ。
海斗は少し悩んでからコメントをした。
それを最後にコンテストは閉幕。
本人や学校へのインタビューも数週間続き、改めて凄いコンテストだと思った海斗だった。
「今回のコンテスト、全部レベル高かったのによく大賞貰えたよね」
少しずつ海斗の日常が戻ってきた、ある放課後。
ファミレスでチョコレートパフェを食べながら女子高校生が呟く。
その様子を見ながら海斗はカフェオレを飲んでいた。
「|夕《ユウ》の大好きな『奇跡』が起こったのかもな」
「……からかってる?」
いいや、と海斗は優しい笑みを浮かべた。
去年の12月24日。
クリスマスイブに経験した奇跡を小説にして、見事大賞を受賞した。
《《天使との約束》》を果たせたことを、今頃になって海斗は安堵している。
「えーっと、『まるでその奇跡を体験したような書き方』が評価されたんだっけ?」
私たち経験したからね、と夕は付け足す。
あの|聖夜の奇跡《小説》が実際に起こった、なんて誰が信じるだろうか。
海斗と夕は二人だけの秘密として、誰にも話してこなかった。
No.8は2022/09/20/12:00に公開予定です
小説「聖夜の奇跡」 No.8
登場人物
・蒼井海斗
・神薙夕
そういえば、と海斗は口を開く。
「小説に出てくれてありがとな、夕。お前のお陰で物語が良くなった気がする」
「どーいたしまして。親友のためなら小説に出るぐらいお安いご用だよ」
私も楽しかったしね。
そう呟いた夕の視線の先には一冊の本。
白い雪が降る中、少女が振り返って笑みを浮かべている表紙だ。
隅の方に書かれているのは『聖夜の奇跡』と『蒼井海斗』、そして『神無』の文字。
「まさか表紙まで手伝ってくれるとは」
「|神薙《かんなぎ》だから|神無《かんな》。安直とは思ったけど、今回の場合は良かったかもね」
「お前もテレビから追いかけられたらいいのに」
遠慮しまーす、と夕は最後の一口を食べる。
聖夜の奇跡が書店に並ぶときに、海斗は出版社から表紙について相談を受けた。
シンプルなものか、イラストレーターに頼むか。
夕に相談したところ、無償で書いてくれるとのこと。
イラストレーター『神無』改め『神薙夕』は中高生を中心にSNSで話題の人物。
この一件がなければ、海斗は友人と知ることが無かっただろう。
No.9は2022/09/21/12:00に公開予定です
奇跡の起こる世界へ
『不死の病を治すため──』×『聖夜の奇跡』
「……おい、こんなところで寝てたら風邪引くぞ」
そんな声が聞こえた俺はそっと目を開く。
視界の隅に映った人影。
体を起こして辺りを見渡すと、そこはごく普通の公園ということが分かった。
宿を取るにもこの世界の通貨は持っていない。
だからベンチで眠っていたんだよな、俺。
「家は何処だ。送ってやるよ」
「……帰る場所はない」
「はぁ?」
意味わかんねぇ、と言う男は無視して立ち上がる。
不死の病を治す方法は無さそうな世界だ。
さっさと次へ行った方がいい。
何処か別の場所へ向かおうとする俺だったが、その場に倒れてしまう。
そういえば、ずっと食事を取っていない。
流石に不死とはいえ、あまりいい状態ではないよな。
「おい、大丈夫か!?」
狼狽える男を横目に、俺は一言だけ呟いた。
「腹、減ったな……」
コトコトと、何かを煮込む音が聞こえてくる。
欠伸をしながら起き上がると、そこは見慣れない部屋だった。
「散らかってて悪いな」
「……お前」
さっき話し掛けてきた男だ。
決して広くない部屋で、キッチンで何か作っているようだった。
とても美味しそうな匂いがする。
「アレルギーとかあるか?」
「無い」
「じゃあ食べろよ、ほら」
男が差し出してきたのは手羽と大根の煮物だった。
皿を受け取った俺は一口食べてみる。
毒とか入っていたとしても、俺は死ぬことがない。
なら、特に警戒する必要はないな。
「……美味い」
「なら良かったよ」
米も食え、と男は茶碗を持ってくる。
どうして見ず知らずの俺にここまで良くしてくれるのか、分からない。
でも、胸の辺りが何だか温かい気がする。
「んで、お前何者だ?」
一瞬思考が停止した。
この世界には魔法がなくて、目の前の男は本当に一般人だ。
「アイツとは違うけど、人間じゃないだろ」
「そうだと言ったら?」
一度目を閉じて、その男は言った。
「小説に出てくれ!」
---
「俺の名前は|蒼井海斗《アオイ カイト》、小説家だ。何か質問はあるか?」
えーっと、とその男は困っているようだった。
まぁ、いきなり小説に出てくれと言われたらそんな反応になるよな。
「じゃあとりあえず、どうして俺が人間じゃないと思った?」
「気配だな」
アイツと出会ってから、そういう奴らの気配を感じるようになった。
|ただの人間ではない《俺とは違う》のに気づいてしまう。
そう説明したけど、あまり納得がいっていないようだった。
「次の質問だ。《《アイツ》》とやらは人間じゃないのか?」
あぁ、と俺は返事をする。
アイツは高校二年生のときに会った。
でもそれ以降、一度も見掛けてはいない。
多分どこかでまた遊んだりしてるんだろ。
「別に信じてもらわなくても構わないが、アイツは天使だった。そして聖なる夜に奇跡を起こしてくれた」
まだ俺は生きているよ、|彩《アヤ》。
少し悲しくなった俺は気持ちを切り替え、話を戻すことにした。
「それで、お前は何者なんだ?」
「……簡単にいうなら異世界人だな」
開いた口が閉まらなかった。
異世界。
そんなもの、漫画や小説の中だけのものだと思っていた。
けれど、天使や奇跡だって存在したからあり得なくはない。
「数々の世界を渡り歩き、不死の病を治す方法を探している」
世界渡りに、不死の病。
幼い頃、夢見た世界がそこには広がっている。
あまり話したくはないのか、その男は黙り込んでしまった。
「えっと、色々聞きたいことがあるんだけど三つぐらい良い?」
「内容にもよる」
「お前何歳だよ!?見た目は二十代ぐらいだよな!?それに異世界って魔法とかあんのか!?あとどうやって世界を越えるんだ!?」
ポカン、と男は口を開いていた。
俺はやらかした、と思った。
あまりにも現実離れした存在が目の前にいるからと、思わず興奮してしまう。
申し訳ない、と思っていると男は話し出した。
「年齢は忘れた。途中までは数えていたけど面倒になってな。異世界には魔法とか陰陽術とか色々あるぞ。魔物とかもいるし、何度死にかけたことか」
「魔物!?」
「世界を越えるのは俺の能力だ。本来は瞬間移動とかちょっとした転移なんだが、一日は能力を使わなければ世界を渡れる」
魔力を全消費するとか、そういう感じなんだろう。
それにしても能力とかカッコいいな。
全男子が一度は憧れるやつじゃねぇかよ。
異世界に生まれたら俺も能力とか持ってたのかな。
でも魔物と戦うのはちょっと怖いな。
普通に運動は得意じゃないからすぐにやられそう。
剣とか弓とか憧れるわ。
うん、めっちゃ詳しく話を聞きたい。
「……信じるんだな」
「そりゃ勿論。まさか不死とかは想像の斜め上すぎて予想してなかったけど、天使を見たからな」
一度心を落ち着かせるため、俺は珈琲を淹れることにした。
「さっきから言っている天使だが、もう会えないのか?」
「分からない。不死の病を治したいんだよな、お前」
「……あぁ」
小さく言った男の瞳は、表現しがたかった。
ただ、小説とかで俺が表すならこうするだろう。
--- 瞳から光が消えた ---
数えるのが面倒になるほど長生きをしている。
そして、決して死ぬことはない。
どれだけ苦しいことなのかは、経験していない俺には想像することも出来ない。
もう、生きることに疲れているようにも見えた。
「いつ次の世界に行くんだ?」
「え、あ、能力は今日使ってないからもう明日には……」
「可能性は低いが、天使を探してみないか?」
アイツなら、何かを変えられるかもしれない。
治すことは出来なくても、手掛かりとか教えてくれるかも。
「今どうなのか知らないが、アイツはたまに下りてるらしい。別の奴でも何か情報くれんだろ」
「何でだ」
「ん?」
「何で、見ず知らずの俺にここまで良くしてくれるんだ」
うーん、と俺は考え込む。
確かにコイツと出会ったばかりで、詳しいことはよく知らない。
ただ、これは昔誰かが言っていたことだが──。
--- 人を助けるのに、理由なんて必要ない。 ---
「あんまり一つの世界に留まったりはしないんだろ? 明日だけ頑張ってみようぜ」
そう手を差し出すと、その男は驚いているようだった。
俺の顔を、手を交互に見て少し経ったころ。
その男は呆れているような顔をしながら手を取った。
「自己紹介がまだだったな。俺の名前は|零《レイ》だ。よろしくな、海斗」
笑ったソイツの顔は、どことなく|彩《アイツ》に似ているような気がした。
---
「ということでやって来ました、俺的に東京の中心部だと思う街!」
「……人が多いな」
人酔いしないと良いが、なんて考えながら俺は海斗の後をついていった。
本当に人が多い。
今まで様々な世界を見てきたけど、人口密度が本当に高い気がする。
それにしても、海斗の言っていた《《天使》》なんて本当にいるのか?
異世界でもいたが、人間と仲良くする奴なんてそうそう居ない。
この世界でも空想上の生物だという。
今日、見つからなかったらもう次の世界へと向かおう。
出会えたとしても、この病は面倒くさいから解くことは不可能だ。
別世界の神も無理だったのだから、期待はしない。
「うーん、やっぱりそう簡単には見つからないか……」
時刻は午後二時を過ぎたところ。
午前中から活動しているため、結構な体力を消費している。
「そもそも天使とかの気配すら感じないんだけど」
「クリスマスとか、特別な時にしか下りてこないんじゃないのか?」
「あー、その説ありそう」
海斗は紅茶を飲み、小さくため息を吐いた。
レトロな雰囲気のある、とてもいい喫茶店だな。
入り組んだ路地裏にひっそりとあり、穴場的な店で知っていることが不思議だ。
話を聞いてみると、どうやら海斗の知り合いが経営しているらしい。
「天使探しなんて大変そうだね」
「じゃあお前も手伝え」
「僕は忙しいからムーリー」
「あー……|夕《ユウ》、ムカつくから殴ってもいい?」
ダメでーす、とこの喫茶店のマスターの|神薙夕《カンナギ ユウ》は言った。
知り合い、とは言っていたが普通に仲が良さそうだ。
「そもそも、天使は本当に見えるのか?」
「どういうことだ」
「漫画とか、子供の頃しか見えないっていうのが王道じゃん。最近は気配を感じにくいって言ってたでしょ、この前」
まぁ、と海斗は少し顔を伏せた。
元々期待はしていなかったが、これじゃ本当に見つからないかもしれないな。
もうそろそろ世界を越えることは出来るし、日が落ちるまでか。
「あー、もう休んでる暇はない! 今すぐ出発するぞ!」
「行ってらっしゃーい。時間があったらまた来てよ、零」
海斗の後をついていくと、俺にだけ聞こえるように夕は言った。
---
「あー、もう会えないのか?」
一日中歩き続けていたけど、見当たらない。
変に期待させてしまっただけになった。
やっぱり気配を感じにくくなってる。
こんなじゃアイツは見つけられなくて当然だ。
「一度休むか?」
「心配してくれてるなら、ありがとな。でも俺は大丈夫だ」
そんなことを話していると、ふと真上から何かの気配を感じた。
見上げると、俺に向かって落ちてきているものがあった。
工事中の建物から落下してくるものが《《鉄柱》》と気づいた頃には、もう数メートルまで距離が縮まっている。
(あぁ、これ死んだな)
そう思った俺は少し離れたところにいる零へと視線を向けた。
しかし、そこには誰一人居なかった。
辺りを見渡そうとすると、誰かに手を捕まれた。
誰か、なんて分かりきっている。
昨日話してくれた『能力』を使って俺を助けてくれようとしているのだろう。
この世界へ留まる時間が一日伸びてしまうのにも関わらず、零は俺を助けてくれた。
「な、んで……」
「人を助けるのに、理由は必要ないんだろ」
変な感覚がしたかと思えば、少し進んだ場所に俺達は立っていた。
これが『転移』する能力。
感動していると、何か懐かしい気配を感じた。
「全く、最近の悪魔は誰でも事故死させようとするんだから……」
世界から音が消えた。
時が止まったかのように人々は動かない。
俺は《《コレ》》を知っている。
声のする方を見れば純白の服に身を包み、綺麗な羽根を持った人物がいた。
「誰だお前!」
「失礼すぎない?」
「俺の知ってる天使はボロボロの薄汚いパーカーを着た奴だ!」
確かに、とソイツは目を逸らした。
「そんなことより俺らはお前を探してたんだよ」
「何で?」
説明すると長くなるけど、時が止まっている今なら関係ない。
俺は零がこの世界の住民じゃないこと。
そして、不死の病について何か知らないかを聞くために探していたことを伝えた。
「……能力を使っていた時点で、君が異世界人ということは分かっていた。まずは彼を助けてくれたことに感謝を伝えさせてもらうね」
ありがとう、と天使は頭を下げた。
零は驚きながらも、大したことはしていないと笑った。
「次にその病についてだけど、生憎と僕が使えるようになった|祝福《神の力》を使っても治すことが出来ない」
「そう、か……」
「異世界の存在には勿論知っている。軽く視てみたけど、それは君に|呪いをかけた《病を与えた》人物にしか解くことは出来ない」
ちょっと待て、と俺は話を一度中断させた。
コイツ、さっきとんでもないこと言ったよな。
|祝福《神の力》だったか。
高二の時にコイツが使えてたの|奇跡《天使の力》だろ。
「え、神になったのか?」
「うん。だからここ数年は地上で遊べなくてね……今日も仕事で降りてきているんだ」
「悪魔とやらが関係してるんだな」
正解、と天使──改め神は零を指差した。
こんな奴が神とか、世界終わらないのかな。
「ねぇ、失礼なこと考えてるでしょ」
「気のせいでーす」
神はため息を吐き、話を戻す。
「君が持つ『世界を越える力』は辿り着く先が不明、なのは自分の事だから分かっているね」
「あぁ」
「病を与えた人物も|世界を越える《君と同じ》ことが出来るし、行く先は分からない。同じ世界に辿り着くのは、いつになるか……」
「どうせ死ねないんだ。時間は幾らでもあるし、地獄の底でも追い掛けてやる」
少し、零が怖く感じた。
また瞳から光が消えている。
零はこれからも一人で旅を続けていくのだろう。
「誰か隣で歩いていけたら、なんて」
俺はそんなことを小さく呟くのだった。
「さて、それじゃ僕はこの辺で失礼するよ」
「あ、あぁ。仕事が落ち着いたら、また降りてくると良いんじゃねぇか?」
そうだね、とソイツは笑った。
神は翼を大きく広げ、高く手を上げる。
指を鳴らすと同時に聞こえた声を、俺たちは聞き逃さなかった。
--- 零、君に異世界の神から祝福を ---
その瞬間、俺たちの後ろ数メートルに鉄柱が落ちてきた。
物凄い音が街に響き渡る。
工事中の建物から感じた気配の正体は、神の言葉通り《《悪魔》》だったのだろう。
俺を含めて誰も命を落としていないからか、悔しそうな顔をしている。
「……帰るか」
そう言った俺に、零は「あぁ」と小さく返事を返すだけだった。
---
結局、この世界の神でも不死の病は治せない。
遠い昔に行った世界もそうだったから予想は出来ていた。
でもアイツも俺と同じ力を持っている。
なら、何処かで会うことがあるのかもしれない。
少しだけ希望が見えたような気がした。
「もう一日は滞在しないといけなくなったけど、どうするんだ?」
「あー、何も考えてなかった」
だろうな、と少し海斗に呆れられた。
彼処で能力を使うとは予想してなかったが、後悔はしていない。
「俺のせいだし、普通に泊まっていけよ」
「……いいのか?」
「別に変わらないからな。ただ、問題は明日なんだよな……」
何かあるのか、と俺が問う。
どうやら明日は新作を渡す予定らしい。
なのに一文字も書けていないと。
「俺と神探ししてる場合じゃねぇじゃねぇか」
「気分転換なんだよ!」
はぁ、とため息を吐くことしか出来なかった。
俺のせいでもあるし、何か手伝えたら良いんだが全く話のネタなんて思い浮かばない。
とりあえず家には帰らず、夕の喫茶店へ行くことにした。
「助けてくれぇ……」
「何で僕が?」
「ネタがないんだよぉ……」
今日のことでも書いたら良いのに。
そう言った夕だったが、全く海斗には届いていないようだった。
「──あ」
一つだけ思い付いた。
俺はショルダーバックから一冊の本を取り出す。
これは暫く見ていなかったが、ネタになるんじゃないのか。
そう思った俺は海斗に本を渡した。
「何だこれ」
「記録だ」
不死になって最初の頃、ある世界で半ば強引に押し付けられた日記帳。
俺の世界にはなかった『魔法』や『魔獣』といったものが珍しくて、全て記録していた。
「他の奴等よりは空想生物がリアルに書けるんじゃないか?」
おぉ、と中身を見るなり海斗たちは声をあげた。
当時は絵を描くのにハマっていたから、イラストも細部まで描いてある。
本当に些細だが、返せているのだろうか。
「お前、小説家に向いているんじゃないか?」
「いやイラストレーターでしょ」
そんなことを話している二人は、とても楽しそうだった。
「──書けた!」
勢いよく立ち上がった海斗は、作文用紙を掲げていた。
びっしりと埋まった文字はとても綺麗だ。
「お疲れ様。珈琲淹れる?」
「頼む!」
珈琲を待っている海斗は机に伏していた。
数時間もの間、休憩を挟まずに書いていたから流石に疲れたのだろう。
夕は海斗を見て微笑む。
「君のお陰で締め切りに間に合ったらしいね」
「……あぁ」
あまり話は続かない。
海斗がいたから話せていたけど、俺は夕と仲が良いわけではないからだ。
「零。君は海斗が体験した奇跡を知ってる?」
首を横に振ると、夕は一冊の本を取り出す。
綺麗な表紙には『聖夜の奇跡』と書かれており、小さく海斗の名も書かれてある。
多分、海斗の小説なのだろう。
本の帯を見るに、新人賞も受賞した凄い作品なんだな。
「それはノンフィクションだ。数年前のクリスマスイブ──聖夜に起こった奇跡」
俺は、その本を読んでみることにした。
---
そこまで長い作品ではないからか、零はすぐ読み終わったようだった。
最後のページが少しだけ僕にも見える。
|またね《三文字》しか書かれていない右のページ。
そして、涙を流しながら消える少女の絵がある左のページ。
まだ僕たちは子供だった。
だから文章もおかしいところがあるし、イラストだって完璧じゃない。
「──君、泣いているのかい?」
零の頬を涙が伝う。
確かにこの小説を読み、泣いてしまうという読者は多かった。
でも、長い時を生きて幾つもの感動を知っているであろう彼が泣くとは思っていなかった。
「ユウって……」
「僕のことだよ。彩は初対面なのに友達になってくれた、優しい子だ」
もっと話したかったな、と思わず呟く。
あり得ないのに、三人で笑っている未来を願ってしまう。
「今日、君と話している海斗は楽しそうだった。たった数日でも仲良くしてくれてありがとね」
そう僕が笑うと、零はそっぽを向いた。
頬が赤く染まっている。
さて、と僕は海斗をソファーに移して毛布を掛けた。
暫くの間は眠っていることだろう。
もう慣れたことだけど、流石に家へ帰った方がいい気がするんだよな。
明日は新作を提出しないといけない。
身なりを多少でも整えた方がいいでしょ。
「零は海斗の家に止まってるんだったな。うちで良ければ泊まっていきなよ」
「……良いのか?」
「海斗がこんなだからね。夕飯は余り物で作っちゃうから少し待って」
---
次の日になり、俺は無事に新作の提出を終えた。
そして、いよいよ別れの時間だ。
「非常食はちゃんと持ったな?」
あぁ、と零はショルダーバックの中を確認した。
防災用の食べ物だから、賞味期限は問題ないだろう。
あまり美味しいとは言えないかもしれないけど。
「海斗、それに夕も。色々とありがとな」
「どういたしまして」
「こちらこそ、綺麗なイラストを見せてくれてありがとう」
それじゃあ、と零が指を鳴らす。
すると、ゲートのようなものが零の背後に現れた。
本当にコイツは異世界の住民なんだな。
そう、改めて実感した。
「今度こそ見つかるといいね、不死の病の治し方」
「あんま無理すんじゃねぇぞー」
俺がそう手を振ると、零は満面の笑みを浮かべていった。
「お前らこそ、早死にすんなよ」
ゲートが閉じて、辺りは静寂に包まれる。
また会えるといいな。
今度は、|何も背負ってない《病気が治った》状態で。
---
「ねぇ、蒼井海斗の新作見た?」
「勿論!」
数ヶ月後、この世界では一冊の小説が物凄く売れていた。
題名はたった一文字『零』とだけ書かれている。
幾千の世界を旅する主人公は、ある世界で見たこともない生き物たちと出会う。
いつも通り、まるで目の前に起こっているかのような描写が人気を集めていた。
有名イラストレーター『神無』の挿し絵も好評だ。
「でもさ、ちょっと驚いたんだよな」
「何が?」
「蒼井海斗の小説……特に聖夜の奇跡は体験談みたいだったじゃん?」
でもコレは誰かの日記みたい。
そう言った男子は本をペラペラと捲った。
対して女子は、あるページでそれを止める。
「もしかして、零の日記だったりして」
「あー、主人公の?」
こういうイケメンと付き合いたい、と女子が言うと男子は何とも言えない表情を浮かべる。
「……よく分かるよな、皆」
小さく呟いた蒼井海斗は、珈琲を一口飲むのだった。
--- fin ---
--- fin…? ---
「……この世界まで何の用だ」
異世界の神、と俺は少し睨みながら言った。
へらへらとしながら、ソイツは距離を詰めてくる。
「用があるのは僕じゃないよ」
彼女だ、と背後から現れた人物を見て驚いた。
見覚えがあるどころではない。
その人物は、亡くなっている筈の|篠崎彩《ヒロイン》。
挿し絵で見た少女と似ているどころではない。
「零さん、でしたっけ。海斗の側に居てくれてありがとうございました」
「……感謝される覚えはないが」
「海斗は夕以外に仲の良い友達いないし、最近納得のいく小説を書けてなかったから」
貴方のお陰だよ、と彩は笑った。
ただ、この病を治す方法が無いかを探すためだけに訪れた世界だ。
きっと数十年と生きていくなかで忘れてしまう。
「良かったら、海斗たちのこと覚えておいて」
「──!」
「それで病気が治ったら遊びに来てよ」
「とても良いアイデアだね、彩」
神が笑い、俺は暫く黙っていた。
病気が治ったら、なんて約束は幾つもしてきた。
けれど、この能力では好きな世界へ行くことが出来ない。
「……じゃあ、早く治さないとな」
「私も転生したいからあと数十年は来なくて良いからね!」
他の世界にも行きたいでしょ。
そう言った彩には、何でも見透かされている気がした。
「分かった」
俺はそう答えることしかできない。
また会える日を信じて、今日も旅を続けるしかない。
神と彩は長居するのは良くないらしく、もう帰ってしまうと言う。
「じゃあね、零」
「また会おうね!」
「……あぁ」
二人を見送った俺は、ショルダーバックから飴を取り出す。
すぐ食べる用で海斗と夕が持たせてくれたものだ。
とても甘くて、優しい味がする。
少しだけ未来が楽しみになった僕は、今日も不死の病を治す方法を探すことにした。
--- fin ---
生きる。です
初日に投稿できるように頑張ってたのに、一週間経ちますね
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