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目次
汗をかいてでも、血反吐をはいてでも
私は姉と約束をしたのに、鬼の首を切れない弱者だ。
姉は、鬼殺隊最高峰の柱。そんな姉の妹は、鬼の首すら切れない癸。周りが比べるのも当然だ。
だからこそ私は、自分だけの鬼殺の方法を模索した。『そんなの無駄だ』と皆が言う、後ろ向きに指を指される。姉ですら、私のことを本当の意味で、認めてくれていない。
そんな中でも必死に探して探して、ようやく藤の花の毒という武器を見つけたのに、きかない鬼もいて、それでも一体の鬼を鬼殺できたというのに、周りはそれを見向きもしない。
そんな日々が続いて、イライラしていた。だからだろうか、一人の患者に強くあったてしまった。名を冨岡義勇つまるところ、水柱だ。
「何で、あなたは病室でじっとしていられないんですか!怪我か直ってないのに鍛練とか馬鹿なんですか!」
「……怪我は直った」
「直ってないですよ!自分の怪我の具合もわからないなんて、それでも水柱ですか!」
「……。」
「何か言ったらどうですか」
本当にイライラする。何が、水柱だ。姉さんと、同じ柱だなんて信じられない。でも、この人は柱だ。そして私の階級は癸。そのとたん急に不味いのでは、と思った。でも、時すでに遅し。最悪、首が跳ねることも覚悟せねば。さぁと血の気が引く。
「……体調が悪いのか」
「違いますよ!本当にムカつきます!」
「……胡蝶妹、最近鬼殺成功したそうだな。喜んでいた」
「はぁ?誰がですか!」
「お前の……姉が」
「そんなの知ってますよ!なんですか、一般隊士から後ろ指を指されている私をそれで慰めたつもりで?水柱様はいいですね」
はぁ、怒りに身が包まれる。でも、本当は羨ましいのだ一般隊士から尊敬の目でみられる、柱が。姉さんも例外ではない。
「……お前これから時間は」
「そんなの聞いてどうするんですか?」
「稽古をつける」
稽古をつける?ちょっと待って、この人さらりとすごいこと言わなかったか、柱から稽古を受けられるなんて、その辺の隊士からしたら、喉からてから手が出るほど欲しいものではないか。そんなものを癸の鬼の首が切れない私に?
「私のことをからかっているんですか。そんなことをする前に、まずは傷を直した方がいいんじゃないですか」
あり得ない。信じられない姉さんですら信用してくれてないのに。
「どちらにしろ、明日にはここを出る。道場で」
それだけ言って、背中を向けてしまった。病室に戻る方向だ。その事に、嬉しく思い同時にどうしようと頭が埋め尽くされてしまった。このことが本当なら私は……
「暇だし。行くだけ行こうかな」
今日は機能回復訓練がなく道場は、自由に使っていいものとされているが、基本的には誰も使わない。それなのに、道場の真ん中で、正座をし目をつぶっている水柱がいた。
こうして見ると、無駄に整った顔ね。
「来たか」
「はい、胡蝶しのぶ参りました」
「……」
「……」
なにこの無言、本当に稽古をつけてくれるのよね。
「稽古をつけてくれるんですよね」
「花の呼吸を、すべて見せろ」
一応稽古はつけてくれるそうだ。それから木刀を渡され、花の呼吸の構えをする。大きく息を吸うそれを肺にいれる。花の呼吸は、高い身体能力が、必要な呼吸だ。そこから壱の型から順に見せる。すべて、見せ終わり一言。
「お前は、姉のようにはなれない」
そんなことを言われ、怒りに包まれる。
「そんなこと!もとからわかってるんですよ!私は姉さんのようにはなれない!強くきだたかく、だけど綺麗な、そんな人にはなれないって!」
しのぶの心の叫びが、道場に響く。
「姉さんはすごいです。首の切れない私なんかと違って、でもいつかなれるかな、肩を並べられるかなって思っていたのに!」
はぁはぁと息をつく。本当にそんなわかっていたのだ。でもなれるかもと心のそこでどこか思っていた。ダメだな私、真正面から言われて今までは、影で言われていたから、聞いて聞かないふりをしていた。
「俺が、言いたいのはそこではないお前が、花の呼吸が向いていないことを言いたいんだ」
「はぁ?それを言いたいなら最初からそういえばいいじゃなですか!でも、そういわないということは、そういうことでしょう」
男の目を見る、だが本当にそんなことをおもっていない目をしている。本当にそうなの?確かに前から花の呼吸は向いていないと思っていた。でも、だからどうすればいいのだろうか。
「お前だけの呼吸を作れ」
自分だけの呼吸?それがどれ程大変なことかわかっていっているのだろうか。でも、目と前にいるのは既に完成されていた水の呼吸に新しい拾壱ノ型を作った。柱だ重みが違う。
「私にできると思っていっているんですか?」
「できると思わなければ言わない」
この人は本当に私のことを信じてるんだ。新しい呼吸を作れる、できると本気でそう思っているのだ。嬉しさで心が包まれる、鬼殺隊士に認められた。たった一人されど、一人だ。そして、その一人は柱なのだ。
「あり、がとう、ござい……ます」
思わず、目から涙が出る。だが、これは嬉し涙だ。こんなに人に認められるのって嬉しいんだ。
その様子をじっと、凪いでいる目で見つめられていて、無言だが心は晴れ晴れとしていた。
しばらくして、涙が落ち着いてきて、ようやく男が口を開く。
「鬼に毒をいれるときどうしている」
「どうと言われても、刃で皮膚を切り毒をいれています」
「それだと、そのうち限界が来る」
端から聞いたら厳しい言葉だが、しのぶは嬉しかった。自分のことを信じているからこその、言葉なのだ。
「では、どうすれば?」
「そこらへんに座ってみていろ」
指示された通りにそこらへんに座り、じっと見る。瞬きの瞬間思わずその瞬きが目をガンと開くようになる。
「水の呼吸 漆ノ型・雫波紋突き」
「突き技?」
「お前は、上半身には筋肉はあまりついていないみたいだが、下半身特に足には、筋肉がついているように見えた。鍛えれば踏み込みには期待できる」
いつそんなところを見て、と思った瞬間ふと頭によぎる。最初に花の呼吸を見せたときだろうか。花の呼吸は、高い身体能力が必要だから見極めるのならそこだろう。あの人涼しい顔をしながら、そんなところを見ていたのか。
そして足に筋肉がある。だからこその、突き技か。
「柱は、そんなにも視野が広く考えが柔軟なんですね」
「わたしは、首を切れるようになるでしょうか?」
「……お前は、首を切る必要がない、……だが鬼を殺せる毒を作ったすごい人だ。」
純粋な誉め言葉が、とても嬉しい。そして毒のことも認めてくれている。鬼殺隊の人たちは、首を切れなかったら後ろ指を指されるのに。
「無理をしてでも血反吐をはいてでも、鍛練しろ。お前には止めてくれる人がいる。そして、周りを頼れ」
「だったら、今から水柱様に稽古をつけてもらっていいですか?」
「わかった」
そこからは自分がなんで、この人に頼んだのだろうと思うほど地獄だった。
ひたすら走り少し休憩をしたら、突きの練習、そこから見とり稽古と、気がついたときには、そろそろ鬼が出てくる時間だった。
「今日はここまでだ」
そういい、道場を去っていった。本当に地獄だったが、おそらく成果は出るだろう。今にでも、鬼と会いたい気分だった。
「冨岡君」
「胡蝶か」
「ありがとうね、しのぶを見てくれて」
そこで、短く会話は終わった。確かにこのあととすぐにでも、カナエはここをでなければならないのだが、もう少し話せばよかったかもとすこし思っていた。
「姉さん、もう帰ってきたの?」
「そう!でもねここをもう少しで、でないといけないんだけどね」
「夜ご飯は?」
「ごめんなさい、今日もちょっと」
「わかった」
少しふて腐れている顔になっていて、思わずカナエは笑顔になる。
「私がいなくて寂しいの、ふふしのぶかわいいわねしのぶは」
「寂しくないし。ていうか……か、かわ、かわ」
「しのぶは、かわいいわよ、それじゃそろそろいくわね」
「ちょっと、まって姉さん、姉さんってば」
そんな平和なやり取りをしていた。
その夜、しのぶは運のいいことに鬼と出会った。なんの異能ももたない、普通の鬼であった。しのぶは素早く刃に毒を塗り突きをする。稽古の成果が出たのか呆気なく塵となった。まだ、花の呼吸が混ざっているその呼吸を悔しく思う。
優しい人
カナエさんの死を立ち直るしのぶ。
「胡蝶妹いるか?」
「はいいます!もしかして稽古をつけてくれるんですか!」
「時間が縫えた」
「待っていてください」
そこから少しして、木刀をもってしのぶはきた。相変わらずだれもいない道場で。
「相変わらず、水柱様は厳しいですね」
「休憩はとらせている」
「そうですが!でも少し以外です無理をしてでも血反吐をはいてでも、鍛練しろ。と前は言ったのに休憩をとるんですね」
「自分の限界を知って、適度に休憩をとれそうしないと体に限界が来て、がたがくるそれはあってはいけないことだ」
「それもそうですね」
案外こういうところが常識的なのだ。
「再開するぞ!」
「はい!」
基本的に稽古は突きの練習だで踏み込みの練習や突きの量を増やす練習から、
基本的な肺を鍛える訓練、走る訓練いろんな練習や訓練を、一日で回していく。
そして姉が止める。姉がいないと、いつまでもこれを繰り返す。
「冨岡君、しのぶがこわれるでしょうが!」
「すまない」
「姉さん!」
「わかったならいいわ、どう一緒にご飯を食べない?」
「……断わ」
「あら、いいのじゃ早速食べましょう!」
今日のご飯は味噌汁と梅干し付きのご飯少しもの足らない感じがするが、カナエも義勇も柱だから時間がなく、手っ取り早くはらを満たすらしい。
時間がないなら誘わなければいいのに……
「ありがとう!冨岡君また一緒に食べようようね」
そういってそそくさと義勇は、立ち去っていった。
「姉さん、時間がなければ別のときに誘えばいいのに」
「しのぶあのね、鬼殺隊にはねまた今度、別のときにが通じないのよ。冨岡君も私だって、明日いる保証なんてない。だから、誘えるときに誘うのよ」
「姉さんは明日もいるよ」
にこと曖昧な笑みをカナエはこぼした。
「そういえば冨岡君は優しいわよね!」
「そうかな」
「わかるわよしのぶにもそのうち」
それからも毎日自分で鍛練をした。たあの人が来て稽古をつけてくれる時もある。そして姉によく止められる。義勇が来たときよりは稽古ができていないがそれでも確実に一歩ずつ進んでいっている感じが嬉しかった。
それに今のしのぶには認めてくれる人がいる。
だけど、こんな日々もずっとは続かない。永遠などないのだ。
雪が降っていた。肌にさわる風がとても冷たく、冷えていた。それでも、姉は柱である以上鬼殺に向かう。
柱は、年末年始は一般隊士が大勢いなくなるぶん、働くそうだ。
そして日が短くなるため、仕事も多くなる。だというのに、さらには遠方の任務にまでいくとか。なので、蝶屋敷には柱の人たちが、包帯や絆創膏など大量に補充に来るなだとか。もしかしたら、としのぶが心を踊らしていた。
「胡蝶妹か」
「はい!水柱様、最近は突きを一度に多くできるように鍛練をしておりまして、その結果一度の踏み込みで三度させるようになりまして。それに鬼も順調に殺せまして、毒の調合もうまくいってるんです!」
「そうか、頑張っているな」
「はい!水柱様のおかげさまです」
この人に誉められるのは、姉とはまた違うよさがあるのだ。
「補充をしにきた」
「そう……、でしたね水柱様」
「……それとだな、その呼び方を変えてくれないか」
「じゃあ、冨岡さま?冨岡さん?」
冨岡さんの時にうなずいたので、冨岡さんとよんでほしいのだろうか。そっちの方が、呼びやすいので嬉しいのだが。
「だったら、私の呼び方も変えてください!」
「……わかった。しのぶ」
「ありがとうござます!冨岡さんこちらです」
そのあと包帯と絆創膏渡しそそくさと冨岡さん行ってしまった。本当は稽古をつけてほしかったのだが、柱が忙しいのは知っていたので止めることはなかった。
「あ、冨岡君!しのぶとはあった?」
「……胡蝶か、あったぞ」
「ありがとう!でも、しのぶ最近頑張りすぎて止めるのが大変なのよ」
「……すまない」
「別にいいのよ、でもねいつか止められなくなっちゃうのかなって」
カナエはどこか遠い儚げな目をしていた。まるで、死を覚悟いるようなそんな目だった。
「……任務はどうだ」
「そうね、今年は少し厳しそうね。かなり大きな町なんだけど、女性だけいなくなるんだって。……そしてね、前に調査した甲の隊士も戻ってきてないんだけどその隊士カラスは目に数字が、入っていたって」
「っ本当か」
コクりとカナエが頷く。数字が入っていた場合異能持ちの鬼だ。下弦だろうか上弦だろうか。もし上弦だとしたら、最悪……
「たからね冨岡君、もし私が死んだらしのぶのことを見てほしいの」
「……」
「しのぶは頑張りやさんだけどたぶん鬼は切れない。しのぶには、普通の女の子として幸せになってほしいの。おばあさんになるまで、生きてほしいの」
「胡蝶」
「でも、たぶんしのぶはそうなってくれない。だからね、冨岡君しのぶのことを見てほしいの」
「胡蝶は死なない」
そこなのという顔をカナエがしている。そこ以外はないだろうに。
「カナエは柱だ」
そういって立ち去ろうとしたのだが、手が掴まれた。振りかえると、カナエがなんとも言えない顔をしている。いつもは笑顔なのだが、今日に限って、本当に表情がコロコロ変わる。何を考えているのか分かりやすい。
「冨岡君、この任務上弦かもしれないの」
「そうか」
「この遺言書冨岡君が持ってて、しのぶに今渡すべきだと思ったところで渡してお願いね!」
そういってカナエが立ち去る。お願いねと言うカナエは笑顔だった。カナエのお願いは強制だ。はぁとため息をつく。とりあえず預かっておこうカナエに必要はないと思うが。だってカナエは本物の柱なのだから。
蝶屋敷から『行ってきます、朝方には帰ってくるわね』と元気よく蝶屋敷の主人カナエが元気よく言って出ていった。その間は、妹の胡蝶しのぶが蝶屋敷を管理することになっている。洗濯物を干したり、食事の準備をしたり。それに加え主人の仕事である、患者の様態の記録などの業務も加わる。姉はこれをいつもしていると思うと頭が上がらない。
今日は鍛練をしていない。すこしでも鍛練をしようと部屋からでると、不穏な噂を聞いた。どうやら姉が危険任務に当たっていて、上弦が出るかもだとか。
その噂を聞いたとたん、しのぶは走っていた。姉の任務の場所は、ここから峠を3つ越えた先にあるそうだ。普段なら呼吸が激しくなるが、そんな場合ではない。
姉さんが上弦と?
上弦は百年ほど目撃情報がない。というのも、上弦とあった隊士が誰一人帰ってきてないのだ。姉の実力は認めているが、いくら何でも上弦は。そう考えるほどにまた、足を早く動かす。一刻も早く姉さんと会いたい。
今は日が沈もうとしているところだ。そろそろ鬼の活動が始まる。
峠をようやく越えて、朝日が上ろうとしている。カラスから報告が来る。今一番聞きたくない報告だった。
「カァカァ胡蝶カナエ胡蝶カナエ上弦の弐と交戦奮闘し、死亡寸前カァカァ」
姉さん、姉さん!
「姉さん!」
「しのぶ鬼殺隊をやめなさい貴方は頑張っているけれど本当に頑張っているけれど多分しのぶは……」
「姉さんしゃべんなくていい!大丈夫だからね隠をよんだから」
「普通の、女の子の幸せを手に、入れて……おばあさんになるまで生きててほしいのよ、もう十分だから」
やだ、やだ!
「いやだ絶対にやめない姉さんの仇はかならずとる言って!どんな鬼なのどいつにやられたの」
「カナエ姉さん言ってよ!!お願い!!こんなことされて私普通に何て生きていけない!!」
「姉さん!!」
このあと、姉の葬式が開かれた。姉は花柱だったこともあり多くの人が訪れた。やはり、葬式にあの人もきた。だが任務帰りに急いできたのだろう。かすり傷やた衣服が少し傷ついたいた。姉ならどうしただろう。
『冨岡君が珍しいはね、ちゃんと寝て食べるのよ!』
あぁいいそうだ。葬式が終わったあと、しのぶにはいろんな人に
『鬼殺隊をやめな』
『姉の仇はとらないほうが』
『ないてもいいんだよ』
泣けるなら泣きたいのに!姉の仇をとるななんて!皆がそういう。寄り添っている振りをしているだけなのに!
本当は今すぐにでも泣き出したい。でも、ダメなのだ。もう蝶屋敷の姉は胡蝶カナエではなく、胡蝶しのぶなのだ。姉の代わりにならなければ。なら、泣いてはならない。強くならなければ。
しのぶは道場に向かった。そのあとの鍛練は、止めてくれる人がいないものだから、自分の限界がわからず、ひたすらがむしゃらにやっていた。目眩がしようが頭痛がしようが、血を吐こうか関係ない。
限界は知らないうちにくる。あぁと体が崩れる駄目だこんなのじゃ駄目だ。もっともっと鍛練をしなければ。
「自分の限界もわからないとは、落ちたものだな」
「冨、岡さん?」
「ひどい有り様だな」
「貴方に何がわかるんですか!姉さんを失って。いきなり蝶屋敷の主人で!鬼の首も切れなくて!」
駄目だ、姉はこんなこと言わない。姉なら強い言葉を使わない。でも、八つ当たりをしてしまう。
「貴方はいいですね!強くて!貴方の方が姉の仇をとれるんでしょうね!」
「仇を、とろうとしているのか」
「当たり前でしょう!貴方もとめるんですよねどうせ!」
そうだ皆やめろと言うこの人も例外ではないはずだ。なのにこの人は止めないんだろうなと頭の片隅で思っている、自分がいる。そんなことないはずなのに。
涙が出そうになる。駄目だ駄目だ。
キュと誰かに体を抱き締められる。寄り添ってくれている、泣いていいのだろうか、もう泣きたい辛い苦しい。
「泣いていいんだよ」
その言葉が告げられたあとはもう、溢れんばかりの涙が、出てくる。
「わたしは姉の代わりにならないといけないんです。でも、無理なんです。私には」
「そうか」
ただその人はきいているだけだった。相槌をたまに言って、変な慰めすらもない。でも、それがしのぶには嬉しかった。
この場に他の人がいなくてよかった。もともとこの道場にはあまり人が来ないし、今日は葬式があった。この二人以外人はいないだろう。だから思いっきり泣ける、愚痴をいえる。
「落ち着いたか」
「はい、ありがとうござます」
「鍛練はやめろ、仇をとるつもりなら、明日だ。明日道場で。
あと、俺はどんな胡蝶でもいい」
そういって出ていってしまった。でも、落ち着いてみるとバカなことをしたものだ。自分の限界を知って適度に休憩をしろ。前あの人に言われた言葉だ。
そして、さらりと姉の仇をとることを否定しなかった。仇をとるなら鍛練しろ。それだけだ、あとそのあとに付け足された言葉はきっと、弱音を吐いたときの私の言葉についての返事だろう。姉が言った言葉を思い出す。
『冨岡君は優しい人よ』
当時は理解できなかったが、確かにいつも私がつらいときはいつもいてくれて。私のことを認めてくれて。さらには姉の仇をとることも否定しなかった。本当に貴方は
「優しい人だなぁ」
だれもいない道場に声が響く。
蟲柱 胡蝶しのぶ
どうすればいいのだろう。気持ちは落ち着いたが、問題はなにも解決していないのだ。こらから私はどうすればいいのだろう。もう姉さんはいないのだ。だったら、だったら!もうすでに答えは決まっていた。だが、本当にそうできるのか不安だった。でも、あの人は言ってくれた。
『俺は、どんな胡蝶でもいい』
ならどんなに下手でもなるべきだろう。姉さんに。みんなの姉は今日から、私だ。胡蝶カナエはもういないだから胡蝶しのぶなのだこれからのみんなの姉は。
まずは、やはり化粧だろう。姉は化粧をしていた、とても綺麗で華奢だった。強さを兼ね備えながら華麗だった。私はどうだろう。いや過去の私とは比べない。だって、今の私は姉なのだから。
次に話し方だ。姉さんは丁寧で、包容力があった。皆を安心させられた。それは、言葉遣い以外もあるのかもしれないか、まずはそれからだ。だんだんだんだんでいいのだ。少しずつ少しずつで、いいのだ。あの人はそれでもきっといいとそういって、くれるだろう。
それからも姉さんの練習、姉さんになるのために頑張った。あの人の前でも外れないようにしないと。そう思いながらゆっくりとまぶたを閉じる。
「冨岡さん、よろしくお願いします」
「……打ち込むぞ」
打ち込み稽古をするらしい。言葉が足らない人だ。冨岡さんは私の分の木刀と、うん?冨岡さんも木刀をもっている。……まさか一緒に?というか、うん、この感じそうだ絶対この人言葉足らなすぎでしょ
「冨岡さん」
「……どうした」
「きれいですよね。冨岡さんの突きの形」
「このくらい、胡蝶もできるようになる」
本当にその私にたいする自信はどこからくるのだろうか。そこからは無言にひたすら、突きの練習をした。どこからでも、突きをできるようにとだから、それだけ練習したらしい。まずは、突きから新しい呼吸を作ることに集中する。
それからも毎日毎日冨岡さんに稽古をつけてもらった。
柱は多忙で、姉さんがいなくなった今警備範囲も増えているだろうに。
それでも、毎日毎日数分でも稽古をつけてくれた。本当に私が、仇をとれると思ってのことだろう。なら、わたしはその期待に応えなければならない。
日に日に感じる。冨岡さんの私の呼び方が、しのぶから胡蝶に変わっているのだ。今の私のことを認めてくれるから、胡蝶にしたのだろう。だけど、なんだろうすごくモヤモヤする。しのぶって読んでくれてもいいのに。
ふぅ駄目駄目私は姉さん皆の姉さん。今の私を認めてくれるそれでいいではないか。
胡蝶カナエがなくなってから蝶屋敷の主人は、胡蝶しのぶになった。本来は柱でなければ屋敷を管理できないのだが、蝶屋敷は鬼殺隊の医療場所となっているためなくては困る屋敷。なら、妹が継ぐのが道理だろう。
その翌日冨岡さんが来た。鍛練だろう。毎回冨岡さんは、木刀をもってくるのが当たり前だった。蝶屋敷にも木刀はあるのだが、折りすぎてもう在庫がないのだ。たが、今回は手土産をもっているではないか。木刀はどうしたのだろう。
「冨岡さん、こんにちは。わぁ手土産くれるんですか?ありがとうございます!」
「できているだろう」
「何がですか?冨岡さん」
「呼吸」
「えっ?」
呼吸、自分だけの呼吸冨岡さんがつくれとそういった。でも、まだできていないはすだ。少なくとも自分ではそう思っている。
「まだ、できていないと思うんですけど」
「できている」
「頑固ですね!」
はぁしまった!しのぶが、でてしまった。言い直さないとまずいまずい。
「頑固な……おか」
「しのぶが出たな」
はぁ!もう少しこの使った言葉を使えないのだろうか。
「いくぞ、道場」
「は、はい!」
その言葉で、現実に戻される。まだ、呼吸が完成したのは信じられないが、冨岡さんが言うのならそうなのだろう。そのくらい単純に考えた方がいいのだろう。
冨岡さんがもってきたは木刀一本。他の木刀はない、折ってはならない。
「見せろ」
すぅ呼吸音が、道場に響く。
短い言葉それでも、何を言いたいのかはわかる。まだ名もなにもつけていない。これが新しい呼吸なのだろうか。
息が切れる。でも、それは
「新しい呼吸ができ、てる」
新しい呼吸が、できている証拠だ。
「……名はどうする」
「もうちょっと、褒めてくれてもいいんじゃ、ない、ですか!」
「……できていると思っていたから」
また、この人の謎の私に対する自信はなんなのだろうか。でも、信頼されていて悪い気はしない。
「そう、ですね……胡蝶式呼吸術などどうでしょうか」
「……蟲は」
「はい?どうしました」
「蟲の呼吸は、どうだ」
「いいですねそれにしましょう。でも、どうしてですか」
「……蟲みたい、だった」
「嫌味ですかね」
「……蟲みたいに、鋭く、速かったからだ」
この呼吸の名前は、冨岡さんの案の通り蟲の呼吸になった。でも、これから何を目指せばいいのだろうか。自分だけの呼吸を目標にしていた。
「胡蝶、柱になれ」
またどこかへいってしまった。本当にこの人は言うだけいってどこかにいってしまった。柱、姉さんも柱だった。頭のなかではわかっていた。柱にならなければ、姉さんの仇に会うことすらできないのではないか。
また、あの人に後押しされた。本当に言葉が少ないくせに、いってほしいことだけ言うんだから。
ふと、道場の隅をみると冨岡さんが持ってきた手土産が置いてある。そうだ、手土産だ。よし、食べるぞ!風呂敷を外すと、手紙が挟まっている。
『励めよ』
それだけの言葉なのにうれしさで心が包まれる。この言葉にどれだけの意味を込めているのだろうか。
そのあと、毒の調合を調整したり呼吸の制度をあげたりして、月日がたっていく。
未だに、冨岡さんとの鍛練は続いてる。いつも木刀をもってくる冨岡さん。その距離感はなんとも言いがたい。
「こんにちは冨岡さん。今日も鍛練ですね。冨岡さんのお陰で今の階級は丙です!ありがとうございます」
「……そうか」
「それで、ご相談がありまして」
確かに冨岡さんのお陰で、突きの威力が上がり、自分だけの呼吸。蟲の呼吸ができた。たが、まだなにかできる気がしてならない。確かに階級は上がったが、それでも丙。柱には届かない。姉さんは柱だったそんな姉さんでも、悪鬼滅殺できなかった。
だが、どうすればいいのかわからなかったため、柱の視野が広い冨岡さんに助けを求めている。その旨を伝えると、冨岡さんとの合同任務をすることになった。どうやら、冨岡さんが頼んだそうだ。
「冨岡さん、こんばんは今日は月が綺麗ですね」
「今日の任務は、下弦がいるらしい」
「知っていますよ、もしかして知らないとでも柱になれる絶好の機会じゃないですか」
「そうか」
そういって、走り出してしまった。前から感じていたことだが、言葉が少ないし口下手だ。少しぐらい任務について共有してもいいのではないだろうか。
だが、さっきの下弦のやり取りでしのぶが任務については知っていることが、わかったのだろう。
はぁため息をつきそうになる。
今日の任務は山奥にあるひとつの小屋に下弦がいる。という情報しかない。実に馬鹿げている。まず、下弦の血気術や被害状況もわからない。だが、最近鬼殺した、下弦の参からここに下弦がいるといったそうだ。
今までこのような場合はなかった。言いそうになる前に謎に誰かに殺されたらしい。
だから今回の任務は、柱に任された。もしかしたら、罠かもしれない。本来は冨岡さんだけだったのだが、無理を言って、私を同行させてくれたらしい。なぜ、そんなことまでしてくれるのかわからないが、今はこの機会を逃すためにはいかない。ここで改善策がわかるといいのだけど。
「警戒しろ」
鬼の気配がする。空気が重いあながち間違いでもないのかもしれない。
「胡蝶、上だ!」
上そんなこと考えているうちに鬼が眼前にせまる。駄目だ避けられない。
「水の呼吸 捌ノ型滝壷」
私と鬼が離される。やはりこの人も柱なのだ。稽古のときで理解したと思っていたがこの人の実力は未知数だ。
ちっと舌打ちがでそうになる。今のうちに刀に毒を塗っておく。
「下弦だな、胡蝶やれるか」
「言われなくてもやりますよ。私にやらせてください」
「承知した」
よく、下弦を任せてくれるなと自分でも思う。だが、この人の期待に応えなければならない。私はこの人の期待に弱いものだ。
精一杯に地面を踏み込む。だが、まだあまいそれほどに高く飛ぶことができずにうまく突きができない。もう一度踏み込もうとするが、鬼から鋭い爪が届きそうになるが、あの人がなんとかしてくれる。
私は鬼を滅殺するそれだけ考える。
「血気術」
何がくる。回りを警戒する、他の鬼の気配はない。
「地崩し」
「あ、」
地面が崩れる。まずい踏み込みできないどうする取り敢えず後方へとぶがバランスを崩した。本当に私はまだまだだ。
「っ冨岡さん、お願いします」
本当は自分でやりたかった。でも、今の私にこいつをやれるだけの実力はない。本当に姉の仇をとるなど、夢の中のまた夢だ。はぁでも、死んではもともこもない。
「水の呼吸 壱ノ型・水面斬り」
首が綺麗に切れる。本当にその力が体格が羨ましい。でも、羨んでも仕方がない。
「……刀を、変えたらどうだ」
また、走ってどこかにいってしまった。本当にあなたはいつも的確なことをいってどこかにいってしまう。
刀そうか刀かいちいち今までの刀だと毒を塗らなければならない。
こうしてはいられない。
それからの行動ははやかった。刀鍛冶へといって、刀を変えてもらった。刃をなくし、鞘で毒の調合をできるようにしてもらった。
刀が変わっただけで、私の実力は変わらないはずなのに階級はいつの間にか甲となっていた。これもあの人のお陰。やはり視野が広く、私の問題まで解決してくれた。
それから少しして、柱に任命されることになった。これでようやく同じ土俵にたてる姉さんと。
姉さんが、死んでからようやく柱になれた。
柱合会議での挨拶。元気よく姉さんのように振る舞う。それが今の私胡蝶しのぶだ。
「蟲柱になりました。胡蝶しのぶです。これからよろしくお願いします」
挨拶を済ますと警備地区の振り分けや鬼の情報の共有などをし、解散することになった。
あの人はどうせすぐにいってしまう。一番に挨拶するならあの人だろう。
「冨岡さん、この度蟲柱になりました胡蝶しのぶです。あなたの言われた通り新たな呼吸を作り、柱になりました」
「……」
「ちょっと少しぐらいおしゃべりしましょうよ」
本当にこの人は。もとから話すような性格ではないと知っているが、それでももう少し話してもいいと思う。こうなったら
ツンツン
「……胡蝶やめてくれ」
「反応してくれましたね!」
「……」
また黙って、どこかへいってしまった。本当にどこへいくのだろうか。
そのあとの柱の人の挨拶は最初のはどうしたと思うぐらい順調にできた。
ここからが姉の仇への復讐の始まりだ。
熱のおかげ
柱になったのだから、冨岡さんとの稽古もなくなるだろう。そうすると、なかなか会えなくなるのか。とその事に少ししのぶが、悲しくなると、いつも通りのように、冨岡さんは来た。なんのようだろう?
「冨岡さん、こんにちは。もう稽古は必要ありませんよ。私は柱ですから」
「手合わせ願いたい」
その手には木刀が二本。なるほど、なりたての柱の実力を見極めるために、手合わせしたいのか。その事に内心怒りながら、笑みを取り繕いながら道場へといく。
いつもどおりに誰もいない道場に二人か入っていく。
「いつでもこい」
「なら遠慮なく」
「蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ」
空高く跳躍し、蝶が舞うように滑空めいた身軽な動きで翻弄した後、並の相手では全く反応できない速度で相手を複数回突き刺す。この手合わせは、しのぶの突きが一度でも当たれば勝ちとなる。これで当たってくれるとうれしいのだけど。
「水の呼吸 肆ノ型 打ち潮」
ちっ思わず舌打ちが出そうになる。複数回の突きを打ち潮のように連続攻撃で対処した。だが、めげずに次の技を繰り出す。
「蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡き」
強烈な踏み込みにより一瞬で相手との距離を詰め、蜂の毒針の如く相手を刺し貫く技。数で押して駄目なら質で。
「水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き」
普通突きを突きでかえすか?しかし、単純な力勝負では、勝ち目がない。一旦後方へ飛び距離をとる。
「蟲の呼吸 虻咬ノ舞 切裂の誘い」
虻のような俊敏な動きで相手の周りを回転しながら波状攻撃を放つ。こうなったら、連続で畳み込む。
「蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞 複眼六角」
目にも止まらぬ速度で六連撃の連続突きを放つ。翻弄してからの畳み込み。我ながらいい作戦だと思うのだが。
「水の呼吸 参ノ型 流流舞い」
水が流れるように舞いながら相手を攻撃する。本当にこの人は私の攻撃をすべて受け流す。そのことに苛立ちをおぼえる。さすが、水柱手数のおおさと、それを見極める判断力。水は何にでもなれる。その事を体現しているような男だ。次の突きで仕留める。
「蟲の呼吸 蜈蚣ノ舞 百足蛇腹」
四方八方にうねる百足のような動きと地面を抉る程の力強い踏み込みによる爆発的な速度で相手を撹乱した後、その隙を狙い深く沈みこんでから相手の懐を穿ち、刀を突く。これを防がれてはもう打つ手がない。
「水の呼吸 拾壱ノ型 凪」
静かな凪の状態から相手の攻撃を受け流す、冨岡さんが生み出した。冨岡さんだけの技。それにより、しのぶの奥義の技まで防いでしまった。
「参りました」
「どうだった」
「水の呼吸と違い手数の少なさを感じました。さすが、水の呼吸は手数が多くて臨機応変に対応できますね」
「……水は何にでもなれる」
「それと柱になれたからと、浮かれすぎていたかもしれません。柱のなかでも、上澄みにならないと」
「とらわれるな。重要は、姉の仇だろ」
「そうですね。でも冨岡さんはすごいですね。さすが、最も使い手の多い水の呼吸のそれも、歴代最高峰といわれる水柱ですね」
「……柱になるのなら、他のものを守れるようになれ。お前ならなれる」
今日の手合わせはこれで終わりらしい。どっと疲れがくる。なんなのよあの人。私の呼吸をすべて防いで。
柱になるということは、冨岡さんのいう通りなのだ。私が柱。柱としての自覚を持ち、姉の仇をとるのだ。
それから、今まで以上に頑張ることにした。毒の調合を調整したり患者の面倒を見たりと今までどおりに見えるが、これに加え、柱の業務。疲れを見せないようにしている。
「しのぶ様、休んでくださいね!」
「ありがとう。アオイでも、大丈夫です。アオイも休んでくださいね」
「しのぶ様……」
「アオイ、今日は合同任務があります。アオイ、蝶屋敷を頼みますよ」
「はい!わかりました」
「便りになりますねアオイは。それでは、任務へいってきます」
「いってらっしゃいませ!」
今宵は、冨岡さんとの合同任務だ。正直冨岡さんとの合同任務は疲れる。なんせ、自分の考えを少ない言葉で説明し、必要な情報をださない。他のものとするならめんどくさいだろう。
そんな冨岡さんに合わせられるのは、今のところ私だけだ。なるほど、貧乏くじを引いてしまったということだ。
「冨岡さん、こんばんは。今宵は、月が綺麗ですね。」
「いくぞ」
この人は自分の口下手さを理解しているのだろうか。無言の時間が続く。私が話しかけても一言返せばいい方だ。幸い今宵の鬼は、早く出てきた。下弦だ。ちょうどいい柱としての腕試しだ。
「蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ」
それで、鬼と灰となっていく。あまりにも呆気ない。前よりも格段に実力が上がっている。鬼の目撃情報はもうないから警備へいこう。
「冨岡さん、ありがとうございました。それでは、私は警備へ……」
体が、ふらりとふらつく。まずい、倒れてしまう。近くに木はない。最近確かに疲れていたが、ここまでとは。アオイが気を使うはずだ。私は柱なのに。
さっと、誰かに抱かれる。あぁ、またあなたに助けられてしまう。でも、この人の腕のなかは、とても気持ちがいい。そして、意識を手放すのだった。
「……うん?ここは」
すっかりと、寝てしまっていたようだ。柱なのになんということだろうか。蝶屋敷ではないようだ。と、なると藤の家紋か。
「胡蝶、起きたか」
「っ、冨岡さんすみません。柱なのに」
「体調管理くらいしろ。」
その通りなのだが。もう少しかける言葉があるのではないだろうか。ふと、自分の隊服が、浴衣となっている。誰が、着替えさせたのだろう?まさか冨岡さんが!
「藤の家紋の人たちが着替えさせた」
「驚きました!そうですよね」
「嫁入り前の娘を着替えさせない。それと、すまないな」
「なにがですか?」
「抱いてしまった」
「……冨岡さん言葉を選んだ方がいいですよ」
本当にこの人は。というかこの人に嫁入り前のとかの価値観があったんだ。その事が衝撃だ。
とりあえず起き上がって、報告書を書かないと。
「報告書なら書いた」
「そうですか。すみません本来なら私なのに」
報告書は、基本的には鬼をたおした方が書くのだが。
「今日は休め」
「ですが、警備が」
「昨日と同じように、俺がする」
だから、やすめと。この人は本当に報告書から警備まで、どこかでこの貸し返さなければならない。
「ありがとうございます」
「熱があるらしい」
「そう、ですか」
「俺は帰る」
そっか。柱は、多忙だから一緒にはいてくれないか。頭でわかっていても熱に浮かされているのか。いってしまった
「一緒にいてくれませんか」
何も言わずに、ベットの近くにある椅子に座る。
「お前は本当の柱だから、少しぐらい息抜きと、回りを頼れ」
説教だが、どこかその説教が嬉しかった。今日は熱に浮かされているから。だから、何をしても許されるだろう。明日には忘れてますように。そう願いながら、彼の手を握る。その事は怒らずに、ずっとそばにいてくれた。
起きたときには彼はいなかったが、置き手紙を残していた。
『頼れ』
もう、また言葉のたらなさ。
熱はもう下がっていており、藤の家紋をでた。恐らく彼のいった通り、警備は肩代わりしてくれる。久しぶりに、蝶屋敷のみんなとご飯でも食べようかなと思いながら帰路についた。