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目次
放課後、だいたい振り回されてますっ!
放課後のトイレは、だいたい平和だ。……少なくとも、今日はそうなるはずだった。
――はず、だったのに。
「ねえ花子くん、これ何?」
私は、手のひらに乗せた小さな紙切れをひらひらさせながら問いかけた。紙には太い字でこう書いてある。
【本日限定・怪異お悩み相談所】
「……あー」
花子くんは、明らかに“やっちゃった”みたいな顔をした。
「それ、昨日暇だったから作ったやつ」
「暇だからって何してるの!?」
思わず声が大きくなる。トイレの個室の中で反響して、ちょっと虚しい。
「いやほら、怪異もさ、たまには人の役に立ちたいな〜って」
「絶対ウソでしょ」
「バレた?」
にこっと笑う花子くん。うん、いつも通りだ。
「で、これ配ったの?」
「うん、学校中に」
「やめてぇ!?」
その瞬間――コンコン、とノックの音。
私と花子くんは同時に固まった。
「……来たね」
「来ちゃったね」
そーっと扉が開くと、そこにいたのは見知らぬ一年生の女の子だった。緊張した顔で、手には同じ紙。
「あの……ここが、お悩み相談所ですか……?」
「はいどうぞ〜」
花子くん、営業スマイル早すぎるよ。
私は慌てて姿勢を正した。なぜか私も参加する流れになってるし。
「えっと……どんなお悩みかな?」
女の子はもじもじしながら言った。
「好きな人と目が合うと、石みたいに固まっちゃうんです……」
「かわいい悩みだね〜」
花子くんはくすくす笑ってる。
「じゃあ簡単だよ」
「え?」
「目が合う前にこっちから全力で変顔すればいい」
「参考にならないから!?」
思わずツッコミが炸裂した。女の子もびっくりしてる。
「もっとちゃんとしたアドバイスを……!」
「じゃあ寧々がやってみせれば?」
「なんで私!?」
花子くんは楽しそうににやにやしている。完全に遊んでる。
「ほらほら、実演大事」
「む、無理だよそんなの!」
「好きな人だと思って」
「いないよ今ここに!」
「いるじゃん」
「誰が!?」
「俺」
「絶対違う!!」
トイレに私の声が響き渡る。女の子はなぜかちょっと元気になっていた。
「あの……なんか、緊張ほぐれました」
「それは良かった……のかな……」
結果オーライ?いや違う気がする。
「ありがとうございました!」
ぺこりと頭を下げて、女の子は帰っていった。
しばらくの沈黙。
「……ねえ花子くん」
「なに?」
「これ、今日何人来るの?」
「さあ?結構来るんじゃない?」
「やめよう今すぐ閉店しよう」
「えー、まだ始まったばっかりだよ?」
そのとき、再びノックの音。
コンコン。
私はゆっくりと顔を上げた。
「……ねえ花子くん」
「うん?」
「逃げてもいい?」
「ダメ」
即答だった。
――こうして、私の平和な放課後は、完全に終わりを告げたのだった。
放課後、だいたい振り回されてますっ!
放課後。
私は今日こそ平和に帰るつもりだった。
本当に、そのつもりだったのに。
「……なんで増えてるの?」
トイレの前に貼られた紙を見て、私は絶望した。
【大好評につき延長営業中!!】
「花子くん」
「なに?」
「話があるんだけど」
「こわ」
全然怖がってない顔で言うのやめて。
「なんで“延長営業”してるの?」
「だって昨日めっちゃ来たじゃん。需要あるな〜って」
「需要を作ったのは花子くんでしょ!?」
「結果オーライ!」
よくないよ!?
しかも――
「……列できてるんだけど」
トイレの前には、普通に順番待ちの列ができていた。
ここ、相談所じゃなくてトイレだよね?
「大人気だね〜」
「他人事みたいに言わないで!?」
そのとき、先頭の男子がそわそわしながら入ってきた。
「すみません!恋愛相談で!」
「はいどうぞ〜」
もう完全に店じゃん。
私は半ば諦めながら椅子(?)に座った。
「で、どんな悩み?」
男子は真剣な顔で言った。
「好きな子に話しかけるタイミングが分からなくて……!」
「なるほどね〜」
花子くんは腕を組んで考えるフリをする。
絶対フリ。
「じゃあ簡単」
「えっ」
「その子の後ろにワープして『好きです』って言えばいい」
「できるわけないでしょ!!」
またツッコミが炸裂した。
「えー?怪異なら普通だよ?」
「この人普通じゃないからね!?」
男子が混乱している。
ごめんね、ほんとに。
「もっと現実的なやつ!現実的な!」
「じゃあ寧々がやってあげれば?」
「なんで!?」
「練習相手として」
「嫌だよ!!」
「ほら、その子だと思って」
「だからいないって!」
「いるじゃん」
「やめてその流れ!!」
――数分後。
「……ありがとうございました!勇気出ました!」
なぜか元気に帰っていく男子。
どうしてこうなるの。
「ねえ」
「なに?」
「ちゃんとしたアドバイス、一回くらいした?」
「したよ」
「どこが!?」
「元気出たじゃん」
「結果論!!」
そのとき、また次の人が入ってきた。
今度は女の子二人組。
「ここって噂の相談所ですよね!?」
「はいそうです〜」
即答。
もう否定する気もないらしい。
「実は友達が――」
「ちょっと待って」
私はぴしっと手を上げた。
「整理しよう。一回整理しよう」
「なにを?」
「キャパオーバーなの!!」
「えー」
「“えー”じゃない!」
私は深呼吸してから言った。
「せめて人数制限しよう!」
「人数制限?」
「そう!一日三人まで!」
「少な」
「これ以上無理だから!!」
しばらくの沈黙。
花子くんは、にやっと笑った。
「じゃあさ」
「なにその顔」
「整理券作ろうか」
「増やす方向に行かないで!?」
その日の放課後――
トイレ前には、新たな紙が貼られた。
【怪異お悩み相談所・整理券制になりました】
「……帰りたい」
「無理だね」
私は天井を見上げた。
――平和な日常は、まだまだ遠い。