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目次
月下人狼能力パロ 第一話「痛みなど」
レイト視点
「俺が行くよ」
みんなは少し驚いたような顔をしてこちらを見つめる
誰も行かないなら、自分が行くしかない
今俺にできる精一杯のことを
「え…」
「もしレイトが行くなら、ちょっと苦しむことになるけど…」
「ちょっとみんな一旦フェアチオンのステータス出して」
beri 体力49魔力37攻撃力78能力レベル15防御力41
くろむ 体力42魔力48攻撃力53能力レベル15防御力68
レイト 体力43魔力81攻撃力30能力レベル10防御力71
かえで 体力45魔力53攻撃力45能力レベル12防御力56
クーくん体力51魔力45攻撃力63能力レベル10防御力62
この中で誰が一番死ぬのに最適か…
「てかレイト俺の防御力上回ってんじゃん…」
「くろむのアイデンティティ消えたね」
「能力レベル高いからいいし」
「チョーカー外してみたら?」
くろむがチョーカーを外し、beriの青色の光のみとなる
数字は動き能力レベル10と表示される
「…」
「草」
かえでがネットスラングを口に出してしまっている
「んで、結局誰にするの?」
「だから俺が行く」
「何もできてないから、」
「でもレイト一番防御力高いんだよね…」
「苦しんでもいい」
「行かせてくれ」
「それに、自分で回復できる人が行ったほうがいいだろ」
「そこまで言うなら…」
なんとかberiを説得する
「どうやって死にたい?」
そんな言葉人生で初めて聞いた
でもまぁ、痛いのは嫌だ
「痛くない方法で」
そう答えるとberiとかえで、クーくん、くろむは互いに顔を見合わせている
この3人の攻撃方法はかえでの炎魔法とくろむの魂操作以外は物理攻撃だろう
beriの攻撃力が一番高く早く死ねるかもしれないが精神的にそれまで耐えられるか…
「無理そうなら…なんでも…できるだけ早いほうがいいけど」
「わかった」
beriが氷の細長いを生成する
「ちょっとみんな見ない方がいいかも…」
そんなこと言われると心配になってくる
その氷の槍で今から自分が刺されると思うと少し怖くなってきた
「一撃じゃ無理…?」
「その防御力だときついかな…」
beriは全員が後ろを向いたことを確認するとこちらを向いて頷く
それに返すようにして目を瞑る
「いくよ」
冷たい氷の槍の先が背中に触れる
鋭い痛みを伴いながら俺の腹から飛び出る紅に染まった槍を見つめる
あまりの痛さに膝から崩れ落ちてしまう
体力は半分ほど減った
「はや…く…」
「ごめんねっ」
beriは一旦をの槍を抜いて心臓辺りを突き刺す
もう痛みは感じなくなっていた
クーくんとかに首を切ってもらった方が早かったかもしれない
でももう終わったことだ
俺の意識は一旦ここで途切れた
---
わんこ視点
みんなばたばたと倒れていく
自分はいつ倒れるのだろうと待っているが、一向にその気配は感じられなかった
倒れたフェンリルの隣で目を瞑ってみる
何も起こらず目が覚めてしまう
「えぇ…」
もうずっとそこに寝ていたかった
でも私には多分、やることが残されているのだろう
ゆっくりとその場を離れる
「無事でいてね」
月下人狼能力パロ 第二話「壊滅的ネーミングセンス」
わんこ視点
崩れかけて坂のようになった地面を渡って上に登る
Coreの情報は極めて少ない
なのでメルアさんの言っていたことが間違っていても仕方ないだろう
先程までは空全体を覆い尽くす勢いで広がっていた黒い霧の向こうには、一匹の飛龍が
今までに見たことがない大きさのその龍は、巨大な翼をはためかせて黒い霧をはたいている
巻き上がった霧は空気中で消滅している
黒い霧が晴れだんだんと姿を現す飛龍
「あれ…Coreだな」
確信した
走るんの図書館にCoreについての本があったはずだ
そして走るんの図書館の位置的にこの地割れの被害はあまり受けていないと思われる
特に意味もなく能力を発動し白い霧を吐きながら駆けていく
まるでCoreの黒い霧に対抗したようですこしかっこ良くも見えた
黙々と走る
そろそろ図書館が見えてくるはずだ
白い建造物の瓦礫が被さった図書館らしきものが見える
ここまで被害が及んでいたようで、少し走るんのことが心配になる
だんだんと暗くなってきた中窓からは灯りが見える
図書館の入り口の前まで来る
入り口は瓦礫で塞がれていて、少しズレたところに穴が開いていることに気づく
子供1人が入れるほどの穴で大人が入ることは不可能だろう
少し身を低くしながら穴を潜る
「だっ!誰だ!!」
図書館の中に入るなりそう叫ばれる
「え?待って待って!わんこ!」
目の前には子供の手には少し大きな弓を持った走るんの姿が
怯えた表情でこちらに弓を向ける少女に必死で自分を名乗る
---
走るん視点
3日前
「今日はあんまり獲れなかったなぁ」
地割れのせいで両親を失ってから、しばらく経った
大事にしていたこの図書館を守る
これが私の今やるべきことと、決めている
それを守ったって読みに来る人はいないし
もうこんな世界の昔の古い記録なんていらないだろう
でも自分の存在意義を考えるためにはそうするしかなかった
あの日から自分で平原に出かけていき動物を狩って暮らしている
いつまでこの生活が維持できるかわからない
トビウサギの子供の首に刺さった矢をぬいて縄で縛って馬に吊るす
父親の乗っていた馬、ナメクジだ
父のネーミングはだいぶ狂っているようだが、少し気に入っている
ぱしりと縄を振るってナメクジを走らせる
名前に反してナメクジはとても速い
父が死んだことは、ある日父がナメクジに乗って遠くに出かけた時にナメクジだけが家に帰ってきたことで察した
この弓を、背中に乗せて
「ナメクジ待っててね〜」
家に着くなり握っていた縄を崩れた柵に結びつける
もう誰も入ってこれないように自分なりに工夫して作った穴から図書館に入る
トビウサギを持って台所へ向かう
図書館の貸し出しカウンターの扉の奥は、普通の家のようになっているのだ
頭を切り落として足を結ぶ
血抜きの方法はお母さんに詳しく教わっていた
頭のないトビウサギを持ってまた外に出る
外に吊るして、もうすでに吊るしてあったトビウサギを持って帰る
これが今日の晩御飯だ
捌き方はよくわからないけれど、とりあえず包丁を入れて皮を剥ぐ
骨を取り除いて肉の部分を細かく切って鍋に入れる
にんじんやじゃがいも、たまねぎなどの野菜も細かく切る
家庭菜園していてよかったと実感する
小さい頃教えてもらった通りにトビウサギのシチューを作り上げる
この味は忘れられない母の味だ
「いただきます」
命に感謝を
月下人狼能力パロ 第三話「さようなら」
走るん視点
自分で作った母のスープを食べながら、考える
毎日新聞を届けてくれるお兄さんは健在なので色々な情報は手に入るのだ
最近10大ボスのクレイモアが討伐されたらしい
このままいけばきっと近いうちにCoreが出現するだろう
そして、出現するならこの辺りのはず
強い人たちがきっと討伐をしてくれるはずだから、この図書館が無事なことを祈るばかり
食べ終わって食器を片付ける
次に外に出てナメクジの餌をやる
「おいしいかい」
金属のボウルに入ったにんじんをむしゃむしゃと食べている
尻尾をパタパタさせてボウルが動くくらいの勢いだ
「ちゃんと食べてね」
このにんじんも家で育てた甘いにんじんだ
馬は甘いものが好きだから、草よりもにんじんの方が好きだということをどこかで聞いた
「今日で食べれるの最後だから…」
電気代、ガス代、水道代
この全てを子供1人でなんとかするなんて無理な話だ
よく考えた結果だが、ナメクジを売ることにした
買い取り先でもうまくやってくれればいいな…
ごめんねナメクジ
---
2日後
家に買い取り主が来た
ナメクジに繋がれて縄を手渡してお金をもらうと、勢いよく縄を引っ張りナメクジを連れて行く
「あぁ!そんな乱暴にしちゃだめです!」
「子供は黙ってろ!」
思い切り足で蹴られる
もうナメクジに幸せは来ないのかもしれない
そしてそれは自分のせいかもしれない
電気やガス、水道が全て止まってしまったとしてもナメクジと一緒に…
お父さんと一緒にいたかった
いつのまにかナメクジは父親のような存在になっていた
でも今は、嫌な男にまたがられ、ペシペシと縄を打ち付けられるナメクジの後ろ姿を眺めている
自然と涙が溢れる
こんなの見ていたって辛いだけだ
図書館に戻る
ナメクジが帰ってきた時に持っていた弓の点検を行う
もう1人分の獲物を狩るだけだけど
して1時間ほど時間がたった
自分は居眠りをしていたようだ
少しの物音で目が覚める
「だっ!誰だ!!」
「え?待って待って!わんこ!」
即座にその喋る獣に弓を向ける
こいつは確か、妹が死んでいた場所に……
こいつが犯人なのかもしれない
私も連れて行かれるかもしれない
この図書館を荒らされるかもしれない
私から何かまた奪うかもしれない
次の言葉もまたぬまま
私は引いた矢から手を離していた
その獣は口から白い霧を吐き出す
身につけていたフェアチオンの数値が0になるまで
私は弓を引き続けた
さようなら
さようなら
さようなら
さようなら
さようなら
さようなら
さようなら
さようなら
さようなら
さようなら
さようなら
さようなら
さようなら
月下人狼能力パロ 第四話「目撃」
レイト視点
視界が暗転し目覚める
そこはあの、皆が倒れた場所だった
俺の周りにもくろむやメルアさんなどがまだ倒れている
「俺がどうにかしなきゃ」
「死ねば戻れることをどうやって伝えようか…」
考えていると白い霧が風に乗ってこちらまで移動してきた
Coreのものとは違う白い霧
なにかある気がした
崩れかけた地面の坂を上がって、霧の続く方まで歩いてみる
こんな霧は俺たちが倒れた時にはなかったはずだ
ただもやもやと漂い視界を遮るそれを確認しながら俺は進む
霧は一歩進むごとにぼやっと広がる
そして不思議なことに、一本の道にようになって続いているのだ
歩くうちに辺りはすっかり暗くなる
すると霧の奥の方に灯りが見えた
走ってその灯の方まで行く
近くに来て霧が晴れる
「あ、図書館だ」
ずっと前に走るんの妹を探したお礼で少し覗かせてもらったことがある
その姿は随分と変わっていて、地割れの影響かいろんな瓦礫が上に被さっていて色々ひび割れている
そんな図書館の隅には子供1人が通れるほどの穴が空いている
「絶対何かあるな…」
穴の中に入ろうと中を覗く
「えっ…」
少ししか見えないが、奥に血溜まりが見えた
行くか、行かないか
正直行きたくはなかった
だが、ここで行かなくてどうするんだ
俺は何のために皆を代表してここに来たのか
それに意味を持たせるためにも俺は穴を潜った
そこには怯える目をして血溜まりを見つめる弓を持った少女がいた
血溜まりには茶色の毛皮に包まれた獣の姿が
「わんこ…」
首についているフェアチオンを見てすぐにわんこだと気付いた
腹や背中には矢が複数本刺さっており、触るとまだほんのりと温度があった
「…」
無言で少女を見つめる
どこかで見た顔だ
図書館という場所も考えて、おそらく走るんだろう
走るんは弓を持ったまま動かない
まるで自分のしたことに今更後悔し絶望しているようだった
俺の仲間を殺された悲しみをどこに向ければ良いのだろう
「走るん」
「君がやったんだよね」
なんの反応もなくただ血溜まりを見つめる走るん
しばらくその状態が続くうちに怒りを覚えた
自然と手が動き背中の射影刀に届く
鋭い音を立てながら勢いよく背中から抜き取る
そんな音を聞いても走るんはびくともしなかった
そのまましばらく時間が経つ
「…ごめんなさい」
初めは小さな声だった
何回も何回も繰り返す
そのうちにだんだん声は大きくなっていった
「ごめんなさいっ!!!」
俺の中で二つの感情が争う
仲間を殺された恨みとして走るんもわんこと道連れにするか
許して、事情を聞くか
これ以上何かを失うのは辛かった
走るんを殺しても、帰ってくるものはない
「どうしたのかな…」
コミュ障が発動する
こんな聞き方であってるだろうか
走るんその場にうずくまりは泣き出してしまった
背中をそっとぽんぽんと叩いてあげる
「うっうぁぁっ…」
よく見てみると走るんの体にはたくさんの傷やあざがあった
そういえば両親はどこに行ったのだろう
もしかして…
「大丈夫、大丈夫だからね…」
走るんは弓を床にコトンと落としてまた泣く
どれくらい時間が経ったのだろうか
少し落ち着いたので、わんこの元に移動した
わんこの首についていたフェアチオンを外す
それを自分のフェアチオンの隣に並ぶようにして付ける
ボタンを押しても電源は点かなかった
「…」
走るんを連れて図書館を出る
皆にどう言おう
なんの会話もないままただ歩く
わんこの霧も消えかけていた
月下人狼能力パロ 第五話「氷雨」
メルア視点
真っ黒の空間にただずっと雪が降り続けている
その雪は止むことを知らず行先に雪を積もらせている
黒い箱みたいな空間は何も進捗がないまま白色で満たされていく
その中心に座り込む
自分の周りをまた雪が覆っていく
手の先の感覚はもうすでになくなっていた
雪の下を掘ってみる
ずっと掘っていてもそこにあるのは雪だった
どれだけ積もっているのだろう
「はぁ…」
吐く息が白い
雪と同等のその白い息は空気中に溶けるようにして消える
斜めがけのポーチからマッチの入った箱を取り出す
いつだかにトトちゃんと野宿をするために買ったものだ
しゅっと音を立ててマッチの棒を擦る
ぼわぁっと炎がマッチに宿り、目の前で燃える
ゆらゆらと揺れるその炎に見惚れていると、なにもかもが忘れられる気がした
「トトちゃん…」
声に出してそう言ってみると、また思い出してしまう
誰も悪くないんだから…
自分はこのCoreの夢から脱出する方法を知っている
けれど戻って何もいいことがない気がした
なにもないこの空間にずっと留まっていることが何より幸せそうに感じた
「許されるわけがないこの行為に、慈悲をください」
両手を合わせて祈り続ける
きっといつかみんなが
幸せになった世界線で一緒に暮らせたなら………。
そんな妄想に打ち解けていると、黒い壁に穴が空いた
子供が1人通れるほどの穴だ
「むー!んん!!」
「猫丸さん!?」
「ん!?んー!!」
猫丸は随分と泥だらけになっており、手が背中で縛られている
口にはなにか白銀に輝く鍵を咥えていた
「どうしたんですか!」
「そんな泥だらけで」
鍵を受け取り猫丸の手を縛っていた縄をほどく
「ありがとう」
「なんか知らないうちに縛られてて…」
「この鍵はどこにあったんです?」
「起きた時に目の前にあって…」
「なるほど」
私より比較的薄着の猫丸が震えている
はやくここから出なければ危険だろう
「メルアさん、この雪の下は何かないんですか?」
「雪がたくさん積もってて、掘りきれそうにないんですよね」
「僕に任せてよ!」
猫丸はそう言うと想像もできないくらいの速さで雪を掘っていく
まるで工事現場のようだ
あっという間に猫丸は私を見上げるほどの深さまで雪を掘った
「あ!なんかありますよ!」
猫丸が足でトントンさせてみせる
そこには黒い床が見える
「あれ、こんなところに鍵穴が…」
「メルアさーん降りてきてくださーい」
両手を広げて立つ猫丸
絶対体の大きさ的に支えきれないのでどいてもらったが、少し可愛さすら感じた
下に降りるとそこには鍵と全く同じ色をした鍵穴があった
「いきます」
鍵を奥深くまでしっかり差し込み回す
ガチャリと言う音と同時に体がふわりと浮く
「ひゃあぁ」
床が真っ二つに割れて下に落ちる
重たい雪が先に下に落ちてクッションとなる
「え!?」
驚いた声が聞こえて後ろを振り向く
「メルアさん!!」
「べりさん!!」
月下人狼能力パロ 第六話「道連れ」
かえで視点
「メルアさん!」
「べりさん!!」
雪と一緒にメルアさんと猫丸が降ってきた
冷たい冷気が一気に流れ込んでくる
部屋に何かないかそこら中を探し回っていたくろむとかえでとクーくんが走ってくる
「おかえり!」
「レイトは今さっき殺して…いなくって…」
「だから今確認できたのはは7人か」
「まっきーとフェンリル、わんこはどこだろう」
「Coreの攻撃を受けてなくて、現実でピンピンしてたらいいんだけどね…」
「レイトがどうにかしてくれてるよ」
「多分」
「多分って…」
クーくんに疑われる
でもきっとレイトは今生きていて、現実でなにか進めているはずだ
それが今ここで待つ私たちの唯一の希望の気がした
「え…」
「ん?どうしたのくろむ」
くろむは驚いたような顔をして自分のフェアチオンを見つめている
遠くからでもわかったのは、その数字が変化し続けていること
くろむのそばに寄ってフェアチオンを覗き込む
「えっ…?」
くろむの防御力以外の数値がだんだん下がってきていた
42まであった体力でさえ今は23の数字を映し出している
見ている間にも数字は変動し続け、気がついた時には12にまで下がっている
「俺…死ぬの?」
メルアさんがすぐに駆けつける
「これは…」
「体力を回復しようと思いましたが、最大値が減っているのであれば何も出来ないです…」
メルアさんがフェアチオンの点検を行なっても、異常は見られなかった
くろむのありのままの数値だと言う
そんな間にも時間は過ぎていき1桁に差し掛かる
みんなが心配して集まってくる
「くろむ…僕何か、出来ることないかな」
「生命の花を取ってきてくれたお礼がしたい」
「…くろむさんは取りに行ってないですね」
「えっあっはい」
ずっと立っていたくろむも足が震えてきてやがて倒れ込んでしまった
今の数字は5
もう後は長くないだろう
「ねぇいやだよ!」
「何でそんなにみんな死んじゃうの!?」
一度死んだ経験がある僕の説得力はあまりなかった
でもこの言葉は…
倒れ込んでいるくろむにかぶさる
君を強く
抱きしめる
これは
本物の証明
「ねぇ…」
やがてくろむはなんの反応もせずにぴくりとも動かなくなってしまった
フェアチオンの数字なんて、もう見たくもなかった
ただ、どうして
どうして神様は…
レイトが死んで、向こうに戻れたなら
くろむさんも、きっとそうしているだろうか?
「うぅっ…うぁぁああっ」
ついに泣き出してしまった
もうやまないこの苦しみを
誰より感じていると
そう信じている
「かえで…」
べりさんがそっと背中をさすってくれる
「くろむはね、きっとレイトと一緒に」
「現在の方で頑張ってくれる」
「だってそうでしょ?」
「そうじゃなかったらレイトもくろむも」
「もういないんだから」
そんなのだけは絶対に嫌だった
ただ祈って祈って祈り続けて
そう思い込む
きっとそうなんだから
多分
月下人狼能力パロ 第七話「全ての元凶」
くろむ視点
目が覚めた
ここは…確かCoreに眠らされた場所
さっきまでの記憶はうっすらと残っている
たしか俺の体力が
最大値ごと減り続けて死んだはず
死ぬとここに戻ってくることを確信した俺は、とりあえずもう先に来ているはずのレイトを探すことにした
少し当たりを彷徨いてみる
「おーいくろむー」
「?」
レイトの声
意外と早く見つかった
「あ、レイト」
「くろむ死んだの?」
「うん、故意じゃないけど」
「そっか…」
俺はレイトの腕に2つフェアチオンがついていることと、後ろに誰かいることに気づいた
「その子は…?」
「走るん」
レイトはそう一言で答えた
あまり深くは話したくなさそうだった
「そのフェアチオンは…?」
「…」
後ろの走るんと一緒に黙ったままだった
レイトのフェアチオンの隣に並んだのは赤色のフェアチオン
少し大きめでぶかぶかしている
犬の首輪にも似ていた
もしかして
「わんこのだったりなんて…しないよね?」
ちょっと面白おかしくそう聞いてみる
後悔した
「…」
「…そうだよ」
この後レイトから詳しく事情を聞くと、色々見えてくることがたくさんあった
走るんは精神的にピンチなようで、両親を失ったりしてしまったらしい
わんこを殺したのも走るんのようだった
「なんでそんなことを…」
もう帰ってくることがない仲間
今まで何人も失ってきた仲間
これ以上は何も変わらないまま元の世界に帰りたかった
「本当に、ごめんなさい」
走るんに感情はもう残されていない
そんな気がした
走るんに連れられ図書館まで来る
だいぶ姿形が変わっていて、ところどころが崩れている
小さな穴を潜って中に入る
あの独特な図書館の雰囲気はそのままだった
「お詫び…なんてものにしたくないんですけど」
「何かここで調べられることがあるなら」
「いくらでも使って読んでいただいて構わないです」
「ありがとう」
そう言って走るんは図書館の外へ出て行ってしまった
図書館の床を見ると、落としきれていないわんこのものと思われる血痕があった
見たくもなかった
レイトと2人でCoreについての情報を調べる
1時間ほど探してみたが、ほとんどの本に書いてある情報は全て曖昧だった
「もっと詳しく書いてある本はないのかな…」
そう口に出した時だった
初めは小さく小刻みに揺れ、だんだん揺れが大きくなる
急いでテーブルの下に身を潜める
もう何年もやっていないが、小学校のころの避難訓練に近しいものを感じた
揺れが治って外に出てみる
揺れの影響か時間の経過か原因はわからないが
黒い霧は消え去っていた
「綺麗だ」
レイトの言う通り、本当に綺麗だった
割れた地面が少し幻想的で
そこに眩しい日の光が差し込んでいる
その雰囲気を壊したのは黒いドラゴンだった
「こいつ…Core?」
Coreについてのたくさんの本があった中でも
Coreが黒いドラゴンだと言うことは共通認識だったのを思い出す
山にようになった家を鷲掴みにしだんだん地面の下から這い上がってくる
さっきまではいなかったはずだ
「こんなの…倒すのか…」
サイズがおかしかった
ゲームの制作者がサイズの桁を一つ多くしてしまった…みたいな例えがいいのだろうか
そのCoreだけは異様な空気感を放っていた
まるで、この世界は…
Core自体だったかのように
月下人狼能力パロ 第八話「諦め」
beri視点
「かえで…」
くろむが死んでしまった
そこからずっとかえではくろむの上を離れない
ただずっとうつ伏せになって泣いている
「いやだっいやだよぉ…」
他のみんなも心配している
クーくんと猫丸が何か言いたげに近づいてくる
かえでに聞こえないよう私の耳元で言う
「かえでも死んだら」
「くろむに会えるんじゃないかな…」
それは禁句のように感じた
死んだら現実に戻れるかどうかも分かっていないのに
これ以上犠牲を作ることに意味はあるのだろうか
「べりさん…」
ずっと泣きじゃくっていたかえでが言葉を変えてこちらを向く
少し嫌な予感がした
「殺して、くれますか?」
「…」
クーくんと猫丸との会話を聞いていたかのようなタイミング
聞こえているはずがない
それだと…かえでは自ら…
「お願いです」
「もし現実に戻ったら、私がきっと皆さんを助けます」
こんなことを言っているかえでがなぜか信用できない
くろむに会いたいの一心なのはよく分かる
私の手では決してできたものではなかった
「ごめん…私は…」
「いいんです」
「自分でも…」
「…?」
かえでは腰のあたりに丸く囲ってぶら下げていた鞭を手に取る
「かえで本当に良くない」
「戻れるかどうかも…分からないんだよ?」
「べりさんさっき自分から言ってたじゃないですか」
「くろむもレイトも生きてるんだって」
「だから…」
鞭を縄みたいにしてかえでが首に巻き始める
すぐに猫丸が止めようとかえでの鞭を引っ張る
私もかえでの腕を引っ張り引き止めようとする
かえではもう片方の手で鞭の先端を持って自分の頭に突き刺す
もうダメだと思い、最後に言った
「絶対だからね…」
かえでは魂が抜けたようにその場に崩れ落ちる
クーくんがメルアさんの方向を見る
「これは…だめでしたか…」
あまりゆかりのなさそうなクーくんがメルアさんに話しかける
「死ぬ時の気持ちによってはかえでは現実に戻れません」
「これがCoreの恐ろしさです…」
「私も止めれば良かった…」
かえでの死ぬ時の、気持ち…?
くろむに会いたいからではないのだろうか
ひとつだけ心当たりがあった
そんなものを思いつく自分が怖かった
「そんな…わけ…」
壁に囲まれたこの空間
ひどく冷たい風が通り抜けていくような気がした
かえではもうきっとどこにもいない
生命の花も使えない
メルアさんが能力を発動する
「いませんね…」
「うそでしょ…」
もうこんなことならいっそ全員死んで仕舞えばいい
そんなことを思った
でもそうには行かない
誰かが死んでも、この世界は無慈悲に回り続ける
「あぁ…」
取り残された空間
何一つ残っていない
今ここにいるのは猫丸、クーくん、メルアさん
そして、私
もうどうにでもなれ
元の世界に戻ることなんて最初から叶わなかったのかもしれない
いや、そうだったんだ
月下人狼能力パロ 第九話「盲目」
フェンリル視点
「あっちだよフェンリル」
「うん、まだちゃんと見えてる」
大きな瑠璃色の刀身をした剣を口で咥えて空を舞う
トトちゃんを殺めたこの魔の大剣
はやく役目を終えたい一心だった
使い古した翼はもうまともに動かない
鍵をいきなり剣の姿に変えたせいで視力も落ちてきている
幻獣の力を使いすぎると何かを失うとは聞いていたが
まさかこんなところにまで影響があるとは思っていなかった
「俺の毒がちゃんとCoreに効けばいいんだけどね」
「だね…」
ぼやけた視界にだんだんと黒い影が映り込む
その黒い影は大きな穴の中に佇んでいた
「ごめん…そろそろ…」
「限界か」
「ここら辺で降りよう」
最後に翼を大きく開いて地上に降りる
あんなに真っ白で綺麗に手入れをしてきた翼も薄汚れて傷だらけになっているのがわかる
視界が眩む
ずっと白い霧を通して見ている気分だ
「見える?」
「うん…なんとか…」
まだ大丈夫、大丈夫…
そう自分に言い聞かせる
狼の姿のまままっきーには背中に手を置いてもらい一緒に歩く
その頃にはもうすでに、物の形は見えなくなっていた
色だけが点々としている世界に戸惑う
「ここを下に降りていけばCoreの足元まで行ける」
「目の前だよ、頑張って」
大剣を咥えることでも精一杯だった
その重い剣を引き摺りながら足を一歩一歩前に出す
「フェ、フェンリル…」
「急いで…!」
まっきーが背中を掴んで少し前に引っ張る
急いで進もうとしているのが口調と態度で伝わる
どれだけ目が見えなくなっても剣を咥える感覚に集中する
もう明るいか、暗いかの判断しかつかなくなってきていた
まっきーが引っ張る方向へ体を動かす
「うわっ」
段差につまずいてバランスを崩してしまう
「ごめん」
「ねぇ…見えてないでしょ」
「…うん」
まっきーはそっと背中から手を離した
地面に触れる足
重たい剣を咥える口
あとは特になんの目立つ音も聞こえない耳
これだけの感覚だけを残してまっきーは離れていく
それだけはわかった
「俺にだってできること」
「最後くらい、任せてよ」
そう言い残してまっきーはいなくなった
どうにかまっきーについていこうとするものの、何も見えない
足音すら聞こえなくなる距離まで離れてしまった
その場で座り込む
「役目を果たしたいだけなのに…」
たとえ本当はなんだろうと仲間を殺したという事実は残る
そんな思いを一生抱え生きていくなんて到底できない
せめて、Coreだけは
自分の力で倒したかった
だれにも聞こえていない
聞かれていない覚悟で言う
「任せるよ…」
月下人狼能力パロ 第十話「苦しめ、最期くらい」
まっきー視点
ボロボロになったフェンリルを置いて1人Coreに向かう
俺は俺にできることをするだけだ
Coreはこちらに興味もくれずただ上を見上げている
今がチャンスと言ったところだろうか
あの塔よりも小さいが見上げるほどの絶妙な大きさのCore
でも確かに塔よりも大きな力を感じた
その威圧感はこれまでの10大ボスの比ではなかった
Coreの動きと同時に勢いよく風が吹きつける
半分自動的に手で顔を覆う
風が収まり眼を見開いてみると目の前にはCoreの姿があった
凛々しくも勇ましい顔
黒光りした鱗に包まれた大きな体
少し歪な三本指で支える太い足
https://files.mattyaski.co/null/bc390ca0-8bee-41c3-913e-d202a274cffc.jpg
体を包み込めるほどに大きな二つの翼の先にはそれに相応しいほど大きな爪が生えている
渦を巻いている巨大な二本の角は今にもこちらに向かってきそうな迫力があった
グガァアアアアアアアアアアアアアアア…
天に向かって大きく鳴くその姿はまさに
王道のドラゴンだった
Coreはこちらに気付いたのか、完全に目が合う
暗闇の中に堕ちてしまったように真っ黒の瞳が惹きつける
Coreは体はそのまま首を動かしてこちらに頭を寄せてきた
触れるほど近くまでCoreが来る
その目には敵意はなかった
けれど元の世界に戻るにはCoreを倒さなければいけない
死んだトトちゃんの思いでもあるそれを俺は果たしたい
いや、やらなきゃいけないんだ
腰から素早くナイフを取り出してくるりと回し強く握りしめる
元の場所に戻ろうとするCoreの頭を思い切り突き刺した
「えっ…」
俺は…
俺は何が起きたのか理解できなかった
刺したはずのCoreの頭にはナイフに見合った大きさの傷だけが残っている
ナイフは何処に…
右肩が痛む
https://files.mattyaski.co/null/f6c7ece1-37b7-47ef-91c3-9094745694cf.jpg
「…!?」
俺の右肩には俺のナイフが刺さっていた
音で状況を探りながらもここまで来たフェンリルが後ろに見える
フェンリルは何かを察したのか剣を地面に捨て飛びついてきた
「まっきー!?」
フェンリルの足がナイフに触れる
傷口が開く
今までに感じたことがないほどの激痛が走る
フェンリルは柄を咥えてナイフを引き抜く
その頃にはナイフの毒が体に回り始めていた
「フェンリルごめんね…」
「自分で死ぬことになるなんて思わなかった」
「まっきーどうしたの!?」
「刺さってたの!?」
フェンリルはないも見えない状況で抜いたらしい
…それはそうか
だんだんと記憶がぼんやりとしてくる
意識が保っていられるのも時間の問題だろうか
Coreの頭には確かに傷がついていた
多少なりとも毒も入っているだろう
このまま能力を発動すればCoreの毒が活性化し、大ダメージを与えることができる
その代わり
俺も、同様だ
「後は頼んだよフェンリル」
フェンリルが何も見えない中必死に辺りを見渡している
いやだ、いやだとそんな声が消えゆく意識の中頭の中に響く
「能力………」
「発動」
…
今までありがとう
全身に回った毒はありとあらゆる箇所の細胞の働きを停止させる
やがて脳にまで侵食した活性毒は俺の意識を消した
「…」
こんな終わり方で、よかったかな
最後に聞こえたのはCoreの雄叫び
よかったよ
月下人狼能力パロ 第十一話「ずっと一緒だね」
beri視点
かえでが死んでしまってからなんの進展も得られていない
ずっと同じ空間で何も変わらない時間を過ごす
「ねぇいっそ、全員で死んじゃだめかな」
「かえでみたいにならなければ全員ちゃんと戻れるよね」
「多分…だけどね」
「ずっと何も起こらないし」
「それの方がいいかもね…」
今ここにいるのは私とメルアさんと、猫丸とクーくんの4人だ
まず、3人は誰かに殺してもらえる
最後の1人は自分で死ななければいけない
そしてその最後の1人は攻撃力が高い人の方がいいだろう
あれ
自分じゃね?
「最後まで残るのはberiさんの方がいいと思うんですけど」
「どう思いますか」
多分メルアさんは私と同じことを考えているだろう
「だよね」
「じゃあ…」
「僕が逝かせてもらっていいですか」
猫丸が名乗り出る
「僕…クーくんが死ぬところ、見たくない」
猫丸はクーくんの相棒というイメージがある
確かに見たくないかもしれない
1番最後に残る私だからこそ、快く受け入れた
「じゃあ猫丸の次いいですかね…」
クーくんが名乗り出たためメルアさんが私と最後に残る人になった
「いいですよ」
「では心の準備ができたら行きましょう」
無言で猫丸が私の元に近づいてきた
こちらを見つめてしばらく時間が経つ
目をぎゅっと瞑ってこくりと頷いた
細長い棒に鋭い刃を付け足して持ち手の長い斧のようなものを作る
冷たい氷の棒を片手で握り締める
猫丸の首のすぐ横に斧を構える
---
猫丸視点
まるで眠りから覚めるように目が覚めた
周りにはメルアさんにクーくん…beri
「あれ、まっきーとフェンリル…わんこもいない」
レイトとくろむがいないことは納得できた
だがクーくんとberiとメルアさん以外の人は何処に行ったのだろう
クーくんを待とうかとも思ったが僕はいつの間にか探しに行っていた
大きな雄叫びが響く
音の聞こえた方向を向く
黒い龍が傷を負って鳴いているのが小さく見えた
怖かったが、そこに誰かいるのは確かなことだろう
少し走って現場に向かう
「あ…うあぁあああああああ!」
ボロボロになっているフェンリル
肩にナイフの突き刺さったまま事切れているまっきー
そして向こう側から走ってくる二つの影は死んだ獣を抱えている
わんこだろう
その後ろには弓を引いて二つの影を狙う少女の姿が
「逃げて!!!!!」
声の出る限りに叫んだ
フェンリルは目の前のCoreには目もくれずこちらを振り向く
その少しおかしい挙動を見て察した
フェンリルは目が見えていないようだった
遠くにいた二つの影は何も行動を変えない
わんこを抱えたままゆっくり歩いている
「あぁもう!」
「能力発動!」
狙いは少女
人間の動きを止めることはあまりやったことがない
だがモンスターよりは簡単にできた
自分は膝から崩れ落ちて地面にうつ伏せる
目だけを精一杯に開けて後を見送る
「なんか後ろから音しなかった?」
「確かに」
近づいてきてだんだん確かになってくる二つの影
それはくろむとレイトだった
「は…走るん?」
「どうしたんだ」
「近づかないで…」
「お願いだから…」
僕の声は届かなかった
弓を持った少女
走るんと呼ばれるその子にくろむとレイトは近づく
「あれ、猫丸の能力と似てる」
そうレイトが言ったのちにこちらを向く
「あ!猫丸!」
やっと気づいてもらえた
少女をいて2人はこちらに走ってくる
少女から離れたことを確認して能力を解除する
「くろむ!レイト!」
「猫丸こんなところで倒れてどうしたんだ」
「あと、走るんに何かした?」
「あの子君たちに弓引いてたんだって!」
「危ないよあの子!」
「え?そんなわけ」
一瞬の油断の隙に起き上がった少女は弓を手に取り体制を直す
足を開いて座り込んで弓を引く少女
狙いは僕だった
綺麗に一直線を引いて飛んでくる
僕はその矢をただ見つめていた
「猫丸!?」
「猫丸!」
「おいしっかりしろよ!」
「猫丸!!!!!」
最後の力を振り絞って能力を発動する
僕が止まっている間相手は動けない
この特性を利用して、少女の動きを半永久的に止める方法がある
そう、僕が死ねばいいのだ
死んで仕舞えばもう動くことはない
そして、その少女も動くことはない
「能力……発動」
僕の記憶はここで途切れた
月下人狼能力パロ 第十二話「大切な犠牲」
beri視点
目が覚めるなりなんなり猫丸と呼ぶ声が聞こえた
…嫌な予感がする
「べりさん、一緒に行きましょう」
「行こう」
「うん」
待ってくれていたメルアさんとクーくんと一緒に行動する
地上まで上がれる坂が見えたので、そこから上がることにした
上がってすぐにそれはあった
「猫丸!?」
さっき聞こえた声と全く同じ反応をしてしまう
そこには心臓辺りを矢に貫かれた猫丸がいた
その周りにはくろむとレイトが慌てている
「どうしたの…これ…」
「走るんが…」
少し遠くには弓を持って倒れた走るんの姿が
「なにが…あったの…」
「ひどいです…」
クーくんはもうすっかり黙ってしまっている
猫丸の顔をただ見つめて立ち止まっている
そこでまた大きなCoreの雄叫びが聞こえた
「まっきー…」
向こうでは右肩にナイフの突き刺さったまっきーが倒れている
おそらく自分にも毒が回った状態で能力を使ったのだろう
猫丸は能力を走るんに発動したまま死んでいる
走るんは死んでいないが一生動けないだろう
「あっちにフェンリルがいます!」
「まだ生きてる…!」
メルアさんがまっきーのそばを指差す
ちょうど岩陰に隠れてCoreの攻撃から身を守っているようだった
最後の…とはいかないが、フェンリルのところまで全員で向かった
「うわ、ひどい怪我だよ」
レイトが回復のポーションを錬金してフェンリルの傷口にかけていた
「ありがとう…」
「でも、もう目が見えなくって…」
「幻獣の力を使いすぎです…」
「この剣を生成する時に使いすぎちゃったみたいで、」
「そこから飛んだりしてたらもう…」
「幻獣の力の回復には五感の犠牲が必要とは知っていましたが」
「まさか目が見えなくなるなんて」
「でもそんなに回復してない…」
「だめじゃないですか」
メルアさんとフェンリルで誰にもわからない会話が繰り広げられる
レイトが一生懸命回復のポーションをかけていた翼が魔法のようにパッと消える
「あぁ…もうこの姿を保ってられないほどに減ってたんだ」
「Coreを倒すためです」
「私の命でどうですか」
「え?そんなのだめだよ」
メルアさんの話によると、複数の命の代償でその幻獣の力とやらは回復できるらしい
そしてそれに相応しいのは長い間この世界にいる人間
メルアさんとクーくんなのだ
「きっと帰ってこれますよ」
「トトちゃんを舐めないでください」
トトちゃんはもう死んだ…はず…
なんのことだろう
「フェンリルさん、いいですよ」
「もちろん僕も、」
クーくんとメルアさんがフェンリルの目の前に出る
フェンリルは辺りの匂いを軽く嗅ぎ位置を認識する
次の瞬間2人は粉々になり風に乗ってどこかへ消えていった
「粋なことしてくれるよ、本当に」
閉じていたフェンリルの目は強く開く
大きく丸い、水色に光り輝くその瞳は咥えられた剣と共鳴していた
目の前で起きる異様な光景にレイトとくろむ、私も目を釘付けにされていた
「あとは任せてね」
フェンリルはそう言ってCoreのところまで飛び立つ
崩れた翼が瞬時に現れて水色に輝く粉を撒き散らしながら空を舞う
綺麗なその粉を拾おうと手を差し伸べる
手に触れると優しく粉は消えた
Coreが動く
太く長い尻尾で岩場は崩れ去る
Coreの全体を見上げる
体の大きさ以上の力の大きさを感じた
くろむが鎌を下ろす
それに次いでレイトが射影刀を構える
私もトトちゃんに強化してもらったあのくろむのナイフを握る
「こいつで終わりだ」
月下人狼能力パロ 第十三話「紅葉」
フェンリル視点
クーくんとメルアさんの力を借りて今空に飛び立つ
瑠璃色に輝く剣の輝きが増している気がした
口を大きく開き蒼い閃光を溜め込んでいる
相当温度が高いのか、黒い鱗を貫通して喉から光が漏れ出ている
そして若干その辺りの空気が揺れて見えた
その首に剣を思い切り振り下ろす
最大火力で攻撃したいので口から剣を離して重さに任せて落とした
Core相当重いはずだがCoreの首の上に剣が乗っかっている
Coreは首を振って剣を地面に振り落とすと、頭をこっちに向けてきた
開いていた口をさらに大きく開ける
危険を感じてすぐにCoreから離れる
beri達の方へ行こうとしたが、あえて別の場所に逃げた
それは正しかった
次の瞬間太く蒼い炎が渦を巻いてCoreの口から放たれた
beri達のところに逃げたら巻き添いになっていただろう
空中を飛び回ってCoreの気を引く
---
くろむ視点
フェンリルがCoreの相手をしてくれているうちに鎌を持ってCoreの元へ走った
あまりCoreなんかに能力を使いたくなかった
能力を使わないで役に立つ
ステータスが終わっている俺からしたらだいぶ難しいことだ
Coreの足元まで来る
できるだけ大きく鎌を振りかぶって斬りかかる
「クスッ」
「あ?」
後ろでberiが笑っている
傷ひとつついていないのだ
今までは出来たはずなのに…
レイトが射影刀で勢いよく斬っても傷は付かなかった
そしてberiがどうやっても同じだった
「まっきーどうやったんだよ…」
「まっきー、頭に刺してなかった?」
レイトがそう言うのでフェンリルを追いかけ回しているCoreの頭を見上げる
「柔らかそう…には見えないけど」
「刺さってたのは確かだし…」
投げてなくなっても構わないように小さめのナイフを氷で作る
軽く片手で持ち動き回る頭目掛けて投げる
綺麗に直線を描いてCoreの頭部にぶら下がったような形とで止まりやがて落ちてくる
少しだけ刺さったらしい
「普通に頭攻撃できたらダメージ通りそうじゃない?」
くろむはそう言ってCoreの足の上まで這い上がる
垂れ下がっている翼に鎌をひょいとかけ上に登る
Coreの胸の横あたりに今くろむはいる
「まってこれ」
「降りれないわ」
「ばか…」
私は競技用の投げやりを思い出しその大きさ通りに作る
こんなものが頭まで届くわけもないのでくろむがいる所まで投げる
一瞬胸の辺りに槍は沈んでくろむが受け取る
「これ投げればいいよね?」
フェンリルを追いかけ回してだんだんCoreもう移動している
早めにやった方がいいだろう
「うん」
「出来るだけ早くね」
「わかった」
槍を握った左手を後ろに引いて勢いよく投げる
フェンリルのいる少し上を見上げたCoreの顎に氷の槍が突き刺さる
血が流れ出てくろむの元に垂れてくる
その血を避けるようにしてくろむが飛び降りてくる
5階から飛び降りているようなものだ
背中に鎌を背負い両手を広げてちょうどレイトのところに着地した
「キャッチ…」
レイトがくろむの体をしっかり支えて受け止める
「あ、ありがと」
少し顔を赤くしながらくろむがレイトにお礼を言う
「わぁ…」
「おいべり黙れ」
「ヒュッヒュー」
月下人狼能力パロ 第十四話「真実を」
レイト視点
くろむをそっと降ろす
氷の槍が刺さったCoreはフェンリルを追いかける事をやめ地面を見下ろす
明らかにこちら側に敵意が向けられた
蹴り飛ばすようにCoreが大きな足を前に突き出してきた
あんなの食らったらひとたまりもないだろう
「乗って!」
フェンリルはそう言ってCoreから走って逃げる俺たちの前に着地する
「3人も乗れる!?」
「あっ」
フェンリルが何かを言いかけるが逃げることに必死で3人ともフェンリルに乗る
「思い出したことがあるんだ」
フェンリルがだいぶ息を切らしている
無理をして飛んでいるようだ
「Coreを倒したら」
「もう死んだ人たちは帰ってこない」
「えっ?」
「帰ってこれるんだ!?」
少し前…
いや、ここに来てすぐの時に聞いた話だが
この世界で死んでも元の世界と同じで生き返るなんてことはないはずだ
「でも、元の世界に戻るには倒さないといけない」
今までに死んでしまった人たちを犠牲に俺たちだけ戻る
そんなことが頭に浮かんでしまった
でも許せるはずがない
「全員で戻ることはできないの…?」
「Coreを死んだ状態にして、生かせばいい」
「???」
死んだ状態にして生かす…?
倒して蘇生するとかだろうか
フェンリルはいつのまにかCoreとは反対の方向に飛んでいた
「ここのCoreは倒さない」
「無視する」
「お、おう?」
話の流れが急すぎてよくわからない
「つまり…?」
beriもわかっていないようで少し安心した
「Coreは倒さずにこの世界から脱出する」
「君たちの言う元の世界は、とても近い場所にあるんだよ」
「え?どこに?」
「真下だね」
フェンリルがどうして知っているかわからないが、走るんの妹を探したお礼で図書館に行った時
そんなような本を読んだ気がした
確かこの世界は空より高く宇宙より低い場所にある世界
浮島のイメージだろうか
「え?真下?どうやって行くのそんなところ」
「というか、Coreなんかに合わずにこれば良かったんじゃ」
次々と疑問が浮かんできて、手当たり次第に聞いていく
フェンリルは心なしかさきほどより低空飛行になっている
「Coreを倒したように、しないといけないから」
「ダメージを与えることだけはしないといけないんだ」
「そしてどうやって行くかはもうそろそろ分かる」
フェンリルはマラソンを走り終わった直後に取材を受けている人よりも息を切らしていた
そろそろ心配になってくる
見えてきたのは…Core?
Coreとよく似た何かか、それともCoreなのか
全く同じ容姿をしている黒色のドラゴンがそこにはいた
フェンリルはそのCoreらしきモンスターに氷を吐きつけ電撃を落とす
その黒いドラゴンは電撃を受けると苦しそうに黒い霧を吐き出しながら溶けていった
黒い霧は地面の上でぐるぐると回りだす
やがてその下に巨大な空間が現れる
「これは僕が作ったCore…の、偽物」
「本当はあのCoreを倒さないといけないんだけどね」
「こんなことがあろうかと数年前に作っておいたの」
「へ、へぇ…?」
「数年前までは僕にも能力があったからね…」
「この世界を作ったのも僕なんだよ」
「って言っても1割くらいを描き直しただけだけど」
頭がパンクしそうだ
フェンリルには能力があった?
フェンリルが世界を描き直した?
でも今は従うしかなさそうだった
現れた霧の渦の中にフェンリルは飛び込む
しばらくは下が見えなかった
1分も経っただろうか
地面がないことに気づいた
いや、地面がないと言うよりも
そこは海だった
月下人狼能力パロ 第十五話「見えない幻獣」
フェンリル視点
今、海に向かって落ちてます、フェンリルです
どうしたものでしょう
渦を作るところがおかしかったらしい
数年前の記憶は確かにならなかった
その後も誰かが描き変えた可能性だってある
そろそろこの世界と元の世界の狭間に来る
翼の先端から段々と透明になって消えて行く
それどころか大きな狼の姿も人間の姿へと変わろうとしていた
この姿ともさようならだ
「フェンリル…体が…」
散々移動中にずっともふもふしていたberiが少し悲しそうに言う
「うん」
「この姿とはもうさようならだよ」
「元の世界に近づいている証」
いつに間にかくろむは左肩に
beriは右肩に
レイトが足を引っ張るような形で落ちていた
「ごめんね、最後まで一緒にいられなくて」
「どういうこと?」
「…」
人間の姿も段々と端から透明になっていく
もうここは元の世界側だろう
「最後にこれを渡しておきたい」
1番近くにいたくろむに、投げるように手渡す
それは剣を鍵の姿に戻しておいたものだった
「これを使えばまたこの世界に戻って来れる」
「失った仲間もなんとか、なる」
でも最終的な目標は元の世界に帰ることだ
また戻るなんてことをする意味がないかもしれない
「ごめん、変なこと言った」
「せっかく元の世界に戻ったんだからね
下半身が消えかけている
「もうそろそろ僕も冷たくなるかな…」
完全に下半身は見えなくなった
落ちながらもberiにくろむ、レイトはこちらを見つめて涙ぐんでいるようだった
「絶対助けるから」
くろむが言う
少し似合わない言葉だったが、しっかりと感じた
この人たちなら仲間を見捨てることはしないだろう
元の世界にもし
もし、全員で行けたならそんなに幸せなことはない
そしてくろむは見ているはず
あの世界線を
そしてこの3人はまだ知らない
今帰ろうとしている世界がその世界線に移り変わっていることを
「そっか…」
「助けてもらえたら、いいな」
本当は期待しかしていない
beriが半透明になった手を握りしめる
「ねぇ…」
「まだ、あったかいじゃん…」
消えかけたものに温度などない
体温なんかがあるわけがない
だけどberiは涙声になってそう言った
腕までも完全に消えてもうさわれなくなってしまった
ずっと握っていたberiの手も通り抜けてしまう
もしかしたらもう顔も消えかけているかもしれない
「フェンリルがいなくなっても、絶対にみんなを助けるから」
「待っててね」
くろむが頼もしく思える
こんな人たちでよかったな
さようならを言おうとするも、声が出ないことに気づく
完全に消えてしまったのだろうか
絶対に助けにきてね
待ってるからね…
月下人狼能力パロ おわり
どうもこんにちはberiです
え?これで月下人狼能力パロ終わりなの?
最終話って書いてなかった!!!
って思う方いらっしゃると思います
最終話にしなかったのは番外編を出すかもしれないからです
ストーリー本編としましてはこれで終了です
あと何度もどこでもどこまででも匂わせをしている学園パロですが
はい!ちゃんとやりますよそりゃあ!!!
これに伴い登場人物の漢字ネームを募集してます
まだ決まってない人達↓
黒猫
パラスト
トトちゃん
(多分他にもいる)
本人に聞いていただける方がいれば私の代わりに聞いて伝えてもらっても構いません
というかお願いします
結構爆速で終わった能力パロですが学園パロもちゃんと続きから始まります
(最初の方はあまり学園っぽくないですが)
それと制服案はいまのところ④に決まりそうです
というわけで学園パロもよろしくお願いします!