人類が発展し、首都では電力の光を見ない方が多い。
いや、多かった。
23××年、人類は後退した。
人間が絶えず争いを起こす間世界各地の人口は目まぐるしく減少し、人間は世界に100居ない程になった。
かつての首都は蔦や草に支配され、多くが廃墟となった。
電力が姿を消し、星が瞬かない夜が無くなった。
そんな荒れ果てた世界で、旅人は独り歩く。
廃墟が好きで、星と会話する変わった旅人。
そんな旅人は、あそこに輝く流星を辿る。
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目次
〈レグルス〉
んな馬鹿な。
今朝届いた新聞に目を通して考えた一言目がこれだ。
馬鹿馬鹿しい、と一蹴して放り投げた新聞は乾いた音を立てて床に落下した。
<戦争激化。人類滅亡か>
...本当の事になろうなんて、夢にも思っていなかった。
---
鳥が囀ずる中、古びたベットから|星墟宇宙《ホシアトソラ》は目を覚ました。
今日は何月何日だっけ、なんて思って近くにあるカレンダーを覗き見るが、それはボロボロになって朽ち果てた紙切れが積み重なっているだけだ。
まぁ、もう日付などあって無いようなものだし...と思い体を起こすと、目の前には蔦に覆われた家具達と無機質な壁が静かに帰ってくることのない主を待っている。
込み上げてきた欠伸を噛み殺すと、枕代わりにしていたリュックを背負い、寝床にしていた廃墟に心のなかで礼をしてから外に出る。
さて、今日はどの方角へ行こう...
そう考えを巡らせる...直前、後ろから最近は聞きなれたじいさんの声がした。
「これお前さん。せっかくここに長らく泊めてやったというのに儂に礼も無しに出ていくつもりか」
うへえばれた
「い、いやだなぁじいさん。これからあいさつしよーと...」
「のわりには意気揚々と地図を広げていたな。」
つくづくめんどくさいじいさんだ。これだから老いぼれは...
「次はどちらに行くんだい」
「北の方に行くよ。寒い方が星が見えるからね。」
「そうか。」
じいさん...|獅子座の星《レグルス》は暫く口を開かなかった。何か遠い記憶を探るように。
「...じゃあ、行くわ。また寄るときは頼むよ。」
「ああ。」
じいさんはやけに素直に頷くと、いきなり宇宙の頭をわしゃわしゃ撫でた。
「ちょ、なんだよ。」
「...いいや。何でもないさ。...気をつけて行くんだぞ。怪我しても治療してやらんからな。」
一瞬優しく目を細めたが、瞬きした後にはもういつもの頑固爺がいた。
「...じゃあ。」
北に向かって歩き始め、振り返った時にはじいさんはもう居なかった。
<廃墟しか残らない世界に、星と旅人は息づく。>
<旅人は流星を辿り、その先には眠る廃墟と星が待っている。>
<この世界は、腐るほどある廃墟を星が選ぶ。そこを生涯の住みかにして。>
<旅人は星を訪ねる。星を紡いで、また旅を続ける。>
<旅人と星の物語>
<とある旅人が残した冒険記>
〈風に揺れる〉
「…っえっくしょい!!!!」
パワフルなくしゃみを炸裂させると、マフラーに一層顔を沈める。
北端にある廃墟を目指して旅立った…までは良かったが、海は寒ぃし山は吹雪いてるし食料は凍るしで大変な目に遭った。しかも夜は吹雪くことが多い為星もなかなか見れない。
「冬に来ちゃ駄目だねココは…」
何時になく反省しながら|目的地《風車》を見上げると、羽が2本欠け落ちた風車は風に揺られて淋しく羽を回していた。
---
風車にしては珍しいのかわからないが窓があったので開け放して窓枠に腰掛け上を見ると、滅亡前はホワイトクリスマスとか言っていたような感じの雪がちらほら降っていた。
その上にオーロラがかかり、無数の星が瞬いている。
カバンからコーヒーカップを2つ出してお湯を沸かすと、宇宙は星を見たまま後ろの柱の裏に向かって声を投げかけた。
「…|山羊座の星《デネブ》さん、いつまでそこに突っ立ってんの?」
ちらりと後ろを見るとヤギのような角が生え、眼鏡を掛けた高身長の男がこちらに歩いてきた。
「もう少し言い方というものがあるでしょう。そもそも私は久しぶりに人間が来たので…」
「あー、はいはい、すいません。珈琲ブラックでいい?」
大きなため息のあと呆れた。首を振り、デネブは頷いた。
そして窓枠の隣に腰掛けると、無言で夜空を見上げた。
暫く薬缶の中でお湯が沸騰する音だけが響いた。珈琲を無言で淹れて差し出すと、デネブは一口飲みほおっと息を吐いた。
「…久しぶりに温かい食べ物に触れました。」
「アンタ達星は食事の必要は無いんだろ?私もダメ元で出したんだけど。」
「出されて飲まぬのは礼儀正しくないでしょう。」
肩をくすめてそう言い返す。
「少し、自分語りを言いですか?」
「お好きにどーぞ。途中で寝てるかもね」
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デネブはこの風車に棲んでいた。
毎日仕事をしている農夫を眺めながら、暖かい珈琲を飲むのが日課だった。
近くにはその農夫しか住んでおらず、農夫は|星《デネブ》が毎日風車に星がいると信じて朝暖かい珈琲を届けに来た。
その珈琲は少し甘すぎたが、デネブはそんな珈琲が好きだった。
しかし、他国の戦争に巻き込まれた農夫は殺され、農夫が大事にしていた畑は踏み荒らされ、デネブがいつも珈琲を飲んでいたマグカップは割られた。
デネブは深い悲しみに囚われ眠りにつき、その間に風車は朽ち暖かかったこの地は雪が吹き荒れるようになった。
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「…そりゃブラックですまんかったね。」
「…いや、甘い珈琲はあの人を思い出してしまいそうだ。苦いくらいがちょうどいいですよ」
そうデネブは少し寂しそうに笑い、ご馳走様です、とカップを置くと、また柱の向こうに消えていった。また誰か旅人が来るまで永い眠りにつくのだろう。
宇宙は残っていた珈琲を一息に飲み干すと、テキパキと道具を片付けカバンを背負った。
最後に山羊座を一瞥すると、窓を閉め次の目的地に向かって歩き出した。
その足取りは、農夫に敬意を表すよう今はもうない畑の小道を歩んでいた。