各地を転々としている謎の少女・[レイ](https://picrew.me/share?cd=n3NbGPbhKg)。
彼女は様々な子供と様々な遊びをするという。
これは、そんなレイの物語。
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目次
お花見
わたしはいつもの公園へ向かう。なんだかイライラするときは、少し落ち着くことが大切だ。
今日だって、あの子がわたしに冤罪をしかけてきたのだし。
ベンチへ向かうと、すでに先客がいた。
艶やかな黒髪、制服のような、カチッとした服。お嬢様のように上品だ。まずここらへんの田舎では見かけない。
「すみません、ベンチ…」
「あら?どうしたの?わたしはレイ。寂しいの、お花見しましょ?」
「いや、その、えっと、わたしは|彩芽《あやめ》」
「お菓子もたっぷりあるのよ。さあ」
バウムクーヘン、エクレア、シュークリームといった洋菓子の他にも、たい焼き、大福、団子がある。
わたしは団子を食べてみる。
「むぅ!もおもー!(美味しい!)」
「ふふ、よかったわ」
レイはゆったり花を見ていた。ちらちらと散って舞う様子を楽しんでいるみたい。
わたしは団子をたっぷり食べる。完全に「花より団子」状態だ。
もちもちしてて、みたらしがたまらない!
「そろそろ帰ったら?」
「嫌。夜桜もいいんじゃない?」
「だめ。親が心配するでしょ?」
たしかに、暗くなってきた。
「でも嫌!」
「いい加減にして?」
レイの顔がゆがみ、醜くなった気がした。
「わ、分かった!」
わたしは怖くなり、帰った。
「ルールを守らない子供は、嫌いよ」
レイは後片付けをし、飛んで行った。
「守らない子には、どんなお仕置きをしていたかしら。ふふ。まあ、桜の花びらにしてあげてもいいのだけれど」
桜が、助けて、と叫ぶように風に揺られて音を立てた。
人形遊び
作った人形をバスケットに入れて、きょうも公園へいく。
昨日のことだ。
---
ふらふらと歩く。通学路の近道は、この公園を経由するルートだ。
いつもは|人気《ひとけ》のない公園だが、ベンチに座っている子がいた。
「あら、この公園にもいたのね、お客さん」
しっとりとした感じの長い黒髪。白いブラウスに紺色のスカート、ハイソックス。
『麗しい』という言葉がぴったりのその子は、にっこりとベンチで微笑んでいた。
「み、見かけない人…ですね」
「ここに久しぶりに来たのですから。わたしはレイ。よろしくね」
「わ、わたしは|雨森風花《あまもりふうか》です。よろしくお願いします」
ふふふとレイは上品に笑った。
「風花、あなたが好きな遊びは何かしら?」
「えっ、えっと」
本当はお人形遊びが好きなのだけれど、そんなこと言えない。
「特にないです」
「そうなの?」
ガサゴソと、どこから現れたのか分からないバスケットを漁る音が聞こえた。
その中から出てきたのは、可愛らしいぬいぐるみと、人形。布製で、おばあちゃんのあたたかみがあるような、市販のものにはない感じがする。
「わたしはこの遊びも好きなのよ。あなた、とってもかわいいお人形を持っているわよね?明日、ここでお人形を見せ合いっこしましょうよ」
「わあ…!作ったの?」
「ええ、まあ。着せ替える服もあるのよ」
「すごい!」
---
持ってきた人形で、人形劇をした。なんと、レイは『魔法をかけた』と言って、人形を動かせるようにしてくれたのだ。もちろん、ここだけで。
いつの間にか日が暮れて、真っ赤になっていた。
もう帰ったら、という言葉どおりわたしは帰った。
そして、言われた。このことは絶対に秘密よ、と。
---
「ねえ、2年生!」
「ど、うしたんですか」
2年生、という声が聞こえた。由来は雨森風花という名前が2年生でもう書けるから。ちなみに風以外すべて1年生。
彼女は|桐谷萌音《きりたにもね》。いついじめをしてもおかしくないような子。
「昨日、花形公園で見た。2年生が、女の子といっしょに人形で遊んでたところ」
バカにされるのかと思った。
「人形が、動いてたんだけど?」
「!?」
「どういうこと?その人形、どこにあんの?きょう、花形公園に行くから」
無駄に抵抗してもかえって怪しまれるため、わたしは平然を装った。
「わかりました」
「ふっふっふ、その人形、貸してもらうから」
そんな…レイと、遊べなくなっちゃう。
---
「きゃあああああっ!!」
誰かの悲鳴が聞こえた。
「レイ!?」
「あら、風花。残念だけど、これで風花と遊べるのはおしまいね」
「…なんでっ?」
「見られたからよ」
見られたのが、何が悪いの。
「また会いましょう。次は、もっと人形を持ってくるわ。あなたは遊んでて楽しかったから、はやく戻ってくるわ」
ふっと、レイは消えた。
地面を見下ろす。そこには、傷ついて気絶しているとみられる萌音と、ズタズタの人形があった。
あやとり
基本の形にする。親指と小指をこの糸にかける。そして親指をこうして…
「ずいぶんうまいのね」
「わ!?だ、誰?」
ふふっと、上品に笑う声が聞こえた。
見上げると、いかにもおしとやかそうな子がいた。こんな安っぽくて誰もいない電車に乗るとは思えないけど。
「わたしはレイ。あやとりも好きよ。ねえ、ふたりあやとりはできないの?」
「できるけど、全然やってないからなあ。あ、わたしは|本塚梨里《もとづかりり》。梨里って気軽に呼んでね、で、どっちから行く?」
「じゃあ梨里からどうぞ。吊り橋、田んぼ、の方でいい?わたし、好きなんだけどそれしかできないのよ」
「いいよ!」
レイの指は白くてなめらかで、爪がほんのりピンク色で先がまるまっていた。
「ここでこうやったらダイヤができるのよ」
「そうなんだ!」
一番下の紐から指を通して、クロスの紐を掴み、そのまま一番下の紐を上からかけると、ダイヤが出来上がった。
「すっご!そういえば、これってカエルに見えないよねぇ」
「確かに。でも頑張ったらここが口で、ここが境目みたいにみえるわよね」
ふふっと、笑っていた。
こんな庶民的なわたしでも、対等に話すことができる。しかも、ムカつくようなこともせず、かつ上品という、絶対にモテそうな子だ。
「あ、梨里!」
「あ、おはよ、紀子…」
|石田紀子《いしだのりこ》だ。
塾へ行ってて、自分は賢いから〜と自慢する嫌な奴だ。でも大して賢くもないし、顔もいまいち。わたしは顔の点はプラスもマイナスもしないタイプだけど、中身が大幅にマイナス。
「なにそれ、あやとり?やっぱバカな庶民はそんな貧相な遊びしかできないよね!え、この子友達?めえっちゃかわいいじゃん!こんなやつと遊ぶ資格なんてないよ、こっちで遊ぼ!名前は?」
わたしをハブって、レイをナンパ。こんなやつ、レイは乗るはずないじゃん。
「わたしはレイ。よろしくね」
「レイっていうのー?よろしく〜ッ!さ、遊ぼ!」
「__…いい度胸ねぇ__」
微かなレイの声には、憎しみと、嫌悪感がこもっていた。
「三段ばしごよ、邪悪なものを封印せよ!」
わたしのひもを奪い取り、レイはささっと三段ばしごを作った。それを器用に指から外し、紀子に投げつけた!すると紅い光が放った___
「ああっ!?」
あやとりが巨大化して、紀子を包み込む。そしてまたひもがからみあって、もつれあう。
「くるしっ…!」
サラサラサラ、と砂のように紀子は散ってゆく___
「レイ、紀子って」
「大丈夫よ。時間が経てば戻るわよ。それに、そのときは邪悪な感情も封印してあるし、安心して。さてと、わたしはもう時間が来ちゃったわ。また会えることを祈って、さようなら」
駅の名前も言っていないのに、レイはいなくなっていた。
ひとり、不思議な空間に包みこまれたように電車に揺られていた。
かごめかごめ 前編
♪かごめかごめ かごの中の鳥は いついつ出やる
夜明けの晩に 鶴と亀が滑った 後ろの正面だあれ♪
「ユウナ!」
わたし・ランカは、今かごめかごめをしている。友達のユウナと、ケイコと、ミヅキと、ジュリと。
かごめかごめは、鬼を当てるゲームだ。1人がしゃがみ込んで、他全員が円になる。歌を歌う間、円はぐるぐると回り続ける。歌が終わった時、しゃがみ込んだ1人の後ろの正面にいる人を当てるゲームだ。当てられなかったら当てる人はそのまま。当てたら、当てられた人が当てる側に回る。
「残念!ミヅキでした〜」
「えー…そんなっ」
5時を知らせる放送が鳴り響いた。遊歩公園をみんな、飛び出ていく。5時には帰らなければいけない。
今回の負けはわたしかぁ…
---
「え、ケイコとミヅキが休み?」
「そうなの。あたしもびっくりしたんだよね…だって、昨日まであんなに元気だったでしょ?ランカと、ユウナと、あたしはつまらないじゃない。だって2択なんだもん」
「かごめかごめができないんだよね。せめて4人は欲しいのに。あたいと、ランカと、ジュリでやるなんて嫌だ」
1人が当てる側になると、後はもう2人しか残らない。つまり、当てる確率が50%に一気に跳ね上がるのだ。間が大きいから、逆に真後ろがいないなんてことも、十分有り得る。
「取り敢えず、誰か誘ってこなくちゃ。今日も遊歩で集合ね」
「わかった」
---
「あれ、あんな子、いたっけ?」
「本当だ」
遊歩公園に人がいるなんて珍しい。いつもがら空きなのに。
「あら。なにか困っているようね」
小綺麗な女の子が、わたしたちに話しかけてきた。
「いつも、あたいと、ランカと、ジュリと、ケイコと、ミヅキでやってるの。でも今日は、ケイコとミヅキがいないから、かごめかごめができないんだ」
「かごめかごめ?ふふ、わたしも大好きよ。良ければ一緒に遊ぶ?」
「本当?!ありがとう!」
じゃんけんで負けたわたしは、当てる側になった。
♪かごめかごめ かごの中の鳥は いついつ出やる
夜明けの晩に 鶴と亀が滑った 後ろの正面だあれ♪
そういえば、あの女の子の名前を聞いてなかったな…誰だろう。
「きゃあっ?!」
ユウナか、ジュリかの悲鳴が聞こえた。
「大丈夫っ!?」
かごめかごめ 後編
グサグサ、という鈍い音が響く。
「ユウナ!?ジュリ!?」
あの女の子のせいかな___
「目を覚まして。もうかごめかごめなんて良いから」
あの女の子の声だ。
パッと伏せた目を開く。眩し、と一番初めに感じて、次に感じたのは恐怖だった。
「ジュリ!?」
ユウナが青ざめた目で見ていた。
「ごめんなさい…」
女の子が謝る。バタリと倒れたジュリ。
「わたしはレイ。ズルが嫌いなの…。この子、あなたの後ろに回った時、ちょっとだけずらして、後ろにならないようにしたの。ミヅキとケイコ、だったかしら?あの子たちも、ジュリが毒草を盛ったみたいなの。もう回復はできないかも…。後遺症は残ると思うわ」
「嘘つき!ジュリがそんな事するわけ無い!」
「そうなのね。では、彼女を起こしてあげるわ。もう一度、かごめかごめをしましょう。今度はわたしが当てるし、歌も歌うわ。あなたたちは、ただ回ってもらうだけでいいわ。ジュリのズルを、しっかりと目に焼き付けて」
ムクリと起き上がったジュリは、ぽんやりとしていた。
---
綺麗で艶のある声で、レイは歌った。わたしたちは、レイの周りをぐるぐるとまわる。
♪かごめかごめ ズルをした子供 いついつ出やる
黄昏時に ズルをした子がいる ズルをした子だあれ♪
妙な替え歌だった。そして、「後ろにいる人が、ズルっ子で、お腹を痛めた犯人よ」とレイは言った。
後ろにいる人は_____ジュリだった。
「えっ?ジュリ?」
「そんなことない。お願い、信じて。この子がデタラメ言ってるの。ね、ランカ、ユウナ?」
レイは立ち上がると、にやりと笑った。
「ズルっ子さん。相応の罪だってことを、思い知らせてやるわ」
網状のカゴが、ジュリを包む。
「やめっ___きゃあああっ!?」
---
その後、ジュリはいなかった扱いになっていた。ジュリとの記憶があるのは、ユウナとわたしだけ。
ミヅキとケイコも、毒草の和え物をもらったらしい。毒草、というか、道端に生えている草の和え物。でも、なかったみたいに、ミヅキとケイコは絶好調だ。
レイも、遊歩公園にはいない。
羽つき
カン、カン、と乾いた木の音がなる。花の絵が描かれている木の板で、羽根をぽんぽんとつく。
毎年、お正月にやっている羽つき。木の板に絵を描いた羽子板で、テニスのように遊ぶ。ラケットが羽子板で、テニスボールが羽根だ。落としたら負けで、顔に墨で一筆、落書きをする。落としやすいように、本当の墨ではなく、落としやすいタイプの墨を使っている。
毎年、エリとやるのが楽しみだったのに、エリは遠くに引っ越してしまった。周辺には足腰の弱いおじいさんだけ。一人っ子だし、家族は準備で忙しい。
お年玉に次ぐ楽しみがなくなってしまい、あたしはげんなりしていた。
---
公園で1人で遊んでいると、
「あけましておめでとう」
と話す子がいた。全然知らない子だった。制服みたいにしゃきんとした服を着ていて、黒い髪をロングにおろしている。優等生っぽくて、どこかの私立の小学校から出てきたのかというくらい。
「あ、あけましておめでとうございます」
「羽つきが好きなの?」
「うん」
「じゃあ、やりましょう」
「本当?」
「ええ。わたし、どんな遊びも好きだから。わたしはレイ」
「あたしはカンナ」
---
レイはなかなか強い。羽根を勢い良くついて、返せた数は両手で数えられるくらいだ。にこにこと、爽やかな笑みを浮かべて遊ぶレイが鬱陶しい。
「くそっ、手加減しろよっ!!」
「そうなの。ふふ、ごめんなさいね。遊びは本気でやってこそなの。本気でできないなら、遊び未満の行為だわ。頑張って」
暴言を思わず吐く。無意識に言っていて、だんだんとレイの表情が怖くなって来た。
そして、レイは言い放った。
「もう我慢ならないわ。そんなこと言うやつは、遊ぶ資格なんてない。これで終わりにしましょう。さあ、この《《あなたの魂》》を落とさないように頑張ってね」
「えっ?魂?」
ふふ、と笑うレイは、先程のような柔らかさはなかった。
---
レイは本気を出したみたいで、手加減は一切していなかった。さっきよりも明らかに、羽子板をふる速度が速まってる。魂を落とさないように、という言葉がジョークとは思えなくて、必死になって羽根をつく。
死んじゃうのではないか。どうしたら、レイと別れられるんだろう?レイが落とすような羽根をついたら、レイが死んで、やめることができるのではないか。
「ふっ!」
そう、レイが叫んだ。その羽根は、今までの比じゃないくらいのスピードと威力を持ち合わせていた。
コン、と虚しい音が響いた。あとちょっとで、返せたのに。
羽根が、
|羽根《あたしの魂》が、
地面におちた。
「カンナ、バイバイ」
最期に聞いた声は、それだけだった。
花いちもんめ 前編
花いちもんめ、が最近わたしたちの中ではやっている。
|萌美《もえみ》、|瑠夏《るか》、|愛菜《あいな》、|凛奈《りんな》、|由香里《ゆかり》の仲良し5人グループ。
花いちもんめ。2つのグループにわかれて、誰を仲間にしたいか相談して指名する。指名された者同士でじゃんけんをして、負けた人は勝った方のグループの仲間になる。
でも、どうしても2対3になって不平等になってしまうのだ。これは致命的だ。他に誘おうも、着々とグループが出来上がっていて、今、「1人必要なんだけど」と言える状況ではとてもない。
下校中、また公園で集合の約束をした。はーあ、とため息をつきながら下校していると、
「花いちもんめ、楽しいわよね」
と女の子があらわれた。全然知らない子。引っ越してきたのだろうか。つやつやにおろした黒髪ロングと、白いブラウスに青いスカートは、上品でマナーがきちんとしている、優等生な女の子を思わせる。変に髪を結んでいないところとかが、王道というかんじがする。
それはそうと、なんで花いちもんめがブームを知っているのだろうか。あれって、だいぶ昔からあるタイプのやつだよね?見たかんじ、他に人はいないみたい。
「うん」
「でも、奇数人だとできないのが欠点よね」
「そうだよね」
「しかも、1人じゃできない」
「確かに」
1人じゃできない、のは当たり前だ。取り合うもなにもないのだ。
「わたしも、一緒にやっていいかしら?」
「もちろん」
時刻を伝え、「また後で」と言ってわかれた。
---
あの女の子の名前を聞き逃した、と思い出したのは、公園へ向かう最中だった。
公園へ向かうと、凛奈以外の全員が揃っていた。
「ねえ、この子、誰?」
と、愛菜が強めに聞いた。
「この子…。名前はまだ聞いてないんだけど、一緒に花いちもんめをしてくれるんだって」
「本当?やったね」
「わたしはレイ。よろしく」
レイ。かっこいい名前だ。無駄がない、キリッとしたかんじの名前。
「ごっめ〜ん!遅くなっちゃったっ」
「もう、遅いよ、凛奈」
萌美がつっこむ。いつも凛奈は遅く来て、悪びれる様子もない。でも、ちゃんと髪型はセットしてあるのだ。
「始めよ!」
「わかったわ」
レイと、わたしと、愛菜のグループ。凛奈と、萌美と、瑠夏のグループ。グッチーで決めたし、何より3対3で不平等さが一切ない。
レイが、どこか不満げなかおをしている。まあ、気にすることないか。
花いちもんめ 後編
勝って嬉しい花いちもんめ 負けて悔しい花いちもんめ
あの子が欲しい あの子じゃわからん
相談しましょ そうしましょ
「で、誰にする」
「うーん…凛奈、とかかしら」
へえ…。レイって、はっきり言うタイプなんだ。
「わかった」
向こうも決まったみたい。
きーまった
凛奈が欲しい レイが欲しい
「「じゃんけん、ぽん」」
あ、レイが勝った!
「やったね」
「良かったわ」
飄々としているレイ。その姿勢がかっこいい。
でも、花いちもんめは、残酷な遊びでもある。きーまった、と言って人を選ぶとき、なんとなく最後まで残ってしまうときがある。そういうときって、すごく悲しい。
そう思いつつ、花いちもんめを繰り返していった。
---
「えー!?凛奈ちゃん、1人になったんですけどぉー」
「うわ…」
凛奈は、いつも駄々をこねる。小さい子供みたいに、不利になったらこうなるのだ。一人称とかもすごく、ぶりっ子に見える。
「はあ…。あ、みんな、先に帰ってて。それと、貴方」
「えっ?」
貴方、と言ったレイの指先は、わたしに向いていた。
「ごめんなさい。名前を聞いていなくて」
「あ…由香里です」
「由香里?ふふ、いい名前ね…他のみんなは、先に帰っててほしいの」
「えー?なんで」
「ちょっと、特別な事情があって。大丈夫。次からは、わたしなしでも楽しめるから」
凛奈とレイ以外、渋々先に帰ってしまった。
グッチーをしたら、レイ、凛奈とわたしにわかれた。
レイは歌い始めた。
勝って生きれる花いちもんめ 負けて死んじゃう花いちもんめ
あの子を生かす? あの子を殺す?
相談しましょ そうしましょ
あまりにも怖い替え歌。聞いたことがない。
まあ、レイしかいないんだけど。
きーまった
レイが欲しい 凛奈が欲しい
じゃんけん、ぽん!
「わー、凛奈ちゃん、負けちゃったぁ」
「そういうこと。貴方が死ぬことは、全て最初から決まってたわ」
「えっ?」
死ぬ?どうして。
「この子、いっつも迷惑かけてたでしょ。うんざりしていたでしょう?だから、消してあげるわけ。4人だし、偶数になるわ。歌詞を、よく思い出してね。じゃあね」
またたく間に、凛奈とレイは消えてしまった。
---
「うぉ」
由香里が更新しているブログに、新たな書き込みがあった。タイトルは、『不思議な子と花いちもんめしたら、Rが消えた』。
|わたし《愛菜》は、びっくりした。その出来事にもびっくりしたけど、一番驚いたのはその感想欄。ここには、記事の感想を書き込むことができる。
「わたしは、あやとりをしていたら消えました」
「わたしも。お人形遊びをしてたら」
その、「わたしも消えた」コメントは、3件もあった。他にもかごめかごめとか、関連性が見えないやつばっかだ。
レイって___一体、何者なんだろう。
ハンカチ落とし
いつもの広場で、あたしたちは集合した。ゆうすげ広場は、ちょっとだけ大きな丘があって、遊具は少なめ。だけど、邪魔するものが少ないから、鬼ごっことかにぴったりの場所だ。
でも、あたしたちはハンカチ落としをする。ハンカチが鬼の証で、鬼はハンカチを落として鬼ごっこみたいなことをする。
鬼ごっこみたいな遊びだ。それを、ユウコ・アヤノ・ハナ・アキノと、あたし・ミズエでやる。
るんるんとした気分で、今日もゆうすげ広場に行った。
---
「あ、ミズエ。ハナは?」
「まだみたい。それより、その子、誰?」
優等生みたいな格好の、女の子。ここでは見ない子で、知らない子。
「わたしはレイ。一緒にハンカチ落とし、してもいいかしら?アヤノが誘ってくれたの」
「うん」
言葉づかいからして、きちんと育てられたみたいだ。
「レイとは初対面なの。なんか、一緒に遊びたいんだけどって言ってきたから」
へえ、変わった子なんだ、レイって…
「ごめんなさいっ、遅れちゃって」
「あ、ぜんぜんいいよぉ」
ハナが遅れてきた。ちゃんと謝ってくれるから、いい。
「もう1人、連れてきたの。いいかしら?」
「いいよ」
いつの間にか、もう1人の子がいた。ぼさぼさヘアで、レイとは正反対。
「こんにちは。わたしはユカ。よろしく」
「最初は、ユカが鬼でいい?」
「うん」
ユカ、鬼が好きなのかな。
---
目を伏せる。誰にハンカチが落とされるんだろう。ドキドキするな。
「きゃっ」
この声は、アキノの声だ。アキノは足、速いからなあ。
「追いつけなかった〜」
「余裕だったよ」
にこっと笑うアキノ。
次はユウコが狙われた。その次はあたし。その次はユウコで、ハナ。そして、レイ。
ユカは鈍足みたいで、なかなか座れない。
「ねーえ、つまんないんだけどっ。いい加減にしてよ。ったく、鈍足め。なんで連れてきたのよ」
「そんなこと言っちゃダメでしょ」
ユウコが、遂に言った。
「もう、なんでそんなこと言うの。ユカ、落ち込んでるでしょ?」
「ユカが悪いんじゃん。もっと足、速くないと」
「まあ、もう一回、やりましょう」
レイはふふっと笑い、目を伏せた。
「いやああああっ!?」
ユウコの悲鳴が聞こえた。尋常じゃない悲鳴。
「ユウコっ!?」
目を開けると、ユウコがいない。
「遊びをけなすような子に、遊ぶ資格はないわ。だから、あの子は鬼になった。さ、鬼のユカも解放するわ。ユウコの代わりに、遊んであげて」
意味がうまく飲み込めない。すると、ふわっとユウコの面影が現れた。
ユカの手には、もう鬼の証がない。鬼の証は、ユウコへと渡されていた。
とあるブログにて。 前編
わたし・マリは『こどもブログ』の活動者だ。『リリン』という名前で活動しており、『yuka』という子とネッ友だ。
反応は薄く、大して活躍もしていない。それはyukaも同様だ。
だが、ある日、『きょうのランキング』に、3位にyukaのブログが掲載されていたのだ。クリック数148。高評価数21。コメント数10件。
声が漏れそうだったのを、必死で抑えた。『きょうのランキング』、通称『キョウラン』に掲載されている人は、ほぼ同じだからだ。
記事名は『不思議な子と花いちもんめしたら、Rが消えた』。R、はyukaの友達とおぼしき人物だ。うざい、という愚痴もたびたび見る。恐る恐る、わたしは記事をクリックした。
---
こんゆか〜☆yukaです。
きょう、M、R、A、RI、わたしで花いちもんめの約束をしました。そこに、レイと名乗る女の子も誘ってきました。ちなみにレイは初対面で、初めてあったのはわたしです。
少し遊んだあと、レイはR、レイ、わたしだけが残るように指示しました。M、A、RIが帰ると、またもや花いちもんめをしました。レイが1人の。
勝って生きれる花いちもんめ 負けて死んじゃう花いちもんめ
あの子を生かす? あの子を殺す?
相談しましょ そうしましょ
みたいな歌で、花いちもんめをしました。Rが狙われて、じゃんけんをしました。Rが負けて、「これは運命よ」みたいにレイが言って、Rとレイは消えてしまいました。
すごく不思議なできごとでした。
---
驚くのはこれだけではなく、コメントにもちらほら、『わたしも、レイって名乗る子と〜』っていう書き込みが見れたことだ。
しかも、十数年前にも同じような記事があった。
その記事にコメントを書いた。『すごいね、yuka…。花いちもんめして、消えるなんて。しかも、他にもいるみたいなんだ。レイっていう子が出て、同じようなできごとがあった記事を見つけたんだ。十数年前のだけど…よければ、見てみて』という文章とともに、記事のリンクを添付した。
数時間後、『確認したよ!まさか、だるまさんがころんだで…。驚き』というコメントが、わたしの一番新しい記事に付け加えられた。
とあるブログにて。 後編
yukaの書き込みから2日。新たにyukaが、なにか書き込んだ。
---
こんゆか〜☆yukaです。
なんか2日前のブログ、投稿した覚えないんだけど。Rって誰?レイって誰だっけ?良く見たら、めっちゃRの愚痴書いてるじゃん、わたし。
一応病院で検査うけたけど、異常なしみたい。なんでだろ?
でもコメント数多いから、削除しないでおこ。
---
「yuka…?」
yukaの記憶がなくなっている?たった2日前なのに?1年前からずうっと言っていたRのことを、忘れた?
なら、レイは___何者なの?どうやら、只者ではないようだけど。
「おもしろそうな遊び、ね。でも、ちょっとわたしには早いかも」
「きゃあぁっ!?」
自分の部屋に、1人の女の子。全然知らない。お淑やかで、上品で、優等生って感じの子。
「誰っ」
「ふふ。レイだけど、なにか?」
「レイ!?」
レイ。yukaのブログと一致してる。
「あなたに罪はないんだから、何にもしないわよ。ちょっと、他のゲームも観戦したくなって。べつに良いわよ、そのブログに載せても。ただ、あなたの、わたしとの記憶がリセットされるだけ。もともとないはずのものが急に出現して、なかったことになるの。ちょっと難しいかもしれないわね」
どういうこと、と言う前に、レイは消えた。
とにかく、今のをブログに書き込んでおかなきゃ。
---
こんりり!リリンです。
きょう、yukaと同じ(だと思う)レイという人物が来ました。なんか、ゲームを観戦したくなって〜とか言ってたんですけど…。
たぶん、明日ぐらいには記憶が消されるんだと思います。
おつりり!
---
すぐついたコメントは、「パクリ乙」「芝居乙〜w」という冷酷なコメントだった。
そんな、パクリじゃないのに…
yukaは、「え?!すごい偶然…みたいだね!」と書き込みをした。
---
あれ、昨日のって、なんだっけ?なんであんな書きこみしたんだろう?
とおりゃんせ 前編
とおりゃんせ とおりゃんせ
ここはどこの細道じゃ 天神様の細道じゃ
ちっととおしてくだしゃんせ ご用のあるものとおしゃせぬ
この子の七つの祝いに お札をおさめにまいります
行きは良いよい 帰りは恐い 恐いながらも
とおりゃんせ とおりゃんせ
改めて思うと、この歌は摩訶不思議なものだと思う。天神さまって誰?って感じだし、どことなくイヤな感じがする。
それでも、あたし___真子は、通りゃんせが好きだ。2人が手を繋いで、その下を大勢が渡っていく。歌が終わった時、下にいた子は、手を繋ぐ番になる。
いままで、通りゃんせを何回もしてきた。だけど、急にできなくなったのだ。
転校することになったからだ。
---
「|近藤真子《こんどうまこ》です、通りゃんせを遊ぶのが好きです。よろしくお願いします」
慣れない土地。自然の空気は感じるが、別物な感じがする。
通りゃんせ、やりたいな。そう思って、地味っぽい女子4人グループを誘ってみた。
「ね、通りゃんせやらない」
「通りゃんせ…。ああ、あれね」
知っているような口ぶり。期待できそうだ。
「知ってるよ。だいいち、わたしたち、いっぱいやってるもの。4人だと面白くないから、嬉しいな」
「本当?ありがとう」
「この学校は、放課後、校庭が開いてるんだ。だから、やらない?」
「うん!」
まさか、ここで通りゃんせができるなんて。嬉しいな。
---
通りゃんせ 通りゃんせ
ここはどこの細道じゃ 天神様の細道じゃ___
「通りゃんせ…」
「あら?」
校庭にさっそく行くと、誰かがいた。8人…いや、とっても多い。遠目だと、数えられない。
40mぐらい離れて、ちょっと「通りゃんせだ」とつぶやく。それでも、女の子はあたしの声に反応する。正直、びっくり。
「あれっ…」
さっきまで、けっこういたはずだ。なのに、いまは1人になってる。
「通りゃんせ、好きなの?」
「うん」
「ふふ、そうなのね。良かったら、一緒にやらない?萌音と、紀子と、ジュリと、カンナと、凛奈、それからユウコでやってたところなの」
「いいけど…あたし、4人とやる約束してるの」
「そうなのね。じゃあ、入れてもらっていいかしら」
「うん、多分」
全然知らないあたしでも、いいよと気さくに言ってくれるのだ。きっと、いいだろう。
「真子ちゃーんっ」
校庭で走る音が、だんだん近づいてきた。
とおりゃんせ 後編
「真子〜。あ、この子って」
「わたしはレイ。気軽にレイって呼んで。通りゃんせがしたくて」
「そうなんだ!いいよ〜!わたしは|沙恵《さえ》」
「わたしは|梨花《りか》」
「|優実《ゆうみ》だよ〜ん」
「|真子《まこ》です」
「わたしは|鈴《すず》」
沙恵、梨花、優実、わたし、鈴、レイ。この6人でやるんだ。
---
はじめは、鈴と沙恵が橋番。
とおりゃんせ とおりゃんせ
ここはどこの細道じゃ 天神様の細道じゃ
ちっととおしてくだしゃんせ ご用のあるものとおしゃせぬ
この子の七つの祝いに お札をおさめにまいります
行きは良いよい 帰りは恐い 恐いながらも
とおりゃんせ とおりゃんせ
捕まったのは優実。
「わぁ、捕まっちゃったや」
じゃんけんして、鈴が勝った。鈴は交代。
「そういえば、改めて思うと、歌詞って不思議だよね」
「そうね」
真っ先に反応したのはレイだ。見た目からして、ものしりなんだろう。
「いろんな説があるの。天神さまに参拝する親子に、通っていいよというのが『通りゃんせ』。用がないものは帰れ、というのが『ご用のあるものとおしゃせぬ』。昔は7歳まで生きるのが難しかったから、『此の子の七つのお祝いに』。行きはスムーズだけど、帰りは困難だから『生きは良いよい帰りは恐い』。他にも、本当は子どもを捨てに行くためとか、生贄の歌とか。いろんな説があるみたいね」
「へえ…」
ぺらぺらとしゃべるレイを見て、すごいなあと感心した。
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「ね、そろそろ帰らない」
空が真っ赤に染まったとき、沙恵が言った。
「そうだね、けっこう暗くなってくるし」
「うん」
「じゃあね、ばいばーい」
そう言って、あたしは帰ろうとした。でも、レイは帰ろうとしない。
「__現代でも、いい子はいるのね…__」
何やらつぶやいていた。
「レイ?帰らないの?」
「あ、ううん。改めて、ルールを守ってくれるなと思って。じゃあ、また。わたし、引っ越しちゃうの。もう遊べなくなるけど___また、必ず遊ぶわ。あなた達と遊ぶのは、久しぶりに楽しかったもの」
「うん」
引っ越し、か…。
「さみしくなるけど、また、通りゃんせできるといいね。あたしも、そうだったから」
「うん」
弾むような声で、レイは言った。