この世には二種類の人間がいる。
普通の人間と、『能力者』。
これは能力者達の物語。
⚠注意
グロテスクな描写があることがあります
たまに病み描写入ります
続きを読む
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
1話
この世には二種類の人間がいる。
まずは普通の人間。特に何もない、どこにでもいる平凡な生き物。
そして『能力者』だ。
能力者はそれぞれ、能力を持っている。
炎を操るもの、水を操るもの、虚空からモノを作り出す者まで・・・
しかし能力者は全人類の人口の3%ほどしかいない。
それに能力を悪用する者も多い。
なので異端視され、迫害される。
危険視される能力を持つものは、管理され、管理されていない者は捕獲対象にされる。
その能力者を捕まえる機関を「|軍団《ぐんだん》」と言った。
とある能力者がいた。その能力者は『空間操作』の能力者で、その能力を使って軍団から逃げていた。
世界中を飛び回ったその能力者は、他に出会った能力者を数人連れて、悪い能力者と軍団を抹殺することにした。
その軍団の名前は「|X《エックス》」。
軍団から現在、最も危険視されている能力者集団である。
【今後出てくる専門用語解説】
能力者・・・一人一つ、能力を持って生まれてくる人間。能力が後から開花する場合もある。
軍団・・・能力者を取り締まる、警察のような機関。能力者への迫害が酷く、能力者からは嫌われている。
危険度・・・能力者の実力や能力を加味したうえでつける段階評価。
下からD→C→B→A→S→SS→SSS→Uと付けられる。D,Cの能力者は軽く管理されるレベルで、危険視はされていない。
2話
都会の路地裏で。
空間がぐにゃり、と歪んで、一人の少年が出てきた。
「よし、軍団からは逃げ切ったみたいだ」中性的な顔立ちの少年が言う。金色の瞳が印象的な少年だ。
彼の名は|鳥羽《とば》|月人《つきと》。『X』のリーダーである。
「やるなァ月人、さすがリーダーだな、ケケッ」「それほどでも無いぞ、カルマ」同じ空間から黒犬が出てきて、少年を茶化す。
「皆は逃げ切っただろうな・・・あとで集合だ」その姿はあっという間に影に溶け消えていった。
銃声が鳴り響く中。
「めんどくさいですわ軍団は・・・」「言えてますね|姉《ねえ》様」黒髪に赤目、白髪に青目の少女。色が反転したような二人が軍団に追われていた。「あぁ、|私《わたくし》達月人くんのところに行かないといけませんでしたわ・・・|要《かなめ》、やっておしまい」「分かりました」青目の少女が手のひらを軍団に向ける。と、そこから大量の煙が出てきて双子の姿を消した。
夜道で。
「お前達『X』だな?軍団まで来てもらう―」「黙れ」大勢の軍団を相手に、銀髪に黒縁の眼鏡を掛けた少年が一言言うと、軍団の動きが止まった。「―今のうちに行こうか、|琉真《るま》ちゃん」「うん!やっぱり|椎葉《しいば》君は凄いな、あたしもそんなふうになりたいな・・・!」薄い青緑で、毛先が濃いピンク色。「我」と書かれた顔隠しを付けている、印象的な少女が少年の後を追う。
こうして夜はふけていく。
DATA
鳥羽 月人 危険度SSS
識別名・メンター
能力名・バベル
空間操作の能力。空間を歪ませ、自分の指定したところに移動ができたりする。
3話
「皆揃ったか?大丈夫か?」黒犬を従えた|月人《つきと》が声をかける。
「ケケ、俺に労いの言葉はねぇのかよォ、月人」「はいはい、カルマもお疲れ様。《《いつも》》能力発動してるからキツイよな、よしよし」「なんだか投げやりだがまァいいぜ」月人が黒犬―カルマを撫でる。
「|私《わたくし》達も無事ですわ!」「リーダー、|姉様《ねえさま》も私も大丈夫です」長い黒髪に赤目の少女と、白いおかっぱ頭に青目の少女の声がこだまする。「|鼎《かなえ》、|要《かなめ》」月人が呼ぶと、二人の少女―|黒野《くろの》鼎と要が頷いた。
「・・・ということは僕たちが最後ですかね、遅れました」「リーダー!来たよー!!」「遅れてはないから安心しろ二人共。・・・まぁ気にしてないやつが一人いるが・・・」銀髪に眼鏡の少年―|木賊《とくさ》|椎葉《しいば》と、顔隠しを付けている少女―|五百森《いおもり》|琉真《るま》が最後にやってきた。
「みんな揃ったな、じゃぁ作戦会議だ、今回はF地区の軍団を消滅させる」月人が宣言した。「ケケ、F地区ってあれだよなァ、まぁまぁ強いとか言うさァ」「私達にかかれば一瞬で終わらせてみせますわ」「そうです。私達にはリーダーと姉様がいらっしゃいますから」カルマと鼎、要が力強く頷いてみせる。「援護くらいしかできないかもしれないですけど、とりあえず頑張ります。―何かあれば琉真ちゃんを出してあげればいいので・・・」「そんなこと言って毎回出してくれないじゃん!!弱い敵が多すぎるのー!!」冷静な椎葉の横で、琉真が頬をふくらませる。「まァ琉真は強いからなァ、出さないんじゃなくて《《出せない》》んだよなァ。まぁ指くわえて見てろっての、ケケッ」「カルマずるいー!!」「カルマ、琉真、喧嘩しない」月人が諌める。
「結構は明日の夜。準備しておけよ」「「「「「はい、リーダー」」」」」
暗い夜はふけていく。打って変わって、一部は元気だった。
DATA
カルマ 危険度SS
識別名 カメレオン
能力名 チェンジ
姿を変える能力。生物だけでなく、物体に返信することも可能。いつもは黒犬の姿をしている。
4話
夜になった。
F地区の軍団員・・・|牧野《まきの》は、悪い子供が出歩き・・・能力者が出歩きやすい真夜中の監視をしていた。
今日もあるのはうろついていた子供の指導くらい。能力者はほぼいないと言っても良い。
しかしF地区は、全国トップクラスの軍団力を持っている。団長が厳しいからだ。
F地区の軍団員は団長からのパワハラ・セクハラに悩まされ、自ら命を立つものも多い。
しかも軍団の力を盾にして、普通のF地区市民に対する迫害や残虐な行為も多く、他の軍団や地区からも悪評が高かった。
しかし何もしなければ何かがある、ということでもない。ただ単純に、任された仕事をまっとうすればいいだけ――
首に強い痛みを感じて、意識が途切れた。というよりは、死んだ。
「牧野・・・!ぐっ」「総員、警戒態勢!何者かに襲われ・・・げぼ」前門の前に血が飛び散る。
「・・・赤いですわね、|私《わたくし》、赤は嫌いですの、紫が好きですわ」「文句言ってンじゃねェぞ|鼎《かなえ》、ケケッ!」自らの体を刃物に変化させたカルマと、鼎・|要《かなめ》が門の前に降り立つ。
「俺たちもそろそろ行くか・・・」「そうですね、リーダー・・・|琉真《るま》ちゃん、ここで静かにしててね。誰か来たら急いで逃げるんだよ」「分かった・・・いってらっしゃい!」「ああ」「はい、行ってきます。」
|月人《つきと》と|椎葉《しいば》も敵陣に向かう。琉真はいつもどおりお留守番である。
ドタバタと音がして、一人の団員が団長室に入ってきた。
「団長!能力者の侵入を確認!人数や能力からしておそらく『X』かと!」「『X』か、ついにここまで来たか・・・!」椅子に座る屈強な男・・・F地区の団長が、そばに突き立てていた大剣を引き抜く。
「『X』も俺様の剣の錆にしてくれるわ。そして俺様が総団長に・・・!」「ケケ、それはどうだろうなァ」ふいに部屋に来た団員の声が変わった。「お前・・・!『X』の野郎か!」「あァ、そうだぜ!ちなみにもうお前以外生き残ってないぞ?」「なっ・・・!」団長の顔が蒼白になる。それもそのはず、この地位は子分からぶんどって居座っている地位。自分を守るために団員が居るようなものだが・・・まさかそいつ等がいなくなるとは。
「というわけで。死ね」月人の冷酷な声とともに逃げようとした視界がぐにゃりと歪み・・・首に細指の当たる感触がして、F地区の団長は死んだ。
「・・・死んだな。帰るぞ」「ケケ、さっさと帰って飯食いたいぜ、流石に少し疲れたからなァ・・・」「分かりましたわ。」「さすが|姉様《ねえさま》。今回も見事でございました。」「琉真ちゃん、無事でありますように」
琉真は元気だった。
「|井伏《いぶせ》団長!F地区、全滅だそうです!援軍をやりますか?」「・・・いや、いい。F地区は悪徳だった。ここで殺させて総入れ替えとしよう。」「了解しました!」
「・・・能力者。いつか会ってみたいものだ」ここにも軍団があった。しかしここは変わり者の集まりとして、他の多数の軍団や市民からはやや嫌われていた。
なぜならこの軍団は、「能力者との共存」を目指して活動している軍団だったからだ。
その軍団はR地区と言った。
「次の場所はどうしましょうか?」「次はここだ」月人の瞳が憎しみに彩られる。
「能力者との共存、と言ったことを掲げているR地区だ。」「能力者との共存?」椎葉の顔も疑念に彩られる。「あぁ・・・能力者との共存だと?ふざけるな。共存なんて出来るわけが無いだろう!」「|私《わたくし》はリーダーの言うとおりだと思いますわ」「リーダーと姉様の意見と同じです」「俺も月人と同じ意見だよォ・・・馬鹿げてンな」鼎・要・カルマの声が重なる。
「・・・椎葉くん、本当に共存なんてできないのかな?皆仲良く暮らすことは、できないのかな・・・」「・・・できないよ。きっと、できない。」少しだけ沈んだ琉真の声をなだめるように、椎葉が諭す。
「じゃぁ決定だ。次の標的はR地区の軍団。一人残らず抹殺するぞ。」「「「「「はい、リーダー」」」」」
決定時刻は、明後日の夜9時。
DATA
|黒野《くろの》鼎 危険度SS
識別名・シスター
能力名・マーシ
触れた相手に毒を付与する能力。毒の種類や強さは操作自由。
5話
9時になった。
「行くぞ」いつになく硬い月人の声とともに、6人は向かった。
今回は《《もしも》》のときのために琉真を連れて行く。
「・・・じゃぁ行くぞ。琉真は軍団前で待機。」「はーい。気をつけてね」「あぁ」月人が琉真の頭を撫でて、5人が飛び立った。
「・・・『X』か?」軍門を通ると、一人の青年が立っていた。服装からして・・・
「・・・ここの団長か」「あぁ」青年が頷く。「生憎うちは人数が少なくてな・・・俺が来た。うちの思想を聞いたのか?」「あぁ。能力者との共存だと?ふざけるな。そんなものが出来るわけがないだろう!」月人が激昂する。それから少し落ち着いて。
「・・・というわけで、お前らを殺す。ここは人数が少ないと言ったな?早く終わりそうだ」「今だ、|矢名瀬《やなせ》!」団長が叫んだかと思うと、何かが飛んできた。これは・・・「捕獲用の縄かよッ・・・」カルマが黒犬の表情で苦笑いを浮かべる。
「リーダー。琉真ちゃん、呼びますか」緊張を浮かべた顔で、椎葉が月人にささやく。「いいや。いい。・・・おい、俺に話を聞けと言うのか」「そうだ。できれば〈メンター〉、二人で」月人は少しだけ苦しい顔をして。「・・・わかった。その代わり、仲間の安全は保証しろ」「それは保証する。さぁ、行こうか」
月人だけを皆から引き離して、団長と月人は別の部屋に行った。
「・・・リーダー、大丈夫かしら」月人以外は、さらに別の部屋に待機させられていた。「きっと大丈夫ですよ姉様。そうでなかったら琉真さんをお呼びしましょう」「そうね、そうよね・・・」鼎と要が心配する。「月人の事だから、どうにかして逃げてくるさ・・・ケケ」カルマも軽口を叩くが、その言葉にはいつもの元気がない。「・・・琉真ちゃん、どうしてるかな」椎葉は、琉真がいるはずの軍門のあたりに視線を注いでいた。
---
「俺の名前は|井伏《いぶせ》|祢音《ねおん》だ。そちらの名前は?」「・・・|鳥羽《とば》月人だ」「名前、教えてくれるんだな」「・・・お前らが言ってる識別名とやらで呼ばれるのが嫌なだけだ」「そうか。なぁ鳥羽、俺たちの思想はさっき聞いたよな。俺たちは能力者に恨みや軽蔑を持っていない」
月人の顔が驚きに彩られる。「・・・嘘を付け。普通のやつは皆、能力者を嫌っているはずだ」「俺たちが恨んでいるのは軍団だ」祢音がはっきり言い切る。「軍団はどんな残虐な行為をしても、正当化されている。だから俺たちは、そんな世界の価値観を変えたいんだ」「・・・嘘をついているというわけではなさそうだな」「嘘をついているように見えるか?」「・・・いや、見えない。」月人は初めて微笑んだ。
「お前達の思想はよくわかった。俺たちはお前に協力するよ」「・・・!?本当か!?」「こんなやつは初めて見たからな。その代わり・・・俺の仲間に手を出したら容赦はしない。その時は皆殺しだ」「分かっている」
二人はしっかりと握手をした。
---
「リーダー!」
別部屋に移動されていた5人が、月人の姿を確認して安堵する。
「皆いいか、落ち着いて聞いてくれ・・・俺たちはこの地区と協力することにした」「オイ、嘘だろ・・・!?」カルマが驚愕の声を上げる。「少しだけな、思想に惹かれたんだよ・・・。ただし、裏切られたらこちらも裏切り返す」「リーダーらしいですわね、そう言うなら|私《わたくし》も受け入れますわ」「姉様が言うなら私も」鼎と要が賛同する。「・・・リーダーが決めたならしょうがないですね」「あたしもOKだよ!」椎葉がやれやれといった感じで、琉真は元気に手を挙げる。
「ではしばらくここに拠点を置くことにするか・・・」
DATA
|黒野《くろの》要 危険度S
識別名・エンゼル
能力名・モディファイ
相手の体の一部を改造できる能力。