中二の期末テスト、過去最低点数を記録してしまった本作の主人公『樋口 星羅』。
今までまともな勉強から逃げ続けていた星羅は親の雷を思いっきり浴び、危機感がやっと芽生えたのかついに塾に通い出した。
「将来の夢はヒモ」と言い張る幼馴染の『中村 翔太』、クールで頭が良さそうだけど意外と何も考えてない『奥田 和馬』、柔らかい空気を放ちながら痛いところを突いてくる『阿部 穂花』──その辺にいそうでいない個性豊かな友人たちと、星羅史上初の大イベントに挑め!
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目次
【第一章】1.芽生える危機感
「……|星羅《せいら》、塾に通いなさい」
「……はい…」
「よろしい。体験授業予約しておくね」
詰んだ。最悪だ。
笑顔なのに圧が滲み出る両親の顔を面前にして、私──|樋口 星羅《ひぐち せいら》は口からこぼれ落ちそうになったため息を慌てて押し込む。
母親は洗い物に戻り、父親は洗濯物を畳み出した。弟の|魁星《かいせい》は先ほどの怒りの火花が飛び火しないように母親を手伝っている。ここは手伝うべきだろうかと思ったが、余計なことやってもう一度怒られたくない。
食卓の椅子から立ち上がり、階段を今までで一番遅いスピードでのろのろ登る。親からこちらが見えなくなると、音を立てないようにダッシュで残りの数段を駆け上がり、自室のドアを開けた。
ベット、漫画、謎のぬいぐるみ群。足の踏み場がないわけではないが妙に散らかった部屋だ。
テスト前になったら片付けが謎に捗るので、あともう少しの辛抱である。多分、捗らせなきゃいけないのはテスト勉強だと思うけど。
漫画やアニメグッズに侵食された学習机の上には、申し訳程度の学習要素であるテストの答案が鎮座している。数週間前にあった二学期の期末テストだ。
「うぉ…見たくもない…」
そう言いながらもテストの点数を眺める。
国語63点、社会54点、英語49点、理科44点──数学、28点。両親の雷の原因はこれだ。
中一の頃からそこまで点数が良かったわけでもないが、中二に上がってから成績は下降を繰り返している。今までも何回か塾に通う話は親からされていて、その度に全力で拒否ってきたが流石に今回はまずい。
危機感、という言葉が面前に迫ってきて、私はベットに倒れ込んだ。もう何も考えたくない…塾とか無理…
ふと、部屋のドアの対角線上にある窓が目に入る。それを見ているとぼんやりとあいつの顔が浮かんで、立ち上がって微妙に空いていたカーテンを全開にした。
見知った隣の家の青みがかったグレーのカーテンも微妙に空いていて、それは『暇だったら声かけて』の合図だ。この窓の先には幼馴染の自室があって、小学校の頃読んでいた少女漫画のシチュエーションを真似しようと二人でこのルールを決めたことを覚えている。
もう少女漫画を真似しようとは思わないが、なんとなくこの習慣が定着してしまいそのままになっている。
「確か、三回ノックだったかな…」
小さい頃に決めたルールを頭の中で反芻すると窓を開け、向かいの窓を三回ノックした。
こんにちは!すいです!
なんとなく、新作出しちゃいました。不定期の更新になると思いますが、応援していただけると嬉しいです!
【第一章】2.窓越しの密談
コンコン、と向こうの窓をノックしてしばらくすると、カーテンがシャッと開いた。
青に影が加わったようなマッシュ風の髪と、小さい頃からずっと一緒の私ですら目の色をあまり見たことがないという究極の糸目。それと、女子ウケが激しい整った顔面。
私の幼馴染であり同級生の、|中村 翔太《なかむら しょうた》だ。
翔太は私の顔を見ると少し驚いたように(あまり表情は変わっていないが)窓を開けた。
「どうした?顔死んでるけど…」
「親に塾に入れってさっき詰められた」
「……なるほど」
妙に納得した雰囲気を言葉にまとわせながら、彼は寝巻き姿のまま身震いした。二つの窓の間を冬に近づいた空気が通り抜けていく。
「星羅の成績じゃしょうがないだろうな…」
「うっ……ほんと、塾とか無理なんだけど」
両親の圧を思い出したら頭痛がしてきて、塾の嫌さも相まってそりかえりながら頭を抱える。それを苦笑しながら眺めていた翔太は、ふと思いついたように質問を投げかけてきた。
「どこの塾通うの?」
「知らないよ。お母さんが勝手に決めると思う」
「え、じゃあ俺とおんなじとこ行く?|東陵《とうりょう》個別塾って言うんだけど…」
翔太が中二の春から塾に通い出したことはなんとなく知っていたが、塾の名前は初めて聞いた。しかも個別指導のところだったのか。
「え、どんなとこ?」
「んー、個人経営の塾で、塾長が教えてくれる。個別塾だけど10人くらい一気に教わるかな。なんかみんな仲良し!って感じだわー」
「ちょっと調べてみてもいい?正直、翔太がいるんなら塾行けるかも」
あまり知っている人がいるかどうかわからん塾に投げ込まれる可能性もある中、幼馴染と一緒に通えるということはでかい。一人で勉強とか絶対無理だし。どうせ行くなら知り合いがいるところがいい。
「え、何?俺に惚れてるカンジ??」
「んなわけないでしょー!このモテ男が、寝言は寝て言え!」
お前に惚れるわけないだろ!
反論しようと思い窓から身を乗り出すと、翔太の方からスマホの着信音が聞こえた。窓枠に置かれている彼のスマホを見ると、女の子の後ろ姿のアイコンと『Rico』という文字が目に入った。
「あ、リコからだ」
「うわ、彼女か…1ヶ月前くらいに言ってた一個下の?」
「いや、あの子とはもう別れた。別の子別の子」
……え?…別の子?
ちょっと待て、と言おうとしたところで、向こうの窓が閉まる。翔太はスマホを耳に当てたまま、カーテンも閉める。
こちらも窓を閉めて、カーテンを完全に閉める。『今日はもう閉店』の合図だ。
「せいやぁっ!!!!!!」
気合を入れてベットに倒れ込んでしばらくジタバタすると、口から今考えていたことが出ていった。
「女の乗り換え早すぎじゃない…?どう頑張っても|翔太《あれ》に惚れる要素ないと思うんだが…」
やっぱ顔かぁ。だからすぐ別れるのね。
そんなことを思いながら、意外とすぐに眠気はやってきて。私は暗いところにふっと落ちていった。
顔がいいクズ男、中村翔太降臨。
星羅とは幼馴染ですが、お互い親友っていう雰囲気なので恋愛感情は一切ございません。