これは、主人公(殺し屋)と少年(霊媒師)の物語である___。
chapter1 『事故から始まる物語』【1】【2】
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目次
prologue
_____目の前の光景は現実味のないものだった。
「交通事故ですって...」「運転手が薬物中毒者だったとか...」「女性が男の子を庇って...」「まだ若いのに...」「怖いわねぇ...」「可哀想に...」
ざわざわざわざわ...。
周りからいろんな声が聞こえてくる。
視線の中心にいるのは血塗れになった女性らしき人を抱えながら泣き叫ぶ少年。
「誰か助けて」と声が聞こえる。
...いや、あれはもう助からねぇだろ。
あの出血量じゃ既に冷たくなっていることだろう。
流石の俺も血は職業があれなもんで見慣れているが、事故現場を見続ける趣味はない。
心の中で「成仏してください」とだけ願って顔をあげた先に、
女の霊がいた。
...あれは...あの少年に憑くか憑かないかだな...
どうなろうと俺には関係ないため視線を外して帰ろうとする。
...だが、
「...ニコッ」
女の霊は微笑んで成仏していった。
...俺の目の前で。
「...は?」
誰かが呼んだ救急車のサイレンによって俺の独り言はかき消された。
「俺にあの少年の子守りしろって言うのかよ...」
【1】暗殺者
___|東野 天音《とうの あまね》。
幼き頃から暗殺者として過ごし、数えきれないほど人を殺めてきた人間である。
最近殺した人間は14になる少年。
その少年がどんなに命乞いをしようと何の感情も沸いてこないのが彼。
ちなみに彼は「悪い事してると殺しちゃうゾ☆」と、狂っ...明るい性格をしている。
...そんな彼にも悩みがあった。
職業柄で隠さなければいけないものではないが、彼はとんでもなく困っていた。
それは、《《この世ならざる者が見えてしまう事》》だった。
何年も人を殺しているとそういう奴に呪われていくわけで。
そいつらの姿が視界の端にチラついたり、声が聞こえたり。
だが、彼はどんなこの世ならざる者が見えるわけではなく、
誰かを呪い、恨み、憎んでいる霊しか見えないのだ。
こんな職業なため、誰かに呪われることや恨まれること、命を狙われることは覚悟の上だった。
だが毎日毎日同じような状況だと疲れが出るわけで。
そんな中、彼は事故現場に出会ってしまう。
そこで巻き込まれて死んだであろう女の霊と目があってしまうのだ。
そこで目があったのを理解し、己が天音に見えていることを理解し、微笑んだのだ。
そして女の霊は光の粒になって天へ上っていき、無事(?)成仏した。
見知らぬ少年を任された所で天音には何も出来ない。
そのまま数ヵ月の時が過ぎた。
あの少年とはあれ以来会えないまま。
当たり前だ、あの後救急車に乗って何処かへいってしまったのだから会えるとは思っていない。
だが、あの託された【約束】のようなものを忘れられないままでもあった。
あの事を忘れずに覚えている自分が不思議に思う。
___何徹であろうか。何徹か分からない程徹夜明けの昼。
霊によって重さが増した肩を回しながら昼飯を考える。
視界の端でチラつく霊に腹をたたせながら横を通る。
天音が殺せるのは生きた人間だけだ。流石にこの世ならざる者は殺せない。
故に何も出来ないのだ。
ただ重さの増す肩に腹をたたすことしか出来ない。
猛烈な眠気。「流石に疲れたな」と呑気に考えコンビニへ向かう。
あくびをしながら人気のない道を歩いていく。
重いままである肩を回して空を見上げる。
そこでとある少年と擦れ違う。
擦れ違った後、天音はその少年の腕をつかんだ。
「おい。」
「...?」
少年は「何かしましたか?」と言わんばかりの顔をしていた。
彼からしたら初対面の男かもしれないが、天音はその少年と初対面ではないことが分かっていた。
かつて涙に濡れていた瞳は大きく見開かれ、天音を見つめる。
「...お前、今俺に何をした?」
天音は《《すっかり軽くなった肩》》に手を当て、少年に問いかけた。
【2】霊媒師
少年の手を引っ張って自販機横のベンチに座る。
自販機で適当に飲み物を2つ買う。
少年の好みなど分かりゃしないので定番のを。
「ほらよ、お茶でよかったか?」
「あぁ...ありがとう、ございます?」
少年は困ったような返事をする。
相手からすれば、見知らぬ他人に急に腕引っ張られて飲み物奢られるって事...恐怖でしかない。
天音は缶珈琲に口をつける。
徹夜明けのボンヤリした意識を覚醒させるこの感覚が堪らなく好きなのだ。
「...急に引っ張って悪かった。俺は|東野天音《とうのあまね》。お前の名前は?」
「...|星河水樹《ほしかわみずき》、です。」
「あ、敬語なしでいいぜ。」
右手の缶を揺らしながら簡単な自己紹介を済ます。
少年...水樹は困惑しながらもペットボトルの蓋を開ける。
「で、もう一回聞くぞ。
お前、俺に何をした?」
自分以外の誰も気づくことのなかった《《ソレ》》にどうやって気づいた?
声のトーンを落として問いかける。
嘘偽りは許さない、と。
水樹は目を見開くが、やがて諦めがついたのか「ふぅ...」とため息をついた。
「別に、嫌だったか?」
「嫌じゃねぇけどさ、今まで困ってた原因がいきなり消えて、消した奴が目の前にいたら気になるだろ?ふつー。なんか間違ってるか?」
「いや、何も間違っちゃいねぇよ。たけどな、世の中には知らない方がいい事もある。
お前は今まで苦労していた。だかある日出会った男によってそれは解決した。
それで終わりにすればいい。」
「お茶、ありがとう」と言い、水樹は立ち上がる。だが天音はそれで終わりにできなかった。
「お前、あの化け物みたいな奴が見えるんだろ?...俺も見えんだよ。」
「...何処まで分かっている。」
「んー...まぁ、あれ怨霊だっけか、それだろ?
人を恨んで憎んで未練タラタラのやつ。大量に見てきたんだよ。」
「大量...確かにな。お前に憑いていた怨霊は大量の人の怨霊だった。
一体何の仕事をしてたらあぁなるんだ。」
「ま、ちょいと地獄を覗かせるような仕事をしてまっせ☆」
「...深くは聞かないでおく。」
苦笑も出来ないようで肩を竦める水樹。
水樹が目を逸らしている間も天音は目を逸らさない。
ついに二度目の諦めがついたのか、水樹は天音と目を合わせる。
「お前の言った通り、肩に憑いていたのは怨霊だ。
そして俺がそれを《《祓った》》。」
「...祓った?」
「あぁ。
俺は《《霊媒師》》だからな。」