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目次
Auftakt#1
樹間をぬった朝日が部屋を照らす。私は背伸びをして起きた。
髪をとかし,寝ているコハクを起こす。ぶつぶつ言いながらも,コハクも起きた。
いつも同じ。変わらない日常。けれど,楽しい。
本名を忘れても。本当の家族が,まわりにいなくても。
「ワカクサ」でいる日々は,私にとって,かけがいのない大切なときなんだ。
こんにちは♪はるです。
初めて投稿するので,誤字脱字やくどさがあると思います。
教えていただけるとうれしいです!
これからも書き続けるので,よろしくお願いします(*^^*)
Auftakt#2
私は,ワカクサ。
この風宮学園の生徒の1人。
風宮学園っていうのは,いわば超能力者のための保護施設。人の世と縁を切っていて,先生たちもみんな超能力者なんだ。
私の他にも,生徒は13人いて,みんな少女。
6歳の時にこの学園に来て,もう7年。この間,13歳の誕生日があったばかりなんだ。
2人ひと部屋で,そのパートナーがコハク。行動も,ほとんど一緒。
寝室をかねた自分たちの部屋《空部屋》を出て,大広間《月部屋》へ行く。
みんなと会うのはいつものことなのに,なぜだか今日は,うれしくなった。
そういう時なんだ。まるで,本当の家族みたいなんだなって,感じるのは。
こんにちは♪
今回は主に,物語の設定説明です。次回明かされるワカクサの過去とは?
これからも読んでいただけたらな〜,と思っています(*^^*)
Auftakt#3
《月部屋》で朝食を食べ,《風部屋》こと談話室でみんなと話した。
しばらくしてチャイムが鳴り,私たちはそれぞれ勉強部屋の《虹部屋》で授業を受ける。この時のパートナーもコハク。
1時限目は数学。2時限目は個別の超能力の授業。3時限目は科学だ。
それが終わるとまた《月部屋》で昼食。裏庭で散歩をしたりして過ごし,午後は自習をしたり読書をしたりする。
本当に毎日が楽しくて,輝いているんだ。
ー7年前,ここに来た時は,寂しくて悲しくて,心が弾け飛んでしまいそうだった。
だけど,慣れてしまえばこの輝きで,悲しさは薄れていったんだ。
家族で食べた最後のバースデーケーキ。そのあと,人前で空を飛んで。すぐ病院に連れて行かれて,次の日には,この施設に預けられた。
あのバースデーケーキのクッキーには,なんて名前が描いてあったんだっけ…
こんにちは♪
このアウフタクトシリーズも3回目になりました!
お手紙待ってます!よろしくお願いします!
Auftakt#4
う,うるさいなぁ〜。
スマホのベルがけたたましく鳴っている。あ,ちなみに,風宮学園では1人1台のスマホが配布されて,みんなと連絡が取れるようになってるんだ。
私のスマホは,若草色。
もぞもぞと動きながら,スマホに手を伸ばす。あくびをしてから,「もしもしー?」と声を出した。
そのとたん,轟音と叫び声とルリの声が聞こえた。
「ワカクサ!聞こえる⁉︎聞こえる⁉︎」
「聞こえるけど…どうしたの⁉︎」
「…」
ザーッと,耳ざわりな音がもれてくる。私はじれったくて,大声で言った。
「どうしたのってばー!」
「…が,…たの!」
「聞こえないよー!」
「人間が,…来たの!」
ぞわっと鳥肌がたった。
こんにちは♪
アウフタクトシリーズ,楽しんでいただけていますか?
これからもどんどん書いていくので,よろしくお願いします!
Auftakt#5
「にっ…人間が来たって,なんでっ⁉︎」
気がつくと,スマホを持つ手は汗でぬれていた。
「…私たちが恐怖の種って思ってるみたい。捕まえようとしてるの」
ああー悪い予感が当たった。だって,他に人間が来る理由なんてないもの。
「今,どうしてるのっ⁉︎」
「先生たちが全力で,バリアを張ってる。でも,いつまでもつか,わからない」
どうしよう。私もいくべきだろうか。考えていると,ルリの声がした。
「だから,ワカクサはコハクを起こして。《月部屋》で待ってるから。まだ来てない人もいるけど,これから連絡する」
「わかった」
通話を切って,コハクをゆり起こした。いつものようにぶつくさ言うコハクの耳元で,「早く起きてよっ!」と叫ぶ。コハクも緊急事態だと気づいたようで,きりっと目を光らせた。
「人間が来たんだよ。みんな《月部屋》で待ってるって」
「それ…本当?」
「本当だよ」
そう会話をかわしながら,ワカクサはこれは悪夢だ,とぼんやり考えていた。
こんにちは♪
今日は1日2個目の投稿です!
なるべく毎日投稿するので,ぜひ!読んでみてください(*^^*)
Auftakt#6
《月部屋》に行くと,みんながいた。
ルリの蒼ざめた顔が,余計に事の重大さを感じさせる。
「みんな…」
ぼそりとルリがつぶやく。
「ハシバミが,バリアを張りに行っちゃった…」
え,という雰囲気が全体に広がる。ハシバミは小柄だが,超能力は1番強力だ。
けれど,人間は何を使うかわからない。そんな危険の中に,ハシバミは…。
すうっと体が冷える。みんなの顔が白くなった。
その時,ハシバミが駆け込んできた。
「みんなっ…!」
はあはあとあらい息が,ハシバミの口からもれる。けれどハシバミは,一気に話した。
「先生たちが限界。あと数分しかもたないと思う。みんな,逃げてって言ってた」
「…わかった!」
みんなの声が重なった。先生たちの努力を無駄にはできない。
「じゃあみんな,いつものペアになろう。それで,逃げよう。スマホで連絡取って」
「みんな,気をつけて!」
「私たち,きっと会える!また会える,はずだから!」
だんだん,聞こえてくる声が涙声になってくる。私の視界も,涙でぼやけた。
みんなが,一斉に空を飛んだ。姿が豆粒のように小さくなった…
こんにちは♪
このアウフタクトシリーズも,起承転結の転を迎えました!(長くなると思いますが…)
これからも読んでいただけるとうれしいです‼︎‼︎
Auftakt#7
私たちは,逃げていた。
人間が,何かとても速いもので追いかけてくる。
コハクも私も空を飛べるけれど,風の抵抗が強くてバランスが取りにくい。
その時だった。コハクが服を松の木に引っかけたのは。
あっと思う間もなく,コハクは落ちていく。数秒後,どさっと音がして,コハクは痛そうに顔をゆがめた。
すぐに人間が来て,コハクを連れ去る。「コハクー!」と叫んだけれど,コハクはもう砂糖の粒のように小さくなっていた。
こんにちは♪
アウフタクトシリーズ,ワカクサとコハクの危機!
次回はコハクの過去を書いていきます。
読んでみてくださいね(*^^*)
Auftakt#8
私は,コハク。暗闇の中にいる。
さっき,ワカクサと離れてから私は,山奥の小屋に閉じ込められたんだ。
ワカクサは無事に逃げただろうか…。
と,ぼんやり考える。あまりにいきなりで,全っ然現実味がしない。
1人でいると,石畳の冷たさが余計に体に染みた。手を縛られているから,超能力は使えない。窓らしき窓もない。つまり,脱出はほぼ不可能だ。
はあっとため息をついた。なんでこんなことに…その時,人間が来た。
「超能力を見せろ。」
私たちは人間の言葉をしっかり勉強しているから,理解できた。
ここで見せたら…ずっと,この手を使われる。ワカクサとか,ルリたちにも。
そう思って,決死の覚悟で超能力を使うのをこばんだ。
人間がイライラしたように舌打ちをする。
「超能力が使えないんだったらお前に用はないんだよ!」
その言葉に,ずきりと胸が痛む。遠い,遠い思い出がよみがえった…。
あとがきすることがないです…
Auftakt#9
私は,ハシバミ。
いつのまにか,空が朝焼けで染まっている。
クルミも,今起きたようだった。寝ぼけた顔を見合わせると,こんな状況なのに笑顔になっていた。
その時,草むらからがさごそと音がした。乾いた長い体が姿を現す。
毒蛇だ。そう感じた私は,とっさに蛇に手を向けた。蛇が痙攣し,やがて倒れた。
今のは,蛇のような小さめの動物にだけ効く超能力。ほんの数秒の出来事だった。私ははっとし,蛇を殺してしまったことを悔やむ。何もされていなかったのに…。
その思いが引き金となって,頭の中に思い出したくもない過去が広がった。
私は,いじめられっ子だった。
小柄だということもあって,クラスのいじめのターゲットは私だった。
本名は覚えていないけれど,いじめられていた時のあだ名は鮮明に覚えている。
とろいという意味で,ナマケモノ。
叩かれるような暴力的ないじめから,机の上にゴミを置かれるような精神的にダメージを受けるいじめまで受けた。
そして,ある日。椅子の上にチューブ一本分の接着剤が出されていて,私はその上に座ってしまった。教室中からの失笑で私は気づき,心が音を立てて崩れた。
その瞬間,私の超能力が弾けた。
それからは,私の時代。逆らう人には超能力で痛めつけられたから,誰ひとり逆らわなくなった。けれど,そのことがお母さんにバレて,超能力について話したら,血相を変えて強制的に不登校にされたんだ。そのあと,精神科の先生なんかも来た。
けど,いじめられてた私の気持ちをわかってくれる人なんて,いなかった。
ふさぎ込む私を,お母さんは風宮学園に預けたんだ。
こんにちは♪
アウフタクトシリーズもやっと9回目…‼︎感動ですっ!
今回はハシバミのつらい過去についてでした。
ハシバミもコハクと同じように,悲しい過去があったんですね。
次回は久々に‼︎ワカクサに戻る予定です!
これからもよろしくお願いします♪
Auftakt#10
鋭い矢が耳元をかすめる。熱い痛みが耳に走った。
人間たちから逃げようとすればするほど,緊張でバランスが取れなくなる。もともと私•ルリは飛ぶのが苦手なのに。
白藍色だった空が,群青色に染まっていく。小雨が降ってきた。
天気まで私たちを嘲るの?涙と雨粒が入り混じって,下へと落ちていった。
ぼやけた視界に,矢の雨がうつる。いつのまにか風はとても強くなっていた。矢から逃げるのに意識を取られて,風のことを忘れていたんだ。
風の抵抗で,思うように飛べない。バランスが崩れ,私は落ちーそうになった。
セイジが,私の腕を掴んでくれていた。ほっとして,体にこめた力がゆるむ。その瞬間,セイジは私の体重をこらえられなくなり,落ちた。
あっというまにセイジは人間たちに運ばれていく。
私は,その光景を見ていられなかった。そのまま,遠くへと飛んだ。胸がつぶれるくらい,つらかった。
ごめん,ごめんね,セイジ。それしか考えていなかった。
私のせいだ。私が弱いから,セイジは。
こんにちは♪はるです。
この間名前をかのんにしたんですが,なんだか違和感があってはるに戻しました。
それはさておき。このアウフタクトシリーズも2桁‼︎‼︎‼︎‼︎うれしい‼︎‼︎
これからも書いていくので,よろしくお願いします!
Auftakt#11
小雨が肌を打つ。服が雨粒で濡れていく。私は風穴に入った。
ふんわりと,草のにおいが鼻をくすぐる。やっぱり自然って,落ち着くなぁ。
若草色のスマホをポケットから取り出す。みんなの状況が気になって,文字を打つのももどかしい。
『ワカクサです。みんなどうしてる?できるなら返事して』
一昨日交わしたメッセージが,今送信したメッセージの上に見える。こんなにいきなり,幸せが奪われるなんて思っていなかった。
思わず,視界がぼやける。私はあわてて目をぬぐった。
『ルリです。今私,風穴の中にいるよ』
驚きと一緒に,うれしさが込み上げる。さっきとは別に,涙が出てきた。
ルリは無事だったんだ。その一文を,何度も読み返した。
そこで気がつく。風穴?私が今いるのも風穴だ。
もしかして,もしかして。ルリは,私の近くに。
『どこの風穴?マップ写真に撮って送って』
『ここ。ワカクサは?』
『私も同じ風穴にいる!私のいるところからは,そんなに遠くない!』
『そうなの⁉︎じゃあ会える?』
『うん,きっと!私が行くから,待っててね』
『わかった。ありがとう。気をつけてね』
そんなやりとりをしながら私は,心があたたかくなるのを感じていた。
こんにちは♪はるです。
やった!今日2話めの投稿!うれしい‼︎
そういえば私,アウフタクト#9のあとがきで「今度はワカクサに戻る予定です」とか言っていたけど,結局前回はルリの話になってしまいました。すみません(´-`).。oO
(けど『予定』だからいいのか…?)
とにかくこれからもよろしくお願いします♪
Auftakt#12
『うん,きっと!私が行くから,待っててね』
その文字を見つめる。ワカクサがいることがわかる,一文だった。
私は,自分の瑠璃色のスマホをポケットにしまい込んだ。
瑠璃色は,私が1番好きな色だった。
深くて凛としていて,それでいて自分を包みこんでくれるようなあたたかさがある。
私に「ルリ」の名前がつけられて,よかった。本当によかった。
自分の名前を気にいることができるって,大切だし幸せなことだと思う。
みんなにもそうであってほしい,と私は風宮学園でいつも思っていた。
その時,風穴の奥から,コツコツという足音が聞こえてきた。
人影が見え,その姿が現れた。笑顔の,ワカクサだった。
鼻の奥がつん,と痛む。涙が自然に目からあふれたのを感じて,私はやっと気づいた。
ああ私,悲しかったんだ。自分と同じような思いを抱えた,仲間がいなくて。
こんにちは♪はるです。
実は私,,この話うっかり『紹介文』のところに書いちゃって,書き直しになったんです…!
気づいた時にはもう遅い。絶望感…
という感じでした。書き終えられてよかったです!
これからもよろしくお願いします‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎
Auftakt#13
蘇芳色のスマホをポケットにしまい込んで,私•スオウはため息をついた。
どうせ私は,つまらない人物なのだ。風宮学園でだって,友達は出来なかった。
今だって,トーク画面ではルリさんとワカクサさんが話しているだけ。他の人もちらほら送信しているけれど,私はなにもしなかった。それについて,誰も何も言わない。心配なんか,していない。
わかっていた。私と友達になりたい物好きなんて,いないって。人間界でだって,私は目立たなかったから。
話し下手で,空気が読めないような私の唯一の才能は,超能力だった。けれど,その超能力も,風宮学園に来たらみんな持っていて。私は本当に,『平凡な少女』になってしまった。
みんな明るくて,話しかけてくれて,優しかった。けれど私はうまく話せなかった。けれど,みんな私と接してくれた。とっても,とってもうれしかった。
でも,それは『友達』じゃない。そんな親密な関係じゃない。
考えている間に,夜は明けていた。
こんにちは♪はるです。
今回は『スオウ』という新たな人物が登場しました!
スオウも加わって,さらにおもしろくなると思います。これからも読んでいただければうれしいです!よろしくお願いします♪
Auftakt#14
活動一旦開始しました。投稿ペース落ちてますが,よろしくお願いします。
はあ,とついた息が白く浮き上がる。マシュマロみたいだった。
さっきから雨が降り続けていてとても寒い。防寒着を持ってくる間もなかったから,カーディガンくらいしかない。震える手でスマホを触ったら,充電は13%しかなかった。これじゃあメールをして終わってしまう。
いつしか,心も冷えていた。ここまで自分がみんなを頼りにしていただなんて気が付かなかった。
雨には嫌な思い出がある。
まだ小さな小さな頃,雨で道に迷った。誰も助けてくれないの?そう思うと涙が出てきて頬を伝った。両親は私を置いてきぼりにした。私が変なのが,疎ましかったから。何とか家に帰ったけれど,両親は見るからに嫌そうだった。あれは,私が誰からも愛されていないことを自分で悟った時だった。
みんながいない-私は今更呆然とした。
私は崖の方へ,ふらふらと歩いた。誰も愛してくれない。自分も生きたくない。これじゃ,生きている価値なんてないじゃないか。
今まで支えてくれた人,ありがとう。でも私はひとりじゃ生きられないよ。私はぐらりと傾いて,下へ落ち-
「「スオウ,行かないで!」」2人分の声と手が私をぐいと引っ張った。
こんにちは。お久しぶりです。
スオウって誰よ?と思った方はAuftakt#13へ。https://tanpen.net/novel/9926b8db-bf84-4bbc-8356-434eb934f645/
勝手に活動休止してまた再開してごめんなさい。ただ短編カフェのゆったりさと暖かみが好きだったのでまた来ました。
これからよろしくお願いします。
Auftakt#15
「は…離してっ!私は生きていたくないよ…!疲れるだけなの…!」
私はその場に崩れ落ち,そう叫んだ。声の主がルリさんとワカクサさんなのはわかっていて,顔を見たくなかった。自分だけ抜け駆けしたと思われてるんだろう。
「何言ってんの!スオウが死んだら私達が悲しむんだよ!人に掛かる迷惑も考えてね,私達スオウが大好きなんだから!」
えっと声をあげる。本当に?とワカクサさん達の顔を見つめると,そこには偽りのない心配した表情があった。
ありがとう。そう言おうとしたのに,私の口から出たのは怒りや呆れを人に向ける時に使う一言だった。
「は?」
怒りに似た哀しみが広がり,私の口は動き続けた。止めようとしたのに奔流の様に,口から,胸から,心から,漏れた。これはきっと,胸の内にあった本音なんだ。
「何言ってんの?私はずっと,あなた達が笑い合うのを,母さんと父さんが私を疎ましく思うのを,我慢し続けてきたんだ!“陰キャラ”“変わり者”の一言で済ませられて!あなた達みたいに生きる場所がある人間が,私の苦しみを知ってたまるか!迷惑だなんて私を知ってから言ってよ!」
パチンという音が鳴り,私の頬が揺れた。私は衝撃で思わず倒れこむ。雨が私の服と心を冷たく濡らしていく。私は,-心配してもらったのに何を言っているんだろう。
「「ごめんなさい」」私ともう1人の声が重なった。恐る恐るワカクサさん達を見上げると,ルリさんが自分の手を見つめ立ち尽くしていた。
「ごめんなさい。でも私にも,私達にも,苦しみはあったの」
あとがきで言うことがないです…
Auftakt#16
遅くなりましたが,短編カフェ1周年おめでとうございます!
7月上旬から使わせていただいていますが,ランキングなどがなく気ままに投稿できるのでとても素敵なサイトだと思います。これからも使わせていただきます。
「此奴は全くものを言いませぬ。どのようにしたら良いでしょうか」
私・コハクを縛りあげている人間が上司らしき人間に言っている。ひそかに縄を解こうとしたが,がっちりと結ばれている。
「お前,口をきいてみよ」
皇帝みたいな口ぶりすんな。心の中で悪態をつく。
「きかぬのならお前の仲間はどうなるかわかっているだろうな?」
薄ら笑いを浮かべる人間。歯を食いしばる。その時,石の粉が降ってきた。
「コハク!」
ワカクサの声だ。私の姿を見つけたらしく,縄がぱっと解かれた。
「ふざけんなよおおおおお!あたしらの仲間に手ぇ出してんじゃねえ!」
ルリの砕けた口調が聞こえる。轟音と瓦礫の中をワカクサに手を引かれながら,ただひたすらに走った。全く止まらずに。私がいたのは,小さな仮設住宅のようだった。
「コハクさん,大丈夫ですか⁉︎」
この声は,スオウだ。あまり話したことはなかったけれど,前にハンカチを拾ってくれたことがあった。
「うん,大丈夫。でもなんで此処がわかったの?」
「ふっふっふー,それはね!」
ワカクサが満足げにスマホを突き出す。
「前に私と『探す』のアプリで連絡先交換したじゃない?あれを使ったの!」
おおっ!機械音痴なワカクサにしてはすごい。
「ルリが!」
感心したのもつかの間,私は拍子抜けする。私の感心を返せとワカクサを睨んでもワカクサはまだニヤついている。ルリもスオウも吹き出すのを堪えているようだ。
「まあ…なんだかんだでありがとう,みんな!」
「ううん,大丈夫!とにかくお腹空いたなー。なんか食べよう」
「そうですね。4人しかいないですし,はやく準備ができると思います。近くにある池で釣りをして食料を集めましょう」
「わかった。じゃあ私は薪を集めてくるから。割るのはコハク,お願いね」
「えー今疲れてるのに」
「命の恩人に逆らうの?」
なんという悪巧みだろう。「信じられない」のメッセージを込めてワカクサを見ると,悪戯っぽく笑っていた。
「ウソウソ。疲れてるでしょ,休んでていいよ」
「そうでなくちゃ!」
言うが早いか,私は丸太にどすんと座り込んだ。夕日がやわらかく私を照らしてくれるので,眠くなる。プライドより瞼に目を任せると,あっという間に私は寝ていた。
「…ク,コハク起きて。ごはんできた」
ルリの声で目を開けると,もう日がとっぷりと暮れていた。あくびをしながら起き上がる。鮎を焼いたいい香りが鼻をくすぐった。
「うーん,美味しい〜」
鮎にかぶりついた私は思わず声を上げる。焼かれた鮎は,外はぱりっと中はふわっとしていてとても美味しかった。脂がしっかり載っているのにさっぱりしていて,全くくどくない。いくらでも食べられそうだ。
「私,レモン持ってきたんですが,皮をむいて鮎に載せたら合うと思います」
なるほど,確かに相性バツグン!
「なんでスオウはレモンなんて持ってるの?」
「レモンが好きなんですよ。学園を出るときに,保冷バックに5個詰めてきたんです。まだまだあるので,これからも少しずつ使いましょう」
「ありがとう!」
みんなお腹いっぱいになったところで,ルリが言った。
「ね,みんなで散歩しない?今日やらなかったらいつ出来るかわかんないよ」
「そうだね。ひんやりしてきたからコート持って行こう」
コートを着て,集まった。
「うー,寒い。冷気が身に染みる!」
「コハク,いつおばさん期に突入したの?せっかくの散歩だし,楽しもうよ」
「そうですよ。のんびり歩きましょう」
スオウが手に持つ松明で,周りがよく見える。その時,ふとある紙が目に入った。その写真を見て絶句する。
「どうしたのコハク…ああっ!」
「何よあれ!」
「…っ!」
『お尋ね者 スミタキ・レナ』その下にある写真は,紛れもなくスオウだった。
*
『スミタキ・レナ』-全ての思い出がよみがえった。『なんなのレナ,気味が悪い』『レナ,お前と居ると不安だ,あっちに行ってろ』『レナ,あなた本当に人?』『ピッタリの学校を見つけたわ。レナのためにも私たちのためにもなるし…ねっ?』
「あああああああああああ…」
全部思い出した。私の名前はレナ。ずっと両親から避けられてきた。逃げるために,風宮学園へ転校した。誰とも話さず,話せなかったのは私。
「スオウ,大丈夫?」
「あの写真風宮学園で撮ったやつだ。戸籍は残ってるから,名前を探したみたい」
「裏切ったんだね,誰かが。自分の利益のために…」
「は?」
ワカクサさんの声に被せるように,コハクさんの低い声が聞こえた。びくっとコハクさんを見ると,哀しみがその目には浮かんでいた。
「ふざけんな」
さっきのルリさんよりも大きく,静かな怒りを秘めた口調で言う。
「人のことを利用しやがって。あたしらは道具じゃねえんだよ!」
感情の濁流が押し寄せてくる。蹴ろうとする足,豪華なベッド,これでもかというほど口角の吊り上がった唇。コハクさんの記憶が,自分に流れ込んだ。その勢いに半歩後ずさる。ワカクサさんたちも,驚いた表情だった。
コハクさんは紙を引き剥がすと,破いた。あっという間に紙は粉になり,私たちの周りにはらはらと落ちていった。
「あ,…ごめんね?なんか感情的になっちゃっ」
「コハク」
ルリさんがガッとコハクさんの腕を掴む。その目に真剣な光が灯っていた。
「教えてよ。あなたが,どんな風に生きてきたのかを」
一拍置いて,コハクさんは力無く笑った。
「あははは,そっか,バレちゃったか。じゃあ話すよ。全然,楽しくないけどね」
*
私,貧乏だったの。お父さんは私が一歳になる前に,交通事故で死んじゃって,母子家庭だったから。ちなみに本名は覚えてるよ。ムラカミ・ヨル。みんなは?…なるほど,覚えてない人が多い。
あ,話が逸れちゃった。で,えーと…なんだっけ。ああそうそう,母子家庭なんだ私。でもね,私は寂しくなかった。お母さんはいっぱいの愛情を注いでくれたからね。看護師さんやってたんだ。体力も生活も限界なはずなのに,毎日毎日働いた後に私を抱きしめてくれたよ。…6歳の,あの日になるまでは。
私は絵を描くのが好きだったの。だから6歳になったばかりの,まだ桜のつぼみが膨らみ始めたあの時,私は桜の木を描いてた。つぼみがたくさんついてる,桜をね。でさ,クーピーが遠くにあったんだ。まだ寒かったから,動きたくなくて。それで,クーピーがこっちに来ればいいのになーって思いながら手を動かしたの。そしたら,クーピーがふわふわ浮いてこっちに飛んできたんだ。気がついたらクーピーは手の中にすっぽり入ってた。その時,偶然そばに居たお母さんが悲鳴と喜びが混じったような声を上げて,『もう私には恐れることがない!ヨル,あなたって本当に最高ね!』
って言いながら普段は滅多に見られない満面の笑みを浮かべてたの。でもそれは私への愛情なんて欠片もない,欲に満ちた表情だった。
それからはもう…悪夢だよ。3年くらい前まで,テロリストが毒をばら撒いてたでしょ?それを見越してマスク作ったら大儲けだったんだ。うちはとても裕福になった。お手伝いさんもきた。シェフなんて5人くらいいた。でも,私は永久にお母さんを失った。だって,もうお母さんに会えなくなったから。私はいつも,淡い夢を見てた。お母さんは,元に戻ってくれるんじゃないかって。だから,家を出なかったの。
超能力使うのって体力要るじゃない?だから私,あの頃よく熱出してたんだよね。そうして私が使い物にならなくなると,毎回熱で浮かされた私にお母さんは吐き捨てた。
『超能力が使えないんだったらお前に用はないんだよ!』
お母さんの財産が使い切れないくらい膨れ上がった時,お母さんは私を布団で包んだまま風宮学園に置いて行ったんだよ。
どう?全然,楽しくなかったでしょ?でも聞いてくれてスッキリした。ありがとう。
*
風の音だけが私たちの横をすり抜ける。痛いほど長い沈黙が続く。
「ねぇみんな」
ワカクサさんが言った。
「さっき鮎を食べたとこで火をおこさない?」
「…うん。寒いしね」
近くにあった手頃な大きさの木を私も集める。みんな,無言で歩いた。
「これをこうしてっ,と…よし出来た!」
ジェンガのように薪を積み上げて,ワカクサさんが嬉しそうに言った。松明を近づけると,ボウッと朱色の火が薪へと移る。
「ふぃ〜。あったかい」
「気持ちいいですね。寝る前に消火すればいいですし」
ワカクサさんがニヤッと笑って,みんなに呼びかけた。
「キャンプファイヤー,始まり!」
なんか今回すごく長くなりました。前回まで1000文字いかなかったのに今回3400文字。次回も長くなると思います。これからもよろしくお願いします。(たまたまこの回だけ読んだ人は#1から読んでいただければ嬉しいです←宣伝)
https://tanpen.net/novel/dfd0e346-6c05-4851-aef3-854aacbf7c9a/