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目次
水と霊の巡り逢い
透き通るような青空の下、
私は隊服に身を包み、日輪刀を腰に差して山道を歩いていた。
私の名前は#下の名前#。鬼殺隊の柱の一人、「霊柱」を務めている。
最近、私の心の中には、ある一人の人物への想いが芽生えていた。
その人の名は、
冨岡義勇_____
私と同じく柱の一人、「水柱」だ。
彼を呼ぶときは「義勇さん」。彼は私のことを「#下の名前#」と呼ぶ。
私にとって、彼の存在は特別なものになっていた。
義勇さんはいつも無口で、感情を表に出すことが少ない。
周りからは誤解されがちだが、私は知っている。
彼の瞳の奥にある、静かな優しさと、鬼への深い怒りを。
彼が鬼から人々を守るためにどれほどの覚悟を持っているか、私は肌で感じていた。
その日も、私は単独で任務にあたっていた。
目的の山は、最近になって鬼の目撃情報が多発している場所だった。
足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌を刺す。辺りは薄暗く、不気味な静寂に包まれていた。
「……」
私は気配を研ぎ澄ませながら、慎重に進んでいった。
霊の呼吸は、気配や残留思念を感じ取ることに長けている。
その能力を最大限に活かし、鬼の居場所を探る。
「いた……!」
枯れ木に囲まれた開けた場所に出たところで、私は一体の異形の鬼を見つけた。
その鬼は人間を喰らった直後らしく、口元には血がついていた。怒りがこみ上げる。
「霊の呼吸、壱ノ型、幽明の淵」
私は日輪刀を構え、一気に間合いを詰める。
鬼は私に気づき、醜い牙を剥き出しにして襲いかかってきた。
私は鬼の攻撃を紙一重で避けながら、刀を振るう。
しかし、この鬼は予想以上に素早く、私の一撃は空を切った。
「......っ!!」
鬼は私を嘲笑うかのように、低い声で笑った。
「小娘が、柱とはいえ、この俺には敵わん!!!」
鬼の目をじっと見つめる。
「え...」
決して間違いではない。
「十二鬼月.......!!」
私は冷静さを保ち、次の型を繰り出そうとしたが、鬼は私の隙を見逃さなかった。
鋭い爪が私の頬を掠め、血が滲む。
痛みに顔を顰めながらも、私は刀を握りしめ直した。
その時、背後から新たな鬼の気配が二つ、同時に迫ってきた。
不意を突かれた私は、咄嗟に反応できない。
絶体絶命の状況に、私の脳裏を過ったのは、義勇さんの顔だった。
「義勇さん……」
思わず呟いたその瞬間、一つの影が私の視界を覆った。
「水の呼吸、肆ノ型、打ち潮」
聞き慣れた、少し低い声が響いた。義勇さんだ。
彼は私を庇うようにして前に立ち、流れるような剣技で二体の鬼の首を一瞬で斬り落とした。
残る一体の鬼が驚愕に目を見開く。
「俺が相手だ」
義勇さんの声は静かだが、有無を言わせぬ圧を秘めていた。
彼は残りの鬼を一瞬で仕留めると、くるりと振り返り、私を見つめた。
「#下の名前#、怪我はないか」
「あ、はい……ありがとうございます、義勇さん」
私は少し動揺しながらも答えた。
彼の無事な姿を見て、張り詰めていた緊張が一気に解ける。
「一人で無茶をするな」
彼は私に近づき、私の頬の傷にそっと触れた。その指先は少し冷たかったけれど、私にはそれが何よりも温かく感じられた。
「ごめんなさい……でも、義勇さんが来てくれて本当に助かりました」
私は心からの感謝を伝えた。彼の氷のような態度の裏側にある優しさに触れ、私の心臓は早鐘を打っていた。
この感情を、いつか彼に伝えられたらいいのに、と私は思った。
義勇さんは黙って頷き、再び前を向いた。
「行くぞ、まだ気配が残っている」
「はい!」
私は義勇さんの背中を追いながら、この戦いが終わったら、もっと義勇さんと話したいと思った。
私の心の中にある想いは、もう抑えきれないほどに膨らんでいた。義勇さんと共に、私は再び闇の中へと足を踏み入れた_____
静かなる想い
山に残る鬼の気配は、私と義勇さんによって順調に狩られていった。
義勇さんの「水の呼吸」は、流れるような美しさの中にも確かな力強さがあり、見る者を魅了する。
私は彼の隣で戦えることを、何よりも幸せに感じていた。
「これで最後か」
義勇さんが最後の鬼の首を斬り落とす。
辺りは静寂を取り戻し、夜の闇だけが残った。
私は刀の血を払い、鞘に納める。
「お疲れ様でした、義勇さん」
「ああ、」
私たちは下山を始めた。山道は暗く、私は足元に注意を払っていたが、ふとした段差でバランスを崩しそうになった。
「っ……」
「危ない」
義勇さんの腕が私の腰に回され、私は転倒を免れた。
彼の温もりが隊服越しに伝わってくる。
一瞬、時間が止まったように感じた。顔が熱くなるのを感じながら、私は慌てて体勢を立て直した。
「あ、ありがとうございます……」
「気をつけろ」
義勇さんはすぐに腕を離し、再び歩き始めた。彼の顔は暗闇でよく見えなかったけれど、その声はいつも通り静かだった。
けれど、私の心臓はまだ落ち着きを取り戻せずにいた。
里に到着し、私たちは報告のために蝶屋敷へと向かった。
治療を終えた後、私は屋敷の縁側に座り、月を眺めていた。
今日の出来事が頭の中でぐるぐると巡る。
義勇さんが私を助けてくれた時のこと、頬の傷に触れてくれた時のこと、そして先ほどの出来事。
「ここにいたのか、#下の名前#」
振り返ると、そこには義勇さんが立っていた。私は慌てて立ち上がる。
「義勇さん。もうお休みにならないんですか?」
「ああ。少し、空気が吸いたくて」
彼は私の隣に腰を下ろした。私は少し緊張しながらも、彼の隣に座り直す。
「あの……義勇さん」
「なんだ」
「その……いつも、ありがとうございます。義勇さんは不器用に見えて、いつも周りをよく見ていますよね。私、そういうところに惹かれています」
我慢できずに、想いの一部を口に出してしまった。
彼は驚いたように少し目を見開いたが、すぐにいつもの表情に戻った。
「俺は……別に、何もしていない」
「そんなことないです。義勇さんの優しさに、私は何度も救われています」
私は彼の目を見つめて、はっきりと告げた。彼の頬がほんの少しだけ赤くなったような気がして、私の心は高鳴る。
「……#下の名前#は、よく喋るな」
「えっ!?」
「だが……そうだな。俺も、#下の名前#と一緒にいると、少しだけ気が休まる」
義勇さんは月を見上げながら、ぽつりと言葉を紡いだ。その言葉は、彼なりの精一杯の好意の表現なのだと私には分かった。
「それって……」
「なんだ」
「ううん、なんでもないです」
私は照れ隠しに笑った。
まだ恋人同士になったわけではないけれど、彼の心に少しでも私がいると思えただけで、私は満たされた気持ちになった。
「明日も任務がある。もう休め」
「はい、義勇さんも」
私たちは立ち上がり、それぞれの部屋へと戻るために歩き出した。
月明かりの下、私の心は希望に満ちていた。
この想いがいつか、義勇さんに届きますようにと願いながら、私は彼の後ろ姿を見つめていた。
end.