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目次
一話
カーテンの隙間からさす光は、私を現実へと連れ戻し、私を憂鬱にさせる。
昨日よりも重い瞼は持ち上がらず、再び眠りへと就く。
しかしその安らぎは再び日の光によって壊され、私を起こさせる。
この世界は憂鬱で、まるで世界が私を拒んでいるよう。
それでも私はそんなことないと思い込み、今日という日を生きる。
学校へ向かう足取りは重く、まるで鉛を背負っているよう。
耳に流れてくる笑い声や話し声は無視し、私は私の世界を生きる。
目にかかった前髪を掻き分け、横を見ると青い海が太陽に照らされていて眩しい。
しかし見ているうちにその青はだんだんと黒く染まり、再び私の心を暗くさせる。
黒くなった海は光が無く、でもそれが私を救ってくれるような気もした。
海を見るたびに昔のことを思い出す。
昔は、海が好きだった。
透明で綺麗な海は、私の心をも綺麗に照らした。
でも歳を重ねるにつれて、私は好きだった海がだんだん嫌いになった。
海は、今の私とは反対に透明でキラキラと輝いているから。
二話
雨の音は静かだけどうるさくて、でも私をリラックスさせてくれる。
聞こうと思って聞けばそれはある種の音楽だけど、聞こうと思わなくても耳に入ってくるのはただの雑音。
でも、たまに聞く雑音で心が癒されることもある。
梅雨はきらい。
雨の音は心地良いけれど、ジメジメとしていて髪の毛が少し湿る感じが、嫌い。
そして蛙の鳴き声は私にとってただの雑音でありただのノイズ。
歌ってとも言っていないのに勝手に歌って勝手に耳に入ってくる。
蛙を探そうと思ってカーテンの隙間から外を見ても、蛙はどこにもいなくて、ただ窓に薄く自分が映るだけ。
虚ろな目は周りの子と違って光が無く、髪もボサボサ。
そしてまた、他人と比べる。
三話
夏は日が長く、日が昇るのも早い。
同じ6時半でも、全然違う。
その早すぎる日の出は私を早くに起こし、暇で憂鬱な時間を増やす。
少し散歩しようと思って外に出ても、やっぱり少し暑いからと自分に言い聞かせドアを閉める。
なるべく日が入らない様にし、スマホのブルーライトを直に浴びる。
目は少し疲れるけど、ネットの方がずっと居心地がいい。
私は夏でも長袖を着る。
あの子はなんで長袖を着てるのという視線を送られても、きっとそれは私への視線じゃないんだと思い込む。
この夏の肌が焼ける感じが、嫌い。
だから長袖を着る。
少し暑いけど、我慢する。
四話
私は、この世のすべてが嫌い。
嫌いなものが多いと生きづらいのは頭ではわかっているけれど、一度嫌いになったものはそう簡単には好きになれないということも知っていて、実際好きになれていない。
無理に好きになってもそれは本当の“好き”ではないってことも知ってるけど、やっぱり生きづらい。
外の風は冷たく、もう学校も冬休みに入る。
夜にはイルミネーションの灯りが私を照らし、このみすぼらしい顔を目立たせる。
店に入ればクリスマスの曲が流れているし、クリスマスの装飾がなされている。
街中を歩いているだけで「クリスマスどこいくー?」とか「ケーキ予約したー?」とかいう楽しそうな会話が聞こえてくる。
一瞬過ごす人がいて羨ましく思うが、ノイズキャンセリング機能のついたヘッドホンをつけて脳内を静かにする。
そして好きな曲を爆音で流し、気持ちを落ち着かせる。
私は他人の幸せそうな声、表情、雰囲気が嫌いだ。
きっと自分に無いものを持っている他人を羨ましく思っているのだろう。
羨んでしまう自分もまた、嫌い。
五話
気がつけば大晦日。
皆はわいわいと大勢で年越しそばを食べ、年越しパーティーをするのだろうけど、私はそんなこしない。
だって一緒に過ごす人がいないんだもの。
一人で蕎麦を食べる。
それだけでいい。
別に一人でも、寂しくはない、と思う。
一人だったから何かあるわけでもない。
またそう言い聞かせ、思い込む。
一人で食べる蕎麦の味は、おいしいけどどこか寂しい。
美味しそうでたくさん買ってきてしまった天ぷらも、おいしそうだけど箸が進まない。
年越しする瞬間にジャンプとかいうこともせずに年を越す。
そして正月。
新しい一年が始まる。
今年はいい年になるといいな。
六話
年を越してもう2ヶ月も経つけど、今までと生活は変わらない。
今年こそはと意気込む人も少なくはないと思うけど、それを実現できない人がほとんど。
その1人が私。
今年もこうやってまただらだらと過ごす。
太陽は毎日怠ることなく世界を照らすけど、私はそうじゃない。
毎日家に引きこもり、週に1度とか必要なものを買うときだけ外に出る。
そして気持ちが沈んで布団に包まる。
神様は私を見ているかもしれないけど、決して怒らない。
神様は私が何をしても、世界を照らしている。
神様は、皆にとって平等でないといけない。
ときに平等だと思うことはあっても、平等じゃないことはたくさんある。
この世界で生きている以上、それは避けられないこと。
七話
世の中の人はバレンタインで頭がいっぱいで、街中チョコで溢れかえっている。
駅前にはバレンタインジャンボと書かれた幟が立っていて、何人か並んでいる宝くじ屋がある。
そんなもの、やったって当たらないのにな。
バレンタインは、あまり好きじゃない。
というか、どのイベントも好きじゃない。
なぜなら、人と関わる必要があるから。
みんな幸せそうな笑みを浮かべているから。
バレンタイン当日は、大雨が降った。
雨の音で目覚めた私はほんの少しの期待をし、カーテンを開ける。
大雨で大きな水たまりができているのを見て、喜ぶ。
私は、雨で喜んでいる私自身にほんの少しの嫌悪感を抱くが、それはすぐに消えさり、安堵や悦喜の感情が顔に出る。
自然と口角が上がる。
雨は、ときに私を幸せにしてくれて、私を救ってくれる。
私は雨が、結構好きだったりもする。
八話
卒業式のシーズンになり、私もついに卒業式の日を迎えた。
頬に触れる空気は暖かくなり、周りの人の嬉しいという感情や悲しいという感情が音となって耳に入り、脳に刻み込まれる。
私は、友達もいないからいつも通り一人で学校に行って一人で帰る。
みんなは写真を撮ったりしているけれど、私はする必要がない。
写真なんか撮っても、私しか映らないから。
いらないものは撮らない。
撮っても、写真フォルダーがいっぱいになって、その写真を見るたびに今日を思い出すだけ。
特に何かあったわけでもないから思い出す必要がない、思い出したくない、気がする。
家に帰って、ベッドに飛び込む。
布団に包まり、目を瞑る。
手を洗っていないとか着替えていないとか、今はどうだっていい。
とりあえず、少しの休息がほしい。
あの空間は、なぜか胸が詰まる。
見えない壁でもあるかのように私とクラスメイトとの間には距離があって、まるでみんなには私が見えていないよう。
最初の頃はまだ視線を感じて、このクラスに存在しているという感覚があったけど、今はもうない。
誰も私を見ず、話しかけず、触れない。
誰も私を相手にしなくなった。
今まではこうなることを望んでいたのに、願いが叶った今となってはこれが少し寂しいというか、今の私じゃ言葉に言い表せない。
この感情は私に強く布団を握らせる。
不思議だなと思うけど、これが現実。
みんなにはもう私が見えていないのかもしれない。
神様も、もしかしたらもう私を見ていないのかもしれない。
私を生んだ神様でさえも私を見ていないなら、それはもう私が存在していないのと同じ。
もう見られていないことに少し失意する。
でも、私の代わりに風が吹けばなと思う自分もいる。
たとえそれが幸せの風でも、怒りの風でも、悲しみの風だったとしても。
見えなくても存在はしている。
そんな存在になれたらな、と思う。