ぼくらは青春ボディーガード
編集者:天空ちさゆ
スポーツ以外、どこにでもいるような才能の俺。
でも、恋愛だけはボディーガード級でした!?
そこまで青春じゃなかったならごめんなさい🙇
初めて書きます✍コメントどうぞよろしくお願いします
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目次
ぼくらは青春ボディーガード①
スポーツ以外、どこにでもいるような才能の俺。
でも、恋愛だけはボディーガード級でした!?
自信作✨です!
では、本編へどうぞ(*・ω・)/
第1話「はじまり」
「今日から2学期か~」
中学校生活に慣れてきた俺・|青陽颯《あおひはやて》は、校門をくぐり、教室へと向かった。
天気はこの日にふさわしい晴れ。
「なんか自然と明るくなるよな。太陽って」
俺の学校は、|小中一貫校《しょうちゅういっかんこう》で、ものすごく人が多い。
そのせいか、たくさんの人で靴箱は混みあって制服がくしゃくしゃになりそうだ。
そして、しばらく廊下を歩いていると、誰かがポンと俺の肩に手を置いた。
「おはよ、颯~」
2学期一番に声をかけてくれた彼・|絹谷凛空《きぬたにりく》は、柔らかな笑みをうかべた。
彼は俺とは幼なじみで、成績優秀を目指している俺からしたら、あこがれの人。
普段眼鏡をかけていて成績優秀だけど、実はイケメンで、先輩だけにモテている。
おかげで、|下駄箱《げたばこ》や家の近くで、毎日欠かさず|先輩方《せんぱいがた》の目線や|叫び声《さけびごえ》を|浴《あ》びている。
眼鏡をはずすとイケメンがバレて(先輩方には分かるらしい)恥ずかしいらしいから、クラスメイトは一切凛空が眼鏡をはずした姿を見たことがない。
プールのときもずっとゴーグルをつけているし、林間学校での温泉のときもゴーグルをつけていたし。
ゴーグルから眼鏡に変えるときはどうしてるのか分からないけど、いつのまにか眼鏡に戻っている。
そんな理由で眼鏡をつけているから、ダテ眼鏡説もある。幼なじみでイケメンの顔を見たことがある俺が聞いても、はぐらかされたりする。
そんなナゾ多き人物だけど、その|痕跡《こんせき》もないぐらい趣味には熱心。
|鉄道模型《てつどうもけい》が安売りで売られてるときは学校を休んでまで買いに行くし、期間限定のやつが買えなかったりしたら、この世の終わりみたいな人相で学校に来る。
まあ、みんなからしてはカンペキな男子だけど、俺からしたらよくわからんオタク。
「おはよう、凛空。今日はおしつぶされずにすんだ?」
「うーん、まあまあかな。」
凛空の|額《ひたい》には、|汗《あせ》がにじんでいた。
……相当毎日苦労してるみたいだな。
「そういえば、今日は期末テストがあるんだっけ?」
「え゛っ゛、そうだっけ!?」
うわ~、算数の記憶なんか夏休みですっからかんになってるよ!
「えっと、凛空は自信あるの?」
「うっ、うん、まあまあかな。特に英語はこの夏休みで|基礎《きそ》は覚えてきたし」
ああ、そっか。凛空って英語が苦手なんだっけ。
たしかに、去年はパフォーマンステストやローマ字の書き取りテストがひどかったっけな。
ソーダをそばって読み間違えて、みんなで大笑いした経験があるし。
「みんな、あのときはびっくりしてたな」
「は、颯は言えないだろ?体育なんか、100メートル10秒台だしさ」
「ま、まあね」
凛空に言われるとなんだかくすぐったいな。
「凛空も球技だけは技を|磨《みが》いてるだろ?」
「ああ、あれは眼鏡の安全を確保するためだけにね」
「ははっ、眼鏡命~」
「ちょっ、しーっ!」
凛空と話してると、やっぱり楽しい。
だって、いつの間にか教室についていたから。
教室のドアを開けると、クラス中に歓声が|響《ひび》き|渡《わた》っていた。
黒板には、『今日から新学期です!期末テスト頑張ろ!☆』と、ハデな色で書かれてあった。
誰が書いたのかは、すぐにわかる。
俺は、たくさんの人だかりのど真ん中に目を向けた。
「|優空《ゆあ》!」
視線の先には、|机《つくえ》にもたれかかって、片手にチョークを持った超美人女子がいた。
「あ、おはよ~颯!元気?」
「元気だけど…ていうかなにやってんだアレ!」
「あぁ、アレ?」
彼女は|七瀬優空《ななせゆあ》。うちのクラスの元気なムードメーカーで、ちょっと有名な芸能人をしている。
自分は芸能人をやる気がなかったらしいが、演技力や美人オーラがすごかったらしいから、小5でスカウトされたらしい。
おかげで委員会やクラブでは「優空ちゃんが入ったら人気出るから」といった理由で、毎日ひっぱりだこだ。
「モテる女は困る」っていうのは本当なんだな。
まあ、|購買部《こうばいぶ》と|演劇部《えんげきぶ》と放送部とダンス部を|兼部《けんぶ》してるわりにはすごいと思うが。
そんな彼女の特技は、絵を描くこと。
優空は、何度も絵画コンクールに出展したり、毎回表彰台にのっているから、テレビや雑誌によくでる。
その才能は、大人顔負けだ。
でも、そんな優空でも、失敗はする。
家庭科の時間に、おなべをひっくり返して班のおかずが|一品《いっぴん》減ったり、算数の時間なのに理科のノートに内容を写してしまったり。
そんなことをやらかしてしまうくらい、はっきりいってドジ。
「アレはね、みんなが元気でるように書いたやつ!上手でしょ?」
優空は、クルクルっとチョークでペン回しをした。
たしかに、ドジなわりにはとても上手い。
ハデだけれど、文字もくずして書いていないし、周りには絵が描かれてある。右下には、優空のサインもあった。
「黒板アートってやつだな」
と、凛空が感心したように言った。
……って!
さすがに怒らなきゃダメだろ。
だって、1,2学期連続でこの様だし。
颯の心の中が悟られたのか、凛空がコホンとせきばらいをして、口を開いた。
「1学期にアレ書いて怒られたの覚えてないのか?」
凛空は、|壊《こわ》れたロボットのように苦笑いする。
なんか、結果が見えてきたような………
「えー!? 今回はちゃんと『です』って書いたよー!?あと、チョークも|割《わ》らなかったし!」
気にするとこ、そこじゃないだろ。
気が付くと、クラス中が笑いの輪に|包《つつ》まれていた。
お腹を抱えて笑っている子。優空と|肩《かた》を組んで笑っている子。
せっかく描いた優空の黒板アートの右下に、らくがきしようとしている子。
それをすかさず優空が見つけて、怒られてるけど。
みんな、バラバラだけれど———
俺は、このクラスが大好きだ。
うちのクラスは、ほかのクラスとちょっと違う。
おもしろくて。
協力が好きで、ピンチに強いクラスなんだ。
まだ中学1年生だけど。
新学期もみんなと一緒に頑張りたいって、強く思った。
中休みのことだった。
「なあ、久しぶりにみんなでバスケやらない?」
俺は、みんなに活き活きと声をかけてみた。
「いいじゃん、やろうやろう!」「ボール、まだあるかなあ」「バスケは人気だからね」
女子、男子構わず『やる』って言えるところが、また俺のクラスのいいところなんだよな。
みんなは|廊下《ろうか》に飛び出して、早歩きで移動し始める。
「あれ、颯から誘っておいて、颯は行かないの?」
「へっ!?い、いや、俺日直だからさ」
「ああ、そっか。じゃ、先行っといて|陣取《じんど》っとくわ」
「ありがと~」
みんなを観察して、ボーっとしてたから余計にびっくりしてしまった。
できれば、俺も早くいきたいけど、日直だから黒板を消さなきゃなんないし。
俺の|苗字《みょうじ》は『青陽』だから、初日なんだよね。
俺はさっと消して、廊下に飛び出し、みんなの後を追った。
グラウンドまで来たところで、俺は首を|傾《かし》げた。
みんな、なんだか悲しそうに目を伏せている。
「あれ?みんなどうしたの?」
「それが……3年生の|蹴《け》ったサッカーボールが和田さんの顔に当たってしまって」
「そしたら、3年生が、へらへらして笑ってるの」
「それを見て、和田さんが『そんな態度はないだろ』って言ったら、『1年生のくせにいばるな』って言われて……」
「俺が|突《つ》き|飛《と》ばされたっ……」
最後に、|和田功助《わだこうすけ》が半泣きになりながら颯に訴えた。
「ひどい……」
俺は、耳を|疑《うたが》った。
和田功助。俺の次に来るリーダー的|存在《そんざい》だ。
よく見ると、功助の額が赤くなっている。
……許せない。
「ちょっと言ってくる」
「あっ、待って!」
「颯までケガするよ!?」
俺は止めるみんなを無視して、サッカーボールを
「|謝《あやま》ってほしいんですけど」
「はあ?なんだこのガキ」
「まだ1年のくせに、生意気だなぁ」
3年生の一人が、手を突き出した。
また、突き飛ばすつもりなんだ。
俺はすかさず、突き出した手を受け止める。
「あ?なんだこいつ」
「さわんなクソガキっ!」
3年生が手を|振《ふ》り|払《はら》った。
「ボールが当たっても謝らないなんて、生意気なのはそっちじゃないですか」
「こいつっ……」
颯が冷たく吐き捨てると、意外そうに眉を引きつらせる。
そこへ、体の大きい3年生が、一歩前へ出た。
「なら、オレたちとサッカーで勝負しようぜ」
「勝負?」
「颯っ……」
「青陽くんっ……」
後からみんなが走ってきた。
「お前とオレ達3人で、勝負するんだ。お前が勝ったら、謝ってやる。オレたちが勝ったら校長に向かって『ハゲー!』って叫ぶんだな。どうだ?」
ふうん、面白い罰ゲームだな。
でも、そのことが井田先生に伝わるなんてことはイヤに決まってる。
「引き受けるよ。その勝負」
「は、颯!大丈夫なのか……?」
「いくら颯でも、無理があるんじゃない?」
「大丈夫。俺に任せてよ」
ボールは……全然はねる。
3年生3人は、やたらとニヤニヤしてる。きっと、勝てるって思ってるんだ。
いける。
「キックオフ!」
最初は細かいドリブルから。
フェイントもいれながら、一瞬で3人を|追《お》い|越《こ》す。
試合より全然人がいないし、たくさん動けるから楽勝かも。
ゴール前まで近づいて来たとき、追い越した3人も追いついてくる。
まあ、相手は中学3年生だしな。足の速いのもトーゼンだ。
そのうちの1人が、いきなり颯に向かって|突進《とっしん》してきた。
ケガをさせてでもボールを取ろうってわけだな。
でも、そんなルール|違反《いはん》、俺はきらいだ。
ここからは、つま先でドリブル。
つま先でドリブルすると普通の人はボールが遠くに飛んで行って、追いつけなくなってボールを取られるけど、俺は違う。
なんてったって俺は————3年生より足が速いから!
|一瞬《いっしゅん》で3年生の間を突き抜け、一瞬でゴールキーパーの前までくる。
ゴールキーパーが目を丸くしてる|隙《スキ》に————
決める!
ドサッ
「ゴーーール!」
あっという間に、グラウンドは|歓声《かんせい》に包まれていた。
「颯くんっ……!」
「青陽、やったな、やったな!」
「う、うん」
さっき額をケガした功助は、俺の|肩《かた》をつかみ、ぐわんぐわん|揺《ゆ》らして喜んでる。
……でも、元気になってよかった。
「俺たちが勝ったから謝ってもらえますか、先輩」
俺が3年生を見回すと、目をそらしてつぶやいた。
「……ごめん、オレたち、調子に乗ってた」
「悪かった…」「ごめん……」「オレも……」
勝負を持ち掛けてきた大きい先輩が謝ると、周囲の人が頭を下げた。
「大丈夫です。俺、先輩と勝負して楽しかったです」
「私も、見てて楽しかった」「オレも!」「僕も、見ててハラハラしたな」
みんなが、楽しそうに口々に言う。
俺も、心の底から、楽しいって思ったかも。
その昼休みは結局、3年生とバスケをすることになったのだった。
終業式と大掃除が終わって、昼休みに入るころ。
「颯、凛空。」
薄暗い廊下に教室から顔を出し、優空が手招きしていた。
目立ちたがりの優空が目立たないところに呼び出すのは珍しい。
「ちょっとだけ重大な話だから、よく聞いて。」
「ちょっとだけかよ……」
ちょっとだけなら、呼び出さないでほしかったが。
まあ、聞いてあげよう。
「ちょっとだけ長くなるかもだけど…——」
私・七瀬優空は、現在、そんなに芸能界の仕事が来ない状況だ。
うちのマネージャー・|文子《ふみこ》と悩んでいたとき、文子がこう言ったの。
「そうだわ、うちの友達が秘密の館の|執事《しつじ》らしいなのよ。だから、許可を取ってもらってその秘密を探るわ!」
って言いだしたの。
その|館《やかた》の秘密は知りたいし、ちょうど仕事がなかったから、「やりたい」って言ったんだ。
スタッフと協力して許可をとるために電話をしたけど……
結果はNO。
しかも、電話したスタッフに話を聞いてみたらね、
『ぜーったいダメですってメチャクチャ怒られたし、電話はすぐ切られた』ってイライラしながら言ってたのよ。
私、あれ?って思ったの。
文子の友達が秘密の館の執事って知ってるんなら、秘密を知られてもよくて執事は話したんでしょ?
でも、ダメだってメチャクチャ怒られたらしいのよ。
「ね、おかしいでしょ?気になるくない?」
「うーん、まあ……」
俺は言葉を|濁《にご》した。
マズい。この流れだと————
「だからさ、そこに行って秘密を聞きだそ——」
「ダメだ!」
優空が言い終える前に、びしっと言ってやった。
優空はそんなことすると絶対といってもいいほど失敗する。
2回言うけど、はっきり言って、ドジだ。
それで芸能界に入れたのが不思議なレベルにあたるほど。
自分でも自覚してないのか、失敗したことを何度もやりたがるし。強い根性があるっていうのか。
「でもでもっ、スゴイ気になる話じゃん?凛空も気にならない?」
「僕は優空がなにをやらかすかが気になるんだけど。」
「うっ……」
そこでようやく気づいたように、優空はにがーい顔をした。
でも、何かを見落としているような———
なぜだか俺は、人生で一番大切なことを聞いたような気分になった。
結局俺は、とりあえず、頭のすみっこに置いておくことに決めた。
次回、どんどん颯がタイトルに近づきます!
いろいろあって投稿が遅いと思いますので、そこはご了承ください🙇
コメントよろしくお願いします( `・∀・´)ノ
ぼくらは青春ボディーガード②
ぼくボディの②です!
できれば①を読んでから本編をお楽しみいただけるとなお良いです(o^―^o)
では、本編へどうぞ(*・ω・)/
第2話「出会い」
チャイムが鳴り、LHRを終えて下校時間となった。
「颯ー、一緒に帰らない?」
「あ、ごめん。やることあるから先帰ってて。」
「そっか。じゃあ、バイバイ」
「うん、また明日」
今日俺は日直だったので、凛空には先に帰ってもらった。
みんなの分の書類を職員室に提出しなければならない。
職員室はここから少しだけ遠いから、めんどくさいと思いつつも。
今朝の優空の全く反省してなさそうな顔を思い出すと、思わずにやけてしまう。
かといって、雰囲気は全然堅苦しくなかった。
笑いを必死にこらえている子もいたし、先生の後ろで変顔をして、優空を笑わせようとしている子もいた。
むしろ、楽しそうだった。
やっぱ俺のクラスだな、と思う。
職員室に書類を提出すると、つっぱしって家に帰った。
クラスや学校から離れるのは寂しいけれど、早く明日になってほしいから。
前へぐんぐんと進み、さらにスピードを上げて、もうすぐで着きそうってころに。
「あっ……」
教室に、宿題に使う教科書を忘れてきてしまった。
わーん、なぜ思い出す、俺の頭!
……いや、思い出した方がマシだったかもしれない。
俺は、教科書を忘れて宿題をできなくなったことをみんなに知られて、笑いものになっている俺の姿が目に浮かぶ。(決していじめられているわけではない)
まあ、それはそれでみんなにとっていいかもしれないけど、俺からしては成績が下がるかもだし、恥ずかしいし。
「よしっ!」
俺は迷わず方向を変えた。
いきをきらしてしばらく走っていると…
「?」
地面に、奇妙に光るものが落ちていた。
「…コイン?」
そのコインは学校のほうから右の分かれ道に点々と続いていた。
「……」
颯は、吸い寄せられるようにコインを拾いながら歩いていた。
いつもの俺の好奇心もあるけど。
もしコインが落とし物だったら、交番に届けるか、戻しとけばいいかだけだし。
俺は、そのコインをなんとなく太陽にかざしてみた。
「なんかすげー……」
そのコインは、なにかと不思議な模様だった。
文字らしき模様が彫られてあったが、それはサビていてよく見えない。
数分ぐらい拾いながらたどっていくと、だんだんと森の中に入っていくようだった。
…………だけど、俺はまだ気づいていなかった。
こんなことになるとは———
「ん…?」
一か所にコインが三枚置かれていることに気が付いた。
そこには、観葉植物のように青々とした落ち葉が一点に置かれてあった。
まるで、何かを落ち葉で隠しているようだ。
気になって、慎重に落ち葉を掻きわけると……
人が入られるような穴があった。
「もしかして……モグラ?」
いや、モグラがコインを落としていくわけがない。
かといって、人がこんなに深く掘れるわけがないし。
まさか——コビト?
もっと奥を見ようと顔を近づける。どうやら、この穴は奥深くまであるらしい。
そこまで見て、ハッと気づく。
「こんなところに落ちたら、ひとたまりもないな」
いくら好奇心でも、こんなところには入ったりしないしな。
もうひきかえそうと立ち上がって方向を変えたとき。
ズシャッ
「っ!」
俺は落ち葉ですべり、深い穴に落ちてゆくのだった。
「う……」
体がズキズキと痛むのにも関わらず、目を見開いた。
どうやら、俺はビックリしすぎて気を失っていたみたいだ。
さっきまで森の中にいたから、まぶしく見えるな。
俺の視線の先にあったのは————
「は……?」
そこには、大きな大広間があった。
床はガラスみたいに光っていて、上には大きな宝石がたくさんついたシャンデリアがあった。
周りには、花が活けてあった。
「これって……完全に屋外!?」
その前には、どーんと男の人が革張りの椅子に座っていた。
男の人と向かい合わせになってうつむいた少女もいる。
その少女は俺と同じ年ぐらいの背だった。
年齢までは分からなかったけれど。
「どうして———なんだ!」
「ごめんなさい——————」
会話からすると、少女はどうやら男の人に怒られているみたいだ。
あ、もしかして、あのコインはお城のものだったのか?
俺はしばらく考えを巡らせながら、周りの景色に目移りしていた。
少女がぱっと俺のほうを見た。
「え…?」
目が合った瞬間少女は、小さい奇麗な声を出した。
頭の奥がキーンとして、クラッとなった。
不思議すぎるほど青く澄んでいて。
床のガラスよりも光がおさめてあるような目だった。
女の子は、髪は少しグレーをおびていて、シンプルな白いワンピースを着ていた。
俺は、時がとまったように見とれていた。
男の人が気付いたのか、男の人もこちらを見た。
…………ああ、違う、時は正常に動いているんだ。
その人は顔色を変えて、俺を見てすぐさまこう言った。
「侵入者だ!侵入者だぞーっ!!!!」
「えええぇぇぇ~~~~~!?」
「すみません、急にお邪魔して……」
そのあと俺は、兵隊みたいな人に捕まりかけたけど、少女がそれをとめてくれた。おかげで、おわびとして中に入ってくれと少女に言われたのだ。
男の人はまだ怒っていたけど……
だから今俺は、とっても可愛いメルヘンな部屋の中にいた。
「いえ、いいの。なんだかごめんなさい。お父様が…」
俺は、なんだか一般人の俺がこんな部屋にいていいんだろうか…と、思った。
なんだか…ものすごく申し訳ない。
俺が好奇心でコインをたどって。
しまいには中に入ってしまって。
男の人を怒らせてしまって。
優空に『必ず失敗する』と思ったやつがこんなことをしてしまった。
俺がうんうんとうなっていると。
コンコン、と、知らないおじさんがドアの隙間から顔をのぞかせた。
「お邪魔してよろしいでしょうか、お嬢様」
「いいわよ、カゼオ。」
少女が、ちらっとドアの方を見て、言う。
改めて思ったけど、このお城って、警備が厳重すぎて科学の域を超えていると思うな。
なんだか秘密がありそうだ————
ん?
少女の言葉が心に引っかかる。
かぜお?
カゼオ?
「「あーっっ!!!!」」
すっとんきょうな声が、部屋中に響く。
声の正体は、俺と、カゼオと呼ばれたおじさんだった。
俺は一人のおじさんを指さした。
おじさんも、俺のほうを指さした。
「ど、どうしたの、カゼオ?」
少女がおどおどして、おじさんと俺を順番に見る。
「あ、お嬢様、実は————」
おじさんが、お嬢様に説明しはじめる。
おじさん——風夫おじさんは、俺のお母さんのお兄さん————
つまり、おじさんだったのだ。
「つまり、颯はわたしの甥っ子ですよ。」
風夫おじさんってちゃんと敬語使うことあるんだな。
あ、別にばかにしてるってわけじゃないけど。
なんだかいつもおしゃべり好きでズボラなおじさんが、意外だなぁ~って思っただけ。
聞いていると、風夫おじさんは少女の執事らしいのだ。
聞いたことはあるけど、ずっと冗談だと思ってた。
風夫おじさんが少女に説明し終えると、少女は納得したようにうなずいた。
「まさか風夫の甥っ子だったなんて……あっ、自己紹介!」
少女は気を取り直すようにして、自己紹介をはじめる。
「私の名前は、|夜桜楓《よざくらかえで》です。お互い、風っていう漢字が入ってますね。」
夜桜さんは、ふふっと小さく笑う。
俺の胸が、ドクンと高鳴った。
これが、ときめきというのか、運命というのか。
今俺は、どんな顔をしているだろうか。
はっ、ホワンとしてる場合か!
俺はブンブンと首を横に振る。
「あの、ここにたどり着くまで、コインが落ちていたんですけど、夜桜さん、のものじゃないですか?一応、拾っておいたんですけど。」
手汗まみれになったコインを差し出しながら、名前で呼んだら失礼かな、と思った。
気にするとこそっちか!と、うつむきがちに自己ツッコミを入れながらも。
「わっ、これお父様が………ありがとうございます!颯さんって優しいですね!」
夜桜さんに、手をぎゅっとにぎられる。
一瞬、ドキッとした。
「颯のいつもの好奇心でたどってきたってわけだね。はっはっは。」
「ちょっとおじさん!」
好奇心はまちがってないけど、夜桜さんの前で言うのはちょっと遠慮してほしい。
こっそりと夜桜さんのほうを見ると、肩を震わせて笑っていた。
……『お嬢様』って、こんなに温かい人もいるんだ。
しばらく夜桜さんと風夫おじさんでしゃべっていると。
「あっ!」
俺は、手くびの上にある腕時計を見た。
もうとっくに、5時過ぎをさしていた。
ああ~……宿題を取りに行くの忘れてた!
今まで現実逃避していた俺は、ひとり、絶望していたのだった。
その後俺は、夜桜家の黒塗り高級車を借りて送ってもらった。
しかも、家までついてきてくれて。
なにからなにまで、申し訳ないなっていう沈んだ気持ちが中にあった。
こういうのを、「いたれたりつくせり」っていうんだな。
でも、嬉しいこともあったのだ。
それは、風夫おじさんに『また遊びに来てくれ!ただし、夜桜家のことはみんなに内緒だぞ!』
と、メッセージが送られてきた。
それと、夜桜さんに会えたこと。
なんだか、気持ちがふわふわした。
今あのことを思い返すと、本当に不思議な感じがした。
あれが、秘密の館…っていうか、むしろ城だったかもしれない。
でも、秘密も分からないし、優空のマネージャーの友達も、あの風夫おじさんとは限らない。
俺はベッドにあおむけにダイブした。
明日、優空に聞いてみよう。
メッセージアプリを優空とつないでいるけれど、それでは物足りない気がした。
反応が見てみたかったのだ。
もちろん、凛空の反応も。
どんな反応をするかな…———
俺は、おじさんから送られてきたメッセージを読み返す。
明日も、相変わらずの毎日。
でも、それが今は嬉しく感じられたのだった。
次回、城の秘密が明かされる!?
コメントよろしくお願いします( `・∀・´)ノ
ぼくらは青春ボディーガード③
ぼくボディシリーズ、ついに記念すべき(?)3話まで来ました!!!🎊ヾ(≧▽≦)ノ
よければ①、②を読んでから本編を読まれるとなおいいと思います!(^^)!
では本編へどうぞ(*・ω・)/
第3話「秘密」
「……というわけで、秘密のやか……お城かもしれないところにたまたま入っちゃった、ってわけ。」
「……それじゃ、颯のおじさんがマネージャーのことを知っていたら、秘密のお城確定ってこと?」
俺は無言でうなずいた。
「へえ、よかったな。僕も行ってみたかった」
そっか、凛空はジオラマとか、おしゃれで凝ったものが好きだもんな。
「ふふん、凛空なら言うと思った。そ・こ・で!」
俺は凛空に満面の笑みを見せると、スマホのメッセージアプリを開き、二人に見せた。
二人はメッセージアプリをくいいいるようにのぞき込み、おそるおそる口を開いた。
「「こ、これって……」」
「俺が二人を誘っていいか特権をもらってきたんだ」
そう、昨日の夕方、メッセージアプリで「友達二人もつれてきていい?(秘密は守るから!)」と、メッセージを送ると、OKをもらえたのだ。
おじさんは俺に甘いから、そこを利用して。
優空と凛空は目を見開き顔を見合わせると、声を上げた。
「わぁ~~~~!こういうときだけ颯役く立つよね!」
「ほ、本当に……」
って、優空の『こういうときだけ』ってなんなんだ⁉
凛空は、パクパクと口を動かして、目が点になっている。
俺はこのとき、夜桜家の衝撃な事実を耳にするとは、知る由もなかった。
「「うわあ~~~!」」
大広間に、二人の声がひびく。
放課後、俺たちは夜桜家の黒塗り高級車にのせてもらい、再びお城へとやってきた。
「すごいすごいっ!この前撮影したドラマよりすごいっ!」
「これはすごい……今のうちに、カメラにおさめておかなければ」
優空はあちこちを駆け回り、凛空はカシュ——と、スマホのカメラのシャッターを切る。
うう、二度来ても慣れないな。
そうやって平気であちこちを駆け回れる優空が逆にすごい。
「さてさて、お嬢様のお部屋へ移動しましょう。君たち、なにか見たいものはないかな?鉄道模型やドレス……颯からリクエストは聞いているが」
「えーっとですね!私はドレスとメイク道具と楓ちゃんの使ってる化粧品と……」
「ぼ、僕は鉄道模型と、あと、プラモデルとかオゾボットとかソビーゴRP1とかも……」
「ええ、ぜーんぶ受け付けます」
「「本当ですか⁉」」
二人はおじさんに向けて、廊下を歩きながら目をきらきらさせる。
全く二人とも、凛空はともかく緊張感がなさすぎだな。
俺はそわそわして、きょろきょろ辺りを見わたす。
なんだかここ、ちょっと奇妙だな。
やたらと警備が厳重だし、ここへ入るときもパスワードを6数字5回、しかも違う数打たなければならないし。(パスワードを打つところは見ていたが速すぎて見えなかった)
あと、なんであんな奇妙なコインが落ちていたんだ?
初めて入ったときは入り口が違ったし……
いくつか出入り口があるのか?
数分廊下を歩いたころ、おじさんが足を止め、一つのドアを開ける。
どうやら、ここが夜桜さんの部屋らしい。
「今日は来てくだってありがとうございます」
俺は我に返り、はっと顔を上げる。
この声は———
「えーっと……お友達もご一緒なんですね」
メルヘンなベッドにちょこんと腰かけていた彼女——夜桜楓さんは、目を見開きぎこちなく言った。
キーン——
うっ、何度見ても慣れないな。(二度目だな)
夜桜さんと目が合いそうになり、慌てて目をそらす。
顔を赤くしている颯に、凛空がポンと俺の肩に手を置いた。
「すっごく綺麗な目してるな。ちょっと気がめいりかけた」
凛空はひそひそと俺に耳打ちした。
「だ、だろ?」
急に問われてとっさに返す言葉がなく、適当になってしまう。
「颯が自慢げに言ってどーすんだよ」
「それな」
こっそり言ったつもりが、優空に聞こえたらしいので、すかさずつっこまれた。
そのとき、夜桜さんの目が大きく見開かれた。
「あの、も、もしかして、あの……七瀬優空さんですか…?」
小さくて消え入りそうな言葉が耳に入ってきた。それを聞いた優空が、目を輝かせる。
「えっ、知ってるの⁉あっ、もしかして私がでてるドラマとかって見てたりする?」
「えーっと、いくつか知ってますけど、まだ新作は観てないですね……」
「それにしてもっ、楓ちゃんってお肌すっごいキレイだね!あと、おめめもすっごいきれいだし!もしかして、フランス人のハーフだったり?」
「あ……これは遺伝でハーフとかじゃなくて——」
フランス人はそこまできれいじゃないと思うけど。
凛空は、眉をピクッとうえにひきつらせた。
どうしたんだろう?
凛空は急に方向を変えておじさんのところへ歩み寄り、こう言った。
「すみませんおじさん、一つ質問してよろしいでしょうか?」
「えぇ?は、はい、何でも答えますよ。」
おじさんでも答えられないことはあると思うけど。
「お母さんって、今ここにいらっしゃりますか?どんな人か、人目お会いしたいんです」
おじさんは、少し目を見開き、右上を見て考え込んでいた。
「えーっとですね……あ、あの子はもともと施設の子だったんですよ」
「施設?」
「そう、だからお母さんはいないんですよ」
そっか、夜桜さん、施設なんだ。
じゃああの怖そうなお父さんは、“義理のお父さん”って、いうことなのか。
でも、何かおじさんがぎこちないような……
バーン!
突然、ドアが大きく音を立てて開いた。
その場にいた全員が、肩をふるわせた。
「風夫!お前は何も言わなくていい!」
「お、お父様……」
少しだけ、夜桜さんの声がうわずった。
そうだ、一瞬だけ誰だか分からなかったけど……
「楓さんのお父さんだ」
凛空が混乱して何か言わないように、そっと耳打ちした。
……一番心配なのは優空だけど。
振り返ると、優空が夜桜さんを大の字になってかばっている。
「どうしてあのときのガキがいるんだ!だから風夫を娘の執事にしたくなかったのだ!」
「紅葉様、それは私が許可を……」
俺のおじさんって、もしかして夜桜さんのお父さんに嫌われてる!?
「お前っ……城の秘密があることまで七瀬のマネージャーに話おって……タダですむと思っとるのか!」
七瀬って……優空のことだよな?
やっぱり、優空のマネージャーの知り合いは、おじさんだったのか!
反射的に凛空に『やっぱり!』って言いそうになって、口を押えた。
『七瀬』と呼ばれた優空は、いっきに表情をこわばらせた。
凛空も、唇を軽くかみしめている。
「……お父様」
緊張した空気が漂う中、少し震えた声が部屋に響いた。
でも、声はちゃんと耳に通った。
声の正体は、夜桜さんだった。
「お父様、私、青陽さんたちに話してもいいと思うの。その……秘密を」
「楓、何を言う!……俺はただ勝手に城に入ってくるくせものが気に入らんのだ!」
うっ、その件についてはすみませんでした……
優空と凛空にじろりと見られて、苦笑いをかえした。
「でもっ……私は学校に行きたくても行けないのになぜ新しいボディーガードを見つけてくださらないの?もう、お城でお勉強するのはうんざりです!」
「お嬢様の言う通りです。どうしてボディーガードを募集しないのですか?」
「そーですよ!よくわかんないけど、楓ちゃんにも学校に行かせてあげてください!」
「おいおいっ……」
よくわからないのに優空が参戦しようとし、慌てて凛空がとめる。
優空が参戦しようとすると、夜桜さんのお父さんは慌て始めた。
「お、お前らもうそれ以上しゃべらんでくれ!でないとまた新たなスパイに……あっ」
しまったと言いたげに、お父さんは口をおさえた。
す、すぱい?ぼでぃーがーど?がっこうにいけない?
全てのキーワードのつじつまが分からなく頭を抱えていると、凛空が口を開いた。
「あの、あやふやだけれど聞いてしまったのはしょうがないので、話を聞かせてもらえませんか?」
「だ、だがしかし……」
凛空の言葉に驚いたのか、紅葉さんがたじろぐ。
「秘密は誰にも言いません。勝手に入ってきてしまったけれど、僕たちを信用してほしいんです。ね、颯、優空。」
そう言うと、凛空は俺と優空の顔を見て、にこりと笑う。
……すごく説得力があるな。
凛空にこんな力があるなんて驚いた。
「お父様、私からもお願いします。青陽さんたちはとってもいい人たちだし、それに……わが夜桜家の秘密も知ってほしいの。もし青陽さんたちが誰かに話したら、私が責任を取るわ。」
「か、楓……」
……自信があるほど、自分たちを信用してくれてるんだな。
なんだかすごく荷が重いような……
さっきまで肩が上がりっぱなしだった紅葉さんは、すとんと肩を落とし、ためいきをついた。
「分かった。君たちがそこまで言うなら、話してあげてもいいだろう。ただし、俺からも言っておくが、絶対に約束を破っちゃいかんぞ。分かったな?……風夫、後は頼む」
紅葉さんは言葉を言い残し、戸を閉めて去っていった。
「「「……」」」
沈黙、十数秒。
「えー……じゃあ、秘密を話そうと思う。驚かずに、心して聞いてほしい」
驚かずには無理だと思うけど。
おじさんは颯、凛空、優空、夜桜さんの順に顔を見回してから、口を開いた。
お嬢様・夜桜楓は、昔、一卵性の双子の姉の夜桜奏と母の夜桜桜がいました。
その二人がいた日常では、楓も奏と一緒に幼稚園に通っていました。ですが———小学校の入学式の夜、忽然と姿を消しました。
消えた原因は、すぐわかりました。
実は、楓と奏、母の目には、ダイヤモンド百カラットの価値がある物質が含まれているんです。
夜桜家代々伝わるとてもきれいな目です。
その目をさらったのは、世界で最も有名な窃盗団、『風闇組織』でした。
その風闇組織は、自分たちが怪しまれてはいけないので、子どもをさらっては洗脳し、数々の宝石、ダイヤモンドを子どものスパイに盗みさせてきました。
三百人ほどの警察が捕まえようとしましたが、捕まったという報告は一件もありません。
そう、風闇組織はいまや最強の窃盗犯なのです。
楓たちの目は百カラットの価値でしたが、その目は成長するたびに二百、三百……老いてしまうと一億ほどです。
窃盗団もばかではないので、生まれてからずっと監視してきて、小学1年になるとようやく百カラットの価値になるので、それを狙ったのでしょう。
窃盗団たちはその目を両方くりぬいて売ろうと考えています。
ちなみに、これは一番言うのが怖いのですが……
その目を両方くりぬいてしまうと、命を落とすリスクは、3分の2なんです。
ですから、代々伝わる目なので紅葉様は手放したくないに決まっています。
お金を稼げる仕事の面接を何度も受け、何度も落ち。
ようやく仕事に就き、このような警備が厳重なお城を築き上げ、優秀なボディーガードや見張りを持ちました。
しかし……ある日のことでした。
ボディーガードは風闇組織に洗脳された子どもだということが判明し、楓をさらおうとしました。
その子どものスパイは見事見張りに捕まえられましたが、また新しいボディーガードをやとわなければなりません。
……風闇組織はだんだんと強化していきました。
風闇組織は日本各地を見張っていました。いつ引っ越したりするか……
ですから、紅葉様は計算をして関東から東日本へ引っ越したりしました。
お金を使って。
それも、娘のために。
一安心もできないので、楓は一度も学校へ通ったことがありません。
チャンスが舞い込んできたのは、紅葉さんが出張のときでした。
お嬢様がある日、
「学校に入学届を出しに行って、お父さんに内緒でときどきでいいから学校に通ってみたい。」
と、私に言いました。一緒に行くとすぐばれますし、お嬢様が行くのは初めてなので、迷ったりしては大変です。
ですから、コインを落としていけば戻ってこれるだろう、お嬢様はそう考えてコインを落として行きました。
ですが…………
出張の帰りが早まったのか、行く途中で紅葉様とばったりはちあわせ。
コインを落としていったのも構わず、お嬢様はコインを置いてきてしまいました。
それに怒り、紅葉様は大説教。
そこでやってきたのが……私の甥っ子、颯だったのですよ。
「……急に、こんな衝撃な話をしてすみません」
「「「……」」」
衝撃で、言葉が出てこなかった。
何か一言でも返そうと、必死に言葉を探す。
……どうすればいい?
助けを求めるように、凛空に目を向けると。
「どうにもできない」とでも言うように目をそらされた。
「……ごめんなさい、いきなりこんなこと言われても……だから、気にしないでください」
そういったきり、夜桜さんは何も言わなくなった。
おじさんに車で送ってもらった後、遅くなったので凛空と優空を家まで送っていくことにした。
「そういえばさ、凛空はなんでおじさんにあんな質問したんだ?」
俺はふと、聞きたかったことを聞いてみた。
「優空たちの会話がヒントになったんだ」
「えっ、私たちの?」
優空が驚きを隠せずに目を見開いた。
「僕たちがお城に入ったとき、玄関前に写真が飾ってあったろ。その写真、夜桜さんが大きくなってから、まったくお母さんたちが映っていないんだよ。」
ああ、そうだったっけ。
でも、うーん、それのなにが遺伝と関係があるんだ?
「ごめん……さっぱり分からない」
「私も……」
頭を抱えていた颯に、凛空は淡々と説明し始めた。
「えーっと、颯の話からすれば、お父さんは目が奇麗ではなかった。要は、夜桜さんの目が奇麗な遺伝は、絶対にお母さんからなんだ。」
「ああ、たしかに颯は、『夜桜さんの目がとても奇麗だった』とは言ってたけど、『お父さんの目が奇麗だった』とは言ってなかったよね」
優空が颯の口真似をしたから、凛空がプッと吹きだした。
「僕が質問してから、おじさんは、右上を向いていた……つまり、何か架空のことを考えている表れなんだ。施設の子だとしても、お母さんが写真に映っていたということは矛盾になるから、施設の子というのはウソ。ならなぜ、お母さんの存在を隠すようなことを言ったと思う?」
そ、そうだったのか。
自分でも気づけなかった。
「うーん、なにか、秘密があるのかな?お母さんについて。」
「そう。おじさんは、『お母さんがいたけど今はいない』と言えば、しつこく質問してくるに違いないと予測した。しつこく質問してこれば、秘密がバレるからなんだ。」
「凛空、探偵みたいだな……」
「凛空ってば、こっそり秘密を聞き出そうとしてたんだ?」
「なっ……それは……!」
凛空は、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。
ほんと、凛空は素直じゃないな。
……でも。
「意外だったな。夜桜家の秘密。」
「たしかに、あれは意外だった」
「うん、うん」
俺の反応にこたえるように、二人はうなずく。
はっきり言って、なんだか……かわいそうだった。
あの奇麗な目のせいで、風闇組織に狙われたり、何度も引っ越したり、学校に行けないなんて。
どうにか———
「どうにかならないかな。狙われたりするの。」
気づくと、俺が思ってたことが言葉に出た。
でも、動揺しなかったのは、なぜだろうか。
二人はそれを聞くと、大きく目を見開いた。
「できるんじゃないか。その——工夫すればさ」
「私も、できると思う。根拠とか、作戦とかも思い浮かんでないけど。」
優空は、もうしわけなさそうにペロッと舌を出した。
そうか。
みんな、そう言うと思ったから。
信じてたからなんだ。
「まず、なにをすればいいか考えよう。颯は、どうしたい?」
眼鏡の奥から、強い熱意が伝わってきた。
「俺は———」
優空は、俺の言葉の続きを待っていた。
俺は、なにがしたい?
どうなりたい?どうしたい?
「無理かもしれないけど、俺は夜桜さんと日ノ上中学校へ通いたい。夜桜さんと一緒に青春したい。」
「私も颯と似てるけど、楓ちゃんのお父さんに楓ちゃんと日ノ上に行きたいって、伝えたいよ。」
それぞれの意見を聞き、凛空はほんのり笑った。
「じゃあまず、熱意から伝えよう。気持ちが伝われば、紅葉さんもなにか工夫してくれるかもしれない。」
「でっ、でも、どうやって説得すれば?」
伝わらなければ一緒に通えないし、まずは俺の経験上、説得力のある言葉や事実を伝えなければ意味ないし……
「僕は、日ノ上のいいところとか、部活や委員の仕事を紹介したらいいと思う。紅葉さんが賛成してくれそうなキーワードはないかな。」
現在まとめ役の凛空が案を挙げていくと、次々に意見がまとまってきた。
「あ、私は、クラスがとっても楽しいってことを伝えればいいと思う!そうすれば、楓ちゃんも友達とうまくやっていける自信がわいてくるんじゃないかな?」
「俺は、購買部とかのレシピの紹介とか、放送部の人気項目とかを紹介していけばいいと思う。詳しく教えたら、親しみやすくなるんじゃないか。」
「うん、いいんじゃない。じゃあ、ここで話してるときりないし、一旦帰ろう。みんなって、6時から6時15分まで空いてるかな?できれば、グループラインで話し合いたいんだけど。」
凛空に言われて、ハタと気づく。
そうだ。気が付けば、もう凛空と優空ん家までわずかだった。
「お風呂の時間だけど、ズラせばいいから空いてる!」
「こっちもオッケー!」
「じゃあ、6時ごろにグループラインに入ってきて。颯はお風呂の時間だっけ。無理しなくていいから。」
そう言われて、俺は、ドキリとした。
凛空は、そんなとこまで気をつかってるのか。
「あ、ありがと。頑張ってズラしてみるよ。」
なんだか、申し訳ないな。
「じゃあ、かいさーん!」
優空の元気な掛け声とともに、それぞれ散らばっていく。
「……凛空!」
「ん?」
俺に気づいて、凛空が振り返る。
『がんばろ』とか、『頼りにしてるぜ』とか、言おうと思ったけど。
夕日を背にした凛空は、少しまぶしく見えた。
「……じゃあな」
「うん、バイバイ」
凛空が顔の下であざやかに手をふる。
それにつられて、俺も手を振り返した。
結局、物足りない言葉になってしまったのだった。
真っ赤に染まった夕日を見ると、だんだんとやる気に満ち溢れてきた。
明日も、晴れるかな。
☆おまけストーリー☆(っていうかド忘れして載せられなかったやつ)
「はあ……」
8月の空を頭にした俺は、ためいきをついた。
別に、学校や友達と会うのが|憂鬱《ゆううつ》だからなんて理由じゃない。
友達とは上手くやっていけてるし、女子とでも仲がいい。
で、なんで俺がためいきなんかをついているかっていうと。
2学期が始まり、1学期にボロボロだった成績を◎だらけの成績にしようと、なんとか頑張っているけれど、昨日の放課後、いろいろとあって宿題に使う教科書を取りに行けなかったというわけ。
思い出せば思い出すほど、ためいきがでてくる。
せっかく最近忘れ物しなかったのに……
「『せっかく忘れ物しなくなってきたのに……』って思った?」
「わわっ!」
俺の肩をポンと叩いて横から出てきたのは、クラス一の秀才・凛空だった。
「おはよ、颯。もしかして図星?」
「おはよう……最初の4文字はばっちりあってる」
さすが、長い付き合いの幼なじみ。
「ま、何を忘れたかは知らないけど?」
凛空が、意味深な表情を浮かべる。
その顔は、絶対知ってるだろ。
「まあ、そんなくらいで成績は落ちないと思うけど。じゃ、僕は日直なんで急がなきゃ。また教室で!」
「あ!あのさ、中休みに……」
『昨日の放課後のことを中休みに話したいから、来てほしい』って言おうとしたけど……
「ん?どうした?」
「あ、え、えっと……」
「「「キャーーーーー♡絹谷様だわーーーっ♡」」」
今すぐハートが飛んできそうな勢いで、先輩がこっちに向かってくる。
「げ!もう行かなきゃ。ごめん、またあとで!」
「わ、分かった……」
ていうか凛空って、そんなあだ名で呼ばれてるのか!?
中休みのことはちょっと残念だったけど……
「……俺、付き添わなくて大丈夫だったのか……?」
小走りで教室に着くと、俺はすぐさま机に着く。
「おはようっ」
「あっ、青陽くんおはよ」
「おはよう~!」
俺は爆速で席に着き、かばんを開けてこっそりと筆箱から鉛筆を取り出した。
いつもなら絶対始めに友達と喋る俺が先に席についていたら、怪しまれるだろうか……
俺はこっそりと周りを盗み見る。
驚いてこっちを見ていた子たちは、すぐに何事もなかったように去っていった。
…………凛空はまだ来てない。
ならば。
俺がこっそり井田先生が来てない今のうちに宿題を終わらせれば、なんとか怒られずに済む———
「あっれ~?なぁにしてるのかなぁ~??」
「!!?」
…………ハズだったんだ。
コソ泥みたいなことをしていた俺にわざとらしく声を張り上げたのは、優空だった。
こういうときだけ、優空は勘が鋭い。
トラブルメーカーの名がある優空の声は、すぐにクラス中に届いた。
「なになにっ?どうしたの?」
「青陽くん……もしかして今宿題やってるの?」
「颯!そんなことしてたら井田っちにガミガミ言われるよ!?」
「井田先生、けっこー怖いでしょ?大丈夫なの?」
「ああ~、2日連続井田先生のお説教聞かなきゃなんないのか!」
みんなの声は、次第に広まっていった。
「井田先生、厳しいからサンカクだらけじゃない?通知表」
ああ……俺の……俺の◎だらけの成績が…………
絶望した俺は、みんなの声なんか耳に届かなかった。
もちろん、俺は井田先生にHL時間にみっちりとお説教だ。
後ろから笑い声が聞こえてきたのが、ちょっと複雑だったなあとは思うけど。
でも、いいことはあった。
それは、井田先生が『青陽だけ中休みと放課後、先生の特別授業と宿題追加だ!』って、カンカンだったときに凛空が、『放課後家で僕が教えます。なので、宿題追加は、ちょっと……』って言ってくれた。
中休みに、なにか話したそうにしてたのは、伝わってたみたいだ。
成績優秀で真面目な凛空には先生は甘いから、許しが出た。
おかげで、中休みに昨日の放課後のことを話せた。
凛空って、こういう優しいところがあったりするよな。
変なオタクだけれど、そんなささいな気遣いで、俺はだんだん友達が好きになっていくのを感じたのだった。
次回、作戦は上手くいくのか!?
コメントよろしくお願いします( `・∀・´)ノ