編集者:ガンバ ルヨ
全能の神「太陽」が創造した星「フレア」
この星の人類はこの地で誕生した神と共存し太陽から直接力を与えられた「神託受者」が治める国で数億年の間平和に暮らしてきた。
しかし神ですら不死身ではない_太陽の力は年々衰え、ついには燭台の陽光ですら消えてしまった。
このままでは力が持たない。そう考えた現代の神託受者は神の最後の力を使い「神の子」をフレアに頭現させることにする。
神の子として顕現した主人公「カガリ」は再び陽光を燭台に灯すためにフレアを旅することになる。
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目次
Tens:soleil 第1話
神の子、降臨
静かな階段、ここに太陽の光は無く生物の声も聞こえない。
神のうめき声だけが聞こえる。さすがの神でも時間には抗えない、と言うことを改めて実感する。
いやここで考えてる暇はないわ。
神様には今、時間がない。早くしないと。
神が眠る神台まで行く豪華な装飾がついた道も今では物悲しい。
「おいゼラウス、お前が遅れるなんて珍しいな」
「仕方ないでしょ。少し時間くらい取ったっていいでしょ?」
「それにいつもこう言うのに遅れてるのは曉獄のほうでしょ?」
彼は少しイラッとした顔をしたがすぐに冷静になった。
「ほら早く。星の破片はどうした?」
「持ってるに決まってるじゃない?だから遅れたのよ」
「探すのにってことか」
「そうそう」
「それじゃ行くぞ」
「ええ」
私は星の破片を神台に捧げる。
「神の子よ、その力をもってこの地に再び陽光をもたらすのだ。」
捧げると同時に神台からとてつもない光が空へ飛び出した。
まるで空を引き裂くようだ。
「これで何とかなると思う?曉獄」
「さあな。これぞ本当の神のみぞ知るってやつだ」
「そういえばなんで私と曉獄だけなの?他の受者たちはどうしたの?」
「お前が遅すぎるから星の破片だけ捧げて帰っていったよ」
「ふふっ。ごめんね」
お願いよ。神の子。この星を、フレアを救う英雄になるのよ。
時を同じくしてオリンポス、黎明の森
雲の上からとてつもない音を立てながら流星のようなものが堕ち、森の1番大きい木、黎明の神木のそばに落下した。
なんだこれ?すごい...木の香り....?
「うぅ…」
「....ょうぶですか?」
「うぅ…」
「....ーい だいじょぶかぁ?」
「はっ!!」
「うわぁ!」
「びびび、びっくりしたぁ〜。もう、急に起きるなよ〜」
目が覚めるとそこにいたのは鹿の角のようなものがついた少女と猫の耳が頭についた少女だった。
「大丈夫ですか?あなた空から落ちてきたんですよ?」
「とりあえず自分の名前、分かりますか?」
「カ...ガリだ」
「カガリと言う名前でしたか。素敵ですね。」
鹿角の少女が続けて
「私の名前はアリアです。こっちの猫はニコ」
猫の少女は
「やっほ〜。アンタだいじょぶなの?頭とか痛くなぁい?」
と気にかけた。
「あなたは、ここでは見ない顔ですね。いったいどこからやって来たんですか?」
「分からない。いったいどこて生まれてどうしてここにいるかも俺は分からない。」
「まぁとにかくさー館に連れてこーよ。君のことがなんなのか分かる人いるかも。」
「館?」
「星霜の館です。もしかして知らないんですか?」
「まぁまぁとにかくさ。いこーよ。」
「分かりました。カガリ君は今歩けますか?」
「ああ。歩ける。」
「分かりました。それでは館に向かいましょう。」
館に向かっている道はとても神秘な森のようで、白い幹に黄金の葉が生い茂っている。遠くから鳥の鳴き声のようなものも聞こえる。
「あ、そういえばカガリ君、ここに来る前のことって、覚えていますか?」
数秒間沈黙したあと
「いや全く。どうしてここに俺がいるのかも分からない。」
「ホントに分かんないことだらけじゃん。」
「そんなこと話してる間にほら。着きましたよ。ここが星霜の館です。」
そこにあったのは大理石でできた大きな神殿と横にはこれまた大きな館があった。
「すごい建物だな」
「そりゃそーでしょ。だってゼラウス様が作ったちょーすげー神殿と館なんだよ。」
そんな話をしていると神殿からベールを被った女性が出てきた。
「ゼラウス様!?どうしたんですか?」
「あら。ごめんなさい急いじゃって。」
と言うと突然俺の方に話しかけてきた。
「まぁそんな事は置いておいて。そこの黒髪の男の子に私は用があるの。ごめんねアリアちゃん。」
「ニコちゃん。その男の子の名前はなんて言うの?」
「カガリだよ。」
「そう。カガリ君って言うのね。火を灯すのにぴったりな名前だわ。」
火を…灯す? いったい何のことだ?
「おい、火を灯すってどう言うことだ?」
「え?」
どうして知らないの?もしかして神の力が衰えすぎて産み落としたときの使命の記憶がない…?
これはかなり大変なことになるかもしれないわ。
「まぁとりあえず私の部屋に来て。アリアちゃんとニコちゃんはイーストスの部屋に戻っていて。」
「わかりました。ほらニコ、行こう。」
「わかったよ〜」
これはどういう事だ?もしかしてこのベールの女は俺の命を狙ってるのか?
そんなことを思いながら館に入る。
館の中もあの森に劣らないほどに神秘的だった。神殿が横にあるからだろうか。
ベールの女は自分の部屋に俺を案内し、自分の椅子に座った。
「そう言えば自己紹介がまだだったわね。私はゼラウス。この国の統治者であり神託受者よ。」
いったいこの女は何を考えているんだ?
と、思いながら話を聞いていると。女は何かを取り出した。
「カガリ君、ちょっと名前以外の自己紹介をしてくれないかな?」
俺は何も説明できなかった。なぜならなにも“分からない“からだ。
「ほら。何にもわからないでしょ?」
どういうことだ?なんで…俺はここにいる?
「じゃあ、教えてあげる。君がどうしてここにいるのかを。」
ゼラウスは星の破片をカガリの額に当て、こう唱えだした。
「神の子よ、その力をもって再びこの地に陽光をもたらしたまえ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
気がつくと空の上にいたような気がした
これは? なんなんだ?
『これはあなたの使命です。再び私の力を取り戻すこと』
「はっ!」
そうだ俺は神の子だったんだ
神様の力が衰えたから、俺はまたフレアに陽光をもたらすためにここにいるんだ。
神は続けて語りかける。
『私の手中にある燭台にあなたは火を灯す。これは10ある。これを全て、あなたは灯す。』
『灯し終えたのなら再び空に帰ってきなさい。』
えっ?
「俺はフレアにずっといることはできないのか?」
俺は気付くと神に話しかけていた。
『あなたはずっと地で暮らしたいの?』
「ああ。一瞬しか見ていないけど、とっても綺麗で空よりも美しかった。俺はずっとフレアで暮らしてみたい。」
神はしばらく沈黙したが
『良いだろう。そうかもうフレアは空よりも美しくなっていたのか。』
『私はもう長くはない。楽しんでこい。火を灯し終えたら普通の人間になればよい。』
「ありがとう。」
「はっ!」
「うふ。起きた?神様とお話しできた?」
「もう一度聞くわ。あなたの使命は?」
「…燭台に、火を灯す。そして再びフレアに陽光をもたらす。」
「うん。バッチリみたいね」
ゼラウスは頷き、俺の方を見るのをやめた
「ゼラウス。伝えておきたい事がある。」
ゼラウスは振り返って
「なぁに?どうしたの?」
「全ての火を灯し終えたら俺は人間になって、またフレアに降臨する。」
「その時また記憶が無かったら、俺のことを見つけて色々教えて欲しい。」
ゼラウスは少し驚いたようだったが、瞬きして微笑んだ
「ええ。わかったわ。」
「それじゃぁとにかくゆっくり進めていきましょう。」
「まずはイーストスの部屋にいって、アリアちゃんたちと仲良くなってきてちょうだい。」
「わかった。」
俺は扉を閉め、イーストスの部屋へ向かった。
うふ。面白いフレアの旅になりそうね。
ゼラウスは窓の外を見ながら心の中でつぶやいた。
用語解説
オリンポス
ゼラウスが統治する12の神を信仰する国家。
古くもどこか新しい風が吹く比較的治安のいい国。
対応する空の色は黎明。
モチーフはギリシャ。
Tens:soleil 第2話
イーストスの部屋
数分前。イーストスの部屋。
「イーストス様。ちゃんと司祭の仕事、済ませましたか?」
「それなら大丈夫。あんたたちが黎明の森に行ってる間に全部済ませたよ。」
「へぇ〜。イーストス様がこんな早く仕事を終わらせるなんて。今日は大雨だな。」
「悪かったわね。いつもお仕事、してなくて!」
「そんな怒んなくてもいいじゃ〜ん?」
「はぁ。まったくですね。」
カガリ君大丈夫ですかね?あのゼラウス様が見た瞬間飛びついてきた...なにかありそうですね。
そういえばこの結晶のようなものはなんなのでしょうか?なにか...眠っている?寝息ですかね?
現在
たしかイーストスの部屋って言うのはここだったはず...。
よし、行くか。
ガチャッ
ドアの向こうにはアリアとニコ、そして白と赤い髪色をした女性だった。
この女がイーストス?
と思っていると
「カガリ君!?大丈夫でしたか?」
「お〜。無事っぽいね。ゼラウス様になに話されたの?」
2人は俺の方にそう言いながら駆け寄ってきた。
「すまないな、2人に心配かけて。」
「いやいや。まだそんな仲じゃないでしょ。さっき会ったばっかりなのにさ。」
「確かに。さっき会ったばかりなのになんなんだろうなこの...親近感?」
いやいや。そんなこと話してる場合じゃないな。早く伝えよう。
「2人共、落ち着いて聞いてくれ。」
「なんですか?」 「なになに〜?」
2人は同時に聞いた。
「俺、神の子だったらしいんだ。俺は、この世界に再び陽光をもたらすためにここにいるんだ。」
....
「え!?神の子?そうなの?」
以外にもいち早く反応したのはイーストスだった。
「え?イーストス様、知ってるんですか?」
「まぁそっか。知らなくて当然か。ゼラウスが昨日言ってたけど、もうじき神の子の降臨の準備が終わるって。」
「でも見た目はどんななのか知らなかったから。そっかぁ君だったんだね。たしかに顔に黄色い紋様があるしね。」
別に神の子の存在は秘匿するべきではない。むしろ知ってもらったほうが旅を円滑に進められると言う事もある。ゼラウスが何故、司祭達にしか伝えていなかったかは謎である。
「あのさぁ〜、んな事よりカガリ。あんた頭打ってんだよ?」
「あ、そうでした!早くデメテル様の部屋へ行かないと!」
え?え?え?
怒涛の勢いすぎてあまり状況が理解できていなかったが、俺は頭をだいぶ強く打っていたらしい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここがデメテルさんの部屋です」
デメテルの部屋は主に外傷などの治療をして「救い」を与える部屋らしい。
アリアは俺が分からないことを分かりやすく解説してくれる。ホント助かる。
コンコン
「はーい」
声がした。この声の主がデメテルなのか?声からして恐らく女性。
ガチャッ
驚いた。出てきたのは緑髪の男性だった。
「ん?お前、見ない顔だな。名前は?」
「カガリだ。」
「知らない名だ。帰れ。」
ええ...?どう言う事だ?
などと、思っていると奥から女性の声が聞こえた。さっきの声と同じだ。
「こらこらランゼく〜ん。知らないからって追い返しちゃダメですよ〜。」
「いやだって、ホントに見ないか...」
「はいはい分かったから。ほら、奥で調薬でもしてて。」
「わかったよ...」
ランゼはすぐに言い負かされ、奥へ行った。
女性は金髪を靡かせながらこちらを向いた。
「あら。大丈夫?頭を打ったの?」
女性は優しくこちらに話しかけてくる。
「ああ。ちょっと、頭を打って...」
「うふ。ヤンチャな子ね。待っててね。お姉さんがすぐに治してあげるから。」
うう...あのランゼとか言うやつが言い負かされたのも、何となく分かるような気がする...
「じゃあ始めるからじっとしててね。」
ポワッ
そう音をたてた瞬間、頭から一瞬で痛みが引いていった。
「よし。これで大丈夫ね。」
「お前...名前はなんて言うんだ?」
「え?デメテルよ?」
ああ。この人がデメテルだったのか。
「て言うかどうして痛みがこんな一瞬で治ったんだ?」
「ああ...それは...魔法よ。」
魔法?フレアには魔法も存在していたのか。
「それとあなた神の子でしょ?」
「え?なんで...」
「そりゃ知ってるわよ。昨日ゼラウス様が言ってたんだから。準備が終わったって。」
「あなた、これから旅に出るでしょ?だからお薬処方しておくわ。」
「なにかあったら使う事。いいわね?」
「分かった」
「よろしい。ふふっ。」
何に効くかは分からないが薬をもらった。
アリアとニコはドアの前で待っていた。
「お〜。治ってんじゃん。良かったね〜。」
俺は2人としばらく立ち話をしているとイーストスがやってきた。
「ねぇねぇ3人とも〜。まーたアポロンが調査行ったっきり帰って来ないって〜」
アポロン?誰だそいつ?
「またですか。エウレカ博士も大変ですね。2人共、急ぎましょう。また古代の装置とか勝手に起動されたら困ります。」
「そだね〜。さっさと行こ。ほらカガリも」
「分かった。で、どこに行けばいいんだ?」
2人はあ、そうだったみたいな顔をした。どうやら2人も知らないようだ。
「まぁ、どこかしらの遺跡とかだと思います。まずはエウレカ博士を探しましょう。」
「おっけー」
3人は急いで遺跡を探しに行った。
用語解説
星霜の館の司祭
ゼラウスの直属の部下。同名の12の神の力を引き継いだ者たちの総称。
これには星術が覚醒していないとなれない。
Tens:soleil 第3話
最古の遺跡
しばらく走っていると明らかに整備された地下へ続くトンネルが見えた。
そのトンネルの横に白衣を着た女性が立っていた。
「あっ!エウレカ博士〜」
白衣の女性にアリアは大声で呼びかけた。
「アリアちゃ〜ん!ごめんねーまた呼び出して。」
「あれ?そっちの男の子だれ?」
「あ!顔に黄色い紋様があるなぁ。もしかして神託受者!?」
白衣の女性は俺に駆け寄ってきた。
「ちがうよ博士〜。こいつは神の子だよ。」
ニコがすかさず訂正した。
「へぇ〜そうなんだ。あっ自己紹介忘れてたね。私はアルキメデス発明工房のエウレカ。エウレカ博士って呼んでね。」
「君は何て言う名前なの?」
「俺はカガリだ。」
「へぇ。いい名前だね。」
「あの。盛り上がっているところ申し訳ないのですがエウレカ博士、さっきまで何をしていたんですか?」
エウレカ博士は少し慌てながらポケットから小さな機械を取り出した。
「これでこの遺跡の地図作ってたんだ。」
「この遺跡は最も最初にできた都市の遺跡だからね。古すぎてだれも調査しようとしないの。」
「500年くらい前に先遣隊が行ったって言う記録があったんだけど、記録によると遺跡へ向かったあと誰一人として帰ってこなかったんだって。」
「だから地図も成果も今の所なにもないのよね。」
「だからこそアポロンが心配なの。」
最古の遺跡か…
「ん?なんでエウレカ博士は中に入っていないのに地図が作れるんだ?」
「そうでしたね。説明するのを忘れていましたね。これはエウレカ博士の発明品『地下調査ミニロボット君』です。」
アリアが説明をしてくれた。
「まぁとりあえず地図はある程度完成したからさ。さっさと中入ってアポロンをさがそうよ。」
エウレカ博士はそう急かした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
トンネルの中は暗く明かりは一つだけ先遣隊が置いたと見られるランタンと俺が持っているライト1つだけだった。
トンネルの上からは水が滴り落ちていて、その下には小さな水たまりができていた。
「あれは…ゲート?」
ニコがそう言うとすかさずエウレカ博士が
「そうそう。あれが遺跡への入り口だよ。」
ゲートを通ると石に包まれた道があった。
石の床には黒いシミと骨らしきものがあった。
「あの…もしかしてそこのシミって…」
アリアは少し震えたこえでエウレカ博士に言った。
「そうなんじゃない?まぁ地図には載ってなかったからわかんないけど。」
なかなかに雰囲気のある遺跡だな…最古と言うだけあるな。
しばらく歩くと石でできた門が出現した。
横には石でできた守り人のような像があった。
「これは…普通に開けられるやつですかね…?」
アリアはまだ少し声が震えていた。
「とりあえず開けよ〜よ。」
ニコがそう言いながら門に手をかけようとした瞬間
ギギギ…
「ココカラサキハ…トオサヌ…」
「やっべ」
ニコが手を離した時にはもう遅かった。
「キエ…ロ。」
ドォォン!
石の像は大きな音を立てながら乗っていた台を壊しながらこちらに迫ってきた。
「ヤバいヤバい!」
ニコがそう叫んだ時
「あ!これあったんだった」
「え?なんですかぁ?はぁはぁ」
全員全力で走っていたからかアリアの喋り方も違っていた。
「電磁波檻、展開!」
バチィ!
「ゲホッ!はぁ…」
目を開けると、石の像は電気でできた檻に閉じ込められていた。
「はぁ〜よかった〜。危うく死んじゃうとこだったよ〜。」
「そういえばエウレカ博士。この電気の檻はなんなんだ?」
「これ?これはね私の発明品の『ポケット電磁波檻』。いっつも持ち歩いててよかった〜」
どうやらまた発明品らしい。ほんとなんでも作ってるなこの人。
ギィィ…
石の像が動かない事を確認して後ろの門をうごかした。
「はぁ。それにしてもアポロンさんはこの石の像のことどうやって対処したんですかね?」
しばらく遺跡の最深部を目指して歩いていると
「あ!地下調査ロボット君がこんなとこに!しかも壊れてるし。」
エウレカ博士は叫んだ。
地図はここまでしか続いておらずここから先は地図なしでの調査となる。
ここまで来たら何故か遺跡の中は明るくなった。
「もうライトいらないんじゃないの?もう明るいしさ。」
ニコは俺に言った。
「確かにな。じゃあエウレカ博士に渡しておくか。」
俺はエウレカ博士にライトを渡した。
ゴォォォ…
「ん?何の音だ?」
「確かに。さっき風を切るような音がしたような…」
次の瞬間俺の目の前にはさっきの石の像の拳があった。
「あぶない!」
ドォォン!
「嘘でしょ!?壁にめり込んでる…」
「しかも前にも後ろにもいるし…挟み撃ちじゃないですか!」
「さっきの檻を抜け出したの?そんなはずないのに…」
メキメキ…
遺跡の天井から音がした。
「嘘でしょ…上からも?」
ドォォン!
「え?アポロン!?」
次の瞬間エウレカの前にはサングラスをかけた男が立っていた。
「大丈夫だよみんな。俺がなんとかするから。」
「エウレカ。そこの壁にめり込んでる男の子はなんなの?」
「あの子はカガリっていって、アリアたちによると神の子らしいの。」
アポロンは少し驚いたが
「へぇそうなんだ。まぁ、あとで聞こうか。」
「それよりもこいつらを片付けないといけないみたいだね。」
アポロンは改造が施されたハンマーを肩にかけた。
「それじゃぁ、さっさと終わらせて調査に戻ろうか。」
用語解説
魔法
フレアに存在する不思議な力の総称。
他の一部の国では「呪術」や「妖術」など様々な名前で呼ばれている。
Tens:soleil 第4話
魂
「それっ!」
バキィ!
凄まじい音を立てながら石の像は消えた。
「アポロンさん!も〜今まで何してたんですか!」
「ごめんごめん。それよりあの壁にめり込んでる男の子のことは?」
アリアははっとして壁の方に走りだした。
「カガリ君!大丈夫ですか?」
「アリア、ちょっと一旦どいてくれない?」
ニコはカガリの腰についた小さなポシェットに手を突っ込んだ。
「あった、薬!やっぱデメテル姉さんはそう言う人だ!」
ニコはデメテルが調薬した薬を水に溶かし、カガリの口に注いだ。
「カガリ…」
「カガリ君…」
しばらくして落ち着いたエウレカ博士が走ってきた。
「だ…大丈夫…だよね?だって神の子…でしょ?」
「ゴホッ!ゴホッ!はぁ…」
カガリは目を覚ました。
「カガリ君!」
アリアは少し泣きながら俺に抱きついた。
「はぁ…よかった…死んだかと思ったじゃないですか!うぅ…」
「ちょっとちょっと君たち。感傷に浸ってるとこ申し訳ないけど早く行かなきゃいけないよ。」
「後ろからまた何か来るかもしれない。早く先に進もう。」
アポロンはそう促した。
ゴォォ…
まるで廊下のような洞窟を風が吹いてる。
「ねぇアポロン。」
「どうした?エウレカ。」
「この遺跡いくらなんでも綺麗すぎない?近い年代に作られたと見られる遺跡はもっと寂れていたのに…」
「そりゃぁねぇ。この遺跡が作られたのは1億年よりもっと前の遺跡だからね。」
「え?どう言うこと?」
アポロンは話を続けた。
「この遺跡群は最初から地下に作られたものだから。保存が開始されたのもかなり前だ。」
「そもそもこんな洞窟状の遺跡なんて最初から地下に造られていないとそうないでしょ。」
「あの…話が変わるんですけどアポロンさんはどうやってこの遺跡の天井にいったんですか?」
アリアはアポロンに問いかけた。
「ああ…それは、正しいルートでいったからだと思う。そもそも君たちは入り口を間違えていたんだよ。」
「最初、ゲートが見えたでしょ?俺が発見したのはその横の隠し通路。そっちが正しかったらしいよ。」
「おかげで生き物とは遭遇しなかった。」
「とりあえずさ〜先に進もうよ。その正しかったルート、戻ろうよ。」
ニコがそう言った。
「そうだよ。ニコの言う通りだ。先のことは歩きながら話せばいい。」
俺の言動に皆は頷いた。
遺跡の探索も大変だな…。
「着いた…。ここが最深部のはずだけど…。」
アポロンは困惑した。
「この遺跡、守ってるやつは居ないのね。」
皆で最深部に続くドアを押した。
ゴゴゴ…
開けた瞬間、そこには人型の化け物がいた。
「だよねー。いると思った。」
ニコは呆れていた。
「これは一旦外に出た方がいいね。この遺跡には迷った魂が多すぎる。」
「迷った魂?」
俺は気付くと聞いていた。
「外に出て説明した方がいいですね。」
アリアは言った。
「アリアたちは外に出たら、ハーディスを呼んで来てくれない?」
「分かりました。とりあえず皆さん外にでましょうか。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺たちは全員外に出て、エウレカ博士は少しほっとしていた。
「とりあえず館に戻りましょう。星術も使うことになりそうですね。」
アリアはニコと俺と一緒に館へ歩き始めた。
「あ、迷った魂と星術の説明を忘れていましたね。」
「そうだぜ、アリア。教えてくれ。」
「はい。まずこの世界で生きるためには魂が必要で、死んだらまず肉体は消え、魂はこの世に放り出されます。」
「普通、魂は冥界という場所へ悪魔と共に行き、次の自分の肉体ができるまで花の上でまちます。」
「しかし、強い憎しみなどでこの世に未練を残したままだと、一生この世を彷徨うんです。」
「それが迷った魂で、それが他の動物や物などに取り憑いたものが『ミイラ』と呼び、人などを襲うようになるんです。」
「さっきの石の像も恐らくミイラですね。あと人型のやつも。」
「へぇ〜。そうなんだ。」
なぜかニコが俺よりも頷いていた。
「なんで俺よりもニコが頷いてるんだよ…。」
アリアはため息をついたが、無視して話を続けた。
「次に『星術』です。これは一部の人間に覚醒する特異な能力のことです。」
「覚醒する能力は人の数だけあると言われていて、体のどこかにその能力を象徴する模様が浮かび上がるんです。ほら、私の背中にも双葉みたいな白い紋様、ありますよね。」
「アタシは手の甲に、ほら。青いやつ。」
2人は星術が覚醒した証である紋様を俺に見せてきた。
「カガリにもあるよ。右目の下に。黄色の。」
「エウレカ博士がカガリ君をみて神託受者と言ったのは、特徴が受者と全く同じだったからですよ。」
「あ。言ってたら着いたな。星霜の館。」
館を外から見るのは二度目だったが、やはり壮大だった。
3人は中へ入った。
「ハーディス様の部屋って、どこでしたっけ?あまり行くことはないので忘れてしまいました。」
とか言っていたが、割とすぐそこにあった。
コンコン
扉は遺跡のものより重いような気がした。
「おい。ハーディスはいるか?」
俺は遠慮なく聞いた。
「あれ?いませんね。しばらく待ちましょうか。」
しばらくすると。
「ねぇ。」
「「「うわぁ!!」」」
三人は同時に驚いた。
「びっくりした〜。あ、ハーディス様。」
アリアはすぐに気付いた。
「イーストスの所のお2人と、あ、神の子か。」
ハーディスは部屋にあった自分の椅子に座った。
「それで、3人はなんの用なの?」
今回は珍しくニコが説明した。
「この近くに最古の遺跡があるの知ってる?」
「知らない。そう言うの興味ない。」
「まぁそれはおいといて。そこにはいっぱい迷った魂があってね、もう時期最深部にある人型のミイラがヤバいの。だからまだ迷ったままの魂をハーディスの手で、冥界に送ってくれないかなって。」
ハーディスはしばらく黙ったあと、
「いいよ。確かに今は暇だし。私は悪魔だけど自分のこと悪魔だと思ってないから。私はただの善良な人間だって。」
「めんどくさいけど、付き合うしか無さそうな空気感だし。今。」
ハーディスはそう言いながら渋々承諾した。
「やった〜!じゃぁ頑張ってね。私たちも協力するから。」
「じゃぁちょっと待って。リリアンたち呼んでくるから。着いてきていいよ。」
ハーディスはめんどくさそうに椅子から腰を上げた。
窓から少し光が差し込み、ハーディスの角が少し光った。
専門用語解説
悪魔
冥界からの使者。
魂を持たないため死ぬことはなく、人間の姿になって死んだ時も輪廻転生を繰り返す。
人間の姿では、尖った角と先端が三角の形の尻尾が特徴。
Tens:soleil 第5話
眠っていたソレイユ
「たしかリリアンたちは、森の下でマジックの練習してたっけ。」
ハーディスは星霜の館から出て、山を下り始めた。
マジックと言うのは魔法を使わずに不思議なことをおこす娯楽らしい。
「マジックですか。私、1回やってみたんですけど結構難しくて。」
「まぁ確かにね。私は魔法覚えた方がいいと思うんだけどね。2人は好きらしいよ。」
などと話していると、兎の耳が生えた少年と黒髪で後ろに大きなリボンをつけた少女が見えた。
「あ、ハーディス様!こんな所までどうしたんですか?」
少女の方がこちらに声をかけてきた。
「あれ?アリアさんにニコさんじゃないですか。そちらの方は初めましてですか?」
「ああ。初めまして。俺はカガリだ。」
「初めまして。私の名前はリリアンと申します。」
「そしてこっちの兎の獣人はハクトです。」
リリアンは少年の方を見ながらこちらに紹介した。
「よっ。僕はハクト。マジシャンやってるよ。」
ハクトは気さくに挨拶した。
「早速、本題に入らせていただきます。」
アリアは説明を始めた。
「この近くに最古の遺跡があるのですが、そこに迷った魂が多くあるんです。」
「そしてさらに、もう少しでその遺跡の最新部にある人型のミイラが大きくなって、遺跡から出るかもしれません。魂が複数体同じ体を共有すると。強大な力となり人々を襲いかねないので、なり今危ない状況なんです。」
「だからハーディス様とその部屋の人たちに協力を要請したいんです。」
リリアンとハクトは話を聞き終えたときほぼ同時に頷いた。
「なるほど。まぁハーディス様が協力すると言う時点で私たちが動かないという選択肢はありません。」
「だからまぁ、僕たちも協力するよ。しかも話によると結構時間なさそうだし。」
「ありがとうございます。」
アリアは礼を言った。
「とりあえずさ、今から向かう?」
ニコがリリアンに言うと、
「今から行きましょう。ハーディス様。」
ハーディスは少し驚き、ため息をついたが、
「わかったよ今から行くよ。じゃぁニコでいっか。案内よろしく。」
「かしこまり〜」
ニコの案内でまた遺跡へ行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お、来たみたいだね。」
今度はアポロンが最新部まで案内してくれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これが最新部に続く門か。結構大っきいね。」
ハーディスは上を見上げながら関心していた。
「というかハーディス様。ここまで迷った魂ありましたか?」
リリアンはハーディスに聞いた。
「いや全く。でもずっと下から…多分この部屋から、うるさい呻き声が聞こえてる。」
「悪魔が迷った魂の案内をしたがらないのは単純だよ。うるさいから。ただそれだけ。」
悪魔はうるさいことが嫌いなのか…。
俺は少し悪魔がうるさいことが嫌いな理由を考えてみたが、すぐにやめた。
人間誰しもうるさいのは嫌いだな。
「じゃぁ…開けるよ。」
エウレカ博士はドアに手をかけた。
ギィィ…。
バン!
ドアを開けた時裏返った声が大量に聞こえてきた。
「アアアアアアアアアアアアア!」
「「ウウウウウウウウウウ!」」
「うるっさ!」
ニコは叫んだが、あまり聞こえなかった。
それほどまでにここの魂は多いのだ。
「「「オマエタチ…ダレダァ!!」」」
魂たちは叫んだ。
「ううぅ…鼓膜が…こんなにうるさいなら耳栓でも持ってくればよかった…。」
エウレカ博士は耳を塞ぎながら言った。
すると突然、ハーディスは持っていた三叉槍を床に勢いよく叩きつけた。
ガン!
「静粛に。うるさい魂たち。これで二度目だよ。」
魂はすぐに静かになった。
「そこで今すぐに肉体を捨てて。言うことを聞かないと、ここであなた達の魂を消去する。」
俺は気になってアリアに話しかけた。
「え?魂って消すことができるのか?」
アリアは答えてくれた。
「ええ。悪魔は魂を喰らう権利を神様から与えらています。フレアの自然の摂理に従わない魂を。」
なるほど…ハーディスは今、最初から案内するつもりなんてかったのか。
恐らくハーディスは昔、この遺跡の魂を見つけて冥界に案内しようとしたけど、こいつらは言うことを聞かなかったのか。
「「「ウル…ウルサァァァイ!!!」」」
魂は結局最期まハーディスの忠告を聞かなかった。
「へぇ…じゃあさよなら。もう二度と悪魔の手を煩わせないようにするために、消すね。」
魂たちはハーディスに襲いかかったが、一瞬でハーディスの三叉槍に切り裂かれた。
「リリアン、今回は後処理必要ないから。」
「分かってますよ。消すのだって、これで3度目ですからね。」
「アポロンたち、着いてきて。奥にまだ部屋があるよ。」
ハーディスは奥にあったドアを指差した。
「本当だな。それじゃあみんなで行こうか。」
ギィィ…
部屋の中には小さな神台しかなかった。
「ええ…ここ来るまで迷路みただったのに…」
ニコは残念がっていた。
「まぁ遺跡の調査ってこんなもんだよ。」
アポロンがそう言い、みんなが帰ろうとしたその時、
パァ!
アリアが持っていた寝息のする石が光を放った。
「ええ?カガリ君の近くに落ちてた石が…」
「アリア、なんだそれ?」
アリアが持っていた石を俺が掴むと、
バキ!
「えっ?」
石は突然割れ、それと同時にあくびが聞こえた。
「ふぁぁ…。おはよう、カガリ。」
目を開けると俺の目の前に白いモフモフの妖精が浮いていた。
「だ…誰だ?お前。」
「え?ソレイユだよ!ソレイユ!」
専門用語解説
継承者
星霜の館で12の神の権能を引き継いだ人間。
継ぐと同時に名前もその神様の名前に変わる。
イーストスやアポロンなどもその1人。