名古屋市立某中学校は、俗に「御三家」と言われるほどに賢かった。そんな学校の1年生の中でも、特に内申が高かった者たちがいた。高戸圭介(たかどけいすけ)、帆山修吾(ほのやましゅうご)、呉屋藤二(くやとうじ)の3人である。他の生徒たちは、彼らに尊敬の意を示すとともに、「内申三銃士」とよび恐れていた…。
続きを読む
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
内申三銃士〜1学期末〜
一学期の終業式。彼らは高水準の戦いに挑んでいた。
「ほな、通知表を各々に渡していく。みんなは、中学生として初めて貰う通知表やけ。では、いくつか注意をさせてほしい。まず、あまり騒ぎすぎないように。あくまでも今は授業中。なるべく静かにすること。それと、周りと比べないように。成績は人と比べるためにあるものじゃない。それに、人と比べたところで得することはあるのか。今一度考えてみてほしい。じゃあ、一番の|芦ケ谷《あしがや》から順に、三十二番の|和久田《わくだ》まで」
私の教師はこう言った。が、我々生徒はそんなことは守らない。「内申どうだった?」とか、「お前、俺より上じゃん」とか、もうすごいうるさい。
「呉屋、」
先生は言った。|呉屋藤二《くれやとうじ》、出席番号は10番。彼は、非常に成績が良く、授業態度も素晴らしい。教師や保護者からの評判も良かった。
「よっさ!思いの外高いぞいー」
彼は満面の笑みを浮かべて席へ戻る。僕は彼に内申がいくつだったか聞いた。
「内申、ああ、44さ。高いだろう。国語、数学、理科、社会、英語の『主要五教科』は全て内申が5。体育だけは4だったね。まあ仕方がない。足の骨を折っ
て、外体育に全く参加できなかった時期もかなり長かったからね 」
---
「高戸、」
先生は言った。|高戸圭介《たかどけいすけ》。彼も、頭が良く、かつ授業でも積極的に発言する。
「はいキターー!内申43」
呉屋君と比べれば低いが、それでも相当な猛者であろう。言われてみれば、第一回定期テストの学年一位は、この高戸圭介だった気がする。恐るべし。
---
「帆山」
先生は続けて言った。|帆山修吾《ほのやましゅうご》。彼は、誰もが認める天才であると言えよう。凡ミスは多いが、それでもワークの正答率は比べ物にならないくらい高く、テストでも凡ミスを除けばミスをしたことがないだとか。嘘かもしれないけどね。
「はい、神降臨ニダー!内申45!キターー!」
クラス中が驚いた。この学校で内申45をとるのは大変難しい。暗黙の知識である。しかし彼は難なくとってきやがる。
---
彼らは、のちに|伝説《ゴッド》となるのかもしれない。。うちのクラスでは、そんな彼らのことを「|内申三銃士《내신 삼총사》」と呼ぶことにすることとなった。尊敬するとともに、その桁外れの能力に恐怖を抱いた。
明日から夏休みである。彼らは、どのように成長するのするのかが気になる。
【あとがき】
筆者も内申45です
内申三銃士〜2学期末〜
あれからおよそ5ヶ月後の、12月20日。2学期の終業式がやってきた。彼らの内申はいかに…?
あれから、もう5ヶ月の月日が流れていったとは思えない。私達が、あの「内申三銃士」を恐れるようになった日から、もう5ヶ月。5ヶ月。時の流れを感じるとともに、彼らの内申がいくつか非常に気になった。
「ほな、2学期の通知表を渡す。一つ言っておきたいことがあるが、1年生のこの時期の内申は、将来の進路には大して関わらない。そこを留意していてほしい。そしてもう一つ。君たちは、この2学期とても頑張ったであろう。自分たちを褒めて、少しは休もう。じゃあ、一番から順に来なさい。芦ケ谷、」
先生はこうおっしゃった。この頃の内申は進路に大して関わらないだと…?私は耳を疑った。しかし、それは事実なのかもしれない。なぜかって?実はこの先生、もう40年近く先生をされていて、今年で定年退職するからだ。そんな先生の言うことは、概ね正しいと信じる。
---
「呉屋、」
呉屋がやってくる。彼は通知表を見て、満面の笑みを浮かべた。内申を聞いた。彼は、45であると答えた。マジかよ、と大変驚いた。
「足の怪我も直ってきたし、無敵や!もともと俺は大して器用でもなく、賢くもなかった。だから、人一倍努力したんや。そりゃあやめたかったね。けれど、やっていくうちに楽しさに気づいた。そうして、さらに努力した。そうして、今、僕はこの|通知表《努力の結晶》を受け取った。報われたんだ。」
彼の言っていることに感動してしまった。
---
「高戸、」
先生は呼んだ。彼は自信げに歩いてくる。が、受け取った顔は決して良いものではなかった。絶望していそうだ。
「内申…下がってしまった。40。40。人よりは高いからすごいとか、もっと低い人もたくさんいるんだから我慢しろとか言われるけど、俺はそんなことは気にしてない。自分の感情を嘆いただけや。来学期こそは、本気で努力して内申を上げてやる。調子に乗らないようにしやんとね。」
---
「帆山」
先生は続いて呼んだ。彼の顔は自身に満ち溢れていた。机へ戻る顔も同様に自身に満ち溢れていた。
「よっす、45だぁ。やったぜ。個人的には、『効率』と『量』を重視して勉強に取り組んだ。馬鹿みたいに時間をかけて問題を解くのではない。効率を最優先するんだ。どれだけ早く出来るか、時間内にどれだけのことを学習したり、ワークに取り組んだりできるか。それに、量も大事だ。特に数学や国語は、問題を何回も解いて『解くことに慣れる』ことが重要であると考える。」
---
3人の言うことは、どれも『内申三銃士』として相応しい言葉であろう。低ければ上げようとし、高ければ継続しようとする。彼らは、単に賢いだけではない。その強靭な精神を、私たちクラスメイトは皆尊敬している。
【あとがき】
大きな声でピリカピリララ♪