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目次
『想いは、時を巡る。』 〜Introduction〜
〜character〜
・ユナ(|増田結菜《ますだゆな》)
どこにでもいる普通の女子高校生。人気アイドルグループ・|Prince×2《プリンス・プリンス》のメンバーであるタクトを推している。
・タクト(|馬場拓斗《ばばたくと》)
Prince×2のメンバーであり、1番人気のエース。爽やかイケメン。イメージカラーは青。
・七海(|鈴木七海《すずきななみ》)
ユナの親友。タクトに没頭しすぎるユナを心配しつつも、陰ながら支えている。
・Prince×2のメンバー(おまけ)
|宮本優人《みやもとゆうと》
Prince×2のリーダーであり最年長。タクトをしばしば気にかける。イメージカラーは赤。
|佐野周《さのしゅう》
Prince×2のメンバー。人懐っこい子犬系男子。イメージカラーは黄色。
|田代政樹《たしろまさき》
Prince×2のメンバー。オシャレ担当。イメージカラーは紫。
|中川隆太郎《なかがわりゅうたろう》
Prince×2のメンバー。運動が得意。イメージカラーは緑。
|神藤奏希《しんどうかなき》
Prince×2のメンバー。音楽全般が得意で、ピアノとバイオリンが弾ける。イメージカラーは黒。
この小説は、投稿時間を決めたいと思います。
毎週、水曜の午後10時に投稿したいと思います。
登場人物が少ないです。他のPrince×2のメンバーは一応紹介しただけでセリフはそんなにないつもりです。
全6回です。よろしくお願いします。
他の小説も勿論投稿していくつもりです。ウマ娘の小説もちゃんと週1投稿します。(なので、小説4つ掛け持ち状態です………ヒェー)
こればかりは欠かさず投稿できるように頑張ります!
『想いは、時を巡る。』 episode.1
悲しみの淵に堕ちたとき、
奇跡を願った。
君の笑顔が、もう一度見たかったから。
すると涙は、色を変えて、
想いは、奇跡を起こして、
気がつくと、奇跡は悲劇も、何もかも消し去っていった。
何もかも、消し去っていった。
そう、これでよかったんだ。
これで――――よかったんだ。
「《――さあ、続いては、今話題沸騰中!Prince×2の皆さんでーす!》」
「キャーーっ!!きたきた!」
「《どうも!はじめまして!俺たち、僕たち、私たち、Prince×2でーす!よろしくお願いしまーす!》」
「《さあ、今夜歌う曲は何でしょうか?》」
「《はい。今夜歌う曲は、新曲「インビジュアル」と、「VICTORY」です。2曲続けて、どうぞ!》」
私は|増田結奈《ますだゆな》。普通の女子高生。
私には、大好きな人がいる。
それは、今画面の中にいる、|Prince×2《プリンス・プリンス》ので一番人気のエース・|馬場拓斗《ばばたくと》だ。
初めて見たときから、私は親近感を抱いた。
恋愛における“好き”とは違った、そんな感情。
私は、そんな彼から目が離せなくなった。
だから、今ずっとこうして応援している。
ライブにも、必ず足を踏み入れている。
とにかく、私の生活は彼中心と言ってもいいくらいだ。
私は、とにかく彼が大好きだった。
---
私が通う高校に着く。
今日も、1日がはじまる。
ユナ「ーーあっ、七海!」
いつものように友達に声を掛けようとしたその時ーーー
七海「ユナ!!大変!!」
私の中学からの親友ーーー|七海《ななみ》が凄い形相で私の元へ来た。
ユナ「どうしたの?朝からそんな顔して………」
七海「ユナ、あんたも、これを聞いたら普通じゃいられなくなるわよ。―――Prince×2が来るの!ウチの学校に!!なんか『Prince×2が高校にやって来る!』ってイベントがあって、それにウチの高校が当選したんだってさ!」
ユナ「――――えっ!!ウソ、どういうこと!?えと………待って整理が……………」
七海「落ち着いて!今から体育館に移動で、そこにPrince×2のみんながやって来るみたい。気絶しないように頑張って!」
ユナ「………無理…………七海、倒れないように、私の腕掴んでて………」
ユナ「もー、ユナったら大げさなんだからー。」
夢のようだ。………いや、夢なのかもしれない。
私が都合よく作り出した夢だ。きっと。
Prince×2なんて――――タクトなんて手の届かないような存在なのに――――
---
「―――成巡高校の皆さん、こんにちは!僕たち、Prince×2でーす!」
「キャーっ!!」
悲鳴にも聞こえるような歓声が沸き起こる。
ユナ(――――夢じゃ…………無かった………あ、ヤバいこれ死ぬ………………)
タクト、テレビで見るより髪サラサラだし、目がぱっちりしてる………
「じゃあ、自己紹介も終えたところで、早速特技披露といきましょう!じゃあ、まずはPrince×2のエース・タクト!!」
タクト「――はい!俺の特技は―――催眠術です!」
「えーっ!催眠術?意外とオカルトなもの好むのね…………」
タクト「まあ、まだ初めて1年なので、全然上手くできるわけじゃないんですけど…………今日は、せっかくなのでここにいるみんなの中から1人選んで、催眠術をかけてみたいと思います!」
「キャー!」
また、みんなの歓声が上がる。
誰が選ばれるんだろう…………
しかし、この高校は全校生徒は700人程。
私なんかあるわけ―――――
と、誰を選ぶんだろうとタクトの方をみると、バチッと目が合う。
生のタクトと目が合い、戸惑う私をよそに、タクトは恐ろしいことを言った。
タクト「―――じゃあ、今目が合ったそこのボブの女の子にしようかな!」
タクトが私の方を見る。
周りを見渡しても、それらしい子はいない。
――――えっ??私!?
私、増田結菜は、デビューから応援していたPrince×2のタクトに、催眠術をかけられるようです…………………
〜character.1〜
増田結菜(ますだゆな)
身長……157cm
見た目……茶髪のボブ
Prince×2のタクトを一途に応援し続ける女子高生。大人しいが、自分のやりたいことを曲げない芯のしっかりした性格。非常にマイペースなのが玉に瑕(きず)。
家は父と二人暮らし。
『想いは、時を巡る。』 episode.2
私―――増田結奈、普通の高校2年生。
今から、推しに催眠術をかけられます――――――
「はい!じゃあー、名前を教えてください!」
このイベントを回しているPrince×2のリーダー・|宮本優人《みやもとゆうと》くんがそう言う。
ユウトくんに話しかけられるだけでも緊張するのに、タクトに催眠術かけられるなんて…………………
ユナ「………増田…結奈です……………」
ユウト「はい!じゃあ、ゆなちゃん!馬場くんに催眠術をかけられる準備はバッチリですかーっ??」
ユナ「が……頑張ります……………」
タクト「よし!もう俺頑張るんで!ユナちゃんも、気ぃつかって演技とかしないで、リラックスしていいからねー!」
ユナ(ぎゃあああああああっっ!!!!はっ、話しかけられた………!!)
タクト「よしっ!じゃあ、行きます!眠くなる催眠術です!………あなたはだんだん眠くな〜る………あなたはだんだん眠くな〜る………」
タクトに見つめられる。
あれ……??顔真っ赤になってないかな………ああ、こんなことならちゃんと髪型セットしておけばよかった……!!
そんな考えがぐるぐる私の頭の中を駆け巡る。
ちゃんと集中しないといけないのに、いざ見つめようとすると、また緊張して顔が真っ赤になってしまう。
―――というか、全然眠くらならないな……………!?
タクト「あれっ??全然かからないぞ……………??」
ユウト「ダメじゃん!」
ユウトくんのツッコミに、会場は盛り上がる。
タクト「マジか〜っ!ごめんね、ユナちゃん。」
ユナ「あっ………いえいえ。」
ユウト「はい!以上、馬場くんの特技披露でした〜!―――では、続いて、佐野くん!―――」
私のせいだ。私が緊張しちゃったから催眠術にかからなかったんだ。
何で私なんかを選んだんだろう………
---
全てのイベントが終わり、私たち生徒は教室へ戻る。
七海「ユナ〜!すごいじゃん!生タクトと話せたじゃん!」
ユナ「う、うん………でも、緊張しすぎてかからなかったから、申し訳ないって感じ…………やっぱかかったフリでもしておけばよかったかな…………」
七海「いいんだよ!気にしない気にしない!タクトくんだって『かかったフリはしなくていい』って言ってたし!それに、まあ………タクトくんなんて催眠術師でもないんだからさ、失敗ぐらいするって!」
ユナ「うう、そうだよね………ありがとう。ちょっとだけ元気出た。」
先生「増田ー!ちょっといいかー。」
ユナ「あ、先教室行ってて。」
七海「うん。」
---
先生「―――実は、Prince×2の方に、君を呼んで来てほしいってお願いされてね。ステージにも上がったし、きっとお礼か何かじゃないかな。―――ここが控室だから。終わったら教室戻るように。」
ユナ「……はい。」
そう言って、先生は去っていった。
控室は、被服室だった。
「コンコン」
扉を恐る恐るノックする。
「失礼します。増田です………増田結奈です………」
「ガラッ」
控室の扉が開く。
タクト「来てくれてありがとう!………ごめんね、呼び出しちゃって…………」
いきなりのタクトに、私は失神する一歩手前まで行ったが、何とか踏みとどまった。
ユナ「ぜっ…全然!!」
タクト「さっき俺の催眠術付き合ってくれたのに、失敗しちゃったから、ずっと申し訳なく思ってて………」
ユナ「いえいえっ、そんな!私も、すごく緊張してて………その……実は私、タクトさんの大ファンで………」
タクト「えぇっ!?マジで!!超嬉しい!俺も実は誰に催眠術かけようかな〜って選んでるとき、なんか一人だけすごい………何だろう……こう、オーラを感じて………それで選んだのがユナちゃんでさ。何か分かんないけど、親近感を感じるんだよね。」
ユナ「私も、初めてタクトさんを見たとき、なんか他の人とは違うオーラを感じて……」
「お〜っ!これって両想い〜!?」
「ヒューヒュー!タクト頑張れ〜!」
同じ控室にいたPrince×2の他のメンバーがそうはやし立てる。
タクト「やっ………やめろよ………!ごめんね、ユナちゃん。気にしなくていいから。あいつら、見た目は20前後の大人だけど、中身は中学生男子だからさ。」
「おい〜!中学生男子って何だよ〜!」
そう言って、笑い合うタクトと他のメンバーを見て、私はほっこりした。
みんな仲良しなんだな、と思った。
タクト「あ、そうそう!お詫びとお近づきの印に。これ、来月やるPrince×2のライブチケット。」
ユナ「えっ…………!?嘘……!?あ、ありがとうございます!」
タクト「それじゃあ!時間取らせちゃったね。今日はどうもありがとう!」
ユナ「はい……!!こちらこそ!夢のような時間になりました!それでは!」
タクト「はーい♪じゃあね!」
扉の閉まり際、タクトは私に向かってウインクした。
また、胸がドキッとなった。
---
七海「―――へー、ホントに夢みたいな出来事ね。」
ユナ「うん!本当に幸せだった!」
七海「それに、ライブのチケットまで貰えて。結構大きなコンサートなんでしょ?この前、ユナ買おうとしてたけど売り切れちゃってたもんね。」
ユナ「そう!だから、ほんっとに嬉しい!」
七海「まあ、楽しんできなよ。頑張れー!応援してるぞーっ!」
ユナ「そ……そんな、大袈裟だよ〜………」
七海「じゃあ、私はここで。」
ユナ「うん、じゃあね。」
―――本当に、夢みたいだな…………
まさか、タクトも私に親近感を持ってくれていたなんて…………
――――でも、もう二度と話すことは無いんだろうな。
所詮、タクトはアイドル。私はただのファン。
私はタクトだけを観ているけど、
タクトは大勢のファンを《《全体》》として見ているんだ。
だから、それ以上の関係なんて、無いんだ…………
夕暮れに染まる学校からの帰り道が、いつもより寂しく感じた。
〜character.2〜
馬場拓斗(ばばたくと)
身長……176cm
見た目……焦げ茶髪の髪色。
今をときめく人気アイドルグループ・Prince×2の一番人気のエース。イメージカラーは青。身長も年齢もメンバーの中では下から二番目に低い。愛されキャラ。
『想いは、時を巡る。』 episode.3
「みんなー!今日は俺たちのライブに来てくれてありがとー!」
「思う存分、楽しんでね!」
「それではー、まずは1曲目!――――」
私―――増田結奈は、今、Prince×2のコンサートに来ている。
ライブは何十回も行っているのだが、やっぱり生Prince×2はテレビで見るよりはるかにカッコいい。
そして、タクトもやっぱりカッコよかった。
そんなタクトのことをじーっと見つめていると、パチっとタクトと目が合う。
すると、タクトは私の存在に気づいたのか、ニコッとウインクした。
―――心臓が、止まるかと思った。
ユナ(えええええええっ!!!た、タクトが、私に!???)
しばらく、歌を聴くどころじゃなかった。
---
ユナ(ふぅー。色々あったけど、やっぱ楽しかった!)
コンサートが終わり、グッズでも買って帰ろうと思ったそのとき――――
「―――増田結奈さんですか?」
「……は、はい………」
黒いスーツのメガネをかけた男性に、声をかけられる。
誰だろう………??
「わたくし、Prince×2のマネージャーをしております、板見と申します。すみませんが、このあと、お時間ありますでしょうか………?その……馬場があなたに会いたいと申しておりまして………」
|アイドル《タクト》が………
|ファン《私》に会いたい……??
---
マネージャー「――こちらです。」
マネージャーさんに連れて行かれた先は、控室だった。
扉の横には、『Prince×2 馬場拓斗様』と書かれている。
流石は大きな会場でやるコンサートだ。
どうやら、控室も別々になっているらしい。
「ガチャ」
マネージャー「お連れしましたよー。拓斗さん。」
タクト「ああ、ありがとう。」
マネージャー「それでは、私はここで。」
マネージャーさんは席を外してしまった。
タクト「ごめんね、急に呼び出しちゃって。」
ユナ「いえいえ、そんな………」
タクトは、まだライブのときの衣装を着ていた。
タクト「そうだ、ライブのとき、僕と目、合ったよね?気がついた?ウインクもしたんだけど……」
ユナ「はい!もちろん。」
タクト「よかったー。たまたま観客席の方見渡したら、ユナちゃんがいてさ。来てくれたんだ、って思って、嬉しくてつい。」
ユナ「い、行くに決まってるじゃないですか!Prince×2のライブなら、たとえ火の中水の中、どこにだって行きます!」
タクト「………あははっ!やっぱユナちゃんは面白いね!」
そうやって笑う、タクトの笑顔に思わず私はドキッとした。
タクト「―――ユナちゃんは、まるで妹みたいだなあ………」
ユナ「い、妹……??」
タクト「うん。もう、俺の妹にしたいって感じ!……俺にも妹いたんだけど、幼い頃に両親が離婚して別々になっちゃったからさ………あ、これここだけの話ね。」
妹いたんだ………初めて知った………
タクト「―――でも、そのとき妹はまだ生まれたばかりだったから、俺のことなんて覚えてないんだろうなぁ……」
ユナ「………いつか、妹さんと会えると良いですね……」
タクト「…………そうだね。―――あっ、ご、ごめんね。こんな暗い話しちゃって!そうそう、ユナちゃんに頼みたいことあってさ。その……俺と付き合ってくれない?」
つ、付き合う!?
付き合う!?
私が!?タクトと!?
タクト「……その、もうすぐ彼女が誕生日でさ。だから、誕生日プレゼントをと思ってるんだけど、中々良いプレゼントを選べる自信なくて………だから、同世代のユナちゃんに付き合って欲しいと思って!……イヤなら全然良いんだけど………」
あ、タクトって彼女いたんだ…………
そりゃそうだよね。タクトカッコいいし。
やっぱ私はただのファン。
私がタクトとなんて…………
―――え、待って。
私、今何考えてた?
私、何を期待してたの…………??
タクト「―――ユナちゃん?」
ユナ「―――ハッ!す、すみません…………!」
ダメだ!なに落ち込んでるの、私!
タクトのファンとして、彼女さんに贈る最高のプレゼントを選んであげるんだ!
ユナ「……わっ…私でよければ!」
こんなにカッコいいタクトの彼女さんだ。
きっとオシャレで美人な人に違いない。
そんな人に似合うプレゼントが選べるか分からないけど、私がやってみせる!
タクト「本当!?ありがとう!じゃあ、来週の日曜の午後とか空いてる?」
ユナ「はい!大丈夫です。」
タクト「よし。じゃあ、来週の日曜の午後2時に渋谷駅で待ち合わせね!」
ユナ「は…はい!」
タクト「あと、なんかあったときのために………」
タクトはスマホを取り出す。
タクト「連絡先も交換しよう。」
た、タクトと連絡先を………!?
---
タクト「―――よし、追加完了、っと。」
ユナ(やってしまった…………)
ついに、ファンの領域を越えてしまった…………
ごめんなさい、他のファンのみなさん………許して………
---
七海「―――それ、“ショッピングデート”じゃん。」
ユナ「……ゴフッ!…………しょっ、ショッピングデート!?」
危うく、飲んでいたペットボトルの麦茶を噴き出しそうになった。
七海「だってそれしか考えられないでしょ、連絡先まで交換して。彼女いるのも、もしかして嘘だったりして………」
サンドイッチを頬張りながら、七海はそう言う。
ユナ「た、タクトが嘘つく訳ないじゃん!」
そうだよ………!!第一、嘘までついて私を誘うとか、何のメリットが…………
七海「まあ、嘘じゃないにせよ何にせよ、頑張ってね〜、応援してるよ〜。あと、相手は有名人だから、写真だけは撮られないようにね。あんな状況撮られたら不味いし、彼女いるんならもっと不味いから………」
ユナ「う………うん………」
七海の気があるのかないのか分からない応援と、その忠告に、私はガックリとうなだれた。
〜character.3〜
鈴木七海(すずきななみ)
身長……163cm
見た目……茶髪のポニーテール
しっかり者の面倒見の良いユナの中学からの親友。ユナのことを度々気にかける。女子と集団でつるむよりユナと一緒に過ごした方が楽しいらしい。思ったことは結構ズバズバと言うタイプ。
『想いは、時を巡る。』 episode.4
「渋谷ー、渋谷ー、ご乗車ありがとうございましたー。」
アナウンスが聞こえ、私は電車を降りる。
こんな都会に来たのは久しぶりだ。渋谷とか、そういった都心は、家からじゃ中々気軽に行けるような距離ではない。
私――――増田結奈。これから、推しのアイドルと|彼女さんの誕プレ選び《ショッピングデート》します!
駅を出ると、真昼の日差しがとても眩しく照りつけていた。
駅から歩いて数メートル先の木陰にあるベンチに、タクトは座っていた。
ユナ「―――あっ………タクトさん!」
すると、タクトはこちらに気づいたのだが―――――
タクト「――しーっ!そんな大きな声で俺の名前呼ばれたら、すぐバレるから………!!“タクト”なんて名前、そんなにありふれた名前じゃないしさ………」
ユナ「すっ、すみません!」
タクト「ごめんね。渋谷だし、人通りも激しいから、今日はいつも以上にフル装備なんだよ。」
そう言うタクトは、メガネにマスク、それに帽子を被っていた。
タクト「だから、ユナちゃんも今日はバレないように俺に協力してほしい。……そうだ、カップルになりきろう!」
ユナ「……へ……??」
タクト「渋谷だし、カップルはそこら中にたくさんいる。カップルになった方が一番自然なんじゃないかな。大丈夫!俺とユナちゃん、そんな年離れてないし!」
いや………私は大丈夫じゃないんだけど………
タクト「じゃあ行こう!あ、今日はユナちゃんもタメ口でいいから。名前も呼び捨てでいいよ!さ、行こう《《ユナ》》!」
そう言われ、タクトは私の手をガシッと握った。
ユナ(ま、待って待って………!!今、タクトに呼び捨てされた!?それに、手も!)
ただでさえ暑いというのに、そんなことをされ、私は溶けてしまいそうだった。
---
私とタクトは、近くの大型ショッピング施設で、彼女さんの誕生日プレゼントを選んだ。
服だったり、コスメ、家電、アクセサリーなど、たくさんのコーナーを見て回った。
とても難しかったが、何とかベージュ色のリップに決めることが出来た。
私もつけてみたいと思うほど、とてもいい色のリップだった。
---
タクト「あー、何とか決まって良かったよー!俺の彼女もきっと喜んでくれるよ!ありがとね、ユ………あれ?どうしたの?」
ユナ「――い、いや!その……すごく可愛いなあと思って………」
とあるファッションブランド店の入口に立っているマネキンに着せられたワンピースが、私はどうも気になってしまった。
若草色の、爽やかなフリルやレースのついたワンピース。
しかし値段をみると、一万円と、とても高額だった。
タクト「よかったら、俺がプレゼントしようか?―――店員さん!このマネキンと同じ服、ありますか?」
ユナ「い、いいよ!全然大丈夫!自分でお金貯めていつか買うから……!!」
タクト「いや、プレゼントさせて。今日は、ユナのおかげで誕生日プレゼントも買えたし、本当に感謝してるんだ。これくらいはさせてほしい。」
タクトの真剣な表情に、私はぐうの音も出なかった。
店員さん「こちらでよろしいでしょうか?一万円になります。」
タクト「はい。ありがとうございます。カードで。」
---
タクト「いやー、今日は本当に楽しかった!ここのところ、仕事ばかりで中々オフもらえなかったからさー。……もう6時か。そうだ、美味しい店知ってるんだ。よかったら夕飯も一緒に食べてかない?ご馳走するよ。」
ユナ「……ご、ごめん。私、家結構遠くて、今帰らないと夜遅くなっちゃうんだ………ごめんなさい………」
タクト「――――そっか。いいよ全然。あんまり遅いと、親御さんも心配するだろうしね………じゃあ、俺も帰ろっかな。駅まで送ってくよ。」
―――楽しい時間も、もうすぐ終わってしまう。
夢みたいだ。|推し《タクト》と、こうして並んで歩けるなんて。
―――しかし、横を歩くタクトは、何だかとても悲しそうな、残念そうな顔をして歩いていた。
話しかけるのも何だか駄目そうな気がして、私は黙ったまま歩いていた。
黙りながら歩く私たちは、周りの人たちから見て、いったいカップルに見えていたのだろうか。
---
駅に着いた。
タクト「ここでお別れだね。あ〜なんだか寂しいな〜。」
さっきの表情とは裏腹に、タクトはとても寂しそうに笑う。
ユナ「………私もです。なんか、夢みたいでした。私、ただのファンなのにタクトと一緒に出かけて…………何で、こんなに私に関わろうとしてくれるんですか?………だって、私はただのファンなのに………」
私は、ずっと疑問に思ってたことをタクトに投げかけた。
タクト「―――俺は、君を《《ただのファン》》だと思ってない。」
ユナ「―――えっ…………」
タクト「――――って言ったら、どうする?」
ニコニコしながら、タクトはそう訊く。
ユナ「え………えと……その……」
私はどう答えていいか分からず戸惑う。
タクト「――うーん、やっぱ難しいか!ごめんね、変なこと聞いて。まあ、《《いずれ話すつもり》》だから!なんで、俺が君にばかり干渉するのかをね。――じゃあ、またね!ユナ!今日はありがとね!」
ユナ「あ………はい!服、ありがとう!彼女さんが喜んでくれるように祈ってるから!」
タクト「じゃあね〜!」
ユナ「はい!」
私は、駅の改札へと急いだ。
タクト「―――ふふ、“祈ってる”か………言えなかったなぁ…………―――でも、次こそは…………!!」
その後も、タクトとの交流は続いた。
ラインでもたまにやりとりしたり、お互いが休みの日は会って買い物したり、カラオケしたりなど、タクトとの日々を思いっきり楽しんだ。
こうして、タクトが私の高校に来たあの日から、5ヶ月が過ぎようとしていた。
その日は、タクトに誘われてPrince×2の冠番組の収録の観覧に来ていた。
---
タクト「ありがとね!今日は来てくれて!」
ユナ「うん!とても良かった。」
テレビ局の入口のスペースで、私とタクトは喋っていた。
あのショッピングデートの日以来、お互いタメ口と呼び捨てで喋っていた。
タクト「―――俺、ユナのこともっと知りたい。ユナは、俺の知らなかった世界をいつも教えてくれる。」
ユナ「そ、そんなあ………大げさだよ………でも、タクトには彼女さんがいるんでしょ?私なんかと関わってたら、彼女さん悲しむんじゃ………」
タクト「―――いや、そ、それは……その…………」
「ゴン!」
タクト「――いてっ!」
タクトの体に何か当たったのか、タクトは前のめりに倒れる。
ユナ「キャッ………!!」
そして、私も倒れ込んだタクトにぶつかり、地面に倒れ込む。
思わず目を閉じたが、再び目を開けると、私は仰向けで、タクトは私に覆いかぶさるように倒れていた。
私の顔の横にはタクトの腕があり、顔の距離もとても近かった。
タクト「―――あ、いや違うんだ、わざとじゃ………」
ユナ「――彼女さんいるのに、こんなのおかしいよ!!バレたらタクト、アイドルできなくなるかもしれないんだよ!?こんなの嫌!!やっぱり、アイドルとファンの距離感で良かったんだよ!――もう、二度と会わない。私は、ただのファンに戻ります!!」
私は、逃げるようにタクトの前から去った。
私の、心の底に溜まっていた不安が一気に爆発した。
―――そうだよ。こんなタクト嫌だ。
|アイドルとファン《私たち》は、一線を越えてしまったら、ダメなんだ。
そうだ、これでよかったんだ。
タクトの幸せのためにも、私は身を引くべきだったんだ。
タクト「――――待って!!本当は、彼女は―――――」
夢中だった。いつの間にか駅についていた。
帰りの電車、私はとても気持ちが沈んでいた。
今にも、泣きそうだった。
タクト「――はあ………こんなつもりじゃなかったのに。何やってんだ俺は……………何で“本当の事”が言えないんだよ………クソっ………!!――――――嘆いても仕方ないよな。……帰ろ…………」
「――ブロロロロロロ…………」
「ブロロロロロロロロロ――――」
タクト「―――えっ……………」
「――――ガシャン!」
---
2時間半ほどかけて、家に着いた。
ずっと無気力だった。頭の中でタクトとの思い出がぐるぐる回っていた。
「ガチャ」
ユナ「―――ただい………」
ユナの父「ユナ!!大変だ!!来なさい!」
ユナ「……えっ……!?何……!?」
父に手をガシッと掴まれ、リビングに連れていかれる。
ユナの父「―――ほらっ!!これ!!」
父が指を差したその先は―――テレビ画面だった。
「―――ガサッ!」
書いてあるテロップを見て、一気に顔面蒼白になる。
手に持っていた荷物を床に落としてしまう。
ああ、何で…………
神様、どうして……………???!!
「――――速報です。今日夕方頃、人気アイドルグループのPrince×2・馬場拓斗さんが、車にはねられ、先ほど亡くなったことがわかりました。―――」
『想いは、時を巡る。』 episode.5
「――ブーブー、ブーブー」
ユナ「―――はい…………」
七海「《――もしもし??ユナ!よかったー!心配したんだよ!全然出ないから!………無理に…とは言わないけど、学校、ちゃんと来なさいよ。本当に残念だし、ユナの悲しみも深いことは分かってる。……でも、いくら嘆いたって、タクトくんは生き返らない。だから、前を向くしかないんだよ。》」
ユナ「―――ありがとう、七海。……でもね、駄目なの。タクトの事が、一日中頭の中ぐるぐる回って………消えないの。無理なの。……ごめん………」
七海「《なんで謝るのっ!………ユナはユナのペースで、気持ちの整理つけたらいいよ。それまで私はずっと待ってるからさ。それでも駄目なら、私が一緒に向き合ってあげる。》」
ユナ「七海………ありがとう。七海が友達で良かった………!!」
タクトがいなくなって1週間が経とうとした。
もう、二度とタクトの笑顔を見ることは出来ない。
そう思うたびに、涙があふれる。
負の感情から抜け出せない。
ラインも、あの日のやり取りから止まったままだ。
なんであんなことを言っちゃったんだろう。
きっと、タクト傷ついたよね。
私にあんな事言われた悲しみの中で、タクトは死んでしまったんだ。
ああ、タクトに会いたい。
タクトのいない世界なんて、嫌だ。
もし、タクトが“あの世”にいるのなら――――私も“あの世”に行く………!!
そして、タクトにごめんなさいを言うんだ………!!
「ガラッ!」
ベランダの窓を勢いよく開け放ち、柵に足をかける。
―――しかし、すぐ真下の地面が急激にとても小さく見えた。
あまりの恐怖からか、心臓がバクバク鳴る。
私は、怖くなってまた部屋に戻り、その場にうずくまる。
ユナ「―――もう、どうすればいいの………!!!こんな世界、嫌だ!夢なら覚めてよ!お願い、神様!一度だけでも良いから、もう一度タクトに会いたい!会ってごめんなさいを言いたい!なんでタクトが…………っ!!」
しかし、こんな事を言っても、何も変わるわけがない。
―――神様は、いないんだ。
私は、あまりの絶望感と虚しさに、腹が立って泣き叫んだ。
何もできない自分に腹が立って泣き叫んだ。
ユナ「うっ…………うわぁぁぁああああああーーーっっ!!!うわああああああっ!!」
涙がポタポタとこぼれ落ちる。
すると、涙の一滴が、色を変えた。
それを皮切りに、周りの景色が青だったり、オレンジだったり、赤だったりと、不安定に色が変わる。
ユナ「……えっ………???」
あまりに幻想的で現実味のなさに、涙が止まり、口がポカンと空いてしまう。
すると、周りの景色が徐々に歪み出す。
すると、歪んだ景色の隙間に、真っ黒な穴が現れた。
景色が歪んでいくほど、その穴はどんどん大きくなる。
気がつくと、私はその穴に吸い込まれていた。
周りを見渡しても、景色は黒一色だ。
―――すると、
「―――わあ!赤ちゃんだー!今動いた!」
どこからか、男の子の声が聞こえた。
周りを見渡すと、一箇所だけ光っている場所があった。
吸い込まれるように、私はその光に近づく。
一瞬、ピカッと激しく光り、私は思わず目を瞑った。
再び目を開けると、そこは家だった。
「――わあー!赤ちゃん動いてるよ!すごーい!」
「タクトも、もうお兄ちゃんね。いつまでもお母さんやお父さんに甘えてたら駄目だからね。」
「はあい………早く、生まれてこないかなあ………ぼく、いっぱい赤ちゃんと遊んであげるんだ!」
その男の子は、まだ小学校入学前の4,5才くらいの子に見えた。
ユナ「―――子供の頃の…タクト……??」
しかし、彼らには、私の存在や、声が聞こえていないようだった。
そういえば、妹がいたって言ってたから、お腹の中の子はその妹なのだろうか………
「ピカッ!」
また景色が激しく光り、思わず目を瞑る。
目を開けると、そこは病室だった。
「――オギャア!オギャア!」
タクト「わーあ!かわいいー!ねぇねぇっ!なまえなんて言うのっ?」
「―それが、まだ考え中でねぇ………」
タクト「にしても、かわいいな!……あっ、僕の指にぎった!」
「ピカッ!」
また光った。
再び、家に変わる。
タクト「――いやだ!!パパと離れ離れなんて!」
「仕方ないでしょ………!!ママとパパは、もう一緒には暮らせないの!」
「ごめんな………タクト。………パパのところ来るか?」
「ちょっと!タクトは私が引き取りますから!」
「――いや、決める権利は、タクトにある。タクト、パパとママ、どっちと一緒に暮らしたい?」
タクト「…………ぼく、パパがいい。パパ、ひとりじゃさびしいだろうし。ごめんね、ママ。………最後に、赤ちゃん抱っこさせて。」
「――どうぞ。私が引き取るから、会えなくなるものね。お別れの挨拶をしなさい。」
タクト「――よしよーし。元気でね。ママの言うことちゃんと聞くんだよ。また会いに来るからね。…………バイバイ―――――――結奈。」
えっ…………!!?私…………!?
そんな馬鹿な。タクトのお父さんは、私のお父さんとは違う人だ。
でも、そうだ。お母さんの記憶は全くない。
私が生まれてからすぐに病気で死んだって、お父さんから聞いた。
それ以来、お父さんが男手一つでずっと私を育ててきたんだ。
もし、本当にこの人が私のお母さんだとしたら…………
タクトと私は、兄妹だった……!?
「ピカッ!」
また景色が光る。
さっきとは違う家だ。
タクト「――もうユナに会えないってどういうこと!?」
「――落ち着いて聞いてくれ………ママが、病気で死んじゃったんだ。ママはね、新しい人と再婚したんだけど、その人の連絡先が分からないから、つまりもうどこにユナがいるのかも分からない。………ごめんな。俺だって悲しいよ………」
タクト「ユナ……―――また会おうねって約束したんだ。絶対、会いにいくからね………!」
私は驚いた。
つまり、私の父は、母親の再婚相手だったのだ。
私と父は、仲が悪いわけでもなく、関係は良好だ。
タクトを熱心に応援している私のことも理解してくれて、この間の誕生日プレゼントにはPrince×2のライブチケットをくれた。
初めて知った。父は、血の繋がらない私を、ずっとまるで実の子のように育てていたのだ。
初めて知るいくつもの衝撃の事実に、私は頭が混乱しそうになった。
「ピカッ!」
再び、場面は変わる。
控室のような場所だった。
タクトは、ライブで着るような衣装を着ていた。
「ブー、ブー」
タクト「――――はい。どちら様ですか?」
「《―――はじめまして。わたくし、馬場|青衣《あおい》の夫であり、あなたの妹・増田結奈の父である、増田|俊広《としひろ》と申します。》」
結奈(――――お父さん!?なんで、タクトと…………!?)
ユナの父「《―――ずっと探していたんです。あなたの名前だけは青衣さんから聞いていて、アイドルになったことも最近知って………どうにか、連絡を取る手段を探していたんですが、なかなか………しかし、この間、青衣さんのご両親を介してあなたのお父さんと連絡が取れたんです。そして、お父さんからあなたの連絡先を教えてもらいました。》」
タクト「………そうだったんですか………実は最近、ユナさんと知り合ったばかりだったんです。………ですが、僕の母や妹の苗字が分からなかったので、同じ名前だと思いながらも、気づきませんでした。」
ユナの父「《そうなんですか………ユナは、あなたの大ファンなんです。………でも、この事を全く知らないので、なんて言えばいいのか。あんなに熱心に応援してるのに、タクトさんが兄と知ったら、どんな反応するのか不安で………》」
タクト「では、僕から直接会って話しましょうか?僕も、あなたやユナさんにずっとお会いしたいと思っていたんです。今からライブで、そのライブにもユナさんが来てるので。僕に任せて下さい。………今度、僕の父も含めて4人で食事とかしましょう。」
ユナの父「《はい。それはいいですね。》」
「―――タクトさーん!もうすぐ時間ですよー!」
タクト「――では、また。」
「ピカッ!」
タクト「―――ふぅーっ………疲れた………」
タクト「――板見さーん!!」
マネージャー「――なんでしょうか。」
タクト「悪いんだけど、呼んできてほしい人がいるんだ。|増田結奈《ますだゆな》って言う、女子高生くらいの茶髪のボブの子。一人で来てて、グッズとかたくさん持ってて…………」
マネージャー「はいはい。分かりましたよ。探してきますね。見つからなくても文句言わないでくださいよ。この会場、人が多いんですから…………」
タクト「ごめんねー!今度、好物のクレープ差し入れするからー!」
マネージャーさんは、足早に控室を出た。
タクト「――――ふぅ…………………大丈夫大丈夫。俺なら、きっとやれる…………」
タクト「――『ユナちゃん、実は俺、ユナちゃんのお兄ちゃんでさ……』……違う。」
タクト「『ユナちゃん、大事な話があるんだ。実は、ユナちゃんにはお兄ちゃんがいたんだ。……知ってた?そのお兄ちゃんてのが、実は俺で……』…いや、これも違うな。………そうだ、俺には実は妹がいたって前置きを言ってから、その妹がユナちゃんで………って言えば………!」
「ガチャ」
マネージャー「―お連れしましたよー。拓斗さん。」
タクト「ああ、ありがとう。」
マネージャー「それでは、私はここで。」
あのライブに行ったときと同じ光景だ。私もいる。
タクト「ごめんね、急に呼び出しちゃって。」
ユナ「いえいえ、そんな………」
そして、あのときと同じようにいくらか会話をする。
タクト「―――ユナちゃんは、まるで妹みたいだなあ………」
ユナ「い、妹……??」
タクト「うん。もう、俺の妹にしたいって感じ!……俺にも妹いたんだけど、幼い頃に両親が離婚して別々になっちゃったからさ………あ、これここだけの話ね。―――でも、そのとき妹はまだ生まれたばかりだったから、俺のことなんて覚えてないんだろうなぁ……」
ユナ「………いつか、妹さんと会えると良いですね……」
タクト「…………そうだね。―――あっ、ご、ごめんね。こんな暗い話しちゃって!そうそう、ユナちゃんに頼みたいことあってさ。その……俺と付き合ってくれない?……その、もうすぐ彼女が誕生日でさ。―――」
また、見覚えのあるやりとりは続く。
---
タクト「じゃあ、また来週の日曜ね〜!」
ユナ「はい!お、お願いします!」
「ガチャ」
タクト「―――言えなかった………無理だよ、こんなの。……何逃げてんだよ俺………会う約束して、ラインも交換してさ………このままじゃ、ズルズル引きずっちゃうじゃんか…………」
タクトは、とても悲しそうだった。
あのとき、そんな大事なことを言おうとしていたなんて。私は全然気が付かなかった。
どうして、気づいてあげられなかったんだろう。
「ピカッ!」
また光る。
近くにはテレビ局がある。
ユナ「――彼女さんいるのに、こんなのおかしいよ!!バレたらタクト、アイドルできなくなるかもしれないんだよ!?こんなの嫌!!やっぱり、アイドルとファンの距離感で良かったんだよ!――もう、二度と会わない。私は、ただのファンに戻ります!!」
タクト「――――待って!!本当は、彼女は―――――」
タクト「――はあ………こんなつもりじゃなかったのに。何やってんだ俺は……………何で本当の事が言えないんだよ………クソっ………!!――――――嘆いても仕方ないよな。……帰ろ…………」
「――ブロロロロロロ…………」
「ブロロロロロロロロロ――――」
タクト「―――えっ……………」
横断歩道を渡ろうとしたタクトに、大型トラックが接近する。
ユナ「タクトーーーっっ!!!」
私は、考えるより先に体が動いた。
いつもは、動きが遅い方なのに、このときだけは俊敏に体が動いた。
私は、タクトを突き飛ばした。
どうやら、人にはさわれるらしい。
トラックは、そのまま走り去っていった。
ユナ(ひどい………!!あっちが信号無視してきたのに………!!)
しかし、タクトが無事で何よりだった。
私は、タクトの近くに歩み寄る。
タクトは、私のことが全く見えていないようだった。
ユナ「―――タクト………ごめんね………今まで、ずっと辛かったよね………なのに、私あんなこと言っちゃって………本当にごめんなさい…………タクトがアイドルでも、お兄ちゃんでも、血が繋がった家族でも、私はタクトのことずっと大好きだから………!!!」
―――ここは、どんな世界なのだろう。
『もしも』の世界なのか。
私が夢の中で何度も描いていた都合の良すぎる『|空想《ゆめ》』の世界なのか。
それとも、タクトの過去を私はただ『傍観』していただけなのか。
もし、元の世界に戻ったら、こんなことをしても“タクトが死んだ”という現実は変わらないままなのだろうか。
それなら、ここが現実じゃなくても、私はずっとここにいたい。
―――だけど……………
ユナ「――タクト、ごめんね。私、帰らなきゃ。ありがとう。タクトに会えてよかった。私の言葉、届いてるか分かんないけど――――バイバイ、お兄ちゃん。」
また再び歩き出そうとするタクトの顔を見ながら、私はそう言った。
幸か不幸か、人通りが少なくタクトが轢かれかけたことは騒ぎにはなっていなかった。
「ピカッ!」
また光る。しかし、今までで一番強い光だった。
---
目を開けると、そこは私の部屋だった。
窓の外を見たら、もう夜だった。
リビングに行くと、お父さんが仕事から帰ったのか、ソファに座って缶ビールを飲みながらテレビを見ていた。
ユナ「あ………お父さん、おかえり……」
ユナの父「おう。どっか出かけてたのか?帰ってもいなかったからさ。」
ユナ「う、うん。ちょっと用事があって…………」
「《――それでは、今回で5回目!Prince×2のみなさんでーす!》」
ユナの父「おっ、Prince×2出てるぞ、ユナ。見ないのか?」
そう言われ、ふとテレビを見た。
私は、驚いた。
ユナ「―――タクト!!??」
タクトが、いたのだ。
ユナ「お父さん、これ録画!?それとも収録!?」
ユナの父「俺がわざわざ録画で見てると思うか?それに、これ『|LIVE《ライブ》』って書いてあるし。」
生きてる…………!!
ユナ「う………うわあぁぁあああ!!た、タクトが生きてるよ〜〜っっ!!」
ユナの父「………だ、大丈夫か?ユナ………」
お父さんのリアクションから見て、やっぱり、あの事故は“無かったこと”になったのかもしれない。
私は、心の底から嬉しかった。
ユナ「ね、ねぇ、私に実はお兄ちゃんがいたとか言う話、お母さんから聞いてない??」
ユナの父「――――いや、聞いてないなあ………どうしたんだ、急に。どうして、そんなことを考えるんだ?」
ユナ「えっ…………いや、なんでもない………気にしないで。」
ユナ(嘘……??だって、あのとき、『タクトのことはお母さんから聞いた』っていってたのに……………)
私は、急いで部屋に戻り、血相を変えながらスマホを操作した。
お父さんは、私に嘘をついたのだろうか。
お父さんは、実は私と血が繋がっていないということを隠したかったのだろうか。
私は、心の中でお父さんに不信感を抱いた。
―――いや、正確には、“抱きたかった”。
――――しかし、神様は、悪いことも、良いことも全部“無かったこと”にしてしまったみたいだった。
ユナ「タクトとの連絡先が……………消えてる……………」
今までタクトとしてきたやり取りも、連絡先ごと消えてしまっていたのだ。
ユナ「……嘘だっ………!!!そんなバカな!!………こんなことって…………」
これが、タクトの|運命《じんせい》を変えてしまった、私への|代償《バチ》であった―――――
『想いは、時を巡る。』 episode.6
お待たせしました。『想いは、時を巡る。』最終回です。
長くなりすぎてしまい、もう一話増やそうかと悩みましたが、予定通り今回が最終回です。
投稿日が1日遅れてしまったこと、昨日手違いで22時に予約投稿していましたが、本文を入力し忘れてしまい、空欄の小説が投稿されてしまったことをお詫びし申し上げます。
タクトとの今まで交流してきた証も、全部消えてしまった。
絶望感に打ちひしがれた私は、再びリビングへと戻る。
まだ、さっきのテレビ番組をやっていた。
「《さあ、Prince×2の皆さんには、今回、曲にちなみ、『最近あった不思議なこと』について聞いていきたいと思います!……それでは、まずは馬場さん!何かありますか?》」
タクト「《うーん、そうですねぇ……………あ、そういえば、1週間くらい前だったかな。収録が終わってテレビ局を出て、そのすぐ近くにある横断歩道を渡ろうとしたら、大きいトラックに轢かれそうになったんです。………でも、何か分からないけど、気がついたら、いつの間にかその横断歩道の手前の歩道に倒れ込んでて。しばらく呆然としてましたね。神様が守ってくれたのかな?『お前はまだ生きるべきなんだ』って………なんちゃって。》」
タクトは頭をちょいちょい掻きながら、照れ笑いした。
「《おい!そんな完璧な話されたら、この後の俺らの話つまんなく思えちゃうだろ!》」
リーダー・宮本くんのツッコミに出演者の人たちからドッと笑いが起こる。
「《はい、とっても不思議な話でした!……それでは、お次は宮本さん!面白いお話、期待していますよ!ーーーー》」
そうだ。これでよかったんだ。
なにを悲しんでいるんだ。
タクトがかえってきたんだ。それ以上の喜びがあるものか。
そうだ。タクトとの関係が無くなったところで、また元のアイドルとファンの関係に戻っただけではないか。
これでいいんだ。
タクトが生きていることが、私の幸せ。
タクトの笑顔さえ見られれば、それでいいんだーーーー
「ガチャ」
再び私は自分の部屋に戻る。
ベッドに寝転がり、天井を見る。
ふと、周りの景色を見て、タンスの上の洋服に目がいった。
気になってその洋服を広げる。
若草色の、ワンピース。
あのショッピングデートした日、タクトに勝ってもらった服だ。
これだけは、残っていたのだ。
ユナ「――やっぱり、忘れることなんて出来ないよ……………っっ!!」
神様の見落としか、ほんの少しの施しか分からないが、私はやっぱりタクトとの思い出を無駄にはしたくない。
無かったことになんて、出来ない。
いや、させない…………!!
私はワンピースを握りしめ、部屋を飛び出し、家を出た。
タクトは今、生放送の音楽番組に出演している。
ダッシュで電車に乗れば、放送時間ぎりぎりまでにテレビ局に着く。
私は、急いだ。
---
ユナ「――つ、着いた…………」
無事、テレビ局に着く。
時間的に、丁度生放送が終わった時間だ。
そして、待つこと一時間弱。
タクトは、来た。
ユナ「―――タクトっ!!」
タクトは、こちらに気がつく。
ユナ「タクト!覚えてる??私!ユナだよ!ユナ!」
タクト「えっ………ユナ………?知りません。あの、ちょっとそういうことされても困るんですよね。僕、次も仕事なので。」
タクトは、私を振り切るようにスタスタと足を速める。
ユナ「ほ、本当に覚えてませんか!?私、あなたの妹なんです!私が生まれたばかりの時に両親は離婚して、タクトと私は離ればなれになって………!!」
タクト「そんな話誰が信用するんですか。そもそも、僕に妹なんていません。」
ユナ「そんな………!!ほら、このワンピースも、あなたが私にプレゼントしてくれて……………」
タクト「………いい加減にしてください!!ケーサツ呼びますよ!」
「――ど、どうしたんだよ!タクト、大きな声だして。あれ、君、あの………成巡高校の……ゆ、ゆなちゃん………??」
Prince×2の他のメンバーが来た。
タクト「優人!それに、みんなも………この人、知ってるの!?」
優人「知ってるもなにも、半年くらい前に俺らで行ったじゃんか。高校に。で、ゆなちゃんはタクトの催眠術かけられてたんだよ。覚えてねーの?」
どうやら、Prince×2の他のメンバーは覚えているようだった。
タクト「…………ッッ!」
タクトは、逃げるようにその場から立ち去る。
優人「……あっ!!待てって!どうしたんだよ!」
――どうしよう。
もう、タクトのファンではいられないのだろうか。
タクト――――――
---
あの日、君に会いに行くって決めたんだ。
だから――――――
---
『何となく』って言うわけではないけど、
たまたま目についた君が、どうしても気になってしまって…………
タクト「―――じゃあ、今目が合ったそこのボブの女の子にしようかな!」
名前を聞くと、その子は“ユナ”と言うらしい。
ユナ、ユナ―――――俺の妹と、同じ名前。
「オギャアー!オギャアー!」
タクト「よしよし、結奈ちゃーん、良い子だねー♪」
俺には、妹がいる。
名前は結奈。|馬場結奈《ばばゆな》。
しかし、俺の母さんと父さんが離婚してしまったことで、俺と結奈は離ればなれになってしまった。
苗字も、馬場では無くなった。結奈は俺が4歳の時に生まれたから、もう高校生か。今、どこで何をして暮らしているのだろうか。
---
タクト「………そうだったんですか………実は最近、ユナさんと知り合ったばかりだったんです。―――」
結奈と離ればなれになり、およそ17年。事態は動いた。
あの子が、俺の妹だったんだ。
言わなきゃ。やっと会えたんだし。
俺はユナのお父さんに『ちゃんと伝える』と言って、電話を切った。
---
タクト「じゃあ、また来週の日曜ね〜!」
ユナ「はい!お、お願いします!」
「ガチャ」
結局、ユナに真実を伝えることは出来なかった。
何やってんだ、俺。
その後も、ユナとの交流は深まるが、俺は中々言い出せなかった。
お父さんに申し訳ない気持ちで一杯だった。
弱虫。意気地無し。
ただ、伝えればいいだけなのに。
ーーーあの日、俺は君に酷いことをしてしまった。
ああ、アイドル失格だ。
君が去ってしまうのも仕方がない。
……でも―――――――
タクト「――――待って!!本当は、彼女は―――――」
言うんだ。彼女を引き留めて。
言うしかない。言うしかない。
―――だけど、見失ってしまった。
ああ、何やってんだよ俺ッッ!!
タクト「――はあ………こんなつもりじゃなかったのに。何やってんだ俺は……………何で本当の事が言えないんだよ………クソっ………!!――――――嘆いても仕方ないよな。……帰ろ…………」
もう、ユナは俺と会ってはくれないのだろうか。
これからどうしよう。
本当の事は言えるのかな。
「――ブロロロロロロ…………」
「ブロロロロロロロロロ――――」
タクト「―――えっ……………」
ふと横の方に目をやると、視界いっぱいにトラックが映る。
ライトの光で眩しい。
俺は、動けずにいた。
「――トン!」
あの瞬間のことは、あまり覚えていない。
半分も埋まってない未完成のパズルみたいに、記憶は曖昧だ。
気がつくと、俺は道路ではなく、歩道に座り込んでいた。
トラックは何処にも見当たらない。
夢でも見ていたのだろうか。
―――ああ、そんな事より、これからどうしよう。
……え、どうしよう………??
俺、何か不味いことしたっけな。
思い出せない。次第に記憶が遠のいていく。
君は誰だっけ。君は|存在《い》たんだっけ。
考えれば考えるほど余計に分からなくなっていく。
俺は、“誰”に、“何”を言おうとしていたのだろう――――――
---
「―――タクトっ!!」
俺の名前が聞こえ、声のする方へと振り返る。
「タクト!覚えてる??私!ユナだよ!ユナ!」
ユナ…………??
ユナ、ユナ………………
多分、知らない。
俺はその人から逃げるように足を速める。
「ほ、本当に覚えてませんか!?私、あなたの妹なんです!私が生まれたばかりの時に両親は離婚して、タクトと私は離ればなれになって………!!」
タクト「そんな話誰が信用するんですか。そもそも、僕に妹なんていません。」
――確かに、俺に妹はいない。
……だけど、俺が4歳の時に両親は離婚した。
――もしかしたら……………
でも、この人の言うことを肯定してしまったら、余計にこの人に寄り付かれ、面倒なことになるので、それはあえて言わなかった。
「そんな………!!ほら、このワンピースも、あなたが私にプレゼントしてくれて……………」
黄緑色の、ワンピース。
―――なんだろう。既視感を感じる。
気のせいだよな………??
タクト「………いい加減にしてください!!ケーサツ呼びますよ!」
どんどん揺らいでいく心を振り切るように、俺は大声を出した。
すると、大声に反応して、他のメンバーが来てしまった。
「――ど、どうしたんだよ!タクト、大きな声だして。あれ、君、あの………成巡高校の……ゆ、ゆなちゃん………??」
「優人!それに、みんなも………この人、知ってるの!?」
「知ってるもなにも、半年くらい前に俺らで行ったじゃんか。高校に。で、ゆなちゃんはタクトの催眠術かけられてたんだよ。覚えてねーの?」
なんだよ…………
俺が間違ってるって言うのかよ。
仕方ないだろ。何にも覚えてないんだ。
まるで、誰かに都合の悪い記憶だけ消されたかのように。
タクト「…………ッッ!」
思い出せない悔しさ、腹立たしさで思わず俺はその場から逃げた。
---
「バタン!」
タクト「ハァ、ハァ……………」
急いで家に帰り、部屋に上がる。
気持ち悪い。
まるで、ドラマを見たときに、『あの女優って誰だっけ?』って、全然思い出せないみたいに。
タクト「………クソッ、クソッ、クソッ!……なんで思い出せねぇんだよ!!」
「バン!」
ついイライラして、部屋の壁に拳の横側を叩きつける。
すると、その壁の振動で、近くのクローゼットの上に置いてある物が落下する。
どれだけ強く叩いてしまったのだろう。
やりすぎてしまっただろうかと反省しつつ、その落下した物を拾う。
それは、手のひらサイズの小さな紙袋だった。
無性に中身が気になり、中を見る。
中には、リップがただ一つ入っていた。
――全て、思い出した。
妹がいたこと、
それはたまたま行った高校の生徒だったユナという子であったこと、
そのユナちゃんと一緒に出掛けたこと、
そこでユナちゃんが欲しがっていたワンピースを買ってあげたこと、
そして、『彼女の誕生日プレゼント』と嘘をついてユナちゃんに選んでもらい、買った使い道のないこのリップ。
そして、一番最近の記憶は、ユナちゃんと気持ちがすれ違ってしまい、その後にトラックに轢かれてしまったこと。
――そして、ユナちゃんが俺を突き飛ばして助けてくれたこと。
ああ、全部思い出した。
――俺は、あの子になんて態度を取ってしまったんだっ………!
ごめんな。ごめんな。
ダメな兄ちゃんで、ごめんな。
---
次の日、私は、一週間ぶりに高校へ来た。
七海「あっ、ユナ!久し振りーっ!風邪治った?」
どうやら、わたしが一週間休んでいたのは、風邪のせいということになっているらしい。
あの後、家に帰ったら深夜0時。
何も言わずに家を飛び出した上に連絡も忘れていたので、父にはこっぴどく叱られてしまった。
ユナ「う、うん!もう元気だよ!」
訂正するのは色々と面倒なので、話を合わせた。
〈その日の夕方〉
七海と一緒に学校の門を出る。
「――ユナちゃん……!」
帽子に眼鏡にマスクを着けた男の人に小声で話しかけられる。
「俺だよ………!」
その男の人はマスクを下げる。
ユナ「……た、タクトっ………!?」
タクト「大事な話があるんだ。ここじゃなんだから、別の場所で話そう。」
七海「……あーっ!そうだ、私用事思い出したーっ!私、先帰ってるねーっ!」
わざとらしく七海がそう言う。
七海「………頑張ってねっ♪」
その後に七海に小声でそうささやかれる。
七海「バイバーイ♪また明日ねー!」
そう言い、七海は変に陽気に帰っていった。
タクト「………じゃあ、いこっか。」
ユナ「う、うん。」
私たちは、共に歩き出した。
タクト「―――ごめんな、昨日は。俺、あの後全部思い出したんだよ。俺とユナは兄妹だったってこと。」
学校から徒歩5分ほどの小さな公園のブランコに腰掛け、私たちは話していた。
ユナ「……よかった。思い出せて。」
タクト「ユナちゃんが助けてくれたことも思い出した。」
ユナ「……最初は私が助けた訳じゃないの。嘘みたいな話なんだけど、実は――――」
ユナ「――って訳で……………」
タクト「そうだったんだ………俺、本当は死んでたんだ……不思議なことって本当にあるんだな…………………でも、その神様からユナへのバチも、俺が思い出すことによって完全になくなった。………これからは、ずっと一緒だね。」
ユナ「うん!」
タクト「やっと会えた、俺の妹。こんなに大きくなって~!」
タクトに髪をワシャワシャされる。
ユナ「ちょ、ちょっとーっ!」
そして、タクトは私をぎゅっと抱きしめる。
タクト「あのときの約束、ちゃんと守れたよ。『絶対会いに行く』って。」
ユナ「タクト―――いや、お兄ちゃん…………!」
私とタクトは、アイドルとファンから、兄と妹の関係になった。
こうして、私とタクトの不思議で運命的な物語は終わった。
〈一ヵ月後〉
「――ピーンポーン」
「はーい」
「ガチャ」
ユナの父「あーっ!どうもどうも、初めまして。ユナの父の増田俊広です。」
タクト「こんにちは。お会いするのは初めてですね!改めまして、馬場拓斗と、父の馬場|旬哉《しゅんや》です。」
タクトの父「初めまして、馬場旬哉です。今日は、お招きいただき、ありがとうございます。」
ユナの父「いえいえ!さあさっ、どうぞ中へ。ユナもいますよ。」
今日は、私の家で私と父とタクトとタクトのお父さんとのお食事会。
私は、お父さんが二人を迎え入れている間に、テーブルに食器と鍋をセッティングしていた。
タクト「―――ユナー!来たよー!」
ユナ「――あっ!タクト!」
タクトの父「君が結奈なのか!?大きくなったなー!父の馬場旬哉です。………って、覚えてないかー。」
ユナ「初めまして、増田結奈です。ずっとお会いしたいと思っていました!」
ユナの父「さあ、みんな席についてくださーい!今日は、すき焼きでーす!」
「おおー!!」
「―――それじゃあ、今後の馬場家、増田家の親交の深まりを願って、カンパーイ!」
私以外の三人はビールグラス、私は炭酸ジュースで乾杯した。
若者に絶大な人気を誇るPrince×2のエースであり、私の推しであり実兄でもあるタクト、
私の実父でもあるタクトのお父さん、
血は繋がっていないが、今までずっと私を男手一つで育ててくれたお父さん、
そして、普通の女子高生である私、
普通ではない組み合わせのお食事会になってしまったが、馬場家、増田家合同のお食事会は、大いに賑わった。
お誕生日席には、椅子の上に、私とタクトの母である青衣の遺影が飾られた。
その母の微笑んだ表情からは、私たちの楽しげに話しているようすを静かに見守っているかのように思えた。
fin.
『想いは、時を巡る。』無事、完結いたしました!
自分、本当に飽きっぽい性格なので、こうやって完結させることが出来て本当に感慨深い気持ちです。
目標は、『この小説に関するファンレター一つはもらうこと!』と思ってたんですが、結果は0。しかし、誰かしら読んでくれたと自分は信じる!
追記→…と思ったらこれ投稿した後にファンレター貰えました!ありがとうございます!
小説4つ掛け持ち状態は大変なので、サブ小説二つは投稿休んでましたが、やっぱ掛け持ちって大変ですね。てんやわんやで想時とウマ娘両方投稿遅れたりと支障を来してしまいました。本当にすみません。ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございました!
最後におまけとして、自分が書きたいだけなんですが、Prince×2メンバーの身長と年齢載せときます。ちなみにPrince×2は現実世界で言うキンプリとすとぷりの中間くらいの存在です。
メンバーについて気になった方は、「『想いは、時を巡る。』~Introduction~」を見てみてください。見た目については、男の人の見た目を考えるのが苦手なので、ありません。想像にお任せします。
・宮本優人(25)
身長……178㎝
・馬場拓斗(21)
身長……176㎝
・佐野周(19)
身長……167㎝
・田代政樹(24)
身長……184㎝
・中川隆太郎(23)
身長……180㎝
・神藤奏希(22)
身長……177㎝
調べてみると、20代男性の平均身長は171.5㎝。
超高身長ハイスペックグループになっちゃった………