編集者:花火
不定期のシリーズ!!書きたくなったら書きます。
この世界線の義勇さんは二週目義勇さんです!!
最近シリーズ増やしすぎ……そのうちひとつのシリーズにまとめられるかもです。
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目次
秘める恋心 其の一
自分の恋心を自覚しそうになるしのぶさん。
この世界線の義勇さんは二週目の世界の義勇さんです!!
ここまで、いつこられるのやら。
今宵の任務は冨岡さんとの合同任務。夏の暑さが厳しくて判断が鈍りそうなそうな天気だった。十二鬼月の可能性ありと知らされていたが、実際はすこし面倒な投てきを得意とするだけこの鬼だった。
そのせいで、走り回ってしまい夜明けが近いところでの討伐だった。もともと夜明けが近かったとはいえかなりの体力を消費した。……足もすこし挫いてしまった。
「この山を越えた先に藤の家の家紋がある。そこへ行こう」
「へぇ、この近くに知りませんでした」
「ここは、俺の警備範囲だからな」
近くなら足も大丈夫か。そう思っていたのだが、歩こうとするとふらりと揺れてしまう。気づかれないようにしないと。
「胡蝶。足が」
「大丈夫ですよ!このくらい」
「見せてくれないか」
誤魔化すことはできなさそうだ。おとなしく見せると自分でも驚くくらい腫れていた。
(こんなに腫れてるなんて)
「胡蝶。すまない」
そう言うと彼は慎重な手つきで木の枝で支えを作り、手拭いの布で巻いていく。完璧ともいえる対処の仕方だ。
「すみません。冨岡さん」
「気にするな。おぶるぞ」
「い、いえそこまでしていただいては」
ただ一歩歩くだけでふらつき、転びそうになる。思ったよりも容態がひどい。申し訳ないのだが、これは仕方がないだろう。
彼の背中はとても広くがっしりとしている。そして、視点がいつもよりも高い。歩幅が私のために狭くあまり揺れない。この気遣いのか溜まりのような人なのだ。
「すみません。ここまでしていただいて」
「気にするな。胡蝶は頑張っているからな」
「ありがとうございます」
しっかりと彼の背中にしがみつく。彼の匂いがし、安心する。このまましのぶは夢の世界へといくのだった。
次起きたときは、心地よい匂いと共に目を覚ました。あぁこの匂いは。
「胡蝶起きたか」
「は、はい今何刻ですか」
「丑の刻だ」
「そんなにも」
「もう少し休んでおけ」
最近寝不足だったのだ。その事も彼に見透かされているように感じる。お言葉に甘えてもう少し寝るとするか。
「それでは」
「もう一部屋とれてたんですか?だったらなぜここに」
「体調が悪そうに見えたからな。熱でも出したら心配だ」
この人は本当に優しい。その優しさが嬉しいのだ。私は皆の姉だが、ここではもう良いだろう。優しさに甘えてもいいだろう。
「じゃあな。報告書は変わりにやっておいた」
そして、この部屋には私だけが残る。寂しさを感じるが、すこし休憩しようと思うと、ふとすこし空いている襖の隙間に目をやるとあろうことか隣の部屋のおそらく冨岡さんの部屋に入っていく、一人の女の影が見えた。
(どういう、こと?)
冨岡さんにもそういう相手がいるのだろうか。でも、冨岡さんだって齢二一の青年だ。いてもおかしくはない。あの美貌の、あの性格なのだ。女の方からすり寄るのではないか。
これ以上は踏み入れてはいけないのだろう。ただ寝ようとしても頭からその光景が離れない。無理やり寝入ろうとし最終的には寝付いたのだが、モヤモヤは消えなかった。
「う、うん?」
寝過ぎてしまった。今の時刻は寅の刻。蝶屋敷に帰らなければいけないのに。
「胡蝶。入るぞ」
「冨、岡さん」
昨日の事が頭から離れず、動揺してしまった。ただの同僚なのだから別によいはずなのに。
「すっかり朝になりましたね!」
「そうだなぁ。足は大丈夫か?」
「はい!よくなりました」
笑顔を取り繕ってはいるが、実はまだすこし痛い。すこしならいいだろうと思いそう答えたのだが。
「今日は任務はなかったよな」
「……?はいそうでが」
「警備範囲は変わりにやっておく。もう少し休め」
見にかれているのだろうか。
(また、貴方の優しさに救われてしまいます)
「ありがとうございます」
「そうか。しっかり休めよ」
そういってどこかへ行こうとする。
「待って!」
ほぼ反射でいってしまう。彼が振り向く。どうして、呼び止めたくなったのだろうか?ただ行ってほしくないと思った。
「あの話したいことがあるので今日の夜また、来てくれませんか」
なんてことをいったのだろうか。柱は多忙なのに。
「わかった」
そう柔らかく微笑みながらどこかにいってしまう。
足が少し痛むためあまり歩き回ることができず、藤の家紋の人達に大変お世話になってしまった。
ご飯も頂いて感動するほどおいしかった。
湯船が酉の刻には炊き上がるそうなので、それまでは医学書を読ませていただいた。ここの藤の家紋は、本が充実していて、洋書まであるほどだ。すっかりと読み込んでいると、時刻は刻々と進んでいき、湯船が炊き上がる時刻になった。
「蟲柱様。湯船の用意ができましたが、足が少し染みるかもしれません」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「そうですか。では此方です。着いてきてください」
若い女性だ。どうやら透葉山を越えた先にあるこの藤の家紋は、この人しか若い女性はいないように見える。
(この人が冨岡さんと?)
外見を見ると人を引き寄せるような容姿に、柔らかそうな肌。そして、顔も物凄く美人。この人なら、冨岡さんとも釣り合う気がする。
「蟲柱様は、鬼殺隊の医療所もしているのですよね。すごいですね」
「ありがとうございます。ですが、藤の家紋の方達も鬼殺隊の皆さんにとってとても重要な場所です」
「そういっていただけると嬉しいです」
そんな他愛もない話をしていく。しのぶ的には、昨日の事について聞きたいのだが。
(話の流れで自然と)
「そういえば、この辺りでは求婚をする人が大勢いるのですよ」
「そうなんですか?あまり来たことがなくて」
「そうなんです。そのお陰でこの山一帯は一般の方も大勢いるんです」
冨岡さんは、この山も警備範囲に入っているから、大変だろう。
「まぁ、でも最近は来なくなったんですけどね」
「?どうしてですか」
「もともとこの山には赤いバラが咲いていたのでけど。あんな事件が起きてしまって」
あんな事件とはなんですか?と聞きたかったのだが聞いてはいけない雰囲気が、漂う。
(少し、気まずい。ここは、新しい話題を)
「冨岡さんは、よく来るんですか?」
新しい話題を出すために、冨岡さんの話を出す。詳しくこの女性と冨岡さんの関係性について探りたいのだけど。
「えぇ、義勇さんにはいつも利用して頂いています」
義勇さん?当たり前のようにその名を呼ぶ。この事だけで、もうわかってしまう。冨岡さんは、基本的に自分の名を呼ばせようとはしない。
(やっぱり、そうなのね)
「?蟲柱様大丈夫ですか」
はっと気づく。目に涙が溜まっているではないか。
(どうしてなの何も悲しいことなんてないはずなのに)
「目にゴミが入ってしまって」
何となくの言い訳をする。このあと言及されるかと思ったが、深入りはしなかった。
「此方です。ゆっくりとお過ごしください」
そういって、一人の時間へとなる。身に付けている隊服を脱ぎ下着の姿になる。ここの藤の家紋は本だけではなく他の設備が揃っていて、鏡もあった。
そして写る自分の姿。自分でも綺麗だと思うのだが、あの女性を見たあとだとどうにも霞んで見える。
冨岡さんはあのような女性が好みなのだろうか。きっとあの女性の着物の下も綺麗な肌なのだろう。想像は容易い。そして、自分の顔にまた涙が溜まっている。これ以上は見たくないと残りの身に付けているものも脱ぎ捨て湯船へ浸かる。
とてもいい湯だ。温かい。だが、体は温ためられても心は温められない。それどころか、自分の体が嫌でも見えどんどん凍りついていく。
(あの人容姿だけでなく、心も優しい。冨岡さんと同じだ)
考えれば考えるほど、お似合いの二人。心が締め付けられるように苦しい。
本当はもう少し浸かりたかったのだが、早めに上がり手拭いで自分の体を極力見ずに体についた水を拭き用意された着物を着る。髪も丁寧水気を拭いて、その場から立ち去る。
時刻は戌の刻。そろそろ食事が出される時刻だろう。ここに来て、時計を見る回数が増えた。これは、冨岡さんが来るのを待ち望んでいる現れだろう。食事が来るまで医学書を読もうとするが、いまいち集中もできず内容も頭のなかに入らない。《《あのこと》》が気になって仕方がないのだ。
暇さえあれば、考えてしまう。
私は、柱で冨岡さんともそれなりに任務を一緒にした仲だ。勿論宿が一部屋しか空いていないこともあった。それだけど、私には手を出さなかった。そんなにも魅力がないのだろうか。
美味しい食事も出たがほとんどが喉を通さなかった。藤の家紋の人には心配させてしまった。
時刻は子の刻。そろそろかそろそろかと寝ることはできなかった。
(早く来てほしい)
そんな子供のようなことを考え。
時刻は丑の刻。そろそろ夜が空ける。
襖が開く。冨岡さんだ。約束通り来てくれたのだ。
思わず抱きついてしまった。
本当にわからないのだが、咄嗟に体が動いてしまったのだ。彼は驚いたような顔をしたが、振りほどくことはなかった。
「顔色が少し悪いな」
暗闇の中でもよく見えるものだ。夜目がきくのだろう。
「冨岡さん。私のお願い聞いてくれませんか?」
「叶えられるのなら」
そして、深呼吸をする。そして、頬を紅く染める。これから、わたしがするお願いはそれだけのことなのだ。
「冨岡さん。私のことを抱い、て、はくっれ、ませ」
そして眠りへと落ちる。もう、体が限界なのだろう。本当は最後まで言いたかったのだが、また今度言えば良いだろう。
おやすみなさい冨岡さん
この物語終わるのでしょうか。心配になってきました。
子=0時 丑=2時 寅=4時 卯=6時 辰=8時 巳=10時 午=12時
未=14時 申=16時 酉=18時 戌=20時 亥=22時
赤いバラの花言葉 求婚
話の流れそのままです。
秘める恋心 其の二
今回は、義勇さんとの噂がながれるしのぶさん。
ここのしのぶさんかなり、恋に踊る乙女さんです。
ーーーーー水柱と蟲柱が一夜を共にしたらしい
そんな噂がながれていている。火種がないところから噂はながれることがないのだこれは、昨夜のしのぶの発言が火種となったのだ。
『抱いてくれませんか』
少し詰まったが、その言葉を聞いた一般隊士が噂をながしたのだろう。
あの藤の家紋に他の人いたなんて……。何時もなら気配に敏感だから、その程度のことわかるだろうに、残念ながらこのときのしのぶの体調が悪かったのだ。仕方がない。
(警戒を怠った私の責任ですね)
しのぶが朝起きたら、もう義勇はいなかった。それは義勇が、手を出していなかったことを意味する。
他の柱にはいつも通りの下らない噂だと思っているだろう。だが、今回は当人のなかにその意思があるのだ。
(私冨岡さんに抱かれたかったの?)
あれ以来義勇としのぶは会っていない。というより、一方的にしのぶが避けているのだが。
『胡蝶』
『冨岡さん。すみません今は駄目です。それでは』
そういう感じで逃げてしまうのだ。
(冨岡さんの顔をみるとあの日のことを考えてしまいます)
あわよくば、あの発言を覚えていなければいいのだが。
そんなことも考えるほど、あの発言を思い出せば思い出すほど頬が紅く染まる。なんで、いってしまったのだろうか。
(どうして、なんだろう)
水柱様となら、蟲柱様も納得ね
どちらも容姿が優れていますものね
蟲柱様かららしいわよ
そのような声が影からこそこそと聞こえてくる。だが、私と冨岡さんは釣り合わないのだ、あの女性を見たら誰でもそう思う。あの綺麗な手入れの行き届いている黒髪。私にはないものだ。
(……私は違う、本当はあの女性なのに)
しのぶは知っている。その噂の相手は本来はあの女性なのだ。
この類いの噂はよくながれるが、いつもとは違う感覚で嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ちだ。
(どうして、こんな気持ちになるの?)
いくら考えても、わからない。これは、誰かに相談しないといけないかもしれない。そんなことを考えながら、蝶屋敷の仕事をテキパキとこなしていく。
この感情にまだ名はないのだ。
---
「しのぶ様。行ってらしゃいませ」
「ありがとう。昼ぐらいまでには帰ってくるから」
手短に会話を済ませ、蝶屋敷にある薬を補充するために、町へと向かっていた。行きつけにしている、薬屋があるのだがそこの店主がかなり年をとっているため朝方にいかなければ、もう店が閉まってしまう。
夏の暑さが痛々しい。
こういう何気なく歩く時間があると、ついつい考え事をしてしまう。これは、本格的に誰かに相談しよう。と考えながら、歩いていく。ただ歩くだけでも汗が出てくるような暑さだ。蝶屋敷の子達が暑さで倒れないか心配だ。帰ったら素麺でも茹でようか。
薬屋は、華やかな通りを右手に曲がり少し進んだところにある。先ほどまでの道が嘘のように感じるぐらい落ち着いた雰囲気だ。
「ごめんください」
風鈴がチャランと音をたてる。いい音色で、先ほどまでの心配事が吹き飛びそうだ。
「しのぶちゃん。よく来たねぇいつも通りの薬を用意してるよぉ」
「ありがとうございます」
薬の受け渡し自体は早く終わるのだが、ここまで来るためにかなりの時間を使うのだ。行きつけにしている薬屋のため少し申し訳ないがここは早々に立ち去ろう。
「ごめんなさい。私急いでいて」
「そうかい。また来てね」
そうカラッと元気な声で言う。お言葉に甘えて、そそくさと店を出る。
少し歩いた所で知り合いの顔が見えた。
(甘露寺さんだ)
どうやら、此方にも気づいた様子で元気よく大きく手を振っている。
小さく手をふりかえすと鈴がコロコロ転がったように笑いながら此方に近づいてくる。
「しのぶちゃん!偶然ね!」
「そうですねぇ。甘露寺さんはお買い物ですか?」
「そうなの!でも、一段落ついたから甘味処にでもいこうと思ってね!しのぶちゃんも一緒にどう?」
(えっとアオイには、昼ぐらいまでにはと伝えたのよね)
だが、最近はしのぶ自身に悩みがありそれを誰かに聞いて欲しいのだ。
(アオイ達には悪いけどここは誘いにのりましょう)
「是非ご一緒に」
「だったら、彼処に行きましょう!彼処はね蜂蜜をたっぷりかけたパンケーキがあってね。とっても美味しいの!」
店の外見は洋風文化を取り入れていて、色合いや建物の形状もあまり見慣れない。だが、近頃そういう建物も増えてきいるらしく、蜜璃の屋敷である恋柱邸も洋風文化も取り入れている。
店にはいると甘い匂いが鼻に漂う。席につくと店員の人がきて、注文をきかれる。
「えっとぉ、パンケーキを三十枚にアイスクリームの抹茶味とバニラ味、イチゴ味にうーんやっぱり、アイスクリーム全種類全部のせで!」
「は、はい!かしこまりました!」
「しのぶちゃんは?」
「すみません。こういうお店あまり来たことがなくておすすめはありますか?」
そういうと店員が、お品書きを持ってきてお店のおすすめのものを熱弁する。どうやら、蜜璃も頼んでいたがアイスクリームが美味しいらしくバニラ味のアイスクリームを頼んだ。
「しのぶちゃん。最近大丈夫?」
アイスクリームを食べながら、先程までは他愛もない話をしていた。
主に蜜璃の添い遂げる殿方の話だ。
(それがいきなりなんで私の心配を?)
「心配されることなんてないですよ?」
「あのね、最近しのぶちゃん少し顔色が悪くて……それに、元気もないように見えてね。だから、その大丈夫かなって思ってね。別になんにもないならいいんだけどね」
(いい人だなぁ)
そういえばさっきまで、忘れていたがそういえば蜜璃に相談したいことがあるのだ。
「実は最近わからないことがありまして」
「わからないこと?なんでも聞いてちょうだい!」
それから、最近義勇とあった出来事やその時の謎の気持ちについて語る。
(さすがに、抱いてあたりの話はぼかしましょう。それに、冨岡さんということも恥ずかしいですし)
「しのぶちゃんそれはね」
期待に満ちた顔になりながら、次の言葉をためらっているように見える。
「甘露寺さん、どうしたんですか?」
「そのね、多分それはしのぶちゃん。その殿方に対してしのぶちゃんの《《恋心》》があると思うわ!」
「へっ!」
恋心?しのぶは、恋心を心拍数が上がり血液中の巡りが速くなり、さらに目で追うようになるものだと認識している。
(その症状がでていたでしょうか?後で詳しく検査しなければ)
「しのぶちゃんはその殿方が、別の女の人と一緒に過ごしてるのがモヤモヤしてるんでしょ?多分それは|悋気《りんき》じゃないかしら」
「わ、私が悋気なんてない……はずです」
「しのぶちゃん自分の心によく聞いてみて」
自分の胸に手のひらをつけ、考える。
(あの女性に私が悋気なんてないですよね?でも、悋気してるとしたらなんで?)
「よくわかりません」
「そっかぁでも、大丈夫!いつかわかるわ!今はその時ではないだけよ!」
その時ではないだけ。まだ、知らなくてもいいことなのだ。その事に安堵してふぅと一息つく。
(どうしたら、私と関係を持ってくれるのだろうか)
「甘露寺さん。あと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「なんでも聞いて!」
「どうしたら、関係を持つこ、」
(何を聞こうとしてるのよ!甘露寺さんを困らせてしまうわ)
頬をビシッと強く叩く。頬が自分の手形に紅く腫れヒリヒリと痛むが、これは自分の戒めだ。
「し、しのぶちゃん?大丈夫?」
「大丈夫ですよ。甘露寺さんこれは戒めですから」
「そ、そう?ならいいんだけどそれで、聞たいことってなに?」
「い、いえなんでもないです。そういえばアイスクリーム美味しかったですね」
「そうよね!とっても美味しいわよね」
なんとか話を逸らすことができた。そこから少し話をし、今日はここでお開きとなった。
早足で蝶屋敷に向かいながら、時刻を確認すると昼過ぎだ。
「ごめんなさいアオイ!少し遅くなりました」
「しのぶ様!丁度お帰りになりましたか」
「丁度?」
今日は何も患者の診断の予定は入っていないはずだが。入るとしたら、例えば忙しく不定期でくる柱ぐらいなはず。
「水柱様がお出でです」
「冨岡さんが?なにか怪我をしましたか」
「いえ!話をしたいとのことらしくて。お疲れでしたら、断ってもよろしいとのことですか」
(は、話ってもしかして)
冷や汗がだらりと出てくる。みるみるうちに顔が青ざめていく。
「しのぶ様。お断りしますか?」
「い、いえ!行きます」
(逃げてばかりでは駄目よ、胡蝶しのぶ)
そう自分に言い聞かせながら冨岡さんがいる縁側へと向かっていた。
縁側へといくとそこには、何時もとは違い隊服ではなく着物を着ていてその上から羽織をはおっている。その姿に思わずときめいてしまい呼吸を忘れるぐらいの美貌だ。
そして、相変わらず凪いだ深い青の目で此方を見つめてくる。
(ず、ずるいです)
その事をきずかれぬように顔を取り繕う。
「冨岡さんどうしました?」
「いや、少し話をしようと思って。時間大丈夫か?」
「はい。大丈夫ですが」
すると奥の部屋の襖があき、アオイが入ってくる。こういうところがこの子は気が利くのだ。
「茶菓子とお茶です。ごゆっくり」
そして襖が閉められアオイが下がる。足音が遠退いたところで、話を振る。
「冨岡さん話ってなんですか?」
「噂の件すまないな。迷惑だろう」
「い、いえ!そ、その私はう、嬉しかっ」
(わ、私何を言っているのよ、ば馬鹿!)
「?嬉しい」
「いえ、なんでもありません!その事はもう大丈夫です!」
「そうか?なら、いいんだが」
(私も聞きたいことがあるんですよ。あの女性とはどういう関係性で?)
とは言えない。
「?聞きたいことがあるのか」
(本当に、この人は勘が鋭いんですから。でも、そんなあなたの秘密を私が暴いてもいいの?)
そのことに答えはでない。知りたくないのかもしれない。いや、知りたくない。どうして?この締め付けられるような気持ちは?冨岡さんにあったことでこの気持ちは大きくなっていく。
そして、いつぞやの甘露寺さんの言葉がよみがえる。
『それでね、他の人と話してるとキュウって苦しくなるの』
『そうなんですか。薬を処方しましょうか?重症です』
そのときはわからなかったが、今の症状はそれだ。キュウと苦しい。
この事を《《恋の苦しみ》》と甘露寺さんは表現していた。
(なら、私は冨岡さんのことを)
成る程と納得する自分もいることはわかっている。わかっているが、認めない。
「いえ、特にはありません」
「それでは、胡蝶の時間を無駄にはできないから失礼する」
「あ、待って!」
しのぶは、冨岡の羽織の裾を小さく掴む。この行動もしのぶ自身何にもわからない。だが、行ってほしくないと思った。それだけは本当の気持ちだとわかる。
「その、もう少し話していきませんか?私今日暇なんです」
あぁ本当は、嘘だ。
今日は患者の診断は入っていないが、カルテを書かなければならないし、補充した薬の並び替えもしなければならないし、昨日の任務の報告書も書かなければならない。他にもたくさんやらなければならないことがあるのだ。
それでも、一緒にいたい。わかっているが、まだ認めたくない。
認めたら、もう今の関係ではいられない気がする。
「胡蝶がいいならいいが」
他愛もない、任務の話や甘味処の話、最近食べた好物の話などをしていく。
(楽しいなぁ)
本当の笑みがこぼれるそういえば最近は気をはりつめていたのかもしれない。うとうとと体がふらつく。これは寝てしまう。
さぁと冨岡の膝の上に自分の頭が乗る。そして羽織を被せられる。どこまでも優しい貴女。お陰でとても寝心地が良い。
(今はこの一時を許してください)
なにも解決していないなのに、とても心が軽くなった。でも、まだ針は刺さっているような感覚はするが、きっと気のせいだ。
少し不自然なところできって申し訳ないです。
次回ついに自覚なるか!基本的には三話構成で話を終わりに、(話は繋がっているが)しようと思います!
秘める恋心 其の三
(いい匂い)
安心するようなそんな匂い。私はこの匂いを知っている。起き上がろうとするとそれまでかかっていた彼の羽織がさっと落ちる。名残惜しさを感じながらも起き上がる。
(羽織がまだある)
「冨岡さん。まだ、居たんですか?」
柱は基本的に多忙で、暇な時などほとんどない。だというのに、義勇はまだ居る。正直嬉しくて仕方がないのだがそれよりもこの水柱が、暇なほうが気になる。
「胡蝶は、最近顔色が優れなかった。少し心配でな」
「……アオイも同じこといってました」
(そんなに分かりやすいかしら。これでも、化粧で隠しているし任務でもバレなかったのに)
「皆、胡蝶が心配なのだろう。《《大切》》なんだ」
「そうですか」
私が心配されては駄目ではないだろうか。私は姉にならなければならないのに。
「冨岡さんも私のこと《《大切》》ですか?」
しのぶの顔は今頬を真っ赤に染めている。
(私なに聞いているの?聞いては駄目でしょう大切なのは……)
考えては駄目だ、また退いたはずの苦しみがあらわになっていく。
「と、冨岡さんやっぱり」
「勿論。俺は胡蝶のことが《《大切》》だ」
えっと間抜けな声が出てしまう。しのぶは、知っているからあの女の人はきっとそういう関係性なのだろうと知っているから。
(それでも、私はあなたの優しさに甘えたいです。きっと、それは我儘だと思います。本当はあの女性の物だとわかっています。それでも私は……)
「安心してください。冨岡さん私は元気になりました」
「そうか、良かった。もし良ければ、食べてくれ」
そうして、渡されたものはこの辺りではかなり有名な甘味処のお団子でこの中でも買うのに二刻ほど並ぶと言われているほど人気な自家製のたれをたっぷりと使った団子だ。
「まぁ、いいんですか。こんなに良いもの」
「いいんだ。蝶屋敷の子供たちとも一緒に食べてくれ」
そういって義勇は立ち上がり落ちていた羽織を持って去る。
義勇がいなくなってしまったことで、縁側はしのぶだけになる。
しのぶもしばらくして立ち上がり、自分の部屋へと向かう。
(やらないとな)
そう思いながらも、作業を進めていく。二刻ほどが経ち蝶屋敷の門が叩かれる。一旦作業の手を止め、門の方へ向かう。
門の前に立っているのは筋肉がきっちりと引き締められているガタイの良い自称祭りの神の派手好きの宇随さんだ。
(……?今日は何も予定が入っていないはず)
「どうなさいましたか。宇随さん?」
「聞いたぜ、胡蝶あの噂」
「あぁそれがどうしたのですか」
(こういった噂は前にもたったはずですが)
「いや、聞いちまったんだけどよ。胡蝶ド派手なこと言ったんだろ」
「どうしてそのような発想で?前にもありましたよね」
そう、前にも義勇としのぶの噂はたっていた。それどころか、なぜかわからないが一番柱の中で噂になるのはこの二人だ。だからこそ、今回の噂もいつも通りのやつだろうと受け流せるのではないか。なんて考えていたのだが。
(なんで、こういうときに限って)
「胡蝶。諦めろ何て言ったかもわかってるんだからなぁ」
「どういう情報源なんですか?」
そこまでわかっているなら言い逃れはできないだろう。そう思いながらしのぶは腹をくくる。
「いやぁ、まさか胡蝶が冨岡にと思っただけだ。それで、結局どうなったわけ」
「……なにもありませんでした。添え箸にすらなれないらしいです」
「はぁ、いい加減冨岡もすればいいのにな。あいつ経験ないんじゃねか?胡蝶はそれなりに尻も大きいし相手としてはいいと思うんだが。あいつの思考回路が不明だ」
(それは、私が聞きたいんですよ!!)
「私の前でそれ言います?あと、冨岡さんは経験ありますよ」
「ほぅなぜそれを胡蝶が?」
あっと声が漏れる。
(言ってしまった)
「それだけですか。それでは私はしごとがありますので」
「待て、話を聞こうか」
のがられないような雰囲気を醸し出している。
(まぁ、そんな雰囲気よくわかりませんねぇ!)
「嫌です。断らせていただきます」
「駄目だ。それでぇなんで胡蝶が知ってるんだ?」
「……話せば長くなるので、入ってください」
(これは、振り切れませんね。時間だけがとられるだけ)
しのぶがくくった腹がこういった形になるとは。そうして、長めの渡り廊下の先にある客間へ通す。
「少し待っていてください」
茶菓子や茶をだそうと、厨房へと向かう。いつもこういった事は、アオイがやるのだが今はとある患者の面倒で手一杯なのだ。
(アオイでも、手こずるとは)
アオイは、患者の面倒を見る面ではしのぶにひけをとらない。たが、そんなアオイまでも細かなところに目が向けられないほどとは。
(はぁ宇随さんに使う時間もないのですが)
厨房の冷蔵庫には、基本的には客用の茶菓子が用意されている。旬のものから常時備えているものまであるのだ。
(ないですねぇ)
前、客としてきた蜜璃がほとんど食べてしまったため、旬のものはまだしも常時備えているものまでなくなっているのだ。
(どうしましょうか)
ただ、一つだけ残っているというよりは貰ったものがある。
(本当は私が食べたかったんですけどね)
私たちにくれたものなのだから渡す必要なんてないはずなのに。
なんで、宇随さんのために冨岡さんの恩恵を……
別によくない
とぶつぶついいながら、お盆の上にお団子をのせ天元のいる客間へと向かう。団子のたれが少し遅く揺れ、見れば見るほど美味しそうだ。
「おぉ。さすが蝶屋敷だな茶菓子まで一流だ」
「冨岡さんに貰ったんですぅ」
「そうかそうか」
(何かわかったことでもわかるのでしょうか)
しのぶは、|強面《こわもて》の表情でそのように考える。
「胡蝶。それでは」
「はぁ……、宇随さん。実はなんですけどね」
そうして、この間あったことを話す。その間興味津々な顔で「おぉあの冨岡が」とたまに声を漏らすほど熱心に話を聞いていた。ちょっとした長話を話終えた。
「そんなド派手なことを冨岡が?絶好のネタだぜぇ~これはド派手に祭りだなぁ」
(こんなことで祭りして堪りますか!)
「まぁ、俺はこの辺で。あぁ胡蝶いつでも相談にこいよ」
そういって天元は去っていく。忍びのように音たてずにはぁとどっと疲れた。
(それにしても、なんで相談でしょうか?)
本当は分かりつつあるこの相談はきっと恋愛相談だろう。ということはやはり私は冨岡さんのことが……いいえ、そんなはずありません。知りたくない知りたくないこの感情の名前をまだ知りたくない。
---
ーーーーーーー冨岡さんが結婚するらしい。
しのぶと義勇の噂は次第に無くなっていくころ、そんな噂が流れ始めた。
その噂を聞いたとき脳裏によぎる。
(もしかして、あの人と?)
確かに、冨岡さんは顔もよく。性格もよく。笑うと春がきたのではないかと思うぐらい癒される。そして助けに来るとあんなにも頼りにもなる人はそういない。ただ冨岡さんは、今は柱だ。
(でも、もしかしたら女性の方から求婚して、それに応じたぐらいならもしかしたら?)
涼しい風が頬に伝わる。暑く汗が流れる日々はもう終わりを告げる。これから、鬼の活動時間が増えるのだ。いっそう警戒をしなければならないそんな季節だ。
鬼の活動時間が増えるということは、怪我も増えることに直結するため蝶屋敷は慌ただしくしていた。そんな中でも、しのぶは水柱邸へ向かった。
(もしかしたら?本当に?)
そんなことを考えながら、脚に力をこめて地をおもっいきり蹴る。
蝶屋敷と水柱邸はそれなりに近く走ったらすぐにつくぐらいの距離だ。
いつも通りの水柱邸。恋柱邸とは違い、和風な雰囲気で竹に囲まれている、安心する雰囲気だ。規則正しく障子は開けられており、ここの主人の人柄のようだ。門は、開けられておりふぅと安心する。
(女はいないわね)
「冨岡さん!」
「どうしたんだ。胡蝶」
今のしのぶは髪も崩れ呼吸も早くなっていて、顔も赤い。心配して当然だ。その事もしのぶはわかっている。それでも、一刻もはやく知りたかった。
なぜ?そんなこともうわかりきっている。
「あ、あの冨岡さんって!」
「とりあえず上がろう」
話を途中にさせられた。
(これは……)
そうして、縁側へ案内され、美味しそうな茶菓子に一流の茶葉を使ったお茶が用意される。
「落ち着いたか?」
「はい。落ち着きました」
一息をつき、心と体が落ち着いた。さっきはしのぶはとても必死だった。(あくまで自然に聞き出さなければ)
「今の胡蝶の調子ですまないが警備の交代をしてくれないか?」
「へっ」
府抜けたような声がこぼれ落ちる。
(冨岡さんが警備の交代?あの、冨岡さんが?)
義勇は『今日は生誕なのだろう?蝶屋敷の家族と一緒にいるといい』などといって自らしのぶの警備との交代を申し込む人だ。他の柱でも同じことをしている。そんな人が警備を二の次にした、何かあるのだと容易に想像できる。
「はい。大丈夫ですが」
「すまないな。胡蝶が蝶屋敷の子供たちと過ごせる時間を奪ってしまって」
「いえいえ大丈夫です。冨岡さんの自由に過ごせる時間も増えるのだったら」
これは、遠回しに結婚のことを聞けないかと探りをいれているのだ。
(逢い引きするのだろうか?)
義勇とあの女性の関係だとなかなか会うことはできないだろう。任務帰りにいつも同じ藤の花の家紋に通っていたら、何か勘ぐられる可能性があるからだ。
「少し用事があってな」
もう少し話を踏み込みたいのだが、踏み込めない。これではない感じがするのだが。口を開こうとするとうまく開かずに開こうとすれば閉じるの繰り返しだ。
(駄目よ。私は、蟲柱胡蝶しのぶ)
「冨岡さん!あの結婚するんですか?」
脈が激しく、血の巡りが早いそして、心臓がドキドキとしている。この感情の名前をしのぶは知っている。だが、認めたくない。
『あぁ』なんて言われたときにはしのぶは立ち直れないだろう。それなら認めない方がいいのではないか。
「……?すまない、よくわからない」
「っはい?」
(しらばっくれてるの?)
ただ、今の義勇は首を少し傾けてちょこんとしている。本当にわかはないという態度だ。
(わからないの?)
これはもしかするともしかして結婚なんてないのではないか。そう頭で思いう。
「噂が流れているんでよ」
「……?噂になるようなことをしただろうか?」
「しりません。自分の心に聞いてみてはいかがでしょうか?」
低くピリピリするような声だ。しのぶは、突き放すような知りませんという態度をとってる。
(怒っていません)
ただ、端から見たら怒っている。
「怒っているのか?」
「怒っていません」
「ただ、……」
その先の義勇は言葉が紡がれることはなかった。これ以上は踏み込んではいけないと思っているのだろうか。
(別に聞いてもいいのに!)
「なんか、言ったらどうですか!」
「……胡蝶?」
「冨岡さんは噂の女性と体の関係があるんでしょう?」
(もう……正直に、言って、ほし、いです)
しのぶの涙が頬に伝わり羽織に染みて、体が小刻みに震える。
認めてくれたら、諦められるから。この心の中にある渦巻く感情の正体をわかっているけど、この感情を真っ正面に受け止められない。受け止めたくない。
「……?そんなものあるわけないだろう。何を勘違いしているんだ」
「そんなわけありません。私は見たんです」
「何をだ?」
(私は知っています)
私は知っている。だから、心が苦しい。呼吸が乱れ、涙は止まらずに声が曇っていく。
「あな、たの部屋に!女、性の人が、……入っていくのを!」
「……あぁ、勝手に入って追い出したあれか」
義勇は手をポンと叩き、閃いたといわんばかりの動作だ。
(追い出した……?)
今思い出せば確かにその後は何も見たくなくて、目を背けていた。それなら、あり得ない話でもなんでもない。義勇は柱だから、女に言い寄られることも何回もあるだろうし、肝が据わっているなら部屋に入ってくるくらいあり得る。
(よかったぁ)
真実はこんなにもあっさりとしたことだった。ただただ、私が焦っただけ。それと同時に心のなかに沈めていた感情が浮き出てくる。
(もう、認めないといけないじゃないですか)
「そういう事だったんですね。うっかりです」
いつの間にか溢れ出ていた涙は止まり、自然と笑顔になる。よかった本当によかった。
「そうか。もしよければなんだが、よかった少し|喋《しゃべ》っていかないか」
「|勿論《もちろん》ですよ!」
蝶屋敷が忙しいことなんてうっかりわすれてしまった。この人と話すのは楽しい。
(冨岡さん。貴方はわからないかもですが)
一緒に今は世間話に花を咲かせながら話していく。
(私も貴方が《《大切》》ですし、それに)
本当は認めたくなかった。だけど、あの女性と関係がないなら。可能性はあるのではないか。そんな可能性を考える自分が憎めないのだ。
それは
(それは、私が貴方のことを)
「好き、だからですよ」
小声でこっそりと伝える。貴方には聞こえない声で。
「胡蝶何かいったか?」
「いえ、何もありません」
この気持ちは貴方には知られなくていいんですよ。私がこっそりと心に秘めるものですから。
まさかの五千字ごえびっくりしました。これで秘める恋心編は完結です。次は、清酒に揺らされて 其の一を投稿する予定です。その前に番外編を挟むかもしれまへんが……
まだ、このシリーズは続きますので引き続き応援よろしくお願いします!!
ちなみにこの義勇の結婚噂は、宇随さんがながしました。