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目次
1 父様
視界がぼやけ、焦点が定まらない。
無理にピントを合わせようとすればするほど、世界が滲み、霞んでいく。
声を出そうとしても、喉が震えるだけで音にならない。
どうすればいいの、私。
体を動かそうとするのに、全身が強張っていて思うように動かない。
ぎゅっと目を閉じて、もう一度そっと開いてみる。
すると、視界がふいにクリアになった。
ここは……どこ?
冷たい風が頬を撫で、肌を刺すように吹き抜ける。
目の前には闇に沈んだ木々と、星が瞬く夜空。
体はまだ動かない。
だから私は、ただじっと、その場にいるしかなかった。
冷え切った体が痛みを訴えはじめる。
指先から命が遠ざかっていくようで、息をするたび胸がぎゅっと苦しくなる。
このまま凍えて死んでしまうのかもしれない══そんな予感が心に広がったそのとき。
静けさのなか、ふわりとぬくもりが落ちてきた。
目を細めると、月明かりの下にすっと立つ人影。
ふわりと柔らかな毛布が降ってきた。
温かい。
私はほっとしてその人の腕の中で眠りに落ちた。
体がずっと浮いていて、ふわふわしているような感覚。
たまに上から下に落ちるような恐怖。
でもその瞬間体に染み渡るぬくもりと安心感。
私は気づくとすべての感情が詰まった世界にいた。
そっと近くにあったふわふわしたものに触れる。
その瞬間、私の目は開いた。
寝ていたんだ。
「ううっんー……」
私は急に出てくる嗚咽と涙に困惑する。
手が小さい、体も小さい。
それはまるで……赤ちゃん。
周りには誰もいなくて、先ほどまでの安心感はどこ? という状態であった。
「んんーっ……うゎん……」
勢いよく流れてきて止まらない。
私は助けを求めるように大きな声で泣く。
どうしようどうしよう。
そのころ、隣のホールでは。
「魔王様! 人間の赤子を連れて帰ってきたのですか!?」
「育てられないのに、そんなだめですよ!」
魔王がいつものように笑みを張り付けながら口を開く。
「まあまあ、聞いてよ。君らも考えてみなって。森の中で赤子が助けを求めているんだぜ? それがいくら人間の子供だとしても見殺しにするわけにはいかないと思うな」
「……わたくしも賛成ですわ」
沈黙の中手を挙げたのは15ヶ月前出産したフェンリル夫人だ。
今は魔王の変化の魔法によってヒト化している。
「おか、さま?」
フェンリル夫人が抱えているフェンリルの子供リュカが優しいまなざしでフェンリル夫人と人間の赤子がいる魔王の書斎を交互に見る。
「私も、賛成ですわ!」
元気な声で言ったのはワイバーンの夫人ルミルーネだ。
彼女は腕に抱いた我が子のことを愛しいまなざしで見つめる。
「私、このこを生んでから、考えが変わりました。……私、小さい頃は子供のこと。……正直好きじゃなかったんです。でも、やっぱり、見てると癒されるんです。しかもその子の命がかかってると思うだけで力がみなぎるんですわ!」
それと同時にルミルーネの子供アーゼンがくるくると空中を飛び回る。
「「私も、育てたいです」」
次に声を揃えて言ったのは、双子のウィンディーネ夫人、ウォーティとマリニィーだ。
「はい? マリニィーまだ妊娠中でしょう。私はもう産んでるわ」
「あと1週間後ぐらいには生まれるわよ」
「だったらもっと駄目じゃない。魔物のつわりは人間とは比にもならないのよ」
「私のギフトは母性よ。何のためにマリニィー、この私が生まれたと思っているの!?」
二人が口喧嘩を始めたためか、移動魔法でフェンリル夫人、ルミルーネ、ウィンディーネの双子が壇上に上がる。
「さあ、多数決を始めようじゃあないか」
新作出しました。
これからもよろしくお願いします!!
「追伸」
いつも閲覧してくれてる方、ありがとうございます!
そして!!!!!!!!!!
誠に申し訳ございませんでした!!!!!!
更新遅くなってごめんなさい!
2 魔王(の家臣)の子育て
「この多数決は、誰が一番母親として適任しているか決めるためのものだ。ルールは簡単。投票権を持っているのは壇上の4人以外。そして一人一票。悪意のある票は受け付けない。本心を入れるように。決まらない人は白紙を入れなさい」
魔王がそういうと全員の家臣の手元に白い紙とペンが現れる。
サッサッサ……。
書き終わった家臣が魔王に「どこに入れるのですか?」と聞くと、空間魔法が開かれる。
「そこに入れてくれると助かるよ」
魔王がにっこりとほほ笑むとその場に緊張感が走る。
その家臣がそっと空間魔法の中に入れると、ぞろぞろとほかの家臣たちも票を入れる。
魔王の威圧感はすごいものだ。
家臣全員計759票を入れたことを確かめてから集計が始まった。
「フェンリル夫人……189票、ルミルーネ夫人、191票……ウィンディーネの姉ウォーティ夫人、191票、その妹マリティ夫人、188票。よって、ルミルーネ夫人とウォーティ夫人の勝利とする。では次の段階に行くね。ルミルーネ夫人とウォーティ夫人の二人で多数決を取ろうじゃないか。決まらなかったら次はフェンリル夫人とマリティ夫人の多数決にするからね」
そんなこんなで多数決を取った結果、反則が見つかり3人の票が無効となって、全員の票数が同じになり、なんやかんやでじゃんけんになった。
「じゃんけーんぽん!」
じゃんけんは5分ほど続き、私の母親はルミルーネ=ワイ=ヴァーン、そして父親は魔王、ルイゼル=ディア=ヴァルゾレイアとなった。
3 新しいママができたけど、立場上魔王とは結婚できないから、ママとパパが私はいるのに、ママとパパは結婚してない!?!?
お分かりの人も多いとおもいますが、主人公は転生してきた人です!
私がいる部屋のドアが開いた。
ホールに私の鳴き声がこだまする。
(みなさん、すみません!! 勝手に涙が出るんですぅ)
笑顔を張り付けた魔王と一緒に入ってきたのはルミルーネ夫人と呼ばれていた人……いや、魔族だった。
私のことを優しく、そっと持ち上げる。
その手は愛情がこもっていて、私がずっと求めていた暖かさだった。
すっと私の目から涙が引き、にっこりと口角が上がる。
「笑いましたわっ!」
喜び方が小さな子供のようで、私の胸に温かさが広がる。
アーゼンもにっこりと笑っていた。
魔王の微笑みもいかにも父親という感じ。
これが、家族なんだ。
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月日が経ち、私は乳兄弟のアーゼンと庭で追いかけっこをしていた。
「待って、ルーフェリア!」
ぱたぱたと小さな羽を揺らして追いかけてくるアーゼンのかわいさがたまらない。
そして魔法を使えて魔族と同じがそれ以上の才能がある自分に惚れる。
「ルーフェリア、そっち行ったら……あっ!」
私が木陰に滑り込むと、アーゼンは勢い余って転がってしまう。
見る見るうちに、アーゼンの目に涙が溜まり、アーゼンは泣き始めた。
「アーゼン!」
私はアーゼンの元に駆け寄る。
「こらこら、ルー。アーゼンをいじめたのかい?」
「父様! ……何て酷い言いようかしら……。私はアーゼンを慰めているの!」
「うっぇ――んっ」
私はよっとアーゼンを立ち上がらせ、服の汚れを落とす。
「人間に追いつけないほうが悪いのよ」
「だってぇ――、ルーフェリアはっすごく、強いっじゃないかぁ――!」
「ふふん、当然よ。私、魔族の頭の娘なんだから」
ちょっと得意げに胸を張ると、アーゼンは鼻をすんすん鳴らしながらも私を見上げてにこっと笑った。
「でも、ルーフェリアが笑ってると…なんか、楽しい」
その言葉に私の胸がきゅっとなる。
アーゼンの言葉は、魔法以上に私の心を動かす力を持っている。
その瞬間、庭の空気がふわりと揺れた。
「ほら、ガーデンに入らないか? お茶でもしよう」
父様が私たちの背中を押す。
「うん!」
私はアーゼンの手を引き、ガーデンの中に入っていた。
きっと、この幸せな日常はずっと続く。
※あとがきですが、おまけ小説をつけようと思いました!
「ふ ろ く」
「ねえアーゼン、私の母様と父様って結婚してないのよね」
「ルーのお母さんは僕のお母さんだぞ」
「知ってるわよ。あんたの父様が私の父様じゃないことも」
アーゼンは何か言いかけて、ふと黙った。
風が庭の木々を揺らし、羽がそっとなびいた。
「でもね、ルー。僕たち、兄弟みたいだと思ってる」
「……ほんとに?」
「うん、だって一緒に笑って、一緒に泣いてるし……家族みたいなものじゃない?」
私は少し照れくさくなって、視線を空へ向けた。
澄んだ青に浮かぶ雲は、ふわりと優しく形を変える。
「そうね……私たちって、変な家族ね」
「変でもいいんだよ! __今家族になれなくても将来夫婦になりたいし__」
「? 何か言った?」
「ううん! じゃあ僕屋敷に戻るから!」
「じゃあね……」
4 ……父様?
ギャグ要素は入れないことにします。
ある夜。
私は母様と一緒に寝ていたが目が冴えてよく眠れない。
私はトイレに行くために、部屋を出た。
父様の部屋の前まで行く。
すると何やら中が騒がしい。
私はそっと中をのぞいた。
そこには、父様が背中を向けて立っていた。長いローブが血のように赤く染まり、その足元には倒れた影。
部屋に充満する鉄の匂い。私の目は本能的にその影に向かう。
魔族ではない。人間の姿をした侵入者が、息絶えていた。
「……命を奪うことに、躊躇はない。でも理由なくはしないさ」
父様は低く呟いた。
「でも、僕の家族に手を出すものは許さないよ」
父様は部屋の中には一人しかいないはずなのに、冷たい顔でつぶやく。
私がそっと去ろうとすると、父様が優しい声で呼びかけた。
「ルー。入ってきなさい」
私は震える足でそっと部屋に入る。
血の匂いはまだ消えず、父様の背中が夜の闇よりも重く感じられる。
その瞬間、父様がくるりと振り返り、私をじっと見つめた。
「ルー。怖かったかい?」
私はこくりとうなずいた。部屋の空気は重く、鉄の匂いが喉に刺さる。
魔王――父様は、ゆっくりと赤く染まったローブの裾を払った。
「勝手に入ってきたんだ。魔王城の結界を破ってまでね」
その声には怒りも、悲しみも、あるいは呆れも混ざっていた。
「……人間の冒険者たちだった。王都の名門ギルド所属。“討伐依頼”なんて体裁で、堂々と門を破ってきたよ」
私は思わず息を呑んだ。
「なんで……?」
「理由なんていらないんだろうね。魔王城に“危険がある”って言えば、何でも正義になるらしい」
父様の笑みは皮肉に染まっていた。
「それで……殺したの?」
「そうしないと、こっちが皆殺しにされるところだったよ。家族も、家臣も。彼らは“駆逐”しに来たんだ。先制攻撃をしてきた。僕らはただ、防御しただけさ」
私は言葉を失った。だけど、その手を見たとき、思った。
この手が、私を包んでくれたこと。
この腕が、私を守ってくれたこと。
「……父様のせいじゃ、ないの?」
沈黙が落ちた。空気が静まり返る。
父様は少しだけ目を見開き、そして小さく笑った。
「ルー。もし僕が悪いなら、それでもいい。君がそう感じたなら、僕は受け止めるよ」
私は息を呑んだ。予想していた答えとは違った。
でも、あたたかかった。
「でもね。僕は君を守るために、選んだんだ。何かを犠牲にするしかなかった」
その言葉は苦しげで、でも真っ直ぐだった。
心の中にあった迷いは、まだ消えない。けれど、少しだけ、進める気がした。