これは、私が最近ハマった「つぐのひ〜彁名縛りの部屋〜」の二次創作!チラズアートさんの小説化されたやつにハマって(語彙力よ)、私もやってみたい!って思って始めた!ぜひ読んでみてください!
2026 3/11(水)から毎週水、金曜日のお昼頃に一話ずつ投稿する予定です!
2026 3/22 力尽きました。残りはYoutubeなどに投稿されてる実況などで確認してください、すみません!
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目次
永遠のカナシバリ プロローグ
ー貴方が見ている世界は、現実とは限らないー
私は両親と共に一軒の古民家の玄関に立った。今日は、私の初めての家の内見の日。楽しみで、少し髪型とか服とか気にしちゃった。
「へぇー、古いけど綺麗リノベーションされてるじゃないか。どれどれ、中はどうなっているかな…」
お父さんがズカズカと建物の中に入って行った。
「ちょっとお父さん、今日は|花名《かな》がお部屋を見に来たんだから、もう…」
お母さんが少し注意している。改めて私、花名は目の前の建物の紹介のチラシを見た。
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**|𡚴原荘《あけんばらそう》**
都内駅近!古民家タイプ!リノベーション済み!新生活に便利な家具付き!
値段:44400円!当店オススメの掘り出し物件です!!都内一戸建て!駅近の好立地!この資料の物件は滅多に出ません!!築古の物件ですが、女性オーナー様のセンスでまるで『古民家カフェ』のようにリノベーションされており、女性の方にもオススメできます!!
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(𡚴原荘、ね…)
私はチラシの左下を見た。そこにはこの家のサポートをしてくれる方のプロフィールが書いてある。
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私が新生活をサポートします!近隣住民様やオーナー様とのトラブル、新生活の悩みに一緒にご対応します!
担当:|藤木健人《ふじきけんと》
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説明の左に担当の方の写真が乗っているのだが、ちょっとイケメン……別にこの人に惹かれたわけじゃないからね!違うから!
チラシの真ん中には家の間取りが書いてある。12畳の大きな洋室の両脇にお風呂やトイレ、クローゼットなどが付いている。庭までついて44400円とは破格のお値段。一人暮らしには十分の広さだ。
「さぁ花名、」
お母さんが私の肩に手を乗せる。
「貴女が住む家なんだから、気にいるお部屋かしっかり見てらっしゃい」
「うん…」
私は頷き、新居の中へと入った。
ーこの時には、私《《たち》》はもう手遅れだったのかもしれない。
---
𡚴原荘の玄関には、「WELCOME」の文字をかたどった折り紙の看板が置いてあった。文字以外にも、桜の花や…女の子?いろいろな種類の折り紙が貼ってあって、可愛い。看板を見ていると、奥から若い男性が歩いて来た。担当の藤木さんだ。
「|桜木花名《さくらぎかな》さん、お部屋をご案内しますので、お上がりください」
「えっとぉ…藤木さん、よろしくお願いします」
藤木さんは建物の奥へ進んで行く。私はその後ろに付いて行った。
「こちらのお部屋は、女性オーナーさんのセンスで、「古民家カフェ」のようにリノベーションされているんですよ」
なるほど、確かにチラシに書いてあった。左に置いてある棚が目にとまる。いかにも古そうな、木造の棚だ。
「あのぉ、この棚は…?」
「この棚は前に住んでいた方が残していった「|残置物《ざんちぶつ》」ですね。状態が綺麗なので、備え付けの家具としてご案内しています」
「ざんちぶつ…これって、もし契約したら、私が使ってもいいんですか……?」
疑問に思うことがあると左手の人差し指を頬に当てる、これは私の癖だ。
「はい、もちろんですよ。新生活は皆さんお金もかかりますし、備え付けの家具を使えば、節約にもなりますよ」
「なるほどぉ、いいですね…」
軽く頷き、藤木さんは建物のより奥へと進んで行った。
ついていくと、トイレとお風呂の二部屋の扉らしいものが見えて来た。二つの磨りガラスの扉の間にボタンがある。
「このスイッチは…?」
独り言を言いながら、上のボタンを押してみる。すると、奥側のトイレの電気が点いた。
「…あ、なるほどぉ…」
「上はトイレで、下は浴室のスイッチですね。」
藤木さんが説明をしてくれる。
「アイコンが可愛くて、いいですねぇ…」
黒色のシンプルなデザインのプリントがスイッチの上下に付いている。
「そちらも「女性オーナーさん」の意向でカフェ風のデザインを取り入れたようですよ」
「へぇ、素敵ですねぇ…」
さらに奥に進もうとした時に、とある物に気づく。
(黄色い服の女の子の…人形?)
入り口の看板に貼ってあったものと同じ折り紙の人形が浴室の中に透けて見える。
(…オーナーさんが落としちゃったのかな…)
藤木さんに言う気にもなれず、とりあえず無視をして奥へと進んで行った。
トイレの扉の横に、電球のマークの描いてある照明のスイッチがある。どこの照明だろう…?
「ぜひ、そちらのスイッチも押してみてください」
こちらの考えを見透かしたかのように藤木さんが話す。
「これ…?」
押してみると、廊下の間接照明が点く。
「あ、間接照明…?」
私がそう言った直後にどこかから何かが軋む音が聞こえた。古い家だから、家が少し軋んだりするのかな…
そう思っているうちに説明が続く。
「間接照明は、お部屋をおしゃれに演出してくれるんです。こういう工夫がされてる賃貸ってあまりないんですよ」
(このお部屋、住みやすそうだなぁ…)
折り紙や部屋の軋みなどを除けば、絶好の物件。ここに住むのも悪くはないかもしれない。
__「おーい、花名!こっち来てみろぉ!」__
部屋のさらに奥から先に入って行ったお父さんの声が聞こえる。
「なーにー?お父さん?」
声が聞こえた方に歩いて行く。また何かが軋むような音が聞こえたけど、この建物結構古いみたいだし、そういうこともあるだろう。
ゆっくり部屋を進んで行く。ところどころに折り紙の装飾がされていて、歓迎されているみたいだ。進んでから気づく。
(…あれ、さっき押し入れの中にあった折り紙、動いてなかった…?)
振り向いて確認をしてみると、そこには何も無かった。
(…気のせいかなぁ…)
奥に行くと、お父さんが部屋の突き当たりに立っていた。隣には備え付けの物と見られるベッドフレームと…
「わぁ、桜の木?」
窓から見える𡚴原荘の庭には、樹齢何千年とたっているであろう立派な桜の木が植っていた。今がちょうど季節だから、花が少し咲き始めている。
「ここに布団を敷いたら、桜を見ながら寝られるぞ」
後ろから歩いてきた藤木さんが案内を進める。
「そちらのベッドフレームも備え付けですので、あとはお布団を用意して頂けば、安く済みますよ」
備え付けの家具、古民家カフェ風の家のデザイン、あとはやっぱり庭の桜の木。やっぱり私…
「お父さん、私ここの部屋に決めようかな。結構古いけど、部屋も綺麗だし、家賃もこれなら払えそう」
「あぁ、花名が良いと思ったなら、そうしなさい」
「うん!」
私は大きく頷いた。遂に夢の新生活が始まるんだ。私の胸は喜びでいっぱいになった。
---
私と父は𡚴原荘を出た。玄関を出ると、奥の方で母と誰か女の人が話しているのが見えた。私たちに気づいた母がこちらに向かって来る。
「花名、オーナーさんがご挨拶に来てくれたわよ」
母の奥に、背の高い女の人が見えた。青みのかかった一つくくりの髪に、黄色のシャツを着ている、おしゃれな方だ。見たところ、40〜50歳くらいかな…女の人がこちらに来て、口を開いた。
「初めまして、オーナーの|𡚴原妙子《あけんばらたえこ》です。この物件はお気に召してくださいましたか…?」
𡚴原さんが少し不安そうな顔をする。
「あ……はい!とっても気に入ったので、ここに決めようと思います」
「なるほど、それはよかったです」
𡚴原さんが微笑んで俯く。どうしたんだろう…?
「それにしても𡚴原って名字、珍しいですね?」
お父さんが横から口を挟む。
「変わった名字でしょう…?」
口を挟まれたことは気に留めないかのように𡚴原さんが続ける。
「「幽霊文字」と似てますから、書き間違えないように注意してくださいね」
「ゆ、幽霊文字って…?」
疑問に思い、口に出してみる。すると、𡚴原さんが一歩こっちに近づいて、話し出した。
「そのチラシを見てください。この「|𡚴《あけ》」という字は横線が一本入ると「|妛《あけ》」という別の漢字になるんです。ですが、「妛」は誤って常用漢字に登録されてしまった文字で、本来は存在しない「幽霊文字」と呼ばれているんですよ」
(へぇ…実際に「幽霊文字」っていうのがあるんだ……)
納得したような気がする。
「花名さん、ここの住所を書く時に間違えやすいので、注意してくださいね」
「あ、そっか、住所にここの建物の名前を書くんですよね。気をつけますね……」
そう言うと、𡚴原さんがゆっくりと口を開く。
---
「……そう……決して……書き間違えないで……」
ーー貴女を《《私と同じ目に合わせたく無い》》の…
ー出どころ不明だがなぜかこの世に存在している幽霊文字。書き損じによる誤植では無いかと言われるが、中には何も分からずあらゆる書物にも記載が無い文字も存在する。それはーーーー
ー「 `|彁《か》 `」。
永遠のカナシバリ 1日目
ーーぴーんぽーん…
その日の真夜中、玄関のインターホンが急に鳴ったの。もうベッドで寝てたから、音にびっくりして飛び起きちゃった…
(それにしても…こんな時間に誰だろう…?)
お気に入りのぬいぐるみである「ユミカカちゃん」を片手にベッドから降りて、玄関へと歩いて行く。部屋の装飾は私の好きな色であるピンクで統一している。ユミカカちゃんもピンク色の髪をした女の子。枕元にはハーバリウムやタブレットなどを置いている。寝室から見て手前側の押し入れはメイクスペースにした。丸い鏡に周りにお気に入りのコスメとかをいっぱい置いている。その横には真新しいスーツ。仕事場に着ていくための物だ。明日は仕事。ちゃんと外に出しておかないと。
もう片方の押し入れはクローゼットとして使っていて、可愛い洋服を沢山掛けてある。
それから、トイレ、お風呂…
着いた、玄関。つぐのひくんがプリントされたマグの横にユミカカちゃんを置いて、その頭を撫でる。こうするといつも嬉しそうな顔をしてくれるから…
玄関の磨りガラスの扉の奥にうっすらと黄色のシャツが見える。
(…えぇっと…オーナーの𡚴原さん…?)
ーーぴーんぽーん…
もう一度インターホンが鳴る。
「……はーい……」
眠い…今何時だろ…。扉の向こうから声がした。
「こんばんは〜、𡚴原です〜」
(…やっぱり𡚴原さんだったんだ…)
「なんのご用ですかー?」
「ちょっとお話がありまして〜」
お話?何だろう…
「……今開けますねー…」
欠伸混じりにそう返答し、扉を開ける。
「こんばんは〜、夜遅くにごめんなさいね。この回覧板にサインをして欲しくて…」
そう言われながら私は回覧板を受け取った。
「あ、はい…いいですよ」
緑色の、よくある回覧板。あまり見たことないけど…
「花名さん、ここの住所を書くときのお話…覚えてますか?」
あぁ…そんなことも言っていたような…寝起きで頭が働かない…そんな脳を頑張って動かしながら思い出す。
「えっと……幽霊文字にならないようにって話ですよね?間違えやすいので、平仮名で「あけんばら」って書いちゃってます」
あけんばらさんが安心したような顔をする。
「そう…それで大丈夫ですよ。幽霊文字は絶対に書かないように気をつけて…」
(そんなに大事なことなのかな…?)
「…はい、気をつけますね」
不思議に思いつつもペンを取り出し、手渡された回覧板に名前を書き込む。
「…これでいいですか?」
「桜木花名」。そう書き込み、あけんばらさんに尋ねる。
「ええ、ありがとうね」
回覧板…住んでいる人の名前を書く物みたいだけど、今はあけんばらさんの名前しか…
(…あれ……?あけんばらさんの名字……何か違うような…?)
そこには、「 `《《妛》》原妙子 `」ーそう書かれてあった。
(これ…幽霊文字になってる…?)
そう思っている間にあけんばらさんに回覧板を取られてしまった。
「それじゃ、おやすみなさいね〜」
そういうとあけんばらさんは振り返り、この「 `妛 `原 荘」を離れた…え、字が違う?でも…
___《《そう表札に書いてある》》のに…
見えなくなるまで荘のオーナーを見送った後、私は静かに扉を閉めた。
(あけんばらさん…自分で言ったのに字を間違えてた…何か違和感があるような……)
そう思いながら、私は忘れないようにちゃんとユミカカちゃんを抱いて、ベッドの方へと戻った。
---
ベッドに入って、さっき感じた違和感について考えてみる。
(それにしても、夜の家って怖いなぁ…。建物も古いせいで迫力あるし…夜も内見に来れば良かった…)
初めての一人暮らしだから、わかんないこともたくさんある。今度家を探すときには、夜も内見に行こうかな…
__……にゃぁー。__
(…?猫の声…?)
庭にいるのかな…。猫って、一戸建てだとよく庭に入ってくるんだ…
……にゃぁー。……にゃぁー。
(…?だんだん鳴き声がこっちに近づいているような…)
そう思った瞬間、お腹の上に何か重いものが乗っかったような感覚がした。
……にゃぁー。**…に゛ゃぁー。**
(え……?)
目の前に、血まみれの猫の顔がある。紫色の目だけが異様に光っていて、額には流血の原因であろう大きな釘が刺さっている。口も耳元まで裂けている。
「ーーーっ!」
叫びかけて気づく……あれ…?口が動かない?胴体を必死で動かそうともしてみる。
(か、身体が…動かない…!?)
え、嘘。何度も身体をよじらせようとするが、自分の身体なのにびくともしない。まるで何か重いものに押さえつけられているかのように。心なしか、息も苦しい。口の中が異様に乾燥してきている。目の前の猫のようなモノがどんどん私の顔に迫る。
(お願い…動いてっ…!)
念が届いたのか、手が少しだけ動いた。
「…!動い…」
そのとき、目の前のバケモノが飛び上がった。
「い、いやぁぁぁぁぁっっ!」
叫ぶ私を、《《一匹と一人》》が見つめていた。第一夜のことだった。
---
「じろうー、ご飯だよー……いっぱい食べていい子だねぇ…わしもお前ももう年じゃな……それにしても、この家は奇妙なことがぎょうさん起こる。そろそろ引っ越すとするかねぇ、じろう?」
___にゃぁー。
永遠のカナシバリ 2日目
猫とお爺さんの姿をしたバケモノに襲われた、次の日。
___「花名……花名……」
目を開けるとそこには白い空間が広がっていて、目の前にお父さんとお母さんが立っていた。
(…お父さん……お母さん…?)
「花名…どうして家を出て行っちゃったんだ…?」
(…え……?)
どうして…?お父さんは内見の時に、私がいいならこの家に決めなさい、って言ってくれてたはず…
「そうよ、花名…私たちを置いていくなんて何を考えてるの……?」
お母さんまで…?違う、お母さんも私が新しい家を選ぶのを手伝ってくれたし、内見の時にだって一緒に…どうして……?どうしてお父さんもお母さんも私が一人で暮らすことを否定するの……?
「…花名は冷たい子ね…」
そうお母さんが言い終わると共に、両親の背後に大きな棚のようなものが現れる…これ…仏壇……?
「……俺たちが死んでも、もう……花名は気付けないもんな…」
後ろの仏壇の扉が一人でに開く。そこには先の見えないくらい深くて広い青色の空間が広がっていた。その空間から青色の煙のようなものがこちらに向かって吹いてくる。
「……さようなら……花名……」
…向こう側に行っちゃうの…?
(待って…お父さん…お母さん…!)
---
「………っ!」
目を開ける。枕が、手が、寝汗でぐっしょりだ。
(……夢……?)
相当うなされていたみたい…
強く握りしめてしまっていたユミカカちゃんを顔の前に持ってくる。
(…こんなに寒かったっけ…)
枕元のエアコンの温度を確認する。
(あれ…全然暖かい風が出てこない…。ずっとうるさいし、このエアコン、冷房しか機能が付いてないのかな…?)
冷房をつけていてもしょうがないから、と私はエアコンの電源を切った。
(寒いなぁ…お風呂入れよう…)
そう思って私はいつものようにユミカカちゃんを抱えてお風呂の方へと向かった。
(…あれ、鏡に猫の小屋が映ってる…?私猫なんか飼ってないし、そもそもこの家、確かペット禁止だったような…)
そう思っていると、どこかから、昨日のような猫の鳴き声が聞こえた。
(また……猫の声……?なんか動物の臭いもする…なんで…?)
私の脳裏に昨日の血まみれの猫のバケモノが浮かぶ。…ううん、あれは夢だから。大丈夫、怖くない、怖くない…
そう思いながらドレッサーの前を通り過ぎた瞬間、
鏡やお気に入りのコスメなどが青い砂嵐と共に消え、大量の新聞紙の切れ端に変わった。
(これ…え?ペットのトイレ…?どうして?ここはメイクスペースにしたはず…)
疑念を抱きながら、お風呂の方へと進むのを再開する。
さらに進むと、真新しいスーツが見えて来て…
そのスーツさえも同じように、血まみれのポロシャツと紙の破れた襖に変わった。仕事着なのだろうか、ポロシャツの胸ポケットに小さく「日ノ出」と書いてある。日ノ出さんという方の物なのかな…?そんな人、もちろん私は知らない。
さらに進もう、として私はある物に気づいた。
(あれ、これ……)
床に落ちているものを拾う。それは、このあけんばら荘のチラシだった。
(これ……なんでこんな所に落ちてるんだろう…?)
あの藤木けんとさん、担当の方の顔写真が黒く塗りつぶされている。私こんなことやってない…、どうして…?おまけに__
ー“担当:藤木`椦`人”ー
(……なんか……名前を書き直した跡がある…?)
藤木さんの名前の3文字目が修正テープで無理やり直したかのように書き換えられている。
(藤木さんの名前…これで「けん」って読むのかな……?)
最初からこんな漢字だったっけ…。チラシを片手に再び進み始める。
それからも、クローゼットがあの夢に出てきた大きな仏壇のような物に変わったり、トイレの扉や電気のスイッチが古そうな物に変わったりと、いろんなことが起きた。そして遂にお風呂場に着いた。ここの扉も古い感じに変わっている。そしてーー
大きな音を立てて、血まみれの猫とお爺さんのようなものがお風呂場の扉に内側から張り付いた…ように見えた。びっくりしたその後には跡形も無く消えさり、いつもの扉に戻っていた。
(じゃあ、お風呂に入ろうかな…)
ーーぴーんぽーん…
(…え?)
玄関から、インターホンの音が聞こえる。
(こんな時間に誰だろう…?)
そう思い、玄関へと向かう。
(…あれ…?)
ふと玄関傍の備え付けの棚の上に置いてあるものに目が止まる。マグカップの横に、大きな折り紙の人形が置いてある。
(なんでこんな「折り紙」が私の部屋に…?)
人形の頭には大きな釘が打ってあり、顔の真ん中には…
「`暃`」。この一文字が書いてあった。
(…この漢字……「罪」に似てるけど少し違う……日……非……?これ、何て読むなんだろう……?)
……どんどんっ。
玄関の戸が激しく叩かれる。まずい、こんなことに時間を使っていてはいけない。来てくれた人を待たせてしまう。慌てて玄関の方へと向かいながら、最近体調があまり良くないこともあって、深く咳き込む。その間にも私の横の景色は変わっていく。今度は血のようなもので汚れた壁と赤い絵が出てきた。
「……はーい…」
また、扉の向こうに黄色のシャツが見える。
「こんばんは〜、𡚴原です〜」
(…えっ…また…?)
また何か話があるのかな…
「な、なんのご用ですか…?」
「ちょっとお話がありまして〜…」
…やっぱり、昨日と同じだ。今日はなんだろう。
「…今開けますね…」
扉を開けると、そこにはいつもと同じ黄色のシャツを着た𡚴原さんが立っていた。
「…こんばんは〜」
彼女が少し家の中へと入る。
「今日はどうしたんですか…?」
そう言うと、𡚴原さんは私を血走った目で睨んだ。
「ねぇ、もしかして猫飼ってる?」
「えっ……?」
そう私がいうや否や、𡚴原さんは強引に私を押し除け、部屋の中を覗き出した。
「いるんでしょ〜猫ちゃん〜?でもね〜、うちはペット禁止だから、勝手に飼っちゃだめよ〜?」
えっ、そんなの誤解だ。慌てて私は弁解を試みる。
「か、飼ってませんよ!庭で猫の鳴き声がして、私も困ってるくらいで…」
𡚴原さんは覗くのをやめて、私に向き直った。
「そ〜お?それならいいけど…。あなたの前に住んでいた「日ノ出さん」も勝手に猫を飼ってたのよ…。あの猫、せっかく《《片付けた》》のに…また飼われたらたまったもんじゃないわ…」
そう言い、爪を噛んだ。
「えっ……?」
「まぁ、飼ってないならいいわ〜。うちはペット禁止だから、気をつけてね〜」
この家のオーナーはそう言って早足で去っていった。
---
(えっ…「片付けた」…?日ノ出さんが飼ってた猫を「片付けた」って…?…まさか…)
……そんなわけ無いと思いつつも冷や汗が止まらない。
(早くお風呂入って寝よう…)
そう思い、私は急いでお風呂を入れる準備の続きをした。
ーーその時、背後に《《2人と1匹》》がいることだなんて、気づいてもなかった。
「ふぅ…疲れたぁ…」
私は湯船に浸かっていた。その湯船から二つの大きいものと小さいもの___人と猫の頭蓋骨が浮き上がってきたことにも、私は気づいていなかった。第二夜のことだった。
永遠のカナシバリ 3日目 前編
𡚴原さんの2度目の来訪の次の日の晩も、私は悪夢にうなされていた。
__「花名……花名……」
…また同じ夢?お母さんの声が暗闇から聞こえてくる。
(……お父さん……お母さん……!)
よかった、無事だったんだ…。あの時は二人が死んじゃうみたいなことを言ってたけど、そんなこと無かったんだ……本当に良かったぁ……
「……今日はな、お前を迎えに来たんだ……花名…」
……え?迎えに、来た…?それってどういう……。不吉な予感を頑張って打ち消しながら目の前の両親を見つめる。
…しかし、悪い予感は当たったのかもしれない。あの大きな仏壇のような棚が彼らの背後に現れた。相変わらず青く、先の見えないほど深い空間が扉の開いた先に見える。
(……あ……ぁ……)
……嫌だ。
「……家族3人で……一緒に仏壇で眠りましょう……」
…嫌だ……嫌だ……!仏壇で……って……。まだやっと一人暮らしを始めて、仕事も頑張って、なのに……!
---
夢はキリの悪いところで目覚めるものだ……しかし、私の夢はまだ覚めてないのかもしれない。
一度瞬きをすると、そこには𡚴原荘のいつもの天井が…いや、`《《妛原荘の》》`天井が見えた。天井は血で黒く汚れている。粘っこい汗を流して縮み上がっている私を見下ろすように、両親の姿をしたバケモノが私を見下ろしている。あの時と一緒だ…また、私は妛原荘を訪れてしまったんだ…。血みどろで、額に釘の刺さった2体のバケモノが私に近づいてくる。
(……え……?)
早く逃げないと。懸命に身を捩らせる。でも…
(え……ま、また…身体が、動かない……?)
お母さんの姿をした方が、気味悪く微笑む。
「ふふッ……`|彁名《かな》`っタら、「金縛り」で動ケないみたイね」
(……金縛り……?なんだろう、何か違和感が……)
もう片方の、お父さんの姿をした方も口を開いた。
「よォし、父サんが身体を支エてやるぞォ、`彁名`」
(……違う、私の名前は……、あれ……?私……)
さらに両親が迫ってくる。
(……い、いや……っ!)
こっちに……来ないで……っ!
---
(……あれ、私、何してるんだろ…)
気づくと私は両親を両脇に、玄関の方へと歩いて行っていた。妛原荘の部屋の中は大量の血汚れている。思わず目を逸らそうと俯いてしまう。左手を見ると、ユミカカちゃんを抱いていた。ユミカカちゃんは私のお気に入りの人形。この子が居てくれるだけで私は少しでも平常心を保つことができる。
「…彁名ハ手間のかカる子だナぁ……」
と父親のバケモノが口を開く。
なんだろう、私のことを言われているような、誰か別の人のことを言っているような気がする。
「こレからハ家族三人で眠りマしょうねェ…」
眠る…?私、眠くない…。2日前から全然寝れてないはずなのに…。木の床を踏んでいるはずなのに、足元に何もないかのような、雲の上を歩いているような不思議な感覚がある……。
…夢見心地で歩いていると、もともとクローゼットだったはずであるあの棚の前についた。
「さァ、彁名…仏壇の中二入ろう……」
嬉々とした表情で|お父さん《ナニカ》が話す。なんでそんなに嬉しそうなの…?
「えっ……な、なんで……?」
思わず問う。|お母さん《ナニカ》がその質問に答える。
「なんデって…「幽霊」はこノ中が一番よク眠れるでしょウ……?」
え…?私まだ死んでないし、幽霊なんかじゃない…!まだ生きていて、これから新しい生活を始めようとしている、立派な人間で…
「……そウだぞぉ、彁名…皆で仏壇デ眠ろウ…!」
なんで…?私まだ生きてるのに…!嫌だ…死にたくなんてない……っ!
そう思っていたそのとき、左に立っていた|お母さん《ナニカ》が天を仰いだ。
「彁あぁ………彁あぁ……あアああアアアぁ……」
そう長く叫び終わった後、彼女の口が耳元まで裂けた。…なんで…?お母さん………?
二人が私を強引に引っ張る。このままじゃ私、死んでしまう………!
「い、いや……離して……!」
その瞬間。腕に大事に抱えていたユミカカちゃんが白く光出した。
(え…ま、眩しい……!)
その光は私の両脇に立っていた悪霊を追い払い…
---
…そして私以外の人は誰一人として居なくなった。ユミカカちゃんも一緒に……。
(…あ…あれ……?今…ユミカカちゃんと一緒に消えた……?)
…もしかして。私は一歩青い空間へと近寄る。すると入り口の下の方からユミカカちゃんが顔を出した。いつもの撫でてあげた時と同じように、にこっと笑ってくれた。
ーーばいばい。ーー そう言ったように見えた…その瞬間、周囲から折り紙でできた…幽霊?のようなものが数体、ユミカカちゃんに近寄り…仏壇の扉はバタンと大きな音を立てて閉まった。
(……ユミカカちゃん…助けてくれたの……?)
ユミカカちゃんが、あの悪霊たちを追い払ってくれたんだ。自分の身を犠牲にして。
私は何という理由は無くても、何かに引っ張られるかのように、玄関へと向かって行った。
トイレやお風呂場のあたりにはたくさんの風車や彼岸花を模った折り紙が飾ってある。あとは、見たことのないような漢字の書かれた紙が大量に壁に貼ってある。なんて読むんだろう…?進んで行くと…
お風呂場の前。そこには…折り紙でできた女の子が座っていた。
ー操作方法ー
〈マウス〉
・マウス左クリック:前へ進んだり、話を飛ばしたり出来ます。
〈キーボード〉
・左右矢印キー:左右どちらかに進むことが出来ます。
・Enterキー:話を飛ばすことが出来ます。
……………
`・Rキー:物語をリセットすることが出来ます。`
永遠のカナシバリ 3日目 後編
前回のあらすじ
元両親に冥界へと連れて行かれそうになる桜木花名。彼女の目の前に現れたのは、黄色の服を着た折り紙の少女だった__。
(…え?…折り紙の…女の子…?)
女の子は折り紙を折る手を休め、ゆっくりとこっちを向いた。
`「おねえちゃん、だいじょうぶ?」`
そう、辿々しい、幼い言葉で彼女は話した。
「あ、あなた……話せるの?」
正直驚いた。折り紙が話せることと、久方ぶりにまともな話し相手と出会えたことに。女の子は軽く頷き、紙を折るのを再開する。
私は、寒気を感じながら…少し風邪をひいてしまったのか……女の子の方へと近寄り、目の高さを同じにする。
「た、助けて…この部屋…おかしなことばかり起こるの……!」
少女相手に、人間かどうかも怪しいものに、助けを求めるなんておかしな話かもしれない。それでも、私は藁にもすがる思いで小さく叫んだ。
返ってきた答えは、予想もしないことだった。
`「おねえちゃんはね、いまゆめのなかにいるんだよ」`
「ゆ、夢…?」
女の子は戸惑う私も目に入れず、出来上がった折り鶴を頭上にあげる。それは大きくはばたき、そして群れとなって私たちの周りを飛び始めた。
`「おねえちゃんはね、ずっとべっどのなかでゆめをみてるの。でも、からだはうごかないの。あのひからずっとかなしばりののろいにかかってるから」`
え、でも…
「…「金縛り」って…?私は起きてるよ…?」
金縛りは寝ている時に体が動かなくなるもの。今私は起きて、この子と話している。
「もう何日も、この部屋で寝起きしてるんだよ…」
女の子は、手をあげたまま再び私の方を向き、話した。
`「おきるほうほうが、あるんだよ」`
そう言った途端、彼女の顔に一本、赤色の横棒が入る。裂け目から血が数滴流れ落ちた。
`「あなたは、もう、そのやりかたをしってるんだよ」`
女の子の声がますます頼りなくなる。そんなはずは無いのに、痛みで顔を歪めているように見えた。
(やり方…?)
その時、聞いたこともない情報が頭の中に流れ込んでくる。
(…危機に陥った時に《《「戻りたい」と強く思うと、状況を打開できる》》…)
女の子は小さな声で続ける。
`「ゆめから、さめるよ…さあ、こわがらずにやってみて…」`
…そう言い、女の子は話さなくなってしまった。
(信じて、いいのかな…?)
躊躇いつつも私は強く願った。
(元の世界に…戻りたい……!)
その瞬間、あたりの景色が目まぐるしく変わっていく。これは…これまでにここで起こった出来事…?変わり果てた両親の顔、初めての金縛り、𡚴原さんから渡された回覧板、私のために犠牲になってくれたユミカカちゃん…
意識が遠のいていく。私は血まみれの床に倒れた。第三夜のことだった。
---
--- ー|物語を巻き戻します《R E T U R N》ー ---
---
「………っ!?」
私はベッドから飛び起きた。息がかなり上がっているが、先ほどまで感じていたひどい寒気などは嘘のように消え去っている。
(えっ……あれ…?ゆ…夢…?わ、私…すごく怖い夢を見てた…?)
あたりを見回す。血まみれで古びた内装は消え、元の私のメイクスペース、私の真新しいスーツに変わっていた。
(…ユ、ユミカカちゃんは…?)
ふと思い当たり、慌ててベッド周りを探る。
(な…ない…?)
え、嘘…ベッドの下に転がっていったのかと床に降りようとして気づく。
(…ていうか…ユミカカちゃんって…)
…《《ユミカカちゃんって……何?》》
(…「夢の中」で…私が持ってた人形のこと…?)
…あまり覚えてないけど、ユミカカちゃんのことを考えると胸が痛くなる。
(…あ、仕事に行かなくちゃ…)
時間を確認する。まだ…間に合いそう。私はベッドから降りて、玄関の方へと向かった。
荷物をカバンに詰め、外に出ようとして気づく。
(あれ…桜の花が枯れちゃってる…?)
庭の桜の木の枝。あれを一本切って花瓶に生けて玄関に飾ってた。まだ飾ってからそれほど経ってないはずなのに、膨らみ始めていた花がひとつ残らず枯れ落ちてしまっている。
(…帰ったら、庭の枝を取ってこよう…)
忘れないように、そう思いながら新しい革靴を履き、私は初めての仕事場へと向かった。
この時に、気付いてれば良かった。
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「桜木さん…だっけ?君、4月からずっと仕事場で見たことないけど…今日は来れたんだ〜、良かったね」
「…え?何のこと…ですか…?」
明らかに新入社員にかける言葉じゃない。…ま、まさか……!
「いやぁ、それにしても大変だよねー、梅雨。桜木さんびしょ濡れじゃん〜。今日も雨だし……桜木さん?」
「…つ、梅雨……?」
私は早退を伝えることも忘れ、急いで仕事場を飛び出す。
__「え、ちょ、桜木さん!??」__
先輩の声も耳に入らない。私は転がるようにして雨の降る外へと駆け出して行った。
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「……はぁっ……っ……!」
ピシャンと玄関の戸を開け、急いで靴を脱ぎ、寝室へ向かう。
(ど、どうして……!?)
ベッド脇の窓。それを開けるとそこには…
…《《花びらひとつ残っていない桜の木》》があった。
(…さ、桜が……全部散っちゃってる…!…わ、私…どれだけ眠ってたの…!?)
焦る自身を落ち着かせて、考える。
(…い、一旦着替えよう…)
それでも落ち着けず、バタバタと私はクローゼットの方へと向かった。
永遠のカナシバリ 4日目
玄関の棚の上に置いてあるマグカップ。それを手にとって台所へ向かい、ホットミルクを作り始めた。ポットから立ち上る湯気は、仏壇の扉から漏れ出てた青い煙を思い起こさせる。出来上がったミルクをマグに注ぎ、ゆっくりとベッドへと向かう。
(…落ち着いて考えてみよう……)
深呼吸をし、ミルクを一口啜る。それだけで自然と心が落ち着いていくような気がした。
(私は……一ヶ月以上も眠り続けていた……)
--- ー「いやぁ、大変ですね、梅雨。」ー ---
そう言った先輩の言葉を思い出した。
(ずっと……「怖い夢」を見ていたのは覚えてる……)
そう、これまで私はたくさんの非現実的な現象を体験してきた。血まみれの生き物や部屋、そして「金縛り」……
どれも、現実ではあり得ないことだった。あれは、きっと「夢」だったんだ…
(……夢の中で…私は何か、大事なことを見た気がする……)
思い出したくない。それでも頑張ってあの悪夢を頭の底から引っ張り出す。その時、あるワンシーンが私の脳裏に映し出された。
--- ー(…日……非………これ、なんて読むんだろう……)ー ---
「……あっ……」
思わず声が出る。
私は、夢の中で「幽霊文字」を見たんだ…。なぜこれが大事なのかはわからない。けれど、本能的に「これが外せない重要事項だ」ということだけはわかる。
(……「罪」に似た……「日」と「非」の文字……)
私は、あの時見た漢字の形を懸命に思い出す。
(…あの文字……調べてみよう……)
私は窓際に立てかけてあるタブレットを取り、検索エンジンを立ち上げた。ベッドに腰掛け、私は検索バーに目当ての漢字のパーツを打ち込む。
〈🔍日 非 漢字 読み方〉
(…これで出るかな……)
半信半疑ながらも検索ボタンを押す。ロード画面が一瞬入り、すぐに検索結果が出てきた。
(……あ、あった…)
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**日の下に非の漢字は?**
「|暃《ひ》」はいわゆる「幽霊文字」の一つである。
典拠、発音、用例ともに不明の文字であるため読み方を知る手がかりは少ないが、一般的な見解として「暃」の読み方は「ひ」であると推定されることが多い。
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(…「暃」は……やっぱり「幽霊文字」だったのね……。でも…典拠不明って……つまり、幽霊文字が存在する理由には、根拠がないってこと……?)
一旦「戻る」のボタンを押し、検索エンジンのトップ画面へと戻る。そして、バーに再び文字を打ち込み始めた。
〈🔍幽霊文字〉
(そもそも「幽霊文字」って何なの……?)
知識への欲で、検索のボタンを押す手に力が入る。再び、検索結果が表示された。
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**幽霊文字とは?**
「幽霊文字」とは出所不明だがなぜかこの世に存在している文字の総称。誤植や誤解が原因で実在しない文字が生まれてしまったと考えられる。
代表的な幽霊文字に「彁」「妛」「暃」「椦」などがある。
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(代表的な文字は…この4つ…?)
そのとき、4つの文字が頭の中を駆け巡った。
…ユミカカちゃんの、「彁」。
…𡚴原さんの、「妛」。
…玄関の折り紙に書いてあった、「暃」。
…藤木さんの、「椦」。
(……4つとも…夢の中で見た気がする…)
…ユミカカちゃんのことをまた思い出して、泣きそうになる。
(夢の中で私を助けてくれた……「ユミカカ」ちゃん……まさか……)
自然と手が「戻る」ボタンに動く。
〈🔍ユミカカ 幽霊文字〉
物事の真実をただ確かめたい。そういう思いで強く青い虫眼鏡のボタンを押す。
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**彁(ユミカカ)とは?**
「|彁《ユミカカ》」は、「幽霊文字」の一つである。幽霊文字の中で唯一出典の手がかりが一切無かったため、実在しない文字とされており、幽霊文字の代表として扱われている。
正式な読みは定まっていないものの、便宜上「カ」「セイ」の読み方が付与されている。彁の部種である「弓・可・可」を抜粋して「ユミカカ」の俗称で呼ばれる。
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(……や、やっぱり…そうだった……。「彁(ユミカカ)」ちゃんも…幽霊文字だった…)
タブレットの電源を切り、ベッドから立ち上がる。
(…夢の中に「幽霊文字」が出てきたのはわかった…。でも、私がずっと眠ってしまっていたこととの関係性は……何?…一ヶ月以上…夢を見続けるなんて……。まるで…「呪い」のような……)
そんなはずは…ない。あり得ない。「呪い」だなんて。フィクションを信じるタイプじゃない。でも…今回だけは信じたい。そう思考を巡らさせていたその時。
`……ぴーんぽーん… `
その瞬間、背筋が恐ろしい速さで凍っていくのを感じた。
(…だ、誰か来た…?)
誰かは分からない。それでも、今玄関の戸の前に立っているものは、きっと《《妛原さん》》だ、絶対。そう思いながらも、勝手に足が前へと進んでしまう。玄関への段差を降りようとした時。玄関の戸が急にガチャガチャと異様な音を立て出した。
(…えっ…?)
これは…《《鍵を開ける》》音…!?まずい。オーナーだから、マスターキーを持ってるんだ…!私は咄嗟に風呂場の扉のノブに手を伸ばした。
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…がらがらっ。
(……)
扉が開く。一歩一歩、ゆっくりと歩き始める。玄関で靴を脱ぎ、いつもと変わらない𡚴原荘を眺め、異変に気づく。早足で家の奥へと入って行き…突き当たりでようやく立ち止まる。いつも花名さんが寝ているベッド。そこには…誰もいなかった。
(…いない…?)
どうして?私の計画は完璧だったはず。それなのに…自力で目覚めた?…そんなこと…可能なの?
引き返そうとして気づく。
(スーツが濡れてる…。花名さん…目を覚ましたのね?)
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「…はぁっ、……はぁっ………っ……」
乱れる息を押し殺して、私は湯船の中でうずくまっていた。遠くから、《《妛》》原さんが私を呼ぶ声が聞こえる。
(あけんばらさん…もしかして、私が眠っていた間、ずっと見に来てたの……!?)
なんで…?…どうして、そんなことを…!?…どうして……
__「…花名さ〜〜ん…」__
「…ひっ……!」
漏れ出そうな叫びを堪える。隣のトイレの扉が開く音がした。
__「……花名さ〜〜ん……いないの〜〜……?」__
トイレの扉が閉まる音がする。奥の部屋から順番に確かめて行っているのなら…次はお風呂場。どうしよう。見つかるのも時間の問題…!
足音が近づき、磨りガラスの扉の向こうに黄色の背の高いモノが見える。
「……花名さ〜〜ん……」
私は、せめてもの思いでできる限り体を小さく丸める。浴槽に自分の顔が映る。きっと、この白い額が両親たちのように釘で汚されるのだろう……。
(み…見つかるっ……!)
目から涙が零れ落ちる。…まだ死にたくなんてない…!そう願った瞬間、浴槽に血に塗れた二人の人間の顔が浮かび上がった。両親…ではない…もっと若い…二人の…男女……?私の目は何者かの手によって塞がれた。抵抗する気力も起きず、私は気を失った。第四夜のことだった。
…瞼の裏に、見知らぬ一本の柱が見える。その前には…黄色い服を着た幼い少女が立っていた。