花が散る前に、一片の希望を。
編集者:ののはな@華のJKです。
自主企画のシリーズです!
舞台は古代日本、未だ天地創造の八百万の神々がこの国を創り、豊葦原を神も人もが歩いていた頃__
始まりの神、光の君である父神、光り輝く君。
光の君は、愛し、共に国生みをし、八百万の神を生んだ母神の死に、大きに悲しんだ。
そして、禁忌を侵してしまった。
天井である高天原から神が降りて、死者の国である黄泉に行くだけでも異例。
更には、連れ帰ろうとしていた暗の君、母神の、変わり果てた姿を見、おどろおどろしさに逃げ出し、唯一の道を大きな岩で塞いでしまった。
その刻から、二柱の神々は天上と地下に分かれて憎み合う様になってしまった。
その争いはやがて、地上へも差し掛かってくる。
光の軍、天上の父神を信仰する人々。
闇の軍、地下の母神を信仰する人々。
輝の大御神の双子の御子と、闇の氏族とが争う戦乱の世に、
一人の少女が舞い立った___
その巫女姫である少女と、少女と運命を共にすると決めた者達が待ち受ける未来とは……?
そして、豊葦原は輝に染まるのか、それとも闇が包むのか……?
光と闇は、きっと打ち解けられる。
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目次
花びら、一枚目。
割と早めに出てくる方、遅くなったり少し出番が少なくなってしまったりする方がいらっしゃるかもしれないけれど、お許しください!
色々すみません本っ当に!
...また、夢を見る。
小さなころの私は、「何か」から逃げようとして、その「何か」は、土蜘蛛の姿をしている。
私は光の軍の豊葦原の、小さな村に住んでいる。
だから、闇の軍勢なんて見た事もない。
そんな、見た事もない闇の人達を、私達村娘は、「土蜘蛛」と呼んでいた。
光の、|輝《かぐ》の軍勢に従わない人々の事を。
黒く汚れて、ボロボロの布切れを着た、「土蜘蛛の様な何か」達は私をずっと追いかけている。
捕まっちゃ駄目だ。
捕まったら、顔を見たら、私は___
禁忌、それは犯してはならないもの。
顔を見ることは何よりもの禁忌。
だめ、見てはならない、
あぁ、駄目だ、腕を掴まれた、
そのまま、「何か」の顔は私の方を振り向いて______
「っはぁ、!、っは、...また、っこの夢、」
小さい頃から度々見るこの夢を、拾い親にも話しているのはもちろん、同時に心配もされている。
最近はあまり見なくなった、と話したのは…つい数日前だったのに。
心配をかけたくない。
ただ…それだけだった。
「桜月ー?あら、起きたのね」
母が戸を開けて顔を覗かせた。
隣の布団を見ても、父も母もすでにいない。空っぽの布団を見て、溜息をつきながら起きだした。
村の物の洗濯は、村に居る女の仕事。
機を織るもの、料理をするもの、さまざまな仕事がある。
…私達みたいな若い村娘は、ほとんどが洗濯に行く。
今日のような、晴れた日の朝は、皆で川に行って、他愛もない話をしながら、___
「あ、桜月!おはよー…ちょっと洗濯物多くない!?大丈夫!?」
ぽん、と肩を叩きながら、背後から声をかけてきたのは、私の幼馴染の一人、|夜桜《よざくら》 |月狛《るい》。
彼女は何かと頼りになる、姉のような存在。…少し心配されることも多いけれど、。
今日も一つにまとめた、綺麗な藍色の髪をさらさらとなびかせている。
「おはようっ、|月狛《るい》!」
洗濯物の積まれた籠を抱えながら、二人で並んで川へと歩く。
すると、自然と他の村娘も周囲に集まってくる。
「おはよう、二人とも…もう少しで嬥歌の日ね!?その胸を悩ませる意中のお相手を話しなさい!」
「え?私?いないっ!!!!!!!!」
いっそ、バァーーーーン!!と効果音の付きそうなくらい一刀両断でそう答えた月狛。
うん、清々しい。清々しいくらい真っすぐ。
「桜月はどうなの?」
「わ、私も…特に、思い当たりはない、かな」
顔を見合わせてそう答えると、物足りなそうな顔をする皆。
「うぅん、分かった!なら二人にこれだけは言っておくけれど…」
そして告げられる、5人の青年の名前。
「…この5人には声をかけられても歌を返さないと約束してちょうだい!絶対に!」
告げられた5人は昔少しお転婆だった私と言い合いや時々喧嘩をした人ばかり。
でも、彼らが|若衆会《わかしゅかい》に入ってからは話す事すらなかった。
…半ば笑う皆。でも、半ば真剣だった。
もう近い、満月の夜。
満月の夜、村々を上げての宴が催されて。
嬥歌では、歌の上の句を男が送り、もしそれに女がよし、との返事…下の句を返せば、それは婚姻の契りを交わしたも同然になる。
その後、男は隠し持つ小箱、飾り玉や首飾り、髪飾りを送るのだ。
だから、その日は私達のような若い娘が主役。
春を告げる花を飾って、妖精のように踊る。
困ったように月狛を見ると、彼女も同じくこちらを見ていた。
「あぁ、分かった…けど…その5人が想い人?」
真っすぐに聞いた。
凄いなぁ、さすが姉様(?)
するとみんな薄っすらと頬を染めて頷く。
なんだか、想い人のはっきりしない私達だけが損をした気分…
「わ、わかった!その5人に声をかけられても、絶対に歌を返しません!」
別に興味がある人がいる訳でもない。
でも…
少し黙った私に勘のいい子がアンテナを立てた。
「何々誰か想い人がいるの!?」
「あらー?昔から村娘らしくないといわれていた桜月にもとうとう…」
「本当にそう!私達とは違った雰囲気でお姫様じゃない」
「桜月姫様ー…うん、違和感はないわね」
「ちょっとそんなこと関係ないよね?桜月は桜月なんだから!」
気にしていることをサラッと言われてしまったけれど、月狛がやんわりとたしなめてくれた。
本当にいい人…お姉さま…
…確かに拾われた私はみんなとは少し違う、と肌で感じていた。
でも、そんなことも関係ない。
私はただの村娘の一人なのだから。
「んぇと、そんなに私の想い人が気になるなら言うけど…」
口元を手で覆い隠しながら、口を開いた。
「|月読命王《ツクヨミノミコト》様です」
「ずるい!」
「卑怯!」
「桜月、幾らなんでも…っていうか嬥歌にその人が来るわけなくない!?」
正論をぶつけられまくる。
確かに、双子の御子の一人…輝の大御神の子である、この世を治める一人であるその人が、こんな小さな村に来るわけがない。
しかも、早くから光の軍勢に属していた、この村に。
その人は今も銀の兜を被って、軍を率いて|闇《くら》の氏族と戦っているんだ。
きゃあきゃあと腕を引っ張られ髪を引っ張られしていると、川の上流の方から声が飛んできた。
上には私達よりさらに年の上の人の仕事場になっていた。
「ちょっと!さぼっていないで早く仕事をするんだね!そんなだから色紐を流すんだよ!」
そういわれてハッと見ると、明るい桜の色のひもが下流へと流れていくのが見えた。
あの色…
「私の、!」
私達のような身分の娘にとって、色付きの飾り紐はとても貴重な物。流してそのまま失くすつもりはさらさらなかった。
慌てて服の裾をまくって川の流れに押されながら紐を追い始めた。
後ろから皆の囃す声や月狛の心配する声が聞こえる。
川の底の石はコロコロとして滑りやすい。
人よりも身軽な私でも、注意しないと滑ってコケてしまいそうだった。
そして、思ったよりも紐が草にも石にも引っかからない。
「うぅ~、、」
ずっと走ってるのに追いつけずに、上の人たちとかなり離れてきた。
こんなところで、やっと届きそう、だと手を伸ばした、その時だった。
「……へ、っ!?」
目の前で、誰かがその紐を拾い上げたのは。
顔を上げてみると、其処には私よりも背の低い…でも、私と年は同じくらいらしい、少年が立っていた。
水色と紫の目…
紺の髪は後ろだけ少し長い。
右頬だけをガーゼで隠している、不思議な出で立ちの男の子だった。
そして、二羽のカラスを従えていて…
すると、後ろの木々の間から、また別の人が出てきた。
今度は明らかに私より年上で、金に近い髪色の、バンダナのようなものをした姿だった。
あれ、カラス…この人の、だったのかな、?どっちだろう、
にしても背、高い…
「、え、ぁ、あの、その紐…私の、」
「、、、、れお、っ」
おもむろに口を開いた彼に、驚きつつも、その単語を耳に響かせた。
突然、、、?
れお…
「れお、さん?」
こくり、とうなずくその人は、ずっと笑顔を見せない。
そういう性格なのだろうか、…
「えっと、その、」
何を言い出すか迷っていた私に、れおさんが口を開いた。
「呼び捨てでいいですよ、ッ…!」
「うん!、れお、っ」
小さくニコリと笑ったその表情に、私も頬が緩みそうになった。
良かった、笑えるんだ、
…わ、私も名乗るべき、だよね…?
と思ったけれど、それより先に別の人が口を開く。
「俺は月夜 翡翠。楽人の笛吹きだ!」
金色に近い髪色の人が言う。
「、!今年の楽人の方でしたか、!」
「あぁ!俺は笛吹きだ!」
やんちゃそうなその人は、綺麗な翡翠の瞳をしていた。
笛…れおさん、も笛吹き特有の癖がある、立ち方や指の動き、とか…
横笛が二人いるんだ、、、!
凄い...
楽人、とは嬥歌の時に音楽を奏でる人々のこと。
様々な場所を旅し歩いているから、そう言われると彼らの不思議な格好にも説明が付く。
でも、二人だけ…?
「俺は天沢千弦。…で?他に何かある?」
ふい、と突然現れたその男性に、少しびく、と反応してから、また顔を上げる。
黒髪で、綺麗な深海のような青い瞳。
整った顔立ちに、こんな人が村娘達から人気なんだろうなぁ、と一瞬みんなのことを思い浮かべた。
「えと、…琴、ですよね?」
指の癖。
動かし方が、この琴の様な弦楽器にしか見られないものだったから、完全にカンだった。
面倒臭そうなその人の目が、少しだけ光を帯びて、また元に戻る。
「…そうやけど、何か?」
「い、いえっ何も!!」
チョットコノヒトコワイ!
琴と笛、それから…
「つづみ、は…」
きょろきょろ、と辺りを見回すと、気付くと先程の3人を含めて7人の人が周りに立っている事に気が付いた。
…背の高い、綺麗なお姉さんが一番近く、目につく。
声を掛ける間も無く、いつの間にかお姉さんが目の前にしゃがんでいた。
「…え、!?」
「お姉さんは紅葉お姉さんっていうの。よろしくね」
にっこり、と効果音の付きそうな笑顔。
スラっとしたその姿によく似合う、綺麗な笑顔だった。
「お姉さんは…」
「お姉さんはつづみをやってるのよ、それと何かあったらいつでも言ってちょうだいね」
その視線は心なしか周囲の男性陣を見ている様な気がした。
気がした。本当に。
「さて…そこに立ってるナルシストから紹介しましょうか」
そう云うや否や、指名された男性が飛ぶようにやって来た。
え、早っ
「やあ、僕様を呼んだかな!呼んでないわけないな、うん!」
「ちょっと、自己紹介する時くらいちゃんとしなさいよ」
呼ばれてきたのは少し長めの黒髪に翡翠の色の目の男の人…
「え、えぇっと、、」
「僕様は瀧龍三郎だよ!太鼓担当だ。」
「服のセンスに関しては言及しないであげないでちょうだいね」
「なんだと!?この模様にも意味があって__」
確かに不思議な模様の書かれた服だなぁ、と思う。
どういう意図でこれを着ているのだろう。
「もういいわ、とにかく紹介だけ済ませたいの、澪ちゃんを呼んでくださいな」
むくれ乍らも澪さんなる人物を呼びに行った瀧さん。
とは言っても、割とすぐ近くで程なくして戻ってきた。
深緑の、長い髪の女性と一緒に。
「彼女が…」
「|霊亞《れいあ》 |澪《みお》…琴をやってる、、よろしく」
「よろしくお願いします、!」
澪さんはなんだか少し、何かに脅えているような雰囲気を持っていた。
もしかして、私の夢と同じように、何かに追われているとか…!は、ないかなぁ、、
「それで…この彼が、我らがまとめ役の」
「…ほうじ茶はある?あとできれば茶菓子も…」
瀧さんの振りを全スルーした、この人がまとめ役…
「ぁ、えっと、村に行けばあります、けど…」
「…俺は高塚晴空。君は…横笛が吹けるんだね、少し聞いてみたい気もするよ…」
「へ、!?」
驚いたものの、横笛用の革袋だけ腰帯に通したままなのを忘れていた。
観察眼、鋭いなぁ…
「ぁ…また、機会があったら、、あ、でも嬥歌のとき、吹いてって言われるかも…どうだろう、、」
去年や一昨年など、私がまだ宴に参加できなかった子供の時は、楽人に混ざって横笛を吹いていた。
楽しかったし、それのお陰で普通の特技、と言うよりは楽人の一人、と言った方が早いくらいにもなっていた。
いつか、えらい貴族の人が私の笛の腕を見込んで都に連れて行くと言い出した時は大変だったなぁ…
なんて、思い出に浸っていた。
「桜月様、、、この村の生まれじゃ、ない、ですよね、っ?」
れおさんの声が、突然にそれを告げる。
ひゅ、と喉が鳴る。
どうしてそれを。
「首の痣、どう見ても普通のものではないだろう!」
誰かがそう言う。
違う、今誰かが言ったんじゃない。
昔、私が…拾われた時に、忌むべき子だと、拾う事を拒否した誰かが……言った。
まぁ、今のお母さんとお父さんに拾われて、良かったけれど。
たしかに、私の首元には、生まれつきの痣がある。
花の形で、不思議だなぁと昔から話していた、けれど。
「桜月ちゃん、貴女は闇の姫巫女の話を聞いたことはない?」
「花の乙女、、、、|闇《くら》の士族の、失われた巫女のお話、、、っ!」
「…はぁ、面倒やけど…ここはやらんとダメなところ、やんな?」
「まぁ、そうだね…この僕様がその勾玉を渡す役を、と言いたいけれど…仕方ない、譲るよ」
二人が何やら話している。
すると、琴の人…天沢さん、と言っただろうか、
その黒髪の男の人が、ゆったりと歩いてきて、無造作に何かを差し出した。
手の中を見ると、美しく輝く、桜色の、勾玉がある。
落とす勢いで手渡されて、反射神経で受け取ると、突然、それは光を放ち始めた。
「っえ、!?」
「…やっぱり」
「桜月様が、、、!」
「みたいだね」
頷き合う彼らを前に、恐怖が強まってきた。
あぁ、やっぱり。
この人たちは、|闇《くら》の氏族の人達だ___
「桜月、大丈夫?」
唐突なその声に振り向く。
「月狛!」
遅くなった私を心配して追ってきてくれたらしい。
「桜月、その人達は誰?」
「ぁ、こ、今年の楽人さんだって!村に早く案内しなきゃ!」
そのまま、彼女の手を引いて速足で歩き出した。
手のひらの中で、少し熱を持つ勾玉を握り締めながら。
少し、震える手に、気付かないふりをした。
もともと土蜘蛛とは大御津波の女神に使える人々…闇の女神を崇める人々をさす言葉だった、と聞いている。
それがだんだんと転じていって、今の若年代の間では得体の知れないものや人をさす言葉になったらしい、。
頭の中に浮かぶ夢の中の、私を追ってくる人々を、かぶりを振って打ち消した。
うぅん、あの人たちじゃない。
あの人たちな訳がない。
そう思いたくても、ちゃんと思えなかった、ことは考えないようにしようと思った。
「里長様、楽人の方々をお連れしました」
えと、一つ一つのお話を長くするので、更新が少し遅くなるけれど許してください!
すみません!
花びら、二枚目。
「あぁ、案内してくれたのか、ご苦労…楽人殿は此方にどうぞ」
里長に案内されて行った彼らを見て、ホッと一息つく。
手の中の勾玉を見て、今度は重い溜息をつく。
仕方なく、桜の勾玉に通った細い革ひもに、素早く誰にも見られないよう、首を通した。
「ねぇ、何かあった?」
楽人たちの見送りに行っていた月狛が戻ってきた、みたいだった。
心配して肩に手を置き、真剣な表情で私の顔を覗き込む。
、これは…話して、いいのだろうか……
「、っうぅん、何でもない...大丈夫!ありがとう、」
何とか取り繕った笑顔。
月狛は私が嘘をついてると気付いたようだけど、何かを察したみたいで何も言わなかった。
申し訳ない、けれど…これは、人を巻き込んじゃ駄目、そんな気がした。
結局、その後は洗濯場に戻って変わりない一日を過ごした。
夕暮れが近付いて空を見上げれば、満月が浮かんでいる。
集会所や広場の方は、既に人で賑わっていた。
私も、今日は春を告げる花の一つ___。
端の低めの舞台を見れば、先程とは違った衣装を着た楽人の人達が座って、楽器を調整しているのが見えた。
「あぁ、漸く見つけた」
「里長様!」
息を切らしながらも此方に来た里長。
急用、なのかな?
「…毎年のようにそなたは楽を奏でているが…今年からは都合のつくだけでよい。何しろそなたらのような齢の者らが主役の宴なのだからな」
「、ぁ、分かりました!ありがとう、ございます」
ぺこり、と頭を下げると、若い娘の集まっている場所に足を急がせた。
小走りになりながらも辺りを見回していると、注意力は散漫になる。
分かっていたけれど…
焚火をぼーっと見つめる”誰か”に思いきりぶつかってしまった。
「いった!?何すんだよ!!?って」
「す、すみません!!、あれ?」
すごい勢いで謝ったのも束の間、瞬時に目を輝かせて互いを見つめた。
「桜月!」
「|未明《びめい》!」
奇跡的に、私がぶつかった相手は幼馴染の一人、|白薙《しらなぎ》 |未明《びめい》だった。
「最近あまり話せてなかったよねっ⁉久しぶり!!」
わたわたと手を振りながらそういうと、向こうも同じ様にわたわたと手を動かす。
いや、鴨かな。
「そうだ、もう楽人さんの用意整ったみたいだから__」
皆の所に行こうとしていた事を思い出し、それを伝えてまた後で、と別れようと思った。
その為、楽人さん達の方を目で示したけれど___
「すっげー!桜月見ろよ!カラス!アイツ、カラスを連れてるぜ!」
うん、知ってた。
この人、馬鹿なんだ。
自分で自分が馬鹿だと一番分かってる、謎の馬鹿。
うん、結論は馬鹿だった。
「あ、いたいた!…|未明《みめい》!もう祭りが始まるんだから俺らの待機場所に戻らないとダメだから行くぞー」
「誰が“みめい”だ!琥珀、お前それ自分で分かってて言ってるから|性質《たち》悪いんだよ!」
見ての通り、未明の手綱を握っている、|夕江《ゆうえ》 |琥珀《こはく》__
私の三人の幼馴染の一人。
月狛と未明、そして琥珀の三人が、幼馴染。
「っじゃなくて!もう琥珀が言ってた通りにお祭り始まるから!また後でね!」
頷いて手を振る二人に笑みを零しながらも、急ぎ足で女子の輪に飛び込んだ。
「桜月!遅かったけれど…っていうか可愛すぎるんだけど!やっぱり桜月!」
やっぱり桜月!、…?と何度かリピートしたけれど、結局分からなかった。
やっぱり桜月とは。
そして、そういう月狛も。
いつも彼女が髪を束ねる、浅葱色に近い縹色の色紐と__
その色と相性の良い組み合わせ衣装の出で立ち。
それは、綺麗な月狛の容姿をさらに引き立たせていた。
「月狛もめっちゃ綺麗!意中の相手がもし居たら一発で落とせると思う…」
みんな、普段よりもきれいな服や髪飾を付けている。
主役が集まったこの集団はやっぱり、様々な色とりどりの、花の様に見えると思う。
「ふふ、それじゃあ___」
宴の始まりを告げる、鋭くも溌溂たる笛の音。
一斉に踊り出す広場の人々。
若い男女は意中の相手を探し出す。
「、でも…他の村から来るとは聞いてないんだけど」
いや、正しく言えば、近くの村々が集まった、この里で行うのがこの宴、なんだけど…
「他の村の人からお誘いが来るとは思ってもなかった」
いやー、私の知名度高いんだ、嬉しいなー(棒)
と思ったら今度は誘いを受けるなと言われた五人のうちの一人が来たところだった。
「はぁ…」
そろそろ断りの謳が切れる頃なんだけど…
かといって即興の下手な歌で断るのは恥をかくから避けたい。
「昔散々私の事追い掛け回してた癖に」
「でも手を上げたことはなかっただろ?他の奴みたいに」
いや、普通だし手を上げたところで返り討ち+月狛達からの怒りを買うだけだし…
ていうか、どうしよう。
なんて言って断ろう。
下手な歌を作りたくない、
でも断らなきゃ、なのに断りの歌はもう使い尽くした、
ちらりと月狛の方を見ると、向こうは向こうでちょっと困っているみたいだった。
幼馴染男子二人と来たら、のんびり自分の家の焚火の隣で、二人で談笑している。
一寸殺意すら覚えた。
あぁ、どうしよう。
「なぁ、返歌をくれよ。いい返事を」
--- 「住の江の 岸による波 よるさへや」 ---
「っ何でここに___!!」
そこに自信満々に立っているのは、笛吹きだと自慢げに言っていた、月夜さん__だった。
でも、どうして、
それに先に歌を送った人へ返す前に、また別の人が歌を送るのは…
明らかに先の人への挑発行為。
乱闘が起こっても可笑しくない。
「っなんだお前は!礼儀すら知らない癖に」
「オマエと話すことはねェよ!話しかけてくんなっ」
二人の空気は今にも殴り合いすら始めそうな雰囲気だった。
どうしよう、この人昔は腕っぷしの強い喧嘩ばかりしてた様な人なのに、!
「あと、勘違いするなよ!俺は…ちょっとコイツに用があるから来たら面倒な奴に絡まれてただけだ!」
顔も瞳も、それが本当で、他意が全くない事を示していた。
びっくりした、一目惚れとか言われたらびっくりしすぎる。いや、この状況もびっくりなんだけど。
にしても、何の用事だろ、?
「桜月、早くどっちかの歌に返せよ!そしたら乱闘は怒らなくて済むからさ」
何を言ってるんだ、この人は。
そもそもこの人楽人…いや、横笛二人いるんだった。
あぁ、断りの歌があったらそれで済むのに。
心にもない...それも友達の意中の相手...にいい返事を出来る訳がない。
「、__喜ばかりか 思ひつるかな」
「さ、桜月…!なんでそんなよそ者にっ」
「ごめんね、でもあなたの事心から思ってる人、絶対いるから...」
態々そう言う点、なんてお人好しなんだろうな、と自嘲する。
そのままへこんだ様子で去って行ったその人を目で見送った後、月夜さんに向き直った。
「、ありがとうございました。でも…如何いうつもり、ですか?」
日の昇り切らない刻の、七人と出会った時の事を思い出し、にわかに警戒するも、彼は笑って首を左右に振った。
「あのさ、笛吹けるって言ったよな?」
「あぁ、まぁ、一応」
「一回吹いてくれよ!桜月の腕前見てみたいんだ!」
食い気味にそう言われ、困惑するしかない。
「え、えと、でも…」
「ちょっとでいいから!頼むよォ…」
しょぼん、と子犬のような目を向けてくる。
うぅ、この人私がそういう目に弱いの知っててやってる?
「…ち、ちょっとだけ、ですからね」
飛び跳ねて喜んでいるあたり、自覚してわざとやっている訳ではなさそうだった。
…もしかしてこれも計算、?
え、何処までが計算されてるのか分からないこれが一番怖いかも。
そうぽつぽつと考えながら革袋から笛を取り出した。
念の為と入れておいて良かった。
結局、そのまま口に当てて吹いたのは、単調で素朴な音律の、だけど単純だからこその可愛いところもある曲だった。
些か簡単な曲ではあるけれど、この曲を私は嫌いじゃない。
ぴィ、と音が鳴り終わった瞬間、月夜さんの目がきらきらと輝いているのが目に入った。
…ぅ、何かありそう。
「へぇ…桜月って、横笛が随分上手いんだな…オマエ、俺の弟子にならねぇか?!」
にかっ、と笑ってそう言うこの人は、私がこの村の人だという事を忘れてはいないだろうか。
楽人として旅をするのも楽しそうではあるけれど…
忘れてはいけないのは、何と言おうとこの人達は|闇《くら》の氏族であること。
本当ならすぐに村長に伝えなければならないのに、私の恐怖がそれを許さなかった。
きっと、巫女様ぐらいなら既に見抜いて、鏡越しにそれを双子の御子様に伝えている頃だろう。
「丁重にお断りします」
「えぇー、頼むよぉ…」
何なんだ、この人。
ちょっと苦手…、こんな感じの、こちらからしたら断りにくい上に意外と粘る人。
っていうか恋愛沙汰の筈の宴に、本当にただの用事で歌を贈る人なんて初めてなんじゃないか…
「と、っ取り敢えずお断りします!」
ぴゃっ、とその場から取り敢えず逃げだした。
取り敢えず。
と思ったら、山中を何時の間にか彷徨っていたようだった。
宴の賑やかさも、男女の想いも、焚火の明るさも、
何も、ここには無い。
後先考えずに走ってきた自分を恨む。
心の底から、恨めしやと過去の自分を呪った。
「どうしよう、っ迷っちゃった…」
「、桜月ちゃん、こんなところにどうして、、、」
木々の間の暗闇から出てきたのは、驚いた表情の澪さんだった。
「みお、さん…!どうして、って…」
「…|輝《かぐ》の軍の気が近づいてきているの。そろそろここを発たないと危ないから失礼するわね」
そういって微笑んだのは紅葉お姉さん。
村の人たちの…楽人の音楽はどうしたんだろう、
疑問と驚きが頭を駆け巡って、何とか絞り出すみたいに声を出した。
「っここを、出るんですね、」
「…ねぇ、桜月。君は__闇の氏族の里に来る気はない?」
笙、の人…|晴空《はるあ》さんが、静かにそう問いかけた。
「ゎ、たしが…?」
戸惑いもあったし、驚きもあったし、だけど、闇への拒絶が、今の自分には強かった。
昔からずっと光を信じてきた。
輝の里で、光の下で、生きてきた。
「、っ私が何者であれ、私は光に生きてきたんです。今更闇の人と言われても、着いていくことはできない…!」
胸の、上に羽織った服の下の、勾玉を布越しに握りしめながら、そう言った。
そして、6人の人影に、頭を下げる。
「…、皆さんは私を探しに、危険を冒して輝の里に来てくださったんですね、。」
断るといったのは私なのに、申し訳なさが後から後からこみあげてくる。
「、、、顔を上げてください、桜月様、、、!」
れお__|麗音《れおん》が、あわあわとしながら言った…カラスも後ろでわたわたとしている。
「れお達は…一度戻るだけだから、、、ッ絶対戻ってきて、桜月様を連れ戻します!」
連れ戻す、って言っても、私から見たら最初からここにいるんだけれど、
それでも、それ程に私をまっすぐ見てくれるこの人たちが、私は好きになっていた。
「あぁそう、その勾玉は、アンタが持っときぃな…それは、闇の氏族のものでもなんでもない__”巫女姫”の物だから」
「わ、かりました、…ところでその、月夜さんは、?」
見当たらないその人を、一番手前にいた瀧さんに聞いた。
発つ、と言っていたのに、姿が見当たらないとは…と、序盤から疑問に思っていた。
「さあな。僕様に訊かれても分からん。」
「そうよ、この馬鹿に聞いても分からないわ」
「なんだと!?この!僕様のことを今!馬鹿と言ったんだな君は!?」
「はぁ、面倒くさ…ちょっとこの状況理解して静かにしてくれへん?」
紅葉お姉さんの鋭い突っ込み。
大きな声を上げた瀧さんに、今度は天沢さんの冷静な鎮め。
ナルシスト、?を宥めるお姉ちゃんとお兄ちゃん…
成程、わからない。
っていうか月夜さんのこと誰も分からずに置いて来たのかな…?
いや、さすがにそれはないか、
「彼は”少しやる事があるから先に行ってほしい”と言っていたから…」
「そう、なんですね」
まさかの知っているのは晴空さんだけだった…
にしても、やる事、って…
私があんな風に逃げ出しちゃったから…?
もしそれで、残ったせいで輝の軍に見つかって捕まってしまったらどうしよう。
私の所為だったら、。
「…輝がかなり近くにいる、。そろそろ行かないと不味いことになる、かもしれない、、」
ピリ、と張りつめた澪さんの声に、皆の雰囲気も変わった。
これが、殺し合いの戦場を敵として立つ者同士の、。
それじゃあ、と急ぎ急ぎに去っていった彼らの姿は、一瞬で闇に溶けて行った。
そろそろ、帰らなきゃ。
そう思った。
だけど、どこに?
道も分からない。
それに、里に戻ったところで、私はみんなとは違う。
所詮”外者”。
こんな私でも、心置きなく仲良くしてくれるのは幼馴染の三人だけだった。
知ってる。
皆が私のいないところで、”よそ者”って、ずっと言ってたのは知っていた。
寂しい。
楽人、の人たちが去った後の暗い森の中は、何もない。
ただ暗くて静かで、時折野生の生き物が上げる不気味な声や、草や葉が擦れる音しか、聞こえない。
あぁ、さみしい。
ぽろりぽろりとかってに流れる涙に、また過去の自分を呪う。
寂しいならなぜあの人たちについて行かなかったの。
ああ、私は馬鹿だ。
地面は山の中のため、柔らかい土で、落ちた葉や得体のしれない動物の気配しか、私の涙も嗚咽も、受け止めてくれるものはなかった。
「…君は何故泣いている?」
「、ッえ、」
「君は付近の里の娘に見える、おまけに…今日は嬥歌の筈__」
突然聞こえてきた声に驚いて顔を上げる。
相手の顔は陰でよく見えないけれど、その声は深く心地よい響きを持っていた。
周囲で緊張したような囁き声が交わされる。
「大丈夫、近くの里の娘が泣いていただけだ」
先程の深い声の人物がそういうと、ささやきはぴたりと止まった。
其れに交じって、馬の蹄の音も聞こえてくる__
この人たちは、何者だろうか。
「あの...ッあなた、は」
「私は|月読命王《ツクヨミノミコト》…双子の御子が一人、と言った方が分かりやすいかな」
ゆったりと歩いてこちらに出てきたその姿は、月光を浴びて輝いていた。
色素の淡い、流れる様な髪にすらりとした姿。
つい先ほどまで戦場に居たかのような白い服。
そして、海よりも、空よりも、淡く、けれど深い、そんな青の瞳。
その目に、一瞬で釘付けになってしまった。
「な、んで…ッこんなところに、?」
「それが…闇の氏族の気配がこの辺りでしたものだからね__獲物は逃がしてしまった様だけれど…代わりに得難いものを得たようだ」
言っている意味があまりわからず、泣き腫らした目に気付いて手で覆い隠しながら、首を傾げる。
「君は__花の乙女、だね」
柔らかい、穏やかな雰囲気に、少しだけ、悲しそうなものが混ざっているように感じられたけれど、それも一瞬の事で、すぐ元の雰囲気に戻った。
「え、っと…」
「…私と一緒に、まほろばへ来る気はないか?」
「へ、っ?でも、どうして、!」
突然の爆弾に戸惑い驚くも、断らなければとしか考えていなかった。
確かに、ずっと、お慕いしていた__その人に、その方に、こうしてまさか見目を合わせて、話を交わす事になろうとは思ってもいなかった。
けれど__私の生まれは、私の育ちは__
「私の氏は、っ」
闇の、者。
「そんな事、どうでもいい…姉上はきっとお怒りになられることだろうけれど、それでも私は探していたんだ」
蘇りの一族である闇の人々と、不死の一族である輝の人々。
決して相容れない存在。
「如何して、私なんかを…」
「言っただろう?私は花の乙女__君を、ずっと...探していたんだ。」
「采女として、私の傍で、まほろばで、光の下で生きてほしい」
やはり、わずかに憂いを帯びたその瞳には、何か人が手を差し伸べたいと、そう思わせるものがあるようだった。
「っ私は…貴方の事を__ずっとお慕いしておりました」
会う事も、見る事すら叶わない様なその存在に。
ずっと、憧れ心を惹かれていた。
手を引かれ、その人の馬に__雪のように白く輝く、美しい馬に横乗りになった。
ゆらりゆらりと馬の背に揺られる。
周囲は都の、まほろばの人々の…彼の人のお付きの人や護衛の人で固められていた。
前を見れば、馬の手綱を引く王。
時々、ちらりと私を気遣うような視線を向けてくる。
「え、っ桜月!?」
「つ、月読命王…!!」
「なんだって!?」
この世の頂点に立つその人が、端の村の嬥歌に来るなんて。
しかも、村娘を御身の馬に乗せて。
里長も驚きつ、馬から降りて友人に囲まれて質問攻めにあう私に駆け寄ってきた。
「何があったかは知らないが…くれぐれも丁重にもてなすのだぞ。祭り酒もそなたが取れ」
「は、っはい…!」
あれよあれよという間に話は進んでいた。
「突然の訪問を申し訳なく思うよ…私の事は気にせず、どうぞ祭りを続けてほしい」
穏やかにそう言う月読命王に、里長は笑顔を浮かべながらぺこりぺこりと頭を下げる。
けれど、その表情が困惑に変わった。
「どうぞごゆるりとお寛ぎ下さい___しかし、楽人の姿が見当たらないのです」
楽人がいない?と、不思議そうにこちらを見る月読命王。
その楽人たちが闇の氏族で、貴方が来る前に離れて行ったのですなんて、言える訳もなく。
何とも言えずに、私も困り顔を返した。
「ならば...私が奏でよう、よければ桜月も共にどうかな」
誘われたことに驚きつ、頷いて笛を取り出した。
篳篥の独特な柔らかい音色と、横笛の高い澄んだ響きが合わさる。
誰もが、輝の御子その人の演奏でなど、恐れ多くて踊れないと思った事だろう。
けれど、違った。
気が付けば人々は踊り出していた。
驚く間もなく宴の踊りの賑わいを取り戻して行って、いつの間にか音楽が止んでも尚、踊りの輪は止まろうとしなかった。
「桜月」
「月狛!」
振り返った時に目についた彼女の、嬉しそうで寂しそうな、その笑顔が目に焼き付いた。
「二人が…伝言だって、!」
言われずとも、幼馴染の二人だと分かった。
毎年宴が近くなると、憧れの視線が沢山集まっていることは有名で。
「…よかったね、って、この日迂闊に外に出たら大変だから直接言えないけど、って」
未明の、馬鹿だけど、無邪気な、真っ直ぐな笑顔が頭に浮かぶ。
琥珀の、しっかりした、だけど抜けたところのあるその姿も。
そして、月狛の…もはや私の姉みたいで、いつも私の事心配してくれていたその想いも。
「っ…ありがとう、大好きだよっ…」
ぎゅう、と彼女に抱き着いた。
まほろばは、遠い。
この村から、ずっと離れた場所にある。
「だから、もうここを離れたら、会えないんじゃないか、って…」
思わずまた込み上げてきた涙に震える声。
すると、月狛の温かい手が私の手に添えられた。
「大丈夫。桜月ならやっていける。私が保証する!」
そのいつものように、明るくて、優しくて、しっかりした声に。
「…うん、大丈夫だよね、!__それに何かやらかして多分すぐ戻されるよ!だから」
「そんな事言うなよ!それがヤバいって馬鹿の俺でも分かるぞ!?」
「…っえ、!?」
「全く…やらかしたら承知しないからな、俺たちまで怒られる」
「……ええっ!??」
「そうだよ、頼んだからね、桜月…私達の待遇をよくするためにも!」
宴の中、私が大声でえぇぇえ、と叫んでしまったのは言うまでも無かった。
だっていつの間に許可取ったの、一緒に行けるなんて!
それ知ってたら泣きそうになんかならなかったし!
って言うか二人もちゃっかり出てきてるじゃんか!
毎年外に出たら女子に囲まれるのが恒例だから隠れてるって言ってたのに!
挨拶できずにバイバイかなって思ってどれだけ苦しかったことか!!
私の涙を返せーーっ!!
そして、私の采女の決定と、幼馴染三人のまほろば移住が決定したのだった。
__まほろばって位の高い人とか采女しか本来いない場所、ということはないけど、
一緒についていくのが許可された事ってなかったみたいで…。
「…なんか、よかったね」
ほっこりとした気持ちになった私と、先程私が出した祭り酒を穏やかに飲みながら、微笑んでこちらを見守る月読命王の姿があったとか。
ほとんどの人が寝静まった。
静か。
彼の人も、今宵は里長の家で留まるらしい。
川のほとりはとても静か。
あぁ、明日にはこの景色から遠く離れるんだ。
「…足音?」
満月の月明かりの下、木の陰から現れたのは__
「巫女様、!?」
いつも鏡の先のまほろばへ、彼の人達の姿を見る事の出来る、唯一の人。
けれど、様子がおかしい、。
ふらりふらりとおぼつかない足取りに、思わず駆け寄った。
その時だった。
「…ひ、ぃっ!?」
まるで何かに取り憑かれでもしたかのような、鬼の形相を浮かべて私を見た。
「正体を現せ!お前は輝の者ではない!汚らわしい地下の者!あの御方を騙すなど万年の罪!!なぜお前のような者が!!私さえ鏡の先からその御姿を見る事しか出来なかったというのに!!」
早口でまくし立てる巫女様は、髪を振り乱してこちらに迫ってくる。
恐怖のあまり、私はそこが川辺で__滑りやすい石などいくらでもある事を、忘れていた。
どん、と視界が揺れて足に鈍い痛みが走る。
石に躓いたんだ、。
見上げると、恐ろしい顔の巫女様が私を見下ろしている。
その手には、割れた鏡の破片。
「ひ__ッ!」
カァ、カァ。
ギャア、と目の前の人影が蹲ると同時に、二羽のカラスは木の上へと舞い上がっていった。
|夢遊《むゆ》と|夢琉《むる》__。
私と同い年の、けれど私よりも背の小さいあの男の子のことをふと思い出した。
つい数刻前、あって別れたばかりの、彼らのことを。
「…月夜さん、どうしてこんな所に、?っていうか、このカラスくんたちは結局誰の子達…」
「えぇ、、そこはまず|危機《ピンチ》を助けてくれたお礼を言ってくれよぉ…」
突然にして背後から現れた彼に驚く。
麗音...れお、そして楽人の人達の事を思い浮かべていたときに出会うなんて。
「、その通りです…助けて頂いて、ありがとうございます。」
「まぁ、弟子が襲われてたら普通助けるだろ!」
ニマ、と笑いながらそう言う。
...あれ、私弟子確定されてる?
「え、っと…楽人の人達先行っちゃってましたけど、”少しやる事”ってなんだったんですか?」
「あぁ、それなら多分もうちょっとで終わるんだ!」
多分、って…
信用ならないな…
っていうか敵の大将と同じ村にいるのに大丈夫なのだろうか…
とりあえず、もう遅いからと半ば強制的にお別れだった。
...何か、怪しいなぁ。
夜も明ける頃、近所の家は全部騒ぎに騒いでいた。
___私が原因で。
「まさか生きている間にこんなに上質な布で衣を作るなんてねぇ」
「お、お母さん...やっぱりこんなに沢山大丈夫だからっ…ちょっと家に置いておいた方が」
「何言ってるの!いい所の娘ばかりの中で心許ない思いなんかさせられないよ!」
けれど、その布の量というのも大変なもので。
近所の大騒ぎというのも、その衣づくりのせいなのだった。
申し訳なさに、針を持つ手が限界を訴えても手を止められない。
結局、仕上がったのもちょうど昼。
太陽が真上に来た時、私達はこの村を出て行った。
10000文字以上だから。
大変な事になってる。
うん、読みにくいし長いしホントに申し訳ございません。
予約投稿ミスった分どうしようかと思ったらこうなった。
もはや自分の馬鹿さに笑えてくる(草)
さて、まだ登場させれてない方!!
次めっちゃくちゃ出てくるから覚悟しててくださいね!!!
ほんとに!!!
じゃあね!!(?)
花びら、三枚目。
「…桜月、あれが日の出ずる国の都、まほろばだよ」
月読命王がふんわりと微笑みながら、道の先を手で示した。
「…っうゎあ...、!!」
思わず感嘆が声に出ていた。
そしてそれは三人の幼馴染も同じ様で__
「すっげー…!!」
あの未明が...言葉を失ってる…。
馬の上で呆然とする未明に、思わず小さく笑い声が漏れる。
「流石都...桜月、人多そうだから迷子にならないように!」
馬に乗る私の手をぎゅうと握りながら、同じく隣で馬に乗っている月狛。
バランス能力高いなぁ…。
「じゃあ...あの中央の大きい建物が…」
じっと冷静に大きな建物を見つめる琥珀。
鋭い様なその目線の意味は…測れない、気がした。
「そう、あれが私達の棲む場所だよ」
優しく穏やかに月読命王は呟く。
この世を支配する双子の御子の棲む場所で、私達が生活を送るなんて…誰が想像しただろう?
「…とりあえず、采女の生活場とその他の人々の場所は離れているから、それぞれをまずは案内するよ」
一度幼馴染三人とはここでお別れ。
既に三人の住居も用意されていると言われて、その行動の速さに驚く。
「…じゃあ、また後でね、桜月」
「じゃあなー!」
「頑張れよ、お勤め」
「うん!また後でね!皆も頑張って...!」
三人に手を振って振り返ると、じっとこちらを見る月読命王。
「ど、っどうかされましたか、!」
「いいや、素直で可愛らしいなぁと」
突然の言葉にシャットダウンする頭。
脳みそも体もフリーズする。
「ふふ、まぁとりあえず自室の案内とその他の采女の棟の場所を教えてもらっておいで」
彼女に、と指差した方を見ると、いつの間にそこに居たのか、一人の同い年、位の女の子が膝をついていた。
「え、っこ、この方は...?」
「桜月、君の傍使いだよ...身の回りの世話を任せられる人だ」
自己紹介をと言われて口を開くその女の子。
「僕は霧坂 朱莉__15歳です。これから身の回りの世話をさせていただきます」
ぺこり、ともう一度深く頭を下げる彼女に、思わず私が慌てて口を開いた。
「ゎ、お、同じ年だし敬語もなしでっ…よかったら仲良くしてください!」
ぽかん、とこちらを見る彼女に、何かやってしまったかと焦る。
もしかして、側使いの方とはそんな馴れ馴れしくしちゃ駄目かな…
もう一度考え直してみて焦って、ちらりと月読命王の方を見た。
「やっぱり面白いね、傍使いとそんな風に接する采女なんて初めて見たよ…皆、奴隷か召使いのように指図するのに__まぁそれが普通だから」
「へっ!?」
フリーズしかけた体をなんとか叩き起こす。
と、取り敢えず自己紹介しなきゃ...
「え、っえっと、名前…はもう知ってるかな…、!同じ15歳で好きな物は甘い物です!」
「甘い物いいよねぇ…」
ほっこりとそう返してくれて、思わず目を輝かせる。
「だよねだよねっ!!甘い物いいよね…」
やったぁ、意気投合。
仲良くなれてよかった…。
余所余所しい傍使いの方よりも、こうやってのほほんと雑談できるような関係の方が好きだし。
「それじゃあ...部屋を案内していくね」
「御願いします!」
ちなみに月読命王は仕事があるからと自室に戻られた。
ぜえ、はあ。
「ひ、広い...」
「大丈夫…?」
心配してくれる朱莉ちゃんに頷いて笑みを返す。
この建物、こんなに広いとは思わなかった。
途中ですれ違う数人の采女の人々は、誰も彼も煌びやかで、けれど少し刺々しく感じられた。
まぁ、仕方ないのかな…
ここの人々は良い生まれだったり身分が高かったりする人ばかり。
私のような地方の娘は、ましてや生まれが闇の人なんていない。
「やっぱり桜月ちゃん大丈夫!?」
フリーズしてる!とゆさゆさと揺らされてハッと意識を現実に戻す。
「う、うん、大丈夫だと思う!」
にしても私の部屋も広い。
こんなに一人一人の部屋も広いんだ。
今日はまほろばに着いて、数人の采女の人々と出会って、自室を少し自分の好きな調べにして、
___そして、素敵な側仕えの方と...友達になれた。
この日はこれで終わり。
真っ暗な外を見ながら、今まで触れた事も寝た事も勿論ない様な、ふわふわで肌触りの良い寝具で横になった。
「…寂しくて寝れない」
結局未明達と会えたのはあれが最後だったし…
「……隣にお母さんもお父さんもいない」
すると、ふわりと私の仰向けのお腹に、優しく置かれた手。
「寝れるまで、隣にいてあげるよ」
穏やかに、静かに微笑んでそう言ったのは朱莉ちゃん。
「ありがとう、...」
その優しい手の温もりを感じながら、この場所で初めて、眠りについた。
---
「桜月ちゃんっ!起きなきゃ、総司様に怒られちゃう…」
「ふゎぁ、、っおはよう、朱莉ちゃ__」
「早く!朝ごはんも食べ損ねちゃうからっ」
...問答無用で叩き起こされた。
衣装箪笥の中にある衣服に着替えながら、ふと気になって尋ねた。
「総司様って?」
「采女のまとめ役、みたいなもので…すっごく怖い」
成程、それは急ごう。
昨日教えてもらった道をもう一度教えてもらいながら、食堂へ向かった。
見ると、中には一人一人の名札と、お盆に乗せられた食事と、台が個々用意されていた。
...食事も豪華……
「頂きます、」
傍使いは傍使いで食事を取る部屋ややることもあるらしく、朱莉ちゃんは下がっていった。
...一人は心細いけれど、黙々と食事を続けるうちに気付いた。
......皆、どうして全然食事に手を付けていないのだろう。
つついているだけのもの、つついてすらいないもの。
真面に食事をしている人は一人も見当たらない。
だからそんなに皆細いんだ…不健康なくらいに。
思い返してみれば、皆美しくて華やかで、綺麗ではあるけれど…
村の人々のような明るさも、溌溂さも、真っ直ぐさもない。
不審に思いながらも、食事をする手は止めなかった。
今までで一番いい食事を食べている筈で、確かにとても美味しかったけれど、
何故か私には合わなくて。村で皆で食べた食事が、どうにも懐かしいと思ってしまうのだった。
「…ねぇ、何あの子…見ない顔ね」
「あら、新入りじゃない?田舎者は珍しいってだけよ」
「ふふ、物珍しいからなんて…流石田舎の娘ね、にしてもお誘いを馬鹿正直にお受けするなんて…」
「丁重にお断りするのが礼儀ってものなのにねぇ」
「ま、所詮は田舎者よ。物珍しがられている内が華だわ」
くすくすと、私の方を見ながら笑う年上の采女達。
私、何か悪意を買うような事したっけ...してない。
だって昨日来て今日初めて顔を合わせて、ぐらいだし…。
結局ここでも人の悪意という物はあるのか。
身分差はたしかに仕方ないけれど。
どう反応したらいいか困って、食堂を出てすぐの廊下であるこの場所に、ぼうっと立っていた。
「…みなさま、随分とお楽しみのようですけれど」
数歩前で話していた采女が顔を上げた。
こちらにはっきり向き直って、その顔を少し驚きに染めた。
私も__背後から聞こえたその声に、思わず振り向く。
「新入りの子を苛めるほど自分に自信がないなら、自分磨きに専念してくださる?」
|素《しろ》色と香色の間くらいの__白茶色、だろうか。
そんな優しい色味の髪に、私と似た淡い青の瞳。
藤色の着物を着たその出で立ちは、とても堂々としていた。
そして、私の事を噂していた采女達は逃げ帰るように素早く去って行った。
すごい...。
「っあ、ありがとうございました、!」
慌ててその人の方に向き直ってお礼を言う。
するとにこ、と微笑んだ後彼女は口を開いた。
「私は水無瀬 莉薇。莉薇って呼んでくださる?」
「ゎ、私は桜月と申します…!流石に呼び捨ては恐れ多いので…莉薇、さん...で!」
「桜月、、いい名前ね」
にこっ、と笑いながらそう言う莉薇さん。
わぁ…綺麗…流石采女...。
って言うか此処の人みんな綺麗なの!
「あ、ありがとうございます!」
ぺこり、ともう一度頭を下げた後、それではまた、と別れて自室へ戻る。
「桜月ちゃんっ!」
「ゎ、っあ、朱莉ちゃん!?」
部屋に戻った途端に血相を変えて飛び出てきたから驚く。
「よかった…一人で出歩くのは危ないから極力控えてね、」
「う、っうん、分かった...でも、」
この宮中で、危ない事があるのか。そう聞こうとした時、遮るように朱莉ちゃんは口を開いた。
「僕は、…桜月ちゃんを守るのが大事だから」
まるで、何か起きるかのように、その出来事を見通すかのように、小さく呟いた。
「そ、っその、朱莉ちゃん...?」
「…うぅん!何でもない!そろそろ教養時間だから総司様の所に行かなきゃ、」
「そうなの…!?怖そう…」
曰く、動きや姿勢、発言から態度まで。
全てを采女として相応しい様に叩き込まれるらしい。
ひえぇ。
「…背筋が曲がっています」
「…みっともない。胸を張って歩きなさい」
「それは熊の四足歩行ですか?何をしているのか理解できないのなら帰ってちょうだい」
...前の人達がビシバシと叩かれている。
こえぇ...。
「…次。桜月さん」
言われるがままに真っ直ぐと歩く。
前の人達が犯したミスを繰り返さないように。
「…正しい歩き方が身についているようですが、少々荒いです。新入りにしては上々だけれど、それで調子に乗らない様に」
......あれ?
案外大丈夫だった。
その後も私は授業をさらりさらりと突破していった。
どうやら、いい所の生まれの周囲とは違い、昔から自分達もしっかり働いてきた私達は姿勢や歩き方もしっかりしているらしい。
まぁ”少々荒い”のもそのおかげだけれど。
っていうか調子に乗るって何!
私そんな事ないからな!!
「でも頭にお盆を乗せてまっすぐ歩くのがこんなにしんどいとは思わなかった」
「桜月ちゃん大丈夫!?」
ぐったりと寝台に倒れ込んでいる私は見事にこの軍事訓練に疲れ切っていた。
...もうこれ軍事訓練でいいって。しんどい。
そんな風に毎日が陰口と噂と莉薇さんの優しさと朱莉ちゃんの笑顔と、采女としての心構えを叩きこまれる日々。
その中、私は段々と食事の量が減っていった。
訳は分かっている。
窮屈なんだ。
雨を身に浴びたい。
そう思って外に出たら、とんでもないと叱られてしまった。
裸足で川に浸かって、水飛沫を上げながら走りたい。
走るなんてそんな、はしたない事してはいけないと言われてしまった。
最近分かった事がある。
この都の人々はみんな、輝の一族の人々はみんな、自然との関わりを深く持とうと思っていないんだ。
育った里の人々や、闇の氏族の人々とは違い、繋がりを殆ど断ち切って。
ただ一つの信仰対象は、双子の御子と、その生みの親である大御神...。
光の神。
それに反して闇の氏族は闇の女神を信仰する。
双子の御子を生んだ、国生みの神...。
「…水が恋しい」
小さくそう呟いた。
「桜月ちゃん...!」
「あれ、朱莉ちゃん、!」
たしか彼女は傍使いには傍使いの勉強があると言ってぱたぱたと忙しそうにしていた...さっきまで。
「そ、っその、!|天照媛王《アマテラスのみこと》が...桜月ちゃんの事、呼んでっ」
その名を聞いた時、体が凍り付いたと思った。
私、何かしてしまっただろうか。
双子の御子のうちの、姉御子に呼ばれてしまうなんて。
「っわかった、ありがとう…」
急いで部屋を出て、漸く覚えた道順で、その御方の部屋へと向かう。
「…お呼びになられた者が到着いたしました」
部屋の前の門番が、そう部屋の中に声を掛けた。
「…そうか、通せ」
厳しい、烈火のような存在感のある、はっきりとした女性の声。
弟君である月読命王の、どこか憂いのある深謀遠慮に満ちた声とは、全く逆のもの。
静かに開かれた扉に、前に足を進め、そして、部屋の中に入ったところで、地面に平伏した。
「お呼びになられたとのことで、参らせていただきました。桜月と申します」
「面を上げることを許可する。苗字はどうしたのだ?」
顔を上げ、その目を真っすぐと見つめながら答えた。
その美しい、太陽の燃えるような赤い瞳を。
「私は拾い子の生まれですので、苗字は存在しません」
まぁそもそも、今の世の中苗字を持つ人は多くはないけれど。
「…やはりな、どう思う、月読」
誰かに何か問いかけるような物言いに疑問を感じると、天照媛王の座る椅子の後ろの柱から、月読命王が静かに出てきた。
驚いたけれど、表情には出さずにじっと耐えた。
「どう思うも何も、私は気付いていましたよ、姉上__彼女は花の乙女です」
花の乙女。
何処かで聞いたことがあると思ったら、楽人の人々と初めて出会った時に言っていたのを思い出した。
「そこではない。彼女は闇の一族だろう!」
「それがどうかされましたか?」
ぴりぴりとした二方の空気に怯みそうになるも、何とか今の姿勢を保ち続ける。
「このまほろばで暮らすならば|変若《おち》も受けることができる、それに彼女は望んで闇の一族に生まれたのではありません。何なら光に夢さえ見て、憧れを抱いています」
少し久しぶりに聞いたその声も、その姿も、私を案じてくれているのが折々と伝わってきた。
真っ直ぐに、嬉しい。
ただ、それだった。
「…ふん、そなたは変わらないな__」
変若を受ける事によって不老不死を保っているという輝の人々。
天照媛王も、月読命王も、それは同じ。
それを私が受けられる、?
「采女。そなたがここに留まるのなら、闇の振る舞いをするような事は無いよう...精々変若まで生き延びて見せたらいい」
そう強い口調で言い、そしてそのまま口を閉じた。
もう私に対する言葉は終わりにするらしい。
ちらりと此方を見ると、そのまま振り返らずに部屋を出て行ってしまった。
「次花手水の中に飛び落ちてみろ、承知せぬぞ...木の枝に髪を引っ掛けて引っ張り上げてくれるわ」
そう、気がかりな一言を残して。
「…桜月、変若というのは知っているね?」
「はい、勿論......|月読命王《ツクヨミノミコト》、___...っ一月経ちました」
話を遮る事になるとは分かっていても、そう言わずにはいられなかった。
此処に来て、ひと月経って、何も変わらない。
変わらないどころか、自分の出過ぎた真似を恨むようにすらなっていた。
「私は…っ出過ぎた真似を致しました、。あのままただの村娘の儘、居ればよかったのです」
そうすれば、今私は自由に解き放たれて、雨に打たれながら走って、あの澄んだ川で友と仕事をしていたのだろうか。
そして私には気がかりがもう一つ。
「ずっと...皆に会えてない、月狛達は、っ!」
「采女は采女の宮から出る事を基本禁じられているからね…逆もしかり。采女の宮に入れるのは一部の人間だけなんだ」
なら、皆は何故私と一緒に来てしまったのだろう、。
私のせいで、故郷から離れてしまって。
「もう、...帰りたいです」
いままで、朱莉ちゃんと莉薇さんにしか、話せなかった。
同じ采女で莉薇さん以外の人は皆私を避けていた。
「…桜月。私の目を見てごらん」
「っ、はい、__。」
優しい体温に包まれたことに驚きつ、顔を上げた。
月読命王は、今日も綺麗な顔立ちで。
勿論天照媛王も、美しく太陽を人に模したような姿だった。
お二人は真逆の様です。
そう言いかけた言葉を飲み込んだ。
「…何故、それ程悲しそうな瞳をされるのですか」
「それが理由だよ」
言われたことを読み込めなかった。
「ほとんどの人々は私の目を真っすぐ見つめることは出来ないんだ。恐れ多いと、ね。だから、これがその印だよ___君に采女たる資格はあるという、その証拠がね」
どうして。
そんな顔をされたら、私は一瞬でその傍で支えたいと思ってしまう。
その憂いが、私にどうにかできる様な物ではないと分かっていても、尚。
...それでも。
やっぱり都はどこか、息苦しいと感じるようになっていた。
みんなは、無事なのだろうか。
元気かな。都で窮屈な思いはしていないかな。
気がかりばかりがどんどん増えて行って。
それでも、月読命王の部屋を出て行った私の傍で、優しく支えてくれるのは…。
朱莉ちゃんと、莉薇さん。
その二人、だけだった。
次回、今回初登場のお二人(参加者様)大活躍!?
そして今何が起きているか不明の方々、一気に判明していきます!
え、マジか!ってなるその顔が楽しみだ...(
...やっぱり文章量おかしい気がする。
あとこの物語構成にも意味あります!
あんまり台詞ないなぁってなったらごめんなさい!