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目次
プロローグ
何時もの夜
定時も過ぎた|二十二時《仕事帰り》。
何時ものコンビニで酒とおつまみと売れ残りの弁当を買って
何時もの様に小銭を突っ込み帰路に着く。
何時もの住宅街の片隅で
何時もの家を見つけた
僅か、十米手前
そこにあった家は
私の目の前で
____________物の見事に吹っ飛んでいった。
.
『…………は?』
第1話
.
二十二時。
それは定時から大幅にズレた帰宅で
辺りの風景を見渡せば、既に消灯をしている家がちらほらと見受けられ、夜空の星が燦然と煌めいて見える時勢。
そしてその中の私は、いつも通りの仕事を終わらせた帰り、コンビニでお酒とおつまみと売れ残りの弁当を買って、それを引っ提げながら帰路についた所だった。
今日だって変わらずの日々を繰り返す毎日。
まあ少し変わった事となると_____二日前、夢にまで見たマイホームを手に入れた事位だ。
ボロアパートから一転、私は一軒家を持つ女として回生した。
四箇所のバイトをかけ持ちして働いた当然の結果。
努力の賜物。努力の結晶。
そう、その努力の結晶は_________
『……は?』
静まり返る道路にて思わずポロリ、と感嘆が漏れた。
…ちょっと私は疲れているのかもしれない。
否、確実に、絶対、とても疲れている。
口を開きっぱなしにして、疲れた目を擦って、また目の前を眺めた
善く見えずにもう一度目を擦って細め、また擦る。
『……え?』
まだお酒を口にしていない事を確認。
何がなにやら
『……え?』
……は?
『……、はァあああ!?!?!?』
近所迷惑なんざ知らないと云わんばかりの声を上げ、私は目に映る全てを疑った。
な、だって、は?!
家が吹き飛んだ!!なんて信じられる訳ないじゃん。
先ずマイハウスが左の彼方へ空中移動した事、そして次に空中で粉々になり、幾多の方向へ砕けた事。
何らかの衝撃で家が吹っ飛んだ事は動かぬ真実だった。
現実から目を背けるタイミングは今だと頭の中の天使が囁く。
まるで砂のように散った私の家。
夢のマイホーム。
家のない空き地に立ち尽くした私は、そこでようやく気がついた。ああ、これ、現実か、と。
そして、_______次にそれを目撃する。
「________……ヤベェ」
土煙の引いた(元)家の隣で、
小さく黒い人が、
_____________家の吹っ飛んだ彼方を見上げ呟いたのを。
第2話
.
さあ少し、事情聴取の時間かな?
非日常的な出来事に蹌踉めきお先真っ暗だったが、それもこれも全て撤回撤収だ。
疲れの変わりに家が吹っ飛びました!なんて洒落にならないからね?
驚いている暇はないよ。
しかし之だけ云っておくが、決して私は神経が図太い方ではない。勿論家が吹っ飛んで飄々としていられる玉ではない。
何故驚き喚かないのか?
そう聞きたい輩も少なからず居るだろう。
というか、自分の家が吹っ飛んだら普通はそうだろう。
|答え《それ》は、驚きより優先するものが目の前にあり、確信的に動ける動機が揃ったからだ。
何故なら目の前で、煙に紛れる黒くて小さい男が顔面を蒼白にし、引き攣った笑みを浮かべているのだから。
それが 決 定 的 な 証 拠 だろう?
嘆いても家は戻らない
見てしまったものも、今更忘れる事など出来ない
仕事帰りの浮腫む脚を動かし、枯れそうな喉から1オクターブ上の声色を出して
すみません
そう一声掛け、ニコリと男に微笑んだ。
『少し善いですよね?』
.
第3話
.
血の気が引く音が聞こえた。
俺はただ苛つく彼奴を殺してやろうと殴り掛かっただけだった。
そうしたら隣の家まで吹き飛んだ。
家まで吹き飛んだ…
……家まで吹き飛んだ…?
________やっちまった。
心の中でダラダラと冷や汗を流す俺に話しかけたのは、能面の様な笑顔を貼り付けた女だった
二十二時。未だちらほらと人が見受けられる時間帯____しかしこの通りに人影は無く、瞬時に必然的に、
俺が吹き飛ばした家の家主だと確信した
「や"、之は違ェンだよ、」
何も違くねェけど。
その笑顔と事実に圧倒されて否定する
『“之”、って何のことでしょうね?』
思わず笑顔も引き攣って
無念にも目が勝手に泳ぎ始める。
「俺は何も知ら………」
『知ら?』
いや、知っている。全てを知っている。
この手で粉々にしてしまった瞬間がフラッシュバックして、俺は心の中で頭を抱えた
切羽詰まった焦りと煮え切った奴への怒りが競り合っている。
『先ず状況説明から善いですよね』
「い"、や、だから之は誤解だ、ッて」
では誤解の部分からどうぞ?
女が否応無しに笑顔を向ける。俺に黙秘権は無かった。今消去された。
その場に冷たく夜の風が巻き上がり、音を立てながら家の破片を転がして行った。
俺が作り出した、粉々の破片。
「………誤解、だ」
フラッシュバックする風圧。
フラッシュバックする|「重力操作」《一言》
フラッシュバックする打撃音。
フラッシュバックする拳の感覚。
フラッシュバックする_____
「…………」
辛い。
簡単にフラッシュバックしてしまう記憶。
___犯人は確実に俺だ。俺しか居ない。
彼奴のせいでも何でもねェ
数分前、俺が家を吹き飛ばした。
「________本ッ当に悪い!!」
.