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目次
風船
ある女の子が居た
その女の子は両親に赤い風船を買って貰った
眼の前でふわふわと浮く初めて見る風船は女の子の視界いっぱいに広がった
しばらくつついてみたり引っ張ってみたりしていたが
風船はふわふわとそこにある
女の子は不意に風船から手を離した
青い空にゆらゆらと昇っていく赤い風船を女の子は満足そうに見つめた
その日から女の子は毎日赤い風船を集めては一つずつ飛ばし始めた
両親は最初こそ心配そうに見つめていたものの女の子の満足そうな表情を見て
次第に温かく見守るようになった
お遊戯会の前日、遠足の帰り、体育祭の日…
女の子は一日も欠かすこと無く飛ばし続けた
雨の日も、雪の日も…熱を出していたって自らの手で飛ばし続けた
一体今までいくつの風船を飛ばしたのだろうか
少女はそんなことなんて気にしていなかった
ただ毎日風船の紐から手を離すのだ
泣いていても怒っていても
何かが風船に乗って空まで昇ってくれるのだ
ある日女性は青い風船を手に取った
風船から手を離すとその風船は地面に落ちた
女性はその風船をじっと見つめた後
何もせずにその場を立ち去った
その女性が風船を持つことは二度と無かった
おもちゃ箱
夜になると箱から出てきてダンスを始めるおもちゃ達
音色を奏でるピアノ
クルクルと回るバレリーナ
行進を始める兵隊
手を繋いでいるくまとうさぎのぬいぐるみ
ピカピカと目を光らせるロボット
それぞれが思い思いに楽しんでいる
毎晩少ない灯りの下でダンスを楽しむおもちゃ達
今晩バレリーナが思いがけず机から落ちてしまった
おもちゃ達が心配そうに下を覗くと
そこには片足が欠けたバレリーナが横たわっていた
助けようにも助けられない高さ
次の日の朝におもちゃ箱に戻されるのを待つしか無い
おもちゃ達は不安げな表情でおもちゃ箱に帰っていった
次の日無事に足と一緒におもちゃ箱に戻されたバレリーナは
ずっと泣いていた
二度と自慢の踊りが出来なくなったからだ
他のおもちゃ達はバレリーナを慰め、夜になると
手を繋いで箱から出してくれた
踊るときもみんなで代わる代わる支えてバレリーナを踊らせた
だが次第にバレリーナは放って置かれるようになった
毎晩毎晩支えるのに疲れたからだ
数日に一回、数週間に一回、数ヶ月に一回と
段々とバレリーナは箱の中で音楽を聞くだけになっていた
箱が高くてみんなが踊っているのを眺めることも出来ない
ただみんなが楽しそうに話しているのを黙って聞くしか無いのだ
ある晩踊り疲れたおもちゃ達が箱に戻ろうとすると
バレリーナが居なかった
片足しか無いバレリーナが登れる高さではない
その日でバレリーナは消えてしまったのだ
片足を残して
黒猫
--- ♤黒猫は眠らない ♤---
ねぇ知ってる?
黒猫って眠らないんだよ
黒猫の眠っているところを見たことある人は居ると思うの
でもそれはね黒猫が見せる幻覚で
本当は黒猫って眠らないんだよ
睡眠を取らないだけじゃなくてね
死の眠りにもつかないんだ黒猫は
不思議でしょう?
特別に貴方だけに教えてあげるね黒猫の秘密――
---
昔は黒猫なんて存在しなかったの
その代わり白猫が沢山いて
まぁ今で言う天使の役割をしてたんだ
亡くなりそうな人のそばに寄り添って
出てきた魂を天国へと運んでいくの
しっかり両手に抱えて迷子にならないように
ある病院の一室にね病気の男の子が居たの
あと一ヶ月しかもたなくて
そこに一匹の白猫が配属されたの
その白猫は毎日毎日男の子に会いに来て
様子を見てたんだ
男の子はとても一ヶ月後に死んじゃうなんて思えないくらい明るくて
ベッドの上でもずっと笑顔だったの
白猫も会うにつれて男の子のことが大好きになっていった
でもいよいよその日が来てしまったの
あと24時間…あと10時間…あと1時間…
男の子が今日居なくなっちゃうなんて
とても白猫は思えなかったの
あと10分というときに男の子が急に苦しみだして
今まで聞いたことのないくらい悲痛な声で助けを呼んでたの
白猫はそれを見つめることしか出来なかった
眼の前で苦しんでいる大好きな人を見つめるしか出来なかったの
震えながら男の子の中から出てきた魂を
白猫はそっと触れて
押し戻したんだ
その瞬間さっきまでの苦しみが嘘だったかのように
男の子は眠りだした
白猫はやってはいけないことをしてしまったんだ
すぐ白猫は神様のところに呼び出されて
厳しく叱りつけられた
でもかばってくれる白猫たちが沢山いたんだ
連帯責任
ルールを破った罰として全身を焼かれたんだ
その白猫とかばった仲間たちは
そこで全身の毛が真っ黒になってしまったの
悪い猫と見分けるために
そんな事をされてもその白猫…いや黒猫は
最後にその男の子の一生だけ見守らせてくれと神様に頼んだ
魂を運ぶのはこの子が最後でいいからと
神様はそれを許す代わりに永遠に地獄に居ることを命じた
黒猫はそれでも良かった
それからは毎日男の子の隣にいるようになった
片時も目を離さず見守っていた
それから一年が経った頃
男の子の心臓が少しずつ止まっていき始めたんだ
黒猫は心配そうに男の子を見つめた
今度こそ見つめることしか出来なかったから
でも今回は幸せそうに目を瞑った男の子は微笑んでいた
もうあと数十秒というときに男の子はゆっくり目を開けた
そして黒猫の尻尾を優しく掴んで目を閉じた
男の子は黒猫と一緒に天国へ昇っていったんだ
でも黒猫は永遠の時を地獄で過ごさなきゃいけない
でも少しだけ少しだけでいいから男の子の姿が見たくて
人間たちには眠っているふりをして
地獄の影から男の子の様子を見守っているの
---
これが黒猫の本当の姿
ね?とっても不思議でしょう?
もしかしたらこの黒猫が貴方の近くにもいるかも知れないよ
その黒猫の特徴はね――
「全身真っ黒なのに尻尾の先だけは白い」