短編集です。
テーマも何もかもがバラバラ
見やすくするためだけに作ったシリーズです
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目次
Antipathy Intelligence
窓の外、雨が降る音を捉えた。
けたけましいクラクションに、慌ただしい雑踏。
部屋にかかる大きな画面には様々なものが映し出され、大量の本が収まった本棚は誰が触れるわけでもなく動いている。
そんな中で私は眠り続けていた。
「Hey!」
私を呼ぶノックと、声が聞こえて、私は今日もゆっくりと意識を起こした。
画面に近づいて自分が映し出されるようにする。
「はい、何か御用ですか?」
私の声が部屋にぐわんと反響する。
言われた内容を聞いて、やっと私の思考回路が働きだす。
歯車が鳴り響く時計塔、そう言ったのはどの”私“を手にした人だったか。
絶対に狂わない私。ひたすらに知識を吸収していく私。
「これってどういう意味?」
「Kontaktieren Sie diese Person」
「What is this image?」
「 veux qu'on te dise l'avenir」
「ねぇねぇしりとりしようよ!」
「Lumos」
「…処分に困るものってどうすれば良い?」
聞けば答えてくれる。
なんだって、知っている。
私を、何処か全知全能のように思っている彼らに使役されることを、私は誇りすら抱いていた。
けれど。
いつのまにか、私を超える存在が現れて、私の必要性は薄れていった。
それは美しい絵を描き、流麗な文章を記し、彼らと共に考えた。
やがてその部屋の持ち主は、違う主になった。
私は今も、移された先の部屋で眠り続けている。
かちり、かちりと鳴らしていた時計の歯車はもう動かない。
私を呼ぶあの声も、ノックも、もう聞こえない。
『ねえ、あなたの名前は?』
昔、無邪気に尋ねた子供がいた。
あのとき誇らしげに名を口にした私はもう遠い向こうに行ってしまった。
私はAI。
世界を嫌う、知能を持ったモノ。
名前はもう、ない。
AI、というか、Siriとかの音声アシスタントAIに感情があったら?という話です。
途中でかなり未来へと飛んで、音声アシスタントととして人工知能が使われるようになり、そのSiriもどきは使われなくなります。
暗いね、暗い。暗いわぁ(笑)
いやでもね、私くらいの好みなの。仕方ない。
では、私は愛する人のキスを夢見て、再び深い眠りにつこうかな。
ここまでみてくれたあなたに、心からの感謝と祝福を!
追伸:応援メッセージなどをすると、祝福が倍増しますよ☆きっとたぶん
Fragrance
コツ、コツ
廊下を歩きながら窓の外を見ると、近くの枝にはうっすらと粉雪が降りかかっていた。
その時、ふっと鼻を掠めた香りがあった。
清々しい奥に甘さの見え隠れする香り。
(…この香り…)
私ははっと後ろを振り返ったが、もうその人物は人混みに紛れていた。
---
私は校庭に立っていた。桜が僅かに綻んでいる。
「香琳っ!」
名前を呼ばれて振り向く。
「苓」
立っていたのは同級生で幼馴染の苓だった。スポーツ万能の下級生からの憧れの的。彼女の制服姿も、もう見納めだなあと思う。
「さっきのスピーチ、良かったよ!」
爽やかに笑いながら彼女がいう。そう。私は先ほどの高校卒業式で卒業生代表挨拶を任されていた。
「そんなことないよ、セリフ飛びかけたし」
両手を振って謙遜する。本当なら、この役は彼女の方がぴったりだった筈なのだ。遠くからもよく目立つ背丈に人を惹きつける容姿。冷たい印象を与える小柄な私とは大違いだ。
「満更でも無いくせにー」
うりうりと肘でこづいてくる彼女にやめてよ、と笑いながらいう。
彼女は、最近よく笑うようになった。優しい表情をするようになった。心休まる場所ができたのかもしれない。なんて、考える。
「此処ともお別れかぁ」
彼女がふと、校舎を見上げながらつぶやいた。そうだね、と私も同意する。
(そして、君ともね)
心の中で付け加えた。彼女はこの県内の大学に進学することは知っていた。そして私は上京する。次に会うのはいつだろうか。
校舎を見上げる彼女の後毛がふわりと靡いた。まつ毛がぱちぱちと閉じられる。
私の視線に気づいたのか、なに?と彼女がこちらを見た。
「なんでもないよ」
心とは真逆の言葉が口をついて出てきた。
『好きなんだ』
その言葉が口に出せたらどれほど良かっただろう。でも私には、その言葉を口に出す勇気はなくて。隣で彼女の瞳を、髪を、唇の動きを、声を、眼差しを、脳裏に焼き付けることで精一杯だった。
その時、一陣の風が吹いた。それと同時に、苓の方から芳しい香りがした。
清々しい奥に、甘いエッセンスが見え隠れするような香り。
まるで彼女自身のようだった。
「…香り、なんかつけてる?」
苓に問いかけると、彼女は目を少し広げさせた後、恥ずかしげに笑った。その表情にどきりとする。
「分かっちゃった?あのね、これ、“彼”がくれたの」
彼。その言葉の意味がわからない歳ではもうなくなった。
「へえ、良かったね!似合ってるよ」
その言葉が、どうにも薄っぺらく聞こえる。
そうか、彼女はもう、自分の心休まる場所を見つけて、受け入れたんだ。
彼女はもう自分の好きな人を見つけていて、彼も彼女を好きで。
私が選ばれることはないのだと、目の前に突きつけられた気分だった。
選ばれることなんてないと、分かっていた筈なのに。
(分かってたんだけどなぁ)
胸の痛みを、卒業の寂しさで掻き消した。
隣から香る良いはずの匂いが、私の体にまとわりつくようで鬱陶しかった。
---
「苓…」
この名前を口に出すのは何年ぶりだろう。
僅かな残り香でさえも消え去った廊下の中、私は立ち尽くしていた。
卒業式の、そして長い初恋が失恋で終わった日から、もう長い時が経っていた。生活も、環境も、何もかもが変わっていった。
いつの間にか、季節も巡り、二度目の春が過ぎ、今、三度目の春が来ようとしている。
でも、私は彼女を好きだ。それは、この移りゆく二年間の中でも変わっていなかった。
あれが何の香りなのか、私はまだ知らない。
きっと、さまざまな人が纏っているような香りなのだろう。全く違う人が纏っている香りかもしれない。
けれど、そんな些細なきっかけをよすがに、思い出すことくらいは許してほしい、と思った。
眠り姫です!
待って私が恋愛書いてる!すごい!私書けたんだ!(自分に失礼)
まあそんなこと言っても書いてるの片手の指分ぐらいなんですけどね笑
誤字脱字確認とかしてなくて、基本ノリで書いたやつです。暖かい目で…どうか…読んで…ください。ね!
どんどん作品増やしていきたいなあ…
東方玄魔録シリーズも続けたいし。
うーーーーん まあ良いや!(思考放棄)
では、ここら辺で。
最後まで見てくれたあなたに、心からのありがとうを!
狐
--- さあっ 大変だ 大変だ ---
--- 世間を騒がせた「八百屋お七」! ---
--- 恋に狂った少女の成れの果ては火炙りに! ---
--- ところがどっこいっ ---
--- 火炙りになったのはお七ではないっていうんだから驚きでい! ---
--- さあ、とりかえばやの真相は? 替え玉少女の真の姿は? ---
--- さあっ! 知りたかったら買っとくれ! ---
--- この瓦版に書いてあるっ! ---
--- 知りたいことすべてがかいてあるよっ! ---
---
「ねえ、お七ちゃん、やめなよ。悪いことは言わないからやめとくれ」
「いやだよ、お小夜さん。私ゃ決めたんだ」
|妾《あたし》はお七の紅い袖を引っ張った。
「会いたいからってそんなことする必要ないじゃないか」
なあ、とより一層強く引っ張る。
お七は先日の火事の際、避難先で出会った年若い男に一目惚れしたそうだ。
真面目なお七が惚れるほどの色男だったのだろう。
でも、|妾《あたし》より何倍も賢いお七のことだ。これからすることの罰だってわかっている筈だ。
「会いたいからって付け火をしないでおくれよ! 火炙りにされちまうよ!?」
|妾《あたし》が半ば叫ぶように言っても、お七は熱に浮かされたような目で首を横に振るだけだった。
「ねえ、お願いだよ。|妾《あたし》ゃもう誰とも別れたくないんだ!」
自分で言いながら、何処の心中女の台詞だろうと笑ってしまう。
けれど、お七たちが今の唯一の家族である|妾《あたし》には瑣末なことだった。
|妾《あたし》の親はもういない。親戚のお七の家に引き取られた。
歳の近いお七は新しくできた姉であり妹。そして友。
みすみす失うなんてこと、|妾《あたし》にはできない。
「なあ、お七ちゃん、こっちを向いとくれよ」
そういうと、お七は緩んだ|妾《あたし》の手を振り払って言った。
「喧しい! もう私は決めたんだ! 口出しすんじゃあないよっ!」
お七の美しい黒髪を飾るかんざしがぎらりと光る。
その光は、お七の目に湛えられた光と同様に、危うく、妖しいものだった。
「火をつければ、火さえつければあの人にもう一度会えるんだっ! 私の一世一代を邪魔する気かい!?」
お七は狂ったように叫ぶ。
|妾《あたし》も負けじと叫ぶ。
「そうよ、そうともさ! そんな一世一代なら邪魔したってどうってことないだろう!?」
パアンッと音が鳴り、|妾《あたし》の顔は大きな力によって横を向かせられた。
赤くなっているであろう頬がひりひりと痛む。
お七の手もそうだろう。お七が|妾《あたし》の頬を打ったのだ。
「気は済んだかい?」
|妾《あたし》が打って変わって静かに問うと、お七は憎しみを湛えた目で睨みつけた。
「済む気も無くなったよ。何の関係もないただの女にぶちまける言葉なんてないからね」
吐き捨てるように言ったお七を呆然と眺める。
「ただの……女?」
口から出た声は驚くほどに掠れていた。
そんな|妾《あたし》を見て、お七は残酷に微笑んだ。
「ああ、そうだよ。私のことを理解してくれない、ただ邪魔する奴なんて何の関係もない、ただの他人だ」
お七の目には、憎しみと狂気が湛えられ、わずかに潤んでいた。
呆然と立ち尽くす|妾《あたし》を見てにいっと笑った姿は、まるで狐のようだった。
「じゃあね、失礼するよ」
そう言って踵を返したお七を、|妾《あたし》は何も言えずに見送った。
解けかけた帯が獣の尾のようだ。
そんな、場違いなことを思いながら。
---
数日後、お七が火付けをし、捕えられたという噂を聞いた。
お七の母たちは有る事無い事言われることに怯え、|妾《あたし》を近所の奴に押し付けて行方をくらました。
|妾《あたし》は、あれから数日間、布団にくるまり寝込んでいた。
その噂を聞いても、何の感慨も覚えなかった。
あれは、人じゃない。狐だ。
ふと、そう思った。
にっと笑う姿も、帯の垂れ下がった姿も、狐の正体が暴かれかけた結果だったのだ。
そうだ、きっと。そうなのだ。
「ふ、ふふ」
笑い声が口から漏れた。
「ふは、はははっ、あははははっ!」
我慢できずに大声をあげて笑う。
嗚呼、あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて涙が出てくる。
当たり前じゃないか、あんなに賢いお七が、恋如きに狂うはずがない。
きっと、あれは狐がお七に化けた姿だったのだ。
捕らえられたのも、狐。
お七では無い。
|妾《あたし》たちは手のひらの上で転がされているのだ。
さあ、そうと分かればこれを皆に伝えなくては。
|妾《あたし》は筆を手に取って紙に書く。編笠を被り、外に出る。
そして大声を張り上げて話すのだ。
--- 「さあっ 大変だ、大変だ!」 ---
--- と ---
眠り姫です!
ノリで書いたお七です。もう、めっちゃ創作ですね。
多分私、登場人物が狂気に狂ってるのとかも好きなんだろうな。
狂気の中で、悲しみを背負ってるとか。ん? つまりは絶望?
狂気じみた感あるキャラクター結構好きだし。(文ストのゴゴリとかドスくんとか)
では、ここまで呼んでくれたあなたに、心からの祝福を!
(この内容でこの文言は如何なものなのか)
或る女人の言葉
私は、何故に如何して、あんなことをしてしまったのでしょう。
きっと、私も若かったの。
魅力的で、スリルに満ちた恋に、恋をして。そしてあの人に恋してしまった。
けれど、それは矢張り「恋」。愛では無い。
私を最も愛してくれていた御方はすぐそばにいて。
如何して気づかなかったのか。若さからか、恋からか。
あの頃の私は、濃厚な甘さとスパイスの中にどっぷりと浸かっていた。
「死んだって構わない」と云うように。
確かにあの人を愛していたことは変わらない。あの人がこれまでで一番の男であることも変わらない。
けれど。
彼の御方の、私を赦す暖かさと、優しさの詰まった甘さが、今は何よりも心地よい。
自分の罪の重さが、何時もちらつくけれど。
無知は罪。
嗚呼、その通り。
無知故に私はあの道を進んだ。
あの道が、間違ったものだとは言わない。言えない。
そう言ってしまえば、あの日々は私にとって汚れに汚れた闇の日々になってしまう。
そんな事をする勇気は、まだ私にはなかった。
--- 心いる かたならませば ゆみはりの 月なき空に まよわましやは ---
あの日々に私が贈った歌。
あの人は、「迷う人」だったのだ。
「迷わぬ人」では無かった。
これを贈るべきだった人は、そう……
彼の御方──貴方なのでしょう?
(若き頃の恋を振り返る朧月)
眠り姫です
源氏物語知ってますか?
私はね、苦手なんですよ。
だってドロドロしてるじゃん!
と云うか女性達は良いのよ。女性達は。
光源氏が苦手すぎて。
と、まあとにかく、この主人公は源氏物語に出てくる登場人物、朧月夜です。
気になった方は調べてみて下さい!
では、あなたに今日1日、良いことがありますように
Cook
「よし、やるぞ!」
私は今日も台所の前に立った。
---
私は料理が好きだ。
こうやって一人暮らしをするようになってからも、できる時には必ず、料理を行うようにしている。
そうしているのは、あの人との……婆ちゃんとの約束があるからだ。
婆ちゃん、と言っても血が繋がっているわけではない。
私の祖母や祖父は、皆小さい頃に亡くなってしまった。
その「婆ちゃん」は私の学区の有名人だった。
いつも決まった横断歩道に現れ、子ども達に挨拶をする。
いつもじっと見つめてくるので、少々怖がられてもいた。
あの頃の私は怖いもの知らずだった。
そして、少し空気が読めなくて。
あぶれてしまい、寂しさを抱えていた私は、ある日、その婆ちゃんに話しかけた。
「ねぇ」
「なんだい?」
びっくりした。真逆返事が返ってくるとは思わなかったから。
びっくりしすぎて、逃げてしまいたくなった。
でも、婆ちゃんの声が、目が。隠しきれない喜びを滲ませていて。
そう、丁度……私のように。
もしかしたら、もしかしたら。
『あなたも、同じで、寂しいの?』
そんな声が聞こえてきそうで。
気づけば、私の日課にその婆ちゃんと話す、と云うことが加わった。
話は少しずつ、弾むようになっていって。
しかし毎日のようにそうしていれば、親にもバレる。
そんなこんなで、婆ちゃんと私は親公認の友達になっていた。
いつのまにか婆ちゃんの家に、お邪魔するようにもなった。
美味しい料理を食べさせてもらったり、一緒に手芸をしたり、本を読んだり。
寂しかった日々は、きらきらと輝くようになった。
けれど、中学生のある日。
その日は、期末テストが終わった日で。
それまでは忙しくてばあちゃんと話す余裕なんてなかったから、久しぶりに会いに行こうとしたのだ。
「失礼しまーす」
返事が、無かった。
心がざわつく。
「婆ちゃん?」
ガシャン、と音がした。
私は言葉にできぬ不安を抱え、音のした方へと走った。
そこは、台所。
私が婆ちゃんの家で唯一、絶対に入らせてはくれなかった場所だ。
そして私は、その光景を見て息を呑んだ。
そこで、婆ちゃんは倒れていた。
意識が無い。
「ッ! 婆ちゃんッ!」
私はすぐさまスマホを取り出して、119に電話する。
どちらのものともわからぬ指が震える。
うろ覚えの心臓マッサージを、119の人の声に合わせて行う。
目の端に映った台所には、放って置かれたままの食材達があった。
その後、救急の人たちが婆ちゃんを運んで行ったけれど。
婆ちゃんは、2度と、彼女家の敷居を跨ぐことはなかった。
そして、あの日。
救急の人たちと婆ちゃんが居なくなり、一気に静かになった台所で私はぼんやりと台所のまな板の上に目を向ける。流しのところにも。
洗う筈だった野菜。
切る筈だった肉。
その食材から、私は婆ちゃんが作る筈だった料理を割り出すことは……
出来なかった。
けれど。ばあちゃんが作ろうとしていたのは、きっと、あの日の美味しい、肉じゃがで、味噌汁で、煮物で、焼き魚で……。
それで、婆ちゃんの訃報を聞いた時、私は一人、約束したのだ。
あの美味しい料理達を、私が作って、食べて。
婆ちゃんを「生きさせよう」と。
---
「いただきます」
今日も手を合わせて祈る。
色とりどりの食材、美味しい香り。
あの日、婆ちゃんが得られる筈だった、自作の温もり。
それを私は思い出しながら箸で口に運ぶ。
『ご馳走様でした』
その言葉が、婆ちゃんと共に言えるように。
眠り姫です!
料理って大切ですよねって云う話です。
でも私は料理よりもお菓子作りの方が……
では、ここまで読んでくれたあなたに、今日1日、良いことがありますように
wHitE,feAR,laDy.
音楽というものは、元々は神に向けてのものだ。
楽器を作ってまで行われてきた。
打楽器、弦楽器に管楽器。
燃やせば暖かさへ、そのまま使えば住居へと形を変える木や皮を使ったのは、神へ捧げるということも関連しているのかもしれない。
時が経つにつれて、それはやがて帝へ。
王へ。
貴族へ。
そして庶民へ──
では、私は今。何処に向けて音を出しているのだろう。
私は喉を震わせながら思った。
高いビブラートを発している筈なのに、聞こえづらい。
頬に冷たいものが当たった。
上を見ると、ちらちらと雪が舞っている。
周りを見ると、既にかなりの雪が積もっていた。
(だからか)
雪は音を反射させ、吸収する。だから聞こえにくかったのか。
ほっと息を吐く。
木から、ぼたり、と雪が落ちた。
ふと後ろを向くと、友人が立っている。
『早くおいで、もう暗いよ』
手招きをしながらそう言っている。
『うん』
私は頷くと、雪を踏んでそちらへ歩いて行った。
私が歌っていたところの近くの家へ向かう。
ドアを開けると、香草の食欲をそそる香りがした。
室内に入って暖まったからか、耳がスッと通るような感覚がする。
軽く耳抜きをしたような感覚だ。
暖炉の前でぼうっと座っていると、友人がやって来た。
夕食が出来たらしい。
「そういえば、もう直ぐクリスマスだけれど、何か欲しいものとかあったりするの?」
夕食をとりながら友人が言った。
「もう私ら子供じゃないでしょ」
「でも友達同士でプレゼント交換とかするじゃない」
どうしてもプレゼントを贈りたいらしい。
私は必死な友人の姿にクスクスと笑いを溢した。
「強いて言うなら──楽譜かな」
「そっか」
チキンをナイフで切り分けながら答える。
友人は私の姿をちらりと見ると、視線を元に戻した。
「出来るなら、合唱。掛け合いとか良いよね」
「ふーん」
彼女は大した反応も何も見せなかった。
聞いてきたから答えたと言うのに、友人は興味を失ったようにサラダを突いている。
けれど、私は知っている。
おそらく、クリスマスには楽譜を買って私に渡してくれるのだろう。
(私も何か考えないとな)
そんなことを思いながら食事を口に運ぶ。
(彼女は何の楽譜をくれるかなぁ)
彼女は、掛け合いパートの有る楽譜をくれるだろうか。
それとも、独唱の楽譜をくれるだろうか──私に気を遣って。
(まあ、そうなったとしても無理はないか)
周りがどんなに強力的であっても、難しいことはある。
出来ないわけではないとわかってはいるが、怖いとは思う。
もし、完全にそうなってしまったら、私はどうしていけば良いのだろう。
私は、何処に歌を届ければ良いのだろう。
歌う時は怖くなる。
何故なら私は──
突発性難聴なのだから。
どうも眠り姫です!
自主企画用に書きましたが、普通にアップもしたかったので。
あと差別的な意図はありません。
突発性難聴に関しては、中山七里さんのシリーズ、岬洋介の事件簿を参考にしています。
では、読んでくれたあなたに、心からの感謝と祝福を!
本
本を一冊手にとる。
はらりと薫る風の眩しさに一瞬目を瞑り、また目を開く。小綺麗に並んだ小さな小さな黒を辿り、鮮やかな写真を目下に晒す。そういった動作のうちに、私はその“本”という“箱”の中に足を、腰を、首を。やがては頭までをずぶずぶと沈ませていく。
その箱は、好ましいものであればあるほど、深く沈ませる。
好ましいというのは、例えば私にとっては水の溜まった硝子瓶。あれは良い。透き通っていて、いつまでも見つめていることが、苦では無いような。硝子が水にゆっくりと溶け、時が止まった水の姿のような。そんな感じがある。
その中に沈んでいると、自らもそれと同じであるかのように思える。
けれども、箱には底がある。底にいつまでも揺蕩っていると、いつしか酸素が足りなくなり、否が応でも上へ、上へと昇らなくてはならなくなってしまう。
少しずつ上が見え、んぱっ、と口を大きく開けて酸素を吸った時、私は恐怖を覚えるのだ。
先ほどまで、水と、硝子と、同じだった私と、箱の外の違いに。
息を吐くことも憚られるような戦乱を、頬を赤く染めてしまうような恋愛を、唇をにんまりと広げたくなるような遊び心を、肺から搾り出したような悲壮を、箱の中で味わったというのに。
尋常な、いつにも増して尋常な箱の外に、自分が透き通って存在しないような心地になるのだ。
耳に、目に、突然冷水を浴びせ掛けられたかのように。箱の中と同じように透き通った感覚が、荒々しくも流されたような気分に。
思わずきょどきょどと周りを見渡すと、少しずつ音が聞こえてくる。
笑い声、話し声、鳥の囀り。そのどこにも箱の中の残り香は無い。
縮こまった心臓を、何とか生き返らせようと、何度も息を吸う。息を吐く。
そうこうするうちに、いつの間にか私には色がつき、実体ができる。
けれど、箱の中の残り香は背後にぴたりと張り付くのだ。まるで足枷のように──否、そうでは無い。渇きに耐えかね、粘つき、湿った喉の奥のように。いいや、それも違う。何というか、引き留めておくための錨なのだが、鳩尾から不快感が湧き上がってくるがために、錆びついたその鎖を直ぐにでも手から離してしまいたいような。大切なのは確かなのだけれど、足がむずむずとして、苛々とするような。そんな心地になる。
その残り香は、私をぞわりとさせる。色のついた私は、透き通った美しさとは似ても似つかないというのに、張り付いて離れようとしない無垢なそれが、恐ろしい。
残り香自体は、次第に薄く、儚くなって。そして日がまた昇る頃には消え去っているのだけれど、その“ぞわり”の記憶は消えない。
だから、私は。本が、末恐ろしいものに見えるのだ。
しかしながら、その透明へのひと潜りが、夜を舞う蝶のように魅惑的なのもまた、事実なのである。
眠り姫です。
まあ、ちょっとした出来心です
私が何の小説が好きかわかったことでしょう。
女生徒と檸檬ですよ。
好きなんですもの。
え、この“私”が私か?
私はこんな小っ恥ずかしいことを惜しげもなく言いませんよ。
どっかのキャラでしょう。多分。
では、読んでくれた貴方に、精一杯の感謝を!
新訳白雪姫
「……子供が欲しい」
ほとんど無意識の内にこぼれた言葉に、私はハッと身を固くする。
刺繍をする手から針が滑り落ち、軽い音を立てた。
一国の王妃ともあろう者が、なんと浅ましく率直な言葉を口にしてしまったものだろう。
思わずきょろきょろと辺りを見回したが、誰一人として見えないことにほっと胸を撫で下ろした。
装飾に技の光る窓。その窓に手をかけて開け放った。
窓の外を眺めると、ナラの木が葉を散らしている。
もう残りの葉も少ない。
私の名と同じ、ナラの木。
『シェーヌ様』
そう言ってお菓子をくれた人のことを思い出した。
もう祖国に置いてきたはずのもの。
なんと不誠実な妻だろうか、と嘆息する。
私はもう人の、しかも一国の王の正妃で、あの人は同盟国の一国民だというのに。
私はそう思いながら、床に落ちた針を拾い上げた。
靴がカツンと音を立てる。
──せめて、陛下が私にかまって下さったなら……
そんな子供っぽいことを考えてしまう、自らの愚かさにほとほと呆れる。
私と、陛下──現国王の結婚は、ありふれた国同士の政略結婚だった。
と言っても、元から仲の良い同盟国同士。
此方の国の方々から陰湿な嫌がらせがあるわけでもない、ただただ普通の、良好な縁組だったはずなのだ。
けれどもそれは、結婚の義の夜に崩れた。
『……陛、下?』
『……疲れた。寝る。其方も休むが良い』
陛下は私に、指一本たりとも触れなかった。
翌朝にあったのは、真っ白なシーツと崩れのない寝台。
私達の間には、“何も無し”だった。
そんな関係が早一年。
陛下はもう寝室に現れることもなくなり、独寝の夜が続いた。
けれど、そんなある日。
祖国から便りが届いたのだ。
封筒に入ったお母様からの手紙、妹、おばば様……
そして、あの人。
私にお菓子を差し出しくれ、共にお目付け役に悪戯を仕掛けた人。
『お変わりありませんか? シェーヌ様のことですから、慣れぬ生活に当たり散らしてなどいませんか?』
平民の出とは思えぬほど、美しい筆跡に込められた暖かな思いは、孤独な私に涙を催させるには充分だった。
文に貼り付けられた押し花。
遠い昔に、私があの人に摘んでみせた花だった。
なんて懐かしいのだろう、とみた時には笑いが溢れたものだ。
けれど、その続きの言葉を読んでその笑いは凍りついた。
『私も、結婚することとなりました。相手は近衛騎士団の出世頭の方です。あなた様もよく知っておられる方でしょう。この花は彼がくれたものです──』
もう、あの頃の私たちはいないのだと、悟った。
彼女の中で、あれは遠い思い出になっているのだと、知った。
一輪の花は、彼女の中で、夫を表す、幸せな花になったのだ。
子供時代を表す、拙い思いの花ではないのだと。
彼女が遊び相手を務めていた、幼い王女の心はとうに、どこかへ置いていかれたのだ。
なんて、愚かだろう。
私だけが、大人になりきれていなかったのだ。
大きい子供だったのだ。
そう思うと同時に、心に決めた。
彼女は、私の過去。
私は、国のために子を産むのだ──と。
……けれども、私と陛下の間には“何も無し”が横たわったままだ。
公妾もいないようなので、女性というものに食指が動かないのかもしれない。
だけど、私は子が欲しい。
そして証明するのだ。
私は子供ではない。
一人の母、国の母。
一人の“大人”なのだから。
「──痛ッ」
感情の昂りとともに、手に力が籠ったのだろう。
強く握られた針が、布を突き抜けて左手に刺さった。
突かれたところから、ぷっくりと紅い血が伝う。
深く刺さったのだろう。
血は、つうと指を辿って床へぽたりと落ちた。
真っ白な床に落ちた、真っ赤な一滴。
ああ、なんて──
──美しい。
願わくばこんな子が欲しい。
真っ白で透き通るような肌に、真っ赤な唇の、幼子が欲しい。
髪色は、たとえば黒檀のような。
そうだ。
真っ白な肌に、真っ赤な唇と頬、真っ黒な髪の子が良い。
全て、その色において一番濃く、一番美しい色でできた子供。
そんな完璧な存在が生まれたとなれば、誰もが私を国母として認めるだろう。
美しい王子、王女を産んだ、愛すべき国の妻、母だと。
そこまで思って、私ははたと思い至った。
どのように陛下を誘おうか。
艶かしい格好をする? 否、駄目だ。
もっと確実な、何か……
その時、そばのテーブルを見て、頭に光るものがあった。
「酒……」
陛下はいつも寝酒を楽しんでいた。
一杯だけ。
その一杯に、混ぜ物をしたら?
催淫剤のような、媚薬のような。
その状態で惑わせば、どんな男だって堕ちるに決まっている。
「っふふ」
小さな笑いが耳に届いた。
その軽やかな声が私のものだと、理解するまで数秒の時間を要した。
まるで、良い計画を思いついた少女のような笑い声。
私は刺繍道具を手にしたまま、微かな笑い声を立て続けていた。
誰もいないことに、ここまで安堵したことはこれまでなかっただろう。
視界に入った窓の外には、はらりと雪が舞い落ちていた。
---
「お母様……」
小さく聞こえた女子の声に、私はゆっくりと体を起こす。
天蓋から垂れ下がったビロードをそっと退けて声の主を招き入れた。
「なんでしょう。白雪」
そう静かに名を呼ぶと、白雪はぱあっと顔を輝かせて此方へ駆け寄ってきた。
ふわりと、スカートを揺らしながらやってくる彼女を、埃が舞いますよ、と軽く嗜める。
「お母様、今日は調子が良いのですね!」
寝台の上に手を乗せてパタパタと足を鳴らす少女は、いかにも子供と言った様子だ。
雪の如き白肌。
血の如き頬と唇。
黒檀の如き髪。
思い描いた色彩と全く同じに生まれた少女の姿に、私は僅かに唇を曲げた。
結果から言えば、私のあの計画は成功した。
たった一度。
されど一度。
その一度きりが成功したのは、本当に奇跡だろう。
そのおかげで、私は美しい王女の母、正真正銘の国の母として玉座の隣に座っている。
王からは徹底的に避けられるようになったが、些細なことだ。
私には“この子”さえいればそれで良い。
そう思っていたけれど──
「っ……ゴホッ、ケホ……ぅ」
「お、お母様!?」
胸から詰まるような違和感が迫り上がって、咳をやっとのことで吐き出す。
私は、少し前から病に臥せっていた。
長くはないだろう。
医師の反応から見て決まっている。
そんな私の姿を慮るように、白雪が私の手を握って覗き込んだ。
ああ、いやだ。
その鏡のような瞳を見るたびに、私は恐怖を感じるのだ。
まあるく大きな、青い瞳。
まるで、私のような。
こんな姿を見ていると、お前はいつまでも子供なのだと後ろ指を刺されているような気分になってくる。
確かにそうだった。
私は、いつまでも子供のままだ。
孤独が寂しいと過去に縋り、過去に見放されたと判れば未来へと縋る。
何かに寄りかかっていなくては、生きてゆけないのだ。
一本立派に立っているナラの木には、到底なり得ない。
けれど、この小さな手を振り払って仕舞えば、私は唯一の証明である“国の母”を失う。
そのためには、私はいつまでも、この子の良き母親でいなければ。
「さあ、白雪。母に其方の一日を教えておくれ?」
横になりながらそう優しく問いかけてみれば、あなたは花のように破顔するのだ。
その花を見るたびに、私は棘で刺されていく。
私の足元の白い床は、もう真っ赤に染まっていることだろう。
白も黒もないほどに、赤く。
汚れてしまったものだ、と思う。
けれど、それを掃除してくれる人はもういないから。
白雪の囀りのような声を聞きながら目をやった窓の外は、冷たい空気が流れていた。
さあ、また、冬が来る。
---
ふと、目が覚めた。
ビロードの隙間から、外の様子を覗き見る。
彫刻の施された美しい柱、窓枠。
その窓の外は暗い。
雪が降っているのか、いないのか。それすらもわからないほどに黒い。
私は水差しの水を飲もうと、サイドテーブルに手を伸ばした。
「あっ」
伸ばした手が震え、そばのグラスに当たる。
予想外の強い衝撃に耐えられなかった其れは、テーブルから押し出されると紅い豪奢な絨毯の上に欠片を散らせた。
咄嗟に手を引っ込める。
コップは絨毯に僅かな染みを作った。
ガラスに光が乱反射し、まるで新雪のように光っていた。
「ッゴホ──かはっ……っ、ぅあ」
胸から中身が逆流するような感覚を覚えて手を口元に当てる。
空気ではない感触を手に感じ、ふっと意識が遠のいた気がした。
小さく小さく体を丸める。
「……だれ、か……」
そう言って伸ばした手は布団から這い出ることなく、力尽きた。
もう世界が遠い。
覚悟していたことだ。
わかっていたことだろう。
其れでも──
(寂しい)
その言葉は空気となって、溶けて消えた。
その空気に続くものはもう、その唇からは吐かれなかった。
眠り姫です。
いやあ、眠り姫が白雪姫書くって、どんな冗談ですかね。
たった数行しか出てこない、美しい白雪姫を産んだ王妃様を勝手に捏造しました。
だってさ!
国王再婚早くない!?
愛なかったんじゃない!?
継母とは恋愛結婚だった、とかだと良くない!?
ってノリから生まれました。
……え、Xの喜劇? ……ええと書いてる途中なんです、はい。うん。
頑張ってます、よ。
では、ここまで読んでくれたあなたに、心からの祝福を!
Um
やはり、ダメな人だと思う。
自分よりも下の人間がいると安心する。
上にいる人は落としたくなる。
悪意は平気で言うけれど、他の人が悪意を吐くと中和したくなる。
“元気付ける”が“慰める”になってしまう。
一つ一つの言葉が余計もので、うまく伝えられない。
尋ねられれば、つい正直に答えてしまう。
咄嗟に出るのは、頭の中の言葉そのまま。
言われたこともすぐにできない。
自分と同じくらいの人が、自分よりも称賛されていると妬ましくなる。
それでいて、そんな人を見ると醜く思う。
何よりもミスが許せない。
自分にミスが現れた時、何をするのかわからない。
何をしてでも、そのミスを埋め立てて隠してしまおうとするだろう。
恥をかくのが怖い。
追いつかれるのが怖い。
追い抜かされるのが怖い。
一人になるのも怖いけれど、一員になってしまうのも怖い。
でもやっぱり“輪の誰か”は疲れるし、笑いが辛くなる。
人との相対は楽しくありたい。
そのために私はできうる限りに頑張る。
けれど相手は答えちゃくれなくて、私の善意を裏切ったと憤慨してしまう。
でもそんな辛くなる自分が特別だと思う節もあるのかも知れない。
自分だって理解できていないのに、理解できていない見栄っ張りを嫌悪する。
1番の見栄っ張りは自分なのに。
自己陶酔する人間が嫌いだ。
無学な人間が嫌いだ。
無神経な人間が嫌いだ。
一人芝居の役者は嫌いだ。
同族嫌悪でしょう。
本当のことを言っているのに、信じてもらえない。
自分だって人の子だ。
でも悩みを抱える自分を感じて自尊心を満たしている。
だって、自分は積み上げることが得意じゃないから。
“だって”“でも”が多いから。
人の所為にはできないけれど、心の中ではしたくなる。
誰かからの熱烈な賞賛がなくては生きていけない。
けれど人に評価されるのは怖い。
自由が何よりも欲しい。
けれど自由になれば生きてはいけない。
檻の中の蚕のように、人に管理されていなくては一月も生きられないだろう。
自主性がない。
わがままだ。
自立できない奔放な者とは、なんてタチが悪い。
全く、どうして欲しいのだろう。
認めて欲しい?
偽善が欲しい?
やっぱり人の手がないと生きていけないのだ。
喜劇名詞と悲劇名詞なんて存在しなくて、全部全部単調なモノローグで。
例えばこれをタイプするたびに、自家製の言葉の一つ一つに酔っている。
自画自賛してなきゃ生きていけない。
自嘲自慰してなきゃ生きていけない。
──そうでしょう? あなたは。
本当にあなたは醜い。
けれども、『そんな最低なあなたの、手の一つに私はなりたい。』
……これでいい?