DOA(Dead On Arrival)
1.
(医療機関で)到着時すでに死亡していること。
2.
(IT業界で)機器や部品が使用する際に故障していて、正常に作動しないこと。
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目次
File No.0 【地下の街】
ちか(地下)
1.
地面の下。土の中。
「―資源」。転じて、冥土(めいど)。
2.
政治運動・社会運動での非合法面。
「―にもぐる」(姿を隠して秘密に運動する)
太陽の光が届かない場所とは?
A.地下。
ここは地下。頭上には空は広がっていない。あるのは薄暗い天井と電灯だけだ。
地下に暮らす人々を知っているか?
彼らもまた人間だ。我々と同じように生き、死んでいく。
違いは些細なものだ。
我々は殺人を裁き、彼らは殺人を下す。
ただそれだけ。
ごく普通に生きていれば、地下の街の存在は知らずに死ねる。
だが、復讐なり、快楽なり…どんな動機であれ、誰かに対して何らかの殺意を持った瞬間、地下の街はその入り口を開くのだ。
故に、地下の街は…
殺し合いが日常である。
この観察記録は、地下の街…いわゆる“裏社会”に暮らす彼らについてのものである。
無邪気は殺人鬼。
復讐の運び屋。
無頓着な掃除屋。
几帳面な掃除屋。
真摯的に闇医者。
求める探偵。
誰かがDOA。
日常である。
File No.1
【登場人物】
三宅…依頼人。
宴…殺し屋。
白…掃除屋。
黒…掃除屋。
燕…運び屋。
犬見…探偵。
灯…仲介人。←New!
「こんにちは。依頼人の三宅さんですね!私は灯と申します。早速ですが、担当のものに引き継ぎますので…黙ってついてきてくれますか?」
やたらトーンの高い声。何となくとってつけたような印象の笑顔をした男…仲介人の|灯《ともる》だ。
依頼人である三宅の返事を待たず、さっさと歩き出してしまう。慌てて三宅は後を追った。
灯は軽快な足取りで、築30年は経っていそうな古いビルへと入っていく。
「あの…ここにいらっしゃるんですか?」
「“黙って“ついてきてくださいね〜!」
薄暗い中だと、その笑顔はより不気味に見える。
灯は突き当たりにあるロッカーに手をかけた。
すると、ロッカーが動いて空間が現れる。…階段だ。
「地下…?」
「“黙って”ですよ、三宅さん!!」
三宅はそっと口を手で塞いだ。
割と長い階段を降りていくと、やけに重厚感のある扉が見えてきた。
灯がカードキーを当てると、音もなく開く。三宅が灯を追って入った途端、扉はまた閉まった。
そこには、街があった。
通路が伸び、両脇に扉が並んでいる。天井には電灯。壁にはところどころ落書きがある。
「ちなみに…三宅さんの依頼は、佐々木颯の殺害ですよね?」
頷くと、灯は良いですね〜、と笑った。
「夢があるのは良いことですよ!ここにも、夢を持った人間がうじゃうじゃいます」
虫みたいな形容をする。
「あ、殺害はご自分でなさるんですっけ?」
恐る恐る、三宅は頷いた。あいつは、自分の手で殺さないと気が済まない。
「今なら他人に頼むこともできますよ!どうします?」
「…自分で、します」
「は〜い、了解で〜す!」
明るく言って、灯は一つの扉の前で立ち止まった。殴るようにノックし、返事を待たずに扉を開ける。せっかちなのだろうか。
「白さ〜ん。依頼人を連れてきましたよー!」
「でかい声出さないでよ馬鹿!!!」
黒が金属バット片手に出てきた。物騒なものを振り回されても、彼女の腕力では気絶程度である。
「危ないじゃないですか!三宅さん、一般人なんですよ?」
「……これだからあんた、嫌い。…言っておくけど、復讐したらもう戻れないから。人を殺すって、そういうこと。それで後悔しないわけ?」
「後悔はしません」
キッパリと言い放つと、黒は分かりやすく顔を顰めた。
「…僕は止めたからね」
「黒、そいつあたしの依頼人だからね??」
横手から顔を出した白が黒の首根っこを引っ掴んで奥の部屋へと放る。
「えーと…初めまして。あたしは白。掃除屋」
「…三宅です」
「佐々木の居場所特定に時間かかるからさぁ、あんたはもう帰っていいよ。1人で帰れるよね?」
これお土産、と酒瓶を渡してくる。|空《から》なんだが。
三宅を追い出すと、白は灯に向き直った。
「なんであたしに持ってきた?めんどいんだけど」
「いいじゃねえか。どうせ後々お前に死体処理頼むんなら、最初っから回したほうが楽だろ」
「時短すんなよ!…犬見の方が向いてんのに」
「あ?あの探偵ぃ?あいつ、絶対三宅に肩入れするだろ」
「勘違い乙ー」
戻ってきた黒が煽ってきた。
「宴並みの災厄だから、あれは。正義とか大っ嫌いでしょ」
「あんたが語るな」
白が黒を蹴り飛ばす。今日も黒は足蹴にされる運命にあるらしい。
「ま、いーけど?料金多めに請求してやろ」
金を愛する白は満面の笑み。その“多めの料金”は結局2割灯に取られるのだが。
仲介人の“灯”はたおやか食パン様が提供してくださったキャラです。動かしやすさは作中屈指です。嬉しい
File No.2
【登場人物】
白…掃除屋
黒…掃除屋
灯…仲介人
宴…殺し屋
燕…運び屋
そもそも、掃除屋の仕事はあくまでも“掃除”…即ち、後始末だ。
人の復讐のお膳立ては専門外である。そういうのは、復讐屋や情報屋、探偵どもが得意とする。復讐屋なんて、それだけを専門にするのだから。
当然、白も黒も復讐相手の名前は知っていても、居場所なんて知る由もない。死体の処理が専門の白はもちろん、映像の書き換えなど電子的な処理を専門をする黒も、調べものは不得手だ。黒は、基本的にシステムの破壊しかしない。非力なくせに物騒な女性なのだ。
「情報屋に頼んでもいいんだけどさ、取り分減るのはな…」
「どうせ正規料金以上取るんだからいいだろ」
「部外者は黙っとれ」
「名前と住所はわかってるんでしょ。じゃあ、尾行でもしたら?てか、自宅で殺せば良くない?」
黒の無神経とも取れる台詞。白はまた黒の頭を殴った。
「馬鹿?馬鹿だな??尾行がどんだけ大変だと思ってんの?そもそも、あたしらは簡単には外に出れないんだが??」
「燕に頼めばいいじゃん!!」
ぴたりと白が振り上げた拳を止めた。
「…そっか。あいつなら外出し放題だし…いっそ、燕に復讐相手お届けしてもらう…?」
「それでいいじゃん。楽だし」
「あいつにそんな仕事できんのかよ。頭弱いぞ、あれ」
灯はざっくり毒を吐く。
燕の頭脳が大して良い働きをしないのは重々承知している。それでも、彼は言われた仕事はきちんとこなすのだ。もしかすると、本来は知能が高いのかもしれない。猫を被るのは彼にとって通常運転だし。
「連絡先売ろうか?」
「もう持ってるからいい。あんた、帰ったほうがいいんじゃない?」
「そうする。ここ、タバコ臭えんだよ」
「人の癒しに文句言わないでよ」
「喫煙が癒しなの?w」
「だから黙れ」
殴られすぎて黒は頭が少々おかしくなってしまったのだろうか…。いや、彼女の場合元々こういう性格なのだろう。
電話をかけた数分後に、燕が通気孔から降ってきた。
「あ、灯ちゃんだー♡おひさしぶりで〜〜す!!」
「うるせえんだよクソガキ」
「傷つくんですけど〜。ま、いっか!んで…えっと…復讐相手を持ってくればいいんですよね?」
「ちゃちゃっとお願い。あ、殺さずに持ってきてね」
「燕、人殺せません!w」
可愛らしく笑って見せ、燕は普通に玄関から出て行った。
この家で燕の帰りを待つのも馬鹿馬鹿しくなったのか、灯もさっさと出て行く。
「燕が帰ってきたら、依頼人に連絡して…あ、どこで復讐させよう…」
「その辺の空き部屋でいんじゃない?」
「ブルーシート引いとこ」
「それ絶対依頼人ビビるってw」
案内されて行ってみたら、ブルーシートが引かれた部屋に復讐相手と刃物。いっそ笑えそうだ。殺す前にブルーシート引いておけば後始末が楽です☆なんて、そういうライフハックは要らない。
「じゃ、ちょっとブルーシート引いてくる」
「いてら〜」
ブルーシート片手に一番近い空き部屋に行くと、既に先客がいた。
「あ、白ちゃんだ〜〜!!!」
全身を返り血で赤く染めた宴が駆け寄ってくる。
「抱きつくな!!!汚れる!!!」
「えー」
パステルカラーだったはずのジャージはどす黒い赤になってしまっていた。可愛さ半減、どころの話じゃない。髪についた返り血はどうやって落とすのだろうか。ちょっと気になる。
「ちょーどお仕事終わったから帰ろっかなーって思ってたの!白ちゃんに会えてよかった〜!」
「…掃除屋の依頼は、今日はもう受けないからね?」
「ん、お掃除は会社の人がやってくれるんだって。だからね、思いっきりやっちゃった!」
その結果がこの惨状。普段の倍は暴れ回ったんじゃないのか、この少女は。
そもそも、爆殺がメインの彼女の仕事はかなり荒っぽい。掃除も大変だ。今回は特に、壁にまで血痕や肉片が飛び散っている。…流石に、三宅にここまで徹底的に殺害する能力はないだろうが…壁にもブルーシートを貼った方が良いだろうか。
取り敢えず、ここは使用不可、ということはわかった。他の空き部屋を探さなくては。
File No.3
白…掃除屋
黒…掃除屋
灯…仲介人
燕…運び屋
三宅…依頼人
場所さえ決まればあとは早い。
燕によって運ばれた佐々木の箱詰めを空き部屋で開封し、適当に殴ってから放置。それから、灯を介して三宅に連絡すれば1時間もせず彼らは地下街へやって来た。
「そっちの部屋に置いて…じゃなかった、いらっしゃるから、気が済むまで好きにやっちゃって。あ、料金ちゃんと振り込んだよね?」
「はい。……ありがとうございました」
「…んじゃ、“後悔”してね」
三宅が部屋に入った後、白は自分の仕事道具を取り出した。
彼が|佐々木《復讐相手》を殺すならば、必然的に後始末が必要である。灯が白のところへ依頼を持って来たのも、ただただ後々オプションとして提案するのが面倒だったからだ。
「まあ、初心者さんだし…1時間くらいか」
「金」
白の独り言を灯が遮る。
「あ、金ね。1割だっけ?」
「2割。とっとと払えよ。借金取りに追われたいか?」
「あの兄弟嫌いなんだけど」
「じゃあ払え。今すぐ」
「はいはい」
スマホで送金完了。最近の裏社会はデジタル化が進んでいる。
ふと、扉が開いた。予想以上に早い。
「あ、終わった?」
部屋の中には、首と胴が離れ離れになった|佐々木《死体》が転がっている。光を失った目が恨むように白を見つめた。
三宅は扉に手をかけたまま沈黙。さすがに初めての殺人はショックが大きいのだろうか。
「三宅さん」
灯がつとめて明るい声を出す。部屋に虚しく反響した。
「これで依頼完了、ということで…戻りましょうか!」
「……灯さんは、人を…殺したことが」
「ないですよ!だから三宅さんの気持ちは分かりませんね!!」
そこは同情してやるところじゃないのか。
「いーからさ、はやくソレ戻してよ。掃除するから」
依頼人をソレ呼ばわりする白も白で狂っている。いや、依頼が完了した今はただの“他人”ということか。
「じゃあ、帰りましょう!あ、静かにお願いしますね!」
灯は、三宅を半ば引きずるように門へと連れていった。
「…かわいそうに。知らなくて良いことを知ってしまったからには、あなたはもう元に戻れませんよ」
何も言わない三宅に、灯は張り付けた笑みのまま続ける。
「どうします?このままここに留まりますか?」
「……はい」
頷いた瞬間、三宅の頭部が破裂した。
「あなたは一般人なので、この世界にはいてはいけませんよ!大人しく帰ってくださるなら見逃しましたけどね〜。…って、もう聞こえませんか」
動かない三宅の胴体をそのままに、灯は門の向こうへ足を向ける。
地下街と違ってやたら明るい“街”は、たぶん今日も変わらず明るい。
この街が、影であり続けるから。