名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
おにぎりWARS
この小説は戦争を扱っています。
陰鬱な気分にさせる描写もありますので気をつけてください。
実在の国、建物とは一切関係ありません。
最後までどうぞ!
この小説を読んでいる人間が外国人なのか、あるいは海外在住の日本人なのか、僕にはいっさい見当もつかないが懺悔させてほしい。
**日本を滅亡させてしまい、本当に申し訳ないと思っている。**
あの出来事から数日後、日本は巨大海流に飲み込まれて海底に沈んでしまったといわれているが、それは一部ウソだ。
なぜ確証できるのかといわれたら、関係者であるからとしか言えない。
僕にできることは、あの戦争の真実を伝えることだけだ。
では、書いていくとしよう。
--- **#1 梅日本** ---
「……はぁ……うるさいなぁ」
今日も外が騒がしい。布団から出る気力さえも湧いてこない。
カーテンの隙間から、チラっと外の光景を覗いただけでも枕に頭が沈む。
戦車がゴトゴト、銃でバンバン、爆弾でボムボム。
今思えば、外がこんなにうるさくなったのは、多分、あの衝撃的なニュースの仕業だろうか。
そのニュースってのは、隣の鮭日本が、僕らの住む梅日本の侵攻を決定したことだ。
……よく分からない人の為に一旦説明を挟もう。
まず、この日本という国は、おにぎりに入れる具材でピッタリ東西に別れてるんだ。
**東は鮭日本**、**西は梅日本**。今までに一回も統一されてないらしい。
だけどもある日、事件は起きてしまった。
ある日、梅日本の中でも特に過激な思想を持つ集団が、鮭日本の敷地に無断で乗り込み、一般人に無理やり梅おにぎりを食べさせようとしたそうだ。
鮭日本側の警察も止めに入ったそうだが、目的を邪魔された事に腹を立てた彼らはなんと鮭日本の警察を`殺してしまった`のだ。
その後はとにかく早かった。
元々、梅日本に対して良い印象を持ってなかった鮭日本政府は、梅日本に対して侵攻を仕掛ける事を決めたのである。
……ゴホン、現在の状況解説はこれにておしまい。
説明が長かったから眠たくなっちゃったかな? 僕も同じ。
それだけ面倒なことになってるんだよ、この国は。
それにしても、なんで僕はこんなに落ち着いているのだろう?
僕だって大事が起きてるのは分かってるんだ。
だけども、なぜだか僕には緊迫感というものが足りないらしい。
そんな事を考えるうちに、僕は布団から完全に起き上がっていた。
こうなったら目がパチパチしちゃうし、もう寝られないのが勿体ないなぁ、と思うのは僕だけじゃないはず。
嫌々起きて、朝イチにやる事。それは朝ごはんの梅おにぎり作りだ。
やっぱり僕は面倒くさがりなので、レンジでパックのご飯を温める。
フタの隙間から立ち上る食欲をそそる匂いがどうにもたまらない。
ラップの上でパックを逆さまにし、ご飯の中央にビンからつまんだ梅を一個置く。
血の通ってないように冷たい手でギュギュッと丸めれば、普通の梅おにぎりの完成。
おにぎりを持ったまま、僕はベッドに座る。
朝食の時間は昨日よりも遅かったが、それで昨日と違う味がするのなら別に悪くない。
外の景色を見ながら、おにぎりに向かって口を開けた。
__次の瞬間。
**ピーンポーン**、インターホンが鳴った。
ここ最近インターホンの音を聞いていなかったせいなのか、このマンションに落ちた新兵器の音かと思った心臓が跳ね上がる。
しかし、すぐに現実に引き戻された。
「……誰だろ?」
コンコン、ドアを叩く音も聞こえる。
インターホンとノックをわざわざどっちも試すなんて、よほどの急用なのだろうか?
しかし、こんなマンションの端っこに用があるとは思えない。
なるべく音を立てないようにしながら、慎重に慎重にドアスコープに近づく。
身を乗り出して、目を大きくギョロつかせながらドアスコープを覗いた。
「……ん?」
黒い丸だ。
周りが白い。
__目!?
**「うわあぁ!」**
気づいた瞬間、自分でも情けなく感じるほどの悲鳴を上げた。
まずい、叫んだせいで中にいるのがバレたかもしれない。
案の定、謎の訪問者はドアノブを力任せにひねり、強引に押し入ろうとしている。
僕は必死にそれを抑えた。
ガチャガチャ!
ガチャガチャ!
謎の訪問者はドアを開けようとして諦めない。
そんなドア越しの攻防戦は、約数十分の間繰り広げられた。
だが、ついに耐えられなくなった僕が訪問者に問いかける。
「ちょっと、あなた誰なんですか!? 何が目的なんですか!?」
謎の訪問者は、ドアの隙間からでもはっきり聞こえるような声量で答えた。
**「覇気に導かれてやって来たッ!」**
帰ってきた意味不明な言葉に、僕は思わず理解が止まる。
でも、理解したことが一つだけあった。この人、絶対、家に入れたらダメな人だ。
更に両足でふんばりながら、ドアノブを力いっぱい引っ張る。
だけども……力を込めすぎた結果、ドアノブは引っこ抜けてしまった。
僕は床に尻もちをついてしまう。やばい、終わった……。
謎の訪問者は開くようになったドアから、抵抗する間もなく部屋に押し入ってきた。
その謎の訪問者は軍服を着ており、深々と帽子を被っていた。
座りながらでも見えた男の顔立ちは、眉が濃くてきりっとした顔、まるで昭和の名俳優のようだ。
「抵抗を止めたという事は、ようやく話を聞く気になったかねッ!?」
「……いや、全然そんな気持ちじゃないですけど……」
「まあ、いいではないかッ! ともかく、私がここに来たのには理由があるッ!」
「……なんですか?」
「我が**『|革梅威《かくうめい》軍』**に入るのだッ!」
「は? ……何言ってるんですか?
何で僕がそんなのに入らなきゃならないんですか?」
「入れッ!」
「入りません……」
「入らんかッ!」
「入りません……」
「ほう。断るか……だが、君には絶対に革梅威軍に入ってもらうからなッ!」
「……あの、まずその、カクウメイグンってなんですか?」
「そうか、まずはそこからだなッ! えー、革梅威軍とは、鮭日本に抗うために組まれた軍隊であるッ! 以上ッ!」
「……それで、何人でやってるんですか?」
「3人だッ!」
「え、少な__」
「おっと、すまない。3人は君を入れた人数だったッ!」
「いや……勝手に入れないでくださいよ。待ってください、ということは今は2人なんですか?」
「そうだッ! だから我が革梅威軍に入れッ! 我が梅日本を守るために、その力を貸してほしいのだッ!」
革梅威軍の人は玄関で渾身のお辞儀を披露する。
まあ、こんな外が静かになるなら……入ってみてもいいかな。
どうせ暇だし。
「分かりました……入ります」
「……本当かッ!?」
「はい……」
「……本当にかッ!?」
「はい…!!」
「……ようこそ、革梅威軍へッ!」
梅の人は顔に嬉し涙を浮かべながら、僕と力強い握手を交わした。
「では、そうと決まれば、我が革梅威軍の拠点に招待するとしようッ! 私に付いてこいッ!」
「ええ……はい……!」
こうして、僕は革梅威軍という謎の軍隊に入ることとなったのだった。
--- **#2 革梅威軍 総長と副総長** ---
「よし、ここが拠点だッ!!」
地下を連れられるがままにたどり着いたのは、ある一室。
まるでリビングのようで、ソファーやテーブル、椅子やベッドもちゃんと置いてる。
そして、なぜか床に《《マンホール》》みたいなのが付いていた。
このマンホールが気にはかかるが、三人で暮らすのなら丁度良い部屋だといえる。
「おっと、自己紹介が遅れたなッ!」
梅軍人はくるりと僕に振り返り、被っていた帽子を外す。
キレイに剃られた坊主頭がどうも清々しい。
「私の名前は**スメダ**だッ! 革梅威軍の総長であるッ!」
その迫力に負けた僕も渋々に自己紹介。
「……僕は**タマキ**です。よろしくお願いします!」
「タマキくん、よろしくッ!」
また握手を交わす。
「それでは今から、新入軍人タマキに役職を授けようッ!! タマキ、今からキミを一番隊隊長に任命するッ!!」
た……隊長……!? って思ったけど、ここ三人しかいないんだった。
そんなにプレッシャー感じなくていいや。
……そういえば、あと一人は誰なんだろ?
「あの、スメダさ__」
「今からは総長と呼べッ!」
「……スメダ総長、あと一人のメンバーはどこにいるんですか?」
「めんばー……ああ、副総長は今は仕事中だッ! 海外の兵器商人とやり取りをしているッ!!」
副総長なんだ。それに海外の兵器商人とやり取り……?
にしても……ただでさえ人数が少ないのに、顔合わせできないとなるか……。
うーん、残ね__
「スメダ総長〜! おかえり〜!」
謎だったマンホールのフタが開き、人一人分ぐらいの大きさの穴から上半身だけ出して挨拶してきたのは、とても可愛らしい女の子だった。
「ただいまッ! それで、取引は上手くいったかッ!?」
「うん、バッチリ〜!」
「でかしたぞ副総長ッ!! やはり頭脳はキミに任せる限りであるなッ!!」
「へへへ〜、そんなに褒めても何も出ませんってば〜! ……えっと〜……隣にいるのは新人くん?」
「ああ、覇気を感じたから勧誘してきたッ!!」
「よ……よろしくお願いします! タマキです!」
「よろしくね〜。ボク、ウルチ。えっと〜、ここの副総長やってるよ〜!」
残りの一人、ウルチ副総長は結構のんびりしている性格のようだ。
見た目はかなり幼く、緑色のロングヘアーから飛び出るアホ毛が面白い。
彼女も軍服を着ていたが、服のサイズが合っておらず、膝がギリギリ見えるぐらいの半ズボンを履いていた。
にしても……どうやって、出会ったんだろ? この二人。
そんなことを疑問に思っているなり、スメダ総長が口を開く。
「そうだ、せっかく三人になったのだッ! 計画も今一度整理しなくてはなッ!」
「そうしよ〜!」
「計画……ですか?」
「ああ、我々はいずれ、鮭日本と全面戦争を仕掛ける計画を建てているッ!」
「……なるほど」
こうして顔合わせが済んだ僕たちは、椅子に座るなり会議を始めることにした。
だけども、会議の内容を聞いていくうちに、この計画があまりにも惨すぎると感じた。
まず、鮭日本の官邸を襲撃して降伏させるのが計画の目標なのは分かったが、それに使うものがさっきウルチ副総長が取引していた特注兵器だそうだ。
その兵器というのが、アサルトライフル、ロケットランチャー、爆撃機……。
これらは少人数なことを生かした、ある意味では斬新な機械かもしれない。
しかし……それ以上に気になる点もあった。
この計画は、鮭日本側の**一般人を巻き込む**ことも想定の範囲内だそうだ……。
一般人も巻き込むなんて……そんなの惨すぎると思う。
一番悪いのが戦争を決めた鮭日本政府だということは、スメダ総長に何度も聞かされたからまだ分かる。
でも、一般人を巻き込むことにはどうも納得ができなかった。
「__では、これにて会議を終了とするッ! 質問はないかッ!?」
質問開始と同時、僕は挙手した。
「タマキッ!」
「はい! あの……本当に一般人を巻き込む必要性はあるのですか!? 攻撃の対象は官邸だけで良いのではないでしょうか?」
少しの沈黙が続く。
「……良くないッ! なぜならば、どんな政府も国民という貴重な人材を失うことに恐怖するからだッ! 《《政府にとって、国民を失うことは一番の痛手》》ッ! だから、我々はそこに目をつけたッ! 奴らを降参させるためには仕方の無いことなのだッ!」
「……ですが、やはり無関係な人たちを殺すのは……!」
**「__タマキッ!!」**
「はい!」
「知ってるのかッ!? 鮭軍の侵攻によって、どれだけの梅日本人が殺されたのかを知ってるのかッ!? 数え切れないほどの人々が死んだッ! 奴らは**敵**だッ!! お前は敵に情を持つというのかッ!?」
「……いえ!」
「ならば、よろしいッ!」
何も言えないまま、会議は幕を閉じてしまった。スメダ総長は椅子に座ったまま寝ている。
そして、あんな事を言われてしまった僕はソファーでうずくまっていた。
本当に失礼だけども、そんなにちゃんとした理由があるとは思わなかった……。
こんなの、ただのごっこの延長かと思ってた。
だけど……スメダ総長は本気だ。
両親や仲間の仇を討つ為に、戦争を始める気なんだ……。
だとしたら……僕は何の為にここに入ったんだ?
--- 『まあでも、外が静かになるなら……いいかな。』 ---
ああ……そうだ、外を静かにしたいからだっけ。
外を静かにしたいから……か。
僕ってば、そんな理由で入ったんだな……。
はあ……しょうもない。
僕、これからついていけるのかな?
自分のちっぽけさに落ち込んでいる、そんな時だった。
「__ね〜、タマキく〜ん!」
ウルチ副総長がちょこんと横に座ってきた。
「……あ、ウルチ副総長!」
「どうしたの~? そんなに落ち込んじゃってさ〜。ボク、寝てたからわかんないけど、さっきの計画のこと〜?」
「え、寝てたんですか……!?」
「えへへ〜、気づかなかったでしょ〜!」
「まあ、はい。それで、あのウルチ副総長、実は聞きたいことがありまして……」
「ん、なに?」
「バカみたいな質問かもしれないんですけど、僕、戦争をする理由が見つからないんです。……鮭日本が悪いのは分かるんですけど、そのために戦争をしたいかっていわれたら……」
「へ〜。ボクも同じ〜」
「え? そうなんですか?」
「うん。実はボクね、ここに入るまではホワイトハッカーやってたんだ〜」
「……ホワイトハッカーって?」
「う~ん。まあ言うなら、正義のハッカーってヤツ! 情報を守るんだよ~。ボク、そこでずっと働いてたんだけど、ついにオフィスがアイツらに爆撃されちゃってね〜。ボロボロになって歩いてたら、いつの間にかスメダ総長に誘われたんだ〜!」
「……じゃあ、ウルチ副総長はこの計画についてどう思ってるんですか?」
「う~ん、別にそこまで思ってないけど~……」
「……けど?」
「スメダ総長について行きたいんだ〜! あれだけボクを認めてくれる人、人生で始めてだったからね〜! 何があってもついてく! それだけ〜!」
「……そうだったんですか。確かに……スメダ総長って、良い意味でも悪い意味でも豪快ですもんね……」
「うんうん、わかるわかる〜! でもね〜、そこがいいんだよ〜!」
「……なるほど!」
嬉々として自分の過去や、スメダ総長の好きな所を語ってくれたウルチ副総長。
なんだかこの軍に入ったことが、ちょっとでも良いことなのかもしれないと感じさせてくれた。
この日から、革梅威軍の団結力が強まったような気がする。
--- **#3 日常と非日常** ---
ここでの生活は正直、マンションに居た頃よりもはるかに充実していたと思う。
三人で同じご飯を食べたり、計画について話し合ったり、たまに言い争ったりもした。
そして、二人の事も結構分かってきたと思う。
ウルチ副総長は会議中によく寝るから、僕がなんとか寝させないようにしないといけない。
これは、ある日の会議中の出来事。
__「ウルチ副総長……寝ないでください!」__
__「……だいじょ~ぶ~だよ〜……むにゃむにゃ」__
__「バレますって!」__
まあ、もちろんバレる。
「__おいウルチッ! 会議中に寝るなッ! まったく、連帯責任として全員で腕立て伏せ五十回ッ!」
「ほら、やっぱり!」
「ごめ~ん……」
もし寝てしまったときは、連帯責任として腕立て伏せ五十回。
二人だけがやるんじゃなくて、スメダ総長も一緒にやってくれる。
そんなのも、今となっては良い思い出だ。
次に、スメダ総長は極端に横文字に弱い。
ある日の質問タイム。
「__では、質問はないかねッ!?」
「総長~! 質問~!」
「ウルチッ!」
「はい! えっと〜、官邸周辺のマップってないの~?」
「……まっぷ? ウルチ、それはどういう意味の英語だッ!?」
「えっと〜、マップは地図って意味~!」
「なるほどッ! 記憶しなければッ!」
ここでスメダ総長のメモタイム。
「よしッ! 記憶完了ッ! それで、えー……すまない、質問を忘れたッ!」
「ずこ~!」
こんなコントが起きることもしばしばあったが、それも含めて、スメダ総長は皆の兄貴だ。
あと最近、僕の心に大きな変化が起きたと感じることがある。
その心というのは、スメダ総長についていきたいと思う心だ。
あの時、ウルチ副総長が言ったことが、ようやく僕にも分かってきた気がする。
スメダ総長なら、きっとこの計画は成功できる。
過去の自分が見たら信じられないかもしれないけど、今の僕は本気で信じてる。
そして、ついに戦争の日は来た。
僕達から、いつもの日常感覚が消え去る。
まるで、修学旅行に行く日の朝みたいだ。
「では、これより役割の再確認を行うッ! タマキ、突撃部隊の役割はなんだッ!?」
「はい! 突撃部隊は鮭日本官邸に乗り込み、官邸からの降伏を確認する役割です!」
「殺られそうになったらどうするんだッ!?」
「殺られる前に殺ります!」
「そうだッ! よく分かっているッ!」
「では、ウルチッ! 空襲部隊の役割はなんだッ!?」
「えっと〜、空襲部隊は色んなエリアに爆弾落として、官邸に降伏を迫る役割!」
「もしもの時は何を落とすのだッ!?」
「……なんだっけ〜? ……あ、核爆弾!」
「そうだッ! もし、突撃部隊と一切連絡がつかなくなった場合のみ、ウルチ個人の判断で核爆弾を落としても良しとするッ!」
「うん、オッケ〜!」
「…………おっけー?」
またしても、スメダ総長にハテナが浮かんだみたいだ。
---
--- **#4 戦争開始** ---
会議が終わるなり、僕とスメダ総長の突撃部隊は国境警備隊の目をかいくぐり、梅日本から鮭日本の境界線を渡った。
空襲部隊のウルチ副総長の方はというと、上空で爆撃機を操縦しながら、僕たちと無線で連絡をとっているらしい。
人気のない路地から路地を渡り歩き、厳戒態勢の鮭日本の町に暗躍する、僕たち革梅威軍。
たった二人なのが功を奏したのか、特に怪しまれもせずに鮭日本官邸付近までたどり着くことができた。
「タマキッ! 周りに警備隊はいないかッ!?」
「はい、いません!」
「ウルチッ! 警備隊に気づかれてはいないかッ!?」
「大丈夫〜!」
スメダ総長の呼びかけに呼応する僕と、無線越しのウルチ副総長。
「……ではお前らッ! 梅神様の名に懸けて、この戦争を素晴らしき戦争にすることをここに誓うかッ!?」
「誓いますッ!」
「誓う〜!」
言い忘れてたけど……梅神様というのは、この梅日本に根付く神様で、僕たち革梅威軍の行動理念にも深く関わっていて、スメダ総長が特に敬愛しているそうだ。
だけども僕は、今までにそんなの聞いたこともなかったし、知らなかった。
「では、戦争開始三秒前ッ!__」
戦争はいつも突然だ。
「三……」
「二……」
「一……」
「戦争開始ッ! ウルチ、健闘を祈るッ!」
「任せて〜!!」
そして無線機を懐にしまったスメダ総長。
スメダ総長が僕に付いてこいと、ハンドサインを送ってくる。
僕たちは、縦列になりながら官邸の裏口に侵入していった。
「タマキッ! ろけっとなんとかの準備だッ!」
「はい、ロケットランチャーです!」
スメダ総長に特注のロケットランチャーを渡す。
このロケットランチャーは通常のものよりも威力が数倍高い。
まともに喰らえば、全身がバラバラに吹き飛ぶだろう。
「タマキッ! 次の廊下を曲がったら大廊下に入るッ! お前も準備に入れッ!」
「はい!」
僕が構えたのはアサルトライフル。
奇遇にも、それの別名は突撃銃と言うそうだ。
「奴らに梅の底力を見せつけるぞッ! 覚悟はいいかッ!?」
「了解です!」
僕たちが大廊下に顔を出す。そして、ヤツらに向けてぶっ放しまくった。
もはや、その時の僕たちは、ヤツらを人とは捉えられなくなってたのかもしれない。
でも、いいんだ。
アイツらが先にやってきたんだから、僕たちはただやり返しているだけ。
どうやら、近くの警備隊も官邸に突入してきたみたいだが、僕たちは怯まず撃ち返した。
……しかし、たった二人の突撃部隊が、数百人以上の警備隊に敵うわけがなかった。
頭に熱いものが突き刺さったと思った瞬間、僕の目の前は暗くなった。
「おい、タマキッ! しっかりしろッ! __しっかりしろッ!__」
スメダ総長、僕に構わないでください。
「__しっかりしろッ! しっか____」
ほら、撃たれたじゃないですか……。
---
--- **#5 早すぎる終戦** ---
「……うぅん」
目が覚めた。僕は椅子に座っていた。
そこは多分、地下室みたいなところで、近くには銃を持った人と、いかにも偉そうな人たちがひそひそ話し合っていた。
多分、鮭日本の連中なんだろう。
襲いかかってやろうかと思ったが、腕が動かない。
それもそのはず、両腕は縄で固く縛られていた。
立ち上がることさえできない。
「起きたかね? 言葉は分かるかい?」
偉そうな人が僕に話しかけてきた。
しかし、僕は何も答えなかった。
正確には、何も答える気がしなかったと言うべきか。
「まったく、本当に馬鹿なことをやったな。キミたちのせいで、何人が死んだのやら……」
「…………」
「まあいい、キミをわざわざ生かしたのには理由があるんだ。あんまり時間を使いたくないから、率直に聞こう。キミ、《《東と西、どっちで産まれたんだ?》》」
どっちで産まれたかだって?
それはもちろん……あれ、分からない……。
なんでだ……頭を撃たれておかしくなったのか?
くそ、何も分からない……。
でも……頭以前の話じゃない気がする。
……僕自身がそもそもおかしいんじゃないのか?
そういえば、あんなことがあったな。
---
ある日の会議中だった。
「この戦争は梅日本、そして梅神様の名によって正当化されるッ!」
「……あの、よく梅神様梅神様って言ってますけど、梅神様ってなんなんですか?」
「タマキッ! 質問は会議終了時に受け付けると……ん?
タマキ、今なんと言ったッ!?」
「……え? 梅神様ってなんなんですかって__」
「……それ本当に言っているのかッ!? 梅神様はな、この梅日本の神様だぞッ! 梅日本人なら誰もが知ってる、平和を愛する神様だッ!」
「なるほど、そうだったんですか! ……でも、平和を愛する梅神様がいるのに、今の梅日本は平和じゃないですよね?」
「タマキッ!! お前本当に梅日本出身なんだろうなッ!? 梅神様はな、力を使い果たしてしまったのだッ! 今まで平和に暮らせたのは梅神様のおかげであるッ! だから、今度は我らが梅日本を守らなければならないのだッ! ……タマキ、ちゃんと分かったかッ!?」
「なるほど……分かりました!」
「ならば、よろしいッ!」
いつものように会議が終わって僕がソファーに座るなり、ウルチ副総長がこそこそ話しかけてくる。
「タマキ〜、梅神様知らないの~!?」
「はい……一度も聞いたことがなくて」
「びっくり……!」
両頬を手で抑えて、ムンクの叫びみたいなポーズをとるウルチ副総長。
いかにもわざとらしい反応は、僕の緊張をお湯に浸かった筋肉のようにほぐしてくれた。
---
そうだった。スメダ総長にも、ウルチ副総長にも驚かれたっけな……。
じゃあ、なんで梅神様を知らなかったのかって言われたら、僕にもよく分からない……。
僕は本当は梅日本出身ではないんだろうか?
でも、それ以上におかしいところがある。なぜだか、僕には最近の記憶しか残ってないんだ。
一ヶ月前ぐらいの記憶はちゃんと残ってるのだが、それより昔の記憶はバッサリ切り捨てられたように無くなってる。
もちろん、子供の頃の記憶も無い。
「……どうした、答えないのか? ならば仕方ない、アレを運んでこい」
待ちくたびれた偉そうな人の指示に、忙しく動き出す警備隊。
答えを渋る僕の前に運ばれてきたのは二つの椅子。
椅子にはそれぞれ、二人が座っていた。
スメダ総長に、ウルチ副総長。
僕は思わず声をかけようとしたが、それが無意味な行為であることをすぐに理解する。
……2人は、すでに死んでいた。
スメダ総長は、頭から血を流しながら、力なくうつむいている。
僕に構ってくれたときに殺られたんだろうか……。
ウルチ副総長は、体が黒焦げになっていて、人かどうかさえ判断できないような無惨な姿となっていた。キレイな緑髪だけはどうにか黒焦げを免れたようだが……。
「どうだね、お仲間との再開は? 答える気になったか?」
正直、歯が擦り潰れるぐらい無念だった。
目頭が熱くなるぐらい悔しかった。
僕の中の制御装置が壊れたような気がした。
「殺せよ!! さっさと僕も殺してくれよ!!」
「……残念ながら、それは叶わない願いだね。
我々も確証無しで殺すわけにはいかないのだ」
「なんだよ、確証って!?」
「我々の調べた限りでは、キミ、出生届が出されていないみたいでね」
「……だから、どうしたんだ!?」
「まだ分からないのか? 我々は鮭国民を一大事としている。確証もないのに、自分の国民を処刑するわけにはいかないからな」
「……そんなの分かるだろ! 僕はお前らと戦った! 梅日本出身だ!」
「……まあ、落ち着け。このままではいつまでも決着がつかない。では、こうしようじゃないか。今からこの紙に、キミがどっちの出身なのかを書いてもらう。ただし、30分後だ。それが確証になる」
なんだよそれ……ムチャクチャすぎるだろ。
「聞いておくけど……鮭日本って書いたらどうするつもりだ?」
「拘束を止めて、近くの国立病院に搬送しよう」
「……梅なら?」
「ただちに処刑する」
何も分かってないな、こいつら。
そして、30分が経った。
僕の前に出されたのは、一枚の紙と鉛筆。
腕の縄を解かれて、鉛筆を強制的に持たされる。
「…………」
目の前で静かに死んでいる二人からの無いはずの視線が、僕はどうも気になった。
あの頃の思い出が、僕の頭から湧き出てくる。
短いようで長かった、革梅威軍としての思い出。
出もしない涙を浮かべながら、僕が書いた字は、**梅**、たった一文字だ。
即座に、銃がこめかみに突きつけられる。
やっぱり、こいつら何も分かってないな。
突撃部隊はまだ終わってないってこと。
`殺られる前に殺ってやるさ`
その時、僕は全てを思い出した。
怒りのままに体をふんばらせて、全身から梅の波動を放つ。
梅の波動、それは透明な強酸を自分の身にまとい、衝撃波で周りに撒き散らすという僕だけの技だ。
そんな梅の波動によって、革梅威軍の二人を除いた周りの人間の肉という肉が溶け、一瞬にして白骨化する。
ようやく思い出すことができた。
《《梅神様は僕だ》》。僕こそが梅神様だった。
どうやら人間に化けて生活しているうちに、自分が神であることを忘れてしまっていたようだ。
しかし、生死の狭間を彷徨う最中、どうにか戻ってこれた。
こんな僕を元の姿に戻してくれたのは、スメダ総長、ウルチ副総長、彼らのおかげでもある。
一瞬で鮭日本の連中を全員殺した僕は地下室を抜け出し、空中を飛びながら町を見渡した。
残念なことに、察せねばならないことがある。
この鮭日本、いや、どちらの日本も、物理的に精神的に、もう修復不可能の域に達してしまっている。
数千年前から始まった東と西の対立が、まさかここまで大きくなってしまうとは夢にも思わなかった。
残念ながら、僕の力でも戦争が起きる前には戻せない。
これからも、鮭日本による不毛な侵攻は続くだろう。
僕はただ、梅日本を平和な国にしたかっただけなのに……。
でも、もうムリだ。手遅れだ。
だから、僕が責任を持ってこの日本を終わらせる。
__その前に、何かに遺しておきたい。
この悲しき戦争を、**おにぎり|戦争《WARS》**を世界に伝えていく為に。
では、さようなら、日本。
さようなら、革梅威軍。
世界よ、平和を忘れずに。
戦争はダメ!
俺の妹は、水鉄砲で人を殺したがっていた。
数ある小説の中からこの小説を選んでくれてありがとう!!
俺の妹はいつも、**水鉄砲で人を殺したい**とそこかしこに喋り散らしている。
一体どこで殺すなんて言葉を覚えたのか?
そんな妹の名前は|銃子《じゅうこ》。
銃子は家族で旅行するとき、絶対に水鉄砲だけは持っていく。
もし、お気に入りのぬいぐるみか水鉄砲、どちらか一つだけを選ぶとしたら、真っ先に銃子は水鉄砲を選ぶだろう。
銃子の水鉄砲には常に水が満タンに入っている。
妹なりにも、その人を殺す準備ってのはマメにやってるみたいだ。
今思えば、母さんが銃子の誕生日に水鉄砲を買い与えたのが一番の原因だと思う。
あの日から、銃子は水鉄砲を肌見放さず持ち歩くようになってしまった。
それだけなら可愛いで済むのかもしれないけど、銃子は度々、鳩の群れを自慢の水鉄砲で襲ってる。
こんな妹だけど、水鉄砲に取り憑かれるまでは、二人で近くの公園へ遊びに行くこともあった。
だけど、あの日から、雪山をスキーで下るみたいに兄妹の時間が減ったのは言うまでもない。
確かに、俺が勉強で忙しいってのもあると思うけど、やっぱり銃子はおかしいと思うんだ……
---
これは夏休みのある日だった。
「にいちゃ〜ん、あそぼ〜!」
銃子が俺の部屋を開けて、扉から顔をチラ見せしながら俺を遊びに誘う。
「遊ばねーよ。宿題で忙しいから」
背中を向けたまま、遊びの誘いを冷たくあしらった俺。
わざわざ付き合ってられないよ。あんなの。
「むぅん……」
銃子は不服そうに呻くと、ドアをバタンと閉めて、一人で庭に出ていった。
そんな銃子には目も暮れず、俺はただ鉛筆を握りしめる。
「はとさんまだかな〜?」
庭から聞こえる銃子ののんきな声。
部屋は日に照らされてカンカンに暑いのにも関わらず、俺は窓を閉めていた。
まったく……どうしてああなってしまったんだろうか。
不思議だ、今の銃子は本物の銃子なんだろうか?
どこかで入れ替わったんだよ、と言われても全然不思議じゃないレベル。
でも……思い詰めても仕方ない。俺は黙々と宿題を進める。
それは突然のことだった。
__**パァン!**
暑さにやられていた脳が一気に醒める。
爆音の方向は庭からだった。
俺は窓を開ける。
生暖かい風と同時に、花火のような臭いが鼻にまとわりついた。
なんだ、この臭い?
「わぁい! やったぁ!」
銃子の喜ぶ声が近所に響き渡る。
なんだなんだと窓から顔を見下ろせば、衝撃的な光景が俺を待ち受けていた。
地面に倒れるのは一羽の鳩。
体に穴が開いており、そこから血が噴水みたいにパチャパチャ噴き上がってた。
間違いない、死んでる……。
嫌な予感がして、俺は銃子が持っているものに目を移した。
それはいつもの水鉄砲ではなく、見たことのない黒い鉄砲。
銃先から出る白い煙、俺は確信する。
……拳銃だ。映画で見たことある。
そう俺が分析してる間にも、突然の爆音を聞きつけた近所の人たちがウチを覗いてた。
両親も庭へ駆け寄っていったようで、父さんは急迫した表情で拳銃みたいな物を取り上げる。
母さんはわーわー喚く銃子の耳をつまんで家の中に引っ張り込んだ。
そこから始まるのは、母さんお得意の説教タイム。
しばらくは、母さんのお説教が家中を支配してた。
俺は宿題第一であまり聞かないようにはしてたけど、正直、さっきの銃声よりもうるさかったとは思う。
話はここからだけど、銃子の持ってたのは本物の拳銃だそうだ。
その後に来た警察の人がそう言ってた。
なんで本物の拳銃があったのかというと、昔、ここに事務所?ってのが建ってたらしい。俺にはよく分からないけど。
でも、なんというか……いつか、こうなるとは思ってた自分がいる。
別に、今日の事を予測してたわけでもないけど。今までのことを鑑みると……。
というわけで、普段から銃子の水鉄砲愛とか変な言動に困らされていた両親も、昨日の事件から本格的に銃子の水鉄砲を没収した。そりゃ、当然だ。
水鉄砲を没収されてから、銃子は目に見て分かるほどに元気が無くなった。
確かに、今まで大切にしてた物を突然取り上げられたら、そうなるのは分かる。
……だけどさ、《《僕の元気も減っていく》》のは、おかしいんじゃないか……?
正直言って、銃子が遊びに誘ってくるのはウザかったよ……。
今思えば、俺の短い人生の半分ぐらいは、銃子のやんちゃに巻き込まれてきた。
飛行機の中で水鉄砲を撃ちまくって、銃子が絶対に悪いのに、なぜか兄妹揃って怒られたときもめちゃくちゃウザかった。
街行く見知らぬ人のうなじを狙いまくって、母さんから、なんで注意しなかったのって怒られたときも、めちゃめちゃウザかった。
いつでも……どんなときでも……銃子がウザかった……。
……だけど……だけど……。
あれ……俺、今どういう気持ちなんだろう……?
……水鉄砲を持ってない銃子って、なんだかおかしい。
今の銃子こそ偽物に見えるのは俺だけかな……?
てかさ……思い出せばさ、《《俺が一番悪いんじゃないのか》》?
……いつからか、俺は銃子と遊ばなくなった。
勉強の為だとか、宿題の為だとかで……そうやって銃子との間に壁を作ったのは、いつだって俺の方だった……。
妹が悲しんでいるというのに、俺は何をやってるんだ……?
俺、兄失格だよ……。
せめて、こんな時こそ一緒に遊べたら……銃子、喜んでくれるかな?
俺は急いで押入れを漁り始めた。
昔、まだ銃子が産まれる前、自分用の水鉄砲を買ってもらった記憶がある。
案の定、水鉄砲は押入れの肥やしになっていたため、想像以上に見つけるのに時間が掛かった。
だけども、ガラクタが自分の部屋を埋め尽くす頃、ようやく見つけることができた。
ちょっとデカいけど……まだ使える。
俺は水鉄砲を背中に隠しながら、銃子の部屋に顔を出した。
案の定、銃子は俯いてて元気がない。
「……みずでっぽー……みずでっぽー……」
今度は俺の番だ。
「なー銃子?……今から公園まで遊ぼーぜ!」
銃子は顔を上げる。一瞬だけ驚いたような表情を見せたが、すぐ弱々しくなった。
「……みずでっぽーないからあそびたくない……」
そうだよな。
……でも、この為に……俺はこの為に探したんだ。
俺は、背中に隠していた水鉄砲を見せびらかした。
「水鉄砲、ここにあるぜ」
水鉄砲を見た銃子は、表情を一瞬で昂らせる。
「あ……みずでっぽー!」
銃子は俺から水鉄砲を奪い取った。
とても銃子の体には見合わないサイズだったけど、銃子はすぐに慣れて、俺に向かってポーズをとり、カッコつけて見せる。
よかった、いつもの銃子だ……!
俺は思わず、妹に向かってほほ笑んだ。
「じゃー、公園まで競争な!」
「うん!」
俺と銃子は家を飛び出していく。
こうやって、兄妹で遊びに行くの、いつぶりだっけ?
まあ、銃子には楽しんでもらわなくちゃな!
「銃子、今日は兄ちゃんのこと、何回でも殺していいからな!」
「……え、いーの!?」
「いいぜ、兄ちゃんはな、実は殺されても復活できるんだ!」
「わーい! いっぱいころすー!」
こんな会話、傍から見たら物騒に聞こえるかもしれない。
だけど、そこに嬉しい表情を見せる妹がいる限り、俺も精一杯遊ぼうと思う。
……でも、銃子の水鉄砲愛がいつまで続くのかは分からない。
小学生までか、中学生までか、高校生までか、もしくは大人まで続くのか。
ただし、今だけは、この今だけは確かなことがいえる。
**俺の妹は、水鉄砲で人を殺したがっていた。**
やっぱりタイトル回収っていいよね。
感想お待ちしております!
【今回のぶっ飛び度(ぶっ飛んでるほど高評価)】12月22日記
①ストーリー
★★★★☆
銃子による実銃鳩狙撃事件が今見てもヤバいと思う。
あと、兄妹の溝が埋まっていくところも評価ポイント。
②キャラ
★★★★☆
水鉄砲に取り憑かれた銃子がかなりのぶっ飛び人間。でも、本当はいい子なんです!
お兄ちゃんの剣人も粋な子!やっぱり絆こそ宝物!
③ラスト
★★★★☆
タイトル回収が大好きなので高評価。
銃子は将来どうなるんでしょうね?
かいじん。
題名:かいじん。
ジャンル:青春
彼とは高校のころに出会ってから、特に親しい付き合いであった。しかし普通な奴かと言われれば僕は首を横に振りたい。彼の大好物はよく油の乗ったカンパチの刺身なのだが、その食べ方というのがかなり奇妙なのだ。
彼は刺身に醤油をかけない。別にそれは好き嫌いの範疇で収まる話なのだが、不思議なことに彼は絶対に歯を使って噛んだりすることはしなかった。《《常に丸呑みだ》》。およそ二口かかるような大きさの刺身でも、彼は絶対に歯を使わない。背中の湿ってくるような気味悪さを覚えながらも、僕はいつも横目ながらにその様子を見ていた。指摘するほどの事でもない、と当時の私は思っていたのかもしれない。
しかし、今一度考えてみれば、それとそれに付随するいくつかのエピソードは幾分おかしいように思えた。
彼は海が好きだった。それも病的なほどに。普通の人間なら海の綺麗さが好きだとか景色が好きだとか、そういう普遍的な理由が多いのだが、彼は違った。彼は《《海の構造そのものが好き》》なのだ。海の中で魚が泳いでいて、海底に砂がある。その状況が彼にとってたまらないらしい。だからなのか、二人で海へ行く時があると、決まって彼はペットボトルで海水を採っていた。
一人暮らし中の彼の家でアサリ鍋を御馳走してもらう機会があった。僕は彼を変わった奴という認識でいたのだが、彼の作る料理に興味が持ったので嫌な高揚を覚えながらも一度食べてみることにした。不思議な奴だけど料理はもしかしたら。何かを望んでいたのかもしれない。
僕が彼の部屋に入るなり、潮風の匂いが鼻につんと来た。彼は台所からアサリ鍋を持ってきて丸机に置いた。そのアサリ鍋は、見た目は特に問題は無かったのだが、アサリの身を口に入れて噛んでみるなり、がりっと音がして僕はそれを吐き出した。吐き出した後も僕の口の中の不快感は収まらず、舌で不快感の正体を探ってみると大量の小さい粒が口の中に残っていることに気づいた。
小さい粒の正体は**砂**だった。まさか砂抜きをしていないのか。普通、アサリは砂抜きをしないとまともに食べることはできない。僕は口を抑えながら彼をちらっと見た。彼はこのアサリにどういう反応をするのかと、ちょっとした悪戯心である。しかし、僕の予想に反して、彼は構わず意気揚々にアサリ鍋を殻ごと頬張っていた。ごくっと飲み込み、彼は又、おたまでアサリ鍋をよそう。
その時、僕の中で彼への認識が揺れ動いた気がした。
僕は彼を刺激しないように言った。
「なあ、このアサリ、大丈夫なのか?」
彼は箸を置いて、舌で口の周りを舐めとった。
「うん、どうした?」
「めちゃくちゃアサリに砂が入ってるんだよ。ちゃんと砂抜いた?」
僕の話す間に水の入ったグラスを一気に飲み干した彼は可笑しそうに答える。
「**砂、飲まないの?**」
「は?」
その時、僕の中で彼の認識が怪物へと移り変わった。全身の神経が逆立ち、彼から一歩でも離れたいと強く願った。これほどまでのおぞましさを僕は人生で覚えたこともなく不気味を遥かに超えて、もしや世界中のおぞましさが集まったものが彼だと思った。
僕は全身が麻痺した感覚に陥りかけたが、彼は「あ、そっか」と手を叩き、言った。
「お前、砂飲めないんだな!」
「当たり前だろ」とは思っても、僕は口には出せなかった。
「悪い、帰る」
僕はおもむろに立ち上がって玄関に向かう。ドアノブを開こうとする僕を、彼は引き留めようとしたみたいだが__。
「おい、せめて水だけでも飲んでけって! 近くの海で採ってきた新鮮な水なんだぜ!」
彼は意地悪く勧めてきたものの、僕を止める理由には一切ならなかった。焦ってドアを開こうとする。その時だった。彼は声のトーンを一段階低くして、まるで告白をするかのように喋り出した。
僕は思わず足を止める。隙間から差し込んだ日の光が玄関の上に乗っていた水槽をきらびやかに照らしていた。
「そこの水槽見てくれよ。一か月前まではそこに三匹のメダカが暮らしていたんだ。じゃあ、今はどこにいるんだろうなぁ。分かるか?」
僕は何も答えなかった。背後にいる怪物を刺激させたくなかったからだ。それでも僕は横目で水槽を見た。やはり、どこか気になる気持ちが僕の中で見え隠れしていたのかもしれない。
水槽の水はよく透き通っていた。底に石が敷き詰められており水草もよく躍っている。しかし、彼のいう通り、不自然にメダカだけがいなかった。
しばらく沈黙が続くと、彼は子供を喜ばすピエロのような甲高い声で言った。
「正解は、《《俺の海》》! 三匹のメダカたちはな、《《俺の海》》にいるんだ!」
ここまでくると、僕は恐怖というより興味が勝っていた。彼は丸机のそばであぐらをかいたまま動かないので、このまま彼の言い分を聞いてみてもいいのかもしれないと思った。
興味津々な僕は、一番の疑問を彼にぶつけた。
「その《《俺の海》》っての、一体どこなんだよ?」
「あー、そういえば話してなかったな」と彼は丸机に頬杖をつく。
「まずな、俺が海を心の底から好きだということは流石のお前も知ってるだろ? 海はな、この世の何よりも美しいんだ。始めに水があって、途中に魚があって、最後に砂で終わる。こんなに美しいものが他にあるか? これは例えなんだが、人間ってのは自分の好きな物を近くに置いておきたい習性があるだろ。それこそ推し活が最たる例だ。それじゃあ、《《俺が一番近くに置いておきたいもの》》は何か分かるよな?」
僕は表情を変えず「海か」と呟いた。彼は僕の返答にニヤリと笑い返した。
「そうそう、だからな、俺は胃に海を造ることにしたんだよ! 今は平気だけどさ、前は大変だったんだぜ。今まで海水なんて飲んだことなかったしな。でもな、悪いことだけじゃないんだよ。おかげで胃が変な方向に進化しちゃったんだぜ!」
喜ばしそうに体を揺らす彼。ちゃぷんちゃぷんと波同士が交わる音がし、辺りに潮風が漂った。僕はこの頃になると彼への認識を改めていたと思う。これほど海を愛するがために体を張る彼を、もはや人間や怪物を優に超えた|**海人**《かいじん》だと思った。
「もういいよ、じゃあな」
僕は半ば呆れた様子でドアノブを開けた。地面に片足を差し出そうとする直前、思い出して振り返る。
「そういえば明日、海人の誕生日だよな?」
思わず口に出してしまった海人というあだ名に、彼は少し戸惑った。
「確かに誕生日だけどさぁ、なんだよ、海人って?」
「あぁ、あだ名だよ、あだ名。それでさ、なんか欲しいのとかある?」
彼は少し悩んだ後に言った。
「アカエイの赤ちゃん」
「まさか、食べるの?」
僕は悪戯っぽく言ってみた。
「いや、住まわせるんだよ。俺の海に」
「はいはい、なるほどね」
僕はドアノブを開くと、身を乗り出しながら心地よく歩いた。心地よい潮風の匂いが僕の髪を靡かせる。ようやく自宅に到着してドアノブに手を掛けた。
この際、僕は一瞬だけだが、彼の海を想像した。始めに水、ペットボトルの海水。途中に魚、丸呑みした刺身。最後に砂、アサリに付いた砂。これらが僕の頭の中で際限なく駆け巡って、ようやくたどり着いた結果が僕の口から呟かれた。
「あいつの胃、どうなってんの?」
**明日は海の日、|あいつ《海人》の誕生日だ。**
まんしょん。
創作だよん
当時の私は七階建てのマンションに住んでおり、特にご近所トラブルも無く、平和に暮らしていました。
これはある夜の出来事です。ベッドの上で何の目的もなくスマホをいじりながら寝落ちするのを待っていた時、それは突然聞こえました。
ガタンガタン、何かを開けようとする音です。三部屋ほど隣から鳴らされたような音量でした。私はスマホをいじるのやめて、その音に耳を澄ませました。
ガタンガタン、それはまた鳴りました。それはさっきとは違い、鮮明に聞こえて、まるで音が近づいてきているみたいでした。
ガタンガタン、また鳴りました。より鮮明に、それははっきりと聞こえました。音の正体は私の部屋の隣まで迫っていました。
その時、私はある事に気づいてしまいました。
「家の鍵閉めてたっけ?」
私の体は震え上がりました。スマホをベッドに投げ捨てて、一目散に玄関に向かいました。まだ来ないで、まだ来ないで、私は心の中で何度も反芻させながら、玄関まで走りました。
深夜にも関わらずドタドタと床を鳴らし、私は精一杯に腕を伸ばし、玄関のロックをひねりました。ロックを閉めた直後、ドアノブがガタンガタンと乱暴に上下しました。ドアを開けようと必死なのでしょう。数分間もそれは続きました。
やがて、その音が止むと、私は安堵しました。まるで糸が切れたように倒れ、安心感を抱えたまま眠り込んでしまいました。
次の日、私は玄関で目が覚めました。もはや昨日の事も昔のように思えました。私はリビングに行き、リモコンの電源ボタンを押しました。
テレビがパッと点くと、いつものニュース番組が放送されていました。その時のニュースの内容を、私は未だに忘れることが出来ません。
【◎◎県のマンションで女性が刺され死亡。無差別の犯行か】
昨夜未明、◎◎県◎◎市のマンションの一室で女性が刃物で刺され殺害される事件が発生しました。犯人の男はしばらくの間逃走していましたが、今朝5時ごろ逮捕されました。
逮捕されたのは自称◎◎市在住職業不詳の男です。
◎◎警察署によると、男は「偶然鍵が開いていたのが被害者の部屋だった」などと供述している模様です。男はマンションの住人ではないとのことです。