月下人狼学園パロ 第一期
編集者:beri
※能力パロを読み終えてからの閲覧をおすすめします
月下人狼能力パロの作者が手掛ける奥深いようであんまり深くない
でもちょっとだけ深いよくわからないストーリー
ちょっぴり変わった学園生活が幕を開ける
月下人狼学園パロ
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目次
月下人狼学園パロ 第一話「あたらしい世界」
beri視点
バッシャーーーーン
大きな水飛沫が上がる
もうフェンリルはいない
冷静にアライモメの時にも使った方法で氷のボートを少し小さめに作る
「乗って!」
くろむとレイトの手を両手で引っ張る
なんとか2人を乗せる
「これ、こっからどうすればいいんだろう」
レイトが周りを見渡しながら言う
よくレイトを見てみると猫耳が消えていた
やはりあの世界で変わったものの余程は消えてしまうのかもしれない
「今すぐにでも助けに行きたいんだけど」
「この鍵の使い方フェンリル教えてくれなかったからなぁ…」
くろむが鍵を少し叩いてみたり光にかざしてみたりする
見ていても何か起きる様子はなかった
「あのぉ…」
「ここが本当に元の世界なら」
「家に帰れるってことだよね…?」
「あぁ」
「そのことなんだけど…」
くろむが何か言いたそうにしている
その割にはすっかり黙り込んでしまった
「…で?」
レイトが促すとやっとくろむが話し始めた
「俺が見た世界線だと」
「ここは今までのとちょっと」
「いやかなり変わっているらしい…」
「フェンリルも言ってたよね」
「見た世界線ってどんなのなの?」
広い海に浮かぶ氷のボート
大海原に揺られながらくろむの話は続いた
それは全員が仲良く同じ学校で時を過ごすと言うものだった
そのために住所や学校
多少の年齢操作のある人もいるらしい
そのためにこの世界は改変されてしまったのだ
「じゃ、じゃあだけど」
「君たちと家まぁまぁ近いんだよね?」
「だろうね」
「そっかぁ」
あまり想像がつかなかった
あの世界で会った人たちと学校に通う世界線
元の世界線はどこへ行ってしまったのだろう
「とりあえずここから家に帰ることがまず目的だよね」
「だよね、帰らないとまず状況が把握しきれてない…」
「というかここどこなんだろう」
「そもそも日本の海とかじゃないとほぼ詰みだよね」
私は氷のオールを作る
しばらくはそれを使って一方に進んでいたが
思い氷のオールをずっと動かし続けるのには限界があった
「はぁ…はぁ…」
1番しっかり漕いでいたレイトも大きく息をついている
ずっと陸地は見えないし
見えたところでどうすればいいのだろう
やがて真面目に漕ぐ人はいなくなった
「誰かなんかいい方法思いつかない…?」
「やっぱりこの鍵がなんかあるんじゃないのかなぁ」
くろむがずっと持っていた鍵を受け取る
よく見てみると鍵の部分と持ち手の部分の間に段差があることに気づく
ガチャリ
「回った」
その瞬間くろむとレイトの姿が見えなくなる
しばらくして自分の視界も暗転する
そして次に目に映ったのは見覚えのある自分の家
周りは全く知らない場所だったが、自分の家ということはわかった
玄関まで少し走る
鍵が空いている
私はそのままドアを押して家の中に入った
「おかえり〜」
お母さんの声だ
本当に世界が変わってしまったみたい
そしてお母さんの声だけが聞こえて良かったと思った
自分の今のこの格好はまるで何かのコスプレのようだったからだ
「ただいまぁ〜」
急いで自分の部屋に駆け込む
運良く妹のururuはいなかった
いつも自分が制服をかけてあるところには見覚えのない制服がかかっていた
やっぱり変わってしまったのだなと改めて実感する
デジタル時計に目をやると生憎今日は日曜日
15時26分の表示だ
あまり覚えていない
があの世界に飛ばされたときから少なくとも1週間と少しは経っているはずである
2日に1回しか夜が来なかったということは半分なのかなという考察もしたが
どうやっても1日未満になることはなかった
妹が帰ってくる前に部屋着をタンスから取り出して着替える
来ていた服は洗濯がしたかったのでとりあえず置いておいた
くろむにレイト
今何してるかな
月下人狼学園パロ 第二話「会えたね」
beri視点
プルルルルル
プルルルルル
着替え終わったところに丁度電話がかかってきた
長らく触っていなかったスマホをベッドから拾い上げる
記憶にないが、そこには黒夢と書かれていた
「もしもし…?」
「あっべり?」
「俺なんだけど」
俺じゃわからんよというツッコミがしたくなったところである
だけどこの声は
さっきまで聞いていたあのくろむと全く同じものだった
「もしかしてくろむ?」
「正解」
「なんかうちにべりっぽい電話番号あったからかけてみた」
「俺たちの知らないところでこの世界は進んでたみたいだな」
「なんか怖いね」
「レイトはどう?」
「さっきレイトにもかけたんだけど繋がらなくって」
「どうしたんだろう」
少しの間沈黙が続く
「とりあえず何かあったら連絡くれ」
「鍵はべりが持ったままだしな」
「とりあえず近くの公園のところに来てくれないか」
「はーい」
そうして電話が切られた
「…ちょっと心配だな」
いつもの真っ白のリュックに財布とスマホ、鍵を適当に突っ込む
もう少しちゃんとした服を着ればよかったなと思いながらも家を出る
近くの公園と言われたはいいもののどこに公園があるかわからない
外に出てマップアプリを開く
「ここから1番近いのは…」
本当に近い、家から3分ほどの距離に公園があった
全く知らない道をスマホだけを頼りに移動する
田舎というわけでも都会というわけでもない
この微妙な街並みには少し安心する
公園につくと藤の花が屋根になっているベンチにフードを黒い被った人が座っている
一瞬怪しい人にも見えたが顔をよくみるとくろむだった
「来たよ〜」
「お、一応レイトにもLINEで誘ったんだけど来ないんだよね」
「既読無視されてる」
「えーレイトとLINEなんて繋いでるんだぁ〜」
「しらねぇよこの世界線の俺なんて…」
「レイトの家とかどこか分かるの?」
「レイトの家わかるんだけど遠いんだよね」
「なぜかマップに登録してあって…」
「へぇ〜知ってるんだぁ〜」
「だーかーらぁ…」
「でも来ないなら何かあったかもしれないし見にいってあげたほうがいいよね」
くろむはろくに返事もしないでスマホを取り出し歩き始めた
「ごめんって」
何分ほど歩いただろうか
10分くらい歩いてあったコンビニで飲み物を買った
少し商店街の並ぶようなところを通り過ぎさらに10分ほど歩くと住宅街が増えてきた
「ここら辺のはずなんだけど」
くろむがひとつの家に向かって方向を変えて歩き始める
ピンポーン
「…」
「…」
「いない…?」
インターホンをもう一度押してみる
付いているカメラを覗き込んでみたり
軽くドアをノックしてみたりする
「だめだね…」
「どうする?」
「うーん」
試しにドアを押してみる
ガチャッ
「えっ、開いてた…」
「どうする?入るつもりなの?」
くろむが少し困ったような顔で聞いてくる
あんまり入りたそうには見えなかった
月下人狼学園パロ 第三話「再集合」
くろむ視点
嫌な予感がする
でもこの流れは入るしかないだろう
beriが率先してレイトの家に入って行った
「おじゃまします〜」
「お、お邪魔します」
特になにもおかしなところはない普通の家だった
ドンドン
ドンドン
「…?」
おかしなところがないと思った時に音が鳴った
壁を叩いたり蹴ったりしているような音だった
「レイト…?」
「べり待って」
「電話してみるから」
絶対この先に何かある
ここは石橋を叩いて渡るところだ
スマホの電源を入れる
「え…圏外?」
どうして家の中が圏外になっているんだろう
これじゃあいくら電話そしてもレイトが出られるわけがない
「どう?」
「だめだ圏外になってる」
「行こう」
短めの廊下から正面のドアを開ける
少し大きめのソファにテレビ
キッチンがあってテーブルが置いてある
リビングだろうか
音はここからじゃないみたいだ
「2階もあったみたいだけどそっちかなぁ」
家の中では音が響いていてどこから聞こえているのかよくわからない
廊下に戻ってそこから伸びている階段を登る
階段を登るにつれて音が大きくなっていく
ん!!!ンーッンー!!!
口を塞がれている人がなんとか助けを呼ぼうとしているような音が聞こえた
同じ場所から壁を叩いたりする音も聞こえる
前へと踏み出す足が重くなる
「本当に行く…?」
誰か…レイトが捕まっていたりするのなら
まだその犯人がいるかもしれないのだ
「行かなきゃ」
「ここまで来たんだよ?」
beriからはすごい勇気を感じた
「しょただし」
「…え?今なんて?」
「なんも〜?」
気のせいか
しょたって聞こえたような気もするが
そして部屋は2つある
明らかに奥の部屋から聞こえてきているが
「手前から見ようよ」
そこはベッドが2つ置いてあった
寝室だろう
変なのはに毛布や枕が全て薙ぎ払われて下に落ちていることくらいだ
残るは奥の部屋
ずっと止まないこの音の原因があるはずだ
「俺が開けるよ…」
ほぼ全てberiに任せていたのが今更少し申し訳なくなっていた
汗ばむ手でドアノブを回してドアを押す
少しドアに隙間ができると音は大きくはっきり聞こえるようになった
この部屋だと確信した
そこからは勢いよく一気にドアを押し開けた
---
beri視点
そこには濃い紺色のフードを被った人
口にガムテープを貼られ手と足の自由が効かないように縄で縛られ
クローゼットの持ち手部分に繋いで縛られているレイトがいた
明らかに犯人だと思われる紺色のフードの人は一目散に部屋から逃げ出した
「レイト…?」
涙目でうるうるしてこちらを見つめてくる
しゃがんで顔に手を添える
随分と長い間このままだったようで、縛られた手や足は赤い跡が付いている
ガムテープを剥がして次に手、そして足の拘束を解いていく
「レイトどうしたの!」
「俺が聞きたいよ…」
レイトは涙声でそう言う
犯人が逃げてしまったのが少しばかり惜しいが無事でよかった
「あの人ずっと鍵はどこだって言ってた」
「だから多分天空域関係の人には違いないと思う」
「天空域?」
「あぁ、あの人がずっと言ってて覚えちゃった」
「多分だけど俺たちが飛ばされてたあの世界のことだと思う」
「なるほど」
少し落ち着いてから荒らされた部屋を片付ける
家から出た時には空は綺麗な夕陽色に染まっていた
なにも突っ込まないでくださいお願いします
月下人狼学園パロ 第四話「取り戻せ」
beri視点
またあの公園にまで歩いて戻ってきた
そしてレイトとくろむを置いて家から持ってきたい物も少し取ってきた
正直、何も戻ってくる理由などなかったのだが
ここの方がいい気がした
「とりあえずこの鍵をもう一回回してみるよ」
「うん」
「わかった」
そう言ってここまで飛んできた時のように鍵をくるっと捻る
綺麗に回って定位置に来た時カチッといい音が鳴る
またあの時と同じようにくろむとレイトが消えるのが見え暗転が入る
「おっ」
次に目に映ったのは広い平原
見覚えのある小川や木が見える
ずっと付けていて気が付かなかったがフェアチオンの電源もついた
天空域に戻ってきたと言うことで間違い無いだろう
遠くにレイトとくろむの姿が見える
「これどうすればいいんだろ?」
「元の世界に戻る時も帰ってきた時も」
「フェンリルの説明不足が目立ちますねぇ」
困ったものだ
「その人たちが死んだ場所に行くっていうのはどう?」
「ほら、フェンリルは言ってたよ」
「Coreを倒したらいけないんだったらきっと魂がそこに残ってるからだと思う」
レイトが言うことは大抵理解できない
だけど私達が気づかないところまで奥深く考察してくれているのはいつも分かっていた
「じゃ、じゃあそうする?」
「ここから近いのはどこだろう」
「覚えてるところから行こうか?」
「うんそうしよう」
ここから少しいけばあのCoreの街まで行ける
そこで死んだのはまっきーにクーくん、メルアさんだ
少し安心したかのようにゆっくりと草を踏んでいく
持ってきた水筒に小川で水を汲む
崩れた吊り橋を補えるような大きな氷が必要だった
ギリギリ渡れるくらいの幅の氷を生成する
とても長く
そして丈夫に、分厚く
水筒の水を3杯ほど飲み干した
能力を使用した後はいつも少し気持ちが悪いが今回はひどかったからだ
生成したと同時に向こう側に倒しても氷は割れなかった
「よーし…いこっか…」
何かと便利なこの能力
割れた地形を渡るために何回使ったことだろう
横向きに歩きながらもしばらくして着く
Coreは中央で眠りについていた
その前には金色に光り輝く火のようなものが3つ浮いている
「多分あれが魂なんじゃないかな」
くろむは能力の関係でいつも見ているから気付いたのだろうか
1番にCoreの前まで駆けていく
そしてあっという間に3つの魂を自分の周りにふわふわと浮かせながら帰ってきた
「どうしてだろう」
「もう既にやったことある気がするんだよね」
「気のせいかな」
くろむはそんなことを言いながら自分の周りに3つの魂をくるくる回転させてみせる
何かの魔法を使っているようだった
能力自体が魔法なのかもしれないが
月下人狼学園パロ 第五話「Coreの復讐」
beri視点
図書館に行ってわんこの魂を回収する
そこからの道中で猫丸と走るんのものと思われる2つも回収した
「走るん死んじゃってたんだ」
「ずっと動けなかったんだし、Coreにやられたんじゃないのかな」
「そっかぁ」
その後崩れた塔のあった場所に行く
まだ消えていなかった塔の破片の上には2つの魂があった
おそらくみんとと子狐さんのものだろう
そしてその塔の前にもひとつあった
フェンリルがトトちゃんを殺したときのものだとすぐに分かった
さらに3つ回収しくろむの周りにはもう9つの魂が浮いている
それを少し邪魔そうにして歩くくろむがどこか面白かった
「多分これで全部だよね」
トトちゃん、わんこ、まっきー、クーくん、みんと、子狐、メルア、猫丸、走るん
こう考えてみるととてもたくさんの仲間を失っていた
「そしてもう恒例行事と化してるんだけどさ」
「こっからどうするの((」
「フェンリルの魂を回収するために」
「あの偽物Coreの場所まで行って海からまた落ちて行かないといけないんだよね」
「方向はなんとなく覚えてるしそっち行こうか」
「はーい」
くろむの周りをくるくる回る9つの魂
元の世界に全て持っていけば全てが良くなるような
そんな気がした
ヴァァオオオオオオ
「Coreの声だ」
偽物じゃない
街にいたCoreの鳴き声だった
どうしてこんな時に…
「くろむは絶対に行って!」
「君がいなかったら元も子もないから!」
「あ、うん分かった」
くろむは私が指差した方向に走っていく
「倒しちゃいけないなら少しの間眠って貰えばいいよ」
「ねぇ?とかげちゃん!」
「…」
「えっ引かないでよ」
次の瞬間Coreの攻撃が飛んでくる
巨大な尻尾を地面に打ちつけてきた
ギリギリで回避するとその尻尾にしっかり掴まる
空中を切って移動する尻尾に振り落とされそうになる
狙いはここからだ
尻尾から背中の突起を利用して頭にまで登り詰める
「レイト!射影刀かもん!!」
「投げるよっ」
まるでブーメランを投げるようにして射影刀が飛んでくる
それはツノにぶつかりちょうど私の目の前で落ちる
「おやすみなさい!」
両手でCoreの頭に射影刀を突き刺す
Coreはど太い悲鳴をあげてその場に倒れる
レイトは回復のポーションをCoreの口に投げ込み逃走する
「あー待って!」
頭に刺さったままの射影刀を引き抜きその後を追う
結構簡単に追いつきレイトに射影刀を手渡す
地面にはくろむが移動した時に出来たと思われる金色の火の粉が舞っていた
「はやく合流しないと」
「何やらかすかわからないよあの人…」
月下人狼学園パロ 第六話「次からが本番」
くろむ視点
「はぁっはぁっはぁっ」
偽物Coreがいる場所までひたすら走り続ける
レイトとberiならCoreを足止めすることくらい簡単だろう
ずっと走っていたせいで膝がだんだん痛くなってきた
「うわっ…」
段差につまずいて転んでしまう
Coreの霧でできたゲートはもう目の前だ
頑張って立ちあがろうとしていたら魂たちが体を起こしてくれる
腕を持ってくれたり背中を押してくれた
やっぱり仲間達だ
もう半分魂の上に乗った形でゲートに飛び込む
フェンリルに乗っていたときとは違ってふわっと浮くような感覚になる
そのまま勢いよく下に落ちていく
フェンリルの魂を見逃さないように他の魂に手伝ってもらいながら降りていく
「あっあれだ!!!」
精一杯右手を伸ばしてフェンリルの魂を掴む
そのままフェンリルに魂を抱きしめたまま
体を小さくして落ちていく
「助けたよ…ちゃんと…」
どうして涙が出てくるのだろう
うれしいはずなのに泣いてしまう
そのよくわからない感情のまま海に落ちた
俺が泳げるわけがない
また魂達に支えてもらって海の上でぷかぷか浮いている
しばらくして上を見上げると二つの影が見える
水飛沫をあげて現れたのはberiとレイトだった
「おかえり2人とも」
「ちゃんとフェンリルの魂も回収できたよ」
「おーよかった」
「これでこの鍵回せばいいのかな」
「多分そんな気がする」
beriがまたあの鍵を回す
カチャっと音が響いた瞬間俺は自分の家にいた
空は夕方模様を映し出している
たしか天空域に行ったときと同じ時間だ
俺は公園へと走り出していた
---
レイト視点
家に戻っている
確か捕まった時は、ここであの紺色のフードの人が来たはずだ
男なのか女なのかの認識もつかなかった
身長の高い女性か、少し低めの男性といった中間で
体格はだぼだぼした服を着ていたせいでほぼわからなかった
そんなことは忘れよう
とりあえずあの公園に向かって自転車を漕ぐ
ヘルメットをカゴに乗せて漕ぐという意味のわからないことをしてなんとか公園に着いた
beriがもうベンチに座っていた
家が近いのだろうか
「お!レンコン!」
「懐かしいのやめろよ」
しれっとberiの隣に座る
「これでこの世界線には全員来れたんだよね」
「どこにいるかはわからないけど」
「多分そうだね」
「くろむがいないみたいだけど」
そう言って後ろを振り返るとのんびり歩いているくろむがいた
「いて草」
「戻ってるといいね」
「というか明日から学校なんだけど」
「その時にも何人か会えそう」
くろむが少し微笑んでそう言う
確かあいつは…
「明日から学校とか心配しかないなぁ…」
「大丈夫だよ」
「多分」
「そうだといいけど…」
「そうだ、明日は3人で学校行かない?」
「朝7時30分にここ集合ね!」
「はーい」
天空域の時にはあまりできなかったこの安心感に包まれた会話
たまにはのんびりと誰かと話すのもいいものだ
自転車にまたがり家に帰る
「じゃあねー!」
そう言って手を振ってくれる仲間がいる
「明日、絶対だからね!」
「もちろん!」
自転車を漕いで自分にぶつかる風達が
どこか暖かく
心地よく感じた
月下人狼学園パロ 第七話「確認大事」
beri視点
--- 次の日 ---
〜〜♪〜〜♪
「んあぁ」
もう朝か
スマホの電源を入れる
少し眩しいその画面に目を細める
4:25
9月17日
私がいつも起きる時間だ
推しの生まれた時間にいつもアラームをセットしてある
この時間に起きていつも何をやるか
宿題だ
見慣れないが自分のものであろう鞄を取り出す
漢字と数学のテキストが入っていた
どこが宿題なのかなんてわからないので、とりあえずやってあるところの次のページをやっておいた
そのあと少しYou◯ubeを見ていたらもう6時になっていた
あたりはもうすっかり明るい
お母さんも起きて朝ごはんの準備をしている
「おはよ〜」
「おはよ、朝ごはん準備してあるから」
「じゃあお母さんお父さん送りに行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
炊いてあったごはんに卵を割る
卵かけご飯には一滴ごま油を垂らして食べるのが好きだ
ささっと朝ごはんを済ませて制服に着替える
その制服を着るとないはずの記憶が蘇ってくる
毎日その学校に登校していたことやその道を歩いた日々のこと
ただ、他の人たちの記憶はすっぽり抜けていた
歯磨きをするときも何か考えていた
少し楽しみだ
髪を整えて家を出る
「いってらっしゃーいおねえちゃーん」
「はーいいってくるねー」
ドアを閉めるといつも通り妹が鍵を閉めてくれた
ここは前の世界線でも変わらず一緒だった
公園には誰よりも早く着いた
公園の時計の針は7時25分を指している
そんなに早いわけじゃないのに誰も来ないことに少し不安を覚える
「おはよーべり」
「おっレンコン」
「またそのくだりですか」
1番最初に来たのはレイトだった
1番家が離れているはずなのにくろむよりも先に来た
「今日何時に起きた?」
「うーん4時半かな」
「私も〜」
昨日のこととか能力のこと
天空域であった話やこれからのこと
いろんなことを話しているうちにもう7時40分になっていた
「あっやべ」
「そろそろ行かなきゃ」
「結局くろむ来なかったね」
「だねぇ」
くろむの家の前を駆け足で通り過ぎる
もしかしたら約束を忘れてもう学校にいるかもしれない
学校が歩ける距離でよかったなと思った
学校は中高一貫の結構大きな学校
自分は初めて行くけれど、この世界線の私はもう来ている
なんと説明すればいいんだろう…
門の前にはくろむが立っていた
「おーいくろむ!待ってたんだけど!」
「あっべり、レイトも」
「ごめん連絡したんだけど見れてなかった?」
「え?なんのこと?」
よく見るとくろむが松葉杖をついている
昨日の帰りに何かあったのだろうか
「ご覧の通りこんなのだから車で来たんだよね」
「なんかごめん」
「あーちゃんと確認しとけばよかった…」
「てかこの3人全員学年違うよね」
「俺高2だしべり中2でくろむ高1でしょ?」
「そうじゃん…」
「じゃあここでお別れだね」
「帰りにここで集合しよ?」
「くろむも一緒に帰れなくても来てね!」
「わかったから…」
「じゃあ解散っ!」
月下人狼学園パロ 第八話「知らない友達」
beri視点
私からすれば入学式なのに周りの人たちは平然と学校に通っている
この世界線であったはずの記憶が手に入るなら今すぐ欲しいところだ
「あれ?べり!?」
かわいいふわふわとした高めのしょたぼ
これはもうあの人しかいない
「フェンリル!?!?」
髪色だけは保ったまま尻尾と狼耳の消えたフェンリルが後ろに立っていた
「ありがとうね、助けてくれて」
「フェンリルだぁあっ!!」
もう半分何を言っているのかも無視してしまった
またフェンリルに会えて嬉しいという思いが強かった
「あ、あと一応名前はフェルだから」
「笛に琉でフェルです」
「わぁああん!」
「元気だなぁ」
フェンリルとさようならをして中学2年生の靴箱に向かう
だが途中で気付く
フェンリルも同じ方向に歩いていることに
「フェンリルも中2…?」
「そうだけど、もしかしてべりも!」
「やったぁ!おなじだ!!」
「同じクラスでももふれないからね…?」
「はーい…」
その後廊下でかえでと会った
かえではどうやらクーくんと同じ学年のようで、2人仲良く並んで歩いていた
クーくんに話を聞くと、猫丸は猫の霊だから学校には来てないらしい
少し悲しいとも思ったが会えるらしいので安心した
「2年生は2年生でも8学年もあるなんて…」
「あれ?くろむから聞かなかったかな」
「たいていみんな同じクラスだよ!」
「やったぁああ!」
隣を通った人たちにちょっと変な目で見られたが嬉しくてたまらなかった
こんな幸せな学園生活が送れて良いのだろうか
「ちなみに何組?」
「2年5組だね」
2年5組の教室は階段を上がってすぐの場所にあった
近くて結構良いクラスだなと思った(小並感)
教室に入るなり1人の女の子が飛び付いてきた
「べりーおっはよー!!!」
私には全く記憶がないのは当たり前だが友達なのだろうか
咄嗟に胸についた名札を見て名前で呼ぶ
「おはよーしおん」
「あれぇ?テンション低いねぇ!?」
「そうかな?こんなもんだよ」
「しおんがおかしいだけ!」
「あーそっか」
なんとか適当に会話を終わらせた
そしてあの制服を着た時になったように
ないはずの記憶が蘇ってくる
しおんとは中学生になってから少しずつ交流を持ち始めた友達らしい
この定期的に入ってくる記憶が今後の鍵となりそうである
「フェル、フェルもここの記憶はないよね」
「うん、ないけどなぜか思い出すよね」
「思い出すものもないはずだけど」
「あーわかる」
一生懸命机の名前を見て周り
白蒼果 氷鈴の名前を探す
「べりーどうしたのー?」
しおんが机を少しトントンと叩き誘導してくる
よく見るとしおんの目の前の席が私の席らしい
そしてまた記憶が蘇る
しおんが先生に懇願して私と席を近くしてもらっていたことを
「今日ボケてるかもw」
少し茶化してそっと席に着く
「私宿題出してくるわ」
しおんが手に持っている課題をじっと見つめる
漢字のテキストを持っていた
漢字のテキストならばちゃんとやってある
朝にやったけど
しおんの後をついていき無事課題提出が完了する
月下人狼学園パロ 第九話「学園生活の始まりは」
ミタマ視点
こんなときに怪我なんてするんじゃなかった
階段も使えないので必死に知らない学校のエレベーターを探している
結局どこにあるか分からないまま通行人が減っていく
「もういいや…」
松葉杖を階段の上に一段乗せる
そして一気に前に踏み込んでなんとか怪我した右足をあげる
松葉杖を次の段に乗せようとした時だ
左側の松葉杖が中途半端なところで引っかかってしまう
そのまま力を入れて登ろうとしたせいで左側から倒れてしまう
「きゃっ」
誰か左に居たらしく、その人にもたれかかってしまった
「ご、ごめんなさい」
「松葉杖なのに…エレベーター使わないんですか?」
聞き慣れたその声は、かえでだった
話を聞くと靴箱に忘れ物をしたらしく、それでここの階段を使っていたらしい
「って、くろむさん!?」
「あぁああ、なんて言えばいいんだろう…」
「と、とりあえずエレベーターこっちにありますよ!」
随分と慌てた様子でエレベーターの方まで案内してくれた
…かわいい
「ありがとう、でもぶつかってごめん」
「怪我してない…?」
「だ、だいじょうぶでーす!!!!」
「ではっ!」
かなりのスピードで走ってかえでは靴箱へ行ってしまった
仕方なくエレベーターに乗って無事教室まで行くことはできた
教室のドアをガラガラと開けて入る
「えっくろむ大丈夫そ?」
「松葉杖やん」
「ちょっと色々あって…」
知らない人たちに色々言われたが少し見覚えのある人が紛れ込んでいる
確かあれは黒猫
そして何故かフレアもいる
2人の魂は拾ってないはずだし、そもそも死んでないはずなんだが…
「くろむ、俺の前お前の席っぽいぞ」
「あ、ありがとう」
特に親しくもないただ知ってるだけの相手であるフレアに
思ったより気軽に話しかけてもらえた
一方黒猫の方はこちらが天空域で出会ったくろむであることに気づいてなさそうだった
松葉杖をまとめて机の横に置く
昨日の夜は確か4時に寝たはず
いや、これは昨日じゃなくて今日だ
そして俺は知らないうちに机にうつ伏せになって眠っていた
---
レイト視点
教室までは特に難なくやって来れたつもりだ
さっきからチラチラ見覚えのある人たちが横切っていく気がする
同じクラスなのだろう
「おはよございまーす」
少し小さな声でそう言って教室の中に入る
知ってる人は0人に等しかった
俺の予想は当たらなかった
まぁ、高2で天空域にいた人とかあまり思い浮かばない
俺は流れに身を任せてその後を過ごした
月下人狼学園パロ 第十話「元の世界の弊害」
わんこ視点
「あっあれ」
知らないうちに知らない犬が知らない場所にいる
これは自分なのだろうか
地面の水たまりにそう問いかける
そこに映っているのはあの世界の私ではなかった
今ここにいるのはシベリアンハスキーそのもの
よく知っている犬種だが、まさか自分がそれになるなんて思ってもいなかった
辺りを見渡しても特に何もないし誰もいない
横には月下学園と書かれた中高一貫校の学校がある
何故かそこから異様な空気を感じたので少し近づいてみる
その門の直前までは坂道になっている
そこを転がるように駆けていく
ヴォオオオオン
「っきゃんっ!?」
自分のすぐ横をとてつもない速さの自転車が通り過ぎて行った
ここは危ないと判断した私は少し遠くからあの学校を見守ることにした
私の記憶に残っている部分は走るんに弓で殺されたところ
あそこからは一切の記憶の更新はない
急にここにいるのだ
姿も変わってしまって
首についたフェアチオンはどうやら機能していないらしく画面が真っ黒になっている
「どうしたもんかなぁ」
「わーんこさん!」
「っへ!だれ!?」
「ぼくですよ、猫丸です」
どこからか可愛らしい声が聞こえると思ったら
その声は猫丸と名乗った
全くそんなものは近くに見えないし
何かいる様子もなかった
「どこにいるの?」
「ぼくは残念ながら見ることができません」
「こちらの世界に来たならばぼくはただの猫の霊です」
「えっかなしすぎない?」
「どうにかできないの!?」
「私あの猫丸好きなんだけど」
少し間を開けてそういう
だって今まで目で見て話していた相手が急に声だけになるんだ
誰だって嫌だろう
「ふわぁっ」
「ちょっとそれは照れますねぇ…」
ちょっとここに来てから猫丸のかわいさが増している気がする
「猫丸、本当の姿に戻りたいんですけどね…」
「なかなかいいものがないんですよ」
「もの?」
「体になるものがあればいい的な何かなの猫丸って」
「あーそうですね」
「そこの空き缶とかでも問題ないですけどちょっと抵抗があります」
確かに隣にはコー◯の空き缶が転がっている
次の瞬間その空き缶が自立して歩き始めた
「どうでしょう」
「似合いますか」
「空き缶に似合うとかってある…?」
「やっぱり別のがいいよ」
「そうですよね…」
「わんこさんとかどうでしょう」
急に怖いことを言い出した
私なに?猫丸に乗っ取られるの?
「そんなのもできるの?」
「残念ながら生きてる生き物は無理ですね」
「安心してください」
「わんこさんを殺してまでしてとろうとはしませんよ」
「あぁよかった…」
月下人狼学園パロ 第十一話「空き缶ころころどんぶりこ」
わんこ視点
「体にするんだったら、何がいいとかってある?」
「やっぱり生き物がいいんだけど、ちょっと怖いよね…」
「死体が必要だよね」
あの世界に猫丸がいたときは少年の姿をしていたはず
その時のはどこに行ったんだろう
「でも流石にそれはできないから…」
「猫丸があの世界にいた時の体はどこいったの?」
「私あれ結構好きなんだけど」
「あっちにいた時も僕が霊だったことは変わらないんだよね」
「僕は飼い猫の霊だから」
「そっかぁ…」
「でもわんこの体半分もらうことならできるんだよ〜?」
「えっ」
次の瞬間体の自由が効かなくなった
生きてたら出来ないんじゃなかったのか
「どうー?」
「面白いでしょ!」
「僕がちょっと遠隔で動かしてるだけだよ」
「ごめんね」
「ふぁー」
「普通にすごい…」
「体なくてもやってけそうだけどね」
「…たしかに」
あんなに欲しいと言っていたのに…
でも猫丸も私もこれからどうしよう
「とりあえず今は空き缶になっといたほうがいいんじゃないかな」
「はーい」
「おーいこんなところにもいるぞ」
「さっさと捕まえとけそんなもの」
「…?」
声が聞こえてきた方向を向くと2人の男が立っていた
男2人は先に輪っかが付いている長い棒を持っている
「えっ」
逃げようとするもその輪っかを首に引っ掛けられてしまう
そのまま檻の中に入れられて車に積まれた
猫丸と思われるコカコー◯の空き缶は転がったままだった
「わぁあっ猫丸ぅう!」
バタン
檻にはしっかり鍵がかけられそのまま車のドアが閉められた
どうしたもんだろう
--- 1時間後 ---
急に車の揺れ方が変わる
車を駐車しているのだろうか
やがて車の動きが止まると、車のドアが開いて車内が明るく照らされる
車から降りた男に檻ごと抱えられて外に出る
男が向かった建物の中にはたくさんの檻が置いてある
そしてその檻の8割くらいには犬や猫が入れられている
とてもいい環境とはいえなかった
…酷い匂いだ
檻が並べてある棚の1番上に私は置かれた
気持ちが悪い
「だしてっ!だしてよぉ!」
私の声は届かなかった
あの世界にいたときは通じたこの言葉も
こちらの世界ではただの犬の遠吠えに過ぎなかった
「わんっ!わぅっ!わん!」
…
……
………。
---
猫丸視点
僕は今空き缶です
わんこの車を必死に転がって追いかけている空き缶です
でも空き缶なんかより車の方がずっと速い
そこで僕は考えた
隣に乗用車が見える
それを操作すれば…いやだめだ
僕が運転できるわけがない
絶対あたりの建物にぶつかりまくって犠牲を出すだけだ
そうだ
月下学園にいる仲間達を呼びに行こう
てなわけで空き缶は転がります
巨大な坂道を転がってます
月下人狼学園パロ 第十二話「残虐」
わんこ視点
薄暗く澱んだ空気の檻の中
隙間を覗いて見える蛍光灯は消えかけていた
「新しいやつは棚の下から入れてけよ」
「上から処分してくからな」
「えっ…」
下を覗き込んでみる
ここは相当高い場所のようだ
明らかに今さっき連れてこられた私がさっそく1番上に置かれている
冗談だとしても勘弁だ
「そろそろ今日の処分の時間だが」
「"殺処分"のな」
「はーい」
下の立場に見える男が積み重なった檻を上から順番に下に放り投げる
小さいものは片手で床に転がし
大きなものは両手、または足で蹴り飛ばす始末
自分の隣の檻が連れていかれる
中にいるのは小さなポメラニアンだ
もふもふの丸い体が特徴でとても愛らしい見た目をしている
ここに置かれた時1番最初に目に入った子だ
大きさからしてもまだ子供だろう
床に投げ捨てられる檻の金属の軋む音と同時に悲鳴にもならない鳴き声が上げられる
本来ここの上に乗っている檻たちは相当長い間ここにいたのだろう
だいぶ弱っていたようだった
隣の檻が無くなったことで次は自分の番だと確信した
次の瞬間檻が持ち上がる
「わっ!」
ガタンと大きな音が響いて床に転がり落ちる
少し痛かった
よく見ると檻の一部が曲がっている
明らかに蹴られた
私にしてはひっくり返ってしまった狭い檻では身動きが取れなかった
ずりずりとだんだん檻は床をずって移動する
たまに毛が巻き込んで痛い
「どうする?」
「1番上にあったやつかき集めてきたけど」
「水前やったけど、ガスのときより楽しかったよな」
「じゃあ今回もそうする?」
「両方なんてどうですか?」
「水でギリギリまで削ってガス室に放り込みましょうよ」
この人たち
完全に動物の命で遊んでいた
飼ってくれる人のいないどうしようもなくなったペット達を殺処分するのは知っていた
今は自分の楽しみのために動物を掻っ攫う奴がいたらしい
ガス室はまだわかったが、水というのはなんだろう
ちょうど今喉が渇いた
水を飲ませてもらえるのだろうか
「はーいかわいい犬猫達〜」
「こっちですからね〜」
男はそう言いながら檻をひとつずつ開けていく音が聞こえる
なにが行われているのだろうか
それは自分の番が来て初めて分かった
「次は大きいこの子かなぁ?」
「やり甲斐があるねぇ」
檻の蓋を開けられ全てが丸見えになった
あのポメラニアンの子が必死な表情でこちらを見つめる
皆は棒のようなものに括り付けられていた
棒は複数あり、全て大きな水槽のようなものに刺してある
その棒に縦になって縛られているのであった
必死で抵抗しようとする
水の意味をやっと理解した
やはりこいつらあたまおかしい
2人がかりで縄を掛けられ棒に縛られる
でも少し緩かったおかげで左の前足がするりと抜け落ちる
今がチャンスと思った
急にその左前足に激痛が走る
「きゃうっ!?」
一生懸命頭を動かしその状況を目視する
釘のようなものが足に突き刺さり棒に固定されていた
もう終わりだということを悟った
ここで死ぬんだなと……
「えーい行きますよ!」
「はやくしろ」
「はいはい」
下の立場に見える男は
水槽横にあった赤色のボタンを押した
月下人狼学園パロ 第十三話「楓救援部隊」
わんこ視点
チャプンと水の垂れる音がする
その音はジャージャー水道の蛇口を捻ったような音に変化する
長い水槽の中に立てられた棒にくくりつけられていても頭はまだ動いた
必死に下を覗き込むと、1番下につけられていた猫がじたばたしているようだ
その振動は上まで伝わってくる
きっと水に濡れて嫌がっているのだろう
でも私がいるここまで水が来ることは確定である
水の音は絶えなかった
しばらくして棒の震えは止んだ
猫の顔あたりまで水が来ていたのだ…
隣の棒でも同じことが言えた
真隣に括り付けられたポメラニアンの子はガクガクと震えている
でも、1番上だからまだマシかもしれない
だってこの後にはガス室が待っているらしいからだ
---
猫丸
坂道を駆け上がったり転がって降りたり
流石に登る時は誰にも見られないようにそっと登った
なんだかんだでもう目に前に学校がある
問題は誰に助けを求めるかだ
beriさん?いや、あの人はちょっと…うん…
ミタマさん?少し頼りない気がする
レイトさん?今必要なのは魔法ではない
色々考えた結果かえでが1番適切だと言う考えになる
ある程度の物理攻撃力に冷静になって考えられる能力もあるだろうと
同じ学年のクーくんも呼んでいいかと思ったが大人数で行っても怪しまれるだけだと感じた
閉じた門の隙間を抜けて転がる
運動場を横断した時は少し焦った
途中にあった家庭科部の猫のぬいぐるみを借りて階段を登る
今は授業中の静かな廊下を颯爽と駆けていく
1年2組
かえでの教室
知らないはずなのになぜかある記憶が蘇る
教室に着く
今はいい具合に自習をしているらしい
それにクソ担任は寝ている
チャンスだ
教室の後ろから入ってかえでの席まで息を殺して進む
枯風楓の名札を見つける
1番遠い窓側の席だなんて聞いていない
ある程度近づき荷物の影に隠れる
「かえで!」
「僕、猫丸」
「返事はしなくていいから聞いて欲しいんだけど…」
僕がみたわんこの状況を伝える
霊っていうのも案外いいかもしれない
一定の距離までこれば声を出さずとも話すことができるからだ
かえではそれを聞くなりキョロキョロしている
「かえで、どうかした?」
「いやちょっと体調悪くって…」
「そっか、保健室行っておいで」
「荷物は僕が後で家まで持ってくよ」
「ありがとうクーくん」
優しすぎるクーくんの神対応に感激する
かえでが机の上に広げられた教科書などを片付けている最中に教室を出た
教室の外で待っていると出てきたかえでに聞かれる
「場所は?!」
学校の中を静かに走った
廊下を走ってはいけません?
廊下は高速道路ですの間違いだ
小さい僕は門の隙間を抜けることができた
「かえで…どうしう」
どうしてこんな時に限って門に鍵がしてあるのだろうか
普通空けとくだろ!
「猫丸ちょっと下がってて」
「う、うん」
かえでは数歩後ろに下がって助走を付ける
高く飛んだかと思いきや門の上に手をついて体を持ち上げる
跳び箱を飛ぶみたいにしてかえでは門を上から行った
「よし行こう!」
ありがたきファンアート(制服未定なのすんません)
https://files.mattyaski.co/null/12af2a4f-810e-4d41-979c-9c698a108904.png
https://files.mattyaski.co/null/87b3e7ad-0c94-4973-8ddc-fc1c8be4120d.png
かえで作かえで
かえで作フェンリル(能力パロの人型)
https://files.mattyaski.co/null/50f2073d-729d-4d82-a201-9528b35311db.jpeg
わんこ作Coreとフェンリル
月下人狼学園パロ 第十四話「最先端の自動運転車」
かえで視点
学校の目の前にある大きな坂を空き缶が転がっていく
しかも、転がって降りていくには良いが上がっていくのはどこか面白かった
重力を無視して坂を駆け上がる空き缶は普通の通行人もおかしな顔をしていた
「猫丸、それって遠いの?」
周りにもちらほら人がいたが気にせず話しかけた
坂を登る空き缶に話しかけた人は僕が世界初で間違いない
「相手はトラックだったからね…」
「車で移動する距離だとは思う」
「えっ」
長距離を走ることはあまり得意ではない
絶対別の人も一緒に呼んだ方がよかった
猫丸は右側に伸びた道を選んで進んでいく
住宅地が並んだそこの住人しか使わないような道だ
「かえで乗って!」
そう言う猫丸の声が聞こえた瞬間空き缶は動きを止める
少し先にあった4人乗りの白い自動車のドアが勝手に開く
「え!?」
さっきから驚いてばかりだが急いで車に乗り込む
勝手に動くハンドルやレバーに困惑しながらも車はきちんと道路の上を走る
これが最近の自動運転というやつだろうか
「これ僕あんまり横見えないんだけど人とか居たら教えて」
「ちょっと待ってすぐ右にいる!」
車が右に曲がろうとした時小さな女の子が道路に飛び出してきた
すぐにブレーキが動いて車はぴたりと止まる
女の子は何事もなかったかのようにいなくなった
「危ないよ猫丸…」
「ご、ごめん」
「でもあと少しだと思うよ」
「近道してるから」
どうして猫丸がここら辺のことを知っているのかと思えばちゃっかりナビが付いている
住所検索されたその場所はもう近い
猫丸はあんまり近くに停めたら怪しまれるからと言って小さなテニスコートに車を停めた
絶対こっちの方が怪しいに決まっている
さっきからもうめちゃくちゃだがもう気にしてはいられなかった
車の中に置きっぱなしになっていた水入りのペットボトルが動き出す
「こっちだよ」
「待って、待ってよ」
ドアを半分蹴るようにして開ける
そこは小さな工場みたいなものが並んだ場所だった
転がりはせずに本当にペットボトルが走ったという表現がいいだろう
しばらくそのペットボトルについていくと様子がガラリと変わった
ワンッワンッ
ニャー…シャーーー
…ガヴッヴァウッ
動物の鳴き声が聞こえてきた
わんこがいるとするならここだろう
その音が発せられていると思われる建物の外には
汚れて廃れた檻がたくさん積みかなさっていた
少しゾッとした
今からこれが外に置いてあるようなところに入って行かなければいけないのだ
「かえで、いけるよね」
「わんこのためだから…ね…」
あの世界では私はわんこよりも早く死んでしまったのだろう
そんな私が今わんこを助けようとしている
なんともかっこいいのではないだろうか
そんなことを思いながら私はところどころ錆びついたドアを押した
月下人狼学園パロ 第十五話「協力が全て」
かえで視点
錆びついたドアを押した
中に入るとそこには誰もいなかった
右側には動物たちの入った檻が雑に積み上げられている
左奥には何か水の入った水槽が見える
音からして水槽に水を溜めているのだなと予想した
「進もう」
猫丸にそう促されて足を踏み入れる
すると急にバタンと大きな音を立てて開いていたはずのドアが閉まる
びっくりして後ろを向くが誰もいない
本能的にドアを開けてみるがびくともしなかった
「閉じ込められたよ…?」
「わんこはこの先だよ」
「う、うん…」
ヴァヴッ
シャーーー
ワンッワンッ
積み重なれた横を通るだけで動物たちはこちらを向いて吠える
中に入れられている動物は主に犬や猫だが
リスやたぬき、狐などもチラホラ見かける
まずはあの水槽に向かって見ようと左方向を向く
僕はあまりの衝撃にその場で尻餅をついた
「かっかえで!」
わんこ…に見える犬が何か吠えている
大きなそのわんこみたいな犬は水槽に立てられた棒に括り付けられており
もう足は水に浸かっていた
その下に付けられた動物達はもうすでに動いていなかった
「かえで、これがわんこだよ」
「この世界に来てからは少し変わったらしいけど」
「う、うん?」
ペットボトルの手…じゃなくてキャップを借りて起き上がる
巨大な水槽の前の椅子の上に乗って中に手が届くようにした
わんこの前足を止めていた縄を解く
半分ほど解いたところで左足が釘のようなもので打ち付けられていることに気づく
「うわ…」
「わんこごめんね…」
「うんっ…」
力を入れて釘を勢いよく引き抜く
血が滴って増え続ける水に赤い模様が浮かんだ
そう、こうしているうちにも水が増えてきているのだ
わんこの顔が完全に隠れるくらいには水槽の壁は高くなっている
そこから手を伸ばして縄を解くのには限界があった
すぐに右手の縄に取り掛かる
こちらはなんの問題もなかった
ただ右手の縄を解いているうちに水嵩が高くなってわんこの顎下まで来ていたにも関わらず
上の足の縄を全て解いてしまったため
わんこの体は前に倒れる形になってしまった
「わっごめん!」
急いで水の中に溺れるわんこの頭を上にあげる
わんこは前足で水槽の壁の内側を使って体を固定した
わんこの後ろ足が縛られているところまで深く腕を突っ込む
制服の袖は完全に濡れてしまった
「かえで!棒を引き抜いて!」
「えっ?」
「これを引き抜くの!?」
たくさんの動物たちがくくりつけられた棒を眺める
絶対重いし、水の中ということもあって相当大変だろう
そんなものでもたくさしているとわんこが溺れるのも時間の問題だろう
「あ!」
「猫丸!」
「ふぇ?」
「君ペットボトルじゃん!」
「水汲んで捨ててよ!」
「あっ確かに!?」
猫丸はキャップを吹き飛ばして水槽の縁にたった
水槽の中に飛び込んで水をたくさん溜めると勢いで外に飛び出し水を吐き出した
これを繰り返せば少しは時間が稼げるはず
僕はわんこの少し上の棒を両手で掴んで引っ張る
刺さっていた棒の部分は案外簡単に抜けた
「あとは持ち上げるだけ…」
月下人狼学園パロ 第十六話「足痛いんだよてめぇ」
かえで視点
猫丸はキャップを吹き飛ばして水槽の縁にたった
水槽の中に飛び込んで水をたくさん溜めると勢いで外に飛び出し水を吐き出した
これを繰り返せば少しは時間が稼げるはず
僕はわんこの少し上の棒を両手で掴んで引っ張る
刺さっていた棒の部分は案外簡単に抜けた
「あとは持ち上げるだけ…」
ガチャリ
扉の開く音が聞こえる
足音が響き渡り水の流れる音が濁される
「おい誰か来てるぞ」
「まじっすか?」
男2人の話し声
だんだんとこちらに向かってきていることを察した
猫丸が動きを止めてそのまま水槽に浮かぶ
僕は急いで水槽のそばに隠れた
「棒が外れてるなぁ」
知らないうちに1人の男が水槽の前に立っている
前足の拘束だけ外れたわんこをじっと見ている
「そこにいるのは知ってるんだよお嬢ちゃん」
もう1人の男の声だ
すぐ左を向くとそこにはこちらを覗き込んで男が立っている
「っきゃぁ!!」
咄嗟に男の顔を思い切り殴り付けて立ち上がる
出口の方へ逃げようとするももう1人の男が待ち伏せをしていた
知らぬ間に挟み撃ちされてしまっている
「猫丸!」
猫丸は水槽から勢いよく飛び出して水槽側に立っていた男の顔に水をかける
その一瞬の隙に棒ごとわんこを引き抜いてもっと奥の部屋まで走っている
外に出るつもりだったのに
なぜか今はよくわからない長い長い通路を突っ走っている
「ちょっ!ちょっ!」
「後ろ足痛いいぃい!!!」
わんこがどうしてもそう言うので途中で棒をへし折った
下の方に括り付けられていた動物たちはもう皆死んでいた
「かえであれ見て」
猫丸がペットボトルの状態でも方向を指す
壁を見ると赤色でガス室の文字の看板がかけてあった
文字を見た瞬間看板の目の前で立ち止まる
後ろを振り向いた時だった
「あーいお疲れ様〜」
「自分から行ってくれるなんてねぇ」
「えっ」
声が聞こえたのちにガラガラとシャッターが閉まる
来た道には戻れなくなってしまっていた
「先行くしかないよ…ね」
道が塞がったことに謎の安心感を覚えてわんこを下に置く
ちゃんと丁寧に後ろ足の縄も解いてあげる
「ありがとう…」
縛られていた部分は赤く炎症を起こしている
できるだけはやくお医者さんに見てもらわないと…
猫丸は奥へ奥へとスタスタ歩いて行ってしまった
少し痛そうに足を引きずるわんこと一緒に猫丸の後を追いかけた
「ふわぁーあ」
さっきからよくあくびが出る
昨日はちゃんと寝た…はず
そういえばわんこもやたらとあくびをしている気がする
猫丸は…ペットボトルはあくびしないか
ずっと変わらない通路をひたすらに歩く
同じその光景にそろそろ見飽きてきた頃だ
「…わんこ?」
月下人狼学園パロ 第十七話「下校中、ゴミと」
くろむ視点
キーンコーンカーンコーン
久しぶりに聞くチャイムの音
どこか懐かしくも感じられる
「さようなら」
日直の声の後に続いてそう言う
ほとんど口を動かすだけで声を出していなかったが
挨拶が終わった途端にみんなガサゴソカバンの中に教科書やら課題を入れたりしている
その中で1人だけ何もせずに教室を出ていく背中が見えた
すぐに俺も適当に課題を押し込んで教室を出た
少しだらしなく男子制服を着ていたその背中はなぜか見覚えたがあった
制服自体見ることが今日で初めてのはずなのに
過去にどこか雰囲気を感じたことがあったのだ
少し急ぎ足で階段を降りてその人を追ってみる
俺よりだいぶ早く教室を出たせいで、結局靴箱に着くまでにその人を見ることはなかった
「おーいくろむー」
一足先についていたレイトが外で待っている
なぜか名前をたくさんの人の前で呼ばれるのが恥ずかしく
完全に下を向いきながら靴を履いた
「他に誰か来た?」
「まだ来てないよ」
「多分俺が1番最初にここにいて、その次にくろむが来ただけ」
「門の辺で待つか」
人が増えて邪魔になっていると感じたため門の前まで移動した
そこまでに仲良く話しているフェンリルとberiに会った
「先に帰るよー?」
「はーい」
完全にお喋りに夢中になっておりその後も話しながら帰る2人をしばらく見ていた
俺はできればかえでと一緒に帰りたい
なぜかそう思ったのだ
「かえで見てないよね」
「いないねえ」
「てか、ここに来てから見てない人も結構いるから俺何もわからないよ」
「確かにそれはそう…」
たとえ少し前まで一緒に過ごしていた仲間だとしても
全く同じ制服に身を包んでいたら遠目で見ているし判別のしようがないのだ
他に比べて異様に髪の長いberiはすぐに分かったが
かえでを見つけるのはかなり難しそうだった
「どうするの?かえで待ってる?」
「そうするよ」
「レイト先帰ってて」
「なんか待たせちゃってごめんね」
「いいよ〜じゃあまた明日」
その返事だけ聞いて門から中学生の靴箱の方をずっと眺める
だんだんと出てくる人が減り始めた頃だった
「くろむ!!!」
どこから聞こえてきたのか
まず音として聞こえているのかもよく分からない言葉を感じた
「?」
「猫丸だよ!」
ふと足元を見るとさっきまでは絶対になかったペットボトルがひとつ転がっていた
もしやと思い左足で軽く転がしてみる
「ちょっ!やめてよ!」
「今それどころじゃないんだよ!?」
「俺かえでと一緒に帰りたいから待ってるんだよ」
「てか猫丸がペットボトルになってるとか…」
「なにがあったの?」
ここにきて急に冷静になる
俺は今からのペットボトルと会話しているのだ
横を通り過ぎる人たちも異様な目でこちらを見ている
そりゃあ周りから見たらただのゴミに話しかけている変な人にしか見えないだろう
「ちょっと場所を変えようか」
学校をぐるっと回る道の隅までペットボトルを握って移動した
俺が立ち止まるとスポンとペットボトルが手から逃げて地面に自立した
「かえでとわんこが色々あって…」
「えぇ?」
そこから5分ほど猫丸の熱弁をひたすら聞いていた
途中からかえでに関しての話題しか耳に入ってこなかったが
とりあえず状況は一刻を争うそうなので急いで現場に向かうことにした
お久しぶりです
これからはちゃんと投稿していけると思います
よろしくお願いします
月下人狼学園パロ 第十八話「死への誘い」
--- 30分前 ---
かえで視点
「じゃあね!」
「絶対戻ってきてよ!」
「うん!」
「誰か呼んでくるよ」
壁に開いていた小さな穴から猫丸を外に出した
使える人を助けに呼んでくれるといいんだけど…
そしてさっきからわんこの様子がおかしい
進むにつれて謎の異臭が漂い始めたが、そのせいだろうか
さっき倒れてしまったままのわんこを抱いて歩いている
匂いはひどくなるばかりだ
灰色の薄汚れたような壁が続いている
先ほどまではちらほら見えた張り紙はだんだんと数を減らしていき
今歩いているところでは全く見ていない
行き止まりはもうすぐだった
急に黒い壁に切り替わり、不規則に穴のようなものが壁に開いている
集合体恐怖症の人が見たらひとたまりもないだろう
そしてそれとほぼ同時にわんこの息が上がっていた
とても辛そうに息をしているのだ
わんこの吐いた息はどこか熱を帯びており、なにか異常がありそうだった
「もしかしてこの穴から…」
そう声に出した瞬間、両側から風が吹いてきた
壁の穴から出ているらしい
わんこのことしか気にしていなかったが、自分も何かおかしいことにその時気づいた
息はゆっくりと深く
前に踏み出す足はふらついていた
だんだんと頭がくらくらし始めて立っていることも難しくなってきた
とりあえず壁にもたれて座り込む
わんこは明らかにおかしなスピードで呼吸を繰り返している
背中からぶわっと空気が流れ込んでくる
その空気を吸い込んだ時からか
呼吸が苦しくなり、床にうつ伏せになる
そこからの記憶は…ない
その時には
もう頼れるのは猫丸だけだったのだ
---
ミタマ視点
「ちょっと猫丸!はやい!」
「急がなきゃダメって言ってるじゃん!」
高速で転がるペットボトルの後をひたすら追っている
住宅街に入ってから
猫丸は家で隠れてすぐ見えなくなってしまう
そのため俺は全力ですぐ後ろを走っている
「それはわかってるんだよっ…」
かえで…
かえで…
ずっとそんなに仲が良かったわけでも
話をしていたわけでもない
でも今はかえでのこと
その一心で向かっている
今こんなに走れているのもそのせいかもしれない
「あともうすぐだから頑張って!」
猫丸はそう言って工事現場のすぐ脇を転がっていく
「ここを左に行ったところ!」
「あの檻がたくさん置いてあるとこだよ!」
「え?」
「あんなところにかえでがいるの!?」
俺の質問を返す前にペットボトルの動きはぴたりと止まった
生きてもいないものだが死んでしまったかのように動かない
「えぇ」
仕方がないのでその檻がたくさん出ている建物に向かう
かえでが檻の中に入れられていることを想像すると足が早く動いた
古くところどころ廃れた工場っぽい建物
小さなドアには錆びついた鉄のドアノブがひとつついている
ガチャガチャ
「あれ」
ガチャガチャ
「開かねえ…」
「猫丸どこ行っちゃったんだ…」
ヴヴヴヴヴヴヴヴッヴヴッヴウウウウウン
「!?」
大型の作業車のど太いエンジン音のようなものが響き渡る
その音に混じって少し高い声でこう聞こえる
「どいてぇー!!!」
月下人狼学園パロ 第十九話「まだ大丈夫」
くろむ視点
「どいてぇー!!!」
俺は急いでその視界に飛び込んでくる大きなものの反対側に移動する
久しぶりに前転なんてするせいで少し背中が痛くなった
次の瞬間ドンッという鈍い音とエンジンの呻き声が高鳴って聞こえた
もしやと思ったが猫丸がこの作業車に乗り移ったらしい
運転席には誰も乗っていないからだ
そして猫丸の操縦が下手くそなのか
ぶつかっている部分はかなり出入り口から離れた場所だった
その工場みたいな建物から伸びる
通路のような場所に猫丸はぶつかっていた
「えい!こんなんじゃ入れないじゃんか!」
ひび割れた壁にこれでもかとエンジンを唸らせ打撃を加える
少し後ろへ引いてぶつかることを繰り返しているうちに壁が崩れて小さな隙間ができた
そしてその隙間ができたと同時に
作業車のほうは完全に壊れてしまったらしい
ころころ足元でペットボトルが転がる
「じゃあ行こっか」
まずそこがあの工場とちゃんと繋がっているかは知らないが
猫丸はここから逃げてきただけあって色々知っていた
どうやら通路に穴を開けたのも作戦のうちらしい
「ここからずっと奥に進んでくの」
「だけどちょっと待っててね」
猫丸が言っていた方向とは違う方向へ猫丸が進んでいった
ペットボトルが1人でに転がっていく絵面はなんともシュールであった
今更な気もするが冷静になって考えるとやはり少し面白いのだ
少し経ってから猫丸は帰ってきた
ペットボトルじゃなくて、ガスマスクだったけれど
「ガスマスク?…なんでそんな物騒なものが?」
この時にはもう勘付いていた
そんな危険な場所にかえでがいるなら今すぐにでも助けに行かなければ
スズメのようにジャンプをして地面を進んでいる猫丸を拾い上げて頭から被る
大きさはぴったりで息をすると小さな音が鳴る
「なんか変な感じだね」
「僕被られてるのか…」
「うん、じゃあ先を急ごう」
会話を続ける気配もなく俺はかえでのいるところまで急いだ
猫丸の案内を聞きながら進んでいくが
どうもその場所は不気味で薄暗い
ところどころに貼られている紙がここで死んだ人の遺書のように感じられた
書いてある内容を見るにそんなことはないはずなのだが
「ここから僕は逃げてきたんだよ」
「かえでに追いつくならもう少し急いだ方がいいかもね」
猫丸にそう言われて足元に穴が空いていることに気づく
確かにかえで達はもうずっと奥に進んでいるのなら
こちらがかえでより早く向かわなければ追いつくことはできない
だがその心配はいらなかった
曲がり角を曲がってしばらく歩くと黒い壁に移り変わっていった
不規則に穴が空いており何か空気を吹き出している
これがガスマスクがいる要因だろう
「あ!あそこ!!」
壁の穴に気を取られていたところ猫丸がそう叫ぶ
咄嗟に前を向くと壁にもたれかかって眠っているかえでがいた
その側にはわんこが寝ている
「これは…寝てるだけ?」
「そうだよね」
「そうだって言ってくれ」
「…」
猫丸は何も言わなかった
多分、分からなかったのだと今になって思う
猫丸が返事をしないので不安になった俺はすぐにかえでを背負ってわんこは猫丸に任せた
あの車を動かす時みたいに猫丸がわんこを動かしているのでどう見ても生きているように見えた
月下人狼学園パロ 第二十一話「妹は奴隷」
beri視点
スマホと財布を適当に鞄に放り込んで外に出る
親がいない間くらい少し外出しててもバレないだろう
どこに行こうかと考えていた時
並んで歩くかえでとくろむの姿があった
どちらとも制服を着ているが、
かえでの制服はところどころ汚れている
「おーいかえでー!」
「どうしたの?」
「あ、べりさん」
「なんにもないよ?」
「それより僕途中で早退しちゃったんだけどその後どうだった?」
ちょっとはぐらかしているように感じる
やっぱり何かあったことは間違いなさそうだ
「フェンリルがかえで探してたよ?」
「それと…なんでそんなに汚れてるのかな?」
何も言えずにあたふたしているくろむを置いてかえでにだけ問いかける
「えぇっと…」
「どうしようくろむさん」
「言っても問題ないよね…?」
「うーん…」
その後私はとりあえず公園のベンチに移動して話を聞いた
30分ほどの時間はあっという間に過ぎていった
「そっかぁ…」
「大変だったんだね」
「わんこは大丈夫そう?」
「猫丸が病院に連れていてくれたはずだよ」
「え?猫丸が?」
かえでがくろむにそう聞き返す
話を聞いていたところ猫丸はちゃんとした人間の姿ではないはずだ
そんな様子じゃあわんこをちゃんと病院に連れて行けるはずがない
「くろむさんは空き缶がわんこを病院まで連れてったって言いたいの?」
「あっ…」
くろむは困った顔をして地面をじっと見つめている
アリでも歩いているのだろうか
「どうする…?」
「近くの動物病院まで行く?」
「ごめん私そろそろ家に帰らないといけないんだけど…」
できればかえで達と一緒に行きたかったが
うちの外出制限はかなりのものだ
親が家に帰って来た時に私がいなかったら相当怒られるだろう
「べりさんばいばい!」
「また明日!」
「じゃあ俺はかえでと2人で探しに行ってくるよ」
「うん…」
ちょっと頼りない気がしたがもう任せるしかない
ベンチから立ち上がり家に向かって地面を蹴った
家の庭が見える範囲まで来たところで安心する
まだ親の車がなかったからだ
また妹に玄関を開けてもらって部屋に入る
「どこ行って来たのー?」
「友達と話してたの」
「お母さんからさっき電話があって」
「道が混んでてすぐ帰れそうにないからご飯作って食べててだって」
「あーい」
作るのは少し面倒くさいが親がいないという点では気が楽だ
カバンをベッドに放り投げてキッチンへ向かう
冷蔵庫を開けると昨日の晩御飯で食べたカレーが容器に入っていた
炊いたご飯も入れてある
「これでいいか」
レンジで温めてお皿に盛る
「うるるできたよー」
部屋まで聞こえるか聞こえないかくらいの声量でそう言う
多分イヤホンをつけていると思うから、聞こえないのだと思う
私はわざわざ部屋まで戻ってururuを呼びに行った
「できたよ?昨日のカレーあっためただけだけど」
「ありがとう!」
「食べるー」
いつもは怒られるが
スマホを食卓まで持って行って動画を見ながら食べ進める
好きな配信者のアーカイブを追いながらカレーを食べた
1時間以上あった長い配信アーカイブだが
ちゃんと全部チェックしておきたいところ
食べ終わってururuに後片付けを全部丸投げしてからも
ururuが風呂を入れてからもずっと
ベッドの上でアーカイブを見ていた
「今日は遅いなぁ」
親が遅れることは日常茶飯事なのだが
この時間まで帰ってこないのはかなり珍しい
部屋にかけてある時計の短針が7の数字を指そうとしている
女子制服デザイン25日くらいまでには仕上げます
月下人狼能力パロ 第二十二話「朝のルーティン」
beri視点
結局親は私が寝てから帰って来た
玄関が開く音で目が覚めた
枕元に置いたスマホの電源を入れる
びっくりするほど明るい画面に目を細めながら時間を確認する
11時45分
その下にはメッセージがいくつか表示されている
おそらくかえでとミタマに任せた後のことが送られて来ているのは察しがついた
メッセージはちゃんと読まないままパスワードを入力してLINEを開く
ミタマ
「あの後動物病院行ったんだけど」
ミタマ
「ちょっと色々あったから学校来てくれたら話すよ」
beri
「おっけーてか君松葉杖ついてたくらいなのに大丈夫そう?」
ミタマ
「大丈夫」
ミタマ
「普通に歩いて学校行くのめんどかったから盛ってた」
beri
「なるほどね…」
ミタマ
「まぁ猫丸のことは明日話すよ」
beri
「はーいありがと」
ミタマはこの時間も起きているのだろう
あっという間に返事が返って来た
一方かえでからはなんの連絡もないので
そのままスマホを閉じてもう一度眠りについた
ピピピ
ピピピ
ピ……。
「んー」
「ねっむ…」
ピピピ
ピ……。
私はすぐ二度寝しようとするので何回もアラームをかけている
今日は特別それがうざったく感じた
多分、今の時間は4時25分
なぜこんな時間にアラームをかけているのかって?
私はほぼ毎日課題をやらずに寝てしまうので
朝にやらなければいけないのだ
設定しまくったアラームを消すためにスマホを開く
ついでに推しの配信予定や動画投稿などもチェックする
大体これに30分くらいかかっている
そうするともうあっという間に5時になる
そこから課題を始めることを考えたらこの時間に起きるのが一番いいのだ
「あ」
「英語の課題だけ学校に置いてきちゃったぁああ」
ガタンと上から音がする
ururuと二段ベッドで寝ているので、ururuが起きたのだろうか
そしてそもそもやらなければいけない課題が手元にないので明日提出する課題をやった
これで「あっ、やるとこ間違えてました(てへ)」ってすればなんとかなるだろう
この方法は何度やったか覚えていない
もうそろそろプロの域だ
課題が終わってからの時間に小説投稿サイトで小説を書いてみたり
YouTubeを見たりしてるうちに6時になった
朝ごはんにはピザトーストを食べた
ガーリックトーストの次に美味しいと思う
でも流石に学校に行く日にガーリックトーストを食べていくのは少し気が引けるのだ
朝はパン派でもご飯派でもないけれど
頻度で言えばパンの方が多い
早く食べられるから楽なのだ(たとえどんな時間に起きていたとしても)
朝ごはんを食べ終えて制服に着替え
顔を洗って歯を磨き、腰上まである長い髪を少し高めのポニーテールにする
「行ってきまーす」
これがずいぶんと簡略化された私の朝のルーティンだろう
この後はあの公園で待ち合わせをしていたレイトと一緒に学校へ向かった
月下人狼学園パロ 第二十三話「みんなの朝」
クーくん視点
「行ってくるかぁ…」
僕の両親はいつも忙しく
父親は海外へ
母親は始発で仕事に向かい
終電で帰ってくる
「猫丸〜?」
「ちょ、ちょっと待ってぇ」
昨日の夜急に猫丸が僕の家に来たのだ
見た目はあの世界線で会った猫丸そっくりだった
同じ人のはずなのにそっくりという表現をするのには理由がある
やっぱり猫丸は元々猫の霊だったこともあってか
この世界線に来てから実体がなかったらしい
猫丸は一度あの世界線に戻ってわざわざ体を取ってきたらしい
あの世界線自体少し架空のもののようなところがあるのだが
そこからどうやってここまで持ってきたのかは分からない
そしてあまり踏み込んで質問をすると猫丸がはぐらかすのであまり深く聞かないことにした
「まーだー?」
「できれば10分前くらいには学校に着きたいんだけど」
そう言って急かすと体に対してかなり大きく見える鞄を背負って部屋から飛び出てきた
靴下が同じ色だが微妙に長さの違う別のものを履いている
「靴下違うよこれ」
「あぁ大丈夫大丈夫」
猫丸はそう言いながら少し長い方を履いている右足を持ち上げて靴下を少し折り込んだ
一見するとなんの違いもないように見える
「大丈夫?行ける?」
「行ける!ごめんね待たせて」
「うん…」
どこか少し
心の奥がもやもやした
---
かえで視点
アラームの音を子守唄のように垂れ流しながら二度寝を満喫している
多分、今の時間は7時半くらい
今起きればギリギリ間に合うだろうか
私の家は結構学校から離れているくせに
ギリギリ自転車が使えない
「起きなきゃ…」
昨日のこともあって少し学校に行くのが不安になっていた
みんなにわんこのこと
そもそも昨日あったことをなんて言おう
もう遅刻することを前提としてゆっくり起き上がる
親はもうあっという間に出勤しているらしく、リビングのテーブルには冷めたトーストが2枚置かれている
冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注ぐ
「はぁ…」
どうしても学校に行く気が起きない
自分でも不思議なくらい自動的にくろむさんとのLINEを開く
かえで
「あのこともあるけど」
かえで
「学校行きたくないなぁ」
くろむ
「俺がみんなに説明しておいてあげるから」
くろむ
「明日頑張って学校来てね」
この時間に返信しているくろむさんもまぁまぁ遅い時間に起きたのだろう
くろむさんの言う通り、今日はもう学校を休んで明日ちゃんと行くことにした
朝ごはんのトーストをかじる
焼いてからやはり時間が経っているので
冷たいバターの乗ったトーストは少し味気なかった
牛乳をレンジでチンしてホットミルクにする
学校に縛られずに少し余裕のある朝ごはんはいいものだ
そんなことを思いながらホットミルクの余韻に浸かっている
時計の長針は今日も真面目に働いていた
月下人狼学園パロ 第二十四話「遅刻魔ふぇる」
beri視点
一緒に歩いてきたレイト以外とは特別誰とも会わずに無事教室まで辿り着いた
「べりおーはよっ!」
「ひゃっ!?」
しおんが後ろから肩を叩いてきた
まだ荷物も下ろしてないのに…
「びっくりした…」
「今日ちょっと遅いじゃん」
「どうしたの」
この世界線は普段どれくらいの時間に学校に来ていたかなんて知らないが
少なくとも前の現実世界だったら門が開く頃から来ていたはずだ
「なんともないよ」
「気分」
「へぇー」
自分の机の横にカバンを掛けて椅子に座る
窓側の席には秋の少しだけ冷たい風が吹き込んでいる
「フェンリルはまだ来てない?」
「あの人いつもおそいじゃーん」
「家遠いのかな」
そんなに遠くはなかったはずだが
フェンリルが早起きするとは思えないので当然のように思えた
ただ普通の学校のように朝の会を終えた頃まで結局フェンリルは来なかった
「これで朝の会を終わります」
ガララララ
「おくれましたぁーっ…」
かなり息を切らして搾り出すような声でそう聞こえた
くるりと後ろを向いて教室の入り口を見てみる
フェンリルだ
日直が少し戸惑っていると、先生が早く進めるように促した
今まで先生なんて気にしたことがなかったが
担任の先生は結構ふわふわした話し方をする女の先生だ
年は30代前半といったところだろうか
「ありがとうございましたー」
私は朝の会が終わるなりなんなりフェンリルの元へと向かった
「昨日色々あったらしいよ」
「ん?かえでの話?」
「そう、帰ったらLINEで送るね」
「ありがとう」
「なんの話してるのー!」
「!?」
しおんがまた肩を叩いて後ろからやってきた
基本この登場なのは少し迷惑である
作者どうにかしろや
「!?」
「あーなんでもないよ」
「昨日の話してただけ」
「昨日?なんかあった?」
「いやしおんは関係ないから大丈夫」
「えー気になるー」
しおんがフェンリルの机の端を掴んでぐらぐらさせている
「そんなことよりそろそろ文化祭の準備が始まるけど」
「しおんは何かもう考えてある?」
「あ!そうそう」
「今年は全学年合同で取り組んでいいらしいんだよ」
「私部活の先輩と一緒にやることになってるんだよ〜!」
しおんはなんの部活に入っているのだろう
そして私はそもそも部活に入っているのだろうか
「しおんって何部だっけ?」
フェンリルがそう聞く
「べりと一緒で美術部だよ?」
「てかフェンリルもそうじゃんどうしたの」
「アッー」
面白いことにこの3人は美術部らしい
しおんと文化祭で動ければ楽だろうと思ったけど
これだと難しい
「まぁまだ日にちあるっちゃあるし決める時間あるよ」
「後で困らないようにしてねー」
「うん…」
もし私が何かやるなら
あのメンバーたちと一緒に出し物がしたいと思った
学年もバラバラになっているがなんとかなるだろう
家に帰ったら連絡してみよう
「そろそろ一時間目始まるね」
しおんが時計を眺めながらそう言う
「え!一時間目なんだっけ」
「理科だよ」
「後ろの黒板に書いてある」
「それじゃあねー」
フェンリルの席から離れて理科の教科書を後ろのロッカーから取ってくる
どんな先生がくるんだろう
月下人狼学園パロ 第二十五話「しばくぞ」
beri視点
「おはようございまーす」
私が教科書を机の上に置いた直後くらいに先生が入ってきた
少しだけ低い声をした男の先生だ
そしてなぜかサングラスをかけている
それに加えて黒いマスクをしていて黒いスーツを着ているせいで
某探偵アニメに出てくる犯人にしか見えない
おはようございますが少し無理やり声を張り上げているような声だったのもあって教室がざわついている
「野良先生どうしたんですかw」
一番前の席の男の子が少し時間が空いてからツッコんだ
「今日の授業に必要なんだよ〜」
これから一体どんな授業が始まるんだ
周りがなにやらコソコソと話している
「しおん、野良先生っていつもこんな感じだっけ?」
「なんか今日は一味違うね」
「今日は人体についての授業のはずなんだけどなぁ」
どうしてよりによってこの先生の初授業を受けるのに
今回だけこんなことになっているんだろう
キーンコーンカーンコーン
「はい授業始めまーす」
「挨拶」
「起立」
「今から一時間目の授業を始めます」
「お願いします」
「おねがぁーいしまぁーす」
「着席」
野良先生は白いチョークを持って黒板と向かい合っている
左上の方に「動物のからだのつくり」と書いているようだ
書き終わったところで赤いチョークに持ち替えてそれをぐるぐる囲っている
「はい!」
「今日の授業は前回の細胞のことは終わって今回からはこの単元に移ります!」
なぜかハイテンションでそう言い終わった後
スーツのボタンを外し始める
中には白の地に臓器がプリントされているTシャツを着ている
臓器場所もそのままで、少し面白い
「人間の体の中はこうなっています」
「はいじゃあここの名前がわかる人いるかな!」
右手を胸に当てて野良先生がそう言う
位置的に心臓が正解だろうか
ドンドンドンドンドン
「???」
教室のドアが大きく揺れながら音を立てる
外から誰か殴っているようだ
すりガラスの向こうには黒い影が見える
ドンドンドンドンドン
ドンドンドンドンドン
ドンドンドンドンドン
その音は止むことを知らない
野良先生は不審に思い叩かれていない方のドアを開けて廊下を確認する
ちょうどそのドアを開けた時だ
「しばくぞ」
しっかり
はっきり
こう聞こえた
「えっ…ッスゥー」
野良先生は廊下を覗き込んだままフリーズしている
気になった生徒たちも立ち上がって一緒に廊下を覗き込む
「べり、私たちも行こう」
しおんに腕を引っ張られて私まで行くことになった
そこではラップでもやってそうな格好をした
かなりガタイのいい男が水バケツを片手に持って
もう片方の手でドアを叩いていた
月下人狼学園パロ 第二十六話「しばかせろ」
beri視点
「しばくぞ」
その男はまるでそれが鳴き声かのようにして
しばくぞしばくぞ呟いている
それでも思いっきり廊下を覗き込んでいてもずっとそのドアを叩き続ける絵面は少し面白い
それと同時にこう思った
「こいつこっちから入ってこればいいのに…」
「ばかじゃんねw」
しおんが少々煽り気味でそう言う
ちゃんとそれは聞こえていたのか男はくるっとこっちを向いて
ドアを叩くことをやめた
廊下に身を乗り出していたしおんが急いで教室に戻る
そしてその頃には大事となりいろんなところから先生が駆けつけた
教室では危ないので体育館に移動することになった
その数分後にはパトカーが運動場に数台停まった
何があってもその男は不動で警察に連れて行かれた
ずっとこちらを見つめていた
はっきり言って
めちゃめちゃ怖かった
「しおんがあんなこと言ったせいじゃない?」
「えー関係ないよ多分」
体育館で待機していなさいと言われたものの
フェンリルはトイレに行ってきますと言って体育館を出た
そしてそれからずっと帰ってこない
「これから全員家に帰ります」
「家に帰っても鍵がなかったりする人は先生に言ってください」
「どうするしおん」
「フェンリルいないけど」
「そのうちもどってくるっしょ」
「うーん…」
その後は先生の言った通り全員家に帰った
フェンリルはそれまでに一度も見ることはなかった
家に着いて親に説明をしたあと
すぐにLINEを開いてフェンリルの様子を確認する
beri
「フェンリル生きてる?」
beri
「怖かったね」
思った通りすぐに既読は付かなかった
いつもならフェンリルは一瞬で付くのだが
代わりにしおんから連絡が来た
しおん
「フェンリル生きてるよw」
しおん
「なんか怖くて先帰っちゃってたらしい」
beri
「まじ?」
beri
「フェンリル既読付かないんだけどそういうことか」
しおん
「今私のところ付いたわ」
beri
「見てみるわ」
そう言われたので私も確認すると無事付いていた
フェンリル
「先に帰ったことあんまり誰かに言わないでね…」
フェンリル
「|紫音《しおん》が|氷鈴《べり》に言ったらしいけどさぁ…」
フェンリル
「でもあの人なんか|風澪葵《ふれあ》が関わってるって聞いたんだよね」
beri
「風澪葵?誰?」
フェンリル
「あのモロトフと一緒にいた人だと思う」
フェンリル
「今高1だったはずだよ」
beri
「あぁ…トトちゃん追いかけ回してた人か」
フェンリル
「そういえばトトちゃん見てないな」
フェンリル
「元気にしてるといいんだけど」
またこの世界で再び会える人が増えるのは嬉しい
フレアとモロトフとも仲良くやっていければいいけど…
新シリーズを計画しています
能力パロ繋がりにするかすら考えていませんが
登場人物は申請制にしようと思います
恋愛要素も書きたいのでそこらへんOKな方は私のところまでお願いします
ファンレターでもリクエストでもなんでも受け付けます!
よろしくお願いします!
月下人狼学園パロ 第二十七話「おはようトトちゃん」
トトちゃん視点
「|都々《トト》〜ご飯できてるけど食べれそう〜?」
「ごめん…いらない…」
「しっかり休んでよー?」
「うん…」
この世界線に来た途端
ベッドの上で熱がある状態で目を覚ました
もうこれで数日は経つがまだ治らない
一体私が何をしたって言うんだ…
早くくろむの言っていた
みんなと学校に行ってみたい
「げほっ…げほっ…」
まだしばらく治りそうにはないな…
悪寒がひどいので厚い羽毛布団をかぶっていた
けれど途中で暑くなって汗が止まらない
いつの間にか布団は蹴って足元でぐしゃぐしゃになっていた
枕を横にして抱き枕のようにして抱きしめる
枕は少しずつ湿っていった
あまりに咳をしすぎたせいか、喉が今までにないくらいの激痛が走っていた
「う"ぅ"っ…」
こんなに綺麗に濁点がついた「う」を言ったのは初めてだろう
でも、それくらい本当に痛かった
痛みで泣くことなんて小学校の頃以来じゃないか
--- 翌朝 ---
起きた時間は午前9時30分
絶対治ってないと思っていたのでアラームもかけていなかった
風でカーテンが揺れる
それに伴って窓から光が差し込む
少し眩しい
枕元に置いてあった体温計に手を伸ばす
ピピピ ピピピ ピピピ
昨日は何度も聞いたこの音
体調は良かったがまだ熱はあった
朝ごはんは普通に食べた
昨日の夜作ってくれていたおかゆがまだあったから
それにふりかけをかけて食べた
「お母さん用事あるから、ちょっと出かけるよ」
「はぁーい」
朝から何かバタバタしていると思ったら
急いで玄関を出て行ってしまった
お父さんはもう知らないうちから家にいなかったし
弟も私が寝ている間に保育園に行ってしまったのだろう
ピロン
リビングのソファに置きっぱなしだったスマホが鳴る
beri
「トトちゃん?」
beri
「トトちゃんともLINE繋がってたなんて気付かなかったw」
beri
「学校来てる?」
beri
「私が見つけれてないだけかな?」
beriからメッセージが送られてきていた
時間を見るに今日送ってきたらしい
トトちゃん
「熱があって行けなかった…」
トトちゃん
「今は体調いいから、多分明日には行けると思う」
トトちゃん
「学校はどう?」
トトちゃん
「楽しい?」
するとすぐに返事が来た
beri
「あ、トトちゃんおはよう?」
beri
「学校楽しいよー!文化祭もあるんだよ!」
この時間に返信ができるとは
どういうことだろうか
トトちゃん
「べりちゃんなんで今返事できるのかなー?w」
beri
「べっべつにスマホ持ち込んでこっそりいじってたわけじゃ」
トトちゃん
「あるんですねー?w」
beri
「はぁい()」
トトちゃん
「授業ちゃんと受けるんだよ?いいね?」
beri
「もちろん」
beri
「じゃあ休み時間そろそろ終わっちゃうし戻るね()」
トトちゃん
「ばぁーい」
誰かとLINEが繋がっていたことにまず驚いた
学校に行くのがさらに楽しみだ
まだ今日は終わらないけど
早く治るように祈ろう
新企画の登場人物今のところ5人は申請来ております
恋愛要素混ぜたデスゲームっぽく仕上げたいなと思っておりますのでぜひ参加したい方教えてください
月下人狼学園パロ 第二十八話「(^ν^)」
beri視点
文化祭が近くなり、文化祭の準備を進めている
今まで50分間の授業だったのが45分になって6時間目の後に文化祭の準備時間が設けられたのだ
準備とは言ってもとても自由で何をすればいいか分からない
とりあえずフェンリルと一緒にあのメンバーを探しに行くことになった
「まず1年生のクラスに行こう」
フェンリルはそう言って階段に向かう
確かここの真下が中学1年生の教室だったはずだ
そして中学1年生にはかえでとクーくんがいる
私が教室に顔を出すなりなんなりその2人はこちらに走ってきた
「べりさん!ちょうどよかった」
「何も思いつかないし一緒にやる人もいなかったから!」
かえでがすごい笑顔でそう言った
「他に誰がいたほうがいいかな?」
「トトちゃんは今熱出してるし…」
「とりあえず高校生の方の校舎行ってみよ?」
「やっぱ頼り甲斐がある人いたほうがいいと思うから」
フェンリルはそう言いながら学校の地図のような物を指差す
「こっちが1年生」
「こっちが2年生」
「2年生だけなんか中学校の校舎に溢れてるんだよね」
「じゃあそっちから行こう!」
1番近い高校2年生の教室まで足を急がせる
中学生の教室とは比べ物にならないくらい盛り上がっていた
その中で割と隅っこの方に1人でいる人がいた
「ん?w」
「あれレイトじゃねw」
思わず笑ってしまった
苗字の通りにここまで影にならなくてもいいのに()
机にはちゃんと|影山 冷橙《かげやま レイト》と書いてある
「おーいレイト」
「何してるの?」
よく見ると机の上に瓶を置いて何かやっている
ここでも錬金か何かして遊んでいるのだろうか
「あっ!ふぇる!」
「べりもかえでもクーくんもどうしたの?」
レイトは席を立って廊下まで歩いてきた
「今ね、すごいもの作ってるんだよ」
「これ」
試験管の中に入った赤色と青色の液体が
紫色の煙を出しながら渦巻いている
「これ飲めるの…」
勝手に飲むものと判断して言葉に出してしまう
「飲めるよもちろん!」
「名付けてけもみみts薬!!」
「もう名前から分かるよね?w」
「ひぇ…」
どうやら文化祭の出し物に使うつもりらしい
「これを飲んだレイトにメイド服でも着させてメイド喫茶やんない?」
「え?作った本人が飲むの?」
「俺だけ!?」
「えーだってひとつしかないじゃん」
「まだあるよ」
レイトが指差した机を見ると
同じ試験管に入った同じ液体が3つほど置いてあった
「じゃあ3人メイド服着れるね()」
クーくんがふざけてそう言う
「もちろんクーくんも着るよね?」
「えっ?やっぱレイトだけ…」
えー新企画の方ですが
皆さんのご協力によりあっと言う間に9人の登場が確定しました
とりあえずはこの9人で進めていきたいと思います
途中参加も全然できそうなストーリーにしていくので後からでも受け付けますよ〜!
今のところ新企画は
・能力パロと関係性はない
・デスゲーム風
・恋愛要素あり
・バトルは未定
・学園パロと同時進行
の予定です(未定が予定なんていう矛盾は気づかなくていいんですよ)
他にもリクエストあったら是非お願いします
参考にさせていただくかもしれません
月下人狼学園パロ 第二十九話「錬金術師」
beri視点
「えー私はふぇるに着てもらいたいなーメイド服」
「ふぇっ!?!?」
急にフェンリルの顔色が変わる
「ほ、ほら薬は合計で4つしかないんだよ?」
「僕が飲まなくてもレイトとクーくんとミタマとか猫丸連れてこようよ?」
「猫丸そういえばどうなったんだろ?」
かえでがフェンリルの話を遮ってそう言った
「猫丸なら僕の家から学校に通えるようになったんだ」
「多分1年生の教室にいるけどクラスが違うんだよね」
確かにあの世界線にいた時もクーくんと猫丸は仲が良かった
それもあってかクーくんの家に猫丸がいることについては
なぜか安心したのだ
「で…結局どうすんの?」
「もちろん薬を作った俺は絶対飲むけど」
「それ男から女+けもみみしか無理?」
「いや、その逆もいける」
レイトのその一言で沈黙が広がった
今はかえでと私で見つめ合っている
「べ、べりさん?w」
「かえでに飲ませたらミタマ怒るかな?w」
そんなことを話していたらレイトが席に戻って残りの3つを持ってきた
「これ飲んでから効果が出るまでの時間ランダムなんだけど」
「結構時間かかる予定だから今から飲んでもいいかも」
「そんなに文化祭はやかったっけ???」
クーくんがレイトに食いついて質問をした
「あ、まだ中学生組は知らないのか」
「ちょっと早まったんだよ」
「なぁんだってぇ!?!?」
全員ほぼこの反応である
遅くなるならまだ理解できるが早くなるのはちょいと待て
せっかくならいつになったかも聞いておこう
「え?いつになったの?」
「来週の土曜日じゃなかったっけ?」
「は?今日木曜日なんですけど」
なんともう準備には2日も残されていなかった
おい、どういうことだってばよ
「????」
何かレイトに騙されているのではないのかと
訴えるような顔でフェンリルやかえでの頭の上にははてなマークが浮かんでいた
「てことで…場所移動しよっか^^」
どういうことか被害者を増やすため
レイトはいろんなクラスを回ってあのメンバーを集めた
そこから校舎を出て
裏側の木が生い茂ったところまで移動した
ここは職員室の窓がひとつ見えるだけで
先生たちは誰も来ない
窓から離れた場所ならばもう最強なのだ
「はーい点呼しまーす」
「べりさん」
「はあぁい」
「かえでさん」
「はい」
「クーくん」
「はい」
「猫丸さん」
「はいっ」
「くろむさん」
「えこれがちでやんの?」
「(圧)」
「は、はい…」
「フェンリルさん」
「はい(ガクブル)」
「こんなもんかな」
「じゃあ俺は確定でひとつ飲むから」
「残りの3つはくじ引きで決めるぞ」
そう言ってレイトはいつ用意したのかわからない片手に握った割り箸くじを差し出した
「この中に赤色で塗りつぶしてあるものが3つ入っている」
「さー誰からでもどうぞ引いてください」
「こういうのは1番最初に引けば当たらないんだよ!!」
フェンリルが勢いよくそう言って
レイトの握っている割り箸をひとつ引き抜いた
そして安定の沈黙である
フェンリルの引いた割り箸は
確かに、赤かった
「ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
レイトは満面の笑みで試験官をもう片方の手で持ちフェンリルに近づく
そして思いっきりフェンリルの口に差し込んだ
「ゴボッヴッゴボボボッ」
明らかに聞こえてはいけない音まで聞こえるのは気のせいか
全て(無理矢理)飲ませたあと
レイトは何もなかったかのように切り替える
「次に引くのは誰かなー?^^」
皆さんありがとうございます
10人の応募によって無事新企画「ジニア」を開始することができました!
https://tanpen.net/novel/series/0738c443-2421-4ef9-b489-f110f67564ca/
是非こちらと並行してお楽しみください!
月下人狼学園パロ 第三十話「呪いの薬」
beri視点
「ひえぇえ…」
倒れ込んでぐったりするフェンリルを見て全員後ろに一歩下がる
「お、おい次誰だよ」
「俺は絶対引かねえぞ」
くろむはレイトからだいぶ遠ざかって猫丸やかえでを押し付けている
「えーい私最後〜!」
絶対に飲みたくない私はくろむの背中にしがみつく
その結果レイトに1番近い位置に来たのはかえでだった
「えっ…」
「はーいかえで??」
かえでの後ろにいる猫丸にかえでが押されてレイトに近づけられる
割り箸を握った手をレイトが差し出して圧をかける
「えぇっ…」
かえでが圧に負けて手を伸ばす
「うえぇええええい!!!」
かえでが引き抜いた割り箸を空に掲げる
綺麗な割り箸は次の猫丸を焦らせていた
「しゃあっ!!」
「男になんてなってたまるか!!!」
満面の笑みでみんなの後ろにかえでが座る
フェンリルは相変わらず地面でもがいている
「うぅっ…これ以上の被害者は…出さないでくれ…」
「大丈夫飲んですぐはこうだけど2日くらい経てば見た目にも変化が現れるよ^^」
すっごい悪い笑顔でレイトがそう言う
でもかえでがハズレを引いてしまったせいでハズレが減ってしまったのだ
そう、残りの割り箸は残り4本
私とくろむ、クーくんに猫丸の分だ
そしてアタリはあと2本
つまりこれから先は単純計算で2分の1でアタリなわけだ
だがここで猫丸がアタリを引けば確率は3分の1まで下がる
しかし猫丸がハズレを引いたらどうなるか
そう
3分の2でアタリになってしまう!
それだけは絶対に避けなければいけない
1番最後に並んでいるくせに今1番汗ばんでいるのは絶対私だろう
「はーいじゃあ次は猫丸かなー?」
「ゴクリ」
そろりそろりと猫丸がレイトに近づく
レイトは何やら手をゴソゴソさせているようだ
ハズレ引かないでお願い…お願い…
猫丸は沈黙の中一本の割り箸を掴む
「これでいい?」
「うん…」
ゆっくり引き抜いた割り箸は綺麗な蒸栗色
どこにも見つからない赤色に冷や汗が流れた
「残念ハズレ〜」
「やったぁあああああ!!!」
ニッコニコの猫丸がかえでのところへ飛び込んで行った
クーくんの顔色は明らかに悪くくろむと押し合っていた
「ちょっ…お前が先に行けよ…」
「やだっいやだっ…」
「くろむさん先に引かないのー?かっこわるーい」
ここでかえでの痛恨の一撃
くろむは目の色が変わってレイトにしがみつく
「俺が先に引きます」
「wwwwwwwww」
あたりは爆笑に包まれた
くろむが勢いよく引き抜いた割り箸は真っ赤に染まっていた
「(・∀・)←怒ってる」
「おめでとうwww」
レイトがそれを言うのと同時に試験管を口に突っ込む
「はぁ…はぁ……」
「まずっ……」
「はーいくろむもフェンリルのとこ行こうね〜^^」
「ふぇるぅううううう」
「くろむぅううううう」
てかこのままだとここのメンバーから猫丸以外の男がいなくなる
これは大問題である
だがクーくんがハズレを持ってったら私アタリが確定してしまうのだ
複雑な心境だった
月下人狼能力パロ 第三十一話「お楽しみ」
beri視点
いつのまにか大盛り上がりを果たしている会場も一気に静まり返った
クーくんがゆっくりそろりそろりとレイトに近づく
「すぅううううううっっっっっっっっ」
「はぁああああああああああああああああ」
「ではクーくん」
「どうぞ」
レイトが怪しい笑みを浮かべながらクーくんに割り箸を差し出す
クーくんはそれを両手で包み込む
一本を手探りで探して被せた両手で握りしめる
「これだぁああああああ!!!」
クーくんがあまりにも勢いよく引き抜くので
残り一本の割り箸も同時にレイトの手から飛び出す
落ちたその割り箸は綺麗な赤色に染まっていたと言う
「ハズレだぁあああああっ!!!」
クーくんがそう叫んだあと
全員が私の元に走ってくる
逃げようとした私はすぐに捕まえられて地面に転がり込んでしまう
レイトのからになったはずの手には試験管が持たれていた
「や…だ…」
もうすでに被害にあったフェンリルとくろむが悪い顔をして体を押さえつけてくる
「僕達は飲んだんだよ?」
「1人だけ逃げるわけなんて」
「許さないよ?」
そこからの記憶はない
気づいた時には自分の部屋のベットの上だった
---
「んえぇ…」
残っている記憶を巡れば
多分、あの後は試験管に入っているあの劇物を飲まされたはず
レイトは確か効果が出るのは二、三日後だと言っていた
ベットの上に置いてあるデジタル時計はあの事があってから日付が進んでいた
今日は土曜日か
なのにもうすでに頭が痛い
これがその薬の効果なのは判断がつかなかった
ピコン
スマホが1人の時間を遮るようにして音を鳴らす
かえでからのLINE通知だった
かえで
「お機嫌いかが^ ^」
かえで
「くろむさんはもうやばいらしいよw」
beri
「あじ?」
beri
「私頭痛い以外はまだ何ともないわ」
かえで
「ならフェンリルの様子一緒に見に行かない?」
かえで
「フェンリルの方が一応先に飲んでるし効果出ててもいいよね」
beri
「いいですなぁd( ̄  ̄)」
かえで
「おっけー1時にフェンリルの家で集合ね!」
beri
「りょーかい!」
かえでからそのことを聞くと自分のことよりフェンリルのことが気になる
フェンリルが性転換&けもみみ…
少し自分でも気持ち悪いと思ったがニヤニヤが止まらない
ベットから飛び起きて親が準備してくれていた昼ごはんを食べ、着替えて支度をする
それでもまだ時間があったが早く着く分にはいいだろうと15分早く家を出た
途中でフェンリルの家に向かうかえでの姿が見えたので走って追いかける
「あ、べりさーん!!」
「べりさんも早いねえ」
「やっぱ気になるよねーw」
「もちろん!」
「一緒に行こー!」
そうして私はかえでと一緒にフェンリルの家まで行くことになった
月下人狼学園パロ お知らせ
現在イラスト作成中です
出来次第投稿いたしますのでよろしくお願いしますm(__)m
ジニアの方は変わらず投稿していきいます!
月下人狼学園パロ 第三十二話「計画」
いつもより短いです
あれから色々あった
フェンリルの家にかえでと行った時
フェンリルは恥ずかしがって玄関を開けてくれなかったことは鮮明に覚えている
レイトはなぜだか喜んで大量の自撮りを送りつけてきた
ミタマはなぜかかえでとは絶対会いたくないらしく
元々だった引きこもりを悪化させている
そして今度は私の番
今は文化祭前日の夜
私だけずっと効果が現れずに少し心配されていたが
そんなことはなかったようだ
「待って胸消えてる…」
「肩幅も広くなってね?」
「てか声も低くなった気がする」
「あっ!狼耳生えてる!!」
今は薬の被害者たちと通話中である
ミタマ、フェンリル、レイト、私
この4人だ
「文化祭に間に合ってよかったねー」
レイトは笑いながらそう言った
もうミタマ、フェンリル、レイトに着せるメイド服は用意してあるが
私は何をすれば良いのだろう
「俺たちはメイド服…着るんだろ?」
「べりは何すんの?」
「何も無しは嫌だよ?」
ミタマはどうしても私に何かさせたいらしく
さっきからずっと提案してくる
まともなものなら引き受けてもよかったが
全てふざけていてネタとしか受け取れないようなものばかりだ
メイドカフェと同時進行でべりのホストクラブもやろうとか
道ゆく女子たちを捕まえてこいとか
なんなら路線が怪しくなったものまでいくつかあった
本当に頭がイカれている
「私もメイドカフェ行くからそれじゃダメ…?」
「店員に男はダメですー!」
「じゃ、じゃあ客として行くからさ!」
「えー」
少しの間沈黙が響き渡る
メイドカフェやらメイド喫茶をやろうと言っているのに私が客側に行って良いものか
「じゃあ受付みたいにやる?」
「1番人目に触れるし良いんじゃね」
フェンリルは悪意しかないような笑い方をしてそう言った
それはめっちゃ恥ずかしいのでできればやめていただきたいのだが
描いたイラストを紛失しましたべりです
紛失したイラストはメイド服フェンリルとミタマですね
ずっと学園パロ書かずに放置してたせいでこうなるんだよ(((
テスト期間なので投稿頻度ほぼ0になります
これが今まで書いてた分です()
月下人狼学園パロ 第三十三話「準備から本番です」
結局話は男になった人たちは別でホストを開くことになって落ち着いた
もちろん全力で反対した
けれど平等にいこうということで仕方がなくだ
ちなみに男になった人とは言えど
男皆強制参加なので私だけではなかった
ホストに参加するのは私とクーくんの2人だ
1人だったら何があっても絶対にやりたくなかった
ところが2人となると私だけやらないのも申し訳なかったのだ
--- 文化祭当日 朝5:00 ---
「…」
「…」
「…」
「ピピピ」
「ピピ…」
「ふにゃぁ…」
「あっ!文化祭だああああ」
いつも朝からテンションが高い方ではないが
今日は特別スイッチが入った
本当は行きたくなかったが
レイトに直してもらうための薬をもらうためにも
文化祭には出席しなければいけなかった
絶対にみんな来るだろう
文化祭の準備は早い
特に私たちのやる出し物はまだ内容がふわふわしているので
そこもちゃんと決めなければいけなかった
絶対に前日にやっておかなければいけないことだった
メロンパンを押し込むように食べ
いつもより入念に歯磨きをして髪を整える
腰上まである長い髪は切ったほうがいいかとも思ったが
戻った時にショートなのは嫌だったのでそのままだ
元々ロリ顔だったせいであんまりかっこよくはないが
ロング系男子も悪くない
いつもよりも緩めに一本に束ねて家を出た
学校に向かう最中には驚くほど誰もいなかった
この時期だんだん朝日が登るのが遅くなる
もうそろそろ5時半になるというのにあたりはまだ暗い
少し冷えた空気が緊張で熱くなった体を冷ましてくれた
「べーりさんっ!」
朝一番に聞いた声がこれだ
元気いっぱいのかえでの声
正直これだけでだいぶやる気が出た
肩をとんとんと叩いて来るかえで
いつもはかえでに身長を抜かされているが
今日はかえでを見下ろして挨拶ができることが少し楽しかった
「おはよーかえで」
「あれれー?かえでちっちゃいなぁ?」
「背縮んじゃったのかなぁ?」
少々煽り気味にそう言うと
かえでは「べりさんがデカくなっただけでしょ!どうせすぐ戻るんだよ!」
と反論してきた
この状態がずっと続いてほしいとは思わなかったが
いつも見下ろしてきていた人を見下ろすのは大変気分が良い
そのままかえでと2人で話しながら学校に向かった
学校の門付近では猫耳を必死に隠そうと帽子を被ったレイトと会った
確かにそんな耳で歩いていたら少し変人扱いされるだろう
そうすると不思議に思うことがたくさんあった
この世界線は現実なのに
そこへ異世界っぽい要素が無理矢理押し込まれているのだ
今回で言うところのレイトの薬だろう
あまり周りに話さないほうがいいし
バラさないほうがいいのは絶対なのだが
この文化祭の間だけはコスプレということで突き通そうと思う
うまくいけばいいのだが
--- 文化祭当日 朝6:00 ---
「うん知ってたよ!」
「絶対5時半とか全員集まらないって!」
「だけどここまでとはね…」
「誰とは言わないけどねぇくろむくん?」
「ごめん…」
かえでの説教を受けたくろむが猫耳を低く垂らしながらうつむいている
「いいけど準備急がないとまずいよ」
「9時スタートって言ったって」
「衣装用意しかしてないしどうやってやるかも決めてないんだから」
いつものほほんとしてそうなかえでが今日は張り切っている
レイトやくろむ、フェンリルにフリルのついたメイド服を渡していく
教室まるまるメイドカフェ用に飾り付けをしてしまったのでどうも落ち着かないが
着替え室は他の人達がうじゃうじゃいるのでここで着替えてもらうことにした
「じゃあそこ3人はそれ着てもらって…」
「べりさん制服着てね?」
「誰のサイズが合うかな」
「え、フェンリルがいい」
サイズのことなど特に考えなしにそう言ってしまった
結局ピッタリだったので良かったが
まさかフェンリルの制服が着れる日が来るなんて思わなかった
「あれ?」
「かえでもメイド服着るんだよ?」
クーくんがそう言ってもう一着のメイド服をかえでに差し出す
「女子全員、だからね!」
「平等平等♪」
「うわぁ…」
とんだ策略である
なんやかんやで見た目だけはどうにかなった
あとは何をどう提供するかだ
メイドカフェ定番のオムライスが作れるようにそれだけの準備はしてあるが
この3人にオムライスを教えるかえでがかわいそうである