ここは柏駒中学校、『推理小説部』。
しかし『推理小説部』というのは名ばかりで、彼ら彼女らは
学校での事件を解決するため、躍起になっているそうだ__。
ちなみに略称は『しきぶ』です。
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目次
四季折々・推理小説部 #1
「ちわ〜す」
気怠げな声と共に、1年生の|瞬木《またたき》|春汰《しゅんた》が部屋に入る。
ここは|柏駒《かしこま》中学校、3階の角。『推理小説部』の部室。
『推理小説部』の主な活動内容は、文化祭での推理小説の紹介等、発表。
それから、学校内で起きた事件を解決することだ。
故に、『推理部』と呼んでいる生徒も少なくない。
「春汰くん! やっほ〜」
部長の|暁月《あきづき》|秋音《あきね》が本を置き、手を振った。
「……部長、そのクソ分厚い本なんすか? もしかして筋トレ中ですか?」
「元気そうで何よりだよ春汰くん。あとこれ、『ハリー・ポッター』。ダンベルじゃないから」
重そうな本を持ち上げ、表紙を見せる秋音。
「久しぶりに読みたくなっちゃってさ〜」
「……ちなみに、英語版」
小さな声で補足したのは、2年生の|塔堂《とうどう》|夏葉《なつは》だ。
彼女は部屋の隅で、ライトノベルを読んでいる。
いつもブックカバーをつけているので、表紙は見えない。
「部長も相変わらず……化け物じみてて何よりですよ……」
夥しいアルファベットの羅列をスラスラ読み進める部長に、素直に引いた。
青ざめる春汰に、秋音は笑顔で応じる。
「ところで夏葉、|冬希《とうき》くん知らない?」
秋音はくるっと向きを変え、夏葉の方を見る。
|雪峰《ゆきみね》冬希、夏葉の同級生。
そして何より幼馴染である夏葉なら、彼の居所が分かると思い、訊く。
「……どうせ、ナンパ中」
しかし、辛辣な言葉が返ってきただけだった。
秋音は苦笑を浮かべる。
「夏葉もやっぱ知らないかぁ……いつもはもっと早くに来てるのに」
もうとっくに放課後だ。秋音は顎に手を当てる。
刹那、扉が勢い良く開いた。
「先輩〜〜〜! 助けぐえぁっ」
「「黙れ」」
「酷くないすかぁ?! 夏葉はともかく、春汰は後輩なのに!!」
扉を閉めて追い返そうとする、夏葉と春汰。
2人のこういうときの連携は凄まじい。
「迷惑だから黙ろうね、冬希くん?」
仕方ないので喚く冬希に秋音が笑顔の圧をかけ、黙らせる。
「で、どうしたの? トイレならあっちよ?」
「先輩、春汰の悪いところ感染ってません? __いや、それどころじゃなくって!!」
慌てふためいている冬希に、3人の視線が集まる。
「オレが集団カンニングの首謀者じゃないかって、疑われてるんすよぉ!!」
四季折々・推理小説部 #2
__「オレが集団カンニングの首謀者じゃないかって、疑われてるんすよぉ!!」
冬希の発言に、3人は驚愕する。
夏葉は「……何があったの、冬希??」と目を見開き、
春汰は「言葉が足りませんよ、先輩」と溜め息で心配を隠し、
秋音は「冬希くん。詳しい事情を教えて」と促した。
「ふー…………すみません。順に話します」
冬希は深呼吸を1つする。近くにあったパイプ椅子に座り、静かに語り出した。
---
「__最近、抜き打ち小テストの平均点が異様に高い」
数学の授業中、|宮代《みやしろ》先生がそう言った。
「こんな事を言いたくはないんだが、集団カンニングではないかと思っている。協力してしまった人は、なるべく早く自分で言いに来てくれ」
丁度話が終わったタイミングで、チャイムが鳴った。
授業終了後に先生が去ってから、教室内には重い空気が漂っていた。
グループで集まったり、友達の近くに行ったりして、コソコソと話をしている。
「__アイツじゃね、アイツ__」「__えー?__」「__わ、私じゃないからね?__」「__あの人じゃなーい?__」
みんながオレを疑いの目で見ている__そんな、気がした。
1度そう思ってしまうと、どんどん汗が出てきて。
挙動不審になってしまって、それが何よりもいけなかった。
今度はハッキリ、クラスメイトたちの目が確信の目をしていた。
---
「それで、耐えきれなくなって。みんなが教室からいなくなるまでトイレに篭って、そのあとここへ……」
大体の事情は把握できた。全員が思考に集中しているのか、数秒間だけ静まる。
「ふんふん……なるほどね。冬希くん、お疲れのところ悪いけど、2、3質問をしていい?」
「はい、なんでも訊いてください」
冬希は顔を上げ、秋音に向き合う。
「これは確認なんだけど。冬希くんはカンニングはしていないのよね? 心当たりもない?」
「もちろんっすよ! テスト中には疑われそうなことをしないように、心がけていますし……」
「そのテストの内容はどんなものだったの?」
「至って普通の、記号選択問題っす。10問程度あったと思います」
「ふむふむ……ありがと、なるほどねー」
優しくそう言ってから、秋音はテクテク歩き回りながら考え込む。
「……冬希は、馬鹿だけど頭いいから」
ふと、夏葉が呟いた。
「疑っちゃうの、分かる。ただの馬鹿に、馬鹿な方法で手を貸しそうだから」
その言葉を聞いた秋音は、ふふっと微笑む。
「……ん? オレ今褒められたの? 貶されたの?」
「要するに先輩は馬鹿ってことですよ」
「そんな直球に貶されてたの!?」
「うん」「はい」
「夏葉だけは頷かないで!!」
いつもの調子に戻った冬希に、秋音は内心で安堵する。
「静かにね、3人共。__それから安心して冬希くん、誤解は解いてみせるから」
四季折々・推理小説部 #3
__「安心して冬希くん、誤解は解いてみせるから」
秋音はそう胸を張った。
「マジすか先輩!! あざーっす!!」
「と言っても、確証はないんだけどね……。可能性ならいくつか思いついたわ」
落胆させないよう、可愛らしく頬を掻いて誤魔化す秋音。
「じゃあ、更に絞っていくよ」
後ろから「来た、秋音の質問攻めタイム」「フゥ〜〜〜」と野次が飛ぶ。ガン無視。
「テスト中に何か物を落とした人はいた?」
「えーっと……いなかったと思います」
「貧乏揺すりとか歯ぎしりみたいな、癖で音を鳴らす人っている?」
「います、ひとり……。歯ぎしりが酷い人が」
冬希の返答に、秋音はニッと口角を上げた。
「ビンゴ……いや、確証はないからリーチね」
少し考える素振りをしてから、
「最後に冬希くん、次の小テストはいつ?」
と問うた。
---
今日くらいに、例の抜き打ち小テストが行われるはず。
冬希は緊張感を覚えた。
__「わ、分かんないっす……抜き打ちなんで、予告されないんですよ」
__「でも、ある程度の予想は立つでしょう?」
__「まぁはい」
__「じゃあテスト中、冬希くんは耳を澄ませていて。問題は間違えないよう、でも聞き逃さないよう」
__「わ、分かりました。けど……いい加減教えてくださいよ、カンニングの手口」
__「そんなの簡単よ〜」
先輩は軽い言い方で告げた。
__「《《歯ぎしりをしている秒数で、答えを教えているのよ》》」
---
「あ、冬希くんやっほー。……どうだった?」
部室に入ると、秋音が手を振って出迎える。
『どう』というのは、言わずもがな、集団カンニングのことだろう。
「ビンゴでした……流石っす。先輩」
そのタイミングで、部室の隅から「冬希、説明。説明求む」「ずっと僕らだけ蚊帳の外じゃないっすか」と夏葉、春汰が出てきた。
「先輩、『歯ぎしりで答えを教えている』つってたろ。歯ぎしりを1秒したら答えはア、2秒ならイって具合に教えていたんだと思う……。クラスメイトに歯ぎしり酷い奴がいてさ、ソイツが犯人のはずだ」
そう言った冬希に、秋音が続く。
「きっと彼は、緊張時に無意識でしてしまう歯ぎしりを利用したんだろうね。日常的にしていたのなら、バレる心配もないし」
秋音の推理力に、夏葉と春汰はただただ感心した。
「緊張時に歯ぎしりをする人もいるって言うし。__ちなみに冬希くん、先生には言った?」
「はい。ちゃんと説明してきました……来週までには、先生から話があるんじゃないかと」
その『彼』とやらに予想がついたらしい夏葉は、秋音に訊く。
「彼、カンニングとかするようには、思えない……。秋音部長。理由、分かる?」
「うーん、そこまでは分からないなぁ。でも__」
夏葉の長い前髪から、ぱっちりした目が覗く。
「歯ぎしりをしてしまう理由のひとつに、ストレスがあるの。もしかしたら、彼にも事情はあったのかもね?」
まぁ、と秋音は語った。
「事情なんてみんなにあるものだし。一緒くたに被害者とか犯人とかで括ってしまってはいけないわよね」
ここで一区切りつくので、《序章》完結ということにしましょう。
次はどんな事件が起きるのでしょうか。
まだ登場が少ない、春汰、夏葉メインの話も増やしていく予定です。