トランサーチェイサー 第2章
編集者:風野芽衣明
これは元の人間に戻りたいと願う探偵と その仲間たちの物語。多くの仲間を得るも 手がかりをつかむことはできずにいた、元に戻ることは出来るのだろうか?
トランサー鎖(チェイン)こと睦月 燐(むつき りん)、トランサー消(イレイズ)こと睦月 凍矢(むつき とうや) そして多くの仲間たちにより展開するお話です。
1タイトルを数話に分けて書いております。
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目次
燐とチェイン
|燐《りん》:「完全に閉じ込められたのか」
|悪夢《ナイトメア》:「随分余裕なんだね♡ |宿主《やどぬし》さん。いや、ちゃんとした名前で呼ばないと。 …燐!」
閉じ込められたにしては冷静にドームの壁を調べていく。そんな中 |悪夢《ナイトメア》は片膝を立てるようにして座り じーっと燐の動きを追っていた。
一通り調べ終わり |悪夢《ナイトメア》と向かい合って座ると燐から話しかける。
燐:「えっと あなたのことはなんて呼んだらいいんですか?」
チェイン:「アンタ 状況わかってんの? 仲間は誰もいないし誰も入れない。いるのは私と燐だけなんだよ? まぁ 私のことはチェインって呼んでいいよ、別に敬語じゃなくていい」
燐:「チェインって トランサーとしての本能を受けいれた私ってこと?」
チェイン:「そうだよ。 人を襲い自分と同じトランサーへ変える、それがトランサーとしての本能。 基本トランサー達は流れている〈血〉に支配されている。私も本能のまま動いているだけ、宿主である燐の身体を奪い 操ったんだよ。|磔《はりつけ》にされたことは覚えてないか、意識失ってたし。首に巻きついてた鎖で絞殺したら 燐の《《心は死ぬ》》、完全に私のモノになってたんだよ。
…ハァ 燐 |凍矢《とうや》 |運命《フェイト》の3人だけだよ、本能に抗って 人間の心を失っていないのは。しかも凍矢の|消《イレイズ》で ことごとく人間に戻ってるし、|蒼樹《そうき》やライラのように人間の心を失っていないトランサーも増えてきてるしね」
燐:「チェインは もう1人の私 ってことでいいんだよね 」
チェイン:「さっきから聞いていれば質問ばっかり、|鎖《チェイン》の能力を使う気配も見せないし、アンタは何が言いたいの?」
燐:「私達と一緒に戦ってくれない?」
チェイン:「・・・ハァ?」
---
チェインは 燐の言っていることが全く理解出来ずにいた。自分は 目の前にいる人物の尊厳・プライドをズタズタにし、身も心も支配しかけた。乗っ取れない・燐の中に戻れないと分かれば 悪夢を見せて殺しかけた。
そんな奴に〈一緒に戦え〉なんて普通言うか?
頭がおかしいんじゃないか?
チェインは燐の行動が理解できずにいた。
チェイン:「燐 一体何を言ってんの?」
燐:「ずっと私の中にいたんでしょ? なら凍矢と同じ、チェインがいてくれれば百人力だよ!!! ダメかな?」
キラキラと赤い瞳を輝かせてチェインを勧誘しているが チェインの顔には対照的に怒りマークがいくつも浮かぶ。バッと立ち上がると つかつかと燐の前に歩いてきて 燐も驚いて立ち上がる。大きく深呼吸すると大声で怒鳴り始める。
チェイン:「敵である私が言うのも変な話なんだけど・・・ アンタ バカなの!!?
私は!! アンタの身も心も操って!! 身体を奪えないと分かれば悪夢を見せて殺そうとしたのよ!!?
それに!! なんで《《怒らない》》わけ!!? 自分のことをバカって言われて なんで怒らないの!!?」
指を燐の身体にドスドスと当てながら怒鳴った。
燐:「…だって 私が怒らなければ丸く収まるんだもん」
さも当然であるかのように言う燐を見て ゾクッとした寒気を感じた、そしてそれに呼応したのか 身体の崩壊が少し進んだ。
チェイン:「ハァ〜 これはもう1人|主役《ゲスト》を呼ぶしかないか。少し待ってて」
チェインは凍矢の前に近づき パチンと指を鳴らすと凍矢の目の前だけが丸く消え ドテッと転ぶ。そしてドームは一瞬で元に戻ってしまった。2人で何か話してるようだが 燐には聞き取れなかった。
凍矢:「いってて… 壁が急に消えるなんて」
チェイン:「凍矢、アンタに聞きたいことがあるんだけど」
凍矢:「チェイン!!! 俺はテメェと話すことなんざ…」
チェイン:「私が|燐のことを知っ《出てこられ》たのはごく最近、私よりずっと長く燐のことを見てきたアンタだから聞きたいことなの。
これまで燐が《《怒ったところ》》見た事ある?」
凍矢:「怒ったところだと? これまで俺が怒ることがほとんど、燐が怒ったところなんて・・・2回しかない!! 」
チェイン:「厳密には3回。26年生きてきて
たった3回なんてありえると思う? 燐は 《《怒りという感情が抜け落ちて》》んじゃないの?」
凍矢:「まさか 俺が見てきたのも 声を荒らげてはいるが 実際には怒っていない?」
チェイン:「あいつ 〈私が怒らなければ丸く収まるんだもん〉ってサラッと言ったのよ。
それに… なんだか変なのよ」
凍矢:「変? 何がだよ」
チェイン:「中から操っていた時には全く感じなかったのに、こうして対面すると〈自分のペースは乱される〉し、〈心臓がドキドキして 胸が締め付けられるように苦しい〉し、〈気づけば燐の動きを目で追ってる〉のよ!!
一体私に何が起きてるっていうの!?」
凍矢:「フンっ 俺が知るかよ」
---
強い光は強い影を生む、光と闇は表裏一体。光すら飲み込む闇は数多くあれど 影を飲み込む光は ほとんどない。燐は【影すら飲み込む強き光】、指輪を外しトランサーとして完全覚醒したのである。
心に張った壁が音もなく溶かされ |恋慕《れんぼ》の情に満たされ 心酔し 神であるかのように崇拝していく。発せられる言葉・一挙手一投足に引き寄せられていき、燐と目が合う度に 心がギュッと締め付けられる。チェインの黄金の瞳に浮かんでいた*のマークは消え 代わりにハートマークが浮かび 頬は紅潮していた。燐を自分のモノにするつもりだったのに チェインは自分から囚われにいった。
トロンとした瞳で 燐の方へフラフラと歩いていくと 燐をギュッとフロントハグし 身体や顔を擦り付けていた。
前にメイアもかかった いやメイアの時より更に強力になった【完全な魅了状態】だった。
燐しか考えられないように・燐だけにしか心が向かないよう 強く束縛され、誰にも解放することが出来ないくらいの、ヘイルが燐達に使った【本気の洗脳】よりも強く、もはや【誤認】である。
燐:「チェイン? 急に抱きついたりしてどうしたの?」
チェイン:「りん… ずうっと一緒にいたい♡ 私を 燐のモノにして♡♡♡」
凍矢:「は、ハァ!!!? 何が起こってんだ!!? あれだけ燐を殺そうとしていたのに!!!」
フロントハグするチェインをグッと押し戻すと 両手で身体をギュッと掴む。
燐:「条件がある。それを守ってくれるなら これからも一緒にいていいよ」
チェイン:「なに〜?」
燐:「みんなに しっかり謝ること。 これまでのことを誠心誠意 謝る。 いい?」
チェイン:「うん♡ 燐の言うことならなんっでも聞く♡♡ 私は燐だけのモノ、燐が望むことなら なんっでもするよ♡♡♡」
燐:「そんな事しないし言わないで!! チェインはもう1人の私、大事な仲間なんだもん。
凍矢!! チェインの身体が崩れかかってるから |消《イレイズ》で保護してあげて!」
凍矢:「ハァ!!? 燐!! 本当にいいのか!!? コイツのことを信用して!!?
コイツが燐にしたこと忘れたとは言わせねーぞ!!!」
チェイン:「凍矢おにいちゃん♡ チェインのことを助けて♡」
凍矢:「気安く お兄ちゃんだなんて呼ぶんじゃねぇ!! 態度が変わりすぎて 鳥肌立つだろうが!!」
燐の圧に押され 深いため息をつくと渋々 |消《イレイズ》で悪意を消し 消滅しないよう身体をコーティング、その後 関わった全員の前で謝罪させた。
燐が声を荒らげたシーン
1. キメラ⑤で ヘイルが腕をひねりあげた時
2.不可視⑥で記憶操作しようとしたヘイルに向かって
3.夢⑦で ヘイルが人を襲うはずないと言った時
でした!
・・・誰がわかるか(・∀・)
今話での 燐の力は【上澄み】にしかすぎません。本来の力は別にあります、後々明かしていく予定です!
支配されるもの から パートナーへ①
第2章開幕ですが、まずは この二人の問題解決からです。
--- 7/10 BAR |fortitude《フォーティチュード》 ---
気を失ってしまった|燐《りん》をスタッフルームに休ませ、ミラが様子見している。 何かあればすぐ伝えに来るように命令を与えている。
|氷華《ひょうか》と|稜也《りょうや》が お冷をついで 全員にサーブしていく。
|凍矢《とうや》と|悠河《ゆうが》 |晴翔《はると》と|浪野《なみの》 氷華と稜也と|蒼樹《そうき》(カウンター付近にいる) |夢《ドリーム》/|乃彩《のあ》とアオナ メイアとヘイル(カウンター付近にいる)でそれぞれ固まっており、全員が乃彩達を見つめていた。
凍矢:「話を始める前に ひとまず 自己紹介でもしていくか? |夢《ドリーム》は 初めて会うやつばかりだし」
乃彩:「は、はい。よろしくお願いします…」
凍矢:「まずは俺からだな。|睦月燐《むつき りん》の相棒で もう1つの人格、そしてトランサー|消《イレイズ》の |睦月凍矢《むつき とうや》だ。トランサーチェイサーと呼ばれているが… ハァ そう無差別に消したりはしないから怯えなくていい」
トランサーチェイサー という名前を聞き 乃彩は再度がたがたと震えていた。
悠河:「順番では俺だな。 燐の従兄妹で|香沙薙《かざなぎ》組若頭、トランサー|狙撃《スナイプ》の |香沙薙悠河《かざなぎ ゆうが》だ!」
晴翔:「警視庁捜査一課 異形犯罪捜査係の|九条晴翔《くじょう はると》です! あ、私は普通の人間です」
浪野:「同じく |浪野章三《なみのしょうぞう》だ。九条の上司でトランサー|予知《プリコグニッション》だ」
浪野はサングラスをスっと外し 空色の瞳を見せた。
氷華:「フォーティチュードの店主で トランサー|氷結《アイシクル》の|露橋氷華《つゆはし ひょうか》です。 以後お見知りおきを♡」
稜也:「調理担当でトランサー|豪炎《ブレイズ》の|赤城稜也《あかぎ りょうや》だ!! へへっ よろしくな」
蒼樹:「精神科・心療内科医でトランサー|迅雷《ライトニング》の|長月蒼樹《ながつき そうき》だ。 専門は精神科だが 駅前で精神科・心療内科の病院を開いてるから 不安があれば来るといい。人間だけでなくトランサーも受け入れているのが俺の病院だ、トランサーであったとしても迫害はしない」
乃彩:「つ,次は私達ですね。私はトランサー|夢《ドリーム》 |橋本乃彩《はしもと のあ》です。 この2年で起きている【連続行方不明事件】と称されている事件… その犯人です」
アオナ:「|九条《くじょう》アオナです。 今はノアにメロメロになってる人間です♡♡」
アオナは金色の瞳をキラキラさせ恍惚な表情で ギュッと抱きつき 乃彩は頭を撫でていた。
メイア:「あとはトランサーとは違う私達だね! |風野《かぜの》メイアです!人間と狼と魔法から造られたキメラです!!あ、右腕はこんな狼の腕ですが(・∀・)」
ヘイル:「メイアに組み込まれた人工知能・風野ヘイルだ。今はメイアが作ってくれた器に入っている。左腕もこの通り。
森林公園では怖がらせて悪かったな、あれは|完全獣化《かんぜんじゅうか》態。キメラの本能を呼び覚まし 狼の力に自身を侵食させ 全身を強化するものだ。もちろん動物態にもなれる、メイア 見せてやるか」
2人が並んでバク宙すると【白銀の毛を持つ狼】と【灰色の毛を持つ狼】に姿を変える。尻尾がフヨフヨと揺れて耳がピクピクと動いていた。
氷華:「キャ―――――――――♡♡♡♡ もっふもふのメイアちゃんにヘイルくん!! 触ってもいい!!!?」
メイア:「え、ええ どうぞ」
ヘイル:「感覚はあるんだから なでるのは頭や背中だけにしろよ(#・∀・)
あと こんな姿になったが俺たちは ほぼ人間だ。・・・なでなでには応じてやるから そのリードと首輪をしまえ!!!どっから出しやがった!!!」
氷華の圧に押されメイアとヘイルは なでなでに応じている。
氷華:「あ、私のことはお構いなく
(・∀・)b」
ヘイル:「(こっちはお構いなくないんだけどなぁ(#^ω^) メイアの奴 満更じゃないって顔してるし 完全にとりこになってんじゃねぇか、頼むから犬化するなよ…)」
メイア:「(なでなでされるの 気持ちよすぎてクセになりそうだなぁ~~♡♡ 毎回氷華さんになでてもらうのも迷惑がかかっちゃうから これからは燐になでてもらおうかな♡
えへへ、燐に会う理由がまた増えた♡♡)」
---
晴翔:「乃彩さんが犯人!!? お前が事件の犯人だと!!!」
乃彩:「囚われた人々は従属化を解除して安全に解放します。 その後は煮るなり焼くなり好きにしてください…」
燐達に会ってから すっかりしおらしくなっていた。
浪野:「不死身であるトランサーを焼いたところで何もならん。 まぁ しっかり罪を認めているのであれば保護観察くらいが妥当だろう。 そのアオナという女性も 表情や発言を聞く限り【虜】にしてるようだな、彼女も解放するんだ」
乃彩:「もちろん そのつもりです。 今この場で従属化を解きます」
アオナと向かい合うように座りなおすとチョーカーについてる宝石に手を伸ばす。
アオナ:「ノア? な、何をするの?」
乃彩:「アオナに取り付けたチョーカーは 神経を介してあなたを洗脳するための物、私に向ける感情もまがい物。アオナを縛る枷は今すぐ外してあげるからね。
『その身を包みし|闇影《あんえい》よ 今この時をもって虚空へ消え去れ!』」
支配解放を詠唱するとチョーカーは光となって消えさり アオナの瞳も茶色に戻った。
乃彩:「これで あなたを縛りつけていた枷は完全に消えた。もう私に操られることはn・・・」
アオナはボロボロと涙を流している。
乃彩:「辛かったよね。もう私のことは忘れt」
アオナはノアに強く抱きついた。
乃彩:「あ、アオナ…?」
アオナ:「ノアは私に生きる希望を与えてくれた、無気力に生きてきた私に生きる目的をくれた!人に甘えることを教えてくれた!ノアへの忠誠心を植え付けることが目的だったとしても 私はノアの事が大好きなの!!大切な存在なの!! お願いだから… このまま… 一緒にいてよぉ…」
乃彩:「あ、アオナ…。私もアオナと過ごす内に、気持ちが変わっていったの。アオナの笑顔を・あの声を忘れたくない…って。精神の従属化が完了すれば何時でも肉体を取り込むことは出来た、なのに出来なかった…。私にとってもアオナはかけがえのない存在になった。
アオナが望むのであれば私はいつまでも あなたのそばにいる。 九条刑事・浪野刑事、アオナとこれからも一緒にいてもいいですか…?」
浪野:「被害者全員の安全が確保されるまで我々の監視下に置くが 以後は好きにするといい。凍矢、|消《イレイズ》は当然使うのだろう」
凍矢:「あ、ああ。結局バタバタしてできなかったからな。|夢《ドリーム》・九条アオナ 少し眩しいかもだが この光を見るんだ、|消《イレイズ》!!!」眩しい光が放たれるが、温かい光だった。乃彩の金色の瞳は 淡い黄色、レモンイエローの瞳へ変わった。
凍矢:「これで2人の中から悪意は消えた。|夢《ドリーム》いや乃彩は俺達と同じ側、つまり人を護るトランサーに、アオナは乃彩を支える相棒に生まれ変わった。 今すぐとはいかないかもだが〈パートナー〉として二人で過ごすといいさ」
乃彩:「1つ聞いてもいいですか? 凍矢さん」
凍矢:「凍矢でいいよ、何だ?」
乃彩:「公園で会った時はあれだけ敵対していたのに どうして私達を信じてくれるようになったんですか?」
凍矢:「・・・燐が乗っ取られてしまった時、震えるアオナを真っ先に護っていただろ。それに乃彩は自分が傷つくことを恐れることなく 扉から出てきた【手のようなもの】と戦っていた。
人を護りたいという気持ちが その場しのぎでない、ちゃんと芽生えていたものだと|理解した《分かった》ってだけだ」
乃彩:「そうですか、アオナとパートナー… か。ありがとう 凍矢、浪野刑事も多大なご配慮 感謝いたします」
凍矢と浪野刑事に深く頭を下げた直後 アオナが震えながら乃彩にしがみつくのだった。
支配されるもの から パートナーへ②
|乃彩《のあ》は服の背中部分をぐっと引っ張られるような感じがした。ちらっと目をやるとアオナが乃彩にしがみつきぶるぶると泣き震えていた。
アオナ:「ノア… 怖いよ… 助けて… チョーカーを… チョーカーを返してぇぇ!!!
怖いよぉーーーーーーー!!!」
乃彩:「あ、アオナ!!? どうしたの!?」
ヘイルは ホールでの|もめ事《気配》を感じ取り |氷華《ひょうか》の手を振り切って戻ってきた。人間態に戻るとアオナの状態を解析、〈催眠〉を使うことなく気持ちを落ち着かせソファに寝かせた。
|蒼樹《そうき》:「お前が催眠を使わないとはな、珍しいこともあるもんだ」
ヘイル:「ただでさえチョーカーによって精神支配されてたんだ、これ以上アオナに使えば心を壊しかねない。人工知能である俺にだってそれくらいの|分別《ふんべつ》はある」
蒼樹:「あの錯乱具合 アオナにとってチョーカーは〈ライナスの毛布〉のようなものか」
|晴翔《はると》:「ら、ライナスの毛布?」
ヘイル:「要は 特定のアイテムがそばにないと不安でたまらない ってことだ。アオナにとって それがチョーカーだったんだよ。ただ、あの状態を見る限り普通につけさせたところで収まるかどうか… 相当不安定になっていたからな」
蒼樹:「ヘイル どうする? ブランケット症候群の一般的な治療法としても〈見守る〉しかないが」
ヘイル:「・・・・・・」
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人の心理に詳しい二人が話し込む中 アオナは|凍矢《とうや》に小声で話しかける。
乃彩:「凍矢、ヘイルさんって一体何者なんですか? 人工知能とは言ってましたが催眠って…」
凍矢:「あの発光した瞳を相手に直接見せると洗脳したり催眠をかけることが出来るんだ。解析や作業をするときにも光るから区別をする意味でも〈特殊な声で注意をひいてから瞳を見せる〉ようにしてるんだと。だから瞳を誤って見てしまっても操られることはないから安心してくれ」
乃彩:「そ、そうなんですね」
凍矢:「乃彩、結局|夢《ドリーム》の能力って何なんだ?」
乃彩:「簡単に言ってしまうと |魅了《チャーム》がかかっている瞳を見た相手に夢を見せる ですね。寝ている 起きている関係なく見せることが出来て内容操作もできるんです。
街で起こっていた連続行方不明事件とは 夢を見せ続けることで私に依存・従順にさせ 〈夢世界〉に取り込む。 だったんです。
|消《イレイズ》を受けたので もう|魅了《チャーム》は使えないんですけれどね」
凍矢:「メイアが魅了状態になってたのは乃彩の黄金の瞳を見てしまったから か。ヘイル 相当キレてたぞ、俺のご主人様に手を出して とか メイアを操っていいのは俺だけだってな」
乃彩:「ううっ、あとで謝らないと…。メイアさんには〈ヘイルさんと凍矢が燐さんを襲っている〉夢を見せていたんです。 1度|魅了《チャーム》がかかれば 視覚などの感覚を通して見ることができるので… ほんの出来心でした。
…そういえば私の|魅了《チャーム》が途切れたのって何でなんでしょう?」
凍矢:「それは・・・・・・ |燐《りん》がメイアにキスしたのが理由だ」
乃彩:「り、燐さんってやるときはやるんですね(汗) なんか意外…」
凍矢:「あそこまでノリノリだったのは俺も驚愕だったよ…」
乃彩:「そういえば 凍矢も もう1つの人格だって…」
凍矢:「ああ、本来の俺は燐の中にいるが コピーしたものを仮の器にインストールしたようなものだ。燐の血も流れているからトランサーの能力も使える」
乃彩:「凍矢もヘイルさんも似たような感じなんですね」
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ヘイル:「方針が決まった。 アオナは チョーカーを介し〈ごくごく軽い催眠状態〉にする。効果は【乃彩と一緒にいると幸せを感じる・一緒にいると楽しい】というように《《幸福感を増幅》》させるものにした。徐々に弱めていき最終的にはチョーカーがなくても平気になるようにもっていく 俺たち2人で相談したがこれしか浮かばなかった」
凍矢:「あまり心理系は詳しくないが 本人たちが決めるしかないだろうな」
ヘイル:「ひとまず ただのチョーカーを着けさせて不安が取れないようであれば… だな」
色々話をしている中 人間態に戻ったメイアと氷華が戻ってきた。
メイア:「ヘイル、何かあったの? アオナさんの悲鳴みたいなのが聞こえてきたけど」
ヘイル:「色々あったんだよ、お前らが楽しんでる間にな(怒)」
メイア:「ふーん、そうなんだ」
ヘイル:「そろそろ始めるか。乃彩、まずはアオナに渡していたものと同じチョーカーを作ってくれ」
乃彩:「あ、はい!」
乃彩がアオナの手を包み 力を籠めるとアオナが付けていたものと同じチョーカーが生成される。ちょうど目が覚めたアオナに乃彩が付けさせるも 状態が変わらなかったため 結局催眠をかけることになり 錯乱状態は解消された。
ヘイル:「結局 使うことになっちまうとはなぁ。 催眠は遠隔操作でも弱められるようにした。肉体にどれだけ影響を及ぼすか分からない以上、とりあえず1週間は様子見して 問題なければ徐々に弱めていく」
乃彩:「色々ありがとうございました。それと ヘイルさん」
ヘイル:「俺の事はヘイルでいい、どうした?」
乃彩:「あなたのご主人様であるメイアさんを魅了状態にして 変な夢を見せてしまって申し訳ございませんでした!!!」
深くお辞儀し謝罪する。ヘイルが乃彩の顔を覗き込む、なぜか瞳を発光させ顎クイして。
ヘイル:「全くだ。俺のご主人様に手を出しやがって… 報復として〈自分が操られるのがどんな気持ちか 教えてやる〉ために お前を洗脳し操ってやろうかと思ったが、やめた。 もし何かあれば俺達に力を貸してくれ、それでチャラにする。一応言っとくが 俺とメイアは対等だ、ご主人様ってのも愛称みたいなものだから気にするな。 メイアにヘイル、さん付けしなくていいから これからそう呼べ」
乃彩:「は、はい…」
え? メイアと氷華はずっと何をしていたか?
氷華が狼になったメイアを触り続けてました
(・∀・)
悪夢(ナイトメア)①
話が広がっていく中 ミラが入ってきて メイアの前に跪く。
ミラ:「ご主人様、|燐《りん》様が目を覚まされました」
乃彩:「えっ!? えっ!? メイアさんが
2人!!? しかも跪いてご主人様って!!」
メイア:「燐が!!? なら 丁重に|ホール《ここ》に連れてきて。終わったら中に戻っていいからね」
ミラ:「承知致しました、ご主人様」
目を閉じてお辞儀をすると奥の部屋に戻り 燐を連れてくる。その後 ミラは 元の魔力としてメイアの中へ戻って行った。
|凍矢《とうや》:「燐!!! もう大丈夫なのか!!?」
燐:「しっかり休めたからね、動いても平気」
凍矢:「燐が無事で本当に良かった…!!」
|乃彩《のあ》:「あ、あの」
燐:「乃彩さん、 凍矢の|消《イレイズ》を受けたんですね」
乃彩:「はい、 これからよろしくお願いします…」
燐:「凍矢 乃彩さん達は結局どうなったの?」
凍矢:「被害者全員が安全に解放されるまで警察の監視下に置かれるが その後はアオナと共に過ごしていいってことになった。チョーカーによる支配も解いて、 これからはパートナーとしてな」
燐:「それなら良かった。 そういえば乃彩さんって以前は紅茶専門店にいたとか?」
乃彩:「あ、はい。紅茶マイスターとして働いていたんですが 強盗に刺殺されてしまって。 亡くなったことも大々的に報道され 《《戸籍もない》》んです。 保護観察後は また〈夢世界〉に引きこもることになるかな と」
燐:「〈夢世界〉って 人々を取り込んでいた?」
乃彩:「はい、楽しい夢を見ると自然放出される【正のエネルギー】を使って 生活用品を具現化させて生活していました。 2年で沢山たまってますし ごくごく微量のエネルギーでも数日は生活できるくらい効率がいいんです。
〈|夢世界《あそこ》〉に戻ってアオナと2人きりで過ごしたいと思います、永遠に… とはいきませんけれど」
|氷華《ひょうか》:「ねぇ、話を遮って悪いんだけど 2人ともウチで働かない?」
乃彩 アオナ:「えっ?」
氷華:「ウチは夜のBAR営業しかしてないけど、昼は紅茶専門店として 二毛作営業にしたらいいんじゃないかなって! 調理なら|稜也《りょうや》もいるし 同じ飲み物を扱うお店だから設備の大半は共有して使えるしね。
アオナちゃんには ホールに入ってもらうってのがいいかな♡ もちろん最初は私がサポートにつくから!
まぁ二毛作営業に関しても確定ではないし、保護観察が終了して その後どうするか だから決まった訳じゃないけれど 乃彩さんの資格を活かすって意味でもいい提案だと思うんだけど」
乃彩:「また 紅茶マイスターとして働けるんですか…!!」
氷華:「今すぐ とはいかないけどね。私も良い返事を期待して待っているわ」
ひと通りの話が終わり 今日はお開きとなった。乃彩とアオナだが一時的な住居として メイア、ヘイルが拠点にしている廃ホテルの一室を借りることになった。
深夜・・・
|悪夢《ナイトメア》:「|燐《アイツ》、ずいぶん 楽しそうに話し込んじゃって |夢《ドリーム》とも あーーーんな簡単に仲良くなっちゃうなんてムカつくなぁ。ことごとく計画を潰しやがって・・・。
でもそんな楽しい気持ちをぐっちゃぐちゃに壊されて 一気に絶望に変わる顔を見るのが最高なんだよなぁ!! アッハハ、ハハハハハハハハハハハハハ!!」
|悪夢《ナイトメア》が左手に力をこめると紫のオーラのようなもので包まれる。片膝を立てるようにして座ると左手を床に押し付け 流し込んでいく。
|悪夢《ナイトメア》:「さてと燐?♡ 何日、いや何時間耐えられるかな? ハハハハハハハハハハハハハ、ハッハハハハハハハハハハハハハ!!!」
静寂が包み込む街に笑い声が響き渡り 狂気に染まった表情のなか 金色の瞳が静かに輝いていた。
---
人格分離して以来 凍矢も睡眠を摂るようになった。しかし燐ほど眠る必要は無いため基本ソファに寝転がりウトウトしていた。
目を閉じ 静かにしている中 パチッと目を覚ました。
???:「ううっ… お父さん お母さん ごめんなさい… 殴らないで…」
凍矢:「燐… また|魘《うな》されているのか?」
寝室に静かに入ると胎児のように丸まりながら震えており 涙が流れていた。両親に虐待されていた時の夢、小さい頃から頻繁に見ていた夢であった。
凍矢:「燐が悪夢を見るなんて久しぶりだ。ずっと見ていなかったのに。
・・・ 燐はこうして1人で頑張っている、あんな両親には無理に会わなくていい。心配しなくても俺は消えない、ずっと俺がついている、燐の悲しみや恐怖は全て俺が持っていってやるからな」
いつものように燐の感情を吸収していく。 表情が穏やかになったのを見届けると スっと髪や頭を撫で部屋を後にした。
凍矢:「燐 おやすみ」
深夜のコンビニに行き 牛乳を買って帰る。
凍矢:「朝起きたら 燐の大好きなホットミルクでも淹れてやるか。 そしてその日1日 思いっきり甘やかしてやろうかな、フフフ…」
朝食のメニューを考えつつ 凍矢も静かに目を閉じた。
---
数時間後…
凍矢:「朝か。 あれ? 燐?
おかしいな、ふだんなら起き…て…
何だこの匂いは… `血`? ッッッ!燐!!」
寝室のドアを勢いよく蹴り開け 凍矢の目に飛び込んできたのは
**一面の青**
寝具やパジャマだけでなく 燐の身体も青い血に染まっていた。その血は燐の首からドクドクと流れており、自分の指も青く染まっていた…
トランサーの再生能力により傷が癒えているはずなのに血の勢いは止まらなかった。
燐が自分で首を掻き切っていたこと・現在進行形で掻きむしっていることは明白だった。
凍矢:「燐!!! 燐!!! 何してんだよ!!? おいっ!!! くっ、どうにかして首から手を離さないと!!!」
両手首を強く握り 首から引き離すが 声に反応することはなく強い抵抗感だった。
凍矢:「チッ!! 悪く思うなよ!!!
|光の鎖《チェイン オブ スパークル》!!!」燐はかなり暴れていたが 凍矢は手首足首それぞれに枷をつけ ベッドの下に鎖を通して繋げた。
凍矢:「な、何がどうなってんだ。 なんで燐が 自分の首を掻き切る必要があるんだよ!!!
燐が直前に見てたのは悪夢…夢… まさか」
凍矢は赤の鍵をドアに向けて投げると赤い扉がギィィっと開かれる。中へ入り 目的の人物の胸ぐらをつかんだ。
凍矢:「ドリィィィィムゥゥゥゥ!!!
キサマァァァァァ!!! 燐に何しやがったァァァァァァ!!!」
はい、なかなかにショッキングな回をお送りいたしました。
悪夢(ナイトメア)②
|凍矢《とうや》が殴り込みに来る少し前・・・
---
メイア:「部屋は好きに使ってくださいね、インフラも私の魔力で通してありますから」
|乃彩《のあ》:「えっと メイアって呼んでいいですか?」
メイア:「そうかしこまらなくていいですよ、乃彩さんの方が年上でしょうから。どうしました?」
乃彩:「BARでみた もう1人のメイアって
一体… 跪いてご主人様って呼んでいたけど」
メイア:「そっか まだ紹介していなかったですね」
〈|虚像《プリテンス》〉を唱えると ミラが現れ メイアの前に跪こうとするが そのまま立たせた。
メイア:「私の分身体で 名前はミラ。主に偵察をしてもらってるんです。
ミラ 乃彩さんとアオナさんの護衛をお願い。2人とは普通に話していいよ。 何かあれば|精神感応《テレパシー》で伝えて」
新たな命令を受諾した証に緑色の渦模様が発光し 乃彩達の前でスっと跪く。
ミラ:「乃彩様 アオナ様 |私《わたくし》はご主人様のしもべ、ミラと申します。 いつでもお申し付けください」挨拶が終わると傍に控えていた。
乃彩:「も、ものすごく 礼儀正しい方なんですね…」
赤い扉が開き 凍矢が駆け込んできた。
メイア:「凍矢? こんな朝はやk」
メイアの質問に答えることなく 乃彩の胸ぐらをつかみ怒鳴り散らす。
凍矢: 「ドリィィィィムゥゥゥゥ!!!
キサマァァァァァ!!! |燐《りん》に何しやがったァァァァァァ!!!」
乃彩:「ひっ!! と、凍矢???」
頭には疑問符しか浮かばなかった。当然凍矢の声を聞きつけヘイルも駆け込んでくると乃彩に殴りかかろうとしていたため 〈|腕力強化《フレイム・アームズ》〉を使った両腕で凍矢の腕を背中に回した。
ヘイル:「凍矢!! 一体なんの騒ぎだ!!!」
凍矢:「邪魔するな!! 燐が!! 燐が!!!」
ヘイル:「落ち着くんだ!!! 怒鳴られちゃ状況が分からないだろ!!!」
凍矢:「燐が自分で喉を掻き|毟《むし》って 掻き切ってんだよ!!!」
メイア ヘイル 乃彩:「なっ!!!?」
アオナの目と耳はミラが塞いでいた。(凍矢が殴り込みに来た段階でメイアが命令して)
ヘイル:「ともかく行くしかない!!!
ミラ!! アオナの事は頼んだぞ!!」
メイア ヘイル 乃彩の3人は凍矢に続いて扉に入っていった。
寝室では |光の鎖《チェイン オブ スパークル》で押さえ込んではいたが まだ暴れていた。
ヘイル:「なんだよ この血の跡は。全部 燐の血だっていうのかよ…!!!」
凍矢:「こうなる前 燐は悪夢を見て|魘《うな》されていた。だから 乃彩がまた何かしたんじゃないかと」
ヘイル:「凍矢!! いくらなんでも 言っていい事と悪い事があるだろ!!! ちゃんと謝るんだ。 だが まずは燐をどうにかしないと」
メイア:「あんなに辛そうな燐 見てられないよ!!」
乃彩:「…私が何とかしてみます」
凍矢:「乃彩?」
乃彩:「私も夢に関する能力を持つトランサーです。 悪夢と相殺できるかもしれません。でも… 燐さんにここまでさせる悪夢、私ひとりで何とかできるか」
メイア:「それなら私がサポートにつく! 燐の時と同じように乃彩の力を強化できるかも!!」
乃彩:「メイア…」
凍矢:「一方的に怒鳴り散らしておいて こう言うのは 最低なこと だとわかってる。だが頼む!!!燐を 助けてくれ!!!悪夢から解き放ってくれ!!!」
乃彩:「はい!!」
燐の左手を乃彩が両手で包み メイアが更に包むようにして魔力を送ると 目を閉じ 祈るようにして 悪夢を相殺させていく。十数分後 落ち着きを取り戻し呼吸も穏やかになった燐が 目を覚ました。長時間魘《うな》されていたこともあり すごい汗だった。
燐:「わたし… どうなったの…?」
凍矢:「やっと悪い夢が覚めてくれたんだよ。 燐 おはよう」流れるように頭を撫でている。
ヘイル:「今のところ心拍や呼吸器に大きい問題は無いが これだけ出血したんだ、今日1日は絶対安静だ。輸血できたら一番いいが トランサーに輸血できるか分からないからな」
メイア:「ハァ… ハァ… 魔力を一気に使ったから キメラと言えど 流石にしんどいかも」
乃彩:「わ、私もです。 ここまでトランサーの力を使ったことなかったので。
少し 休みたいかも…」
燐:「凍矢 メイア ヘイル 乃彩。 助けてくれてありがとう」お礼を言うとまた静かに眠った、凍矢が|消《イレイズ》を燐の身体に纏わせ |先のような状態になら《悪夢に魘され》ないよう保護した。
---
次の日 完全回復した燐、メイア、乃彩 そして凍矢 ヘイルが事務所に集まった。アオナのことは引き続きミラが護衛しており 現時点では異常なし との事だった。
凍矢:「乃彩、昨日は急に怒鳴り込んでしまってすまなかった。 人を護るトランサーになったと俺も分かっていたのに」
乃彩:「凍矢は悪くないよ。燐さんを護るためだったわけだし」
ヘイル:「そういう事か、奴の目的は 乃彩と仲間割れさせる・俺達の不和を利用したんだ!」
メイア:「でも そんな事ができるトランサーって」
ヘイル:「|鎖《チェイン》のやつ、ああ 燐の身体を乗っ取った奴な。奴は自分のことを王だって言っていた、別の能力を会得した可能性がある。 あえて夢に関する能力にしたことで乃彩が燐に干渉したと思い込ませ仲間割れさせようとしたんだ。チッ!! 味な真似をしやがって」
凍矢:「チェイン…!! だが奴はどこから燐を襲ったんだ?」
ヘイル:「燐、少し手に触れてもいいか?
もしかしたら残留思念のようなものを辿れるかもしれない」
燐の左手をぎゅっと握ると ヘイルは解析を始める。次に話し始めたのは約5分後だった。
ヘイル:「見つけた。 この上だ」
燐:「上って まさか屋上?」
凍矢:「屋上に妙な気配がある。まさか!!」
赤の鍵で乃彩を送ったあと、燐 凍矢 メイア ヘイルの4人だけで屋上に向かう。
燐:「いない…?」
???:「クスクス 探し人ならここだよ」
声がした上の方を見ると ベントハウスに脚を組んで座り頬杖をつきながら微笑んでいる|悪夢《ナイトメア》がいた。4人は距離をとり メイアとヘイルはすぐさま完全獣化した。ストっと 飛び降りると歪んだ笑みを浮かべ唇に指を当てながら近づいてくる。
|悪夢《ナイトメア》:「|夢《ドリーム》との不和が こうも簡単に消失 しかも私の悪夢も 相殺されるとはね。
ヘイルの情報処理能力も凄まじいよ、1日経てば残留思念なんてほぼほぼ無くなっちゃうのに。
さっすが 最強の人工知能ね♡」
ヘイル:「フンっ テメェに褒められたところで苛立ちしか感じねぇよ」
燐:「あなたが チェイン?」
悪夢:「フフフ こうして顔を合わせるのは初めてだね、|宿主《やどぬし》さん♡
私の悪夢は楽しかった? 自らの手で大量出血させて肉体を衰弱させ 肉体が【血の力】に負けて消滅する。凍矢も道連れに、 って作戦だったんだ♡
まさかこうして生き延びるとは思わなかったよ、仲間の結束力に感謝すると共に 簡単に悪夢に落ち 絶望に染まる自分の無力さを噛みしめたらどう?
ハッハハハハハハハハハハハハハ!!!」
|悪夢《ナイトメア》が指を鳴らすと |悪夢《ナイトメア》と燐だけを包んだ白いドームが作られた。叩いてもビクともしない壁はマジックミラーのようになっており 凍矢達は中を見ることが出来ず音も聞こえなかった。
凍矢:「なっ!! なんだよコレ!!
燐!!! りーーーーん!!!」
メイア:「嘘でしょ!? 完全獣化した私達の爪で壊せないなんて!!!」
ヘイル:「くっ!! 俺の目でも見通せない! 燐、無事でいてくれ!!」
悪夢(ナイトメア)編はエピローグ含め もう少し続きます!
チェインから拓花へ②
|明石《あかし》研究員に連絡を取ると|逢間《おうま》市総合メディカルセンター附属心理科学研究所に向かう。|拓花《ひろか》(外見は|燐《りん》)が情報を入力していく中 |凍矢《とうや》がそばで見守っていた。
ポットに入り 蓋が閉まるとシューと催眠ガスが流れ込んできたため拓花がパニックになってしまう。
拓花:「凍矢!! なんか変なのが流れてきて怖いよ!!!」
凍矢:「拓花、落ち着くんだ。 それは ただの麻酔、眠くなる薬のようなものだ!大丈夫、身体に害はない!! 寝ている間に全部終わるから!!」
マイクを通して拓花を落ち着かせると そのまま眠ってしまう。眠りにつく中 明石が凍矢に声をかける。
明石:「まさか 燐さんに 新たな人格が発現するとは思いませんでしたよ」
凍矢:「まぁ 発現というか もう1人の自分との融合というか なんというか(汗)。それにしても急に電話して悪かったな」
明石:「凍矢さんのおかげでデータは沢山集まっています、お礼を言うのはこちらですよ!」
シューという音を立ててポットが2つとも開いていく。
燐:「ううっ 無事に分離できたのかな」
凍矢:「燐、まだ眩しいだろうし ガスの影響もあるだろうからゆっくり動くんだ!」
拓花:「り〜〜〜〜〜ん♡♡♡ えへへ!!
また会えたぁ!!」
ゆっくりと… と凍矢が言った途端 拓花がガシッとフロントハグしていた。もちろんその光景に凍矢は手で顔を覆って深くため息をついている。
凍矢:「ハァー 言ったそばから…」
燐:「拓花!! 無事に分離できたんだね。
もう身体が消えることはないよ」
拓花:「り〜〜〜〜〜ん♡♡♡ ありがとう!!! 燐の身体、あったかい♡♡(スリスリ)」
燐:「ちゃんと明石さんにもお礼を言って! 明石さん達の技術のおかげで凍矢や拓花が分離できてるんだから」
拓花:「えっと 明石さん、ありがとうございます」ペコリとお辞儀をする。
---
研究所を出ると ショッピングセンター シエルに行き拓花の服を買う。
燐の服装が【黄緑のトップス+キュロットスカート+ベージュのショートブーツ】なのに対して 拓花は【白地に緑のストライプTシャツ+ペールピンクのフード付き袖なしロングブラウス+黒のスキニーパンツ+赤色のスニーカー+黒のリストバンド】という とても動きやすい服装であった。なお全部拓花のフィーリングで選ばれている。
拓花:「燐!! ありがとう!」
凍矢:「いつもズボンなのにスカートって珍しいな」
燐:「まぁ たまにはね。シエルに来たし夜ご飯の材料も買って帰ろうか。拓花、何か食べたいのある? って聞いても分からないよね」
拓花:「…ロールキャベツ食べたい。コンソメ味のロールキャベツ食べたい! 燐が食べてたのを私も食べたい!」
凍矢:「分かった! 流石に今からコンソメは作れないが美味しいのを作るからな!!」
1日動いたり スーパーの中を色々見て疲れてしまったのか、うとうとしだした拓花を燐がおんぶし家路についた。もちろん初めてのロールキャベツも泣きながら食べていた。
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燐:「拓花、夜も遅いから一緒に寝ようか」
夜ご飯を食べ お風呂に入り お揃いの柄で色違いのパジャマに着替えると燐と拓花が一緒に眠りにつく(燐による腕枕オプション付き)。凍矢は静かに事務所を出ていき |氷華《ひょうか》のバーに向かう。以前はポートハーバーで海を眺めていたが最近は氷華のバーに行くことが多くなった。
--- BAR |fortitude《フォーティチュード》 ---
カランカラン
氷華:「いらっしゃいませ、あら凍矢君! こんばんは」
ヘイル:「おっ、凍矢じゃないか」
|乃彩《のあ》:「こんばんは。凍矢」
ヘイルは ホワイトルシアン、乃彩はメロンボール、氷華はソルティドッグを飲みながら3人でブルスケッタをつまんでいた。 |稜也《りょうや》は厨房にいるのか姿が見えなかった。
凍矢:「ヘイルに乃彩に氷華か。 また珍しい組み合わせだが どうしてココに?」
ヘイル:「つい最近から始まった 飲み物好きによる会合中さ。ちゃんと|晴翔《はると》にも許可を貰ってる。
氷華はお酒 乃彩は紅茶 俺はブレンド茶と 飲み物を淹れる奴らの集まりさ」
乃彩:「ヘイルの知識 凄いんですよ!
今の時期ならこれがいいとか お茶請けはこれが合うとか、さすが人工知能といったところです!!」
氷華:「カクテルに関しても造形が深くて、このカクテル達も全部ヘイルが作ったんだけど 私が出してる以上の味でね。どれだけ知識あるのよって感じ。人間ならパンクするくらいよ」
ヘイル:「(チラッ 凍矢?) 2人とも悪い、ちょっと席を外すな」
ヘイルは凍矢に寄り添うようにして ソファに腰かけさせ 見かねた氷華がお冷をサーブする。
ヘイル:「凍矢 大丈夫か? 身体が震えてるし 顔が真っ青だ。 何かあったのか?」
凍矢:「怖いんだ…。燐が… 燐が遠くに行ってしまうんじゃないかと思うと怖いんだ。俺達の手の届かないところに行ってしまうんじゃないかって!!」
ヘイル:「燐が真のトランサーとして覚醒したから か。凍矢の場合 不死であるトランサーすら消滅させる力、しかし 燐のは 心を自分に向けさせ 心変わりしないよう縛りつける。 改心か? いやあそこまで行くと もはやマインドコントロールだな。
俺のとも |夢《ドリーム》のとも違うが 末恐ろしい能力だ、そりゃあ【|原初の王《ヤツ》】が燐を狙うわけだ。
・・・凍矢、未来がどうなるかなんて|人工知能《俺》にも予測できるものではないし プログラミングもされていない。もしかしたら|完全獣化し《あの姿になり》続けたら人間に戻れなくなるかもしれないし 人間の姿を保ち続けられるかもしれない。
まぁ チェイン、拓花の変わりようには俺も 血の気が引く感じがしたがな。 少なくとも今は見守ってやるのがいいんじゃないか? 燐の|守護者《ガーディアン》として。
いい意味で言えば 燐は人たらしってことだ。 俺やメイア 乃彩にアオナ、そして拓花に 凍矢だって例外じゃない。燐の周りにはたくさんの人が集まってくる、物は考えようだ!」
凍矢:「そうだな、俺は燐と拓花の兄貴になったんだ!! そのことはこれからだって変わらないんだ!!拓花の心も まだ赤ちゃんのようなもの、色々吸収していって欲しいかな」
ヘイル:「凍矢は1人じゃない。 話ならいつでも聞いてやる、同じ|守護者《ガーディアン》としてな。それと 1個聞いてもいいか?」
凍矢:「ああ。 なんだ?」
ヘイル:「その《《目》》 やはり燐が覚醒したからなのか?」
凍矢:「目?」
手鏡を生成し凍矢に見せる。 赤い瞳ではあるが瞳孔が金色をしていた。
凍矢:「!!! これは…!」
ヘイル:「1度燐の中へ戻ったんだろ? きっと肉体情報が更新されたんだ。燐も同じようになってるんじゃないか?」
凍矢:「この場合はチェインと言った方がいいか、燐が指輪を外して覚醒、チェインの事を受け入れたから ということか。だが本当に燐の力はマインドコントロールなのか?」
ヘイル:「本来の力は違う ってことか?」
凍矢:「燐の身体は確実に人間から遠ざかっている。もう元の人間に戻ることができるのか すら怪しくなってきた。
…いや考えすぎか。 お前も言っていたもんな、未来がどうなるかは誰にも分からない。なら 未来・運命は俺達で変えてやる!!」
ヘイル:「フフッ いい顔じゃないか」
凍矢:「おっと、悪いな 会合の邪魔しちゃって。3人ともおやすみ」
乃彩:「おやすみなさい!」
凍矢とヘイルの会話を聞いていた氷華はフフっとほくそ笑み 瞳はぼんやりと青く発光していた。
氷華:「心は赤ちゃんか… クスス…」
トランサーになり身体能力が格段に強化された身体であれば 燐でも拓花(160cm 50kg)をおんぶできるかなと思いました。
よく良く考えれば 拓花も成人女性なので おんぶするシチュエーション自体ないような…
いや、介護とか災害避難とかなら大人をおんぶすることもあるか。
フィクションだし いいよな(・∀・)b
拓花の服は仮面ライダーWのフィリップ モチーフです(・∀・)
チェインから拓花へ①
次の日、ソファに仰向けの姿勢で寝転がりながらスマホを触る|燐《りん》にチェインが声をかける。
相変わらず瞳にハートマークが浮かんでおり 金色の瞳もキラキラと輝いていた。
チェイン:「りーーん♡♡ 何見てるの〜〜?」
燐:「服を見てるんだよ、新しいのを買おうかなってね」
チェイン:「りん… 私のことも構って…
忘れられてるみたいで寂しいよ…」
チェインは目尻にうっすらと 光るものを浮かべ 燐に覆いかぶさるようにして乗ってきた、何も知らない人が見れば 完全に押し倒している図である。
燐:「チェインのことは 《《1秒たりとも》》忘れたことは無いよ。 大事な仲間なんだもん」
燐の言葉にキュンとしたチェインは ギュッと燐にしがみつく。
チェイン:「りん〜〜〜〜~!! だいっ好き!!!」
燐:「私もだよ、チェイン!」
チェインの頭を撫でると満面の笑みで応じている、瞳だけでなく全身からハートマークが出ているようであった。
|凍矢《とうや》は キッチンから2人のやり取りを見つつ お昼ごはんを作っていた、もちろん3人分。
凍矢:「(ほんと 牙を抜かれた動物のような変わりようだ。しかもあの仲の良さ、姉妹だっていっても通せそうだ。
あのチェインの気持ちも 真のトランサーとして覚醒した燐によって向けさせられている偽りの感情なんだよな? かつてのアオナが乃彩に向けていたような。
…いや 例えそうであったとしても チェインが向ける気持ちは純粋なもの そう信じると決めたしな) 2人とも!! お昼ごはん 出来たぞ。
今日のお昼はミートソースペンネだ、チェインの分もあるから ゆっくり食べろよ」
燐:「凍矢の料理はすごく美味しいんだよ」
出来合いのソースではなく ミートソースも手作りである。 じっくり火を通されたマッシュルームやひき肉の旨みがトマトソースに溶け出している。 上から振ってあるチーズと共にペンネによく絡み すぐに食べきってしまった。
チェインにとっては生まれて初に近い食事、1口食べた瞬間 パーッと顔が明るくなる。
チェイン:「!!! 初めて ご飯を食べた。温かくて食感が凄くて、美味しい・・・!!!
すごく美味しい・・・!!!」
凍矢:「な、泣くほどなのか。大げさだなぁw
いつでも作ってやるって!」
燐:「チェインは 私達がトランサーになって
すぐ |駿《しゅん》兄さんによって封印されたからね。
トランサーの血によって生み出されて 何も知らないまま19年も封印されて 封印が弱まって外に出られると思いきや トランサーの本能に操られて… 身体は大人だけど 精神いや《《心》》は 赤ちゃんみたいな感じなんだよ。
チェインも別の面で見ると被害者だったんだ」
チェインを挟むようにして凍矢と燐が座り直すと 燐は髪を 凍矢は頭を撫でている。
凍矢:「燐を乗っ取った時は最低な奴だと思ったけど こうしていると短時間であっても 愛情がわいてくるな。なんだか俺達の妹みたいだ!」
燐:「私にとって凍矢はお兄ちゃんのような感じだよ、守護者としてずっと護ってくれているし」
凍矢:「睦月3兄妹の誕生だな!!!」
燐:「うん」
フライパンいっぱいに作ったミートソースペンネはあっという間になくなり、デザートとして買ってきていたアイスを食べる。
燐はバニラ 凍矢はチョコミント チェインは
好みが分からなかったため燐のバニラを半分貰っていた。
凍矢:「・・・そういえば、チェインの能力って|悪夢《ナイトメア》で固定されたのか? それとも燐と和解したことでまた変わったのか?」
チェイン:「えへへ、見てて♡♡」
燐の影に立つとピョンとジャンプして中に入ってしまう。その後 凍矢の影から飛び出してきた。 そして一瞬で燐の所へ戻って行った。
凍矢:「うおっ! ビックリさせるなよ…
影を操る能力に また変化したのか?
光の燐/影のチェインってことか?」
燐:「いつまでもチェインって呼ぶのは物みたいで悲しいから名前をつけてあげたいな。
能力から付けるなら|影《シャドウ》だけど、|鎖《チェイン》と言い、女の子につける名前じゃないんだよな。
|燐《わたし》が 炎系、凍矢が 氷系・・・
植物や自然系・・・
そうだ!! ひろか、 睦月 |拓花《ひろか》なんてどうかな!!」
凍矢:「いいんじゃないか? 燐に凍矢に拓花
悪くないと思うぜ」
拓花:「ひろか か。 燐、ありがとう〜〜〜〜~♡♡」シュゥ--
燐:「身体が…! 拓花、私の中に戻れる? 駿兄さんは 戻ろうとしても無駄だって言ってたけど、私が認めたのであれば戻れるんじゃないかな!」
凍矢:「燐 それなら俺が一緒に戻るよ」
凍矢がチェインの手を握り 精神世界にいた時のことを思い浮かべると 2人とも光となって消えていき 応接ルームには燐と 凍矢が入っていた義体だけが残されてた。
数分後、凍矢が再度戻ってくると…
拓花:「これが 燐の見てる世界??」
燐の瞳が赤から金に変わり キョロキョロしていた。トランサーの〈血の本能〉が具現化した存在であった拓花が、燐の〈第3の人格〉へと変貌した。
凍矢:「無事に戻れたが まさか人格に変わるとはな。燐、これなら俺と同じように人格分離できるかもしれないぞ!」
燐:「うん、明石さんに聞いてみようか」
拓花のことを書いてて なんか既視感あるなと思ったら、
『仮面ライダー平成ジェネレーションズ FINAL ビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー』のパラド君でした。
「永夢ーーー!!」って駆け寄るところとか。
まぁ私はビルドもエグゼイドも未履修なんですけどね(;¬∀¬)ハハハ…
悪夢の後遺症①
|凍矢《とうや》が事務所に帰ると |燐《りん》と目が合った。
凍矢:「燐!? どうした? 眠れないのか?」
燐:「長時間 悪夢を見ていたせいかな、なんか寝るのが怖くて、寝てもすぐ目が覚めちゃうんだ。|拓花《ひろか》はぐっすり寝てる」
凍矢:「そうか。ホットミルクを淹れるから少し待っててくれ」
燐:「う、うん」
大好きなホットミルクを飲み ベッドに入る。しかし 一睡もできず 目にはうっすらとクマのようなものが浮かび 疲れの色が見えているのは明白だった。
拓花:「凍矢どうしよう! 燐が…!
りんがーーーーー!!」
凍矢:「燐…!! どうすれば…」
突然赤い扉が開く。
|乃彩《のあ》:「こ、こんにちは」
燐:「乃彩さん? どうされたんですか?」
乃彩:「燐さん 夜は眠れてますか? もしかしたら悪夢で寝れてないんじゃないかなって、ただでさえ あんなことになったんですから。メイアにお願いして扉を開けてもらったんです」
凍矢:「乃彩はエスパーかよ、まさに今 その話をしていたんだ」
乃彩:「実は|紅茶専門店で働いていた《人間だった》頃、同じようなことを相談されてたんです。睡眠導入剤とかあるんでしょうけれど、もしよければ 不眠症がおさまるまで紅茶を淹れに来てもいいですか? もちろんノンカフェインですよ」
燐:「確か乃彩さんって紅茶マイスターとして働いてましたよね。なら試してみる価値はあるかも」
凍矢:「何かいるものはあるか?」
乃彩:「えっと これがあれば(メモを渡す)。 ごめんなさい、私お金もってなくて」
凍矢:「それくらい心配しなくていい、こっちで材料は揃えておく」
乃彩:「いつも何時くらいに寝てますか?」
燐:「9時半くらいかなと」
乃彩:「であれば7時半頃 また伺いますね。寝る2時間くらい前に飲むのがいいんです」
凍矢:「なるほど。…おい、そこにいるんだろ? 拠点組も良ければ一緒に夕食でも食うか?」
ヘイル:「気配は完全に消してたんだがな、|凍矢《お前》の気配察知能力 恐るべしだ」
メイア:「燐! また来たよ!と言いたいところだけど だいぶ辛そうだね」
燐:「うん、ちょっと不眠症でね」
凍矢:「とりあえず7人分の夕食の材料、そして乃彩の依頼品を買ってくる。燐は少しでも横になるんだ。無理に眠ろうとしなくてもいい、静かに目を閉じて リラックスするんだ」
燐:「わ、分かった」
ヘイル:「俺が燐のことは見とく、心配するな」
メイア:「7人分の材料を買うとなれば ミラを連れてって! 荷物持ちとか雑用させていいから!!」
凍矢:「分身体とはいえ 女の子に変なことさせたくないんだがな。 まぁメイアが言うのならいいのか…?」
メイアと乃彩は先に赤の扉から帰っていき 凍矢とミラは夕食の材料など諸々を買いに出かけ 事務所内は燐・ヘイル・拓花の三人だけとなった。
悪夢の後遺症④
|燐《りん》:「|乃彩《のあ》さんのカモミールミルクティー飲んだからか 今日は寝れそうな気がする。 私は先に寝るね、おやすみ |拓花《ひろか》!」
拓花に挨拶し ベッドに入ると ゆっくり目を閉じ眠りにつく。数分後 音もなくドアが開くと 金色の瞳をした人物がジッと燐を見つめていた。しかしその瞳にはハートマークと《《*のマーク》》が重なって浮かんでいた。
???:「(随分と気持ちよさそうに寝てるわね。一時期は《《私の》》悪夢でウンウン|魘《うな》されてたってのに…。それにしても可愛い寝顔、少しくらい 《《いい》》わよね)」
フードを被った人物は 舌なめずりし 息を殺しながら部屋に入り、馬乗りになる。首に手を回した瞬間・・・ 燐の目がゆっくり開いていく。
燐:「そこにいるんでしょ? 《《チェイン》》」
拓花:「り、燐? 何を言ってるの?」
燐:「息を殺すとか 動き方が拓花じゃないもん。どうしたの、寝首を掻きにきた? それとも 私を洗脳しに来た?」
チェイン:「・・・・・・。フフフ、アハハハハハハハハハハ! ハハハハハハハハハハ!!
さすが もう1人の私、こうも簡単にバレるとはね」ファサっとフードを脱ぐと長い黒髪が一気に下りてきた。
燐:「拓花になって 完全に消えてしまったのかなって心配してたんだよ」
チェインは燐から降りると ベッドサイドに脚を組んで座り直し フンっと鼻を鳴らす。
チェイン:「そう簡単に消えるわけないじゃない。第3の人格・|睦月 拓花《むつき ひろか》に生まれ変わったとはいえ 私は私よ。これからは|傍観者《オブザーバー》として行く末を見届けさせてもらうことに決めたわ。
一応 言っとくけど 燐を傷つける気はないし、そんな気も起きない。 私は燐の|所有物《もの》。拓花だけじゃなく たまには《《私》》のことも構ってよね、燐♡♡。 貴方が呼んでくれれば私はいつだって貴方の傍に現れるわ、私はもう一人の貴方だもの」 再度ベッドに乗ると うっとりとした表情で顔を覗き込んでいる。
特徴である 狂ったような笑い方を聞きつけた|凍矢《とうや》も部屋に駆け込んできた。チェインは心底嫌そうな顔をしている。
凍矢:「燐!! 無事か!!? ッッおまえ! 拓花じゃなくてチェインだろ!! なんでお前がいるんだよ! 今度は何を企んでる!!!」
チェイン:「うわ めんどくさいのが来た、せっかく二人きりの時間を楽しんでたってのに。燐は私を|寵愛《ちょうあい》してくれる大切な人、傷つけるわけないでしょ。 ねぇ 燐? さっきのも《《軽いイタズラ》》ってことで見逃して?♡♡」ぬいぐるみを抱きしめるかのように 腕を回し 瞳を怪しく輝かせ 凍矢に見せつけるかのように燐の髪や頬を触っている。
燐:「見逃すも何も 私は何もされてないし これもスキンシップのようなものだし(・∀・)b。
チェインの気が済むまで触っていいよ」
チェイン:「やったぁ!♡♡♡。 燐 だいっすき♡♡、もう燐なしでは生きていけない♡♡♡(スリスリ)」
凍矢:「燐!!! もっと危機感を持て!!!(ブチ切れる5秒前) テメェもさっさと燐から離れろ!! 首に手を回しておいてどこが軽いイタズラだ!!! ベタベタ触んな!!! 寵愛とか気色悪いこと言ってんじゃねぇ!!!」
チェイン:「クスス、燐が私に取られるのがそんなに嫌? もしかして凍矢ったら やきもちでも妬いてんの? 私と同じく燐の別人格とはいえ 男の嫉妬は醜いよ〜〜~? ハハハハハハハハハハハハ! アッハハハハハハハ!!」
拓花として生まれ変わってもチェインはチェイン、相変わらず神経を逆撫でるような事を言う態度にブチ切れている凍矢は 自然に指輪を外し 燐の身体に鎖をまきつけ自分のところに引き寄せると チェインの胸ぐらを掴み 睨みつける。
凍矢:「燐から離れろって言ってんだろうが、この女!!! 今すぐ|消《イレイズ》で 消滅させてやろうか!!? 指輪を外した今 トランサーだって|消滅させられ《消せ》んだぞ!!!」
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チェイン:「ハァ そう怖いこと 言わないでくれる? 燐が聞きたいことがあるんじゃないかなって思って来たんだけど。燐がプレゼントしてくれた服が伸びちゃうでしょ? さっさと離してよ」
舌打ちし 乱暴に手を離すとチェインは首をさすっていた。
凍矢:「聞きたいこと だと?」
燐:「うん、【|原初《げんしょ》の王】のこと。結局分からずじまいだし」
チェイン:「燐のものになってから 少しずつ記憶も薄れてるから わかる範囲であればね。
・・・奴は《《人の姿をしていない》》概念のような存在。 そして《《全ての》》トランサーの【始祖】、血脈をたどっていけば《《必ず》》行き着く。だから私達トランサーは 敬愛と畏怖の念を込めてこう呼ぶの、【原初の王】とね。燐・凍矢・|氷結《アイシクル》・|豪炎《ブレイズ》・|迅雷《ライトニング》・|運命《フェイト》に流れる血は 他のやつと比べても【原初の王】に近く濃いから扱いには充分に気をつけるのよ?
|能力《ちから》は|輪廻転生《リィンカーネーション》、他人に憑依し本来の人格を消し去り 肉体だけでなく記憶なども全て自分のものにする。しかも人間だけでなく《《トランサーにも効いてしまう》》。奴が今 誰の身体に入ってるのかまでは私にも分からないかな。
|運命《フェイト》が 守護の|呪《まじな》いを使ったのは〈【原初の王】の一部だった私が 燐を支配できないようにすること〉と 〈私が失敗してしまった際 【原初の王】によって《《直接》》 身体を奪われないようにすること〉、2重の理由だったわけ」自分の長い髪をクルクル触りながら話している。
凍矢:「チェイン。まさか 燐の首に鎖を巻き付けていたのは」
チェイン:「鎖が完全に絞まれば燐の心は死ぬ、 私のものにできたって訳♡♡。 私も【原初の王】の意のままに動く操り人形だったのよ? |宿主《やどぬし》である燐の全てを掌握し 洗脳し 自分のものにしようとするのは自然なことじゃないかしら?」
凍矢:「|運命《フェイト》がいなければ 今ごろ 燐は…!! なぁ、もう一個聞いてもいいか!?」
チェイン:「そう大声を出さなくてもいいわよ、何かしら?」
---
凍矢:「森林公園で初めて会った時と屋上で会った時、態度が変わりすぎてるのは何か理由でもあるのかよ! 真のトランサーとしての能力は 洗脳・マインドコントロールなのか…?
お前も燐に操られているのか?」
チェイン:「まーた随分とストレートに聞くのね、臆さず聞いてくるのは嫌いじゃないわ。
・・・・・・凍矢がそう思うのならそうなんじゃない? 直接燐を見た瞬間 今まで感じたことのない恋慕の気持ちに満たされて 心がぎゅっと締め付けられる感じがした。 私は燐のもの、魅了され心酔し崇拝し 燐のことしか考えられない・望むことなら何でも叶えてあげたい【恋の奴隷】に 自分からなりに行った 、そんなところかしら♡♡♡。 あと 燐の真のトランサーとしての能力については私にも分からない。自分の目で確かめるしかないんじゃないかしら?
さてと 基本は拓花だけど たまにはチェインとして燐と過ごさせてもらうわ。あと《《私》》は|傍観者《オブザーバー》、無干渉のスタンスだから そのつもりで。 チラッ 話し込んでたら遅くなっちゃったわね、じゃあね 燐♡♡♡。 また私の事 構ってよね♡♡」別れを惜しむかのように 燐の髪をスッと撫でる。
---
糸が切れた人形のようにカクンッと頭が前に倒れる。次に顔を上げると*のマークは消えていたが ハートマークは少し濃くなっていた。
拓花:「あれ? 私 こんな所で何してたんだっけ? 燐、寝たんじゃなかったの?」
凍矢:「(チェインの時は記憶が途切れてしまうのか。第3の人格になった拓花の中に チェインというさらに別の人格が同居してるっていうのか? いや チェインが拓花として生まれ変わったはず!!
なのに スイッチが切り替わったかのような変貌っぷり、何がどうなってんだか…。まぁ 俺は燐の|守護者《ガーディアン》、手を出したら 燐には悪いが《《殺すしかない》》)
さてと 俺はそろそろ出る、騒がせてしまって悪かったな。 2人ともおやすみ」
燐:「うん、おやすみ。凍矢」
拓花:「おやすみ!!」
---
事務所に置いていってたスマホにメッセージが届いていた。送信時間は燐が寝る前、9時頃で |蒼樹《そうき》からだった。
<「夜分遅くにすまない。少し話がしたい、明日の13時 駅前にある長月心療内科医院まで凍矢1人で来てくれないか?」
「返信が遅くなってすまない、燐には内緒で来いってことか?」>
<「いや、燐には正直に言っていい。約束を果たすのと近況を聞きたいだけだ、時間は取らせない。」
「分かった、明日伺うよ」>
<「午前診療が終わってるから 到着したらメッセージをくれ。 ドアを開ける。」
「了解。 じゃあまた。」>
凍矢:「蒼樹 約束を果たすって…どういうことだ?」
チェインも拓花も 燐にメロメロであり 凍矢よりも独占欲が強いのが特徴です(チェイン>>>拓花>>>(越えられない壁)>>>凍矢)。チェインは拓花よりも レズビアンっぽい文章表現をしていますが 燐とスキンシップをとったり、一緒に過ごす事で安心感を得ている というような意味合いです。
凍矢は後方から見守るお兄ちゃんタイプなので 過度に触れ合うのは苦手です。
また凍矢と違い チェインと拓花との間で記憶共有は行われません。
悪夢の後遺症②
|燐《りん》:「ヘイル、前に淹れてくれたお茶 また淹れてくれない?」
ヘイル:「分かった、少し待っててくれ」
|夢《ドリーム》によるメイア魅了事件の後 ヘイルが淹れてくれたお茶が気に入っている燐は たまに淹れてもらっている。
ヘイル:「軽く冷ましているが 少しずつ飲むんだぞ、俺はこっちにいるから何かあればいつでも言ってくれ」
燐:「ありがとう、ヘイル」
マグカップに口をつけ少しずつ飲むと ソファに寝転がり ゴロゴロしながらリラックスしている。
ヘイル:「・・・そう睨むなって、燐には何もしないよ。武器も下ろしてくれないか、|拓花《ひろか》ちゃん?」
椅子に脚を組んで座り ヘイルが読書しながら燐を見守る中 拓花は自身の手を鎌に変え後方からヘイルの首にあてがっていた。
燐の手甲剣と同じように|影《シャドウ》の力を腕に纏わせ 武器に変えているようだ。その証拠に瞳は金色に発光していた。
拓花:「ちょっとでも燐に触ったら 殺すよ?」
ヘイル:「ははっ 恐ろしい女の子だ。お茶を準備してる時も睨みつけてたもんな、毒でも入れるんじゃないかって。俺は静かに本を読んでるから別に心配しなくていい。
・・・この目がそんなに恐ろしいかい?」
読書しつつ流し目で睨む。当然ながらヘイルの瞳は緑色に発光していた。鎌があてがわれ 血が流れているにもかかわらず 何も無いかのように読書している。
拓花:「燐の記憶で見たけど その目で人を洗脳するんでしょ? 警戒して当然だよ」
ヘイル:「確か拓花ちゃんは 燐の別人格だったな、別に誰それ構わず操ったりしねぇよ。 ただ読書するだけでも《《こうなる》》。
人工知能として知識を得ているだけさ」
拓花:「・・・|瞳の発光《それ》は止められないの?」
ヘイル:「何度かやってみたけれど 光らないようにするのは無理だった。拓花ちゃんとは目を合わせないようにするから そろそろ|この鎌《コイツ》をどけてくれないかな?」
拓花:「ちゃん付けをやめるのなら 鎌をどけてあげるよ?」
ヘイル:「…ちゃん付けの方が可愛いと思うけれどな、親しみを込めて でもダメか?」
拓花:「下に見られてるようで嫌なの。 どうする? ここで私に殺されるか、条件を呑んで生きるか」バチバチと火花を散らす2人をみて 燐は声をかける。
燐:「へ、ヘイル… 拓花…」
ヘイル:「ハァ 分かったよ。 拓花。
もうちゃん付けはしないから 鎌をどけてくれ」
拓花:「もし 約束を|反故《ほご》にしたら いつでも殺してあげるからね」
ヘイル:「へいへい 怖いお嬢様だ。おっと 失言だったか」今度は【お嬢様】というワードに反応しチャキッという音が聞こえた。
拓花:「その|飄々《ひょうひょう》とした態度、頭にきた!! 屋上行こ? 念入りに殺してあげるから」
読んでいた本をバンっと荒々しく閉じ ヘイルも険しい顔をしていた。
ヘイル:「チッ 読書タイム終了か。売られた喧嘩は買うのが礼儀だからな。 ・・・遊んでやるよ。キメラの力 思う存分味わわせてやるから 死んでも知らねぇぞ、拓花!」
---
バンッとドアを強く開けると2人とも出ていってしまう、燐が追いかけようとすると|凍矢《とうや》達が帰ってきた。
凍矢:「燐! ヘイル達が急に出てったが どうしたんだよ」
燐:「ヘイルと拓花が屋上で喧嘩を始めるみたい」
凍矢:「ハァ!!? ケンカ!!? この短時間で何があったんだよ!!!」
急いで凍矢と燐が屋上に上がると 右腕のみを獣化させたヘイルと片手剣を持った拓花がバチバチに戦っていた。
拓花:「燐には私がついているのになんでアンタが一緒にいるのよ!! 燐との2人っきりを邪魔すんな、狼男!!!」
ヘイル:「燐を見とくって言ったのは俺だけだろ! なんであの時言わなかったんだよ!
鎌を当てられて 不愉快なのは俺の方だっての!! そして狼男言うんじゃねぇ! 俺達はキメラ、少し狼の遺伝子が混じってるだけの《《人間》》だ!!」
爪で剣の軌道を逸らしつつ 攻撃をしていくが、拓花もそう簡単に攻撃を食らう訳もなく |鳩尾《みぞおち》へ強い蹴りを入れ込まれる。
ひるむ隙もなく・・・ヘイルの左胸を剣が貫く。その様子を見た燐は思わず悲鳴をあげた。
---
燐:「イヤァァァァァァァ!!!」
ヘイルに深々と刺さった剣が容赦なく引き抜かれる、血は噴水のように噴出し 口からもツーっと流れていた。
ヘイル:「まさか本当にやるとはな。 筋もいい、戦いのセンスは燐譲りだ、なかなかやるじゃな…い……」
言い切る前に光の粒子となって身体が消滅してしまった。
拓花:「約束を|反故《ほご》にしたそっちが悪いんだよ。って燐! 寝てなきゃダメだよ! まだ動いち」
バシン!! 拓花は自分が何をされたのかすぐ理解できなかった、だんだん ジンジンと痛みを感じ 平手を食らわされたと気づく。
いつもの優しい表情は消え とても冷たい目で拓花を睨みつけ 胸ぐらを掴む。|勃然《ぼつぜん》と|憤怒《ふんぬ》が湧き上がっているのが見てとれる、これまで【怒り】という感情をほとんど見せてこなかった燐が《《本気で怒っていた》》。
拓花:「り、燐?」
燐:「私のことを大事に思ってくれるのは嬉しいよ。なのに・・・ 何でヘイルを殺したの!!!? 大事な仲間なのになんでそう簡単に傷つけられるの!!!?」
今度は握り拳で殴り掛かるが そこは凍矢が止める。
凍矢:「燐!! それ以上はやりすぎだ!!!
確かに今回は拓花が悪い。 だがこれ以上やったら燐も《《同じ》》だ!!」
燐:「離して!! ヘイルが! ヘイルが殺されたんだよ!! 悲しくないの!!?」
凍矢:「落ち着けッ!!! 前にも聞いただろ!
ヘイルの本体はメイアの脳内にある、身体は分身体だって!! ヘイルは生きてる!!
拓花!!! ヘイルを殺せて満足か?
燐が大切なあまり 周りが見えなくなるのが悪い癖だと知れ!!」
拓花:「・・・ごめんなさい、ごめんなさい!!!」
怒号を浴びせられ 自分がしたことを理解すると 大粒のような涙がどんどん流れ 滝の様に泣いている。
???:「全く 末恐ろしいよ、2人とも。
まぁ 《《燐が怒るところが見れた》》だけでも収穫か」
声が聞こえバッと顔を上げると ベントハウスにヘイルが座っていた。獣化も解除されピンピンしており|琥珀色《アンバー》の綺麗な瞳が見えている。
ヘイル:「よう! さっきぶりだな」
燐:「ほ、ホントにヘイルなの?」
ストっと飛び降りる。
ヘイル:「ああ、このとおり復活してきたぜ。
急にメイアの中に戻ってきたもんだから メイアの方がびっくりしてたよ。にしても痛かったなぁ。こんな形で死を経験することになるとは… うぉっ!!? り、燐?」
燐:「良かった、また会えた…!!
うわぁぁぁぁぁぁん!!!」
ギュッとヘイルに抱きつくと 人の目をはばかることなく大声で泣いていた。
ヘイル:「心配かけちまったな、燐。
・・・これからは拓花って呼ぶ。他に変なあだ名や愛称は使わないようにするよ。俺だって何回も殺されたくないからな」
拓花:「ヘイル ごめんなさい、燐が取られるのが嫌で…」
ヘイル:「そういうことだろうとは思った、まぁ俺にはメイアがいるから そこは安心していい」
凍矢:「解決したってことでいいのか?
全く…。 食事の準備するから事務所に戻るぞ!!」
なお読んでいるのは【佐木隆三著 身分帳】です。映画も見に行きましたが泣きました(・∀・)
もう少し続きます!
悪夢の後遺症③
|燐《りん》:「|拓花《ひろか》 さっきは思いっきりビンタしてしまってごめんね。ご飯できるまで冷やしとこうか」
拓花:「うん(´;ω;`) 痛いよぉ、燐…」
燐は はたいた頬をさすりながら 泣いている拓花に寄り添っていた。
|凍矢《とうや》:「ヘイル ご飯のあと少しいいか?」
ヘイル:「ああ。用件はなんとなくわかってるよ。メイアと|乃彩《のあ》、アオナを呼びに行ってくる」
ヘイルとミラは赤の扉から帰ると 凍矢は夕食の支度をはじめ 燐と拓花はソファにもたれかかっていた。
夕食後…
乃彩:「凍矢 キッチンお借りしますね」
鍋に人数分のお湯を沸かし 火を止めた鍋にティーバッグを入れ煮出していく。
凍矢:「茶葉じゃなくてティーバッグで良かったのか?」
乃彩:「こっちの方が手軽で 取り回しやすいですからね。もちろん茶葉で作ってもおいしくできますよ」
しっかり抽出しティーバッグを回収したら 牛乳と三温糖を入れ弱火にかけ 沸騰直前まで温めていくと カップに注いでいく。
乃彩:「カモミールミルクティーです。 お休み前に飲むのにもおすすめなんですよ。」
ミルクティーを飲み終えると乃彩とアオナはメイアに連れられ帰っていく。
乃彩:「ひとまず3日間試してみましょうか。また今日と同じくらいに来ますね」
凍矢:「俺とヘイルは少し用があって出てくる。 気にせず寝てていいからな」
燐:「うん、気を付けてね」
---
--- おうまポートハーバー ---
2人きりで話したいからかポートハーバーまでやってきた。ヘイルは海沿いの柵に寄りかかり腕を組んでいる。
ヘイル:「こんなところまで来るとは 燐には知られたくない・内密にしたいって事だろ?」
凍矢:「ヘイル、【燐が怒るところが見れた】って言ってたのはどういうことだ!!」
ヘイル:「やはりそれか。ずっと疑問だったんだよ、燐の中に【怒りの感情は存在するのか】ってな」
凍矢:「!!! いつから疑っていたんだ?」
ヘイル:「最初からさ。メイアとの殺し合いで俺が二人を止めた時 怒声をあげていたが、【怒りの感情が感じられなかった】。そして|不可視《インビジブル》との戦いの後も同じだった。燐の中に【怒りの感情は存在しない、抜け落ちてしまっている】、そう考えていたが拓花への様子で分かった。感情そのものは存在するが 《《ほとんど表に出ない》》 と。
もう1点。凍矢が燐の【悲しみと恐怖の感情】より生まれた存在であるように、拓花はトランサーの血だけでなく【怒りや憎しみ、恨み等の抑圧された負の感情】もベースになってるんじゃないか とな」
凍矢:「そこまで… やはり人工知能だからか?」
ヘイル:「ククク、発せられる声にどんな感情が含まれているか なんて俺にはすぐわかる。もし不安なら調べてもいいと思うぜ」
凍矢:「そのことはチェインも言っていた。 燐は幼い時から両親による虐待を受けてたし、反抗の意志も消失していたから 徐々に溜まっていく怒りがチェイン/拓花という形で現れたのか?
だが、どうしてあんなに感情をあらわにしたんだ。これまでほとんど怒りの感情を見せてこなかったってのに」
ヘイル:「トランサーとして完全覚醒したからだろ。 抑圧されてた感情が解き放たれたんだろうさ」
凍矢:「やっぱそうだよな」
ヘイル:「なんにせよ警戒は怠らない方がいい。取り返しのつかないことにならないように な」
凍矢:「取り返しのつかないこと・・・?」
ヘイル:「真のトランサーとしての能力によっては だ。俺も信じたくは… ピクッ あんの野郎・・・!! 凍矢、急いで帰った方がいい」
何かに反応したのか 瞳が緑色に輝き出した。
凍矢:「? どうしたんだ?」
ヘイル:「拓花の奴 燐に手を出してるぞ。こりゃあ首に手を回してるな、首絞めでもやる気か?」
凍矢:「ハァ!!? わ、わかった!教えてくれてありがとうな、ヘイル!! |消《イレイズ》!」
大跳躍を繰り返しながら帰っていく所を 手をヒラヒラ振りながら見送る。
ヘイル:「いってらっしゃいっと。 念のため俺の魔力を事務所内に漂わせといて正解だったな、まったく油断も隙もありゃしねぇな あいつ。 魔力が漂っていることはメイアも気づいてるだろうし帰ったらお仕置きかな? まぁご主人様に黙って盗聴めいたことしたわけだし… 」
軽くため息をつきつつ拠点に帰っていった。
---
ヘイル:「ただいま」
メイア:「おかえり。随分遅かったね、ヘイル? (*ˊᵕˋ*)」
満面の笑みで出迎える。
ヘイル:「うっ、やはり気づいてたんだな」
ヘイル:「ぎゃぁーーーーーー!! ギブギブギブ!!! 何も相談しなかった俺が悪かった!だから勘弁してくれ!! それと 何でメイアがプロレス技を知ってんだよ! ギィヤァァァァァァ!!」
ヘイルにキャメルクラッチをキメており 痛さに耐えかね バンバンと床を叩いている。
メイア:「自分の魔力が事務所内に流れてるなんてさぁ 私が気づかないわけないでしょ?
( ^ᵕ^) ねぇ ヘイル? もし、私の願いを聞いてくれるなら許してあげてもいいよ? 聞き入れてくれるまで離す気ないけどっ!!!」
ヘイル:「ね、願い? 一体なんだ?」
メイア:「全身もみほぐしマッサージとブレンド茶。それで許してあげるよ」
ヘイル:「・・・かしこまりました、ご主人様の仰せのままに」
パッと離されると メイアをベッドにうつ伏せに寝かせ 足や腕、腰や背中と全身マッサージを行っている。
ヘイル:「(何で俺の仲間になる女性達ってこんなに怖いんだよ…。 燐は洗脳能力持ちのトランサーになったかもしれないし メイアはメイアで キメラとして全身を改造してるから バカ強いし。 逆らおうものなら命は無いな…)」
メイア:「何か変なこと考えてる?(*ˊᵕˋ*)」
ヘイル:「ナニモ カンガエテナイデス、ゴシュジンサマ(片言)」
長編エピソードとなりましたがチェイン編は次話で完結予定です(・∀・)
断章 約束を果たす①
次話へのつなぎパートになります。
--- |凍矢《とうや》side ---
目玉焼きとオニオンスープ、トーストという簡単な朝食を取り 凍矢はテレビでニュースを見ている。事務所や|逢間《おうま》中央駅からは離れるが、新しいアミューズメント施設がオープンするらしく、巨大な箱のようなものが目に入る。
レポーターによると どうやら迷路のようで 施設の目玉アトラクションのようだった。
凍矢:「ふーん 巨大迷路ねぇ、|燐《りん》とは遊園地にも行ったことがないし 誘い合わせて行くってのもいいかもな」
ガチャっとドアが開き 燐と|拓花《ひろか》が起きてきた。手をつないでおり 大きな|欠伸《あくび》をしたり目をこすっていた。
凍矢:「おはよう、2人とも。 燐 夜は眠れたか?」
燐:「うん、 |乃彩《のあ》さんのミルクティーを飲んだからか ぐっすりとね。不眠症も早く治りそうでホッとしてる」
凍矢:「それなら良かった、朝ごはん食べるだろ? 何かリクエストあるか?」
燐:「トーストにベーコンと目玉焼きを乗せてくれない?」
拓花:「同じのが食べたい!」
凍矢:「ん、分かった。 スープでも飲みながら待っててくれ」
トースターにパンを2枚セットし レバーを 下ろす。 フライパンに ベーコンを2枚ずつ、計4枚焼いていく。 適宜 油を拭き取り 目玉焼き用リングをフライパンの中に置くと 卵を割入れ 綺麗な 丸い目玉焼きを作る。
チン という音と共に跳ね上がったトーストに カリカリに焼いたベーコンと目玉焼きを乗せ、塩コショウを軽く振ると 完成した。 スープを飲み終えた2人はトーストにかぶりつく。凍矢はコーヒーを淹れミルクと砂糖を入れ 飲みながら2人の様子を見守っている。
燐:「んーーーー! 凍矢のご飯はいつ食べても美味しい♡」
拓花:「モシャモシャ(夢中になって食べている)」
凍矢:「フフっ お気に召したのなら光栄だ、拓花 ゆっくり食べないと喉につまるぞ! ほら オニオンスープ追加しといたから!!
そうだ 燐、お昼過ぎに|蒼樹《そうき》のところに行ってくるよ。夜ご飯の材料も買ってくるからな」
燐:「分かった、2人で過ごしとくから行ってらっしゃい!」
拓花:「わーい! 燐を独り占めだぁ♡♡♡」
---
--- ヘイルside ---
ヘイルは朝から逢間市内を歩き回っている。何かをする訳でもなく ただブラつくのが大好きで、緑色に発光した瞳で 様々なものを【観察】していた。狼の特徴である鋭い嗅覚と聴覚が何かを捉えると ヒュっと姿を消し 目的地へと向かう。
リーダー格の男:「テメェ このアマ! ぶつかっといて何もないとはいい度胸じゃないか。 叫ばれても面倒だからとっととやるか」
女性:「や、やめてください! さっきも謝ったじゃないですか…!」
女性が男性3人に囲まれ リーダー格と思われる男は刃物に変えた腕を首に近付けている、路地になっており背中が壁に当たっているため 逃げる事もできず泣きながら怯えている。瞳の色もだが 皮膚には青い血がついていた、3人全員がトランサーだった。
コツコツと音を鳴らし 腕を組んで路地に入っていく。
ヘイル:「朝っぱらから 変なものを見せんじゃねえよ、このザコ共! 相手なら俺がなってやる。腕に自信がある野郎から かかってきな。そこのお姉さん、動けるかい?」
男達を軽々と飛び越えると 一回転して女性を庇うようにして前に出る。
女性:「あ、足がすくんじゃって立てなくて…」
ヘイル:「こんな状況なら無理もないか。お姉さんのことは俺が守る、ただ俺の戦闘スタイルは 人間であるお姉さんには《《目の毒》》だからさぁ? しっかり目をつぶり 耳を塞いでてくれ」
女性:「えっ?」
男:「どこのどいつか知らねえが 邪魔すんじゃねぇ!!!」
ヘイル:「こんなザコ3人くらいなら完全獣化する必要は無いか」
真正面から馬鹿正直に向かってくる男達の拳を 半身にずらすことで避けると膝蹴りとアッパーカットで 顎をカチ上げる。脳|震盪《しんとう》を起こした二人の頭を獣化させた腕で それぞれ掴み ガンッとぶつけ合うと その場に倒れてしまう。
ヘイル:「フッ そんな単純な動きで俺が倒せるかよ。良かったな、不完全獣化でさ? トランサーになり身体強化されたとはいえ キメラの俺が本気になれば 半グレのお前らなんざ敵じゃねぇんだよ。なぁ? アンタは俺と遊んでくれるのか? クッ ハハハハハ!」
爪をぺろりと舐め 不敵に笑っている。獣化した証である 針のように瞳孔が細くなった|琥珀色《アンバー》の瞳を見てリーダー格の男が怒鳴りつけ 拳を振るうが 掌で受け止める。
リーダー格の男:「キメラ!!? この バケモノがァァ!!!」
ヘイル:「トランサーであるテメェには言われたくねぇよ!!! こんなナリだが俺は人間だ! 人間を襲い トランサーへ変えることが目的のお前らを 逃がすわけねぇだろ!!!」
先の2人と比べ 格闘の心得があるようだが 所詮は我流。最強の人工知能として造られ 最強の肉体を得ているヘイルにとっては ただの《《遊び》》。男の正拳突きを軽くいなすと 側頭部に飛び回し蹴りを食らわせた。
女性:「す、すごい。 でも腕が…!! キメラって一体…!!?」
目と耳を塞いでいろと言われていたのに 女性は しっかりとヘイルの戦いを見ていた。
断章 約束を果たす②
リーダー格の男:「ひっ、 勘弁してください…! い、命だけは…!!」
一転して 今度は男達が壁際に追い詰められ震えている。ドスッと壁を蹴り 逃げないように制し壁ドンするように顔を近づける。
ヘイル:「女性1人に寄ってたかり トランサーの力で脅しやがって 同じ男として許せねぇ、とっとと人間に戻ってもらうぞ。 【この瞳を見続けろ。瞬き1つするな】」
〈声〉を聞かせ 緑色に発光する瞳を凝視させると 瞳が緑色のラインで縁どられ 虚ろな状態になる。当然 女性も〈声〉を聞いてしまっているため 発光した瞳が視界に入らないように手で目を隠されるも 好奇心からか指の隙間から覗いていた。〈|血液透析《ダイアライシス》〉で人間に戻すと トランス状態の3人へ新たな命令を与える。
ヘイル:「【お前ら3人 今すぐ警察に自首しろ。女性1人を3人がかりで恐喝したってな!!】
〈|集団洗脳《マインド コントロール》〉」
洗脳が完了した証として瞳が緑色に発光し コクリと緩慢に頷く。
ヘイル:「これから洗脳を解くが 命令は身体に刻み込まれている、お前らの意思では絶対に逆らえないし 逆らう気も起きない。意識が戻ったら その足で警察に行き 罪を告白しろ。〈|解呪《ディスペル》〉」
洗脳が解け目に光が戻るが フラフラした足取りで警察へと向かったのだった。
---
ヘイル:「これでよしっ、自分から罪を告白するように軽めの洗脳にしといたから大丈夫だろう。やはり俺にはこのスタイルが合ってるってことかな、心を支配し 意のままにあやつる というスタイルが。 自己洗脳を行ったり 色々やってきたが もういいや!」
座り込んだままの女性の前に スっと跪き 脚へ魔力を集中させる。そのおかげか 女性はスっと立ち上がることが出来た。普段ならすぐ 右腕に認識阻害の魔法を使うが そのまま見せていた。
ヘイル:「・・・さてと、俺の腕 戦闘の様子に洗脳、全部見聞きしてたんだろ お姉さん? 目の毒だって言ったのに。 この腕や|琥珀色《アンバー》の瞳、そして緑色に発光した瞳… 怖くなかったのかよ?」
女性:「そ、それは あなたの戦い方が とても勇ましくて見とれちゃって…。 って さっきまで足がすくんじゃっていたのに…!!」
ヘイル:「俺の身体は《《特別製》》でな。狼の爪をもち、特殊な声と瞳を使うことで 簡単に洗脳状態にもちこめる。身体を形づくる魔力を使えばこんなことだって出来るって訳だ。
人間とは言ったが、結局 俺は【人間を守るバケモノ】だ。 だがこの身体で後悔はしてない、大事な人を護ることができるからな。 お姉さんは 狼人間や人狼って聞いたことあるか?」
女性:「は、はい。人狼ゲームとか大学の同級生達とたまに」
ヘイル:「俺が その【人狼】さ。 人を襲う気は全くないから安心していい。・・・そうだ 手を出してくれないか?」
女性:「は、はい?」
瞳を発光させ、差し出された右手を包むようにして魔力を集中させる。手が開かれると透明な水滴のような形のアクセサリーチャームが出現し 名刺のようなものも置いてあった。 名刺には燐の事務所名・住所・電話番号などが書いてあった。
ヘイル:「こいつはお守りだ、トランサーの弱点である〈雨の雫〉を 俺の魔力で造り出し結晶化させた。 バッグとかにつけておけば〈魔力〉が全身に行き渡るから 多少はトランサー避けになるだろう。 あと警察が取り合わないような事件について 話を聞いてほしいならココに来るといい、トランサー事件専門の探偵がいる。俺も出入りしているから 俺の紹介だって言えばわかるさ」
女性:「えっと…」
ヘイル:「ああ、肝心な名前を伝えてなかったな。俺は|風野《かぜの》ヘイル、人工知能であり 人間と狼のキメラだ」
女性:「ヘイルさん… とても暖かい、太陽のような手ですね。綺麗なチャームもありがとうございます、宝物にします」
ヘイル:「フっ そう言ってくれてありがとうよ。お姉さんの気配は覚えたから 何かあれば助けになる。 じゃあ 俺はこの辺で、いつでも来るといい 歓迎するよ」
フードを深々と被り 手をヒラヒラ振ると ヒュっと姿を消してしまった。
女性:「ヘイルさんか… 友達のこと 見つけてくれるかな? |悠奈《ゆうな》、一体どこにいるの…? もう5年も会えてない…。会いたいよ…ゆうなーーーー!!」
懐から取りだした写真には2人の女性が写っている。中学の卒業式で撮った写真のようだが 1人は〈空色の瞳〉をしていた。ペタンとその場に再度座り込むと写真を握りしめ涙を流していた。
---
--- 再び |凍矢《とうや》side ---
医院の前に着くと |蒼樹《そうき》にメッセージを送る。
<「待たせた、今 医院に着いたよ」
「分かった。ドアを開けるから少し待っててくれ」>
午前診療が終わっているからか |白衣《ドクターコート》は脱いでおり カッターシャツとスラックス、ネクタイを締めた服装で出迎えてきた。
蒼樹:「悪いな、呼び出したりして。中に入ってくれ」
案内されると中には|稜也《りょうや》もいた。
凍矢:「稜也じゃないか、なんでお前まで」
蒼樹:「約束を果たすためだ」
凍矢:「や、約束?」
蒼樹:「ハァ 事務所で初めて会った時に言っただろ! 各々が依頼や試練を課し、達成したら仲間になるって! 稜也の依頼である〈|夢《ドリーム》による連続行方不明事件の解決〉、俺の試練である〈完全獣化してしまったメイアの心を救う〉。無事に達成されたから俺達2人は正式に仲間になる」
凍矢:「そ、そうだったな(滝汗)」
蒼樹:「俺達2人に|消《イレイズ》を使え。 能力を消すのではなく 中に僅かにあるであろう《《トランサーの悪意》》を消すんだ」
凍矢:「わ、分かった…。 |消《イレイズ》!」
右手から暖かい光が放たれ 蒼樹の黄色い瞳は 菜の花色の瞳に、稜也の橙色の瞳は山吹色の瞳に変わる。稜也はガシッと肩を組み 屈託のない笑顔をしていた。
稜也:「これで俺達は|燐《りん》ちゃんの仲間って訳だ!! 改めてよろしくな! 呼んでくれれば力になるぜ!!」
凍矢:「ああ 2人とも宜しくな 」
蒼樹:「凍矢 こんなことを言うのは申し訳ないが〈|氷華《ひょうか》〉にはくれぐれも気をつけろよ。奴は俺達よりも独占欲が強いしサディストな面もある。 メイアとヘイルが動物態に姿を変えた時の|氷華《アイツ》をみただろ? 警戒するに越したことはない、ヘイルにもそう伝えてくれ」
凍矢:「ああ、 忠告ありがとうな」
笑顔を浮かべていた凍矢の目から 突然キラキラした雫が沢山流れ 蒼樹と稜也は椅子から立ち上がる、動揺したのかガタッと大きい音もした。
蒼樹:「!!? 凍矢 涙なんか流してどうしたんだ!?」
蒼樹に言われ すぐ顔を触ると確かに涙で濡れている。
凍矢:「えっ… な、なんで俺 泣いてんだ…!? 俺は別に悲しくないのに…!」
稜也:「うーん 凍矢じゃないとしたら燐ちゃんか? でも そうだとしたら何で凍矢が泣くんだ? いくら別の人格とはいえ こう… シンクロするものかよ」
凍矢:「俺は燐の【悲しみと恐怖の感情】から生まれた存在だ、分離してても 燐が悲しいと感じれば俺にも伝わってくるんだよ」
蒼樹:「ここまで涙が流れるということは 相当な感情だな。 燐は1人か?」
蒼樹:「いや、|拓花《ひろか》がいる。 ……まさか!!」
稜也:「拓花って誰なんだ?」
凍矢:「拓花なら 2人も会ったことある。 燐の身体を乗っ取ったチェインだ!!」
蒼樹 稜也:「なっ!!?」
蒼樹:「俺達の用事はもう終わった、急いで燐の元に行ってやれ!」
凍矢:「あ、ああ!!」
医院を飛び出すと 燐の元へ一目散に走っていく。数秒沈黙したのち 稜也は蒼樹に大声で話しかけ 体を大きく揺らす。
稜也:「なぁ 蒼樹、チェインは|駿兄《しゅんにぃ》によって燐ちゃんと分離したんだよな!? 何で燐ちゃんとチェインが一緒にいるんだ!!?」
蒼樹:「俺に当たるな!揺らすな ! 俺だって今初めて聞いて整理がついてないんだよ。 燐がチェインを受けいれた…… としか考えられないだろ!」
次回は また超絶重たい話となります。
断章 約束を果たす③
ソファに座っていた燐の表情は いつにも増して暗かった。
燐:「チェイン そこにいる?」
〈チェイン〉というワードが聞こえると |拓花《ひろか》の頭は ガクンと前に倒れる。顔を上げると ハートマークの中に*のマークが浮び上がっており 〈|睦月 拓花《むつき ひろか》〉から〈チェイン〉へ変わったようだ。
チェイン:「もちろん、 ここにいるよ 燐。 貴方が呼んでくれれば 私はいつでも現れるって言ったじゃん♡♡」
突然 燐がチェインに抱きつく。
チェイン:「あれ なかなか大胆だね♡ クスス 甘えたいのかn…… 燐? 燐!!? どうしたの!!?」
燐の目から|堰《せき》を切ったように涙が流れている、この状況にはチェインも動揺するしかなく 脳内には【!?】が大量に浮かび アタフタしていた。
燐:「チェインって…… トランサーの本能を受けいれ、支配に身を委ねた私・【|原初《げんしょ》の王】の一部だったんだよね?」
チェイン:「う、うん。 燐の抑圧された感情と トランサーの血の力が混ざって出来たのが私だよ」
燐:「チェイン… 人間に戻りたい、【王の力】で今すぐ人間に戻してよォーーー!!
うわぁぁぁぁぁん!!」
大声で泣き叫ぶ燐を見て アタフタが止まらない。
チェイン:「り、りん? 一体どうしたの!?
まずは落ち着いて!」
燐:「グスン、 トランサーって不老不死じゃないんでしょ? 年をとっておばあちゃんになったとしても死ねないんでしょ!? 瞳の色もこんなになっちゃってるし!! |晴翔《はると》と一緒に年をとって おばあちゃんになって 穏やかに逝きたいよ。 ねぇ! 何でトランサーは不死の化け物なの!! 私はいつになったら人間に戻れるの!? 本当に私は人間に戻れるの!? もう嫌だよ…こんな生き方。 この身体が欲しいならあげるから 心や人格だって潰していいから!! 私を殺して… 一息に殺してよ!!!」
時々 燐を襲う希死念慮のような気持ち、既に4回の【死】を経験している燐にとって 〈死にたくても死ねない身体・死ねない未来〉は とても辛いものだった。
読み取れる表情は【絶望】のみ、ダメ押しになったのは 先日の【悪夢】。これまでも|凍矢《とうや》にぶつけることはあったが 凍矢には どうしても分かってあげることが出来ずにいた。 ふつふつと溜まってくる〈何か〉をチェインにぶつけている燐は 普段見る燐とは似ても似つかない、チェインの胸ぐらを掴み ガタガタ震えながらも怒鳴りつける燐を見て チェインの方が恐怖を感じていた。
燐:「チェインには戻せないの!!? ねぇ! 私を人間に戻してよ!! チェインは【|原初《げんしょ》の王】の一部だったんでしょ!! その力でなんとか出来ないの!? 本当に奴の居場所とか知らないの!? なんとか言ってよ!! チェイン!!」
チェイン:「……ごめんなさい、燐を人間に戻すには【原初の王】を《《倒す》》しかない。 オリジナルの次に血が濃い燐に対して 凍矢の|消《イレイズ》もメイア達の浄化魔法も効かない。誰に憑いてるのか どこにいるのか… 本当にわからないの。
でも、もしも…… もしも燐が不老不死を望むのなら それなら叶えられるよ」
燐:「えっ?」
チェイン:「トランサーは〈本来 不老不死〉なの。年をとるのは 〈燐と凍矢だけ〉。
不老不死だと分かれば 燐は 間違いなく|実験材料《モルモット》になる、ただの人間共に渡したくない… だから年をとるように改変した。
|浪野《なみの》警部や |蒼樹《そうき》、|悠河《ゆうが》…… これまで会ってきたトランサー全員が〈不老不死〉よ。 もし燐が望むのであれば 不老不死に変えることができるけど 恐らく今以上に【生きること】が虚しく辛すぎるものになる、死にたがる燐は見たくない!!
不老不死となるのか・【私】に心身ともに委ねるか・このまま|当て所《あ ど》なく探し続けるのか、燐の【生き方】をじっくりと考えて……。考えが固まったら いつでも呼んでちょうだい、ずっと待っているから」
燐:「うん、 急に怒鳴りつけちゃってごめんね。チェインに怒鳴るのは筋違いなのに」
チェイン:「ううん、貴方の負の感情は私の糧になる。凍矢が近くにいなくても 困ってることがあればいつでも言って、力になるから。 私はもう1人の燐、遠慮しないでいつでも吐き出してくれていいからね」
そう言われ静かに頭を撫でられると 燐はチェインの太腿に頭を置き 静かに目を閉じていく。
チェイン:「燐?」
燐:「このままでいさせて、このままで…」
泣き疲れてしまったようで 一雫流れ落ちると共に眠ってしまった。
チェイン:「(凍矢みたいに私にもできるかな… 凍矢が恐怖と悲しみを吸収するように、怒りや憎悪 絶望の感情を…)」
頭に手を置くと 燐の中の〈何か〉がチェインに吸収され、顔色が穏やかになる。 凍矢と同じように感情吸収ができるようになっていた。
ガチャっとドアが開き 凍矢が入ってくる。かなり急いだのか息が上がり ハーッハーッと肩で息をしていた。チェインは燐の肩をトーン トーンと規則正しいリズムで 優しく触れていた。
凍矢:「燐!!」
チェイン:「(唇に指をあてる) いまさっき眠ったところよ。泣き疲れたみたい」
凍矢:「チェイン… 燐に何があったんだ」
チェイン:「人間に戻りたい・なんで死ねないの・私を殺してって。 こんな燐は初めて見た、今まで凍矢は見たことあった?」
凍矢:「やはりか、ここ最近はなかったんだがな」
チェイン:「十中八九 私の悪夢のせいね。
…ねぇ 凍矢? 凍矢は不老不死になりたいって思う時はある?」
凍矢:「なんだよ 突然」
チェイン:「トランサーは本来不老不死なんだけど 年をとるようにしたのは私なの。おばあちゃんになったとしても死ねない って燐に言わせてしまったのが辛くて」
凍矢:「ときおり こんな風になるが、どうしても俺には わかってあげることが出来なかった。これだけ一緒にいても 〈死にたいという思い〉だけは受け止められなかった。トランサー|消《イレイズ》にも睦月 凍矢にも 出来ないことがあると思い知らされ無力だなって思っちまう」
チェイン:「ベッドに寝かせてくるね」
静かに燐を抱き抱えると寝室へ向かう、両手が塞がっているのでドアが開けられないと思いきや|影《シャドウ》でドアノブを器用に回して中へ入っていった。
凍矢:「不老不死か… 伝説のようなものだと思っていたが そんなバケモノがゴロゴロいるなんてな」
決断
目が覚めたら夜になっていた。チェインと話をしたのは昼頃だったから 5、6時間は寝ていたようだ。|凍矢《とうや》が夕食の準備をしているのか いい匂いがする。ゆっくりベッドから出て リビングに向かう。
|燐《りん》:「おそよう」
凍矢:「起きたか、燐。もう7時前だ。あの後もずっと眠っていたんだな」
|拓花《ひろか》:「燐! 起きて大丈夫?」
燐:「大丈夫、ありがとう 拓花。凍矢 夜ご飯は何作ってるの?」
凍矢:「豚肉の冷しゃぶに 豆腐とわかめの味噌汁とご飯だが 食べられそうか?」
燐:「精神的に不安定になっちゃっただけだから身体は問題ないよ」
凍矢:「ん、分かった。もうすぐ出来るからテーブルで待っていてくれ」
夕食をとったあと |乃彩《のあ》が紅茶を淹れに来てくれたためミルクティーを飲み 入浴等を済ませる。
燐:「凍矢、明日ちょっと出かけてくるね」
凍矢:「ああ、分かった! どこに行くんだ?」
燐:「ちょっとね……」
凍矢:「…そうか、何かあればいつでも連絡してくれよ?」
燐:「うん…」
受け答えする燐の顔は暗いままだった。
---
燐が向かったところは【実家】だった。大学を卒業し一人暮らしを始めるまでずっと住んでいたが、戻ってきたのは約2年ぶりだった。
実家ではあるが何も連絡していないためインターホンを鳴らす。出てきたのはスーツ姿の若い男性、燐とあまり年齢が変わらない感じだったがジャケットには《《ひまわりの形をした見慣れたバッジ》》がついており 強い敵意が向けられている。髪や服装は普通かもしれないが 赤い瞳に金色の瞳孔 警戒して当然だし 両親が良からぬことを吹き込んでいるのは間違いなさそうだった。
???:「誰です?」
燐:「|睦月 燐《むつき りん》、睦月|祥真《しょうま》と睦月|悠莉《ゆうり》の娘ですが あなたは…?」
|煉《れん》:「睦月 煉。お父様に確認してきます」
睦月 煉… 見たことない人物だったが もしかしたら私が家を出た後に養子でも迎えたのだろう、なにせ 娘は多重人格者でトランサー、人間の姿をしたバケモノ。自分達の子供にふさわしくないのだから… 燐は そう考えていた。
煉:「確認が取れましたが 《《バケモノ》》が何の用ですか?」
燐:「(やっぱり その名で呼ぶんだ) 2階に私の部屋って残ってます? そこに用があって来ました」
祥真:「何をしに来た、燐」
煉の後ろからスーツ姿の男性が1人歩いてくる、燐の父親だった。
燐:「あんたらに用はないよ。私の部屋に入りたくて来ただけ」
祥真:「フン、こちらに顔を見せないのであれば好きにしろ」
燐:「そもそも あんたらには用事ないから 会う気はない」
祥真と燐 バチバチと火花が散っている。
歩きながら祥真と煉はコソコソと話しているが トランサーである燐には筒抜けだった。
煉:「お父様 本当にこんなバケモノを家に入れていいんですか!?」
祥真:「部屋には監視カメラもある、何かあればすぐにでも叩き出す」
燐:「ご丁寧にカメラなんてどーも、用事終わったら適当に消えるから」
ドアにはバツ印になるように板が打ち付けられていたが トランサーの力の前には無いに等しくグッと引っ張れば簡単に取れる、壁に立てかけておくと中に入る。
2年ほど経っているとはいえ そこまで汚れてはいなかった。窓にも同じように板が打ち付けられていたため剥ぎ取り 窓を開ける。机に本棚、簡素なベッドしか無かったが両親が近寄ることはほとんどなかったため 燐にとっては【居心地のいい自分だけの城】だった。人の目を気にすることなく誰にも聞かれることなく考え事ができる最適な場所であった。
燐:「はぁ どうしようかな、これからの生き方…。昨日はチェインに当たっちゃったけど 私が決めるしかないんだよな。不老不死になるか・このまま変わらないか・チェインに身も心も明け渡すか。
正直楽になるのは三番目なんだよな、この世からいなくなる訳だし 自分で考えたり辛さを感じることは無くなるから。あ、そうだ」
燐はLINEで凍矢に連絡を取る。窓を開けて数分待っているとバサッ バサッと翼をはためく音が聞こえ 男が中に入ってくる。
ヘイル:「よっと。燐、呼んだか?」
言うまでもなくヘイルだった。正面玄関からだと間違いなく門前払いされると考えた燐は窓から入ってきて欲しいと 凍矢経由で連絡をとったのだった。
ヘイル:「ふーん、ここが かつての燐が住んでたところか。女の子の部屋にしては 随分殺風景だが」
燐:「家を出る時にパソコンとか本とか ほとんど持ち出しちゃったり新しく買ったりしたもん」
ヘイル:「……俺の吐く言葉で 燐の絶望は埋まるのかよ。 辛かったね とか 大変だったね とか そんな安っぽい言葉で燐に空いた穴が埋まるとは思えないが?」
机の天板に腰を下ろすと睨むような表情を向ける。
燐:「…やっぱり雰囲気とかでバレちゃったか」
ヘイル:「人工知能舐めんなよ、いくら取り繕っても声からは【絶望】しか感じられない。そもそも何で凍矢じゃなくて俺なんだ?」
燐:「メイアって全身を改造して長命になったんでしょ? だいたいどれくらい生きるの?」
ヘイル:「理論的には数千年だ。遺伝子から何もかも|弄《いじ》ったからな、不慮の事故等がない限りは数千年生きることになる。凍矢から少し聞いたが 死ねない身体であることに 辛さを感じてるんだろ? だが俺に聞くのもお門違いだ、俺では |燐《お前》を救えない」
燐:「そうだよね」
ヘイル:「結局最後は燐が決めるしかないんだよ、俺やメイア、他のトランサー達に拓花、そして凍矢… 話なら聞いてやるが 何もしてやる事は出来ない。俺達は燐ではないからな」
燐:「………そうするしかないか」
ヘイル:「(絶望の感情が薄れた?) 決断できたのか?」
燐:「うん、不老不死になる。 チェインは生きることが虚しく辛すぎるものになるって言うけど おばあちゃんになっても死ねないよりは断然いい」
ヘイル:「そうか」
---
燐:「ヘイル、事務所まで一緒に帰ろ? 用事はもう終わったし」
ヘイル:「ああ、〈|翼《ウィング》〉があればひとっ飛びだからな」
燐:「ちょっとお願いがあるんだけど 催眠術で眠らせてくれない?」
ヘイル:「燐にかけるのは別にいいんだが どうしてまた?」
燐:「あの3人に会いたくないの、お願い ヘイル」
左腕を右腕で庇うような姿勢で伏し目になり わずかに震えている燐をみて 会ったことない【燐の家族】の事が容易に想像できる。
ヘイル:「分かった、目的地まで優しくエスコートしてやるよ、お嬢様。
何も考えず この声だけを聞け。この手だけを見つめろ。深い 深い 眠りの底へ堕ちろ・・・!〈|眠りにいざなう眼《ヒュプノ・アイ》〉」
瞳を緑色に発光させ 左手を目の前にかざされると あっ という小さな声が漏れ目が閉じられる。前から受け止めるとお姫様抱っこをし 背中側から外に飛び降りると同時に〈|翼《ウィング》〉を発動させた。防犯カメラを見た両親と煉が部屋に駆け込んでくる。家に着いた直後と同じくバサッ バサッと翼をはためかせ ホバリングをしている。事情を知らない他人から見れば【翼が生えて瞳が緑色に光っている男が 気を失っている女の子を攫っている図】である。
祥真:「き、貴様は何者だ!! 燐をどこへ連れていく!!」
ヘイル:「ふーん、アンタらが燐の家族か。別に何もする気はない、燐をいるべき|家《ところ》に連れ帰るだけだ。だが意外だったな、こんな状態になればテメェでも娘を心配する気持ちってのが生まれるんだな。まぁ 《《声に》》【《《心配》》】《《という感情が乗ってない》》以上 ただのポーズだってこともわかってんだが」
祥真:「なっ!? 」
ヘイル:「おっと 質問に答えてなかったか。俺の名は風野ヘイル、人工知能であり 人間と狼のキメラであり《《燐の仲間》》だ。じゃあな、燐を虐めた人間共」
呆気にとられている3人を蔑視すると 右脚でバンっと窓を蹴り閉め 翼を大きくはためかせて飛び去っていく。ちらっと燐の顔を見ると穏やかそうな表情をして眠っていたため スピードを落とし|鷹揚《おうよう》に飛んでいる。
ヘイル:「あんな家族じゃ 家を出たくなるのも分かるな… 燐へ向けられている《《 明らかな》》【《《侮蔑》》】《《の感情》》、大事な娘のはずなのにトランサーになったがために日頃からバケモノ呼ばわりされてたんだろう。
凍矢が生まれたのも両親から燐を護るためだったか。
…極めつけは あの若い男 両親とDNAが一致してなかったから養子でも迎えたか、いくら燐を娘と認めないと考えたとはいえここまでやるかね? ハァ 人間のやることはよく分からんが そこが面白くもあるんだろうな」
不老不死へ②
--- 警視庁捜査一課 異形犯罪捜査係 ---
|晴翔《はると》はずっとモヤモヤしていることがあったが内容が内容だけに聞くことが出来なかった。しかし覚悟を決めた晴翔は|浪野《なみの》警部に尋ねるのだった。
浪野:「改まってどうしたんだ、|九条《くじょう》」
晴翔:「お時間割いていただきありがとうございます。大変失礼なことをお聞きすることになり申し訳ないのですが1つ質問しても宜しいですか?」
浪野:「…前置きはいいから早く聞け」
晴翔:「浪野警部って今おいくつなんですか?」
浪野:「………」
晴翔:「先日 |燐《りん》が尋ねてきた際、あなたがトランサーであることを明かされましたが【トランサーになったのは30年近く前】と仰られていました。しかし浪野警部のご年齢は外見から察するに30代前半。
一体あなたはおいくつなんですか?」
浪野:「なんだ、そういう事か。上層部の一部の人間にしか伝わっていないから 九条が知らないのも無理はない。
九条、これから話すことは他言無用だ。燐達ならまだしも他の警察官達にはくれぐれも口外するんじゃないぞ」
晴翔:「箝口令ということですか…! 一体…」
浪野:「通常どおり歳をとっていれば、私は既に還暦を超えている」
晴翔:「……はっ? か、還暦を超えているって 浪野警部 まだお若いのに…!!?」
浪野:「トランサーは【不老不死】なんだよ。トランサーに変貌したのは 今年でちょうど30年前。当時32歳だった私は 警視を目指すべく経験を積んでいた。銀行強盗事件の捜査をしていたんだが人質を庇って死んでしまった、ナイフには青い血が塗りたくられており トランサーの血が入り込んでしまったという訳だ。30年も経てば傷こそ消えているが 私はトランサー|予知《プリコグニッション》として蘇ったということだ。
上も 私の対応をどうするか何年も決めあぐねていたが このまま刑事として在籍して良い、しかし年齢については口外してはならない と条件付きで認められたという訳だ」
晴翔:「ふ、不老不死…!? まさかこの世にそんなものがあるなんて」
浪野:「そう驚くことではあるまい、燐や|凍矢《とうや》もトランサー… そういう事か!」
晴翔:「はい、トランサーなら不老不死なら 歳を取らないはずです。しかし、燐ははっきりと言ったんです!【トランサーは不死の存在ってだけ 歳をとるけど死なない 】と」
浪野:「どういうことなんだ、歳をとるトランサーなど これまで出会った事がないが。しかし よく良く考えれば 私が燐と初めて会ったのは7歳の頃、しかし今は26歳か。普通の人間と同じように歳を重ねている」
ポーン 晴翔の携帯に通知が来たようだ。燐からで これから会えないかということだった。
晴翔:「浪野警部、噂をすれば燐からです。これから会いたいそうですが」
浪野:「こちらも確認したかったからな、下の取調室を借りて話をしよう。私は手続きをしてくるから九条は燐を案内してくれ、場所は手続き次第連絡する」
晴翔:「承知しました」
---
晴翔:「燐! 凍矢! よく来たな」
燐:「久しぶり 晴翔。急にごめんなさい、ちょっと伝えないといけないことがあって」
晴翔:「それなら浪野警部が手続きをしているから案内するよ。ところでその女の子は?」
拓花:「む、|睦月 拓花《むつき ひろか》です(ペコリ)」
凍矢:「晴翔も会ったことがある奴だぞ」
晴翔:「えっ 誰だろう…?」
燐:「まぁそれも含めて説明するよ」
ポーン 晴翔の携帯に再度通知が来た、第3取調室に来るようにとの事だった。
晴翔:「浪野警部から連絡が来たから案内するよ」
--- 第3取調室 ---
浪野:「燐 話したいこととはなんだ?」
燐:「えっと 不老不死に戻りました(・∀・)」
晴翔:「・・・へ?」
燐:「晴翔には歳をとるけど死ねないって言ったでしょ? そこから不老不死に戻ったんだ」
浪野:「気になっていたんだ、何故燐は歳をとるのか とな」
???:「私が話そうか? 燐」
晴翔:「だ、誰だ!?」
拓花の瞳に*のマークが浮かんでいるため チェインに変わったようだった。
チェイン:「クスス、この姿で会うのは初めてね |予知《プリコグニッション》?」
浪野:「その 人を嘲笑うような話し方、森林公園で燐の身体を乗っ取った奴か」
晴翔:「何っ! まさかチェインって奴か」
チェイン:「へー、人間にしては記憶力がいいのね♡♡ 大正解よ」
チェインは燐の身体に巻き付けるように手をのばし 触りながら話し始める。現在進行形で見せつけるように頬や太腿を触っている。
チェイン:「燐が歳をとるようになったのは私の仕業。燐をただの人間共に渡したくなかったものでね、不老不死と分かれば確実に|実験材料《モルモット》にされるから それを避けたかったの。何せ 《《燐は私のもの》》だからね」
【私のもの】というワードにブチ切れた凍矢はチェインの腕をひねり上げる。
凍矢:「燐は誰のものでもねぇよ。勘違いすんな、この変態が」
チェイン:「私は燐のものだし 燐は私のもの、相思相愛なんだから 邪魔者は黙っててよ」
凍矢:「んだと!?(ブチ切れ)」
浪野:「|運命《フェイト》と呼ばれた者が2人を分離し チェインは新たな身体を得た。そして今は3人で過ごしてるということか」
凍矢:「身体が消えかかってたから |明石《あかし》さんに頼んで身体を作ってもらったんだ。それが睦月 拓花/コイツという訳だ、説明するのが遅くなって悪かった」
浪野:「なるほどな」
晴翔:「燐に危害を加える気はないってことでいいのか?」
チェイン:「加えるわけないじゃない、燐は私に|寵愛《ちょうあい》をくれる大切な人だもの♡♡♡」
晴翔:「ちょ、寵愛… また随分と重い愛情で(ドン引き)」
燐:「と、とりあえず チェインは拓花って名前で一緒に生活をしてることと 不老不死に戻ったってことだけ報告しに来たから!」
晴翔:「一般人である俺で力になれるか分かんねぇけどよ 何かあればいつでも言えよ?」
燐:「うん、ありがとう。拓花は私にとっても大事な妹だもん、そう心配しなくてもいいよ」
---
事務所に帰ったあと 拓花を撫でながら 精神世界でチェインと約束したことを話すと 案の定凍矢とヘイルがキレる(メイアは拠点でお留守番)。
凍矢 ヘイル:「燐!! なんでそう簡単に受け入れられんだ!! 俺は反対だ!!(ノンブレスで綺麗に揃う)」
燐:「ただ一緒に過ごすだけだよ、チェインの事だから罪を犯すような真似はしないって♡♡」
凍矢:「そういう事じゃねぇよ、ただ一緒に過ごすのに なんで燐が洗脳されなきゃいけないかってことだ!! ただでさえ精神支配は負担がでけぇのに隔週って…」
燐:「凍矢もヘイルも チェインみたいな独占欲ってないの?」
凍矢:「あるわけないだろ! 俺は燐の|守護者《ガーディアン》として生まれたんだぞ!! 辛い思いなんてさせるわけないだろ……!!」
ヘイル:「俺は元々メイアを操るために作られたプログラムだが 研究所でのメイアを見てると もうそんなことは出来なくなってた。仕置きとか仲裁で一時的に洗脳することはあっても完全に自我を奪うとか そんな気は全くねぇよ。 燐の血に当てられた時は ちょっとやばかったけどな。
燐、チェインの要求に対して 何でもかんでも受けいれなくていい!! 突っぱねていいんだぞ!!」
燐:「ううん、大丈夫。 私なら平気だから…♡」
拓花を払い除け 凍矢は涙を流しながらギュッと優しく燐を抱きしめる。
凍矢:「燐、俺は燐が壊れてしまうのが一番怖いんだ!! 燐が遠くに行ってしまうんじゃないかと思うと 怖いんだよ!! どうしてそうも簡単に信じられるんだよ…」
燐:「…… チェインは |両親《あいつら》が与えてくれなかった愛情をくれてると思ってるんだ♡ 凍矢もチェインも2人とも大事な存在、だから信じられるの」
凍矢:「燐!! だからってそこまで受け入れなくて…」
ヘイルは凍矢の肩に手を置くと首を横に振る。
凍矢:「……そうか、だがこれだけは忘れるなよ。俺も もう1人の燐だってこと、ガーディアンだってことをな」
燐:「……うん、ありがとう。じゃあ寝室にいるね♡♡」
そう言うと2人で 寝室へ入っていったのだった。
---
凍矢はソファに座り 両手で顔を覆い大粒の涙を流し泣いている中、ヘイルは壁にガンっ!!と拳をぶつけ怒りをあらわにしていた。
凍矢:「どうすれば 燐を正気に戻せるんだ…… 完全にマインドコントロールされてんじゃないか…」
ヘイル:「燐の瞳にもハートマークが浮かんでいた、完全に心を奪われているから今は何を言っても聞く耳を持たず下手したらこちらを攻撃してくるかもしれない。共依存のような状態か。チェインを消滅させれば元に戻るんだろうが拓花も消える可能性があるな。くっ!! あの野郎……森林公園で分離してから ずっと本性を隠してたのか!! 俺達が手出しできないようにずっと機会を狙ってたのかよ!! くそぉ!!!」
凍矢:「燐…… どうすれば燐を救うことができるんだよ、この半日で何があったんだよ……。戻ってきてくれよ、いつもの燐に戻ってくれーーーーー!!!」
不老不死へ①
--- 睦月探偵事務所 ---
その場には|燐《りん》 |凍矢《とうや》 メイア ヘイル そして|拓花《ひろか》ではなくチェインがいた。
メイア:「大事な話って?」
燐:「私、不老不死に戻ることにしたんだ。これまでは歳をとるけど死ねない身体だった。おばあちゃんになっても死ねないのは私にとって辛すぎる、だから 今のまま歳をとらない身体になることにしたの」
凍矢:「燐…」
ヘイル:「覚悟は決まったという顔だな。また歳をとりたい なんて言ってももう戻れないだろう。 永遠という牢獄で生き続ける覚悟 できたということか」
燐:「チェイン 不老不死に戻るのにどれくらいかかるの?」
チェイン:「そうね、身体に馴染ませる時間を考えると 半日は必要ね。私が燐の中に戻って身体情報を全部書き換えないとだから燐には眠ってもらうわ、指輪を外して 私に肉体の主導権を渡してもらうけどいい?」
燐:「うん、お願い」
そう言うと燐の中にチェインが戻っていく。証拠として瞳の中に*のマークが浮かぶ。
チェイン:「第1段階完了っと。
・・・・・・クッフフフフフ、ハハハハハハハハハハハハハハ!! アッハハハハハハハハハハハハ!! こうも上手くいくなんてね、逆に怖いくらいだわ!! ハハハハハハハハハハハ!!」
髪をかきあげ 目を見開き狂ったように笑うチェインを見て3人は臨戦態勢をとる。森林公園で初めて会った時と同じく【狂気に染められ 歪んだ笑みを浮かべた表情】をしていた。
チェイン:「ほんっとに燐はバカで助かるわ!! こうしてまた燐の中に戻れたのだから!!」
凍矢:「チェイン… お前、拓花として改心し |傍観者《オブザーバー》になるって言ってただろ!! 何がどうなってんだよ!!」
チェイン:「言っとくけど 私が|傍観者《オブザーバー》になったことも燐のものだってことも本当よ。燐に心酔し 崇拝しているのもね。とはいえ人はそう簡単には変わらない、本性はそのままってわけ♡ 燐に見られている時は 何故か抑え込まれるのよ。あの赤と金の瞳に見つめられると本能が屈して |恋慕《れんぼ》の情に満たされた恋の奴隷になっちゃうの♡♡♡」
ヘイル:「テメェ 燐は無事なんだろうな!!? まさかまた磔にしてるとか言わないだろうな!!」
チェイン:「なら見てみる?」
パチンと指を鳴らすと 空中にリアルタイム映像が映し出される。
---
精神世界は雰囲気が全く違っていた。凍矢と過ごしている空間は壁や床などが真っ白で、凍矢が使っている端末や椅子が置いてある。しかし 今の空間は黒い霧が渦巻いており 不気味な磔台や難しそうな設備などが置いてあった。
燐:「えっと ここで不老不死になるんだよね。これは十字架? いや 見た目的に磔台ってやつかな。初めて見たけど なんで…こん…な…
……チェインさまのお望みのままに。磔…台に…のらな…いと…」
以前にチェインが燐の身体を奪った時に使っていた磔台が目に入った瞬間 瞳は虚ろになりフラフラと自分から近づいていく。
操られるように磔台に乗ると足枷をつけ 腕を真横にあげるとガシャっと手枷が付けられる。そしてどこからともなく 無数のケーブルのようなものが全身の皮膚を貫いて差し込まれ 空中にモニター情報が表示される。
燐:「チェイン…さま… 」
意識を失ったのか頭や両手がガクンと垂れている。
---
チェイン:「あの磔台が視界に入ると トランス状態に 意のままの操り人形になる という仕掛けを施していてね。これで第2段階完了♡♡」
凍矢:「森林公園で見た時も 燐はテメェに操られてたのか……! 結局テメェの目的は燐を自分のものにすることか!! なぜ不老不死になれるなど嘘をついた!!」
チェインは 表情を一切崩さず凍矢に近づくと顔を両手で挟むようにし ぐっとのぞき込む。
チェイン:「私ね 燐に悪夢を見せて殺しかけたの ちょっぴり後悔してるんだよ。ねぇ 凍矢? 私が好きな《《感情》》ってなんだと思う?」
凍矢:「は? 感情? お前が吸収できる怒りとか憎悪とかか?」
チェイン:「**`絶望`**だよ。特に 【希望に満ちた状態】から【絶望にたたき落とされた瞬間】ってのが いっちばん美味しいんだよ。凍矢だって燐の感情は最上級のご馳走だって言ってたじゃない。怒鳴られた時に見えた あの絶望に満ちた顔… 内心ではニヤけが止まらなかったわ!!
ああやって死ねない身体を嘆いて殺してくれとせがむのなら 尚更殺しはしない。
悪夢で絶望させてもいいんだけど 食べるなら美味しい方がいいからねぇ…、例えば 不老不死になれるとか 希望を持たせて 実際には私が身体を奪う。そうなれば 燐は どれだけ絶望するのかしらねぇ!!? ハハハハハハハハハハハ!! アッハハハハハハハハハハハハ!! 少しでも人を疑っていれば また結末は変わったかもしれないけど、簡単に他人を信じてしまう燐は コロッと私の提案に乗ってくれた!バカで助かったわよ!!」
凍矢はガンッとテーブルを叩きつける。拳から血が流れるくらい強くたたきつけ 怒りでわなわなと震えながら怒鳴りつけた。
凍矢:「ふざけるのも大概にしろ チェイン。俺の目の前で燐を侮辱すんじゃねぇよ、とっとと燐を返せ!!!」
チェイン:「は? 返すわけないじゃない。このまま不老不死に改造するのよ、もうケーブルも全身に接続しているし 無理に引き離そうとすると燐の心は消えちゃうわよ?」
メイア:「不老不死って 燐を乗っ取るための嘘じゃないの!?」
チェイン:「嘘だなんて誰が言ったのよ、さっきも【例えば】って言ったでしょ? 本来トランサーは不老不死、それを歳を重ねるように改変したのを元に戻すってだけよ。【絶望の感情を集める手段】なんていくらでもあるしね。
じゃあ 私は寝室で燐の身体情報を書き換えるけど 凍矢の情報も変わるから ボケっとしないで戻ってきなさいよ、|凍矢《バカ》」
ヘイル:「本当に人の神経をさかなでるのが大好きなんだな……! いい性格してるよ。だが テメェを1人にさせるわけねぇだろうが、メイア ミラを見張りとして置くことは出来るか?」
メイア:「う、うん。 ミラとヘイル 同時に出現させても平気だよ」
ヘイル:「チェイン、それでいいな」
チェイン:「好きにすればいいわ♡ 私の身体に触れることだけ避けてもらえれば」
凍矢:「【私の】じゃなくて【燐の】だ!! テメェの手のひらの上で踊らされている感じが癪だが 致し方ない」
凍矢も燐の中に戻るとチェインは寝室に入っていった。ミラには【逐一|精神感応《テレパシー》で状況を報告、燐には手を触れず隅で見張る、チェインの瞳を絶対に直視するな】と命令を与えていた。
---
チェイン:「燐 目をあけて」
精神世界に現れたチェインは燐に声をかけると緩慢に目が開かれる。焦点の合っていない虚ろな目をし 【|主《あるじ》】の顔をぼーっと見ていた。
燐:「はい チェインさま」
チェイン:「今から燐の身体を元の不老不死に戻す。何かあれば声を出してね」
燐:「はい チェインさま」
チェインの命令に対して燐は同じセリフを繰り返すだけだった。
チェイン:「まぁ 声を出したところで止められないんだけど。改造|開始《スタート》♡」
チェインがスイッチを入れると 紫色の電流のようなものが全身に流れ 燐は悲鳴をあげる。あまりの激痛に身体をよじったりチェインを呼ぶが チェインは何もせず唇に指を当てほくそ笑んだり うっとりとした顔で燐の頬を撫でたりしていた。
常人ならば《《数秒でショック死に至るほどの激痛》》が数時間続き 電流が止まった。ブチブチっと乱暴にケーブルが引き抜かれ 枷も自動的に外れ ドサッと倒れこむとゆっくりチェインの方を見上げる。役目を果たしたのか磔台が消滅したことでトランス状態が解除され 瞳に光が戻った。痛みで起き上がれず倒れたままの姿勢で 話しかけるのがやっとの燐、チェインは燐の身体を支えながら椅子に座らせる。
燐:「いったた… チェイン、 私はどうなったの?」
チェイン:「身体を不老不死に戻すという改造が終わったんだよ」
燐:「ひ、ひとつ聞いてもいい? チェインは 今でも私の身体欲しいの? 取り繕わず 本心で話してよ」
チェイン:「・・・ああ、欲しいね すっごく欲しいよ。 今すぐ|籠絡《ろうらく》して私のものにしたい」
燐:「全部終わったら チェインにあげる、私の身も心も自由にしていい。それじゃダメ…かな?」
チェイン:「全部 、つまり【|原初《げんしょ》の王】を倒すってこと?」
燐:「うん、それじゃ遅いかな?」
チェイン:「遅い。 だ・か・ら、代わりと言ってはなんだけど 週の1日分 私の【人形】になってよ♡♡」
燐:「人形… 身体を奪えないのなら洗脳して操り人形にしたいってことか。だとしても毎週ってスパンが短すぎる! せめて1ヶ月!!」
チェイン:「や・だ・ね♡♡ こっちは今すぐ変えたいくらいなんだよ」
燐:「~~~~ッ! なら2週間!! そこまでしか譲歩できないよ、そして この事は凍矢にも話すからね!!」
チェイン:「…分かった。なら隔週で燐を好きにさせてもらうわね♡」
燐:「向こうに戻ったら また構ってあげるからさ、戻ろうよ」
チェイン:「(椅子に座ってる燐に流れるようにバックハグし 耳元で囁く)まだ不老不死の力が完全に馴染んてないから もうちょっと一緒にいよーーよーー♡ あと2時間くらいで馴染むからぁ♡♡」
燐:「しょうがないなぁ♡ チェインが《《満足するまで構ってあげる》》から覚悟してよ♡」
チェイン:「キュン 構ってもらえる… あぁ燐♡♡♡ やっぱり貴方は私のものよ♡♡♡」
身体を触りまくるチェインと恍惚な表情を浮かべて応じる燐。2時間ほど精神世界で過ごし現実世界へ帰還するのだった。甘い毒が侵食し普通の精神状態ではなくなっていることにも気づかないまま…。
燐:「(チェインと一緒にいると 心地いいんだよなぁ♡ チェインと離れたくないなぁ♡♡ 1日くらい【人形】になってもいいかも♡♡ こうして【愛してくれる】のなら♡♡)」
え? 凍矢はどうなったか ですか? 先に1人白い空間で同じように磔にされ、ケーブルを接続され、同じような激痛に苦しみ、意識を失っていました(・∀・)
その後 特大の【悲しみと恐怖の感情】を感じ取り 感情を吸収、燐の元に向かうにもバリアのようなもので行けず メイア達の元に帰っていました。
不老不死へ③
|燐《りん》とチェインが寝室に入ってから30分ほど経つが |凍矢《とうや》とヘイルの頭の中では洗脳されてしまった燐をどうやったら救えるのか でいっぱいだった。
凍矢:「|消《イレイズ》で消してもすぐ復活しちまうバリアが張られてて中に入れねぇ! これじゃ燐を救えない……」
ヘイル:「凍矢、俺の魔力を隙間から通せば 中で何が行われてるか探れるぞ」
凍矢:「本当か!!? 頼む、ヘイル!!」
|乃彩《のあ》が初めて紅茶を淹れに来た夜、チェインが出現し燐の首に手を回すという事件が発生した。しかしヘイルが漂わせていた魔力により状況を察知、首を絞める直前で助けることが出来たのだった。完全獣化して跪き 左手を床につけると魔力が拡散されていく。緑色に発光した瞳で寝室の様子をくまなく確認している。
ヘイル:「!! 見つけたぞ、凍矢。ベッドの端にチェインが座って燐が膝立ちになって チェインの太腿に頭を預けているような感じだな。恍惚な表情をしている燐の頭を撫でたり髪を触ったりしている。 そしてスマホで何かを調べながら2人で話をしているな・・・。
次は顔を触ってるな。 洗脳されているからかスキンシップで慣れているのか 全く嫌がる素振りがない。奴は何を考えてる…? 燐をどうする気なんだ? またさっきと同じくスマホで調べ物か?」
凍矢:「燐に何かあったら 俺は… 俺は…!!」
---
突然ガチャっと寝室のドアが開き 凍矢は|消《イレイズ》を発動し、ヘイルは狼の構えをして臨戦態勢を取る。いつもと逆で 燐がチェインの腕にしがみついている。うっとりとした目でチェインを見つめており 凍矢達は視界に入っていないようだった。
チェイン:「私達 これからデートしてくるわ♡♡ 絶対ついてこないでよ?」
燐:「チェイン〜〜〜~♡♡♡ 早く行こうよぉ♡♡」
凍矢:「燐に傷一つつけてみろ、燐や|拓花《ひろか》には悪いがテメェをこの世から塵も残さず消してやるからな」
チェイン:「こわいこわい、可愛いお人形さんと遊んでくるだけよ♡」
凍矢とヘイルの間を縫うようにして 出かけていってしまった。
ヘイル:「出かけてくるって 一体どこに行く気だよ。|翼《ウィング》に|光学迷彩《オプティカル・カモフラージュ》をかけて尾行したとしても バレて燐の身に危険が及ぶのが一番まずい。 くっ!! 何も出来ないのかよ」
凍矢:「燐… 頼む、無事でいてくれ。いつもの燐に戻ってくれ……」
凍矢の瞳から雫が途絶えることは無く ヘイルの尻尾も強い怒りから ブンブンと激しく振られていた。
凍矢:「(ヘイルに生えてる耳と尻尾… もう見慣れたな。触ったらフワフワで気持ちいいんだろうな)」
ヘイル:「気持ちは分かるが触らせないぞ? 触りたいなら動物態になったメイアにしろ」
--- 3時間後 ---
燐:「たっだいま!!」
チェイン:「今帰ったわ、あら? あなた達まだいたのね」
凍矢もヘイルも 燐が帰ってくるまでずっと能力を発動させて待っていた。流石に狼の構えは解いているが 鋭い牙が生え右手からも紅い爪が伸び、瞳も緑色のままだった。
凍矢:「当たり前だろ! 燐を返してもらうまで 俺達は引く気ないからな!!」
ヘイル:「? なんか 燐の肌、出かける前よりツヤツヤしていないか? それに髪も綺麗にセットされて 服も変わってる。あとその大量の荷物は何だよ」
有名店のロゴが入っている袋から出されたのは化粧水や洗顔クリームといったスキンケア用品一式に 高級そうなシャンプー類、そして燐が出かける際に着てた服類が畳んであった。
凍矢:「こ、これは?」
チェイン:「燐の肌質や髪質に合わせたトリートメントセットよ♡ 燐はまだまだ甘え下手な所があるし 綺麗な肌や髪がもったいないからね、【お手入れ】してもらってたの♡ 淡い色も似合うんだけど、ハッキリとした色合いの服もとても似合っているわ」
凍矢:「あ、甘え下手??」
チェイン:「凍矢よりも女性同士の方が話しやすいことも多いからね、洗脳することで 燐がやりたいこと 本音を色々聞きだしたって訳。
洗脳には こういう使い道もあるって事よ♡♡ クスクス、燐の本音を聞き出せないなんてパートナー失格じゃないかしら?」
ヘイル:「燐を【絶望】させるっていうのは…」
チェイン:「このまま 手入れを怠るとどうなるかってのを言ったら 【絶望の感情】が簡単に手に入ったけど、死に追い込むような・本当に絶望させる真似はしないわよ。そんなことすれば感情を食いっぱぐれてしまう、本末転倒じゃない」
凍矢:「な、なら!! 燐に危害はくわえてないんだな!!?」
チェイン:「めいっぱい私に甘えさせてデートをしてきただけ♡♡ もう洗脳も解いているから安心していいわよ」
---
安心して気が抜けてしまったのか、凍矢とヘイルはドサッとソファに倒れ込み 安堵の表情を浮かべている。|消《イレイズ》や完全獣化が解け ヘイルも元の人間に戻るが ずっと能力を発動させたままだったため2人とも息が上がっていた。
凍矢:「ハァ… ハァ…。良かった…! 燐が無事で本当に良かった…!!」
ヘイル:「ゼェ…ゼェ…。俺もだ… 燐に何かあったらと思うと気が気じゃないからな」
チェイン:「じゃあ燐、また再来週 一緒に【遊び】ましょうね♡♡ やりたいこととか行きたいところとか考えておいてね♡」
サラサラになった髪に指を通し 頬を撫でると|拓花《ひろか》に戻っていった。寝室に入った時からチェインに変わっていたため約3時間ぶりだった。
拓花:「あ、あれ… 私は一体何をしてたんだろ? うわぁ燐!! 髪がすっごい綺麗だよ!!」
拓花:「ありがとうね 拓花」
凍矢:「拓花ならともかくチェインを100%信頼するのは無理だな、さて どうしたものか」
ヘイル:「燐を洗脳していたのは事実だからな、警戒を怠らない としか言いようがないか。だが何はともあれ燐が無事に戻ってきてくれたのは本当に良かったな」
凍矢:「ああ」
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凍矢にとっての悩みの種が増えることにはなったが それ以上に燐が無事だったことが嬉しかったのだった。突如 グゥゥーーという音がリビングに響きわたる。音を聞き 緊張の糸が解けたからか 4人からは自然と笑い声がこぼれる。
凍矢:「ハハハ、安心したら腹減ったな! だがずっと燐のことを心配してたから夕食の材料を何も買ってなかったな。どっか食べに行くか?」
燐:「サイ○リヤがいい!」
拓花:「私も!」
ヘイル:「異論は無いな」
凍矢:「燐 俺 拓花 メイア ヘイルの5人で行くか。そういえば乃彩達は夢世界に戻ったんだったな」
ヘイル:「ああ、被害者達の解放もつい最近終わったし アオナにかけていた催眠術も もう消えている。2人っきりで楽しく過ごしてるみたいだぞ。じゃあ俺はメイアを呼んでくるから待っててくれ」
夕食を取り 思い思いに過ごし 長い一日が終わったのだった。
次回 また新しいエピソードが始まる予定です。
具現(マテリアライズ)①
|凍矢《とうや》はキッチンで鮭の切り身を4切れ分焼いていた。皮はパリッパリになるようフライ返しで油に押し付けて焼いていく。全体に火が通ったらまな板の上に取り出し キッチンペーパーで油分だけ取り去ると皮と身を分け 小骨を取り除きながら粗ほぐしにしている。昆布と鰹節からとった出汁は香りが飛ばないように食べる直前で温めている。
ニュースではちょうどハロウィンの話題が流れており 主要道路やスポットなどに警察官が沢山配備されるとニュースキャスターが伝えた。
凍矢:「もうそんな時期か」
|燐《りん》:「まぁ 仮装しなくてもしてるような仲間がすぐ近くにいるけどね。あー コーヒー美味しっ♡」
そんな話をしていたら赤い扉が開き ヘイルが入ってきた。壁にもたれかかり腕を組んでいる。
ヘイル:「朝から悪いな、押しかけちまって。うちの|女狼《おんなおおかみ》を引き取りに来た」
凍矢:「ああ、おはよう ヘイル。メイアなら《《そこ》》でご満悦だぜ? メイア、そろそろ降りた方がいいぞ。|拓花《ひろか》に殺されたくなければな」
ソファに座りニュースを見ながらコーヒーを飲む燐、動物態になり 燐の膝枕を堪能しながら身体を撫でられたりブラッシングをされているメイア。目を細めた満面の笑みを浮かべ 全身からハートマークがでているようだった。
メイア:「だって 燐の手、すっごく暖かいんだもん! 日光浴してるみたいで気持ちいいよ♡」
拓花:「りん〜〜〜 私の事も構ってよぉ( ; ; )
忘れられているようで寂しいよぉ…」
拓花は今にも泣きそうな顔で 燐の隣にピタッとくっつくように座り 服の袖を引っ張りながら甘えていた。顔を手で覆い 深いため息をついているヘイルは 追加で鮭の切り身を調理してる凍矢と話している。
ヘイル:「ハァ… メイアの奴 |氷華《ひょうか》に撫でられてからスキンシップの虜になってんだよ。俺はあまり得意じゃないから軽く頭を撫でるくらいだったんだが欲求不満のようでな。ヘイルがしてくれないなら燐のとこに行ってくる!!って飛び出しちまったんだよ」
凍矢:「なるほどねぇ それで朝から駆け込んできたのか。来てすぐ動物態になったし てっきりお菓子目的で来たのかと思っていたよ、今日はハロウィンだし。よし 出来たっと、ヘイル達も食べてけよ」
ヘイル:「すまないな 俺達の分まで作ってもらっちまって」
炊いていた米の量だとメイアたちの分が足りなかったため急遽冷凍ご飯を温め 茶碗に入れ ほぐし身と皮、あられを載せて出汁をかけていく。作っていたのは鮭の出汁茶漬けだった。市販で売っている茶漬けも美味しいが凍矢が作る茶漬けは手間暇がかかっている分 格別だった。
凍矢:「おい そこの女性陣!! 朝飯できたから行儀よく座れ! 燐とのイチャイチャは朝飯のあとにしろ!」
人間態に戻ったメイア 燐 拓花と横並びになり茶漬けをハフハフいいながら頬張り ヘイルと凍矢はテーブルで食べていた。
朝食が終わり 一息ついているとインターホンが鳴り響く。|晴翔《はると》であった。
晴翔:「おはよう、燐。トランサー事件の資料を持ってきt… 両手に花だな、また随分と楽しそうで」
メイアは再度動物態になってブラッシングされ 拓花は燐に密着して頭を撫でてもらっていた。ヘイルと凍矢が晴翔をテーブルに案内しコーヒーを出す。
凍矢:「朝っぱらからすまないなw 俺達が話を聞くよ。晴翔 トランサー事件って?」
晴翔:「2週間ほど前にできたアミューズメント施設のことは知ってるか? あの迷路が目玉になってる」
凍矢:「ああ、ニュースで見たな。巨大迷路が目玉アトラクションだとか」
晴翔:「そこで行方不明者が出てるんだ。既に数百人近くが迷路に挑んでいるが2割近くが出てこないんだ」
ヘイル:「2割だと…! 200人だとして40人か 随分な数だな」
晴翔:「警察に捜索願いも出されて 運営会社等を調べたんだが 特に怪しい形跡はなかった。だが こんな事件を起こせるんだ、トランサーが関わっているとみて間違いないだろうとの見解だ」
ヘイル:「ともかく俺たちも調べてみないとな」
そんな話をしていると再度インターホンが鳴る。《《気配》》を感じとった燐と凍矢、拓花が震えだしヘイルも人物の匂いに反応した。
メイア:「燐? 拓花もどうしたの?」
燐:「雨が… 雨の気配がする!!」
ヘイル:「雨… やはりそういうことか、少し待っててくれ。メイアはいい加減人間態に戻れ、2人とも燐とベタベタするのは一旦やめろ」
ヘイルが招き入れたのは大学生くらいの女性だった。応接スペースに案内すると麦茶を入れる。
|瑞葉 莉央《みずは りお》:「こ、こんにちは。突然すみません、瑞葉 莉央といいます。前にヘイルさんに助けてもらって その時に事務所の住所を教えてもらったんです」
燐:「あ、あなたから雨の気配がするんですが 何か持っているんですか?」
ヘイル:「おっと そうだったな」
ヘイルは燐達に対し【膜】を展開、これにより震えを止めることが出来た。
ヘイル:「話してなくてすまなかったな、トランサーに絡まれていたところを俺が助けたんだ。その時にトランサー避けとして【|雨の雫を結晶化させたチャーム《コイツ》】を渡してたんだよ」
凍矢:「それで反応してしまったというわけだな、トランサーである俺達3人が」
莉央:「トランサー!? 貴女方もなんですか!?」
燐:「ご挨拶が遅くなりましたが 私が探偵事務所所長の|睦月《むつき》 燐です。相棒の凍矢に妹の拓花、私達3人がトランサーです。しかし、人を護るトランサーですのであなたに危害を加えることは無いですよ」
凍矢:「先に言っとくと ここにいる人間は そこの晴翔と莉央さんだけだ。そこにいるシルバーの髪の女、メイアもヘイルと同じキメラ。この事務所はバケモノの巣窟だ」
晴翔:「(警察手帳を見せながら)警視庁捜査一課 異形犯罪捜査係の|九条《くじょう》晴翔です。今回はどういったご用件ですか?」
莉央:「実は 友達が行方不明なんです。もう5年会えてなくて、写真の左側に写っているのが友達の【|赤芽 悠奈《あかめ ゆうな》】です」
写真を見て燐 凍矢が反応した。
燐:「この特徴的な瞳… トランサーですね、写真で見る限り中学生か」
莉央:「中学生!? 悠奈とは同級生だったんです! 中学生のはずが…」
凍矢:「残酷なことを言ってしまうと トランサーは不老不死なんだよ、老いることがないが 死ねないバケモノ… それが俺達だ。そしてそれは悠奈さんも同じだ」
莉央:「そんな……!!」
燐:「悠奈さんは私達も探しますので 連絡先を教えて頂きたいのと 写真をお預かりしてもいいですか?」
莉央:「は、はい! よろしくお願いします……!!」
莉央の目からは自然と涙が流れていた。友達も 自分とは違うバケモノ、しかし 目の前にいる人は 友達と同じくとても優しい声だった。見送ると 全員で話し合う。
燐:「まずはあの迷路を調べないとね、悠奈さんの手がかりが掴めたらいいんだけど」
凍矢:「俺も気配察知で探してみるが ただでさえ|逢間《おうま》市は広い、空が飛べたら…」
ヘイル:「それなら〈|浮遊《フロート》〉を使えば〈|翼《ウィング》〉ほど自由度は高くないが飛ぶことは出来るぞ。俺が制御する」
拓花:「迷路なんて楽しみだね!! りん!」
晴翔:「何とかしてしっぽを掴まないとな」
そんな中 1人 ソファで縮こまるような姿勢でガクガク震え 大粒の涙を大量に流しながら怯えていた。
メイア:「みんな… ごめん… 私、今回はパスしてもいい…?」
具現(マテリアライズ)②
ソファの上でガタガタと震え 蒼ざめた顔で涙を絶えず流し 怯えているメイアに対して|燐《りん》達は何も出来ずにいた。ヘイルが正面からメイアに声をかけている。
ヘイル:「…大丈夫か? 少し拠点で休んできた方がいい」
メイア:「…ヘイル 私の身体使って。奥で休んでるから」
ヘイル:「メイア…… 分かった。自分のタイミングで戻ってきていいからな。 身体ありがたく使わせてもらう、記憶にはプロテクトをかけるから」
か細い声で〈|虚像《プリテンス》〉と唱えるとヘイルの身体は光となって消滅する。メイアの頭がカクンと前に落ちて数秒後 ゆっくりと顔を上げる。ヘイルに変わったことで目つきが鋭くなり 瞳は緑色に発光し腕を組みながらソファの背に腰掛けていた。
ヘイル:「すまなかったな、驚かせてしまって。ここ最近は発作がなかったんだが」
|凍矢《とうや》:「メイアは閉所恐怖症なのか? あの怯えようは普通じゃなかったが」
ヘイル:「暗所恐怖症もある。 俺が言うなって話になるが、俺達はメイアを人間扱いしていなかったからな。暗く狭い牢、光源は足元を照らす僅かなライトと鉄格子から見える空の明るさだけ…… 完全なトラウマだ」
燐:「迷路=狭いところ っていうので反応してしまったのかな、ニュースでも見る限り完全な密室だったし」
ヘイル:「探索については俺が〈|自動操縦形態《オート ドライブ モード》〉でメイアの身体を操って参加する。多分迷路に入るだけでも メイアにとっては恐怖でしかないからな」
凍矢:「ヘイルも無理しなくていい、メイアの傍にいていいんだぞ?」
ヘイル:「入れ替わる時にメイアが言ったんだ、私のことはいいから協力してあげてってな。 いちばん辛いはずなのに……」
燐:「分かった、メイアによろしく伝えてね」
本日3回目のインターホン、来たのは|悠河《ゆうが》だった。
悠河:「よぉ、燐! 元気そうだな」
燐:「悠河! 久しぶり!! どうしたの?」
悠河:「ああ、うちの若いのが商店街の福引でチケットを当てたんだよ。しかも3箇所別々で。話題になってるアミューズメント施設のペアチケット3枚分、俺らで行くのもなんだから燐達と行こうかと思ってな」
燐:「__私 凍矢 悠河 ヘイル |拓花《ひろか》 |晴翔《はると》ならちょうど6人か。__悠河、この施設で行方不明者が出てるみたいなの。調査に協力してくれない?」
悠河:「もちろんだ、だが晴翔は人間だろ? 同行しても大丈夫なのか?」
晴翔:「トランサーが関わってるからな 何かあれば俺は離脱して後方支援に回るよ」
チェイン:「ねぇ? 燐。その施設の運営会社ってどこにあるの?」
急にチェインが話しかけてきたため悠河は|狙撃《スナイプ》を発動させる。
悠河:「テメェ!! 何故燐と共にいるんだ!」
スっと悠河の方を見ると歪んだ笑みを浮かべ 唇に指を当てながら話しかける。
チェイン:「クスス、こうして会うのは初めてね |狙撃《スナイプ》? 私はもう1人の燐・チェインとでも呼んでちょうだい。なぁに 燐に危害を加える気は無いから安心していいわよ」
凍矢:「騙されんな、悠河。ソイツは燐を洗脳したり首に手を回したり悪夢を見せて殺しかけた前科持ちだ」
悠河:「洗脳だと…!! 大事な従兄妹を傷つけやがって、今すぐその頭を撃ち抜いてやるから 動くんじゃねぇ!!」
使い慣れている拳銃を具現させチェインの額に銃口を当てる。若草色の瞳は明るく発光しチェインを強く睨みつけている。
チェイン:「私もトランサーなのよ? それも【原初の王の欠片】。**あなた如き **の力では私は倒せないわ?」
ビキッと青筋を立ててバァンと撃ち抜く。その弾はヘイルが魔力硬化させた左腕で掴む、0.1秒遅ければ その弾は後ろにいた凍矢にも当たっていた。チェインはわざと凍矢の前に立っていたのだった。撃ち抜かれて わずか数秒で蘇生 傷口も既に塞がっている。そして相変わらず人の神経を逆撫でるように話し出す。
チェイン:「その容赦なく撃ち抜く腕、嫌いじゃないわよ? クスス。私のものになってくれるのなら ボディガードくらいには使ってあげるわ」
悠河:「チッ! 人をバカにしやがって、俺は誰の下にもつく気はねぇ。ヤクザ舐めんなよ」
フンっと鼻息を荒くし |狙撃《スナイプ》を解除すると壁によりかかっている。
燐:「ここが運営会社だけど、どうしたの?」
チェイン:「同じトランサーとして《《ご挨拶》》に行こうと思ってね」
凍矢:「いくらトランサーと言えど そう簡単に代表には会えないだろ」
チェイン:「それがそうでもないのよ。色々実験してわかったんだけど拓花の時は|影《シャドウ》がトランサーとしての能力なんだけど |チェイン《私》の時はあらゆる能力を使うことが出来る|万能《オールマイティ》に変わるみたい。【原初の王の欠片】だからでしょうね。悪夢を見せることができたり洗脳能力もそのおかげってことかな。
じゃあ私は出かけてくるわ。迷路探索はその後でもいいでしょ? 燐」
燐:「頼むから 引っかき回さないでよ……?
ただでさえたくさんの人が被害にあってるんだから、人質に取られている可能性だってある」
にっこり笑顔で 手をヒラヒラと振り出かけていくチェイン、バキバキという音と共に骨格が変わり 《《外見が燐に変わった》》ことに誰も気づかないまま……。
チェイン:「ふぅ あれだけ大きい施設を動かせるのであれば相当な力を持ってるトランサー、顔が割れるのは避けたいから ちょーっと燐の姿を借りるわ。悪いようにはしないから♡ ハハハハハハハハ、アッハハハハハハハハ……」
*のマークが浮かんでいる黄金の瞳を怪しく輝かせ 不敵な笑みを浮かべながら向かうのだった。
具現(マテリアライズ)③
株式会社ヴァリアル…… 日本全国にあるアミューズメント施設を企画運営したり 現在ではVR技術を使用した機器の製造販売なども行っている ベンチャー企業。わずか3年で急激に成長し日本を代表する企業とまで言われるようになっている。
中に入ると 見た目からは分からないが異様な雰囲気が漂っていると肌で感じとれる。チェインが|燐《りん》の姿をとったのは 顔が割れないようにするのが一番の理由だが 高い感受性を利用するためでもあった。
チェイン:「(ふーん、なるほどねぇ。見た目にこそ現れていないけど 中で働いてる社員全員が洗脳されてる。燐が|拓花《ひろか》に買い与えたスマホで色々調べて見たけどたった3年でここまで大きくなるなんて私でも異常だと思う。 どうやら代表は相当な力を持つトランサーみたいね、クスス…)」
総合受付に声をかける。
受付スタッフ:「なにかご用でしょうか?」
チェイン:「ここの代表に会わせて貰えないかしら?」
受付スタッフ:「失礼ですがアポイントは?」
チェイン:「いいえ。 でも」
チェインの黄金の瞳が怪しく輝くとスタッフの目は 虚ろになる。既に洗脳されているスタッフに対し 自分が主であると主導権を書き換えたのだった。
チェイン:「【|原初《げんしょ》の王】が来たと 伝えてくれないかしら?」
受付スタッフ:「……かしこまりました ご主人様。案内の者が直ぐに参りますのでお待ちください……」
チェイン:「クスス いい子ね」
秘書らしき人物が現れ案内される。ちらっと瞳を見ると 人物の瞳には【雪の結晶のような模様】が浮かび上がっていた。
社長室に通されると窓から外を見ていた人物がこちらに駆け寄ってきて すぐさま跪く。瞳は赤紫色をしていたが秘書同様【雪の結晶のような模様】が浮かび上がっていた。
???:「我が王よ。こうしてお会いすることができ とても感激にございます。私はトランサー|具現《マテリアライズ》、|朱星颯《あけぼし そう》と申します」
チェイン:「へぇ〜 やはりトランサーだったのね。わずか3年でここまで成長させるものだから もしかしてとは思ったけど。 つい最近できた巨大迷路だったかしら? なかなか盛況みたいね」
|具現《マテリアライズ》が窓際へ案内すると施設のことを話し始めた。
|具現《マテリアライズ》:「あの迷路に人間が入ると少しずつ生体エネルギーを吸い取り 力尽きる瞬間に【血】を流し込む。 言わばアミューズメント型のトランサー製造装置なのです。入る度に構造が変わり 外見以上に中は広い… メディアを通じアピールすることで客の絶えることがない一大施設へと成長、情報統制などもしているため警察にも情報を掴ませておりません」
チェイン:「まーたすごい施設だこと。でも、警察が行方不明者を嗅ぎつけたらしいけど もしかして」
|具現《マテリアライズ》:「肉体が消滅した者 でしょうね。現在のところ50名ほどが消失しましたが トランサーとして社会に戻った者はその数倍… 同志のための《《僅かな犠牲》》ですよ。実は 我が王。 あの迷路の地下には 【無限回廊】がありましてね、王の器として最適な人物を幽閉しているのですよ」
チェイン:「王の器?」
|具現《マテリアライズ》:「幽閉して5年… 無限回廊の中で彷徨っているトランサーです。 精神が崩壊するのも時間の問題、|輪廻転生《リィンカーネーション》により貴女様が御復活されるのが待ち遠しい限りです」
チェイン:「(王といっても私は欠片、|輪廻転生《リィンカーネーション》なんて使えるわけないし 復活する気もないんだけどなぁ、私は燐のモノなんだし)……その人物って」
|具現《マテリアライズ》:「【|赤芽悠奈《あかめ ゆうな》】 トランサー|糸《スレッド》ですが? 我が王 なにか気になることでも」
チェイン:「……別に。それにしても まさか貴方が|裏にいた《あちら側》とは驚きだったわ? 社員たちを洗脳したのも貴方の力ってことね、|氷結《アイシクル》?」
ソファに座り悠々と紅茶を楽しんでいた人物、トランサー|氷結《アイシクル》こと|露橋氷華《つゆはし ひょうか》だった。
|具現《マテリアライズ》:「氷華様をご存知なのですか? 氷華様は私に血を分け与えてくださりました、氷華様のご意思は私の意思、我が主でもあるのです」
チェインがソファの背もたれに腰掛けると背中越しに話しかけている。
チェイン:「てっきり貴方は燐の味方かと思ってたけど」
氷華:「表向きはね? だけど私も貴方と同じ、欲しいものは何があっても自分のモノにしたいだけよ♡」
チェイン:「|氷転身《ターン・アイス》はヘイルが完全消滅させたはずじゃなかったかしら?」
氷華:「ああ、あの時は消してくれてありがたかったわ。役目を終えたら自死するようにしたのは失敗だったからねぇ こうして新しく|氷転身《ターン・アイス》を生み出せたこと、ヘイルに感謝しないと」
青い瞳が静かに輝いている。
チェイン:「(感謝する気なんて無いくせに白々しい女)言っとくけど 燐は私のモノ、貴方に渡す気は無いからね」
氷華:「それなら心配いらないわ。燐ちゃんの力は強すぎるもの、私の手に余るわ。私には彼がいれば充分、私の洗脳能力と彼の物質生成能力があれば無敵よ」
チェイン:「あっそう。 じゃあ|具現《マテリアライズ》、私はここで失礼するよ」
|具現《マテリアライズ》:「では王よ、入口までお送り致します」
チェイン:「いいえ、大丈夫。 まっ 精々頑張ってちょうだいね、|氷結《アイシクル》もまた会いましょ」
ヒラヒラ手を振りながら社長室を出ると 唇に指を当てて不敵な笑みを浮かべている。
チェイン:「クスス これはすごい情報が手に入ったわ、さーて 燐にどうやって売りつけようかな……。 燐は恐らく|具現《マテリアライズ》を元に戻すだろうけど一社長なわけだし どう接触するのかしらね……。高みの見物させてもらうわ、燐」
チェインがビルから出ていくと 受付スタッフにかけていた洗脳は元の状態 つまり主導権は|具現《マテリアライズ》・氷華に戻っていったのだった。
具現(マテリアライズ)④
チェイン:「|燐《りん》、今戻ったわ」
扉を開け目に飛び込んできたのは【完全獣化し瞳を緑色に発光させて睨みつけているメイア】と【|消《イレイズ》を発動させ燐を庇うようにして護っている|凍矢《とうや》】だった。チェインは黄金の瞳を怪しく輝かせながら椅子に座り 脚を組み テーブルに頬杖をついていた。
チェイン:「そういえば 燐の姿を借りていたこと言ってなかったわね。クスス、別に争う気は無いから安心していいわ。まあまあ時間が経ってるのに メイアはまだ立ち直れてないのね、迷路ごときで怯えるなんて よっわい女」
チェインが瞬きをした瞬間 ブチ切れたヘイルが胸ぐらをつかみ怒鳴りつける。
ヘイル:「誰がテメェの言葉を信じるか。そして サラッとメイアのことを傷つけやがって!!! 何故燐の姿をしている!! 答えろ、そしてメイアに謝れ!!!」
チェイン:「フンっ 敵地に乗り込むのに何の対策もしないバカがどこにいるのよ、それにメイアのことも事実じゃない、謝る気はないわ。
ねぇ 燐? いい情報を手に入れたんだけど欲しい? もちろんタダじゃないけど」
燐:「チェイン お願い、今は冗談に付き合っていられないの。被害者たちをこれ以上増やさない・そして|悠奈《ゆうな》さんを早く見つけるためにも情報を教えて!!」
ヘイルを乱暴に蹴り飛ばすと チェインの目は一気に暗く冷たいものになり 燐を見据えている。
チェイン:「冗談? ハッ燐こそふざけたことを言わないでくれる? 何でもかんでもタダで手に入るなんて思わないで。今私の手元には燐達と相手の情報、どちらも値千金の価値がある、どちらになるかを決めるのは《《私》》。これは【取引】よ、もし情報が欲しいなら私のお願いを聞きなさい」
燐:「お願いって……」
チェイン:「なぁに 別に誰かを殺せとかそういうことは言わないわ。これをつけて欲しいだけ」
ポケットから取り出されたのは黒革で出来たチョーカーだった。内面には複数のプレートが仕込まれ、中央部に取り付けてあるリングの中で黄色いハートの石がユラユラ揺れていた。見た目は|乃彩《のあ》がアオナに取り付けていたチョーカーとそっくりだった。
チェイン:「綺麗でしょ? |夢《ドリーム》が作ったものと違い 着けたからといって即洗脳されることは無いわ。さぁ 燐!! 答えを聞かせてちょうだい」
凍矢:「燐!! 明らかに罠だ!! 奴の口車に乗せられるな!」
ヘイル:「凍矢の言う通りだ。奴は信用ならない! だが決めるのは燐。どうする気だ?」
燐:「それを着けない限り 情報を教える気はないって事だよね、チェイン」
チェイン:「……そうね。もしこれを着けたくないのなら、燐を操って あの刑事をトランサーに変えるってのにしてもいいのよ? それとも 身も心も委ねて私のモノになってくれるのかしら?」
燐:「………分かった。条件を呑む」
歪んだ笑みを浮かべるとチョーカーを放り投げ 苦虫を噛み潰したような表情をしていた燐はバシッと掴み取る、ホックボタンを留めるとグラッと視界が歪みふらつくが ほんの数秒で元に戻る。
燐:「……少しふらついたけど何も起きない?」
チェイン:「着ける前と比べて なにか感じない?」
燐:「すごいリラックスするなとは思うけど……」
チェイン:「セロトニン オキシトシン ドーパミン エンドルフィン エストロゲン……。どういうものか分かるかしら?」
ヘイル:「どれも副交感神経が優位になるホルモンか。精神を安定させたりリラックスさせたり幸福感を感じさせるものだな。特にセロトニンは【幸せホルモン】 エンドルフィンは【脳内麻薬】なんて言われる」
チェイン:「流石人工知能、それを着けてると プレートを介し ホルモンの分泌を促進させるの。もちろん…」
パチンと指を鳴らすと 瞳の色が金色に変わり とろんとした目で フラフラとチェインの元に歩いていき 両膝立ちになると太腿へ頭を乗せ うっとりとした表情を浮かべている。洗脳されている燐を抱きしめるように手を回し 頭を優しく撫でている。
燐:「チェイン様♡♡」
チェイン:「こういうこともね」
凍矢:「洗脳機能はないんじゃなかったのかよ!!!」
チェイン:「誰がそんなこと言ったのよ、|夢《ドリーム》のように着けてすぐ洗脳されることは無い とは言ったけど洗脳機能がないなんて言ってないわ。言っとくけど 無理やり外そうとしたら血を全て吸い取るようにしてあるから燐は死ぬわよ? それも決して蘇ることの無い【**本当の死**】がね。
さてと、取引も成立したし 情報を教えるわ。事件の首謀者はトランサー|具現《マテリアライズ》、名前は|朱星颯《あけぼし そう》。株式会社ヴァリアルの社長。あの巨大迷路に人間が入ると生体エネルギーを徐々に吸い取られ 力尽きる瞬間に【トランサーの血】を流し込むことでトランサーへと変貌させる。あの巨大迷路自体がトランサー製造装置ってことみたい」
凍矢:「迷路そのものが…!! つまり行方不明になってる人々は【血の力】に肉体が負けて消えてしまったってことかよ!!」
ヘイル:「時間が経ってしまっていると|俺達の魔法《タイムリープ》でも戻せないな。タイムリミットは精々2、3時間といったところだ」
チェイン:「そしてもう1点、あの迷路の下には無限回廊ってのがあるみたいでトランサーが1人囚われてるそうよ。名前は確か【|赤芽 悠奈《あかめ ゆうな》】だったかしら」
凍矢:「赤芽悠奈って |瑞葉 莉央《みずは りお》さんが探してると言ってた友達じゃないか!!」
チェイン:「|糸《スレッド》、 それがその女の能力みたい。5年ほど彷徨ってるみたいで【王の器】として捕らえているみたいよ、まぁ【原初の王】としか復活する気は無いけど。
こうして燐を好きにできれば」
ヘイル:「無限回廊か……どう攻略するか。
それより・・・早く燐を解放しろ!! いい加減に洗脳を解け!!! そしてテメェも元の姿に戻れ!!!」
チェイン:「……チッ うるさい狼ね、仕方ないわ」
バキバキと音が鳴ると共に骨格が変化し|拓花《ひろか》の姿になる、再度指を鳴らすと燐の瞳は赤色に戻り バッと立ち上がるが足元が|覚束《おぼつか》ず 凍矢が|咄嗟《とっさ》に支える。
燐:「わ、私何してたの? なんかすごい幸せな気分…」
チェイン:「チョーカーの効果よ、ホルモンが流れすぎると だるさが出たりするから一旦止めるわね。 あ、そうだ 凍矢? あとで|面《つら》 貸しなさい」
ヘイル:「燐の事は俺が見とく、気をつけろよ」
屋上に上がるとチェインの方から話し始める。
チェイン:「あなたの耳に入れておきたいことがある、だけど燐には秘密よ。【絶望の感情】が手に入るかもしれないからね」
凍矢:「【絶望の感情】…… 。 テメェは一体何を企んでやがる!!」
チェイン:「(スルー)|具現《マテリアライズ》のバックにいる人物よ」
凍矢:「スルーしてんじゃねぇ!! って…バックにいる人物!? 黒幕ってことか……!!」
チェイン:「黒幕よりは 協力者と言った方が近いわ。|具現《マテリアライズ》に血を分け与えた人物、貴方たちが良く知る人物よ」
凍矢:「俺達の知り合い… 一体誰なんだ!!」
チェイン:「|露橋氷華《つゆはし ひょうか》 、トランサー|氷結《アイシクル》よ。|具現《マテリアライズ》は氷華様とか呼んでたわね」
凍矢:「氷華だと!!?」
チェイン:「ヴァリアルの社員を洗脳してるのも氷華の能力よ、もし戦うとなったら精々気をつけなさい」
話し終えるとガクンと頭が前に倒れ 次に顔が上がると*のマークは消え ハートマークだけに戻っていた。
凍矢:「チェイン!! まだ話は終わってねぇぞ、待ちやがれ!!」
拓花:「ひっ! と、凍矢?(急に大声が聞こえガタガタと震え泣きそうになってる) 」
凍矢:「(言うだけ言って戻りやがった、あいつ(怒)) 大声を出してごめんな。拓花、大丈夫か?」
拓花:「う、うん。すごく記憶が飛んでるってことくらい…」
凍矢:「そうか。 燐の側にいてやってくれないか、少し疲れてるみたいだから優しくしてあげてくれ」
拓花:「うん!!」
タタっと走りながら事務所に帰っていく拓花を見送ると 凍矢はその場にへたり込んでしまう。
凍矢:「結局 奴のペースに飲まれてしまった。【私は燐のモノ |傍観者《オブザーバー》になる】と言うが 今も燐を支配下に置くことしか考えていない。燐を人質に取られているようなものだ。
クソォ!!! あの野郎!!! 俺は絶対に許さないからな、燐の|守護者《ガーディアン》として 絶対に!!!」
瞳は真っ赤に輝き 怒りにわなわなと震え 地面に拳を強くぶつけるのだった。
逆鱗①
階段をおりながら事務所に向かう|凍矢《とうや》の表情はとても暗かった。先に|拓花《ひろか》を帰したものの、もしまたチェインが出てきていたら……? また|燐《りん》がチェインの操り人形にされ、膝枕で留まらずもっとエグいことをさせられていたら……? メイアだけでなくヘイルまでもがチェインに洗脳されていたら……? あらゆる可能性が頭の中にうずまき、凍矢は気が気じゃなかった。
凍矢:「ただいま……」
ヘイル:「おかえり、凍矢。戻ったか。メイア 帰ってきたのは凍矢だ。大丈夫、俺は消えない ずっとここにいるから」
メイア:「ビクッ と、凍矢……おかえり…」
拓花:「と、凍矢ぁぁぁ! ひっぐ ひっぐ うわぁぁぁぁん!!」
中に入ると3人の声が聞こえ 拓花が抱きついてくる。拓花は目を赤く泣き腫らしており、メイアはヘイルにくっついて 酷く怯えており ヘイルは優しくメイアの頭を撫でたり肩をとんとんと軽く叩きながら声をかけ落ち着かせていた。
脳内は「!?」で埋め尽くされるも 更に怯えさせないように声のボリュームを下げて話しかける。
凍矢:「ひ、拓花!? 大泣きしてどうしたんだよ! それにメイアもなんでそんなに震えてんだ!? どうしているはずの燐がここにいないんだ!!」
拓花:「燐が! りんがぁぁぁ!! うわぁぁぁぁん!! ひぐっ ひぐっ うわぁぁぁぁん!!」
拓花は大声を上げて泣きじゃくっているため 状況を聞き出せない、メイアの震えようも 昼間以上、 なにか《《見てはいけないものをみた》》ような……そんな怯えようだった。
ヘイル:「凍矢、事情は俺が話す。場所を移そう。 ミラ、メイアと拓花のことを頼んだぞ。何かあれば|精神感応《テレパシー》で直接俺を呼んでくれ」
呼びかけられるとどこからともなくミラが現れ跪いている。
ミラ:「承知致しました、ヘイル様」
2人をソファに座らせ優しく頭を撫でると赤の鍵を使い拠点に移動する。|乃彩《のあ》とアオナは 既に〈夢世界〉に引きこもっているため 廃ホテルにいるのは凍矢とヘイルだけであった。声が漏れたり 万が一 人が入らないよう 念の為ホテル全体に結界を張りめぐらせ話し始める。
ヘイル:「これなら人が入ってくることもないし 俺たちの話も漏れないな。まぁ廃ホテルに入ろうとする物好きはいないか」
凍矢:「ヘイル、あの場で何があったんだ」
ヘイル:「・・・・・・」
--- 凍矢とチェインが事務所を出て間もない頃 ---
〈|虚像《プリテンス》〉によりメイアとヘイルが分離したところから始まる。
燐:「メイア! もう大丈夫なの?」
メイア:「うん、ゆっくり休んだし大丈夫だよ。ごめんね びっくりさせちゃって」
燐:「そりゃあ 研究所でのことはメイアにとって大きなトラウマだもん。こうして普通に生活できてるだけでもメイアはすごいよ。ねぇ、ひとつ聞きたいんだけど メイアの魔力って一部だけ切り離すことってできるの?」
ヘイル:「ああ、拠点のインフラを賄っている魔力も大元はメイアのだ。切り離したとしてもメイアが死なない限り半永久的に使える」
燐:「お願いがあるの、魔力を切り離してできた分身体にチェインを移したいの。このままじゃ拓花が ずっと閉じ込められっぱなしで可哀想だもん!! 外見とかは……」
ヘイル:「ふむ。別に俺たちは構わないが……」
そうこう話をしていると拓花が戻ってきて燐に抱きつくと上目遣いで話しかける。
拓花:「ただいま… りん~ 大丈夫??」
燐:「心配してくれてありがとうね、拓花。こっちに帰ってきて早々にごめんなんだけどチェインに変わってくれない?」
拓花:「う、うん。分かった」
カクンと頭が前に垂れて数秒後 ゆっくりと頭が上がっていく。瞳に*とハートの模様が浮かんでいたためチェインになったのは間違いなかった。
チェイン:「燐、こうして貴女から呼んでくれるなんて嬉しいわ。何か用かしら?」
燐:「チェイン 今の拓花の身体から出ていってくれない?」
チェイン:「クッフフフ ハッハハハハハハハハハハハハ!! 何を言い出すかと思いきや出ていけ? なんで私が出ていかなきゃいけないわけ? こんな最高な身体から!!」
燐:「チェインと拓花は記憶が共有されない。あまりにも拓花が可哀想なの!! 代わりになる肉体は準備できているから そっちに移ってくれない?」
チェイン:「ハッ冗談言わないでくれる? この身体はあの戦いで|運命《フェイト》が分離した時にできたもの、出ていくなら拓花の方でしょ!!」
燐:「チェインがなんと言おうと変える気は無いよ、それか 《《実力行使》》に出てもいいんだよ」
指輪を外しながらチェインを見下ろし睨みつける。
チェイン:「チッ、燐は頑固ね 分かったわ。|移動す《うつ》ればいいんでしょ!!! トランサーの力は使えるんでしょうね?」
ヘイル:「そこは燐の血を流すから心配しなくていいぜ」
チェイン:「……まあいいわ。やるならさっさとやりなさい、この狼男」
ヘイル:「俺の名は狼男じゃねぇ!! ヘイルだ!! メイア 〈|虚像《プリテンス》〉で分身体を作ってくれ」
燐:「チェインも一旦私の身体に戻ってきて。ただし 何もしないこと。血を注入次第 ただ表に出てくるだけね」
チェイン:「分かったわよ!」
メイアが魔力の一部を切り離して 人形を作り出す。ヘイルに教わりながら血を注入していき、表にでてきたチェインの人格を完全に移行させた。これによりチェインと拓花は完全に分離、もう拓花の肉体に戻ることも出来なくなっていた。 身長は少し低いが 顔つきは《《幼い頃の燐》》だった。燐がそう指定したのだった。
チェイン:「ふーん、これが新しい身体か。前のより少し耐久性に劣るけど まっいいか。
これで満足かしら? りn あぐっ!!! り、りん… 何をするの…よ……」
手をグーパーグーパーし感覚を確かめたチェインを突然殴り、首を両手で絞めはじめた。指輪は完全に外れ トランサーとして完全覚醒しており凄まじい力だった。驚いたメイアと拓花はヘイルにしがみついているが ヘイルは別の視点で驚いていた。
瞳は暗く冷たく、感情が一切読み取れない。なにより《《全身に青黒い鎖の紋様が浮かび上がっていた》》のだから……
逆鱗②
首を絞めている腕をグッと前に押しやるとチェインはその勢いのまま尻もちをつく。不意に殴られ 数秒とはいえ首を絞められたチェインから感じ取れるのは怒りのみだった。ヘイルがメイアと|拓花《ひろか》を落ち着かせながら見守っている中 よく見るとチェインの首元・手首・足首にも同じような青黒い鎖の紋様が浮かび上がっていた。
チェイン:「ゲホッ ゲホッ |燐《りん》、一体何をするのよ!!」
燐:「なんであんなことを言ったの」
チェイン:「は?」
燐:「なんでヘイルのことを狼男って言ったり メイアのことを弱い女って言ったの!!?」
燐の怒号が飛ぶ。チェインだけでなく燐も本気で怒っていた。拓花を叱りつけた時以上に……
ヘイル:「(声に乗っているのはほぼ怒りの感情。普段怒らない人が怒ると怖いとは言うが その比じゃない。僅かにあるのは…悲しみか?)」
チェイン:「ああ、そういうこと。
私はそこの2人が大っ嫌いなのよ!! |人間と狼の混ざり物《キメラ》に人工知能なんて 人間の皮を被った ただの怪物!この世界はトランサーだけがいればいいのよ、老いや死を超越し進化した人類であるトランサーがね!! あんた達キメラなんて生きる意味のない動物よ、さっさと死んでしまえ、この化け物!!!(な、何が起きてるの!? 思っていたことが勝手に出てくる、口が勝手に…!!)」
ヘイル:「テメェ…言わせておけば!!」
早口で声を荒らげるチェインに対しヘイルがブチ切れて殴りかかろうとする前に燐が殴り飛ばす。
ヘイル:「り、燐!!」
ちらっと3人を見るもまたチェインの方に向き直り 再度殴る。
燐:「メイアやヘイルだけじゃない。|凍矢《とうや》のこともバカって言ったり |晴翔《はると》のこともトランサーにしようと狙っていたよね。忘れてないから」
ヘイル:「燐!! それ以上はやめるんだ!! ……ぐあっ!!」
突然膝裏を蹴られて両膝立ちになると両腕を真横に持ち上げられ強く肩を押し付けられる。完全獣化しようにもできず あまりの力に抵抗もできない。
ヘイル:「(いってて、なんで獣化できないんだ!? ッッ!!メイア!? 拓花!? 一体どうしちまったんだよ!!? こ、声が出せない!!?)」
メイア?:「燐様の仰せのままに…」
拓花?:「全ては燐様のために…」
2人の目も燐と同じように 赤い瞳と金色の瞳孔に変わり(ヘイルの目も変わっているがもちろん見えない)、とても暗く冷たい目をしている。そしてチェインと同じように首元・手首・足首に青黒い鎖の紋様が浮かび上がっていた。ヘイルの手首にも紋様が見えた。
ヘイル:「(2人の声にあるのは服従と敵意の感情。まさかこの紋様で俺達4人が操られてるのか!! 俺は人工知能だからか意識は残ってるし顔も動かせる、感情もわかる。だがそれ以外の場所は操られているせいで獣化できなくなっている。メイアと拓花は身も心も、チェインも同じように操られているが意識を残してる。自分がしたことを分からせるために……。
燐と《《一瞬目を合わせてしまっただけで洗脳されちまった》》ってことか!! ということは チェインの態度が変わりすぎてしまっていたのも説明がつく、目を合わせたことにより燐が自分の大切な人であると誤認させられていたんだ! これが 本当のトランサーの力!!
メイア 拓花、頼む……!! 2人とも 目を覚ましてくれ……!!)」
チェイン:「り、燐。洗脳したことは謝る!! ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい! 殴らないで…! ごめんなさい!」
首を絞められ 3発殴られ チェインの心は粉々に砕けていた。先に洗脳が解かれ自力で動けるようになったチェインはガクガク震え 後ずさりながら謝っていた。
燐:「私で遊んだり 洗脳するのは怒ってないよ、隔週で私を人形にする約束だし チョーカーによる洗脳も【取引き】だから了承の上。メイアとヘイル、晴翔に拓花、そして凍矢は大事な仲間だから怒ってるんだよ!!! 謝る相手は私じゃなくてメイア達、早く謝れ」
チェイン:「メイア…… ヘイル……。ごめんなさい!! ごめんなさい!! ごめんなさい!!」
ヘイル:「(燐 最初からこうするために…)」
メイア達に向けて土下座をするも再度首を絞めあげる。
チェイン:「りん ごめんなさい!!ごめんなさい!!許し・・・」
ゴキッ!!!
チェインの首が真横に向く、ドサッとチェインの亡骸を投げ捨てていた。
ヘイル:「(なっ!!? く、首を折ったのか!!)」
燐:「……わ、私 一体なにを……。 っ!イ、
イヤァァァァァ!!!」
正気に戻った燐の前には 燐を見つめたまま死んだチェインがいた。メイアとヘイル、拓花についていた紋様が消え去り 洗脳は解けたようだった。
メイア:「り、燐…? ひっ!! なんでチェインの首が…! 」
ヘイル:「ふぅ まさか人工知能である俺を洗脳・完全獣化が封じられメイアと拓花に蹴られるとはなw 操ることはあっても操られるのは初めてだったからなかなか新鮮だ。拓花もメイアも洗脳は解けたようだが大丈夫か?」
拓花:「ヘイル〜〜〜! こわかったよーーーーーーー!! うわぁぁぁぁん!!」
自分が何をしていたのか 思い出したことでメイアは酷く怯え、拓花は大泣きしていた。
燐:「あ、あ、あ、あああああああああああああ!!!」
青ざめた顔をした燐は大声を上げて寝室に駆け出し チェインの身体も光となって消えていく。両脇からしがみついてくるメイアと拓花の頭をなでて落ち着かせつつ寝室の方に目を向ける。
ヘイル:「あれが 燐の 真のトランサーとしての力。洗脳・マインドコントロールだろうと予想はしていたが 一目見ただけで操れるとは 恐ろしい力だ。燐……」
逆鱗③
ヘイル:「……っとコレが|凍矢《とうや》が戻ってくるまでの数分間で起きたことだ」
ことの|顛末《てんまつ》を聞いた凍矢は後ずさり壁に当たるとズルズルと座り込んでしまう、目は見開かれ脂汗がにじみ顔を手で覆いガクガク震えていた、当然の反応であった。
凍矢:「|燐《りん》が…… 人を殴って…… 人をあやつって…… 人をころした……?
あの…… 燐が……」
聞こえるか聞こえないかの音量で|腕力強化《フレイム・アームズ》を唱えたあと 凍矢をスっと抱きかかえ椅子に座らせるといつものお茶を出す。
ヘイル:「凍矢、ほら。ゆっくり飲むといい」
凍矢:「あ、ああ。ありがとう ヘイル。
……おいしい、やはりヘイルの淹れるお茶はほっとする」
ヘイル:「攻撃性の|表出《ひょうしゅつ》、人を殴ったりしたことは【強い怒りの感情】がトリガーになっている。いつも冷静で穏やかな燐があそこまで感情を|露《あら》わにするとはな……。それだけ俺達や凍矢を傷つけたチェインが許せなかった・溜まるに溜まっていた怒りが爆発してしまったということか」
凍矢:「燐…… 話を聞く限り《《奴ら》》と同じことをしちまったって事だな」
ヘイル:「奴ら 燐の両親の事だろ。見たよ、胸糞悪い連中だった。燐に向けているのは【明らかな|侮蔑《ぶべつ》の感情】、確か幼いころ虐待を受けてたんだよな」
凍矢:「ああ。5歳から7歳までな、そして7歳の誕生日、俺が生まれ トランサーへと変貌した。それ以来気味悪がって手は出さなくなったがな」
ヘイル:「燐がチェインの|現身《うつしみ》として選んだ外見は【幼い頃の燐】。 親に虐待を受けていた子が その子供をまた虐待する可能性がある と聞いたことがある。わずかにだが影響が出ていたのかもしれないな。
だが、それ以上にまずいのは燐の【真のトランサーとしての能力】だ。ほんの一瞬目を合わせただけで強力な洗脳状態に陥らせる。俺ですら 抗えなかったからな。メイアはともかく、まさか|拓花《ひろか》まで操るとは思わなかった。きっと燐と過ごすのも怖いだろうから一時的にこっちで面倒を見ようか?」
凍矢:「・・・ヘイルはすごいよ」
ヘイル:「凍矢? どうしたんだ?」
凍矢:「怯えるメイアだけでなく拓花まで落ち着かせ、こうやって面倒を見ようかと提言してくれたり……。 周りに気を配っているのに 肝心な時に俺は燐の近くにいない・何も出来ない、俺なんかいてもいなくてm……」
---
ヘイル:「凍矢ァ!!!」
完全に自信をなくし 自分のいる意味を見失ってしまった凍矢は 椅子の上で膝を抱え縮こまってしまっている。普段の凍矢は燐にとってとても頼りになる兄のような存在であるが、今の凍矢はとても小さく見えた。ヘイルは一喝するように大声を出すと、ビクッとする凍矢の頬を左右からムギュッと押しつぶす。
凍矢:「|ふぇ《へ》、|フェイフ《ヘイル》?」
ヘイル:「俺なんかいてもいなくても同じだって言おうとしたな? そうやって自虐するな!! 自分を責める必要がどこにあるんだ!! 【自分の手の届く範囲で役割を果たす】 それで十分なんだよ、でなきゃ |仲間《俺達》のいる意味がなくなっちまうだろ。 なんのために俺やメイア |晴翔《はると》や|夏弥《なつみ》 |浪野《なみの》警部 拓花や|稜也《りょうや》たち 多くの仲間がいると思ってるんだ!!
燐を1番近くで支えてきたのは凍矢だろ!! 【何があったとしても最後まで燐を信じ傍で支える】、 その【芯】だけはぶれるんじゃない!! 凍矢は |凍矢《自分》が思っている以上によくやってるよ、数ヶ月しか見ていない俺にだって伝わってくる。……辛くなったら俺にぶつけろ、【痛み】を受け止めてやる。
だから もう2度と【俺なんか】なんて言うな。今度言ったら 殴り飛ばしてやるからな」
凍矢:「ヘイル…… グスッ グスッ うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ヘイルの胸の中で大泣きし そっと頭をポンポンっと撫でていた。
---
凍矢:「こうやって喝を入れたり励ましてくれたり 本当にヘイルは人工知能とは思えない、人間だ」
ヘイル:「ふっ 燐にも同じように言われたよ。ヘイルは人間味が増してる・立派な人間だってな。
とはいえ ホレ」
一枚の写真を見せる。脳を真横から撮影した写真だった。
ヘイル:「ここに点が写っているのが見えるだろ? それが俺だ」
凍矢:「こんな小さい点が!!? マイクロチップみたいな感じか?」
ヘイル:「ああ、その写真はメイアがキメラとして完成する前日 俺が組み込まれた直後に撮られた写真だ。こうやって普通に話したり 感情がわかったりするのも奴らの技術力が高いってことだな、一応俺は自律思考できる人工知能ってやつらしい。こんな小さいチップに俺の全てが集約され 情報処理される。情報処理能力だけで見れば スーパーコンピューターより上だって奴らは言っていた、本当かどうかは比べたことないから分からないけどな」
凍矢:「はっははは…… スパコンより凄い人工知能が こんな近くにいたのかよ」
ヘイル:「笑顔が戻ったな、いい表情してるよ。今の凍矢から 負の感情は感じられない」
凍矢:「ヘイル、俺 燐の傍にいるよ。拓花のこと頼んでもいいか?」
ヘイル:「ああ、ミラもいるし 拓花の意思で帰りたいって言うまでこっちで面倒を見るさ。部屋なら沢山あるし。
燐も動揺しているだろうから あまり責めたてるなよ」
凍矢:「ああ! 色々ありがとうな」
赤の扉から事務所に戻り 拓花と話した結果、落ち着くまでヘイルの所へ預けられることとなった。そして部屋割を話し合った結果……強い希望によりヘイルは拓花の ミラはメイアの傍にいたのだった。
逆鱗 その後(凍矢 燐 チェイン)
|拓花《ひろか》を見送った|凍矢《とうや》がまずしたことはホットミルク作りだった。|燐《りん》は三温糖多めで淹れてもらうホットミルクが大好きで 怖い事があった日などによく淹れてもらっていた。ドアをノックすると 今にも消えてしまいそうな か細い声が聞こえてくる。
燐:「だ、誰……?」
凍矢:「燐、俺だ 凍矢だ。中入ってもいいか?」
燐:「う、うん。鍵開けるね……」
直後ガチャッと音が聞こえる、ホットミルクを淹れたマグカップ2つをお盆に乗せ 静かに入っていく。常夜灯も付いておらず真っ暗だったため許可をとって明かりをつける。ベッドからはぎ取った布団で全身を包み 焦点の定まっていない目をし 青ざめた表情で下を向いていた。
凍矢:「夜食べてないからお腹すいただろ? ホットミルク淹れてきたけど 飲めそうか?」
変わらない表情で僅かに顔を上げると静かに頷き 凍矢からマグカップをもらう。熱すぎずぬるすぎない好きな温度で淹れてもらった甘いホットミルクを少しずつ飲んでいる。凍矢もベッドサイドに座り 一緒に飲んでいた。身体に触れようとするとビクッとしたため 凍矢は向き直り静かにホットミルクを見つめていた。
凍矢:「ごめんな、俺がそばにいなかったせいで燐に辛い思いをさせてしまった。拓花はヘイルが面倒を見てくれることになったよ、自分の意思で帰りたい って言うまで面倒を見るってさ」
燐:「……私 チェインだけでなく拓花やメイア ヘイルにまで怖い思いをさせちゃった。この手で人を殴って 人を殺した…… 私 私はっ!!」
マグカップが手から滑り そのままシーツの上に落ちようとしたため すぐさま|光の鎖《チェイン オブ スパークル》で掴み |消《イレイズ》でマグカップに蓋をする。そして自分のと一緒にサイドテーブルに置くと燐の両手を自分の両手で挟み優しく握りしめていく。
凍矢:「燐は何も悪くない、止められなかった俺と 人を|弄《もてあそ》んだチェインが悪いんだ。燐のこの手は トランサーから人を護る暖かい手だ、自分を責めなくていい」
ついさっきヘイルに励まされた凍矢は同じようなことを燐に伝える。ちらっと顔を見ると青ざめた顔は元に戻り 大粒の涙がとめどなく流れていた。
燐:「……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!! とうやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そのまま胸の中で声を上げて泣いている。抱きしめると後頭部や背中を優しく撫でたりポンポンと軽く触れている。泣き疲れた燐をそっと寝かせると 精神世界へ帰っていく、もう1人会わなければならない人物の元へ……。
---
精神世界へ帰りつくと 黒く冷たい壁で覆われた部屋のようなものが出現していた。扉をノックするとギィィィィと重い音がしてひとりでに開いていく。中に入り正面を見ると 片膝を立てて座り込む 【黄金の瞳をもつ燐の姿をした異形:チェイン】がいた。あれだけ絞られたからか さすがのチェインも憔悴しており、つけられた鎖の紋様は今も首元・手首・足首に見えていた。洗脳は既に解けているのに消えていなかった。そして もう1点大きな変化が、これまでチェインの瞳に《《必ずあった*のマークが消えていた》》のだった。
チェイン:「凍矢…… やっぱり来たんだね。気配でわかったよ」
凍矢:「ヘイルから話は聞いた。さすがのお前も 反抗する気は無いようだな」
すっと目を背けるも 恐る恐る目線だけは凍矢に向ける。
チェイン:「気がついたらこの部屋にいたの。本気で怒った燐は とても怖かった……。【死ぬ】ってあんなに怖いなんて思わなかった……。 燐はどんな感じだった……?」
凍矢:「青ざめた顔で布団にくるまれていたよ。この手で人を殴って殺したんだってな」
ゆっくりと立ち上がると左手を庇うようにし 凍矢の顔色を伺うようにして立っていた。
チェイン:「そっか…… 燐や拓花にはちゃんと自分から謝る。 凍矢にもバカとか言って本当にごめんなさい」
身体の前で手を重ね 目を閉じ 深く深く謝罪している、最敬礼だった。コツコツと歩いてくる凍矢の足音にビクつき 更に目をぎゅっとつぶる。真の|消《イレイズ》としての|能力《ちから》で 自分が消されるかもしれない、でも自業自得なんだと覚悟を決めていた。ポンっと頭に手を置かれ撫でられた時には ゆっくり目を開き顔を上に向けていた。
チェイン:「と、凍矢…… どうして…… 」
凍矢:「俺が言う前に自分から謝った。だから チェインのことは許す。あれだけ燐に絞られたんだ、もうしないって約束してくれるか?」
チェイン:「うん…… これからは燐が悲しむことはしない、人をけなしたりしない。だって みんなを傷つけたら燐が悲しむもん」
凍矢:「燐が か……。まぁ それでいいよ」
ポンポンっと両肩を叩かれると またズルズルと滑っていき膝を抱えて座り込む。凍矢もチェインの隣に座って話しかけていく。
凍矢:「なぁ ずっと聞きたかったんだが、お前は何者なんだ?」
チェイン:「トランサーの血と本能が 燐の感情と強く結びつき実体となった姿…… だよ。 怒りや憎しみ、嫉妬、|懐疑心《かいぎしん》、絶望といった感情でね。だから厳密には凍矢や拓花みたいな【人格】ではないの」
凍矢:「・・・・・・」
チェイン:「感情だけじゃない。燐の【欲望】も私を形づくってる」
凍矢:「欲望…… 何かが欲しいとかの あの欲か?」
チェイン:「その中でも特に【支配欲求】や【独占欲】がね、まぁ私の動きを見てたら 何となく察してたんじゃない?」
凍矢:「前にヘイルが 燐には怒りの感情があるけれど ほとんど表に出ないと言っていた。 封印されていたが 既にお前がいたからだったんだな」
チェイン:「まぁ そういうことだね。燐が感じたらすぐ私の中に流れてくるの。それでヘイルが感じとれなかったんだと思う、 さっきの燐の怒りは私も吸収できなかったけど」
凍矢:「なるほど。拓花と|チェイン《お前》は同一人物かと思っていたが違うのか」
チェイン:「拓花は【人に甘えたい・構ってほしいという感情や欲望】がメインなんだけど…」
凍矢:「? どうした、なんか歯切れが悪くないか」
チェイン:「【人から命令されたいという欲】、服従欲求のようなものも混ざっているの。ほとんど表には出てこないけどね」
凍矢:「あの時・・・ 『燐の言うことならなんっでも聞く・ 私は燐だけのモノ、燐が望むことなら なんっでもするよ』 って言ってた面が分離して拓花になったってことか。その後も燐に覆いかぶさったりしていたから愛情欲求っぽい面も入ったのか?」
チェイン:「説明がなかなか複雑なんだけどね、ざっっくり言うとそういうこと」
凍矢:「(拓花という人格として確立してからまだ数ヶ月…… お前と同じように封印されていたわけだし 精神年齢が幼いのも仕方ないってことか。)
……なんかややこしくなって頭痛くなってきた。お前はこれからどうするんだ?」
チェイン:「もし できるのなら拓花と《《完全に分離したい》》かな。私が表に出ている時 拓花はずっと暗い部屋の中にいるもん。さすがに可哀想だなって思えてきて」
凍矢:「まぁそこは要相談だな。……にしても 燐・拓花・チェインと俺。多重人格とはいえ 3兄妹から4兄妹になるとはな、なかなかの大所帯だ」
チェイン:「燐…… だいじょうぶかなぁ」
凍矢:「随分と弱々しくなったな、あれだけ高圧的だったのに 借りてきた猫というか なんだか違和感しかない。まぁ 落ち着いたらまた戻ってきたらいい。美味い料理をたんと食わせてやるからさ」
チェイン:「うん、あのペンネ すっごく美味しかったから 楽しみにしてるよ」
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静かに手を振り凍矢を見送るチェインの表情は明るくなり 凍矢と燐の瞳に見えていた金色の瞳孔も赤色に戻ったのだった。
凍矢:「これまで強く当たっちまったり 本人の前では大声で言えないが 燐にメロメロになっているチェイン いやこの場合は拓花か? また子猫や小さい子みたいで可愛いんだよな、スキンシップとして大目に見てやるか。 それにしてもヘイルの話では もう洗脳は解けているはずなのに なんで鎖の模様が残ってたんだ? それに瞳の中に必ずあった*のマークも無くなっていたなんて……。
まさかチェインも俺と同じように燐の感情から出来てるとはな。懐疑心か… ヘイルに聞いてみようかな」
そう考えながら現実世界に戻ってきた凍矢は燐の穏やかな寝顔に安心しつつ静かに目を閉じたのだった。
凍矢: 悲しみと恐怖の感情をベースに誕生した人格。
チェイン:トランサーの血や【人を同じトランサーへと変貌させる】というトランサーの本能が燐の感情や欲求と結びつき実体化したもの。
拓花:人に甘えたい・かまって欲しいという感情や愛情欲求が人格という形で実体化したもの。
凍矢や拓花は感情や欲望から形成された人格ですが、チェインはトランサーの血が実体を得たものなので 厳密に言うと人格ではなく【燐の中に巣食う何か】というのが正しいかなと思います。
また感情は【ベース】になっているだけで完全に感情を切り離している訳ではありません。もし感情がことごとく切り離されていたら・・・悲しみや怒りを感じることが出来ない 頭の中お花畑になってる燐の完成です(・∀・)
逆鱗 その後(ヘイル 拓花)
拠点としている廃ホテルは全部屋に電気水道が通っており、どの部屋でも快適に過ごすことが出来る。メイアの魔力を変換してインフラを通したり物資を具現させているが全部屋にインフラを通すために全魔力を消費し数時間眠り続けたことがあった。基本的にはその中の一室をメインの部屋にしており メイアはベッドで、ヘイルは椅子に座って眠っている。
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部屋割を決めるため ヘイル |拓花《ひろか》 そしてしもべであるミラと ミラにしがみついて震えているメイアがいた。
ヘイル:「さてと |凍矢《とうや》と話して数日拓花を預かることになった。部屋割なんだが希望はあるか?」
スっと拓花が手を上げる。
拓花:「ヘイルお兄ちゃんと一緒がいい」
ヘイル:「(お、お兄ちゃん!?) 俺は男だぞ? 同じ女性同士 ミラとの方がいいんじゃ……」
そう言うとヘイルの後ろに隠れ ブルブル震えている。
拓花:「だってミラお姉ちゃん 怖いもん…
(´;ω;`) ヘイルお兄ちゃんがいい」
ヘイル:「ミラが 怖い……?(確かに拓花から恐怖の感情を感じる、嘘もついていない)
わかったよ。 メイア、俺は拓花といてもいいか?」
メイア:「うん…… 私はミラと一緒にいたいかな」
ヘイル:「そうか、ミラ 何かあれば|精神感応《テレパシー》で俺に伝えてくれ。俺達は隣の部屋を使うよ」
ミラ:「承知致しました。 ヘイル様」
ベッドサイドにちょこんと座る拓花に ヘイルはホットココアを淹れていた。
ヘイル:「お茶よりもこっちの方がいいだろうから作ったよ。少しずつ飲むんだぞ」
拓花:「お兄ちゃん ありがとう」
ヘイル:「ふふっ お兄ちゃんか。(そんなお兄ちゃんは1回拓花に剣で殺されて 膝裏を思いっきり蹴られたんだけどなw) なぁ拓花、どうしてミラが怖いと思ったんだ?」
拓花:「だって 目の中の渦巻きが怖いもん、それに すごく冷たい目をしてたもん」
ヘイル:「そうだったのか。(ドクン) ぐっ……!!
すまない拓花、ちょっと俺は外に出てくる。すぐ戻るよ」
ふらつきながら屋上に向かっていく。拓花が大人しくいるはずがなく コソコソついて行った。
屋上に着くと バングルを外し月を眺めていたヘイルを見つけ 壁からちらっと覗き見るようにしている。ヘイルはハァ ハァと荒い呼吸をしており 胸を押さえていた。
拓花:「ヘイルお兄ちゃん? どうしたんだろう?」
ヘイル:「ハァ ハァ。 鼓動がうるせぇ……。血が騒いでいる……。 あの満月が俺の目を捉えて離さねぇ、 グルルル グラァァァァァァ!!!」
雄叫びを上げた後 腕を前にクロスさせ【完全獣化】と呟くと足元に風が巻き起こりヘイルの姿が変わっていく。狼の尻尾と耳が生え 全身の肌は灰色に変わり、首から下には灰色の毛が生えていた。右手からも紅く鋭い爪が伸び、犬歯と目つきはより鋭くなり 瞳孔は針のように細く 瞳は琥珀色に明るく輝き 熱く荒い息を吐いていた。尻尾は左右に大きく揺れ 耳はピクピクと細かく動いていた。第2の姿である完全獣化態へと変身したのだった。
ヘイル:「フゥー フゥー ……。あいっかわらず厄介な身体だ、トランサーと戦わなくても 数日に一回こうして完全獣化する必要があるのが。 既に獣化したってのに満月を見ちまったから血が疼いちまったや。まぁ意識はこうして残っているし ただ変身するだけだから負担もないが。
それにしても日に日に|完全獣化態《この姿》でいる時間が長くなっているような気がする。もしかしたら近いうちに人間の姿に戻ることが出来なくなってしまうのか? 認識阻害の魔法も効かなくなってしまうのか? 今日明日の話ではないだろうが、気にとめておいた方がいいかもな。
…… アオーーーーン。 ハハッ 俺は人間だし遠吠えなんて柄にもないか」
???:「キャアーーーーーーーーーー!!」
ヘイル:「ッッッ!!? この声は拓花!?」
咄嗟にバングルをはめ人間態に戻ると拓花のもとに駆け寄る。記憶を消そうと左手を徐々に近づけようとしていた。
ヘイル:「拓花…… 見ちまったのか、|獣化した《あの》姿を。 怖がらせてすまなかった、すぐに怖い記憶は消してやるからな」
拓花:「お、お、お」
ヘイル:「お?」
拓花:「おおかみさんだーーーーーーー!!
お兄ちゃん さわらせてーーーーーーー!!」
ヘイル:「・・・・・・へ? (恐怖の感情は感じられない、むしろ これは歓喜、よろこんでる!?) 屋上は冷えるから部屋に戻ろうか。そこでまた変身するからさ」
拓花:「うん!」
拓花はヘイルの手を引っ張って部屋に向かう。現世に顕現したばかりの女の子とはいえトランサー、力はなかなか強く ぐんぐんとヘイルの手を引っ張っていく。まさかあの姿を見て 目をキラキラさせ興奮するとはヘイルにも予想がつかなかった。
部屋に帰りつくとバングルを外して完全獣化態に変身し、触りやすいよう|胡座《あぐら》をかくと頭や耳をなでなでされている。尻尾は触らせたくなかったからか大きく左右に振るが 逆に拓花を煽ってしまったようで 尻尾は追いかけっこのおもちゃへと変わった。
メイアと違い 身体を触られるのが苦手だったがこればかりはと半分諦め状態で応じていた。
ヘイル:「ひ、拓花? ホントに怖くないのか?」
拓花:「うん! おおかみさんをなでなでするの!!」
ヘイル:「ならこういうのはどうだ?」
二っと口角が上がったあと 立ち上がり1度人間態に戻ると そのまま第3の姿である動物態、完全な狼の姿へと変わる。そのヘイルに対してもキャーっと歓声を上げ抱きつき頭や身体を撫でくりまわしていた。ちらっと時計を見ると9時を回ろうとしており 拓花は 時たま大きく欠伸をしている。
拓花:「お兄ちゃん ふわふわで気持ちいい〜〜〜!! ……ふわぁ〜」
ヘイル:「もう夜も遅いか、拓花 そろそろ寝ようか。もしひとりが怖いなら一緒に入ろうか?
寝る時も この姿になるんだ」
拓花:「うん、お兄ちゃんと一緒に寝たい!」
動物態では布団をかけたりするのが大変だろうと感じたヘイルはまた人間態に戻ると 腕枕をして拓花を寝かせる。明かりを弱めたあと そのまま動物態に代わり一緒に眠ったのだった。ギュッとヘイルの手=前足を握りながら……。
拓花:「お兄ちゃんのからだ あったかい〜〜〜♡」
ヘイル:「(俺が 拓花を撫でてあげられないのが欠点だな。まぁ動物態だし致し方ないか。メイアは大丈夫かな、かなり怯えていたし)」
なお その頃のメイアはミラと一緒に さっさとベッドに入って寝ていたのだった。
今調べたところ 狼ってめっちゃ体温高いんですね。40度って。
にゃんこかな(・∀・)
逆鱗 その後(凍矢 燐 チェイン)②
寝始めてから約2時間後、|凍矢《とうや》は胸をポスポスと叩かれる感じがして目が覚めた。
凍矢:「んっ…… |燐《りん》? どうしたんだ?」
燐:「おねえちゃん…! |悠那《ゆな》お姉ちゃん…!」
涙を流しながら何かをノックするように凍矢を叩いていた。背中をさするようにして優しく声をかけていく。
凍矢:「り、燐!? 一体どうしたんだ!! それに悠那!? 燐の人格は俺 燐 チェイン |拓花《ひろか》だけだろ!? まぁチェインが人格じゃないってのは一旦置いといて、ともかく行くしかない!!」
凍矢は燐の両手を握りしめ精神世界へと戻って行った。
精神世界に到着し 燐の姿を発見するとすぐに駆け寄っていく。拳から青い血が流れるくらいに黒い壁を叩いており、そして泣きながら何度も何度も 名前を呼んでいたのだった。凍矢は拳を受け止めると事情を聞いていく。
燐:「お姉ちゃん!! お姉ちゃん!! 悠那お姉ちゃん!! 出てきてよぉ!!!」
凍矢:「燐!! やめるんだ!! こんなに出血して……。何があったんだ?」
燐:「ぐすっ、さっきここに来たら悠那お姉ちゃんに会ったの。そしたらこの中に隠れちゃって! 何度呼んでも出てきてくれないの!!」
凍矢:「そういう事か、俺が話をしてくるから燐はここにいるんだ。これ以上自分の身体を傷つけるな、いいな?」
燐:「う、うん。分かった……」
黒い扉を軽くノックするも開く様子がなかったため、側面に回り|消《イレイズ》で小さく穴を開けて様子を伺う。ドンドンと突然叩かれびっくりしたチェインは壁際で震えていたのだった。場所を確認し 凍矢はチェインのいる場所に回ると同じく小さな穴を開け静かに話しかける。
凍矢:「チェイン 聞こえるか? 凍矢だ」
チェイン:「凍矢! 良かった……来てくれて安心したよ、ねぇ 燐はなんであんなことを!? それに悠那ってなんなの!!?」
凍矢:「実はずっと前から 姓名判断サイトとかを色々見てたんだ。拓花だけでなくチェインにもちゃんとした名前をってことだな。お前がここに隠れたのは燐への罪悪感からだろ?」
チェイン:「そりゃあそうだよ……。 これまでたっくさん酷いことをしてきたもの、素直に顔を見たり ましてや名前を・お姉ちゃんなんて呼ばれる資格は無いよ」
凍矢:「だが燐は そう思っていないようだぞ?
恐らく燐の中ではチェインに関する問題は解決したと思っている」
チェイン:「だとしても!! だとしても お姉ちゃんなんて呼ばれる資格はないよ、これまで何回も洗脳したり 一時期は悪夢を見せて殺しかけたり 私には……!!」
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凍矢:「あ゛ーーーーーもう!! 面倒くさいな!!」
弱々しくなっているチェインにイラついた凍矢は|消《イレイズ》で大穴を開けるとチェインを引きずり出し ヒョイっとチェインを担ぐと燐の前に連れ出したのだった。
チェイン:「と、凍矢!? どこに連れていくの!!?降ろしてよ!!」
凍矢:「燐と面と向かって話せ!! ウジウジすんじゃねぇ!!」
燐:「あ! 悠那お姉ちゃんーーーーー!! 出てきてくれたァァァァ!!! うわぁぁぁぁぁん!!!」
チェインにギュッと抱きつくと大声で泣いていたのだった。
チェイン:「また悠那お姉ちゃんって……!! 燐、私のことを|赦《ゆる》してくれるの? あれだけ酷いことをしたのに」
燐:「悠那お姉ちゃんーーーーーーー!! もうどこにも行かないでよぉ!! うわぁぁぁぁぁん!!!」
チェイン:「燐…… ありがとう。私のことを赦してくれて、そして悠那という素敵な名前をくれて ありがとう」
チェインもまた目から涙がこぼれ 燐をギュッと抱きしめると 突然身体が光り出した。
チェイン:「!!! これは……!」
凍矢:「悠那という名前をもらったことで 完全に【原初の王】から分離し欠片ではなくなったってことか? 今まで金色だった瞳もカナリア色に変わっている。悪意も完全に消え去り 人格へと変貌したってことじゃないのか?」
悠那:「チェインから睦月 悠那に生まれ変わったってことか。これからは燐のお姉ちゃんとしてだけでなく 罪を償って生きていく…… 。凍矢 改めてよろしくね」
凍矢:「……ああ」
悠那と凍矢はギュッと握手を交わす、ヘイルのように感情を分析することは出来ないが 少なくとも今の悠那は嘘をついていないと感じていた。
燐:「ねぇ 悠那お姉ちゃん」
悠那:「どうしたの? 燐」
燐:「なんか…… 喋り方に違和感というか、前の喋り方に戻してよ」
悠那:「前って?」
凍矢:「あの高圧的な感じか? まぁ俺も正直悠那の話し方は前の方があってる気はするがな」
悠那:「・・・・・・こ、こういう感じかしら?」
燐:「うん!! この方が悠那お姉ちゃんにピッタリ」
凍矢:「俺が面倒見のいい兄貴 悠那は妖艶な雰囲気がある姉ちゃん 拓花は甘えん坊な妹ってところか」
悠那:「よ、妖艶!? あんまり意識したこと無かったんだけどなぁ(汗)。まぁ2人が言うのならそういう事なのかしらね、ふふっ頼りになる兄貴に可愛い妹が2人か」
凍矢:「人格になったのであれば俺達みたいに分離できるはずだ、悠那もそうするか?」
悠那:「そうね、身体があればすぐ燐を護れるしね。 連絡お願いしてもいいかしら? それまではここでのんびり過ごしているわ、燐には絶対手を出さないから安心してちょうだい。もう私はかつてのチェインでは無いから」
凍矢:「……わかったよ」
チェイン改め悠那と話し終えると凍矢は一旦現実世界へ帰っていく、すぅすぅと穏やかな顔をして 静かに寝息を立てて眠っている燐の様子にほっと胸を撫で下ろすと優しく頭を撫で 静かに目を閉じるのだった。
---
眠りについている燐はそのまま精神世界にいるため、横座りしている悠那が迎え入れ顔を向かい合わせるように膝枕をされていた。(悠那が横座りしてる状態で燐が仰向けに寝るような感じです。頭頂部をお腹側に向けるように)
燐:「一時期はどうなるかと思ったけれど ようやく悠那お姉ちゃん チェインと分かり合えたんだ」
悠那:「・・・・・・」
燐:「お姉ちゃん?」
悠那:「|運命《フェイト》が燐の身体と指輪にかけていた守護の|呪《まじな》いが弱まって 動けるようになった私は燐を磔にし、その身体と意識を奪い 凍矢に怪我を負わせてしまった。その後 何回も燐を洗脳し 意のままに操ったりヘイルにも怪我させてしまったり……。そんな私を赦してくれて本当にありがとう、そして辛い思いをさせてしまってごめんなさい」
燐:「そうやって謝らないでよ お姉ちゃん。もうお姉ちゃんは これまでのチェインのようにならない、 私はそう信じてる。でも お姉ちゃんが私を操りたいのであればいつでも操ってくれていいからね、なんか洗脳されたり操られるのクセになっちゃったからさwww」
悠那:「燐……」
笑いながら言う燐に対し複雑な表情を浮かべる、その後 静かに目を閉じ眠っている燐を見て悠那の目つきが鋭くなる。
悠那:「(今度は私の番、可愛い妹達と凍矢は私が護る。《《家族》》に仇なす者は誰であろうと容赦しない。トランサー|全能《オールマイティ》として,チェインとして,そして|睦月悠那《むつき ゆな》として……)」
頭を撫でると「お姉ちゃん これからよろしくね ムニャムニャ」と寝言を言う燐をみて これまでに無い優しい表情を浮かべていたのだった。
精神世界は凍矢と燐が組手を行ったりもするため ふつーに痛みを感じる世界となっております。しかし その世界で怪我をしたからと言って現実の肉体にリンクはしないようになってます。
痛みも感じるしトランサーの能力も使える…。
精神世界とは?(・∀・)
具現(マテリアライズ)⑤前編
--- ヘイル side ---
ハロウィンがとっくに終わり だんだん夜の時間が長くなってきた ある日の朝。
メイア:「ふわぁ あれ? ヘイル どっか行くの?」
ヘイル:「おはよう メイア。起こしちまったか。ちょっと|乃彩《のあ》達のところへな、アオナにかけた催眠が完全に解けているとはいえ定期検診をしに行ってくる。メイアはどうしたんだ?」
メイア:「|氷華《ひょうか》さんから遊園地のチケットもらったから|拓花《ひろか》を誘いにいってくるよ!」
ヘイル:「そうか じゃあ完全別行動だな。気をつけて行ってこいよ」
メイア:「うん!! 行ってきます!!」
準備していたのはヘイルが先だったがメイアが赤の扉から出かけていった。
ヘイル:「・・・・・・悪い 嘘ついちまって」
---
--- |燐《りん》 side ---
|悠那《ゆな》:「さてと 無限回廊に行くためには|具現《マテリアライズ》に方法を聞き出さないとね。でも大人数でぞろぞろ行くわけにもいかないし 拓花には悪いけどお留守番してもらわないといけないわ…」
キィィィィンという音とともに赤の扉が開くとメイアが入ってくる、しかしいつも一緒にいるヘイルはそこにはいなかった。
メイア:「おはよう! 燐!」
燐:「メイア!! どうしたの? ヘイルは一緒じゃないの?」
メイア:「氷華さんが 私と拓花と一緒にお出かけしない?って遊園地のチケットをくれたの!! あ、ヘイルは乃彩さん達に会いに行くって。アオナさんの定期検診だとかで」
|凍矢《とうや》:「氷華が? 何も起こらなければいいが。 拓花はどうする?」
拓花:「うん! お出かけしてくる!!」
凍矢:「即答かよwww。 と とにかく俺 燐 悠那はヴァリアル社にカチコミ、拓花はメイアと外出っと」
悠那:「|具現《マテリアライズ》の元へは私が案内するわ。あ、 燐 ごめんなさい ちょっと凍矢と話をしてくるからいい子で待っててちょうだい。時間かかるかもだから拓花は先にお出かけしてらっしゃい、感想聞かせてほしいものね、気をつけて行ってらっしゃい!」
燐:「うん、わかった!」
拓花:「悠那お姉ちゃん 燐 凍矢 いってきまーーーーす!」
メイア:「じゃあ行ってくるね!」
---
--- 再び ヘイルside ---
〈|翼《ウィング》〉を発動し向かったのは巨大迷路だった。まだ開園してないこともあり人は全くいなかったため 自由に調べ始める。火球をぶつけたり真空波を飛ばしたりしても傷1つつかない、無限回廊を見つけるため 緑色の瞳でくまなく探すも手がかりは全く掴めず 地上に降り立った。
ヘイル:「フゥ これだけやっても見つからないということは 赤の扉と同じように何かしらの《《鍵》》がいるってことなのか? もしそうなら|具現《マテリアライズ》しか行けないということになる。壁に手を触れるだけで僅かに体力が奪われた気がする……。人間だけでなく キメラである俺にも効くとはな、先に調べておいて正解だった。
……にしても どうして人間共は死ぬかもしれない迷路に挑むのかねぇ、たとえ蘇ったとしても|不老不死のバケモノ《トランサー》の一丁上がり、いっそ死んだ方が……。おっとこれ以上は燐達に失礼だな(俺も人間のはずなのになんでこうもイラついているんだ?)」
その時 狼の聴力と嗅覚が 今にも消えてしまいそうな気配をとらえる。とてもとても小さな声で【助けて】 と呼んでいた。
ヘイル:「これは・・・・・・!!」
向かった先は人気の無い路地、そこには 170センチくらいの体長と思われる白蛇が縮こまり震えていたのだった。11月中旬で日中の気温差が大きく 路地は特に肌寒さを感じる場所、何故こんな場所に白蛇がいるのかという疑問よりも早く身体を温めてあげなければ という想いでいっぱいだった。拠点に連れ帰り 蛇にとって適正室温となる27℃くらいに部屋を温めベッドの上にスっと置く。ペットボトルでは飲めないだろうと水を入れたお椀を持ってきたヘイルは驚愕し その場に落としてしまった。
つい先程まで白蛇がいた場所にはメイアくらいの年齢の男の子が横たわっていたのだった。燐と同じような赤い目をしており顔の一部や服の袖からは 鱗に覆われた肌が見えていた。体温が戻ってきたことで頬に赤みがさしてきた。
???:「こ、ここは? あなたが助けてくれたんですか?」
ヘイル:「無理に起きるな! 横になったままで まずは体力を回復させないと……」
???:「人間の姿に戻ったから平気です。えっと ……」
ヘイル:「俺は風野ヘイル。ここを拠点にしている|狼人間《キメラ》だ、危害を加える気は全くないから安心していい。まっ 信じる方が難しいか」
|裕太《ゆうた》:「俺は|朱星裕太《あけぼし ゆうた》っていいます。トランサーっていうバケモノです……」
ヘイル:「やはりな、あんな大きな白蛇がなんで路地にいるのかと思ったが さしずめトランサー|動物化《アニマライズ》といったところか。ん? 《《朱星》》? 傷口に塩を塗ってしまうかもしれないが|朱星颯《あけぼし そう》という人物に心当たりはあるか?」
裕太:「ヴァリアルって会社の社長である朱星颯ってことなら俺の兄貴です」
ヘイル:「!!! |具現《マテリアライズ》の弟か!! どうしてあんな路地で倒れてたんだ?」
裕太:「兄貴が 新しいアトラクション施設ができたって両親と俺を招待してくれたんです、でも母さんと父さんはあの迷路の中で消えてしまって 俺だけが生き残ってしまったんです。
この姿を見た兄貴は 気持ち悪い・出来損ないのトランサーは役に立たないからいらないといって 俺を追い出してしまったんです。2週間くらいは なんとか生きられたんですけどお金もなくなって 寒くて震えていたら急に身体が白蛇の姿に……」
ヘイル:「そして俺が見つけたと。親御さんはトランサーの血に肉体が耐えられず消滅してしまったということか……。なんて酷い兄貴だ!! 俺は裕太のその赤い目 綺麗で大好きだけどな、鱗も綺麗に揃ってるし。
決めた、裕太もここに住むといいよ。また外でいやな目に遭わせたくはない、俺も同じバケモノだしな。まずはしっかり体力を回復させるところからだ、ゆっくり寝るといい」
裕太:「ヘイルさん…… ありがとうございます」
ヘイル:「アレルギーはあったりするか?」
裕太:「いえ、特にはないですけれど」
ヘイル:「そうか、消化のいいうどんを作ってくるから 少し待っててくれ」
裕太:「何から何までありがとうございます」
卵とじうどんを作り 運んでくるとその場の光景にギョッとし うどんを落としかけるが すぐさまサイドテーブルを召喚・置いて近寄っていく。今日で1番の驚きようだった、どこから入ってきたのかという程 たくさんいる蛇がピロピロと舌を出し裕太の周りをぐるぐると回ったり腕や首元に巻きついている。長い身体・短い身体・警戒色だったり保護色だったりと様々な蛇が30匹はいるかと思われる。そんな蛇達に穏やかな笑顔を浮かべ頭や身体を触りつつ胡座をかいている。蛇は人間に慣れることはあっても懐かない動物であるが 撫でられている蛇達は目を細めとても嬉しそうだった。
ヘイル:「ゆ、裕太 この蛇達は?」
裕太:「えっと 彼らが言うには自分らは俺の眷属、偵察でも何でも好きに使ってくれと。今は見た目こそ蛇だけれど気温の影響を受けず 外に出たら普通の人間の姿になるみたいです。あ でも今はヘイルさんの左手を警戒していますね、 その手は偽物だ! 正体を現せーー!って言っています」
ヘイル:「ほう? 蛇ということだけあって優秀な眷属達だな、確かに俺の左手は狼の腕だ。今はこうして魔法で隠しているがな。
……うどんは食べられそうか?」
裕太:「あ、はい いただきます。 !!! 久しぶりに温かいものが食べられた、すごく美味しいです。ヘイルさん ありがとうございます」
うどんをあっという間に完食、暖かいお風呂に入り ベッドで眠りにつく裕太の顔を見て |一先《ひとま》ずは安心かとホッと胸を撫で下ろす、ヘイルはメモ書きを置いて屋上に向かった。
裕太の能力モチーフは【黒執事】よりスネーク君、颯と裕太のキャラクターモチーフは【仮面ライダー鎧武】より呉島貴虎(くれしま たかとら)兄さんと呉島光実(くれしま みつざね)君です、この2人も兄弟です。
なお裕太は具現(マテリアライズ)編と次章 氷結(アイシクル)編のキーパーソンとなります。かっこいい とてもいい子です(・∀・)
逆鱗 その後(凍矢 燐 チェイン)③
数日後、|詩織《しおり》に連絡を取り |悠那《ゆな》は新しい身体を手に入れていた。|燐《りん》をバックハグし 耳元で囁けるよう身長を高くし 顔つきは ほぼ燐、違いといえば 瞳がカナリア色であること・黒髪ではなくハイトーングレージュのロングヘアであったことくらいだった。メイア達や|晴翔《はると》、|稜也《りょうや》 |蒼樹《そうき》との顔合わせも全て終わり ヘイルの元から帰ってきた|拓花《ひろか》もすっかり悠那に懐いていた。
悠那:「2人とも こっちにいらっしゃい!」
悠那が2人に声をかける、清らかで玉を転がすような美しい声に反応した2人は我先にと駆け寄って隣に座っていく。
燐:「スッ… お姉ちゃん、甘くていい匂いがする♡」
拓花:「ピトッ… お姉ちゃんの綺麗な声 だーーいすき♡」スリスリ
その懐き具合は魅了でもされたのではないかというくらいだったが トランサーの能力を使っていないと判断した(能力名を叫んでいないため)|凍矢《とうや》は3人の様子を見守りつつ昼食を作っている。悠那を真ん中にして左隣から燐が、右隣から拓花がそれぞれ抱きついて頭を擦り付けていた。
燐 拓花:「悠那お姉ちゃん〜〜〜〜♡♡♡」
悠那:「クスス、本当に可愛くて甘えん坊な妹達だわ」
凍矢:「3人とも! ご飯できたぞ!! 悠那が食べたがっていたミートソースペンネだ!!」
悠那:「前は拓花の身体だったけど こうしてまた食べられるなんて夢みたいだわ。 ハムッ んーーーーーー!! こうしてご飯の味がわかる身体になったこともだけど、凍矢の料理はやっぱり最高ね!!」
凍矢:「そう言ってくれてありがたい限りだよ」
---
燐と拓花がゲームで遊んでいる中 洗い物を済ませた凍矢に悠那が話しかける。
悠那:「凍矢 1つお願いがあるんだけど」
凍矢:「ん? 珍しいな 悠那の方から頼み事とは。どうしたんだ?」
悠那:「燐に取り付けたチョーカーを消したいの、無理に外さなければ安全。だけど、そのためには|トランサーの力《オールマイティ》を使う必要がある」
凍矢:「だが その紋様のせいで使えないと? 恐らく|消《イレイズ》で消せるだろうが……」
悠那:「過去にしてきたことは決して許されることじゃない、でも 私のことを信じてもらえないかしら……」
じっと凍矢を見据える目を見て 以前のように自分の欲望のままに燐の事を操っていたチェインじゃないと凍矢は少しずつ信じていくことに決めた。
凍矢:「フゥ 分かったよ。完全にはまだ信用できないが 少なくとも今の悠那から チェインのような感じは見えない。行くぞ |消《イレイズ》」
右手から眩い光が放たれると予想通り紋様が完全に消え去る、これにより悠那もトランサー|全能《オールマイティ》として力を使うことが出来るが チェインのように誰かを支配下に置こうとか 燐を自分のモノにしようとか そういったことは全く浮かばなかった。
悠那:「よし、これでトランサー|全能《オールマイティ》として力を振るえる。燐 ちょっと失礼するわ、|消《イレイズ》!」
チョーカーに付けられている黄色いハートの石に指を添えると 瞳が明るく発光しチョーカーが光の粒子となって消え去っていく。
悠那:「これで燐を縛るものは消えた。ただトランサーから人間に戻すことは今の私でも……。結局【|原初の王《ヤツ》】を倒さない限りは」
燐:「大丈夫だよ、お姉ちゃん。全員で倒せばいいんだから!!」
悠那:「燐……。 そうね 目下の作戦としてまずは囚われた|糸《スレッド》の解放と|具現《マテリアライズ》を人間に戻す。そして迷路によって生み出された大量のトランサーをどうにかしないと」
凍矢:「既に数百人近くが放たれている、 俺の索敵能力を使って探して 元に戻すなんて骨が折れるぞ」
悠那:「私にも|消《イレイズ》が使えるから 凍矢だけに無理はさせないし そっちは私に任せてちょうだい。とはいえまずはあの迷路・無限回廊の攻略からよ」
凍矢:「だな」
悠那:「トランサー|全能《オールマイティ》、|睦月悠那《むつき ゆな》。改めてよろしくね 燐 凍矢 拓花!」
拓花:「うん! 」
凍矢:「頼りにしているぞ 悠那!」
燐:「悠那お姉ちゃん、 これからよろしくね!!!」
こうして ひとつ屋根の下 燐・凍矢・拓花 そしてチェイン改め悠那の4人が生活をすることになった。
大変長らくのお付き合いありがとうございました、今話をもってチェインとの確執は解消となりました。
これからは睦月悠那をよろしくお願い致しますm(_ _)m
あ、悠那/チェインがレズっぽい言動をする+姉妹百合表現があるのは これからも変わらないかとwww
そして能力が封印されているにもかかわらず 何故 燐達を惹き付け陶酔させる〈声〉を出せたのか…
その秘密も近いうち明かされます。
そして詩織が誰かすぐにわかった人はおめでとうございます、分からなかった方は再履修行ってらっしゃいませ(・∀・)
具現(マテリアライズ)⑤後編
ヘイル:「|動物化《アニマライズ》は ああやって動物達を眷属にすることができるのか? いや |裕太《ゆうた》の場合は蛇だが あの蛇達全員から【|生命《いのち》の気配】そして《《侵入してきた気配を感じとれなかった》》。つまりあの場にいた蛇全員が裕太の分身、俺達でいうミラのようなもの。ざっと30匹はいたから裕太の力も相当なものだ。トランサーの能力としては〈分身体である蛇の召喚〉と〈白蛇への変身〉 になるのか?」
ブツブツ考え事をする中 音もなく爪が振り下ろされるが 振り返ることなく右手で掴む。
ヘイル:「人が考え事をしてる時に攻撃とはいい度胸じゃねぇか!!!」
ブンっと前へ投げ飛ばすが マントを羽織った人物は焦ることなく空中でクルッと一回転し着地する。 フードを外すと綺麗な白銀の髪と|琥珀色《アンバー》の瞳が見えるが 瞳の中には〈氷の結晶のようなマーク〉が浮かび、ハート型南京錠がついているピンク色の首輪を着け 無言でヘイルを見つめていた。
ヘイル:「!! メイアじゃないか、どうした? |氷華《ひょうか》達と出かけたんじゃ……。お前 また誰かに操られているな?」
ヘイルの質問に答えることなく マントを脱ぎ捨て完全獣化し |接近戦《インファイト》をしかけてくる。鋭く攻めてくる爪に回し蹴り…… ヘイルも完全獣化し応じているが 一撃一撃が鋭く重くいなすのがやっとであった。魔法を一切使わず 爪や蹴りは 完全に《《ヘイルを殺すために向けられ》》ており、あまりの激しい動きに身体がついていけていないのか時折ブシュッという音と共に血が吹き出ていた。トランサーと違い 不死身ではないため血が垂れ流しになっており戦闘中に飛んだ血が服や顔に何回もかかっていく。
ヘイル:「くっ、目を覚ませ!! 俺の声が全然聞こえてないか、深く洗脳されリミッターが外れている。早く止めないと下手したら失血死もありえるか。この手段は避けたかったが 一か八か やるしかない!!
【ウルグ!!! 攻撃をやめて大人しくしろ!!!】」
メイアにかけられている【絶対服従の暗示】、ウルグと声をかけられた後に発せられた命令には必ず服従するというものだが メイアは止まることなく攻撃を仕掛けてくる。
ヘイル:「なにっ! 暗示が効いてない!!? 敵の洗脳が俺達の暗示を上回っているのか!! 」
メイア?:「キメラは……1人残らず……殺す……。氷華様の……御心の……ままに……」
ヘイル:「!!! 氷華だと!!? チッ! 少し我慢しろよ!!」
メイアの後ろをとり 手刀を入れ気絶させるとそのまま受け止める。気絶したことにより完全獣化が解元に戻ったため |燐《りん》の|鎖《チェイン》を参考に鎖を作り出し後ろ手+脚を拘束し腕と脚の拘束を背中側で連結させた。
ヘイル:「一体何がどうなっているんだ。何故氷華が俺を殺そうとするんだよ……。 確か氷華がメイアと|拓花《ひろか》を遊園地に誘っていった、そして何かしらのタイミングで氷華に洗脳され俺に襲いかかった。まさか俺を殺し メイアの中へ戻ったら脳内のメモリごとメイアに自死させるつもりなのか!!? キメラは1人残らず殺すってそういうことだよな!!!?
なによりあの瞳に浮かんでいた模様、|氷転身《ターン・アイス》は完全に記憶から消したはず!!! 何故氷華が|氷転身《ターン・アイス》を使えるんだ!!?
それよりも燐達が危ない!!! 目的は違えど拓花も同じように洗脳されてる!!!」
急いで〈|翼《ウィング》〉を発動させると気配察知を行い 拘束したメイアを抱えてヴァリアル社へ向かうのだった。
ヘイル:「(頼む 間に合ってくれ……!!)」
凍矢へ纏わりつく 甘い毒
寝室に移動するとアロマデュフューザーを起動し 1人がけソファの肘掛部分に座りだす。|燐《りん》も好きな香りでよく使っているため 特に疑いはしなかった。
|凍矢《とうや》:「話したいことってなんだ チェイン。 あっ すまない…… もう|悠那《ゆな》なのに ついチェインって」
悠那:「フフっ どちらでも大丈夫よ、チェインでも悠那でも 好きなほうで呼んでちょうだい。 ほーら 突っ立ってないで こっちに座ってよ」
悠那に手招きされ ソファに渋々座ると 悠那は優しく話しかけながら肩を揉みほぐしていき その後 頭を両手で挟むようにして揉みほぐしていきながらゆーーっくりと大きく頭を回していく。なんの理由もなくこんなことをするはずがないため、当然ただのマッサージではなく【催眠】に近いものだった。
悠那:「(耳元で甘い声で囁いていく) 凍矢、ずーーっと肩肘張ってて疲れるでしょう? 今はこの声だけに耳を傾けて? アロマの香りをたっぷりと取り込んだ貴方は だんだん身体の力が抜けてふわっふわな雲の中に沈んでいく、身体の重さを感じなくなり ソファに沈んでいく……。凍矢? 今どんな感じかしら?」
凍矢:「なんだか…… とてもフワフワする……。 |綿《わた》にくるまれてるみたいだ……。とても……気持ちいい…… チェインの……声を……ずっと……聴いて……た……い……」
悠那:「そしたらゆっくり私の方を向いて この目を見つめ続けて」
ソファの前にスツールを持ってくると そこに腰かける。マッサージを受けた時点で既に虚ろな目になっている凍矢が 悠那の言葉に逆らえるわけがなく、 コクリと無言で頷くと じーっと悠那の目を見つめている。発光しているカナリア色の瞳の中でゆっくりと渦が回転していた。|魅惑の魔眼《ファスシネーション・アイ》も併用し さらに深いところへ堕としていく。
悠那:「凍矢、今どんな気分か教えてちょうだい」
凍矢:「めを…… みつづ……けると……とても……きもち……いい……。なにも……かんがえ……られ……ない……。うずが……ぐるぐる……してる……。 おれも……ぐるぐる……する……。 めの……まえの……ゆな……とても……きれい……。 きれいな……こえで……めいれい……され……たい……。 さからい……たく……ない…… ゆなの……のぞみは……なんでも……かなえ……たい……。おれは……ゆなの……おにんぎょう……。なにも……かんがえ……られ……ない……おにんぎょう……さん……♡♡♡ あやつられるって……せんのうって……とても……きもち……いい……♡♡♡ クセに……なっちゃう……♡♡♡ おれは……ゆなの……とりこに…… あやつり……にんぎょうに……なる……♡♡♡」
じーーーーっと見つめれば見つめるほど多幸感に溢れ 脳はドロドロに溶かされ 頬は紅潮していき、赤い瞳はカナリア色に変化・濃いピンクのハートマークも浮かび とろんとした目になっていく。渦につられて身体が揺れている凍矢の姿を確認した悠那は少しずつ顔を近づけて髪や顔も触っていきながら話しかけていく。
悠那:「(クスス、最高の気分ね。つい最近まで敵対心むき出しだったのに、こーーんなに蕩けちゃってるわ。)凍矢。凍矢が私のことを【お姉ちゃん】って呼ぶと とても幸せな気分になる、この声を忘れたくなくなり 私に甘えてくるようになる。凍矢、【お姉ちゃん】って呼んでみて。 とても幸せな気分になると思うわ。
さぁ ここまでいらっしゃい!! 愛しの凍矢♡♡♡」
ベッドに座り 両手を広げるようにして 凍矢を迎え入れる準備を整えた
|洗脳・魅了《メロメロ》状態になっている凍矢は全身に見えない糸をつけられ 操られるようにして立ち上がり フラフラと左右に揺れながら 悠那へと近づく。目の前に着くと 跪き 手の甲、足の甲と 音を立てて連続キスをし 立ち上がると悠那を押し倒す。心臓の鼓動は速く ハァハァと息も荒い。目を閉じ頭を擦り付けて恍惚な表情を浮かべていた。燐や拓花に甘えられることはあっても自分が誰かに甘えることは初めてだったため これまでに無い感情が凍矢を支配し 普段の面影は消え去り 正常な判断ができなくなっていた。そんな凍矢を見て笑っている悠那は【悪女】と呼んでも差し支えなかった。
凍矢:「……お姉ちゃん♡♡♡ あまーくていい匂いがする♡♡♡ おねえちゃん♡♡♡ おねえちゃあん♡♡♡ 《《ぼく》》 ずうっとおねえちゃんと一緒にいるんだ♡♡♡ おねえちゃん だいっすきだよ♡♡♡ おねえちゃんが欲しいものは何でも手に入れるからね♡♡♡ おねえちゃん〜〜~〜〜~♡♡♡」
悠那:「誰にも甘えられなかった凍矢。燐を護るために自分はしっかりしていなきゃと肩肘張ってた凍矢。 でもここでは自分を解放していいのよ、誰にも言わない私たちだけの秘密、このアロマを嗅いだ時 こうして甘々でお姉ちゃん大好きな男の子に戻る、それがリラックスタイムの始まり。でも私が指を鳴らすとまた いつもの凍矢に戻って ここでの出来事は全部忘れるわ。 ……初回はこんなものかしら、私のことは悠那が慣れないのならチェインって呼んでいいからね」
|影《シャドウ》でデュフューザーを停止し パチンと指を鳴らすと目は元に戻りゆっくりと顔を上げていく。
凍矢:「んっっ?? 俺は一体何をして……。 !!! うわぁ! 俺何やってたんだ!!! 悠那を 人を押し倒すなんて!!!」
悠那:「気にしないで、身体に力が入りすぎて疲れてる顔をしてたから アロマを焚いて マッサージしてたのよ。気持ちよかった?」
凍矢:「あ、ああ。すごくリラックスはできた。なんか変なことしてすまなかった」
悠那:「気にしないでって言ったでしょう。だいぶ思い詰めた顔をしてたけど|氷結《アイシクル》、|露橋氷華《つゆはし ひょうか》のことを考えていたんじゃない?」
凍矢:「あ、ああ。チェインがリークしてくれたし |蒼樹《そうき》も気をつけろって言っていたからな、もし|拓花《ひろか》やメイアに何かあったらと思うと」
悠那:「その時は私も黙ってないわ、家族を傷つけたからにはたっぷりとお礼をしないといけないからね。拓花だけじゃない、メイアやヘイルも大事な家族だもの」
瞳を輝かせ 険しい目をしている悠那にゾクッとした寒気を感じる、場合によってはまた かつてのチェインに戻ってしまいそうな…そんな圧を感じとった。その後 凍矢は 悠那 そして燐と共にヴァリアル社へ殴り込みに向かうのであった。
悠那:「(さっきのアロマオイルには |薬剤《ドラッグ》で生み出した媚薬を遊び半分で混ぜてたんだけど|声色《ボイス》や|魅惑の魔眼《ファスシネーション・アイ》と合わせると効果てきめん。凍矢にまた疲れた表情・硬い表情が浮かんでいたら こうしてリラックスさせましょう。 ……マッサージとかいいつつ ただの甘々魅了洗脳なんだけど、ここまで凍矢がメロメロになるなんて思わなかったわ。 やっといてアレだけど凍矢の精神耐性もなかなかに低い、魅了洗脳で蕩けた凍矢も食べちゃいたいくらい可愛いわ♡
でも ここで快楽漬けにして私のものへと変えてしまったら前と同じ。あくまで《《遊び》》。私は|睦月悠那《むつき ゆな》へと生まれ変わったのだから!!!
|氷結《アイシクル》…… 目の前で舐めた真似はさせないわよ)」
氷結(アイシクル)①
正面入口に到着すると|悠那《ゆな》は2人に耳栓を手渡す。
悠那:「受付に話しかける前にこれをつけてちょうだい、先に渡しておくわ」
|燐《りん》:「お姉ちゃん? なんで耳栓を?」
悠那:「少しでも影響を減らすためよ」
|凍矢《とうや》:「なんだか分からんが使わせてもらうよ」
社内に入りまっすぐ受付に向かう。悠那が合図し2人が耳栓をつけたことを確認すると |カナリア色の瞳を輝かせ《トランサーの力を使い》話しかける、燐と|拓花《ひろか》を|惹《ひ》きつけた あの玉を転がすような美しい声で。
悠那:「|朱星颯《あけぼし そう》へ会いたいのだけれど。 【|原初《げんしょ》の|王《おう》】が来たと伝えてちょうだい」
受付:「は、はひぃ♡ なんて美しい声♡♡♡ 今伝えますのでお待ちくだひゃい♡♡♡
係のものをお呼びしみゃ……」
悠那:「いいえ、私達だけで向かうわ。いい子ね」
受付:「あ、ありがとうございましゅ♡♡♡」
受付スタッフの蕩けた顔を横目に悠那は悠々と歩いていき 燐と凍矢は〈何が起こったんだ?〉と顔を見合わせ後ろをついていく、エレベーターで上がりながら凍矢が問い詰める。
凍矢:「おい悠那、一体何をしたんだ?」
悠那:「|常時発動能力《パッシブスキル》の|声色《ボイス》を使ったのよ。声を自在に変えられるんだけど ああやって陶酔させることもできてね、範囲や出力を絞らないと1フロアくらいなら全員メロメロになってしまうわ。とはいえ私達がエレベーターに乗った時点で もう切ったけど」
燐:「凍矢 |常時発動能力《パッシブスキル》って?」
凍矢:「えっと…… 俺の|消《イレイズ》や燐の|鎖《チェイン》は 基本的には能力名を口にすることで使えるだろ? だが|声色《ボイス》って能力は 何もしていなくても使えるってことだ。ゲームとかでもステータスとか耐性とかを自動的に上げるパッシブってあるだろ? あれと同じだ。さっきの受付スタッフの状態…… 空想上の怪物:セイレーンに魅了された船員のようだったな。セイレーンも その綺麗な声で人々を惑わして遭難させたりとか」
燐:「も、もしかして ペンネを食べる前に私達を呼んだ時も……?」
悠那:「|全能《オールマイティ》が封じられた状態かつ名前を呼んだだけであの威力よ♡」
凍矢:「お前なぁ……。|全能《オールマイティ》が封じられていたにもかかわらず何でトランサーの能力が使えんだよ!!」
悠那:「封印されていたのは確かってことしか分からないんだから それ以上 私が知るわけないでしょ? 暑苦しいから それ以上近寄らないでくれる?」
凍矢:「テメェ……。もしまた悪意を持って俺らをメロメロにしたら分かってんだろうな!!?(ポキポキと指を鳴らす)」
悠那:「フンッ その時はお仕置きでもなんでも受けるわ、着いたわね」
社長室前の扉に着くと 念の為 凍矢が気配察知を行う。中にいるトランサーは1人だけ つまり|具現《マテリアライズ》 朱星颯しか反応しなかった。
悠那:「2人は下がっててちょうだい。
・・・ハァッ!!!」
バァン!!!と扉を蹴り開けて中に入っていく。
燐:「お、お姉ちゃん!!?」
凍矢:「扉を蹴り開ける奴があるかよ……」
音に気づいた|具現《マテリアライズ》が悠那の前に跪く。
|具現《マテリアライズ》:「我が王、またこうしてお会いでき 恐悦至極にございます。本日はどのようなご要件で?」
悠那:「単刀直入に言うわ、あの迷路をぶっ潰す。そして二度と私の事を【我が王】なんて言わないでちょうだい。私は燐の姉、|睦月悠那《むつき ゆな》として生まれ変わったのだから」
|具現《マテリアライズ》:「我が王の名を使ったのは 会うための嘘だったという訳ですか、そしてそこにいらっしゃる御二方がトランサーチェイサーですね」
燐:「!! 私達のこと ご存知なのですね」
???:「私が教えたから よ」
凍矢:「!!? 誰だ!!」
死角から現れたのは|氷華《ひょうか》だった。|具現《マテリアライズ》が立ち上がると氷華のそばに控えている、|具現《マテリアライズ》の瞳にも【氷の結晶のようなマーク】は健在だった。しかし 今日の|氷華《ひょうか》は 声や表情からして 元気がなさそうだった。左腕を庇うようにして立ち 少ししおらしくなっている。
氷華:「久しぶり……ね、燐ちゃんに凍矢君。そしてチェインだったかしら?」
悠那:「こちらこそ数日ぶりね、|氷結《アイシクル》。まさかここにあなたがいるとは思わなかったわ、凍矢の気配察知に引っかからなかったなんて。それとチェインと呼ぶのはやめてくれる? 私は睦月悠那よ」
氷華:「そう、これから気をつけるわ」
燐:「氷華さん どうしてあなたがここに居るんですか?」
氷華:「……颯に血を分け与えたのは私なの」
燐:「!!? 凍矢、知ってた?」
凍矢:「・・・・・・ああ、前にチェインに聞かされた。まさか本当だとは思わなかったがな」
燐:「(私だけ隠されていた……!! お姉ちゃん どうして……!!)」
氷華:「・・・・・・」
|具現《マテリアライズ》:「ご足労頂いたがあの迷路は潰させない、これまではチマチマと増やしていたが あそこがあれば一気に仲間を増やせる。人類の進化形である|トランサー《俺達》が日本を支配する」
凍矢:「んな事 俺達が認めると思ってんのか、今日であの迷路は営業終了だ!!!」
|具現《マテリアライズ》:「そう言うと思ったぞ、 来い!」
パチンと指を鳴らすと 黒い線が3人の手足・身体に巻き付き大の字のように拘束する。声は出せるが首から下は 全く動かせない。
燐:「か、身体が……!!」
凍矢:「動けねぇ……!!」
悠那:「これは|影《シャドウ》……!!?」
燐達の後ろからフラフラと女の子が歩いてくる、 その人物を見て 3人の顔には驚きしか浮かばなかった。瞳に【氷の結晶のようなマーク】が浮かび 虚ろな目をしている拓花だった、3人の|影《かげ》を操り 内部から黒い線として放出、拘束している。各々が《《自分の影によって動きを封じられていた》》のだった。金色の瞳は鈍く輝いており 氷華の身体にピトッとくっつくと上目遣いで話しかける。
拓花:「《《お姉様》》 わたし いいこ?」
氷華:「……ええ、いい子よ 拓花ちゃん」
燐:「拓花!!? 遊園地に出かけていたんじゃ!!?」
拓花:「気安く名前を呼ばないで、《《お姉様とお兄様の敵は私の敵》》なんだから」
凍矢:「お兄様って|具現《マテリアライズ》のことかよ……!! くっ、完全に洗脳されているな」
突然ゾクッと寒気を感じ 燐と凍矢がちらっと見ると悠那がブチ切れており|影《シャドウ》による拘束を焼き切っていた(本来は切れないはずなのに 線として実体化したことで焼き切れるようになっていた)。飛び火した事で燐と凍矢も動けるようになるが 拘束された反動でふらつく。
悠那:「やってくれたわね |氷結《アイシクル》。私の目の前で|家族《拓花》をよくも傷つけてくれたわね……!!!」
氷華:「・・・・・・」
悠那が問い詰めたりするものの 氷華は伏し目がちでいつもの明るさが全く感じられなかった。
|具現《マテリアライズ》:「私の部屋をこれ以上荒らさないでもらおうか。拓花、この3人と遊んできなさい」
拓花:「はい、お兄様」
|具現《マテリアライズ》が掌を向けると床に魔法陣のような物が展開、一瞬でビルの外へ追い出されてしまった。拓花は自分の影の中から 黒い片手剣を取り出し フラフラと3人に近づいていく、明らかな敵意を向けて。
拓花:「お姉様とお兄様の邪魔はさせない」
悠那:「2人とも 数秒でいい、拓花の動きを止めてちょうだい。私が洗脳の主導権を書き換えるわ」
燐:「お姉ちゃん、そんなことして拓花は大丈夫なの!!?」
悠那:「前にここに来た時に実験済よ、それに何度も書き換えをしない限り精神は崩壊しないわ」
凍矢:「くっ やるしかないのかよ」
燐 凍矢 悠那 と 拓花(洗脳済)による戦いが始まろうとしていた。
氷結(アイシクル)②
容赦なく襲いかかってくる|拓花《ひろか》に対し|燐《りん》は|鎖《チェイン》で、|凍矢《とうや》はツインダガーで抑え込もうとするが 剣の速すぎる軌道を逸らすのに精一杯だった。キィンキィンと金属音が響き渡り どこからともなく飛んでくる鎖も蹴り飛ばして対応、メイアと同じく時折ブシュッという音と共に青い血が吹き出ていた。トランサーの再生能力により即座に傷が癒えていくが そんな拓花の姿を見て3人のメンタルがどんどん削られていく。|悠那《ゆな》は2人が止めた隙に洗脳の主導権 つまり|氷華《ひょうか》ではなく悠那が主人であると書き換えるため 待機していた。
燐:「拓花! お願い、元に戻って!!」
凍矢:「頼む!! 俺達は拓花を傷つけたくない 戦いたくないんだ!」
拓花:「気安く名前を呼ばないでって言ったでしょ!!! あなた達はお姉様とお兄様の敵なんだから!!!」
凍矢:「燐!! 俺達の声が聞こえない以上やるしかない!! 《《身体を借りるぞ》》!」
燐:「分かった! 好きに使って!!」
凍矢の義体がその場に倒れると燐の目つきがキッと険しくなる、燐から凍矢に人格交代する。指輪を捻り左中指を肩に押し当てると青白い光に包まれた鎖が引き出される。
凍矢:「くっ ハハハ……。ハッハハハハハハ!! 拓花、俺も本気で行くぞ! |消失の鎖《チェイン オブ ヴァニッシング》!!
さぁ どっからでもかかってきな、ひ・ろ・か・ちゃん?」
手で顔を覆い 煽るようにして笑うと掌を上にした左手をまっすぐ拓花に伸ばすと 不敵な笑みを浮かべ クイックイッっと指を曲げ伸ばしし 挑発する。一体化した際 記憶がアップデートされる、拓花が【|稜也《りょうや》と氷華以外から ちゃん付けで名前を呼ばれる】のが大嫌いだという点を利用した作戦だった。
悠那:「!!? あれが凍矢と完全一体となった燐。あの鎖 どうやら凍矢の|消《イレイズ》を纏っているようね、しかも あの目つきと笑い方、今は凍矢が表に出てるってことか」
拓花:「__プルプル__ __プルプル__ その笑い方、そしてその言い方……。あったまに来た!! 殺す、殺してやる!!!」
主人である氷華以外から【ちゃん付けで呼ばれたこと】に プルプルと怒りに震え ビキッと青筋を立てた拓花は 直球で突っ走って 上から剣を振り下ろすも鎖をロープのように張って受け止める、すると|消《イレイズ》により剣がどんどん溶けるように消えていく。|光の鎖《チェイン オブ スパークル》よりも |消《イレイズ》が強力に付与されていた。
拓花:「私の剣が!!」
凍矢:「バカ正直に突っ込んできてくれてありがとうよッッ!!」
鎖を剣に巻き付けるとそのままブンっと放り投げる、そして拓花の両腕を背中に回し|光の鎖《チェイン オブ スパークル》で動きを封じる。
拓花:「このっ!! 離せ!! 私に触るなーーーー!!」
悠那:「残念だけど それはできない相談よ、さぁ拓花 この目を見て大人しくしなさい」
カナリア色に怪しく輝く瞳を見た拓花は あっ と声を漏らし 大人しくなっていく、主導権の書き換えに成功した。
悠那:「ひとまず 私達が攻撃されることはなくなったわね、ただ どれくらいもつか……」
燐:「|光の鎖《チェイン オブ スパークル》で拘束してるから大丈夫だとは思うけれど……」
悠那:「あら いつの間に」
ヘイル:「3人とも無事か!!?」
声がした方を見るとメイアを抱えたヘイルが飛んできていた。屋上では手足を拘束していたが抱えるのに邪魔になったのか外している。
凍矢:「ヘイル!! 正直無事ではないがな、洗脳された拓花に襲われた。今は悠那が大人しくさせている」
ヘイル:「やはりか、俺もメイアに攻撃されたよ。気絶させているがな」
燐:「ってすごい出血じゃん!! 急いで手当しないと!!」
事務所に帰りつくときには メイアの身体は青白くなっておりハァハァと荒い呼吸をしながらガクガクと震えていた、簡易的にしか止血をしていないため 大量出血による出血性ショックを起こしていた。キィィィィンという音と共に 突然赤の扉が開いていく、燐達が警戒していると|裕太《ゆうた》が入ってくる。
裕太:「大丈夫ですか!!? みなさん!!!
!!! 震え、青白い顔に出血している痕、出血性ショックか!! 急いで手当しないと! 救急セットのようなものはありますか!! ヘイルさんはどいてください!!」
裕太に指示されるがまま ガーゼや包帯等を渡していく、服をめくり胸や腹部での出血を発見すると服を切り 処置を行う。足りない包帯等は悠那が|具現《マテリアライズ》で作りだし 的確で素早い処置を行っている。ひとまず これ以上の出血は止められた。震えは止まったが ハァハァと呼吸は早いままだった。
燐:「すごい・・・!」
裕太:「他に出血点なし。呼吸数と脈は…… うん、まだ早いけどクラスⅡで抑えられたか。本当は輸液とかもしたいけど これ以上は医者じゃないとできないし装備もないからな……。
(ギリッと唇を噛む)ヘイルさん、何で近くにいたのに すぐ手当したり 救急要請をしなかったんですか!!? 1歩遅ければ失血死してたかもしれないんですよ!! どうしてショックを起こしていたのに放っていたんですか!!!?」
胸ぐらを掴まれ裕太から怒鳴られていたが メイアが自分の身体を顧みず襲ってきたことに動転していたヘイルは 心ここに在らずのような、ただ「すまない……」と口々にするだけだった。
燐:「あ、あの…… あなたは?」
裕太:「! すみません、取り乱してしまって。自己紹介が遅れました 俺は|朱星裕太《あけぼし ゆうた》っていいます。一応トランサーです」
ビシッと敬礼する。
凍矢:「凄く的確な応急処置だったが 」
裕太:「俺、トランサーになる前は消防士兼救急救命士として働いていたんですよ。非番の日にトランサーになってしまって その後は……ってところです、向こうには〈トランサーになったのではなく純粋に死んだ〉と伝わってるようですが」
凍矢:「そうだったのか。ん? 朱星って!! それにトランサーだと!!?」
ヘイル:「……裕太は|朱星颯《あけぼし そう》の弟だ。そして 裕太は自分の分身である蛇を召喚できる」
燐:「それで身体に鱗が。もしかして、メイアが危険な状況になってるって言うのも?」
裕太:「現場にいた蛇達が教えてくれたんです、外に出れば人間の姿になるので分からなかったかもですが。それよりこの女性、本当は輸血や輸液も行いたいですが 右腕を見る限りヘイルさんと同じキメラってことですよね。そうなると病院に運べないな…… 」
燐:「うーん、ダメ元で連絡してみる……かな。確実に怒られるだろうけど」
氷結(アイシクル)③
電話で事情を聞いた|蒼樹《そうき》が|迅雷《ライトニング》を使って飛んでくる、|裕太《ゆうた》から状況を聞き |悠那《ゆな》が具現した輸血パック類を使って輸血等を行い、事情を話すために|稜也《りょうや》にも来てもらった。
点滴等を受けたことで何とか落ち着き |拓花《ひろか》は|光の鎖《チェイン オブ スパークル》で拘束・悠那が洗脳の主導権を書き換えたことで大人しくなっている。皆の邪魔をしないようにと命令を与え、ソファにちんまりと座り沈黙している。ひと通り処置が終わると蒼樹は片手は髪をわしゃわしゃ掻きながら右目を覆い、片手は白衣のポケットに突っ込んでいる。
蒼樹:「|燐《りん》、事情が事情だから飛んできたが 本来は救急搬送し病院で行うことなんだがなぁ。(怒) まぁ キメラだし致し方ないとはいえ 後で処置と出張代は請求するからな。俺は|氷華《ひょうか》みたいに トランサーだからといって |割引きしたり《なあなあには》しない主義だ」
稜也:「(メイアや拓花の顔を覗き込む)メイアちゃんも拓花ちゃんも大丈夫かな、氷華の奴 あれだけ使うなと言ったのに!!!」
蒼樹:「だが|氷転身《ターン・アイス》はヘイルが完全に消したはずだ、何故氷華が使えるんだ」
ヘイル:「それは……」
悠那:「それが|氷華《ヤツ》の狙いだったのよ。元々は 目的を達成すると そのまま自死するようにしてたけど、それが使いにくかったそうでね。消してくれてありがたかった、新しく|氷転身《ターン・アイス》を生み出せたこと感謝しないとねとか言ってたけど 白々しい女よ。結局は 私と同じ、欲しいものは何があっても手に入れたいってだけ」
壁によりかかりフンっと鼻息を荒くしている。
燐:「ねぇ もう1つ言ってないことがあるよね」
悠那の胸ぐらを掴み怒りをぶつける。当然といえば当然だった。
燐:「お姉ちゃん!! 何で氷華さんが|具現《マテリアライズ》に血を与えてたと知ってて隠してたの!!?」
悠那:「それは……」
凍矢:「絶望の感情を手に入れるため。だろ? 悠那」
燐:「絶望……」
凍矢:「俺にだけ情報を話し 燐には秘密にしろってな。まぁ あの時はまだ悠那じゃなくチェインだったし」
燐:「・・・・・・」
稜也:「と、とにかくだ!! 早く氷華を止めて2人を救い出さないと!! ずっと氷華の操り人形だなんて酷すぎる!」
凍矢:「稜也、救うのは2人だけじゃない。企業丸々1つ、そして迷路を《《生還した》》人間たちもだ」
蒼樹:「!? どういうことだ」
凍矢:「氷華はヴァリアル社の社長である|颯《そう》に血を分け与えトランサーに変え 企業全体を乗っ取ってるような状態だ。社員の瞳にも同じようなマークが浮かんでいた」
悠那:「そして|逢間《おうま》市にある巨大迷路、あれは 迷路に入った人間の体力を奪い 力尽きる瞬間にトランサーの血を注入する アトラクション型トランサー製造装置よ、それなりに時間が経っているから 生還してトランサーになっているのは 数百人・下手したら数千人規模になってるかもね。なかなか画期的な作戦を思いついたものだわ」
|裕太《ゆうた》:「あ、兄貴……」
敵の規模を聞いて 蒼樹すら動揺していた。
蒼樹:「嘘だろ…… 会社1つって」
稜也:「迷路からも トランサーを生み出してるなんて……。それもだが 氷華は 真の|氷結《アイシクル》として覚醒=|心血解放《しんけつかいほう》してるってことか!! それも純粋な|氷転身《ターン・アイス》の強化!!」
燐 凍矢:「しんけつ かいほう?」
燐 凍矢にとって聞きなれないワードが飛びだしてきた。
稜也:「前に|駿兄《しゅんにぃ》が教えてくれたんだ。何度も能力を使用したりすることで トランサーとして成熟すると、更なる力を手に入れられるようになることがある……。それが心血解放だって。身体に《《特異的な痣や紋様》》が見えたり 《《瞳の色が全く違う色》》に変わったり 《《能力がガラッと変わったり》》純粋に能力が強化されたり と色々らしい。
だが駿兄が言うには【|原初《げんしょ》の|王《おう》の血】を持つ俺達は 普通のトランサーよりも成熟しやすい=心血解放へ達しやすい……そうだ。俺や蒼樹、あと拓花ちゃんもか? 俺らはあまり能力を使わないが、燐ちゃんや凍矢は仕事上、|チェイン《テメェ》は私利私欲で 能力を多用する。より心血解放へ達しやすいんだ 気をつけてくれよ、特にチェイン!!! テメェが心血解放すれば もう手がつけられなくなる、燐のためにも心血解放に至るんじゃねぇぞ!!!」
燐:「は、はい……」
悠那:「クスクス 私利私欲とはなかなかな言い方ね、|豪炎《ブレイズ》。まぁ間違ってはないけど」
稜也:「おい!無視してんじゃねぇよ!!」
悠那 ヘイル:「(特異的な痣や紋様・全く違う色の瞳・そして 能力変異 能力強化…… あれが 燐の心血解放ということか/ということね)」
稜也・蒼樹以外は既に 燐の心血解放を目撃/経験している(凍矢はヘイルからの情報のみ)。身体に青黒い鎖の紋様が浮かび、瞳は赤いものの瞳孔は金色に、そして 一瞬目を合わせるだけで強力な洗脳状態にされる…… 心血解放で間違いなかった。
氷結(アイシクル)④
|燐《りん》:「こうなってしまった以上 |具現《マテリアライズ》/|朱星颯《あけぼし そう》に対して 悪意を消すだけでは軽すぎる、最低でもトランサーの血を消して人間に戻す。 場合によっては」
|蒼樹《そうき》:「燐!! |医者《俺》の前でそれ以上言うんじゃねぇ!!」
|悠那《ゆな》:「まっ そうなるでしょうね。なかなかいい男だったし、人間に戻した後 じっっっっくりと調教して 私の|男《もの》にする……な~んてのも悪くないわ、フフっ(舌なめずりをしている)」
|稜也《りょうや》:「チェイン お前まで何言ってんだよ!!」
|裕太《ゆうた》:「兄貴……|優しく頼りになる《あの時のような》兄貴には もう会えないってことなんだよな……」
燐:「そういえばずっと気になることがあったんだけど」
稜也:「? どうしたんだ、燐ちゃん」
燐:「いや、メイアがつけてるピアス いつものと違うなって」
ヘイル:「ピアス? (メイアの耳元に近づく)!!! 本当だ、俺があげた|黄水晶《シトリン》のピアスじゃない!! なんで近くにいたのに気づかなかったんだ…… |人工知能で 相棒であるはずの俺《パートナー》 なのに不覚だった」
蒼樹:「どういうことなんだ」
ヘイル:「メイアが18歳になった日、成人の祝いとして俺がピアスを作って贈ったんだよ。メイアの世界では 5歳の誕生日に両親が大きい宝石のついたペンダントを贈り、成人したら その宝石でリメイクジュエリーを作るって風習がある。メイアの家族はもういないから 代わりに俺が作った、|黄水晶《シトリン》を素材とした三日月のピアスをな」
稜也:「さらっと 世界とか言ってるが まさか2人は異世界の人間なのか!!?」
軽くため息をつくと 腕を組み 稜也の質問に答える。
ヘイル:「__フゥ__ そりゃあそうだろ、後天的とはいえ 俺達は魔法が使えるし魔力だって持つんだぜ? 俺は感情を持つ人工知能だし、メイアは|肉体《からだ》と|精神《こころ》 脳にまで|改造が及んで《メスが入って》いるキメラだ。|風野メイア・風野ヘイル《この名前》だって偽名だし |最初《ハナッ》から俺達は別世界の人間 いや俺に関しては人間じゃないか、別世界の|怪物《バケモノ》だな。……まさか 今の今まで疑ってすらなかったのかよ、存在しないはずの魔法を使えるってのに。嘘をつく理由だってないしな」
蒼樹:「その事は メイアは知ってるんだろうな!!!?」
ヘイル:「当然だろ。軍にメイアの家族を殺させ 絶対服従の暗示をかけたのが俺だってことも、俺がメイアを操るために造られた人工知能で 脳内にチップとして埋め込まれていることも、メイアがキメラとして完成した日 20人いた研究員を皆殺しにして研究所をぶっ壊したことも、それらの記憶を俺が意図的に隠していたことも、ぜーーーーーんぶ知っている。
そして…… メイアの脳内から俺が取り外された時 メイアは《《死ぬようにプログラムされてる》》ってことも…… な。
俺はメイアの相棒、だがその実態はメイアを操る【糸】であり【家族の仇】であり メイアの命を握っている【爆弾】……だ」
最後の方になるとヘイルは伏し目っぽくなり 声のトーンも暗くなる。その場にいた全員、言葉を発せられるはずがなかった、燐や|凍矢《とうや》は ヘイルから相談を兼ねて聞かされていたが まさかそれ以上の秘密があったなど知る由もなかった。
稜也:「う、嘘だろ……!! そんなに人を殺してたのか……!!? あのいつも元気なメイアちゃんが!!!?」
ヘイル:「それに関しては記憶に|プロテクトをかけ《残らないようにし》て 俺がメイアを操ってやった事、そもそも知らなかったさ。それに|精神《こころ》を改造してるから 《《あの性格が本来のメイアの性格かは分からねぇ》》、誘拐したのは5歳の時だからな。もし何事もなく成長していたら読書好きな 虫も殺せないような女の子になっていた可能性だってあった」
蒼樹:「なら なんで2人は行動を共にしてるんだよ!!! なんでメイアはお前を拒絶しないんだ!!!」
ヘイル:「初めて完全獣化した日……。こんな俺がそばにいていいのかって聞いたら、【私たちは|心身一如《しんしんいちにょ》、いつだって繋がってるんだ】って。【離れたいって言ったら殴り飛ばす】とも言ってた。 たとえ家族の仇だったとしてもメイアにとって俺は大事な仲間なんだって、むしろ教えられた 」
稜也:「そう だったのか……」
ヘイル:「俺はメイアと共にあり続ける……。どんな事があったとしても俺は メイアと共にいると決めたからな」
凍矢:「……なら何で、なんでメイアを助けるように動かなかったんだ!!! 根本的なことを聞くが なんでメイアがキメラになるのを止めなかったんだ!!」
ヘイル:「止められなかったんだよ!!!! |研究者共《奴ら》に逆らおうとすると 次の瞬間には消えていたんだ!!
メイアを【壊してしまった】と知った次の日から メイアを救おう・奴らに逆らうんだ…… そんな考えを持った次の瞬間、俺の中からその考えは消える。俺に出来た事と言えばメイアの記憶|を秘密裏に保管し《のバックアップを取っ》ておくくらい…… 助けたくても助けられなかったんだ!!!」
燐:「ヘイル……」
ヘイル:「キメラとして完成したら 記憶や感情を抹消し戦闘マシーンとして完全に洗脳する…… 最終計画を知った俺は 反旗を翻し、洗脳直前で メイアの身体を操って研究員を皆殺しにしたが遅かった。水面下で動いていたことは奴らにバレていた、|研究員達《奴ら》と手を切り、メイアを救けようと脳から|チップ《俺》を取り外したら…… その瞬間 自死するように手を加えていたんだ」
ヘイルはその場に座り込んでしまい、左手で顔を覆い とても悔しそうな表情を浮かべている。
ヘイル:「皆殺しにした後、どうにか俺を取り出せないか方法を探すため 紙資料全てに目を通した。俺に余計な知恵をつけさせないためなのか知らないがオンライン上に保存されていたデータは たかが知れていたからな。埋め込まれた場所も場所だったし、少しでも動かしたらメイアに多大なダメージが入り もし完全に外してしまえば……。
事実を知った俺は膝から崩れ落ち 【俺という存在自体】を呪った。俺が造られなければ…… 俺が【|精神《こころ》を壊すには家族等 大切なものを目の前で それも|子供では絶対にかなわないような《軍や警察といった》強い力を使えばいい】【|精神《こころ》が幼い子供の方が 抵抗力も弱いから改造しやすいし 洗脳もかかりやすい】などと言わなければ メイアは誘拐されることはなく 家族4人で幸せに過ごせただろう……。奴らの方が……上手……だった。
全身改造の結果、理論上 数千年の寿命を得た。完全融合した日から 俺は最期までメイアと共にいると決めた。10年もの間 辛い思いをさせすぎちまったから 罪……滅ぼし……だ。絶対服従の暗示だってかかったままだからな、絶対に解いてやるんだ」
ヘイルはメイアの右手を ギュッと静かに握りしめるのだった。
氷結(アイシクル)⑤
ヘイル:「もうひとつあった、メイアに関する重大な事実が。だが これに関しては ちゃんと俺の口からメイアに話す、それまでは内緒にしててくれ。頼む」
メイアの手を静かに下ろすと立ち上がり、その場にいる全員へ向けて深く頭を下げる。
|燐《りん》:「頭を上げてよ、ヘイル。心の中にしまっておくから。チェイン 絶対約束を守ってね、お姉ちゃんなら その方が楽しそうとかって理由でバラしかねないから」
|悠那《ゆな》:「分かってるわよ、燐。流石の私だって ここまでされたら無粋な真似はしないわ」
|凍矢《とうや》 |裕太《ゆうた》 |稜也《りょうや》 |蒼樹《そうき》も燐に同調するように頷く。
ヘイル:「燐……。みんなもありがとう……。
(再び 片膝立ちになる)
・・・今ここで眠っているメイアは本当のメイアじゃない。遺伝子を採取し 記憶も全てコピーして造られた人工生命体だ、本物のメイアは6歳の頃 《《実験中に亡くなった》》、 いや 状況から見れば《《奴らに殺された》》の方が正しいな」
燐はメイアのそばに駆け寄ると、ペタンと座り込んで腕に触れ ボロボロと涙を零している。
燐:「人工……生命体……? メイアはクローンってこと?」
ヘイル:「一個体の中に複数の遺伝子があるのがキメラ、オリジナルの人間と同じ遺伝子を使って作られた人間がクローン。だが メイアは遺伝子をいじり 実験にも耐えうる強度の|肉体《からだ》と 人間と同じ感情・|精神《こころ》を持つ。オリジナルである少女メイアと同じ遺伝子に 更に狼の遺伝子を混ぜ合わせた存在、もはやキメラともクローンとも言えないかもしれない……。
同じくらいの年齢で生み出されたメイアにも同じようにして家族の惨殺映像を見せ 絶対服従の暗示をかけ、|精神《こころ》を壊してしまったが。
奴らは オリジナルだったメイアと同じように虐待を行ったりもしていた。俺がメイアを救うと決心したのは 【キメラにするために壊してしまった と知ったから】 加えて、【本物のメイアは既に亡くなっており 今目の前にいるのはクローンだと知ったから】だ。まさか本物のメイアが亡くなってしまったとは 俺も気づかなかった…… 」
蒼樹:「そうか、同じ遺伝子を使ったことでオリジナルであるメイアと同一:人間だって分かったのか」
ヘイル:「狼の遺伝子こそ含まれているが 量は ごくわずか。だが奴らは 俺やクローンを造ったり 魔法技術を組み込んだりできるんだ…… 人間の塩基配列のまま 改造するなんてことも容易いだろう。それに関する書類やデータは既に破棄されていたから流石に読めなかったが……」
凍矢:「本物のメイアはどうなったんだ、やはり もう火葬とかされてしまったのか……?」
ヘイル:「いや、趣味の悪いことに 本物のメイアの肉体は冷凍保存カプセルに入れられていた、クローンが《《また不慮の事故にあった際に使うため》》だろうな……。完全融合した日、家族の元へ連れていき 家のあったところに墓を作り 静かに眠らせている。俺達のせいで 10年も引き離してしまったが 今は家族4人 永遠の眠りについているよ」
燐:「(手を優しく握りしめる) とても暖かい 太陽のような手、メイアのそばにいると すごく心地良かった……。 遺伝子改造されたことによる能力だったのかな。今でも信じられない……」
ヘイル:「燐、これからもメイアと仲良くしてやってくれないか? クローンだからって敬遠せず できれば これまでと同じように……」
燐:「もちろんだよ、メイアは私の大事な親友だもん!!!」
ヘイル:「ありがとな、燐」
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重すぎる事実が明かされると 稜也や蒼樹は気が遠くなりそうになっている。
稜也:「は、ははは…… |氷華《ひょうか》のことと言い メイアちゃんやヘイルのことと言い 情報量が多すぎるぜ。頭がパンクしそうで、クラクラしてきた」
蒼樹:「稜也、俺もだ……。|精神《こころ》や脳の改造という事だけでも辛いが まさかここにいるメイアがクローンだなんて……。笑ったり怒ったり 普通の人間と変わらないじゃないかよ」
燐:「人間離れした動きだとは思ったけど、キメラだからってだけじゃなかったんだ」
凍矢:「(イヤリングに触ろうと近づく) |拓花《ひろか》もメイアも同じ形のをつけてるな。さすがに拓花はイヤリングだが」
凍矢が手を触れた瞬間、バチッ!!と静電気を強くしたような痛みが走る。
凍矢:「いってぇ!!! なんだ今の!! そりゃあ冬だから静電気は起きるだろうけどさぁ!! なんで毛皮でもないのに|迅雷《ライトニング》級の電流が走るんだよ!!! 下手したら蒼樹の|迅雷《ライトニング》より痛ぇんだけど!!!」
ヘイル:「(メイアのピアスに触れる)ッッ!! どうやら着けさせた者以外が外そうとすると電流が走るようだ、セキュリティのようなものか。だが俺はメイアを必ず救ってみせる、〈|拒絶《リジェクト》〉!!」
〈|拒絶《リジェクト》〉により電流が解除されると片側のピアスを外すことが出来た。しかしもう片方に〈|拒絶《リジェクト》〉を使うが外すことはできず 拓花のに至っては両方とも外せなかった。
ヘイル:「厄介だな、ピアス類はリンクしてるってことか?」
突然ピアス類が青くぼんやり光ると メイアと拓花の目がカッと見開かれフラフラと立ち上がる。拓花を拘束していた|光の鎖《チェイン オブ スパークル》も《《壊せないはずなのにブチッと引きちぎられる》》。
メイア:「氷華様が呼んでる……」
拓花:「お姉様が私達を呼んでる、行くよ 《《ウルグ》》」
抑揚のない無機質な声を漏らすと 拓花はメイアの首輪を引っ張り 自分の影に飛び込む。7人が慌てて外を見ると、事務所傍に立っている電灯の影から2人が飛び出し |動物態《狼》になったメイアは 背に拓花を乗せて 走り去ってしまった。
ヘイル:「メイア!!」
|燐《りん》:「拓花!!」
凍矢:「嘘だろ、メイアはともかく 拓花は|悠那《ゆな》の支配下にあったはずだよな!! そ、それに 切れても再生するはずの|光の鎖《チェイン オブ スパークル》も引きちぎりやがった!!」
悠那:「時間が経って効果が切れたのか、|氷結《アイシクル》の強い力でまた洗脳されたか ね。ピアスが青く光ったということは後者かしら」
稜也:「蒼樹 これはガチでやばいんじゃないか……!!」
蒼樹:「できるだけ早く氷華を倒すしかないな、くっ! 2人はどこへ行ったんだ!!?」
裕太:「えっ ほんと!!? うん、ありがとう!!」
燐:「裕太さん?」
裕太:「メイアさんが走り去った方向…… 俺と兄貴の家があるんです。そこには今兄貴の他に 《《青い目をした女の人》》も住んでるんです。部屋から姿を消して 玄関から出てきたって 俺の蛇達が」
ヘイル:「青い目って氷華か!!? だとしたら手が出せねぇな、人質のようなものだし。メイア 拓花 必ず助けに行くから無事でいてくれ……!!
だが なぜ拓花が ウルグの名前を知ってるんだよ!!! 燐や俺、凍矢 |晴翔《はると》と|夏弥《なつみ》しか知らないはずなのに。《《なんで 実験体としてのコードネームであるウルグを 拓花が知ってるんだよ》》!!!!」
稜也 蒼樹:「なんだって/なんだと!!?」
具現(マテリアライズ)⑥
メイアと|拓花《ひろか》が消え ブチ切れた|燐《りん》と|悠那《ゆな》が追いかけてすぐ |凍矢《とうや》が気配察知を行うも4人を見つけることは出来ずガンっと床に拳をぶつけていた……。
凍矢:「くそぉ!!! 一体どこに行っちまったんだよ!」
|氷華《ひょうか》:「|氷転身《ターン・アイス》は既に解けてるから |颯《そう》のところね。一体何を…… きゃあ! あぐっ!!!」
氷華の悲鳴のようなものと共に その場にいる全員は心臓を強く握られるような強い威圧感を感じとった。ヘイルが氷華の首をつかみ壁に打ち付けている、当然の権利のように目を緑色に光らせ 完全獣化しているが 獣のような唸り声を上げ鋭い犬歯が見えていた。
ヘイル:「フーッ フーッ。グルル……。氷華 聞かれた事にだけ答えろ。少しでも関係ないことを話せば 首を折る」
氷華:「・・・・・!!! コクコク(全力で顔を縦に振っている)」
ヘイル:「メイアに暴行を加えたのはテメェか? 全身に見られた痣の量からみて、かなり手馴れた奴が数日やったような感じだ。誰がメイアを傷つけたんだ!!! 言え!!!」
氷華:「そ、颯よ。私は……メイア……ちゃんに……暴力は……振るってな……い……」
ヘイル:「(嘘はついていない……か)」
パッと手を離すと重力に引かれるようにその場に座りこみ咳き込んでいる。ヘイルもメイアが暴行されたことで 燐達と同じくらいにキレていたが真実を知るまではと抑え込んでいた。しかし犯人が分かった今 ヘイルも怒りを抑えられなくなっている。
|裕太《ゆうた》:「ヘイル……さん……? 入っても……いいですか……?」
キッチンから 今にも泣きそうな顔を見せる、ブチギレる燐やヘイルの威圧感に怯え キッチンで縮こまっていた。
ヘイル:「(完全獣化解除)みんな 怯えさせちまってすまなかった。裕太 どうしたんだ?」
裕太:「えっと 燐さん達がいる場所がわかりました、俺も兄貴と話をつけたいので同行させてくれませんか?」
氷華:「裕太君 本当は危ないからついてきて欲しくはないんだけど……」
裕太:「! その青い目 貴方が兄貴と一緒にいた人だったんですね。初めまして 兄貴 いや|明星颯《あけぼし そう》の弟 |明星裕太《あけぼし ゆうた》です。せっかく生活資金を援助してもらってたのに奪われてしまってすみません……」
氷華:「その話はまた後にしましょう」
|稜也《りょうや》:「裕太の事は俺が護るよ。俺もトランサーだしな!! あ、俺は|赤城稜也《あかぎ りょうや》だ、よろしくな!」
凍矢:「よし メイン部隊は俺 ヘイル 氷華、裕太は俺達から離れた所で自分の身を最優先に、稜也は裕太の護衛だな。
裕太 案内を頼む」
裕太:「はい!」
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到着したのはヴァリアル社前 しかし人ひとりいなかった。
凍矢:「ここに燐達が? 影も形もないが」
裕太:「えっと 蛇達が言うには 兄貴が特殊な空間に全員を閉じ込めたようです。どっかにその亀裂があるらしく 切り拓くことが出来れば入れそうです」
腕に黒色の蛇が巻きつき 2、3回目をパチパチさせる。裕太は〈助かったよ、ありがとう〉と言わんばかりに蛇の頭を撫でて 蛇は嬉しそうに目を細めていた。
稜也:「さ、さっきも 言ってたけど…… へ、蛇ってど、ど、どういうことだ?(顔面蒼白)」
裕太:「俺もトランサーなんです。自分の分身である蛇達を召喚したり 白蛇になることもできるんです」
裕太:「そ、そうなのか。俺 爬虫類が苦手なんだ…… 露骨に嫌がってしまって済まない」
裕太:「いえ、言わなかった俺もすみません。ただ 蛇達は外に出れば人間の姿になるので街中を蛇が走り回るってことはないので安心してくださいね」
氷華:「アレね!!」
氷華が指をさすと空中に稲妻のような形をした切れ目が見えている。氷華が氷の|短剣《ダガー》で切り裂くと全員で乗り込んでいった。
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凍矢:「な、なんだよコレは……」
乗り込んだ場所は 白くだだっ広い空間だった。中ではメイアと燐、拓花と悠那が激しく戦っていた。メイアは完全獣化し四足歩行の構えになり、燐へ強い敵意を向けている。燐の手甲剣とメイアの爪が何度も何度もぶつかり キィンキィンと金属音のようなものが鳴り響く、隙を見て燐が|具現《マテリアライズ》へ鎖を飛ばすが同じ状態のミラが鎖を蹴り飛ばす。
メイア:「グルルルッ…… グラァァァァァ!!!」
人語が話せなくなり 唸り声をあげ 牙をむき出しにし 低い重心から鋭い爪で襲いかかる、燐も真のトランサーとして覚醒=心血解放をしているが あまりの攻撃速度に 何発か いただいてしまっている。 心血解放により《《深紅色から完全に金色に変わった瞳》》を使っても メイアやミラを操ることができなかった。
悠那:「拓花!! お願い、目を覚まして!!」
拓花も 悠那に対し殺意しかなく|影《シャドウ》で作った片手剣で攻撃をしてくる、それに対し悠那は防戦一方だった。魅了等を使わず |鎖《チェイン》や|氷結《アイシクル》で動きを封じ 止めようとしている、拓花を傷つけずに助けだそうとしていた。
拓花:「私は……お兄様の……もの……。敵は……全て……殺す!!!」
ヘイル:「やりやがった……。颯のやつ メイアを…… 大事なメイアを|戦狼《せんろう》状態にしやがった!!!」
凍矢:「せんろう?」
ヘイル:「奴らの書類に書いてあった名前だ。メイアから人間としての意思・思考・感情・記憶……そして理性、全てを失い 戦うことしか考えられない生体兵器…… 洗脳により強制的な戦狼状態にしやがったんだ。キメラとしての力をフルパワーに発揮できるが自分の身体が壊れることを厭わず戦い続ける、《《本物のメイアはこの実験を行う中で死んじまった》》んだ!!! 今のメイア|の身体が崩壊する《が力尽きる》前に止めなければ!!!」
凍矢:「拓花も戦闘マシーンに変えられちまってる! どうしたら助けられんだよ!!!」
氷華:「2人を抑えてる間に颯を洗脳して止めさせるしかないわね」
ヘイル:「くっ!! それしかないのかよ! だが誰が颯を止めるんだよ!!ただでさえ燐と悠那が手こずってるのに!」
凍矢:「悠那の|声色《ボイス》なら颯に効くはず、だがその悠那は……」
ヘイル:「・・・氷華、俺に|氷転身《ターン・アイス》を使え。 リミッターを外し能力増強できれば 戦狼状態のメイアを止められるかもしれない」
凍矢:「なら俺も 拓花を止められるかもしれない! 俺にも かけてくれ!」
氷華:「……それってつまり 私の操り人形になるってこと、2人の自我・心は無くなってしまう!! 本当にいいの!!?」
ヘイル 凍矢:「ああ!! |メイア/燐《相棒》を助けるためならな!!!」
即断即決の2人に対し少し考えると決意を固めた視線を向ける。
氷華:「・・・分かったわ、戦いが終われば すぐに解除する!!」
ヘイル・凍矢と氷華が向き合うと 瞳が青色に発光する。何をしようとしてるのか気づいた稜也は咄嗟に裕太の目を覆い隠した。
稜也:「氷華の奴 まさか! 裕太!! 氷華の目を見るな!! 蛇達も隠せ!!!」
裕太:「へっ!!?」
氷華:「貴方達の心は私のもの、その心をいただくわ! |氷転身《ターン・アイス》!!」
|氷転身《ターン・アイス》と発し瞳が更に発光した瞬間 ヘイルと凍矢の身体がビクッと震えるとガクッと頭が前に垂れる。心や自我といったものが凍りつき 瞳に氷の結晶のようなマークが浮かび虚ろな瞳になる。ゆっくり頭を上げてと命令され、 目の前にいる【ご主人様】の姿をぼんやり見つめながら身体は左右に静かに揺れてている。手を差し出されると、スっと跪き 手を静かに取り 甲へキスを行う。
ヘイル:「ご主人様…… ご命令を」
凍矢:「ご主人様のお言葉が…… 我らの意志……。なんなりと…… ご命令を……」
氷華:「凍矢君は拓花ちゃん、ヘイル君はメイアちゃん、私はミラちゃんを止めるわ。できる限り攻撃はしないで無力化、そして悠那さんを颯の元に送り届ける。
行くよ、2人とも!」
凍矢:「はい ご主人様……」
ヘイル:「ご主人様の……仰せの……ままに……」
ヘイルは完全獣化し、凍矢はツインダガーを生成すると緩慢な動きで4人の方を向く。一瞬で移動すると 凍矢はツインダガーで拓花の剣を奪って遠くへ飛ばすと 両腕を背中に回して床に打ち伏せている、ヘイルもメイアの背に乗っており 虎の絨毯のように押し付けている。ミラと氷華の戦いは特に激しく 蹴りの応酬だったが|氷結《アイシクル》を上乗せした掌底打ちによりミラを倒さざるをえなかった。
氷華:「|駿兄《しゅんにぃ》ちゃん直伝の掌底打ちよ。 ごめんね ミラちゃん」
凍矢:「悠那…… ご主人様の……ご命令だ……。お前の……|声色《ボイス》で…… 奴を……洗脳しろ……」
燐:「ハァー ハァー フゥー。 凍矢 助けに来てくれてありがとう。 ? 凍矢? 聞こえてる?」
凍矢は燐の事を見向きもせず 悠那の方しか見ていない。心が凍りつき 氷華の言葉でしか動けない【操り人形】となった2人に 【自分の意思】なんて そもそも存在していない。燐が声をかけたとしても 氷華が【燐ちゃんと話して】等と命令しなければ反応すらしないのである。
悠那:「やはりね、|氷結《アイシクル》に命令されるのは癪だけど致し方ないわ」
具現(マテリアライズ)⑦
|颯《そう》:「く、来るな……!!! 俺に近づくなァァァ!!!」
駒として操っていたメイアと|拓花《ひろか》を無力化され 颯は コツコツ音を立てながら近づいてくる|悠那《ゆな》を見てその場に崩れ落ち 後ずさりしている。しかしすぐ後ろを取られ バックハグされつつ悠那の甘い声が聞こえてくる。
悠那:「ずいぶんと怯えた表情ね、|具現《マテリアライズ》。安心してちょうだい、別に取って《《喰い》》はしないわ」
そう言うと悠那の手のひらに丸い珠が出現し怪しく輝きつつ 桃色の煙を放出している。
悠那:「さぁ この珠をじーっと見続けて この甘い香りをたっっっぷりと取り込んでちょうだい。そうすれば悩みから解放され、私なしでは生きていけない とりこになる。
家族を傷つけたから 《《おしおき》》よ。クスス、いつまで抵抗できるかしらね?」
颯は抵抗するように目をつぶり息を止めているが|声色《ボイス》により徐々に蕩けてしまい ゆっくり目を開き息をしてしまう。脈を打つように光ったり消えたりする珠をぼーーっと見続ける颯の目から光が消え、|薬剤《ドラッグ》で作った媚薬を煙として嗅がせると頬は紅潮し息が荒くなり 心臓の鼓動は早く 少しでも悠那が触れるとビクンッと全身が疼いている。珠を出現させたまま颯の正面に回る。
悠那:「答えなさい、目の前の私は【誰】かしら?」
人物の顔を見た瞬間 過剰に快楽物質が分泌され目にハートマークが浮かび、その人物のことしか考えられなくなってしまった。
颯:「♡♡♡♡♡ おれのごしゅじんさまれすぅ♡♡♡ ゆなさまぁ♡♡♡♡♡」
スっと悠那が立ち上がると颯は流れるように足の甲・手の甲へキスをしている。
颯:「ゆなさまぁ♡♡♡♡♡ ごめいれいをぉ♡♡♡♡♡ おれはゆなさまのものれすぅ♡♡♡♡♡」
悠那:「なら命令よ。 メイアと拓花にかけた洗脳を解きなさい!!!」
颯:「おおせのままにぃ♡♡♡♡♡」
フラフラと近づくとメイアの|首輪《チョーカー》・ピアス、拓花のイヤリングを消滅させる。長期間洗脳されていたにもかかわらず 原因となった物を取り除くとあっという間に目に光が戻り 正気に戻ったのだった。|凍矢《とうや》・ヘイルも かけられていた|氷転身《ターン・アイス》を解かれ 元に戻ると、拓花・メイアを押し潰していたため すぐにどいた。
メイア:「あ、あれ…… ここは一体? 今まで何をしていたの?」
拓花:「ううっ なんか全身が痛い……」
ヘイル:「メイア!!!」
|燐《りん》 凍矢:「拓花!!!」
燐も心血解放を解除し 拓花の元に駆け寄ると 各々の【家族】が ぎゅっと抱きしめあい 涙を流していた。
ヘイル:「良かった……。やっと…… やっとメイアを|救《たす》けだせた!!!」
燐:「拓花 怖い思いをさせてごめんね!!」
凍矢:「ようやく家族4人に戻れたんだな、俺達!!」
メイア:「ヘイル ただいま!!」
拓花:「りんーーーーー!! どうやーーーーー!! ごわがったぁーーーーー!!」
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氷華と悠那は |メイア・拓花《2人》が なぜあんなにも強く洗脳にかかっていたのか問いただす。颯によると【どれだけ過ごしても現実では1秒も経たない空間】を造り出し、その中で2人に対し カルト宗教等で用いられる洗脳音声や模様・画像等を流し続け 首輪やピアス等の洗脳機能付きアイテムを併用することで忠実な下僕として洗脳していた、この時に記憶を読み取り ウルグという別名があると知ったのだった。
加えて その空間の中でメイアにDVを行い、同じように裕太へも虐待を行い家から追い出したことも自白した。《《たまたま》》 あの日 メイアの部屋で暴行を加えていたところを 《《たまたま》》氷華が見つけたのである。2人を自分の所へ呼び寄せたあと 同じ方法で再洗脳を行い、完全な操り人形へと変えていたということだった。
悠那:「聞きたいことは聞けたわね、パチンッ! これでよしっと」
パチンと指を鳴らすと颯の魅了状態が解除される、息付く暇も与えず巨大な白蛇が颯に巻きついていた。
颯:「う、うわぁぁぁぁぁ!!! 俺に触るな!! 《《汚らわしい》》蛇がぁぁぁぁ!!!」
???:「やっぱり蛇嫌いは変わらないんだな、《《兄貴》》」
颯:「ま、まさか その声は|裕太《ゆうた》か!!」
裕太は身体を少し前に伸ばすとじっと颯を睨みつけている。白蛇に変身した状態でも話せるようだ。
裕太:「兄貴だけだったよな、《《爬虫類が大っ嫌い》》だったのは。父さんや母さんが レプタイルカフェに行こう!って言った時も|頑《かたっく》なに拒否してたよな。兄貴が俺達家族を迷路に誘って 父さんと母さんは死んでしまって 俺はトランサーに生まれ変わったのに【鱗なんて気色悪い】とか【氷華様の役に立たないお前に生きてる価値は無い】って言われ 殴られ蹴られ 家を追い出され どれだけ辛かったか分かるかよ!!
氷華さんが少しでもと生活資金を援助してくれたのに 兄貴の息がかかった奴らがそれすら奪っていった。洗脳された兄貴の姿は とても情けなく見えたよ、キスしていた場所も手の甲は敬愛だし足の甲は隷属だもんな!!
正直 あんな兄貴は見たくなかった!!! 小さい時の俺にとって兄貴はとてもかっこいいヒーローだったのに!!!」
シャー シャーっと蛇特有の警戒音を鳴らし睨みつけるが パッと離れ人間態になる。
裕太:「じゃあな 兄貴。 しっかり罪を償えよな」
颯:「裕太…… ぐっ!!」
燐:「そう、 しっかり償ってもらわないとね」
心血解放状態の燐が首をつかみ持ち上げていた、瞳を見てしまった颯は洗脳状態に陥っている。
燐:「颯 命令よ。無限回廊へはどう行けばいいの?」
颯:「……このマスターキーを空中に差すことで無限回廊への入口が開きます。本来 あの空間へはマスターキーを持つものしか入れませんが、燐様のそばにいることで 仲間だと認識され 中に入ることが出来ます」
燐:「そう、分かった。あとはこっちで見つけるから ここで大人しくしてて」
颯:「はい……。 燐様の…… おおせの……ままに……」
パッと手を離すと 重力に引かれるようにドサッと尻もちをつく、しかし 姿勢を変えていいという命令を受けてなかったため 尻もちをついたままの姿勢で沈黙していた。
7人は 1度外に出ると無限回廊に向かうのだった。
具現(マテリアライズ)⑧
|莉央《りお》と|悠奈《ゆうな》を帰し(ミラによる護衛オプションつき)、|裕太《ゆうた》のこれからについては改めて|浪野《なみの》警部等を交えて話すことになり、拠点に戻ってもらった。
裂け目から中に入ると |颯《そう》は姿勢を全く変えず沈黙していた。再び心血解放した|燐《りん》が颯に近づく中 ヘイルは小声で全員に話しかける。
ヘイル:「全員に次ぐ、《《絶対に燐の瞳を見るな》》。《《何も考えず目を閉じる》》んだぞ」
|稜也《りょうや》 |氷華《ひょうか》 :「?」
燐:「颯 跪け」
颯:「……はい、ご主人様」
絶対的主君である燐の言葉が聞こえ 何も考えることなく跪くと 静かに瞳を閉じ 頭を下げている。
燐:「今から完全に消滅させる、文句なんてないよね?」
颯:「はい。私は ご主人様の忠実なるしもべ、ご命令は喜んでお受け致します。ご主人様、なんなりとご命令を」
感情が一切乗っていない声で応える、自分の意思なんてものは全くなく 逆らうという感情も存在すらしない。時間が経ったことでより洗脳が進み、瞳は金色に鈍く光り、燐からの命令が自分の意思となっていた。
|凍矢《とうや》:「燐!! やめるんだ!!」
ヘイル:「凍矢ァ! 今の燐は危険だ、近づくな!!」
すかさず燐を止めようと凍矢が声をかけ燐のもとに駆け寄っていく。身体に触れられると燐は ゆっくりと振り返る。全身に鎖の紋様が現れ 満月のような金色の瞳となって……。
ヘイル:「ッッッ!!! 全員目を閉じろ!! 凍矢ァァ!! 燐の目を見るな!!!」
凍矢:「燐! なぁ、なんとか言ってくれよ!!」
ヘイルの大声により メイア・悠那・|拓花《ひろか》・ 稜也と氷華はサッと目を閉じるが、凍矢は一瞬反応が遅れてしまい燐の目を見てしまった。1秒も経たないうちに 金色の瞳をした虚ろな目になり、首 手首 足首に鎖の紋様が出現、|氷転身《ターン・アイス》や悠那の甘々魅了洗脳よりも強力な洗脳状態となり その場に跪く。
凍矢:「俺は ご主人様の忠実なるしもべ……。全てはご主人様のために……。 ご主人様の手足として…… お使い……ください……。 なんなりと…… ご命令を……」
ヘイルは手で目を覆い 指の隙間から警戒しながら見ている。どうしても見にくかったため 【超強力な 洗脳耐性を3重に付与したミラーサングラス】を造り出し つけている。
ヘイル:「嘘だろ…… 凍矢にまで容赦なしかよ!! それに燐の目……。 初めて |真のトランサーとしての力を使った《心血解放した》時は 瞳孔だけ金色に変わっていたが 完全な金色の目をしている。状況はより悪化してるということか!!」
燐:「凍矢 |颯《コイツ》を完全消滅させて。血を消すだけでは生ぬるいから」
凍矢:「はい……。 ご主人様……。 |消《イレイズ》……」
指輪を外した凍矢が|消《イレイズ》を使うと颯の肉体は服を残して消えてしまう、すかさずヘイルが〈|時間遡行《タイムリープ》〉を使ったことで 【トランサーから人間に戻った直後】まで戻すことに成功した。ミラーサングラスをつけているとはいえ 燐の顔を直視しないようにしている。
颯の完全消滅を阻止されたことで燐はヘイルを睨みつけていた。
燐:「ヘイル……なんで邪魔をするの? |颯《コイツ》が人々に・裕太さんに何をしたか ヘイルだって知ってるでしょ!!!」
ヘイル:「当然だ、だが俺の認識が間違ってなきゃ ここは日本、法治国家のはずだ。犯人がトランサーであったとしても 私刑なんてするものじゃない……! 警察が、|晴翔《はると》たちがいるだろ!
……司法に判断を委ねるんだ。燐も法律を勉強したのなら分かっているはずだろ?」
燐:「……それもそうだね。日本で私刑は認められていない。じゃあコイツは晴翔に引き渡すとして。
《《氷華》》 そんな所にいないで こっちに来い」
氷華:「・・・・・・。 はい……。 ご主人様の…… ご命令は……私の……意思……。 すぐに……御許へ…… まいり……ます……」
稜也:「!!? 氷華!!!?」
目を閉じていたにもかかわらず 脳内に直接響く【命令】を聞いた氷華も操られてしまう、催眠状態で虚ろな目をしており、フラフラと燐のもとへ歩いていくと 自分から燐の目を見たことで洗脳が完了し その場に跪く。
稜也:「(目をつぶりながら)心血解放した燐ちゃんの能力が こんなに恐ろしいものだったなんて……。 普段は穏やかで優しい女の子なのに……!! 相棒のはずの凍矢にまで ご主人様って言わせて しかも3人同時に操れるなんて……!!!」
ヘイル:「凍矢は言わされているんじゃない、この強い【服従と隷属の感情】…… 自らの意思で言っているんだ。
しかし、氷華と指定しただけ助かったかもしれない。 一瞬目を合わせるだけで 強力な洗脳状態になるが 初めて心血解放した時には メイア・拓花・チェイン・そして人工知能の俺も操られてしまった、まぁ 俺の場合は顔を動かしたりはできたが獣化したり声を出したりはできなかった。トランサーでもここまでなるんだ、純粋な人間である晴翔に使われたら最後 自我は完全に消えちまうだろうな。
瞳だけでなく 声でも操れるようになっていたとは 恐ろしすぎる……」
稜也:「ヘイルですら抗えないのかよ……!! 燐ちゃん……! 目を覚ましてくれ、いつもの 優しい燐ちゃんに戻ってくれェェェ!!!」
燐:「凍矢 氷華を人間に戻せ、今度は普通の|消《イレイズ》で」
稜也 ヘイル 悠那:「!!」
凍矢:「はい……。ご主人様……」
指輪を嵌め、氷華へ|消《イレイズ》を使うと 今度は肉体を|保持《キープ》したままトランサーの能力:|氷結《アイシクル》だけが消失する。目的を達成し心血解放を解除すると凍矢・氷華・颯の洗脳も解除される。颯が人間に戻り|具現《マテリアライズ》の能力を失ったことで【空間】も消滅、その後 晴翔へ颯と氷華の身柄を引き渡したのだった。
無限回廊へ
|稜也《りょうや》:「|燐《りん》ちゃん、俺は|氷華《ひょうか》を見張っとかないとだから外にいるよ。心血解放した氷華が何をするか分からねぇからなぁ?(激怒)」
燐やメイア、一般人や 他のトランサー達…… 絶対に|氷転身《ターン・アイス》を使うなと警告していたにも関わらず使ったため 稜也は氷華の首根っこを掴み 山吹色の瞳を輝かせ厳しい顔で睨みつけている。
氷華:「ちゃんと|凍矢《とうや》君の|消《イレイズ》を受けるし、もう何もしないってば……」
対照的に 氷華はしおらしくなっている。
燐:「じゃあ 行ってきます!!」
ヘイル:「|裕太《ゆうた》!! お前も来てくれ!!」
裕太:「え!!? ヘイルさん!!?」
|颯《そう》から渡されたマスターキーを空中に差すと白い扉が出現、燐 凍矢 |拓花《ひろか》 |悠那《ゆな》 メイア ヘイル そしてヘイルに引っ張られ裕太も突入していった。裕太の能力は|動物化:蛇《アニマライズ タイプ スネーク》、ヘイルはピット器官による体温感知を探索に使えないかと考えていた。
中に入ると その光景に血の気が引いていく。前後左右 床と天井……見渡す限りにあるのは ドアノブがついた同形状のドア。試しに凍矢が開けると また同じように無数のドアがついている空間に出る、無限回廊と呼ばれる|所以《ゆえん》であった。
燐:「ど、どうすれば|悠奈《ゆうな》さんを見つけられるの!!? これじゃあキリがない!!」
ヘイル:「裕太、どうだ? 悠奈の痕跡は分かりそうか?」
裕太:「あ、あの…… 俺 分かんないです……」
全員:「へ?」
人間態で分からなかった裕太は 白蛇に変身するも 体温感知はできなかった。それもそのはず、ピット器官と呼ばれる体温感知器官を持つのは 《《マムシやニシキヘビ アナコンダといった一部の蛇達だけ》》であり 白蛇≒アオダイショウはピット器官を持たない蛇。 つまり体温感知は |端《はな》から不可能であった。
裕太:「(人間態に戻る)俺 てっきり救急救命士としての腕を買われたのかなって(汗)」
ヘイル:「蛇なら みんなピット器官があるものだと思っていた……。俺こそ知識不足で 無理難題を押し付けてすまない」
裕太:「でも俺はトランサー、やってみます」
燐:「裕太さん?」
裕太:「ハァァァァァァァァ……」
人間態に戻ると目を閉じ力を溜めている。
裕太:「心血解放!!!」
全員:「!!!」
心血解放と詠唱したことで裕太を白色の光が包む、しかし直後 両目を抑え悲鳴をあげる。手の隙間から【血】が見える、目からドロっと 大量の血が流れていたのだった。悠那とヘイル、凍矢が真っ先に駆け寄り メイアと拓花 燐は ぎゅっと身を寄せあっている。
裕太:「ぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁ!!! 目が 目が|灼《や》ける!!! うわぁぁぁぁぁ!!!」
燐:「裕太さん!!」
悠那:「まだ貴方はトランサーになって日が浅いでしょう!!? そんな身体で無理に心血解放すれば失明してしまうわ!!」
メイア:「し、失明!!?」
拓花:「目が見えなくなっちゃうの!!?」
裕太:「ハァ…… ハァ……。 痛みがおさまった?」
ヘイル:「(瞳発光中) 目以外に異常は見られないが大丈夫か? ゆっくり目を開けてみてくれ、ゆーーっくりとな」
裕太:「!!! 見えます、皆さんの体温が分かります!!」
凍矢:「心血解放により視覚が進化したってことか!!」
裕太:「すごい、世界がキラキラして見えます。ヘイルさんの身体は エメラルドグリーンに、 凍矢さんの身体・通った跡や触った跡が青色に見えています。 そして、ここにいる全員と全く違う色をしているこの跡を辿っていけば……」
燐:「悠奈さんを見つけられる!!」
裕太:「行きましょう!」
全員:「おーーー!!」
その後は裕太の先導で無限回廊を突き進んでいく。途中で壁や床から怪物が出現するが そこは燐やメイア達が倒していく。特にメイアや拓花は操られていた鬱憤を晴らすかのようにイキイキと戦っていた。1時間後 やっと件の人物を発見する、軽く発熱していたが命に別条はなさそうだった。
燐:「悠奈さん! 大丈夫ですか!?」
|赤芽 悠奈《あかめ ゆうな》:「だ、だれ ですか……?」
燐:「|睦月燐《むつき りん》、あなたの友人である|瑞葉莉央《みずは りお》さんの依頼で探していたんです!! さぁ 外に出ましょう」
メイア:「私も手伝うよ!!」
燐とメイアが悠奈に手を貸し 凍矢がマスターキーで開けて脱出する。
悠奈:「やっと やっと出られた…… 《《3時間ぶり》》の青空! 澄んだ空気!」
凍矢:「!!? 今 なんて言った! 3時間ぶりだと!!?」
悠奈:「えっ だって今は《《2019年3月》》ですよね? 中学を卒業して間もなく 捕まっちゃったので」
燐:「今は2024年ですよ!!?」
2024という数字を聞いてフラつくと その場に座り込み顔を手で覆いガクガク震えていた。
悠奈:「嘘でしょ……。5年 5年も過ぎていたの……? あっ……ああ……」
稜也 氷華:「燐ちゃん!!!」
燐:「稜也さん、氷華さん!」
稜也:「一体今までどこにいたんだよ!!」
燐:「えっ ずっと無限回廊の攻略を……」
稜也:「燐ちゃん達が突入して 《《5日経ってんだ》》よ!!! なんも連絡も取れないし心配させやがって!!」
燐:「い、5日!!? まだ私達が入って1時間くらいしか経ってないのに!!」
ヘイル:「時間の流れを誤認させたのか? 大量の扉に白い壁だけが続く空間、徐々に時間の感覚を狂わされ 1時間しか過ぎていないと錯覚させられたんだ!! そしてそれは長くいた悠奈に より強くかけられていたってことか!!? 」
燐:「あの野郎……!!」
燐が怒りに震える直後、今までにない「恐怖感」を感じる。
悠奈:「あっ……あああ…… あああ……!! あああああああああああああ!!!」
悠奈の身体から黒い霧のようなものが立ちのぼり、身体にはヒビが入っていく。3時間ほどしか中に いなかったはずなのに実際には5年もの歳月が過ぎていた、悠奈の|精神《こころ》を崩壊させるには充分すぎる事実 。【絶望】が悠奈を襲っていた。
悠那:「|糸《スレッド》!」
悠那が|糸《スレッド》/悠奈を抱きしめると〈絶望の感情〉を吸収していく。【原初の王の器=生贄】として無限回廊に幽閉され、自力で出られたとしても燐達が助け出したとしても 最終的には絶望による|精神《こころ》の崩壊が待っていた。悠那も かつては【|原初の王の欠片《ナイトメア》】として動いていたため、少しでも償おうとしていたのだった。
悠那:「|糸《スレッド》、ゆっくり…… ゆっくりと深呼吸するのよ。あなたを絶望には沈ませない、【|原初の王《ヤツ》】の生贄にはさせないわ。
貴方を待ってる人に会わせてあげないとだし」
悠奈:「あああ……。りお…… あいたいよぉ。グスッ」
身体のヒビが修復され絶望の淵から救いだされた。
莉央:「ゆうなーーーーーーーーー!!!」
莉央は一心不乱で髪の乱れを気にすることなく燐達の元へ走ってくる、悠那が感情吸収を始めたタイミングで凍矢が連絡していた。
悠奈:「り、りお……? 莉央ーーーーーーーー!!!」
莉央:「悠奈ーーーーーーーーーー!!!」
中学以来の再会 5年ぶりに会えた親友の顔を見て2人とも涙を流していた。改めて莉央が悠奈の目を見る、最初はカラコンかと思っていたが人工的な色合いではない、とても綺麗な空色の瞳だった。
悠奈:「本当に5年も経っていたなんて、莉央ももう大学生か。勉強は楽しい?」
莉央:「う、うん。……本当に悠奈は不老不死なんだね、中学の卒業式で時が止まってしまってるみたい……」
悠奈:「トランサーであることも含め 色々と黙っていてごめんね、卒業式のあと |無限回廊《あそこ》に閉じ込められちゃって 気がついたら外では5年も経ってたなんて。 こんな姿だけど これからも私は莉央の親友だからね」
莉央:「うん…… 私の方こそ これからも友達でいてね……!!」
悠奈:「莉央の事は私が守る。 私は糸を操るトランサー、莉央を危険に晒す物は全部縛りあげる」
悠奈は各指先から ステンレスワイヤー、ピアノ線、丸ゴム、刺繍糸、テグスと《《糸状の物》》なら何でも出せる。凍矢の消により悪意を消し 人を護るトランサーへ生まれ変わると、全員の前で シュルシュルとワイヤーを出現させ自在に操ってみせる。莉央の頼みで腕に糸を3箇所巻き付け ごくごく軽い力で引っ張るように操ると「わわっ! 凄ーーーい!! 悠奈の力、おもしろーーーーい!!」と莉央の歓声が響き渡った。
心血解放の爪痕①
|具現《マテリアライズ》/|明星颯《あけぼし そう》と|氷結《アイシクル》/|露橋氷華《つゆはし ひょうか》による一連の事件が終結、|糸《スレッド》/|赤芽悠奈《あかめ ゆうな》の救出が完了して約10日後……|燐《りん》達6人は事務所で ゆったりくつろいでいる。
燐と|凍矢《とうや》はソファでカフェオレを飲み、メイア改めウルグは動物態になってミラにブラッシングしてもらい ヘイルは壁によりかかり腕を組み 呆れるようにして見ている。|拓花《ひろか》は 椅子に座った状態の |悠那《ゆな》の膝の上に乗せてもらい 上目遣いで甘え、悠那は 拓花の頭を撫でながらコーヒーを飲んでいる。六者六様に過ごしていた。
ミラ:「ご主人様 痒いところはございませんか?(背中付近をブラッシング)」
ウルグ:「|最高《さいっっこう》に気持ちいいよ! 氷華さんや燐に なでなでしてもらおうかなって考えてたけど、よくよく考えたらミラにしてもらえば良かったんだ♡
あ、尻尾やお腹もお願いね♡」
ミラ:「かしこまりました。ご主人様のご命令のままに」
ウルグ:「〜〜~♫♫♫」
ヘイル:「《《ウルグ》》、ブラッシングが好きなのは よーーーく分かった。頼むから犬化すんじゃないぞ。狼とのキメラで肉体はクローンとはいえ、本質は《《人間》》なんだからな。 あと|無闇矢鱈《むやみやたら》と狼の姿になるな、完全獣化態でいる時間も日に日に延びているし |下手《へた》したら人間の姿に戻れない可能性だってあるんだからな」
ウルグ:「わ、わかってるってば……。 ヘイルは心配性なんだから!」
ヘイル:「分かってねぇから 俺がこうして|言《ゆ》ってんだろうが!
ハァ(右手で顔を覆い隠う) 頭痛ぇ……」
凍矢:「ヘイル、今までメイアだったのにウルグって……」
ウルグ:「ヘイル…… あまりに言うのが辛いのなら これまで通りメイアって呼んでもいいよ?」
ヘイル:「(聞こえないくらいの小さな声でため息をつくと静かに近づいて頭を撫でる) |一丁前《いっちょまえ》に気遣いやがって……。あの名前は本当の持ち主へ返したんだ、ちゃんと本名で呼ばないと失礼だからな。
だろ? ウルグ」
ウルグ:「(パーーっと顔が明るくなる)うん!!!」
凍矢:「燐、 あれから具合は大丈夫か? 何度も|心血解放《しんけつかいほう》して身体に影響はないか?」
燐:「ダルさは たまにあるけど大丈夫だよ。それより 凍矢やヘイルこそ大丈夫なの? その…… 私達を助けるために氷華さんの|氷転身《ターン・アイス》を受けちゃったり洗脳してしまったり……」
凍矢:「心配ないって!! あれから数日経っているが 身体に不調もないし 元気そのものだよ!」
ヘイル:「俺の事も心配してくれてありがとうな。まぁ俺は人工知能だからか、燐の洗脳でも身体のコントロールを奪われるだけだったし |氷転身《ターン・アイス》による影響もすぐに消えた。
・・・まさかウルグを|戦狼《せんろう》状態にしちまうとはな、完全獣化かつ四足歩行のような構えになることでキメラとしての力を限界以上に引き出して戦える戦狼。だが 身体のことを顧みず闘うってのがデメリットなんだよなぁ……」
メイア:「(ミラを戻して人間態になり 目をキラキラ輝かせながらヘイルの手を握る)あの構えになると 身体に力が漲ってきて最っ高だった! バトルウルフかぁ♡♡♡ ねぇ、ヘイル。《《これからも戦狼状態に》》なっていい!!?」
この発言には さすがのヘイルも青筋を立ててブチ切れ 握られた手を乱暴に振り払う。片手で胸ぐらを掴むと壁にガンっと打ちつけた。今までにないくらいの【怒り】にビクッとした燐は凍矢にしがみついて震えている。
ヘイル:「おい、話を聞いてたか? |自分の身体が壊れる事を畏れず闘うって《あの姿になったら死んじまうッ》|言《つ》ってんだよ!! 本当のメイアは 戦狼の実験中に殺されたし あの時だって1歩遅ければ死んじまってたんだぞ!!! ……死んでしまったら何もかも終わりなんだよ。
……|戦狼《アレ》は特攻だ。俺の目の前で 大事なウルグを……《《メイアを2度も殺す》》ような真似を…… 俺がさせるわけ……ねぇだろうが」
ウルグ:「(ニコッと笑っている)でもそこは死ぬ前に止めてくれるんでしょ? ヘイルの中には私の身体情報や戦闘データ……ぜーーーんぶ詰まっているんだし。
私だってそう簡単にはくたばらないつもりだよ、|本当のメイアちゃん《あの子》の分まで生きてやるんだから」
ヘイル:「・・・・・・(スっと手を離し 腕組み姿勢に戻る)__フゥ__ やはりご主人様には適わねぇな。なら俺がウルグの中に戻り リアルタイムでモニタリングしてるって条件でなら考えてやらなくもない。獣化とは比較にならないくらい負担がデケェからな」
ウルグ:「本当の ほんっっっとうの【奥の手】として だね! 新たなフォーム【戦狼】ゲット〜〜~♡(ぴょんぴょん飛び回ってる)」
ヘイル:「(本当に危険性をわかってるんだよな……??? 俺のご主人様は……)」
悠那:「燐、私が調合した特製アロマよ、ダルさも吹き飛んで リラックスできるわ」
拓花に降りてもらい、燐の元に近づくと小さいボトルを開ける。何十粒もの いちごを凝縮したような甘くフルーティな香りが広がり その甘い香りに引き寄せられるかのように全員が集まってきた。
燐:「スンスン いちごの甘い香りがする!!! またいちご食べたいなぁ。 でも11月下旬だし 食べられるようになるのは あと少し先かな……?」
ウルグ:「スンスン 本当だ!! 1粒2粒どころじゃない、数え切れないくらいのいちごの香り! 1度 燐や拓花といちご狩りしてみたいなぁ!!」
拓花:「いっちご〜〜~♡♡♡」
ヘイル:「フフっ 俺達抜きかよwww 俺や凍矢も混ぜろよな! スンスン 人工的なものではなく、いちごそのものから抽出したような香りだな(流れるように瞳発光)。 ……俺が普通に飲食できるんだし ミラも いちごを食べられるのか? いや、自発行動はできないから食べさせてやるしかないな」
ウルグ:「|人工のものなのか天然のものなのか《そんなこと》まで分かるんだ、すっご……。流石 |人工知能《ヘイル》」
悠那:「ビニールハウスや空調管理技術のおかげで 1年中 いちご狩りができる所が 少しずつだけど増えてきているしね。|12月に入れば《もう少しで》旬の時期になるし、今度|7人《みんな》で乗り込んで ビニールハウスの1個や2個 潰しちゃうくらい食べちゃいましょうか♡」
ヘイル:「潰すって お前なぁ……。冗談じゃなくてマジで実現しそうなのが怖ぇよ、人外7人なんて。まぁ大食らいがいないだけ救いか」
いちごの香りを堪能し ワイワイと いちご狩りに思いを馳せていたその時だった・・・。
これこそ【嵐の前の静けさ】。
心血解放の爪痕③
ヘイルの視線に耐えきれず あっっっさりと自白したチェイン。想定通りすぎて ヘイルの顔に怒りマークが大量に浮かび、握り拳はプルプルと震えている。漏れる怒りを感じとったウルグは 事務所・事務所の入っているビル全体に【|静寂《サイレント》】をかけ、ヘイルの怒鳴り声が響かないようにするとミラを召喚 |拓花《ひろか》の耳と目を塞がせる。
ヘイル:「なるほど、だから 香りを操れるようになったってことか。香りと聞いてぱっと思いつくのは花だしな。しかも媚薬まで使っていたとは」
気がつくとチェインの身体は宙に浮き 落ちてきたところをヘイルが蹴り飛ばす。蹴りは脇腹目掛けて放たれ、ガンッ!という音を立てバリアに打ち付けられる。チェインが瞬きした瞬間、目の前に瞬間移動してきた完全獣化態ヘイルがアッパーパンチを食らわせ 宙に打ち上げたのだった。あまりの痛みに身体を丸くして|蹲《うずくま》っていると 胸ぐらをつかみ無理やり立たせ 痛めつけたのだった。
ヘイル:「・・・誰かを自分だけのものにしたいという気持ち、分からなくはない。俺達はメイアを誘拐し 洗脳・キメラへ改造し 非道な実験中に殺してしまった。その後 メイアの遺伝子を使いクローン人間を作り 同じようにキメラを造りだした。正直 メイアのような最高な《《素材》》は数千年に一人いるかいないかという程だったからな、クローン人間を作ってでも欲しかった逸材だった。
完成してからの一時期……俺も 《《メイア》》をおもちゃにしていた。都合が悪いと《《俺だけで判断》》して記憶を消したり 封印したり 正体がクローンだってこともずっと隠し続けていた。何も言わずに行動した結果 《《メイア》》を完全獣化させちまうまでに追い詰め、|精神《こころ》 を壊してしまったことだってあった。|蒼樹《そうき》に殴られ|諌《いさ》められることでようやく! 俺は自分のやったことの大きさ・重大さを理解出来た。まさかクローンであるという事実まですぐ受け入れられるとは思っていなかったが……。
凍矢が怪人となったこと……トドメは|燐《りん》の|心血解放《洗脳》かもしれない。 軽く叱らないと……と思ったが、事の顛末を聞いてしまった以上、もっと最低なヤツをシメなきゃならねぇ。
テメェだよ!!! チェイン!!! アロマオイルに媚薬を混ぜたァ? マッサージで催眠状態にして洗脳したァ? いちごのアロマもベースは同じだから反応してしまったかも?
凍矢をあんな姿に変えたのはテメェなんだよ!!! こんな言い方……口が裂けてもやりたくなかったが、|氷華《ひょうか》や燐の洗脳が挟まって 燐にメロメロになっただけ《《まだ良かった》》。もし そうでなければ 忠誠心はテメェに向く、そうなれば 何をさせるかなんて想像もしたくない!!! 何が【かも】だ、他人事のように言ってんじゃねぇよ!!! どういう思考回路をしてたら そうやって私利私欲に身を任せ 他人を洗脳できんだ!!!
凍矢はッッッ!!! テメェの《《家族》》じゃねぇのかよ!!! いや、テメェにとって大事なのは《《燐という肉体だけ》》、元々燐の全てを乗っ取るのが目的・燐の|精神《こころ》だって壊す気だったもんな。なら凍矢が…… 拓花が…… 燐の|精神《こころ》だってどうなろうと知ったことではない、だからこんな非道なことができるんだよなぁ!!!!!(超超激怒で 力いっぱい殴る)」
ウルグ:「ヘイル……(脇目も振らず こんなに怒るなんて……)」
燐:「ごめんなさい、ごめんなさいっっっ!!!」
ヘイルの怒鳴り声に 燐も両手で顔を覆い本格的に泣きだしてしまった。
ヘイル:「あっ え、えっと……。燐を怒った訳じゃないんだ!! 俺が怒っているのはチェインだけ!! そ、それに! も、もう怒ってないからさ(燐の泣き声に超狼狽え チェインを投げ捨てると オロオロしている)」
凍矢:「ご主人様を泣かせやがって……。今すぐ殺してやるよ(青筋を立て 怒りながら腕の花をむしり取ると ツインダガーに変化、ヘイル達のバリアを破壊+後ろをとり ヘイルの首元にあてがっている)」
ヘイル:「う、嘘だろ? あれだけ魔力をつぎ込んだバリアを壊せんのかよ……」
燐:「ひぐっ、ひぐっ、ぐすっ」
凍矢:「りんさまぁ……。 りんさまが泣くことないよ、こうして りんさまに洗脳してもらえて生まれ変わることが出来て とっっっても幸せだからさ♡♡♡ りんさまぁ 泣かないで……。ほらっ りんさまが大好きな|金木犀《きんもくせい》の香りで泣き止んでよぉ……(手のひらから金木犀の花を溢れんばかりに出現させる)。
(ツーーっと涙が流れる)えっ…… なんで俺も泣いているんだ? この熱い雫は? 俺は・・・ おれは何で・・・?? (ズキッ)ぐっ!!! な 何だ、この【記憶】は!! 笑顔を浮かべている燐様と 隣で笑っているのは【俺】……なのか? 頭や腕に花が咲いていない……? 同じ顔をしている 《《あいつ》》は一体誰なんだよ!!? なぜ《《あいつ》》といる燐様は あんなに自然な笑顔をしているんだ!!! おれは 俺は一体 【誰】なんだ? 思い出せないッ!!! 俺は 俺はァァァ!!!」
燐の泣き声にツインダガーを速攻納め そばに駆け寄り 燐をぎゅっと抱きしめると頭を撫でながら 優しくなだめている。【燐の悲しみと恐怖の感情より生まれた】凍矢は 大きすぎる悲しみの感情がシンクロしたことで 目からキラキラした雫が流れ落ち、突然フラッシュバックした【謎の記憶】に混乱している。
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ヘイル:「と、とにかく!! やることとしては凍矢の残滓を消し去って本来の凍矢に戻す、そしてウルグ 拓花にも|颯《そう》による洗脳・氷華の|氷転身《ターン・アイス》による残滓が見えたし 燐も この際だから治療する。時間こそかかるが《《俺が全員助ける》》。都合上 先にウルグを治療させてもらってもいいか?」
燐:「う、うん」
一旦涙を拭うも とても暗い顔で俯いている燐に対し、ヘイルも出来るだけ目線を低くし あまり身体に触れないようにして話しかけている。
凍矢は片膝を立てるようにして壁際に座り込み 今も【謎の記憶】と 【悲しみの感情】に苦しんでいた。
ヘイル:「凍矢が|完全回復する《元に戻る》まで辛い思いをさせてしまいすまない。出来るだけ早く助ける」
凍矢:「ご主人様は どうして命令してくれないんだ? この【記憶】は一体なんなんだ! 燐様が 笑顔を向けている《《あいつ》》は 何者なんだ!? 思い出せない…… しもべとして生まれ変わることができて幸せなはずなのに 凄く胸が苦しい……。 そして目から流れ落ちる涙…… どうして どうして俺は泣いている?」
ヘイル:「おい!! 凍矢ァ!! 聞いてんのか!!?」
凍矢:「(ヘイルを睨みつける)黙れバケモノが。テメェの治療なんか受ける気はない。俺は 燐様の忠実なるしもべとして生まれ変わったんだ、怪しい治療なんか誰が受けるかよ!! そこまでしてさせたいのであれば…… 今ここで|殺《や》り合うか? それともテメェから|快楽漬けに《堕と》してやろうか?」
ヘイル:「 (ボソッと小声で)くっ!!! 早く助けないと……燐も凍矢も|崩壊す《こわれ》るのは時間の問題か」
|悠那《ゆな》:「(小声で)……そうね」
ヘイル:「(睨みつけながら)仲間ヅラしてんじゃねえよ、チェイン。その口を閉じてろ」
燐:「私の、私のせいで…… ひぐっ」
先程のヘイルの激昂を思い出し、トドメというワードがグサッと突き刺さり また泣き出してしまう。燐の前に跪くと話しかけている。
凍矢:「燐様、 俺は永遠に 燐様のとりこだ。なにも怖がらなくていいよ、燐様が怖いものは 全てぶっ壊す。さぁ燐様、現実なんか忘れて永遠に続く幸せな夢を楽しんでくれ」
燐の目の前に腕を伸ばすと1番近い花からブシュッ!っと睡眠作用のある香りが吹き出し 燐は意識を失ってしまう、眠った燐を抱きかかえると4人を睨みつけ 寝室へ入っていった。
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ヘイル:「凍矢の能力は|消《イレイズ》……なのに、なんであんなに多彩な能力を持ってんだよ!!!」
悠那:「|消《イレイズ》に |鎖《チェイン》、|氷結《アイシクル》、それに|芳香《フレグランス》や|植物操作《プラント》かしらね。さっき貴方が言ってたでしょ? 短期間での多重洗脳による残滓が怪人に変えたって。
トランサーとしても純粋に強化されてるし 心血解放と言っても差し支えないわね」
ヘイル:「(無言で殴り飛ばす)口を開くな つったろうが。元はといえばテメェの洗脳のせいだろうが!!! 仲間ヅラしてんじゃねぇよ!!!」
拓花:「りんと とうやが〜〜~!! うわぁぁぁぁん!」
悠那:「拓花……」
ヘイル:「声を荒げちまってすまない……」
ウルグ:「ヘイル。あの凍矢、今までに見たどの敵よりもやばい。凍矢も言ってたけど 素直に治療を受けるとは思えない、向こうが考えを変えるか ヘイルが無理矢理にでも治療するしかないのかな……」
ヘイル:「燐…… 凍矢……」
この場にいても埒が明かないと判断し、4人は拠点へ移動したのだった。
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凍矢:「燐様は 俺が永遠に護るからね。燐様が怖いものは 全部 俺がぶっ壊すから。何も心配しないで。
燐様は 誰にも渡さない、俺達は永遠に一緒だから……ね。り・ん・さ・ま♡♡♡」
暗い室内 ベッドに入って眠り続ける燐の身体を愛おしいと言わんばかりに撫でている、金色の瞳を怪しく輝かせ 蕩けた視線を向けて……。
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--- ヘイルside ---
拓花と悠那を部屋に案内し終わると、ヘイルは自分達が使っている部屋の隅で体操座りになり ズーーーーーーンっと沈んでいた。今までに見た事のないテンションの低さであり 落ち込んでいるのは火を見るより明らかだった。
ヘイル:「ハァ〜~〜~〜~〜~(超絶重い溜息)」
ウルグ:「へ、ヘイル? もう15分くらいその姿勢だけど大丈夫?」
ヘイル:「《《メイア》》ぁ……。うわぁぁぁぁぁ!! 俺 かんっっっぜんに燐に嫌われちまったァァァァァァ!!!」
ウルグ:「(またメイア呼びに戻ってるよ……)へ、ヘイル!!? 急にどうしたの!?」
突然大泣きしたかと思うと 急に立ち上がり頭を抱え叫び出す、そのまま流れるようにorzの姿勢になる。泣くことが少ないヘイルが大泣きするものだからウルグもギョっとしている。
ヘイル:「凍矢の事で心が弱っている燐に聞こえるくらいの声で怒鳴り散らしまった。燐の目の前でやっちゃいけなかった・配慮しなきゃいけなかったのに、完全に飛んじまってた……。怒りに支配され 完全獣化までしちまってた……。 これからどういう顔をして燐に接したらいいんだ……。 ぜっっっったいに怖がられる、ぜっっっったいに怯えられる!!」
ウルグ:「まぁ今は凍矢の事で辛い状態だけど 燐ならちゃんと分かってくれるって!
……本当にヘイルは人間だよね」
ヘイル:「へっ?」
ウルグ:「燐がどういう状態か分かってる上で 悪いことをしてしまったって 怒りの感情が原因だって反省できてるわけでしょ? 私が見てもヘイルは人間だよ」
ヘイル:「メイア…… メイヤァ~~~~~~~!!!」
目からダバーーーっと滝のように泣くとウルグに抱きつこうとする。しかし 不完全獣化により強化したキメラの手でムギュっと顔を押さえつけ 顔をぷいっと背け それ以上進まないようにしてる。
ヘイル:「|メ《むぇ》、|メイア《むぇいあ》?」
ウルグ:「・・・・・・ごめん、今のヘイル ちょっとキモイ。 あ゛ーーーもう!!! ごめんってば!!! またそうやって落ち込まないでよ!!! 情緒不安定すぎるでしょ、この最強人工知能!!」
ヘイル:「はい…… 俺は 情緒不安定すぎる最強人工知能です……」
ハァ〜〜~と溜息をつくと脇に腕を入れ 無理やり立ち上がらせ トンっと手刀を入れ気絶させると 魔法で布団を半分剥がし【|腕力強化《フレイム・アームズ》】でベッドの上にポイッと放り投げ 布団を被せる。
ウルグ:「完全融合して数日後、まともに話した時に28歳だって言ってたよな…… 。あんなに情緒不安定になるのって初めて見たかも。初めて完全獣化した日とか燐の血に当てられちゃった日より酷くなってたような……、それだけショックが大きかったってことだよね」
書き置きをしていくと、ウルグは1人 事務所へ向かう、それも【赤の扉】ではなく空から……。
心血解放の爪痕②
|凍矢《とうや》:「(トクン トクン ドクンドクンドクドク……)あ、あがぁ、あああああああぁぁぁ!!!」
|燐《りん》:「と、凍矢!!? どうしたの!!?」
突然悲鳴をあげ ソファから離れると 壁にもたれズルズルと滑り落ちるようにして座り込み 胸や頭を抑え苦しんでいる。息も荒くなっているものの だんだん艶のある声に変わり、口は半開きになる。痛みに耐えるように抑えていた両腕も 次第に重力に引かれるようにしてダランと垂れ下がった。
凍矢:「あぐっ……!! 頭が……割れる! 胸が締めつけられ苦しい……!! 俺に一体何が起ころうと・・・。
・・・・・・あっ♡ ははは……♡♡ あっはははは♡♡♡ きもちいい、力がみなぎってくる♡♡♡ 幸せすぎて 気持ちよすぎて 《《快楽》》に抗えない♡♡♡ あははははははははははは♡♡♡♡♡」
燐:「と、凍矢?」
頭や腕から《《異様なもの》》が生えている凍矢はゆっくり立ち上がり振り返る、その【姿】を見て全員が言葉を失い、ウルグはヘイルに・|拓花《ひろか》は燐にしがみついている。
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心血解放した時と同じ金色の瞳 その中に【鎖がぐるぐる巻きついている 濃いピンク色のハートマーク】が浮かび、光の灯ってない とろんとした目・紅潮した頬・口角が上がり幸せそうな表情をしている。首元や手首だけでなく《《顔にまで青黒い鎖の紋様が浮かび》》、【月下美人】や【テッセン】といった 白く美しい花が両袖を突き破って咲き乱れ 頭部には|溶けない氷《クリスタル》でできたような 一際大きな【月下美人】の花が咲いている。皮膚を突き破っているわけではなく 鎖の輪の中から咲いているようだった。
パキィィィンという音を立てて【鎮静の指輪】が粉々に砕けてしまい、足元に紫色の粉が溜まっている。ズボンから花は咲いていないように見えるが 【全身に鎖の紋様が浮かび上がっており、開花は腕や頭のみにとどまっているだけで いずれは脚からも咲くのではないか】とヘイルは予想している。燐と話していた時に見せていた満面の笑みと違い 今の凍矢が浮かべている笑みは 偽りの・快楽により無理矢理浮かばされた 歪んだ笑みであった。
燐:「|駿兄《しゅんにい》さんの【鎮静の指輪】が!!!」
ウルグ:「ヘイル…… 凍矢のあの姿は一体何なの!!? 怖い……!!」
拓花:「りん〜〜~!あの凍矢 こわいよーーー!!!」
ヘイル:「|運命《フェイト》の【指輪】が砕けるとは 相当強い力だってことか。上半身にしか変化は及んでいないが、さながら特撮世界に出てくる【怪人】だな……。何が どうなってやがる!」
凍矢?:「(指を下唇に当てている)あっはは♡♡♡ 《《人》》がたっくさんいるや♡♡♡ 全員 俺と同じようになれ♡♡♡ 《《燐様のしもべ》》になれ♡♡♡♡♡」
ヘイル:「なっ!!? 燐のしもべだと!!」
恍惚な表情で 獲物を見つけた嬉しさに舌なめずりをすると右手を燐達に向け手のひらから無数の青黒い鎖を撃ち出す。悠那が咄嗟に両腕を犠牲にし 全部ガードするもそのうち1本がピッと頬をかすり 青い血が流れる。頬の傷はすぐ再生されるも 鎖は腕を貫通し 中々ショッキングな光景であったが 一瞬で鎖は消え 全身に《《黒いイバラのような模様》》が浮かび上がっている。
燐:「お姉ちゃん!?」
悠那:「くっ!! 鎖による痛みは特にないわ。よくも やってくれたわn…… 暖房をつけてるのに さ、寒い……。あ、脚が凍ってる!!?」
突然ぶるっと寒気を感じ 息も白くなっている、暖かい室内であるにもかかわらず 寒さでシバリングを起こしていた。その後 1分とかからず全身がピキピキと凍りつき氷塊と化した。氷塊に近づき 芸術品を眺めているかのような うっとりとした目で触りながら話し始める。
燐:「お姉ちゃん!!!」
凍矢?:「なぁに、凍りついても死にはしない。2分もすれば氷は自然に砕け散り、燐様のしもべとして生まれ変わるのさ♡♡♡(目線だけ燐達に向ける)」
???:「それはどうかしらねぇ?」
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バックジャンプで氷塊から離れた直後、氷の内部が赤くなると |豪炎《ブレイズ》による火柱で燃やし尽くされる。|目的物のみ《氷とイバラ》を狙って燃やしているため 延焼は全くなく燐達も熱さを感じない。しかし 狙ったはずのイバラ模様だけ焼失させられなかったようだ。
凍矢?:「《《俺の》》氷を溶かした…… 人間かと思っていたが お前、《《俺と同じトランサーか》》?」
ヘイル:「(? 俺の氷? 凍矢の能力は|消《イレイズ》…… それに、ここにいる全員が人間ではないと分かっているはずだ。まさか変異したショックで《《記憶を失っている》》のか!?)」
悠那:「__ブルブルッ__ その氷のような花、もしかしたら|氷結《アイシクル》を使えるんじゃないかと思ってね。 鎖が貫く直前 |豪炎《ブレイズ》で全身を覆っていたのよ!」
凍矢?:「ふーん…… だがもう遅い。|氷結《ソイツ》はあくまで時間稼ぎ。氷を溶かされたとしても 俺の鎖に貫かれた以上 《《結末》》は変わらない」
悠那:「? それは一体……? ……はうっ♡ なんだかドキドキしてきたわ……♡ かっこよすぎる♡♡♡ 目を離したくない♡♡♡ 咲き乱れる 白く綺麗な花達♡♡♡ あぁ♡♡♡ 美しすぎるわ、凍矢さまぁ♡♡♡」
拓花:「お姉ちゃん!!?」
ストンっと その場に崩れ落ちると 胸を押さえ凍矢の事をじっと見つめ ぽーーっと顔が赤くなりながらモジモジしてる。偽りの恋心を植え付けられ カナリア色の瞳の中に【鎖がぐるぐる巻きついている 濃いピンク色のハートマーク】が浮かんでいる=魅了状態になっていた。ニイッっと口角が上がり 悠那の前に片膝立ちになるとクイッと顎を持ち上げ 見下ろすようにして話しかける。
凍矢?:「効いてきたようだな。イバラは凍結作用だけでなく快楽物質も分泌させられる。そして それは この花の香りを嗅ぐことでもな。
こうして近距離で嗅いだ以上、もう俺に逆らえないし逃げられないぜ? たっっっぷりかわいがってやるから俺の|女《もの》へと堕ちてしまえ」
燐:「お姉ちゃん!! 」
悠那:「(凍矢の目を見つめ続けている) ふわぁ…… 凍矢さまぁ♡♡♡ このまま身も心も委ねてしまいたい♡♡♡ 凍矢さまのものになりたいわ♡♡♡
でも、私は 睦月悠那…… 燐のお姉ちゃん! |魅了洗脳《こんなもの》に負けてたまるかァァァ!!!」
---
悠那は自分に|浄化《ピュリファイ》を使い 魅了状態を解除すると キッと睨みつけながら立ち上がる。イバラ模様も溶けるように消え去り、予想外の事態に再び距離をとる。
凍矢?:「ッッッ! 堕ちきったかと思ったが、まさかあの状態から正気に戻るとはな」
悠那:「ハァ……ハァ……。燐が私の名前を呼んでくれたおかげで打ち勝つことが出来た、さっきのセリフはお返しするわ。あと一歩届かなかったわね!
それで? あなたのことは凍矢って呼んでいいのかしら?」
凍矢:「(腕を組んで目を合わせていない)……好きに呼べ。__フンッ__ 遅かれ早かれ 全員燐様のしもべになるんだ、ゆっっっっくりと調教し 堕としてやればいいか。・・・・・・それよりも。 《《ごしゅじんさまぁ》》♡♡♡♡♡ みーーつっけたぁ♡♡♡(手を組み キラキラとした視線を燐に向ける)」
燐:「へ? ご主人様って…… キャァァァァァァ!!!」
ヘイル:「燐!!」
悠那と話してた時より声が何トーンも上がっている。今度は 花の中から植物の蔓のようなものを放ち、ぐるぐる巻きにすると力任せに引っ張り寄せる。お姫様抱っこのようにして受け止めると スっとソファに腰掛けさせる。
燐:「と、とうや……?」
燐が驚く間もなく 凍矢は目の前に跪くと 燐の手・足の甲へ 目を閉じチュッと周りに聞こえるように音を立て 連続キスをする、手の甲と足の甲へのキス= 敬愛する主君 つまり燐への忠誠/隷属を誓う証として。もちろんそんなことをする凍矢を見たくないと 燐はぎゅっと目をつぶり顔を背けていた。
燐:「ひっ……! と、とうや? 一体何がどうなってるの……?」
不意に立ち上がると燐の隣に座り両腕を燐の身体に回し 愛おしそうに抱きしめ、更には 自分の身体を燐に擦りつけている。急に身体を触られたため 当然 燐はビクッと震え、ゆっくり目を開けると 凍矢の異様な行動が目に入ってしまう。心血解放や ウルグ達の完全獣化/戦狼状態 とまた違った【異形の姿】、そして|エロいことに耐性が全くないのに 進んでしている《普段なら絶対にしないことをしている》凍矢に 燐はただ恐怖しか感じていなかった。
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燐:「と、凍矢!!? 何がどうなっているの!!? その姿はなんなの!!!?」
凍矢:「ご主人様が洗脳してくれたおかげで こんなにも綺麗な姿になれて すっごい力を手に入れたんだ♡♡♡♡♡ あれ? もしかしてご主人様よりも 燐様って呼ばれた方が好き?♡♡♡♡♡ なら【りんさま】って呼ぶね♡♡♡♡♡ (顔をくっつける)あぁ、りんさまから完熟した桃のような 甘ーーい香りがする♡♡♡ ねぇ りんさまぁ 俺に命令してよ♡♡♡♡♡ 俺は りんさまのもの、りんさまのとりこ♡♡♡ りんさましか考えられないんだ♡♡♡♡♡(うっとりとした目をして 全力スリスリ)」
ウルグ:「燐! 今すぐ助ける!! |解呪《ディスペル》!!
えっ・・・!!?」
ヘイル:「どうした?」
ウルグ:「|解呪《ディスペル》が、|解呪《ディスペル》が入らないの!!」
ヘイル:「なにっ!? |解呪《ディスペル》!!
弾かれた・・・! くっ、どうなってやがる!!
・・・・・・!!? なんだよこれ!!!」
ヘイルがすぐさま凍矢の身体を調べていく、凍矢の身体には【3種類の|残滓《ざんし》】が纏わりついており これが凍矢の人間性を狂わせ おかしくし 怪人へ変異させていた。 変異直後で強すぎる力が暴走しているのか凍矢自身も 鎖の効果と花の香りで2重に冒されてしまい 悠那以上に 快楽物質を過剰分泌させられている。燐のことしか見えておらず、燐以外 考えられなくなっている。
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凍矢:「ああ♡♡♡ りんさまは とっても綺麗だ♡♡♡ 色白の肌に 濡れたような深い黒色をしている艶やかな髪 大粒の|柘榴石《ガーネット》だって霞んでしまいそうな鮮やかな赤い瞳 耳元でキラリと光るシルバーのワンポイントピアス、そして どんな男でも虜にする魅力…… とっっっても綺麗だ。ずっっっと|傍《そば》で りんさまを愛し、りんさまに命令されたい♡♡♡
なぁ りんさまぁ、俺に命令してくれよ♡♡♡ りんさまの望みは俺の望み、俺は りんさまの忠実なるしもべ、盾であり|剣《つるぎ》なんだよ。身も心も 全てりんさまのもの、りんさまのことしか考えられない♡♡♡♡♡ りんさまの綺麗な顔や目を見つめていると胸がきゅっとしめつけられてドキドキして あたまの中がふわふわするんだ♡♡♡♡♡ りんさまのことだけを考えて りんさまに支配され 洗脳してもらえる…… りんさまの愛に|包《くる》まれ 見えない糸にあやつられ もう気持ちよすぎて抗いたくなくて しあわせなんだ♡♡♡♡♡ ねぇ りんさまぁ♡♡♡ りんさまのそばに ずっっっっとおいてくれよぉ♡♡♡ りんさまと はなれるなんてことになったら つらすぎてしんじゃいそうだよ♡♡♡ なぁなぁ りんさまぁ♡♡♡♡♡
・・・りんさま どうしてそんなに震えて泣いているんだ?♡♡♡ りんさまが怖いものは俺が ぜーーーーんぶこわすし殺すから遠慮しないで なんっでも言ってくれよ♡♡♡♡♡ 俺はりんさまのしもべなんだからさぁ〜〜~〜〜♡♡♡♡♡ もしかして泣いてるのって力不足を怖がってるの?♡♡♡ なら 力を示すために まずはコイツら全員 りんさまのしもべに変えてみせるよ♡♡♡♡♡ 俺と おーーーーんなじようにさぁ♡♡♡♡♡」
燐の全てが愛おしいと言わんばかりにうっとりとした目で 頭や頬を撫で髪に指を通したりクルクルと指に巻き付けたり、燐の胸元に顔をくっつけ心音や温もりを感じながら擦り付け 腕を身体にまきつけるように回している。頬や髪に触れられる度にビクッと震え、【怪物】に擦り寄られ 燐は終始 青ざめた顔でポロポロと涙を流している。
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これ以上被害が広がらないよう ヘイルは自分達の周り・燐の全方位にバリアを展開し重い口調で話し始める。かなり強度のあるものを生成したり 連続で魔法を使ったためか 体内魔力が急激に減り 目眩がするがウルグが魔力を補填した。
凍矢:「ご主人様に触れないし バリアも壊せない。あの野郎……!!! ご主人様!! すぐに助けてあげるからね!!!(ガンッ ガンッとバリアの壁を叩き 拳から血が流れている)」
燐:「(ヘイル、本当にありがとう(´;ω;`))」
ヘイル:「ハァ…ハァ…。 フゥーーーっ。 ウルグ、魔力 ありがとうよ。枯渇しかけてたから助かった。
・・・・・・表現が正しくないというのは重々承知の上で わかりやすい表現をさせてもらう。今の凍矢は【洗脳中毒】だ」
ウルグ:「洗脳中毒?」
ヘイル:「(絶賛 瞳発光中) 【力の|残滓《ざんし》】燃えカスのようなものが3種類も纏わりついていることで凍矢をおかしくし 怪人の姿へと変異させている。洗脳を解かれ元の姿に戻ることを 《《凍矢自身=心が拒絶してしまっている》》んだ。短期間で何度も洗脳されたせいだろうな。
|氷の花 そして氷結能力《青い残滓》は |氷華《ひょうか》の|氷転身《ターン・アイス》、|鎖の紋様《黒い残滓》は燐の心血解放だということは分かるが ハートの目に香りを操る能力、そして【快楽物質】というワード……。同じピンク色の残滓から派生してるようだが その1つが何なのか……。
チェイン、まさかとは思うが凍矢を洗脳したり魅了したりしていないだろうな?(睨む)」
悠那の方を見るとダラダラと汗が流れ 顔が真っ青になっていた。
ヘイル:「テメェ、その顔は やったってことか? マジでやりやがったのか? やっちまったってことだよな!!!?」
悠那:「……ヴァリアル社に乗り込む直前に 凍矢を甘々洗脳しました。|氷結《アイシクル》のことで思い悩んでいたから媚薬を混ぜたアロマをデュフューザーで煙状にして嗅がせて マッサージで催眠状態にした後、|魅惑の魔眼《ファスシネーション・アイ》で お姉ちゃん大好きな男の子になるように洗脳しました……。さっき使った いちごアロマも ベースは同じ素材だから凍矢が反応しちゃったのかも」
もはや メロメロを通り越して ヤンデレ(・∀・)
凍矢の快楽堕ち+怪人化……。 どうしよう、めちゃんこキモイ凍矢になったけど 中の人は書いてて
めっっっちゃ楽しい(・∀・) 花粉を飛ばしたりはしないけど そんなことになれば二次被害がえっっぐい事になります、つまり連鎖堕ち。
1話2話なんかじゃあ 終わらせやしませんので 覚悟してくださせぇや(・∀・)b
【怪人態凍矢の能力】
手のひらから無数の青黒い鎖を撃ち出し 身体に突き刺す(超即効性のある強力な鎮痛成分により痛みは無い)、鎖は黒いイバラ模様に変化。凍結作用により全身凍結・快楽物質を分泌させることができ だんだん蕩けた表情に、頭部から【月下美人】の花が咲くと氷が自然に砕け散る。 瞳に【鎖がぐるぐる巻きついている 濃いピンク色のハートマーク】が浮かび 凍矢のしもべ/燐のしもべ へと変わる。
花の香りを嗅ぐことでも快楽物質が分泌されるため 鎖を避けることができたとしても基本的には逃れることができない。魅了・洗脳を解かれ元の姿に戻ることを拒絶、しもべになると鎖を撃ち出せるようになるため更に仲間を増やそうとする。
1度堕ちればもう元には戻れない、バッドエンドまっしぐらという(・∀・)
心血解放の爪痕⑤
--- ウルグside ---
深夜 ザーーーーっという水の音が聞こえ ヘイルは目を覚ました。
ヘイル:「うっ…… |痛《いつ》ッッッ。な、何で寝ていたんだ?(一連の出来事を思い出す) そうか あまりに情緒不安定になっちまったから気絶させられたのか。にしても|手刀《アレ》……痛すぎんだろ、相棒に対して少しは加減しろっての、まだ痛みが残ってるなんて どんだけ力が有り余ってんだ(|項《うなじ》をさすっている)。
ウルグ…… なんでこんな夜中にシャワーを?」
布団から出て 書き置きを読むと浴室方面に歩き出す。すると同タイミングでシャワーを浴び終わったウルグが髪を拭きながら歩いてきた。
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【ここから先 《《ずっと全裸》》で会話が進みます。
(・∀・) 冗談なんかではなく ガチで全裸です。(服を着るという描写が出るまで)】
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ウルグ:「あ、ヘイル。ごめん 起こしちゃったかな」
ヘイル:「(目を背け 見ないようにしている)シャワー直後だというのは分かってるが せめて服を着てから出てこい! ってか なんでこんな時間にシャワーを浴びてんだ? |燐《りん》の所に行ってくるって書き置きがあったが 何しに行ってたんだよ (二本指でメモをつかみヒラヒラさせる)」
ウルグ:「ああ、ちょっと|凍矢《とうや》を《《半殺しにしてきた》》♡♡♡ 全然抵抗しないからつまんなかったけどね、まあまあな量の返り血を浴びちゃったからシャワーを浴びてたんだ」
ヘイル:「は、は、は、はん……ごろ……し……!
かえり……ち……!?」
ウルグ:「なーんで燐が怯えてたのか ぜんっぜん分かってなかったからね。だから《《恐怖を全身に刻み込んでやった》》よ、そこから立ち直れるかどうかは凍矢次第かな。
(手からタオルが滑り落ちる)ヘイル、なんか暴れたりないの♡♡♡ あれだけ|殺《や》ったのに 力がどんどん湧き出てくる……。 あはは……♡♡♡ もっと もっと骨のあるやつはいないのかなぁ♡♡♡ あはははは♡♡♡」
あっけらかんと言うウルグに ヘイルはポトポトと涙を流しながら近づいていく。
ヘイル:「明らかに様子がおかしい。この感じ そして【燐の血の匂い】……。血を取り込んだのか!!!? なんてことを……!!!」
ウルグ:「あはは……♡♡♡ もっと壊したい♡♡♡ この力でもっと多くのものを壊したい!!!あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!
(ギュンっと顔をヘイルに向ける)ヘイルぅ♡♡♡ 今ここで 私に殺されて♡♡♡(流れるように完全獣化)」
ヘイル:「(涙を拭う)|不可視《インビジブル》の時は血の匂いを嗅いだだけだったが 恐らく凍矢を襲った際についた血を舐めたってことだよな……! すぐに助けねe……ッッ!!」
右から飛んでくる蹴りを不完全獣化させた右腕でガードする、咄嗟に完全獣化に切り替え 徒手格闘戦となる。蹴りや爪がぶつかりあった際に起きた衝撃波等で ランプや壁など 部屋がどんどん抉れていく。完全に目がいっており、闘うことしか考えられなくなっているウルグを傷つけたくないヘイルは次第に押されていった。
ヘイル:「どうにかして抑えこまねぇと〈|血液透析《ダイアライシス》〉が使えねぇ。《《あと1人》》 あと1人戦力がいれば……!!!」
ウルグ:「凍矢もヘイルも 抵抗しないから つまんないよ。この|昂《たかぶ》りを受け止めてくれる王子様はどこにいるのかなぁ♡♡♡ あははははははははははははははははははははははははははははは!!! 今すぐ殺してあげるからね♡♡♡♡♡」
ヘイル:「ッッッ! やめろ!目を覚ましてくれ!!」
その直後・・・・・・
ウルグ:「・・・がぁッッ!!! 離せぇ!!!」
ヘイル:「!!! だ、誰だ・・・?」
???:「(後ろから羽交い締めにしながら)ご主人様!!! 目を……覚まして……ください……!!」
ヘイル:「み、ミラ!!!? なんで …… 何で 人形であるはずのお前が ここに……!!?」
ミラ:「|私《わたくし》にも……わかりま……せん。ただ…… とても……悲しく……なって…… 気がつい……たら…… ここに……いたん……です……。ヘイル様が……戦力を……と……願われて……おりました…… それに……|応《こた》え……られて……いたら……|良《よ》いの……ですが……。ヘイル……さま…… |私《わたくし》が……《《消えない》》……《《うちに》》…… ご主人様を……お救い……ください……!!!(ウルグの抵抗により 全身傷だらけになり 魔力が霧状になって漏れ 所々ヒビ割れが見える)」
ヘイル:「消える……!!? そういう事か!
ああ!俺にまかせろ! 〈|血液透析《ダイアライシス》〉!!!」
ウルグ:「あは はは……。 あ、あれ? 私は一体何を……?
(ギュッと前後から 力強く抱きしめる)
へ、ヘイル!!!? それに ミラ!!!?」
ヘイル:「燐の血を身体に取り込んで おかしくなっちまってたんだよ。頼む…… もうこんなことはしないでくれ。その爪は 誰かを傷つけるのではなく トランサーから人間達を護るために使ってくれ……。
ウルグが誰かを傷つけているところは 見たくないッッッ……。 そして女の子が軽々しく【殺す】なんてワードを口にするな。約束してくれ……二度とこんなことはしないって…… 血を取り込むなんて自殺行為を 心まで化け物にならないでくれ……!!」
ミラ:「ご主人様……!! よかった、元に戻られて本当によかった……!!」
ウルグ:「ヘイル…… ミラ……。うん、ごめんね 何も相談しないで。もうこんなことはしない、約束する」
???:「お楽しみのところ失礼するわ。トランサーの血の気配がしたと思ったら《《アンタ》》だったのね」
声が聞こえ3人がバッと向くと ベッドに脚を組み頬杖をつきながら座る|悠那《ゆな》がいた。しかし 《《瞳には以前と同じ》》【《《*》》】《《のマークが浮かんでいた》》。
ヘイル:「!!!? いつの間にここに!! それに…… お前は 《《どっち》》だ」
悠那?:「どっちでもいいでしょ。まったく血を舐めとるなんて随分バカな真似をしたものね。
邪魔よ この|木偶《でく》が」
ベッドから立ち上がると ミラを真横から蹴り飛ばし ヘイルに足払いをかけ仰向けに倒れたところを踏みつけ ウルグの頭をガシッと掴む。壁に打ち付けられた際 そのままミラは消滅してしまった。
ミラ:「ご、ご主人様…… ヘイルさ……(右手を前に伸ばしながら消えていく)」
ウルグ ヘイル:「ミラーーー!!!」
ヘイル:「チェイン 貴様ァァァ!!! よくもミラを!!! おいっ この脚をどけろ!!! ウルグに触るなァァァ!!! ゴフッ!!(2、3回強く腹部を踏みつけられ 吐血している)」
チェイン:「耳障りな声を出すんじゃないわよ、この紛い物が。せっかくの靴が アンタの血で汚れるじゃない(脚をどけると 同じく脇腹を蹴り飛ばす)」
ヘイル:「がぁっ!!! (壁に打ちつけられ 動けずにいる)」
ウルグ:「ヘイル!!!」
チェイン:「・・・・・・|浄化《ピュリファイ》」
チェインが|浄化《ピュリファイ》を使った瞬間 ウルグの内面に残っていた・完全に洗い流せていなかった燐の血を完全に消し去られる。チェインは そのまま後方へ突き飛ばすようにして押しやり ウルグは 勢いのままに尻もちをついた。
チェイン:「フンッ アンタ達は《《私のオモチャ》》なんだから 勝手にくたばってんじゃないわよ」
ヘイル:「オモチャ……だと……!!? おいっ!!! (よろよろ立ち上がるまでに回復)チッ、消えやがった。完全に血の気配が消えているから もう大丈夫だ」
ウルグ:「あの感じ…… 悠那じゃなくてチェインだよね。それも敵だった頃の(ヘイルをソファに座らせ 服を着ながら話す)」
ヘイル:「だな。あの感じは間違いなく【燐を乗っ取り 洗脳し 苦しめてきたチェイン】だ。 ……だが 悠那に生まれ変わったはずなのに 何がどうなってんだよ」
ウルグ:「・・・あまり考えたくないんだけど。
チェインは生まれ変わってなんていなかった、|何《どこ》かのタイミングで第三者の身体を乗っ取っている
なんて可能性は無い? 今までの行動は全て 私達に改心したんだと信じ込ませる【演技】だった とか」
ヘイル:「そうなると【悠那】がどこから出てきたんだ という話になる。燐が嘘をついている様子はなかったからな」
ウルグ:「たぶん 【睦月 悠那】という存在は本当にいる。ただ その身体というか精神をチェインが乗っ取り 操っているんじゃないのかな」
ヘイル:「・・・1度燐の記憶を出生前まで遡り 全て調べてみる必要がある。チェインが本当に生まれ変わったのかどうかも含めてな」
ウルグ:「そう だね。でもまずは凍矢を助けるのが先、そろそろ寝ようか」
ヘイル:「・・・・・・だな」
---
--- 凍矢side ---
???:「__とうや__ __とうや__」
身体が熱く鉛のように重い、動くのも息をすることすら辛い……。 誰かの声が聞こえる。
燐:「……ゃ、とうや! どうして目を覚ましてくれないの……? 死んじゃいやだよぉ……」
燐様の声が聞こえる……! でも 今にも消えてしまいそうな すごく辛そうな声……。あのあと どうなったんだ?
???:「心因性、精神的なもの……だろう。熱も かなり高い、点滴も入れているから自然に目を覚ますのを待つしか……。 ッッ! 燐!!」
???:「良かった 気がついたんだね、凍矢!!」
2人の人物の話し声が聞こえる。少しずつ目を開けるけど 景色がぼやけてよく見えず 何度も瞬きする。チラッと横を見ると 敬愛するご主人様と 白い服を着た見知らぬ男が見えている。燐様の目は赤く腫れている、泣き腫らしって言うんだっけ?
凍矢:「こ、ここは? りん……さま…… 目が赤い……よ、大丈……夫……?(布団から抜け出し 燐の顔に手を伸ばそうとする、しんどい身体で言葉を絞りだしている)」
燐:「まだ動いちゃダメ! 熱だって すごくあるのに。 ……私のことはいいから戻って、今は自分を大事にしてッッッ! これは……これは《《命令》》だ!!!」
人に命令なんてしたくない…… でも そうしないと 凍矢は無理にでも|燐《自分》のために動こうとする、苦渋の決断だった。命令という言葉が聞こえた瞬間 時が止まったかのようにピタッと動きが止まる、目から光が消え虚ろな目になると 操られるようにして 布団の中に戻っていった。
凍矢:「はい…… ご主人……様。 ご主人……様の…… ご命令の……ままに……。俺は…… ご主人……様の……」
燐:「しもべ でしょ? 私のことが大好きだってことは もう分かったから 大人しく寝てて!!! 命令だよ!!!」
凍矢:「はい…… ご主人……様」
完全に仰向けの姿勢になり 布団をかぶった瞬間、布団の中からビリビリっ!!と何かが破れる音が聞こえる。 蒼樹がバサッと布団を剥ぎ取ると 脚にも大量の蕾がついていた。体調が悪いからなのか日が昇っているのに咲いていない…… しかし開花したらどんな姿になるのか想像に難くない。2度も【命令】されたことにより怪人化がさらに進んだものと思われる。
???:「(状態が状態ってのもあるが《《命令という単語》》だけで 凍矢を操りやがった。|稜也《りょうや》から聞いてはいたが 燐の心血解放は恐ろしすぎる、しかも足に生えた大量の蕾……状況はさらに悪化してるのかよ!!! 凍矢は自分の相棒・|別人格《もう1人の自分》のはずだろ? どうして そうも簡単に操れるんだよ、何が燐をそんな風に変えちまったんだ……!! いや、今は凍矢を最優先にしないとな、医者として仕事をするか)(布団をかけ直す)
・・・燐の言う通りだ、病人は そうやって大人しく寝ていろ。トランサーといえど動けるコンディションじゃない!」
凍矢:「(目に光が戻る)あ、アンタは 誰だ? いや、あなた様はどなた ですか? ご主人様のお知り合いの方ですか?」
|蒼樹《そうき》:「・・・無理に敬語を使わなくていい。俺は|長月蒼樹《ながつき そうき》、精神科・心療内科医であり トランサー|迅雷《ライトニング》だ。今日は休診日だったんだが、凍矢が倒れた!! すごい熱がある!!って電話をもらってな、|迅雷《ライトニング》で飛んできたってわけさ。
本当に記憶喪失らしいな。恐らくは変異によるショックだろう、少しずつ取り戻していく・思い出すしかないだろうから焦るなよ」
凍矢:「そう……だったのか……。色々世話になっちまったな」
蒼樹:「全くだ、まさか そんな姿になっているとは思いもしなかった。41度近い高熱は |普通《人間》なら救急車を呼ぶレベル、そこから更に上がってしまうと命の危険だってある。こういう言い方は良くないがトランサーという不死身の身体だから耐えられているようなものだ。 しっかり熱が下がり 体力も回復して 栄養もバランス良く摂って 動いても問題ないと医師である俺が判断できるまで|相対的安静《ドクターストップ》だ、今後は午前診と午後診の前 計2回 往診に来るからな。薬も飲んでほしいが、高熱があっては食欲もないか……。何か少しでも食べられたらいいんだが……」
燐:「そうだ! ちょっと待ってて!!」
燐が寝室から出ていき 約5分後、湯気を立てている器をお盆にのせて戻ってきた。野菜がゴロゴロ入っているクリームスープだった。
燐:「スープなら飲めるかなと思って温めてきた、体調を崩した時には いつも《《凍矢》》が作ってくれていたスープ。 飲めそう……?」
スプーンでスープのみをすくって フーフーして冷ますと 口元に近付け 飲ませる。舌の上で転がしゴクッと飲み込む。
凍矢:「!!! あたたかくて おいしい……。 りんさま ありがとう」
蒼樹:「(小声で)燐様か……」
野菜も簡単に潰せるくらいに柔らかく煮てあるため 噛まなくても歯茎ですり潰せる、人参や玉ねぎ じゃがいもなどを食べられるだけ食べると 薬を飲み また静かに眠り出した。その日は午前だけだったが、次の日からは告知通り 1日2回 蒼樹が往診に訪れ 聴診したり血圧や体温を測る等 簡易的に診察を行う。
様子を見に来たウルグ達に事情を話し |拓花《ひろか》達の事をお願いすると 代わりとしてミラを置いていったので ハウスキーパーをお願いする(皿洗いや掃除など 一通りの家事をヘイルがプログラミングした)。余裕ができた燐は 身体の汗を拭いたり 固く搾った濡れタオルを置いてあげたり 起きた時にはご飯を食べさせたりと 献身的な看病を続けた結果、《《わずか3日》》でドクターストップを解除され 動き回れるようになるまで回復(薬代や診察代などは4日分まとめて 燐に請求)。速すぎる回復に蒼樹は トランサーだからと納得する反面【|心血解放による 燐の凶悪な一面《あっさりと凍矢を操ったこと》】に恐ろしさを感じていた。
その日の夜、ベッドサイドに腰掛けると 凍矢から話し始める。《《自分の決意》》を燐に伝え始め、燐は口を挟むことなく静かに聞いていた。
凍矢:「……やっと理解できたんだ。どうして燐様が ずっと怖がって泣いていたのか・どうして俺を頼って命令してくれなかったのか…… 燐様が怖がっていたのは 他でもない俺だったんだって。ウルグに怒鳴られて 自分に置き換えて考えることでやっと|理解し《わかっ》た。
頭をよぎった【謎の記憶】、あれは |怪人《この姿》になる前の【本当の俺】だった。あそこに映っていた燐様は すごく自然な笑顔をしていたし 俺の身体に花なんて咲いていなかった。あの凍矢が 絶対的な信頼を置いてる凍矢なんだって分かった。
俺、ヘイルの治療を受けて 元の凍矢に戻ることに決めた。ずっと怖がらせてしまってごめんなさい、燐様」
燐:「そっか、自分で決めたのなら尊重するよ。 ねぇ凍矢、1つお願いがあるんだけど……」
凍矢:「? お願い?」
燐:「ヘイルによる治療がいつになるかは分からないけど これからも私の相棒でいてくれる……? どんな姿になったとしても凍矢は凍矢。私の方こそ 腫れ物に触るようにして 露骨に怖がったりしないから……さ……」
何も言わずに 両手で凍矢の手を握る。
凍矢:「燐様……。 俺ももう|変異したて《あのとき》のように無理矢理 接したりはしない。また燐様を怖がらせて 涙を流させたくない。
俺は これからも 燐様と共にいるからね」
空いている手で包み込むように 燐の手を握り返す。その後 2人とも同じベッドに入ると 凍矢は静かに布団をかけ ポンッ ポンッと同じリズムで肩に触っている。看病のおかえしを と凍矢からの頼みだった。
燐:「私のことを【燐様】とか【ご主人様】とか言っていたけど、無理に様付けしなくていいからね。出来れば これまで通り【燐】って呼んで欲しいんだけど……」
凍矢:「無理なんてしてないよ。俺は燐様の事を愛してるの、愛おしくてたまらないんだ」
燐:「本当にそう思ってる?」
凍矢:「えっ(ピタッと腕が止まる)」
燐:「どうせそれも 洗脳による偽りの気持ちなんでしょ」
凍矢:「そ、それは…… (どうしよう……どう答えたら燐様は満足してくれるの? 燐様を愛してるって気持ちは本当なのに……。どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう……)」
何度も瞬きし ハッハッと呼吸が早くなり最適解を模索し震えている凍矢の頭を 燐は静かに撫でる。
凍矢:「ご、ご主人様?」
燐:「ごめん、突っぱねるようなことを言っちゃって……。本当は 凍矢も誰かに甘えたいはずなのに 生まれてからずっと重荷を背負わせちゃった。
凍矢、さっきの言葉は取り消す。燐様でもご主人様でも呼び捨てでも…… 凍矢の呼びたいように呼んでいいからね」
凍矢:「燐様……」
(静かに横になる)
燐:「ねぇ凍矢……。その…… もし 嫌じゃなかったら…… おでこにおやすみのキスとか……。いやいや、ごめん! 変なことを言って!! 凍矢、そういったの大嫌いだし!!」
凍矢:「フフッ 燐様が望むのなら もちろんいいよ」
__チュッ__ 目を閉じ 小さい音を立て おでこにキスをする。
凍矢:「おやすみなさい、燐様。いいゆめをみてね」
燐:「ありがとう。おやすみ、凍矢。 凍矢も いいゆめをみてね」
互いにおやすみの挨拶をすると静かに目を閉じ穏やかな笑みを浮かべて 眠りにつく、これまで燐がベッドで寝て (拓花と 一緒に寝ることはあっても)凍矢は1人ソファに寝転がるだけだったが 初めて燐と一緒に眠ったのだった。
心血解放の爪痕⑥
翌朝は|燐《りん》の方が先に目を覚ました、チラッと掛け時計を見ると 針は8時過ぎを指している。ベッドから起き うーーんっと伸びをすると、その声を聞いた|凍矢《とうや》もパチッと目を覚まし 大きな欠伸をし 目をこすっていた。
凍矢:「ふわぁ……。おはよう、|燐様《りんさま》」
燐:「おはよう、凍矢」
リビングに行くと 凍矢はポフッとソファに座り脚をパタパタさせながら燐の動きを目で追っており、燐はキッチンでコーヒーマシンを起動・牛乳も使って甘いカフェオレを作っている。流石に|怪人態《今》の凍矢にコーヒーはあげられないと判断し コップに水を注いで持っていくと 右隣(凍矢から見て左側)に座る。
凍矢:「燐様 ありがとう!(ゴクゴクゴクと一気に飲み干す) お水 美味しい♡」
燐:「今の凍矢はトランサーであることには変わりないんだよね? 腕や頭、脚にも花が咲いてて 普通の水道水も すっごい美味しそうに飲んでて。
【植物怪人】じゃないよね? 元の姿に戻る……よね!!?」
凍矢:「多分 ヘイルの治療を受けたら元の姿に戻って 植物や香りを操ることはできなくなる と思う。
【植物怪人】かwww ご主人様 やっぱりこの姿は怖い?」
燐:「そういう訳じゃないんだけど 不便だったりしないのかなって……。花に栄養吸われたりしなきゃいいんだけどって」
凍矢:「(腕を見回す)全身に見えてる【鎖の紋様】 …… これが花達のエネルギーになってるみたいだから 特にお腹空いて死んじゃいそうって感じはないよ」
燐:「そっか。身体に咲いてる花達にも水をあげたいくらいだけど、服が濡れちゃうよね……」
再度キッチンに行くと 大きめの鍋に水を入れて戻ってくる。
燐:「こっから水を吸収したり…… は無理だよね」
凍矢:「・・・」
燐:「凍矢?」
じーっと器を見た後 両腕を少し上にあげ手のひらを器に向ける。シュルシュルと何本もの蔓が伸びていき ボチャンっ!と浸かる。ゴクゴクと音が聞こえそうなくらいに 勢いよく水を吸収していた。驚くのはそれだけではない、ウルグによる一方的な教育(という名の暴力、半殺しとも言う)で流血し 花が青く染まってしまったが、水を吸収したためなのか理由は不明だが 青い血がどんどん薄く消えていき 元の白く美しい姿になっていった。
燐:「青くなってた花が白くなった!!? すっご……
ってか何かしら流血を伴う大怪我をしたってことだよね。凍矢 大丈夫だったの!!?」
凍矢:「えっと…… 俺が燐様にしてたことを分からせるために 狼の耳と尻尾が生えたウルグが攻撃を仕掛けてきたの。殺されるんじゃないかって感じで すっっっごく怖かったけど、それ以上に燐様は怖い思いをしてたんだって分かったんだ」
燐:「狼の耳ってことは完全獣化、こんなに出血するまで攻撃するなんて 何もなければいいんだけど……。ねぇ 凍矢」
凍矢:「どうしたの? 燐様」
燐:「月下美人とか初めて見たからさ、《《香り》》嗅いでみてもいい?」
凍矢:「えっ!!? ダメだよ!! 香りを嗅いだら 快楽物質がd……」
言い切る前に 燐はスンスンと花の香りを嗅いでいる、月下美人からはジャスミンに似た甘い香りが テッセンからはベビーパウダーのような 強くないが良い香りが感じられる。凍矢が怪人になった直後にも1度嗅いでいるが その時は恐怖心が強すぎたせいか効かなかった。
燐:「甘くて いい香りがする〜〜~♡」
予想通り快楽物質が分泌され |顔が蕩け 目にハートマークが浮かんでしまう《メロメロ状態になる》とフラーーーっと凍矢側に倒れ、凍矢の膝の上に頭をポスンっと預ける、つまり膝枕状態になった。
凍矢:「り、りんさま!!? りんさま 大丈夫!!?」
燐:「とうやしゃまぁ♡♡♡ (*_ _)zzZ(爆睡)」
朝起きて こうなるまで 1時間とかかっていない、あっという間に2度寝に突入した。
凍矢:「り、燐様…… 寝ちゃったよ……。 どうしよう、おひさまの光が差し込んできて 俺も眠くなってきた……。 俺も寝ようかな、おやすみ燐様。
( ˘ω˘ ) スヤァ…」
凍矢は 燐に両膝を差し出し 左肩に手を添えると、ソファの背もたれに身体を預けるようにして眠り始める。現在時刻 朝の9時、2人仲良く2度寝をキメたのだった。
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約3時間後、今度は凍矢が先に目を覚ます。
凍矢:「ふわぁ〜〜 よく寝たや、もうお昼か。燐様、燐様 起きて!! 夜眠れなくなっちゃうよ!!? 」
身体を揺するも 目覚める気配が全くない。とても幸せそうな笑顔で眠り続けていた。
凍矢:「どうしようどうしようどうしよう!!! 燐様が、ご主人様が目を覚まさない!! 一体どうしたら ご主人様が目を覚ましてくれるの!!!?
ヘイルなら 燐様を助けてくれるかな!!? お願い |植物達《みんな》!! ヘイルを見つけて この危機を伝えて!!!」
手を組むようにして必死に祈ると その想いが|精神感応《テレパシー》のように逢間市内に拡散される。植物から植物へ伝言ゲームのように伝わっていき、ウルグ達の拠点に生えている雑草に到着する。すると 強すぎる凍矢の力によるものなのか急激に生長し 拠点全体を覆い尽くすツタ植物へ進化した。
ウルグ:「日光を身体に浴びて〜〜~♬ ビタミン作らないとねぇ〜〜~♬ まぁ 私はキメラだけど、毛繕いとかはしないんだよねぇ〜〜〜♬ っと。(バサッとカーテンを開く)
・・・・・・な、な、な、なんじゃこりゃー
ーーーーーーーーーーー!!!!!?」
ヘイル:「ウルグ!! どうした!!? ッッッ!?これは一体……!!」
|陽《ひ》の光を浴びようと窓際に近づき、勢いよくカーテンを開けると 一面緑色の景色が見える。悲鳴に近い驚きの声を聞き ヘイルが駆け込んで |拓花《ひろか》と|悠那《ゆな》も後を追うように入ってきた。
拓花:「ヘイルお兄ちゃん!! これなんなの!!?」
悠那?(瞳から*のマークは消えている):「凍矢の|植物操作《プラント》かしらね?」
ツタが複雑に絡み合ってるのか とてつもない強度になっており、完全獣化態のヘイルの蹴りでも開けられない。ヘイル1人 外に出て〈|翼《ウイング》〉を発動、ビル全体を飛び回って観察すると 屋上まで完全に植物に覆われ 緑色のビルと化していた。両腕の爪をフルパワーで振ると 一度はツタを切り裂くも生長速度が速すぎてすぐに覆われてしまう。
ヘイル:「(部屋に戻ってくる)ダメだ。かんっっぜんに覆われてしまってる、俺の爪でも すぐ元通りに伸びてしまう。小さい雑草が ここまで進化したっていうのかよ!!
……こんなことが起きるということは、逆に考えると、燐と凍矢に何かあって 俺達を探していた とも言える。みんな!! 事務所に急ぐぞ!!」
赤の鍵で事務所に乗り込むと 凍矢がソファに座り、燐は膝枕してもらっていた。ムニャムニャと幸せそうな笑顔で眠っており そんな燐の身体を揺すりながら何度も起こそうとしている。あまりに目を覚まさないため 凍矢の目からボロボロと涙がこぼれ、ウルグの姿が目に入ると 獣化していない姿にもかかわらず 昨日の恐怖がフラッシュバックし 更にガタガタと震え 全く目を合わそうとしなかった。
凍矢:「ひっ ウルグ!!!!! …… ヘイリュ!! ご主人様が 目を覚まさないの!!!」
ヘイル:「一旦落ち着け!! 一体何があったんだ!!」
(カクカクシカジカ その後 ヘイルが〈|拒絶《リジェクト》〉を使うが 目を覚まさない)
ヘイル:「凍矢が 忠告したにも関わらず 燐が香りを嗅いだのであれば 凍矢は無罪だな。だが 〈|拒絶《リジェクト》〉が効かない以上 俺では助けられないな……」
ウルグ:「それなら案外なんとかなるかもよ。怪人になった凍矢は植物だけでなく香りも操れる。つまり覚醒作用のある香りを使うことができれば……」
凍矢:「(ウルグと一切目を合わせない)ご主人様が 目を覚ましてくれる?」
ヘイル:「だが量を間違えると 今度は不眠、眠れなくなってしまう。燐の呼吸に合わせて少しずつ使っていくしかない、凍矢 俺が計算し指示するから手伝ってくれ。2人でお姫様を目覚めさせるぞ」
凍矢:「う、うん!!」
凍矢に両手を前に出させると手の周囲をガラスのドームのような透明のバリアで覆う、凍矢はその中でペパーミントの葉を出現させる。ドーム内に風を起こして浮かせると手に【同質の膜】を展開、内部を高熱の水蒸気で満たし 香りを抽出する。ポットの注ぎ口を作るようにすると燐の顔へ近づけ、揮発量・吸入量・燐の呼吸数等を常に計算しながらコックを開けたり閉めたりしてペパーミントの香りを燐に嗅がせていく。細かい計算や同時進行でのモニタリングは|人工知能《ヘイル》の得意分野だった。
約10分後、ううっという声とともに目を覚ましていく。少し寝ぼけてはいるが 快楽物質による影響も消え正気を保っているようだった。
燐:「あ、あれ? みんなどうしたの?」
凍矢:「りんさま!!? りんさま大丈夫!!?」
燐:「う、うん」
凍矢:「燐様が目を覚ましてくれた!! このまま起きなかったらと思うと ヒグッ。あの後 何度揺すっても起きなくて、ヘイルに助けを求めたの。そしたらみんな来てくれて……」
燐:「そっか 凍矢が忠告してくれたのに花の香りを嗅いじゃったから……。みんなには心配かけちゃったね、ヘイルもありがとう」
ヘイル:「俺はただ ペパーミントの香りを抽出しただけだ。礼なら この危機を真っ先に俺達へ伝えた凍矢に言うんだな」
燐は膝枕から起き上がると そっと凍矢を抱きしめる。
燐:「凍矢、助けてくれてありがとうね」
凍矢:「燐様が無事で 本当に良かった。俺はこれからも燐様のそばにいるからね」
燐:「うん」
拓花:「りん〜〜~ おはよう!! もうお昼だよ?」
悠那?:「あれだけ怖がってたのに 随分と打ち解けたものね」
ウルグ:「とりあえず 何か食べない……? 燐も すっごくお腹鳴ってるし」
|一先《ひとま》ず 昼食をとることになり、話はそれからだった。
ウー〇ーイーツで注文したお昼を食べ終わると今後について話し合う。
ヘイル:「拓花とウルグの【治療】は終わっている。あとは凍矢だけだが この際 燐もやっちまっていいか」
燐:「ずっと気になっていたんだけど 【治療】ってどういうことをするの?」
ヘイル:「これまで〈|拒絶《リジェクト》〉や〈|解呪《ディスペル》〉は 魔力を 塊のようにしてぶつけていたが、それを固めないで 全身に行き渡らせ浸透させ |残滓《ざんし》を|昇華《しょうか》させたんだ。まぁ ドライアイスのような感じでな。さすがに負担がでかいから 〈|眠りにいざなう眼《ヒュプノ・アイ》〉で 全身麻酔のような状態にしている」
燐:「身体への影響は ほぼないってこと?」
ヘイル:「《《極力》》影響はないようにしている。昇華完了直前で〈|眠りにいざなう眼《ヒュプノ・アイ》〉を切って、自然に目が覚めるようにしている。 必要以上に催眠状態にならないようにな」
凍矢:「燐様 どうしたの?」
燐:「ヘイル、凍矢の【治療】なんだけど 少しだけ待ってくれない? もう少しだけ 《《今の凍矢》》といたいの」
悠那 拓花 ウルグ:「燐……?」
凍矢:「燐様……?」
ヘイル:「待つのは別に構わないが、どうしてまた?」
燐:「私が 拒絶したことで凍矢は高熱が出てドクターストップが出るまで体調を崩してしまったの、せめて 体調を崩してた3日間!埋め合わせをしたいなって。どこか出かけたり 美味しいものを食べたり……」
ウルグ:「燐……。気持ちは分かるけど 今の凍矢は目立ちすぎるよ」
燐:「そ、そうだよね」
凍矢:「ひぐっ ひぐっ。ご主人様ぁ!!! この女の人 怖いよぉ……!(獣化してないにも関わらず 顔を見ただけで大泣きし 燐にしがみついて震えている)」
ウルグ:「(お、女の人よばわり(汗))凍矢ごめんってば! もう痛いことや怖いことはしないから!!」
ウルグが凍矢に近づいてきただけで 更にオーバーリアクションで大泣きし ガタガタと震え 燐の後ろに隠れている、もはや小さい子供だった。
ウルグ:「ヘイルゥ(´;ω;`) 完全に凍矢に怖がられちゃったァ……」
ヘイル:「話し合いとか 他に方法があっただろうに 《《暴力全振り》》を選んだウルグが500%悪い、自業自得だ。どうやったら仲直りできるか 受け入れてもらえるか…… 自分で考えるんだな(腕を組み フンッと鼻を鳴らし ぷいっと顔を背ける)」
ウルグ:「そんなぁ ヘイルが冷たい(´;ω;`)」
氷結(アイシクル)⑥
物語の時間は約数十分前まで遡る、|燐《りん》達と|拓花《ひろか》が戦闘していた頃まで・・・。
|氷華《ひょうか》と|颯《そう》は社長室から 一部始終を見ていた。拓花と燐達3人の戦い、その後 血まみれの大怪我をしているメイアを抱えたヘイルが飛んできて |悠那の能力《オールマイティ》で事務所へ瞬間移動したところを……。 窓から見ていた氷華は両手で口を覆い 時折目を逸らしていた。
颯:「まさか拓花が敵の手に落ちるとは思いませんでしたね、せっかく私達のものになったのに」
氷華:「颯、いくらなんでも言い方ってものがあるでしょ! それともうひとつ、メイアちゃんにヘイル君を襲わせたのはあなたなの!!?」
颯:「そうですよ、貴方様がおっしゃっていたでしょう? ヘイルの存在を消したいと」
氷華:「それは そうだけど……。でも あんなに出血して酷い怪我を!!」
颯:「まぁ 死んだらその時ですよ」
氷華:「ッッ!!なんてことを……!! 失礼するわ!」
思念体を通した対話を終わらせると その場から消える。|凍矢《とうや》の気配察知に引っかからなかったのは 社長室にいた氷華は思念体だったから・拓花が敵の手に落ちていたと知らなかった:《《あの瞬間まで味方であると認識していた》》からであった。索敵能力は文字通り【敵】を見つける能力。|影《シャドウ》による拘束+あの場に拓花が出てきたことで初めて索敵能力に引っかかった。
トランサーの気配を感じ 急いで玄関から外に出る、 白銀の毛をした狼が拓花を乗せ走ってきた。伏せをするとストっと拓花が降り氷華にぎゅっと抱きつき、メイアは人間態に戻るとその場に跪く。
氷華:「お姉様〜〜~♡♡♡」
メイア:「ただいま戻りました、氷華様」
氷華:「メイアちゃんに拓花ちゃん!!? なんでここに!!? いやそれよりも メイアちゃん 怪我の方は大丈夫なの!!? 跪かなくていいから立ち上がってちょうだい!!」
メイア:「・・・うっすらとした意識で覚えているのは |朱星裕太《あけぼし ゆうた》なるものが止血処置を行い|蒼樹《そうき》が輸液・輸血を行ったということです。数日もすれば傷は消えるかと思われます(氷華様に心配をかけたくないからクローンであることは黙っておくか)」
氷華:「そ、そう……。裕太君に蒼樹が……。今は燐ちゃん達といるのね、良かった。さぁ 跪かなくていいから!! 早く暖かい室内に入りましょう!! 」
メイア:「はい 氷華様……」
氷華:「(|氷転身《ターン・アイス》は軽くしかかけていないのに この洗脳の進み具合、別の力が働いているのは間違いない。ヘイル君の呪縛 そして第3者の介入、すぐに助けてあげるからね)」
3人で昼食をとり、午後を悠々と過ごした後 帰宅した颯も加えた4人で夕食をとる。3人でお風呂に入り、拓花はすぐ眠ってしまった。
夜9時過ぎ、喉が渇いた氷華がキッチンに向かう中、明かりが漏れる部屋を発見する。
氷華:「ここはメイアちゃんが使ってる部屋よね、こんな夜中に何をしてr」
隙間から中を見ると衝撃的な光景が洪水のように流れ込んでくる、颯がメイアに対し殴る蹴るといった暴行を加えていたのだった。メイアは一切抵抗しておらず、時折腹部を蹴られたり 背中を何度も踏まれている。ガンっと蹴り飛ばされベッドの脚に背中からぶつかったメイアは 全身の痛みから 目をぎゅっとつぶり 丸くなるようにうずくまり、その後も酷く怯えた表情で 震えながら後ずさっていた。裕太が完璧な止血処置を行ったとはいえトランサーのような再生能力はない、僅かに傷口が開いたのか包帯に血が滲んでいた。
颯:「(暴行しながら)このっ!!! 《《ウルグ》》!!! キメラ1匹仕留められないとはな、おまけにピアスまで取られやがって! 化け物のくせに 俺達と同じ飯が食えて部屋で過ごさせてもらってるだけ ありがたく思いやがれ!!!」
メイア:「ご主人様……颯様! お許しを……!!
あぐっ!(顔を横から蹴られる)」
颯:「気安く名前を呼ぶんじゃねぇ!!! 所詮お前は人間でも動物でもないただの怪物、|トランサー《俺達》の奴隷として生きてく運命なんだよっ!なんなら今 その反抗的な目を抉りとってやろうか!?」
メイア:「ひっ……!! ど、どれい……!! お許しを!! お許しくださいッッ!! ご主人様!!! 私めにチャンスを!!」
氷華:「やめなさい!!」
怒鳴り声とともにパキパキっと氷の波が2人を遮るように走っていき、颯の足元を凍らせる。駆け込んだ氷華がメイアを抱きしめるようにして庇い メイアも氷華にしがみつくようにしていた。一連の暴行により表情は さらに暗くなり とても怯えている、研究所でも同じように暴行を加えられていたためフラッシュバックしていた。普段から大好きなメイアが傷つけられ 激おこなのは 見なくてもわかる。
メイア:「氷華様……」
颯:「(汗がツーっと流れる)氷華様!! ち、違うんです! これは……」
氷華:「殴る蹴るといった暴行の手馴れよう そしてメイアちゃんの全身に見えた痣や生傷の量。|具現《マテリアライズ》! 貴方 今日が初めてではないわね。メイアちゃんだけでなく裕太くんも同じように虐待していたのではなくて?」
颯:「ッッ!! 」
氷華:「決めたわ、メイアちゃんも拓花ちゃんも|氷転身《ターン・アイス》を解いて燐ちゃんの元へ返し ヘイル君の魔法で完全に洗脳を解いてもらう。ヴァリアルの社員達 そして迷路から出てきたトランサー達も燐ちゃん達と元に戻す。 全て終わり次第 貴方も私も |燐ちゃん達の裁きを受ける《イレイズ で人間に戻る》の」
颯:「そんな……!!! せっかくここまでやってきたのに!」
氷華:「|具現《マテリアライズ》、そこで朝まで凍りついてなさいな。 さぁメイアちゃん、もう怖がらなくて大丈夫、これからは3人で寝ましょうね」
メイア:「は、はい。氷華様……」
氷華:「……前みたいに氷華さんって呼んでくれないかしら?」
メイア:「・・・・・・ひょ、氷華さn…
__バリバリバリッ!__ イヤァァァァァァ!!!」
さん付けで呼ぼうとすると 突然メイアの身体に電流が走る。口から煙が出てばたりと倒れてしまった。
メイア:「ううっ、痛いよ……」
氷華:「メイアちゃん!! メイアちゃん!!
|具現《マテリアライズ》、あなた メイアちゃんに何をしたの!!?」
颯:「《《飼い狼としての躾》》ですよ。長時間着けることで氷華様の道具に変え、ウルグが不敬な態度をとったら首輪から電流が流れるように設定してるんです、そしてその首輪は私しか外せません」
氷華:「道具!!? 私はオシャレとして可愛い|首輪《チョーカー》をとは言ったけど、そんな機能を搭載してたとはね。とにかく!! メイアちゃんはこっちで預かる。私たちの結託も野望もここまでね」
冷たい目を|具現《マテリアライズ》に向けつつ メイアをお姫様抱っこすると部屋から出ていく。そしてボロボロになった服を着替えさせ 包帯を巻き替えたあと 3人で眠りにつくのであった。
颯:「くっ!!! 私はただ 氷華様や我が王の為に尽くしているというのに……!! まぁいい あの首輪は《《俺》》にしか外せないんだ。いざとなれば《《2人》》は俺が操ってやる、拓花もウルグも 俺の駒だからなぁ!」
《《瞳にあるはずの模様が消えていた》》ことに氷華は気づいていなかった。
氷結(アイシクル)⑦
次の日、|氷華《ひょうか》は全店員(もちろん|稜也《りょうや》も)に 急遽 今週の営業はお休みにすることを伝える。そして稜也には メイア達を連れて事務所に向かうから先に行っててほしいと伝えた。
稜也:「……ということだ。メイアちゃんと|拓花《ひろか》ちゃんを氷華が連れてくるらしい」
|燐《りん》:「そうですか」
稜也:「燐ちゃん |凍矢《とうや》 ヘイル そしてチェイン。氷華が本当にすまなかったな」
凍矢:「稜也が謝ることないよ、謝るのは奴の方、 まぁそれでも許す気はないがな」
|悠那《ゆな》:「右に同じ」
話をしているとインターホンが鳴り響く、中に案内すると|燐 凍矢 悠那 ヘイル《4人》を見てメイアは獣化・拓花は|影《シャドウ》を発動する等 警戒態勢をとる。
メイア:「ひ、氷華様? 何故ここに連れてきたんですか? 彼らは私達の敵……ですよね!!?」
拓花:「お姉様 今度こそ奴らの息の根を止めます」
氷華:「2人とも! 今回は戦いに来たわけではないの! 能力を解除してちょうだい」
メイア 拓花:「はい、氷華様/お姉様」
氷華:「燐ちゃん 凍矢君 ヘイル君、そして悠那さん。
メイアちゃんと拓花ちゃんに危害を加えてしまい申し訳ございませんでした。今この場で|氷転身《ターン・アイス》を解除しお返しします」
最敬礼をし 深く謝罪を行う。燐は3人をソファに座らせ 温かいお茶を出す。
燐:「氷華さん…… どうしてこんなことを。事情を聞かせてくれませんか?」
氷華:「|颯《そう》と初めて出会ったのは3年前、まだ稜也や|蒼樹《そうき》に再会していなかった頃。私が初めてトランサーへ変え|氷転身《ターン・アイス》をかけた人物……それが|朱星颯《あけぼし そう》:|具現《マテリアライズ》だったの。当時 一社員でしかなかったのに 3年後に|fortitude《バー》で再会した際、ヴァリアル社を巨大企業にまで成長させ社長をしていたこと・あらゆるものを具現できる能力を得ていたこと・トランサーを1人幽閉していたことを知ったの。私から話を持ちかけ 社員にも同じように|氷転身《ターン・アイス》をかけ 事件が明るみにならないよう隠蔽工作をしつつ、|仲間《トランサー》を増やしていったの。
メイアちゃんは 一日でも早くヘイル君から解放するため傍に置いておきたかったから、拓花ちゃんはその……すごく妹みたいで可愛かったから精神が幼いうちに自分のものにしたかったって理由で|氷転身《ターン・アイス》を使ったの。ただ 」
メイアと拓花の前に両膝立ちになると頬や首輪を触る。
氷華:「ただ 第3者による洗脳が強くなっていることを危惧し 颯の命令でヘイル君や燐ちゃんを襲ったことを知った私は彼と手を切った。|消《イレイズ》を受けて2人を返すって」
燐:「氷華さん……」
氷華:「ヘイル君 1つ教えてくれない? メイアちゃんから貴方をなくすことは出来るの?」
ヘイル:「無理だ。お前は メイアが俺の支配下にある、だからその呪縛を解きたい と動いてた。だが絶対服従の暗示は今も解けていないし、何より
俺を取り外せば メイアは死ぬぞ。脅しではなく本当にな」
氷華:「め、メイアちゃんが 死ぬ・・・?」
ヘイル:「|蒼樹《そうき》達にも話したが 俺はメイアの脳内にチップとして埋め込まれている、それも海馬や扁桃体のある奥まったところにな。もし俺を取り外したら、その瞬間 自死するようにメイアはプログラムされてるんだ。恐らく 俺を倒しメイアの中に戻ったところで俺をぶっ壊そうとか考えてたんだろうが、そうなれば 俺を壊すと同時にメイアも死ぬぞ。キメラは不死身ではないからな」
氷華:「そ、そんな…… じゃあ私がしてきたことは……」
ヘイル:「メイアに傷を負わせ 苦しめるだけだった ってことだな」
凍矢:「それに、拓花を氷華のものにするのも無理だぞ。拓花は燐の別人格だからな」
氷華:「そ、そうだったの!!? てっきり養子でも迎えたのかなって……」
燐:「あの、私は逢間市で最初にトランサーになったんですよ? たとえ里親制度で登録したとしても この街に住んでて|燐がトランサーだということ《それ》を知らない人はいないですよwww 」
氷華:「なら、私の野望はそもそも果たせなかったってことか……。
わかったわ。2人の|氷転身《ターン・アイス》を解くわね」
|氷転身《ターン・アイス》解除と口にすると メイア 拓花 そしてヴァリアル社全社員と《《颯》》にかけられていた洗脳が解除される。とはいえ 業務を全うするという命令しか受けておらず 自分たちが洗脳されていたと知らない社員たちは通常業務に戻るだけであった。
氷華:「これで|氷転身《ターン・アイス》は解けたわ」
拓花:「あれ? 私 お出かけしてたんじゃ……。 あ、燐にお姉ちゃん!! ただいまー!」
燐 悠那:「おかえり/おかえりなさい、拓花」
凍矢:「おい拓花、俺を忘れんじゃねえよwww」
拓花:「凍矢にも ただいまー」
凍矢:「ああ、おかえり。拓花」
ヘイル:「(瞳発光中)メイア 大丈夫か? 手当の時にもちらっと見えたが、その全身の痣は何かあったのか?」
メイア:「痣? ああ、ちょっと階段から落ちちゃってね……。氷華さn」
氷華:「メイアちゃん!!! その先はダメ!!!」
__バリバリッ__
メイア:「イヤァァァァァ!!!」__バタッ__
ヘイル:「メイアっ!!! メイア!!! 何が起こったっていうんだよ、メイアっ!!」
燐:「氷華さん、これは一体!!?」
氷華:「颯が着けた|首輪《チョーカー》のせいよ、私への忠誠心を高め 道具に変える。そして不敬な態度を取れば電流が……」
稜也:「電流だと!? 氷華!! なんでそんな危険な代物を放置してたんだよ!!!」
氷華:「|私の力《アイシクル》でも外せなかったの!! 凍矢君、あなたの|消《イレイズ》で消せないかしら」
凍矢:「やってみる!」
|消《イレイズ》を首輪に向けるが全く外れる気配はなかった。
凍矢:「嘘だろ 俺の|消《イレイズ》が効かない・・・!!」
ヘイル:「メイア! 今助けてやるからな!!
__ ジュウウ__ ぐぁぁぁぁ!!!」
首輪に触れるとジュウウと音がし 掌が焼けている、熱い鉄板に手を触れた時以上の強いやけどだった。
悠那:「ヘイル!! (|治癒《キュア》で回復させる)どうやら|着けた本人《颯》にしか外せないってことか。そしてヘイルの手を見る限りキメラに対して特効がかかっているようね」
稜也:「おい氷華、このピアスとイヤリングもお前の仕業か!? 昨日 メイアちゃんのピアスと拓花ちゃんのイヤリングが光るとどっかに走り去っちまったんだ。おおよそお前のとこだろうが」
氷華:「確かに昨日 2人が帰ってきたけれど。
私はピアスやイヤリングなんて着けさせた覚えはないわ!」
凍矢:「じゃあ これも|具現《マテリアライズ》か!!」
氷華:「これを颯から渡されたわ、中身は見てないけど」
ポケットから小さい箱を出すと中に|黄水晶《シトリン》のピアスが入っていた。
ヘイル:「良かった、ピアスが無事で…… だが問題は」
凍矢:「|具現《マテリアライズ》を倒さない限り メイア達も|悠奈《ゆうな》さんもを救出できない か」
突然ピアスとイヤリングが光ると メイアと拓花の目から光が消え ぼーっと前を向いたまま身体が左右に静かに揺れていた。
メイア:「ご主人様が……呼んで……いる……」
拓花:「ご主人様の……ところに……行かな……きゃ……」
昨日と同じように拓花がメイアの首輪を引っ張り 影に入り込んでしまうとどこかに消えてしまった。
燐:「拓花!! メイア!!」
稜也:「どうなってんだ!! まさかご主人様って」
氷華:「こんなことをするのは颯しかいないわ」
その言葉を聞いた瞬間 悠那と燐は怒りで脳が沸騰する、燐に至っては|完全な金の瞳になり青黒い鎖の紋様も見え《心血解放状態になっ》ていた。
悠那:「|具現《マテリアライズ》、もう殺すしかなくなったわ」
燐:「お姉ちゃん、私も一緒。生かす理由が無くなっちゃったし、さっさと殺しちゃおうか」
凍矢:「り、燐? 悠那?」
悠那が|影《シャドウ》を発動させると同じように消えてしまった。
具現(マテリアライズ) エピローグ
事務所内で話を聞くと |悠奈《ゆうな》はプログラミング技術に長けており 中学在学時から民間のホワイトハッカーとして警察からの依頼を請け負っていたという経歴があった(|浪野《なみの》警部経由で裏取り済)。|莉央《りお》への態度からも鑑みた結果……トランサーの悪意を|消《イレイズ》で消し去り|燐《りん》や|稜也《りょうや》と同じように人を、特に莉央を護るトランサーへと生まれ変わった。
家族とも再会し トランサーになってしまったことも明かした。静かに聞いていた両親と兄は 事実を受けいれ、悠奈は再び家族と暮らせるようになった。後日 警察のサイバー犯罪課に正式所属し ホワイトハッカーとして働くようになった傍ら、浪野警部が作成してくれた進言書により15歳でありながら高卒認定試験を特別に受けさせてもらえることになり、高卒認定試験と大学受験を一発合格・入学を認められ、今は大学生(見た目は中学生)になっている。たまに莉央とショッピングや遊園地等に出かけ、失われてしまった5年もの歳月を少しずつ埋めている。
ホワイトハッカーと大学生活、そして中学からの親友とのお出かけ…… 忙しくも楽しい毎日を過ごしている悠奈、見た目こそ15歳の少女であるが その脳内には膨大な知識が詰まっているのであった。
(え? 試験勉強時間はどう確保したか? 燐がウルグに頼んで【現実では1秒も経たない空間】を作ってもらい、そこで勉強してました。いわゆる精神と時の部屋状態。悠奈もまた天才だから数日で東大首席入学レベルにまでこぎつけられた)
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店長である|氷華《ひょうか》が逮捕されたことで|fortitude《フォーティチュード》の経営が危ぶまれたが、稜也と 氷華が手塩にかけて育ててきたバーテンダー達がお店を・氷華の味を守っていくことになった、実刑判決を受け 罪をつぐなった氷華が戻ってくるまで……。
颯もヴァリアル社 代表取締役社長を解任され、同じく実刑判決を受ける、しかし誰1人面会に現れる者はいなかった。
|裕太《ゆうた》に関してだが 燐や浪野警部 消防総監 人間だった頃に所属してた消防署の署長と六者会議を行った結果、トランサーの悪意を消し 現場復帰することになった。救急救命士であり消防士でもあるトランサーの誕生である。心血解放による視覚強化で 要救助者を発見・傷病処置・搬送までを より迅速に行えるようにする という方針だった。
最初は蛇の鱗や赤い目等を見て隊員たちもびっくりしていたが トランサーであることも含め あっさりと馴染んでいる。蛇なのに|極度の高温《火災現場》でも活動できるのか? という議論になったが 蛇になれるトランサーと言えど 本来は人間の姿であること、蛇の姿にはほとんどならないこと…… つまり問題なしと判断され通常の消防装備で消火活動にもあたっている。
颯や裕太、一時期は氷華・|拓花《ひろか》・メイアが住んでいた家だが、裕太の分身である蛇達約10匹を放し飼い状態にしている(他人から見れば)。蛇達は人間の姿になり ハウスキーパーとして家や庭の維持管理を行ったり 裕太が非番や公休で帰ってきた日には食事を作っていた。裕太いわく全員に名前をつけ たまに蛇の状態に戻し 交代ごうたいで可愛がっているそうだが、誰がなんて名前なのか 蛇状態で個体識別ができるのは裕太だけであった。
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〜〜~♫ 〜〜♩ 〜〜~♫♫
???:「行かな……きゃ……」
???:「ご主人様の……もとへ…… 行かないと……」
逢間市では朝から謎の歌声が響き渡り それを聞いたトランサー達は虚ろな目をして ひたすら【目的地】に向け歩いていた。燐と凍矢は屋上のフェンスからその様子を見ながら 能力を使用し終えた|悠那《ゆな》に話しかける。
燐:「お姉ちゃん、本当に大丈夫なんだよね。 どさくさに紛れて関係ない一般人まで巻き込んじゃダメだからね?」
悠那:「分かってるわよ、ちゃんと【|明星裕太《あけぼし ゆうた》を除く 迷路を生還したトランサー】だけを標的にしているのだから。 それにしても驚いたわ、まさかあんなに早く心血解放してしまうとは。【原初の王】の血を引いていないとはいえ 力は相当なものね」
凍矢:「|無限回廊《あそこ》まで来て何もしないってのは 裕太自身が許せなかったんだろうな。
・・・トランサー達が無心で どこかに向かっているが 一体何をしたんだ?」
悠那:「|声色《ボイス》の発展能力である|誘歌《ディーヴァ》よ。一定時間この歌を聞いた者達は 《《問答無用》》で私の操り人形になる、脳内に直接命令を与えられるし 絶対に私の命令には逆らえない♡」
凍矢:「結局テメェお得意な洗脳ってことかよ、チェイン」
悠那:「普通に呼ぶ訳にも行かなかったからね、こういう時 対象を選択できるのは大きいわ」
燐:「まさか大きいホールをまるまる借りることになるとは思わなかったけどね。デイトレードで稼いだ資金をそれなりに持っていかれたんだけど」
悠那:「そう怒らないでちょうだい? また稼げばいいでしょ?」
燐:「別に怒ってはないけどさぁ、なんでこんな大規模なの?」
悠那:「一部のトランサーを戻したとしても キリがないからよ。迷路を生還した人数は正確に調べ、全員を1箇所に閉じ込めて |消《イレイズ》やメイア達の魔法で元に戻す。1番手っ取り早いわ」
メイア:「燐! 全員収容終えたよ!!」
3人が話している中 メイアとヘイルが〈|翼《ウィング》〉で飛んできた。
ヘイル:「みんな大人しく席に座っているが またチェインの仕業か」
悠那:「そう♡ 私の仕業よ♡
さて、あとは人間に戻すだけだわ」
ホールに向かい 凍矢 悠那 メイア ヘイルが|消《イレイズ》/〈|血液透析《ダイアライシス》〉を使い トランサーを《《1人ずつ》》元に戻し、燐の|鎖《チェイン》によって外へ連れ出される。|誘歌《ディーヴァ》による洗脳のおかげか隣に座っているトランサーが人間に戻ったとしても 気にする素振りすらなかった。
1回で数千人に対し魔法を使ったため〈|虚像《プリテンス》〉で造られたヘイルの肉体は 流石に体内魔力消失により消滅・メイアも魔力が空っぽになってしまったため燐が拠点へ連れていき そのまま数時間眠り続けていた。
心血解放の爪痕④
--- 燐side ---
怪人となった|凍矢《とうや》の操る睡眠作用のある香りを嗅いでしまい眠ってしまった|燐《りん》。穏やかに眠っているはずはなく 両手で頭を抱えるような姿勢で悪夢にうなされている。
燐:「私の心血解放で凍矢を壊しちゃった…… 私が凍矢をおかしくして壊してしまったんだ!! 私が、 私が、私がァァァァ!!! あぐっ…… だ だれか……!《《凍矢》》 たすけて……! __ッッッ!!__
うわぁぁぁぁぁぁぁ!!! ハァ… ハァ…。い、今のは ? そうだ、私 変な香りを吸って意識が……」
悲鳴を上げながら目を覚ますと 左手で顔の半分を覆い 全身から汗が吹きでていた。
凍矢:「りんさま!!! りんさま 大丈夫!!!?」
燐:「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
突然凍矢が顔を覗き込み、燐はベッドから飛び降り、壁際まで後ずさると ズルズルと滑り落ちるようにして ハァハァと肩で息をしながら 座り込んでいる。チラッと掛け時計を見ると10時を回り、凍矢の姿を見ると また恐怖の感情に襲われ 身体が震え 涙を流していた。もしかしたら…… 眠っている間に奇跡が起きて いつもの凍矢に戻ってるかも……と信じていたが その希望は音を立てて砕け散る。
凍矢:「燐様 うなされていたようだけど大丈夫? 顔が真っ青だし すっごく震えてる……。燐様は なにが怖いの? 遠慮なんてしないで なんっっでも言ってよ、りんさま。りんさまが怖いものは全部……」
燐:「出てって」
凍矢:「え?」
燐:「この部屋から出てってーーーーーーーーー!!!」
悲鳴のような叫び声をあげると、それに呼応するように【壁や床、天井等 燐が触れていない場所からも】無数の鎖が凍矢目掛けて飛んでいき ぐるぐると拘束すると乱暴に部屋から追い出した。バンッ!!!と大きい音を立て扉が閉まり、ガチャッ!!!という無慈悲な音が響く。ウルグの〈|静寂《サイレント》〉がまだ効いていたため 他フロアや周辺のビルに響くことはなかったが なぜ追い出されたのか分からない凍矢は握り拳をつくり ドアをガンッガンッと叩いている。 燐は布団の中に潜り込み、耳を塞ぎ 目をぎゅっとつぶると ガタガタと怯えていた。
凍矢:「りんさま! りんさまぁ! 開けてよ!!(ガチャガチャ)鍵がかかってる!!? ねぇ ご主人様ぁ!!!」
???:「今は何をしても無駄だと思うけど?」
凍矢:「ッッッ!! 誰だ!!?」
声にバッと振り返ると 月光に照らされた白銀の髪と|琥珀色《アンバー》の瞳が見える。ソファに足を組み 頬杖をつきながら座っていたのは 完全獣化や認識阻害等 何も使っていないウルグだった。
ウルグ:「さっきぶり かな」
凍矢:「……ウルグだっけか? |獣風情《けもの ふぜい》が何の用だ」
ウルグ:「ハハハ 獣ねぇwww まーた随分な言い方だなぁ。せっかく【理由】を教えてあげようと思って こうして来たのに」
凍矢:「【理由】?」
ウルグ:「(ソファから降り 凍矢と向かい合うように 背もたれに腰かける) なーーーんで凍矢を拒絶し 部屋から追い出したのか ってことだよ。燐の悲鳴も聞こえたし、鎖でぐるぐる巻きにされた凍矢が追い出されたところも見えちゃったしねwww 狼の聴力じゃなくても 流石にあの声量は 只事じゃないって分かるよ」
凍矢:「チッ 見られたか。まぁいい。力ずくで聞き出し 口を封じてやれば……」
昼間のように花からツインダガーを作ろうとするも強く根を張ったように動かず、むしり取ることができない。月下美人は本来夜に咲き、朝しぼむ花だが テッセンも月下美人も 《《 全ての花が閉じきってしまってる 》》。
凍矢:「なぜだ…… なぜダガーが作れない!!」
ウルグ:「あのさぁ…… もう10時過ぎてんだよ? 昼間あんなに綺麗に咲いてたんだから 夜は休みたいに決まってんじゃん。 __フゥ__ しかたない」
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パチンっと指を鳴らすと突然眩い光に包まれ 凍矢は両腕でガードするように光を遮っている。眩しさが無くなり ゆっくり腕を下ろし目を開けると そこは昼間の時計台広場だった。青々とした芝生の上に2人が立っている。
凍矢:「こ、ここは…… さっきまで事務所にいたはず、一体俺に何をした!!!」
ウルグ:「|颯《そう》の|具現《マテリアライズ》を基に新しく作った魔法〈|空間生成《ディメンション》〉だよ。許可した人物しか入ることができないし、天候や時間帯 シチュエーションだって自由に変更可能! しかも何日過ごしたとしても現実は1秒と経たない! 面白いでしょ。……腕や頭を見てみて」
言われるがままに 腕を見たり頭を触ると 閉じきっていた蕾がパァーーっと開き 綺麗な花を咲かせている。むしり取れるようになりツインダガーに変えることもできた。
凍矢:「!!! 花が咲いた!?」
凍矢が驚いてる中 ウルグは何も言わずに完全獣化し 満面の笑みを浮かべ 尻尾をゆっくり振っている。
ウルグ:「さ・て・と♡ 【1回 死ぬ覚悟】はよろしくて?」
凍矢:「へっ? その姿は・・・!!? 尻尾に耳、その牙…… お、狼か!!!?」
ウルグ:「ああ、そうか 変異の影響で記憶喪失なんだっけか。まぁ記憶喪失だからって容赦する気ないけど」
ニイッと口角が上がり 舌なめずりをすると、回答猶予を与えることなく ヒュっと姿が消える。次の瞬間 背中を攻撃され ツインダガーを振った時には脚や腕を 鋭い爪が襲いかかっていた。再生能力があるとはいえ、どこかしらから青い血が流れ 月下美人やテッセンの花を青く染めている。
ウルグ:「__ドクン__ __ドクン__ほらほらァ!! どうしたの!!? 反撃しないと 怪人態の凍矢と言えど ホントに死んじゃうよっ♬ 私はクローンを基に造られた最っ強のキメラ、完全獣化態のスピードについてこられるかなッッッ!!!(ここまで話しながら十撃は与えている) ・・・・・・防戦一方だけど まさか1回死なないと本気出せないとか!!? それともなに?
女の子に対して|本気《マジ》になんてなれないとか!!? そんなヌルいこと言ってたら ほんっっとうに死んじゃうよ!!!? あはははははははははっ!!!!!」
凍矢:「んな事…… がぁっ!!!」
爪を舐めるなんて全くしないはずが 突然そんな事をしたため、目は爛々と輝き 瞳孔は完全獣化態の時よりさらに細く 牙は鋭く研ぎ澄まされ、時おり|狼歩《ろうほ》状態(ヘイルがいないため|戦狼《せんろう》の弱体化版=狼歩状態とウルグが決めた。スピードアタッカーになる)で攻撃をしかけている。今のウルグは《《誰よりも凶暴で 血を追い求める獣》》になっていた。
180cm越えの体躯とは思えないくらいの超高速攻撃に凍矢は手も足も出ず だんだん【壁際】へ追い詰められ 気づいた時には透明な壁が背中にガンッと当たってしまった。いくら青々とした芝生の景色が見えているとはいえ 【あくまでも空間に投影された景色、空間そのものの広さは決まっている】。普段の凍矢なら 完全獣化態のウルグであっても遅れをとることはない、しかし 今の凍矢にはウルグと戦う力など これっぽっちもなかった。
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ウルグ:「1度も反撃しないなんて面白くないなぁ、いじめてるみたいだし。それに |戦狼《せんろう》状態になりたいけど ヘイルがいないとなれないしなぁ……。 まぁいっか、完全獣化態や狼歩状態で《《これ》》なんだし 戦狼状態になったら《《遊べない》》か。
死んじゃえ♡♡♡ (右手の爪が凍矢めがけて振り下ろされる)」
凍矢:「(殺される…… 獣の尻尾や耳が生え 目がギラギラしてて 両手から生えた爪をペロリと舐めている人に殺される……!!)」
不敵な笑みを浮かべ 再び血を舐めとり ゆっくり近づいてくるウルグに対し恐怖の感情を抱いた凍矢は青ざめた顔をし ぎゅっと目をつぶり ズルズルと滑り落ちるようにして座り込むと頭を抱えて 縮こまって震えている。そして|狼人間《ウルグ》に対しボロボロと泣きながら命乞いをしている。爪を振り下ろされた瞬間 生まれて初めて命乞いの言葉を述べられ 爪は目のスレッスレで止まった。
凍矢:「殺さないでください……。 お願い……します、死にたく……ないよぉ……。 ごしゅじんさまぁ、たすけて……。《《こわい》》、《《こわいよ》》……」
ウルグ:「《《燐の気持ち》》、わかった?」
凍矢:「ふぇ……? りんさまの気持ち?」
ウルグ:「なんで 燐が凍矢に命令したりしないのか、なんでずっと泣いているのか、なんでずっと怖がっているのか……。理由は1つ」
不完全獣化で強化した右手で胸ぐらをつかみ立たせると そのままガンッと《《壁》》にぶつける。
ウルグ:「燐が1番怖がっているのは 《《今の凍矢》》なんだよ!!! だってそうでしょ!!!? 自分の相棒が急にそんな姿になって 無理矢理手の甲や足の甲にキスしたり、身体をベタベタ触られて!!! そんなの気持ち悪い以外の何物でもないでしょ!!! しつこい男は嫌われるって言うけどさぁ、もうそのレベルを超えすぎてる。自分が燐の目にどう映ってるのか、自分を見た燐がどう思うか、燐様って ご主人様って敬意を表すのなら……。少しは考えて行動しろよ
**この頭の中お花畑の最低野郎が**!!!!!」
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クローンとして造られ キメラに改造されて15年、喉を枯らしてやるという勢いで凍矢を怒鳴る。ここまで声を荒げるのは初めてだった。
凍矢:「り、燐様が怖がってたのは…… 俺? 俺が ご主人様を追い詰めてしまったの……?」
メイア:「__フンッ__ この先どうするかは|凍矢《アンタ》が《《自分で決めて》》。 いつでも出られるようにしてるし 念じれば 欲しいものはなんでも|出現す《でてく》るようにしてるから。
じゃ、私はこれで♡♡」
中に取り残された凍矢は 一歩も動くことができず 青ざめた顔のままガクガクと震えていた。
凍矢:「燐様が1番怖がってたのは俺……? 俺はただ 燐様のことを愛し しもべとしてそばにいたいだけなのに それが気持ち悪い……?
・・・・・・自分が燐様の目にどう映るか かぁ。えっと 心の中で念じたら 何でも出せるんだっけ」
凍矢は【大きい姿見】を出現させると 鏡に手をつき 改めて《《自分の姿》》をまじまじと観察したり、鏡を見ながら身体を触っていた。全て青い血に染まっているものの 頭部にはクリスタルでできたような大きな月下美人の花が、腕には 両袖を突き破って 月下美人やテッセンの花が咲き乱れ、全身に青黒い鎖の紋様が浮かんでいる。瞳は満月のような金色で 【鎖がぐるぐる巻きついている濃いピンク色のハートマーク】が浮かんでいる。あの場にいた全員 身体に花なんて咲いていない、 自分しか咲いていない。 もしもヘイル達と同じような身体で、燐様だけがこんな異様な姿をして うっとりとした表情で自分に詰め寄って覆いかぶさり ベタベタと身体に触ってきたら……? 凍矢による想像 いや妄想タイムが始まった。
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(bgm ナウシカレクイエム)
凍矢:「り、燐? 一体どうしたんだよ、その姿は!!」
妄想上の怪人態 燐:「(ソファの上で凍矢を押し倒し 覆いかぶさっている) ふふふ、凍矢様は とても美しいわ♡♡♡ 紅く輝く瞳に 黒く艶やかな髪、首元でキラリと光っているシルバーのネックレスにアメジストの指輪……。 私は凍矢様だけを見て 凍矢様だけを愛し しもべとして凍矢様をお守りし 凍矢様の敵は全て滅ぼす。そのために私はこうして生まれ変わったんですもの♡♡♡♡♡ 凍矢様のことを考えるだけで幸せですわ♡♡♡♡♡(髪に指を通したり頬に 冷たい手を添える。時おり舌なめずりもしている)」
凍矢:「やめてくれ…… 俺の知っている燐はそんなことをしない!! 目を覚ましてくれ!!!」
燐:「目なら しっかり覚めてますわ♡♡♡ これが本当の私なんですもの♡♡♡」(強制終了)
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妄想してみると凍矢はゾワゾワっと身震いする。あんな燐様は 俺が大好きな燐様じゃない。ただの《《痴女》》だ。自分の姿を映し出している姿見をチラッと見ると バリィィィンと砕き割った。
凍矢:「ウルグに教えられて 自分に置き換えて考えることで やっと分かった。何も言わずに|身体を触りまくったりキスされたりする《あんなことをされる》のは誰だって怖い、燐様や周りにいた奴らにとって【敵でしかなかった】んだ。 頭をよぎった 《《あの記憶》》……花なんて咲いていない俺と 同じ顔をした男、あいつが 《《燐様が大好きな凍矢》》、《《本当の俺》》なんだ。 こんな花が咲いた俺ではなく……。
ヘイルの治療を受ければ 皆と同じ姿に戻り、香りや植物を操ることはできなくなる、でも 燐様は笑ってくれるかな……。また凍矢!って笑顔で・明るい声で呼んでくれるかな……。決めた、治療を受けて元に戻る。 そして燐様の笑顔を取り戻さないと、俺が奪ってしまった笑顔を」
異空間から戻るとウルグの言う通り 時間は全く進んでいなかった。燐に会おうかと考えるが またこの姿を見たら怖がらせてしまう…… 朝になったら自分の口から話そう…… そう考えた凍矢はソファに 膝を抱えるようにして座り 目を閉じる。そして重力に引かれるように ドサッとソファの上に倒れてしまった。
【謎の影】
--- ??? ---
チェインは謎の空間から|燐《りん》達の様子を観察している。作りのしっかりした豪華な椅子に脚を組んで座り 右腕で頬杖をつき 左手の指を コンっ コンっと肘置きに打ちつけている。 顔はムスッとしており 面白くないと言わんばかりの表情だった。
チェイン:「あのまま引っ掻き回してくれると思ったけど、まさか|凍矢《とうや》が元に戻ってしまうとはねぇ。そのまま心血解放としてコントロールまでできるようになるし……。|運命《フェイト》め、せっかく指輪が壊れてチャンスだと思ったのに 再び【守護の|呪《まじな》い】を使うなんて 随分厄介なことをしてくれたわ。まぁ それに気づかなかった私の失態か。
……そんな離れたところにいないで こっちに来なさい。 《《悠那》》」
???:「はい…… ご主人様……」
スッ スッ と足音を立てずに一人の女性が 飲み物入りロンググラスを載せたお盆を持って近づいてくる。ハイトーングレージュのロングヘアに タキシードと黒の革靴という いわゆる「女性執事」の服装を着させられ 首にはピンク色の大きいハートの形をした南京錠が付いている 幅広の首輪をつけられ 虚ろな赤色の瞳をしている。チェインが|具現《マテリアライズ》でサイドテーブルを出現させるとコースターとともにグラスをセットし 目の前に跪く。ぱちんと指を鳴らすと先ほどから一転し【ターコイズブルーの スリット入りロングタイトワンピースに 薄手の白ソックス 黒のローファー】という装いに変わる。〈着せ替え人形〉同然だったが悠那は一切言葉を発しなかった。
チェイン:「いい子ね |悠那《ゆな》。まさか《《燐の双子の姉を洗脳し 下僕へ変えていた》》 なんて 奴らも知らないでしょうね。
・・・もう何年になるかしら? 私達が出会って。 ううん 《《私が貴女の身体を再生させ 調教を始めて》》から」
悠那:「・・・・・・(チェインの顔を見つめたまま動かない)」
チェイン:「18年だ 思いだした。燐をトランサーに変貌させたあの日…… |運命《フェイト》に完全封印される直前 私は自身の分身体を燐の精神へ潜り込ませた。燐には双子の姉が《《いた》》事を知ると【|原初《げんしょ》の王としての力】で貴女の肉体を造り、そして長い年月かけて《《洗脳》》した。まぁ分身体だから 時間こそかかってしまったけれど 忠誠は揺るぎないものに・私の言葉には絶対逆らえない、なぜなら【悠那にとっての全て】なのだから。ねぇ悠那 私は貴女にとって《《何》》かしら?」
悠那:「・・・・・・。ごしゅじん……さま…… です……。ごしゅじん…… さまの…… ごめいれいを…… すいこう……することが…… わたしの……しあわせ…… です……」
チェイン:「ご主人様ってのも良いけど、奴らと被るのは不愉快だわ。でもチェイン様ってのも語感が変だし 女王や姫ってのも なんか違う・・・。
決めたわ、悠那 【私の目を見なさい】」
悠那:「はい…… ご主人様……」
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チェインの黄金の瞳の中に 【ゆっくりと回る渦模様】が出現、自身の分身体を悠那の背後に回らせると 頭を固定し目を離さないようにさせる。長時間目を見続けると だんだん 力が抜け 口は半開きに・目もトロンと半目になっていく。分身体が悠那の耳元で|声色《ボイス》を使い 更なる洗脳を施していく。耳から入っていった言葉は 直接脳に刻み込まれるように 深く深く染みこんでいった。
分身体チェイン:「(|声色《ボイス》により 何重にも声が反響して聞こえている)悠那 【私のことはお姉様と呼びなさい】。貴女は私が生み出した存在 つまり【妹】も同然、これからは【お姉様】と呼ぶのよ。そして 【片言ではなく もっと滑らかに、自然に話しなさい】。 いいわね?」
悠那:「(瞳に同じような渦模様が浮かんだあと *のマークが浮かんだ) はい お姉様。私はお姉様の【妹】、お姉様の|希望《のぞみ》を叶えることが私のなすべきこと。なんなりとご命令を、お姉様」
チェイン:「なんなりと ねぇ。 悠那、もし【実の妹である燐を殺せ】と命じられたら 貴女はどうするの? 血の繋がった姉妹を殺せるのかしら?」
悠那:「それがお姉様のお望みとあらば(即答)」
チェイン:「(ヘイルの洗脳・|氷結《アイシクル》の|氷転身《ターン・アイス》・燐の心血解放よりも更に強力な|完全支配《ドミネイト》……。ただの人間なら【殺す】というワードに疑問を持つけど 私の言葉が自分の意思になっている悠那にとっては【疑問を持つことこそ罪】 冷酷非道な暗殺者にだってなりうる。 ……まっ 燐もトランサー、たとえ悠那が 首をはね|首級《しるし》を上げたとしてもそっから身体が再生するから そもそも無理な話なんだけど)
さて 《《家族ごっこ》》も飽きてきたし、そろそろ行くわよ 悠那」
悠那:「はい お姉様」
【メイア】と【ウルグ】
ベッドサイドで向かい合うように座り ヘイルはメイアに 正体を明かす。本物のメイアは既に亡くなっており、今ここにいるメイアはクローンをベースに造られたキメラだということを。手当を受けていた時にぼんやりと聞いてはいたが 今はしっかりとした意識の中で聞いている。
メイア:「そうだったんだ……。この身体が|人工的に造られたもの《クローン》…… 本物のメイアちゃんは もういない……。家族の記憶も見た目も名前も 本来はメイアちゃんの……」
ヘイル:「ずっと…… ずっと黙っていてすまなかった。本当ならもっと早くに話さなきゃいけなかったのに……」
メイア:「ヘイルが謝ることないよ、メイアちゃんを家族の元に連れていって 静かに眠らせてくれてありがとう。
まさかクローンだったなんてなぁ……。 やっと謎が解けたよ」
ぽすっとベッドの上に仰向けになる。
ヘイル:「謎?」
メイア:「軽くジャンプしただけで数メートル跳べたり、ビルの屋上から飛び降りても無事だったり、獣化しなくても |燐《りん》と|殺《や》り合えたり……。キメラの力だけじゃなかったんだなぁってね」
ヘイル:「(殺るの字が違ぇってのは置いとくか)め、メイア……」
メイア:「その《《メイア》》って名前なんだけどさ、メイアちゃんが本来使うべき|名前《もの》を私が取っちゃった感じがするんだ。
だから この名前も |メイアちゃん《あの子》に返すよ」
ヘイル:「名前を取るって…… 何もそこまで……」
メイア:「しないといけないんだよッ! あの子は これから何十年と生きるはずだった、だけど理不尽な運命に巻き込まれてしまい 6歳で生涯を終えてしまったの! たったの6歳なんだよ!?
エリュド・リーラ=メイア という名前だって この記憶だって |身体的特徴《見た目》だって 本来はあの子のもの!! でも記憶や見た目は 今となっては返せなくなったからせめて名前だけでも!! ちゃんとあの子に返したいの!!! ダメ……かな?」
ヘイル:「優しいんだな……。 メイアがしっかり考えて決断したのであれば 俺は何も言わないさ」
メイア:「決まり! これからは 【ウルグ】って名乗る!!」
【ウルグ】という3文字が聞こえた瞬間 ヘイルの顔から笑顔が消えた。
ヘイル:「ウル……グ……!!? なんで……その名前を……!!?」
メイア:「だって、私が造られてすぐ 与えられた名前:つまりウルグって命名されたってことでしょ? あの子から借りていた名前を返して、本当の名前に戻るってだけだよ。別におかしくはないでしょ?
これからの私は風野メイア、 エリュド・リーラ=メイアではなく……
ウルグ だ!!!」
直後 メイアの身体の中で 何かが音を立てて砕けるような・弾け飛んだような感覚がした。
ウルグ:「な、なに? 今の感覚…… 何か身体を縛り付けていたものが砕けたような」
ヘイル:「!!!? (発光する瞳で全身を見る)
消えてる……。 メイアを縛り付けていた【絶対服従の暗示】が 完全に消えている!!!」
ウルグ:「本当なの!? じゃあ私は……」
ヘイル:「完全に自由になったんだ、もう名を呼んでも操られることはない」
ウルグ:「やった…… やったぁぁぁぁぁぁ!!! 」
ヘイルに飛びつくと 勢いのまま床に倒れ込んだ。
ヘイル:「うおっ!!? め、メイア?」
ウルグ:「これからもよろしくね、ヘイル。名前は変わっても 私達は ずっと一緒だからね。
それと…… 私の名前はウルグ。2回もメイアって呼んだよwww」
ヘイルはボロボロと涙を零している、ギョッとしたウルグは すぐにどき去った。
ウルグ:「へ、ヘイル!!!? どうしたの!!?」
ヘイル:「・・・すまない、ちょっと1人にさせてくれ」
ウルグ:「う、うん。燐達のところにいるね」
ヘイルは壁際に座り込み 手で顔を覆うようにすると声を上げて泣いていた。
ヘイル:「ヒグッ…… あんなに辛い目に遭わせてしまったのに あんないい笑顔をして…… 。しかも ほぼ忌み名であるウルグの名前を使いたいだなんて……。 今のメイアの顔を見るのは辛い…… 見れば見るほど 責められているような感覚になる……。
俺のせいで……メェイアぁ……!!!
メイアァァァァァァァ!!!!!」
???:「__イル__ ヘイル ヘイル!」
声が聞こえたため、必死で涙を拭い見ると いたのは|凍矢《とうや》だった。静かに隣に座りハンカチを渡す。
ヘイル:「ッッッ! __グスッ__ 凍矢か。 情けないところを見られてしまったな、|人間じゃない《ただのチップ》なのに 涙が止まらないんだ……。
メイアは……?」
凍矢:「燐とボードゲームで遊んでいるよ。
とうとう話したんだな」
ヘイル:「ああ。なのにメイアは 全く怒ったりしないで むしろありがとうって言葉をかけた。
メイアちゃんを家族のところに返してくれてありがとうって……」
凍矢:「まっ、そう言うだろうな。例えヘイルが裏切って命を狙ったとしても 怒らないで受け入れると思う、ウルグは そういう女の子だからな」
ヘイル:「!! 燐達にも ウルグって名乗ったのか!」
凍矢:「ああ、これからはウルグって呼んでねってさ。
ウルグや 本当のメイアちゃんのために そうやって涙を流せるヘイルは もう《《人間》》だな」
ヘイル:「えっ?」
凍矢:「そうやって 誰かのために涙を流せるんだ。ヘイルは 人工知能なんかじゃない、ウルグの為に涙を流せるなんて ヘイルは【人間】だ」
ヘイル:「とうやぁ…… うわぁぁぁぁぁ!!!」
ヘイルは凍矢の胸の中で 大声を上げて泣いている、十数分大泣きし 泣き疲れるとヘイルをベッドに運び静かに寝かせる。一旦戻って燐に事情を話し 凍矢は拠点で寝泊まりしウルグは燐と一緒に寝たのだった。
心血解放の爪痕⑦
ヘイル:「|凍矢《とうや》、少し|燐《りん》を借りる。
・・・なぁに、話をしたいだけだから そう怖がらなくていいよ」
凍矢:「う、うん。 ご主人様 気をつけてね……」
燐:「気をつけてってw |同じ部屋の中に《事務所内には》いるんだし 直ぐに戻るってw」
|悠那《ゆな》?:「なら私も|拓花《ひろか》と お出かけしてくるわ」
拓花:「お姉ちゃんとデート♡」
ヘイルはウルグを|一瞥《いちべつ》すると 燐と寝室に入っていき 悠那と拓花もお出かけしてしまった。 半日以上経った今でも ウルグの顔や爪を見るだけで怯えてしまう、【荒療治】と言えば聞こえはいいかもしれないけれど それ以上にウルグは凍矢の心を抉ってしまっていた。
ヘイル:「(脚を組みながらベッドに座り こめかみをトントンと叩く)さーてーとー どうしたものか。 あの震え具合 完全なトラウマだな」
燐:「ヘイルは知っているの? 2人に何があったか」
ヘイル:「いや俺も記憶が途切れてしまっているから事細かには。半殺しにした・恐怖を刻み付けた・返り血を浴びた としか聞いていない。ウルグからは【燐の血の匂い】がしたから トランサーの血を舐めとったことで あんなことをした というのは間違いない、結局最後にはチェインが血を消したがな…… 」
燐:「血を……? |不可視《インビジブル》の時と似た感じか。ヘイルは 私の血を【媚薬】だって言ってたよね……。でもなんで急に そんな凶暴になってしまったんだろう、初めて会った時とか 初めて完全獣化した時ならまだしも 今まで血を舐めたことなんてなかったのに」
ヘイル:「フッ さすが探偵だ。よくそんな前の事件を覚えていたな。 当初は 軽く痛めつける位だったんだろうが トラウマにさせてどうすんだよ……。
正直 |血を舐めたこと《それ》に関しては俺も疑問に思ってる。研究所にいた時からウルグのことは見てきたが なぜ急にそんな事をしだしたのか……、こればかりは記憶をたどったとしても分からないかもしれないが」
燐:「・・・・・・ねぇ k」
ヘイル:「頼まれても記憶は消さねぇからな。 そんなことをしたところで 溝は解決はしない。洗脳や催眠なんざ もってのほかだ(ギロっと睨みつける)。当事者同士に解決させるしかない」
燐:「うっ そ、そうだよね。 ところで話って?」
ヘイル:「ああ、それなら2人だけにさせるための嘘だ。チェインの奴は知らねぇけどな」
燐:「そうなの!!!?」
ヘイル:「(少しは疑えっての)」
ヘイルは何かの呪文を唱えた後 前方へ手をかざす。斜め上方から見た【事務所内の様子】がフルカラーかつ高画質で映し出され 2人の音声まで聞こえてくる。ヘイルは 小さく手招きをし 隣に座らせる。
燐:「な、なにこれ!!!」
ヘイル:「事務所内に漂わせている魔力を介し 映し出しているんだ。この世界で【魔力】を持つのは俺達だけ、絶対にバレる事のない偵察技ってわけさ。取っ組み合いになりそうになったら すぐ止めに行くぞ」
燐:「う、うん」
---
---
凍矢:「(ソファに膝を抱えた姿勢で座り 寝室へのドアを見ている)ご主人様 まだかなぁ・・・・・・」
ウルグと凍矢が2人っきり とてつもなく重い空気が流れていた。
ウルグ:「ね、ねぇ 凍矢?」
凍矢:「ひっ! な、なに?(今にも泣きそう)」
ウルグ:「と、隣に座っても……いい……?」
凍矢:「・・・・・・ うん」
ウルグ:「その…… 凍矢は燐のこと 本当に大好きなんだね」
凍矢:「うん、燐様は すっごく優しくて 暖かくて……。熱出しちゃった時もずっと傍で看病してくれた……。燐様を護れる力を得たと思ったら とても怖がらせてしまった。ウルグ、もし俺が元の姿に戻ったら燐様は また前と同じように呼んでくれるかな……」
ウルグ:「凍矢……。 昨日は本当にごめんなさい、ヘイルが言っていた通り 落ち着いて話だってできたはずなのに 有無を言わさず 凍矢を傷つけてしまって。
(凍矢の方をむく) ごめんなさい」
凍矢:「ウルグ……。俺の方こそ ずっと敵意向けっぱなしで 殺そうとして こうしてビクビクしっぱなしで ごめんなさい。力に呑まれて 自分を見失ってしまってた俺を止めてくれてありがとう。これからもよろしくね、ウルグ」
ずっと浮かんていた【恐怖の感情】は すっかり消え去り とても晴れやかな笑顔だった。
ウルグ:「凍矢、そのお花 触ってみてもいい?」
凍矢:「うん、俺も その手 触ってもいい?」
---
ヘイル:「・・・・・・全く 世話のやけるご主人様だ。やればできんじゃねぇかよ」
燐:「取り越し苦労 だったね」
ヘイル:「燐、チェインの方は 特に変わりないか?」
燐:「お姉ちゃん? 特に変わった感じはないけど」
ヘイル:「チェインが出かけてる今 一応共有しておく。さっき チェインが血を消したと言ったが その時にいたのは 悠那ではなく【燐を洗脳し 操っていた かつてのチェイン】だ。ミラを蹴り飛ばし 俺を踏みつけたりな。
燐 凍矢の事が片付き次第 《《全ての記憶》》を見させてもらってもいいか?《《調べなければならないこと》》があるんでな」
燐:「そ、それは別にいいけど」
ヘイル:「ん、また声かけさせてもらうよ。さて 戻るとするか」
燐:「う、うん」
寝室から戻ってきた2人の目に 【とんでもないもの】が飛び込んできた。腕や脚 頭に咲いていた花・全身に見えていた青黒い鎖の紋様・金色の瞳に【鎖がぐるぐる巻きついている 濃いピンク色のハートマーク】…… 凍矢の身に起こっていた【異変】が消え去っていた。凍矢は 自分の身体をぺたぺた触り 燐の姿が目に入ると タタッと近づいて ぺたぺた触ると互いの手のひらを合わせるようにしている。
燐:「花や鎖が消えてる!!? 目も赤色になってる!!」
凍矢:「燐様と同じ姿になった……!!?」
ヘイル:「ウルグ 凍矢に何をしたんだ」
ウルグ:「怪人態を完全に隠して 前の凍矢の姿に偽装したの。いつも使っている|認識阻害《にんしきそがい》よりも強力な|認識改変《コグニティブ》にしたから 外に出ても問題ないと思うよ。前の凍矢として見えてるけど、あくまで隠してるだけ・実際には 《《花も残っているし洗脳も解けてない》》けどね」
凍矢:「でも これなら……。 燐様とお出かけできるかな!!」
燐:「ウルグ ありがとう!!」
ウルグは燐へ 笑顔とVサインを向ける。
---
1日目は悠河から貰ってたチケットを使い|6人《みんな》で遊園地に出かける。燐にとって初めての遊園地 凍矢やウルグ、拓花と はしゃぎ回っていた(悠那は不在。 メンバーは 燐・凍矢・ウルグ・ヘイル・拓花・悠河)。その日の夜、燐を真ん中に凍矢と拓花が川の字になって眠り ウルグとヘイルは拠点に戻り同室(ツインベッド)で眠る。しかし 怪人態の凍矢が あまりに燐を好きすぎるため、《《面白くない》》|悠那《チェイン》は拠点(セミダブルベッド)で寝泊まりし 拓花も途中で呆れてしまい|影《シャドウ》で悠那のところに寝直しに行った(燐様コール+凍矢との|熱烈スキンシップ《イチャイチャ》+ディープキス。超ノリノリな燐から頼みで |芳香《フレグランス》により 互いにメロメロになり、寝落ちするまでイチャイチャが続いた) 。
心血解放の爪痕⑧
【永遠に続く よき夢を】【トランサーチェイサー第1章 |夢《ドリーム》編、〈現石(ジュエライズ)と封石(シーリング)〉】【トランサーチェイサー第2章 〈支配されるもの から パートナーへ①、②〉、〈悪夢(ナイトメア)①〉】を読むと より深く読み込めると思います。お久しぶりのキャラクターもいるので(・∀・)
2日目、|燐《りん》は|凍矢《とうや》を とある場所へ連れていった。その場所は【BAR |fortitude《フォーティチュード》】だった。
凍矢:「燐様? まだ昼間だよね? 昼間からお酒飲むの?」
燐:「いいから!」 __カランカラン__
???:「いらっしゃいませ! あっ、燐さん!凍矢!」
???:「よぉ! 燐ちゃん!! 凍矢!!」
燐:「こんにちは、|乃彩《のあ》さん! |稜也《りょうや》さんも!」
出迎えたのはソムリエエプロンを着た|橋本乃彩《はしもと のあ》=トランサー|夢《ドリーム》。乃彩は|九条《くじょう》アオナという女性をチョーカーを用いて洗脳していた人物で、僅か2年の間に約100人もの若者を誘拐し【夢世界】のエネルギーへと変えるという【|逢間《おうま》市連続行方不明事件】の犯人である。しかし改心し 人々を全員解放すると アオナと共に【夢世界】を拠点にし、今は【紅茶専門店 |DAYBREAK《デイブレイク》】も営んでいる。
2人をカウンター席の 稜也の隣へ案内する。紅茶専門店とバー、二毛作営業を始めるようになって約4ヶ月…… かつてと同じ紅茶マイスターとしての姿が板についていた。乃彩とアオナ、調理スタッフとして稜也 接客サポートとして|氷華《ひょうか》の4人で始めたが、現在では調理スタッフや接客スタッフも新しく増え、稜也や氷華の手からも離れていた。稜也は乃彩の紅茶が気に入り たまに【客】として訪れている。アオナはホールスタッフとして勤務しているが、今日はお休みとのことで【夢世界】でのんびりしてるそうだった。
乃彩:「今日はどうします?」
燐:「セイロンミルクティーとアップルティーをお願いします! どっちもホットで!! 今日の|お茶請け《お菓子 》は何ですか?」
乃彩:「今日はココア味のクッキーですよ」
|注文《オーダー》を聞き、カウンターの奥で紅茶が作られていく。蒸らしてる間に 小皿にはクッキーが用意される(お茶請けとして出すお菓子は 基本的にデパート等で調達している、調理スタッフがいるのはサンドイッチなども食べられるようにするため)。コトっという小さな音とともに 2杯の紅茶入りカップとソーサー、そしてお茶請けのクッキーがサーブされる。燐が甘めの紅茶が好きだと知っている乃彩は 牛乳だけでなく少し蜂蜜を入れ、逆に凍矢はストレートの紅茶が好みなため 何も手を加えない。
燐:「乃彩さんの紅茶はいつも美味しいんだよな」
凍矢:「おいしい……! 紅茶って初めてだけど こんなに美味しいんだね、燐様!!!」
乃彩 稜也:「(り、燐様?)」
乃彩:「(凍矢さんは もう何回も 飲みに来ている。全く初めてではない。なのに)」
稜也:「(明らかに 初めて来た・初めて飲んだって感想。|蒼樹《そうき》が言ってたのはこういうことか )」
時間が過ぎ、昼の営業が終わる。表に【|CLOSED《準備中》】の看板を出し 鍵を閉めるとブラインドを全て下ろしていく。店内には燐 凍矢 乃彩 稜也の4人だけ、乃彩は茶器等を洗っている。真っ先に重い口を開けたのは乃彩、顔色を伺うように話しかける。
乃彩:「ねぇ り、燐……さん。 1個聞いてもいいですか? も、もちろん無理に答えなくてもいいんですけど」
燐:「? どうしたんですか?」
乃彩:「その…… 凍矢に何かあったんですか? さっき その……燐様って。気配も妙な感じで」
燐:「……凍矢 どうする?」
凍矢:「俺なら大丈夫、燐様」
燐:「……姿を見ても 驚かないでもらえますか? 凍矢は何も悪くないので……」
乃彩:「は、はい……」
凍矢は左腕に着けているブレスレットを外す、すると〈|認識改変《コグニティブ》〉が解け 怪人態の凍矢がゆっくりと目を開けていく。顔を含めた全身に青黒い鎖の紋様が浮かび、金色の瞳の中に【鎖がぐるぐる巻きついている 濃いピンク色のハートマーク】が見え、頭部に 一際大きな月下美人の花が・両腕と両脚には【月下美人】や【テッセン】の花がパァーっと咲き乱れる。ウルグは 凍矢が望めば〈|認識改変《コグニティブ》〉が解けるようにブレスレットをスイッチとして組み込んでいた。
乃彩:「ッッッ!! そ、その姿は…… と、トランサーなの?」
稜也:「蒼樹から話には聞いていたが、なかなか来るものがあるな」
燐にピトッとくっつき 恍惚な表情をしている。
凍矢:「これが 今の俺なんです…… 。チェイン 氷華 そして燐様に洗脳《《していただいた》》ことにより 俺は氷、鎖、植物や香りを操れるようになったんです。さすがに変異直後は強い力を制御できなくて 花の香りを嗅ぐだけで快楽物質が出たりしましたが 自分の意志でコントロールできるようになったんです。今の俺は 燐様を愛し 燐様をお護りする忠実なしm」
燐:「凍矢、それ以上はダメ」
凍矢:「は、はい。《《ご主人様》》 ごめんなさい」
乃彩:「ご、ご主人様……!!!?(ソーサーを落としてしまい バリィンと割れてしまう。両手で口を覆い 言葉を失っている)」
稜也:「・・・《《燐》》、少し厳しいことを言ってもいいか?」
燐:「は、はい。 凍矢、少し静かに座っていてね。命令だから」
凍矢:「__フッ__ (目から光消失 パッと燐から離れる)はい……ご主人様。 ご主人様の……仰せの……ままに……(ちょこんと座る)」
乃彩:「お、仰せのままにって……。 (この感じ 本当に洗脳されてる……。 それも私の洗脳なんかと比較にならないくらいに深い洗脳状態に。燐さん……何があったの?)」
稜也と燐はボックス席に座り直す。乃彩もカウンターから出てきて、凍矢の隣に座る。命令 というワードにより深洗脳状態になり、ピリピリしている店内に乃彩はただゴクリと唾を飲み込んでいた。
稜也:「・・・今の俺から見て、そこにいる凍矢は【姿が同じだけの何か】だ。確かに凍矢は燐ととても仲がいい、本当の兄妹みたいだ。だが 命令されたり 燐を盲信したりしている凍矢は ただのバケモノ、さっきも【洗脳していただいた】とか【愛する】とか【ご主人様】とか、言いかけてたワードも【しもべ】だろ? 普通に暮らしていれば そんな言葉なんか出るわけが無い。はっきり言って《《異常》》だ。
そして燐も燐だ。【慣れ】なのか【受け入れ】なのか分からんが そうやって普通に接せている燐はもっと恐ろしい、人間ともトランサーとも かけ離れている。簡単に命令とか言うが、人はほんの一言言われただけで死ぬこともあるんだよ、【言葉の重み】をもっと自覚しろ。氷華を声だけで操ったこと、忘れてないよな?
正直 俺は今の2人と接するのが怖い、同じトランサーであってもな。人間の心を失ったトランサー達と同じ・いや それ以上に 《《邪悪》》だ。今の燐と凍矢は 俺や蒼樹の知る【睦月燐】【睦月凍矢】ではない、《《姿が一緒なだけのバケモノ》》だ」
燐:「稜也さん……」
稜也:「凍矢はちゃんと 元に戻るんだよな?」
燐:「はい、 ヘイルに3日だけ猶予をお願いしたので明後日には元の凍矢に戻ります」
稜也:「そうか」
元に戻る というワードを聞き、安心したのか稜也はフーーーーっと大きく息を吐く。
稜也:「すまなかったな、燐ちゃん。色々厳しいことを言っちまって。俺 人を怒ることって少ないからさ、変に緊張しちまう。こういう役回りは蒼樹の方があってるってのに」
燐:「い、いえ。気にしないでください。私の方こそ そうやって怒ってもらえて良かったのかもしれません」
稜也:「えっ?」
燐:「かつての 心血解放に達する前の私と 今の私……。本当の【自分】ってどこにいるんだろうって。心血解放に達したことで私もおかしくなってたんだろうなって」
稜也:「燐ちゃん……」
???:「入るぞ」
聞き覚えのある声とともに店内に黒い粒子が集まっていき、人の姿になる。その姿を見て燐と稜也はボックス席から飛び出した。
稜也:「|駿兄《しゅんにぃ》!!」
燐:「駿兄さん!!」
凍矢:「ひっ!! ご主人様!!!」
ストっと着地し 現れたのは|運命《フェイト》/|結紀駿《ゆうき しゅん》だった、突然現れた駿を見て【命令】の効力が消え 僅かに洗脳が弱まった凍矢は燐の後ろにしがみついている。
駿:「久しぶりだな、稜也に燐。そして 妙な姿をしているのは凍矢か? あともう1人、お前もトランサーだな」
乃彩:「は、はじめまして。トランサー|夢《ドリーム》 橋本乃彩です」
駿:「トランサー|運命《フェイト》 結紀駿だ」
稜也:「駿兄、表の看板見えてなかったのかよ。|CLOSED《準備中》って出てたはずだぞ」
駿:「(腕を組みながら)あまり悠長にしていられないんだよ。おい、|凍矢《お前》は なぜそんな姿になってるんだ?」
凍矢:「ご、ご主人様ァ……。あの人は……? 怖いよ……(今にも泣きそうな顔)」
燐:「大丈夫、駿兄さんは味方だよ。凍矢はチェイン・氷華・そして私の洗脳によって この姿になったんです。ヘイルによると短期間での多重洗脳によるものだって」
駿:「待て、なぜチェインの名が出てくる! 奴はお前と分離したはずだ!!! それになぜ 凍矢は俺のことを知らないんだ」
燐:「チェインは |睦月悠那《むつき ゆな》に、私のお姉ちゃんに生まれ変わったんです。 ヘイルは 変異によるショックで記憶喪失になってるんじゃないか って言ってました」
駿:「・・・記憶喪失や お前が洗脳能力を得たことも 大きな問題だが あのチェインを受け入れたということか、俺から見ても今の燐は恐ろしい。だが今の凍矢は【|原初の王《ヤツ》】に最も近いと言ってもいいな。見たところ5つは能力を使えるようだし、手段や姿はどうあれ 【心血解放】で相違ないだろう。【|原初の王《ヤツ》】に見つかるのも時間の問題だ。
今日来たのは その確認だけではない。凍矢の【鎮静の指輪】は今どこにある?」
燐:「!! どうしてそれを? 指輪なら凍矢が怪人化した時に粉々になってしまって……(紫の粉が入った瓶を取り出して手渡す)」
駿:「(たまにひっくり返し 粉を確認する)やはりな。指輪の反応が消えたから気になって来てみれば 壊れていたか」
稜也:「分かんのかよ!駿兄!!」
駿:「当然だろ、元々 《《俺の|具現《マテリアライズ》で作ったものだから》》な。自分で作ったものを把握できないバカはいない」
稜也:「|具現《マテリアライズ》!!? 駿兄の能力は|運命《フェイト》じゃねぇのかよ!!」
駿:「|運命《フェイト》の能力は 【チェインと似た存在】を消し去った際 心血解放と認められたのか 新たに得たもの、つまり本来の能力は|具現《マテリアライズ》だ。
だが完全に能力が変わってしまった今、俺に 物質生成は不可能だ。守護の|呪《まじな》いをかけるには媒介となる【新たな器】が必要だ」
稜也:「……ライラとシオンに頼むしかねぇか。ちょっと電話してくるよ」
燐:「お手数おかけします」
--- 約10分後 ---
稜也:「燐ちゃん、連絡が取れた。これから来ていいってさ」
燐:「わかりました!」
駿:「俺も同行しよう」
--- |暁《あかつき》宝石店 ---
ライラ:「いらっしゃいませ! お久しぶりですね、燐さん 凍矢さん」
シオン:「い、いらっしゃいませ」
燐:「ライラさん、シオンさん。急に押しかけてしまいすみません」
ライラ:「定休日でしたし 稜也君の頼みですから 大丈夫ですよ。えっと 稜也君の話だと 指輪のご依頼ですよね?」
燐:「はい、駿兄さんが作ってくれた指輪がこんなになっちゃって(瓶をカウンターに置く)」
シオン:「(瓶内の粉を見回す)ここまで粉々だと 素材によっては 再生は難しいですね、金属であればまた溶かしたりできるかと思いますが。 素材は……」
駿:「アメジスト だ」
ライラ:「! この感じ もしかしてあなたもトランサーですか?」
駿:「トランサー|運命《フェイト》 結紀駿だ」
ライラ:「ご、ご挨拶が遅れて失礼しました!! トランサー|現石《ジュエライズ》 暁ライラと トランサー|封石《シーリング》 妹のシオンです。 い、以後お見知りおきを……」
稜也:「そうビクつくことねぇよ! 駿兄は 俺や蒼樹の知り合い 顔馴染みだ」
シオン:「|長月《ながつき》先生の……。 これからよろしくお願いします……。 えっと素材に関しては アメジストがご希望ですか?」
駿:「可能なら同じもので頼みたい」
燐:「あ、見た目はこんな感じです!(指輪を外してシオンに見せる)」
シオン:「なるほど 同じデザインだとすると 指輪全体がアメジストなのですね。しかし |指輪にできるほど大きい《これほどの》アメジストは在庫でもないですね。天然物のアメジスト原石からならまだしも 基本的には これくらいのサイズに加工しているので(トップに填める用の小さいものを見せる)。一からリングとして作るのは とても難しいんです」
駿:「ふむ」
シオン:「リング本体を…… 例えばプラチナなどで作り、全体にアメジストを配置するということなら可能ですが……」
駿:「致し方ないか。 完成までどれくらいかかる?」
シオン:「お急ぎのようですし 超特急プランで【明日の午後完成】です」
燐:「分かりました、よろしくお願いいたします!!
えっと 今 特殊な魔法を使ってるので 解きますね」
ライラ シオン:「魔法?」
ブレスレットを外すと 先程と同じく怪人態に戻る。
ライラ シオン:「キャーーーーーーーーーーーーー!!!」
店内に響き渡る悲鳴、断りを入れなかったため 当然の反応であった。
ライラ:「な、な、な、何があったんですか!!!?」
シオン:「か、怪物!!!? 姉さん怖い……!!!」
燐:「凍矢は 短期間の多重洗脳により この姿になったんです。 明後日には元に戻ります」
駿:「燐と凍矢に流れる【|原初《げんしょ》の王の血】 それを隠すために あの指輪が必要だということだ」
シオン:「そ、そうだったんですね、すみません 悲鳴をあげてしまって。失礼をいたしました。
え、えっと それでは指輪作成のための採寸に入りますね……」
次の日の夕方 連絡を受け 指輪を受け取り サイズチェックや微調整を行う。プラチナで指輪のベースを作り 全体をアメジストで 可能な限り・隙間なく埋め尽くす という 傍から見たら異様な見た目だが 【守護の|呪《まじな》いをかけるための器】として最適だった。徹夜で指輪を完成させたため シオンの目にはクマが見えていた。
同日夜、燐 凍矢 ウルグ ヘイル 悠那 駿が集結している。約束の日が来た。
ヘイル:「よし それじゃあ 凍矢の治療を始め…… 何故ここに 駿がいるんだ?」
チェイン:「そうよ、なぜアンタがここにいるわけ?」
駿:「それはこちらのセリフだ、俺も貴様には会いたくなかったがな(チェインと駿とでバチバチ火花が散っている)。 【守護の|呪《まじな》い】をかけるためだ、コイツを【器】としてな。1度失礼する(ウルグの〈|空間生成《ディメンション》〉で造られた空間に移動する)」
ヘイル:「りょーーーかい。 じゃあまずは」
ヘイルは凍矢をベッドに仰向けに寝かせると 出力を上げた〈|眠りに誘う眼《ヒュプノ・アイ》〉で 強い催眠状態にしていく。ウルグや拓花よりも 強力な洗脳状態にあり 同じようにしても剥がせないと考えたヘイルは 2人よりも長時間かけて 〈|解呪《ディスペル》〉を浸透・|残滓《ざんし》を昇華させる。流石に魔力の消耗が激しく、時おり目眩がして膝を着いてしまうが そこはウルグがエネルギータンクとなって魔力を補充していく。先にウルグを治療したのは これを見越しての事だった。燐はベッドサイドに両膝立ちになるようにして座り 凍矢の手をギュッと握りしめ 無事に治療が終わることを ただひたすらに祈っていた。
昇華が進むと 花が徐々に枯れていき 鎖の紋様も薄くなる。ラストに頭の花が溶けるように消えたことで【治療】が終了した。ヘイルは 滝のように汗が流れ その場に倒れてしまう、ウルグの倍以上 《《5時間》》が経過していた。
ヘイル:「ハァ…… ハァ……。 もう……大丈夫……だ……。 安心……して……いい……。凍矢は…… 元に……戻った……。じきに……目を……覚ます……はずだ……」
燐:「ヘイル、本当にありがとう」
ヘイル:「ウルグ…… 少し……中で……休ませて……くれ……。 そしたら……燐も……治療を」
燐:「ううん、私は このままでいい」
ヘイル:「本当に……いいのか……? ・・・分かった(ウルグの中へ戻るため 分身体は消えていく)」
駿:「待たせたな。 【守護の|呪《まじな》い】をかけ終わった」
燐と同じく 左親指に指輪をはめると ゆっくりと目が開いていく。今までのような【満月のような黄金の瞳】ではなく、 燐と同じ【ガーネットのような深紅の瞳】だった。
燐:「と、とうや?」
凍矢:「・・・・・・。ただいま 《《燐》》」
燐:「おかえり 凍矢」
燐と凍矢をそのまま寝かせ その場は解散となる。駿もメモを燐の手に握らせると 再び黒い粒子となって消え去る。
???:「チッ つまんないの」
心血解放の爪痕⑨
~~~♪
???:「ほーーら いっぱい食べて 大きくなるんだぞ♬ ♬」
男は沢山の植木鉢に水をやると 塩を振っておいた鮭から出てきた水をふき取り 油を引いたフライパンで焼いていく。空いているコンロで味噌汁を温めている中 ご飯が炊けたようなので それぞれ器に盛り付け配膳していく。匂いにつられ目を覚ました|燐《りん》が目をこすりながらリビングに現れる、ジャストタイミングだった。
燐:「なんかいい匂い……」
???:「おはよう、燐。朝ごはん出来てるぞ」
燐:「|凍矢《とうや》!!? 昨日の今日で動いても大丈夫なの!!? ヘイルが今日一日は安静にした方がいいって言ってたじゃん!!」
凍矢:「ばっちり回復してるから 心配いらねぇよ! いつもの時間に起きちまって ぼーっとしてたけど手持ち無沙汰になったから朝飯作ってたんだ。さぁ 温かいうちに!」
燐:「う、うん。ありがとう……。 いただきます。
(ふ、普通に美味しい……! 記憶喪失から まだ回復してないのに よく作れたな……) そういえば 見慣れない鉢がいくつもあるけど どうしたの?」
凍矢:「あ、ああ あれか。ほら 俺 |快楽堕ち《心血解放》の影響で植物怪人になってただろ? なんかその…… 元に戻ってからも 植物に愛着がわいちまってな…… キッチンハーブなら料理でも使えるかなって買ってきたんだ。まだ今日植えたばっかだから これからどんどん成長していくと思うぜ。 ちなみに言うと 【ローズマリー バジル ディル しそ】を植えてみた」
燐:「ローズマリーだと香草焼きとか美味しそうだね。 鮭の塩焼きに ご飯 豆腐とわかめの味噌汁……古きよき日本の朝食で美味しいっ♡」
(燐の真後ろで 突如怪人態になり背もたれ越しに 静かにバックハグする)
燐:「むぐっ!!!? |と《ふぉ》、|凍矢《ふぉうお》!?(食べてる最中)」
凍矢:「(とろんとした表情をし 耳元で囁く)ずっと怖い思いさせてしまってごめんな。
永遠に愛してるぜ り・ん・さ・ま いや
ご・しゅ・じ・ん・さ・ま♡♡♡」
燐:「・・・・・・」
静かに茶碗を置いてから カンっ!!!と言う音とともに 箸をテーブルに叩きつける、流石にビクッとした凍矢は燐から遠いところに離れていく。燐の目から どんどん 光が消えた冷たい目になっていき、バッと椅子から立ち上がると【壁や床、天井等 燐が触れていない場所】から無数の鎖が凍矢めがけて飛んでいき 自力脱出が不可能なくらいにぐるぐる巻きにしてしまう。
また、凍矢からは見えていないが【燐の背中】から何本もの鎖が伸び そのうち何本かは先端が|鏃《やじり》のように鋭く 凍矢に向けられており、 何本かは 燐の周りをふよふよと漂ったり蛇のように巻きついていた。
凍矢:「り、燐様・・・?」
全身ぐるぐる巻きにされ 流石に立っていられず 床に倒れてしまった凍矢を 【ガシャットスナギツネのような虚無顔】で見下ろし 腕を組みながら 今までに聞いた事のないような声で話しかける。
燐:「|残滓《ざんし》は消えたけど まだ記憶喪失は治ってなかったよね、なら一番最初に教えてあげる。私が……
《《食事を邪魔されるのが大っ嫌い》》だってことをね」
そのまま引きずるようにして玄関に連行すると ポイッと廊下へ追い出し 見下ろしている。
燐:「この変態人格」
ガチャッ!!!(無慈悲に鍵を閉める音)
---
|晴翔《はると》:「|浪野《なみの》警部 まさか1週間も休みをくれるとはな。帰省から帰ってきて お土産渡してなかったや。燐や凍矢 |拓花《ひろか》ちゃん 元気にしてるかn・・・
うわぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
燐:「(ドアをバンっと開ける 普段の声に戻っている)晴翔!!? どうしたの!!?」
晴翔:「(腰が抜けてしまっている)り、り、り、燐……。 あ、あれは一体………!!?」
凍矢:「(何とか壁際によって 体操座り的な姿勢になって震えている)__シクシクシクシクシクシク__ さ、寒い……寒いよ。燐様…… ご主人様…… ごめんなさい、赦してください……。! 俺のこと 慰めてくれるの? ありがとう、俺の花達は優しいな(花の中からツタが伸びて 凍矢の頭を撫でている。ように見えているが |植物操作《プラント》で操ってるだけという)」
燐:「(手で顔を覆い 深いため息をつく)・・・晴翔、事情は中で話すよ。凍矢も中に入っていいから(拘束継続中)」
凍矢:「は、はい。燐様」
燐:「洗脳は昨日解いたでしょ? 燐様って呼ぶな」
晴翔:「せ、せんのう!!!? それにりんさま!!!?」
凍矢:「あ、ああ。燐……」
(晴翔にコーヒーを出す 凍矢は引き続きぐるぐる巻きでソファに座らせる)
燐:「ごめんなさい、さっきは驚かせてしまって。 えっと…… ちょっと待ってて!」
燐は突然席を立ち 窓を開けると 空に向けて|鎖《チェイン》を撃ち放つ。数分後 事務所内に黒い粒子が集まり |人間の姿《結紀駿》として収束、くすんだ緑色に近いカーキ色のロングコートを着て フードを深く被っており 右袖口からは金属のようなものでできた義手が見えていた。
|駿《しゅん》:「昨日の今日で 何かあったのか? 燐。 む、そこにいるのは人間だな」
晴翔:「あなたは森林公園にいた…… あ、自己紹介が遅れました!警視庁捜査一課 異形犯罪捜査係の|九条晴翔《くじょう はると》巡査部長です!(敬礼)」
駿:「トランサー|運命《フェイト》 |結紀駿《ゆうき しゅん》、こうして言葉を交わすのは初めてだな。人間を襲う気はないから 安心していい」
凍矢:「な、なんで駿がここに……!!?」
燐:「何かあれば空に向けて|鎖《チェイン》を撃ち放て って手紙をもらってたからね。ねぇ駿兄さん ちょっと相談なんだけど。(壁際に行く)
(超小声で)凍矢の|心血解放《怪人態》を晴翔に見られちゃったんだ。どこまで話していい?」
駿:「(超小声で)本来はトランサーの事も内密にすべきことではあるがな。|心血解放《しんけつかいほう》については トランサーとして新しい能力を得た 位に留めておけ、奴がトランサーの力を求めないとは限らん」
燐:「(超小声で)わ、分かった」
駿:「晴翔といったな、警察組織内でトランサーの事はどれほど広まっている」
晴翔:「まず俺の上司・浪野警部が トランサーで、警視の1人 |夏弥《なつみ》さんに伝わっているくらいかなと思いますが。あ、でも浪野警部がトランサーになった30年前 上が対応について何年も決めあぐねてたって言っていたから それこそ今の警視総監まで伝わってる可能性もあります。それに……俺を燐や凍矢に会わせたのは浪野警部なんです、|刃《スラッシュ》の事件捜査資料を持っていってくれって」
駿:「ふむ」
燐:「えっと 晴翔。 凍矢のこの姿は心血解放って言って トランサーとしてパワーアップしたものだよ。こうなった原因の一つが【私の洗脳】…… 私が心血解放で得た能力が【|鎖《チェイン》の強化】そして【洗脳】なの」
晴翔:「せん……のう……」
燐:「心血解放状態の私と 一瞬でも目を合わせただけで強力な洗脳状態にしてしまう。多分 人間である晴翔が受けてしまったら もう元の人間に戻れないかも……。
凍矢の洗脳状態はヘイルが完全に解いてくれたんだけどね、悪ノリなのか知らないけど 私を怒らせたから こうやっておしおきした」
駿:「燐 お前………」
燐:「凍矢、記憶喪失はヘイルと一緒に治すから到着するまでは このままね」
凍矢:「は、はい。燐s(鎖がぎゅっと締まる)うぐっ!」
燐:「(にっこりと満面の笑みで)と・う・や?」
凍矢:「……燐」
駿:「燐 そこに正座しろ。凍矢も耳を傾けろ」
燐 凍矢:「は、はい」
駿:「(腕を組みながら説教開始) 燐 凍矢。軽はずみな気持ちで心血解放を使うんじゃない、あれは【|原初の王《奴》の力の一端】、使えば使うほど【|原初の王《奴》】に近づくと思え。なぜ俺が自身の腕を犠牲にチェインを封印し、【守護の|呪《まじな》い】を その身と指輪に掛け、【|原初の王《奴》】から隠してきたのか…… その意味をよく考えろ!!!」
燐:「き、気をつけます。 すみませんでした」
凍矢:「ご、ごめんなさい」
駿:「晴翔、 お前も トランサーには くれぐれも近づくな。生身の人間が敵うほど|トランサー《俺達》は甘くない。全員が全員 燐達と同じだと思うな!!!」
晴翔:「は、はい」
駿:「(フードをより深く被る)・・・・・・厳しいこと言ってしまってすまなかった。燐 何かあれば 俺はすぐ駆けつける。晴翔 お前の安全も祈っている。
失礼する(黒い粒子となって霧散)」
晴翔:「怖いこと言ってたけど 人間である俺に忠告してくれたってことだよな。
あ、これ 帰省してたからお土産な(博多 銘菓ひ〇子)」
燐:「あ、ありがとう」
心血解放の爪痕⑩
|晴翔《はると》:「じゃ、じゃあ 俺はこれで……」
|燐《りん》:「あ、うん。 また現場で……」
|凍矢《とうや》:「じゃあね 晴翔(ツルをふよふよ振っている)」
晴翔と入れ替わるように【赤の扉】からヘイルが入ってくる。
ヘイル:「この匂い 晴翔が来てたのか……。ってか どういう状況だ? なぜ凍矢が鎖に巻かれてんだよ」
燐:「ヘイル、おはよう。 匂いで晴翔だってわかるなんて キメラってやっぱり凄いなぁw ああ、コレ? 凍矢が朝ごはんを作ってくれて 食べてたんだけどね、食事の邪魔をしてくれたから おしおきした」
ヘイル:「おしおきって お前なぁ……。 __フゥ__ まあいい。凍矢!! 今日一日は安静にしてろっ|言《つ》ったろうが! なのにまたその姿になりやがって。だが……(瞳発光)どうやらコントロールできるようになったようだな」
凍矢:「あ、ああ。 初めてこの姿になった時のような……何かに侵食されているという感覚はない、意識もしっかり保ってる」
燐:「ふーん、保ってるのに あんなことしたんだ。私が 食事を邪魔されるのが大っ嫌いだって知ってたはずなのに。【記憶喪失だから】ってのを免罪符にしないでよね」
凍矢:「ひぐっ、 ごめんなさい ご主人様」
ヘイル:「燐! 一体どうした、いくらなんでも言い過ぎだ」
燐:「別に……」
ヘイル:「 ・・・・・・まぁいい。凍矢がいいのであれば これから記憶解放を行おうか?」
凍矢:「うん、お願い」
ヘイル:「まっ 記憶解放と言っても、凍矢は燐の別人格。 燐と再び一体化すれば自然と解放されるとは思うが、念の為な」
寝室で 燐がベッドに座り、前にヘイルが立つ。凍矢は鎖を解かれ 燐の隣に座っていた。
ヘイル:「じゃあ始めるとしようか。向こうに到着次第 2人を呼び出す」
燐:「分かった」
凍矢|の義体がベッドに倒れた《が燐の中に戻った》ことを確認すると ヘイルは自分のおでこを燐のおでこに触れさせ〈|記憶の海《オセアーノ オブ メモリア》〉を唱える、意識を失った燐はベッドの上に・ヘイルは後方に置いていた1人がけソファへバタッと倒れた。
--- |記憶の海《オセアーノ オブ メモリア》 ---
ヘイル:「よし、無事に合流できたな」
燐:「ヘイル この大量の本は……!!?」
ヘイル:「そうか 2人は初めてだったな。ここは【|記憶の海《オセアーノオブメモリア》により入れる記憶の世界】、今見えている 本1冊1冊が 燐の【記憶】だ。んっ? (手元に本を1冊呼び寄せ 表紙や鍵を撫でる)どうやら鍵がかかっているのが何冊かあるな。同じ装丁の|記憶《本》が2つずつ、つまり 鍵がかかってる方が凍矢にコピーされた記憶・怪人化の影響で失われた記憶ってことだな。(指を鳴らすと テーブルに 鍵のかかった本が積まれていく)
・・・・・・この本全部の鍵を 地道に外すしかないな」
燐:「分厚いものから薄いものまで 100冊はありそうだね」
凍矢:「じゃ、じゃあ|開けて《読んで》いくね」
ヘイル:「ただでさえこんなに多いんだ、負担は相当なものだから 無理に1日で解放する必要ねぇからな?
燐 俺も ちょっと調べ物をさせてもらうよ。何かあれば声をかけてくれ」
燐は凍矢の傍に座り 様子を見守る。凍矢の指が本のロックに触れると カチッという軽快な音と共に鍵が外れ 本を開くことができるようになり 読み進める度に 洪水のように記憶がおしよせる。そして数時間後 《《全部の本を読み終えた》》。
ヘイル:「・・・・・・あれだけあった|本《記憶》を一日で解放するとはな。いくらなんでも無茶しすぎだ」
凍矢:「ハァ…… ハァ……。思いだした…… なんで俺 こんな大事なことを忘れていたんだ……! 」
燐:「凍矢? 大丈夫?」
凍矢:「(怪人態から 人間態に戻る)燐…… 今朝は すまなかった。ご飯は ゆっくり自分のペースで楽しむ/邪魔されるのが1番嫌いだって知ってたはずなのにな」
燐:「記憶…… 思い出したの?」
凍矢:「ああ、完全に思いだした。 本当に 本当にすまなかった…… 急に身体をベタベタ触ったり 無理矢理キスしたり 今までで1番 怖い思いをさせてしまった……。俺のせいで……!!
(燐が 静かに抱きしめる)
り、燐……?」
燐:「もう許す、 もう許すから 謝らないで。 私も強い言い方してしまってごめんね。これからも 永遠に一緒だから……」
凍矢:「ああ」
ヘイル:「あーーー お二人さん? いいムードをぶっ壊して悪いが そろそろ現実世界へ帰還される時間だぞ。燐、直ぐに〈|解呪《ディスペル》〉をかけるからちょっとだけ待っててな」
燐:「う、うん。分かった」
ヘイルが先に目を覚まし 〈|解呪《ディスペル》〉をかけると 燐も目を覚ます、そして凍矢も分離し義体に入る。
ヘイル:「これで治療は完全終了だ。 ? どうしたんだ 凍矢、急に落ち込んで」
凍矢:「(ズーーーーーーーーンっと体操座りになって落ち込んでいる) い、いやぁ 俺 めっっっっっちゃ歯の浮くようなセリフをつらつら言ってたなぁって。かんっぜんに黒歴史だ。・・・・・・あ、そうだ。 あの怪人態 心血解放としてコントロールできるようになったけど ノーモーションだと怖がらせちまうかもだから 名前をつけたいんだ。
|形態変化《モード》:アルラウネ なんてどうかな!!!?(目をキラッキラさせ 怪人態になる)」
燐:「も、モード……」
ヘイル:「アル……ラウネ……」
燐 ヘイル:「・・・・・・(顔を見合わせる)」
凍矢:「り、燐? ヘイル?」
燐:「えっと…… アルラウネって 確かに植物系のモンスターの名前なんだけど」
ヘイル:「そいつらは基本的に《《女性型しかいねぇ》》んだよ。それに|アルラウネ《奴ら》は エロイ事しか頭にないからな。エロイ事に全く耐性のない凍矢とは 性別も思考も完全に真逆だ。マンドレイクとかもいるが、そもそもあいつらは人間の見た目してないし まんま植物な見た目だしなぁ」
凍矢:「そ、そうなのか!!!? ヘイル!なんか 植物に関する神様とかいねぇのか!!!?(ヘイルの肩をつかみ大きく揺らす)」
ヘイル:「おい揺らすな!!! それと俺を検索エンジン代わりにすんな!!! 俺にだって知らねぇこともあるんだよ(怒) それくらい自分たちで調べろ」
(パソコンカタカタ)
燐:「うーーん。 植物を司る男神 なかなかいないね、いるけど名前に使うにはゴツいかも……」
ヘイル:「まぁ 基本的には女神だからな、フローラとか」
凍矢:「うーーーーーーん やっぱりアルラウネでいいや! 身体に花が咲くし 」
ヘイル:「まぁ 凍矢がいいのなら いいのか?
じゃあ 俺はこの辺で。またな 燐 凍矢」
--- 拠点 屋上 ---
ヘイル:「(再び本を開く)奥まったところに置いてあったから探すのに苦労したが まさか 燐に《《双子の姉ちゃんがいた》》なんてな。流産していたが…… バニシングツインってやつか? まぁ あの両親共が燐に話すわけねぇし なにかに使えるかもと コピーしておいて正解だったな。
・・・・・・それより気になるのは その姉ちゃんに関係する|本《記憶》を《《俺以外の何者かがコピーした形跡があった》》ことだ。
そんな事をするのは・・・・・・」
燐とチェイン チェインと【悠那】①
--- 事務所 寝室 ---
|燐《りん》:「__スゥ__ __スゥ__ ・・・・・・お姉ちゃん!!! ハァ…… ハァ……! い、今のは……?」
|凍矢《とうや》:「(静かにドアから入ってくる)燐? 大丈夫か? 顔が真っ青だぞ」
燐:「凍矢。ひとつ聞いてもいい?」
凍矢:「(燐の隣に座る)? どうした?」
燐:「凍矢と出会ったのは 確か7歳の時だよね」
凍矢:「ああ、奴らからの虐待により溜まるに溜まった【悲しみと恐怖の感情】…… それを基に俺は燐の|守護者《ガーディアン》として生まれた」
燐:「……変なことを聞いちゃうんだけど 凍矢は私の 《《7歳以前の記憶って持ってるの》》?」
凍矢:「・・・・・・!? いや 俺には《《7歳以降の記憶しか存在しない》》、身体を共有していた時からそうだ。 それがどうかしたのか?」
燐:「私 お姉ちゃんがいたみたいなの。私と同じ顔をしてて とても優しい声をしてたんだけど、身体は光に包まれてて 【お姉ちゃんは 燐のこと ずっと見守ってるからね】って。今まで お姉ちゃんの事なんて 知らなかったのに……… なんで………」
凍矢:「!!! 同じ顔……双子ってことか? 確かに どうして急に」
__ブーッ ブーッ__
燐:「! ヘイルからだ。 明日 話したいことがある、 チェインも……同席させろ……って」
凍矢:「同席させろって言うが奴がどこにいるのやら」
|悠那《ゆな》:「私ならここにいるわ」
2人が顔を上げると いつの間にか 1人がけソファに脚を組んで座る悠那がいたが、瞳には いつも通り【*】のマークが浮かび 不敵な笑みをしていた。燐は悠那の姿を見ると タタッと駆け寄る。
燐:「お姉ちゃん! 心配してたんだよ! ねぇ |拓花《ひろか》はどうしてるの? あれから全然姿を見てないんだけど」
悠那:「それなら心配いらないわ、拓花も私と一緒にいるから。じゃあまた明日 連れてくるわ、おやすみ 燐(おでこにキスすると 身体が霧のようになって消えていく)」
燐:「うん、おやすみ」
凍矢:「・・・・・・」
次の日 事務所には 燐・凍矢・ウルグ・ヘイル・拓花・悠那が集まっていた。
ヘイル:「すまなかったな 急に呼んじまって」
燐:「ヘイル 話って?」
ヘイル:「(燐達を静かに手で避ける) 悠那 いや チェイン。単刀直入に聞く、テメェ 本当は生まれ変わってなんていねぇんじゃねぇのか?」
悠那:「……ふーん、私が【|原初《げんしょ》の王の欠片 チェイン】から【|睦月燐《むつき りん》の姉 |睦月悠那《むつき ゆな》】に変わったフリを・演技をしてると?」
ヘイル:「それ以外にどう解釈すんだよ。明らかにミラを蹴り飛ばした時のテメェは チェインだった……あの 人を人として見ない態度もな。
お前は 《《俺達にとって敵でしかねぇ》》、《《燐からも完全に抹消してやる》》」
燐:「へ、ヘイル……!?」
悠那?:「・・・・・・。 フフっ ハハハハ…… ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!
あーーあ、バレちゃった♡ もうちょっと楽しんでたかったんだけどねぇ、《《かぞくごっこ》》♡」
ヘイル:「テメェ やっぱり猫被ってたか」
チェイン:「耳障りな声を出すなっ|言《つ》ったでしょ(指を鳴らす)」
チェインが指を鳴らした瞬間、燐 ウルグ ヘイルは膝をつかされ片腕をグッと挙げられ 肩を押し下げられる、加えて 燐は頭を床に押しつけられる。
ヘイル:「がっ!!! 一体何が…… !!? ・・・凍矢!? テメェ、一体何をしやがる!!!」
ウルグ:「い、痛いよ!! ひ、拓花!!? どうしたの!!?」
燐:「あぐっ!」
凍矢 拓花:「・・・・・・(焦点のあってない目をしている)」
???:「お姉様の前で 頭が高い。アンタなんか口を聞くことすら許されないわ」
チェイン:「こーーら、手が早すぎるわ。そこにいるのが 【実の妹である燐】よ。離しなさい 《《悠那》》」
悠那:「はい、お姉様」
ウルグ:「ゆ、悠那!?」
チェイン:「燐の記憶から 《《双子の姉である悠那の身体を再生》》し 私のかわいい【妹】として洗脳したってこと♡♡♡」
ヘイル:「やはりか。双子の姉ちゃんに関する記憶が 俺以外にコピーされた形跡があったから もしやと思ったが・・・・・・
それよりも 凍矢と拓花に何をした!!!」
チェイン:「べーーーつに? 私の大ッ好きな催眠をかけてやっただけよ。今の2人に 自分の意思はない、私の言葉に漫然と従うだけの操り人形になっているわ。例え 燐の言葉であっても呼び覚ますのは不可能よ」
ウルグ:「だから2人とも ぼーっとした表情をしているんだ。 でも 一体いつ催眠をかけたの!? そんなタイミング……」
チェイン:「|後催眠《あとさいみん》ってやつよ。 私が指を鳴らせば 瞬時に催眠状態になって 凍矢はヘイルを・拓花はウルグを攻撃・無力化させるように暗示をかけた。 あ、凍矢は 私が甘々洗脳をした時・拓花は 2人で出かけた時に仕込んでおいたのよ」
燐:「変わってなかったんだね」
チェイン:「ええ、そういうこt(突然抱きしめられる)
り、燐!!!? 何をするのよ!!!?」
燐:「またこうしてチェインに会えて 《《嬉しい》》」
チェイン ヘイル:「ハァ!!!!?」
ウルグ:「り、燐?」
燐:「チェイン・・・ また会えた(ポロッと涙も落ちる)」
チェイン:「ア・ン・タ・ね(怒)」
チェインの顔にビキッと怒りマークが何個も浮かび 頬や目元がピクピク動く、燐を無理やり剥がすと胸をドスドス突きながら ただ本心をぶつけている。
チェイン:「あそこでも言ったけどさぁ、やっぱバカでしょ!!!? 私はアンタの家族を現在進行形で洗脳してるのよ!!!? 何をどう思考したら【嬉しい】なんて感情になるわけ!!!!? ほんっとバッカじゃないの!!!!? __フフッ__ 頭のネジ 何十本か飛んでるでしょw そういうバカも…… 嫌いじゃないけどね (再び指を鳴らす)」
凍矢:「んっ 俺は一体何を…… へ、ヘイル!!? 悪ぃ!」
拓花:「ウルグ!! 大丈夫!!?」
ヘイル:「どうやら 催眠は解けたようだな」
凍矢:「!!! 燐、ソイツから離れろ!」
燐:「《《なんで》》? 《《なんでチェインから離れる必要があるの》》? チェインは私の大好きなお姉ちゃんなのに」
凍矢:「り、燐?」
チェイン:「あーーー もう……」
ヘイル:「今まで 言いたくなかったが、まさか燐は 【人を疑わない】のではなく【人を疑えない】んじゃないのか?」
燐 凍矢:「えっ」
ヘイル:「燐の人を信じすぎるところ、ただ人が良いのかと思ってた。明らかに敵対関係であった |夢《ドリーム》やチェインへの態度…… 燐は【人を疑えない病気】なんじゃないのか? そうであれば 両親が虐待したのも 説明がつく」
燐:「私が【病気】……!!」
???:「__黙れ__」
ヘイル:「確か そういった症状を示す発達障害があったはずだ。大人でも診断されることがあるって見たことがある」
???:「__黙れ__」
ヘイル:「最初から発達障害持ちだった。だから人を疑えなかったt」
???:「(ブチ切れ)黙れっつってんだろ!!!(思いっきり殴る)」
ヘイル:「うぐっ!!!」
気が付くとヘイルの身体は殴り飛ばされていた。握り拳からポトポトと青い血が垂れる、しかし 血を流していたのは凍矢ではなく《《チェイン》》だった。そのまま馬乗りになると胸ぐらをつかみ上げ怒号を上げる。
チェイン:「アンタに アンタに燐の何がわかるって言うのよ!!! 黙って聞いていれば 発達障害だとか病気だとか 燐の気持ちも知らないで軽々しく言いやがって!!! 燐は確かに あのクソ親共から虐待を受けていたわ、5歳児健診での結果もだけど 一番は《《女だったから》》って理由よ!!! 性別判定に出産直後 奴らがなんて言ってたか知ってる!!!? 【睦月家の跡継ぎは男しか認めない 女の双子なら2人もいらない、1人は今 殺してしまえ】よ!!!? 理不尽な理由で《《私》》は殺され 存在そのものを闇に葬られ 奴らは人を殺したという事実すら揉み消したの。いっぺんに2人も殺すと足がつくのかと思ったのか 燐は虐待による衰弱死を狙ってたけどね。|姉がいたけど既に殺されているという事実《そんなこと》|燐《妹》は知らないほうがいいと思って〈流産で死亡した〉って記憶改竄して 何重にも鍵をかけて【睦月悠那という存在】を ずっと隠してきたのに 勝手に暴いてんじゃないわよ!!!!
燐が人を疑わないのは別に病気があるわけじゃない、そういう【気質・個性】ってだけよ。なのに何も知らないで【発達障害】なんて言いやがって……!!! それ以上 燐の事を貶めようと言うのなら こっちだって 出るとこ出てやるわよ!!!!!
ッッッ! 私はいったい何を………!!!」
凍矢:「まさか チェインは」
燐:「本当の 本当のお姉ちゃん……?」
チェイン:「・・・・・・ッッッ!!」
(ヒュッと消えてしまう)
燐:「お姉ちゃん!!!!!」
燐とチェイン チェインと【悠那】②
--- 事務所 屋上 ---
チェインは |塔屋《ペントハウス》の上で仰向けに寝転がり、両手を頭の下に入れ枕のようにし 右脚に左脚を重ねるようにして月を眺めながら考え事をしていた。|悠那《ゆな》は屋内への出入口付近で直立不動で待機している。するとチェインは右腕で両眼を隠すようにしながら 深く息を吐く。
チェイン:「・・・・・・ __フゥ__ 気づいた時には ヘイルを殴り飛ばし怒鳴ってた。人が苦しんでるところとか 嫌な奴を洗脳して180度様子が変わって【ご主人様ァ♡♡♡】ってワンちゃんみたいに懐いてくるのを見るのが大好きな私が まさか|燐を庇うような言動・行動に出ちゃう《あんなことをする》なんて」
--- 事務所内 ---
|燐《りん》:「みんな お願いがあるの」
|凍矢《とうや》:「お願い? 急にどうしたんだよ そんな改まって」
燐:「チェインと…… ううん 《《お姉ちゃんとサシで話をさせて》》」
ウルグ:「! り、燐 本気なの?」
燐:「うん。 《《絶対に 絶対に手を出さないで》》。《《ついてくるのもダメ》》だから」
ヘイル:「だ、だg うぐっ!!!(鎖で縛りあげられる)」
燐:「ヘイルは黙ってて。 発達障害扱いされたこと 私まだ許してないんだからね」
ヘイル:「そ、それは…… 無神経な発言してしまってすまなかった……」
燐:「プイッ(そっぽを向く)」
凍矢:「奴の居場所はわかるのか?」
燐:「(ヘイルと一切目を合わせない)うん」
凍矢:「・・・・・・ハァわかったよ。燐のことだ、どうせ止めたところで俺達を倒してでも行くって言いかねねぇか。だが! もしもチェインに操られて俺達に牙を向けようものなら その顔をぶん殴ってでも正気に戻すからな」
燐:「お手柔らかにね、信頼してるよ」
ウルグ:「燐……」
ヘイル:「全然目を合わせて貰えない(´;ω;`)」
ウルグ:「言い方キツイけど 自業自得だと思う。突然発達障害とか言われれば誰だって怒るよ」
ヘイル:「(´・ω・`)」
--- 事務所 屋上 ---
12月の夜にもなると 流石に昼夜の寒暖差が激しく 冷たい風が吹くと ぶるっと震える。悠那に会釈すると 向こうも無表情(に見えるが まあまあ睨んでいる)の会釈で返す。
燐:「チェインーーー! そこにいるんでしょーーー! 隣に座ってもいいーーーー?」
チェイン:「! り、燐!!? ・・・・・・ハァ アンタの好きにすれば? 悠那! 手ぇ出すんじゃないわよ」
悠那:「はい お姉様」
ストっと飛び移ると 燐は|胡座《あぐら》に、チェインは片膝を立てて座るような姿勢になる。
チェイン:「アンタよく場所が分かったわね、証拠は残してなかったはずだけど?」
燐:「何も 当てずっぽうで来たわけじゃないよ」
燐が右手首を撫でるとチャランという音とともに月光を反射し キラキラと輝く鎖が出現する、燐の手から辿るように チェインの右手にも鎖が出現する。
チェイン:「(チラッと鎖を見る) へぇーーー 私に悟らせないなんて なかなかやるわね。抱きついた時に鎖を巻きつけたのか、それも透明状態で」
燐:「ごめん…… ストーカーまがいなことして。お姉ちゃんと話がしたかったんだ」
チェイン:「__フン__ また|お姉ちゃん《それ》か…… まぁいいけど。にしてもお仲間なしなんて 随分と不用心じゃないかしら? わっるーーーーい魔女に魅入られて メロメロにされてしまうかもしれないわよ? 一生戻れないくらい 深ーーーーーい所まで洗脳してあげましょうか? (半目の瞳が怪しく輝き 舌なめずりをしながら 燐の頬を撫でている)」
燐:「やれるものならやってみれば? 私の嫌がることはしないって分かってるからね」
チェイン:「・・・・・・。 チッ! 私もヤキが回ったのかしらね。前はあっさりと アンタのことを操れたのに」
燐:「もしかしたら 《《感化》》されたんじゃないの?」
チェイン:「感化?」
燐:「いや、感化と言うよりは同化なのかな。
多分だけど |駿《しゅん》兄さんに封印される直前 分身体を私の中に潜り込ませて、その時に死んだ双子のお姉ちゃんがいたことを知ったんでしょ? そして 未練として私の中にいた お姉ちゃんの精神体が身体をくれたんじゃないのかな、私のことをよろしくね とかって」
チェイン:「・・・!!!」
燐:「そして守護の|呪《まじな》いが解け、分身体と融合・徐々に変わっていった結果が さっきのあれなんじゃない?」
チェイン:「・・・・・・多分ね」
燐:「私が 初めて心血解放した後 精神世界で会ったチェインは きっとお姉ちゃんの面だったんだね。でも 《《なんでお姉ちゃんの名前が 悠那だって知ってた》》んだろう?」
チェイン:「そんな事 私が知るわけないでしょ? どうせ なんかのタイミングで母子手帳でも見たとかじゃないの? まぁ あのクソ親共が |悠那がいたという事実《そんな証拠》を残すとは思えないけど 。 他愛のない世間話をしに来ただけじゃないんでしょ。
・・・・・・アンタは私に何を望むの? もし ここで死ねと望むのなら 私は喜んで死んでやるけど?」
燐:「(チェインの両手をガシッと握る)そんな事 望むわけないでしょ!!! ただ……一緒にいて 一緒に戦ってほしい、私の別人格:チェインとして ううん 《《私のお姉ちゃんとして これからも近くにいてほしい》》の。もし 凍矢達の顔を見たくない・会いたくないのなら…… 例えば 今の家から一戸建てとかに引っ越して 完全分離の2世帯で暮らす? もちろんすぐ下で私に敵意を向けている方の悠那お姉ちゃんも一緒に。
紆余曲折あったけれど…… チェインと 悠那お姉ちゃんと これからも一緒に生きていきたい、それが 私の【望み】だよ」
悠那:「・・・・・・」
チェイン:「ふーん 一緒にいてほしい・一緒に生きていきたい か。てっきり【さぁ お前の罪を数えろ! 今ここで罪を償うために 死んじまえ!!!】って言われるのかと思ったわ。ちょこっとだけ拍子抜け。
・・・・・・・・・__2世帯……__ __2世帯ね……__ __プッ__ アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
燐:「ちぇ チェイン?」
チェイン:「に、2世帯ってwwwwww 結婚じゃないってのにwwwwww やっぱ |燐《アンタ》はネジがぶっ飛んでるわ 言葉のチョイスがおかしすぎwwwwww ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!
……ふぅ お腹がよじれるくらいには笑わせてもらったわ。2世帯かw 他の奴らが敵対心むき出しだろうけど 障害が多ければ多いほど愛は激しい炎をあげながら燃えていく、__私の寵愛は燐のもの…… だし♡♡♡__ でも 私を野放しにして後悔はないのかしら? いつ私が燐の心を奪うか分からないわよ? 深ァ〜く深ァ〜く洗脳して 私しか考えられない 自我を欠いた操り人形にしたり・ スイッチを仕込んで|連続殺人鬼《シリアルキラー》として操ってしまうかもよ?(胸をドスドス つつく)
それでもいいのかしら?(正面から燐の顔を両手で挟み 見据えるようにしている)」
燐:「その時は 精一杯抵抗してあげるよ、私だって簡単には堕ちてあげないから」
チェイン:「フフッ その綺麗な紅い目を曇らせる日が楽しみね。
・・・・・・さてと(指を鳴らす) 扉を開けてさしあげなさい」
悠那:「はい お姉様」
悠那が扉を開けると ウルグとヘイルが乱暴に放り投げられ、凍矢と拓花は 一言も発することなく虚な瞳のまま ぼーっとしている。先程 チェインが指を鳴らしたことで 凍矢と|拓花《ひろか》は再び|催眠状態になっ《あやつられ》てしまったのだった。
ウルグ:「痛っ!」
ヘイル:「痛ぇ!」
凍矢 拓花:「・・・・・・」
チェイン:「( |塔屋《ペントハウス》から飛び降り 指に髪をまきつけている) まったく盗み聞きなんていい趣味だこと(指を鳴らす)」
燐:「( |塔屋《ペントハウス》から飛び降りて チェインの後ろから覗き見る) み、みんな どうして……!」
凍矢:「ぐっ……(頭を押さえる) また奴に操られていたのか……。__あっ__ り、燐……! その 悪かった!!! 燐の言葉を疑ってたわけじゃなかったんだがな? どうしても奴と2人きりにさせるのが不安になっちまって ドアの影から一部始終 聞いていたんだ」
拓花 ウルグ ヘイル:「右に同じ……です………」
チェイン:「・・・あらあら 沢山の仲間に愛されてて何よりだわ(バックハグで腕をまきつけている)」
燐:「私も みんなのこと大好きだよ 当然チェインも♡」
凍矢 拓花 ウルグ ヘイル:「(もう 2人が飽きるまで このままにさせとこう…… 【報復】が怖い)」
こうして 燐 凍矢 拓花 ウルグ ヘイル のパーティに 改めてチェイン(チェインの召使いとして悠那も)が仲間に加わった、チェインと 燐以外の面々との間にそびえ立つ壁が崩れるのはまた別のお話………。
--- 数日後 ---
あれから賃貸一戸建てへ 本当に引越した。前の事務所と同じく 逢間中央駅に程近い場所・1階を燐達の仕事場兼リビングダイニングにし、2階を寝室スペース・チェインと悠那のリビングスペースにすることになった。1階を通って上がることもできるし 外付けの階段から2階に直接上がることもできるという超優良物件だった。毎食毎食チェインの所へ 持っていく訳にいかなかったこと・チェインも凍矢の作る食事がお気に入りだったため、完全分離と言いつつ 食事は全員でとり たまに1階でも過ごしている。
燐:「チェインーーーーーー。 捜査疲れたよ…… 」
チェイン:「(ソファに座り 雑誌を読んでいる)おかえりなさい、燐。 随分とお疲れね」
燐:「事件捜査がちょっと難航しててね」
チェイン:「(パタンと雑誌を閉じる)ふーーん。 アレ やる?」
燐:「うん」
チェインは 前に|朱星颯《あけぼし そう》/|具現《マテリアライズ》へ使った【紫色の煙を出しながら ゆっくりと怪しく点滅する珠】を出現させる。 |芳香《フレグランス》を濃い煙として放出させたものを吸い、珠の 怪しい光を見つめ続けると 光が消えた とろんとした目で ぼーーっとした様子になり 前後に静かに揺れている、つまり催眠状態に陥っていた。チェインが膝をトントンと叩いて合図をすると 見えない糸に操られるように フラフラと近づいていき チェインの膝に跨り 顔や胸にピトッと顔をくっつけ 時折 顔を擦り付けている、自身の分身体を使うことで 珠を見続けさせ |芳香《フレグランス》の濃い煙を吸わせ続けていた。だんだん燐の瞳の中に濃いピンク色のハートマークが浮かび上がり 、あと僅かで|魅了洗脳《メロメロ》状態は完成するところまで来た。
チェイン:「燐は この香りや珠の光を見るのが、つまりは《《私に洗脳されるのがだーーーいすき》》だものね。 アンタは |芳香や珠の光の《コレらの》中毒者…… 私のことしか考えられないわよねぇ?(以前と同じチョーカーを首につける)」
燐:「お姉ちゃんの……匂い……♡♡♡ 大好きな……甘い……香りで…… せんのう……される♡♡♡ わたしは……おねぇ……ちゃんの……あやつり……にんぎょう…… おねぇ…… ちゃんの……とりこ……♡♡♡ しあわせ…… もう…… もどりたく……ない……♡♡♡ おねぇ……ちゃんの……ものに……なりゅ♡♡♡(胸に顔を埋める)」
チェイン:「あっけないw こ〜んなあっさりと|洗脳され《堕ち》るなんて |何《な〜に》が【精一杯抵抗してあげるよ、簡単には堕ちてあげないから】よ、どの口が言ってんだかwww (|声色《ボイス》で より蕩けさせる)捜査のことなんか忘れて、永遠に私のものになりなs……」
凍矢:「(ドアを蹴り開けて入ってくる) チェイン!! 燐を返せ!!」
チェイン:「チッ アンタか、なんの用? 今 燐は幸せな中にいるのだから」
燐:「♡♡♡♡♡♡」
凍矢:「テメェ 結局はそうやって燐を洗脳して 悪事を働かせようとしてんじゃねぇか!!! チョーカーまで着けやがって!!!」
チェイン:「(燐の頭や体を触りまくる)確かに洗脳しているのは認めるけど 別に なーーーーーんにもしないわよ。 燐の顔を見てると 前みたいに《《何かを企むのもバカバカしくなった》》わ。それに! あの後 アンタの|消《イレイズ》を受けたの 忘れてないでしょ? これはあくまでも【遊び】、ただのヒーリングなんだから。燐とも合意の上よ」
凍矢:「ふん、何が合意だよ……」
チェイン:「今度こそ 何かを企んだりなんかはしていないわ」
凍矢:「正式に俺たちの仲間になった ってことでいいんだよな」
チェイン:「別に好きにとれば? アンタに了承を得ようとは思ってないから」
凍矢:「あっそうかよ」
燐:「(メロメロ完了)お姉ちゃん♡♡♡ お姉ちゃん♡♡♡ お姉ちゃん♡♡♡ だいしゅきだよ♡♡♡ しゅきしゅき♡♡♡♡♡ お姉ちゃん チュー♡♡♡♡♡♡♡」
チェイン:「!!!!?(いきなりディープキスされる)」
凍矢:「うわぁ……」
あまりの惨状に気が遠くなり ふらっと倒れそうになるが 咄嗟に |形態変化《モード》:アルラウネを使い 怪人態となることで|魅了・洗脳《目の前の出来事への》耐性を付与した。 袖を突き破ったり意識が乗っ取られることこそ無くなったが、頭にクリスタルのような花が咲いたり 服に移った鎖の模様から花が咲いたり 全身に鎖の紋様が見え 目にハートマークが浮かぶのは健在だった。
チェイン:「あら 久しぶりにその姿を見たわ。そうか 自在にコントロールできるようになったんだっけか、魅了耐性も付与できるのね。目にハートマークが浮かんでるけど?」
凍矢:「怪人態になったら|目にハートマークが浮かぶ《こうなる》んだから放っとけ!! それよりも《《燐様》》は 大丈夫なんだろうな!!?」
燐:「あっはははぁ♡♡♡♡♡ おねえちゃん♡♡♡♡♡ 今夜は寝かせないからねぇ♡♡♡♡♡」
チェイン:「うーん、流石にやりすぎたかもしれないわ……。しっかり時間をかけて|消《イレイズ》を使えば影響は残らないはず。 もうちょっと2人で遊んだら そっちに行くから 夕食よろしくね♡♡♡」
凍矢:「ハァ〜 わーったよ……。 燐様のこと頼むからな(人間態に戻る)」
チェイン:「はいはい。燐は メロメロ状態になるとキス魔になるのね…… 知らなかったわ。これではシリアルキラー化させるのは無理そうかな、罪を犯しすぎて私たちが路頭に迷っちゃう。洗脳しておもちゃにするのが限界ね。
それにしても怪人態って言い方に 燐様か、意識こそ保ってるけど 案外染まってるじゃない」
人工知能と【本能の具現体】
???:「ふざけんじゃねぇぞ!!!!!」
朝早くから家が震えるくらいの大声が響き渡り |燐と凍矢《2人》は飛び起きた。声の聞こえたところに向かうと(案の定)チェインと完全獣化状態のヘイルが互いの胸ぐらを掴んで睨みあっており |拓花《ひろか》は2人の怒鳴り声に驚いて泣いてしまい、ウルグとミラが背中をさすったりしながら慰めている。
|燐《りん》:「(小声で)拓花、遅くなっちゃってごめん。大丈夫?」
拓花:「ひぐっ ひぐっ り゛ん゛ーーーーーーー!!! こ゛あ゛い゛よ゛ーーーーーーー!!!
う゛え゛ーーーーーーーん゛!!!」
|凍矢《とうや》:「拓花、ここは逃げ場がないから ウルグの所に避難してるんだ。必ず迎えに行く」
ウルグ:「ミラ、拓花の事をお願い。私達は2人を止めないとだから」
ミラ:「承知致しました、ご主人様」
ミラは拓花を抱き抱えると 背中にポンポンと静かに優しく手を触れながら拠点に向かう。これまで拓花はミラの事を怖がっていたが、瞳に浮かぶ渦模様を消したら【ミラお姉ちゃん!】と懐くようになった。2人を見送るとチェイン達に目をやった。
チェイン:「全員の前で凍矢の|消《イレイズ》を受けてたのを見たでしょ!!!? それなのに 【信用できねぇ】とか蒸し返してんじゃないわよ!!! この単細胞!!!」
ヘイル:「信用できねぇやつに 信用できねぇっ|言《つ》って何が|悪《わり》ィんだよ!!! それに単細胞ってまた言いやがって、このクソアマぁ!!!」
チェイン:「ウルグの肉体がないと生きていけないくせにデカイ口叩いてんじゃないわよ!!!! どうせアンタはデータの寄せ集めなんだから 電子の海でも漂ってろ!!!」
ヘイル:「テメェだって トランサーの本能が身体を持っただけだろうが!!! とっとと俺達の目の前から消えちまえ!!!」
1歩も譲らず勢いよく頭突きしあい ガンッ!!!という大きい音が家全体に響く。途中から拾い聞いただけでも これだけの罵詈雑言を浴びてしまった燐の中に【悲しみと恐怖の感情】が高まり、凍矢でも吸収が追いつかずにいると すぐそばで罵詈雑言をかき消すかのような大声が聞こえる。
ウルグ:「__スゥ__ いい加減にしろーーーーーーーーー!!!!! |鋼鉄の縛鎖《スティィィル・バインド》ォォォォ!!!!!」
ウルグが〈|鋼鉄の縛鎖《スティール・バインド》〉を唱えると どこからともなく鎖が飛び、2人の身体は引き離され 大の字になるよう拘束された。
ウルグ:「アンっタらねぇ!!! 燐や拓花がどれだけ怖がってると思ってんの!!!? 朝っぱらから みんながいる家で怒鳴り声を出さないで!!! 」
ウルグが一喝しても 反省してる素振りは全く見られず、2人は互いにキッと睨み合いバチバチと火花が散っていた。
ウルグ:「もういいよ、そんなに喧嘩したいならしてくれば!!!!? もう帰ってこなくていいから!!!!!」
ウルグは〈|空間生成《ディメンション》〉を唱えると 乱暴に追いやってしまった。
ウルグ:「燐 ごめんなさい……! 本当に ごめんなさい!!」
燐:「ウルグ、お姉ちゃん達に何があったの?」
ウルグ:「家だったり諸々手配したのは燐なのに チェインが我が物顔で居座ってるのが気に食わなかったみたい。正直なことを言ってしまうと 私も100%は信用しきれてないんだ、またすぐ裏切るんじゃないかって。でもチェインは私達の目の前で|消《イレイズ》を受けていたし、燐と接してる時は穏やかな顔をしてた。
私自身は 少しずつチェインの事を信じていきたい!でも ヘイルはそうも行かなさそう」
燐:「お姉ちゃん……」
凍矢:「最悪は喧嘩両成敗だな。一旦様子見に行くか」
殴り合いにまで発展していたらという不安を感じつつ ウルグの案内で異空間へ入っていく。しかし殴り合う音は一切聞こえず、2人は静かにチェスを指していたのだった。
---
--- 数分前 ---
チェイン:「あーあ、追い出されちゃったわね」
ヘイル:「(再び胸ぐらを掴む)チェイン、テメェは何が目的なんだ。この数日 猫をかぶりやがって 一体何を企んでやがる。どうせこの中にいるのは俺達だけ、燐達には聞こえない。隠しても無駄だから 本心を語れよ」
チェイン:「・・・・・・。 ふんっ、別に悪事を働かせようとは考えてないわ、そんなことをすれば 私達全員路頭に迷っちゃう。アンタ達を洗脳したりするのだって私にとっては《《ただの遊び》》なんだから」
ヘイル:「ホントのホントのホントに俺達の味方なのか」
チェイン:「凍矢といい しつっこい男ね!!!(怒) この身体だって託されたものだし、《《今は》》燐を護ることに専念する。燐は【原初の王】との戦いが終われば身体をくれるって言ってたし どうせトランサーは不老不死なんだから ゆっくり待つことに決めたわ。
喧嘩ならいつでも買ってあげる、気に食わないなら|何時《いつ》でもかかってきなさい」
ヘイル:「・・・・・・(乱暴に手を離し 獣化態が解ける)」
チェイン:「せっかく燐が買ってくれた服が伸びちゃうじゃない……。ねぇ? 話が終わりなら 1個頼みってほどのものじゃないんだけど」
ヘイル:「あ? なんだよ」
チェイン:「人工知能であるアンタとガチの頭脳戦をやりたくてね、チェスでもしない?」
ヘイル:「・・・・・・。
まぁチェスくらいならいいか、さっきから嘘はついてなさそうだし。ルールは?」
チェイン:「公式大会でのルールだけど 雑談はありにしましょ。ただし暴言は無し」
ヘイル:「(お前が言うな)最初は早指しじゃなくていいか、長考もありにしようぜ」
チェイン:「それでいいわ」
ヘイルはチェスセット・ラウンドテーブルと椅子二脚を出現させ、ヘイルの先攻で始まったのだった。
---
燐:「お、お姉ちゃん?」
凍矢:「な、仲良くチェスをしてる?」
緑眼ヘイル:「チェックメイト、俺の勝ちだな」
チェイン:「ハァ、まさか2回も私が負けるとはねぇ。 今度はスピードチェスなんていかが?」
緑眼ヘイル:「早指しか。いいぜ、人工知能の処理速度 見せてやるから後悔すんなよ?」
チェイン:「じゃあ」
チェイン・緑眼ヘイル:「スピードチェスで」
先程までと違い 一手コンマ何秒という早さで進行していくが、ここでもまた負けてしまった。
チェイン:「嘘でしょ、【原初の王の欠片】である私が ただの1度も勝てないなんて!!!」
ヘイル:「フッ、さっきのセリフそっくりそのまま返してやろうか?www
喧嘩ならいつでも買ってやる、気に食わないなら いつでもかかってこいよ。どんなゲームであっても相手になってやる」
チェイン:「チッ!! 次こそ吠え面かかせてやるんだから。 ・・・・・・あら? いつの間にかギャラリーがいたわ」
ヘイル:「り、燐! なんでここに……」
燐:「2人のことが心配になって ウルグに開けてもらったんだ」
チェイン:「心配かけてしまってごめんね、ちゃぁんと仲直りしたから」
ヘイル:「ウルグも凍矢も済まなかったな、朝から大声出しちまって。後で拓花に会っても大丈夫か?」
凍矢:「怯えてなきゃ良いが……」
最初で最期の出逢い 第2章Last & 次章予告
--- チェインと悠那の部屋 ---
深夜、オレンジ色のシーリングライトが点灯している部屋では ショーツのみを履いた ほぼ裸状態でベッドに寝転び雑誌を読んでいるチェインを|悠那《ゆな》がオイルマッサージしていた。【妹】として生み出され 召使いとして洗脳済みの彼女は |チェイン《お姉様》の為に日々身の回りのお世話をし ただ一心で尽くしてした。
悠那:「・・・・・・」
チェイン:「力加減最高よ 悠那。 あとで|凍矢《とうや》の作ったミネストローネを温めてきてくれる? もちろん|悠那《アナタ》のも合わせて……ね」
悠那:「はい お姉様」
相も変わらず 虚ろな瞳で感情のこもってない返しをされると コンコンと小さくノック音が聞こえた。
チェイン:「……? 誰かしら。(服を着つつ)開けて差しあげなさい」
悠那:「はい お姉様」
扉の前にいたのは|燐《りん》だったが、いつもの明るさは全く見られず 身体が僅かに震えており、明らかに様子がおかしかった。
燐:「お姉ちゃん 今いい・・・・・・?」
チェイン:「こんな遅い時間(深夜2時)なのにまだ起きてたの? まぁ話くらいは聞いてあげるから こっちいらっしゃいよ。悠那 もう1人前追加で」
燐:「うん……」
悠那:「はい お姉様」
チェイン:「・・・・・・部屋に入れといてアレだけど なんでアイツじゃなくて私なのよ。相談相手なら|凍矢《過保護な王子様》がいるじゃない」
__ポロポロ__
チェイン:「ちょ、ちょっと!! どうしたって言うのよ!!!」
燐:「怖い夢……見ちゃったんだ……。 私が凍矢やウルグ |晴翔《はると》 |拓花《ひろか》 そしてお姉ちゃんを、みんなを殺した夢。不老不死であるトランサーも皆殺しにして 青い血と赤い血が混じった血溜まりに立ってみんなの死体を見下ろしてた……。寒い夜にひとりぼっちになって……。
私…… わたし…… __ボロボロ__」
チェイン:「燐……」
???:「(・・・さん チェインさん・・・)」
チェインにのみ語りかけるように 柔らかい女性の声が聞こえる。
--- チェインの精神世界 ---
チェイン:「ずっと傍観してたアンタが呼ぶなんて。何か用かしら? 《《悠那》》」
(精神体の)悠那:「・・・・・・。チェインさん、少しだけ 身体を貸してくれませんか? ほんの少しだけでいいんです、燐と話をさせてください」
チェイン:「!!! アンタ 自分が何を言ってんのか分かってんの? そんなことをすればアンタは この世から完全に消滅してしまうわよ?」
悠那:「えっ…… それって一体」
チェイン:「だってそうでしょ? アンタは 《《燐への未練としてこの世に留まっている 肉体を持たない精神体》》。つまりは**幽霊**のようなものなのよ? ヘイルに激昂した時 強制的に私と入れ替わってくれたけど アレでパワーをほとんど使ってしまってる、今こうして話すのがやっとなの。産まれてすぐ殺されて 精神体になって…… よくもまぁ消えなかったものだわ」
悠那:「そんな……。でも 私は平気です、もし消えてしまうとしても…… 《《最期に》》姉として 燐と話がしたいんです」
チェイン:「__決意は固いってか__ どうやら私が言ったところで止められなさそうね。ハァ〜 全く姉妹揃って強情なんだから……。
・・・・・・ 分かったわ。ただこれだけは言っとく、私と入れ変わった瞬間 アンタの【魂】は崩壊を始める。何もしなければ1分ともたないわ」
悠那:「い、1分……!?」
チェイン:「だけど そこは私が手を貸してあげる。ただそれでも10分が限度ね。見えるところに砂時計を置いとくから 目安にしたらいいわ」
悠那:「10分……。 分かりました」
---
悠那:「燐……」
燐:「この感じ もしかしてチェインじゃなくて 悠那お姉ちゃん?」
悠那:「__ピキッ ピキピキッ__ __ニコッ__ 怖い夢を見たんだって?」
燐:「うん。私が皆の命を……!」
悠那:「誰かが死んでしまう夢、いきなりこんな怖いものを見てしまって辛かったね(頭を撫でる)」
燐:「お姉ちゃぁん 私 どうしたらいいの? どうやったらこの悪夢を変えられるの?」
悠那:「燐、夢において【死】というのは終わりと始まりを意味してて 新しい局面や変化の訪れを予感させるものでもあるんだよ。もちろん それがいい意味かもしれないし悪い意味かもしれない。でも 絶望の後には必ず希望がやってくるものよ」
燐:「新しい局面……?」
悠那:「燐が このタイミングでその夢を見たのには何かしらの【理由】【因果】がある。 それを信じてて 」
燐:「うん……」
悠那:「燐は1人じゃない、たくさんの仲間がいる。時には彼らに相談してみたら気持ちが軽くなるかもよ?」
燐:「そうする……」
悠那:「(ヒビが全身に回り 砂が落ちきりかけている)・・・・・・どうやらそろそろみたい」
燐:「そろそろ ってどういうこと……!!?」
悠那:「つい最近 力を使いすぎてしまってね、こうして話すのも限界が来ちゃったみたい」
燐:「そんな……! もうお姉ちゃんに会えないの……?」
悠那:「私はいつも燐のそばにいる、これからも その力で人々を護ってあげてね」
燐:「お姉ちゃん 大好き」
悠那:「わたし……も……だ……」
燐:「お姉ちゃん ありがとう……。 チェイン 1つお願いがあるんだけど」
チェイン:「? なによ」
燐:「今日だけ 今日だけ一緒に寝ちゃダメ……?」
チェイン:「・・・・・・ハァ〜 わかったわ。今日だけね」
燐:「ありがとう チェイン」
その後 温めてきてもらったミネストローネを3人で食べ、燐がチェインと同じベッドで静かに眠り出すと 再び悠那にコンタクトした。
チェイン:「満足した?」
悠那:「!!! 私……消えちゃったんじゃ……」
チェイン:「あの砂時計の中身 実際には8分くらいだったのよ。良かったわね 完全消滅する前に私が引き上げたおかげで アンタはこうして生きてんの。まぁ当分は話すのは無理だろうけど」
悠那:「・・・・・・ありがとう チェインさん」
チェイン:「フンっ」
燐:「お姉ちゃん __ムニャムニャ__」
チェイン:「新しい局面か……。ほんとかわいい寝顔をしてるわ。よく眠ってるし 私しか考えられなくなる暗示でも……」
バァン!!!と大きい音を立ててドアが開かれる。
凍矢:「燐!!!」
チェイン:「(#^ω^) アンタさぁ、せっかく燐が眠ったのに大声出すんじゃないわよ(怒り顔で廊下まで連れ出す)」
凍矢:「(かなりボリュームを絞る)す、すまなかった。深夜だもんな。 燐は……大丈夫なのか?」
チェイン:「ついさっき寝たところよ、怖い夢を見たって泣いてたわ。アンタがここに来たのは さしずめ感情を感じとったから でしょ?」
凍矢:「あ、ああ」
チェイン:「それなら アイツが落ち着かせたわ、その後 アンタお手製のミネストローネをいただいて、今日だけ一緒に寝たいって」
凍矢:「アイツ?」
チェイン:「燐の本当の姉よ。最期に話をしたいって」
凍矢:「!!!!!」
チェイン:「だいぶギリギリだったけど。今は私の目を通して様子を見てるわ」
凍矢:「そうか……」
チェイン:「まっ そういうことだから」
凍矢:「チェイン ありがとうな」
チェイン:「別にアンタにお礼を言われるためにやったんじゃないわ。燐という人間を手放したくないだけ、アイツは私のものだから。
あ、ミネストローネごちそうさまっ(皿を押しつける)。じゃっ 」__バタンッ__
凍矢:「あ おい!! サラッと流しちまったが ミネストローネ食われたってことだよな! せっかく朝飯にと作ったのに…… まぁ また作ればいいか。
怖い夢か…… 何事もなければいいが……。ハァ 皿洗って俺も寝るとするか。ったく 俺はチェインの召使いじゃねぇんだから 食ったんなら自分で洗えっての。それに 燐はテメェのモノじゃねぇっての__ブツブツ__」
チェイン:「(超小声で)全くあの脳筋バカは……。夜中なんだから 少しは声のボリューム落とせっての。せっかく 燐の可愛い寝顔を堪能してたってのに」
燐:「チェイン…… 凍矢…… 拓花…… これからも一緒だよ……」
チェイン:「クスッ トランサーチェイサーとして活動してる時と大違いね、無防備で幸せそう。人を馬鹿正直に信じてしまう お人好しだけど そんな|燐《アナタ》も大好きよ 」
寝言を言う燐を見てチェインは笑みを浮かべ、おでこに小さくキスをすると布団をかけ直し、燐の手を握りながら眠りについたのだった。
チェイン:「おやすみ |燐《りん》」
--- 数時間前 ---
晴翔:「おい待て!!! 逃げんなコラァーーー!!! 大人しく凍矢の裁きを受けろやァァァ!!! 止まれつってんだろうがァーーー!!!」
|浪野《なみの》:「|九条《くじょう》! 深追いしすぎるな!!」
トランサーの男:「チッ! しつこい|警察《サツ》め!!!」
__ザシュ__
晴翔:「__ゴフッ__ 嘘だろ…… 俺死ぬ……の……か……?」
浪野:「九条ーーーーーー!!! おい!しっかりしろ 九条! くっ ナイフで一撃か! しかもこの刀身トランサーの血が塗られている!」
トランサーの男:「ふん、しつこく追い回してきた罰だよ、ハハハハハハハ!
__パァン__
ハハッ……ハ……」
浪野:「銃声だと!? 奴が消えた……? いや消滅したのか……? く、九条……?」
???:「トランサーは誰1人逃がさない、俺が全員潰してやる……。 この力 |浄化《ピュリファイ》によって」
浪野:「九条!!! そ、その眼は……!」
晴翔:「__ッッッ!__ 浪野警部! 俺一体どうなったんでしょうか? 追ってたアイツに刺された気が……」
九条:「話すより見た方が早いか。 ホラっ」
浪野警部から手渡された鏡で見てみると 晴翔の茶色い瞳は明るい緑色に変わっていた。
晴翔:「!!!? 色のついた瞳…… トランサーになっちまったのか……!!?
そういえば さっきの男、血を消したはずなのに 燐みたいに身体が残ってない。まさか……俺の……手で……? ころ……し……た……?
あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」