人外達が暮らす街・シエル。
シエルにはヴィリーという名前の家があった。
ヴィリーは理由があって住む場所がない者が住んでいる‥所謂シェアハウスだ。
昔から人外しか住んでいない町だったからか、人外達は人間など架空の生き物だと思っていた。
だがある日、ヴィリーに住む人外達は人間は架空の生き物じゃないことを知ってしまう。
これは、人外町で暮らす人間の話。
人形のように生きる、たった一人の人間の話。
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目次
#1 美しき人形
初めて投稿する小説なので温かい目で見てくださると嬉しいです🥹
私の書き方を知ってほしい・物語の雰囲気を伝えたいという理由で投稿しました。後で開催予定の自主企画の方もよろしくお願いします。
▷クロワside
朝、カーテンの隙間から覗く日に照らされて目が覚める。普通の奴なら「あぁ、朝が来たな」とか思って起きると思うけど、吸血鬼の俺はそんなことを思って起きられない。日に照らされたらちゃんと燃える燃える。
それなのに今俺が燃えていないのは、昨日の夜寝る前に塗った自分お手製の日焼け止めのおかげ。日中自由に行動ができないのは困るからと何年も試行錯誤してやっと完成したやつ。毎度昔の自分に感謝している。
だけど燃えなくても眩しいものは眩しい。もう少し目を瞑っていたかったけど眩しさに負けて目を開ける。ベットから上半身を起こすと、近くの椅子に愛しいあの子が座っていることに気がついた。
「あれ、《《アンジュ》》。もう起きてたの?」
アンジュは本をめくっていた手を止め、カーマイン色の綺麗な瞳をこちらに向けた。それから静かに頷いて、椅子から立つ。
「あぁ、急いで立たなくてもいいよ。着替えたいよねぇ、寝坊してごめん。」
ベットから急いで起きる俺を見たアンジュは、眉を下げて凄い勢いで首を横に振る。普段は俺が先に起きて、アンジュが起きるのを待って着替えさせるのに、今日は俺が寝坊してしまったからアンジュが着替えられないままだったのだ。
椅子から立ったアンジュを化粧台の前の椅子に座らせ、俺は後ろに立つ。櫛を手に持って、綺麗な髪をとかす。絡まることのない髪は、日頃から丁寧に手入れしているおかげだろう。
普段は何を話すべきか悩むせいで無言でとかしている。今日もいつも通り無言でとかしていたが、寝坊した事を謝らなければと思い途中で口を開いた。
「昨日夜遅くまで本読んでたからかなぁ。アンジュを待たせちゃうなんて最悪だよぉ。」
俺がそう言うと、鏡の中のアンジュが申し訳なさそうな顔をする。目を伏せたから、何か伝えたいはず。だけど何も伝えてこない。
「どうしたのアンジュ?…あ、ホワイトボードがないから伝えられないのか。ごめんねぇ。」
櫛を置いて、ベット付近に置いていたホワイトボードとペンを持って戻る。アンジュにホワイトボードを差し出すと、微笑んでそれを受け取る。
アンジュがホワイトボードに書いたのは、『私こそごめんなさい。たまたま私が早く起きただけで、クロワさんは寝坊してないのよ。』と言うことだった。そう書かれたから時計を見てみれば、いつも起きている時間と同じくらいの7時半だった。
「あれ、本当だ。アンジュが早く起きちゃったのかぁ。あぁ、アンジュが悪いだなんて思ってないからね!?」
またアンジュが申し訳なさそうにする前に慌てて否定しておく。アンジュはそんな風に慌てる俺の様子を見て、面白そうに笑った。笑い声を出さずに、目を瞑って口角を上げておかしいものを見たように笑うからこっちまで微笑んでしまう。
「って、こんなことしてるんじゃないんだった。アンジュの朝支度しなくちゃ。髪はとかせたから次は服だね。」
アンジュを立たせてクローゼットまで連れて行く。クローゼットの中からアンジュに似合う赤い服を取り出して、アンジュに着せる。黒タイツは流石に履かせられないから自分で履いてもらうけど、他の服は俺が手伝って着せる。コルセットをつけて、髪にヘッドドレスをつける。
アンジュの支度が終わると、まるで人形のような人間になる。白い肌に赤い瞳、綺麗な金髪におしゃれな服。高い人形のような見た目…いや、人形ですら表しきれない美しさをもっている。もしもアンジュが人形だったならば、人形師が惚れ惚れしてしまうほどの完成度だろう。
精巧な人形のように美しいアンジュは人間だ。
人間であることは悪いことじゃない。ただ、|ここ《シエル》で生きていくのは難しいだろう。あの時、アンジュを拾わなければ良かったのかもしれない。あの時拾ってしまったからアンジュは自分を捨てて生きていくことになってしまった。けれど、あの時拾わなければアンジュは他の奴らに食べられて死んでいた。拾うか拾わないかそれ以外か、どの選択が正解だったかなんて俺にはわからない。
けど、拾ってしまった責任は取るつもりだ。人間の噂がどこまで本当かわからない。喋っても俺たちに影響はないのかもしれない。食べても美味しくないかもしれない。そうだったら嬉しいけど、本当かどうかを試す気はない。試した結果、俺がアンジュを傷付けてしまう訳にはいかないからだ。
「アンジュ、今日も俺が君を守るよ。君が痛い思いをしないように、ちゃんと守るから。」
アンジュが頷いたのを見て、俺は自分の準備を始める。と言っても髪を纏めて着替えるだけだけど。アンジュほど自分に気を使う必要はない。
適当に結んでワイシャツとスキニーパンツに着替えたら、アンジュを呼んで身だしなみの最終チェックをする。
「体調とか大丈夫?」
『心配ありがとう。いつも通り大丈夫よ。』
「そう、なら良かった。」
アンジュの手を引きながら部屋の外へ出る。転ばないように気をつけながら、いつも通り歩いていく。下の階からは誰かが朝ご飯の準備をしてくれているのか、パンの焼けた匂いがした。
#2 大事な場所
書き方難しい…!
皆様に参加してもらったからには頑張って書きますが、なんか口調や性格で変なところがあったら教えてください💦
物語が7時以降の話なので7時出勤の子は登場していません。次回のそのまた次回くらいに登場する予定です…!(予定がズレるかも)
▷クロワside
「おはよぉ。皆元気ぃ?」
俺の挨拶には聞こえたのか聞こえてないのかわからないが、誰も返事しなかった。少し寂しい。
今日はなぜか珍しく、仕事に行った奴らを除いて大体のやつが朝食の準備をしていた。当番じゃない奴は各々自由にのんびりしてる。手伝わせては怪我をしそうで怖いからアンジュをいつも通り椅子に座らせ、俺は朝食の準備を手伝いに行く。朝は作り置きの料理を運ぶだけだから料理当番の俺の出番はないけど、当番なのに何もしないのは駄目だもんねぇ。運ぶだけでも手伝おう。
△▼△▼△
キッチンに行くと、ちょうどそこから出ようとしたペラスとぶつかりかけた。お互いにギリギリで避けたからぶつからなかったけど、ぶつかったらペラスの手にある料理がグチャグチャになってただろうなぁ。ほんとヒヤヒヤする。
「おはよぉ。なんか手伝うことある?」
「おはようゴザイマス。運ぶのも後少しだけナノデ、クロワは戻ってもらって平気デス。」
「そう?なんか今日は早いねぇ。」
「クロワは起きてきまセンデシタシ、アタくしもリリアンも今日仕事ナノデ早めに準備をしまシタ。」
「え、二人とも今日仕事だったっけ!?忘れてた…ていうか、それなら起こしてよぉ!気付かず寝てた俺最悪すぎるでしょ!?」
「呼びに行ったけど、アンジュちゃんが『クロワさん、昨日夜更かししちゃって今寝てるから出れないの』って言ってたからやめたんだよ〜!」
料理を食卓に運び終わって戻ってきたのか、リリアンが後ろからいきなり声をかけてきた。びっくりした…けど、気になることを言っていた。
「リリアン、アンジュがなんだって?」
飲み物の準備をしながらリリアンが俺が言ったことに反応する。
「え?だから、『クロワさんは寝てるから今無理』ってアンジュちゃんが言ってたから朝呼ぶの諦めたんだよ…?」
アンジュがそんなこと言ってたとは…知らなかった。まぁ確かに、昨日の夜はアンジュの新しい服を作るのを楽しんじゃって寝たのは大分朝方だったけど、それを寝てたはずのアンジュが知ってたことに驚いている。アンジュに気を使わせるなんて俺もまだまだだなぁ。
「…何を考えてるか知りまセンガ、退いてもらえマス?そこを通りたいのデスヨ。」
「あぁ、ごめんごめん。いやぁ…手伝いに来たのに邪魔ばっかしてるなぁ。」
今日はなんだか駄目な日なのかも。これ以上リリアンとペラスの邪魔してもあれだし、リビング戻ろうかな。後少しだから平気ってペラスも言ってたしねぇ。
△▼△▼△
▷アンジュside
クロワさんがキッチンから戻ってきて、食事する時に座る自分の席に座った。リリアンさんが飲み物を用意して、ペラスさんが机を綺麗にして食事を運ぶ。今日は珍しくクロワさんが仕事しないみたいだから「どうして仕事しないの?」と声をかけたいけど、私はいつも仕事しないからそんなこと言うなんて偉そうに感じちゃって何も聞けない。少しくらい手伝いたいけど、クロワさんを怒らせたくないし…。
「どうかしたのか、アン?」
いつの間にか目の前の席に座っていたミラーさんが、私に話しかける。素直にクロワさんのことで悩んでいたと言おうとしたけど、私の隣にはクロワさんが座っているから「俺のせいでアンジュが悩んでる」と思って欲しくなかった。ただでさえ迷惑をかけているのに、これ以上余計な心配も迷惑もかけたくない。
『なんでもないわ。少しお腹が空いてしまったみたい。』
クロワさんに何を聞かれても、ミラーさんに探られても変ではない返答をした。お腹が空いているのは本当のこと、ちょっと困っていただけ。
「そうか。ならいいんだ。」
ミラーさんが私から興味をなくしたように、膝の上に載せているであろう本に視線を戻した。食事の前に本を机に置くと、ペラスさんが怒ってしまうから膝の上に置いているらしい。
準備を終えたリリアンさんとペラスさんが席に座る。何席か座る人がいないから空席だが、誰もそれを気にしない。いつもいない人達だから。ただ、いつもはいる人も今日はいない。
「ごめんなさ〜い!寄り道して帰ってきてたら遅れちゃった…!」
いつもはいる人1、セレノさん。雑貨屋の帰りで寄り道して遅れることはたまにあるから、特に誰も気にしない。
「気にしてないよぉ。でももう料理の準備できてるから手洗って早くおいでぇ。」
「わかったよクロワさん!本当ごめんね!!」
帰ってきたらセレノさんは、クロワさんに言われた通りバタバタと足音を立てながら手を洗いに行った。仕事で大変だろうに、走れる体力があるのは凄いな。
「皆さん、もう揃っていたのですね。まだ6時ですのに。」
いつもはいる人2、ルクアさん。今はもう8時前だけど、なぜかまだ6時だと思っているみたい。
「もう8時前だぞ。きっと時計が壊れている。」
「あぁ、そうなのですね。後で直します。」
また慌ただしい足音と共に、綺麗に洗ってきた手を前に見せつけるようにしながらセレノさんが戻ってきた。
「手洗ってきたよ〜!ってあれ、ルクアちゃんもいたんだ!お仕事してたの?」
「えぇ、先程までまだまだ朝食の時間ではないと思っていました。」
「そうなんだ!ねぇねぇ、僕手洗ってきたしもう朝食の時間だから早く食べよ!」
「セレノが遅れてきたから食べれてなかったんだけどね〜?」
「あは、それは本当にごめん…!」
今この家にいる全員が揃った。他の人達はお仕事だったりして今はいないけど、多分夜になったら帰ってくる。逆に今いるリリアンさんはモデルのお仕事、ペラスさんは清掃のお仕事で今日から二日間いなくなってしまう。寂しいような、安心するような。
クロワさんが作り置きしてくれたものを温めた朝食。スープが、朝の冷たい空気で冷えた体を温めてくれる。
みんな何かしら喋っていて、ずっと賑やかな朝食。嫌々言いながら会話に参加していたり、ノリノリで会話に参加していたり。私は食事中会話に混じれないから、みんなの話を聞いているだけ。
私が人間じゃなかったら。私が喋られたのなら。そしたらここに混じれて、みんなともっと仲良くなれたのかな…なんて、クロワさんに怒られるようなことをいつも考えてしまう。
いつまでもこんな事を考えてしまって、美味しいはずのご飯の味もわからなくなってしまった。