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目次
縁結び屋〜氷の縁結び娘は、初恋に出会う。〜
「ありがとうございました、美氷さん!」
「いえ」
縁結びの氷姫──|兎糸美氷《ういとみひえ》は、縁結びを依頼された男性からのお礼を軽く受け流し、会釈した。
美氷の仕事は、縁結び。
大体は男性から縁結びを依頼され、その男性が縁を結んでもらいたいという女性をいびり、そこで依頼人が「大丈夫ですか」と助け、いい感じになる──というのが今回の仕事だった。
たまに、直感で「ああこの人とは合わなそうだなあ」と思うこともあるが、一応こちらも商売なので、口に出すことはあまりない。
そして、もう一つの稀な仕事──、というかサービスだろうか。
同じような環境で生まれ育ち、纏う空気が似ているふたりがいる。
居るのだとわかる。
そしてその時の美氷は、先ほどしたような仕事をするわけだ。
まあ、そのふたりが結ばれた時は、とんでもなくジト目で見られるわけだが。
(それが、私の宿命だ)
兎糸の家は、全ての能力が使えるわけだが、美氷は物心ついた頃からひとりで、気がつけば縁結び、人と人を結びつけられる能力があった。
さっきの仕事は物理的に縁が結ばれるだろ、と言いたくなるかもしれないが、違う。
美氷の澄んだ縁結びの力がふたりの魂を結びつけ、縁をしっかりと結ぶのだ。
パチン、と指を鳴らす。
美氷の髪が薄い水色になり、そして周りに粉雪が舞い散る。
「流石に水色の髪にこの格好は目立つ、か」
そしてまた、パチンと指を鳴らす。
しかし、何も起こらない。
(うそ…)
いつもなら、神社通りに帰れるはずなのに。
「また仕事を奪ってくれたな、兎糸美氷」
「っ──」
彼の手に持たれていたのは、縁切りの能力の石だった。
縁結びは元々能力がないと使えないが、縁切りは自分に合った能力ならば、石を持つことで縁切りの能力を使うことができる。
しかし、美氷が一番おどろいたのは、
「あのー…あなた、誰ですか?」
「はっ!?」
相手は信じられないとでも言いたいようだが、見たことも会ったこともない。
「名前くらい名乗ってもいいのではございませんか?」
いくらなんでも、美氷を呼び捨てにしたのに、自分は名乗らないなど傲慢だと思う。
「…まあ、簡単に言うとビジネスパートナーになろうとも、ライバルになろうともする存在だ」
(まわりくどい)
名を名乗れと言っているのに、と思った。
「…」
「あー、分かった分かった」
分かったんだったら早く言え。
ここまで激しくツッコミを入れるのは久方ぶりだ。
「俺は雪下拓海(ゆきしたたくみ)。縁切りの石で、縁切りの能力を使える」
雪下、拓海…
頭の中で美氷は彼の名前を繰り返した。
雪下家は確か、兎糸のように先天的な能力は一つもないが、比較的色々な石を扱うことが出来る家系だった気がする。
「…、雪下の方が、私に何の用ですか」
震える声で美氷は言った。
石をたくさん使いこなせるだろう雪下の者が、兎糸の落ちこぼれに何の用だ。
ー「この兎糸の落ちこぼれ!縁結びの能力しか持っていないだなんて、全能力持っている兎糸の家紋に泥を塗ったな!」
頭の奥に、キーンと金属音が鳴るような怒声がまた蘇る。
忘れてしまいたいのに、忘れられない、名前も覚えていない人からの罵声。
そんな一つの言葉に苦しめられてる自分が居た。