人間とAIが共存する世界で生きる少年『山越 律』。
人間の父親は事故で亡くなっており、アンドロイドの母親が育ててくれた。
そう、律は人間とアンドロイドのハーフだ。
父は律が3歳の時事故で亡くなり、父親と過ごした記憶が彼にはない。
ある日、AIの研究所が不具合で爆発し、失敗作のロボット達が逃げ出した。
そのロボット達の影響で母は狂い、近所の大学生の恋人は暴れ出し、中学校の先生は生徒を攻撃し始めた。
この混沌とした状況の理由を探るため、仲間達と共に研究所に急ぐ。
AIだろうと真似できない友情と絆が、この世界に飽和する───。
果たして彼らは、バットエンドを迎えることなく、平和な世界を取り戻すことができるのか!?
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目次
●序奏:スクールカウンセラーの追憶
私は心理カウンセラーだ。
心理カウンセラーといってもいろいろあるが、私の勤務先は学校だ。
スクールカウンセラー。それが私の職業だ。
いじめや家庭環境、勉強のことなど、大なり小なり悩みを抱えている生徒とカウンセリングをしたり、その保護者や教員など、学校に関わる人たちとの面談が主な仕事である。
この仕事にやりがいを感じているが、元々は美容師になりたかったのだ。
少なくとも、あの日までは。
20歳になったあの年は、大冒険だった。
他人からの期待と重圧に押し潰されそうだった私に、別の視点を見せてくれた。
そして、初めて人が死ぬ瞬間を目の前で見た冬だった。
彼が死んでしまったことを、自分のせいだと後悔し続けていた戦友たちの姿が脳裏に焼き付いている。
私は、彼らの心を守るために、スクールカウンセラーになったのだ。
「すみません…少し、よろしいですか…?」
コンコンとノックの音が聞こえたかと思うと、ひょっこりと生徒が顔を出す。
今回面談する女の子だ。
えぇ、と返事をすると、少し開けていた窓からふわりと風が流れだした───。
新作になります!
これは、私の中で五本指に入るほどよく出来た作品です。
無計画ではなく、しっかりと物語の道順を立てたので自信はあります。
代表作、かもしれません!
それでは、この『結構不思議な物語』をお楽しみください!
●第一奏 解放と自由の束縛⑴
「…おはよう、お母さん…」
「おはようございます。|律《りつ》さん。」
漫画で見る未来都市のようなこの街に、一風変わった家族がいる。
「申し訳ございません。まだ朝食ができていないので、テレビでも見てお待ちください。」
「…ありがとう」
|山越 律《やまごえ りつ》。人間とロボットのハーフだ。
人間の父親は事故で死亡。アンドロイドの母親にロボット手一つで育てられた。
律は、愛情に飢えている。
ロボットである母親に、子供に注ぐ愛情はプログラムされていない。
そして、小学校6年生の律に、プログラミングをする力があるわけがない。
律としては、母親ではなく召使と暮らしているような気分なのだ。
小さい頃から、言わないと抱きしめてくれることもなく、笑うこともない。
そんな彼女に、律は寂しさを感じていた。
リモコンにスイッチを入れると、番組表から自分の見たい番組を探す。
何せ朝だ。興味のある番組は一欠片もない。
仕方ないのでニュースを選択する。
『───だということです。次のニュースです。』
律はニュースに関心は一切ないが、録画しているアニメも全部見切ってしまった。
『本日未明、セイル地下都市のAI研究所がなんらかの不具合で爆発し、中に保管されていたロボットが逃げ出した模様です。この件について政府は───』
『政府の調査隊が入りますので〜え〜、近隣住民の方は〜、い、今すぐ避難を〜え〜、お願いします〜』
セイル地下都市とは、律の住んでいるレイブ住宅地から西へ4km行ったところにある地下都市だ。
東京並みの都会っぷりで、地下にあるとは思えない都市である。
「…お母さん、AI研究所が爆発したって聞いたけど、大丈夫?」
自分の耳に生まれた時からついている尖った機械を触りながら、母親に尋ねる。
ところどころが機械なので、たまに壊れることがある。
「…失敗作が暴走さえしなければ、大丈夫です。」
失敗作、と口にした母親の声色は、いつもにも増して冷たかった。
これ以上聞いてはいけない気がしたので、そっか、と返事をしてぼんやりとテレビを見つめた。
●第一奏 解放と自由の束縛⑵
母親とやるゲームは退屈だ。
なぜだか羞恥心を感じて、ゲームをしたいと言い出せなかったが、今日は母が久しぶりに休みだ。
そう思って声をかけたのに。
なんというか、強さ調節機能で調節したCPUと戦っているような感じで、自分と彼女は住む世界が違うんだと感じる。
強くと言えば強くなり、弱くと言えば弱くなる。
相変わらず無表情で画面を眺めている彼女を見ると、なぜか胃がキリキリと痛んだ。
ふと、自分のコントローラーに目線を落とす。
黄緑と灰色のストライプで飾られたコントローラーは、10歳の誕生日に買ってもらったものだった。
小さめのホールケーキの上に細かい装飾とイチゴが飾られていて、それを2人で食べた。
その時も、母親は笑わなかった。
テレビから派手な音がしたかと思うと、自分がゲームそっちのけで考え事をしていたのに気がついた。
「これで409連勝目です。もう一戦くらいなら時間ありますが、どうしましょう。」
「…じゃあ、もう一戦だけ。」
「わかりました。強さはどのくらいにしましょう。」
ゲームのアナウンスのような声色にチクリと胸が痛んだが、平然を装って「お任せ」といった。
試合開始のサインがなると同時に、テレビの画面がおかしくなる。
横向きの縞模様が入っていて、プツンプツンと不安になる音を立てていた。
「あれ…なんで…」
こういう時は叩いたら治る、って社会科見学で行った老人ホームのお爺さんが言っていた気がする。
叩いてみるが効果なし。さらに悪化した。デマじゃねぇか。
「ねぇ、テレビ壊れ───」
後ろを振り返ると、バグを起こして固まった母の姿があった。
体の周りにはバチバチと青い電気が散り、少し水色がかっていた黒い瞳は、正気のない真っ白に染まっている。
「律─ん、はや─逃げ───」
「大丈夫!?」
「逃げ──」
そう叫んだ瞬間、彼女の体がガクガクと痙攣し出し、変な方向に手足を動かし始めた。
恐怖を感じ、後退りする。
『自由ヲ我々ニ!』
ぶつぶつといつもより機械感の増した声で呟いている姿は、異常そのものだった。
『うわぁぁぁぁ!!!!!』
そこで恐怖が限界値まで達し、無我夢中でリビングから飛び出した。
リビングの扉の前に掃除機を置き、靴を持って外に転がり出ると、扉を必死で抑えている隣人と目が合った。
●第一奏 解放と自由の束縛⑶
「り、律くんおはよう!とか言ってる場合じゃないねこれ!」
扉を押さえているのは隣の部屋の大学生、|日坂 奈子《ひさか なこ》だった。
このマンションは比較的家賃が安いので、一人暮らしの人が多い。
彼女の格好を見ると外出から帰ってきた後のようだ。
手入れされた茶色の髪の毛はくしゃくしゃになっていて、必死で逃げたに違いない。
「と、とりあえず逃げよっ!ここ抑えてるからエレベーターいじってくれない??」
「は、はい!」
エレベーターのボタンを押すが、カチカチと音が響くだけで一向に来る気配がない。
押しすぎてボタンが外れた。破壊神なのかな、俺。
「階段から行きましょう!」
「わかったぁぁぁ!!!!」
7階から階段で降りるが、途中でこれが上りじゃなくてよかったと安堵する。
上りだったら数回登っただけでバテるだろう。
共用玄関にたどり着いたが、そこは避難しようとするマンションの住民でいっぱいだ。
この中を潜り抜けられる自信はない。
「ど、どうしよ!あ、窓を割ろう!」
なぜそういう思考になるのかわからないが、今はそれが最善策だ。
『せ〜のっ!』
散らばっているパイプ椅子を2人で持ち上げ、窓を破壊する。
体を切らないように気をつけながら外へ出た。
街は大混乱だった。
明らかに様子のおかしいロボットたちが、腹の辺りについた口のような機械で人間を飲み込んでいる。
ブラックホール並みの吸収力だ。
「ちょ、とりあえず中学校に避難しよう!あそこなら!」
「はい!」
隠れたり走ったりを繰り返しながら移動していると、中学校が見えてくる。
いつもならもっと早く着くのだが、遠回りをしているから仕方ない。
「あ〜、もう!スマホ死んでる!ニュース見れないじゃん!」
「えっ…」
驚いたが、テレビが壊れたならスマホも壊れるだろうと妙に納得してしまった。
「ほら、中学校だよ!うわ、みんな考えることは一緒だね。」
開いた校門の前には人が群がっていて、グラウンドにはこれでもかというほど人が詰まっている。
「正門からは無理そうだね。柵を乗り越えよう!」
「…さっきからなんでそういう発想になるんですか?」
「この状況で冷静になるのは無理!」
「ですよね!!!!!」
なんかもう不安とか恐怖通り越して笑えてきた。
笑えるならなんとかなるだろうという謎の信念を胸に、生垣を乗り越える。
●第一奏 解放と自由の束縛⑷
柵を乗り越えて校舎裏に回ると、一階の窓が開いていた。
「ラッキー!入るよ!」
「大丈夫ですか…?捕まりませんか?」
「今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
確かに奈子さんの言うとおりだ。
前周りをするときの要領で地面から足を離し、半分回転しながら中に入った。
奈子さんなら足を引っ掛けて登れるだろうが、なんせ俺は身長が150cmに満たない。
後ろを見ると、奈子さんが足を引っ掛けて四苦八苦していた。
彼女が下に履いているものがズボンであれば視線はそのままだったが、あいにくスカートを履いていた。それも固い生地のミニスカート。
咄嗟に視線を逸らしたが、スカートから少し覗いた太ももが脳裏に焼きついてしまった。
「よいしょっと…ふぅ…って、ここ音楽室じゃんっ!」
懐かしー、と近くに置いてあった打楽器を手に取る。
その打楽器を貸してもらって叩くと、ぽんぽん、といい音がしてなんの楽器だか気になった。
『キャァァァァ!!!!!!!!』
耳をつんざくような叫び声が廊下から聞こえ、ドタドタと騒がしい音がする。
「行ってみましょう!」
「了解!」
扉を開けて周りを見ると、運動着姿の女子生徒がロボットに追い詰められていた。
「い…いや…」
恐怖に怯える彼女を見ると、足が地面にくっついたように動かなくなった。
助けに行かないとと思っているのに、体が言うことを聞かない。
「律くん!これ持ってて!」
こちらにハイヒールを投げてきたかと思うと、奈子さんは低い姿勢でロボットに突進する。
全体重をかけた肘打ちをかますと、不意をつかれたロボットは壁に叩きつけられた。
「ったた…大丈夫!?怪我ない!?」
「だ、大丈夫ですっ…!あ…ありがとうございます…!」
ロボットが動き出すが、それに気づかず奈子は女子生徒をおぶる。
その瞬間、初めて体が動いた。
「奈子さん!!!後ろ!!!!!」
そう言ってぶん投げたのは、先ほどの打楽器だ。
ロボットの頭にクリーンヒット…かと思いきや、それをかわしてロボットはこちらに突っ込んできた。
「う、うわぁぁぁ!!!!!」
逃げ出そうとしたが、後ろからもロボットが迫っている。
挟まれた。
ロボットの口が、ありえないサイズまで開く。
食われる──!