ここはクソみたいな校則しかない高校に入学した主人公の杏童(あんどう)が、色んな目に遭いながら仲間達と一緒に『チカラ』を使って卒業を目指す物語!
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目次
第一話 我らの死ぬ気の入学式(前編)
桜が散りかけ、新緑が眩しい四月某日。
俺――杏童(あんどう)は、憂鬱な足取りでその門の前に立っていた。
『甲羅伊(こうらい)高校』。
そう看板が見える。
今年から俺が通うことになった、偏差値の代わりに「理不尽さ」だけが日本一と言われる狂った学び舎だ。
門の前には、すでに気絶しかけている新入生や、冷徹な目で生徒を監視する風紀委員の姿がある。
――なんでこんなクソみたいな学校を選んだのかって?
理由は簡単だ。家の近くで、**一番偏差値が低かったから**だ。
だが、入学してから知った。
この学校、偏差値が低い代わりに「校則」のヤバさが世界基準だったということに。
「おい、そこの新入生! 止まれ!」
背後から怒鳴り声が飛んできた。
振り返ると、腕章をつけた3年の先輩が、怒髪天を衝く勢いで走ってくる。
名札には、『従物(しゅうの)』と書かれている。
「なんだよ」
俺は言い返す。
「なんだとはなんだ! お前、今右足から一歩を踏み出ただろ!」
「……それがどうかしたのか?」
「甲羅伊高校・生活指導第42条! 『登校時は必ずカニ歩きでなければならない。違反者はその場で側転1000回』を知らんのか!」
――は? カニ歩き?
開いた口が塞がらないとはこのことだ。正門から校舎まで、どう見積もっても200メートルはある。
そこをカニ歩きで進めだと? そんなことをしたら、入学式を迎える前に俺の肉体が先に死ぬ。
「冗談だろ……」
「冗談に見えるか! このボケナスが! さあ、今すぐ側転の準備をしろ!」
先輩が青筋を立てて詰め寄ってくる。周りの新入生たちは「関わり合いになりたくない」とばかりに目を逸らし、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
(クソッ……! 初日からこれかよ。こんな理不尽に屈してたまるか……!)
俺の心の中で、黒いマグマのような感情がフツフツと沸き上がる。
一般人ならここで絶望して側転を始めるところだが、俺には隠し手があった。
――『チカラ』。
この世界の人たちはみんな持っている、特殊な超能力。物質を操り、空間を歪め、理不尽をねじ伏せるなど、人間によってチカラの効果は様々だ。
「……先輩」
「なんだ、言い訳か?」
「いや。ちょっと、足元を見てほしいんだ」
俺は静かに目を閉じ、右手の掌を地面にかざした。
脳内でイメージする。目の前にあるアスファルトの摩擦係数をゼロにし、さらに風圧で先輩の体をふわりと浮き上がらせる。
そう、これは俺のチカラ。『摩風』。摩擦と風を操る。
「うおおっ!? なんだこれ足が! 足が勝手に浮くぞ!?もしやお前、風関連のチカラ持ちか!?」
先輩の体がポスッと宙に浮き、そのままカニ歩きの姿勢のままくるくると回転しながら後方へ吹き飛んでいった。まるで目に見えない巨大なファンに煽られたかのように、彼は綺麗に植え込みへとダイブする。
「ぐはっ…!」
俺はジャケットの襟を正し、何食わぬ顔でこう言い放った。
「すいません、ちょっと先輩を浮かせちゃいました。一応これ、チカラなんで合法っすね。」
「な、なんだと……?」
「それじゃ、入学式に遅れるんで。失礼します」
俺は普通の歩幅で、堂々と正門を通り抜けた。
背後で先輩が「あいつ、ヤバいぞ……新入生の中に化け物がいるぞ!」と叫んでいる声が聞こえたが、無視だ無視。
校舎の玄関にたどり着くと、そこには「校長式辞」と書かれた看板と、巨大な大理石の階段が待ち構えていた。
だが、その階段の前に、またしても信じられない貼り紙が貼ってある。
【重要】本日の入学式に関するお知らせ
本日は雨天ではないものの、校長の気まぐれにより、新入生は全員**「ほふく前進」**で体育館へ向かうこと。
……おいおい、ふざけやがって。
俺は呆れたようにため息をつきつつ、自分の掌をチラリと見つめた。
「……まあいいさ」
このクソみたいな校則と、理不尽な教師や生徒たち。
そのすべてを俺の『チカラ』でぶっ飛ばして、絶対にこの学校を平穏無事に卒業してやる。
波乱万丈すぎる俺の高校生活の幕開けは、こうして泥まみれのほふく前進とともに、盛大に(そして無理やり)切って落とされたのだった――。