トランサーチェイサー 第1章
編集者:風野芽衣明
これは元の人間に戻りたいと願う探偵と その仲間たちの物語。
トランサー鎖(チェイン)こと睦月 燐(むつき りん)
トランサー消(イレイズ)こと睦月 凍矢(むつき とうや)がメインのお話です。
1話分をいくつかに分けて書いております。
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目次
鎖(チェイン) ①
新シリーズ公開です!!
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キャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。左手で触れたところから鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。普段は燐の視覚を通して行動を見守っており、体調などのモニタリングを行う。
索敵能力に加え、右手からは あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
勝手に人格交代をしてしまうこともあるが、燐の安全を第一に行動している。
・九条晴翔(くじょう はると) 警視庁捜査一課に配属された新人刑事(階級は巡査部長)
警察の力を過信している。
とある廃工場・・・
もう何年も前に廃業となり 鉄くずや錆びた大型機械等が散乱していた。穴のあいたトタン屋根から月の光が差し込んでいる。
「どこへ行きやがったぁーーー!!! 出てきやがれ!! 俺の刃のサビにしてやるぜ!!!」
刃に変わっている腕を大きく振り回し、一斗缶等を蹴り飛ばしながら男が大声をあげている。
「・・・・・」
2階部分では 手すりに手をかけ、その様子を見る人影がいた。赤い左眼をもつ女性だった。
「(この工場が2階建てだってことに気づいてないのかな?)」
「(あえて言う必要もあるまい、ああいう奴ほど単純な動きしかとらないから扱いやすい。やるなら今のうちだぜ? |燐《りん》)」
「(そうだね、攻めるなら今か。|凍矢《とうや》)」
意見がまとまると 左手の中指を右肩に押し当てる、すると鎖が引き出された。月の光を反射しキラキラ光っており、重力に逆らいフヨフヨと燐の回りを漂っている。左手を身体の前に構えると……
「凍矢!! 行くよ!」
「(ああ! サポートは任せな!!)」
燐と呼ばれる女性が声を出した瞬間、脳内に男性の声が響く。
「!!! 上か!!」
声に気づいた男が見上げた時には遅かった。手すりを軽々と飛び越え、2階から飛び降りると 左手の鎖を男に向けて振り下ろした。
--- 4月1日 午前9時 逢間市のとある公園 ---
規制線が貼られ、鑑識や刑事達、警官たちが慌ただしく動いている。
「お疲れ様ですっっ!!!」
元気な声が聞こえてきた、|九条晴翔《くじょう はると》巡査部長だ。
「えっと…… いた!|浪野《なみの》警部!!!」
現場で陣頭指揮をとっている|浪野章三《なみの しょうぞう》警部を見つけ、声をかけ、すぐさま敬礼する。
「本日付で警視庁捜査一課に配属となりました。九条晴翔巡査部長です! これからご指導ご鞭撻の程 よろしくお願いいたしますっっ!!!」
「こうして共に捜査できる日が来ようとはな、九条。 そこにいるのが被害者だ。戻すなら別の場所でしろよ」
そう注意を促し、被害者の元に案内する。
「ッッッ!!? これは……!?」
身体の前面に大きな爪痕が3本。即死の死体だった。
「(………この爪痕、動物の爪では無い。けど、こんな大きさの鉤爪なんて見たことないぞ。どうやってこんな傷が?)」
晴翔は臆することなく事件現場を調べる。
「ほう? 現場を見るのは今日が初めてのはずだが なかなか肝が据わってるな。しかし、《《トランサー》》の事件となればこちらの出る幕は無いな。九条!!」
浪野警部は晴翔の様子を見ると呼びつける。
「この現場の状況をまとめて【ある人物】の元へ届けてくれ。」
「ある人物……ですか?」
「この手の事件の専門家だ。 |睦月燐《むつき りん》。またの名を【トランサーチェイサー】」
「と、トランサー……チェイサー……?」
---
浪野警部に住所を教えてもらい目的地に着いた。
司法書士事務所や弁護士事務所なんかが入っている普通のビル、ここの3階に目的の事務所があった。【睦月 探偵事務所】 とプレートが設置してある。ゴクッと唾を飲み込むとチャイムを鳴らす。
応接スペースのソファに寝転がっていた人物がチャイムに反応し目を覚ます。
「……。ようやく来たか」
「九条晴翔巡査部長だな? 浪野警部から話は聞いてるぜ? まぁ 入ってくれ」
ガチャっとドアを開け話しかけられる。
「(こ、この人が睦月燐さん?)」
晴翔が驚いた原因は【身長差】であった。晴翔の身長は172センチ 男性の平均身長くらいである。しかし 晴翔が目の前の人物の顔を《《見上げていた》》。おそらく180センチ以上ある。モデルのような端正な顔立ちをしていたが、女性にしては男っぽい話し方だな という点は気になった。
事務所の応接スペースに通され、椅子に座る。
ごく普通の事務所……という印象で、奥ではコーヒーが準備されてる。
「コーヒーは大丈夫だったか?」
「あ、ああ。お構いなく……」
2人はコーヒーを飲み終えると、女性の方から話しかける。
「改めて自己紹介させてもらうよ。俺は|睦月凍矢《むつき とうや》、 燐のもう1つの人格だ。よろしくな、九条晴翔巡査部長?」
両手の指先を合わせ、スっと見据えるように晴翔を見て自己紹介した。
「睦月……凍矢?? 俺?? あなたは女性ではないんですか・・・???」
疑問しか湧かなかった。
「まさか浪野警部、俺の事を伝えてねぇのか? 燐のことは何か言ってたか?」
凍矢も頭に「?」が浮かび、事実確認をした。
「睦月燐、またの名を【トランサーチェイサー】。事件の調査書類を届けてくれ とは|託《ことづ》かりましたが・・・」
「なるほどな、まさか俺のことが伝わってなかったとは(汗) 分かった。今 燐を呼んでくるから少し待っててくれ。《《叩き起こしてくる》》」
そう言うと凍矢はスっと目を閉じる。少ししてうっ と|呻《うめ》き声が聞こえると、目が開かれる。
「もう、叩き起こすことないじゃん……。あっ・・・!! お、おはようございますっっ!!! 睦月 燐です……」
来客の姿を見て慌ててお辞儀をする。
さっきの凍矢とは口調も表情も全然違う、女性らしい感じだった。
こうして、九条晴翔は|後《のち》にバディを組むこととなる燐/凍矢と初めて出会った。しかし、この時の晴翔はまだ知らなかった、2人が《《人間では無い》》ということに……。(ナレーション風)
新シリーズ「トランサーチェイサー」開幕です。
別シリーズである「永遠に続く よき夢を」に出てきた九条アオナと九条刑事は全くの無関係です
(・∀・)
鎖(チェイン) ②
トランサー事件に遭遇した九条刑事。しかし、浪野警部は専門家である燐を頼る。
その燐も人間ではなかった・・・
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今話のキーキャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。左手で触れたところから鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。普段は燐の視覚を通して行動を見守っており、体調などのモニタリングを行う。
索敵能力に加え、右手からは あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
勝手に人格交代をしてしまうこともあるが、燐の安全を第一に行動している。
・九条晴翔(くじょう はると) 警視庁捜査一課に配属された新人刑事(階級は巡査部長)
警察の力を過信している。
|晴翔《はると》は封筒から概要をまとめた書類と写真を数枚見せた。被害者の状態 犯行現場の状況なと事細かに書いてあった。|燐《りん》が写真を眺めて能力を推察する。
「確かにこれはトランサーによる犯行ですね。おそらく能力は|刃《スラッシュ》。自身の身体を鋭い刃物に変えることができます。今回の場合なら巨大な鉤爪へと変えたんでしょう」
「そ、その……トランサーってのは一体何者なんですか? 俺、今までに聞いた事なくて」
これまでに聞いたことの無い単語【トランサー】 燐はトランサーによる事件の専門家であると|浪野《なみの》警部は言っていたが、どういうことなのかさっぱりだった。
「簡単に言えば人の姿をした《《化け物》》のことさ」
声に表情、雰囲気が一瞬で変わる。|凍矢《とうや》に人格交代したようだ。
「傷口からトランサーの血が一滴でも入ってしまえば、ソイツも同じトランサーに|変貌《へんぼう》する。九条刑事…… 悪いことは言わない。もう《《手をひけ》》、俺達に後のことは任せるんだ。」
「手をひけ……? 後は任せろ……? 冗談じゃない!!!」
晴翔は右手で握り拳を作ると テーブルをバンッと強く叩いた。凍矢は握りこぶしを静かに見たあと スっと睨む。
「俺は警察だ……。いくら専門家とはいえ《《民間人》》に全てを任せるなど出来ないっっ!! こっちはこっちで動かせてもらうからな!」
「民間人……。そうですか、分かりました。ただ、これだけは言わせてください。人間はトランサーには絶対に勝てません。トランサーに変貌した瞬間、身体能力は格段に上がり特殊能力も持つ。 《《化け物》》には《《化け物》》の力をもってしないと勝てない、絶対に関わらないでください」
いつの間にか 燐に戻っていた。
「……失礼します」
晴翔は一礼すると事務所を後にした。
「(言わなくてよかったのか? 燐)」
「今言ったところで信じないと思うよ、私達も同じ《《化け物》》だって。それに…… 否が応でも 目にすると思う、|鎖《チェイン》も|消《イレイズ》も」
「(……俺は|刃《スラッシュ》の場所を探る。ゆっくり休んでな、燐)」
「うん、後はお願いね 凍矢。いざとなれば私の身体、使っていいから」
「(いや、その機会は無いだろうな。あれだけ大きな武器に変換させたんだ、回復するまでは動けないさ)」
「それもそっか……。じゃあお言葉に甘えて私は奥で休んでるね。おやすみ、凍矢」
「(おやすみ、燐。いい夢を)」
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次の日、警視庁の屋上では浪野警部と九条刑事が電子タバコを吸いながら話していた。
「警部、睦月さんが言ってたんですが 人間がトランサーに勝てないってホントなんですか……?」
「ああ 本当だ。奴らに警察の銃火器の|類《たぐい》は効かない。不死身の化け物共だからな」
「なら……なら俺達の存在意義はないじゃないですか! 異形共から市民を守るために俺は警察になったのに……」
「餅は餅屋 適材適所 と言うだろう。そんなに自分の力が通ると信じているなら1度トランサーに対し撃ってみるといい。無力だ ということが思い知らされ、呆気なく殺されることになるがな」
「ッッッ!! 失礼します!」
浪野警部に敬礼し去っていった。
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燐は閑散とした住宅街にいた。
「(奴の出現ポイントはこの周囲だ。燐、やるぞ)」
「幸い、人も少ないしね。行くよ!凍矢」
燐はポケットから《《青い血》》が入ったボトルを取り出すとカパッとフタを開ける。
「さぁ来い……。トランサー!」
「血が 血の匂いがする……。【|原初《げんしょ》の王の血】が……」
5分しないうちに フラフラと血の匂いにつられ 男が現れた。
「(奴が|刃《スラッシュ》だ! 短期決戦で……ん? この気配は…… まさか!!!?)」
「全員動くな!! 手を上げろ!!!」
そこに現れたのは拳銃を構えた九条刑事だった。
「は、晴翔ーーーー!!!?」
「(なんでテメェがここにいるんだよーーー!!!?)」
2人が同時に叫ぶ。
「なんだ、腰ぬけの警察か。 ククク、撃てるもんなら撃ってみろよ」
|刃《スラッシュ》は腕を大きく広げ大の字のような姿勢で挑発すると、ギリっと歯を食いしばり 晴翔は2発銃を撃った。
「警察の力、舐めんじゃ……な……」
傷口はすぐに塞がってしまった。
「痛ってぇな 刑事さんよぉ。不死身とはいえ痛いもんは痛いんだよ!! しゃらくせェ、次の獲物はテメェだぁーーーー!!!」
右腕を鋭い刃に変えるとブンっと振り回し衝撃波を飛ばしてきた。
「(ちっ 晴翔がいるが、やるしかねぇか!! 燐!行くぞ!!!)」
燐は地面をバンっと蹴ると晴翔の前に立ち、左手の中指を右肩に押し当てる。鎖を引き出し、衝撃波を虚空へ打ち返した。
「ううっ…… えっ? 俺、生きてるのか……?
!!! り、燐? 助けてく……れ……た……
!!!? そ、その鎖は!!?」
「正直見せたくはなかった。私も凍矢もトランサー 、《《化け物》》だから」
燐は 死の恐怖により腰が抜けてしまった晴翔の方へ振り返り見下ろしている。その左眼は茶色から赤色に変わっていた。
「き、君もトランサー だと……!!?」
「|鎖の追撃《チェイン パシュート》!!」
燐が左手を前に突き出すと|刃《スラッシュ》に向かって鎖が飛んでいく。まるで生き物のように動いて|刃《スラッシュ》を拘束する。左手をスっと後ろに引くと鎖は4本に分かれ地面に突き刺さる、完全に拘束が完了した。
「あとは俺に任せな」
凍矢に人格交代すると一瞬で距離を詰め |刃《スラッシュ》に右手のひらを向け「|消《イレイズ》!!」と叫ぶ。眩しい光が放たれ、|刃《スラッシュ》の腕は元に戻り 気を失ったようだ。
「これでトランサーの血は完全に消えた。あとは警察に任せるとするか」
振り返って歩いてきた時には右眼が赤くなっていた。
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男はぐったりした様子で警察に連れていかれた。
「これで事件解決っと……。あとは……」
腕を組み ギロっと晴翔を睨みつける。
「何故 この場にいた? 俺達がいなければお前は死んでたんだぞ!!」
「警察として 事件を解決したかった…… それだけだ!! ぐっ……!!」
身体が締め付けられる痛みを感じた。いつの間にか燐が前に出てきて 鎖を放っていたのである。
「あなたの前には2つの選択肢がある。
今ここで私に絞め殺されるか トランサーに関する全ての記憶を消して生きるか。トランサーと戦うには同じようにトランサーになるしかない、もし望むというのであれば直ぐにでも変えてあげる。 ……トランサーと戦ってた所を見て、良いトランサーだと思った? 私は私の目的のために戦う、それだけだよ。
凍矢の|消《イレイズ》を使えばトランサーに関する全ての記憶を消せる。ついさっきの【死の恐怖】がフラッシュバックしてしまったら 生活に差し支えてしまう、記憶を消せば 1人の刑事として これからも生きられる。 さて、どうする? 九条晴翔刑事!!」
「トランサーにはならない、だけど トランサー事件を俺も解決したい。俺が戦えないのなら 燐の、 燐と凍矢のチームに入れてくれ!!!」
「!? 即答かよ。 ……くっ、ククククク。はっ、ハハハハハ!!! 1歩も引かず、チームに入れてくれ とはな!! 面白いやつだよ、気に入った!! だが、これだけは覚えておけ。トランサーにはトランサーの力しか通じない。人間である晴翔はトランサーに《《絶対に手を出すな》》、後方支援として力を貸してくれ!」
「……あ、ああ!」
燐と晴翔はグッと手を握った。
「改めて…… 睦月 探偵事務所所長、そしてトランサー|鎖《チェイン》の睦月 燐です」
「燐のもう1つの人格であり トランサー|消《イレイズ》、睦月凍矢だ」
「警視庁捜査一課 九条晴翔巡査部長です。燐に凍矢、これからよろしく!」
人外と人間によるチームが誕生したのであった。
技の名前は基本グーグル先生の直訳ですwww
燐や凍矢はトランサーの力を使わず生身で戦う場合もフツーーーーに強いです(・∀・)
そこは特撮戦士たちと同じです!
凍矢が消す範囲は、完全に凍矢のさじ加減です。
鞭撃(ウィッピング)①
燐(凍矢)と正式にバディを組んだ九条刑事。
トランサー事件のない穏やかな日々を過ごしていた。
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今話のキーキャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。左手で触れたところから鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。普段は燐の視覚を通して行動を見守っており、体調などのモニタリングを行う。
索敵能力に加え、右手からは あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
勝手に人格交代をしてしまうこともあるが、燐の安全を第一に行動している。
・九条晴翔(くじょう はると) 警視庁捜査一課に配属された新人刑事(階級は巡査部長)
トランサーという異形の存在を知り、事件解決のため、燐と捜査協力関係(バディ)を結んだ。
|燐《りん》とのバディを組んでから数日が経過した。トランサーによる被害報告はなく、その間は普通に刑事として事件捜査を行っている。トランサー事件の第一人者である|浪野《なみの》警部。4月からトランサー事件に関わることになった|九条晴翔《くじょう はると》。晴翔は捜査一課の刑事でありながら【異形犯罪捜査係】の刑事も兼任することになった。
「キャァァァ!!!」
晴翔が現場捜査をしていた時だった。
女性の悲鳴が響きわたり、現場に向かうと 脆くなってしまった石柱が崩れ 女性に倒れかかっていた。
「危ないっっ!!」
助けに入ろうとした瞬間、どこからともなく鎖が飛んできて石柱を掴み取る。それも《《たった1本の鎖で》》。
「さあ、今のうちに逃げてください!」
晴翔が立ち去るように優しく声をかけた。
「……助かったよ、まさかこんなとこで出くわすとはね。燐!」
石柱を安全なとこにスっと置くと 軽い土煙がたつ。そこに居たのは赤い左眼をした燐だった。
「たまたま出かけてたら悲鳴を聞いたものでね、間に合ってよかったよ」
左眼はいつの間にか元の茶色に戻っていた。
「燐のその目、もしかしてトランサーの能力を使う時だけ 色が変わるのか?」
「うん……。|鎖《チェイン》の場合は左眼が、|消《イレイズ》の時は右眼が変わるの。どっちの目が赤いか で主導権を握ってる人格がわかるから弱点もバレてしまう、だからトランサーとの戦いはいつも短期決戦なんだ」
左眼を隠し、前髪をクシャッと握っている。親指には見慣れない指輪が付いている、最初に出会った時には気づかなかったが |刃《スラッシュ》との戦いでも着けていた。
「燐、その指輪は?」
「気づいた時には着けてたんだ。多分私をトランサーに変えた《《奴》》が着けさせたんだと思う……」
透明感のある紫の指輪だった。
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2人は|逢間《おうま》市の大通りを歩いている。
「実を言うと、もう18年もの付き合いなんだよ。この|鎖《チェイン》とは」
「18年……!? 18年も姿が変わっていないってことは 歳をとっていないのか!? まさか不老不死!!?」
「ふ、不老不死? いやいや、トランサーは不死の存在ってだけだよ!! 歳をとるけど死なない、いや【死ねない】と言った方が正しいのかな」
「燐……」
「前はごめんなさい。無抵抗のあなたを拘束し、脅迫するようなことを言ってしまって……
(トランサーと戦うには同じようにトランサーになるしかない、もし望むというのであれば直ぐにでも変えてあげる。)
私は、これ以上 トランサーの力が拡がるのを抑えたい。これ以上被害を出したくない。ああすれば 晴翔はトランサーへ関わることを諦めてくれるかなって……。街の人たちや晴翔が護れるのであれば私は喜んで |力《チェイン》を使う、そう決めたんだ」
とても晴れやかで にこやかな顔をしていたが、その表情は直ぐに崩れてしまった。
「うぐっ……!」
突然、燐が苦しみ両手で頭を押さえている。
「燐……!? どうした……んだ……」
燐は両手をダランと垂らし、ユラっと上体をあげると晴翔をスっと見下すように睨みつける。不敵な笑みを浮かべ、|嗜虐心《しぎゃくしん》も見えている。
「よぉ、晴翔」
|凍矢《とうや》が出てきた。
「燐には悪いが代わらせてもらった。ちょっと|面《つら》を貸せ」
そう言うと、人気の無い路地まで向かい、腕を組むと壁にもたれかかり見下ろすようにして立つ。
「……燐は ああ言っていたが俺にそんな気は無い。俺が護るのは燐だけだ」
「凍矢……どうしてそう思うんだ?」
「燐の【悲しみと恐怖の感情】から生まれた存在、それが俺だ。燐が7歳の時にトランサーに変えられたが、それ以前から! 回りの人間共から どれだけ酷い目に遭わされてきたか……!! 俺にとって最優先は燐の安全。それ以外の、市民の安全なんかは《《ついで》》だ。もし、燐の安全を脅かすというのであれば警察とて容赦はしない」
「それは|警察《オレたち》に対する脅迫か……?」
「脅迫? くっ、ククク。ハッハハハハハハ!!」
顔を覆うようにして笑うと目をカッと見開き 強く睨みつけるようにして晴翔を壁ドンした。
「バカなことを言ってんじゃねぇぜ? 脅迫ではなく忠告と言ってくれよ。俺が今|消《イレイズ》を使えば晴翔の存在を《《人の記憶からもデータからも抹消すること》》だって出来るんだよ。何時でも消せる相手を脅したところで意味ないだろ?」
改めて晴翔は感じ取った。隣で一緒に歩いていたのは《《人間ではない、人間の姿をした異形である》》ということを……。凍矢は壁からスっと腕を下ろした。
「……悪かったな、急にこんなことしてしまって」
最後の凍矢の言い方は とても儚い感じがした。
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「と、凍矢があんな力ずくで代わるなんて。初めてかも……」
頭を押さえながら燐が戻ってきた、ハァ ハァと息が上がり 玉のような汗が流れている。
「晴翔…… さっきの所まで戻ろう?」
「あ、ああ」
促されるように大通りまで戻る。
「(凍矢……。 お前はそんなに冷酷なやつだったのか……? 燐以外護る気は無いって……)」
忌み嫌う力でも 周りの人を助けられるのであれば使う!! が燐の気持ちであり、この力は燐を護るためだけに使う それ以外の奴はどうだっていい が凍矢の気持ち でした。
ちなみに鎖1本でも100kgくらいは余裕で持ち上げられます。鎖の本数が多ければ耐荷重は増えますが鎖そのものが太く重くなるためコントロールがしにくくなる という弱点付きです。
今はまだ燐と凍矢の2人だけですが、今後 共に戦う仲間が増えていきます(・∀・)
(スーパー戦隊だったり、ライダーみたいに)
感覚的には今のブンブンジャーのように回を追うごとに少しずつ増えてく感じですね。
このままほのぼのと終わるような小説を書く私ではございません と(・∀・)
ちゃんとトランサーくんには街を襲ってもらいましょう と(・∀・)b 次回をお楽しみに!
鞭撃(ウィッピング)②
トランサー事件のないある日、たまたま出くわした燐と晴翔。
燐は人を助ける為ならば喜んで力を使うと言うが、凍矢はそう思ってはいなかった・・・
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今話のキーキャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。左手で触れたところから鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。右手からは あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
燐の安全を最優先にしており、街の人を護る気は無いと 晴翔に明言した。
・九条晴翔(くじょう はると) 警視庁捜査一課に配属された新人刑事(階級は巡査部長)
トランサーという異形の存在を知り、事件解決のため、燐と捜査協力関係(バディ)を結んだ。
路地を抜けて大通りを歩くこと数分。突如 |燐《りん》の足が止まり、周囲を見回すと苦虫を噛み潰したような顔をした。
「ちっ、こんな人通りの多いところでおっ始める気か? 野郎め…… いい趣味してやがるな」
「|凍矢《とうや》、まさか…… いるのか? こんな繁華街に…… ⁉」
|晴翔《はると》も凍矢の表情を見て気づいた。
「すぐに避難誘導や警戒態勢をしく。2人とも気をつけろよ!!」
晴翔が連絡を取るため その場を去っていく。
「さて、やるぞ。燐!!」
「(凍矢、さっきのあの言葉…… 本当なの? 護るのは私だけだって…… )」
「ああ、本当さ。俺は燐の|守護者《ガーディアン》。燐の前に立ちはだかる障壁は全て打ち砕く、そのためにこの力は使う」
「(凍矢…… )」
燐と凍矢は記憶だけでなく感覚も共有している。燐が見たものは凍矢も見ている、凍矢が聞いたことは燐も聞いている…… 。凍矢が主導権を握っていた間、晴翔との会話を精神世界で聞いていた燐は複雑な気持ちをしていた。
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**カパッ**
青い血が入ったボトルの蓋を開け、掲げようとした瞬間 前方から素早い鞭が飛んできた。後方へ大きくジャンプし避ける。どうやらトランサーが見つかったようだ。|刃《スラッシュ》と同じく、身体を武器に変換するタイプ、しかし今回の場合は長くしなやかな鞭。燐にとってあまり相性は良くなかった。
バシィィン、バシィィン…… 。
鎖と鞭がぶつかり合う音が響くが、燐の方が押されている。なぜなら燐は〈左手からしか鎖を生成することが出来ない〉からである。対して|鞭撃《ウィッピング》は両手とも変換できる。2本の鞭に対し1本の鎖…… 軌道をそらすのが限界だった。
「オラァ!! そっちがお留守だぜ!!!」
燐の右脇腹に強い衝撃が走った。骨までは達していないようだが、あまりの痛みに膝をついてしまう。
「燐・・・ 燐ーーーーー!!」
精神世界では凍矢の叫びが虚しくこだましていた。バイタルモニターでは「|Danger《危険》 |Danger《危険》」という文字が浮かび、精神世界は赤色で包まれていた。燐が重傷を負ったという合図だ。すぐさま燐と交代する。どうにかして あの懐まで入ることが出来れば…… あのリーチは《《弱点》》へと変わる。そこに|消《イレイズ》を打ち込められれば…… !そう考えていた矢先だった。
「助けてーーーー!!」
小さな子供の声がした、辺りを見回すと泣いている女の子を男の子が庇っていた。見た目からして兄妹のようだ。
「(…… ッッ!!凍矢!!上を見て!!!)」
頭上を見ると先程 燐に攻撃した際、その衝撃が全方位に拡がり ガラスにヒビが入っていた。このままではガラスのシャワーがあの子供達 目掛けて降り注ぐ。
「(俺にとって最優先は燐の安全。それ以外の、市民の安全なんかは《《ついで》》だ。)
俺は燐を護るためにこの力を使う。《《あの日》》 そう決めたはずだ。
だが・・・|悲鳴《あの声》を聞いて あの悲痛な叫びを聞いて・・・見捨てることなんて・・・出来るわけねぇーーーー!!!」
凍矢は|鞭撃《ウィッピング》に対して光のリングを飛ばし拘束した。両腕は鞭が生成されても打ち消されるように長いミトンのようなもので覆っている。
トランサーの力は汎用性が高い。燐の場合、ひとえに鎖を生成するといっても その材質や長さ、 太さなどは燐の思い通りに変えることができる。
凍矢は これまで《《光を放出すること》》しかしてこなかったが、光が消えないよう更に外側を固め【物質化させた】のである。
(チーズINハンバーグを思い浮かべてください・・・あんな感じです)
「相手をしてるヒマはねぇんでな、おとなしくしてろっっ!!!」
言い捨てると、子供達の所へ高速移動し、上空から降り注ぐガラスのシャワーに対し|消《イレイズ》を放つ。ガラス片全てを塵一つなく消し去ることができ、3人とも無事だった。
2人をそれぞれ腕に抱えると「怪我はないか 嬢ちゃんに坊ちゃん? すぐお母さんの所へ連れてってやるからな。しっかり体につかまってろよ!!!」と これまでの凍矢からは想像できないくらい優しい笑顔をしていた。
普段なら高速移動や大跳躍するところだが、風などの負担がないよう優しく走り、晴翔の元へ向かう。
走っている間に気配察知で母親を探していたため すぐに返すことが出来た。
「もうお母さんの手を離すんじゃねぇぞ」
凍矢は 2人の頭を優しく撫でると キッと目線をトランサーに向けるように踵を返して跳び去っていく。
「あのお姉ちゃん か、かっこいい・・・!!」
ヒュッ ヒュッと空気抵抗を感じさせない大跳躍を繰り返す燐を見た兄妹は 何かのヒーロー番組を見ているかのようなキラキラした目を向けていた。
---
現場に戻ってきた。
「さて・・・テメェにはキツイお仕置きをくれてやるよ。燐を傷つけてくれた御礼をたっぷりとなぁ!!!」拳を鳴らし、顔には血管が浮き出ていた。
パチンっと指を鳴らすと|鞭撃《ウィッピング》を拘束していたリングが消えた。
凍矢はツインダガーを生成すると一気に距離を詰めていく。鞭の攻撃もスパッと切れていく。
右脚でハイキックを繰り出し、動きが止まったところに|消《イレイズ》を入れ込む。
|鞭撃《ウィッピング》は血の力が消え、元の身体に戻ったようだ。
---
「数十分前と比べ やけに手のひら返しが早いじゃないか。どうして、あの2人を助けたんだ? 燐以外護る気は無いんじゃなかったのか?」
電子タバコを吹かせながら晴翔が凍矢に質問する、当然の疑問だ。
「・・・《《重なってしまった》》んだよ。あの兄妹と俺達が」
「・・・重なった?」
「同じようなことをしていたんだよ。俺も。
精神世界で縮こまって泣いている燐を優しく包み込んで慰めていたことを・・・
たまたまあの兄妹と俺達が重なってしまった・・・だから助けたってだけさ」
「ハハッ、素直じゃないなぁ。凍矢。
人を助けたいって気持ちがあるなら そう言えばいいのに。
・・・俺の方こそ凍矢のことを誤解していた」
「・・・誤解?」
「燐以外護る気は無いって聞いた時 冷酷な奴だと思ってたから。すまなかった」
「まっ、俺は燐の|守護者《ガーディアン》であることは これからも変わらない。気が向いたら街の奴らも護ってやるさ」
凍矢は晴翔に背中を向けたまま右手をヒラヒラ振ると現場を後にしていった。
自身の想いに呼応し、能力強化される・・・
これもまた大好きです(・∀・)
前編と比べバッチバチに戦闘要素を入れてみました。
正義側が敵の攻撃に苦戦するのを見るのはなんでこんなに楽しいんでしょうかねぇ(←鬼か、お前は)
基本、燐には敵の攻撃で苦しんでもらう予定です(・∀・)b
幻現(ディヴィジョン)①
悠河(ゆうが)からの調査依頼の報告をしに香沙薙組(かざなぎぐみ)の屋敷を訪れた燐と凍矢。
何事もなく終わるはずがなく・・・
今話は暴力団用語や出血 要素が多いためR15をつけております。
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キャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。左手で触れたところから鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。右手からは あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
・香沙薙 悠河(かざなぎ ゆうが) 燐の従兄妹にあたり、香沙薙組の若頭。燐より3つ上で、とても仲が良いため兄妹に間違えられることも多い。
「燐」の事情を知っている人物の1人。
(悠河の父で香沙薙組組長 香沙薙将吾と燐の母親が兄妹)
「・・・・・」
「(あいっかわらず大きな屋敷だなぁ・・・)」
|燐《りん》と|凍矢《とうや》は無言のまま門や屋敷の大きさを見ていた。
燐が訪れているのは「|香沙薙組《かざなぎぐみ》」の屋敷。いわゆる「本家」だ。
香沙薙組は|逢間市《おうまし》を拠点にしている「極道」。
しかし 他の組織と比べて真っ当なシノギ(※1)を行っており 香沙薙組から逮捕者は出ていない。地元でのボランティア活動等にも積極的に協力しているため「極道らしくない極道」である。
「|悠河《ゆうが》には昨日のうちに連絡して いつでも入っていい と了承はもらってるから 入ろうか」
「(燐、俺が行かなくても平気か?)」
「凍矢にばかり頼ってはいられないよ。私だって大人なんだから!!!」
鼻息を少し荒くして気合を入れているようだ。
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ギィィィ・・・木造の門を開き、中に入る。
「お、おはようございます!! 昨日連絡した|睦月 燐《むつき りん》というものです!!」
元気に挨拶をすると、すぐそばに居た組員たちが近寄ってきた。
「あ゛あ゛? 貴様 ここをどこだと思ってんだぁ? ここは|香沙薙組《かざなぎぐみ》の本家だぞ。 カタギ(※2)の人間が簡単に入っていい場所じゃねぇぞ!!」
長身の燐と同じくらいの男性組員が睨みつけている。
「悠河に会いに来たんです! 燐が来たと伝えていただけませんか?」
「悠河さんの名前を知ってるということは貴様・・・ 敵対組織の人間か!!!?」
「え、えええええーーーー!!? て、敵対組織ーーーー!!!?
(ど、どうなってんだよ!!燐!!)
(知らないよ!!ちゃんと悠河にはアポとってるのに!!!)」
燐と凍矢は突然のワードに動揺が隠せないでいる。
「ちょ、ちょっと待ってください!!
私達は悠河と待ち合わせの約束を取り付けてるんです!!
敵対組織なんて、とんでもないですっ!!」
負けじと燐も応戦する。
「貴様ら・・・それ以上ふざけたことを言うのなら生きてこの屋敷からは帰さねぇぞ!!!」
「ッッッ!!」この瞬間フッと燐の目は閉じ、頭はガクンと前に倒れた。
燐と凍矢が交代するトリガーは色々あるが1番優先度が高いのは〈燐が恐怖や悲しみの感情を感じた時〉である。凍矢は燐の過剰な〈恐怖 悲しみの感情〉から生み出された人格であり、その感情がわずかにでも生まれると凍矢はゾクッとするような感覚に襲われる。
〈燐の身に危険が迫っている〉と判断され、《《強制的に》》入れ替わる。
(ここからは凍矢口調になりますが、外見は燐なので組員vs1人の女性 という構図になります。なにせ組員たちは主導権を握っているのは凍矢だと知りませんからねぇ(・∀・)
かなーーーり荒っぽくなります。)
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スっと目を開き見上げるように組員を睨みつける凍矢。
「うるっせぇなぁ・・・ てめぇら《《|組員共《ザコ》》》に用はねぇんだよ!!! とっとと悠河を出せ!!」
「何だと・・・!! |香沙薙組《かざなぎぐみ》に喧嘩を売るつもりか!!? おい、野郎ども!!」
凍矢を囲むように5、6人 いやそれ以上の組員が集まってきた。
「くっ、クハハハハハハ!!いいぜ!
ここ最近 戦闘もなかったしな! 腕慣らしにちょうどいいか!」
凍矢は顔を手で覆うようにして高笑いし、目をカッと見開いては煽っている。
「(凍矢!!!? 私達は悠河に会いに来ただけなの! 早くこの場を収めないと!!!)」
「そいつは無理だなぁ 燐。 なにせ思いっきり焚き付けてしまったからなぁ!!!」
「(あーーーー もう!なんでいつもこうなんの!!【泣】)」
顔を両手で覆い、深いため息をついている。
|香沙薙組《かざなぎぐみ》を訪れた際には毎回こうなってしまう、もうちょっと平和に会えないの・・・? といつもため息をついていた。
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「手加減の必要はねぇ!!行くぞ、オラァァァァァ!!!」
組員達からパンチや蹴りが襲いかかるが 凍矢は二っと笑うと 直撃しないようサラッといなしてる。
「たまには身体動かさないと訛っちまうからなぁ!!!」 思いっきり戦いを楽しんでる人が1名。
「(凍矢!!! 相手は生身の人間なんだからね!)
分かってるって、気絶する程度に《《遊んでやる》》さ!」トランサーと戦っている時くらいの《《いい笑顔》》をしていたその時だった。
スパッ!!「ッッッ!!」
敵の拳を躱したはずが風圧で軽く頬が切れてしまったようだ。
「いってて・・・ しくじっちまったか。
なかなかやるじゃないか。
・・・ん? どうしたんだよ そんな固まって・・・。ッッ!まさか・・・」
咄嗟に切れた頬を触ると「青い血」が僅かに流れていた。だが傷はもう塞がりかけてた。
「少し血が流れてしまったか」
「ば・・・・ば・・・・」
「あっ・・・まずいな(汗) バレちまった
(と、凍矢・・・?)」
「化け物が出たぞーーーー!!」
男の叫びを聞き、銃火器を持ち出した組員まででてきた。
「おっと・・・ステゴロ勝負は終いのようだな」ツーっと汗が流れ、両手を上げる。武器がない これ以上の敵意は無いと示しているが、それも1歩遅かった。
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ザシュっ!!
背中から日本刀で刺され 引き抜かれた。
しかもその位置は・・・「腎臓のある位置」だった。大量の「青い血」が流れる。
「は、ははは。 どうだ化け物め・・・!!」
「ぐっ・・・ さすがにまずい。|消《イレイズ》でも抑えきれねぇ・・・」
血が流れる腹部を手で押さえその場に片膝立ちのような姿勢になる。|消《イレイズ》を物質化させ 包帯のようなものを作るが止血が追いつかない・・・だんだん視界がぼやけてきた その時だった。
「貴様らァァァァァ!!!朝っぱらから何騒いでんだ!!!」
全員が声のした方を見る。凍矢も何とか瞼を開いて見ると、「|香沙薙組《かざなぎぐみ》組長 |香沙薙将吾《かざなぎ しょうご》と|香沙薙組《かざなぎぐみ》若頭 |香沙薙悠河《かざなぎ ゆうが》」が歩いてきた。
「|組長《オヤジ》!!カシラ(※3)!! お疲れ様ですっっ!!」
組員全員が悠河達にバッと身体を向け、後ろで手を組んでお辞儀している。
「貴様ら、こんな朝早くに何 揉め事を起こしてんだ!!!?」
「|組長《オヤジ》!! 組内に化け物が入ってきたので討伐していやした! ニュースでやってるトランサーって化け物ですぜ!」
「トランサー だと・・・?噂に聞くくらいだったが、本当に・・・い・・・た・・・」将吾と悠河は 腹部を抑え倒れ込む人影を見つけると 組員たちをかき分け、その人物の元に行く。
「燐!!!」
「燐ちゃん!!!」
「燐!!!大丈夫か!!!? 何があったんだよ!!?」
前から抱き起こすようにし 支える。
「よ、よぉ・・・ 悠河・・・ 今・・・は・・・俺・・・だ・・・。悪ぃ・・・ちょっ・・・と・・・焚き付け・・・過ぎ・・・ちまった・・・」ハァ ハァ と息が漏れながら言葉を必死に紡ぐ。
「・・・!!! この血は・・・!!?」
手には青い血がべっとり ついていた。
「(まずい・・・血を流しすぎた・・・意識が・・・保てねぇ・・・)」
腕がダランと重力に従い落ち、フッと目を閉じると悠河に身を預けるように倒れた。
「燐・・・? 燐ーーーーーーー!!!」
悠河の悲痛な叫びが響きわたった。
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【注釈コーナー 極道用語等。Wikipedia先生の提供でお送りします】
※1 シノギ:主に暴力団が収入を得るために使う手段(経済活動)の呼び名。
※2 カタギ:暴力団や政治運動などに関係のない人間のことである。単にしっかりしていて真面目であるという意味や、暴力団に属していないという意味だけで用いられることもある。
※3 カシラ:若頭を指す言葉で、口頭では「カシラ」と言う事が多い。
若頭は一般的に、組織上では組長に次ぐ地位として格別の権限を有する。
モリッモリに極道ワードや要素を詰めました。後悔はしておりません(・∀・)
「龍が○く」シリーズは動画でしか見たことありませんが大好きなゲームのひとつです!(桐生一馬さん、真島の兄さんや秋山駿さん、冴島大河さんが推し。)
さてさて、大量出血により死んでしまった燐。
そして、裏ではトランサー「幻現(ディヴィジョン)」の影が・・・
次回もお楽しみに(・∀・)b
幻現(ディヴィジョン)②
調査報告のため香沙薙(かざなぎ)組を訪れた燐と凍矢。
しかし、組員を焚き付けすぎてしまい怪我を負ってしまう。流れた異色の「血」を見られたことで燐は日本刀で殺されてしまった。
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キャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。左手で触れたところから鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
日本刀で背中から刺され一時死亡中。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。右手からは あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
・香沙薙 悠河(かざなぎ ゆうが) 燐の従兄妹にあたり、香沙薙組の若頭。燐より3つ上で、とても仲が良いため兄妹に間違えられることも多い。
「燐」の事情を知っている人物の1人。
この感覚に襲われたのはこれで3回目・・・
初めての時は7歳の頃 トランサーに変貌した日。
2回目はそのすぐ後 同級生から「空にUFOがいる」という定番のからかいをされ、小学校のベランダを覗いていた時に脚を持ち上げられ突き落とされた日。
そして3回目は 今日、日本刀で刺殺された日・・・。
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「|燐《りん》・・・ おい!!燐!!」
|悠河《ゆうが》が燐の身体を揺り起こすが反応がない。「お前ら・・・ 燐になんてことをしたんだ!!殺しはご法度だといつも言ってるだろ!!!」
「貴様ら・・・ 覚悟は出来ているんだろうな!!?」
悠河と|将吾《しょうご》が組員達をどなりつける。
倒れてからおよそ5分・・・
燐の目がカッと開き両目が赤く発光しながら スっと立ち上がり、手を開いたり閉じたりしている。
「まさかこの歳になって日本刀で刺殺される日が来るとはなぁ・・・」
普段の茶色い瞳に戻り 日本刀が通った腹部をさすっている。
「「うわぁぁぁぁぁ!!!」」
燐以外の全員が叫んだ。それもそのはず、確かに死んだと思っていた人物がこうして起き上がったのだから。
「あ、悠河! おはよう」
「燐!! なんで・・・ 確かにさっき脈が・・・」
「トランサーは不死身なの。まあ、出血多量だったから復活するまで少し時間がかかったけどね」
「とりあえず色々聞かせてくれ。小さい頃そして大学時代に会って以来だ。燐に何があったのか話してくれ」
「分かった。私に答えられることであれば!」
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「おっと、その前に・・・
おい!! この2,3ヶ月で入ってきた奴らをここに全員集めろ!!とりあえず屋敷にいる奴らだけでもな!!」
「へいっ!!」組員はお辞儀すると他の組員を呼びに行った。
「さて、これからも会う機会があるだろうから紹介する」悠河は燐の右肩に腕を回すとガシッと自分の身体に引き寄せる。
「ゆ、悠河!?
(こいつ・・・ この場にかこつけやがって!!)」
「|睦月 燐《むつき りん》。俺の従兄妹だ!! 燐が来た時にはすぐ俺の元へ通すんだぞ!!!」
「へいっ!!」組員全員が燐に向かってお辞儀をした。
「さて、行くか!燐!!」
悠河と将吾は燐を連れていった。
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「そういえば、よく私がここに来たとわかったね。時間までは話してなかったのに・・・」
「コレをつけてたからな!」
悠河は首につけていた片翼をかたどったペンダントを見せる。燐と対のアクセサリーであり 燐の状態が微弱にだが感じ取ることができる という代物だった。
「まさか トランサーという化け物がいるという噂は本当だったんだな・・・燐」
「燐ちゃん、こうして会うのも久しぶりだな」
「叔父さんもお久しぶりです。 7歳の時にトランサーに変貌して 大学に合格する18歳までずっと家に閉じ込められていたからね。それにトランサーという存在が世間に認知されるようになったのもココ最近だし」
「閉じ込められていた・・・ どういうことなんだ、燐!」
「逢間市で初めてトランサーに変貌したのが私だからね、危険性とかも全く分からない状態だったから軟禁されてたんだよ 家に。家の中は歩き回れたけど、外に出るには国家の許可がいるから私も特に出る気はなかったよ。退屈しないようパソコンは買い与えられてたから それでFXしたりしてお金稼ぎしたり。
あ、高校までは通信制の学校に行ってたよ」
「一時期 全く連絡が取れないから心配していたが、まさかそんなことになってたとはな・・・
おじさん達には今も会ってるのか?」
「会うわけ・・・ないでしょ・・・ あんな奴ら!!」
左手で前髪を 右手でスラックスをクシャッと握りしめると苦虫を噛み潰したような表情をした。
「あの時は|悠莉《ゆうり》達を止めることが出来ず、すまなかったな。燐ちゃん。
私が悠莉を止めていればあんなことにならなくて済んだはずなのに・・・」
将吾は座った姿勢から 深く謝罪の意を込めてお辞儀をした
「・・・心配しなくても大丈夫だぜ?叔父さん。
燐は必ず俺が護る。そのために俺がいるんだからな!」
いつの間にか|凍矢《とうや》に入れ替わっていた。親の話をされ悲しみを感じたから である。
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「さてと・・・本題に入ろうぜ?悠河。燐は今こんな状態だから俺が話すよ」
「あ、ああ。頼む、凍矢」
「結論から言えば 〈あの森〉にはトランサーの気配がした。人間を装って森に入ったが、歩けば歩くほど迷ってしまう。あの森全体がトランサーの支配下にあるってことだ。
そうなれば、人間である悠河達では まず太刀打ちはできない。
絶対に森にはいるんじゃねぇぜ!!」
凍矢は半目の状態で悠河を睨みつける。
「幻覚を現実とする力、|幻現《ディヴィジョン》だろうな。解決するまでは誰も入らないよう入口に見張りを付けてもらえるとありがたい。頼めるか?」
「・・・分かった。私の方で人選し手配しておこう」
「よろしくお願いします、叔父さん。助かります」
「・・・こうしていきなり代わったりするのは中々慣れないなw」
「ごめんね、凍矢のこともだけど トランサーであることをずっと隠してて」
「燐のせいじゃないさ。 必ず〈生きて〉帰ってきてくれよ。ここは燐にとってもうひとつの家でもあるんだからな!!」
悠河は拳を前に突き出す。
「・・・うん」
燐もトンっとグータッチを交わした。
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「じゃあ、森の中を調べに行ってくるからあとはお願いね、悠河!!」
「任された!!気をつけてな!」
軽く会釈すると森のある方向へ走り出した。
「・・・・・・ あんなガキを頼るとは。|組長《オヤジ》もカシラもどうかしてる。」
組員の1人が燐の後を追い走っていく。
「アイツ・・・ |組長《オヤジ》、ちょっと行ってくる。嫌な予感がするんだ」
「お前も十二分に気をつけるんだぞ、悠河!」
燐の忠告が実を結ぶことなく2人の組員が森に向かって走っていった。
燐の過去編 メインとなりました。
次回から本格的に調査開始予定です(・∀・)
トランサーに変貌すると瞳の色が変わりますが、燐の場合 凍矢もトランサーに変貌しているため 瞳の色が固定されていない。という異質な感じとなっております。
また、どの色になるかは人それぞれのため 能力によってこの色になる!というのもありません
(乃彩は金色で固定されています。)
幻現(ディヴィジョン)③
悠河(ゆうが)からの依頼で「ある森」の調査をしていた燐と凍矢。トランサーの気配を感じたことにより 森に近づかないよう警告をだすが、それが実を結ぶことは無かった・・・
今回は凍矢メインで行動していきます!!!
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キャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。左手で触れたところから鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
香沙薙組に喧嘩を売る凍矢を見ては顔を両手で覆い ため息をついている。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。右手からは あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
香沙薙組を訪れてはいつも喧嘩を売ってしまう。
・香沙薙 悠河(かざなぎ ゆうが) 燐の従兄妹にあたり、香沙薙組の若頭。燐より3つ上で、とても仲が良いため兄妹に間違えられることも多い。
燐の後を勝手に追いかけていった組員を捕まえるため、燐の警告を無視し森に向かってしまった。
|逢間市《おうまし》の一角にある広大な森。
木々や遊歩道は しっかり整備されており森林浴にうってつけ!! と地元紙も取り上げる有名スポットである。
しかし、この数週間でその声は完全に消えてしまった。
その森に入った人間は音もなく皮膚を切られてしまう・・・ いわゆる「|鎌鼬《かまいたち》」のような現象であった。1箇所だけならまだしも 酷い場合には全身に切り傷を負い そのまま亡くなる人も少なくなかった。
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「やはりな・・・ 地図などで見るよりも森が拡がっている。幻覚の|類《たぐい》だ。
そのせいで どこにトランサーが居るか正確な気配察知ができない。|燐《りん》、心してかかれよ!」
「(うん。 血は直前まで出さない方がいいかもしれない、相手を余計に興奮させるかも。)」
「行くか!(うん!!)」
|凍矢《とうや》は5mはあるかという立ち入り禁止のバリケードをヒュっと飛び越えると森に入っていく。
「この森。よく|悠河《ゆうが》達と遊びに来ていたよな 燐。奴らに閉め出されて 泣きながら悠河の家に行って、美味しいご飯を食べさせてもらって 組員たちにも〈お嬢!〉って可愛がってもらったり遊んでもらってたよな。この森は 街灯も多いから眠れない日に叔父さんと森を歩き回っては 疲れて眠ってたっけ」
「(ああして見ると、|香沙薙《かざなぎ》組の人達 いい人ばっかりなんだよね。コワモテなだけでwww)」
「だなw 他の組の奴らと違って悪どい事もしてないしな」
2人で話しながら森を歩くこと10分・・・
どうやら目的の〈|客《トランサー》〉が来たようだ。
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スパッ! 左頬が突然切れ、青い血が流れた。
「ッッッ!これは!! 鎌鼬なんて非現実的で信じていなかったが 本当にトランサーだったとはな! 燐!行くぞ!!」
凍矢がカパッと血が入ったボトルを開けた瞬間 ザワザワと木々がざわつく。ストっと降りてきたのは中学生くらいの年齢で 瞳の色が黄緑色をしている女の子だった。
「お姉さん? 私の遊び場に何の用? ここは私の遊び場なの。とっとと出ていってくれる?」
「悪いな、嬢ちゃん? テメェがトランサーだと分かった以上、はいそうですか と帰る訳にはいかねぇんだよ!!!」
右目が赤くなると 凍矢はツインダガーを生成し|幻現《ディヴィジョン》に一撃を入れるが消えてしまった。
「なっ・・・ 実体をもつ分身まで作れるのかよ!!」
ヒュっ ヒュっ ヒュっ ザクッ スパッ ザクッ!
|幻現《ディヴィジョン》は その身軽な身体で縦横無尽に森の中を飛び回ると凍矢の身体を切り刻んでいく。
「ぐっ・・・全く見えねぇ・・・
これじゃあ|消《イレイズ》も|鎖《チェイン》も・・・!!」
「隙ありっっっ!!」
ザクッっっ!!!
「うぐっ・・・!!」
凍矢は背中に巨大なバツ印のような傷を負ってしまった。傷を受けた瞬間から再生がはじまるが それを阻止するかのように また高速斬撃が再開される。
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パァン!! 耳をつんざく銃声がした。
「は、ははは。まさかこんなガキとはなぁ!!
俺が撃ち殺してやる!!」
燐達の後を追ってきていた組員だった。
「おい!! 勝手に動くんじゃねぇ!!
|敵《相手》は不死身の化け物な・・・んだ・・・」
組員を止めに来た悠河も来てしまった。
「アイツら・・・!! あれほど忠告したのに・・・お前ら、とっとと逃げるんだ!!!!」
|幻現《ディヴィジョン》の高速斬撃に対し凍矢は 両腕を顔の前に構え、強風に耐えるような姿勢を取りながら スっと右目を開けて悠河達を睨みながら大声で叫ぶ。
「もうっっっ!! 私の遊び場を荒らさないでっっっ!!」
|幻現《ディヴィジョン》は薙刀を生成すると、発砲してきた組員に向かっていった。
「トランサー・・・!!無関係な人間に・・・手を出すな・・・!!」
「|涼《りょう》ーーーーーー!!」
「ッッッ!! 悠河!!よせっ!!!」
悠河は組員である涼を庇うようにして立つ。しかし2人とも薙刀で貫かれてしまった。もちろん その刃には「青い血」が塗りたくられていた。
「(あ・・・あ・・・あ・・・
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)」
その現状を精神世界で見ていた燐はあまりの惨状に気を失ってしまった。
「へ、へへ 組員ひとり守れず・・・カシラな・・・んて・・・つとま・・・ら・・・」
薙刀を抜かれた2人はその場に倒れてしまった。
「っっ野郎ーーーーーーーー!!!」
青筋を立て怒り狂った凍矢は|幻現《ディヴィジョン》の攻撃により身体が傷つくことを介さず|幻現《ディヴィジョン》を捕まえ、すぐさま|消《イレイズ》を放つ。
「ハァ・・・ハァ・・・こいつ・・・ここまで苦戦させるとはな・・・。燐も早く休ま・・・」
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ゾクッ・・・ 突然寒気がした。
「う、嘘だろ・・・」
振り返ると薙刀で貫かれたはずの悠河が立ち上がって貫かれたはずの腹部を見ていた。瞳は蒼色に発光し固定された。
「これがトランサーの不死身の力か・・・」
もう1人の組員は服だけを残し身体は消えていた。
「くっ ハハハハ・・・ハッハハハハハハハ!!! 凍矢!!こんなに凄い力、なぜすぐ教えてくれなかったんだ!! これさえあれば他の組の奴らも皆殺しに出来そうだ!!
ハッハハハ!」
悠河は顔を手で覆いながら狂ったように笑い出した。燐も凍矢もこんな悠河は見たことがなかった。
トランサーに変貌した直後の燐と同様 悠河も〈《《血の力》》〉に《《支配され操られていた》》。
ジャキン!!
二丁拳銃を生成すると凍矢に向ける。
「ッッッ!! 悠河、何を・・・!!」
「さぁ・・・力を試させてくれよ。お前の身体でなぁ!!!!!」
「ハハ・・・笑いたいのはこっちだっての・・・|こんな状態《燐が戦えない中》で第2ラウンドとはなぁ!!!」
額から丸い汗が流れ、凍矢は苦笑しながら立ち上がった。
赤き瞳と蒼き瞳が睨み合う中、休む暇もなく闘いの開始を告げる|銃声《ゴング》が森に鳴り響いた・・・
はい、大変なことになりました(・∀・)
まさかのトランサー2連戦です。
気絶してしまった燐は当然戦えないため、凍矢が1人で2連戦することになります。
森の中で起こってしまった悠河との戦い。
果たして結末は・・・?
次回をお楽しみに!!
銃撃(スナイプ)
幻現(ディヴィジョン)との戦いが終わり 疲労の色が隠せない凍矢。
しかし、悠河がトランサーとして蘇ってしまう。
「血の力」に支配され 操られている悠河との連戦が始まる・・・
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キャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。左手で触れたところから鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
悠河が殺されてしまったシーンを見てしまい絶賛気絶中。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。右手からは あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
幻現(ディヴィジョン)との戦いの傷が癒えないまま、悠河と戦うことになった。
・香沙薙 悠河(かざなぎ ゆうが) 燐の従兄妹にあたり、香沙薙組の若頭。燐より3つ上で、とても仲が良いため兄妹に間違えられることも多い。
蒼色の瞳をしたトランサーに変貌し、銃に関する能力を持っている。
絶賛操られ中。
「ひっく・・・ ぐすっ・・・ぐすっ・・・」
女の子の泣き声がする。 一体この子は・・・?
「|燐《りん》!! また閉め出されたのか!」
少し年上の男の子は片膝立ちになり女の子の目を見て話しかける。
初めて見る景色じゃない・・・これは過去の俺なのか・・・?
「さぁ、夜も遅いから家に行こう」
「・・・うん」
手を繋いだ2人は家に向かった。
俺は一体どこに向かっているんだ・・・?
---
バァン! バァン!
森に2発の銃声が響く。
「どうした!!? |凍矢《とうや》!! もっと俺を楽しませろ!!!」
凍矢は銃弾をツインダガーで撃ち落としながら森を逃げ回っている、|悠河《ゆうが》の様子は 獲物を追いかける狩人のようであった。
悠河と共に|幻現《ディヴィジョン》の薙刀で貫かれた涼はその強い「血の力」に肉体が負けてしまい消滅してしまった。
太い木の裏に身を潜め、息を殺している。
「ハァ・・・ハァ・・・ まさか悠河の|能力《ちから》が射撃能力とはなぁ。元々銃は好きだったが、こうなってしまうと厄介以外の何物でもないな」
トランサーとして蘇り、どのような|特殊能力《ちから》を持つのかは 人それぞれである。
燐は「両親 国家 などに縛られた生活をしていた」ことから鎖を生成する能力 |鎖《チェイン》を会得した。
凍矢は「燐を護りきる どんな障害だろうと消し去る」という強い思いから あらゆるものを消す光を放つ能力 |消《イレイズ》を会得した。
悠河の場合、家業のこともあり小さい頃から銃に興味があった。モデルガンから触り、サバイバルゲーム 通称サバゲーに参加したり射撃場で実銃を扱ったこともある。
そのような経験から|銃撃《スナイプ》の能力を得たのである。自身が想像した銃はどんな形式でも生成することができ、《《最高練度》》で使うことが出来る。
リボルバーでも ショットガンでも スナイパーライフルでも・・・
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「正確無比な命中率だが、|自動追尾機能《ホーミング》や|消音器《サプレッサー》がないだけ マ・・・シ・・・か・・・ うおっ!!!」
噂をすれば であった。
「嘘だろ・・・銃だけでなく弾丸まで弄れるのかよ!!! このまま隠れてても埒が明かないか。銃弾は このダガーで撃ち落としてしまえば機能は失われる。突っ込むしかないか・・・。
燐が気を失っているのはある種助かったかもな。あんな悠河 見せられるわけない・・・!!絶対俺が助けねぇと なっ!!!」
意を決して木の裏から出ると悠河の元へ走っていく。が・・・その目論見は読まれていた。
「ぐあっっ!!!」
突如右肩に弾が命中した。|自動追尾機能《ホーミング》と|消音器《サプレッサー》付き銃によるマグナム弾だった。
凍矢は地面にうつ伏せに倒れるが起き上がることが出来ない。
「か、身体が痺れて・・・動け・・・」
「残念だったなぁ、凍矢。|麻痺弾《スタンバレット》だ。
なぁに、後遺症は残らない。
その不死身の肉体で たっっっぷりと俺の|力《スナイプ》の実験台になってくれや」
銃口が凍矢の額にくっつけられた。
「悠河!!!」
燐の意識が戻って表にでてきた。
「(燐!! 今は出てくるな!目の前にいるのは もう俺たちの知っている悠河じゃねぇ!!!)」
「悠河・・・お願い・・・戻ってきて・・・」
燐の目から大粒の涙が零れ落ちた。
「・・・燐? 俺は一体何をしていたんだ・・・?」
蒼色の瞳は色が薄くなっていた。
悠河の自我が戻ってきた。
「悠河は薙刀で貫かれて死んだ後 トランサーとして復活したの。私と同じように」
「まさか、燐が倒れているのも・・・俺のせい・・・ぐあっっ!!!」
悠河は両手で頭を押さえ 倒れ込んだ。
「(なぜ|躊躇《ためら》っている・・・?お前の力を今こそ知らしめるときだ。何も考える必要はない、ただ私に従えば良い)」
だらんと両手が落ち ふらっと立ち上がると燐をまた睨みつける。
瞳の色はまた蒼色に戻っていた。
「また瞳の色が・・・もう悠河には会えないの・・・」
「お前の知っている悠河はもうこの世に存在しないっっ!!さあ、お楽しみはこれからだ!」
ジャキンッ! 再び燐に銃口を向けた。
「悠河・・・お願い!! 戻ってきてーーーー!!!」
バァン!!! 一際大きい銃声が響く。
「ううっ・・・ あ、あれ?なんで生き・・・て・・・ 悠河!!」
悠河は左腕で銃口を塞ぎ、弾を受け止めていた。
「俺・・・の・・・家族・・・に・・・手を・・・だすん・・・じゃ・・・ねぇ・・・!!」
「(悠河が血の力に抗ってるんだ!まだ悠河も戦ってる!! やるなら今だ!!!)」
咄嗟に凍矢に交代する。僅かに動く右腕から|消《イレイズ》を放つ。
眩しいがとても暖かい光だった。
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「うぐっ・・・お、俺はどうなったんだ・・・?」
「何とか・・・行けたか・・・ 俺の|消《イレイズ》で悠河の中の《《悪意だけ》》を消し去った。
最後には自我が戻ってきていたからな。
悠河もまた俺たちと同じ 人を護るトランサーに生まれ変わった・・・んだよ・・・」
バタッ。
長時間の戦闘で体力精神力 共に疲弊してしまい倒れてしまった。
「燐、凍矢・・・俺のためにありがとうな」
優しく燐の頭を撫でると、軽々とお姫様抱っこをした。
「う、ううん? あれ?確か地面に倒れて・・・うわぁぁぁぁ!!ゆ、悠河!? お、下ろしてよ!1人でも歩けるから!!!」
「ここは俺に甘えておけ 燐! 俺を助けてくれたんだ。そのお礼という訳では無いが家に帰ろうぜ」
「う、うん・・・」
顔を背け、赤面している。
「おまえら、帰ったぞーーーー!!」
時刻は夜の6時、燐が森に向かったのは2時過ぎだったため、あの森の中で3時間近く戦っていたことになる。
「お帰りなさいませ!!! カシラ!お嬢!!」
|香沙薙《かざなぎ》組の組員たちが整列し出迎える。
「悠河、燐ちゃん 帰ったか。
・・・事情は後で聞くから今はゆっくりと疲れを癒すといい」
将吾は2人を客間に向かわせる。食事をとり 暖かいお風呂に入り そのまま眠ってしまった。
次の朝 悠河と燐は森で何があったのかを将吾に話した。
組員の1人 涼が消滅したこと、悠河がトランサーとなったこと・・・
「そうか。悠河も燐ちゃんと同じように・・・」
「すまなかった。燐が忠告したにもかかわらず、森に走ってしまって。自業自得だな」
「こんなことを言ってしまうと 凄く語弊のある言い方になってしまうんだけど、もしあの時涼さんがいなかったら私、|幻現《ディヴィジョン》に勝てなかった・・・
あの高速の斬撃を見切れなかったもん」
「燐・・・もし困ったことがあれば いつでも呼んでくれ。トランサーだから じゃない、家族として力を貸すよ」
「ありがとう、悠河」
こうして新しい仲間 香沙薙悠河ことトランサー|銃撃《スナイプ》が誕生したのであった。
悠河の瞳は蒼色から 綺麗な若草色になっていた。
ハッピーエンドルートです(((o(*゚▽゚*)o)))
私自身 特撮作品を見ていたり TRPGのキャラクターを作っていく中でオリキャラを妄想するという変な癖があります。
悠河をトランサーに堕とすことは、キャラクターを作成していた時から決まってました(・∀・)b
キメラ①
今話以降から「魔法戦隊マジレンジャー」の設定が入る場合があります。その際は注釈を最後に入れ「二次創作タグ」をつけております。
悠河/トランサー銃撃(スナイプ)との戦いから数日が経ったある日・・・
幻現(ディヴィジョン)により負った背中の傷も ようやく癒えた燐は食材の買い出しに・晴翔は事件捜査を行っていた。
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キャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。左手で触れたところから鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。右手からは あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
・メイアと呼ばれる女性 右腕が白銀の毛でおおわれた狼の腕をしており、自身のことを「キメラ」と呼んでいる。
右腕には金色のバングルがはめられ、瞳は琥珀色(アンバー)をしている。
・ヘイルと呼ばれる男性 左腕が灰色の毛でおおわれた狼の腕をしており、メイアは「最強の頭脳」と呼び絶大な信頼を寄せている。左腕にはメイアと同じバングルをつけており、瞳も同じ琥珀色(アンバー)をしている。
--- キメラサイド ---
|土呂市 観座州《どろし かんざす》の
とある小学校の屋上・・・
満月が煌々と輝く中、2人の若者が月夜を楽しみながら話していた。
「スンスン 妙な気配がするな・・・なんだ? この匂いは? 」
「また|インフェルシア《あの連中》(※1)が|冥獣人《めいじゅうじん》(※1)を送り込んだの?」
ベントハウスで寝転がっていた男は跳ね起きると給水タンクに左腕を添え目を緑色に発光させると 気配の正体を探している。ロングマントのスリットから出た その腕は肘上までが灰色の毛で覆われ、紅い鋭い爪が伸びていた。
女はフェンスに寄りかかり、腕を組んだ状態で男に視線を向ける。
「いや、この感じ・・・ インフェルシアの奴らじゃないな。もちろん|魁《かい》達(※2)でもない、最近原始の魔法を授かったと聞いたが、そういう感じではないんだよな。
だが確実なのは 人間でもないってことなんだよなー。あ゛あ゛あ゛ーーーなんかモヤモヤするーーー!!!」
妙な気配だが その正体が分からず、顎に指を当て首をかしげてたり頭をかいている。
「?? ナイとメア(※3)みたいに人間態を持ってる奴らってこと? あ、インフェルシアの奴らじゃないってことは違うのか・・・ ごめん、ヘイル。聞き逃してて」
「気にするな、メイア。 だがこの感じ・・・かなり強いぞ」
メイアと呼ばれた女はタンっ!と軽く地面を蹴ると、ヘイルと呼ぶ男の元に軽々とジャンプした。
「場所はわかりそう?」
「ここから数キロ離れた場所・・・ |逢間市《おうまし》だな。俺たちの脚力なら数分で着く距離だ。」ヘイルの瞳は|琥珀色《アンバー》に戻った。
「逢間市か・・・ ソイツらに 軽く《《ちょっかい》》でもかけてみる? 実力を試すのも兼ねて」
「フフフ・・・ 悪くない作戦だと思うぜ?」
「なら戦いは私がやるよ。《《解析》》は得意分野でしょ? ヘイル」
メイアもロングマントのスリットから獣の右腕を出している。ヘイルのと違い 銀色に近い白い毛をしており、その鋭い爪は月に照らされ紅い宝石のように輝いている。
「ハハハっ! 俺の事よーーく分かってるじゃねぇか! さすが俺のご主人様だな」
「もうっ!! そんな硬っ苦しい言い方しないでよ!相棒 でいいでしょ!!」
パチンとツッコミを入れるなど 和気あいあいと話していると メイアの右腕についていたバングルがズレた。するとメイアの瞳孔は針のように細くなり 鋭い犬歯も伸び 爪をペロッと舐めた。その姿は正に〈獲物を狙う狼〉だった。
・・・尻尾や耳こそ生えないが。
「・・・ |獣化《じゅうか》してるぞ? メイア」
「えっ・・・あ ホントだ。ちょっと興奮しちゃったかな。 最強のキメラである私と 最強の頭脳であるヘイル。2人が合わされば勝てない敵はいない・・・よね!!」
メイアはくるっと振り返ると 満月に向かって右腕を伸ばしている。
「明日は楽しい戦いになればいいな メイア」
4つの|琥珀色《アンバー》の瞳が土呂市を見つめていた・・・
--- 燐サイド ---
「さて、トランサーの目撃情報も一通り集まってきたな。あとはここから潜伏してる箇所を特定すれば・・・っと♫」
精神世界では|凍矢《とうや》がトランサーの情報整理を行っている。脚を組んで座り 肘掛けに左腕を置き人差し指をトントンと頬に当てている
巨大な空中モニターには逢間市の地図が表示され、どこで目撃されたか いつ事件が起きたか が全て表示されている。
「むっ・・・? これは一体・・・」凍矢の指が止まった。
ストっ。 |燐《りん》もこちらにやってきた。
燐が現実世界で眠ると 精神世界にやってくる。そこで凍矢と次の日の行動を話し合ったりしているのである。この間 現実の肉体に疲れは溜まらない仕組みとなっている。
「おまたせっ!! 凍矢!!・・・何見てるの?」
「燐・・・ なんか妙ーーーな気配がしてな」
「この赤丸がそう?」
地図上では赤い二重丸が点滅していた。
「トランサーの場合は 普通の丸印だ。だが そうじゃない・・・ かなり強いぞ。俺達と同等か それ以上に。」
「ッッ!! これまでとは違う敵ってことか。なら先に私が行くよ、|鎖《チェイン》なら牽制にもなるし」
「そうだな・・・ まずは様子見になるか」
「あ、そうだ。さっき|浪野《なみの》さんから連絡があって明日の午後、来て欲しいところがあるんだって」
「浪野警部が? 何も無ければいいんだがな。燐・・・これまで生きてきた中でってのもあるが あまり人を信用しすぎるなよ?
燐を家に軟禁するように提言したのは《《他でもない浪野警部》》なんだからな」
「う、うん・・・」
「浪野警部とは俺が会うよ。嫌な予感もするしな」
「・・・分かった、私はこっちから見とくね」
「すまないな、俺の性格上 疑い深くてw」
「ううん、もう慣れた(・∀・)b」
「慣れたってwww お前なぁwww」
こちらも和気あいあいと話していた。
この数時間後、激しい戦いを繰り広げることになるとも知らず、2組とも話に花を咲かせていたのであった。
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【注釈コーナー マジレンジャー用語等。Wikipedia先生の提供でお送りします】
※1 インフェルシアとは地底深くに存在する世界であり、弱肉強食の完全実力主義社会である。帝王の復活・地上界の支配のため冥獣や冥獣人といった 言わば〈地獄の化け物〉を送り込んでいる。
※2 魔法戦隊マジレンジャーに登場する「小津(おづ)兄妹」の末っ子でマジレッドに変身する。
魁は兄妹5人の中で最も高い潜在能力を秘めている。
※3 ナイとメア・・・ インフェルシアの女スパイである〈|妖幻密使《ようげんみっし》バンキュリア〉が2人の少女態に分離した時の名前。力はおろか知性も分割されるため本来の力を発揮できないがフツーーに強い。
メイア ヘイルの腕についているバングルは いわゆるリミッターのようなものになります。
少しズラすだけでもキメラの力をフルに発揮することが出来て(ずらさなくても徒手格闘はフツーに強い)、完全に外すと 狼の部分が人間の部分を侵食し 自我を無くし完全な狼のようになってしまう「暴走形態」となります。そうなれば敵味方殲滅するまで戦い続ける戦闘マシーンとなります。
浪野警部が燐を呼ぶ理由は何なのか?メイアとヘイルは何者なのか?
次回をお楽しみに!!!
キメラ②
キメラ①の続きですが今話は燐・凍矢がメインになります。
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キャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。左手で触れたところから鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。右手からは あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
--- 燐サイド ---
次の日の朝 逢間市はあいにくの雨だった。
未明から降り出し、ザーザーと雨音が街を包む。天気予報によると 10時前には止むだろうとの事だった。
|浪野《なみの》警部がなぜ午後の待ち合わせ と指定したのか・・・その理由は明白だった。
|睦月《むつき》探偵事務所内・・・
朝から|燐《りん》は事務所の隅で膝を抱えてガクガクと震えていた。
「あ、雨が・・・雨が・・・」
汗がダラダラと流れ、時折大粒の涙もこぼれている。瞳は赤くなったり茶色になったりと とても不安定になっていた。
燐の最大の弱点・・・それが「雨と雷」である。
雨は「浄化」を意味するという考え方もあり、燐の皮膚に落ちると〈硫酸がかかったかのように皮膚がただれてしまう〉。しかしすぐ再生するため痛みと再生が無限ループしてしまう。
そして雷は古来より神と結び付けられることが多く、雷に当たってしまうと細胞一つ残さず焼き尽くされてしまう(トランサーにかかわらず普通の人間も雷に当たってしまうと死んでしまうが・・・)。
雨が降っている日、燐は絶対外には出ない いや、《《出られない》》と言った方が正しいかもしれない。1歩も動くことが出来ず隅で怯えてしまう。
大学時代、 出かけなければならない時に雨が降る場合には|凍矢《とうや》が代わって講義に出ていた。記憶は共有されるため問題はなかったが、凍矢も体調は万全では無い。|精神安定剤《ラムネ菓子》は欠かせなかった。
「燐・・・俺がついてる。俺がそばにいる。心配することは無い、大丈夫だ。
俺はどこにも行かない、ずっとそばにいるからな」
精神世界では酷く怯えている燐を凍矢が優しく抱きしめて頭や身体を撫でて落ち着かせている。
怖い夢を見て泣く小さい子を親があやすように・・・
雨が止み、空に虹がかかった。
燐の震えはピタッと止まった。
「な、長かった・・・やっと止んでくれたよ」
燐は探偵事務所の外に出て、降り注ぐ太陽光を浴びている。
「よし、浪野警部との待ち合わせ場所に行くか、燐」
「(うん!!)」
さっきまで怯えていた表情は嘘のような笑顔だった。
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大通りを歩くこと数分、凍矢はピタッと立ち止まり震えていた。
「(どうしたの? 凍矢)」
「この感じ・・・ 奴がいる・・・!!」
周りを見ると動き回る人々 車 全てが〈止まっていた〉。
そして奥からはフードのついたロングコートを着た大男が歩いてきた。金色の瞳をしており*の模様が浮かんでいた。
「燐・・・久しぶりだな」
「ッッ!! |運命《フェイト》ォォォォ!!」
凍矢は地面をバンッと蹴ると光の剣を生み出し |運命《フェイト》と呼ぶ男に斬りかかった。
だが、片手で受け止められてしまった。
「ほう? 中にもうひとりいたか。これは予想外の収穫だな」
「戻せ・・・ 俺達を《《元の人間に戻せ》》!!!」
凍矢は怒りに我を忘れ 剣を振っていく。
だが、一太刀も当たることなく避けられる。|運命《フェイト》は凍矢の左腕を強く掴む。
「なぜ私が お前達をトランサーに変貌させたか分かるか? それは《《〈|原初《げんしょ》の王〉からお前達を守るため》》だ。雨や雷に対し極度の恐怖を感じるようにさせたのも 奴からお前達の身を隠すためだ」
「なんっだと・・・!? 原初の王・・・? 一体誰なんだ、そいつは!!!」
「フッ、 余計な話をしてしまったな。
その〈鎮静の指輪〉は絶対に外すんじゃないぞ。
お前の中に流し込んだ《《血》》は特別なものだ。身体を大事にするんだな」
|運命《フェイト》は黒い粒子となり消えていき、人々や車も動き出した。
凍矢は|運命《フェイト》から話を聞き出せなかったことに腹を立て コンクリートの壁に強く拳をぶつけた。
「|運命《フェイト》・・・ 原初の王から燐を守るだと・・・?
そのせいで燐がどれだけ酷い目に遭わされてきたと思ってんだ・・・!!!
奴の顔をぶん殴らないと気がすまねぇ!!!」
「(凍矢! 一旦落ち着いて!! 一先ず 浪野警部と合流しよ・・・?もう少しで目的地なわけだし)」
「・・・それもそうだな、ここでワーワー言っても|埒《らち》があかねぇか」
拳についた傷は既に再生されていた。
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「ここが目的地である研究所か・・・」
逢間市総合メディカルセンター附属心理科学研究所と書いてあった。
「燐!! 待たせたか」
「浪野さん、久しぶりだな。元気そうで」
「その声は凍矢か・・・ 朝から雨が降りそうだったから午後を指定させてもらったが、燐の様子は? 」
「雨が止むとすぐ元気になったよ。ただ、何があるか分からないから俺が前に出てるだけだ」
「そうか。 なら中に行くか」
浪野警部に連れられ凍矢は研究所内に入っていった。
「はじめまして、睦月 燐さん。私はこの研究所で人格に関する研究を行っている|明石 詩織《あかし しおり》というものです。よろしくお願いいたします」
髪をサイドポニーテールにまとめ、白衣を着た女性が握手を求めた。
「睦月 凍矢。燐のもう1つの人格だ。燐は今少し疲れてるんでね、俺が話を聞きますよ」
「あなたが凍矢さんですね。浪野さんからお話は伺ってますよ。立ち話もなんですから目的地に向かいながら話しましょうか」
明石研究員 凍矢 浪野警部は歩きながら話をしていく。
「実はこの数週間 センターの精神科に同じ問合せが相次いでいるんです。
多重人格の方からなのですが、自分以外の別の人格が突然出てきて辛い 記憶が飛んでしまい日常生活がしんどい 等です。正式名称は解離性同一性障害ですね。
燐さんの場合 主人格である燐さんと もう1つの人格である凍矢さんの御二方だけですが、中にはもっとたくさんの人格と共同生活を送っている方もいるんです。」
「まあ、俺の場合 燐と記憶も共有しているし7歳の頃から一緒だからな、今更拒絶されることもないしな」
「そのような方の悩みを受け、今 私の部門では〈内部人格を別の器に移行する〉という研究をしているんです。電子デバイスだったり アンドロイドのような身体だったり 普通の人間と同じ肉体だったり・・・」
「燐と凍矢は今同じ身体を使っているだろう?もし分離することが出来れば|鎖《チェイン》や |消《イレイズ》の力を100%発揮できるのではないかと思ってな」
「はっ、そういうことかよ。要は俺達を|実験動物《モルモット》として使いたいってことだろ!!」
突然凍矢が立ち止まると 詩織を見下すかのように睨みつける。
「いえいえ!! 滅相もありません!!
凍矢さんにはフツーーーに生活していただければいいんですよ!
心拍や体組織などのデータは暗号化され自動的に送られてきますので、プライバシーも大丈夫です!!
まだこちらの研究も発展途上なので、モニターとして軽い気持ちで受けていただけたらなーーと」
「ふーん、まあ 移行して|消《イレイズ》が普通に使えるのであれば特に問題は無いがな」
「恐らく 燐の血をその肉体に流すことが出来れば可能だろう。 お前の肉体を《《トランサーせしめているのはその血の力》》なのだからな」
「であれば、通常の人間と同じ組成の肉体の方がいいですね。
おっと、こちらがその研究室です!」
---
研究室に入ると難しそうな機械やポッドのようなものが立ち並んでいた。
奥には同じ形をした装置が横並びに並んでいる。
「では、凍矢さん。このモニターでどんな外見がいいかを入力してください。
もちろん高身長イケメンにもなれますよ!!
あ 内部の臓器や神経などは人工的に作ったものですが、脳まではまだ再生できていないため機械頭脳になります。そこはご了承ください・・・」
「ふむ、なるほどねぇ。まっ、物は試しだ。使わせてもらうよ」
凍矢はカタカタと外見情報を打ち込んでいく。
「(燐よりちょっとだけ身長を高くして モデル・・・とまではいかなくても端正な顔立ちにして 脚は長めに、蹴り技が使いやすくなるように。
いわゆる美男美女タッグって感じか?)
入力、終わったぜ」
「では こちらの服に着替えていただいて 左側のポッド内に入ってください。蓋を閉じたら自動的に肉体の構築・人格の移行が始まります!!」
ポッド内に入り蓋が閉じられると催眠ガスのようなものが静かに充満し凍矢は眠りについた・・・。
凍矢を燐の中だけに留めず、外に出すというのは書きたかったことなので
ようやく書けました(・∀・)
メイア ヘイルはもうちょっとしたら登場予定です!!
キメラ③
人格を分離させ 別の器に入れる研究を行ってる明石研究員。
凍矢は明石研究員 浪野警部の口車に乗せられたように研究に協力することになった・・・
---
キャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。左手で触れたところから鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。右手からは あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
現在 ポッド内にログイン中。
ポッドに入る数分前・・・
「おっと、大事なものを忘れていた。ほらよ」
|凍矢《とうや》は|明石《あかし》研究員に血が入ったボトルを渡す。
「トランサーから採血できるのかが分からないから先に渡しとくよ。そいつは間違いなく《《|燐《りん》の血》》だ」
「青い血など初めて見た・・・」
「絶対にその血が傷口に入らないようにしろよ? 《《一滴でも入ればソイツはトランサー もしくは肉体が耐えられず消滅行き》》だからな?」
「た、たった一滴で・・・!! 恐ろしい力ですね」
「じゃあ、あとは頼むぜ」
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「入力情報をもとに肉体の構築及び人格の移行を行います」
無骨な機械音声が流れたあと、凍矢は強い眠気を感じた。どうやらポッド内に催眠ガスのようなものが流れてきたようだ。
「おいっ!!! なんかガスが流れてきたが大丈夫なんだろうな!!!」
ポッド内に設置されたマイクを通して凍矢の怒りの声が聞こえてきた。
「そちらは麻酔の一種なので肉体には影響ありませんよ!」
明石研究員が答えるが凍矢は瞼を開け続けるのが困難なくらいの眠気に襲われている。
「し、信じ・・・て・・・る・・・」
信じてるからな? そう言い切る前に眠ってしまう。
あれからどれくらい経ったのかな・・・
急に眩しい光が差し込んできて、聞いたことがある声がする。
「・・・ん、りん? 燐! 大丈夫か?」
光が眩しすぎてぼんやりしている。
「おはよう!! 燐!!」
目の前にいたのは紛れもなく〈凍矢〉だった。
検査着のような格好だったが、声も外見も精神世界で会っていた凍矢だった。
「凍矢!!」
燐は人の目をはばかることなく凍矢をフロントハグした。瞳からは大粒の涙が沢山こぼれ、検査着が濡れていく。
「り、燐? どうしたんだ?」
「・・・嬉しいの。精神世界じゃなくて現実世界で こうして凍矢の温もりを感じられるのが」
「そうか。 これからは俺も こうやって燐を撫でてあげられるんだな」
燐と凍矢は直接肌と肌とで触れ合い その心音や温もりを味わっていた。
---
「凍矢さんの人格は完全に移行したのではなく、コピーしたものをこちらの肉体に移した
・・・というのが正しい表現になります。
凍矢さんはいつでもオリジナルである燐さんの肉体に戻ったり 今の肉体に移ったりできますよ」
「へぇー、便利なものだな。おっと こいつを試しておかないとな。 燐、簡単な鎖を出してくれないか?」
「!! そういう事ね。分かった。
|鎖《チェイン》!!!」
燐は左手から鎖を引き出すと凍矢は右手そして左手と連続で|消《イレイズ》を使った。
「えっ・・・!! 左手からも|消《イレイズ》が!?」
「やはりな。これまでは燐と身体を共有していたから右手からしか使えなかったが 分離したことで両手とも使えるようになったのか。燐も試してみたらどうだ?」
燐は恐る恐る右手の指を左手のひらに押し当てる。
すると同じような形状の鎖が引き出される。
「ほ、ほんとだ。両手から使えるようになってる・・・
って 凍矢!!!ひ、瞳の色・・・両方とも濃い赤色だよ!」
「それを言うと燐もだぞ? これも分離したためなのか・・・? オッドアイではなくなったってことだな」
燐 凍矢の瞳は赤色で固定され、トランサーの|能力《ちから》を使う際にはガーネットのような真紅色に輝くようになった。
---
明石研究員にお礼を言い、|浪野《なみの》警部と別れたあと、燐と凍矢は服を買いに行った。
燐の服は黒のジャケットにスラックス、白のショートブーツに対し 凍矢は白のTシャツ+ジーンズ+水色のカーディガン+黒のスニーカーを選んだ。
大通りを歩いていると人々の視線が2人に刺さる。何せ美男美女タッグなのだからwww
「まさかこうして燐と肩を並べて歩く日が来ようとはな」
「ずっと|精神世界《向こう》で会ってたから慣れてないのか変な感じだね。
すぐ慣れそうだけどw」
燐は凍矢の左腕に巻き付くように ぎゅっと抱きついた。
「り、燐? どうしたんだ?」
「少しこのままでいさせて。 せっかくこうして出逢えたのだから」
「・・・これじゃあデートだなwww
いつまでもくっついてていいぜ。 これからはこうして一緒にいられるんだしな」
そこから20分くらいずっとくっついて逢間市内を歩き回った。
「凍矢、ごめんね。色々連れ回してしまって」
「なーに? 燐の行きたいところならどこだって構いやしねぇよ!」
「凍矢も行きたいところがあるだろうから一旦別行動する? もうすぐおやつの時間だし」
「そうだな・・・ さっきからお腹が鳴りまくりだしな、簡単に食べてくるかな。
燐はどうするんだ?」
「もうちょっと先にある森林公園にでも行くよ。 あ、はいコレ」
燐は凍矢に5000円入り財布を渡した。
「燐、わざわざ俺に買ってくれたのか? 高かっただろうに・・・
お金もありがとうな。余ったら後で必ず返すよ」
「ううん、大丈夫。これからは何かと入り用になるだろうから使って?」
「あ、ああ 分かったよ・・・
そうだ!! 燐、右腕を出してくれ」
燐が右腕を出すと 凍矢は手首部分を両手で包み込み目を閉じる。
すると眩い光が溢れ 手首にスマートウォッチのような見た目のデバイスが取り付けられた。
丸い液晶に緑色のベルトが付いている。
「これは?」
「俺の能力のひとつである索敵能力をそれに込めた。これまでは俺が辿れたんだが 燐と別行動になった際 もし|悠河《ゆうが》以外のトランサーが近づいてきたり、昨日話してた〈敵〉が近くにいると|振動《バイブレーション》で知らせるようにした。音だと気づかれてしまうからな。
あと そいつはGPSにもなってるから何かあれば俺もすぐ駆けつけられる。
一応見た目はスマートウォッチのような感じにしたが・・・」
「凄いかっこいいよ、ありがとう!! 凍矢」
「へへっ、さっきの財布のお礼じゃあないがな。
索敵能力以外にも色々機能入れてみたから試してみるといいよ。とりあえず30分くらい ぶらついたら俺も森林公園に向かうからな」
「うん、また後でね」
燐と凍矢はパンっ!と笑顔でハイタッチを交わすと別れていった。
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「・・・みーーつけった♡♡
あの子がヘイルの感じていた存在か。
あーやって見ると 人間と変わらないな。
どんな能力を持ってるか分からないし、キメラの力は使わないでおこうかな。まぁ?私は普通に戦っても強いんだけどね♡
いっちょ行くとするか!!!」
ビルの屋上でうつ伏せに寝転がり両腕で頬杖をつき 足をパタパタさせていたメイアはスっと起き上がるとロングマントを消した。
そしてパーカーのフードを深く被り バングルをしっかり腕に固定させ動かないことを確認すると 燐 目掛けて飛び降りた。
燐が7歳の時に発現した凍矢ですが、予定年齢としては
「燐が成長するまで」は28歳設定
「年齢が追いついたら」共に歳をとるが トランサーという性質上 見た目が余り変わらないようになる(ボウケンジャーの映士のような感じ)
となります。
燐にとって「お兄ちゃん」的ポジションで 両親からの虐待に対しても時折表に出て怒りの表情を見せていました。
さて、燐と凍矢の出逢いも つかの間・・・
先にメイアが仕掛けてくるようです。
この先どうなるのか 次回もお楽しみに!!
キメラ④
燐から人格分離した凍矢。その身体を楽しむため街中を歩き回っていた。
しかし 凶刃が迫っていたことを2人は知る由もなかった・・・
---
キャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
現実世界で凍矢に逢うことができ大泣きした。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
別の身体に移り その身体を楽しんでる。
・メイア 右腕が白銀の毛でおおわれた狼の腕をしており 紅く鋭い爪が伸びている。
右腕には金色のバングルがはめられ、瞳は琥珀色(アンバー)をしている。
・ヘイル メイアの相棒で左腕が灰色の毛でおおわれた狼の腕をしており 同じ紅く鋭い爪が伸びている。左腕にはメイアと同じバングルをつけており、瞳も同じ琥珀色(アンバー)をしている。
--- 燐サイド ---
|凍矢《とうや》と別れた|燐《りん》はスクランブル交差点を渡りながら考え事をしていた。
もちろん内容は |運命《フェイト》のことだった。
「|原初《げんしょ》の王から私たちを守るためにトランサーに変えた か・・・
そういえば|刃《スラッシュ》もそんなことを言っていたなー。
原初の王の血の匂いがするって。
・・・一体何がどうなってんだか。どうして私達の身体を守るためにトランサーにしないとしけなかったんだ?
ハァ・・・こればっかりは|運命《フェイト》を問いただs」
突然|振動《バイブレーション》がした。時計を見ると上後方から敵が接近と出ていた。
バッと燐が振り返るとフードを深く被った人物が右脚で飛び蹴りを入れようと 飛び降りてきていたのである。
「なっ・・・!! 気配は全くしなかったのに!!」
燐は身体の前に両腕を構えると飛び蹴りをガードした。ビリビリとした衝撃が全身を走る。
普通の人間であれば 粉砕骨折必至の攻撃力。 しかし トランサーとなり身体能力が格段に上がっている燐だからこそ 《《身体に衝撃が走るだけで済んでいる》》のである。
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「キャーーーーー!! 逃げろーーーー!!」
人々の逃げ回る声が聞こえてくる。
「へぇ? 気配は完全に消して襲いかかったのに まさか防がれるとはねぇ? しかも私の蹴りを受けて無事ってことは人間じゃないのも間違いなさそうだね」ストッと地面に着地すると 斜めに立ち 左脚に重心を乗せるような姿勢をとると 右脚を前後ろに動かしていた。
女は 緑色のVネックシャツに水色のパーカー 青色のズボンとスニーカー 左手には赤色の指ぬきグローブをつけていた。
そして・・・右袖口からは白銀の毛が見え 紅く鋭い爪が伸びていた。
「(・・・顔はフードで隠れているけど 声や体格からして女であることは間違いない。
でも・・・あの腕は一体何なの? 獣の能力を持つトランサー?)」
左腕を身体の前に構えたまま 燐は外見情報から推察を行う。
すると女はフードをバサッと脱いだ。
肩くらいの黒髪ショートヘアに綺麗な|琥珀色《アンバー》の瞳をしていた。
二っと笑ったと思いきや姿を消してしまう。
「ッッ!! 消えた・・・!? 一体どこに!」
後方から殺気を感じ燐は鎖を引き出す。
ガキィィィィン!!!
爪と鎖が激しくぶつかり合う。女が爪を振り下ろすのに対し、燐はロープを張るように鎖でガードする。
「くっ・・・ 一撃が重い・・・!!」
「へぇ・・・? 私の爪を止めるなんてすっごいね、君。 鎖の魔法を使えるのか、初めて見たかも♡」
女は後方に跳び 距離をとる。
女の言葉に対し 燐が「(ま、魔法?)」と疑問を浮かべた直後だった。
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「でも・・・」
ピシッ ピシピシッ バキィィィィン!
鎖は粉々に砕けてしまった。先程の爪の《《一撃にギリギリ耐えていた状態》》だったのだ。
「う、嘘でしょ・・・ 鎖が・・・!!?」
「そっちの鎖もなかなかの硬度だけど 私の爪はもっと堅いよ?」顔の横で右手を大きく広げると 女はペロリと舌なめずりしていた。
「(これまでに戦ってきた どのトランサーよりも強い・・・悠河以上かも。何より・・・
怖い・・・!!!)」燐は恐怖を感じ僅かに震えている。
「うーん、砕けるとはいえ 長距離からの攻撃は厄介だな。 ここは|接近戦《インファイト》に切り替えだ!!!」女は|徒手格闘戦《ステゴロ》を仕掛けてきた。
燐もすかさず 戦闘に応じている。
--- 凍矢サイド ---
凍矢は燐と別れたあと 牛丼を食べたりコーラを飲んだりしながら街をぶらついていた。
これまでは 燐の感覚を通し 生活を見てきたが、実際に飲み食いをするのは初めてだった(凍矢が入れ替わって食べることはあっても あくまで摂取してるのは燐のため)。
「ふぅ・・・ こんなに飯が美味しいと感じるとはなぁ! 思ったより この身体も悪くないかもしれねぇな。少し休憩したら身体能力を見てみるか!」
20分くらい歩くと大きい広場に着いた。小さい子連れの家族が多くいた。
「よし、まずはバク転とバク宙だな、ロンダートもやってみるか」
周りの安全を確認したあと 凍矢は連続バク転やバク宙 ロンダートからのバク宙、ハイキックやローキックなど 身体がどれくらい動くのかを確かめてみた。
元々 燐は体操教室に通ってたこともあり 凍矢のメモリーにも技術はしっかりと刻み込まれていた。
---
「ほぅ? 思ったよりしっかり動くな。 これなら相手にとって不足なしだな!!」
手を開いたり閉じたり、身体をうーんと伸ばしたり ストレッチをしていた時だった。
凍矢はぶるっと寒気を感じた。
「ッッ!! この感覚は 恐怖・・・か? 燐と分離したとはいえ 本来の|人格《俺》は燐の中にいる。こうして分かれてても その感覚を感じることが出来るのか。
ということは・・・燐に危険が迫ってるってことか!!! 燐!!」
燐に渡した時計の気配を探し当てると そこへ向かって走り出す。
「このままじゃ間に合わねえか、仕方ない!|消《イレイズ》!!!」 トランサーの力を発動させると 大跳躍を繰り返し 燐のもとに向かった。
--- ヘイルサイド ---
ヘイルは森林公園にある時計塔に腕を組んで寄りかかると 静かに目を閉じていた。
白いTシャツ、黒地に赤い袖のパーカー、黒のパンツに赤いスニーカー、メイアと同じ形で黒色をした指ゆきグローブを右手に着けていた。そして左袖口からは灰色の毛と紅く鋭い爪が見えていた。
静かな噴水の音 鳥のさえずり 風の音と それに同調し揺れる木々の音に耳を傾けていたヘイル。たまに口角が上がり笑みがこぼれていた。
するとフッと目を開ける。
「この気配・・・ メイアがターゲットに接触したのか」
ヘイルも メイアの気配を探し当てるとヒュっと姿を消した。
---
「燐!!」「メイア!!」互いの相棒が到着する。
しかし その場の惨状に2人は言葉を失ってしまった。
道路に穴が空き ガソリンが引火してしまったのか 至る所から小さい火が上がっている。警察が大規模な避難誘導を行っている。
先に口を開いたのは凍矢だった。
「こ、これは一体・・・何がどうなってんだよ」
被害地域の中心部では2人の女性が|徒手格闘戦《ステゴロ》を行っていた。パンチの応酬 時折 繰り出されるハイキック 息つくことなく戦っていた。互いの腕を掴みあっては距離を取り合う。右脚同士のキックがぶつかり合うと衝撃波が広がった。
燐も 時折太い鎖を出し 遠距離戦を仕掛けるがメイアの爪で簡単に砕けてしまう。
---
相棒たちはそれぞれのパートナーの元に走り出した。凍矢は燐を羽交い締めに・ヘイルはメイアの右腕を掴み 捻りあげている。
「燐!!! 落ち着くんだ!!! 一体何があったんだ!!」
「メイア? ちょっかいをかけるとは聞いたが 周りを見ろ。 ちょっかいなんてレベルじゃないぞ!!!」
「と、凍矢・・・来てくれたの? 鎖を壊されちゃって 怖くなっちゃったみたい。 だけど、あの人は私を殺そうと襲いかかってきた。だから・・・」
「ヘイル・・・ 来たんだね。 でも ごめん。今すっごい戦いが楽しくって♡ だから・・・」
「「邪魔をしないで」」
2人の口から同時に出てきて互いの相棒を睨みつけて脅す。拘束を振り払いパートナーを蹴り飛ばした。
「なっ・・・! 燐!!」「め、メイア? うぐっ・・・!!」
これではさらなる被害が出てしまう。どうにかして止める必要があった。
---
先に行動したのはヘイルだった。右腕を庇うように掴み、凍矢のところに歩いてきた。
「・・・凍矢 と言ったか?」
「あ? 誰だ テメェ」
「俺は・・・ヘイル。あっちで戦っている獣の腕をした女の相棒だ」
「俺は・・・|睦月 凍矢《むつき とうや》。黒い服の女の片割れだ」
凍矢は瓦礫を払うように立ち上がった。
「凍矢・・・ あの二人を何としても止めたい。さもなくば被害はさらに拡がってしまう。ただでさえ人外の2人が戦っているんだ。被害予測は立てられん」
「それは・・・そうだな。どうすれば・・・
そうだ!! ヘイル!少しの間でいい。 《《2人の気を引いてくれないか》》!!?」
「? どうするつもりだ?」
「俺の|能力《ちから》である|消《イレイズ》を使えば2人の中から殺意や戦意を消し去ることが出来る。
だが そのためには 《《この光を確実に2人の目に見せる》》必要があるんだ。だが あんな戦いの中 どうやって隙をつくか・・・!!」
「ニッ なるほどな・・・ そのために気をひけ と?」
「初対面のお前に頼むのは とても心苦しい・・・。だが この状況だ、手段を選んでいられる余裕は無さそうだ。
・・・頼めるか?この通りだ」
凍矢は深く頭を下げた。
---
「くっ ククク ハッハハハハハハ!!!」
ヘイルが突然笑いだしたことに 凍矢は驚きを隠せなかった。
「何だ そういうことかよ!! 計算ごとなら 俺の得意分野さ!! 隙が出来たら合図する。恐らくチャンスは一度きりだ。|失敗《しくじる》んじゃねぇぜ? 凍矢!!」
ヘイルは右手で握り拳を作ると前に突き出す。
「 ・・・誰に対してモノを言ってんだよ? そっちこそ|失敗《しくじる》なよ!!」
凍矢も右手で握り拳を作り 熱いグータッチを交わす。
えー、まさかのパート4で収まりませんでした(滝汗)
脳内でシチュエーションが想像しやすいよう描写を細かく書いてるのでそのせいですね(・∀・)
メイアと燐による戦闘を2人は終結させることが出来るのだろうか?
次回をお楽しみに!!
キメラ⑤
突如襲いかかってきたメイアと戦闘を行う燐。
しかし メイアの爪の前に 燐の鎖は紙切れ同然だった・・・
人外の戦いに 被害はどんどん拡がっていく。凍矢とヘイルは2人を止めるために結託した。
---
キャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
絶賛メイアとバトル中。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
燐を止めようとしたが派手に蹴り飛ばされてしまった。
・メイア 右腕が白銀の毛でおおわれた狼の腕をしており 紅く鋭い爪が伸びている。
右腕には金色のバングルがはめられ、瞳は琥珀色(アンバー)をしている。
絶賛燐とバトル中。
・ヘイル メイアの相棒で左腕が灰色の毛でおおわれた狼の腕をしており 同じ紅く鋭い爪が伸びている。左腕にはメイアと同じバングルをつけており、瞳も同じ琥珀色(アンバー)をしている。
メイアの腕を捻りあげるも あっさり蹴り飛ばされてしまった。
「さて、やるとしますか」
ヘイルはポキポキと拳を鳴らすと 目をグッと閉じ カッと開く。瞳は|琥珀色《アンバー》から緑色に変わり発光していた。
「へ、ヘイル?」
|凍矢《とうや》の呼びかけに答えることなくヘイルは左手を開いた状態で2人に向ける。
「予測演算!!!」
ヘイルの脳内では|燐《りん》とメイアの動きが何倍にも引き伸ばされスローモーションで見えている。
これにより 2人を止める隙を探っている。
「|活路《みち》は見えた!!|腕力強化《フレイム・アームズ》!!」
ヘイルはダンっと地面を蹴ると2人の後ろに回る。
メイアの右腕を自身の左腕で 燐の左腕を自身の右腕でガシッと掴むと上に捻りあげた。
「ヘイル!! 邪魔しないでって言ったでしょ!!!?」
「誰なんですか、あなたは!!! 邪魔するというのなら あなたの身体も絞め上げますよ!!?」
メイアと燐はほぼ同時に怒声を上げた。
「あれだけ戦ったのにまだこんなに元気があるとはなぁ! だが |喧嘩《バトル》はそろそろ終わりだぞ?」
言い終わるとヘイルは瞳に意識を集中させた。
---
【2人ともこの瞳を見ろ 絶対に目を逸らすな】
2人はヘイルの瞳を見ると あっ という小さな声を漏らし 半目になる。赤色と琥珀色の瞳を縁取るように緑色のラインが引かれた。
ヘイルが2人の腕を離すと、2人ともダランと脱力し前後左右に静かに揺れていた。
「な、何が起きたんだ・・・ 2人の動きが止まった?」
凍矢は ただその状況を見ているしかなかった、唖然としている凍矢を見てヘイルは左人差し指を立て唇に当てる。「お楽しみはこれからだぜ?」というようにウインクもした。
「さて? 2人とも? そんなトロンとした目をしてないで 【目をしっかり開き 凍矢を見て 絶対に瞬きするな】」
ヘイルは新たな命令を下すと 2人は声を発することなくコクンと頷くと緩慢に凍矢の方を向き 目をしっかりと開いている。
「凍矢!! やるなら今だぜ!!」
凍矢に声をかける。
「手段は選んでられないとは言ったが まさか瞳を見た相手を虜にできるのかよ。
いわゆる洗脳ってやつか。 ハハハ・・・敵に回すとこんな恐ろしいやつはいないな。
ちょっと癪だが やるか!!!」
2人の元に走り寄ると右手を開き2人に向けた。
「少し眩しいが 我慢しろよ! |消《イレイズ》!!」
2人の中から敵意が消え、ヘイルの洗脳も解けた。
「しっかり|消《イレイズ》も入れられたし、これで2人の戦意は消えたぜ?」
「やったな 凍矢!」
ヘイルはニィっと笑顔をしてサムズアップをしていたが、凍矢はその能力の恐ろしさに寒気を感じていた。
---
「で? お前ら2人は何者なんだよ?」
凍矢は燐を庇うように前に出ている。
ヘイルもメイアを庇うように左手を伸ばしている。
「凍矢・・・ 大丈夫。」
燐は凍矢の右腕をすっと下ろす。
「良ければ 場所を変えて話さない・・・?
積もる話もあるし。 事務所ならすぐそこだから」
「おいおい、ちょっと待て 燐!!!
こんな現場を放っておくのか?」
あと少し遅ければ一帯は焼け野原になっていた。
「仕方ないな。2人とも視力と聴力を失いたくなければ しっかり目を閉じて耳を塞いでな!!」
ヘイルが燐たちに声をかけると 燐と凍矢はギュッと目と耳を塞ぎ その場に小さくなる。
「行くぞ、メイア」 「うん」
メイアは右腕を ヘイルは左腕を高く掲げる。
「|時間遡行《タイムリープ》!! |集団洗脳《マインドコントロール》!!」
ヘイルが〈|集団洗脳《マインドコントロール》〉と叫ぶと緑色の波紋が街全体に拡がった。避難している人々 それぞれの目の前に緑色の目が浮かび上がる。
それを見た人々は次々に倒れていった。
メイアが〈|時間遡行《タイムリープ》〉と叫ぶとメイアと燐が戦う前まで時間が巻き戻った。
〈街には傷一つ付いていないのに なぜ私たちは倒れていたんだ?〉ヘイルは人々の記憶をそう改ざんした。
すぐ目を覚ました人々は散り散りに行ってしまった。
---
燐はメイア達を事務所に案内した。
応接スペースでは下座にメイアとヘイルが横並びに座り、凍矢は2人を監視するように腕を組み壁によりかかって睨みつけている。
奥では燐がコーヒーの準備をしていた。
「どうぞ ミルクと砂糖はこちらに」
「あ、ありがとう・・・」
メイアはその爪が伸びた手で 器用にコーヒーカップの取っ手を握ると口をつけ ブラックで飲んでいる。
「メイア!? に、苦くないの?」
「? うん、コーヒーは普通にブラックで飲んでたもん」
「|メイア《テメェ》は一体|何歳《いくつ》なんだよ・・・(汗)そんな若いのにコーヒーをブラックで飲めるなんて渋いにも程があるぞ」
「・・・20歳だよ?」
「・・・同い年かなって思ったら年下だったの!? 私25なんだけど 未だにブラックで飲めなくて(滝汗)」
「まぁ メイアは天才肌だったからなぁ。近接戦闘術も俺が教えたんだが飲み込みが早くてな!!!」
ついさっきまでガチ戦闘をしていたとは思えないくらい和やかな雰囲気だった。
「自己紹介しないとね。
睦月探偵事務所所長で トランサー|鎖《チェイン》の|睦月 燐《むつき りん》です!」
「俺は燐のパートナー |睦月 凍矢《むつき とうや》だ。
燐のもう1つの人格だが 今は治験中でね。こうして別の身体に入っている。そしてトランサー|消《イレイズ》だ」
「私はエリュド・リーラ=メイア。 こっちの世界では目立っちゃうから偽名として〈|風野《かぜの》メイア〉って名乗ってるよ。気軽にメイアって呼んで!
そしてその正体は!!? 人間をベースに 狼の遺伝子と魔法の力を組み込まれて造られたキメラなのでした!」
バサッとパーカーを脱ぎ その腕を見せた。肘上までが白銀の毛で覆われていた。
「これが 狼の腕・・・? さ、触ってみてもいい?」
燐は恐る恐る聞いた。
「うん、いいよ。 触っても毒は無いから安心して」
燐はメイアの右腕をギュッと握る。とても暖かい、太陽のような 暖かい手をしていた 。
「燐・・・さっきはごめんなさい、妙な気配を感じたから その気配が知りたくて襲ったの。
こちらにとって敵ではないと分かったから もう襲わないよ。本当にごめんなさい」
「ううん、もう気にしてないから大丈夫。
それで・・・お隣の人は?」
「俺はヘイル。 〈風野ヘイル〉と名乗ってる。 その正体はメイアに組み込まれた《《プログラム》》さ。
今はメイアの魔法で人の姿をしているがな、左腕もこの通り」
ヘイルも同じように左袖から腕を抜くとその腕を出した。
メイアのよりも灰色が濃い感じだった。
---
「プログラムだと・・・!」
「ああ、|人工知能《AI》 と言った方が正しいかな。
感情を持ち合わせ、組み込まれた者との意思疎通を図るのが俺の役割だ」
「目が緑色に発光していたのもお前の|能力《ちから》なのか」
「ああ、そうさ。演算能力だけでなく人心掌握能力にも長けてるぜ?」
「・・・ところで、2人は何が目的で|逢間市《おうまし》に来たの?」
燐が本題に入る。
「探し物をしてるんだよ、この街にあるんじゃないかなって思って」
「探し物・・・だと? これでも俺達は探偵だ。 何をお探しで?」
「記憶 かな。探し物は」
メイアは右腕で右目を隠すように 頭をスっと触った。
燐が25歳 凍矢は28歳 メイアが20歳 ヘイルも凍矢と同じようにかなり年上に年齢設定されてるので28歳ですが プログラムなので年齢はあってないようなものですw
洗脳で瞳の色がガラッと変わるのはアオナでやったので、今回はギアス風にしてみました。
メイアの探し物は「記憶」
燐は2人の処遇をどうするのか・・・
次回をお楽しみに!
キメラ⑥
襲撃者メイアと 燐の戦いは凍矢・ヘイルの共同作戦により無事終結した。
しかし 燐は敵であった二人をあっさりと事務所に通したのだった・・・
---
キャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
ついさっきまで戦ってた相手とのんびりコーヒーブレイクしてる。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
メイアとヘイルを監視中。
・メイア 右腕が白銀の毛でおおわれた狼の腕をしており 紅く鋭い爪が伸びている。
右腕には金色のバングルがはめられ、瞳は琥珀色(アンバー)をしている。
ワイワイ燐と話をしている。
・ヘイル メイアの相棒で左腕が灰色の毛でおおわれた狼の腕をしており 同じ紅く鋭い爪が伸びている。左腕にはメイアと同じバングルをつけており、瞳も同じ琥珀色(アンバー)をしている。
燐とメイアの会話を楽しそうに聞き、たまに会話の中に入っている。
腕を組み壁によりかかっていた|凍矢《とうや》は その場の状況に1番困惑していた。
「(つい数分前まで街を巻き込んだ殺し合いをしていたのに、|燐《りん》は 戦いが終わり街が元に戻ると メイアとヘイルをあっさりと事務所に案内しコーヒーを飲みながら わいわい話をしている。
抵抗しないよう|消《イレイズ》で作った拘束具を嵌めた方がいいのではないかと 提言したが却下された。
「拳と拳で語り合ったんだもん、それに向こうも戦う意思はないよ」
燐は 他人に対して優しすぎる。警戒心が薄すぎる。 |浪野《なみの》警部に対してもだ。全員が全員本心で語るわけが無いのに 建前と本音は全く違うのに 何故こうも信用出来る・・・?
まあ、俺がこうして見張っていればいいか。
俺は燐の|守護者《ガーディアン》 なのだから・・・)」
---
「記憶・・・? もしかして記憶喪失なの?」
「頭の一部に|靄《もや》がかかったような感じで思い出せないんだ。 それを探すために色んな組織と手を組んだりしたんだけど 手がかりがなくってねぇ。
見つけるためであれば キメラの力だって喜んで使うよ!」
「(あの時と重なる・・・)」
「(街の人たちや|晴翔《はると》が護れるのであれば私は喜んで |力《チェイン》を使う、そう決めたんだ)」
「最強のキメラである私と 最強の頭脳であるヘイル。
2人の力があれば 勝てない敵はいないよ!!!」
メイアは満面の笑みを浮かべると パンっとヘイルとハイタッチをした。
「もし・・・ もし私で良かったら力を貸すよ。 メイアの失われし記憶探し!!」
「えっ・・・燐? ど、どうしたの? 急に」
「思い出せない記憶があるなんて 私も辛いって感じる。・・・力になれるかは分からない でも手伝わせて!!」
燐はメイアの両手をぎゅっと握る。
「燐・・・」「気持ちはとてもありがたいが・・・」
メイアとヘイルの方は戸惑いの表情を隠しきれず、お互いに顔を見合せている。
どうして こうも簡単に私たちを信じてくれるの・・・? という気持ちだった。
「・・・胡散臭いんだよ」
後ろで聞いていた凍矢が口を開き、3人とも凍矢に視線を向けた。
「|メイア《おまえ》は 要は人体改造されて生まれたんだろ? なら なぜそんなに嬉々としていられる? ヘイルだってそうだ!メイアに組み込まれた・意思疎通が目的ってことは 〈メイアを操るための|存在《プログラム》〉 ってことだろ!!!
記憶を探してる?
胡散臭いにも程があんだよ!! この生体兵器が!!!」
〈生体兵器〉 そのワードを聞き、ブチッとキレたヘイルはバンッと応接テーブルを叩くと勢いよく立ち上がり凍矢の胸ぐらを掴んだ。
フーッ フーッ と酷く興奮し怒っている。
---
ビクッとした燐はメイアのところに駆け寄り震えている。メイアは爪で刺さないように気をつけながら燐を抱きしめている。
・・・もはや どちらが歳上なのか分からない光景だ。
「取り消せ・・・ さっきの言葉を取り消すんだ!! メイアはもう |研究者共《あいつら》の操り人形ではない!!
俺がそんなことはさせない。 《《あの日》》 そう決めたんだ!!!」
「お前だって 奴らに|プログラミングされた《つくられた》存在だろ!! 何故そこまで怒りを見せんだよ!!?」
ヘイルと凍矢は互いに怒号を浴びせ合っている。
それを見ていた燐とメイアは小さい声で話している。
「め、メイア・・・ ヘイルの目、どうしちゃったの? 猫みたいに瞳孔が細くなってる」
「キメラ|形態《モード》だよ。 私たちが着けてるバングルは|制御装置《リミッター》でもあるの。そのまま着けた状態での力が燐と戦った時の感じね? そしてバングルをズラすとキメラの力をフルに発揮できるキメラ|形態《モード》に!! キメラ|形態《モード》になると目があんな感じになるの。本当の狼みたいでしょ?
まぁ 完全に外してしまうと|暴走形態《オーバードライブ モード》になるけどね」
「ヘイルは《《自分の意思でキメラ|形態《モード》になった》》ってこと?」
「凍矢の言葉に本気でキレてるんだよ。
ヘイルは・・・キメラとして完成し、記憶や感情を全て失ってしまった私のそばにずっと居てくれた。虚ろな目をして心を閉ざしていた私は いつ「壊れて」も おかしくない危険な状態だったんだって。最初数日はただ静かに見守ってくれたり 私という人物について色々教えてくれたり・・・。
ヘイルも 私に組み込まれた直後 研究者達によって|データ《記憶》を完全リセットされたみたいなんだけど、バックアップを密かに作ってたおかげで助かったんだって。
ずっとそばで観てきたからこそ 私を傷つけたって 本気で怒ってるんだ。だからキメラ|形態《モード》になってるんだと思う」
「なんだかんだ 私たち似てるのかもね。
辛い経験をした|私達《燐とメイア》 影から支えてくれる|守護者達《凍矢とヘイル》。他人とは思えない」「そうだね・・・」
メイアは燐の左手を優しく握りしめた。
---
「メイアが キメラとして造り変えられたのは俺のせいでもある。だから俺は一生をかけてメイアを護ると誓ったんだ。
メイアを傷つけるというのであれば 例え凍矢であろうと容赦しねぇぞ!!!」
「俺だって同じだ!! 燐を危険に晒すヤツは誰であろうと叩き潰す!!」
ヘイルと凍矢はガンッと頭突きしあう。
もちろん相手を強く睨みつけて。
「そろそろ止めないとまずいかな? 燐 力を貸してくれる?」
そう言うとメイアはバングルをズラした。
目はヘイルと同じように 瞳孔が針のように細くなった。
「キメラ|形態《モード》・・・! メイア どうするの!!?」
「燐の|鎖《チェイン》を私の魔法で強化すれば 2人を拘束できる!
私の右手をただ握っててくれれば大丈夫」
とても穏やかな笑顔を燐に向けた。
「|鋼鉄の縛鎖《スティール・バインド》!!」
どこからともなく無数の鎖が出現し、2人は大の字になるように両腕 両足 身体をバラバラに拘束された。その鎖は燐の|鎖《チェイン》そのものだった
「2人とも! これ以上|殺り合うって言うのなら《バトるのであれば》表に出てやってくれない!!?
燐がどれだけ怯えてるか分かってんの!!?」
メイアも怒号を浴びせているが 燐は あまり怖さを感じなかった。
自分のことを守っているんだと分かっていたから だろうか?
「チッ!」「すまなかった メイア、そして燐」
2人がそう言うとメイアは魔法を解除した。
「ちょっと言いすぎた・・・ 頭を冷やしてくる」
ストっと着地し そう言うと 凍矢は事務所を出て行ってしまった。
---
「燐 怖がらせてしまってごめんな。怖かっただろ・・・?」
ヘイルは燐の身体にそっと手を当て 目線を燐に合わせて話している。
「メイアが優しく抱きしめてくれていたから大丈夫だよ。太陽みたいに暖かかったよ、メイアの身体。 とてもいい匂いもしたし」
「(無意識に鎮静フェロモンでも出してたのかな? 私・・・)」
「俺も頭に血が上ってた。 大人げなかった・・・。この目 怖かったろ? 燐」
「最初見た時は怖かった。でも・・・なんて言うんだろう?
子供を守るお母さんの目って感じだったかな。
ヘイルで言うと・・・メイアを守るための決意のしるし!!! みたいな?」
「「(い、良い子すぎる【泣】)」」
メイアとヘイルは 燐を両側からガシッと抱きしめる。
「め、メイア!? ヘイル!? どうしたの!!?」
「俺達が 燐のことを護ってやる。なぁ!メイア!!」
「もちろん!! 指一本触れさせない!!」
「(え、えええ・・・(汗))」
メイアとヘイルの中に強い|庇護欲《ひごよく》が湧き起こった瞬間だった。
凍矢とヘイルのガチ喧嘩・メイアの過去回でした(・∀・)
キメラ編 という【タイトル】はここで終わりですが、ストーリーとしてはまだ続きます!!
事務所を出ていった凍矢・・・ ヘイルたちと仲良くやっていけるのだろうか?
次回もお楽しみに!!
消(イレイズ)①
メイアとヘイルを簡単に信用した燐の事が信じられず、メイアに酷いことを言ってしまった凍矢。
その後 事務所を出ていってしまう・・・
---
キャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
キレたヘイルに怯えてしまいメイアの側で縮こまっていた。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
メイアに生体兵器という言葉を言い放ってしまい その後 事務所を出ていってしまう。
・メイア 右腕が白銀の毛でおおわれた狼の腕をしており 紅く鋭い爪が伸びている。
右腕には金色のバングルがはめられ、瞳は琥珀色(アンバー)をしている。
キレたヘイルに怯えた燐を抱きしめて落ち着かせていた。
・ヘイル メイアの相棒で左腕が灰色の毛でおおわれた狼の腕をしており 同じ紅く鋭い爪が伸びている。左腕にはメイアと同じバングルをつけており、瞳も同じ琥珀色(アンバー)をしている。
メイアを傷つけた凍矢にブチ切れた。
おうまポートハーバー。逢間市にある大きい港であり、大型客船も出入りしている。
近くにはマリーナもあり プライベートクルーザーや小型ボートが何隻も停泊していた。
|凍矢《とうや》は事務所を出て行ったあと この港で海を眺めていた。|燐《りん》も眠れない時は ここに来て静かな海を眺めるのが大好きだった。
「燐は どうして|メイアとヘイル《アイツら》をあそこまで信頼できるんだ? いくら幼少期のことがあったとはいえ あーも簡単に信用出来るもんなのかよ・・・」
静かに手を組み考え事をしていた。
「おい!そこの兄ィちゃんよォ?」
「あ? 誰だおまえら?」
「ここは俺達 |絶対零度《アブソリュート・ゼロ》のナワバリなんだよ!
ここを使いたいんなら その身ぐるみ全部剥がさせてもらうぜ?」
約10名ほどの半グレ集団だが 全員トランサーだった。|刃《スラッシュ》や|跳躍《ジャンプ》 といったいわゆる「量産」タイプの能力を持っていた。
---
凍矢は|消《イレイズ》で作った片手剣で応戦していた。
「くっ・・・数が多すぎる。燐みたいに鎖が出せたり 全方位に攻撃できればいいんだが すぐ|精神力が切れてしまう《ガス欠になっちまう》んだよな・・・ そういえば」
「(その〈鎮静の指輪〉は絶対に外すんじゃないぞ)」
「|運命《フェイト》は そんなことを言っていた。
もし・・・もしも、この指輪により《《意図的に力が制限されていたとしたら》》?
外すことが出来れば 本来の|消《イレイズ》の力が使えるんじゃないか!?
やってみる価値はあるか!!」
凍矢は左親指にはめられている指輪を外そうと力を入れる。
「な、なかなか固いな・・・ おりゃ!!」
スルンっ。 少し指輪をひねると簡単に指輪は外れてしまった。
「よし!! これ・・・で・・・お・・・」
ドクンっ!!
凍矢は強い鼓動を感じると頭を押さえてうずくまってしまった。
「ぐぁぁぁぁぁ!! あ、頭が・・・割れ・・・そう・・・」
「な、なんなんだ? あいつ? 急に叫びやがって。
お、おい!! あいつ 起き上がったぞ!! 」
半グレのひとりが声を上げた。
ゆらっと起き上がり 両手はダランと脱力、頭はカクンと前に倒したまんまだった。
「くっ フッフフフフ。 ハッハハハハ・・・
なぁ? お前ら? 俺は今 すこぶる機嫌が悪いんだ。 俺が満足するまで《《壊れてくれるなよ》》!!!」
右手で髪をかきあげるようにし 頭を上げる。
その瞳は真紅に輝いていたが その光り方は|悠河《スナイプ》と同じだった。
---
(ここからは描写を減らして会話メインになります。誰が話してるのかも記入しております。
凡例を参考してください。
【凡例】リ:燐 メ:メイア へ:ヘイル)
燐の時計が激しく振動している。トランサーがいると思わしき場所がマップとして空中に表示された。
メ:「燐!! 一体どうしたの!?」
リ:「ここからすぐ近くのポートハーバーに大量のトランサーが居る!! しかも凍矢も!!」
へ:「いくら凍矢でも この状況はまずいな。何としても止める必要がある。 燐 俺とメイアも協力する。凍矢の加勢に行くぞ!!」
リ:「 2人とも・・・よろしくね!!!」
メ:「うん!!」
へ:「もちろんだぜ!!燐!」
3人はポートハーバーに向けて 事務所を後にした。
リ:「!!! こ、これは一体!」
メ:「燐! 何かあったの!?」
リ:「トランサーが元の人間に戻る時 赤丸から白丸に表示が変わるの。
なのに・・・ その丸がどんどん消えていってる!!!」
へ:「消えてる・・・だと!? まさか凍矢のやつ! くっ 最悪のシナリオかもしれないな」
リ:「ヘイル?」
メ:「最悪のシナリオかもしれないって?」
へ:「凍矢の力は あらゆるものを消す光を放つ能力だ。 もし |この力《イレイズ》の対象が〈人間〉になったとしたら?」
リ:「トランサーから人間に戻さず、消していってるってこと!? そんな・・・ありえない!! 凍矢がそんなことを・・・」
へ:「燐や凍矢がいつも着けている その紫の指輪。それは恐らく俺たちのバングルと同じ効力があるのだろう。
トランサーの力を抑え込み トランサーの力を使っても身体への影響を最小限にする
それがその指輪の力なんじゃないのか?
もし、それが外されたとしたら。抑え込まれたトランサーの力は一気に身体に流れ込む。
そうなれば・・・ 凍矢は もう俺達の知る凍矢ではなくなっちまう!!」
メ:「そんなこと・・・ 絶対に阻止しないと!! 急ぎましょう!燐 ヘイル!!」
3人は大跳躍を繰り返し 現場に向かった。
ここから戦闘シーンに突入しますが 長くなりそうなので一旦ここまで(・∀・)
トランサーの反応が消失している現場。
凍矢の身に何が起こっているのか・・・?
次回もお楽しみに!!
消(イレイズ)②
凍矢と 大量のトランサーが戦ってることを知った 燐 メイア ヘイルの3人。
その頃の凍矢は 最早普通ではなかった・・・
---
キャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
ポートハーバーへ全速力で向かってる。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
指輪を外してしまったことで強い力に呑まれかかっている。
・メイア 右腕が白銀の毛でおおわれた狼の腕をしており 紅く鋭い爪が伸びている。
右腕には金色のバングルがはめられ、瞳は琥珀色(アンバー)をしている。
凍矢に加勢すべく 燐 ヘイルと共に事務所を出ていった。
・ヘイル メイアの相棒で左腕が灰色の毛でおおわれた狼の腕をしており 同じ紅く鋭い爪が伸びている。左腕にはメイアと同じバングルをつけており、瞳も同じ琥珀色(アンバー)をしている。
燐や凍矢が着けている指輪の効力に気づき 嫌な予感が走った。
ストっ!!
3人が おうまポートハーバーに到着した時、
その場の光景に3人は言葉を失った。
その場に立ちつくしていた|凍矢《とうや》。そして凍矢の周りには服や靴が何十着と落ちていた。
「う、うぐっ・・・」
半グレのひとりはまだ息があったが 服を残して肉体は消失してしまった。
「と、凍矢・・・? これは一体・・・」
「服の数からして大体10人くらいか。
くそっ!! どうしてこうも嫌な予感は当たるんだよ!」
ヘイルは顔を手で覆うと 唇を噛みしてめいた。
「あれは・・・?」
メイアが紫の指輪をみつけ |燐《りん》達に見せてきた。
ヘイルの目が緑色に発光すると 指輪の解析を行った。
「予想通り・・・だな。この指輪、俺達が着けているバングルと同じ効力がある。
やはりこれを外してしまったのが原因だな」
「早くこの指輪をつけないと・・・
凍矢!! ねぇ!聞こえてる!? 凍矢!!」
凍矢はゆらっと燐達の方を向いたが とても虚ろな目をしていた。
---
「燐・・・? 来たのか。 何故俺は|鎮静の指輪《こんなもの》を着けていたのかねぇ?
外した瞬間 身体に力が漲ってきて・・・
《《殺してしまったよ コイツら》》。
コイツらをトランサーから人間に戻したところで生きる価値は無い。ただの半グレだったしなぁ。
今の俺なら・・・燐を苦しめてきた両親だって一瞬で消すことが出来る!
燐・・・ お前の前に立ちはだかる壁は全て俺が排除してやるよ。
もう 苦しむことはない。俺と共に行こう、悲しみも苦しみもない世界に・・・」
凍矢は焦点の定まっていない目で燐を指さしたあと 手を開いて伸ばしている。
トランサーは本来不死身の存在。例え死んでしまったとしても直ぐに復活する。
しかし 燐と凍矢に流れているトランサーの血は
「原初の王」と呼ばれる存在の「血」。
真の|力《イレイズ》は 不死の存在であるトランサーでさえ消滅させてしまうものであった。
「まずいな・・・ 完全に呑まれちまうのも時間の問題だ。早く|指輪《こいつ》を嵌めなければ!!」
「凍矢・・・ 私がメイア達の事を信じたことを怒ってるの?」
「あぁ?」
「簡単に信用しすぎるな っていつも凍矢が忠告してくれてたのに。 でも私には2人を見捨てることなんてできない・・・ だかr」
「喋るな 燐。いや・・・|鎖《チェイン》」
凍矢が|鎖《チェイン》と言った瞬間、燐は その場に跪いてしまった。とても強い|重圧《プレッシャー》により 押しつぶされるような感覚がした。
メイアが|拒絶《リジェクト》の魔法を燐にかけると 何とか立ち上がることが出来た。
「と、凍矢・・・?」
「俺達が話しても埒が明かない。
本当にソイツらを認めさせたいというのなら・・・
俺を|倒してみろ《殺してみろ》」
「っっ! 私のことも燐じゃなくて|鎖《チェイン》って・・・
もう かつての凍矢には会えないの・・・?」
---
燐はペタンと座り込んでしまった。
「凍矢 もうお前は 完全なトランサーになってしまった。これまでの凍矢には戻らない。
・・・そう解釈していいんだな?」
「ああ、そうさ? ヘイル。
この身体は最高だよ。
燐を護る為ならば どんなことでも出来そうだ!!
くっ ははは・・・ ハッハハハハハハハ!!!」
「!! もしかしたら もしかするかも。
燐。凍矢は まだ助け出せるかも!」
「め、メイ・・・ア?」
「妙な感じがしたと思えば やっと納得がいった・・・。
凍矢の行動理念が 変わっていない。
今なら・・・まだ間に合うかもしれない!!」
「ゴチャゴチャ話してんじゃねぇよ。
そっちから来ないのならば・・・こっちから行くぞ!!!」
凍矢は得意武器であるツインダガーを生成し 3人に襲いかかった。
「メイア!! どうやら作戦タイムは終わりのようだぜ!!」
「やるしかないかもね!! 行くよ!ヘイル!!」
「「|獣化《じゅうか》!!!」」
メイアとヘイルはバングルをカチッとズラした。
その瞬間 瞳孔は針のように細くなり 鋭い犬歯が伸びる。呼吸は荒く息は熱い。紅き爪は更に輝きを増していた。
「じゅ、獣化・・・?」
「さっき話したキメラ|形態《モード》のことだよ。燐。
私達の中に流れているキメラの本能を呼び覚まして戦う力。
狼の部分が人間の部分を侵食してしまうから 長時間の獣化はかなり危険なんだけどね!!」
右肘までしか無かった白銀の毛はメイアの右半身を覆っており、ヘイルの灰色の毛は左半身を侵食していた。
それは顔にまで及んでいた。
「ひっさしぶりに骨のあるやつとの戦いだ。
こっちもガチで行くぜ!!凍矢!!!
俺たちの爪を味わいなぁ!!」
メイアとヘイル 凍矢の戦いが始まった。
2人は重心を低くし地面をぐっと踏みしめると一瞬で距離を詰め 爪による挟み撃ちをしかけるが 凍矢は2人の爪を簡単に受け止める。
「邪魔するってんなら まずはお前らから殺してやるよ。 |鎖《チェイン》と違って不死身ではないんだろ?
傷の治癒も俺らより圧倒的に遅いしなぁ!! 」
「(確かに 俺達は長命というだけで不死身では無い。傷の治癒も《《普通の人間と比べれば》》段違いに早い方なんだがな・・・
くっ、凍矢のやつ 好き勝手言いやがって・・・!!
メイア、どうする気だ?)」
「(・・・私達が止めても 意味が無い。
燐が 燐自身の言葉で 凍矢を呼び戻さないと!!)」
「燐!! いつまで落ち込んでるつもり!!? 凍矢は 貴方の言葉をもって助けてあげるしかないの!!!」
「め、メイア・・・?」
「メイアの言う通りだ!!!
凍矢に ガツンと言ってやれ!!!」
「ヘイル・・・
分かった。 |鎖《チェイン》!!」
キッと決心を固め スっと立ち上がった燐は
左指から鎖を引き出すと 凍矢に向かって走り出した。
バングルをずらさなくてもフツーに強いメイアとヘイル。
今回の場合 相手が強敵であると分かっているため 半身を覆うくらいに獣化を進行させています。獣化が進行しすぎると 自我が薄くなり 最終的には敵味方関係なく襲うようになってしまいます。
2人の言葉により目が覚めた燐。
凍矢(イレイズ)との決戦に挑むのであった。
次回もお楽しみに!!
幕間(燐×凍矢)
体力精神力共に消耗した 燐と凍矢。
2人は静かに眠っていた・・・
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キャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
|凍矢《とうや》/|消《イレイズ》との戦いの直後、死んだように眠っていた|燐《りん》は 凍矢と初めてあった日/あった直後のことを思い出していた。
--- 20年前 ---
「この |睦月《むつき》家の恥がっっ!!!」
燐は幼少期より両親からの虐待を受けていた。
殴る 蹴るといった身体的虐待・「睦月家の恥」という言葉等による心理的虐待であった。
燐の生まれた睦月家は いわゆる「法曹一家」だった。父親は裁判長 母親は検事であった。
産まれて すくすくと成長していく燐。
転機は5歳児健診だった。
担当医師に動きを真似するように指示された燐は上手く真似ができなかった。
医師は 上手く出来なくても個人差に含まれるため大きい問題は無い と診断を出したが、それで両親は納得しなかった。
・・・そこから地獄の日々が始まった。
殴る蹴る 言葉による暴力は日常茶飯事、時には家から閉め出されたりもした。
閉め出された日には|悠河《ゆうが》の家に行き 助けてもらっていた。
そして7歳の頃・・・
燐は両親からの虐待に対し 抵抗の意思が消失していた。
--- 燐の精神世界 ---
「ひぐっ ぐすっ ぐすっ・・・
だれか こわいよ おかあさん おとうさん
いたいよ ひぐっ 」
「・・・rん りん? 燐! ようやく俺と会えるようになったな」
謎の男性が燐のところに歩いてきた。
「・・・おにいさん だあれ?」
「初めまして だな。俺の名は 睦月 凍矢。
燐の中に生まれた もう1人のお前さ」
「もうひとりの わたし?」
「燐の中に溢れている 悲しみ と 恐怖の感情・・・ そいつは全て俺のモノだ。ありがたくいただくとしよう」
凍矢は燐の顔を両手で挟むと 瞳に意識を集中させた。すると燐の目はトロンとした様子になり 頬を赤らめている。
すると突然 燐の全身から青色の粒子が溢れ出した、それを見た凍矢は一片も残さず吸い込んでいる。ゴクンっと飲み込むと ペロリと舌なめずりをした。
「くっ はははは・・・ 燐の感情・・・
なかなか美味いじゃないか。
こいつは俺にとって最上級のご馳走だな!!
ハッハハハハハハハ!!!」
目や頬が元の状態に戻ると 凍矢が何を言ってるのか さっぱり理解出来なかった。
突然笑い出した凍矢を見て、燐は へたり込むと 後ずさった。
凍矢はそんな燐を見ると片膝立ちの姿勢になり話しかける。 言い方こそ柔らかい感じだが口角や目尻は上がり 何かを企んでいた。
「フッ・・・そう怯えることはないぜ、燐。
俺は感情さえいただければ 何も手は出さねぇ。
まぁ? たまーに身体を奪わせてもらうくらいか?
俺も この身体をあやつってみたいんだよ。
ここに閉じ込められっぱなしじゃあ ストレスも溜まるしな。
燐は俺に|感情《悲しみと恐怖》を提供する。
引き換えに 俺は燐を護る。
それが燐との〈契約〉 。
悪くない条件だと思わないか?」
燐の胸をトントンとつつく凍矢。
「けいやく ってなあに?」
「そっか まだ7歳だもんな。
まぁ 細かいことは後からでも更新出来るか。
要は 俺との〈約束〉ってことだ」
「やくそく ならわかるよ!
指きりしよ!!」
2人は指切りげんまんを交わした。
これにより 凍矢は燐のもう1つの人格として顕現・|守護者《ガーディアン》となった。
「|両親《ヤツら》からの虐待にも俺が出てやるよ。
1度ガツンと言ってやりたいくらい、なんなら・・・殴りたいくらい ムカついていたからな」
凍矢は自身の腕で燐をバックハグしつつ両目を隠した。
青筋立てて怒る凍矢の顔を見せたくなかったから だった。
「燐の悲しみや恐怖は 全て俺が持っていってやるからな・・・」
---
ドカッ バキッ
「抵抗しない奴を殴っても面白くないな。これで終わらせるか」
父親が拳を振り下ろした瞬間 ガシッと受け止めた。
「・・・毎日毎日飽きないもんだなぁ、テメェら」
「な、何者だ 貴様!!!」
払い除けて ヒュッと跳ね起きると首をポキポキ回したり手を開いたり閉じたりしていた。
その後右手を身体の前に出し 執事のような会釈を行った
「ククク 初めまして? ご両親様?
俺の名は睦月 凍矢。
燐のもう1つの人格だ」
「な、なんですって・・・」
「しっかし 良くもまぁココまで痛めつけてくれたもんだ。まあ、 そのおかげで俺は覚醒できたんだが。
・・・これ以上 燐を傷つけるというのであれば俺が受けてやる 俺は燐の|守護者《ガーディアン》だ!!」
深淵に引きずり込まれそうな暗い瞳で両親を睨みつける。
気味悪がった両親はその場を立ち去った。
「こうして釘をさしておけば問題はないか。
くっ ははは・・・ こうして身体を操るのもなかなか楽しいな!!! 決めた、非常事態じゃなくても たまに奪ってやろうかな♡」
凍矢は 椅子に脚を組んで座ると頬杖をつき 不敵な笑みを浮かべていた。
「人は誰でも 複数の人格を持っている。しかしソレは小さな種として眠っている。
燐の中の〈悲しみと恐怖 という強い感情〉
それが 燐の中に眠る種を発芽させ 俺という花を咲かせた。
これからの人生が 楽しみだな。
フッ フフフ・・・ ハッハハハ・・・」
--- 現在---
「う、ううん・・・
こ、ここは 事務所?」
燐は丸一日眠っていた。ドアを開けて応接スペースに入ると 凍矢が窓から満月を見ていた。
「燐・・・ 目が覚めたのか」
「凍矢? 本当に凍矢なの・・・」
「ああ。 怖がらせてしまってすまなかったな、燐。 俺は もう大丈夫だ。」
綺麗な赤い瞳をしている いつもの優しい凍矢だった。
「感情 少し溜まってるようだな?
いただくとするか」
凍矢は燐の顔を両手で挟み込むと目を閉じ、感情を吸収した。人格分離しても感情を吸収できるようだ。
「ごちそうさま っと。やはり 燐の感情はいつ食べても美味いもんだ」
「前から気になってはいたんだけど・・・
感情って そんなに美味しいものなの?」
「他の人のはどうなのかは知らないけどな?
少なくとも 俺にとっては最高のご馳走だよ」
「ふーん、そうなの。
・・・メイアとヘイルは?」
「分からない。俺達を ここに運んだのはメイア達だろうがな」
「なんか またすぐにでも会える気がする」
燐はそう言うと 凍矢の隣に腰かけて 満月を眺めていた。
というわけで 燐の過去編 凍矢との出会い編でした。
ヘイルは外部から組み込まれた存在
凍矢は燐の内部 心から生まれた存在
という対比になっております(・∀・)
消(イレイズ)③
トランサーすら消してしまうほどの力を持つ凍矢。
メイアとヘイルが応戦していたが 燐も戦うと決心したのであった・・・
---
キャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
凍矢を取り戻すべく 戦うことを決める。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
キメラの本能を呼び覚ましたメイア・ヘイルと互角に戦っている。
・メイア 右腕が白銀の毛でおおわれた狼の腕をしており 紅く鋭い爪が伸びている。
右腕には金色のバングルがはめられ、瞳は琥珀色(アンバー)をしている。
獣化し 半身が白銀の毛で覆われている。
・ヘイル メイアの相棒で左腕が灰色の毛でおおわれた狼の腕をしており 同じ紅く鋭い爪が伸びている。左腕にはメイアと同じバングルをつけており、瞳も同じ琥珀色(アンバー)をしている。
凍矢が危険な状態にあることを解析し、何とか止めようとしている。
鎖を引き出し 瞳を紅く輝かせている|燐《りん》。
両手から光を放ち 瞳は同じく輝いているが虚ろな|凍矢《とうや》。
互いに睨み合ってる。
「こんな感じで戦うのは初めてだな |鎖《チェイン》。
模擬戦 組手ではない、純粋な命のやり取りだ。
俺が満足するまで壊れてくれるなよ」
「凍矢 行くよ」
「まだその名で呼ぶのかよ、俺は|消《イレイズ》。
|睦月凍矢《むつき とうや》は もう存在しないんだよっっ!!!」
ダンっと地面を蹴ると 激しい戦いが始まる。
鎖を腕に巻き付けると 鋭い刃に変わった。
どうしても鎖を使うとなると遠距離戦メインになる。
燐は少しでも戦略を増やすため 手甲に剣先を足したような フィクション世界では「手甲剣」と呼ばれるような武器を作り出した。
ツインダガーと手甲剣が激しくぶつかる。|消《イレイズ》に触れてしまうとジュッと音がして消えてしまうが 薄い鎖で何重にも重ねているため表層が削られるだけで済んでいる。
だが それだけで戦えるほど 凍矢は甘くなかった。
「うぐっ!!!」
凍矢の蹴りが燐の頭部に命中した。
こめかみから青い血が流れている。
「女にしては なかなかやるが、まだ甘いな。|鎖《チェイン》! その|鎮静の指輪《邪魔物》を取ってやるから大人しくしてろ・・・」
凍矢が指輪に触れようとした瞬間だった。
---
「ザクッ!!!」
「ぐあっ!!! 何だ!?この痛みは!!?」
「やっと隙を見せてくれたね、凍矢!!
私の大鎌の味はどうかな?」
メイアは自分の身長以上の大鎌を出し肩にかけていた。
「め、メイア・・・ それ・・・は・・・?」
「サテュロス。 これでも私はバランスタイプなんでね! 私のお気に入りなんだよ。
・・・そろそろ来るはずだよ? 覚悟してね、凍矢!!」
「ああ? 一体・・・な・・・ぐあっ!!!か、身体が・・・重い・・・!!?
一体何が・・・」
「サテュロスで切りつけたら その身体には何倍もの重力がかかるのよ。
|超重力の魔法《メガ・グラビティ》ね!!
燐!! 時間稼ぎ ありがとうっ!」
「ハァ・・・ ハァ・・・ 時間稼ぎしようとは思ってなかったんだけどなぁ!!」
燐は凍矢に近づくと前から抱きしめる。|超重力《メガ・グラビティ》がかかってる中でも動けるようにメイアは燐に「膜」を張っていた。
「離せ・・・!! 俺に触るな・・・! |鎖《チェイン》!!」
凍矢は燐の肩を力いっぱい握り押しつぶそうとしている。 |超重力《メガ・グラビティ》がかかってるのにものすごい抵抗力だった。
「私、ずっと重圧をかけて凍矢の心を壊してしまった・・・ 。凍矢の気も考えないで 他人を信頼するって言ったりしたのも 凍矢を不安にさせてしまったよね・・・
凍矢 ごめんなさい・・・ ごめんなさい・・・!」
大粒の涙が凍矢の手に落ちる。
「り、燐・・・?」
肩にかけていた力が弱まった所を見逃さず、燐は鎮静の指輪を嵌めた。
---
目に光が宿り 発光していた瞳も赤色に戻った。
「お、俺は・・・ 一体何を・・・!
燐・・・? 燐!! 大丈夫か!?」
凍矢にもたれかかるようにして 燐は気を失ってしまった。
「燐なら大丈夫だ。 トランサーとしての力を使いすぎたのと 凍矢を心配しすぎたんだよ。
命に別状はなさそうだな」
バングルを戻したメイアとヘイルが凍矢に近づいてきた。
もちろんヘイルの目は緑色に発光していた。
「メイア・・・ ヘイル・・・
世話をかけたな。 それと 生体兵器なんて言ってしまってすまなかった。 こんなこと 今となってはタラレバになってしまうんだが 俺は燐を取られてしまうんじゃないか という焦燥感に駆られていた。 もう俺といてくれないんじゃないかって・・・
ただの意地っ張りだったんだ」
凍矢は左手で燐を抱きつつ 右手で前髪をクシャッと握りしめている
「ううん、気にしないで。 |この力《キメラ》も私の一部、私の生き方なんだから!!
ヘイルにだって 邪魔はさせないんだからね!!!
・・・凍矢もしっかり休んだ方がいいよ」
「メイア ヘイル。 記憶探し、俺にも協力させてくれ! 拳と拳でぶつかり合って俺も 燐と同じ気持ちになれた気がする。
|逢間市《この街》のことなら 俺達に聞いてくれ。生まれも育ちも ずっと逢間市だからな」
ニィっと笑うと 凍矢はそのまま後ろに倒れてしまう、そこはメイアが受け止めてあげた。
---
「いいコンビだね、燐と凍矢って。
ねぇ ヘイル? 私達って もう何年一緒にいるっけ?」
「|研究所《ラボ》に誘拐されてきたのが5歳の頃。俺は その時から見てきたから もう15年は一緒にいるか。
ただ、キメラとして完成したのは15歳の頃だから メイアと完全融合してまだ 5年ってところだがな」
「これからも私のこと 支えてくれる?」
「フッ、俺は俺だ、好きにやらせてもらうさ。
その中には・・・メイアと共にいるってのも含まれてるぜ?」
コツンっとメイアのおでこをつつく。
「うん、 最強のキメラと最強の頭脳・・・
これからもよろしくね」
メイアとヘイルはグータッチを交わすと ヘイルは燐を メイアは凍矢を抱き抱えて 事務所まで連れ帰る。
ベッドに2人を寝かせると、起こさないように出ていった。
消(イレイズ)編 終了でございます。
燐が他人を信じることにより 凍矢にとっては心配の種が増えてしまう。誰が いつ どこから燐を攻撃してくるかが分からない・・・
だから 燐と他者の関わりを薄くし、いつでも燐を護れるようにしていた それが凍矢の行動理念・行動理由でした。
ここから 燐・凍矢・メイア・ヘイルの4人パーティーとなります!!!
次回以降もお楽しみに!!
幕間①(メイア×ヘイル×凍矢)
今回の幕間も消(イレイズ)戦 終了後のお話です。
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今話でのキーキャラクター紹介
・メイア 右腕が白銀の毛でおおわれた狼の腕をしており 紅く鋭い爪が伸びている。
右腕には金色のバングルがはめられ、瞳は琥珀色(アンバー)をしている。
獣化(じゅうか)のデメリットである〈渇き〉に苦しんでいる。
・ヘイル メイアの相棒で左腕が灰色の毛でおおわれた狼の腕をしており 同じ紅く鋭い爪が伸びている。左腕にはメイアと同じバングルをつけており、瞳も同じ琥珀色(アンバー)をしている。
メイアと同じく〈渇き〉に侵されているが 少しでもメイアの〈渇き〉が軽くなるように自身の魔力を与えている。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
指輪を回し 消(イレイズ)の出力を調整できるようになり、燐と同じような鎖を創り出したりできるようになった。
「ハァ・・・ ハァ・・・」
逢間市にある とある廃ビルの一室。元々ビジネスホテルとして経営されていたが不況の波にさらされ 解体工事も行われないまま放置されていた。
元ビジネスホテルというだけあって寝具やタオル類は完備されていた。
食糧や水 電気などのインフラに関しては〈魔法〉で解決している。
ベッドの上でメイアは胸を押さえ呼吸は早くなっていた。
「くっ!! メイア・・・」
苦しむメイアにヘイルは左手の平を向け〈治療〉を行っていた。
「今回は特に侵食がひどかったからな。〈|渇《かわ》き〉が こんなに強く出てしまったか!」
「ヘ・・・イル・・・ 無理・・・しない・・・で・・・。
ヘイ・・・ルに・・・も・・・〈渇き〉・・・が・・・来て・・・るの・・・に・・・」
「喋るな!! 必ず助けてやるからな!《《これまでと同じように》》!!
・・・うぐっ!」
ヘイルは魔力を|使い《返し》すぎたのか眩暈がしてしまいその場に膝をついてしまった。
瞳の発光もチカチカと不安定になっている。
「くそっ!! このままでは・・・俺も・・・身体が・・・保てな・・・いか!!
だが、メイアを・・・助け・・・なければ・・・!!」
---
ガタッ!!! 突然の物音に二人は警戒した。
「だ・・・誰・・・だ!!」ヘイルは苦しみながらも強い口調で叫ぶ。
「二人とも!! 大丈夫か!!?」
ドアを蹴破って現れたのは|凍矢《とうや》だった。《《指輪をスッと回すと|消《イレイズ》で鎖を創り出し2人をヒョイッと持ち上げる》》。
「と、凍矢・・・? ど、どう・・・して・・・?」
「|燐《りん》が2人の危機を察知してな。俺の索敵能力を使って2人を探し出したんだよ。
喋る余裕があるってのなら少しでも体力温存に回しとけ! ・・・何か食べられそうか?」
「に、肉を・・・ か、可能・・・な・・・ら・・・サラ・・・ダ・・・チキ・・・ンが・・・」
メイアは苦しい身体で言葉をなんとか紡いでいる。
「燐!! 聞こえていたな!! 数分でそっちにつくからサラダチキンを用意しておいてくれ」
「ちゃんと聞こえてるよ! オッケー、準備しておくよ」
インカムイヤホンでやり取りを終えると凍矢は2人を事務所に運ぶため窓ガラスから飛び降り超特急で目的地に向かった。
狼の部分が人間部分を侵食・キメラとしての本能を呼び起こすのが「獣化」ですが、その侵食範囲が広いほど〈渇き〉の影響は強くなります。
対処方法については「何の動物と融合しているのか」で変わってきますが、狼とのキメラであるメイアの場合は「肉を摂取する」こととなります。
今回の幕間はもうちょっとだけ続きます!
幕間①-2 (燐×凍矢×メイア×ヘイル)
幕間①の続きです。
---
今話でのキーキャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
メイア達の危機を察知し 凍矢に迎えに行ってもらうように頼んだ。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
索敵能力で2人の居場所を探して助けに向かった。
・メイア 右腕が白銀の毛でおおわれた狼の腕をしており 紅く鋭い爪が伸びている。
右腕には金色のバングルがはめられ、瞳は琥珀色(アンバー)をしている。
〈渇き〉に襲われ とても苦しんでいる。
・ヘイル メイアの相棒で左腕が灰色の毛でおおわれた狼の腕をしており 同じ紅く鋭い爪が伸びている。左腕にはメイアと同じバングルをつけており、瞳も同じ琥珀色(アンバー)をしている。
メイアに魔力を返し 〈治療〉しているが、限界が近づいていた。
べリィっ!!
|燐《りん》はサラダチキンが入ったパウチの封を開けると汁気を丁寧に拭き取り皿に並べていく。
|凍矢《とうや》がメイア達を運ぶ間もインカムを通して状況を聞いていた。
3〜4個 サラダチキンを準備していく中(余ったら自分で食べたらいいかと考え 多めに開けている)、燐は人の気配に反応して扉を開く。
「待ってたよ! さあ、2人を中に!!」
凍矢がメイアとヘイルを応接スペースのソファに座らせると 燐は2人の前に皿を置く。
「さぁ! |ご所望の品《サラダチキン》だよ!!まだまだあるから、ここの分 全部食べ・・・うぐっ!!
め、メイア!!いきなりどうしたの!!?」
メイアが突然立ち上がると燐の首を絞めだした。ヘイルと凍矢がメイアを引き剥がそうとするが 絞める力が強く全く剥がせない。
そして 2人を蹴り飛ばしてしまう。
「くっ!!! もう俺でも〈|渇《かわ》き〉が・・・抑えられ・・・ない・・・か・・・!!」
「め、メイアのやつ!! なんて馬鹿力なんだよ。普通の人間なら簡単にへし折れちまう・・・!!!
燐でも いつまで持つか・・・!!」
「グルルゥ・・・ ニクヲ・・・ヨコセ・・・
グゥゥゥゥ・・・ ガァァァァ!!!」
熱く荒い息を吐き 鋭い犬歯が見えている。
目は|琥珀色《アンバー》に発光し 燐を強く睨みつけている。
---
〈|獣化《じゅうか》〉によるデメリットである〈渇き〉。
軽度のものであればヘイルが魔力をメイアに返すことで相殺することができる。
しかし凍矢/|消《イレイズ》 との戦いで2人は半身が侵食され強い〈渇き〉に襲われている。
ヘイルの本体は人工知能であるため メイアよりも〈渇き〉の影響は僅かに軽かった。 だがメイアは元人間、ヘイルでも抑えられなくなっていた。
唸り声を上げ燐に襲いかかるメイア、人語も話せなくなってきていた。
「グルルゥ・・・ クワセロ・・・
グゥゥゥゥ・・・」
「め、メイア・・・ 目を・・・覚まして・・・!!
(どんどん絞めつける力が強くなってる・・・ 渇きって 要は飢えってことなのかな?
あまりの飢えで我を忘れてしまってる・・・!!
メイア・・・無理やりでごめん!!!)」
燐は|鎖《チェイン》でサラダチキンを掴むとメイアの口に突っ込んだ。
「ムグッ・・・!!! ニク・・・!!
ニクゥゥゥ・・・!!」
メイアは パッと首から手を離すとサラダチキンを貪り喰っていた。ムシャムシャと引きちぎるように食べていた。
ヘイルも1個取ると対照的に静かに食べていた。
---
「燐!! 大丈夫か!!?」
「ゲホッ ゲホッ!! 獣化って・・・諸刃の剣なのね・・・!!?
食べているメイアの姿は 〈飢えた獣〉そのものじゃない・・・」
「燐 凍矢 世話をかけたな。おかげで助かったよ」
〈渇き〉が治まり 顔色も穏やかになったヘイルが2人に話しかける。
「どうして 俺達のことが分かったんだ?
危機を察知したって凍矢は言っていたけど・・・」
「多分・・・これ だと思う」
燐は左手の甲をヘイルに見せる。
そこにはメイアの右手 キメラの腕をモチーフとした〈|刺青《タトゥー》〉のようなものが浮かんでいた。
「急にこれが熱くなって・・・
もしかしたら2人に何かあったのかなって!!」
「燐にこんなものが出来ていたなんて知らなかった。
で、その後 俺の索敵能力で2人の居場所を探し、飛んできたんだよ」
「もしかしたら・・・つい最近 俺と凍矢が喧嘩しただろ?
メイアと燐による〈|合体魔法《ユニゾンレイド》〉が発動した時にメイアの力の一部が|刺青《タトゥー》 という形で燐に移ったんだ」
「でも・・・ もうこんなに薄くなってるんだけど」
「俺達が危険に陥った時にのみ現れるようだな。日常生活に支障はあるまい」
「|刺青《タトゥー》があると 温泉にも入れないしね。
一時的に現れるのであれば・・・まぁいいか」
「「(受け入れるのが早くないか?)」」
ヘイルと凍矢の意見は一致した。
---
「フゥ・・・フゥ・・・
フゥーーーー た、助かった・・・の?」
頭を抑えつつ 呼吸を整えたメイアが戻ってきた。
「メイア!! もう大丈夫なの!?」
「うん、これだけ食べたからね。
キメラとしての 狼としての本能を呼び覚ます獣化。まさかここまで〈渇き〉が強く出るなんて思わなかった、あそこまで広い範囲で獣化したことなかったからかな。
肉を食べてる姿なんて まんま獣だったし。
ブチッと噛みちぎったり・・・
・・・そうだ!! 燐!! 首を絞めちゃってごめんなさい!!! 私・・・なんということを」
「ううん、気にしないで。
あれは〈|渇き《キメラの意思》〉に操られていただけなんだから」
「燐・・・ そう言ってくれるとはな。救われた気分だよ」
「もし また獣化することになったら また入り用になるでしょ? サラダチキン!
私も夜食でたまに食べるからストックはいっぱいあるんだ。いくつかあげるよ」
そう言うと鎖を編んだような袋を創り出し サラダチキンを何個か入れてメイアに手渡した。
「あ、ありがとう・・・!」
メイアの瞳はいつもの|琥珀色《アンバー》に戻り 穏やかな笑みを浮かべていた。
あまりの飢餓感により 周りが見えなくなってしまう・・・
大好きなシチュエーションであり 書きたいシチュエーションでした(・∀・)
不可視(インビジブル)①
メイア ヘイルという新たな仲間 そして力に操られてしまった凍矢の解放。
ようやくひとつのチームになった燐たち。そのころ警視庁の異形犯罪捜査係は慌ただしい動きを見せていた。
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今話のキーキャラクター紹介
・睦月 燐(むつき りん) トランサーという異形が起こす事件を専門としている私立探偵。鎖を生成・自在に操ることができる〈トランサー鎖(チェイン)〉。
・睦月 凍矢(むつき とうや) 燐のもう一つの人格であり、パートナー。あらゆるものを消し去る光を放つことができる〈トランサー消(イレイズ)〉。
人格分離の実験に協力しており 本人はかなり満足している。
・九条晴翔(くじょう はると) 警視庁捜査一課の異形犯罪捜査係に在籍している刑事(階級は巡査部長)
トランサーという異形の存在を知り、事件解決のため、燐と捜査協力関係(バディ)を結んでいる。
警視庁捜査一課 異形犯罪捜査係。
トランサーによる被害が相次ぐ中 新設された係で 現在は|浪野 章三《なみの しょうぞう》警部と|九条 晴翔《くじょう はると》巡査部長の2人が在籍している。
「よし、事件資料は これで出来上がったな。あとは浪野警部の承認を貰って|燐《りん》に届けにi・・・ あ、あの? どちら様でしょうか?」
浪野警部を探そうと顔を上げると 目の前に女性刑事が立っていた。女性は警察手帳を見せながら話しかけてきた。
「九条 晴翔巡査部長ですね?」
「は、はい・・・」
「警視庁の |銅 夏弥《あかがね なつみ》。
階級は警視です。
あなたにお聞きしたいことがあります。
今 少しよろしいですか?」
「は、はい・・・ 大丈夫です・・・(警視ってことは浪野警部より上ってことだよな。そ、そんな人が俺に何の用なんだ? 俺 何かしたかな!!!?)」
内心 汗がダラダラ流れていた。
---
空いてる取調室で|銅《あかがね》 警視と晴翔が話をしている。
「単刀直入に聞きます。
捜査協力を依頼してる|睦月 燐《むつき りん》さんに会わせて下さい。
あなた達が情報を流していることは調査済みです。|トランサーと呼ばれる存在《人の姿をした化け物》の力など|警察《我々》には不要ですが 果たして協力を依頼するに足るか 見極めさせていただきたいのです 」
「ひ、人の姿をした化け物・・・」
「(だから見せたくなかったんだ。私も|凍矢《とうや》もトランサー 、化け物だから)」
「・・・私に出来るのは燐に連絡を取ることだけです。 後のことは|警視《あなた》が話をしてください・・・」
「もとより そのつもりです。 不要となれば 《《射殺も考えなければなりません》》」
「!!! しゃ、射殺・・・!?」
「そうでしょう? あんな化け物なんか《《世の中にいていい存在ではありません》》から」
「そんな・・・ 私にはそうは思えません。
燐や凍矢は大事な仲間です!!」
「あなたにそれを決める権限はありません、さて、通話を許可しますから連絡をとってください?」
明らかに燐や凍矢が生きていることを認めない という言い方に晴翔は思わず唇をかみ締め 燐に電話をかける。警視の指示でスピーカーモードにする。
「晴翔? 電話なんて珍しいね。 どうしたの?」
「その声は燐か。直近で会える日ってあるか?」
「? こっちはいつでもいいよ。それこそ この後でも。 特に出かける用事もないしね」
ちらっと警視の顔を見るとメモを晴翔に見せた。
「なら この後 3時頃に事務所に行ってもいいか?」
「いいよ、美味しいコーヒーが手に入ったんだよね。 私もちょっと話したいことがあったし・・・ じゃあまた後ほど!!」
ブツっ
「・・・これで良かったですか?」
「ええ。 善は急げです、事務所まで案内してもらいましょうか?」
後頭部に拳銃を突きつけられているような圧迫感を感じていた。
---
「ここが燐の探偵事務所です」
ピンポーン。
晴翔がインターホンを鳴らすと「晴翔!! 待ってたよ、ドアは開いているから入って!」
燐の明るい声が聞こえてきた。
ガチャ!
晴翔が扉を開けた瞬間、部屋の奥から鎖が2本飛んできて2人の身体を拘束する。
「なっ!!? これは一体なんなんです!!?」
「この鎖は 燐か!!? うわっ!!」
警視と晴翔は事務所に引きずり込まれた。
「・・・妙な気配を感じたから鎖を飛ばして正解だったな。誰だテメェらは」
鎖を撃ち出していたのは燐ではなく 若い男だった、2人のことを 特に|銅《あかがね》警視に対し怒りを込めた目で睨みつけていた。両目はガーネットのように深紅に輝いている。
「き、君は一体誰なんだ!!?」
「あ? 声で気づかないのかよ。
俺だ!凍矢!!!」
「と、凍矢!? そ、その身体は一体どうしたんだよ!!」
「ハハハ! そっかそっか、晴翔には まだ話してなかったな。
ちょっとした治験に協力しててな、人格分離の実験中だ」
「凍矢! なんか悲鳴が聞こえたんだけど大丈b・・・
(||゚Д゚)ぎゃーーー!は、晴翔ーーーー!!? 凍矢!! 2人を下ろしてあげて!!」
奥からでてきた燐が凍矢の身体を左右に激しく揺さぶってる。
「分かった、分かったから揺らすんじゃねぇって!!!」
凍矢はスっと2人を床に下ろし 鎖を消した。
「晴翔! ご、ごめんなさい!!怪我は無い!!?
・・・ところで お隣の方は?」
「警視庁の|銅 夏弥《あかがね なつみ》警視です。 あなたにお話があってきました」
「け、警視・・・? 凍矢! 私たち 何かしたかな!!?」
燐はギュッと凍矢にしがみつく。
「叫んだり怖がったり 忙しいやつだなw」
凍矢はそんな燐をみて笑ってる。
「燐!!? 凍矢!!? なんか妙な気配がするんだけど!!」
「事務所に乗り込んでくるとは 敵襲か!?」
「片腕が人の形をしていない・・・!!お、狼人間・・・!!?
こ、これは ただの夢・・・?」
バタッ。
|銅《あかがね》 警視は倒れてしまい 晴翔が受け止めた。
燐と凍矢だけでなく メイアとヘイルも登場し その場は|混沌《カオス》だった。
なにせ・・・人外4人と人間2人が一堂に会したのだから。
まさかのお偉いさんが登場しました(・∀・)
銅(あかがね)警視のイメージは絶賛放送中の「爆上戦隊ブンブンジャー より 細部調(さいぶ しらべ)さん」です!
調さん、最初はめっちゃ怖いなと思いましたが 今ではすごい好きなキャラです(・∀・)
キメラ2人 トランサー2人 人間2人という異様な空間。銅(あかがね)警視はトランサーである 燐のことを認めてくれるのだろうか?
次回もお楽しみに!!
夢(ドリーム)④
|逢間市《おうまし》のショッピングセンター シエル。 フードコートやスーパーマーケットは大きく アパレルショップや雑貨屋も充実している。
メイア:「ねぇねぇ! |燐《りん》!! これ可愛い!」
燐:「おしゃれだし すごい動きやすそう!
メイアも買う?」
メイア:「あ! このボトムスとの組み合わせ 最高じゃない!? これにする!」
燐とメイアは2人で買い物兼ねてぶらつきに来た。男性陣は話したいことがあるから留守番していると言い 女の子二人 水入らずのお出かけであった。 駅の近くにあるため車を持っていない人でも気軽に来られるのが特徴なのがショッピングセンター シエル。 有名アパレルショップも多数入っており 2人は夏服を見に訪れていた。
一通りの買い物を終え、2人はクレープを食べていた。
メイアはイチゴとカスタードクリームをたっぷり使ったものを、燐はヨーグルトソースとバナナを使った月替わりクレープを注文してた。
燐:「んーーー!! 美味しいーーー!!
はむっ! クレープなんて初めて食べたーー!!」
メイア:「もしかして クレープ初めてなの!?」
燐:「うん。 ずっと家の中に閉じ込められてたし |法学部の大学生《家から出られるよう》になってからも勉強しかしてなかったもん。
仲良く話せる友達も・・・|凍矢《とうや》や|悠河《ゆうが》くらいしかいなかったし」
メイア:「(悠河・・・?) 家に閉じ込められてた ってやっぱりトランサー関連?」
燐:「そっ、 7歳の時から大学行き始めるまでだから11年かな」
メイア:「じゅ、11年も・・・。私よりも長かったんだ」
燐:「メイアもなの!?」
メイア:「5歳の時からキメラとして完成した15歳の時まで 10年かな」
燐:「メイアもなんだ・・・。 ずっと思ってたんだけど メイアの方がお姉さんって感じがする。 15歳から今の今までヘイルと生きてきたんでしょ? 記憶をなくして全く知らない土地で」
メイア:「あはは・・・ そうなるね。
でも、捜査したり戦ってる燐も とてもかっこいいよ」
燐:「そういえば・・・みんな、メイアの腕に気づいていない・・・? こんなに目立つ腕なのに」
メイア:「ああ、凍矢にも聞かれたよ。 |不可視《インビジブル》の事件以来 認識阻害の魔法をかけるようにしたんだ」
燐:「に、にんしきそがい・・・? キメラの腕を人間の腕に見せかけてるってこと?」
メイア:「そういうこと! 燐や凍矢、ヘイル、|晴翔《はると》、|夏弥《なつみ》さん には普通にキメラの腕に見えるけど 関係ない一般人には普通の腕に見えてるよ」
燐:「魔法って便利なものだね。 攻撃だけでなく感覚を欺いたり空を飛んだりできるなんて・・・」
メイア:「まあ、この力も狼の遺伝子同様 後天的に埋め込まれたものなんだけどね」
不意にメイアは髪を耳にかけた。
燐:「初めて会った時には気が付かなかったんだけど そのピアス、とても綺麗だね。
三日月の形で! 色も本当の月のように綺麗な黄色で 素材は|黄水晶《シトリン》かな」
メイア:「ありがとう! 5歳の誕生日の日にお母さんに貰って 18歳になった日にヘイルが加工してピアスにしてくれたんだ」
燐:「お母さん・・・ メイアの家族って?」
メイア:「お父さんとお母さん、妹のリア。
4人で暮らしてたんだけど 5歳の時に攫われちゃって。 そして家族みんな・・・。
だけどヘイルが記憶の封印を解いてくれたし その記憶を写真として焼きつけてくれたんだ」
燐:「家族の姿をいつでも見られるようになったんだね」
メイア:「うん、今も拠点に飾ってるんだ。 記憶を取り戻すっていう目的は達成されたけど 次は燐の番だよ。 絶対に元の人間に戻ろうね!!」
メイアは何かを掴み取るように 右手を伸ばし天井に向けた後 燐に笑顔を向けた。
???:「そこにいるのは燐か?」
聞いたことのある声がした。
燐:「悠河!!」
メイア:「燐? この人は?」
燐:「|香沙薙 悠河《かざなぎ ゆうが》。私の|従兄妹《いとこ》だよ」
悠河:「悠河だ。俺も燐と同じくトランサーなんだぜ。能力は|銃撃《スナイプ》。 もしかして燐の友達か!? よろしくな!!」
悠河は二っと笑っている。
燐:「悠河も何か買い物?」
悠河:「ああ、もうすぐ|組長《オヤジ》が誕生日なんでな。|シエル《ここ》にはいい酒店があるから 見にきたんだ」
メイア:「お酒か・・・ 私苦手だなー。
酔うと魔力コントロールがしにくくなっちゃうし」
悠河:「ッ! そ、その腕。 なるほど、君も〈|人外《こちら側》〉だったか」
燐:「え? 悠河! 見えてるの!?」
悠河:「あ、ああ・・・ さっきまで普通の腕だったんだが急に変わって・・・」
メイア:「|認識阻害の対象外《ホワイトリスト》に入れたんだ。 話しても大丈夫だって思ったから!!」
悠河:「おっと 若い奴らから呼ばれたから俺は行くよ。 困ったことがあればすぐ駆けつけてやるからな!!」
燐:「うん、また!!」
悠河と燐はパンっとハイタッチをした。
燐:「そうだ! メイア、ちょっとだけ待っててくれる? 用事を思い出したんだけど すぐ戻るね!!」
メイア:「うん、行ってらっしゃい」
軽く手を振って燐を見送った。
メイア:「逢間市は色々あるしなかなか住みやすい街だな このまま永住ってのもありかも♡
ん? あの人の目…すごく綺麗… 」
女がすぐ傍を横切りにこっと笑みを向けた。その〈黄金の瞳〉をみたメイアは釘付けとなり 行き先を目で追っていた。頬も僅かに紅潮し半目になっていた。
燐:「メイア?」
メイア:「はっ・・・ 燐!おかえり!!」
燐:「無事に用事が終わったよ」
メイア:「! 燐、その耳!! 開けたの!?」
燐:「メイアを見てたらつけたくなっちゃってね。 |氷華《ひょうか》さんがおすすめしてくれた美容整形がシエルに入ってるから開けてきたんだ」
両耳にシルバーの玉が付いたワンポイントタイプのピアスが着いていた。
燐:「買いたい物も買ったし帰ろっか」
メイア:「・・・・・うん」
--- 謎の世界 ---
女:「ふふふ 心に|楔《くさび》は打ち込まれた」
女は空中に手をかざすとメイアの今の状況が表示された。
女:「友達がいるみたいだったし 少し様子見かな。楔さえ打ち込めれば いつでも〈夢〉を見せることは出来るんだし」
黄金の瞳がぼんやりと輝きながらも ニィっと笑っていた。
今話と次話位までは通常ルートですが ガッツリ百合回を放り込む予定です(・∀・)
ストーリーは進めないので飛ばしていただいても大丈夫です。
不可視(インビジブル)②
今話も会話シーンのみとなります。
また、キーキャラクター紹介は 書き手も読み手にも負担があるので、飛ばすことにしました
(・∀・)
その代わり 小説以外枠として これまでに出てきたキャラクターについては近日中にまとめる予定です!(適宜更新する形で)
会話での凡例もなしにしてみました。
「ん・・・ ここは?」
|銅 夏弥《あががね なつみ》警視が目を覚ました。 見回すとそこはおしゃれなホテルの一室だった。
壁紙は柔らかいベージュ・カーペットは淡い黄緑で 木目調の家具で統一されていた。
探偵事務所で倒れてしまったがいつの間に私はここに移されたのだろう・・・?
---
パンプスを履きドアを開けると目の前に広がっていたのは・・・「探偵事務所の応接室」だった。
ドアの開く音が聞こえると、全員が警視のほうを向いた。
「あ、気が付きました?」
|燐《りん》が呼びかける。驚きのあまり|銅《あががね》警視はドサッと尻もちをついてしまう。
「あ、あなたたち・・・!! 確かさっきホテルの部屋にいたような・・・ どうしてドアを開けたらあなたたちがいたの・・・!!?」
「ククク、俺の魔法に しっかりと かかっていたようだな。倒れた直後 アンタの身体を解析させてもらったが相当疲労が溜まっていたようだ。加えて|この状況に出くわした《人外を大量に見た》ことでの精神的ショック。
そこで燐や そこの刑事に承諾を得て催眠魔法をかけたんだ。 少し暗めの和室で休んでもらっていたが 恐らくオシャレなホテルにでも見えていたんじゃないか?
アンタの寝顔 なかなか可愛かったぜ ククク・・・」
ヘイルは何が起きていたのかを簡単に説明した。その時の様子を思い浮かべては唇に指を当て 1人ほくそ笑んでいた。
「あ、ドアを開けた時点で|解呪《ディスペル》の魔法が発動しているので 催眠魔法による影響は心身ともに残りませんよ!」
メイアはヘイルの後に付け加えるように説明をする。
---
|拒絶《リジェクト》じゃないの? と思った方への解説。
前に凍矢と戦った際に メイアは|拒絶《リジェクト》の魔法を燐に使いましたが これは《《重力や圧力など物理的な攻撃》》に対して効果が発揮されるものになります。
今回の場合はヘイルの《《催眠魔法による精神的な攻撃》》のため |解呪《ディスペル》の魔法を使用しております
(・∀・)カイセツオ-ワリ
---
「ほらよ。これでも飲んでくれ」
|凍矢《とうや》は話が途切れたタイミングで警視と|晴翔《はると》に緑茶を 他の3人と自分用にコーヒーを淹れた。
「自己紹介がまだでしたね。
私は|睦月 燐《むつき りん》。私立探偵をしているトランサー|鎖《チェイン》です!」
右手の指から細い鎖を出して見せた。
「俺は|睦月 凍矢《むつき とうや》。 燐の相棒でトランサー|消《イレイズ》だ」
燐が出した鎖にヒュっと光を当てて消してみせる。
「私は人間と狼のキメラ メイアです・・・」
ペコッとお辞儀をする。
「メイアの相棒 ヘイルだ。さっきは悪かったな。こんな恐ろしいものを見せてしまって」
身体の前に左手を構えている。シーリングライトに照らされキラリと爪が光っている。
---
「それで、何のご用です?」燐は警視の前に座るとスッと見据える。
凍矢は腕を組んで壁に寄りかかっており、メイアとヘイルは魔法で作った椅子に座って様子をうかがっていた。晴翔は警視の隣に座っている。
「私は警視庁の銅 夏弥。階級は警視。
あなたたちのもとを訪問したのは 今後トランサーの事件より手を引くよう警告をしに参りました」
「「「「!!!」」」」
晴翔以外の4人が反応した。
燐:「手を引け? いきなりなんなんですか!!?」
夏:「本来トランサーの事件を解決するのは我々警察の仕事です。一般人であるあなたの力は不要です」
凍:「一般人ねぇ・・・ 俺や燐は|この事件の専門家《トランサーチェイサー》だ。浪野警部からも協力を要請されてる。
それに・・・ もし俺たちのことをいらないと判断すれば殺す気なんだろ?」
メ:「え!? 本当なの!!」
へ:「懐に拳銃を隠してるのもわかっているしな」
メ:「拳銃!? ヘイル本当なの!!?」
へ:「ああ。俺の目はごまかせないぜ? 警視さん?」
燐:「トランサーは不死の存在です。警察の武器では傷1つ付けられないですよ?
もし・・・それが信じられないというのであれば
今この場で撃ってみてください」
---
警視と燐、凍矢以外の三人はガタッと立ち上がる。
メ:「燐!!? 一体何を言い出すの!?」
ヘ:「おい!! 何を考えてんだ!!?」
晴:「無茶を言うな!! 燐!!!」
3人の忠告を無視し 燐はスっと席を立つと 腕を広げ 大の字のような姿勢をとる。
撃てるものなら撃ってみろ・・・そう挑発するように。
夏:「こんな化け物に舐められたものですね。 撃ってみろと挑発されるとは」
カチャッ・・・ バァン!!
銅警視は冷酷な目で拳銃を構えると 心臓を撃ち抜いた。
燐の口からツーっと青い血が流れ 弾痕の周囲に青い血が滲む。燐はドサッとソファに倒れ込む。
貫通した弾は真後ろにいたヘイルが受け止めていた。もちろん キメラの腕を魔力硬化により防御力を高めて・・・
晴・メ・ヘ:「燐!!!!」
すぐさま3人が駆け寄る。
燐:「心臓を1発で狙うとは・・・
なかなかの・・・しゃげ・・・きの・・・」
腕がだらんと重力に従い落ちた。
---
夏:「不死身とは聞いていましたが とんだ|虚仮威《こけおど》しでしたか。こんな銃弾で死ぬとは 愚かな人です」
ほかの3人は怒りの視線を警視に向けている。なんならメイアとヘイルは獣化しそうな勢いだった。
しかし、その言葉を聞いてただ1人笑っている人物がいた。
凍:「くっ ははは・・・
はっははははは!! そんなちっぽけな弾で|俺達《トランサー》の命を刈れると思ってんのか??
こいつは面白いな!!ハッハハハハ!!!
・・・いつまで 寝てるつもりなんだ? 燐!」
射殺された僅か数秒後 燐はパチッと目を覚ます。瞳は両方ともルビーのように紅く発光していた。
「学校からの転落死 日本刀による刺殺 今度は拳銃での射殺か・・・
あと何回 私は死を経験することになるのかな・・・?」
Q.不死身であるはずの燐が撃ってみろと言ったことにメイア ヘイルはなぜ驚いてる?
A.凍矢との戦いで メイア ヘイルは トランサーと違って不死身ではない。とは言っていますが、燐が まさかそんなことを言うとは思っていなかった という意味合いです。
晴翔も不死の存在であるとは知っていますが 忘れてるという設定です(・∀・)メタイメタイ
不可視(インビジブル) ③
|燐《りん》:「学校からの転落死 日本刀による刺殺 今度は拳銃での射殺か・・・
あと何回 私は死を経験することになるのかな・・・?」
瞳が紅く発光しながらムクリと起き上がる。
「「キャァァァァァ!!!」」
「「うわァァァァァ!!!」」
計4名の悲鳴が響きわたり 燐と|凍矢《とうや》は思わず耳を塞いだ。
メイア:「確かに死んでいたのに・・・!!」
へイル:「ああ、俺もこの目で確認した。確かに心音は完全に消えていた!!」
|晴翔《はると》:「い、生き返った・・・? 不死の存在って言うのは本当だったのか・・・!?」
燐:「・・・まさか 晴翔、疑ってたの?
不死身だってこと」
晴翔:「そりゃあそうだろ!!? トランサーという存在すら最初は疑っていたんだからな。
しかも 青い血って・・・」
|夏弥《なつみ》:「け、警察の武器がつ、通用しないなんて・・・」
|銅《あかがね》警視は持っていた拳銃を落とすと がたがたと震えていた。
燐は警視の後ろに回るとスっと手を伸ばす。
左手で目を隠し、耳元で囁いた。
燐:「ふふ、私は逢間市で一番最初にトランサーに変貌した者です。
流れるトランサーの血も一番濃い・・・
たとえ何発撃たれようと何度刺されても すぐに復活できますよ?
もしお望みなら 銅警視をトランサーに変えることだって・・・」
目を真紅に輝かせながら囁く燐を見て晴翔はゾクッとした。あの時と同じだったから・・・
(「あなたの前には2つの選択肢がある。
今ここで私に絞め殺されるか トランサーに関する全ての記憶を消して生きるか。」)
晴翔:(「こうして見てみると まるで悪魔の囁きだな。だが こうすることでトランサーに関わらないようにさせたいんだよな 燐・・・」)
---
警視から離れると元の席に座った。
燐:「冗談ですよ。
ただ、これだけは知っておいてください。
トランサーという異形と戦えるのは同じトランサーだけである ということを。
《《たった一滴 トランサーの血が傷口から入っただけ》》で トランサーへと変貌するか 肉体が消滅するんです。
それだけ・・・トランサーの〈血の力〉は強力なんです」
夏弥:「どうやら私はとんでもないもの達を敵に回していたんですね。
けど、あなた達を野放しにすることはできません!!
おうまポートハーバー
この名前に聞き覚えはありますね!?」
4人はその地名に反応した。晴翔は首を傾げていたが。
夏弥:「そこの凍矢さんは10数人もの命を奪った殺人犯!! 今すぐ逮捕を・・・」
メイア:「その事なら心配いりませんよ?
だって みんな生きてますから!!」
燐・凍・夏・晴:「えっ・・・・?」
ヘイル以外の4人が反応した。
---
|消《イレイズ》との戦いが終わり、倒れてしまった2人を事務所に運んだあと、メイアとヘイルは現場に戻り〈|時間遡行《タイムリープ》〉の魔法を発動していた。
そして復活したトランサー全員に対し〈|集団洗脳《マインドコントロール》〉〈|血液透析《ダイアライシス》〉の魔法を使った。
|血液透析《ダイアライシス》は既存の魔法ではなく 凍矢の|消《イレイズ》を基にして新しく創ったのであった。
メイア:「トランサーの血も浄化して 記憶も消してるので、ただの半グレ集団に戻りましたよ」
凍矢:「俺達が寝ている間にそんなことがあったのか・・・。
ということは? 俺が人を殺したという記録は全く残っていないってことだよなぁ?
(≡∀≡)ニヤニヤ」
夏弥:「くっ・・・ そうなりますね。
全く・・・メチャクチャにも程がありますが。
分かりました。説得 射殺も出来ない、殺人の証拠もない以上 逮捕もできない・・・
私に残されたカードはもうありません。
あなた達が今後も人を殺さないというのであれば トランサーチェイサーとしての活動を黙認しましょう」
---
燐:「あの・・・ さっきから殺すってワードが聞こえてるんですけど、私たちはトランサーの血を消して元の人間に戻してるだけなんですけど・・・?
その後は ちゃんと警察が逮捕してるんですが・・・」
夏弥:「そうなのですか・・・? 私の元にはトランサーは人を人と思わず 簡単に殺す化け物である と情報が来ていますが」
凍矢:「まぁ トランサーになるには1度死ぬ必要がある。 というのは間違いないんだがな」
夏弥:「では あなた達は殺人をしたことがないと? 」
燐:「私は絶対にないです!!」
凍矢:「俺はポートハーバーでの1件しかないが・・・」
メイアとヘイルも後ろでコクコクと首を縦に振っている。
夏弥:「それであれば問題ありません。 偽の情報を報告した刑事は速やかに探す事にしましょう」
晴翔:「恐らくその刑事は トランサーが人間をトランサーに変えているところを目撃したということだろうな。
まぁ、俺は その現場を見たことがないが・・・」
---
夏弥:「では改めて あなた達に事件の捜査を依頼します。九条刑事!」
晴翔は捜査資料の入った封筒を燐に渡した。
中の写真を見て4人はピクっと反応した。
鉄柱が大きく歪み コンクリートの壁に丸い凹みができ 車は上から物でも落とされたのかという程にひしゃげていた。
夏弥:「わずか2日でこれだけの被害です。死傷者は確認できていません。
・・・どう見られますか?」
燐:「直接殴ったって感じではないけど 何か物体を当てたとしか・・・」
ヘイル:「透明化か?」
燐:「ヘイル? 分かったの?」
ヘイル:「おそらく奴は武器などを透明にできるんだ。それで隠れた場所から操って物を破壊しているんだ!!」
凍矢:「|不可視《インビジブル》ってことか。 俺の索敵能力でも厳しいかもしれないな」
燐:「いや、 そうでも無いかも。
この3箇所とも森林公園のすぐ近くだ!!!」
凍矢:「よし! 行くとするか!!」
メイア:「警視さんはどうされます?」
夏弥:「私も現場に同行します。 最後まで行動を監視するために」
晴翔:「俺は銅警視の護衛につく。 みんな気をつけてな!!」
燐:「晴翔も気をつけてね。
みんな、行くよ!!!」
メイア:「うん!!」
へ・凍:「ああ!!」
6人は事務所を出て現場に向かうのだった。
燐の能力は鎖なのにどうやって他人をトランサーにするんだ?と考えましたが、ぎゅっと絞めた時にできる索条痕 そこに鎖から染み出した血を流せばいいじゃないか(・∀・)と思いつきました。
トランサーが作る武器は任意のタイミングで中から血を流せるようにしたり・・・
妄想が止まらなくて夜しか眠れません(・∀・)b
不可視(インビジブル) ④
--- 睦月探偵事務所が入っているビルの屋上 ---
ヘイル:「|燐《りん》と|凍矢《とうや》は先に現場に向かってくれ。俺とメイアは2人を連れていく」
メイア:「場所を教えてくれない?
私達の脚じゃあ 多分刑事さんたちを置いていっちゃうからね」
燐:「分かった。 今表示するね」
燐は右手のデバイスを空中に向けると地図が表示された。
事務所がある地点・事件のあった場所3箇所・そして〈事件箇所である3箇所を通る円周と中心点〉が書かれている。
メイア:「なるほど、ここが現場ね。OK!!
すぐ向かうね」
凍矢:「頼んだぜ!向こうで落ち合おう。
行くぞ!燐!!」
燐と凍矢は大跳躍を繰り返し現場に向かった。
---
|夏弥《なつみ》:「あんなにジャンプできるなんて 流石トランサー。人間離れしてるわね・・・
ところで なぜ|屋上《ここ》なのですか?
地上から向かわないのですか?」
するとメイアは夏弥の、ヘイルは|晴翔《はると》の肩にポンッと手を置いた。
メイア:「警視さん? しっかり捕まってて下さいね♡」
ヘイル:「アンタもだ。 九条刑事?
驚きすぎて舌を噛むんじゃねぇぜ?」
メイアとヘイルは|腕力強化の魔法《フレイム・アームズ》を使い、メイアは夏弥を ヘイルは晴翔をお姫様抱っこした。
夏弥:「い、一体何をするのよ!降ろしなさい!!」
晴翔:「ヘイル!! 一体どういうつもりなんだ!! 恥ずかしいから降ろしてくれよ!!」
ヘイル:「おいおい! 暴れんなって!!
せっかく《《楽しい空の旅をプレゼント》》してやろうってのに!!」
夏・晴:「空の旅?」
ヘイル:「本っ当に頼むから 舌を噛まないでくれよ?
俺達は狼人間、血に反応して襲ってしまうかもしれないぜ?
ハハハ、冗談さ。
行くぜ!メイア!!」
メイア:「もうっ!!《《人間を》》からかわないの!!
・・・こっちはいつでもいいよ。
警視さん? 怖かったら目をつぶっててくださいね。なるべく優しくエスコートして差し上げますから♡」
夏弥:「え、エスコート?」
メ・へ:「|翼《ウィング》!!」
2人が|翼《ウィング》と 唱えると肩甲骨からビキビキと音がし、服の一部を突き破って 禍々しい翼が生えてきた。
身長を優に超える 黒くて大きな コウモリのような翼だった。
メイア:「さっきは燐たちトランサーの力を、今度は私達キメラの力をお見せしましょう!
さぁ!! 行きますよ!!」
翼を大きく動かすと同時に地面を強く蹴ると 一瞬で地上150mくらいの高さ(東京タワーのメインデッキくらい)まで飛んだ。
翼をバサッバサッと動かし ホバリングしている。
夏弥:「そ、空を飛んでる・・・!!
これは一体・・・」
メイア:「|翼《ウィング》の魔法です。服に穴が空いちゃうので あまり使わないレアな魔法なんですよ」
晴翔:「へ、ヘイル・・・ この高さから落としたりしないよな? 」
ヘイル:「ハッ、誰が落とすかよ。もしその気なら もうやってる。
ちゃんと落ちないように透明な鎖で縛ってんだから そこは安心していいぜ。
さて、現場に急行するぜ!? 御二方!!」
メイア:「さぁ!行きましょう!!」
翼を大きく羽ばたかせると現場に急行した。
---
燐:「ここが潜伏ポイント?」
凍矢:「ああ、俺の気配察知にも反応ありだ。
おっと お連れ様も・・・」
燐と凍矢は その光景に絶句していた。
なぜなら翼の生えたメイアとヘイルが大きい翼をバサッバサッと羽ばたかせ、夏弥と晴翔をお姫様抱っこしてゆっくりと降りてきたのだから・・・
呆気にとられている二人をよそに メイア達は ストっと着地した。
凍矢:「ケタ違いすぎるだろ・・・
キメラってこんなことも出来るのかよ」
メイア:「キメラの力というより ただの魔法だよ。 服が破けてしまうのが欠点だけどね」
夏弥と晴翔を優しく地面に降ろした。
夏弥:「ま、まだ浮いている気がする・・・」
凍矢:「2人は隠れてろ。 あとは 俺たち人外組に任せな! 」
夏弥と晴翔は4人が見えるくらいの位置で隠れている。
---
燐はジャケット、凍矢はカーディガン、メイア・ヘイルはパーカーを脱いで近くの植え込みに置いた。
燐:「|鎖《チェイン》!!」
凍矢:「|消《イレイズ》!!」
メ・へ:「|獣化《じゅうか》!!」
各々が声高く叫ぶ。
燐と凍矢の瞳は紅く輝き、鎖とツインダガーが出現する。
メイアとヘイルの瞳孔が針のように細く 瞳は|琥珀色《アンバー》に輝いている。そしてメイアとヘイルの口からは鋭い牙が見え 爪は太陽の光を反射して紅く輝いている。
夏弥:「あれが彼らの戦闘スタイルということですか?」
晴翔:「私は 燐の姿しか見たことがありません。
メイアとヘイルの姿はまさに狼人間ですね・・・。あの牙に目、そして爪・・・」
凍矢:「どうする? 皆の衆?
今日は観客がいるが」
燐:「私は普段通りで行くつもりだけど?」
メイア:「うーん、あまり獣化しすぎないようにしないとね。
〈渇き〉に支配されて 2人を襲ってしまうかもしれないし」
ヘイル:「まぁ、そうなってしまえば俺が助けてやるよ。
|非常食《サラダチキン》はちゃんとここにあるしな!」
燐:「さぁ、 行くよ!!」
燐は懐から血の入ったボトルを出すとカパッと蓋を開け 掲げた。
戦えるメンバーが横一列に並んで 声高く叫ぶ。
戦隊やライダーみたいで 1回は書きたかったシチュエーションでした!!!
不可視(インビジブル) ⑤
ボトルの蓋を開け 掲げること5分・・・
本来ならトランサーが現れてもいい頃であった。
|燐《りん》はパチッと蓋を閉じる。
メイア:「・・・全然現れないね」
燐:「もう現れてもいいのに・・・。
|凍矢《とうや》、気配察知のほうはどう?」
凍矢:「このあたりにいるのは確かなんだが・・・。くそっ! |靄《もや》がかかったみたいにうまく探せねぇ!!」
ヘイル:「俺の目でも探しているが 正確な場所までは分からないな」
背中合わせになり周囲を窺っていたその時だった。
メ・燐:「キャア!!」
へ・凍:「ぐあっ!!」
メイアは右腕・ヘイルは左脚・燐は右こめかみ・凍矢は右脚を〈ほぼ同時に〉攻撃された。
メイア:「ま、まったく見えなかった・・・!!」
ヘイル:「いってて・・・ みんな大丈夫か!!?」
燐:「ちょっと切ったけど大丈夫!」
凍矢:「俺達も まったく反応できなかった。 まさか《《攻撃される直前まで気配が漏れない》》タイプか!!?
しかもこの感じ・・・|不可視《インビジブル》本体も能力で透明になってるな!」
メイア:「(スン・・・ この匂いは・・・?
ドクンッ… ドクンッ… 心臓の鼓動がうるさい… 血が… チガ… サワグ…!!
グルルッ…)」
燐:「凍矢でもヘイルでも探れないなんて・・・!!
ッ! メイア!? どうしたの!!?」
メイアは頭を押さえて衝動を抑え込むようにしている。瞳は爛々と輝き熱く荒い息を吐いている。
メイア:「攻リャクの… イト口が… 見エタ…。サッき… 燐ヲ… 攻ゲキ… した… トキに…」
ヘイル:「奴に血が付いたかもしれない。それを探ることが出来れば だろ?
2人とも、ここはメイアに任せよう。下手に手を出せば巻き添えを食う可能性が高い」
凍矢:「だが、メイアはどうするんだよ!! このままにしておくわけにはいかないだろ!!?」
ヘイル:「戦いが終わったら直ぐにメイアを〈純銀の鎖〉で拘束する。今のメイアはこれまで以上に狂暴になっている。燐が鎖を出し 凍矢は|消《イレイズ》を付与、俺が魔法で純銀に変換する」
燐:「本当に大丈夫なんだよね・・・?」
凍矢:「ヘイルの手に賭けるしかないな」
---
燐:「メイア・・・ 無理を言ってしまってごめん。 お願い、トランサーを見つけて!!」
燐はメイアの背中に顔をくっつけ、両肩をポンポンと叩いたあと、3人はバックステップで距離をとる。
メイア:「おおカミ… ニン間… キメラの… ちかラヲ… ミセて… アゲル… 」
言い終わるとスッと目を閉じ、右手を地面に置くと 匂いに意識を集中させる。すでに燐の血は止まっているため血の匂いさえ見つかれば|不可視《インビジブル》の位置も分かるのである。
メイア?:「・・・・・・・ ミツケタ! オオカミノ ハナヲ ナメルナ・・・!!」
左手の平も地面につけ 四足歩行のような姿をとったメイアは〈狼〉そのものだった。
ないはずの〈尻尾〉や〈耳〉までも見え、身体の7割が侵食されていた、肩くらいの髪は黒色のままだったが胸を超えるくらいまで伸びていた。
燐・凍:「め、メイア・・・!?」
燐だけでなく凍矢・|夏弥《なつみ》・|晴翔《はると》も驚きの表情を見せていたがヘイルだけは違った。
「またこの姿にしてしまった」と言っているような強い後悔の表情だった。
---
ヘイル:「《《ウルグ》》、獲物を見つけても殺さずに気絶、晴翔達に引き渡すんだ。いいな」
燐・凍:「ウルグ?」
コクッと頷き、ダンっと地面を蹴り標的の元に辿り着く。首をガシッと掴み取ると〈|血液透析《ダイアライシス》〉の魔法を使い|不可視《インビジブル》を元の人間に戻した。
「ぐっ・・・ なんなんだよ、この女!! なぜ俺の居場所がバレたんだ!?
俺の透明能力は完璧のはずなのに!!」
ウルグ?:「アシモト… チノ… ニオイガシタ… ソコカラ… タドッタ… 」
「お、俺を こ、殺すのか・・・?」
男はガクガクと震え 怯えている。
ウルグ?:「コロサナイ。 ヘイルノ メイレイハ オマエヲ ミツケテ キゼツ サセル コト」
ドスッ。 腹部に鈍い音がして男は気を失った。
襟ぐりをつかんで 晴翔達の元に運び ドスッとその場に男を降ろす。
物を落とすように乱暴にではなく、地面に身体を横たわらせて・・・
ウルグ?:「アトハ ソッチデ ヨロシク」
完全に晴翔達から離れた瞬間。
---
ヘイル:「今だ!!!」
燐:「|鎖の追撃《チェイン パシュート》!!」
凍矢:「|消の付与膜《イレイズ コート》!!」
ヘイル:「|物質変換《マテリアル コンバート》 :|純銀《スターリング シルバー》!!」
|消《イレイズ》を纏わせた純銀の鎖がメイアの元に飛んでいき身体に巻きついていく。
触れたところからジュ〜という音と煙が立っている。
ウルグ?:「グァァァァァ!! カラダガ!! ヤケル!! ヤメロォォォ!!」
両手が灼かれることも厭わず 鎖をつかみ 引きちぎろうとしていた。
燐:「う、嘘でしょ・・・ ここまで抵抗するなんて!
|凍矢の力《イレイズ》も入ってるのに!!」
ヘイル:「だが、確実に効いている。もう少しの辛抱だ!《《メイア》》!!」
ウルグ?:「グルルッッッ・・・ メイ・・・ア? 」
バタッ。
侵食が消え去り メイアはその場に倒れてしまった。呼吸こそ早いが顔色はとても穏やかだった。
---
男の身柄を引渡し終わった夏弥と晴翔も駆け寄ってきた。
燐:「た、助かったの?」
凍矢:「キメラの部分も肘上までに戻っているし 嫌な気配も感じない。
戻った と見て間違いないだろう」
ヘイル:「少し匂いを嗅いだだけで ここまでなってしまうのか・・・。
触れた者に力を与える・・・。
特に燐のは まさしく〈血の|媚薬《びやく》〉だな」
メイアの頭を撫でながらヘイルが呟いた。
燐:「媚薬?」
ヘイル:「|既に人外である《キメラとして完成している》メイアですら ここまで なってしまうんだ。人間に使えばイチコロだな。
俺が造りだしたバングルにもこんなにヒビが。だが 完全に壊れていないから修復すれば なんとかなるな。
メイアの事は俺に任せてくれ」
ヘイルは気絶しているメイアを優しく抱き抱えている。
晴翔:「たった一滴でも 人間をトランサーに変貌させる・・・ その意味がやっと理解できた。こんなに恐ろしいものなんだな、トランサーに流れる血は」
夏弥:「軍事利用されれば まさに兵器と言えるでしょう。 永遠に戦い続ける不死身の兵士として。
|浪野《なみの》警部が家に軟禁するように指示したのは トランサーという未知の存在を外部に漏らさないようにするためだった・・・ということは考えられないでしょうか?」
燐:「今となっては分からないです。
11年も家に閉じ込めた理由・・・ 当時の警察上層部が何を考えていたかなんて・・・」
燐はスっと目を背けていた。
凍矢:「さて、一旦事務所に引き上げだ。
今後のことについて晴翔達とも話さないとだし、何より メイアを休ませてやらねぇと。
今なら 他のトランサーの気配もないし 急いで帰るぞ」
5人は足早に帰って行った。
獣化の進行度で言えば 凍矢との戦いよりはかなり進んでいますが、完全獣化までは行っていない といったところです。
媚薬と言っても性的な意味合いはまっっったくありませんのでご安心を(・∀・)
不可視(インビジブル) ⑥
|不可視《インビジブル》との事件から数分後。5人は探偵事務所に戻ってきた。
メイアの身体はヘイルが抱き抱え ソファに横たわらせた。
すぅ すぅ と静かな寝息を立てている。
---
|凍矢《とうや》は指をパチンっと鳴らすと ダイニングテーブル1つ と椅子が4脚分生成された。
|夏弥《なつみ》: 「警察としては トランサーによる事件について あなた方への全面的バックアップを行う方針です。
九条刑事、そして皆さん。 酷い事を言ってしまい申し訳ございませんでした」
夏弥は深く謝罪をした。
凍矢: 「そう気にする事はないさ。アンタらはアンタらの正義を貫こうとした。それだけだ」
メイア: 「う、うぅ・・・ ここは・・・?」
メイアが目を覚ましムクッと起き上がると辺りを見回している。爛々と輝いていた瞳も元の|琥珀色《アンバー》に戻っていた。
ヘイル: 「メイア、ホラよ。|非常食《サラダチキン》!
あれだけ戦ったんだ、相当腹が減ってるはずだぜ」
メイア: 「ヘイル、ありがとう! いっただきます!! ハムっ♡ モグモグ・・・」
かつて獣化による〈渇き〉に襲われた際には貪るようにサラダチキンを食べていたが、今日は静かに かぶりついていた。ヘイルも同じく食べていた。
メイア: 「ふぅ! ごちそうさま!! 早めに肉を食べたから これで〈渇き〉も来ないかな」
ヘイル: 「なら あとはしっかり寝ないとな!!」
|燐《りん》: 「でも、食べて すぐ寝るのは良くないんじゃ・・・」
ヘイル: 「そいつは|人間共《お前ら》の迷信だ。 すぐ寝たとしても何も起きないさwww
さぁ、何も考えず この声だけを聞け。この手だけを見つめろ。
深い 深い 眠りの底へ堕ちろ・・・!
〈|眠りにいざなう眼《ヒュプノ・アイ》〉」
ヘイルは 目を緑色に発光させながら左手をメイアの目の前にかざす。
あっ という小さい声が漏れ、瞳が緑色に縁どられると フッと目を閉じ またソファに倒れ込んだ。
凍矢: 「洗脳の次は催眠術かよ。 穏やかな顔してんのにやること えげつないぞ」
ヘイル: 「今のだって かなり出力は抑えてんだぜ? 永遠の眠りにつかせることだってできるんだからな。
さて・・・よーく眠っている今のうちに やっちまうか」
メイアの顔に左手をかざそうとした。
燐: 「ヘイル!? 何をするの!?」
ガタッと椅子から立ち上がり 乱暴に呼びかける。振り返ったヘイルの瞳は緑色に発光していた。
ヘイル: 「|記憶消去《メモリー・イレイス》と|記憶の書き換え《メモリー・リライト》さ。
|あの戦いの《獣化が進行してた》ことは 覚えていない方が幸せなんだ。」
指に魔力を集中させると 小さな玉が現れる。メイアの顔に当たる瞬間・・・。
燐: 「ヘイル!! 記憶を消せば・新しい記憶を植えつければ メイアは幸せになれるとでも思ってるの!!?」
燐は鎖を飛ばし左手を引き留めた。
ヘイル: 「それでメイアの心が壊れてしまったらどうする? 責任・・・取ってくれるのか?」
ヘイルと燐が睨み合っている。
凍矢: 「はいはい!! 2人ともやめるんだ!!
お前らが いがみ合ったところでどうしようもないだろ!!!
獣化した姿。それを受け入れるのか拒絶するのか 決めるのはメイア自身だ。
メイアが望んだ時に記憶を消せばいい それでいいだろうが!!!」
凍矢は パンッパンッ と手を叩き2人を止めに入る。
メイア: 「う、うーん。 騒々しいなぁ〜。
みんな どうしたの?」
催眠術にかかり 眠っていたはずのメイアが目を覚ました。
ヘイル: 「なっ・・・ 覚醒しただと!!
なぜだ!?」
メイア: 「たまーに記憶が飛んでるなと思ったら そういうことだったとはね・・・
ヘイル。 私なら大丈夫、|獣化態《あの姿》も私なんだから!!」
キッとヘイルを睨みつける。
ヘイル: 「ハァ・・・、最初から聞いてたって
ことかよ・・・。 もしかしたら 何度もかけるうちに耐性がついたってことなのか?
なら、もう |この力《ヒュプノ・アイ》も使わなくていいってことか」
メイアがソファから起き上がるとヘイルに対し爪を向ける。
メイア: 「他に隠し事は無い?」
ヘイル: 「無い。 メイアを洗脳したり 催眠術をかけ記憶を弄っていた事が 隠し事だ」
メイア: 「なら 許す!!」
メイアはスっと爪を下ろした。
燐: 「い、一時はどうなるかと・・・」
凍矢: 「俺達 記憶を共有してて良かったな・・・」
一触即発な2人をみて隅で固まっていた燐と凍矢は冷や汗をかいていた。
---
燐: 「メイア達はこれからどうするの?
またあの廃ホテルに戻るの?」
メイア: 「それなんだよね〜。 |事務所《ココ》とホテルって結構離れてるからね」
|晴翔《はると》: 「なぁ? ちょっと気になるんだが。
例えば・・・ メイア達が拠点にしてる部屋と この応接室の扉をリンクさせることとかって出来ないのか?
特殊な鍵で開けると メイア達の部屋に着く みたいな!」
ヘイル: 「おっ!! 晴翔!なかなかいいアイデアだな。
やってみるか! メイア!!」
メイア: 「うん!!」
---
燐とメイアは事務所内に残り 扉前で待つ。
凍矢とヘイルはホテルの扉前に立つ。
燐と凍矢がタイミングを合わせ、「今だ!!/今だよ!!」と声をかける。
同時に扉に触れ メイアとヘイルは〈|扉の連携《リンケージ・ゲート》!!〉と唱える。
すると メイアの手元に赤い鍵が生成、鍵穴に差して回してみると ヘイル達のいる 今まで拠点としてたホテルの部屋にたどり着いた。
メイア:「成功した・・・!!
これなら 燐の所に簡単に遊びに行けるよーー!!!」
燐:「今度 一緒にお出かけしようよ! 服とか見たいし!!!」
燐とメイアは女の子同士 キャーキャーと喜びあい 抱きしめあっていた。
ヘイル:「何かあればいつでも呼んでくれ。俺は人工知能 あらゆる知識が詰まってるぜ」
凍矢:「フッ 法律に関しては 俺の方が優位だがな!内部人格同士 よろしくな ヘイル!!」
凍矢とヘイルはガシッと握手を交わした。
---
晴翔:「じゃあ 俺達はこの辺で。また何かあれば情報を持ってくるよ、燐!」
燐:「うん、晴翔も気をつけてね。
|銅《あかがね》警視も これからよろしくお願いいたします」
夏弥:「なつみ で構いませんよ」
燐:「晴翔、夏弥さん これからもよろしくお願いします!!!」
燐が握り拳を前に出すと 凍矢 メイア ヘイル 晴翔 夏弥の順で 同じように握り拳を前に出した。
晴翔と夏弥も トランサーチェイサーの仲間入りを果たした瞬間であった。
不可視(インビジブル)編はこちらで完結です!!
会話パートが多かったため 実際の戦闘は かなり短かったですがwww
王の血が流れし者たち①
--- 2024年 5月15日 PM 11:00
BAR |fortitude《フォーティチュード》にて ---
ショパンのノクターンやベートーヴェンの月光(第1楽章)などのクラシック音楽が流れる店内では仕事終わりのサラリーマンやカップル客が最高の1杯を楽しんでいた。
シャカシャカという音が聞こえ また新しいカクテルが作られている。
???:「ジャック・ローズ でございます」
シェイカーからカクテルグラスに赤色のお酒が注がれ女性バーテンダーが提供した。
女性客:「ゴクッ… ! 美味しい・・・
すごく飲みやすい!」
???:「ありがとうございます」
自然な微笑みで返す。
???:「|氷華《ひょうか》! 3番のお客様だ!!」
インカムを通して調理スタッフに声掛けされ 氷華と呼ばれる女性が 料理を運ぶ。
|露橋 氷華《つゆはし ひょうか》:「お待たせいたしました、サーモンとトマトのブルスケッタです」
こんがりと焼かれたバゲットの上にサーモンと辛味を抜いた玉ねぎ、角切りトマトに 上からワインビネガーと塩胡椒が振ってあった。
このバーでは名物と言っていいほどの おつまみであり、カクテルと一緒に楽しむ客がほとんどであった。
氷華:「またのお越しをお待ちしております」
最後の客も帰り、閉店時間である1時となった。〈CLOSED〉の看板が出ている。
氷華:「|稜也《りょうや》、 何か簡単に作れるものってある?
みんなが食べてると 私もお腹すいちゃってw」
|赤城 稜也《あかぎ りょうや》:「そうだなぁ 玉ねぎが少しあるから サーモンと一緒にカルパッチョなんてどうだ?」
氷華:「じゃあ それで! こっちは合いそうなのを作るね」
そう言うと稜也は玉ねぎをスライスしていき、氷華はビルドスタイルでカクテルを作って
いく。
カランカラン。
閉店したはずの店の扉が開いた。
???:「今 入っても平気か?」
氷華:「|蒼樹《そうき》! 仕事終わったの?」
|長月 蒼樹《ながつき そうき》:「ああ。
夜勤の予定だったんだがな。
ほら、追加の薬。持ってきたぞ」
稜也:「おっ! 助かるぜ!!
そろそろ無くなりそうだったからな。
いつも通り 採血するだろ?」
蒼樹:「そうだな。 また少しいただくとしようか。 氷華、ウイスキーの水割りを頼む」
氷華:「はいはい、いつものね」
稜也と蒼樹が奥の部屋に行き 採血を行っている。
氷華は ボトルキープしてあるウイスキーを使って水割りを作っている。
---
3人は稜也の作ったカルパッチョをつまみながら酒をあおっていた。
もちろん氷華が作ったものである。
稜也:「そういや、 |運命《フェイト》に会ったんだがな? あいつ、つい最近|燐《りん》に出くわしたってのに 薬を渡してなかったらしいぜ?」
氷華:「ええっ!! そうなの!?
燐こそ 1番薬が必要なはずじゃないの!!?」
蒼樹:「まぁ、燐がトランサーになったのは7歳の時だ。本来は トランサーに変貌した時に渡すが 錠剤が飲める体重になっていなかった可能性があったからな、かなりやせ細っていたと聞いている。
それで俺から渡すよう頼んでたんだが・・・。 ハァ、全く・・・」
稜也:「さすが医学部と薬学部を飛び級で卒業した天才様だな! 俺達の血から薬を作っちまうんだからさ!!!
だが、早めに渡さないとまずいんじゃないか?
そろそろ梅雨の時期だし」
蒼樹:「それなら顔合わせも含め 3人で行くか?
別に俺達は燐と戦う気は無いからな」
氷華:「実はさっき お客さんである女の子達から奇妙な話を聞いたんだよね。
行方不明事件なんだけど、 目撃者の話では 森林公園に金色の扉ができてて フラフラ夢見心地で近づいていくと。
扉から出てきた女性の手を取ると 身体がフワッと浮き上がって 扉の中に引きずり込まれるんだって。
・・・明らかにトランサー よね?」
稜也:「ああ! それなら俺も料理人仲間から噂として聞いたぜ?
ここ最近起きたことじゃなく もう2年くらい前から起きてるらしいって!警察でも捜査は難航してるようだしな」
氷華:「燐なら この事件 解けるんじゃないかしら?」
蒼樹:「ふむ・・・ 自分の欲望を叶えるために力を使うのも1つだが、度を超えるのは いただけないな。
調べてみるか 共同戦線として」
---
稜也:「よーーーし 決めた!
もしこの事件を燐が解決したら 俺は燐の仲間になるぜ!
元々 燐と闘う気はサラサラないし!!
まっ 軽ーーく力試しはするけどな!」
氷華:「好きにしたらいいんじゃない?
私達だって幼なじみとして一緒にいる関係性だし。 あ、幼なじみだからって割引はしない
からね!!」
蒼樹:「ははっ 抜け目ない女だな。
燐には いつ会いに行く?」
氷華:「お店は|明後日《あさって》 定休日だし 明後日の1時頃でいいんじゃない
かしら?」
蒼樹:「分かった。 事務所の場所は分かり次第連絡してくれ」
氷華:「オッケー! じゃあまたね。蒼樹。
いつも薬ありがとうね」
蒼樹:「薬と言っても血から作ったワクチンみたいなものだ、くれぐれも|過量服薬《オーバードーズ》はするんじゃねぇぞ? 薬剤師としての忠告だ」
蒼樹は軽く手を振るとお店を後にした。
新章「王の血が流れし者たち」は次章への繋ぎのような感覚で見てもらえたらと思います。
メイア×凍矢
コツ コツ コツ・・・
|凍矢《とうや》は逢間市総合メディカルセンター附属心理科学研究所に向かっていた。人格分離して2ヶ月ほど経った今日 〈定期検診〉を行いたいと|明石《あかし》研究員から連絡があり向かっていたのだった。
・・・1人 お供を連れて。
凍矢:「・・・なぜ ついてくるんだ? メイア」
メイア:「だって 気になるんだもん、凍矢のこと。 邪魔はしないからさ 今日は見学ってことで♡」
凍矢:「別に見たところで面白いものは無いからな。 まぁ、飯くらいはおごってやるよ」
メイア:「やったぁ!」
メイアはギュッと凍矢の腕に抱きついている。
凍矢:「おいおい!! こんな所をヘイルが見たらキレるぞ!?」
メイア:「大丈夫! 凍矢とお出かけする事はヘイルに許可とってるから!!」
凍矢:「ヘイルも公認なのかよ・・・」
凍矢:「ここが目的地だ。 行くぞ」
凍矢の後ろをトコトコとメイアがついて行く。
明石:「ご無沙汰しております、凍矢さん!」
凍矢:「ああ、久しぶりですね」
明石:「そちらのお嬢さんは?」
メイア:「風野メイア と言います。こんにちは!」
メイアはペコッとお辞儀をしてる。
明石:「研究員をしている|明石 詩織《あかし しおり》 と申します。 とても綺麗な色白の肌、スラッと細い指にがっしりとした両腕ですね( ✧Д✧) ご趣味は?」
メイア:「まぁ、身体を動かすこと・・・ですかね、アハハ…」
いきなり両手を握られ メイアはビクッとした。
明石:「では 〈定期検診〉を行いますので こちらにどうぞ」
明石研究員に案内され いつもの研究室に向かった。
---
移動しながら凍矢とメイアは小声で話している。
凍矢:「メイア 明石研究員に何かしたのか?
色白の肌に綺麗な指って・・・。右腕は狼の腕のはずだろ?」
メイア:「ああ、この腕の事ね。 |夏弥《なつみ》さんのことがあったから、今は|認識阻害《にんしきそがい》の魔法をかけるようにしているんだ。
|燐《りん》や凍矢、|晴翔《はると》さん、夏弥さんにはいつも通り キメラの腕が見えているんだけど 一般の人たちには何も無い右腕に見えているんだ」
凍矢:「幻覚 のような感じなのか」
メイア:「そういうこと。 腕を見せてもいいと思ったら|認識阻害の対象外《ホワイトリスト》に設定することもできるんだ」
凍矢:「ふーん、便利なものだな。魔法って奴は」
メイア:「つぶやいた言葉が 現実になるように 願い続けるなら なんでも出来る。
魔法だけじゃない トランサーの力だって無限の可能性がある。 私はそう思ってるよ」
凍矢:「フッ、そうかよ」
明石:「到着しましたよ。中にあるポッドに服を着たままで大丈夫ですので 横になってくださいね」
研究室は前に見た時とほとんど変わっていなかった。凍矢は奥にある2連ポッドの中に横たわると 内部に催眠ガスが充満し 眠りについた。
頭から足先まで くまなくレーザー光線が照射され 肉体情報が調べられていく。
メイア:「あの、明石さん? 凍矢の身体ってどうなっているんですか?」
明石:「元々 燐さんの中にいた凍矢さんの情報を丸々コピーして 別の肉体にインストール。トランサーの力の源でもある燐さんの血も流しているんです」
メイア:「じゃあ 凍矢が燐から消えたわけではないんですね」
明石:「人格を完全に消去してしまえば 何が起きるか分かりませんからね」
---
シュ〜。 ポッドの蓋が静かに開く。
明石:「凍矢さん・・・ 肉体の疲労度がこちらの想定を遥に上回っているんですが そんなにトランサーとの戦いって激しいんですか?」
凍矢:「まぁな。 どんな能力を持ってるかまでは戦わないと分からない。
トランサーの能力は体力精神力ともに消費量が激しいしなw」
そういう凍矢を メイアは横目に見ていた。
メイア:「(おそらく 指輪を外して |消《イレイズ》としての能力を最大に使ったからだ。
あの時の凍矢は 段違いの強さだった・・・。 私達の爪を簡単に受け止める程の)」
明石:「ともかく! あまり無茶な戦いを続けていたら肉体が崩壊する可能性もあるということ 忘れないでください!!
まだ 治験の段階なんですからね!!」
凍矢:「分かった 分かった! 肝に銘じるさwww」
---
〈定期検診〉が終わり メディカルセンターを後にした。
凍矢:「思ったより早く済んで良かったや。
もうすぐ昼だし 何か食べたいものはあるか?」
メイア:「ほ、本当にいいの? うーん。それなら・・・」
メイアが考え事をする中 突如、凍矢の足が止まる。
メイア:「そうだ! 最近駅前に 新しい定食屋さんが出来てたんだよね!!そこに・・・
? 凍矢? 凍矢!! どうしたの!!?」
メイアが振り向くと 凍矢はその場に跪いていた。その瞳には緑色の渦模様が浮かび 虚ろな目をしていた。
凍矢?:「我ら2人 ヘイル様に忠誠を誓います・・・ 。ヘイル様の手足として、道具として お使いください・・・」
メイア:「凍矢!! 凍矢!! 一体どうしたの!!?」
メイアが揺り動かすが反応がない。メイアの事が見えていないようだった。
メイア:「この感じ・・・まさか!!?
|解呪《ディスペル》!!」
メイアが|解呪《ディスペル》の魔法を凍矢に使うと 目から渦模様が消え 光が戻ってきた。
その場に四つん這いのような姿勢になり息が切れていた。
凍矢:「ッッッ!! ハァッ… ハァッ…
い、今のは一体・・・? 頭の中をかき混ぜられたような、だんだん 俺という存在が書き換えられていくような感じがした」
メイア:「ヘイルだ。 こんな事が出来るのはヘイルしかいない!」
凍矢:「ヘイルだと・・・! 奴はメイアを操るだけのプログラムじゃなかったのかよ!!」
メイア:「ヘイルが操れるのは私だけじゃない って事だよ。
恐らく |不可視《インビジブル》の事件の際、ヘイルも 燐の血に当てられてしまったんだ。 凍矢の目に浮かんでた渦模様 それが証拠だよ。
〈本来の凍矢は燐の中にいる〉人格分離しても こうして影響が出てしまったのか。
ヘイルは・・・本気で燐の事を洗脳して操ろうとしている!!! 急いで止めに行かないと!!!」
凍矢:「2人の場所は・・・ 時計台広場か!
くっ! ここからだいぶ距離があるな!!
間に合えばいいが・・・」
メイア:「それなら 私に任せて!! |翼《ウィング》があれば そんな距離 ひとっ飛びだよ! 幸い 近くに人もいないしね」
凍矢:「メイア ナビゲートは俺に任せてくれ。頼む!! 燐の所まで連れて行ってくれ!!!」
メイア:「後で 美味しいもの ご馳走してよねっ!!!
|翼《ウィング》!!」
メイアは背中から黒い翼を生やすと 凍矢を抱えて 時計台広場まで飛んで行った。
今話の「メイア×凍矢」と次話の「ヘイル×燐」は ほぼ同時進行でお話が進んでいくタイプとなります。
「王の血が流れしもの」の続きは もうちょっとだけお待ちください(・∀・)
ヘイル×燐①
ヘイルは静かに逢間市内を歩いていた。
車のエンジン音 街頭モニターに表示されている天気情報 人々の話し声等を聴きながら・・・
???:「やめてください!!」
チャラ男:「そう冷たいことを言うなよ 姉ちゃんよォ。 俺らと遊ぼうぜ?」
ヘイルは女性の悲鳴を聞きつけ 現場に駆け出した。
女性は両腕にスーパーの袋を吊り下げ 男が3人ほど取り囲んでいた。
後ろ姿を見ただけで その女性が誰なのか ヘイルにはすぐ分かった。
時折 赤い瞳も見えていた・・・
ヘイル:「俺の連れに何か用か?」
女性越しに男の肩を強く掴む。 その|琥珀色《アンバー》の瞳で男達を強く睨みつける。
チャラ男:「なんだ、彼氏がいたのかよ・・・
ちっ、お前ら行くぞ」
男達は女性から腕を離すとその場を後にした。
---
ヘイル:「危ないところだったな・・・ |燐《りん》!」
燐:「ヘイル!? なんでここに!」
ヘイル:「|凍矢《とうや》とメイアはお出かけ、 1人でホテルにいても暇だったんでな。 |施錠《ロック》の魔法をかけて ぶらついてたってだけだ。
袋を1個貸せ、 俺が運ぶよ」
燐:「ありがとう・・・ ちょうど食糧が切れそうだったから買いに行ってたんだ」
事務所に到着すると荷物を全て冷蔵庫に入れたりしていった。
ヘイル:「なぁ 燐。 この後 時間あるか?
ちょっとそこの時計台広場まで行って 身体を動かさないか?」
燐:「うん、いいよ」
--- 時計台広場 ---
時計台広場に着くと ストレッチを行っている。
燐:「ヘイルのその身体ってどうなってるの?」
ヘイル:「構造自体は凍矢と同じだぜ? 俺という存在をコピーして メイアが魔法で作った器にインストールしてるってところだ。
俺本体はメイアの脳内にいる」
燐:「脳内!!?」
ヘイル:「ああ、メイアの脳内に直接埋め込まれてんだよ。
だからやろうと思えばメイアだって意のままだ。まぁ あまり俺は好きじゃないがな」
---
ストレッチが終わると2人は組手を行う。パンチやキックの応酬が続き、ハイキックやローキックも戦略に組み込んでいる。
燐の左脚での蹴りをヘイルは左腕でいなした。
ヘイル:「メイアとの戦い 凍矢との戦い・・・ 色々と見てきたが 燐は格闘術に関する筋が とても良い。 誰に教わったんだ?」
燐:「警察の|浪野《なみの》警部や 凍矢かな。バク転とかの体操系は 体操教室の|水無月《みなづき》先生に かな」
格闘をしながらそんな話をしていく。
ヘイル:「俺が仕込んでやろうか? そうすればもっと 燐は強くなるぜ?
他人からの知識 書物の知識なんざ結局は信ぴょう性を疑うことになる。
だが俺の持つありとあらゆる知識は純粋なものだ。 悪くない取引だと思うが?」
燐:「師匠ってことなら 悪いけど もう間に合ってるんでねッ!!
それに・・・仕込むなんて怖い言い方!やめてよねッッ!!」
燐は裏拳を放つも ヘイルは手のひらで受け止め指を絡め 自分の元に引き寄せた。
ヘイル:「そうか。 なら《《実力行使》》と行こうか」
キィィィィンという高い音が聞こえ ヘイルの瞳に緑色の渦模様が浮かび回転している。
前に燐とメイアの戦いを止めた際や 半グレ集団に使った洗脳は かなり威力を弱めたものだった。
しかし今回は違う。 ヘイルは本気で燐に洗脳をかけ 操ろうとしていた。
---
燐:「ううっ・・・!!」
一瞬見てしまったが 咄嗟に目をそらす。
ヘイル:「近接戦闘だけでなく |鎖《チェイン》も使っていれば また結果は変わっただろうが、もう俺の目を見た以上 燐は俺に囚われる。身も心もな・・・
〈俺の瞳から目を逸らさず 見続けろ〉」
新たな命令が脳内に伝えられる。
目を逸らしたと思いきや すぐ瞳を見てしまう。瞳から目を離すことが出来ず 見れば見るほど燐の中に多幸感が溢れ 自ら望んで瞳を見続けていくようになった。
燐:「ヘイル・・・ 一体何を・・・!?」
だんだん燐の口から言葉が発せられなくなり 静かに呼吸をしながら棒立ちになっていた。
燐の瞳にも 同じように緑色の渦模様が浮かび 虚ろな目をしていた。
ヘイル:「くっ フフフ・・・ はははは・・・
ハッハハハハハ!!
どうやら燐は忘れていたようだが 既に燐は1度俺の洗脳を受けている。再洗脳など簡単なものさ。
燐の血・・・ そいつが俺の本能を呼び起こしたんだ。 俺の命令1つで燐や凍矢の意識は深い底に眠る、そして トランサーを一匹残らず殲滅させる。
・・・俺の持つ純粋な知識を燐に流し込めば 最高の戦士にだってできるんだ!!!
もう|不可視《インビジブル》のような奴に遅れは取らな
い!!!」
メイアを介して燐の血に当てられてしまい〈他人を支配し操る〉という 本来のヘイルが目を覚ましてしまった。
ヘイル:「さて? 燐。
俺に言わなきゃいけないことがあるよな?」
ヘイルは左手を燐の前に差し出す。
燐はスっと跪くと「我ら2人 ヘイル様に忠誠を誓います・・・ 。ヘイル様の手足として、道具として お使いください・・・」と述べ ヘイルの手の甲を握ると目を閉じ唇を近づけていく。
---
その時だった。
ヘイルの脳天に拳骨が2発落とされ右脇腹に2発の蹴りが入れられる。
ヘイルは芝生の上をゴロゴロと転がっていった。燐は手の甲を掴んだ姿勢のまま固まっている。
ヘイル:「いってて・・・
おい!! いきなり何を・・・」
真っ赤になった顔色は青色を通り越して真緑になっていた。目の前では凍矢とメイアがブチ切れて睨みつけていた。
もちろん|消《イレイズ》と|獣化《じゅうか》を発動させて。
メイアが燐の正面に回り |解呪《ディスペル》の魔法を燐にかけると 瞳の渦模様が消え 光が戻ってきた。
燐:「あ、あれ? 私は なんでこんな姿勢を取ってたんだ・・・?」
メイア:「良かった! 気がついたんだね。でも ごめん、ちょっとだけ眠っていてね」
そう言うと燐の首元に手を回し 手刀をトンっと当てて気絶させる。そのまま芝生に横たわらせた。
凍矢:「ヘイル・・・よくも俺達の事を操ってくれたな? たっぷりとお礼をしないとな」
メイア:「さすがの私も看過できないね。
お仕置きだよ、ヘイル」
ゴゴゴゴゴという某漫画の効果音が聞こえそうなくらいにブチ切れている2人は拳を鳴らしている。
約5分、ヘイルは 凍矢とメイアによる〈お仕置き〉を受けていた。
メイア:「凍矢は燐を休ませてあげて。私はもうちょっとヘイルと〈お話〉をしてから帰るよ」
凍矢:「そ、そうか・・・。程々にな・・・」
ヘイルの首根っこを掴んでるメイアと別れ、凍矢は燐を抱きかかえると 事務所まで帰って行った。
ヘイル×燐 ですが もうちょっとだけ続きます!!
ヘイル×燐②
--- |凍矢《とうや》side ---
事務所に帰り着くと、凍矢はベッドに|燐《りん》を横たわらせ、布団をかけてあげていた。
両手は塞がっていたため、|消《イレイズ》を物質化させマジックハンドのようなものを作り 遠隔操作することで布団をめくって静かに寝かせた。
ガチャっと寝室のドアを閉めると応接スペースの椅子に座って涙を流していた。
凍矢:「もっと早く 燐の元に行っていれば・・・
燐がどこで何をしているのかが把握しにくい・・・それが人格分離の欠点か。
燐と同化していた方がいいのか 分離した方がいいのか タイミングについて考え物だな。
くそっ!!! ヘイルの奴、燐にあんな姿を取らせやがって!
・・・少し様子を見に行ってみるか」
凍矢は目を閉じ 燐の中にいた時のことを思い出し 強く念じる。
次に目を覚ますと かつて 燐の中に住んでいた時と同じく 精神世界にいた。
凍矢:「戻ってこれたのか。
燐は・・・いた!! りーーーん!!」
燐は隅で膝を抱えていた。
燐:「と、凍矢・・・? どうしてここに?」
凍矢:「燐の事が心配だったからに決まってるだろ!! 身体は大丈夫なのか?」
燐:「うん・・・ 変なこともされてないし。
凍矢、ヘイルのこと 怒らないであげてね。メイアと同様 トランサーの血に影響されていただけだったわけだし」
笑顔で言う燐をみて ギリっと唇を噛むと 燐を前から強く抱きしめた。
凍矢:「燐・・・!! どうしてそんな姿勢でいられるんだよ!!! なんで怒らないんだ!!! 燐は・・・被害者なんだぞ!!
・・・辛かったのなら辛いと言っていいんだ。こんな時まで無理をするな・・・!!」
燐:「・・・・・・
ぐすっ ぐすっ 凍矢ぁ!
怖かったよォ!!!!
ヘイルの目を見ていたら変な気持ちになって 頭の中をぐちゃぐちゃにされた感じで!!!
メイアと凍矢が助けに来てくれた時は本当に嬉しかったァァ!!
凍矢ァーーーーー!!!」
燐は凍矢の胸の中で大声で泣いていた。
凍矢も後頭部や背中を優しくさすっていた。
凍矢:「辛い 怖い 悲しい その気持ちは全部俺にぶつけろ。全て俺が受け止めてやる!
・・・俺は燐の感情から生み出された存在なのだからな」
精神世界で泣き疲れてしまった燐を膝枕してあげて そっと見守っていた。その頃 現実世界でも燐の目から涙が静かに流れていた。
---
--- ヘイルside ---
夕方の時計台広場。 ヘイルは階段に座り俯いていた。柱によりかかり メイアは後ろから見つめていた。
メイア:「落ち着いた・・・? ヘイル」
ヘイル:「ああ。 もう血の影響も消えたようだ。 結局俺はあの日から変わっていなかったってことだな」
メイア:「変わっていなかった?」
ヘイル:「メイアと融合して5年 もうかつての俺ではないと決別し、自分で自分|を洗脳していた《のプログラムを書き換えたんだ》んだがな。 あの時の俺は 燐の姿を見て |嗜虐心《しぎゃくしん》や愉悦感といった感情に満たされていた。
人を支配して 意のままにあやつる・・・
俺の本来の姿。 結局俺は変わっていなかったってことだな・・・」
メイア:「|不可視《インビジブル》との戦いで私のことをウルグって呼んでたのも 影響が出てたってこと?」
ヘイル:「ッッッ!! 覚えているのか!?」
メイア:「|朧《おぼろ》げにだけどね。ウルグって呼ばれた瞬間 私の中に支配されたいって感情が生まれてきたんだ。私が私でなくなるような・・・
ねぇ ヘイル? もし誰かをあやつりたいって気持ちがまだあるのであれば
・・・私のこと いつでも操ってくれていいんだからね? 元々 そのために作られたんだし」
ヘイルは そんなメイアの言葉を聞いてバッと立ち上がると正面からメイアの肩を掴む。
ヘイル:「一体何を言い出すんだ!!!
俺は もうそんなことをしたくないからと あの日 自分を|洗脳し《創り変え》たんだ!!!」
メイア:「でも 実際には・・・ でしょ?」
ヘイル:「ッッッ!!」
メイア:「ヘイルの中には私に関する身体情報や戦闘データも全部入ってる。 それならヘイルが動かした方が効率がいいって場合もあるし!!
言うなれば・・・|自動操縦形態《オート ドライブ モード》!!
まぁ そうするのであれば1度私の中に戻らないといけないけど」
ヘイル:「どうして・・・ どうしてそうも受け入れられるんだよ・・・!!
俺は!! メイアをそんな姿にした!! 張本人なんだぞ・・・!!! 普通の女の子だったメイアの心を・・・壊したんだぞ・・・」
メイア:「ヘイル? 俯いてどうしたの?」
ヘイル:「|自動操縦形態《オート ドライブ モード》については 少し時間をくれ。 今すぐ承諾というのは無理だ。
俺の中で整理をつけてからにしたい・・・」
メイア:「分かった。 一旦帰ろ? もうすぐ日も暮れるし。 私は別の部屋で寝るから ゆっくり休んで」
メイアに連れ添われてヘイルはいつもの拠点に帰っていった。
それから2日後・・・
ヘイル:「メイア。 |自動操縦形態《オート ドライブ モード》の事だが、メイアにどれだけの負担がかかるか分からない。だから 《《最後の切り札》》としてなら 使ってもいいのかなって思う」
メイア:「とっておきの必殺技ってところだね。 うん! いいと思う!!
あ、 そうなった場合も記憶は消さないでよ? 前にも言ったけど キメラであるこの姿だって
エリュド・リーラ=メイア 私なんだからね!!
勝手に記憶を消したりしたら 承知しないんだから!!!」
ヘイルの胸元に向かって握り拳をドンッとぶつける。ニイッという笑顔で。
ヘイル:「ははは・・・ 流石 俺のご主人様だな。この身にかけて メイアのことは必ず護る と ここに誓う」
暗い表情をしていたヘイルの顔には いつの間にか笑みが浮かんでいた。
メイアの前に跪くと手の甲にキスをする。
メイア:「ちょ、ちょっと!!!
そんな事しなくていいから!!!
私たちは 《《対等》》!! 対等なの!!」
ヘイル:「俺がしたいと思ったからしただけだ。女性は こういったのが好きだろう?♡」
不敵な笑みを浮かべ メイアを見上げていた。
メイア:「〜〜〜〜~ッッ!!」
突然の事に 顔を真っ赤にしていた。
メイア:「と、とりあえずっっ!! もう立ち上がってよ!! 燐の所に謝りに行こう・・・?」
ヘイル:「そうだな・・・」
メイアはホテルの扉の鍵穴に赤い鍵を差し 事務所に向かった。
相棒交替編(異性ペア)は一旦終了です!!
またお話が進んだら 同性ペアにしたり、全くバラバラのペアにしてみたり・・・
色々書けたらなと思います!
王の血が流れし者たち②
キィィィン・・・ 音がした瞬間 赤い光とともに扉が出現する。
ガチャッと開くと ひょこっとメイアが顔を出した。
|燐《りん》:「メイア!! 久しぶりじゃん! どうしたの・・・?」
メイア:「あれから体調のほうはどう? ヘイルに頭の中 かき混ぜられて記憶の混濁とか大丈夫だった?」
|凍矢《とうや》:「まあ、やられた数時間はだいぶきつかったけどな。 特に燐が」
メイア:「そのヘイルのことなんだけど・・・ 反省もしてるし許してくれない・・・?」
扉から出てくるとメイアは深く謝罪をした。
燐・凍矢:「許す(・∀・)b」
メイア:「そうだよね・・・許してk、え? 許す!? ほ、本当に!?」
凍矢:「まぁ、メイア同様 本能覚醒してたってことだしな。ヘイル! 隠れてないで入ってきたらどうだ!!」
キィィと静かに開けると申し訳なさそうな顔をして入ってきた。
ヘイル:「燐、凍矢 久しぶりだな・・・。 もう身体は平気なのか・・・?」
燐:「うん、もう大丈夫。私こそごめんね、まさか私の血を嗅がせてしまったことで
こんなことになるなんて・・・」
メイア:「誰も予想できなかったからね。けど、純銀の鎖は かなり痛かったんだからね(怒)
狼人間もだけど人外に純銀は天敵なんだからね!!!」
3人に対しキレ気味に右手人差し指でビシッと指さした。
凍矢:「・・・最近 狼人間って言うことが多くないか?」
メイア:「だって狼の部分って右肘までだし? キメラって言ってもわかりにくいし? 狼人間って言い方も気に入ってるからね」
ヘイル:「そうなるように俺が|研究員共《あいつら》に言ったんだよ・・・。
年頃の女の子の半身が毛むくじゃらなんて最悪だろうって?」
凍矢:「ヘイル? どうかしたか?」
ヘイル:「いや、何でもない。 あの時は悪かったな、メイア。 ああするしか止められなさそうだったから仕方なく・・・」
メイア:「あの後 身体に火傷の痕が出来て 治るまでお風呂入るのしんどかったんだからね(怒)」
燐:「あ、そうだ。 ねぇ、メイア? ちょっとだけヘイルの顔を借りていい?」
メイア:「顔を? ニィ うん、好きにしていいよ♡」
ヘイル:「め、メイア!? 好きにしていいって!!? そりゃあねぇだろ!!?
り、燐・・・? い、一体なにするn?」
パァン!! 燐はヘイルの左頬を一発ビンタした。
ヘイル:「り、燐・・・」
燐:「・・・もしまたヘイルが私のことを本気で あやつったら 今度は絞め殺すからね」
燐の目は笑っていなかった。
ヘイル:「フフ、もう大丈夫だ。ちゃんと手綱を握ってもらってるご主人様がそこにいるからな」
メイア:「だ~~か~~ら~~~!! ご主人様って言うなっての!!!」
メイアは右手で右頬にチョップを入れる。
---
メイア:「そうだ!! ヘイル!アレ見せてあげようよ!」
ヘイル:「本当に・・・いいんだな?」
メイア:「うん!! 行くよ? |虚像《プリテンス》!!」
|虚像《プリテンス》 とメイアが唱えるとヘイルの身体が光となって消え、メイアの頭はカクンと前に倒れる。
数秒後、フッと顔を上げるとメイアの|琥珀色《アンバー》の瞳は緑色に発光していた。
燐:「め、メイア・・・?」
メイア?:「ククク・・・。 俺だよ」
声を聴いた凍矢は燐の前に立ち庇う姿勢をとる。
ヘイル:「大丈夫だ。何もしない」
凍矢:「まさかメイアを操っているのか!?」
ヘイル:「先に言っておくが、これはメイアの提案なんだよ。もし、また俺の中に人を操りたい・支配したいという衝動が現れたら 私のことを操っていいってな。
ちゃんとメイアの意識は残ってるし、メイアに主導権を握らせることもできるし」
メイア:「そういうこと!! ヘイルには私に関するデータが詰まっているからね。
ヘイルが動かした方が効率がいいかなって提案したんだよ。
言うなれば・・・|自動操縦形態《オート ドライブ モード》!」
凍矢:「人格分離していない俺と燐って感じだな。 身体に負担はないのか?」
メイア:「今のところ異常な数値は出てないね、ただ実際に戦闘していないからどうなるか・・・」
ヘイル:「ピクッ 燐・凍矢!! 警戒しろ。 トランサーの気配がするぜ。
しかもこの感じ・・・ 《《燐と同じ血の匂い》》がする!!!」
燐:「同じ血って・・・!!?」
ピンポーン。
ヘイルの予想した通りインターホンが鳴った。
燐:「はい? どなたですか?」
モニターを見ると女性が1人、男性2人の3人組が映っていた。
|蒼樹《そうき》:「俺の名は|長月 蒼樹《ながつき そうき》。医者兼薬剤師だ」
モニターに医師資格証を見せている。 ヘイルが解析したところ、日本医師会が発行している正式なもののようだった。
蒼樹:「渡したいものがあって今日は参上した。 中に入れてもらえないだろうか?」
燐:「渡したいもの・・・?」
蒼樹:「《《原初の王の血を持つもの》》 そう言えば分かるか?」
燐・凍矢:「!!!!!」
燐:「分かりました。中へどうぞ・・・」
鍵を開け、3人を中に通した直後だった。
ポチャン ポチャン ザーーーー!!!
外では雨が降り出したようだ。
燐:「あ、あ、あ・・・ 嫌ァァァァァ!!」
燐が部屋の隅でガタガタ震えだした。凍矢も顔色がかなり悪くワークデスクに倒れかかった。
メイア:「燐!!? 凍矢!!? 二人とも大丈夫!!!?」
突然の事態にメイアは慌てることしかできなかった。
|氷華《ひょうか》:「これはまずいわ・・・ 台所借りるわね!!」
2人の顔色を見た氷華は台所に走るとコップ2つに水を入れ、手元に持ってきた。
蒼樹と|稜也《りょうや》は自分のピルケースから丸い糖衣錠を一粒取り出し、蒼樹は燐に・稜也は凍矢に飲ませた。
ヘイル:「おい!!! いったい何を飲ませたんだ!!?」
稜也:「落ち着けって。 ほら、顔色もよくなってきた」
稜也の言う通り、かなり楽になってきたようだ。
燐:「あ、あなたたちは・・・?」
氷華:「燐ちゃんや凍矢君と同じ 〈原初の王の血が流れる者〉よ」
王の血が流れし者たち①では3人とも燐を呼び捨てにしましたが、氷華は燐ちゃんなどと呼ばせた方がしっくりくるなと感じた中の人でした(・∀・)
王の血が流れし者たち③
--- 事務所に着く数分前 ---
|氷華《ひょうか》:「ズキッ |蒼樹《そうき》、|稜也《りょうや》。 薬、飲んだ方がいいかも。雲行きも怪しいし一雨来そうね」
稜也:「氷華は偏頭痛持ちだったな。 痛みは強いのか?」
氷華:「ううん、そこまでは。 ただ数分のうちに降りそうね」
蒼樹:「俺が脳神経外科医だったらなぁ・・・。 氷華のことを診られたんだが。
専門は精神科だからな」
稜也:「精神科とはいえ普通の内科医とかみたいに身体の診察もできるんだろ?」
蒼樹:「そりゃあな? 内科も外科も一通り勉強したわけだから診ようと思えば診れるが、やはりその分野の専門医には負けるよ」
氷華:「見えてきた!! あそこが|燐《りん》の事務所よ」
--- 3人が事務所に入ってすぐ ---
ポチャン ポチャン ザーーーー!!!
氷華の予想は見事に当たり 外では雨が降り出したようだ。
燐:「あ、あ、あ・・・ 嫌ァァァァァ!!」
|凍矢《とうや》:「う、うぐっ・・・!! 身体の力が抜けていく・・・。 こんなに・・・苦しいとはな・・・」
燐は事務所の隅で膝を抱えてガクガクと震え、凍矢はワークデスクに倒れかかった。
顔色はかなり悪く 特に凍矢は辛そうだった。
メイアは|虚像の魔法《プリテンス》でヘイルと分離、メイアは燐に ヘイルは凍矢のそばに駆け寄り声をかける。
氷華:「まずいわね。早く薬を飲ませないと! 燐ちゃん!! ちょっと台所を借りるわね!」
そう言うと氷華は台所に走りコップ二つに水を注いだ。
稜也:「蒼樹! 俺は男のほうに回る。蒼樹は燐ちゃんのほうを頼む!!」
蒼樹:「ああ。おい!! そこの2人!薬を飲ませるからどいていろ!!」
蒼樹と稜也は自分のピルケースから丸い糖衣錠を一粒取り出し、蒼樹は燐に・稜也は凍矢に飲ませた。薬の効果はすぐに現れ、二人の顔色が目に見えて良くなり呼吸も落ち着いていた。
メイア:「ど、どうなったの・・・? 燐!凍矢! 大丈夫!?」
ヘイル:「おい!!! いったい何を飲ませたんだ!!?」
ヘイルは強い口調で話しかけた。
稜也:「そう怒るなって。 蒼樹特製の血清みたいなものだ」
燐:「あ、あなたたちは・・・?」
氷華:「燐ちゃんや凍矢君と同じ 〈原初の王の血が流れる者〉よ」
---
流石に大人7人が座るには狭かったため、メイアは応接スペースのソファ類を|圧縮の魔法《コンプレス》で一旦避難。 4人の大人が余裕で座れる大きさのソファを2つ具現化した。一方には蒼樹 氷華 稜也が、もう一方にはメイア 燐が座る。
凍矢とヘイルは人数分のコップに麦茶を注ぎ テーブルに運んだ後 それぞれの相棒の隣に座った。
蒼樹:「突然押しかけて悪かったな。改めて挨拶させていただこう。
俺は|長月 蒼樹《ながつき そうき》。能力は|迅雷《ライトニング》。今は精神科医だが薬学部も出てるから薬とかも作れるんだ」
氷華:「私は|露橋 氷華《つゆはし ひょうか》。 能力は|氷結《アイシクル》。 駅前でバーを開いてるバーテンダーよ。
良ければぜひ来て頂戴! |お友達《トランサー》価格で安くしておくわ♡」
稜也:「俺は |赤城 稜也《あかぎ りょうや》!! 能力は|豪炎《ブレイズ》。 氷華の店で調理を担当しているんだ!」
燐:「|鎖《チェイン》の|睦月 燐《むつき りん》よ」
凍矢:「燐の相棒 |消《イレイズ》の|睦月 凍矢《むつき とうや》だ」
メイア:「人間と狼 魔法を組み込んで造られたキメラ |風野《かぜの》メイアです!」
ヘイル:「メイアの相棒で|人工知能《AI》の 風野ヘイルだ」
凍矢:「医者にバーテンダーに料理人・・・もれなく全員トランサーかよ。
よくもまぁ |俺達《トランサー チェイサー》の前に顔を出せたものだ。
薬で助けてくれた事は感謝しているが、それとこれとは別だ。
今ここで殺り合うか?」
凍矢はパキパキっと指を鳴らしている。
稜也:「 待て待て!! 俺達は戦う気は全くないよ。 俺達も同じように薬を飲んでるんだからな!」
メイア:「ど、どういうことですか・・・?
薬を飲んだ事と戦わない事って どういう関係が?」
氷華:「さっきの錠剤、ああ これの事ね?
これを飲むと雨が降ってる中でも動けるんだけど〈トランサーとしての能力が著しく下がり 能力が使えなくなる〉のよ。
今ここにいるトランサー5人とも 普通の人間より身体能力がちょっと高いだけの〈人間〉ってところね。 多分 メイアちゃんに勝つのも難しいかもね」
燐:「能力が使えない・・・!? |鎖《チェイン》!!」
糸のような とても細い鎖が出て 重力に従って垂れてしまった。鎖を操るも上手く動かせず そのまま消えてしまった。
燐:「そんな・・・!!」
稜也:「その薬は1錠飲むと〈きっかり24時間〉効くようになってるんだとよ。
どの道 雨が降ってる間は他のトランサー達も動けない。 トランサーにとって雨は毒そのものだからな」
ヘイル:「毒か・・・」
---
稜也:「で、本題なんだけどよォ。
さっきも言ったが 俺たち3人とも燐ちゃんと戦う気は無い。 だが何もなく仲間にってのは 俺たちにとってもリスクだ。
そこで!俺達それぞれが試練を課す。
依頼だったり 力試しだったりなぁ。 それを超えることが出来れば俺達は仲間になる。
どうだ!? 燐ちゃん!!」
稜也の提案に燐と凍矢は顔を見合わせるしか無かった。
凍矢:「後で裏切る気だろう? トランサーの言うことなんざ・・・」
ヘイル:「凍矢。 こいつらは嘘をついていない。 隠してる様子もないな」
蒼樹:「俺達3人と燐 凍矢。 〈原初の王〉と呼ばれる最凶の存在と同じ血が流れる 言わば〈兄弟〉だ。 そしてそれは|運命《フェイト》も同じだ」
燐・凍矢:「|運命《フェイト》!!?」
メイア:「知り合いなの?」
凍矢:「知り合いどころじゃねぇ!!!
俺達2人をトランサーに変えやがった宿敵だ!!!」
凍矢はドンッと机を叩く。
氷華:「|運命《フェイト》 本名は|結紀 駿《ゆうき しゅん》。
近所に住んでた気の良い兄ちゃんだったんだけど、あの日 幼馴染だった私達をトランサーに変えた。 でも駿兄ちゃんは こう言っていた。
燐の事を静かに見守ってやってくれ・・・ って。
駿兄ちゃんは誰よりも燐ちゃんの事を気にかけてるから そこはわかってあげて頂戴」
凍矢:「フン・・・ 燐の事を誰よりも理解してるのは俺だ。 次に|運命《フェイト》に会った時には殴り飛ばしてやらないと気がすまねぇ」
---
稜也:「さぁて!! まずは俺からの依頼だ!
この2年で発生している連続行方不明事件、それを解決してみせてくれ!
警察でも手こずってる事件、同じトランサーであり 探偵でもある燐ちゃんなら解決できるかもな!
解決したら 駅前にある〈BAR |fortitude《フォーティチュード》〉に報告に来てくれ!!
いつまでも待ってるからな!!」
蒼樹:「燐 凍矢。 1ヶ月分処方したから 雨が降りそうになったら飲んでくれ。
稜也が言った通り 〈きっかり24時間〉効くように調合してある。
だが連続で飲んだり〈|過量服薬《オーバードーズ》〉はするんじゃないぞ。 薬剤師としての忠告だ」
氷華:「健闘を祈ってるわね! 燐ちゃん 凍矢くん♡」
3人は嵐のように去っていった。
ヘイル:「警察でも手こずる連続行方不明事件か。 解決して奴らの鼻を明かしてやるのも一興だな、くっはははは!!」
メイア:「何としても解決してやろう!! 燐! 凍矢!」
燐:「トランサーが関わってるのは確かね。
まずは警察に |晴翔《はると》に話を聞きに行ってみるか!」
早速4人の中で 次にとるべきことが決まったようだ。
今話は②の内容を一部カバー・加筆いたしました(・∀・)
アイシクルはツララ、ブレイズは炎という意味ですがカッコいいのでこのまま行きます(・∀・)b
予知(プリコグニッション)
--- 警視庁 捜査一課 ---
コツコツと音を立てて目的のフロアに向かう2つの人影があった。
|燐《りん》:「あれからどうなの? その・・・〈衝動〉みたいなのは」
ヘイル:「心配してくれてありがとうな。
あの時は本当に自分が抑えられなくて あんなことをしてしまった。血の効果も完全に消えたし、もう平気だよ」
とても穏やかな笑顔をしていた。
|晴翔《はると》にアポをとった際 燐と|凍矢《とうや》で行く予定だったが ヘイルから申し出てきたのだった。
燐は自分が護るから 行かせてほしい。もう燐を操るような真似はしない、償いをさせてほしい・・・と。 そう直ぐに信じられる訳もなく 凍矢は条件を出した。
〈凍矢は燐と メイアはヘイルと同化。 その様子を互いに見張る〉という条件。
要は4人ぞろぞろ行くのは目立つから |自分たち《メイアと凍矢》は内面から見させろ ということだった。
---
刑事たちがコソコソと話す声が聞こえる。
「アイツらが噂のトランサーか?」
「見た目は俺達と同じなんだな」
「だが知ってるか? 奴らの血は赤色じゃないらしい。 あんな化け物 死ねばいいのにな」
凍矢:「(チッ! あいつら!! 好き勝手に言いやがって!
燐! 一発シメてきていいか?)」
燐:「ダメだって。 ただでさえ晴翔達は肩身が狭いんだから」
ヘイル:「(メイア、燐に酷いことを言う奴を全員今すぐ|洗脳して《しもべにして》もいいか? ちょっと俺もムカついてきた)」
メイア:「ヘイル、抑えて抑えて・・・。 ねぇ 燐? 晴翔さんは どこにいるの?」
燐:「異形犯罪捜査係。 トランサー事件を専門に扱う部署に所属してるの。
ほら!あそこ!!」
異形犯罪捜査係と書かれたプレートが見えた。
燐:「晴翔? あれ? 晴翔!?」
ヘイル:「影も形もないな」
凍矢:「おかしいな。昨日電話した時には ここにいるからって言ってたんだが」
燐の携帯から着信音が聞こえてきた。
燐:「はい。 |浪野《なみの》警部!! お久しぶりです。
えっ・・・ 分かりました。今は異形犯罪捜査係にいますのですぐ向かえるかと。
では後ほど」
メイア:「燐? どうしたの?」
燐:「・・・屋上に来てほしいって。
晴翔や|夏弥《なつみ》さんもいるって」
凍矢:「|浪野警部《ヤツ》は何を考えてるんだ」
---
|浪野《なみの》:「燐 こうして会うのは10年ぶりか?」
燐:「直接会うのは 15歳の時以来ですね。ご無沙汰しております。
|浪野 章三《なみの しょうぞう》警部」
浪野警部に対し真っ赤な両目を向ける。
晴翔:「燐にメイアも! よぉ!! 元気そうだな」
夏弥:「事務所で会って以来ですね。あら? 今日はお2人だけなのですか?」
ヘイル:「ククク・・・ 俺もいるぜ? 夏弥さんよォ〜。
相変わらず美しいねぇ」
ヘイル(外面はメイア)は|琥珀色《アンバー》の瞳を輝かせながら夏弥を顎クイしようと左手を伸ばす。しかし右腕がそれを止める。
メイア:「ヘイル? 私の目が黒いうちに |顎クイ《そんなこと》をしようものなら1ヶ月 口を利いてやらないからね?」
燐:「|此処《屋上》に呼んだのはどういったご用件なんですか?」
そう言うと 浪野警部はいつも着けているサングラスを外す。そこに見えていたのは
〈空色の瞳〉であった。その場にいた全員が驚愕した。
ヘイル:「ほぉ? あんたもトランサーだったのか。気配が感じられなかったが」
凍矢:「い、いつからトランサーだったんだ・・・!?
まさか、燐がトランサーになった時には・・・!!」
浪野:「トランサーになったのは もう30年近く前だ。 入った血の量も少なかったからあまり雨の影響もなかったな」
燐:「|逢間市《おうまし》で初めてトランサーとして確認されたのは私なんじゃ・・・!」
浪野:「警視庁に移る前は三重県警にいたんだが、その時に傷を負ってしまってな。
以来、サングラスが外せないんだ」
凍矢:「いつもサングラスをしてるなと思ってたがそんな理由だったとはな」
浪野:「ちなみに能力は|予知《プリコグニッション》。
いつ起きるのか遭遇するのか分からない未来を一瞬見られるだけの能力だ。
燐達の能力と比べても 戦いには全く使えないがな」
凍矢:「じゃあトランサーとしての戦力にはならなさそうだな」
浪野:「だな、ちょっと身体が頑丈なだけの人間ってところか。
・・・今日 九条に会いに来たのは連続行方不明事件について だろ?」
メイア:「もしかして それも《《視えていた》》んですか?」
浪野:「ああ。 まさかこんなに早く会うことになるとは思わなかったがな。
さて|銅《あかがね》警視、例のモノ見せてもよいですかな?」
夏弥:「ええ、燐さん達であれば問題ありません。
では 案内しましょうか」
夏弥の案内で5人は捜査資料倉庫へ向かったのであった。
新章では、前シリーズで登場した「あの二人」を登場させる予定です。
ただ、私の欲望を爆発させるだけの話も書く予定なので、同時公開として燐達のプロフィール・キャラクターファイルも公開予定です!!
夢(ドリーム)①
--- 警視庁 第4取調室 ---
人払いを行い、|燐《りん》・|凍矢《とうや》・メイア・ヘイル・|晴翔《はると》・|夏弥《なつみ》・|浪野《なみの》警部の7人がテーブルを取り囲むように座る。
テーブルの中央には〈|逢間市《おうまし》内における連続行方不明事件 捜査資料〉とラベルされた大きめの箱が置いてあった。 浪野警部がガチャッと鍵を閉め 捜査資料を取り出しては燐に見せた。
浪野:「この2年で約100名が行方不明となっている。どうやって攫われたのか/被害者達がどこにいるのか/誰が犯人なのか 証拠も少なく捜査は難航している」
晴翔:「被害者達は 《《全員 森林公園》》で消息を絶っている。 ということしか分かってなくてな、今も夜通しの捜査が続いてるんだ」
メイア:「うーん、誘拐の魔法なんて聞いたことないな。別空間にでも幽閉しているのかな?」
ヘイル:「俺の持つ情報でも該当項目は無いな・・・。|トランサーの方《そっち》で何か心当たりはないのか?」
凍矢:「いや・・・ さっぱりだな。地面にも形跡がないし これでは捜しようがないな」 凍矢もヘイルも髪をわしゃわしゃとかきまわす。
メイア:「それなら私が森林公園を見張ろうか? 一度ヘイルを中に戻した後 |虚像の魔法《プリテンス》で私自身の分身を作る。 視覚を共有するようにすれば分身体を通して私も視ることが出来るし!!」
燐:「メイアにばかり負担をかけるわけにはいかないよ。トランサーは不死の存在、数日くらいなら寝なくても平気だよ。 |3人《燐 凍矢 メイア》で交代しながら見張る ってことでどうかな」
凍矢:「それか 俺は燐の中に戻り 情報分析や解析を行おうか? 燐の視覚を通して俺も視ることが出来るしな!!」
晴翔:「おいおい!! 話が盛り上がっているところ悪いが俺のことを忘れるなよ! 昼間は俺達警察が・夜は燐達 効率重視で行こうぜ」
ヘイル:「決まりだな、何かあれば俺が分身体を操って時間を稼ごう」
凍矢:「ここまで証拠を残さない奴なんだ、かなりの切れ者だとみて間違いない。|晴翔達《お前ら》も十分に警戒しろよ!!」
燐・メイア:「うん!!」
晴翔:「ああ!!」
--- 睦月探偵事務所内 ---
その日の夜から作戦は始められた。
メイアは|虚像の魔法《プリテンス》でヘイルを戻した後、再度唱え 自身の分身体を作った。本体との区別がつくよう瞳に緑色の渦模様が浮かんでいる。
メイアは分身体に対し〈ミラージュ〉と名を与えた。〈余計な物音は立てない・現地では言葉は発さず、何かあれば|精神感応《テレパシー》で伝える・主人であるメイアと視覚を共有する・偵察目的のため 犯人を見つけても深追いしない、人命救助を最優先に行動する〉ように命令を下す。|分身体《ミラージュ》は3人の前に跪き 忠誠の意を示すように目を閉じ 深くお辞儀をすると事務所を出て目的地に向かった。
燐:「犯人は何が目的なんだろう、大量の人々を誘拐するなんて」
凍矢:「観賞用にするのか、食糧とするのか、エネルギータンクとするのか・・・。 まぁ いずれにしろ〈いい趣味をしている〉のは間違いないかもな」
ヘイル(外面はメイア):「燐、あの3人から話を聞きださなくていいのか? あの感じ・・・何か知っているようだったが」
凍矢:「なら俺が聞いてこようか? メイアは|分身体《ミラージュ》の報告を聞かなきゃだろうし、燐はトランサーとの戦いが控えてるだろ。
駅前から森林公園までは数分で着く、いざとなればすぐ加勢に向かうから連絡してくれ!」
燐:「分かった、気を付けてね」
二ッと笑うと事務所を後にする。
燐:「ヘイルは今メイアの中にいるんだよね? その状態でも私の姿って見えてるの?」 燐と凍矢は感覚を共有しているがメイア ヘイルとは分離した姿でしか会ってなかったので気になっていた。
ヘイル:「ああ。俺とメイアは完全に融合しているからな。はっきり見えてるぜ」
燐:「メイア、体力や精神力が辛くなってきたら直ぐ言ってね。今度は私が代わるから」
メイア:「心配してくれてありがとう、でも大丈夫! 魔力は無尽蔵にあるからね。 たとえ魔力が空っぽになったとしても数時間寝れば回復するし。
ピクッ ちょっと待って・・・ うん。うん。分かった、人命優先で足止めをして。 こっちもすぐ行くから!
燐 |分身体《ミラージュ》からの連絡がきた、どうやら犯人が来たみたい!! ヘイルは|分身体《ミラージュ》の遠隔操作をお願い、こっちも急いでいくから」
ヘイル:「(分かった、気を付けて来いよ!)」
燐は右手のデバイスに左手をかざす、するとデバイスから凍矢の声が聞こえてきた。
凍矢:「どうやら釣れたようだな! 俺も森林公園に向かうよ!」
燐:「メイア! 行こう!!」
メイア:「うん!!」
それぞれのルートで森林公園に向かうのだった。
新章「夢(ドリーム)」編 開始です!
夢(ドリーム)②
--- |凍矢《とうや》side BAR |fortitude《フォーティチュード》にて ---
カランカラン。
凍矢が静かにドアを開け店内に入る、開店したて ということもあり 客はほとんどいなかった。
|氷華《ひょうか》:「あら? 凍矢くん!ただのお客…という感じには見えないけど何か聞きたいことでもあるのかしら?」
凍矢:「聞きたいことがあるというのは正解だが、ここはバーだ。1杯いただくとするよ」
氷華:「それなら軽めのを作るわ、これでも食べながら待ってて頂戴」
クラッカーにキューブ状に切ったアボカド・クリームチーズが盛り付けられ バジルと岩塩が軽く散らしてある〈カナッペ〉が凍矢に出される。
氷華はシェイカーにバナナリキュール・氷・オレンジの絞り果汁を《《通常のレシピより多めに入れ》》シェイクをする。クラッシュアイスを入れてあるタンブラーグラスに注ぎ トニックウォーターを注いで凍矢に提供する。
氷華:「モンキーミックスよ。ロングカクテルだし そこまで度数も高くないから《《この後の戦い》》にも長引かないはずよ? カナッペと一緒に飲んでね」
凍矢:「ほう、なかなか美味いな。ところで、なぜ戦うと気づいたんだ?」
凍矢は半目で氷華を睨みつける。
氷華:「これでもトランサーだからね、雰囲気で分かるわ」
凍矢:「・・・お前ら、連続行方不明事件についてどこまで知ってるんだ? 知ってることを洗いざらい話してもらおうか」
|稜也《りょうや》:「やはりそれを聞きにきたんだな。 だが、俺達も|人伝《ひとづて》でしか聞いたことがないから力になれるか分からないぜ?」 話を聞いていた稜也も厨房からトコトコと出てきた。
凍矢:「それでもいい、知ってることを教えてほしい!!」
稜也と氷華は自分たちが知っていることを話し出し、凍矢は静かに聞いていた。
〈 夜、森林公園に金色の扉ができており 人々はフラフラ夢見心地で近づいていく と。
そして、扉から出てきた女性の手を取ると 身体がフワッと浮き上がって 扉の中に引きずり込まれしまう と〉
凍矢:「謎の扉に謎の女・・・? おそらくその女がトランサーなんだろう。だとしたら何の能力なんだ?」
稜也:「さすがの俺達も能力までは分からねぇ。実際に見ていないしな」
凍矢:「そうか・・・ そうなると戦わない限り分からないか。悪かったな、手間を取らせて」
氷華:「気にしないで頂戴。 あ、今日は私のおごりよ♡ 初めてのお客様だし 今度は純粋なお客さんとして|燐《りん》ちゃんたちも連れてきてちょうだいね。貸切にして歓迎するわ」
凍矢:「はは・・・ ならお言葉n ちょっと待ってくれ!」
凍矢は左手首に右手をかざすと 燐にあげたものと同じ形のデバイスが現れる。
凍矢:「燐か。 どうした?」
燐:「|分身体《ミラージュ》がトランサーを見つけたって!! 森林公園で落ち合おう!」
凍矢:「どうやら釣れたようだな! 俺も直ぐに向かうよ!
すまない、呼ばれちまった。また来るよ、ご馳走様」
稜也:「気をつけろよ!!」
凍矢は店を出ると森林公園に走り出した。
--- |分身体《ミラージュ》side 森林公園にて ---
|分身体《ミラージュ》は森林公園に到着すると時計塔のてっぺんにジャンプした、森林公園を一望できる高さから探すためであった。メイアから渡された黒のローブを羽織り フードも被ると 異変がないかを見回している。
見張りを始めること20分、異変を察知し瞼がピクっと動くと よく見える位置まで静かに移動し気配と息を殺して様子を窺った。森林公園の広場に大きな金色の扉ができ一人の女性が出てきて 反対側からは1人の男性が扉に引き寄せられるかのようにフラフラと近づいていった。虚ろな目をしており《《夢見心地》》という表現がぴったりな表情だった。
その様子を見た|分身体《ミラージュ》は身を潜める体勢をとるとメイアに|精神感応《テレパシー》を行う。
|分身体《ミラージュ》:「(ご主人様、不審な女が黄金の扉より出てきており 反対から扉に近づく男を発見いたしました。扉は時計塔より北西に200mの広場に出現。男は虚ろな表情で引き寄せられるかのように近づいております)」
メイアも視覚共有で その様子を見ている。
メイア:「(なるほど、あの女がトランサー 今回のターゲットか。 ヘイルがその身体を使うからミラはその場で待ってて!)」
|分身体《ミラージュ》 :「(ご主人様? |私《わたくし》にお与えくださった名前はミラージュ ではなかったのですか?)」
メイア:「(いやぁね? 同じ顔だし 愛着が湧いちゃって。 ミラージュのミラ!!
単純すぎたかな・・・。 これからも私のことを助けてね、ミラ!!)」
ミラ:「(・・・ありがたき幸せでございます。この身を賭してご主人様にお仕え致します)」
メイア:「(そう固くならなくていいって!!
ともかく 私達もすぐ向かうよ!!)」
ミラ:「(承知いたしました、ご主人様もお気をつけて)」
|精神感応《テレパシー》が終わると身体が淡い光に包まれ 次に立ち上がったミラの雰囲気は違っていた。瞳の渦模様は消え いつものヘイルの姿に変わっていた、流石に服はメイアが着ている格好ではあったが柄物の服ではなかったため そこまで違和感はなかった。
メイアはミラとの感覚共有を解除すると燐と一緒に森林公園に向かい出した。
ヘイル:「さて、行くとしますか!」
バサッとローブを脱ぎ捨てると ローブは虚空に消え去った。
・カクテルに関しては ちゃんとネット上のレシピで軽めに飲めそうなものを探しました
(・∀・)b
・虚像の魔法(プリテンス)により造られた分身体は魔力で出来た人形であり 感情は乏しく 自律思考はできません。そのため ヘイルが入るか 命令を与えないと動くことすら出来ないものになります。
しかし 創造主(基本的にはメイア)の忠実なる しもべであり、与えられた命令は必ず守り遂行するようになります。また、ヘイル・燐・凍矢の事はメイアと同等の存在として認識させているため 命令を与え遂行させることが出来ます。しかし、晴翔や夏弥が命令を与えても動きません。(メイアや燐等からの後押しが必要)
創造主(基本的にはメイア)は〈ご主人様〉 創造主以外は〈名前+様 (例: 燐様、ヘイル様、晴翔様 等)〉と呼びます。
夢(ドリーム)③
--- 森林公園内 ---
???:「待ってたよ! うん、ちゃんとペンダントもつけてきてくれたんだね。よく似合ってるよ。 さぁ、この手を握って! 永遠に2人で暮らそう!」
黄金の瞳を持つ女が男に手を差し伸べる。男はコクリと頷くと 手を握ろうとする。
ヘイル:「ちょっと待ってもらおうか!!
ここで何をしてやがる!?」
ヘイルが2人に向かって荒々しく話しかける。
???:「おっとォ? あなたは?」
ヘイル:「質問してるのはこっちなんだがなぁ!!」
???:「ひっ!! 助けて!!!」
バンっと地面を蹴り爪を女めがけて振り下ろした。 しかし、その左腕を男がガシッと掴んだ。
男:「ノアちゃんに指一本触れさせないんだからな!」
そう言うと大振りに殴ってくる。瞳は女と同じ黄金色をしており 明らかな敵意を向けていた。
ヘイル:「(くっ!! 一般人だから手が出せねぇ! 気絶させようにも力が強すぎて《《壊して》》しまう!!!
メイアや|燐《りん》みたいに相手を拘束することが出来れば良かったんだが 精神に作用する魔法や|翼《ウィング》しか使えないから 無力化させることも出来ねぇ!!)
奴め・・・ 卑怯な真似を!!」
メイアやヘイルは 軽く蹴っただけでも普通の人間ならヒビが入るレベルであり 飛び蹴りを受けようものなら粉砕骨折必至である。
トランサーである燐ですらメイアの蹴りを受け 全身にビリビリと衝撃が走っていた。
手刀を首に入れるだけでも 脊椎損傷になりかねなかったため、ヘイルは男の攻撃を躱すしかなかったのであった。
その様子を見ていた女は勝ち誇ったようにニィっと不敵な笑みを浮かべていた。
???:「悠さん! 早く行きましょう!」
扉が勢いよく開き 中から〈手〉のようなものが飛び出してくる。
男:「ノアちゃ〜〜ん♡ すぐ行くよぉ♡」
男が女の手を握った瞬間 〈手〉のようなものに包まれ 扉の中に引きずり込まれてしまった。
ヘイル:「なっ!! どうなってんだ!!?」
ノア?:「また1人 私の〈仲間〉が増えた♡
彼の目を見たでしょう? 永遠に続くよき夢を見ている彼の幸せそうな顔を。もう私がいないと生きていけないようにしてあげたのよ。 アッハハハハ!!
また良き夜に会いましょう!! それでは♡」
ヘイルの方を振り向かないまま ヒラヒラと手を振り 女も扉も 光となって消えてしまった。
メイア・燐・|凍矢《とうや》:「ヘイル!!」
3人が到着した時には もう何も残っておらず
ヘイルはその場に立ちつくしていた。
メイア:「ヘイル、トランサーは?」
ヘイル:「被害者共々 逃げられてしまった。
男の状態を見る限り 恐らく女は相手に〈夢〉を見せることができるんだ。
男が俺に殴りかかってきた時、〈|ヘイル《俺》が女を襲っているという夢〉を見せられていたんだと思う」
そう言いながらヘイルは街灯にガンッと拳をぶつけている。自分の身体に対して強い怒りを感じていた。
燐:「トランサー |夢《ドリーム》って事か・・・。 これはかなり厄介かもね・・・」
凍矢:「その女の素性を調べるのと 次はいつ現れるのかを予測しないとな・・・」
メイア:「引き続き見張りを行うよ。 そこまで魔力も消費しないって分かったから」
ヘイル:「出現予測も俺に任せてくれ、人工知能の俺にッッ!!」
燐:「情報収集をしたりしながら待つしかない・・・か」
トランサーを捕らえることが出来なかった。助けられなかった。
4人の気持ちは共通していた。
--- 探偵事務所内 ---
その後 |虚像の魔法《プリテンス》で再度ミラを生み出し、燐 凍矢 ヘイルを前にメイアがミラの事を話し出した。
メイア:「改めて紹介するね。 私の分身体であるミラ。 夜の見張りは 引き続きミラにやってもらうことにしたよ、顔も割れてないしね。
事務所にも出入りするから よろしくね。 あ、私の魔力で生み出したんだけど 皆の命令も聞くようになってるから」
ミラはメイアの後ろでスっと跪き 無言で3人のことを見つめていた。
燐:「・・・喋らないの?」
メイア:「1番最初に生み出した時に〈言葉は発さず、何かあれば|精神感応《テレパシー》で伝える〉ように命令を与えたから・・・だね。
魔力で出来た〈人形〉みたいなものだから |私《オリジナル》と記憶も共有できないし 自分で考えたりっていうのも出来ないんだ。
ちょっと待っててね、 ミラ! 燐や凍矢、ヘイルとは普通に話していいよ。|精神感応《テレパシー》を使うのは見張りの時だけね」
命令を受諾した証として 瞳の渦模様が光るとミラは顔色一つ変えずに口を開いた。
ミラ:「承知いたしました、ご主人様。
燐様 凍矢様 ヘイル様。 |私《わたくし》はご主人様の|下僕《しもべ》 ミラと申します。
御用がございましたらお申し付けください」
凍矢:「随分と感情が乏しいんだな。 |虚像の魔法《プリテンス》だっけか、もしかしてヘイルの身体も?」
ヘイル:「ああ、燐には話したが 今の俺は メイアの魔力で造られた身体に コピーした俺をインストールさせたようなものなんだよ。
感覚的には凍矢と同じさ」
凍矢:「命令がなければ動かない人形を ヘイルが操ってる という感じか」
燐:「まぁ ヘイルの場合は人工知能だから 自分で考えたりできるっていうのだと ミラとは違うのかもね」
メイア:「じゃあ 私達は一旦戻るね。
何かあれば ミラを送るよ」
ヘイル:「悪い、メイア。俺はちょっとだけ用事を済ませてから帰るよ」
メイア:「分かった。 鍵は渡しておくね」
スペアの鍵をヘイルに渡して ミラに耳打ちする様に新しい命令を与えた後 メイアは〈赤い鍵〉で拠点に帰って行った。
その後 ミラもペコリと丁寧に会釈をすると事務所を後にした。
燐:「ヘイル? 用事ってどうしたの?」
ヘイル:「燐、凍矢。 大事な話がしたい、少し付き合ってくれないか?」
燐・凍矢:「?」
ヘイルが燐達を連れ出す所を ミラは影から見たあと尾行し |精神感応《テレパシー》で|主人《メイア》に伝えた。
メイアがヘイルの行動に気づかないはずはなく ミラの情報をもとにヘイルの所に向かっていった。
次話ですが ちょっと夢(ドリーム)編から離れます。
完全獣化①
--- おうまポートハーバー近くの広場 ---
|燐《りん》と|凍矢《とうや》はヘイルに連れられ静かな広場に来ていた。比較的大きい広場であり、フードフェスタ等も度々催されている。
メイアは|光学迷彩の魔法《オプティカル・カモフラージュ》で姿を消し 影から3人のことを見ていた。
ヘイル:「悪いな、付き合わせてしまって」
燐:「それは構わないんだけど、どうして私達だけなの? メイアは・・・」
ヘイル:「メイアの前では どうしても話しにくくてな・・・」
凍矢:「一体どうしたってんだよ、そんなに暗くなって・・・ 。お前らしくないな」
ヘイルは街灯に寄りかかると静かに話し始めた。
ヘイル:「メイアが探している〈記憶〉の事で2人に相談したかったんだ」
燐:「記憶・・・ メイアも言ってたよね」
(回想のメイア:「探し物をしてるんだよ、この街にあるんじゃないかなって思って」
「記憶 かな。探し物は」)
凍矢:「だが 未だに手がかりなしだ。
一体何に関する記憶なのか、検討もついてない」
ヘイル:「メイアの失われた記憶・・・
俺は全て知っている」
燐・凍矢:「えっ・・・!?」
メイア:「ヘイル・・・ どういうこと!?
他に隠していることはなかったんじゃ・・・」
凍矢:「どういうことなんだ? 何故 ヘイルがメイアの失われし記憶を知っているんだ?」
ヘイル:「メイアの記憶は失われたのではない。 俺が封印したんだ、二度と思い出せないようにな」
燐:「封印・・・!? そうか、ヘイルはメイアの脳内に埋め込まれているから!」
ヘイル:「そういうことだ。俺はメイアの |海馬《かいば》と|扁桃体《へんとうたい》つまりは 記憶と感情に関わる所にメインで埋め込まれた。
メイアをキメラとして運用、時にはメイアの全てを操る・・・。 その目的のために俺は造られた。
まぁ、俺に関することは別にいい。
封印した過去を思い出させてもいいのか 覚悟が決められなくてな。
燐・・・ もし、もしもだ。凍矢が燐にとって大事な記憶を《《意図的に隠していた》》としたら 燐はどうする?」
燐:「凍矢がそうするのであれば 目的はただ一つ。私の心を護るため。 凍矢は〈もう1人の私〉。 |記憶操作《そう》しなければ、私が私でなくなる。 どちらか選ばなければいけないのなら私も同じことをすると思う。 感謝こそすれ責めることはしないよ。
・・・ヘイルの想定解になったかは分からないけど」
凍矢:「・・・・・」
ヘイル:「燐・・・」
ぐっと目を閉じ考えたあと 重い口が開かれた。
ヘイル:「メイアの家族 両親や妹を殺した、軍の連中に殺させたのは
・・・俺だ。
そして、キメラとして完成した5年前のあの日、20人もの研究者を皆殺しにした。俺が メイアの身体を操り 獣化させてな。
それがメイアの失われし記憶 探し求めている|記憶《真実》だ。」
燐と凍矢は只 絶句していた。 まさかそんな事実が隠されていたとは思いもしなかった・・・。
---
タタタッ! 誰かがその場から走り去る音が聞こえた。
ヘイル:「ッ!? 今のは・・・」
凍矢:「ヘイル?」
ヘイル:「・・・・・」
燐:「ゾクッ この寒気・・・ 凍矢、《《薬》》飲んだ方がいいかも」
メイア:「3人の跡なんか付けなきゃよかった・・・!!
こんなに辛い気持ちになるのなら 話を聞かなきゃ良かった・・・!!」
|光学迷彩の魔法《オプティカル・カモフラージュ》はいつの間にか消えており 口を手で覆い 大粒の涙を流しながら逢間市内を一目散に走っていた。そして メイアの感情に共鳴するかのように雨が降り出した。
メイア:「ミラ、今日の見張りはなし。また呼ぶから戻ってて。 1人にさせて・・・」
ミラ:「しかしご主人様・・・」
メイア:「これは命令だ。戻ってろ!! |分身体《ミラージュ》!!」
ミラ:「承知いたしました、ご主人様」
睨みつけた後 |虚像の魔法《プリテンス》でミラを元の魔力に戻すとフラフラと歩き出した。
メイア:「お父さん、お母さん、リアも もうこの世にいない・・・?
ヘイルが ころし・・・た・・・?
(回想のヘイル:「メイア・・・ それが本当の名前だ。 無理に思い出す必要は無い、俺はメイアを護るために造られた。何も考えず静かに眠れ・・・|眠りにいざなう眼《ヒュプノ・アイ》」
「メイアを洗脳したり 催眠術をかけ記憶を弄っていた事が 隠し事だ」)
おとう…さん おかあ…さん リア…
うっ・・・ うっ・・・
うわぁぁぁぁぁぁん!!!」
人目もはばからず泣き叫んだ後 メイアはその場に倒れてしまった。|認識阻害《にんしき そがい》で隠していた右腕も姿を現してしまい、人だかりができていた。
???:「そこにいるのはメイアか・・・?
メイア!! メイア!! 大丈夫か!?
くっ・・・傘もささずにこんなに濡れやがって! 身体が冷えてきてるな、急がなければ低体温症になってしまう。
|氷華の店《フォーティチュード》も近い、早く濡れた服を脱がせて身体を温めないと!!!」
男はメイアを抱き抱えると|氷華《ひょうか》のバーに向かっていった。
---
ヘイル:「メイア!! 居ないのか!!
やはりさっきの足音は・・・
くっ、聞かれてしまったか・・・」
拠点に帰り着いたがメイアの気配は感じられなかった。
ヘイルは唇を強くかみしめ 左手で顔を覆ったあと バルコニーから満月を見ていた。
ヘイル:「もう 15年経つんだよな。メイアが誘拐され 初めて顔を見た日から・・・」
・・・書いててなんですが よくこんなに辛めな話をかけたなと思っています。
完全獣化②
--- BAR |fortitude《フォーティチュード》 ---
その日は雨ということもあり 客の姿はまばらであった。 しかし 雨の音と店内に流れるクラシック音楽を聞きながら1杯の酒を楽しんでいる客がいる・・・ というのもまた事実であった。
|氷華《ひょうか》:「またのお越しをお待ちしております」
最後の客が帰っていった。ちらっと時計を見ると12時になろうとしていた。
氷華:「12時前・・・ こんな天気だし 早いけど店じまいにしましょうか」
|稜也《りょうや》:「そうだなぁ、俺達も薬飲んだし 他のトランサー達も流石に大人しくしているだろう。
じゃあ こっちは厨房の片付けを始めるよ、明日は定休日だし |市場《なじみの店》にでも顔を出してみるさ」
氷華:「スタッフ達も もう帰してもいいかしらn」
氷華が言いかけたその時 バンッ!!と扉が強く開いた。
入ってきたのは|蒼樹《そうき》であった。仕事終わりだったのか|白衣《ドクター コート》を着て 肩に女性を抱え 息を切らして入ってきた。女性の肌は青白く 激しくふるえていた。
蒼樹:「氷華!! 稜也!! 急患だ!
そこのソファを借りるぞ!!!」
氷華:「蒼樹! 一体何が・・・
って メイアちゃん!!? こんなに濡れて!」
蒼樹:「急いで服を脱がせて着替えさせなければ!!発見した段階でかなり雨に降られていたからな。体温もどんどん下がってきている。
氷華は服を着替えさせてやってくれ!それと毛布等で外部からも温めるんだ!!
稜也は何か身体を温められるものを、ただし 《《絶対にネギ類を使うな》》!! 《《エキス・出汁状・すりおろしもダメだ》》!!」
氷華:「分かったわ。スタッフの女の子達がまだ店内にいるから手伝ってもらうわね。
稜也!! |予備の制服《シェフコート》 借りるから!!!」
稜也:「スープなら何とか飲めるかもしれない・・・。じゃがいものポタージュならまだ残ってるから それを温めるか!
リゾットとかも作ってみるか? いや 消化ならうどんか? そもそも固形物が食べられるコンディションじゃないか・・・?」
ブツブツ考えながら稜也はスープを適温になるよう温めている。
蒼樹:「俺は|病院《自宅》に戻って道具一式を取ってくる。 メイアのことを頼むぞ」
氷華:「早じまいしようって話もしてたから メイアちゃんのことは私達が見ておくわ」
氷華は店の奥にメイアを連れていくとスタッフ達に手伝ってもらいながら 濡れた衣服を脱がせ身体を拭き、予備の制服を着せた。
|氷華の制服《バーコート》では小さそうだったが |稜也の制服《シェフコート》であれば爪のある腕も余裕で通すことが出来た。濡れた服は乾燥機に入れて回している。
その後ソファに静かにもたれさせると スプーンでポタージュをすくい 口に近づける。
氷華:「メイアちゃん、じゃがいものスープよ。
ほんのちょっとでも飲めそうかしら・・・?」
メイアは氷華に1口飲ませてもらうと とても美味しかったのか 器に手を伸ばし自分で飲むようになった。しかしメイアの目に光は灯っておらず、本能によって動いている〈人形〉のような状態だった。
氷華:「慌てなくても誰も盗らないし おかわりもあるからね」
稜也:「ラスクもあるから 食べられるようなら食べてくれ」
カリカリに焼かれたパンの上に粉砂糖が軽く振ってあったラスクも この店の名物であった。メイアはラスクもがっつくように食べると喉に詰まってしまったのかドンドンと胸をたたき出した。
稜也:「慌てて食べ過ぎだ! ほら 水!!」
水を一気に飲み干すと 頬に赤みが戻ってきた。
カランカラン。ドアの方を見ると蒼樹が戻ってきた。
蒼樹:「遅くなっちまったな、メイアの様子はどうだ?」
メイア:「!!!!!」
突然入ってきた蒼樹を見てメイアは氷華の後ろに隠れるようにしてガクガクと怯えている。
氷華:「さっきスープとラスクは食べられたわ。 服は絶賛乾かし中」
稜也:「薬を飲んでなきゃなぁ・・・。俺の|豪炎《ブレイズ》で直接温めてやれたんだが」
氷華:「サラッとセクハラ発言するのやめてくれない? そんなに人肌が恋しいのなら、|氷転身《ターン・アイス》で 私の虜にでもしてあげましょうか?
私の言うことに逆らうことが出来ない 恋《《奴隷》》として・・・ね」
稜也:「ほう? ならお前の身体を灰一つ残らないよう燃やし尽くしてやろうか?」
氷華の青い瞳と 稜也の橙色の瞳がバチバチと向けられる。
メイア:「ッッッ!! ドレ・・・イ・・・?」今度は蒼樹の後ろに隠れガクガク震えている。
テーブルをドンっと強くたたくと三人ともびくっと反応した。
蒼樹:「おい! 2人とも 時と場所を考えろ!!滅多なことを言うんじゃねぇ!!
・・・急に大声を出してしまってすまなかったな、メイア。 痛いことはしないから軽く身体を診せてくれないか? 俺は医者だ」
蒼樹はメイアと目線を合わせて話しかけると こくりと頷く。
その後 蒼樹は体温、心音、血圧、脈拍、瞳孔反射等を診ていった。加温機で温めながら点滴も行ったため落ち着いてきた様子だった。
蒼樹:「まだ体温が低めだが 脳などに大きい問題は無いな。 このまま休めば体力や体温も回復するはずだ」
稜也:「なぁ氷華、メイアが落ち着くまではウチで休ませてやろうぜ? さっきの蒼樹への怯えよう は普通じゃない・・・。かなり辛いことがあったんだ」
氷華:「そうね、|燐《りん》ちゃんには後で連絡してみる。コッソリとね」
氷華は駅前まで来ると 燐に連絡をとった。
個人携帯は分からなかったため、事務所に直接かけた。
燐:「はい、|睦月《むつき》です」
氷華:「夜遅くにごめんなさい。 |露橋《つゆはし》です」
燐:「氷華さん。 どうされたんですか?」
氷華:「さっき 蒼樹がメイアちゃんをお店に連れてきてね。 かなり体温が下がっていたから今はこっちで保護してるわ」
燐:「そうだったんですね。 ヘイルが拠点にもいないって言ってて 心配してたんです。
薬を飲んだので |凍矢《とうや》の索敵能力で探せなくて」
氷華:「落ち着くまでは |お店《こっち》で預かるわ。かなりの怯えようだったし、ヘイル君と何かあったんじゃないの?」
燐:「それは・・・・・」
氷華:「ともかく あの様子ではヘイル君とは会わせない方がいいかもしれない。
何かあれば連絡するわ。
・・・メイアちゃんに手は出さないわ、同じトランサーとして誓う」
燐:「分かりました。それじゃあ 私の携帯番号教えますね。 LINEもそれで追加できると思うので」
そう言うと 自分の携帯番号を伝え 連絡は終わった。
その後 すぐに〈|露橋 氷華《つゆはし ひょうか》 〉という名前で友達申請が来たため追加をしたのだった。
氷華の技である〈氷転身〉は相手の自我(心)を凍りつかせ 、氷華の声しか聞こえないようにさせる。
つまり洗脳技です(・∀・)
完全獣化編はもう少し続きます。
完全獣化③
メイアが|氷華《ひょうか》達に助けられて丸1日が経過した。
体温も正常に戻り、食事も普通に取れるようになった。
・・・ただ一点を除いて。
メイア:「ひょうかおねえちゃん、 ごはん ぜんぶたべたよ! おさらも もってきた!!」
氷華:「食器 持ってきてくれてありがとうね!」
メイア:「りょうやおにいちゃん、そうきおにいちゃんは? どこにいるの?」
|稜也《りょうや》:「|蒼樹《そうき》は出かけてるんだ。今日は店には寄れないって言ってたし 明日はまた会えるんじゃないかな? 」
メイア:「そうなんだ・・・」メイアはしょんぼりした顔をしてソファにポスンっと座った。
その様子はスマホのカメラを通して蒼樹も見ていた。
氷華(インカム):「メイアちゃんは今のところ落ち着いてるわ、|事務所《燐ちゃんの所》に行くんでしょ?」
蒼樹:「ああ、ヘイルには色々と聞かなきゃならないことがあるからな。 今日1日注意深く見てやってくれ、何かあればLINEに。
・・・氷華、分かってるとは思うが」
氷華:「|氷転身《ターン・アイス》 でしょ。分かってる、絶対に手は出さない」
蒼樹:「氷華の|能力《ちから》は俺達3人の中でも1番強い。何より俺達にできない洗脳技もあるのだからな、近寄ってくるメイアを見て自分のものにしたいとか 考えないことだ」
氷華:「もうっ!! 分かってるってば!! |燐《りん》ちゃんとも約束したし!!」
蒼樹:「フッ、そうか。 事務所に着くから1度切るぞ」
氷華:「それじゃぁ」
通話を終えるとビル内に入り、インターホンを鳴らす。
---
燐:「蒼樹さん、わざわざすみません。来ていただいて・・・」
蒼樹:「こちらも休診日だったからな。 しっかりメイアを診ることが出来た。
現在のところ メイアには〈|退行《たいこう》〉子供がえり のような現象が見られている。 精神に強い危機が迫った際に心のバランスを取ろうとするもので これ自体は普通に起こる防衛機制だ。
氷華に対して〈ひょうかおねえちゃん〉と言ったりしてる。 なんだか小学生くらいの子といるような感じだ」
ヘイル:「メイアが誘拐されたのは5歳の時だ。そこまで精神が戻ってしまってるってことか・・・? 」
蒼樹:「燐、メイアに何が起きたんだ。
話してくれないか?」
燐はヘイルの口から明かされた真実を蒼樹に話しはじめた。
蒼樹:「なるほど、自分が信頼を寄せていた相手に心理面で裏切られてしまった。しかもヘイルはメイアが探してる記憶を意図的に隠していた か・・・
ヘイル、どうして今になって記憶を明かそうと思ったんだ?」
ヘイル:「前に|不可視《インビジブル》と戦った際 俺は不完全獣化したメイアの記憶を消し、書き換えようとした。 だが・・・。
(回想の燐:「記憶を消せば・新しい記憶を植えつければ メイアは幸せになれるとでも思ってるの!!?」)
燐の言葉を受け いつか話さないとって思っていたんだ・・・。まぁ あの後は自分のした事を棚に上げて燐を怒鳴ってしまったが。
こっちから切り出す前に聞かれてしまうとは思わなかった」
蒼樹:「ちょ、ちょっと待て・・・。まさかと思うが一旦聞く。
〈催眠や洗脳状態にしようとする際、段階を踏んで少しずつやっているのか?〉
〈記憶の改変に関してメイアは了承しているのか?〉
そして〈メイアにとって都合の悪いことが起こるたびに記憶を消してる〉なんて言わないよな・・・?」
ヘイル:「〈|眠りにいざなう眼《ヒュプノ・アイ》 とかで一気に深トランス状態にしてる。
少しずつではなく強い力で一気に沈める感じだな〉〈前後の記憶も消してるから そもそも催眠にかかっていることすら知らないよ。まぁつい最近は効きが悪くなってるが〉〈? そうだが? メイアにとって覚えてない方が幸せだと俺が判断したら記憶消去と書き換えをしてるが〉」
それを聞いた蒼樹はフラッと気絶しそうになりハァー と大きなため息をついている。
蒼樹:「そうかそうか、お前のことがよーーーーーーーーく分かった。
長年 精神科医として色んな人を診てきたが、お前ほど《《最低最悪な奴》》は見たことがない。
屋上に上がれ、今すぐだ!!!」
蒼樹の声は一転してとても冷たい声をしていた。
この後は蒼樹によるお説教タイムとなります。
発達心理学とかも見てみましたが5歳でお姉ちゃん呼びができるのか 怪しいところです・・・
完全獣化④
|蒼樹《そうき》:「|燐《りん》、少し服を置かせてもらうぞ」
そう言うと 白衣を脱いで椅子にかけ ネクタイを緩める。その後 蒼樹の黄色い瞳が輝き始めた。
瞳が輝くということは トランサーとしての力を使っているということだった。
蒼樹:「ヘイル、 必ず来い。 待っているからな。 |迅雷《ライトニング》!」
|迅雷《ライトニング》と口にすると 一瞬にして姿を消した。
ヘイル:「なっ! 消えただと!!」
|凍矢《とうや》:「消えたわけではないよ。 自身の身体に微弱な電気を流して更に身体能力を高めているんだ」
燐:「蒼樹さんは電気系能力を持つトランサー か・・・」
ヘイル:「・・・ふぅー。 よし 行くか」
3人が屋上に着くと 蒼樹が待ち構えていた。スラックスのポケットに手を入れ髪は風でなびいていた。
蒼樹:「ちゃんと来たな。 燐と凍矢は端に避けていてくれ。 |雷の檻《ケージ・ドナー》!!」
そう言い右手のひらを前に向けると 燐と凍矢の周りに電流が走り、檻が造られる。
燐:「キャア!!」
凍矢:「蒼樹!! どういうつもりだ!!!」
蒼樹:「これは俺とヘイルの戦いだ。 触っても大丈夫だが無理に破ろうとすれば強い電流が走るから気をつけろよ」
燐:「ツンツン 本当だ、普通に触れる」
凍矢:「試しに引っ張ってみるか? ギュー (バリバリッ!!) ま、マジか・・・
ギャァァァァァ!!!」
凍矢に強い電流が流れ口から煙が出たあと倒れてしまった。
燐:「と、凍矢ーーーー!!!」
蒼樹:「凍矢だってトランサーだ。数分もすれば起き上がるだろ、俺の忠告を聞かなかった罰として放っておけ。燐も痛い目に遭いたくなければ そこで大人しくしててくれ。
さて ヘイル。
歯を食いしばれ」
そう言うと一瞬でヘイルの前に移動し 強く殴り飛ばした。フェンスにガンッと打ち付けられ倒れ込んだ後、ヘイルもまた強い電流に襲われた。蒼樹の周りにパリパリっと放電が見られている。
ヘイル:「痛ってて、いきなり何すんだy・・・
な、なんだ? 身体がビリビリする・・・?
ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁ!!! うぐっ・・・」
蒼樹:「トランサーである俺達と違い、お前らは不死身かどうか分からないから死なないくらいの強さにはしたが、相当痛いはずだ。
なぜ俺がこんなことをするかわかるか」
蒼樹は馬乗りになってヘイルの胸ぐらを掴むとグイッと引き上げる。
蒼樹:「メイアはお前のおもちゃじゃないんだぞ!!! 都合が悪いと判断したから消した? 強い力で一気に沈ませた? メイアがあんなことになったのは全てお前のせいなんだ!!!
記憶を消す 書き換えるってのはな、心身ともに強い負担がかかるんだよ。 同意の元、徐々に薄くして消していくというのならまだ許せる。 だが、 お前はメイアの同意なしで記憶を弄った。
それだけじゃない、記憶をいじるにあたり 何度も強い催眠状態にしている。 俺も精神科医として記憶障害の患者に催眠療法を行うことがあるが ちゃんとしたステップを踏まなければ人の|精神《こころ》なんて簡単になくなってしまうんだよ。
最初に言っていたな? メイアの相棒だと。
相棒だと言うのなら 何故こんなにも非道な真似ができるんだ!!!《《人間》》をなんだと思っている!!!」
また頬を殴った。
ヘイル:「ッッッ!!!」
蒼樹:「|稜也《りょうや》からの試練中だが 俺も試練を科す。ヘイル、《《お前ひとりの力でメイアを救う》》んだ。力で無理やり抑え込むのではなく 《《心》》をちゃんと救ってやるんだ。 いいな?」
ヘイル:「ああ、この生命にかえても な」
蒼樹:「簡単に 生命にかえても なんて言うな。 医者の前で軽々しく命をなげうつ真似は許さん」
ヘイル:「分かった。 無事に生きて帰る」
蒼樹:「それでいい。 燐、凍矢 急にすまなかったな」蒼樹がパチンっと指を鳴らすと檻は消滅した。
凍矢:「ま、まさか 本当に電流が流れるとはな・・・。 不死身で助かった」
燐:「へ、ヘイル!!? 身体大丈夫なの!!? 相当強い電流が流れてたけど!!」
ヘイル:「生身の人間なら確実に感電死してたな・・・ |分身体《ミラージュ》で助かったと言うべきか。 メイアなら確実に死んでいたぞ」
蒼樹:「その時は俺が電気ショックで起こしてやるよ、俺は医者だからな?」
凍矢:「人間AEDかよ・・・ やはりトランサーは無茶苦茶だなwww」
プルルル・・・
燐:「|晴翔《はると》から だ。 はい |睦月《むつき》です。どうしたの? うん えっ!!? わ、分かった!!」
凍矢:「晴翔からか? 何かあったのか?」
燐:「え、駅前で メイアが暴れているって。
しかも両腕とも狼の腕になってるって・・・」
ヘイル:「何っ! 完全獣化してしまってるってことか・・・ メイアっ!!今助けに行くからな! |翼《ウィング》!!」
ヘイルは|翼《ウィング》を唱えると駅前に向かって翔んでいく。
蒼樹:「俺達も行くとしよう、恐らく|氷華《ひょうか》達も追いかけてるはずだ。 |俺の力《ライトニング》を少し貸そう」
蒼樹は微弱な電気を燐と凍矢に流し 3人は駅前に向かって走っていく。
次回はメイア戦です。
コントロールができない完全獣化はメイアの闇堕ち版です(・∀・)
ちなみに蒼樹のイメージデザインは「爆竜戦隊アバレンジャー」の仲代先生です! 推しです!
まぁ、仲代先生ほどキザッたらしくないですが(確か外科医のはず)。
完全獣化⑤
--- |逢間中央《おうまちゅうおう》駅 ---
逢間中央駅には私鉄以外にも新幹線等複数の路線が乗入れており、一日の利用客数も駅舎の大きさも市内で1番の駅である。
近くには大型ショッピングセンター シエルもあり、逢間空港へのアクセスもとても良い。
普段から賑わってる駅周辺だが 今日だけは異常事態だった。
警察:「止まれ!! そこの不審者!!
今すぐ手の武器を捨てるんだ!!」
パトカーが円になるように取り囲み 拳銃を標的に向けている。
メイア:「ヘイルハ ヘイルハ ドコダ・・・!! ヘイルーーーーーー!!!」
両目は|琥珀色《アンバー》に爛々と輝き、耳を塞ぎたくなるような雄たけびを上げ、警官隊を睨みつけている。 白銀の皮膚はメイアの身体をほぼ全て覆い 首から下は白銀の毛も生えている。 残すは顔の左半分だけだった。
|晴翔《はると》:「メイア!! 一体どうしたと言うんだ!! 落ち着いて元の姿に戻ってくれ!!」
夜間勤務をしていた晴翔も現場に駆り出されている。メイアに呼びかけるが 次の瞬間、警官達が射撃を行う。
メイア:「マリョク コウカ!」
魔力硬化した右腕で銃弾全てを受け止め 地面にカランカランと落としていく。
警官:「じ、銃が効かない・・・」
ヘイル |燐《りん》 |凍矢《とうや》 |蒼樹《そうき》:「メイア!!」
|氷華《ひょうか》 |稜也《りょうや》:「メイアちゃん!!」
メイアの前に燐 凍矢 稜也 氷華 蒼樹 そしてヘイルが現れる。
蒼樹:「氷華、稜也 一体メイアに何があったんだ!」
稜也:「そ、それが・・・」バーで何があったのか稜也が話し始める。
--- BAR |fortitude《フォーティチュード》 ---
メイア:「りょうやおにいちゃん! それなに?」
稜也:「これか? 俺の夜食だ・・・って もう1時半だぞ!! 早く寝ないと明日に響くぜ!?」
稜也は厨房整理を完了し 夜食をつまんでいた。
メイア:「わたしも たべたい!!」
稜也:「食べたいって ただの《《サラダチキン》》だぞ?」
メイア:「さらだちきん・・・?
さら・・・だ・・・ちき・・・?」
稜也:「! メイア?」
メイア:「サラダ・・チキン・・・。 私は 食べた ことが・・・。・・・ヘイル?」
(回想のヘイル:「メイア、ホラよ。|非常食《サラダチキン》!あれだけ戦ったんだ、相当腹が減ってるはずだぜ」
「メイアの失われた記憶・・・ 俺は全て知っている」
「メイアの家族 両親や妹を殺した、軍の連中に殺させたのは・・・俺だ」)
メイア:「ヘイル・・・ ヘイル・・・!
お父さんとお母さん、リアの仇・・・!!!」
稜也:「何だ!? 子供がえりしていたはずじゃぁ・・・」
メイア:「あ、あ、あ、 アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
メイアは慟哭すると 頭を抑えるようにしてうずくまっている。
ドクン ドクン ドクン ドクンドクンドクンドクン・・・
メイア:「ヘイル 、ヘイル 、ヘイル!!
ゼッタイニ ユルサナイ!!!!カゾクノ カタキ!!! グルルルッ!! ガァァァァァァ!!!」
白銀の皮膚が全身を侵食していき 瞳孔はさらに細く鋭くなる。しかし 光は灯っておらず パキパキとした音がした方を見ると 〈左手からも紅い結晶のような爪〉が伸びていた。
バンッと扉を開くと走り去ってしまった。
氷華:「稜也!! さっきの叫び声は!?」
Tシャツにスキニーパンツというラフな格好の氷華が居住スペースから出てきた。
稜也:「め、メイアちゃんが・・・ ほ、本当の獣みたいに・・・。 ヘイルが どうこう言ってたが・・・」
氷華:「とにかく 追いかけましょう! |氷結《アイシクル》!」
稜也:「ああ、 この時間だとまだ人も多い! 少しでも人的被害を減らさねぇとな! |豪炎《ブレイズ》!」
2人ともトランサーの力を目覚めさせるとメイアが走り去った方向に向かった。
蒼樹:「そういうことがあったのか」
メイア:「ヘイル・・・!! オトウサン オカアサン リア ヲ コロサセタノハ ホントウナノ!!?」
ヘイル:「ああ。 実行したのは軍の連中だが 案を出したのは 紛れもなく俺だ」
メイア:「!!! ・・・グルルルッ、グアァァァァァァ!!」
パキッ パキッ パキィィィン!!
メイアの右腕に着いていたバングルは音を立てて壊れてしまう。次の瞬間、メイアの髪は腰まで一気に延び 髪色はシルバーに変わっていった。漏れだした魔力で狼のような尻尾と耳が出来、四足歩行の形になる。その姿は〈|銀狼《シルバー ウルフ》〉という言葉がピッタリな見た目であった。 そして残っていた顔の左半分も白銀の肌になってしまい〈完全獣化〉してしまったのである。
燐:「何としてもメイアを助けないt ッッッ!!」
燐の右側から強い蹴りが入れられる。
ミラ:「燐様といえど ご主人様の邪魔はさせない。私の命令は誰一人としてご主人様に近づけないこと!」ミラも同じように獣化し 両腕が狼の腕になっている。そして瞳に浮かぶ緑色の渦模様は怪しく輝いている。
凍矢:「ミラ・・・!! そうか、ミラはメイアの魔力から造られた人形。主人であるメイアの意のままだっけか!」
蒼樹:「どうやらミラだけでは無いな。 囲まれたぞ」
燐達5人を囲むように狼の群れが現れる。ミラと同じようにメイアの魔力で造られているが 全身は黒く目だけが紅く光っていた。
蒼樹:「俺達3人は 魔狼共を相手にする。 燐と凍矢は ミラを頼むぞ! |迅雷《ライトニング》!」
氷華:「なら私が結界を張るわ! その中なら人の目からも隠せる!! 思う存分戦えるわ!
|吹雪の護符《アミュレット オブ ブリザード》!」
燐:「凍矢! メイアと同じ姿のミラだけど本気で行くよ! |鎖《チェイン》!」
凍矢:「ミラ! 悪く思うなよ!! |消《イレイズ》!」
ミラ vs 燐 凍矢、魔狼の群れ vs 氷華 稜也 蒼樹、そしてメイア vs ヘイル
3つの戦いが始まろうとしていた。
というわけで以前Xに投稿した「メイアの暴走形態」改め「完全獣化態」です(・∀・)
完全獣化⑥
--- ミラ VS |燐《りん》 |凍矢《とうや》 ---
燐:「|鎖の追撃《チェイン パシュート》!!」
燐が四方から鎖を飛ばすもミラの爪で簡単に砕かれてしまう。 そしてミラは一瞬にして後方に移動するも凍矢のツインダガーが爪と激しくぶつかる。
燐:「複雑な思考をしない分 やりやすいけど、その分 力に全振りしているから 鎖が壊されちゃう!! どうすれば・・・」
凍矢:「燐、俺に考えがある。 俺に身体を貸してくれ!」
燐:「!! 分かった! 無茶はしないでよ!!?」
そう言うと 凍矢は内面に戻り 人格交代した。
凍矢:「ククク、久しぶりに燐の身体で戦える! さてと どう料理してやろうかな!!」
ペロッと舌なめずりしながら左手の指輪を回転させる。すると 青白い光で作られた〈鎖〉が生成された。
燐:「(これって私の|鎖《チェイン》!? どうして凍矢が!?)」
凍矢:「指輪を外してトランサー|消《イレイズ》として完全覚醒してから 俺も鎖が造れるようになったんだよ。 そのトリガーが この指輪って訳だ。回転させることでトランサーの力を調整できるようになってんだ。名付けて・・・ |光の鎖《チェイン オブ スパークル》! 行くぜ!燐!!」
燐:「(これならミラの爪でも壊せないしね! もう1回 |鎖の追撃《チェイン パシュート》!!)」
再度 四方から鎖を飛ばし ミラの身体を拘束する。 爪で壊しても|消《イレイズ》で出来ているため すぐに再生された。
ミラ:「!! 私の爪で壊せない・・・!」
凍矢:「ゲームオーバーだ。 ミラ!! またメイアに造ってもらうんだな!! |消《イレイズ》!!!」
胸元に手を押し当て |消《イレイズ》を放つ。
ミラ:「ご、ご主人様・・・」
ミラの身体は光となって消えてしまった。
凍矢:「・・・分身体とはいえ、気分がいい物じゃねぇな。燐」
燐:「ヘイルや|蒼樹《そうき》さん達は大丈夫かな・・・」
--- 魔狼の群れ VS |氷華《ひょうか》 |稜也《りょうや》 蒼樹 ---
氷華は三又の鞭 稜也はトライデント 蒼樹は弓を生成し魔狼達と戦っている。
氷華:「中々すばしっこいわね! 」
稜也:「くっ! 軽々避けられちまうな、|豪炎の火球《ブレイズ シュート》!」
蒼樹:「迅雷の矢!!」
飛んでくる矢や火の玉を身軽な動きで躱していく。
氷華:「そうだわ。 すばしっこい奴にはすばしっこい奴をぶつければいい。 蒼樹!狼くんを《《2匹ほど》》痺れさせてくれない!?」
蒼樹:「《《アレ》》をやる気か。 趣味が悪いぞ!!」
稜也:「手段は選んでられないってことだろ!?」
蒼樹:「チッ!! 光速の矢、|雷の檻《ケージ・ドナー》!」
魔狼2体に矢が刺さり 身体が痺れている所を檻で捕獲する。
氷華:「さて、 その〈心〉 私がいただくわね。 |氷転身《ターン・アイス》!」
青い瞳が怪しく輝くと 魔狼達の瞳に氷の結晶のような模様が浮かび その場で伏せの姿勢を取る。
氷華:「クスス、いい子ね。 さぁ、悪い子達に噛み付いておやり!!」
蒼樹がパチンッと指を鳴らし檻を消すと2匹はクルッと魔狼の方を向き 飛び掛かっては噛み殺していく。
その様子を見ている稜也 蒼樹はこそこそと話している。
稜也:「やはり 氷華の洗脳技はいつ見ても恐ろしすぎるぜ。 自分が傷付くことを恐れることなく戦うんだからな」
蒼樹:「そして対象を殲滅すると・・・」
その場にいた魔狼達を全滅させると 残りの2匹も互いに攻撃しあい 倒れてしまった。
蒼樹:「自分で自分を殺す。 今回の場合は2匹いるから互いに殺しあったか。氷華!! この仕様、どうにかならないのか」
氷華:「無理よ、1度 |氷転身《ターン・アイス》を受けてしまったら解除はできないもの」
稜也:「頼むから 頼むから!!
絶対に燐ちゃんや凍矢、メイアちゃんやヘイルには使うんじゃないぞ!!もちろん 他のトランサー達や 一般人にもだ!!!」
蒼樹:「俺も反対だな、悪趣味が過ぎる」
氷華:「せっかく面白そうだと思ったのに・・・」
稜也 蒼樹:「ギロリ(強く睨んでる)」
氷華:「分かったから そうやって睨まないでよ」
蒼樹:「燐の方も片付いたか、あとはヘイルだな・・・」
メイア VS ヘイル まで書こうとしたら4000文字を超える未来が見えたので、今話はここまでです(・∀・)
完全獣化⑦
|燐《りん》や|蒼樹《そうき》達がそれぞれの場所で戦っている中、メイアはヘイルを睨みつけ ヘイルはじっとメイアを見ていた。フゥー フゥーと荒い息を吐き重心を低くした態勢のまま様子を窺っていた。
ヘイル:「俺が憎いよな、メイア。 直接手を下してないとはいえ俺が下したようなものだしな。 ・・・俺は一切抵抗しない。殺したいのであれば 殺してもいい」
そう言い両手を横に広げる。その姿を見てメイアはギリっと唇を噛むと 鋭い爪でヘイルに襲い掛かった。顔・腕・胴体・脚・・・切り傷が何十個とでき、魔力が煙となって漏れ出している。
その間、ヘイルは《《一切の抵抗をしなかった》》。
燐:「ヘイル!! 無茶だよ!!」
蒼樹:「ヘイル!! 命を投げ出すなと言っただろ!!」 燐と蒼樹は声をかける。
ヘイル:「これは 俺の過ちなんだ!! 全員手を出すんじゃねぇ!!!|吹雪の護符《アミュレット オブ ブリザード》!!」
|氷華《ひょうか》が張った結界内にさらに結界が張られる。5人が駆け寄りどんどんと叩くがビクともしなかった。
氷華:「う、嘘でしょ!!? 私の技をコピーしたというの!」
ヘイル:「ハァ… ハァ… ぐっ。魔力がだいぶ減ってきたか… 身体も保てなくなってきた」
急激に体内魔力が減ってしまったため眩暈がしてしまい膝をついてしまう。メイアはその隙を見逃すことなくトドメを刺そうと巨大な爪を振り下ろしてきた。
燐 |凍矢《とうや》 蒼樹:「メイア!!」
氷華 |稜也《りょうや》:「メイアちゃん!!」
ヘイルはスッと目を閉じ最期を悟った。
---
ヘイル:「・・・・・・・・? あ、あれ。俺は・・・ッッ!!」
メイアの爪はヘイルの顔に当たる直前で止まっていた。その距離はわずか3センチ。
メイアの爪はプルプルと震え、目からは大粒の涙を流していた。
ヘイル:「メイア… どうして… な、なんだ!? 頭に直接声が・・・!!」
謎の声:「(取り消せ・・・ さっきの言葉を取り消すんだ!! メイアはもう |研究者共《あいつら》の操り人形ではない!! メイアが キメラとして造り変えられたのは俺のせいでもある。だから俺は一生をかけてメイアを護ると誓ったんだ。
メイアを傷つけるというのであれば 例え凍矢であろうと容赦しねぇぞ!!!)」
ヘイル:「これは・・・凍矢と大喧嘩した時に俺が言った|言葉《セリフ》。 憶えてたのか」
メイア:「グッ…!! グゥゥゥ!!」
ポトッ ポトッ
メイアの心の声:「(オトウサン オカアサン リア ミンナニアイタイヨ・・・!!)」
ヘイル:「メイア… そうだよな、5歳の時に両親から引き離されて誘拐されたんだよな。妹に至ってはまだ2歳だったし。 もしかしたら」
そう言うと両腕でメイアの顔を包み おでこ同士を合わせた。そしてスッと目を閉じると「|記憶の海《オセアーノ オブ メモリア》」と呪文を唱える。
意識を失ったのか パタリと二人とも倒れると 結界も消えてしまった。
とっさに蒼樹が駆け寄り脈などを診るが命に別条はないとのことだった。
---
--- |記憶の海《オセアーノ オブ メモリア》 ---
メイア:「こ、ここは・・・?」
ヘイル:「|記憶の海《オセアーノ オブ メモリア》 ここにあるのは俺の中に存在するすべての〈|記憶《データ》〉だ。 メイアが生まれてから今の今まで〈何を見て〉〈何を聴いて〉〈何を感じたか〉 それらがすべて〈本〉という形で見ることが出来る」
メイア:「ヘイル・・・ お父さんとお母さんの記憶ってある?」
ヘイル:「ああ。ココにな」 右手を虚空に向けるとヒュッと本が一冊飛んできた。
ヘイル:「これはメイアが誘拐される直前、5歳の誕生日の夕食時の記憶だ。
両親や妹の姿が映っている《《最後の記憶》》、メイアが探している《《最後のピース》》だ。今までで最も辛い記憶となるだろう 無理に見ろとは言わない、どうする?」
メイア:「・・・・・・見たい。 見せて!!」
メイアの決意を見てヘイルは本を渡し 表紙をめくると眩い光に包まれた。
--- 15年前 ---
父:「メイア、5歳の誕生日おめでとう。無事にここまで生きていてくれて父さんはとても嬉しいよ」
母:「メイア、お誕生日おめでとう。 リアが生まれてからも 妹の面倒を自分から見てくれたり ありがとうね。 はい、5歳のプレゼントよ」
母がそう言うと大きめの黄色い結晶が付けられたペンダントがかけられた。
母:「この石は悪いことからメイアを守ってくれるの。大事につけててね」
幼いメイア:「うん!!」
リア:「ねーね! ねーね!」
幼いメイア:「リアも ありがとう!!」優しく頭をなでている。
父:「母さん、私も母さんに贈り物だ」
父は母に小さめの箱を渡す。中にはメイアの石より少し小さめだが同じ色の石が付いているブレスレットだった。
父:「いつも家を守ってくれてありがとうな」
--- |記憶の海《オセアーノ オブ メモリア》 ---
メイア:「これが お父さん、お母さん、リア・・・」
ヘイル:「名前が思い出せても姿は思い出せていなかっただろう。これが家族の姿だ」
メイア:「でも、私 ペンダントなんてつけてないよ!!! 失くしちゃったの・・・!!?」
ヘイル:「いや、お母さんからメイアに託された石は今もメイアが持っている」
メイア:「いったいどこにあるというの!!!」
ヘイルは手鏡を生成するとメイアに向けた。
ヘイル:「両耳につけている三日月の形をしたピアス、それはメイアが付けていたペンダントの石だ」
メイア:「!!! このピアスが!?」
ヘイル:「メイアの国ではな、5歳の誕生日に大きい結晶が付いたペンダントを両親が贈り 成人となる18歳の時にその結晶を使ってリメイクジュエリーを作るっていう風習があるんだ。そのピアスは俺が作ったんだ。物を作るってのは苦手だったんだがメイアのために頑張って作ったんだぜ。
その結晶は|黄水晶《シトリン》、希望や幸運といった意味を持っている。そして三日月は女性らしさの象徴であり病気や災いから守ってくれるという言い伝えもある。
この先の人生で少しでもメイアを護ってあげられるように… そう願いを込めたんだ。
勝手に宝石を拝借してしまったことは悪かった、そして勝手に記憶を消してしまったり隠したりしてしまって申し訳なかった。謝って済むことでないと分かっている!! だが、今まで騙していて本当に済まなかった!!!」ヘイルは深く頭を下げた。
メイア:「ヘイル・・・」 メイアはヘイルに近寄るとぎゅっと抱きしめた。
ヘイル:「メイア な、なんで・・・」
メイア:「ヘイルはずっと記憶を大事に持っててくれた、いつでも私に見せられるように。私に対して何の想いもなかったら 5年前のあの日 記憶を完全に抹消したはずだもん。キメラとして完成し、記憶や感情を全て失ってしまった私のそばに何日も何か月も ずっと居てくれた。
それだけで、とても嬉しかったし 温かかったよ」メイアからまた涙がこぼれた。
メイア:「記憶を弄ってたことはそりゃあムカついたけど それ以上に一緒にいてくれてありがとう。これからも力を貸してくれる・・・?」
ヘイル:「メイア・・・!!!」ヘイルも涙を多く流し ギュッとメイアを抱きしめ返した。
ヘイル:「こんな俺だけど・・・ そばにいていいのか」
メイア:「離れたい なんて言ったら、殴り飛ばすよ。私たちは|心身一如《しんしんいちにょ》、いつだって繋がってるんだよ 文字通りね!!!」
そう言うと2人の身体は光となって消えた。
記憶の海・・・ はい。仮面ライダーWより「地球(ほし)の本棚」を丸パクリしました。
一番表現方法として分かりやすかったので・・・
完全獣化⑧
メイア:「ううっ… 」メイアの目が少しずつ開いていく。
|燐《りん》:「あ、気がついた?」
メイアの顔を覗き込むように 燐、|凍矢《とうや》、|稜也《りょうや》、|氷華《ひょうか》、|蒼樹《そうき》、|晴翔《はると》 そして先に気がついていたヘイルが囲んでいた。
メイア:「みんな 身体の方は大丈夫?」
凍矢:「まぁ、俺達トランサーは問題ない。不死身だからな。
ヘイルの方は かなり傷を負っていたが」
メイア:「ヘイルが!! うぐっ…!」
燐:「まだ動いちゃダメだよ。 身体にかなりの負担がかかってるし それに… その…」
メイア:「?」
燐:「腕は元に戻ったんだけど 髪の色が戻らないんだ」
メイア:「髪? ホントだ、綺麗な白銀の髪」
ザクッ!!! メイアはあまりに伸びた長い髪を自分の爪で切り落とした。
燐:「め、メイア!!?」
メイア:「ふうっ! これで動きやすくなったや。 えへへ…」
晴翔:「メイア 今度いい美容師を紹介してあげるから そこで綺麗に切ってもらうといいよ。ヘアカラーとか試してみても…」
メイア:「うーん、カラーは大丈夫です。 なんか気に行っちゃって! |琥珀《こはく》色の瞳と銀の髪 とても綺麗!!」
凍矢:「そっか まぁ 気が向いたらカットだけでもいいんじゃないか? 切りそろえてもらった方が より綺麗だぞ」
みんなが話をしてる中 蒼樹がヒソヒソとヘイルに話しかける。
蒼樹:「ヘイル、ひとつ聞いてもいいか? メイア以外の人物の記憶を操作することは出来るのか?」
ヘイル:「まぁ 軽い記憶消去なら やった事があるが」
蒼樹:「氷華の記憶を消してくれないか? ちょっと氷華の技で|惨《むご》すぎるものがあってな。 完全に消して欲しいんだ」
ヘイル:「深トランス状態にして 特定の記憶を消去 、|解呪《ディスペル》でトランス状態を解除する。 そうすれば記憶を弄られたということも残らないはずだ。
だが… 本当にいいのか? お前の方から依頼するなんてな」
蒼樹:「いつ見ても|惨《むご》いこと この上なくてな。 見返りとして メイアやお前が着けているバングルに関して いい宝石職人を紹介しよう。特にメイアのは壊れてしまっているからな、早めの対策がいるだろう?」
ヘイル:「…本当にやっていいんだな?」
蒼樹:「くどいぞ。 やってくれ」
ヘイル:「・・・ハァ、分かったよ。
氷華!! ちょっとこっちに来てくれ!!」
氷華:「? 何かしら?」
ヘイルは目を閉じたあとスっと目を開く。その瞳は緑色に発光していた。
ヘイル:「【目を逸らさず この瞳を見続けろ。 瞬き1つするな】」
氷華はヘイルの瞳を見ると あっ という小さい声を漏らし ヘイルの瞳を見続けている。青い瞳を緑色のラインが徐々に縁どっていくと 虚ろな目で棒立ちになり前後左右に静かに揺れている。
ヘイル:「(小声で)氷華は俺の命令無く自発的に動くことはなくなった。じゃあ 行ってくる」
蒼樹:「(小声で) |氷転身《ターン・アイス》に関する記憶を《《全て》》消してきてくれ。《《跡形もなく》》な」
ヘイル:「了解。 |記憶の海《オセアーノ オブ メモリア》」
ヘイルは氷華のおでこに自分のおでこを合わせ 〈|記憶の海《オセアーノ オブ メモリア》〉の呪文を唱える。 意識を失った氷華とヘイルの身体を蒼樹が受け止める。
--- |記憶の海《オセアーノ オブ メモリア》 ---
ヘイル:「よし、 着いた。 |氷転身《ターン・アイス》だっけか」
右手を虚空にかざすと黒い表紙の本が飛んでくる。
パラパラと中を見ると |氷転身《ターン・アイス》の効果 やり方 等が事細かに書いてあった。
ヘイル:「うぉ 確かにこれはエグイな。これを完全に消せばいいんだよな。 跡形もなく」
念じると 本がひとりでに燃え始め 灰ひとつ残らず完全に消え去った。
ヘイル:「念の為確認しておくか」
|氷転身《ターン・アイス》に関する本を探すが1冊も飛んでこなかった。完全に抹消されたのである。
ヘイル:「ミッション完了 っと。 |脱出《エスケープ》」
先にヘイルが目を覚ます、すぐさま氷華に対し|解呪《ディスペル》を使用すると 氷華も目を覚ました。
蒼樹:「気がついたか? 氷華、|氷転身《ターン・アイス》という言葉を知っているか?」
氷華:「た、 ターン・アイス? 何かの食べ物かしら?」
蒼樹:「いや、知らないのであれば別にいい」
ヘイル:「(小声で)|氷転身《ターン・アイス》に関する記憶は完全に消した。 もう思い出すことは無い。 |解呪《ディスペル》で深トランス状態も解除してあるから身体に影響もない」
蒼樹:「そうか 恩に着る。 宝石職人の店については改めて連絡する。
前に聞いた際は一気に沈めると聞いていたが こんな感じでやってるんだな、初めて見た」
ヘイル:「前は変な言い方してしまって悪かったな。誤解を生む言い方をしてしまって」
蒼樹:「浅い状態から徐々に深トランス状態に移行。ちゃんと解除もされているから|精神科医《こちら》としても大きい問題はない。 まぁ、あまりやりすぎないように ってところだな」
燐:「晴翔 あとの処理をお願いしてもいい?」
晴翔:「ああ、人的被害や物的被害はなかったからな。後は簡単な書類処理で終わる。あとはこっちに任せてくれ」
晴翔達警察に 後を任せて 解散となった。
蒼樹:「燐、このまま事務所に寄っていいか? |白衣《ドクター コート》を置いてたからな」
燐:「ああ、いいですよ」
---
ヘイル:「・・・・・・あの場のノリと勢いで言ってたんだけどよ。
あのまま貫かれてたとしても《《俺そのもの》》は死ななかったや」
晴翔・稜也・氷華・蒼樹:「・・・・・は?」
燐:「あ、そうだよね。ヘイルの本体はメイアの脳に埋まってるわけだし」
メイア:「分身体の中にコピーしたヘイルをインストールしてる感じだしね」
凍矢:「俺も仮の肉体に俺という人格のコピーをぶち込んだ感じだしな」
ヘイル:「たとえ死んだとしても分身体が消えるだけだから 俺が完全に死ぬにはメイアが道連れになるしかないんだよな」
・・・パリッ パリパリッ
蒼樹:「お前ら知ってたのか・・・。 俺の熱量を返せ」
その後4人が軽い電流でお仕置きされたのは また別のお話。
メイア:「(なんで私まで(´;ω;`))」
完全獣化編 ようやく完結です!!
断章だったにも関わらず、かなりの長編となりました。
この後は また夢(ドリーム)編に戻ります!
メイアを救う話が ヘイルが救われる話 となりました。 とさ(・∀・)
夢(ドリーム)⑤
--- |燐《りん》達が買い物をしている頃 ---
事務所内でヘイルはソファに脚を組んで座り 麦茶を飲みながら空中に表示している何かのデータを見ており、|凍矢《とうや》はキッチンで昼食を作っていた。
凍矢:「ヘイル |素麺《そうめん》 茹で上がったぞ」
ヘイル:「もうそんな時期か。ありがとうな」
応接テーブルで横並びになるようにソファに座るとズズズっと素麺をほおばっている。
長い爪が生えてる左手でも しっかりお椀を掴み右手の箸で器用に食べている。
ヘイル:「凍矢 料理上手なんだな。美味い」
凍矢:「時間通りに茹でて しっかり氷水で締めてるだけさ。 ヘイル達は食事はどうしてるんだよ。 お金とかないんだろ?」
ヘイル:「奴らの研究所にあった金を根こそぎ ぶんどって こっちの貨幣に交換して買い物したり あとは調理魔法で作ったりはしてるさ」
凍矢:「って ヘイル!! ツユにネギ入ってんぞ!!! イヌ科でもあるお前が食べて大丈夫か!? すぐに吐き出させないと中毒に!!」
ヘイル:「落ち着け!! 確かに狼はイヌ科だが メイアに組み込まれた遺伝子の量はごくわずか ほぼ人間だ。 生でも加熱してあっても平気だ」
---
凍矢:「そ、そうなのかよ。焦って損した…
ところで さっきまで何を見ていたんだ? 何かのデータみたいだったが」
ヘイル:「内部に保管してある メイアに関するデータだ。 過去に関しては ほとんど封印を解いている。 ただ研究所に居た時のことはメイアの了承の後 消そうかと思っている。 家族の記憶以上に辛すぎるから」
凍矢:「それでいいんじゃないか? その記憶が辛いのかどうかは 本人にしか知り得ないんだし。もう一つ聞いていいか?」
ヘイル:「なんだ?」
凍矢:「|不可視《インビジブル》の事件の時 メイアのことを〈ウルグ〉と呼んでいただろ?」
(回想のヘイル:「ウルグ、獲物を見つけても殺さずに気絶、晴翔達に引き渡すんだ」)
凍矢:「あれは一体なんの事なんだ?」
ヘイル:「そんなこと よく憶えていたな。
あれは・・・メイアにかけられた《《最後の暗示》》だ。張本人の俺ですら 完全に解くことはできていない」
凍矢:「暗示だと?」
ヘイル:「研究所に誘拐され 心を砕かれたメイアに一番最初にかけられた暗示だ。
俺が 画面を通してメイアを催眠状態にしてな。
〈ウルグと呼びかけられた後に 発せられた言葉や命令には絶対服従しろ〉
それが|研究者共《あいつら》のかけた暗示だ。 だから獣化して人語が話しにくくなった後も意思疎通が出来たんだよ。一方的だがな」
話しながら ヘイルの両目は だんだん伏し目になっていく。
凍矢:「その暗示を解くには・・・」
ヘイル:「メイアがウルグの名前を使いたい なんて言えば解けるんだろうが そんな可能性 万に一つない。 これからも探し続けるさ、メイアを|研究者共《あいつら》 ひいては俺による呪縛から完全解放するためにもな」
凍矢:「別にヘイルのせいじゃないだろ。 ヘイルだって研究者達に操られていたようなものなんだしさ。
まぁ 何かあれば俺達に言ってくれ、力になる。
・・・ところでそんな毛皮で暑くないのか?」
ヘイル:「体表面に冷気の膜を展開してるから そこまでは。 だから冷房が付いてる+素麺を食べたから ちょっと寒い」
凍矢:「・・・寒いのなら その〈膜〉を解いたらいいんじゃ?」
ヘイル:「・・・あ そっか」
---
凍矢:「なぁ トランサー|夢《ドリーム》についてどう見る?」
ヘイル:「あの女 第一印象や戦い方はベルビレジのようだなとは思った。女好きで胸糞悪い奴だったし 俺たちは嫌いだった」
フンっと鼻を鳴らしている。
凍矢:「ベルビレジ?」
ヘイル:「前に俺達が手を組んでいた 地底冥府インフェルシア(※1)の怪人 インキュバスのベルビレジ。 |夢《ドリーム》と同じ能力を持っていて |麗《うらら》と|芳香《ほうか》(※2)に悪夢を見せて同士討ちさせてたんだ、自分の兄弟が敵に倒されてる という悪夢をな。
不特定多数の人間に同時に夢を見せることはできないようだから 何かしらのトリガー・きっかけ さえ分かれば」
凍矢:「攻略の糸口は見える か。 人物の顔さえ分かれば |晴翔《はると》経由で探せるんだがな」
ヘイル:「すまない、分離してる状態では 記憶共有は出来ないんだ。1度メイアの中に戻ることが出来れば|記憶《情報》もアップデートされるんだが」
凍矢:「気にするな、俺も分離直前までしか記憶が残っていない。燐と同化すれば また記憶が上書きされるはずだ」
ヘイル:「ほぉ? 意外な共通点だな」
凍矢:「主人格が女であること 分離した状態では記憶共有はされない なかなか共通点が多いな、俺らって!!」
ヘイルの肩をガシッと掴む。
ヘイル:「近接攻撃メインってこともな」
---
ガチャっ!
2人が話をしている中 扉が開く音がした。
燐:「ただいま!」
凍矢:「おっ! 帰ったか おかえr。
ほう? なかなか見せつけてくれるじゃないか! ごちそうさまです(人˙꒳˙ )」
ヘイル:「堂々とキマシタワー(※3) を建てやがって。いいぞ2人とも。もっとやれ
(・∀・)b」
男性陣が囃し立てる。燐の腕にメイアがぎゅっと抱きついていた。
メイア:「えへへ 今日のお出かけ すっごい楽しかったんだ。 このまま離れるなんてやだなぁ」
燐:「扉 繋いでるし いつでも会えるって!」
微笑ましく見ていたが ヘイルの顔は突然曇りだした。
ヘイル:「メイア 何かあったのか? 瞳の色がおかしいが」
普段の瞳の色は|琥珀色《アンバー》。 今のメイアの瞳は|金色《ゴールド》。僅かな違いだが パートナーであるヘイルは その違いが直ぐにわかった。
メイア:「なんにもないよ! 私たちの至福の時間を邪魔しないでよ!」
メイアは燐の身体をぎゅっと抱きしめており 燐は僅かに痛みを感じた。
ヘイル:「燐が痛がってるだろ! ほら 帰るぞ!」
(???:「半分獣の女なんて 邪魔なだけだ。 俺たち2人で この女と楽しんでやるか」
???「いや! メイア!! 助けて!!」)
ヘイルが燐を引き離そうとした瞬間だった。顔の前に〈左手の爪〉が突きつけられる。
メイア:「燐は 燐は渡さないんだから!!!」
左肘から先のみを獣化させヘイルに向け、右手の爪は燐の顔に向けていた。キッとした目でヘイルを睨みつけているが完全獣化時のように瞳から光は消えていなかった。
ヘイル:「俺に爪を向けるとは どういうつもりだ? さては 誰かに操られているな?」
ヘイルの瞳孔も細くなり 瞳は輝いている。
燐:「ひっ… め、メイア? ど どうしたの?」
凍矢:「ピクッ メイア!! 燐を離せ!!」
燐の恐怖心を感じ取った凍矢が鎖を放つが爪で簡単に壊された。
メイア:「それ以上近づかないで!! 燐は私のなんだから!!」
ヘイル:「・・・分かった。 俺達は拠点に戻る。 俺たちが何もしなければ 燐に何もしないんだろ?」
凍矢:「ヘイル!? 一体何を言ってんだ!!」
ヘイル:「(小声で)ここは引いた方がいい。 メイアの感じ |夢《ドリーム》と いた男にそっくりなんだ、恐らくメイアは|夢《ドリーム》の支配下にある。1度引いて対策を立てるしかない」
凍矢:「(小声で)なっ・・・! 致し方ないか。
メイア、頼むから燐を怖がらせることはやめてくれ」
メイア:「そっちが何もしないなら ね」
ヘイル:「また様子を見に来る。 燐 辛いことに巻き込んでしまってすまないな」
燐:「私は大丈夫。 特に嫌なことはされてないから。 凍矢 また後で〈部屋〉に来て」
メイア:「むぅ! 燐は私さえいればいいのっ!!」
凍矢とヘイルは 赤の鍵を使い拠点に帰っていった。
【注釈コーナー マジレンジャー用語等。Wikipedia先生 pixiv百科事典先生の提供でお送りします】
※1 インフェルシアとは地底深くに存在する世界であり、弱肉強食の完全実力主義社会である。帝王の復活・地上界の支配のため冥獣や冥獣人といった 言わば〈地獄の化け物〉を送り込んでいる。
※2 魔法戦隊マジレンジャーに登場する「小津(おづ)兄妹」で芳香は第2子の長女でマジピンクに変身、麗は第3子の次女でマジブルーに変身する。
芳香は自身を別のものに変える「変身魔法」・麗は水晶玉を通した「占いの魔法」を得意としている。
ベルビレジは 登場した23、24話では 悪夢を見せ恐怖に染まった人々の魂を集めており それらから造り出した爆弾型花火を使い更なる惨劇を起こそうとしていた。
※3 百合を見た際に素晴らしさと 興奮のあまり発する言葉のこと。
夢(ドリーム)⑥
--- メイア ヘイルの拠点 ---
震える|凍矢《とうや》の身体を支えつつ拠点に戻るとソファに横たわらせた。
ヘイル:「大丈夫か? 身体が震えているようだが」
凍矢:「|燐《りん》の中に感情が溜まりつつあるんだ、早く吸収しないと」
ヘイル:「感情を吸収だと… 一体お前の正体はなんなんだよ、ただの人格では 感情吸収なんてできないだろ」
凍矢:「俺は 燐の〈悲しみと恐怖の感情〉から生まれた存在だ、分離した状態であっても燐が感じれば 伝わってくるんだよ。 恐怖の感情がどんどん増えて来てるから急いで吸収しないと燐の心が… また壊れてしまう…」
ギリッと唇を噛み 左腕を強くにぎりしめる。そんな中 ヘイルは唇に指を当て打開策を考えていた。
ヘイル:「どうにかしてメイアを引き離さなければ。 あの感じ… 洗脳というより魅了に近いか? そうなれば無理に剥がすのは燐の身に危険が及ぶな、さて どうしたものか…」
凍矢:「み、みりょう・・・?」
ヘイル:「一言に 人を操る。と言っても種類があってな、俺がよく使う 身も心も操る洗脳/マインドコントロール、意識を薄くして暗示をかけることで操る催眠、そして敵のためなら仲間にすら牙をむく メイアのような状態が魅了・・・ まぁ ざっくり言うとこんな感じだ。
魅了は特に厄介でな、洗脳や催眠と違って意思が残っているから【相手のことが好きすぎて 何でも従いたくなる/相手のためなら たとえ大事な仲間であっても傷つけようとする】 ようになるんだ。|下手《へた》に突入して助けようとすれば 燐の身に危険が…」
凍矢:「な、なるほど。さすがメイアを操るために作られた人工知能…」
ヘイル:「魅了は本来**術者に対して**強い好意を向けさせるものだが 恐らく〈俺達2人が燐を襲っている〉夢を見せられているんだ、それも 多分 **性的な**方向の。 だから厳密には魅了とも違うのかもしれないが…」
ボシュっ!! 凍矢の顔が真っ赤になり 口を腕で覆い隠している。
凍矢:「ヘイル!! お、お前! よ、良くそんなサラッと言えるな!! 想像しちまったじゃないか!」
ヘイル:「フッ 純真なんだな。 まぁ 解き方がないわけではない、 魅了以上の衝撃を与えてやればいい。後は 犯人の正体をどうやって共有するか だな。犯人を見てるのはメイアだけだろうし」
凍矢:「俺は この身体と 燐の精神世界とを行き来できるが ヘイルは難しいのか?」
ヘイル:「ああ、1度 この魔法を解いてしまうと またメイアに|虚像の魔法《プリテンス》で分身体を作ってもらわないといけないんだ。俺も分身体が作れないか試したが無理だった、まぁ奴隷が奴隷を持つようなものだしな」
凍矢:「他に言い方があるだろ… 解除方法って何なんだ?」
ヘイル:「燐が メイアにキスをするんだよ。
それも可能ならディープキスを」
ドサッ! 凍矢は驚きのあまりソファから転げ落ちてしまった。
凍矢:「は、ハァァァァァァ!!? き、キスだとーーーーーーー!!」
ヘイル:「そこまで驚く必要ねぇだろ・・・
メイアもメイアで 耐性がないから 意中の相手からのキスで 魅了状態は解けるはずだ」
凍矢:「そ、そんな事 燐に言わないといけないのか…」
ヘイル:「言っとくが 凍矢が燐の身体を操ってキスさせるのはカウントに入らないからな?」
凍矢:「んな事、俺に出来るわけないだろ!!
こんなことをしてる間にも燐の中に感情が…
どうしたらいいんだァァァァァ!!!」
凍矢は隅で頭を抱えて縮こまっている。
---
ヘイルはソファの腕置きに 脚を組み腕を組んで座り チラッと凍矢に目を向ける。凍矢はベッドに腰掛けて俯いていた。
ヘイル:「落ち着いたか?」
凍矢:「・・・・・・」
ヘイル:「ここまで動揺するとはな。 燐だって大人の女性、恋人の1人や2人いるものだと思ってたが」
凍矢:「燐は 人と深く関わるのが苦手だからな。仲のいい友達や親しくしてるのも数える程しか…」
ヘイル:「デリカシーのないこと言ってすまなかったな… 」
凍矢:「ピクッ そろそろ燐の心が限界みたいだ、事務所経由で燐の元に戻るよ、この身体を置いとかないとだし」
ヘイル:「俺も一緒に行く、|光学迷彩の魔法《オプティカル・カモフラージュ》を使えば2人の様子を陰から見張れるからな。 燐に危害を加えようとしたらすぐに止めに入る事も出来る、獣化すれば少しは戦力になれるしな」
凍矢:「頼む、俺じゃあメイアを止められない。 代わりとして燐の心を絶対に護る」
ギュッと拳を握る中、ヘイルの瞳は緑色に発光し 半目になりながらも 〈怒り〉の眼をしていた。
ヘイル:「俺のご主人様に手を出し 間接的に燐の身を危険に晒しやがった|夢《ドリーム》の野郎め… 絶対に後悔させてやる。メイアを操っていいのは俺だけだ。 行くぞ!凍矢!」
凍矢:「ああ!! メイアも燐も救い出し |夢《ドリーム》の尻尾を掴んでやろうぜ!!」
決意を固め 事務所に帰還、応接室の明かりは消えていたため2人は別の部屋にいるようだった。 凍矢が燐の元に帰った後、ヘイルは|光学迷彩の魔法《オプティカル・カモフラージュ》を使用し2人がいるであろう部屋の前で様子を伺っていた。いつでも獣化できるように左腕を構えて…。
次話は「夢(ドリーム)⑦」という名の百合回です(・∀・)
中の人の欲望しか存在しません。
ストーリーは一切進めませんので 読み飛ばし大歓迎です。代わりとしてキャラクターファイルを公開予定です。
夢(ドリーム)⑦という名の百合回
|燐《りん》は寝室内でスツールに座らされていた。しかし その手足は縄で縛られており、トランサーの力を使っても引きちぎることは出来ずにいた。
燐:「ぐっ…!! 全く外れない!」
メイア:「その縄は私の魔力を組み込んで作った特別製。 燐はずーーーっと私と一緒だよ♡」
燐:「メイア、一体どうしちゃったの? なんでこんなことを!?」
怒りの感情を露わにすると同時に恐怖の感情も高まりつつあった。
メイア:「だって、あのまま放っておいたら2人にもっと酷いことをされてたんだよ!!!
燐は私が守るんだから。このキメラの力を使ってでもね」
燐の両肩をぎゅっと強く握りしめ 金色の瞳を輝かせながら話す。
燐:「ふ、2人? もしかして|凍矢《とうや》とヘイルのこと? ヘイルはともかく なんで凍矢が私を襲わなきゃいけないわけ!!? そんな事するわけないってメイアだって分かってるでしょ!!?」
メイア:「そ、それは…」
燐:「お願いだから正気に戻ってよ、凍矢に会わせてよぉ! とうやーーーーー!!」
燐の身体もガタガタと震え 気を失ってスツールから転げ落ちてしまった。
メイア:「燐!!? 燐!! 大丈夫!?
ひ、ひとまずベッドに寝かせるかな。私も一緒に寝よう…」
両手足の拘束を軽くし 眠りについた。
---
目を覚ますと見慣れた白い空間の中にいた。
燐:「うっ… ここは? そうか気絶しちゃったのか、あまりの恐怖心で」
???:「りーーーーーん!!!」
燐:「とうやーーーーー!!!」
凍矢の顔を見た瞬間 涙が溢れ、ぎゅっと抱きしめる。凍矢もまた大粒の涙を流していた。
燐:「凍矢ぁ! 会いたかったぁ!! 怖かったよぉ!! 」
凍矢:「ようやく会えた! 遅くなってしまってごめんな!! やっと やっと燐に会えた…!!」
燐:「凍矢、恐怖の感情を取り去って!! 怖いよ!」
凍矢:「ああ、もちろんだ。 量がかなり多いからな、一度全部放出させる。 少し気持ち悪いかもしれないが辛抱してくれ」
そう言うと瞳に意識を集中させ 赤い瞳が怪しく光り出した。 凍矢の瞳を見た燐はトロンとした目になり 身体から青い粒子が吹き出した。 ニィっと不敵な笑みを浮かべ 舌なめずりをすると 粒子を一粒残さず吸収、感情が消え去ると 燐の表情も元に戻った。
凍矢:「ふぅ、ごちそうさまっと。燐の感情はいつ食べても美味いが、ここまで食べたのは燐と会った日以来だな。状況は?」
燐:「気絶しちゃったから分からないんだけど、両手足が縄で拘束されたまま ベッドに入ってる…かな。縄の方はトランサーの力を使っても引きちぎれなくて」
凍矢:「メイアじゃないと|解《ほど》けないのか。一応部屋の外にヘイルも待機してるが |迂闊《うかつ》に手は出せないらしくてな。
それでその… メイアの状態異常を解除する方法なんだけどよ…」
燐:「凍矢?」
凍矢:「ヘイルが言うには、その…
り、燐が め、メイアに き、き、キスをしないといけないんだってさ」
燐:「キスかぁ〜。 まぁ女の子同士だし ノーカンってことでいいよね? プレッシャーキスで足りるかなぁ? うーん、いっそディープキスくらい? 実際にやったことないんだよなぁ」
凍矢:「り、り、り、燐!! どこでそんな|知識《もん》を覚えたんだ!! それにさっきから俺の中に変な知識が流れ込んできてるんだが!!?」
燐:「私だって そういう系の小説とか読むからね。 ・・・顔赤いけど大丈夫?」
凍矢:「逆に大丈夫だって思うのか?(怒) 全く、俺がいない間に変なものばっか覚えやがって。俺の記憶にこれ以上変なのを入れたくないからな!! キス前後 数分の記憶は完全消去する。
いいな?」
燐のおでこに指をドスドスと ぶつける。
燐:「分かった… 消去でも何でもしていいよ。 感情を取り去ってくれてありがとうね、凍矢。 私は向こうに戻るよ」
凍矢:「あ、ああ。気をつけてな」
光の粒子となって燐が消えたあと 凍矢はその場でへたり込み 頭を抱えていた。
凍矢:「(ずっっっと見守ってきたが 燐も《《大人》》になったってことでいいんだよなぁ? ハァ… 胃が痛ェし 頭も痛ェ)」
---
燐:「うっ ここは? 現実に戻ってきたのか。
手足は縛られたままけど 前側で縛られてるからさっきよりは動かせるか。
初めて見たけど 寝顔可愛いな…。 さっきは声を荒らげてしまったけどメイアも|夢《ドリーム》の影響を受けた被害者なんだよね。 まぁたまには|一緒に眠る《こうする》のも悪くないかな」
燐はスっとメイアの頭を撫でる。突然触られたことでビクッと身体を震わせたがまた眠ったようだった。しかしその瞳からは涙が零れていた。
メイア:「お父さん お母さん リア…」
燐:「おそらく今見ているのは|夢《ドリーム》によって見せられているものでは無い純粋な夢。良い家族だったんだろうな、私と違って・・・・・・。|夢《ドリーム》の支配が消えたら また一緒にお出かけしたいな」
そう言うと燐も静かに目を閉じ眠りについた。
数時間後。
燐:「うーん、よく寝た!ふわぁ~」
メイア:「おはよう!! 燐!」
燐:「おはよう、メイア。(やるなら今かな)
メイア、手だけでもほどいてくれないかな。血が止まっちゃいそう」
メイア:「分かった、こんな状態じゃご飯食べられないよね」
縄に指を当てるとパラパラとほぐれるように消えていった。
燐:「メイア、ちょっとごめんね!!」
すかさず燐はメイアに抱きつくと目を閉じてプレッシャーキスを行う。
メイア:「!!!??」
そのまま押し倒し自身の舌をメイアの口から入れ込み ディープキスへ移行していく。
ガクガクと震えたと思えばパタッと気を失ってしまう。
燐:「ふぅ、初めてキスしたけど ちょっと無理やり過ぎたかな」
???:「キスで解除されるとは言ったが 朝っぱらからやる奴があるか!!(怒) しかもノリノリでやりやがって、燐じゃなければぶっ飛ばしてた所だぞ! 一緒にいたのは俺のご主人様なんだが!」
男の声がした方向を見ると 呆れた顔をして入口に寄りかかり 左人差し指をトントンと規則正しいリズムで 二の腕に当てていたヘイルだった。
燐:「あ、ヘイル おはよう!」
ヘイル:「おはよう! じゃねぇよ 全く…。こちとら一晩中見張ってたってのに。 味をしめてキス魔とかになんじゃねぇぞ? 燐のことだから 大丈夫だとは思うが、もはや凍矢の方が心配になるレベルだな。主に精神が」
燐:「メイア 大丈夫そうかな?」
そう聞くとヘイルの目が緑色に発光しメイアの状態を見ていた。
ヘイル:「魅了状態は解けたようだが 思いっきり気絶してるな、俺が手の甲にキスした時も赤くなっていたが… 。それにしても、ずいぶん幸せそうな顔で気絶しやがって。俺だってこんなメイアは見た事ないってのに」
ヘイルは悪態をついているが 掛布団の上に頬杖をつき メイアの頬をプニプニと触っている。
優しい笑みをたたえながら。
ヘイル:「で? 《《どこまで》》やったんだ?」
燐:「プレッシャーキスからのディープキス
(・∀・)b 無理矢理だったけど」
ヘイル:「そりゃ|気絶する《こうなる》わけだ。 メイアもメイアで耐性が全くないからなぁ。むしろ燐がここまでノリノリだったのが驚きだ」
燐:「起きる…よね?」
ヘイル:「さすがの事態に脳がショートしてるからな。 まっ、じきに目を覚ますから ベッドの上に転がしとけばいい」
燐:「い、意外とドライじゃない? ご主人様とか言ってる割には」
ヘイル:「愛称みたいなものだから 気にすんな」
???:「りん~? ヘイル~? そこにいるの?」
ヘイル:「噂をすれば か。にしても覚醒が早いな、流石キメラだ。
? ま、まさか お前・・・」
起き上がったが 頬は紅潮、身体は左右に静かに揺れ |琥珀色《アンバー》に戻ってはいるが半目になって燐を見つめていた。
ゆっくりベッドから降りると両手を伸ばしフラフラと燐に近づいていく。ヘイルのことは見えていないようだった。
メイア:「りん〜〜~♡ またやって〜〜~♡♡ こんな気持ち初めてぇ♡♡ ねぇ〜〜〜♡♡
もっとちょうだい〜〜~〜〜♡♡♡」
ヘイルは左手で顔を覆うとハァ~と深いため息をつき メイアの背後にすかさず回ると両腕を後ろに回し しっかりと掴んでいた。
ヘイル:「あーあ、|夢《ドリーム》の次は燐かよ。 しかも|夢の時《まえ》より重症だな。燐、キスする時なにか使ったりしてないよな? 血も流してないよな?」
燐:「(首を全力で縦に振る)なんっっっっにも使ってない!! ただキスしただけだよ!?
怪我だってしてないし!!」
ヘイル:「慣れてない身体に対して 刺激が強すぎたか。 燐、あとは俺に任せな。叩き起してやる。
おい、いい加減に目を覚ましやがれ!!!」
そう言うと 狼の方の手で メイアのおでこにデコピンを放つ。パァンと言う綺麗な音を立てて。
メイア:「痛ったーーーーい!!何するのヘイル!!? なんでキメラの方の手でデコピンするの!!? あ、あれ? 私 一体何を・・・?」
ヘイル:「指、何本見える?」
そのまま指を立てて ちゃんと覚醒したかどうか確認した。
ヘイル:「ん、今度こそ大丈夫だな。手間取らせやがって・・・。 さてと、いつまでもここにいないで とっとと移動するぞ!」
ヘイルは燐とメイアの背中をトンと押して促していった。
---
燐の視覚を通して一部始終を観ていた凍矢は 精神世界で 目を回して倒れていた。
凍矢:「め、メイアまで あんなになるなんて…。 これは悪い夢だ、俺も|夢《ドリーム》に操られているんだ!俺は信じない、俺は信じないぞ!! 夢なら覚めてくれぇ〜〜~~!!!」
燐:「ヘイル どうしようーーー!! 凍矢が壊れちゃったーーー!!(;;)」
ヘイル:「あとで リラックス効果のある特別ブレンドのお茶を淹れてやるから とりあえず落ち着けって! 大丈夫かな…これから」
人工知能であり これまで大きく悩んだことの少ないヘイルが 深い溜め息と共に頭を抱えることとなった。
夢(ドリーム)⑧
前回のあらすじ(読み飛ばした方 向け)
・メイアが魅了状態になり|燐《りん》と一緒に就寝
・燐のディープキスで魅了状態は解けたが 今度は燐に魅了されてしまう(いわゆる目がハート状態)
・燐経由で一部始終を見てた|凍矢《とうや》が壊れる
・デコピンで魅了解除するが 燐と凍矢の壊れ具合にヘイルが頭を抱える
(・∀・) アラスジオーワリ
ヘイル:「すぐお茶を淹れるから 3人は座って待っててくれ。 |燐《りん》、キッチン使うぞ」
燐:「う、うん。好きに使っていいよ」
人数分のお湯を沸かしつつ 慣れた手つきで数種類の茶葉を量ってはポットに移していく。
ヘイル:「特別ブレンドとは言ったが 元々は研究者共が行き詰まった時に飲んでたお茶を解析して俺なりに改良したんだ。
簡単に手に入る材料ばかりだし 香りもそこまで強くないから|凍矢《とうや》でも飲みやすいと思うぞ。
研究のお供はやっぱこれだなー! とか奴らは呟いていたが メイアにも飲ませてあげていいじゃないかって内心ずっと思っていた。結局1回もなかったってのが今でもイラつく。 ハッ メイア、トラウマを|抉《えぐ》ってしまったな。すまない」
メイア:「ううん、大丈夫」
話をしてるとタイマーの音が鳴り響く。湯呑みに少しづつ注いでいきテーブルまで運ぶ。緑茶のような透明感のある緑色の中に ほんのり茶色が混ざっているような色合いだった。
燐:「すごい いい香り。いただきます」
ヘイル:「淹れたてだから 火傷に気をつけてな」
4人は湯呑みに口をつけ お茶を味わっていく。
香ばしさや ほんのりとした甘みが感じられ 飽きのこないスッキリとした味であった。
凍矢:「こんなに美味しいお茶は初めてだな。
かなり慣れてたが よく淹れるのか?」
ヘイル:「パニックや不安 気持ちを落ち着かせるには これが一番でな。メイアと完全融合した直後にも淹れたりしてたんだ。
・・・3人とも落ち着いたようだな、一時はどうなるかと思ったぞ。 人工知能の俺が あそこまで頭を抱えることなんて少ないからな。
・・・記憶消去をご所望な奴は?」
スっ 3人とも手を挙げた。
ヘイル:「だろうな」
メイア:「あんなの完全な黒歴史だよ(テーブルに頭を突っ伏している)」
燐:「流石に 私も思い出したくないかも・・・(両手で顔を覆っている)」
凍矢もゴンッゴンッとテーブルに頭を打ち付けている。
ヘイル:「分かったから凍矢はもう1杯お茶飲め。予想はしてたが こうも当たると俺も不安を感じてしまうな。凍矢は燐の中に戻れば記憶がアップデートされるが 出たり戻ったりは大変だろ? もし嫌じゃなければ俺がやろうか?」
燐 凍矢 メイア:「異議なし」
回答を聞いたヘイルが席を立ち3人の前に立つと目を閉じ腕を組んだ。
ヘイル:「【全員俺の目を見ろ。瞬きすることなく見続けろ】」スっと目を見開く。
頭に残る特殊な【声】が聞こえた後、緑色に発光した瞳を見た3人は 徐々に瞳が緑色のラインで縁どられ 虚ろな状態で静かに呼吸を繰り返すだけのトランス状態になっていく。
ヘイル:「燐やメイアには使ったことがあったが 分離状態の凍矢にも効くとは思わなかったな。
さてと 本来の目的は**|夢《ドリーム》の正体を知ること**だ。 メイアと燐の記憶を消す範囲としては 【|夢《ドリーム》に魅了されてから お茶を淹れる直前】凍矢は【燐達が事務所に帰ってきてから】、状態異常になってた時のみ消すとしよう。長時間の催眠は心身への負担がでかいから とっとと終わらせるか、3人しかいないし〈眼〉は出さず 瞳を見続けさせる。|集団洗脳の魔法《マインド コントロール》!!」
これまでと違い 人によって消す範囲が違う。ヘイルはしっかりイメージを固めてから|集団洗脳の魔法《マインド コントロール》を唱える。瞳の発光が強まると3人の瞳も同じように緑色になる。 記憶消去が終わると バタッとテーブルに突っ伏してしまった。
ヘイル:「記憶消去完了っと。|解呪の魔法《ディスペル》!!」
すかさず|解呪の魔法《ディスペル》を唱えると3人ともムクリと起き上がった。
凍矢:「ヘイルの洗脳ってこんな感じなんだな。実際にかかるのは初めてだ」
ヘイル:「もう洗脳は解けてるから 自由に動いていいぜ。 さて 俺はメイアの記憶をたどって|夢《ドリーム》の野郎の情報を掴んでくる。 メイア、|虚像の魔法《プリテンス》を解いてくれ」
メイアが|虚像の魔法《プリテンス》を唱えるとヘイルは光となって消え そこからは待ちの時間となった。
--- メイアの精神世界 通称【|空虚《くうきょ》な部屋】 ---
ヘイル:「ここに来るのも久しぶりだな。 メイアに異変が起きたのは燐と出かけていた時、その時の記憶を確認させてもらうか」
右手を虚空にかざすと メイアが見た景色が写真アルバムのような形で見ることができるようになった。パラパラと|捲《めく》る中 ヘイルの手が止まる。
ヘイル:「見た事のない男と女だな。 直接関わりがありそうなのはこの2人。 よし 焼き付けるとするか」
ヘイルは2人が写っている|写真《記憶》を手の中に握りしめるとメイアに合図を送る。再度|虚像の魔法《プリテンス》により現実世界に現れるとテーブルの上に2枚の|写真《記憶》を出現させる。
ヘイル:「メイア達が関わった中で怪しいのはこの2人だな。 若草色の瞳をした男と金色の瞳をした女、前に森林公園で|夢《ドリーム》を見た時は暗かったから しっかり顔が見られなかったんだよな」
凍矢:「あれ? |悠河《ゆうが》じゃないか!! シエルに来ていたのか」
ヘイル:「悠河?」
燐:「私の|従兄妹《いとこ》。トランサーなんだけど、味方だから大丈夫だよ。
そうなると この女が・・・!!」
メイア:「|夢《ドリーム》 ってことか」
凍矢:「|写真《こいつ》があれば |晴翔《はると》や|夏弥《なつみ》にも聞くことができるな。 情報収集は俺と燐がやる」
メイア:「じゃあ私はミラと一緒に|夢《ドリーム》を見張るよ」
ヘイル:「俺も燐達について行く、|夢《ドリーム》が活動する周期をどうにかして突き止めないといけないからな」
燐:「|夢《ドリーム》にはお礼をたっぷりとしないと。メイアをこんな目に遭わせたんだし!!」
4人の結束が更に高まった瞬間であった。
幕間②-1(メイア×ヘイル ヘイル×蒼樹)
時間軸としては夢(ドリーム)⑧の直後となります。
|晴翔《はると》にアポをとりしだい |夢《ドリーム》の正体を探る という方向で話が決まり、拠点へと戻ってきた。
ヘイル:「メイア 身体を調べさせてくれ。 魅了や洗脳が重なってしまったからな」
メイア:「うん、いいよ」
その場で目を閉じる。ヘイルの瞳が緑色に発光すると頭から足先までくまなく調べ始める。
ヘイル:「心拍や血圧、脳波にも異常は見られない。ただ、後から影響が出てくるってことも考えられるから数日は様子見が必要だ」
ヘイル:「ありがとう、ヘイル。 ちょっと風に当たりながら 話がしたいんだけどいい?」
ヘイル:「?」
---
廃ビルの屋上。 元々ビジネスホテルだったこともあり高さはそれなりにあった。 見渡すと 車のライトやビルの明かり、街灯、ネオンサインなどで街がキラキラしていた。静かに吹く風で髪やパーカーの裾が揺れていた。
ヘイル:「メイアから誘うなんて珍しいな。 月なんかじっと見て 何かあったのか?」
メイア:「ヘイル、完全獣化してからなんだけど、なんだか**呼ばれているような感覚**がするの。もちろん明確な声が聞こえてくる訳じゃないんだけど、行かなきゃいけない… そんな気持ちが湧いてくるんだ」
ヘイル:「呼ばれている…? 行かなきゃいけない…? 奴らの資料にはそんな情報はなかったし 俺の中にもない。そんなことを聞くなんて 急にどうしたんだよ?」
メイア:「・・・・・・・・」
じっと月を見つめて動かない。徐々に吐く息が荒くなっていき 心臓の鼓動も早くなり 腕に力が入っているようだった。そして腕を身体の前でクロスさせ【完全獣化】と唱えると足元に風が巻き起こり 白銀の皮膚が全身を覆い始めた。
ヘイル:「!!!!! メイア!!その姿は・・・!! やめろ! それ以上獣化するな!」
全身が白銀の皮膚に変わり 首から下には白い毛が生え 左指からはパキパキと結晶のような紅い爪が伸びている。漏れだした魔力が耳や尻尾を形づくり 瞳孔は針のように細く、鋭い犬歯が伸びている。 だが初めて完全獣化した時のような四足歩行の構えは取らず両足で立っていた。
そして大きな違いは 意識もはっきりしていた事だった。
メイア:「ヘイル、 私は 完全な獣になってしまったのかな? これまで獣化した後には必ず来ていた【渇き】も全然来なくなったし」
月を見つめたまま静かに話している。
ヘイル:「・・・あくまで推測だが これまで【渇き】が起こったのは 〈人間の部分が残っていたから〉なのだろう。 ベースは人間だ。その身体で狼の力を使おうとしたことによる反動、それが【渇き】なんだと思う。しかし、あの日 白銀の皮膚が全身を覆ったことにより人間の部分が完全に…消えてしまったのだろう。見た目こそ人間だが能力・本質は狼。
それが…今のメイアだ。推測ばかりになってしまってすまない」
メイア:「もう 純粋な人間に戻ることは出来ないってこと?」
ヘイル:「ああ。 俺にも…不可能だ。記憶や感情 人間性も時間をかけてようやくここまで取り戻せたが 俺の限界だ…」
メイア:「そっか」
ヘイルが目を背け暗い表情になる中、目を閉じフーっと静かに息を吐くと 白銀の皮膚が消えていき右肘までに戻って行った。
メイア:「完全にキメラの力が身体に馴染んだ、
ってことだよね!!ヘイル!」
打って変わって とても明るい笑顔をヘイルに向けた。その顔を見て すぐさま駆け寄っていく。
ヘイル:「メイア? ほ、本当に平気なのか?
もう 元の人間には戻れないんだぞ!!」
メイア:「もちろん悲しいよ。でも |獣化態《あの姿》だって私!! この腕も白銀の髪も|琥珀色《アンバー》の瞳も!!ようやく1つになれたって思うと嬉しくって!!」
ヘイル:「そうか。 だが 絶対に無理はするな、俺もいるってことを忘れるな。 俺はメイアに埋め込まれた人工知能。 いつまでもこれからも一緒だ」
ヘイルも優しい笑みを浮かべながらそっとメイアの髪を触り頭を撫でている。
ヘイル:「月明かりに照らされ、キラキラと輝く銀色の髪。本当に綺麗だな、メイア」
メイア:「うんっ! それと わがまま言ってもいい?」
ヘイル:「何だ?」
メイア:「これからなんだけど〈ウルグ〉の名前を使いたいのと、|研究所《ラボ》での記憶を解放してくれない?」
ヘイル:「!!!!!」
予想だにしない発言にヘイルの顔から笑顔が消え去り ゾクッとした。
ヘイル:「ダメだ! 名前はともかく、|研究所《ラボ》での記憶を解放したら 今度こそ 今度こそ! 人間としての心は|壊れ《消え》てしまう。ようやくここまで取り戻せたのに、そんなの… 俺には…耐えられない…」
ドサッと崩れ落ちてしまい涙がこぼれる。
メイア:「心配しないで、ヘイル。 私なら大丈夫、完全獣化だってこうして受け入れたんだよ。 |研究所《ラボ》での事だって受け入れてみせる」
ヘイル:「メイア… そこまで言うのであれば分かった。 少しずつ流していくぞ、苦しくなったら俺の腕を握るんだ。絶対に 絶対に無理はするな!」
メイア:「うん」
---
部屋に戻り ベッドの上で向かい合って座る。ヘイルがメイアの頭を両手で挟むようにして触れている。
ヘイル:「深く封印しているから|記憶の海《オセアーノ オブ メモリア》で|解放する《見せる》ことが出来ない、現実で直接記憶解放を行うようになってしまってすまない。準備はいいか?」
メイア:「うん いつでも」
記憶の解放が始まった。 5歳の誕生日の夕食後 突如誘拐され 家族が軍によって惨殺されている映像を見せられ 服従の暗示をかけられ 身体・脳・精神と全身に改造手術が施されていく。 |実験《改造》がない時は常時 牢に入れられ 虚ろな瞳で ぼーっと格子越しに空を眺めていた。
メイア:「あ、ああ、あああぁぁぁぁ!!」
あまりの光景にメイアは涙を流し悲鳴をあげるしか無かった。悲鳴が聞こえる直前で頭から手を離し ギュッと抱きしめた。
ヘイル:「メイア!! メイア!! 大丈夫か!?」
メイア:「う、うん。 なんとか」
ヘイル:「ここから先はもっと辛くなる。 俺だって メイアが苦しむところを見たくない! 今日はもうやめよう…? 悲鳴だけではすまなくなる…」
メイア:「ハァ、ハァ 私なら大丈夫。続けて」
大丈夫と口にしているが、メイアの全身が震えていた。
ヘイル:「どこが大丈夫なんだ!! こんなに震えt …|痛《いつ》っ!メイア?」
メイア:「あと少しなんでしょ? お願い、ヘイル。私なら大丈夫だから」
腕に力が入り ヘイルの腕を強く握っていた。
【辛くなったら腕を握れ】最初に決めていた合図だが、意味は全く違っていた。
このまま進めてくれ そう言っているようだった。
ヘイル:「・・・分かった、これで最後だ。
流していくぞ」
再度 メイアの頭を両手で挟むようにして触れる。そこに映っていたのは【キメラとして完成した日、培養槽を破壊して出てきたメイアは 半身を獣化、20人もの研究員を殺害し |研究所《ラボ》を破壊する光景】だった。鮮血にまみれ 死体を見下ろしていた。
メイア:「わ、私… こんなに人を殺してたの…!!?」
ヘイル:「俺がメイアの身体を操ってやった。 記憶に|プロテクトをかけて《残らないようにして》 俺しか知らないようにな。これで メイアの記憶は完全復元された。隠されていた記憶も全て解放した。
今日はもう休むんだ、色々と重なりすぎたからな」
メイア:「うん、 記憶解放してくれてありがとう」あまりに辛いはずなのに浮かべていたのは笑顔だった。
そのままベッドに入ったメイアが眠りについたのを見届けて ビルの屋上に戻ってきた。
ヘイル:「メイア自身が1番辛いはずなのにあんな笑顔を見せやがって… 心境の変化にしては大きすぎる。魅了や催眠による影響なのか、何が原因になったのかは今となっては分からない。 蒼樹に聞いてみるのも手かな。
・・・俺も完全獣化できるのか?」
バングルを外し月を見ると ドクンっと大きく鼓動を感じる。灰色の皮膚が全身を覆い 首から下には灰色の毛が生える。
爪や牙などはメイアと同じであった。
ヘイル:「暴走しない… これが完全獣化か」目を閉じフーっと息を吐くと元の身体に戻っていった。
ヘイル:「数日は様子を見るしかないな」
そう呟くと室内に戻り 静かに寝息を立てて眠るメイアの姿を見た後 |氷華《ひょうか》のバーに向かった。
--- BAR |fortitude《フォーティチュード》 ---
氷華:「またのお越しをお待ちしております」
今日もバーには客が沢山いた。
カランカラン。
氷華:「いらっしゃい… ヘイルくん!
来てくれたのね、あら? メイアちゃんは一緒じゃないの?」
ヘイル:「メイアは部屋で眠ってる。 |蒼樹《そうき》も来てたのか」
氷華:「もしかして蒼樹に会いに来たの?」
ヘイル:「前に燐の事務所で 3人一緒にいたから、もしかしたらって思っただけだ」
氷華:「それなら奥の個室 使う?」
ヘイル:「えっ いいのか…? 酒を飲まず話をしに来た|冷やかし《客》なんだぞ?」
蒼樹:「悩み事なら 相談に乗るぞ?」
蒼樹がヘイルの席へ近づいてきた。
氷華:「いいのよ、全く知らない仲じゃないからね」
ヘイル:「氷華… 蒼樹… なら話を聞いてもらってもいいか?」
蒼樹:「ああ、なにか飲むか?」
ヘイル:「コーラとか頼んでもいいか? ここに来てなんだが あまり食欲とかがなくてな」
蒼樹:「氷華、俺にはグラスホッパーを頼む」
氷華:「分かった、グラスホッパーとコーラね。後で運ぶわ」
そう言って氷華は2人を奥の個室に案内し 注文のドリンクをサーブして部屋を後にした。
幕間②はもう少し続きます!
幕間②-2
--- BAR |fortitude《フォーティチュード》 小部屋 ---
|蒼樹《そうき》が|氷華《ひょうか》や|稜也《りょうや》から採血する際に使ってる部屋は狭いが2、3人は入れる感じだった。
ストローに口をつけ少しずつコーラを飲んでいる。蒼樹はグラスホッパーを一気に飲み干す。
蒼樹:「いつになく暗い顔をしているな、メイアと何かあったのか?」
ヘイル:「なぁ 蒼樹。 人格変化や性格変化ってよくある事なのかな?」
蒼樹:「どうした急に」
ヘイル:「メイアから 記憶を解放して欲しいって頼まれてな。普段なら絶対言わないはずなのに、それも自分が監禁されていた時の辛い記憶を…」
蒼樹:「ふむ。 脳の【|前頭連合野《ぜんとうれんごうや》】という脳の前の方が損傷した場合に 人格変化や人間らしさが失われるというケースは存在する。
フィニアス・ゲージという人物の例もあるからな」
ヘイル:「ま、まさか俺がメイアにデコピンしたから・・・!!」
蒼樹:「デコピンで人格変化するなんて聞いたことないぞ。またメイアをオモチャにしたのか?」
蒼樹の目から怒りの感情がうかがえる。
ヘイル:「ち、違う!違う! 俺は何もしてないよ!!ただ メイアが|夢《ドリーム》の奴に魅了されて |燐《りん》のキスで解除したら 今度は燐に魅了されて デコピンで解除して 記憶を消しただけだ!!!(超早口)」
蒼樹:「ただ状況を確認しただけなのに動揺しすぎだ。 まぁ こればっかりは脳を調べないと分からんが、聞きたいことっていうのはその事なのか?」
ヘイル:「ああ…」
蒼樹:「人の性格ってのは 障害や損傷だけでなく その日の体調などでも微妙に変わる。
もし 不安が取れないのであれば俺の病院に来い。キメラであるお前達に人間用の薬が使えるかは分からないが 俺も医者だ。少しは力になれるだろう」
ヘイル:「__人間用…か__ 蒼樹 話を聞いてくれてありがとうな。あとそうだ。 狼人間ってなんで月を見ると変身するんだ?」
蒼樹:「本当に今日どうした? 頭でも打ったか?」
カクカクシカジカ
蒼樹:「完全獣化したことで人間部分が消えた か。 そしてまた完全獣化した か。
俺は精神科医。 そういうのは専門外だ」
ヘイル:「そうか・・・」
蒼樹:「そもそも人狼や狼人間と言われる存在自体が想像上・空想上のものだ。 メカニズムとか解明されているはずがないだろ、あと狼人間が変身するのは満月、今日は半月のはずだ」
ヘイル:「だよなぁ」
氷華:「月には魔力があるって 古来から言われたり信じてる人もいるからじゃないかしら。
太陽と月で 陽と陰を表したりね」
ヘイル:「氷華… 月の魔力ねぇ」
蒼樹:「店はいいのか」
氷華:「時計みた? もう1時よ」
2人とも自分の時計を確認する、確かに1時を回っていた。
氷華:「メイアちゃん、完全な狼になっちゃったってこと?」
ヘイル:「まぁ そうだ」
氷華:「ってことは ネギ類食べられなくなったの?」
ヘイル:「あっ!!! そうか。 人間部分が消えたってことはメイアも俺もネギ類がもう食えないってことか!!」
蒼樹:「まぁ1度検査してみるのもいいんじゃないか? ネギアレルギーもあるし」
氷華:「眠ってる時とか狼にならないかしら? もふもふの尻尾とかあれば撫でてみたいわ」
蒼樹:「モフモフな身体のメイアか(飼っている犬が 大きいベッドの上で 丸くなって寝てる所を想像している)」
氷華:「ブラッシングしてあげたりとか」
ヘイル:「メイアは犬じゃなくて狼n… いやいや!!俺は今でも人間だって信じていたい、たとえどんな姿になってしまったとしても!」
--- メイア ヘイルの拠点 ---
ヘイル:「遅くなっちまったか、メイアの様子はっ… !!! メイア!? どこに行ったんだ」
拠点に戻りメイアの様子を見に行くと ベッドはもぬけの殻。 マットレスや布団は既に冷たくなっていたため ベッドを抜け出してから時間が経っていた。
ヘイル:「メイアの行きそうな場所 ひとまず燐のところに行くか」
赤の鍵を使い 燐の元に行く。予想が当たりすぐに見つかった。
ヘイル:「メイア! 探したんだぞ!! 良かった、居なくなってたから心…ぱい…」
メイアの目の前にあるものを見て ヘイルは言葉を失い メイアに駆け寄る。
ヘイル:「メイア!!! メイアっ!!! 大丈夫か!!? 目を覚ましてくれ!!」
椅子に座って目を閉じたままじっとしている。身体を揺らすも反応がなかった。
燐:「ヘイル? 一体どうしたの!?」
ヘイル:「どれくらい食わせたんだ」
燐:「え?」
ヘイル:「**玉ねぎだ!!!** どれくらい食わせたのかって聞いてるんだよ!!!」
ヘイルが声を荒らげ 燐につかみかかる。すぐさま|凍矢《とうや》が止めに入る。
凍矢:「だいたい3分の1くらいだ。 俺たちが食べてる所でお腹すいたってやってきてな、それで少し分けたんだ」
ヘイル:「中毒 いや最悪の場合 死んでいる可能性がある!!! 早く病院に運ぶんだ!!!」
燐 凍矢:「えっ!!?」
---
ヘイルの怒りの感情に押され 燐は救急車を呼びメイアは救急搬送される。 総合病院で検査をしてもらったが 特に異常は見つけられなかった。呼吸も正常で 喉が赤くなる等のアレルギー反応もなかった。しかし 全く目を覚ます様子がないためもう少し様子見することになった。
ヘイル:「どうして玉ねぎを食わせたんだ」
病院外にあるベンチに座り込み拳を強く握りしめ2人を睨みつけていた。
凍矢:「前に言ってただろ。 組み込まれた遺伝子はほぼ僅かだから人間だって。だから普通に分けただけなんだが…」
ヘイル:「もうメイアは人間じゃない。完全な狼だ」
燐 凍矢:「!!!?」
ヘイル:「前に俺がネギを食べても平気だったのは |身体が分身体《完全獣化前の身体》だったからだ。しかし 記憶を辿るときにメイアの中に戻ったことで俺の身体も同じように狼になった。 もう俺達はネギを食べられなくなったんだよ」
凍矢:「嘘だろ…」
燐:「でも メイア パクパク食べてたけどなぁ。もし 中毒を起こすなら一口でもなるんじゃないの?」
???:「ここにいたんだね!! みんな集まってどうしたの?」
タタタッとメイアが走ってきた。
ヘイル:「メイア!!? 身体平気なのかよ!!! どこも異常ないのか!!!?」
メイア:「えっ、うん。 温かいのを食べたら眠くなっちゃったんだ。凍矢の作った【玉ねぎの丸ごとコンソメ煮】 すっごく美味しかったんだよ!!! お店で出されるような美味しさだったんだから!!」
ヘイル:「狼にネギは猛毒なんだぞ!! 吐き気とか腹痛もなかったのか!!!」
メイア:「全然?」
ヘイルはその場に座り込んでしまう。
ヘイル:「無事でよかった…!! メイアが無事で…!!!」
燐:「私 医療費の精算行ってくるね」
そう言って燐は病院に戻って行った。
凍矢:「さっきから要領を得ないんだが何があったんだ?」
ヘイル:「メイアの身体は完全獣化したことで人間部分が完全消失・狼になってしまったんだ。 もう元の人間に戻ることは出来ない」
凍矢:「!!!!! それで中毒を疑っていたのか」
燐:「メイア! 先生が呼んでるよ!!」
3人の元に燐が走ってきた。
医師:「全身を検査してみましたが 特に異常な数値やアレルギー反応は確認出来ませんでした。 呼吸数や血圧等も正常範囲内です。このまま帰宅していただいて大丈夫ですよ」
ヘイル:「そうか 良かった…! メイアが無事で本当に良かった…!!!」
---
病院を後にするも 4人の中に重い空気が流れる。そんな中 凍矢が口を開く。
凍矢:「人間としてのメイアは本当に消えてしまったんだろうか?」
ヘイル:「なんだと?」
凍矢:「確かに完全獣化によって白銀の皮膚に包まれた。しかし変化したのは外見だけで これまでの獣化と同じように メイア自身は変わっていないんじゃないか? |中身まで変わってしまって《人間部分が消えて》いたら さっきの玉ねぎで メイアはこの世にいなかったかもしれないんだぞ」
ヘイル:「・・・」
燐:「1度蒼樹さんに相談してみた方がいいんじゃない?」
メイア:「ヘイル、私なら大丈夫。 お医者さんである蒼樹さんに聞いたら教えてくれるんじゃないかな?」
ヘイル:「そうだな・・・」
蒼樹に相談したところDNAの塩基配列を調べることを提案され 調べたところ【人間のDNA配列】であることが分かった。また各種アレルギー検査や皮膚ブリックテスト等 できる検査は全て実施した結果 アレルギーがないことも診断された。完全獣化しても内面までは侵食されておらず、これまでと同じく【人間】のままであったことが証明された。
メイア:「消えてなかった…!!! ちゃんと残っていたんだ!!!」
凍矢:「ヘイルの心配は杞憂だったって事か」
ヘイル:「完全獣化したことで てっきり人間には戻れないと本気で思ってた。 完全獣化したら 戦闘マシーンとして活用できると奴らも言っていたからな」
燐:「メイアが人間だってことがわかったお祝いで なにか美味しいものを食べようよ!!」
メイア:「ねぇヘイル! また燐とお出かけしたいんだけどいい?」
ヘイル:「それは別に構わないが また操られるようなことになったら…」
凍矢:「それなら|消《イレイズ》の膜を2人に展開しておけばいい、敵の攻撃を打ち消せるように。それか いっそ4人で出かけようぜ!」
燐:「いいアイデアかも(・∀・) どっちみち|晴翔《はると》に会うのは 少し先だしね。とりあえず帰って寝ようか、 また後でね」
病院前で解散することとなった。
幕間②-3
拠点に戻り メイアはベッドに入ってすぐに眠りにつくが ヘイルは窓辺で月を眺めていた。街にはヘイルの心情を表すかのように 静かに雨も降り注いでいた。
ヘイル:「メイアが言っていた【呼ばれている気がする】【行かなきゃいけない】、そして月を見た時に感じた鼓動。検査では人間であると診断されたが 手放しで喜ぶ ってのには早いかもしれない。 狼の遺伝子 いやキメラの意思とも呼べるものが心へ作用しているのか? これも完全獣化したからなのか? 謎が消えたと思ったらまた新しい謎か…。 ハァ 頭が痛いn… メイア? またどっか行ったのか? 足音は聞こえなかったはずだが」
ちらっとベッドの方を見ると寝ていたはずのメイアが消えた代わりに布団が盛り上がっていた。バサッと布団をめくりヘイルが見たものは・・・・・・
【マットレスの上で丸まって眠っている白銀の毛皮をした狼】であった。すぅすぅと静かに寝息を立てて眠っていた。耳には特徴的な三日月のピアスが付いていたため 誰なのかはすぐわかったが 心の中では整理が出来なかった。
ヘイル:「嘘だろ? メイア・・・なのか?」
そっと布団をかぶせ寝顔を見つめていた。
ヘイル:「もう勘弁してくれ、これ以上謎が増えてしまうのは 」
翌朝。
???:「ヘイル? ヘイル!!」
ヘイル:「うっ…眠っていたのか。 メイア、おはよう。 目が覚めたのか」
メイア:「さっきね。 ベッドのそばで寝てたから何かあったのかなって」
ヘイル:「メイアが狼の姿になって寝ていた夢を見てたようだ…」
メイア:「それって これのこと?」
その場でバク宙をするとメイアの姿が狼になった。毛並みの良い白銀の毛に覆われ 尻尾も生え マットレスで寝ていた時と同じ姿をしていた。
メイア:「気がついたらこの姿にもなれるようになったんだ! すごくない!!?」
ヘイル:「人間の言葉も話せるのか。いや… それよりこれは現実だったのか」
フッと気が遠くなり その場に倒れてしまった。
元の人間の姿に戻るとヘイルの元に駆け寄る。
メイア:「ヘイル!!? ヘイル!!! 大丈夫!!?」
ヘイル:「ツッ… 俺は…」
|燐《りん》:「あっ!気がついた?」
気がつくとベッドの中におり、そばにいたのは燐だった。
ヘイル:「燐か。 どうしてここに」
燐:「メイアが急に来て ヘイルが倒れちゃった!!って。 今 |凍矢《とうや》がメイアのそばにいるよ」
ヘイル:「そうか」
燐:「熱が39℃も あったよ。 何かあったの?」
ヘイル:「・・・俺の中で整理が付けられるまで あまり話したくない」
燐:「そっか。 何か食べられそう?」
ヘイル:「もう少し寝かせてくれ。あまり食欲もない」
燐:「分かった。 剥いたリンゴを冷やしてるから もし食べられるようなら食べてね。薬と飲み物も置いてあるから」
ヘイル:「・・・・・・」
凍矢:「燐、ヘイルの方は?」
燐:「あまり食欲無いから寝かせろって」
凍矢:「そうか。 ヘイル、メイアがこっちに来たいって言ってるから 一緒に連れていくからな」
ヘイル:「わかった。もし夜になって 厄介になることがあっても 驚かないでくれよ」
燐 凍矢:「?」
首をかしげつつ 3人は事務所に戻って行った。3人の気配が消えたことを確認し ヘイルは仰向けになり スっと目を閉じた。
---
燐:「メイアはここ使って。 私は布団敷いて寝るから」
寝室に案内し 燐はゲスト用の布団を用意していた。凍矢はメインルームのソファで寝るからと言ったあと キッチンで何かを作ってるようだった。
燐:「ヘイル、大丈夫かな。 なんか心配」
メイア:「大丈夫だって! 私はなんともないし ただ心配症になってるだけだから!! ねぇ 燐、一緒に寝ちゃダメ?」
燐:「まぁ 私は別に構わないけど」
凍矢:「全く ホントに仲良いな、お前ら。 知らない人が見れば姉妹に見えるぞ」
凍矢はおぼんの上にマグカップを3つ乗せ 寝室に入ってきた。
凍矢:「ホットミルク淹れてきたぞ。 メイア、ヘイルが言っていたが また完全獣化したそうだな。 一体どうして」
ベッドから降りると寝室の窓越しで月を眺める。聞こえないくらいの小さい声で【完全獣化】と唱えると 白銀の皮膚が一気に全身を包み込んだ。
燐:「メイア!?」
メイア:「今は落ち着いてるんだけど 時折 呼ばれているような気がしたり 行かなきゃいけないって感じがするんだ」
マグカップを1つ取り ホットミルクを少しずつ飲んでいくと獣化が解け 人間に戻っていく。
メイア:「なんでなのかは私にも分からない。
この街に来た時よりも不安定になってる気がするんだ」
燐:「メイア… もしかしてなんだけど、バングルがないことが関係したり?」
メイア:「えっ?」
燐:「メイア ずっと右腕に金色のバングルつけてたじゃん!! 外すと暴走しちゃうって!!
バングルがないから 不安定になってるんじゃないの?」
メイア:「・・・そうか。 キメラになって5年。ずっと身につけてた物が無くなっちゃったから なのかな」
凍矢:「だが あんな凝った装飾がついたバングルなんて 相当な職人じゃないとできないだろ?」
燐:「だよねぇ」
ブーーっ ブーーっ スマホの振動を感じ 表示させると|氷華《ひょうか》からLINEが来ていた。
<「遅い時間にすまない、|蒼樹《そうき》だ」
<「メイアの壊れたバングルに関してようやく予約を取ることができたから氷華経由で連絡させてもらった、明日10時に駅前にある【暁 宝石店】にメイアを連れてきてくれ」
燐:「蒼樹さんからだ。 明日 宝石店にメイアを連れてきてって」
凍矢:「ふむ、蒼樹のことだから 何か企んでるわけではないだろうが 俺も行く。 ヘイルの様子を見て行くから 2人は先に向かっておいてくれ」
メイア:「宝石店かぁ〜 楽しみだなぁ〜」
---
夜が更けていく。
サワサワと顔に白色の毛が当たりくすぐったさを感じている。
燐:「うーん、なんかくすぐったいなぁ…
えっ うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
凍矢:「燐!!! 大丈夫か!!!?」
燐:「と、凍矢!!! メイアの姿が!」
悲鳴を聞いた凍矢が突入してきた。壁際で縮こまってガクガクと震える燐が布団を指さす。凍矢が恐る恐る布団をめくると そこに居たのは動物態に変身し眠っているメイアだった。
凍矢:「ヘイルが驚くなって言ったのはそういう事か。 寝ている間は狼の姿になる、それでくすぐったくなったって所か?」
メイア:「うーーん、あれ? 凍矢? どうしたの?」ブルブルと身体を震わせフワァーと大きく欠伸をする。
凍矢:「動物態でも喋れんのかよ。 メイアの姿に驚いて 燐が震えてんだよ」
メイア:「えっ!!? 燐!! 大丈夫!?」
ストっとベッドから飛び降りると静かに燐に近づいていく。もちろん狼の姿なので四足歩行で。
燐:「め、メイアなの?」
メイア:「うん、私だよ」
スっと燐の顔に自分の顔を擦り付けると また人間態に戻った。
メイア:「驚かせちゃってごめんね、私も狼になれるってついさっき知ったの。 意識は保ってるし 人間の言葉も話せるんだ、もうよく分からないよねwww」
燐:「ううん、私こそ大きい声出してごめん」
ベッドに入りメイアが眠りにつくと また狼の姿に変身した。 顔や身体を静かに撫でつつ燐や凍矢も眠りについたのだった。
夢(ドリーム)⑩-2
???:「クスス いい感じに不安定になってる♡ 守護の|呪《まじな》いも弱まって封印も簡単に こじ開けられる! …|燐《りん》 あなたは私のモノ、とっとと闇に堕ちて消えろ!! 肉体を私によこせ!!!」
突然 燐は左手の指輪に手をかけ外しだした。
燐:「い、嫌! 身体が勝手に!!」
|凍矢《とうや》:「燐!? やめるんだ、その指輪を外すな!!!」
凍矢の叫びは間に合わず スルンっと指輪が外れてしまい 燐の頭はガクンと前に倒れた。
凍矢:「ヘイル!! 燐に何をした!!」
ヘイル:「ハァ 妙な言いがかりは よせ! 俺は ずっとメイアの近くにいたし《《肉体だけを操ることはできない》》んだよ!! たとえメイアであってもな!!」
---
その頃・・・
組員:「カシラ!? こんな時間にどこへ行かれるんですかい!!?」
|晴翔《はると》:「|浪野《なみの》警部!? そんなに急いでどちらへ!!?」
浪野:「|九条《くじょう》、お前も来るんだ!!!」
看護師:「|長月《ながつき》先生!? どうされたんですか!!?」
その異様な気配に多くのトランサーが反応し 森林公園に向け走り出した。
|蒼樹《そうき》 |悠河《ゆうが》 浪野 晴翔:「燐!!」
|氷華《ひょうか》 |稜也《りょうや》:「燐ちゃん!!」
凍矢:「燐? 大丈夫か?」
凍矢が近づき 燐の身体に触れようとした瞬間、バシッと払い除けられる。
???:「りん? 私のことはこう呼んでほしいなぁ、|鎖《チェイン》ってねぇ!!!
フフフフ ハハハハハハハハハハハっ!!!
アッハハハハハハハハハハハハハ!!!」
ユラっと顔を上げたと思えば狂ったように笑いだした。 普段の燐なら絶対にしない笑い方であり 浮かべている笑みも狂気に染まり 金色に変わった瞳には*の模様が浮かび上がっていた。
メイア:「ヘイル なんだか すごく怖いよ!!
本当に あれは 燐なの!?」
ヘイル:「豹変した感じは凍矢と似ているが 完全に呑まれているな。 人工知能である俺が 恐怖を感じてしまっている…!!」
浪野:「この寒気 燐と初めて会った時に似ている。 一体燐に何が起こったと言うんだ!」
晴翔:「ずっと一緒に捜査をしてきた あの燐だって言うのかよ…!!」
悠河:「あんな笑い方をする燐なんて見たことがない…!! 一体何がどうなっているんだ!!」
左手を地面に向けると どこからともなく鎖が出現し 肘置きや背もたれのあるしっかり目の椅子が生成された。座面に座り右腕で頬杖をつくようにして脚を組むと その場にいる全員を睨む。
|鎖《チェイン》 :「王の御前だよ? 跪け」
強い|重圧《プレッシャー》をかけるが 敵意を感じとり、完全獣化に切り替えたメイアとヘイルが〈|拒絶《リジェクト》〉により打ち消した。耳と尻尾が生えているが 魔力による幻影ではなく《《実体》》となっていた。尻尾はフヨフヨ揺れており 耳はピクピクと動いていた。
ヘイル:「新月の下での完全獣化 ってのも乙なものだな、メイア」
メイア:「あんなのは 燐じゃない。人間であるアオナさんと晴翔を護らないと! それにしてもヘイル、耳と尻尾が生えてカーワイイ♡
私のも実体化してるから おそろいだね♡
でも身体の方は大丈夫?」
ヘイル:「自然と漏れだした魔力から作られたものだから 身体に影響は無いよ」
ヘイルは晴翔を メイアはアオナと|夢《ドリーム》/|乃彩《のあ》を庇うように前に出る。
晴翔:「ヘイル その姿・・・!!」
アオナ:「お、狼・・・!? 2人は人間じゃないの!?」
乃彩:「め、メイアさん… ヘイルさん…
あれだけ 私のことを敵対していたのに…!」
---
口火を切ったのは凍矢だった。
凍矢:「おい |鎖《チェイン》!!! 燐は、燐は無事なんだろうな!!!?」
|鎖《チェイン》:「さっそく呼んでくれた♡♡ 燐… ああ、この身体の本当の持ち主 ってことだよね? 安心してよ、|宿主《やどぬし》なら ちゃぁんと無事だから♡」
パチンと指を鳴らすと 空中に映像のようなものが映し出される。そこに映っていたのは・・・・・・
【暗闇の中で 意識を失い 磔にされている燐】だった。目をつぶり頭や手首は重力に従いダランと垂れていた。手首や足元と別で 首にも鎖が巻きついており 少しずつ首が絞まっている。
凍矢:「りん…なのか? 燐!! 目を覚ましてくれ!!りーーーーーん!!!」
凍矢が強く呼びかけるも 反応しない。
|鎖《チェイン》:「ほら、無事でしょ?」
ヘイル:「ふざけるな!!! これのどこが無事なんだ!! 」
ヘイルが怒号を浴びせるなか |鎖《チェイン》は 唇に指を当てて歪んだ笑みを浮かべている。
|鎖《チェイン》:「だって 《《宿主》》が生きてないと 私だってこうしていられないからね。うーん、ようやく外に出る事ができたっ♡ 18年、いや《《今日で》》19年か! 守護の|呪《まじな》いが弱まるまで 随分とかかっちゃったなぁ。
これからは私が【睦月 燐】として生きてあげるよ、本来の燐は深く深く眠らせているから 《《もう目覚めることはない》》。つまり 呼びかけたところで無駄なんだよッ!! アッハハハハハハハハハハハハハ!
にしても燐も《《バカ》》だよねぇ。さっさと血の快楽に身を委ねちゃえば さっきみたいに苦しむことなかったのに。人間の心は消え去って 感覚も麻痺して 罪悪感とか なーーんにも感じなくなって|トランサー《仲間》をどんどん増やしていけたってのに。まぁ |凍矢《キミ》というもう一つの人格が生まれたことと トランサーから人間に戻す力を得たってことは誤算だったけど。
《《アイツ》》も守護の|呪《まじな》いで私を封印する なんていう面倒なことをしてくれたしなぁ、それがなきゃ 完全に燐の自我を奪って コントロール出来たのに」
---
トランサーとしての自分を受け入れ 人間を襲うことが さも当然であるかのように話す|鎖《チェイン》を見てその場にいた全員が凍りつく。しかし 1人は唇を強くかみ 拳を握りしめていた、血が出るほどに指を食い込ませて。
凍矢:「宿主…? 快楽に身を委ねる…? 自我を奪う…? ふざけるのも大概にしろよ、|鎖《チェイン》。燐を 燐を返せ!! 燐の苦しみを知らないくせに テメェが燐を語るんじゃねぇーーーーーーー!!!」
凍矢も指輪を外し 完全覚醒する。以前覚醒した時は暴走してしまっていたが しっかりと意識は残っていた。 地面を強く蹴り 殴りかかるも
外見は燐。 凍矢が殴れるはずなく顔の真ん前で止まってしまう。
|鎖《チェイン》:「クスス、女を殴るなんて そんなことしていいのかなぁ? こうして操っているだけで《《肉体の本来の持ち主》》は燐なんだよ、傷つけちゃってもいいのかなぁ?」
神経を逆撫でするような発言をすると 一瞬でメイアの傍に移動する。右手の爪で 顔をツーーッと引っかいていくと 映っている燐の顔にも 同じ傷が浮かび上がる。
トランサーの再生能力で傷はすぐ修復されるが、〈自分を傷つければどうなるか〉を知らしめるには充分すぎた。
凍矢:「そんな…!! これじゃあ どう頑張っても 燐を救えない…!!」
動揺する凍矢の前に一瞬で移動、 右腕をグッと引き寄せてバランスを崩させた所を蹴りつけた。 ハイキックが側頭部にクリーンヒットし 青い血が流れながら倒れる凍矢の胸ぐらを掴むと 顔を覗き込むように見下ろす。
|鎖《チェイン》:「あなたに【|燐《わたし》】を傷つけられるはずないもんねぇ♡ だって|守護者《ガーディアン》だし 【|燐《わたし》】に優しいもんねぇ!! 肉体の主導権をにぎっているのは私♡♡ 気まぐれを起こしたら 《《2人とも》》消えちゃうよ? だって|凍矢《キミ》は《《燐の感情から生まれた存在でしかない》》よね! これからも生きていたけりゃさぁ |燐《コイツ》の事なんか忘れて 私と一緒に生きてこうね、 と・う・や♡
あ、この場にいる全員 変な気は起こさない方がいいよ? |燐《コイツ》は いつでも消せるんだからね! 泣いて頼み込むのであれば考えてあげなくもないけど お前らにそんな事出来るわけないもんねぇ!! だって自分が1番可愛いもんねぇ!!! ハハハ、アッハハハハハハハハハ、ハッハハハハハハハハハハハハ!!!」
凍矢:「・・・チェインーーーーーーー!!! テメェだけは テメェだけはーーーーー!!!」燐や自分だけでなく 仲間全員を侮辱された事への怒りと 助けたくても助けられない という絶望感が入り交じり 拳を強く握ることしか出来ない凍矢をみて |鎖《チェイン》は嘲笑っていた。
次話で第1章完結となります!
現石(ジュエライズ)と封石(シーリング)
--- 9:00 メイア ヘイルの拠点 ---
ガチャっと扉の開く音が聞こえ ヘイルが目を開くと|凍矢《とうや》が入ってくるのが見えた。
ヘイル:「凍矢か、 何か用か?」
凍矢:「様子はどうかなって思ってな。 俺にはヘイルみたいな解析能力はないけどさ、すごく顔色が良くなってるなってのは分かる。
こうして来たのは |蒼樹《そうき》から連絡があったからなんだ。メイアの壊れたバングルに関して目処がついたらしい、この後10時に駅前の宝石店に行くことになってるんだ。 ヘイルはどうする?」
ヘイル:「・・・・・・。 俺も行くよ。メイアのバングルは完全に壊れてしまって 破片すら残っていない、コイツが必要だろうからな」
凍矢:「動いて平気なのか?」
ヘイル:「元々身体の方はなんともないからな、心配してくれてありがとうよ。
・・・ところで1個聞きたいんだが あのリンゴを剥いたのは誰なんだ?」
凍矢:「リンゴ… ああ、アレか。 |燐《りん》だが?」
ヘイル:「やはりか。 うさぎの形をしてたから もしやと思ってな。凍矢なら あんな剥き方しないだろうと思っただけだ。さてと、 行くか」
凍矢:「ああ、案内するよ」
--- 9:40 |暁《あかつき》 宝石店前 ---
メイア:「ヘイル!!」
店の前には 燐・メイア・|氷華《ひょうか》・|稜也《りょうや》・蒼樹といつものメンバーが集まり メイアはヘイルの姿を見るとブンブン手を振っている。
燐:「動いて大丈夫?」
ヘイル:「ああ、それにコイツが必要だろうからな。 ところで 蒼樹がいるのは分かるんだが 氷華と稜也はどうして?」
稜也:「店長であるライラは俺の同級生でな!! 氷華は注文してたアクセサリーを受け取りに来たんだ」
燐:「ライラ・・・さんって言うの?」
稜也:「ああ、姉妹で店をやっていてな。姉のライラが店長兼接客、妹のシオンが製作を担当してるんだ。 シオンの作るアクセサリーは老若男女に大人気なんだよ!
あ、当然ながら2人ともトランサーだ」
凍矢:「当然ながらって…あっさり言ったな。 ってか普通に働いてるトランサー多くないか?
俺や燐、|浪野《なみの》警部、そしてお前ら3人と 暁姉妹だっけ?」
蒼樹:「そうは言うが トランサーの血に呑まれず こうして人間の心を保ってる奴はそう多くない。暁姉妹も トランサーに変貌した直後は やはり不安定になってて 俺の患者だったんだ。 俺の病院は普通の人間だけでなくトランサーも受け入れてるからな」
燐:「な、なるほど」
ブーーっ ブーーっ と稜也のスマホが振動する。
稜也:「おっと ライラが店に入ってくれってさ!!」
ギィィィ ガラス扉を静かに開ける。店内はまだ暗かったが ショーケースに並んでいるジュエリーはどれもキラキラと輝いていた。
ライラ:「稜也くん! 待ってたよ!!
ごめんね、すぐ明かりつけるから!!」
声が聞こえ パチッと店内に明かりがつく、奥から黄緑色の瞳をした パンツスーツの女性が出てきてペコリとお辞儀をする。
ライラ:「いらっしゃいませ、店主の暁ライラと申します」
稜也:「悪いな ライラ、急な依頼で 早めに店を開けてもらって」
ライラ:「いいんだよ、長月先生には今もお世話になってるしね。えっと メイアさんって言うのは?」
メイア:「あっ 私です(・∀・)」
ライラ:「今回はバングルのオーダーメイドと稜也くんから聞いているけれど 希望のデザインとかはある?」
メイア:「これと同じものって作れますか?
大事な人が私のために作ってくれたものなので…」
ヘイル:「(だ、大事な人って 俺のことか・・・?(汗)」
ライラ:「なかなか細かい意匠だね、うーん シオンに聞かないと。 ちょっと待っててね!」
ライラは奥にいる人物に声をかけるともう1人女性がでてきた。
シオン:「製作を担当している 暁シオンです」 ライラと同じく黄緑色の瞳をしていたが対照的に大人しい女性だった。
凍矢:「黄緑色の瞳 ってことはやはり2人とも・・・」
ライラ:「お察しの通り 2人ともトランサーです。私の能力は元素やトランサーの力等を宝石へと変える|現石《ジュエライズ》、シオンの能力は アクセサリーとして固定し力をコントロールできるようにする|封石《シーリング》です」
メイア:「トランサーの力も宝石にできるんですか!?」
ライラ:「ただ、 トランサーの力は強すぎるものが多いので 実際にアクセサリーとして使えるのは ごく僅かなんです。
よく宝石に変えるのは酸素ですね。鼻にチューブを入れ酸素療法をしている方を見たことありますよね? そういった方々のために 〈酸素の宝石をはめたブレスレット〉」等を作ったりもしているんです。
ブレスレットを介して高濃度の酸素を取り込むことで 街中でも酸素療法をしてる事が目立ちにくくなるんです。医師の間でも広がっていて 酸素の宝石を病院に卸したりもしているんですよ」
ヘイル:「ふーん、 便利な能力だな」
ライラ:「バングルに付与したい効果とかってありますか?」
ヘイル:「〈衝動〉を少しずつ減らせるような効果って付けられるか? このバングルは 元々 メイアの中にある強い力を制御するためのものなんだ。それが壊れてしまい 幻聴のようなものに悩まされてる」
ライラ:「うーん、 衝動の拡散か」
シオン:「姉さん 氷なんてどう? |氷嚢《ひょうのう》が熱を吸収するような感じで」
ライラ:「シオン ナイスアイデア!! だけど 氷の宝石ってあったかな…」
氷華:「私の力で良ければ使いますか?」
ライラ:「えっ?」
氷華:「私はトランサー |氷結《アイシクル》。 氷系能力を持つトランサーです」
ライラ:「特徴的な瞳だと思ってましたが あなたもトランサーだったんですね。
…もしかして 赤い瞳をもつそちらのお二方って」
燐:「トランサー チェイサー、|鎖《チェイン》の|睦月《むつき》 燐です」
凍矢:「燐の相棒でトランサー|消《イレイズ》の睦月 凍矢だ」
ライラ・シオン:「トランサー チェイサー!!?」
〈トランサー チェイサー〉というワードを聞いて2人は飛び上がり ショーケースの下で縮こまっていた。
ライラ:「わ、わ、わ、私達 人間は襲ってないです!!!」
シオン:「私も姉さんも 大人しく暮らしてますので 見逃してください!!!」
メイア:「ど、ど、どうしたんですか!?」
ライラ:「トランサーとして蘇生したあと 仲間から聞いたんです。赤い瞳を持つトランサーは トランサーチェイサーと呼ばれており、トランサーを見つけたら容赦なく消すから 絶対に見つかるなって」
燐:「そんな無差別に消したりしませんよ(汗) 悪意のみを消して 人を護るトランサーとなってる人だっているんですから、そう怯えなくて大丈夫ですよ」
シオン:「そ、それなら」
ヘイル:「なんか指名手配扱いされてる感じだな」
燐:「まぁ致し方ないのかな」
---
シオン:「えっと、話が脱線しちゃいましたが
このバングルと近しい金属は在庫があるため すぐに作製することは可能です。 オーダーメイドで サイズチェックを挟み完成させる場合には5日 即納品とする場合には3日を納期としていただいていますが ご希望はございますか?」
メイア:「継ぎ目がないタイプって出来ますか?」
シオン:「そうですね、そうなるとはめ込みやすさを確保するために 装飾を大きく減らすことになりますが」
メイア:「うーん、じゃあ 継ぎ目ありでお願いします。 このバングルと完全同じには出来ますか?」
シオン:「複製して |鋳造《ちゅうぞう》しないと完全コピーは難しいですね。今日これから始めて 即納品で3日後にはお渡しできるかと思います 」
メイア:「それでお願いします!! ヘイル、バングル預けても大丈夫?」
ヘイル:「ああ、いいぜ」
ライラ:「あとは バングルにはめる宝石を取り出しましょうか。氷華さん、私の手に氷華さんの手を重ねていただけますか?」
氷華の手を挟むようにして |現石《ジュエライズ》の力を使う。すると水色の宝石がライラの手に現れた。
メイア:「これが氷華さんから取り出された宝石? ここに|氷結《アイシクル》の力が込められてるんですか?」
ライラ:「そうですよ、完成したアクセサリーに組み込んで |封石《シーリング》をすれば完成になります。では またご来店お待ちしております!
あっ 氷華さんのオーダー品も今お渡ししますね!!」
ライラから渡された小ぶりな箱に入っていたのはアメジストがついたペンダントだった。
氷華:「ずっと作りたかったんだ! 誕生石のついたオーダーメイドのアクセサリー!!
早速今日の営業からつけてみようかな!」
稜也:「じゃあ ライラ!完成したらまた連絡頼むよ」
ライラ:「分かった! それじゃあ完成を楽しみにしててね!!」
---
宝石店で氷華達と別れると 燐 凍矢 メイア ヘイルの4人は |晴翔《はると》の元へ向かった。 もちろん|夢《ドリーム》の写真をたずさえて…。
トランサーになった際 瞳の色が変化しますが 赤色の瞳は現時点では燐・凍矢のみになります。
また ライラはシオンより3つ年上になります。
夢(ドリーム)⑨
--- 警視庁捜査一課 異形犯罪捜査係 ---
|燐《りん》 |凍矢《とうや》 メイア ヘイルの4人は確たる証拠になるであろう写真を持って|晴翔《はると》の元を訪れていた。
晴翔:「燐、 犯人の写真が手に入ったってホントなのか?」
燐:「メイアの記憶をヘイルが焼き付けてくれたんだ、この女性が|夢《ドリーム》で ほぼ確定かな」
ヘイル:「晴翔 前に見せてもらった捜査資料をもう一度見ていいか? 奴の行動周期を洗い出したくてな」
晴翔:「あ、ああ。 俺は前歴がないかデータベースにかけてみるよ」
晴翔が写真をスキャナーで取り込み カタカタとパソコンを触る中 ヘイルは瞳を緑色に光らせ捜査資料を端から端までなめるように見ている。時折ぶつぶつと独り言も言っている。
晴翔:「うーん、前歴なしか。 なぁメイア、ちょっと聞いてもいいか?」
メイア:「どうしたの?」
晴翔:「どうしてヘイルの瞳が緑色に光ってるんだ? |銅《あかがね》警視に催眠魔法を使った時は特に光ってなかったと思うんだが…」
メイア:「あれはただの催眠術だよ、警視さん気絶してたし。
ヘイルが作業したり能力を使う時に目が緑色になるんです。 あの目を見ちゃうと心を操られちゃうんで気をつけてくださいね♡」
晴翔:「心を!? どうしよう!!? 俺見ちゃったんだが!!?」
メイアと晴翔の会話を聞き ヘイルの手がピタッと止まる。ヘイルの表情が一気に険しくなったことに気づいた燐と凍矢は 身を寄せ合う。
燐 凍矢:「(あっ キレてる…)」
ヘイル:「【メイア!! 人の不安を煽るものじゃない! 資料の解析が終わるまで 部屋の隅で黙っていろ!】」そう言ったあとメイアをじっと見つめると メイアの瞳が緑色のラインで縁どられ コクリと緩慢に頷くと 部屋の隅で膝を抱えて座り 沈黙した。
ヘイル:「晴翔、メイアが すまなかったな。 誤って瞳を見てしまったとしても〈声〉を聞いていない限り そして俺が意識して見ない限り 操られることは無いから安心してくれ。
言動が 目に余ったから軽く仕置きしたが 気にすることはない。 よしっ 読み終えたっと!」
晴翔は洗脳されたメイアの顔を覗き込む。 ボーッとした表情をしており 晴翔のことは見えていないようだった。
晴翔:「これが操られた状態…か。 何か分かったか? 」
ヘイル:「失踪場所は必ず森林公園であること 20代前半の若者が被害者であること それ以外の性別職業に共通項目なし 残る日付に共通点があるのかと思い 調べてみたらビンゴだった。 〈月の満ち欠け〉が関係してた」
晴翔:「月?」
ヘイル:「失踪した日付 そしてつい最近 |夢《ドリーム》に会った日… |夢《ドリーム》が人を誘拐するのは【新月 弦月 満月 下弦の月】の時だったんだ。 ああ 弦月ってのは〈上弦の月〉の別名な。
俺達が |夢《ドリーム》に遭遇したのは満月、そして俺が|蒼樹《そうき》に相談に行った時が下弦の月 まぁこの日は雨が降ってたから奴も大人しくしてただろう。
となれば次に動き出すのは・・・」
晴翔:「新月か!?」
ヘイル:「ああ。下弦の月の夜から 2日経ってるから タイムリミットは丸4日と半日ってところか」
晴翔:「次の被害者を見つけて保護するには時間が足りなさすぎるな、被害者達の共通点だってバラバラだ」
ヘイル:「新月の夜、その場にのりこんで|夢《ドリーム》の奴と被害者を押さえる。 しかないだろうな」
晴翔:「ほぼ5日後とすると 7/10か」
燐:「うわぁ… 誕生日にトランサーをとっ捕まえないといけないのか。 タイミング悪いなぁ」
晴翔:「燐 誕生日なのか?」
燐:「うん、26歳になるよ」
そんな話をしている中 部屋の隅に忘れられてる人がいた。
メイア:「・・・・・・・」
ヘイル:「あ、 資料読み終えたから 洗脳解かないとな。忘れてた」
晴翔:「忘れてたって… なにげに酷くないか?」
そんな晴翔のツッコミは放っておかれ ヘイルは〈|解呪《ディスペル》〉を唱えるとメイアの目に光が戻り 自我が戻った。
メイア:「や、やっと解放された」
ヘイル:「さっきの言い方、冗談だとしても悪ふざけがすぎたから おしおきだ。晴翔は普通の人間、俺の洗脳が効きすぎる可能性が高いからな」
メイア:「晴翔さん ごめんなさい」
メイアが深く謝罪した。
晴翔:「気にしなくていいよ、メイア。俺も気になってはいたからな」
|夏弥《なつみ》:「随分賑わっていますね」
凍矢:「お邪魔してるよ、なぁ、この人物 見たことあったりしないか?」
凍矢が写真を夏弥に見せる。
夏弥:「この人 確か駅前で紅茶専門店をされてた方ですね。 雑誌でも取り上げられてて 名前は確か【|橋本 乃彩《はしもと のあ》】さんだったはずです」
燐:「はしもと のあ… それがこの人の名前」
夏弥:「しかし 《《もう亡くなって》》いますよ。 6年前に 店へ強盗が押しかけ刺殺されたんです。事件当日は死体があったのですが次の日に刑事が向かった時には死体が消えていたそうです。死体遺棄も視野に捜査してますが まだ見つかっていません」
凍矢:「6年前に刺殺か、 それを聞いて確定したな。 コイツはトランサーだ」
晴翔:「そうか! トランサーになるには《《1度死ぬ》》必要がある!!」
燐:「トランサーとして蘇生するのにかかるのもわずか数分だからね。 道端で死んでしまってトランサーとして蘇生・そのまま元の生活に戻っているトランサーだって 多い」
ヘイル:「思わぬ所で名前が分かったな」
---
用事が終わり 4人で事務所へ帰ってきた。
凍矢:「そういえばメイアって誕生日いつなんだよ?」
メイア:「えっと…」
ヘイル:「7/20だな、俺とメイアが融合した日でもある」
凍矢:「なぁヘイル? 新月の夜まで どっちみち動けないわけだし その間 メイアを借りてもいいか?」
ヘイル:「メイアを? 俺は別に構わないが メイアはどうする?」
メイア:「私は大丈夫だよ!」
凍矢:「なら 明日 迎えに行くよ、色々連れ回すかもだが 美味い飯でも食べようぜ!」
メイア:「うん! 楽しみ!!」
燐:「なら 私はヘイルと過ごしてもいい?」
ヘイル:「燐?」
燐:「ちょっと付き合ってほしくて」
凍矢:「俺はいいぜ!」
メイア:「私も!」
ヘイル:「|新月の夜《4日後》が |夢《ドリーム》との決戦の日か。 それまでの間 ミラに見張ってもらうか」
メイア:「キメラの力を完全にコントロール出来るようになったのか 3体まで分身体を作れるようになったしね!」
その後 メイアは〈|虚像《プリテンス》〉でミラを生み出した。メイアと同じ姿をしており、いつも通り メイアの前に跪いていた。
ミラ:「忠実なる しもべ ミラ、呼び掛けに応え ここに参上いたしました。 ご主人様、ご命令を」
メイア:「前に森林公園を見張ってた時と同じように 様子を見張ってくれない?
〈余計な物音は立てない・現地では言葉は発さず、何かあれば|精神感応《テレパシー》で伝える・偵察目的だから 犯人を見つけても深追いしない・ヘイル、燐、凍矢とは普通に会話する〉でヨロシク!!
あ、 偵察中は ローブを着て フードも被っておくこと!!」
命令を受諾した証として ミラの瞳に浮かんでいる緑色の渦模様が光ると、4人に対し 目を閉じ 忠誠を誓うように深くお辞儀する。
ミラ:「かしこまりました、ご主人様」
ヒュっとその場から消えると メイア達も拠点に帰っていった。
凍矢:「燐 何かリクエストメニューはあるか?」
燐:「それなんだけど メイアやヘイルとも一緒に食べたいんだ。 ロールキャベツとか難しいかな?」
凍矢:「検査した時は人間って診断されてたし 多分大丈夫だとは思うが 狼だし 玉ねぎの量を減らして肉の量を増やした方が食べ応えも上がって メイアも喜ぶだろ。 まぁ何かリクエストがあればいつでも言ってくれ!」
燐と凍矢は誕生日のディナーの話をワイワイとしていたのだった。
---
--- どこかにある 夢の世界 ---
|夢《ドリーム》は膝を抱えてガクガクと震えていた。
|夢《ドリーム》:「…嫌だ、アオナを失いたくないっ!ずっとそばにいて欲しい!あの笑顔を…忘れたくないっっ!! もしも、アオナの望みを聞き入れて 私の〈もの〉に変えたら…? 私の前に跪き、望みを叶えるだけの存在 それこそ操り人形になってしまう。そうなれば、もうあの笑顔も見られなくなる…?
もう、あの声も聞けなくなる。そんなの…そんなの… 絶対に嫌だ!!!【繭】には取り込ませない、アオナは…私が護るんだ!!」
4日後の新月の夜、 その日 多くの人物が 森林公園に集結しようとしていた。
決戦前(メイアside)
試験のやり方などについてはフィクションです。実際には違うので そこん所はヨロシクです(・∀・)
そして医師の青瀬も 単なるモブです。多分出る機会はないかとwww
メイアと|凍矢《とうや》は|逢間《おうま》市総合メディカルセンターに向かっていた。
メイア:「凍矢、 ここで何をするの?」
凍矢:「今日のメイアの仕事は 食べ物を食べることだ。 |蒼樹《そうき》の協力で人間のままであることは分かったが 前みたく 知らないで玉ねぎを食べてしまった なんてことがあるかもだからな。蒼樹のツテを借りたんだ」
受付で |長月《ながつき》蒼樹の紹介であることを伝えると 小さめな個室に通された。 その後白衣を着た男性が複数の食べ物を持って部屋に入ってきた。
|青瀬《あおせ》:「初めまして メイアさんの食物経口負荷試験を担当する 医師の青瀬と申します。
長月先生からの紹介ということでお話を伺っております」
メイア:「か、風野メイアといいます」
メイアは初めて見る男性に少し怖がっていたが そこは凍矢がフォローに入る。
凍矢:「付き添いの|睦月《むつき》 凍矢です。 メイアは初対面の人を怖がってしまうところがあるので同席を許可していただけたらと思います」
青瀬:「大丈夫ですよ。 今回摂取する食物としては【チョコレート 玉ねぎ ココア レーズン】で お間違いなかったですか?」
凍矢:「はい お願いします」
試験は採血を行った後、30分ごとに 食物を目標量の1/3ずつ摂取していった。しかし3回に分けて試験を行ったが 4種類ともアレルギー反応は見られなかった。
青瀬:「試験はこちらで終了です。 あとはこちらが血液を用いたアレルギー検査結果になります。 現在のところアレルギーは全く見られないです」
メイア:「じゃあ チョコやココアも普通に食べていいってことですか?」
青瀬:「もちろん暴食はダメですが 粒チョコ1ダース ミルクココア1杯等なら全く問題ないですよ」
パァーっと顔が明るくなり笑顔が浮かんでいる。
メイア:「あ、ありがとうございました!!!」
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お礼を言い メディカルセンターを出た2人は駅前のレストランでお昼ご飯を食べていた。
凍矢:「好きな物 食べていいぞ」
メイア:「うーん、 ねぇ 凍矢? これ一緒に食べたい!!」
指をさしたのは【オニオンサラダ】だった。
凍矢:「ああ、いいぜ! 他に食べたいのがあれば遠慮しなくていいからな」
テーブルにオニオンサラダが運ばれてきた他、グラタンやビシソワーズ等も注文した。オニオンサラダには 通常の白い玉ねぎだけでなく赤玉ねぎやレタス、パプリカ等も使われ 上にはゴマドレッシングがかかっていた。彩りも鮮やかで栄養満点だった。
メイア:「んーーーー!! おいっしい!
シャッキシャキだよ!」
凍矢:「生だが 辛味も そこまでないな。
・・・今日こうして誘ったのは 試験だけじゃなくて相談があったからなんだ」
メイア:「相談?」
凍矢:「かなり先だが メイアも誕生日が来るだろ? |燐《りん》の誕生日は|夢《ドリーム》との決戦日になっちまったから 前祝いしようとと思ってさ。 燐も|メイア ヘイル《ふたり》と一緒に食べたいって言っててな。 どうだろうか?」
メイア:「うん!! 私も一緒にご飯食べたい!!」
凍矢:「ふふっ そう言ってくれてありがとう。 何かリクエストはあるか?
燐はロールキャベツとか食べたいって言ってたが」
メイア:「・・・ロールキャベツって何?」
凍矢:「えっと こんなのだ」
凍矢は燐に契約してもらったスマホでロールキャベツの画像を見せる。
凍矢:「肉ダネをキャベツで巻いて 煮込んだ料理だ。コンソメやトマトソースで煮込む事が多いかな」
メイア:「美味しそう!!! 凍矢 作って!!! 玉ねぎのコンソメ煮が美味しかったからコンソメがいい!!」
凍矢:「ああ、分かったよ! 一応予定を燐と擦り合わせて 決まったらまた知らせに来るよ」
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今度は|稜也《りょうや》に連絡を取る。もちろん|氷華《ひょうか》経由だったが。
メイアは氷華と一緒におやつを食べており 別室で凍矢と稜也もジュースを飲みながら話をしていた。
稜也:「よぉ 凍矢! どうしたんだ?」
凍矢:「すまないな、準備中に。 少し聞きたいんだが 稜也って製菓って得意か?」
稜也:「製菓ってことは お菓子作りってことか。 まぁ パティシエの味には負けるし 凝ったのじゃなければ普通にできるぜ、これでも料理人だからな!」
凍矢:「こんな感じのケーキって作れるか?」
凍矢は稜也にケーキのイラストが描かれた紙を見せる。
【○プレーンスポンジとココアスポンジを丸く抜いて 2枚ずつ組み合わせたものを 4つくらい重ねてチェック模様みたいにする。
○スポンジはシロップをたっぷり吸わせて甘めに、逆に外に塗るクリームは甘さ控えめでさっぱりと。柑橘はメイアやヘイルが苦手かもしれない ヨーグルトとかが合いそう??
○スポンジの間には薄く切ったバナナ みかんの缶詰 細かくして炒ったアーモンドを挟むことで 人工的な甘すぎるケーキではなく フルーツの天然の甘さや食感などをプラスしたい…】と どんなものを作りたいかが書いてあった。
稜也:「へぇ〜 なかなかお洒落じゃないか!! イラストも上手いし。 そういや ココアって狼であるメイアちゃんが食べても大丈夫なのか?」
凍矢:「食物経口負荷試験をやって ミルクココア1杯くらいなら平気だそうだ。
あと DNA検査をして メイアは人間のままだってことが分かったよ」
稜也:「そうか、それは良かったな!!
うん、これなら 問題なく作れるだろうな。
2人のための誕生日ケーキってところか?」
凍矢:「まぁな」
稜也:「もし良ければさ |フォーティチュード《ウチ》を貸切にして盛大にパーティーでもやるか?」
凍矢:「貸切!? いいのかよ」
稜也:「まぁ いつやりたいか によるけれどな!」
凍矢は燐に連絡を取る、いつでもいい と言っていたことを稜也に伝えると 氷華に相談する。
当日のメニューなども稜也 氷華に相談した結果、食材などの準備もあるため 定休日であり|夢《ドリーム》との決戦前日 7/9になった。
凍矢:「氷華も稜也もありがとうな。 本当は俺も調理の手伝いしたいが…」
稜也:「まぁ そこは俺達に任せな! 最高の料理を作ってやるからよ!!
メンバーは 燐 凍矢 メイア ヘイル 氷華 俺。蒼樹は 来れたらになる。他に呼びたい奴はいるか?」
凍矢:「|従兄妹《いとこ》の|悠河《ゆうが》に 九条刑事もいいか?
2人とも 燐の仲間だ」
氷華:「分かったわ、もし来れなくなったら前日までに連絡を貰えたらありがたいかな」
凍矢:「了解!! 貸切なんてありがとうな。
じゃあ また当日に!」
氷華と稜也を挨拶をして 事務所に帰っていった。
お菓子に関しては「食戟のソーマ」より 茜ヶ久保ももちゃんが作ったケーキを参考にしました。
なにせ美味しそうだったから(・∀・)
決戦前(燐side)
決戦前(メイアside)と 時間軸としてはほぼ同じです。
朝から|燐《りん》は買い物をし 事務所に帰ってきた。ヘイルは応接スペースにあるソファに寝転がり考え事をしているようだった。
燐:「ただいま!」
ヘイル:「おかえり 燐。 何を買いに行ってたんだ?」
燐:「玉ねぎに チョコレート、レーズンにミルクココアかな。 なくなりそうだったから買い足しにね」
ヘイル:「そうか。 どうして俺を誘ったんだ?
何か目的でもあるのか? 」
スっと燐を見据える。
燐:「なにか企んでるんじゃないか そう思ってる? それなら残念、特に理由はないよ。ただ 一緒に過ごしたいって思っただけ。
予期しないことへ疑ってかかるってのは やっぱり人工知能としての|性《さが》なの?」
ヘイル:「そんなものだな・・・。もしかして気を使わせてしまったか?」
顔にスっと手を当てて伏し目になっていく。
燐:「今度はどうしたの?」
ヘイル:「メイアの中に戻った時に上書きされた記憶を見たんだ。 定期検診に行った|凍矢《とうや》はメイアにご飯をおごると約束してたが 俺が燐と凍矢を操ってしまって 結局その約束は果たされなかった。もしかして凍矢がメイアを連れ出したのは…」
燐:「あーー、そこまで深くは考えてないと思うから大丈夫(汗) ただ、私とメイアは 誕生日が近いから 一緒にご飯食べたいねーとは話したけど。何ヶ所か電話してたのは見たよ」
ヘイル:「そ、そうか…」
ソファにヘイルが寝っ転がる中 足元付近が空いていたので ちょこんと座った。
燐:「ヘイル、初めて会った時より 丸くなったなーって思うよ」
ヘイル:「丸くなった? 俺が?」
そう言うと身体をプニプニと触りだす。
燐:「なぜ古典的なボケをw そういう意味じゃなくて! 【|人間味《にんげんみ》が増してる】ってこと!!」
ヘイル:「人間味?」
燐:「ヘイルは人工知能だけど 感情がある。
メイアの為に怒ったり 悩んだり |安堵《あんど》したり… そして笑顔を見せて 笑ったり!ヘイルは もう立派な《《人間》》だよ」
ヘイル:「…立派な人間は 簡単に人を操ったりしないと思うが?」
燐:「あの時はメイアを|諌《いさ》めるためにやったことでしょ? メイアを叱るにしては まぁ やりすぎな気はしたけど」
ヘイル:「…かつての俺は人を支配し 意のままに操る ことしか知らなかった、 |それしか教わってこ《プログラミングされ》なかったから 人間は利用するモノでしかないと信じて疑わなかった。
だけど、こうしていられるのは メイアや燐 凍矢、|晴翔《はると》に|夏弥《なつみ》… たくさんの仲間に会えたからなんだと思う。強い光が暗闇を切り裂き 俺を引きずり出し 救ってくれた。
ただのプログラムである俺を人間って言ってくれて ありがとうな、燐」
目からキラキラした雫が流れていた。
燐:「なーーんか重いんだよなぁ、まぁいいか!
あ、そうだ。誕生日のことなんだけど メイアとヘイルとも一緒にご飯を食べたいんだけどどうかな?」
ヘイル:「ぜひ乗らせてくれ、 メニューは決まってるのか?」
燐:「ロールキャベツ食べたいとは提案してるけど 玉ねぎの量を減らして肉を増やす予定だよ」
ヘイル:「・・・燐 金は払うから さっき買ってきた【玉ねぎ チョコレート レーズン ミルクココア】をもらってもいいか?」
燐:「えっ 別にいいけど。すぐ買えるし」
ヘイルの前に【天地を切り落とし 皮を剥いた玉ねぎ丸々一個 レーズン一袋分が入れられたお椀 銀紙が剥がされた板チョコ1枚 淹れられたミルクココア1杯】が準備された。
燐:「言われた通りに準備したけど どうしたの?」フーっと静かに息を吐くと 燐の質問に答える間もなく…
シャクッ! シャクッ! ボリボリ!! ザラザラザラッ!! ゴクッゴクッ!!
ヘイルは突然玉ねぎを丸かじりして 板チョコを噛み砕き レーズンを流し込み 熱いココアを飲み干した。
燐:「へ、へ、へ、ヘイル!!? 急にどうしたの!?」
ヘイル:「アチチ 冷気の膜で冷えたとはいえ 淹れたてはやっぱ熱いな、軽くヤケドしたか。
玉ねぎも これだけかじると かなり辛いな」
燐:「・・・気が ふれた?」
ヘイル:「変なことを言うな! イヌ科動物にとっての【天敵食材】これだけ一気に食えば 当日入ってたとしても免疫があるから問題ないと思っただけだ。ロールキャベツはフツーに玉ねぎアリで作ってくれよ? 肉増量は大歓迎だがな」ニヤニヤした顔で燐を見つめた。
燐:「たまーーにぶっ飛んだ行動をするのも 人間らしさ なのかな」
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ウー○ーイーツで注文したお昼を二人で食べ
のんびりと横並びでソファに座る。 燐はあくびをしつつ目をこすっていた
燐:「うーん、お昼食べてお腹いっぱいになったから眠くなってきたな。ヘイル ごめん、肩借りてもいい?」
ヘイル:「肩といわず 《《こっち》》が空いてるから使っていいよ。 玉ねぎやレーズンを食ってしまったお詫びだ」
そう言うと燐の身体を静かに傾け 頭を自分の膝に乗せる。
燐:「(お詫びが 膝枕…? でも気持ちいいかも) ありがとう ヘイル。 でも凍矢が見たら半殺しにされるんじゃ…」
ヘイル:「その時はお仕置きでもなんでも受けるさ、俺から誘ったわけだし。
さぁ 燐 ゆっくり寝るといい」
そう言うと燐の肩を トーン トーン トーン と規則正しいリズムで触っていく。 徐々に燐の瞼が重くなっていき 身体がフワフワするような感じがして 眠気に抗えなくなる。
燐:「へ、ヘイ…ル コレ… ま…さか」
なんとかヘイルの顔を見るが 瞳の色は|琥珀色《アンバー》のまま、能力を使っている様子はなかった。
ヘイル:「リラックスして眠るには《《こっち》》の方が負担が少ないからな」
聞き終える前にフッと 瞼が完全に閉じ 静かに寝息を立てている。
ヘイル:「結局俺は このスタイルに落ち着くのか。
メイアは精神改造をしているから耐性がないのは分かる。だが燐も 燐だ、初めて会った時に洗脳を使ったが、あの効きやすさ 《《催眠や洗脳を受けたことがあるような感じ》》だった。
・・・今更どうこう言ってもか、さて 俺も昼寝するか」
ヘイルも同じように瞼を閉じて眠りにつく。
燐:「(ふわふわモコモコなお布団… あったかくて気持ちいい… 目覚めたくないなぁ…
・・・あれ? 私って 布団使ってたっけ?
それになんだか すっごくくすぐったいような )」
目を開けるとそこに居たのは・・・
【毛並みの良い灰色の毛をした 狼】だった。狼の右半身に身体を預けていたようだった。
燐:「灰色の毛ってことは ヘイル?」
声を聞いて スっと狼も目を覚ました。ストッとソファから飛び降り 伸びをして身体をブルブル震わせている。
ヘイル:「う、うーん。よく寝た! 燐 起きたのか。 なんか すごく燐が… 高く… 見える… んだが…」
燐:「私が高くなったんじゃなくて ヘイルが小さくなったんだけど?」
ヘイル:「・・・嘘だろ?」
次の瞬間 ヘイルが元の姿に戻る。
ヘイル:「マジかよ、 メイアだけかと思っていたが 俺も動物態になれるのか」
燐:「キレーな毛並みにふさふさの尻尾や耳もあったよ」
???:「膝枕なんてしやがって。 やけに気持ちよさそうに寝てたなぁ、ヘイル?」
???:「燐も 穏やかな笑顔で ぐっすりだったねぇ?」
声に気づきドアの方を見ると《《にっこりと笑顔を向ける》》凍矢とメイアがいた。
凍矢:「燐に膝枕なんざ 100年早いんだが?(ポキポキと拳を鳴らす)」
メイア:「私だってモフモフのヘイルの身体 堪能したかったのに。先を越されちゃったなぁ(右手の爪をペロリと舐める)」
ヘイル:「・・・・・・ えっと 」
そう言うと 動物態になるよう 半ば命令され 思う存分モフられる=くすぐられたのであった。
燐:「(こんなオチってアリなのかな?)」
誕生日会
--- 7/9 10:30 暁宝石店 ---
|稜也《りょうや》から連絡を貰い メイア ヘイル そして|蒼樹《そうき》が店を訪れていた。
ライラ:「いらっしゃいませ! お待ちしておりました。 バングル 出来上がりましたよ!」
シオン:「ヘイルさんのバングルと同じ形にし |氷華《ひょうか》さんから取り出した宝石を|封石《シーリング》により固定、これによって衝動は この石に吸収・昇華されるようになります」
メイア:「前に着けてたものと同じ! 嫌な気持ちがスーッと消えてくみたい」
ヘイル:「俺の相棒もおかえり。 ありがとうな、バングルを作ってくれて!!
えっと 代金はいくらだ・・・」
蒼樹:「それなら心配ない、俺が出す」
ヘイル:「そんな! 俺たちが」
蒼樹:「紹介すると言ったのは俺だからな」
ヘイル:「そ、そうか」
太陽の光が当たってバングルや水色の宝石はキラキラと輝いていた。
--- 同日 13:00 BAR |fortitude《フォーティチュード》の厨房 ---
厨房で稜也はケーキ用クリーム作りをしつつ コンソメスープの入った鍋ではロールキャベツが大量に煮込まれていた。
その端で 氷華はサーモンと玉ねぎを薄切りにしブルスケッタの準備をしていた。
稜也:「ブルスケッタを|前菜《オードブル》にするなんて 考えたな!」
氷華:「手軽に食べられるし |フォーティチュード《ウチ》では名物だからね。 これを機に店へ通ってくれたらなー とも考えてるわ」
稜也:「抜け目ねぇな ホント、さすが氷華だ。 おっとスポンジが焼けたな!うん、生焼けなし。 あとは天地を切って、4枚にカットっと♬ 氷華、切れっ端だが食うか?」
氷華:「モグモグ 美味しい!! お菓子作り上手じゃない! なんで言ってくれなかったのよ!!」
稜也:「|凍矢《とうや》には言ったが パティシエには勝てねぇし、 お菓子作りは趣味範囲だ。メイアちゃんや燐ちゃんのために作っているが お店で作ろうってまでは思わないんだよなぁ」
氷華:「稜也なら行けると思うんだけどなぁ… 」
2種類のスポンジをスライスしては丸く くり抜き、生地を組み合わせる。シロップを上からかけた後 薄く切ったバナナとクリームを載せ、1層目と反対の組み合わせにしたスポンジを敷き、シロップをかけ 今度は缶詰のみかんとクリームを並べる。
1層目と同じスポンジを重ね シロップをかけ クリームを薄く塗って 細かく砕き炒ったアーモンドを散らすと 2層目と同じスポンジを載せ クリームを丁寧に塗り 絞り袋を使いデコレーションをしていく。チョコレートで作ったメッセージカードを飾り、トップにはブルーベリーを置いていく。 稜也は謙遜していたが パティシエが作るものと遜色ない出来栄えだった。
稜也:「凍矢の要望通りのが出来たな! あとは冷やしとくか。 氷華ありがとうな、色々拡充してくれて!!」
氷華:「いいのよ、 2人の大事な記念日だもの! 投資は惜しまないわ」
稜也:「ロールキャベツもトロットロの出来、スパニッシュオムレツに ポテトサラダ!! 前菜は|フォーティチュード《ウチ》自慢のブルスケッタ!! デザートには特製ケーキ!!いい感じのメニューになったな!」
氷華:「あとは 時間になるのを待つだけね」
--- 同日 夜8時 ---
主役である|燐《りん》とメイア、凍矢 ヘイル 氷華 稜也 |悠河《ゆうが》 |晴翔《はると》 が集結した。蒼樹は参加が出来ないとの事だった。
貸切になったフォーティチュードはいつも以上に賑やかだった。お誕生日おめでとう!!!の声とともに乾杯し、各テーブルに並んだ料理をつまみながら歓談 たまに席替えしていく。
燐とメイアはロールキャベツをほおばり、ヘイルと凍矢はスパニッシュオムレツやブルスケッタを食べながら話をしていた。氷華、稜也、悠河の3人はトランサーだが初顔合わせだったため自己紹介しつつ ポテトサラダを食べ、唯一の人間である晴翔はヘイル 凍矢と一緒にいた。
燐:「凍矢のロールキャベツも美味しいけど、稜也さんの料理も美味しい!!」
メイア:「これがロールキャベツ… パクッ !!!キャベツはトロトロで お肉が美味しい!!」
ヘイル:「んっ! なかなか美味いな」
凍矢:「野菜がゴロゴロ入ってて このスパニッシュオムレツ 美味いな!!!
…晴翔、緊張してるだろ? これだけ|人外《バケモノ》がいる中で人間だからな。 そう心配しなくてもいい、何かあれば 全員で護るからさ」
晴翔:「いや、トランサーってこんなにいるんだなって思ってさ。 みんな 人を護る側のトランサーって事だよな… 燐や凍矢のような」
氷華:「フォーティチュード 店主でトランサー|氷結《アイシクル》の |露橋氷華《つゆはし ひょうか》です。 以後お見知りおきを」
稜也:「調理を担当してる |赤城稜也《あかぎ りょうや》だ!! 今日の料理はほとんど俺が作ったんだ! あ、トランサー|豪炎《ブレイズ》だ。
もう1人 今日参加できなかったんだが 精神科医でトランサー|迅雷《ライトニング》の|長月蒼樹《ながつき そうき》もいるんだ!俺 氷華とは幼なじみでな たまに店にも来るんだぜ!」
悠河:「燐の|従兄妹《いとこ》で トランサー|銃撃《スナイプ》の|香沙薙悠河《かざなぎ ゆうが》だ」
稜也:「|香沙薙《かざなぎ》って 《《あの》》香沙薙組か!!?」
悠河:「ああ、《《あの》》香沙薙組だ。若頭をしてる」
晴翔:「凍矢、今 香沙薙組って聞こえたが」
凍矢:「悠河のことか。 燐の従兄妹だ」
---
一通り 料理を食べ終わると店内が暗くなる。
稜也:「ハッピーバースデー トゥーユー♬」
氷華:「ハッピーバースデー トゥーユー♬」
稜也 氷華:「ハッピーバースデー ディア♬」
稜也:「メイアちゃーん♬」
氷華:「燐ちゃーん♬」
稜也 氷華:「ハッピーバースデー トゥーユー♬」
おめでとう!! の声と拍手が巻き起こる。
燐とメイアがろうそくの火を消すと パチッと明かりがつく。 白いクリームに包まれた大きいケーキだった、カットされ全員に行き渡る。
チェック柄のスポンジが見え 間にはバナナ・みかん・細かく砕いたアーモンド そしてトップにはブルーベリーが飾られていた。
ふわふわでシロップをたっぷりと吸った甘いスポンジと さっぱりとしたヨーグルトベースのクリーム、ケーキはあっという間に無くなってしまう。
パーティーが終わり 解散したのは ほぼ日付が変わった頃だった。 それぞれ家に帰り 眠りにつく。
そして・・・
ミラ:「ご主人様、 以前と同じく 時計塔より北西200mの広場にトランサー|夢《ドリーム》が現れました。 被害者と思しき女性も一緒にいます」
新月の昇った夜、ミラからの報告を聞き 森林公園前で待機してた4人は広場へ向けて駆け出した。
もちろん燐と凍矢は トランサーの力を目覚めさせ、メイアとヘイルは獣化した姿で…。
夢(ドリーム)⑩-1
第1章 最終決戦となります。
報告を聞いた4人は 様子を確認するため ミラがいる茂みに向かう。
メイア:「ミラ あの2人が?」
ミラ:「先に|夢《ドリーム》が扉と共に出現、その後被害者と思しき女性が走ってきました」
ヘイル:「メイアの記憶にあった女で間違いないな」
|凍矢《とうや》:「|燐《りん》、どうした?」
燐:「なんだか妙な感じがするんだ、少し様子見したいかな」
|夢《ドリーム》:「アオナ! 来てくれてありがとう。ちゃんとチョーカーも着けてきてくれたんだね」
アオナ:「ノア〜〜〜〜〜♡♡ こうして現実で会えて幸せだよォ♡♡ 」
|夢《ドリーム》はギュッとアオナを抱きしめ 頭を撫でている。アオナは恍惚な表情で|夢《ドリーム》を見つめ頭を擦り付けていた。
|夢《ドリーム》:「アオナ 絶対に私のそばを離れないでね」
アオナ:「えっ…?」
キィィィンという高音の耳鳴りのようなものが聞こえ|夢《ドリーム》以外の5人は耳を塞いだり頭を押さえていた。
凍矢:「なんだよ、この音は…!! 頭が割れそうだ…!!」
ヘイル:「あの扉から鳴ってるのか…!!!」
???:「汝、己の決めし誓約を破るというのであればそれ相応の代償を払う必要がある。 その覚悟はあるか」
謎の声が聞こえてきた。
|夢《ドリーム》:「アオナは【繭】に取り込ませない。夢の世界を作るための誓約【精神・肉体の従属化を完了した者を【繭】に閉じこめ、エネルギー源とすること】 たとえその誓約を破ったとしても アオナは私が護ると決めたんだ!!」
|夢《ドリーム》はキッと扉を その【声の主】を睨みつけている。
燐 凍矢 メイア ヘイル:「!!!!!」
ヘイル:「被害者となった100人もの人々全員が夢世界のエネルギー源となってるってのかよ…!!? 規模がデカすぎる!」
メイア:「しかも従属化とか言ってない!!? アオナって呼ばれてる人、|夢《ドリーム》と同じ金色の瞳をしてる!! まさかあの人も!!?」
凍矢:「あの恍惚な表情、チョーカーで操られてるってことだ。一時期のメイアとそっくりだな。チッ!! いい趣味をしてると思っていたが、今までで見たトランサーの中でも1番最悪な野郎だ!!!」
燐:「・・・・・・」
|夢《ドリーム》はアオナを自身の身体で庇いつつ 腰に差していた細身の剣を抜く。
???:「これより10分間、汝の愛する者を護ってみせよ。僅かでも傷がついた場合には失敗とみなし、【繭】へ取り込むこととする。この条件を呑むか否か」
|夢《ドリーム》:「条件を呑む。 アオナは・・・必ず護り抜いてみせる!!」
剣を扉に突きつけ、覚悟の強さを表した。
凍矢:「燐…? どうして動かないんだ!?」
燐:「アオナさんだけは違う気がする。もちろん従属化は完了してるんだろうけど。もう少しだけ様子見したい」
メイア:「燐・・・?」
バンッと勢いよく扉が開くと 無数の【手】が出現、悲鳴をあげるアオナを庇いつつ片手で剣を軽々と操り【手】を倒していく。アオナを護るために 自分が傷つくことを恐れていなかった。
時間はあっという間に過ぎていく。アオナには土汚れひとつ付いていない。
|夢《ドリーム》:「護りきった…!! ハァ、ハァ。流石にしんどいかも…!!」
膝をつき 荒い呼吸を整えていくと、気絶したアオナを木の傍に寝かせていた。 再び扉の前に立ち、左手を前に突き出すと共に黄金の瞳に意識を集中させた。
|夢《ドリーム》:「|夢《ドリーム》の名において命じる!!九条アオナの肉体をこのまま保持、今後アオナに対して危害を加えることの一切を禁じる!!!」
???:「誓約の更新を認める」
謎の声は そこで途絶えた。
---
ヘイル:「終わったのか・・・?」
燐:「凍矢 メイア ヘイル。ここは私1人に行かせて」
凍矢:「無茶を言うな!! 奴がメイアにしたことを忘れたのか!!」
燐:「大丈夫。 大丈夫だから 2人だけにさせて」
凍矢:「燐・・・。 危険を感じたらすぐ加勢するからな、場合によっては《《奴ら2人とも消すことを視野に入れなければ》》」
ヘイル:「凍矢! それはやりすぎだ。 トランサーの血を消し 従属化を解けばいいだろう 」
凍矢:「あの瞳を見ただろ!! |夢《ドリーム》を庇い襲ってくる可能性だってある!! その状況に遭遇したヘイルなら危険性をわかってんだろ!!!」
メイア:「凍矢・・・」
燐:「ともかく 行ってくるから」
茂みから出て 燐は血の入ったボトルを開ける。
無意識に匂いを嗅いだ|夢《ドリーム》は 右手で頭を押さえ左手で何とか身体を支えるようにしてうずくまっている。その左手にポトッ ポトッと汗が絶えず落ち、黄金の瞳は輝きを増し 匂いの正体を探っている。
|夢《ドリーム》:「こ、この匂い…【|原初《げんしょ》の王の血】の匂い…!!」
燐:「トランサー|夢《ドリーム》、ですよね?」
|夢《ドリーム》:「あなたは…? ッッ!赤い瞳!!? まさかトランサーチェイサー!!?」
燐:「|鎖《チェイン》の|睦月《むつき》燐です」
|夢《ドリーム》:「 囚われた人々は従属化を解除し 安全に解放します!! どんな処罰も受けます!! だから…このままアオナと一緒にいさせてください!!」
態度が一変し ガクガクと震え 燐に縋るように懇願していた。
燐:「アオナさんって そこの木の下で寝ている方ですか?」
|夢《ドリーム》:「は、はい。 私は これまで アクセサリーを着けさせ 肉体精神共に従属化させ扉から出てきた【手】に包ませ【繭】として取り込んできました。しかし アオナを失うのが怖くなってしまって。 たとえ【誓約】を破ったとしてもアオナと離れたくないんです。従属化こそしていますが、危害は加えていません!!!どうか どうか!!」
燐がトランサーチェイサーだと知り 消されるかもしれない恐怖に 酷く怯えながら 事の顛末を話す。すると気絶していたアオナが目を覚まし|夢《ドリーム》を探していた。
アオナ:「う、う〜〜〜ん。ノア〜〜〜?
どこいるの〜〜〜? あ、いた〜〜〜♡♡♡
ノア〜〜〜♡♡ 探したんだよォ♡♡♡。 ・・・この人は?」
燐:「初めまして、睦月 燐と言います。 2人を ・・・【保護】しに来ました」
保護、その言葉を聞いた3人も茂みから走ってきたが 顔には不信感しか浮かんでいなかった。
凍矢:「燐!!! 一体何を考えてんだ!! |夢《ドリーム》が この2年で100人近い人々を攫っていると知ってるだろ!! しかもソイツらは全員 夢世界を維持するためのエネルギータンクにされてんだぞ!!! 」
ヘイル:「俺も反対だ。 ソイツはメイアを魅了し 間接的に燐へ危害を加えた。 なぜ保護しようと思える!!!」
メイア:「燐… 本当にその人を信じていいの!!?」
燐:「凍矢 メイア ヘイル…」
|夢《ドリーム》:「り、燐さん。この方々は…?」
燐:「私の仲間です。 共に戦い トランサーを人間に戻してきました。 |夢《ドリーム》、いや本名は【|橋本乃彩《はしもと のあ》】さん ですよね?」
|夢《ドリーム》:「私の名前…! 知ってたんですか!?」
燐:「私もつい最近知ったんです。 もう一度聞かせてください、【アオナさんに危害を加えてはいないんですよね?】」
乃彩:「精神 肉体を従属させていますが 暴力を振るったり 暴言を言ったりはしていません。チョーカーを外せば 従属化は解け 元の人間に戻ります」
凍矢:「燐!! 奴の言葉を信じるな!!!」
燐:「乃彩さん この場でアオナさんの従属化を解いてください。 そうすれば凍矢達も嘘を言ってないと信じてくれるはずです、もし これからもアオナさんと共にいたいということであれば こちらも便宜を図ります」
乃彩:「り、 燐さん…」
突然 凍矢は燐の胸ぐらをつかみあげる。
凍矢:「いい加減にしろよ 燐…。 どうして そうも他人を信じられる! いつも言ってるだろ!簡単に信用しすぎるなって!!!
捜査資料を読んだだろう、コイツは証拠をほとんど残さず人を誘拐した凶悪な犯罪者なんだぞ!!!
メイアやヘイルも敵ではあったが 状況が違うんだよ。
トランサーが全員 俺達のような考えを持つわけじゃない、|蒼樹《そうき》も言っていただろう、人間の心を失っていない奴は多くないって!!!」
燐:「でも アオナさんのことは護ってた!!! 乃彩さんの中に 人を護りたいって気持ちが芽生えたんだよ!!!」
メイア ヘイル:「燐…」
乃彩:「あ、あの・・・」
言い争う中、スーッと静かに手を挙げた。
凍矢:「何だ!!!」
乃彩:「従属化 今すぐ この場で解きましょうか?」
凍矢:「!! どういうつもりだ? 何がお前を変えた!?」
乃彩:「元々 アオナも夢世界に取り込むつもりでした、しかしアオナと過ごす内に 笑顔を見られなくなる・声が聞けなくなることが怖くなってしまって。 それで護りたいと思ったんです」
ヘイル:「嘘をついてる様子はない、ソイツが語ってることは 紛れもなく本心だ」
凍矢:「たとえ本心を語ったとしても それで|過去《罪》が消える訳じゃない。 俺は反対だ!」
燐:「(乃彩さんがアオナさんを護りたいと思う気持ちは本物。だけど、2年で100人近い人々を誘拐してきたことも事実。
仲間にしたい…!乃彩さんとアオナさんも 引き離さないで2人でいて欲しい。 でも それは叶わない思いなのかな… )」
様々な思いに 燐の心は不安定になっていった。
夢(ドリーム)⑩-3 第1章Last & 次章予告
???:「鎮静の指輪を外しても暴走しないとは。 強くなったな |凍矢《とうや》」
後ろからコツコツコツと 足音が聞こえる。
|蒼樹《そうき》 |稜也《りょうや》:「|駿兄《しゅんにぃ》!!」
|氷華《ひょうか》:「駿兄ちゃん!!」
凍矢:「この声… |運命《フェイト》ォォォォ!! 何しにきやがった!!」
|運命《フェイト》:「そう睨むな 凍矢、お前と戦う気は ない。【|原初《げんしょ》の王】 願わくば会いたくなかったがな」
|鎖《チェイン》はチラッと|運命《フェイト》の姿を見ると 凍矢をドサッと投げ捨てた。
|鎖《チェイン》:「久しぶりだねっ |運命《フェイト》♡ 。会うのは|燐《りん》がトランサーに|変貌した《なった》あの日以来か。せっかくトランサーに《《してあげた》》のに 守護の|呪《まじな》いで私を封印しちゃうんだもんなぁ。まぁ その腹いせで認識改変してあげたんだけど」
凍矢:「認識改変だと… 俺達に何をしたんだ!!」
|鎖《チェイン》:「封印される直前〈2人がトランサーに変貌したのは |運命《フェイト》のせいだ〉って記憶や認識をあやつったんだよ。特に凍矢は 深くかかってくれたから運命を憎むようになった! 19年もの間 私の手のひらの上で踊らされてたんだよ!! まっ 先に|運命《フェイト》へ認識改変をかけたんだけど強い精神力のせいで効かなかったから すぐ立て直せないくらいの大怪我を負わせてやったっけ♡
上手くコートで隠してるけど 義手でしょ?その右腕♡」
凍矢:「じゃあ 前に 俺が|運命《フェイト》を攻撃してしまったのは…!!」
|鎖《チェイン》:「認識改変によって操られてたってわけ! あの時の凍矢は|滑稽《こっけい》だったなぁ!!!
大通りで|運命《フェイト》と会った時 〈雨や雷に対し極度の恐怖を感じるようにさせたのも 奴からお前達の身を隠すためだ〉って言ってたけど 本当は《《7歳の身体へ大量に血を流し込んだせい》》だってのに!!! 2人に流しこんだ血だって 【|運命《フェイト》の】 じゃなくて【私の】血だったし!!! |運命《フェイト》は|燐《りん》のことを気にかけて嘘をついたのに 凍矢は全力で襲いかかったっけ!!
想定通りに行きすぎて 笑いが止まらなくて 最っ高の見せ物だったよ!! アッハハハハハハハハハハハっ!!」
凍矢:「ぐっ…!!! 燐の身体で言わせておけば…!!」
|運命《フェイト》:「元々潜在能力が高く、両親からの虐待により 負の感情が高まっていた燐は恰好の餌食だった。 私が燐の元に着いた時にはもう遅かった、せめて 【|原初の王《元凶》】を倒すまでの間 奴が出てこられないように守護の|呪《まじな》いを燐の肉体と指輪に それぞれ使っていたという訳だ。19年も経つと 流石に弱まってしまったが 指輪を外しきる前にかけ直すつもりだった。
氷華達をトランサーにしたのも 私の手が届かない時に護ってもらいたかったから だった。 理由を明かすことも出来ず すまなかったな」
氷華:「駿兄ちゃん…」
|運命《フェイト》:「【原初の王】、守護の|呪《まじな》いが弱まった今 燐の身体を奪い 何をするつもりだ」
|鎖《チェイン》:「ハァ、そんな変な呼び方じゃなくて |鎖《チェイン》って呼んでよ♡ 私は燐と違ってトランサーを元の人間に戻す気は まっっっっったくないもんだからさぁ? とりあえず、そこにいる人間2人でも |変えてあげ《仲間にし》ようかなって思ってるところ♡
えーっと アオナって言ったっけ? トランサーになれば 永遠に |夢《ドリーム》と一緒にいられるよ?
あとは|晴翔《はると》だっけ? トランサーになれば身体能力が飛躍的に上がるから 検挙率だってぐーーーんと上がるかもよ?
まっ 1度死んでもらうんだけど そっから生き返るって保証はないんだよねぇ!! 《《運が良ければ》》 生き返るかもよ!! アッハハハハハハハハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハ!!」
チラッとアオナ・晴翔を見つめ 舌なめずりをしては嘲笑っている。
アオナ:「ひっ!! ノアーーー!!」
ギュッと|乃彩《のあ》にしがみつき ガクガク震えていた。
乃彩:「大丈夫、アオナには指一本触れさせないから!」 アオナの頭や背中をさすりつつ キッと睨みつける。
|浪野《なみの》:「|九条《くじょう》は私の大切な相棒だ、そうやすやすと 誘惑へ引きずり込めると思うな」
晴翔:「浪野警部…」
メイア:「本当の燐なら絶対にこんなこと言わないのにッ!」
ヘイル:「いちいち鼻につく野郎だッ! 燐が囚われてなきゃ 好きにさせねぇってのに!!」
|運命《フェイト》:「残念だが 貴様の思い通りにはさせん。 燐は返してもらうぞ」
凍矢:「|運命《フェイト》!! やめろ!! そいつを傷つけたら中にいる燐が!!!」
驚いているのもつかの間 |鎖《チェイン》は同じように左脚で蹴りつける。だが |運命《フェイト》は右腕で蹴りをガードした。
|鎖《チェイン》:「燐は私のモノ。完全に取り込んであげたから もう戻ってはこない。 これからは私が燐として生きていく、その邪魔はさせないからッッ!!!」
|運命《フェイト》:「私のモノ・・・ か。 だが こういう手もあると知れ」
空いている左手を|鎖《チェイン》の胸元に押し当て |寸勁《すんけい》を繰り出す。 ドクンと身体が大きく揺れると【燐】が|鎖《チェイン》の中から飛び出し 芝生の上をゴロゴロと転がった。ゆっくりと目が開いていくと その瞳は金色ではなく赤色であった。
燐:「あ、 あれ? 私は一体何をしてたの?」
凍矢:「りーーーーーん!! 」
凍矢が燐の元に真っ先に駆け寄り 力いっぱい抱きしめた。
凍矢:「燐!! 燐!! また会えた…!!!」
燐:「と、凍矢!! 痛いってば!離してよwww」いつもの優しい笑い方であった。
|鎖《チェイン》:「バカな!! |燐《ヤツ》は完全に取り込んでいたのに!!!」
|運命《フェイト》:「この18年 貴様や燐の監視以外 何もしていないわけが無いだろう。貴様の運命は私が変えた。〈光〉である燐、〈闇〉である貴様。寸勁と|運命《フェイト》の力を合わせ分離させた。永遠の闇へと還れ、貴様の居場所は どこにも無い」
|鎖《チェイン》:「くっ…!! せっかくこうして|外《表》に出られたのに 短かった地上生活だったなぁ。まぁ いい、燐がトランサーであり続ける限り 私は存在するんだし。 指輪を外すことがあれば また身体をいただくまでだよ♡ 今度は完全に虜にしてあげないとなぁ」
|運命《フェイト》:「その野望は もう叶わないぞ」
|鎖《チェイン》:「ハァ? 何言ってんの?」
|運命《フェイト》:「運命が変わった貴様は 何をしようとも燐の中には戻れない。たとえ指輪を外したとしても 燐を乗っ取ることは不可能だ」
|鎖《チェイン》:「燐の中に戻れない、居場所は無い ねぇ。【私】がそう簡単にやられるわけねぇだろ、バカが。 盛大なフラグ建築 お疲れ様っ!! じゃあねぇ♡」
アオナと晴翔を護りつつ 隙をうかがっていた メイアとヘイルが四足歩行の構えをとり、同時攻撃するも消えてしまう、痕跡を必死に探すも見つけられず |獣化《じゅうか》を解いた。
メイア:「|完全獣化し四足歩行の構えをとった《あの状態の》私達の攻撃を避けるとはなぁ、もはや〈凄い〉の域だね。ヘイル」
ヘイル:「痕跡も一切残っていない。 あんなのが燐の中に潜んでいたとは…」
凍矢:「逃げられた…!! 完全獣化した2人の攻撃を避けてッ!? くそっ!!
… |運命《フェイト》 燐はどうなったんだ?」
|運命《フェイト》:「身体はトランサーのままだが 奴が抜けたことで 燐も凍矢も 血に呑まれ心を支配されることは無くなった」
凍矢:「確か お前にも燐と同じ《《血》》が流れているんだよな。ってことは お前の中にも…!!」
|運命《フェイト》:「ああ、1度乗っ取られたことがある。だが自力で消した。 同じくトランサーのままだが支配されることは無い。味方だから安心していい」
燐:「…しゅん兄さん」
そう言うと また気を失ってしまった。
|運命《フェイト》:「時間が経てば精神力もまた戻る、そのまま休ませてやれ」黒髪をスっと撫でる。
蒼樹 :「駿兄 突然現れて何も言わずに消える。なんて 言わないよな?」
氷華:「駿兄ちゃん せっかく会えたのに」
|運命《フェイト》:「蒼樹 氷華 稜也、元気そうでなによりだ。 これからも燐のことを見守ってやってくれ」
|運命《フェイト》は氷華達に笑みを向け チラッと燐に目をやると そのまま黒い粒子となって消えてしまった。
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凍矢:「【|原初の王《ヤツ》】の強い気配に引き寄せられたとはいえ、まさかここまで人が集まるとはな。
トランサーが8人に 人間が2人か」
氷華:「場所を移動しましょう? 少し行けば私のお店があるわ」
凍矢:「そうだな… 燐を休ませてやりたいし。 浪野警部や晴翔は出てきてしまって大丈夫なのか?」
晴翔:「夜間勤務がさっき終わって 2人とも非番になった。俺は大丈夫だが 浪野警部はどうされます?」
浪野:「私も問題ない。同行しよう」
凍矢:「|夢《ドリーム》とアオナ、2人も来てくれ。 手荒な真似はしない」
|夢《ドリーム》:「分かりました。 アオナのことは私が護ります」
意見がまとまり 一行は氷華のバーに向かった。
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完全獣化した 2人のキメラの攻撃を避け姿を消してしまった|鎖《チェイン》は とあるビルの屋上で片膝を立てて座り逢間市を見下ろしていた。
|鎖《チェイン》:「|運命《フェイト》、妙な技を覚えちゃって。燐が私のモノになりかけてたってのに、あの変な攻撃のせいで組成がめっちゃくちゃ、身体が保てないな。 ハァ 封印されてたとはいえ いつでも奪えるから と胡座をかいていた私の失態か。
・・・もうキレた、あったまに来た!! 身体が奪えないのであれば |燐《ヤツ》は私にとって障害でしかない。《《殺す》》だけだ。 私は【原初の王】、使えるのが|鎖《チェイン》だけだと思ったら大間違い♡♡ まだ続いている|夢《ドリーム》との確執を利用してやる。
新たな力は |悪夢《ナイトメア》! 最高の悪夢によって衰弱させ 喉を掻きむしらせ かっ切らせてやる。再生能力が追いつかないくらいに出血させて 凍矢ともども この世から消してやる。ハハハハハハハハハハハハ!!!」
【|鎖《チェイン》】のモチーフは仮面ライダー龍騎より〈鏡像の城戸真司/リュウガ〉、仮面ライダーブレイドより〈本編38話 KFとなって暴走した剣崎くん〉ですが、恐らく1番近いのはペルソナシリーズの〈シャドウ〉だと思います。
自分と真反対の〈自分〉 みたいなものなので。
第1章はこちらで完結です。しかし これからもトランサーチェイサーのお話は続いていきます。 第2章でお会いしましょう!!
あ、第2章 初戦の相手は決まっております。もちろん彼女【|鎖《チェイン》 改め |悪夢《ナイトメア》】です(・∀・)