いつも本気で書いてるけど・・・ここのシリーズに載っているのは、本気の本気で
自分でもなっとく出来る作品です!
多分自信があるので見てください!
後、多分長いです。(本気で書くと長くなるんで・・・)
続きを読む
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
夜しか開かないクリーニング屋
1 始まり
街外れの細い路地。街灯がチカチカと瞬くその場所に、夜の12時を過ぎた時だけ現れる紺色の暖簾(のれん)があります。
さらは、いつもイライラしていました。
「あー、ムカつく。あいつの顔、見てるだけで腹が立つ」
口を開けば毒を吐き、クラスメイトを萎縮させる。そんな自分が嫌いなのに、どうしていいか分からず、さらに性格をこじらせる。そんな悪循環の中にいました。
ある深夜、家を飛び出したさらが偶然見つけたのが、その店でした。
「……クリーニング屋? こんな時間に?」
さらはいら立ちを隠さず、引き戸をバシャンと開けました。
カウンターにいたのは、真っ白なシャツを着た、影の薄そうな店主です。
「ねぇ、クリーニングしてよ。さっさと」
さらが乱暴に自分のカーディガンを投げつけると、店主は困ったように微笑みました。
「すみません。ここは**『心のクリーニング屋』です。お洋服ではなく……あなたの心**をクリーニングしましょうか?」
「はあ? なにそれ、バカじゃないの?」
さらは鼻で笑いましたが、店主は構わずにスプレーをひと吹きしました。それは夜露を集めて作ったような、ひんやりと甘い香りがしました。
「……汚れがひどいようですね。でも、大丈夫。明日の朝には乾いていますよ」
翌朝の変化
次の日、さらが目を覚ますと、胸の奥にあったドロドロとした塊が、嘘のように消えていました。
学校へ行くと、いつものようにクラスメイトが怯えた顔で道を譲ります。
「おはよ。……あ、その消しゴム、落ちたよ」
さらが自然に笑顔でそう言うと、教室に激震が走りました。
「えっ、さらが……笑った?」
「ありがとうって言ったぞ!?」
その日を境に、さらは別人のように穏やかになりました。トゲが抜けた彼女の周りには、少しずつ友達が集まるようになったのです。
広まる「クリーニング屋伝説」
「ねえ、さらが急に優しくなったの、あの路地裏の店のせいらしいよ」
「『心の汚れ』を落としてくれるんだって」
噂は一気に広まりました。
片思いで心がボロボロの女子生徒。
嘘をつきすぎて自分を見失った学級委員。
いつも誰かを妬んでしまう少年。
夜な夜な、悩みを抱えた生徒たちが路地裏の紺色の暖簾をくぐります。
店から出てくる誰もが、翌日にはスッキリとした、どこか透明感のある表情で登校してくるようになりました。
しかし、さらだけは気づいていました。
あの日、店主が最後に呟いた言葉を。
「クリーニングは、あくまで『汚れ』を落とすだけ。新しい真っ白な服をどう着こなすかは、あなた次第ですよ」
さらたちが手に入れたのは、「優しさ」そのものではなく、自分の本当の気持ちに向き合うための「心の余白」だったのかもしれません。
2 クリーニングから汚れた心
戻ってしまった色
「ちょっと、どういうことよ店主!」
ゆうかは、紺色の暖簾を乱暴に捲り上げました。数日前、さらが優しくなったと聞いてこの店を訪れ、自分も「心のクリーニング」を受けたはずでした。翌日は気分が晴れやかで、クラスメイトにも愛想良く振る舞えた。なのに。
「また戻ったんだけど! 今日、ムカつく後輩を思いっきり怒鳴っちゃったわよ。魔法が切れたんじゃないの?」
カウンターの奥でアイロンをかけていた店主は、手を止めることなく静かに答えました。
「言ったでしょう? これはあくまで汚れを落とすだけ。あなたは、せっかく新しくなった白色の服を、また自分から汚してしまいましたね」
「はあ? 私のせいだって言うの?」
ゆうかが身を乗り出して詰め寄りますが、店主は冷ややかな、けれどどこか悲しげな瞳で彼女を見つめました。
「クリーニングは一生に一度だけです。これ以上、お貸しできる洗剤はありません。……帰ってください」
「……っ! 別にいいわよ、こんな店!」
ゆうかは吐き捨てるようにして店を飛び出しました。しかし、夜風に当たると急に不安が襲ってきました。以前の「性格の悪い自分」に戻ってしまった。でも、周りは「優しくなったゆうか」を期待している。
一方その頃、さらだけは違いました。
さらは、再び「汚れ」がつきそうになるたび、あの夜の冷たいスプレーの香りを思い出していました。
「……また汚れちゃうのは、嫌だな」
さらが自分で自分の心にブレーキをかけ、踏みとどまっている一方で、ゆうかは「魔法」が自分を変えてくれると信じ切っていたのです。
翌日、学校。
「おはよう、ゆうかちゃん!」
明るく声をかけてきた友達に対し、ゆうかの口から出たのは、以前と同じトゲのある言葉でした。
「うるさいわね、話しかけないでよ」
凍りつく周囲。ゆうかは自分の口を押さえましたが、もう遅いのです。一度真っ白になったことを知っている周囲の目は、以前よりも冷たく、ゆうかに突き刺さりました。
3 あなたへの2度目の洗剤
「もう、最悪……」
クラスで孤立し、居場所をなくしたゆうかは、雨の降る夜、吸い寄せられるように再びあの路地裏に立っていました。暖簾は出ていません。店があるはずの場所は、ただの古びた空き地に見えます。
「嘘つき。一度きりなんて……。結局、誰も助けてくれないんじゃない」
ゆうかが地面に座り込み、涙をこぼしたその時。
足元から、ふわりとあの「夜露の香り」が漂ってきました。
「……汚れを落とす方法は、化学反応だけではありませんよ」
顔を上げると、いつの間にか店主が傘を差しだして立っていました。手には、見たこともない透明なボトルを持っています。ラベルには**『共感の雫(しずく)』**と書かれていました。
「店主! 2回目はダメって言ったじゃない!」
「ええ、通常の洗剤は。ですが、これは『特別な2度目の洗剤』です。ただし、これを使うには条件があります」
店主は、ボトルをゆうかの手に握らせました。その液体は、ゆうかが流した涙と同じ温度で温かく震えています。
「それは、他人の涙を借りて作られた洗剤です。あなたが誰かの痛みを自分のことのように感じたとき、初めてそのボトルが開きます」
「他人の……痛み?」
「今のあなたは、自分が嫌われることばかりを悲しんでいる。それはただの『自己愛』という汚れです。自分ではなく、あなたが傷つけた誰かのために泣けたとき、2度目のチャンスは訪れます」
店主はそう言うと、霧のように姿を消しました。
4 ゆうかの変化
翌日。ゆうかは学校で、かつて自分が無視し、笑いものにしていた大人しい女子生徒・美咲が、別のグループに陰口を言われている場面に遭遇しました。
今までのゆうかあなら「自業自得だ」と笑っていたはず。
しかし、昨夜の店主の言葉が耳の奥でリフレインします。
(あの子……あんなに震えてる。私がやってたことも、あんなに怖かったのかな)
その瞬間、美咲の悲しみが、ナイフのようにゆうかの胸を刺しました。
「……ごめん。本当に、ごめん」
美咲のために流した涙が、ポケットの中のボトルにポタポタと落ちます。
カチッ、と音がして、ボトルの蓋が開きました。
中から溢れ出したのは、これまでの「魔法」のような強制的な変化ではなく、じわじわと体温を上げるような、優しい光の粒子でした。
ゆうかはボトルの光を纏(まと)いながら、美咲の方へ一歩踏み出しました。
「……そこまでにしなよ。その子は、何も悪くない」
それは、魔法の力で言わされた言葉ではなく、ゆうかが自分の意思で、自分の汚れを削ぎ落として放った言葉でした。
5 役目の終わり
さらとゆうかの変化は、学校中の語り草になりました。
「あの二人があんなに仲良く、しかもあんなに穏やかになるなんて」
噂は尾ヒレがつき、「あそこに行けば誰でも聖者になれる」という過激な伝説へと変わっていきました。
ある夜、その噂を聞きつけた一人の少年が、藁をも掴む思いで路地裏へ向かいました。彼はクラスでいじめられ、心に深い闇を抱えていました。
「頼む……僕の心も、真っ白にしてくれ……!」
しかし、彼がどれだけ路地を歩き回っても、紺色の暖簾は見当たりません。そこにあるのは、湿ったコンクリートの壁と、捨てられた段ボールだけ。
「ない……。どこにもないじゃないか!」
翌日、彼から「店が消えた」と聞いたさらは、胸騒ぎを覚えてゆうかを誘い、放課後の路地へと向かいました。
6 消えたクリーニング屋
夕暮れ時の路地裏。いつもなら夜の帳とともに現れるはずのその場所には、やはり何もありませんでした。看板も、あの夜露の香りも、店主の影さえも。
「……本当に、なくなっちゃったんだ」
ゆうかがぽつりと呟きました。あんなに必死に縋り付いた場所が、最初から存在しなかったかのように消えている。
二人が呆然と立ち尽くしていると、ふと、空き地の隅に置かれた古びた木箱の上に、一通の白い封筒が置かれているのに気づきました。
さらは震える手でその手紙を手に取り、中身を開きました。
「心のクリーニング屋」より
汚れを落とす手伝いが必要な時間は、もう終わりました。
クリーニング屋の役目は、新しい服を着せることではなく、あなたが「自分で汚れを落とせるようになるまで」の時間を稼ぐことです。
さらさん、あなたはもう、自分で自分の機嫌を取る方法を知っています。
ゆうかさん、あなたはもう、他人の痛みを知り、自分を律する強さを持っています。
この街に、もう私の洗剤は必要ありません。
これからは、少し汚れても、自分で洗って、乾かして、また歩いていってください。
――店主より
手紙を読み終えた二人の頬を、夜風が撫でていきました。
「……そっか。私たち、もう卒業しなきゃいけないんだね」
さらは手紙を大切に胸に抱き寄せました。
「ねぇ、ゆうか。明日、あの店を探してたあの子に話してみない? 店に行かなくても、自分たちで変えられる方法があるって」
「……そうだね。私たちにしか言えないこと、あるもんね」
二人は一度だけ、誰もいない空き地に向かって深く頭を下げました。
もう、魔法の香りはしません。
けれど、二人の心には、どんな洗剤よりも強い「自分を信じる力」という輝きが残っていました。
エピローグ あなたの町でも
さらとゆうかが「心のクリーニング屋」を卒業してから、数年の月日が流れました。
二人はもう、魔法のスプレーに頼らなくても、自分の力で心のシワを伸ばし、汚れを拭き取って生きていく強さを手に入れていました。
けれど、世界にはまだ、自分ではどうしようもないほどの「心の汚れ」に苦しみ、下を向いている人がたくさんいます。
今夜も、世界のどこかの暗い路地裏で……。
街灯がひとつ、チカチカと瞬き、紺色の暖簾がふわりと揺れます。
「いらっしゃいませ。ここは、心の汚れを落とすクリーニング屋です」
店主は、かつてさらやゆうかを出迎えた時と同じ、穏やかな微笑みを浮かべて立っています。
「……あなたも、その心の汚れを落としてみませんか?」
もし、あなたが誰かにひどい言葉を投げたくなってしまったり、自分のことが嫌いになってたまらなくなったりした時は、この物語を思い出してください。
目を閉じて、静かに耳を澄ませてみてください。
そこには、ひんやりと甘い香りが漂っているかもしれません。
あなたが本当に「変わりたい」と願ったその瞬間、あなたの住む町のすぐそばにも、あの不思議なクリーニング屋が姿を現しているはずですよ。
満月の夜に会いましょ
第1章:満月の夜の招待状
街が寝静まった深夜、空には不自然なほど大きな満月が浮かんでいた。
二十歳のルアは、アルバイトの帰り道、見慣れた商店街の片隅に違和感を覚えた。
「あんなところに、本屋なんてあったかな……」
古いレンガ造りの建物の隙間に、ぼんやりと温かい光を漏らす店があった。看板には文字がなく、ただ一冊の開かれた本のマークが彫られている。吸い寄せられるようにドアを押すと、カランと乾いた鈴の音が響いた。
店内は、天井まで届く本棚と、古い紙の匂いに包まれていた。そのカウンターの奥に、大きなとんがり帽子を被った少女が座っていた。
「いらっしゃい。私、魔法使いのアル。あなたの開きたい『希望』はなぁに?」
唐突な言葉に、ルアは思わず吹き出しそうになった。コスプレか何かだろうか。けれど、アルの瞳は夜空のように深く、嘘をついているようには見えなかった。ルアは少し自嘲気味に、胸の奥に隠していた願いを口にした。
「……私はね、イラストレーターになりたい。誰かの心を動かすような、そんな絵を描きたいの」
アルは満足げに頷くと、カウンターの下から一冊の本を取り出した。
「任せて! えっと……これとかどうかな?」
差し出された本の表紙には、金色の装飾が施されていた。しかし、そこに書かれたタイトルは**「~~~」**と、見たこともない複雑な記号が並んでいて、一文字も読むことができない。
ルアは戸惑った。けれど、その本から放たれる微かな熱に、抗えない魅力を感じていた。
「……はい。お願いします」
その言葉を聞いた瞬間、アルがいたずらっぽく微笑んだ。
「いい返事。それじゃあ、あなたの希望の光の本を開きましょう」
ルアが恐る恐る表紙に手をかけ、ページをめくろうとしたその時。アルの声が、遠くから響く鈴の音のように耳元で跳ねた。
「また、満月の夜に会いましょう」
「えっ……?」
顔を上げた瞬間、強烈な光が視界を真っ白に染めた。ルアは戸惑いながらも、指先に力を込めてその本を開いた――ーー。
第2章:目覚めと一通の通知
本を開いた瞬間、溢れ出した光に飲み込まれた。
ルアの意識は、底のない深い闇へと吸い込まれていった。
「……ピピッ、ピピピ……」
小鳥のさえずりが耳をくすぐる。
重い瞼を開けると、そこはいつもの自分の部屋、いつものベッドの上だった。
「……夢? 朝、だよね?」
窓の外には穏やかな朝日が差し込んでいる。昨夜の不思議な本屋も、自称魔法使いのアルも、まるで長すぎる夢を見ていたかのようだ。
「まあそうだよね。魔法使いなんているわけないし、ここはファンタジーの世界じゃないんだから……」
そう苦笑いして、起き上がろうとしたその時。
机の上に置いたタブレットが、鋭い通知音を響かせた。
ルアが不思議に思って画面を覗き込む。そこには、一通のメールが届いていた。
【件名:新規イラスト制作のご依頼】
「……えっ?」
イラストレーターを夢見ていたルアにとって、それはずっと待ち望んでいた、けれど一度も届いたことのない「奇跡」の通知だった。
第3章:三日間の魔法
「絵の、依頼……?」
ルアは震える指で画面をタップした。それは単なる夢物語ではなく、
現実の仕事としてのオファーだった。
「やる……。絶対に、最高の絵を描いてみせる!」
机に向かったルアの脳裏に、真っ先に浮かんだのは昨夜の光景だった。
あの不思議な本。吸い込まれるような大きな満月。そして、いたずらっぽく笑う魔法使いの少女、アル。
「よし、これをテーマにしよう」
1日目。
真っ白なキャンバスに、まずは大きな「満月」を描いた。
普通の黄色じゃない。アルの瞳のような、深くて吸い込まれそうな銀色を何度も塗り重ねる。ペンを動かすたび、指先にあの夜の熱が蘇るような気がした。
2日目。
月の下に「古い本」を描き足した。
あの時、どうしても読めなかった「~~~」という奇跡の文字。ルアはそれを、自分なりの光の模様として描き込んでいく。一筆ごとに、夢と現実の境界線が溶けていくような不思議な感覚に包まれた。
3日目。
最後に描くのは、あの「女の子」だ。
とんがり帽子を被り、いたずらな光を宿した瞳。ルアは食事も忘れ、没頭した。
「私にしか描けないアルを、ここに……」
思うまま、自由に。
背景には星屑を散りばめ、風の音さえ聞こえてきそうなほど緻密に色を乗せていく。
「……できた」
三日三晩。最後の一筆を置いたとき、画面の中のアルが、ほんの一瞬だけ瞬きをしたように見えた。
時計を見ると、外は再び、あの夜と同じような静寂に包まれている。
空を見上げると、窓の向こうにはあの時と同じ、大きな満月が輝いていた。
第4章:鳴りやまない通知と、奇跡の始まり
描き上げた絵を納品し、SNSにも恐る恐るアップロードしたその数時間後。
ルアの日常は、音を立てて激変した。
「……なに、これ……」
スマートフォンの通知が止まらない。画面をスクロールしても、新しい「いいね」と「リツイート」が滝のように流れ落ちていく。
【この絵、吸い込まれそう】
【満月の光が本物みたい!】
【この女の子、どこかで会ったことがある気がする……】
世界中の見知らぬ人たちが、ルアの描いた「アル」に熱狂していた。
3日間、寝食を忘れて注ぎ込んだ情熱が、光の速さで海を越え、何万人もの心に届いていく。
「夢じゃない……よね?」
大手出版社の編集者、有名なゲームメーカー、さらには海外のギャラリーからも、次々とダイレクトメッセージが舞い込む。
ルアは、たった一晩で「無名の卵」から「時の人」へと駆け上がったのだ。
けれど、賞賛の嵐の中で、ルアの心にはある一つの「予感」だけが強く残っていた。
机の上に置かれたタブレット。
画面の中のアルは、相変わらずいたずらっぽく笑っている。
その瞳は、窓の外で刻一刻と丸くなっていく月を見つめているように見えた。
「……今日だ」
カレンダーを確認するまでもない。
今夜は、あの不思議な出会いからちょうど一巡りした、満月の夜。
ルアは上着を掴むと、夜の街へと駆け出した。
もう一度、あの魔法使いに会いに・・・・
第5章:一日早すぎた再会
「アル! 来たよ、約束通り満月の夜に!」
ルアは息を切らせて、あの路地裏へと飛び込んだ。胸を高鳴らせ、感動の再会を期待して周囲を見渡す。……けれど、そこにあるのは古びたシャッターの閉まった空き店舗と、薄暗い街灯だけ。
温かい光も、紙の匂いも、鈴の音も、どこにもない。
「えっ、なんで? 魔法が解けちゃったの? それとも私の絵が気に入らなかった……?」
絶望に打ちひしがれ、ガックリと膝をつくルア。世界中で自分の描いた「アル」が絶賛されているというのに、肝心の本人に会えないなんて。
悲しみに暮れながら、ふと夜空を見上げた。そこには、煌々と輝く……。
「……あれ?」
月は、右側がほんの少しだけ、削り取ったように欠けていた。完璧な丸じゃない。
ルアは慌ててスマートフォンを取り出し、「月齢カレンダー」を検索した。画面には無情にも、大きな文字でこう記されている。
【明日の夜:満月】
「…………一日、早かった」
ルアは真っ赤になって頭を抱えた。三日間、一歩も外に出ずに絵を描き続けていたせいで、今日が何曜日で、月が今どんな形かなんて、すっかり忘れていたのだ。
「あ、明日……明日だよね。うん、明日また来よう。誰も見てなくてよかったぁ……」
ルアは誰もいない路地裏で、一人恥ずかしさに悶えながら、トボトボと家路についた。
明日こそが、本当の約束の夜。
第6章:あなたの魔法ではない
ついに、本当の満月の夜がやってきた。
昨夜の失敗を糧に、ルアは何度もカレンダーを確認してから、あの路地裏へと走った。
「……あった!」
そこには、あの日と同じ温かい光を漏らす本屋が、静かに佇んでいた。カラン、と鈴の音が鳴る。カウンターの奥には、やはりあの魔法使いの少女・アルが座っていた。
「いらっしゃい、ルア。……昨日は、ちょっと早かったわね?」
アルはクスクスと、すべてお見通しだと言わんばかりに笑った。
ルアは顔を真っ赤にしながら、手元のタブレットを差し出した。
「アル! 見て、あの時描きたいって言った絵、完成したの。世界中のたくさんの人が、私の絵を『魔法みたいだ』って言ってくれて……!」
画面に映る、三日三晩かけて描き上げた最高の一枚。
それを見たアルは、ふっと目を細めて、静かに首を振った。
「いいえ、ルア。これは、あなたの魔法ではないわ」
ルアは一瞬、息が止まった。
魔法使いであるアルに「魔法じゃない」と否定されたショックで、言葉が詰まる。けれど、アルは優しい手つきでルアの描いた絵の表面をなぞった。
「これはね、あなたが自分の手で手繰り寄せた『現実』よ。あの本を開いたのはあなた。三日間、寝る間も惜しんでペンを握り続けたのも、あなた」
アルは真っ直ぐにルアの瞳を見つめた。
「私はただ、あなたが最初から持っていた勇気に、ほんの少しだけ『きっかけ』という栞(しおり)を挟んだだけ。この絵が誰かの心を動かしたのは、私の魔力じゃなくて、あなたの情熱がこもっているからよ」
ルアは呆然とした。
魔法の力で夢が叶ったのだと思っていたけれど、本当は、あの日「はい」と答えて本を開いた瞬間から、自分の足で歩き始めていたのだ。
「……そっか。私の、力……」
「そう。だからね、ルア。もうこの店に来る必要はないわ。だって――」
アルがそう言いかけた瞬間、店内の本たちが一斉に光り始めた。
第7章:鏡合わせのさよなら
光に包まれる店内で、アルはいつになく穏やかな表情でルアを見つめていた。
その瞳の奥には、どこか自分と似たような、懐かしい光が宿っていることにルアは気づく。
「……アル、あなたは何者なの?」
ルアの問いに、アルはいたずらっぽく、けれど優しく微笑んだ。
「私はね……あなたの分身みたいな者。あなたが諦めかけていた夢や、心の奥に眠っていた勇気が形になった存在なの。ほら……私の名前をひっくり返してみて?」
ルアは頭の中で、その文字を並べ替えた。
「アル」……「ルア」。
「あっ……!」
「そう、気づいた? それに……よく見て。私たち、似てるでしょ?」
とんがり帽子の下、アルの素顔が月の光に照らし出される。それは少し幼いけれど、まぎれもなく自分自身の面影を持っていた。ルアが自分の夢を信じるために作り出した、心の鏡だったのだ。
「私はあなたと会えて良かった。あなたが、自分の足で一歩を踏み出してくれて、本当に嬉しい」
アルの体が、透き通るような光の粒に変わっていく。
「さよならは言わないわ。また、10年後の満月の夜に会いましょう。その時までに、あなたがどんな素敵な絵を世界に見せているか、楽しみにしてるから」
「待って、アル! ――私、頑張るから!」
ルアが手を伸ばした瞬間、カラン……と、ひときわ高い鈴の音が響いた。
次の瞬間、鼻をくすぐっていた古い紙の匂いが消え、頬を撫でる夜風の冷たさが戻ってきた。
気がつくと、ルアは誰もいない路地裏に立ち尽くしていた。
本屋も、アルも、魔法のような一夜も、すべては幻のように消え去っていた。
けれど、ルアの手には重みがあった。
抱えていたスケッチブック。そこには、世界中の人を魅了したあの絵が、力強い筆致で刻まれている。
「……10年後、か」
ルアは夜空に浮かぶ、完璧なまでに丸い満月を見上げた。
もう、魔法に頼る必要はない。自分の名前をひっくり返しただけの少女に、胸を張って再会できるように。
ルアは力強く地面を蹴り、自分の描くべき未来へと走り出した。
エピローグ:10年目の約束
カレンダーに赤い丸をつけてから、もう何度目の満月だろう。
でも、今夜の月だけは特別だった。
20歳のあの日、路地裏で魔法に出会ったルアは、いまや世界的にその名を知られるプロのイラストレーターになっていた。
個展の最終日、詰めかけた記者たちの前で、ルアは穏やかに微笑んでインタビューに答えた。
「私がここまで来られたのは、ある一人の女の子のおかげなんです。10年前の満月の夜に出会った、不思議な魔法使いの『アル』。当時10歳だった彼女が、私に『希望の本』を開く勇気をくれました。彼女がいなければ、今の私の絵はありません」
テレビの向こうで流れるその言葉は、感謝という名の、時を超えた招待状だった。
そして、運命の夜がやってきた。
30歳になったルアは、かつて走り抜けたあの商店街に立っていた。足取りは当時よりも力強く、けれど胸の高鳴りはあの頃のままだ。
「……あ」
路地の奥。10年前と同じ場所。
そこには、まるで時間が止まっていたかのように、温かい光を放つあの本屋が静かに佇んでいた。
カラン……。
懐かしい鈴の音に迎えられ、ルアはドアを開けた。
カウンターの奥には、とんがり帽子を被った一人の女性が座っていた。
「いらっしゃい、ルア。……ずいぶん、素敵な大人になったわね」
顔を上げたその女性は、20歳になったアルだった。
かつての幼さは消え、今のルアにそっくりな、けれどどこか幻想的な美しさを湛えた大人の女性へと成長している。
「アル……会いたかった」
「ふふ、私もよ。あなたの活躍、ずっと見てたわ。私の魔法じゃなくて、あなたの『光』で世界を照らしているところをね」
アルは10年前と同じように、カウンターの下から一冊の本を取り出した。
でも、その表紙にはもう、あの読めない記号はない。
そこには、ルアがこの10年間で描き続けてきた、数えきれないほどの笑顔と光が詰まっていた。
「さあ、次の10年のページを開きましょうか。今度の希望は、なぁに?」
窓の外では、10年前よりもずっと大きく、まばゆい満月が二人を祝福するように輝いていた。