誰もが認める中1の歴女・歴暦。
ある日、ひょんなことから意識が薄れてタイムスリップ!?しかも、なんだか偉人の姿になっちゃってて…
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第1回 わたしは歴女ですが?
「ははじめましてっ。|歴暦《れきこよみ》です、すすきなものはっ、えーと…歴史です、特に日本史が好きです。よろくお願いします!」
最後は半ば投げやりで自己紹介をした。噛み噛みだし、何より好きなものが歴史…
この間、楠木山小学校を卒業し、晴れて楠木山中学校1年生となった。白いシャツに茶色のニット、青いリボン。うん、セーラー服よりもこっちの方が好きだ。
さて、わたしは誰なのか?
ひとことで表すのなら、『歴女』だろう。親が歴史研究者ということも相まって、わたしは歴史好きだ。6年のはじめに日本史は一通りマスターしたし、これからはいろんな国の歴史を勉強するつもりだ。大学は、歴史学校と名高い雪島歴史大学に進学したい。そんなところである。
ちなみに楠木山中はスマホ持ち込みOKなので、最近買ってもらった白いやつがある。いつか歴史のステッカーを貼りたい。まあ、授業中は禁止なのは当たり前であるが。
歴史人物の推し…うーん、まあ卑弥呼とか、聖徳太子あたりだろうか?いるかどうかわからないミステリアスなとことか、そのカリスマ性とか…今の国の基盤を作ったのって、やはり天才ではないだろうか?だから、古代の人物は憧れる。でも、文学の祖を築いたというのであれば、紫式部や清少納言もいいな。本物の仏教を伝えるために日本に来た鑑真も憧れるし、藤原氏だって作戦勝ちという感じですごい。いや、いっそのこと近代か?でも、戦国時代の武将もいいな。いや、有名どころじゃなくてマイナーなの…でもでも!有名とかマイナー関係無しに好きなのを好きと言えるのが、真のファンではなかろうか?
あっ、失礼失礼。
さて。
この自己紹介で、今日プライベートで話しかけてくれる人は、何人だろうか?恐らく…0だろう。もっといい感じの女子男子は何名だっているのだ。わざわざわたしに話しかけてくれるのは、歴史好きと歴史を教えてほしいバカ。この2つに限られる。
が、4月上旬で歴史を意識する人は何名だろうか?これも、恐らく0。いや、もう恐らくじゃなく、確定で0である。
「はーー」
愛読書の『歴史人物大図鑑』を手に取り、黙々と読み始める。すでに…どうだろう、20周はしたかな?でも、辞典と変わらないくらいの分厚さがある。
眼鏡こそかけていないが、自分でもわかるくらいには無愛想である。近づきがたいと思うのも無理はない。これで仲良くしたいという者は、心置きなく仲良くできる。裏があるなんて思うだろうか。
はぁ、平凡な中学校ライフか。
___そう思ってたのに、まさか、あんなことが起こるなんて__
第2回 まじないなんてできません!
自己紹介が終わった放課後。
わたしはつるむこともなく、真っ先に家に帰る。スマホで時刻を確認して、歩道橋を渡って___
「うぇーい!」
あ、小学生男子だ。小4ぐらい?
そう思ってると、バタッとぶつかられた。
「キャッ」
意外と悲鳴は小さくてか弱い。
だけど、ふと目を開けると、地面に歩道橋の緑がない。右手はしっかりスマホを握ってる。ああ、ぶつかられたから歩道橋から落ちたのか。
___死ぬじゃん!!
そう思っても悲鳴はあがらず、どんどん意識が|朦朧《もうろう》としてくる。
もっとキラキラライフ、送りたかったな…
---
…うーん、うーん…
バッと起きる。奇跡的に助かった?いや、まさか。真上から落ちたんだ、あの距離で死なないのは常人じゃない。
それにしても、服が薄着だ。もっとニット着てたのに。…なにこれ、この薄っぺらい白い服!?
「姉様っ」
「うぇっ!?」
そこには…うーん、微妙な美男子。って、「姉様」って何!?わたし、一人っ子なんだけど?
「どっ…」
「どういうことでございますか、早くまじないで政治のあり方を決めてください」
…まじない?政治?
この言葉の積集合で導かれるのはただひとつ。『卑弥呼』、だ。
卑弥呼。弥生時代にまじないでくにをまとめ、導いた謎の邪馬台国の女王。いるかどうかも不明で、わたしの推しの一人だ。
「わたしって…卑弥呼?」
「どういうことですか。ヒミコ、は、渡来人の呼び名ではありませんか、姉様」
「…ああ、そうだった、わね。あはは、ちょっと疲れたみたい。じゃあ、まじないをするわね」
…って軽ーいノリで言ったけど…わたし、まじないなんて、くに統一なんてできません!
まじないなんてできないし…早めに抜け出さないとっ。
「ごめんっ、ちょっと疲れちゃって。また今度にできない?」
「…でも、姉様はいつも働いてます。どうぞ、ゆっくりお休みください」
よしっ、これで抜け出せる。
ひとまず、髪飾りとかの類をすべて外して、教科書で見た農民風に。万が一豪華に見えても、指導者の方が卑弥呼より断然良い。
ハシゴを降り、わたしは石包丁を手に取った。
「お前」
「はっ、ひゃいっ!?」
うわ、いかつそうな男の人…この人が、かしらなのだろうか?豪族、いや王?
「見ねぇ顔だな。部外者か?」
「いえ……」
うぅぅ、否定できないぃ。
「とっ捕まえろ、部外者だあーーーっ!!」
ひえええっ!?やめてぇええ!?
あ、ヤリがここに迫ってる…やだよ、卑弥呼を偽って死ぬなんてさ…
---
「わぁ!?」
緑の地面。ここは…歩道橋?
「あなた、歴史旅行者っ!?」
そうぐいっと手をひかれた。えーと…誰ですか?
「えーと…すみません、誰ですかね?」
「|橘紫《たちばなむらさき》、ってとこだけ教える。あ、父は|青《あお》、母は|緑《みどり》、小4の妹は|赤《あか》」
うおー、すごい安直な名前。紫って…しかも、めっちゃ気が強い。
「んで、話をそらさないで。歴史旅行者って言ってるのっ!」
「れれれきしりょりょこうしゃぁ!?」
歴史旅行者って何?
「あー…えーと、例えば縄文時代とか、安土桃山時代とかにタイムスリップした人のこと」
「…は、はい…弥生時代にたいむすりっぷ?して、卑弥呼になりました、逃げちゃいました…」
「何をせがまれてたの?」
「まじないをして、くにの方針を決めろって…」
「あー…」
ううぅ、なんかやっちゃいました?
「ま、まだ軽めってとこ、ね…逃げたの、懸命な判断だわ」
「けっ、懸命な…?」
「ま、もし下手なまねをしたら飛んでくるから」
そう言って、紫さんはふいっと消えてた。
え、え、わたし、何かやっちゃいましたぁあ!?
第0話 登場人物
--- |歴暦《れきこよみ》 ---
性格:押しに弱い、いたって普通。
容姿: https://picrew.me/share?cd=gOhgLI29bg
好き:スマホ、歴史(特に日本史)
嫌い:目立つこと
クラス:楠木山中学校1年2組
推し:たくさんいる
その他:意思とは反対にタイムスリップしてしまう、歴史旅行者
--- |橘紫《たちばなむらさき》 ---
性格:気が強めで、リーダー気質。
容姿: https://picrew.me/share?cd=yfyheDIjn1#google_vignette
好き:歴史、学校
嫌い:歴史旅行者
クラス:楠木山中学校2年3組
推し:北条政子
その他:歴暦を追いかけている
--- |橘赤《たちばなあか》 ---
性格:真面目で、きっちりしている。
容姿: https://picrew.me/share?cd=jxOOVgf660
好き:歴史、片付け
嫌い:大雑把な人
クラス:楠木山小学校4年1組
推し:聖徳太子
その他:紫の妹で、将来は歴史学者になりたい。将来有望。
--- |橘青《たちばなあお》 ---
性格:さっぱりしていて、明るい。
容姿:ー
好き:歴史、青色
嫌い:掃除
クラス:38歳
推し:織田信長
その他:紫と赤の父で、歴史学者。
--- |橘緑《たちばなみどり》 ---
性格:しっかりしているが、どこか抜けている。
容姿:ー
好き:歴史、絵を描くこと
嫌い:家事
クラス:38歳
推し:特にいない
その他:紫と赤の母で、歴史警察だった。
--- |田町彰子《たまちしょうこ》 ---
性格:根暗で、あらゆるものに興味がない。
容姿:https://picrew.me/ja/image_maker/2307052/complete?cd=TTwIKZ7Rjr
好き:推し活
嫌い:勉強
クラス:楠木山中学校2年1組
推し:ミスズ(YouTuber)
その他:親と同じく、時間研究者
--- |宮永瑞稀《みやながみずき》(ミスズ) ---
性格:明るくて元気いっぱいな活動者だが、リアルは無愛想で不良。
容姿(リアル):https://picrew.me/ja/image_maker/2307052/complete?cd=abEvZcQ52l
容姿(活動者):https://picrew.me/ja/image_maker/2307052/complete?cd=R3Xh57FFzy
クラス:大崎中1年3組
推し:なし
その他:不登校で暇だったので活動者になった
---
--- 歴史旅行者 ---
歴暦のように、タイムスリップしてしまうことを指す。主に2つあり、
①突発的歴史旅行者(本人の意思は関係なく、タイムスリップする人のこと)
②意思的歴史旅行者(本人の意思で、道具などを用いてタイムスリップする人のこと)
がいる。歴暦は突発的歴史旅行者である。
--- 歴史警察 ---
主に意思的歴史旅行者が、歴史を改変した・しようとしたら捕まえる警察。突発的歴史旅行者でも、改変したら逮捕される。今は紫が見習いで、緑が元歴史警察。
--- 時間研究者 ---
時の流れやタイムスリップについて調べる職業。田町彰子が時間研究者。
第3回 伝説なんて全て嘘です!
ふわぁ…とあくびが漏れる。先週、いきなり歩道橋から落ちて卑弥呼にタイムスリップ。なんとか逃げれたと思ったら、2年の先輩である橘紫さんという人に問い詰められ…さんっざんだ。
学校生活は平々凡々で、足して2で割ってやりたい。そしたらちょうどよくなる。
今までより歩道橋を注意して渡る。よし、今日はぶつかられなかった。ほっとして、ふうっと息を吐いた。すると____
「わああ!どどいてくださぁあい!?」
わ、自転車っ!?
---
…あーもー、またタイムスリップ?また橘先輩に咎められるかもなのに…
「厩戸王様?」
「う…うまやどのおう?」
厩戸王?えーと…卑弥呼から順当に行くなら、次は聖徳太子か?
…いやいやいやいや!!十人の話なんて同時に聞けませんし、馬で空なんて飛べません!
「どうなさったのですか」
「いや…なんでもない。どうした」
なるべく聖徳太子っぽく(?)振る舞ってみる。
「今、渡来人がやってきたところへ行くという案が出ていますが、どうでしょうか」
「そう、だな」
えーと、じゃあこれは遣隋使ってことかしら。ってことは、小野妹子を出せばいいかな。
「良いと思うぞ。何名か立候補しているらしいが」
そう言って、部下らしき人は人の名前を読み上げた。その中に、小野妹子がある。
「どうでしょうか」
「小野妹子が良いと思うぞ。少し休憩してくる」
「はいっ」
よしっ、これで卑弥呼と同じように抜け出せば…
「皇子!」
「はいっ!?」
思わず本音が出る。
「ああ、いたのねぇ!ここで働いているらしいけど…聞いたわよ、冠位十二階とか、十七条憲法とか。わたしの息子として誇らしいわぁ。次は何をするの?」
「ちょっっっとぉー、今はきゅーけーちゅーなのでぇえ!」
あーもー、自己紹介の時と同じ噛み噛みだしぃ。もうっ、全速力で逃げる、これ一択!そしたら何か弾みで、またタイムスリップしないかな。
…現実はそんなに甘くなく。どれだけ走ってもタイムスリップせず、木のかげに隠れる羽目に。
はあ、とため息を付く。レキジョとして、こんなことはだめなんだろうけど…実技じゃなくて知識重視じゃないの、歴史って?
「歴史旅行者発見!ただちに逮捕…ありゃ、この人、姉さんが言ってた人」
「えっ?」
全然知らない子。小4?ってことは、赤ちゃん、かな?(babyじゃなくて、呼び名の「ちゃん」ね)
この時代ふうの服着てるけど…そういうのも全部、なんだっけ、歴史警察が支給してくれるのかな?ってことは歴史警察って、かなーり大金持ち?
「ごめんごめん。今日も姉さんが、歴史旅行者の確認がみられたって言ってたから。あなた、突発的歴史旅行者ですよね?確か名前は…歴暦!そうそう、覚えやすかったんですよ。突発的歴史旅行者なら、改変罪が認められる確率は低いですけど。さ、行きましょっ」
「えぇえっ!?」
そう言って、「目隠ししてー」とアイマスクをかけられ、なんかプシューッと煙をかけられた。
うぅ、眠い…
---
「えーっ、また?」
うーん、橘先輩…?
「あぁ、起きたのね。ねぇ、なんとかならないの?」
「いや、だって…何故か、歴史人物の身体になってしまうんです。自分でどうにかできるなら、とっくにどうにかしてます」
「そうよねぇ。一応、歴史旅行防止剤があるから飲んどいて。お金は取らないから」
「…はぃ」
うおぉ、こんな薬あるんだ。ってことは、歴史警察ってかーなり未来の組織?
「あの、わたし、逃げちゃったですよね?あれ、聖徳太子とか卑弥呼の肉体なんですけど、どうなるんですか?」
「あー…こういう偉人になるケースはレアだからね。適当に処理されるでしょ」
歴史警察、雑すぎません!?
第4話 犯罪者なんて嫌です!
「…」
うぅ、気まずい。
昨日、わたしは聖徳太子の肉体にタイムスリップしてしまった。この間は卑弥呼の肉体に。
前科2つ持ちのわたしは、下手すれば犯罪者同等。まだ突発的歴史旅行者(意思と関係なくタイムスリップしてしまう人のこと)だから罪は軽くなるらしいけど…
そんなの嫌です!
ちなみに今は、橘先輩から呼び出しを食らって、校門前で待っている。うっ、視線が痛い。
「お待たせ」
さらりとした髪をボブヘアにきっちりセットしている彼女・橘紫先輩は言った。
「インディゴ・バーガーに行って、話そう」
インディゴ・バーガーといえば、ショッピングモールの近くにあるパン屋。パン屋の中で、特にハンバーガーが専門のハンバーガーショップ。
「はいっ」
---
自転車をかっ飛ばしてインディゴ・バーガーに向かうと、すでに橘先輩と赤ちゃんがついていた。
「あの、あなたのこと…」
「普通に赤でいいですよぉ〜」
と言ってくれたので、これからは呼びすてでいく。
青っぽい内装で、わたしはナゲット、橘先輩はインディゴ・バーガー、赤はチーズバーガーを注文。
「お待たせしましたぁー」
小柴と書かれた名札を持つ店員が、青トレーにバーガーとナゲットをのせて渡した。
「それで、歴暦。あなたはいつ逮捕されてもおかしくない。わかってるわよね?」
「…はい」
「なるべく、偉人になったら、何かしないでほしいです。何か迫られたら、史実通りにお願いしますっ。歴史って、詳しいですか…?」
「もちろんですっ」
わ、つい大声で…
赤が美味しそうにチーズバーガーを頬張り、わたしは言った。
「あの、突発的歴史旅行者…でしたっけ。どんくらいの罪の重さになりますか?」
「あー」
橘先輩はポテトをつまみ、
「うーん…罪状によって違うな。歴史を大幅改変したら、存在自体なかったことになる。例外はあったみたいだけど…少なくとも、タイムスリップしただけなら、罪に問われることはない。《《タイムスリップすること》》じゃなくて、《《その先で何かすること》》がタブー」
「歴史警察って、どこの時代が本部なんですか?橘先輩って、なんでタイムスリップできるんですか?」
「あ、そのへんはタブー。言った側も捕まる」
けっこうシビアだな。
「じゃ、わたしは…」
「逮捕されない。今のところね」
ほっ、よかった。
ナゲットを口に放り込む。
「あっ、これはタブーじゃないですよねっ、なんでわたし、タイムスリップしちゃうんですか?」
「うーん…田町に聞かないと」
「誰ですか、タマチって…」
また新しい人が出てきた。
「また言うわ。じゃあ、支払いはこっちで」
いや、校則でおごり禁止なんですが。