問題𝒙 次の例文について答えなさい。
境界人へ勇気を授ける、境目の夜が( )を変えた。
(𝒚)()に当てはまる言葉を自由に書きなさい。
────────────────────────────────
この問題には、番号も順番も答えも無い。
ただがむしゃらに解答欄にシャーペンを走らせて、次の問題へ進んでいく。
この問題がどんなに難しくても、次の問題につまづいて立ち上がれなくなってしまっても。
回答をもらうその日まで。
境界人たちの境目の夜が、今、始まる──。
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目次
序話【卒業式前日】
※この小説に登場する地名、人名はほぼ全てフィクションです。
桜の蕾の先が桃色に色づき始め、早い木ではぽつぽつと淡い色の花びらが顔を出している。
4月上旬ほどになれば見事な桜並木になるであろうこの場所は、|倉地《くらち》町というのどかな田舎町にある中学校の通学路だ。
この一本道をまっすぐ進み、黄色と白の縞模様の車止めを避けたところで右に曲がれば、その中学校の正門が見える。
倉地中学校、通称『倉地中』の校章が、春の優しい光に照らされくすんだ色を輝かせていた。
体育館の方へ回ると、うっすらと生徒の歌声が風に乗ってくる。揃えられているが、どの声にも幼さと大人っぽさが入り混じる、年頃の少年少女の声だった。
ふと、彼らの歌声やマイクを通した成熟した大人の声がやみ、しばらくすると正門から制服を着てリュックサックを背負った生徒たちが出てきた。
彼らが、明日卒業式を迎える倉地中の3年生である。
1クラス20人ほどのクラスが一学年に2つ、ギリギリ2クラスになった小さな中学校だ。
ある生徒は自分の涙腺の脆さを心配し、ある生徒はまだ実感がないと話し、ある生徒は卒業式の髪型について語り合っている。
なんてことないように取り繕っているが、誰もが明日終わってしまうこの学校生活に小さな後悔と寂しさを感じていた。
ある少女が桜並木で立ち止まり、この中で一番大きな桜の木を見上げた。
彼女の友人がそのことに気がついたのか、後ろを振り返る。
「あ、ちょっと咲いてない?」
「うぉ、ほんとだ。気づかなかった…」
彼女らは何度もこの道を通っているはずなのに、受験や卒業式の練習に追われてほころんでいる桜に今気がついた。
もう少し早く気づけたらよかったと、他の生徒も次々に桜を見上げる。
帰ってしまえば、眠ってしまえば、明日が来てしまう。
晴れ晴れとした気持ち、ついに卒業するんだという興奮、別れが来てしまうという悲しみ。そして、学校生活の節々に残してきた楽しかった思い出や後悔の残る思い出。
それぞれの生徒の思いが空中でぐちゃぐちゃに混じり、桜並木は独特の雰囲気に包まれていた。
桜並木を抜けると、人がバラバラと散り始める。それぞれの家へ戻っていく。
クラスメイトたちに会えるのは、明日が最後。
それぞれの思いを抱えながら帰宅する生徒たちを、歴史ある小さな校舎がため息をつくように見つめていた。
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時計の針が一時一時を噛み締めながら、カチカチと心地の良い音を立てて進んでいた。
静寂に守られていた夜の中に、布団の中で動く音や場違いな画面の明かりが響く。
誰かが肌寒さを感じたのか、くぐもったくしゃみが聞こえる。
画面の明かりが眠気の気配を感じない誰かの口元を照らし、さらに場違いな軽快な音楽を奏でていた。
耳に雑に突っ込まれたイヤホンからはスローテンポの曲が流れ、検索履歴には『睡眠導入 音楽』という2つの単語が残されている。
眠れない。そう思いながら寝返りを打ち、ゲーム機を起動しようと手を伸ばし、スマホの電源を入れる。
そうして長針と短針が時計のてっぺんで重なりかけ、秒針が1メモリ動けば日付が変わる、その瞬間──。
倉地中学校の3年1組に籍を置く生徒全員が、忽然と姿を消した。
そして、ゲームに飽きてしまった誰かが布団の上に投げ出したゲーム機には『23:59』という数字がいつまでも取り残されていた。
何秒経とうとも、何分経とうとも、その数字は“明日”に変わることはなかった。
自主企画、バックアップとってなかった…3人ほど登場しなくなります。ほんとごめんなさい。