色々ぶち込む短編集
オリも二次も大量に。
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目次
僕らの正義のその先に
「ねぇ、ここでは俺がルールなんだけど。」
「僕らには僕らの正義がある。それはあなただって一緒のはず。」
「逃がす気はないです。……たとえあなたが、|この街《絶対》の正義だとしても。」
「誰も殺さない。そう、僕はそれだけ考えて生きとるんよ。」
「誰になんと言われようが、俺の正義は覆んねぇようにできてっから。」
これは、【自称】正義があふれる街で生きる、五人の男の物語。
「……ぼんさん。何やってんすか。」
白い髪の少年は、一つためらってこの街の|頭《トップ》を小突いた。
おちゃらけた表情とサングラスに隠され、普段は見えない瞳が揺れる。
その美しさたるや、見慣れたとはいえ、気を抜けば魅せられてしまうほどであった。
「おー。おらふくんじゃん。元気?」
「元気?じゃないっすよ。護衛の人ほっぽらかして。」
「ははっ、手厳しー……。」
泣きついてきた強面の護衛たちの気持ちを考えたほうがいいとおらふは思う。
この至高の瞳を持つ男に傷一つでもつければ、つけた相手はもちろんのこと、そいつを始末した後自分も殺されてしまうのだから。
「手厳しくないっすよ。もう……。ま、帰りましょう。
|組員《ファミリー》みんな、待っとりますよ。」
ここで見つけてしまったからには、自分が帰さなければ明日は我が身だろう。
「わかってる。あ、あとあれだけ買わせて!お願い!おらふくん!!」
彼にはそんなことすらわかっていない。
この街を司る、最強で、最高で、絶対至高の頭であるのに。
「……Alright,Boss.」
「そうこなくっちゃ!」
反対も、反抗も受け付けない、絶対の存在であるのに。
いや、存在自体がこの街の、ルールで、法律であるのに。
全てを無視し、既存を破壊する。
自由でサボり屋で、卑怯者。それでいて、強いのだから困った。
新しくできた焼肉屋に走る姿からは想像できぬ、抗争の時の狂った瞳。
はぁ、と少年は本日二度目のため息を吐く。
「ん?どうかした?」
サングラスの奥で光る、美しい瞳は今だって、次の獲物を確実に見つめている。
どう美味しく調理してやろうか、柔らかく優しい殻の中で考えている。
「いや。早くしますよ、怒られんの僕なんすからね。」
この男の口車に乗せられたもので、幸福になった人間を少年は知らない。
「ME〜N!お待たせ、待った?」
白い髪の少年は、豚の被り物をした青年に話しかける。
腰には銃、目にはゴーグル。被り物の上から黒いフードを被った青年は、ハタから見てもアッチの人物であることが明白である。
「いや、全然。」
フードをパサリと取り去った後、青年は茶色い紙袋をリュックから出した。
後ろの空は真っ青に晴れ渡っている。
瓦礫だらけでどす黒い周りとの温度差に風を引きそうなほどに。
「ごめん〜!いや、遅れようと思ってきたわけではないんよ、これホンマよ。」
「わかってるって。ぼんさんのお守りだろ?大変だな。あの人自由だろ?」
「……MEN、ホンマによく殺されへんね?」
純粋な疑問である。この街ではあの男は絶対の存在。
間違っても軽々しく口にしてはならない存在なのである。
「ははっ、まぁな。いろいろあんの、情報屋にだってな。」
「そうなん……?」
情報屋を甘く見てはならないことは知っている。
相手の情報だけでなく、自分の情報も握られている。
嘘だろうと真実だろうと、捻じ曲げるのはお手の物。
金次第ではいくらでも致命的なものを吐くだろう。嘘だろうと、真実だろうと。
組にとって、彼らは恐怖の存在だ。
彼、おおはらMENになればなおさら。
武器の情報から政府の状況まで精通している情報屋などなかなかいない。
代わりに自分たちの情報も事細かに握っている。
個人の技術も高く、爆弾製造を得意とし、一つでも彼との取引に違いが出ればボカンだ。
そう、脅すのも転がすのも彼の手のひらの上。
「だから、心配ご無用!おらふくんに守ってもらう金もねぇし、悪いな。」
「……嘘つき。」
守ってもらうじゃない。自分くらい守れる、だろう。君が言いたいのは。
少年はそんな言葉を飲み込んだ。
「生憎、ぼんさんとケーサツを相手してると嫌でも嘘つきになるんだよ。」
「……そ。じゃあ僕はまだ半人前嘘つきやな。」
ほ、と一つ息をつく。
少年はまだ、警察と相対したことがない。
あの男は執拗に彼と警察を会わせない。なぜだかは知らない。知る必要もない。
彼は絶対。彼の命令に、反対する余地はない。
「そうか、おらふくんはまだケーサツに会ったことないのか。」
「ないよ。……ぼんさん、会わせてくれないんよ。」
会いたいと言うたびに静かに首を振る、あの男の顔が浮かんでは消えていく。
少年は警察が憎い。
この街を瓦礫だらけにしても、|組員《ファミリー》を殺しても、正義を振りかざす、偽善者が憎い。
けれど、Bossが会うなというのなら、それに従うしかない。
「ふーん、俺が会わせてやろっか?」
「ええよ、ぼんさんには理由ちゃんとあるやろし。」
「理由……ねぇ。」
含んだ笑い。自分の思いを見透かされているのなんて、少年はとうにわかっている。
焦りはない。これ以上話すこともない。少年は手を伸ばした。
「……ん?あぁ、忘れてた。よし、じゃコレが取引のヤツ。」
紙袋から取り出されたのは白い箱。
その中に入っているのは0.5㎝四方の黒い立方体が合わせて100個。
新種の武器だ。爆弾としても、銃弾としても使える、青年の作った完全オリジナル。
「扱いには気をつけろよ〜?天才スナイパーおらふくん?」
「おだててもチップはやらへんで。」
そう、コレは少年にとって初めての取引の品。
金貨3枚、高いが次の任務にコレが欠かせないのだ。
「それ、ぼんさんからの小遣いか?にしてはケチってね?」
手の中にある五枚の金貨を指さし、青年が言った。
確かにあの男なら、金貨の4,50枚軽く渡すだろうと少年は苦笑する。
「僕が自分で稼いだやつ。人、殺さんくてもスナイパーに仕事はあるんよ。」
「あぁ、おらふくんの掟は『殺さず』だっけか。」
掟と言えど、まだ少年が右も左もわからなかった頃に、あの男が勝手に結んだ代物だ。
この街では、一般的に『裏切らず』が結ばれるそうなのだが、
なぜかあの男が選んだのは『殺さず』だった。
まぁ少年にも理由はわからないでもない。
【掟】では、『裏切らず』より『殺さず』のほうがきっと難しい。
この世界で殺さず生きるなど、神業以外の何でもないからだ。
ちなみに間接的も禁止と来ている。
「大変だな。」
「いや、なんとかなるもんよ?」
「そうかぁ?」
疑念を背に、弾の数を数え終え、箱をようやく抱えるに至る。
もう|家《アジト》を出てから三時間が経っている。
早く帰ってぼんさんがまた護衛を泣かせていないか見に行かねばなるまい。
「じゃあ、MEN。また生きて会おう。」
「おう。俺だって死体で再会はゴメンだな。」
冗談とも言えぬ冗談に笑い合って、少年は歩き出す。
空は変わらず、真っ青に晴れ渡っていた。
「MEN?早かったね、今日。」
ひときわ目立つ大きな椅子に座った少年は、早々と帰ってきた同僚に顔を向けた。
「今日は客一人しかつかなかったから。」
客という言葉に少年の耳はピクリと反応する。
客、という言葉は、裏社会のカモのことを表すのだろう。
またなんか違法なものを売ってきたのか、と呆れと諦めの入り混じった視線を向ける。
「……気をつけないと俺がMENを逮捕することになるんだけど。」
「はは、ご自由にどうぞ。」
危ない仕事をしているのは昔から知っているが、そのせいで彼が捕まるなどごめんである。
大切な仕事仲間にして、優秀な警察官を失うわけにはいくまい。
「今日は何を売ってきたの?」
「武器だよ。ライフルの弾。爆発するように改造してあんの。」
やっぱりいっそのこと逮捕したほうがいいかもしれない。すぐに人の気持ちは変わる。
一度受け取ったことのある彼の武器は、これでもかというほど魔改造を重ねていた。
一体何人が犠牲になるだろう。少年は思考を放棄した。
「そういやぁ、おんりーはあの街行ったことねぇの?」
「ないなぁ。」
なにか続けようとして、口をつぐんだ。
何もいう必要はない。……まだ、彼には。
見たことのない彼の目が自分を探っているのがわかる。
裏社会仕立ての彼の勘の良さは並大抵でない。
けれども少年は知らないフリを続けた。
「おんりー。」
「なに。」
「今度組潰しに行くんだが、ついてくるか?」
行く。そう言う前に体が反応した。
ガタンと音がしたと思ったら、次の瞬間には青年に腕を掴まれていた。
「マジでアイツラのことになると正直だな。」
正気に戻ったのを確認し、腕を離される。
二、三歩後ろに下がれば完全に力が抜け、少年は椅子に倒れ込むようにして座る。
「うるさい。」
「そのマフィアアレルギーもなんとかしたほうがいいぜ。」
「やだ。」
治す気なんてない。アイツラは許さない。幼い日、少年は誓った。
どこまでも、|マフィア《彼ら》の天敵で有り続けると、そう。
「おんりー。こっちよろしく。」
「はい、こっち終わったんでハンコよろしくおねがいします。」
二人だけのだだっ広い部屋は、文字を打つタイピング音で満たされる。
夜、あの街が活気づくこの時間、二人は書類仕事に追われていた。
目を通す書類はどれもくだらないものばかりだ。
上の者が提案した、予算書やら犯罪対策法やら。
どれもこれも、実用的とはお世辞にも言えない。きっと賄賂でももらっているんだろう。
あくびが出るほどにつまらない。
「朝、MENが久しぶりにいたんです。」
少年は眠気覚ましに言葉を発した。少年の周りを眠気と妙な温かさが包み込む。
カフェインが効くのはもう少しあとか。
「おー、それは久しぶり。」
「今日の品物はライフルの弾だったらしいです。信じられます?
警察ですよ、曲がりなりにも。」
「厳しいね。」
違うんですか、と少年は口をとがらせる。
警察が矜持とすべきは正義だ。人を殺すのは悪だ。それに加担するのも悪だ。
悪は正義を飲み込んで、異常な正義にしてしまう。
少なくとも少年はそう思っている。
「ん〜、間違ってないとは思うけどね。」
上司である男は少年を見て笑う。普段通りの変わらぬ笑顔だ。
なのに、彼の瞳は爛々と輝いている。
それに吸い込まれるように席を立って、気づけば彼の眼の前だった。
「正義を履き違えちゃだめだよ、おんりー。」
「え?」
優しく、けれども強く、彼はそう放った。
まっすぐ、まっすぐ自分を見つめる男に、少年は戸惑った。
頭の中を今まで習った数式と言葉が流れては思考の外へ落ちていく。
何でも表せない、不思議な感覚。
半分パニックになった頭が、処理能力をなくしてシャットダウンする。
「どういう、ことですか。」
やっと出た声は、震えていた。自分でもわかるほどに。
視界が揺れるのは、メガネが揺れているからだと言い聞かせる。
聞きたくない、教えてほしくない。なのに、なのに、彼から目を離せない。
「僕らだけが、正義の使徒じゃない。」
息ができなかった。言葉が出なかった。
彼の言葉が、脳内に直接響き、頭蓋を揺さぶる。
いつの間にか彼の笑顔は消えていた。
「確かに、警察が矜持とすべきは正義だよ。うん、合ってる。
でもね、おんりー、コレだけは覚えておいて。正義は、誰しも持っているんだよ。」
マフィアにはマフィアなりの、警察にも警察なりの正義があると彼は説く。
少年の頭の中ではようやく情報の処理と整理が追いついてきた。
「いい?おんりー。正義は移り変わる。情によって、権力によって。
自分の信じるものによって。……そう、生きる道によって。」
彼のその言葉に、少年はただ、立ち尽くした。
「正義を矜持とするのはいい。
けれど、その正義が、誰かを傷つけるものに、悪にならないように僕は願うよ。」
人物紹介
ぼんじゅうる
とあるマフィアの頭。最強最高至高の存在。たまに一人で街を出歩き、護衛の人を泣かせる。怒ると怖い。口車に乗せるのが誰よりもうまく、街ではこの男の騙しに遭った被害者が多数。しかし、本当は学校やら病院やらをスラム街に作るほどの心優しい卑怯者。
おらふくん
とあるマフィアの戦闘隊長。若頭とも呼ばれる。よく護衛の人が泣きついてくるのでボスの回収に向かう。とある事件から警察を恨むが、『殺さず』の掟を結んでおり、殺せない。射撃の腕前は、組でもトップクラス。なかなか打つ対象がいないので、腕はゲームで磨いた。
おんりー
警察官。マフィア対策課に所属。戦闘、情報捜査に長け、警察最強として名を馳せる。ゲームが好きで、休みの日は部屋にこもってゲームをやっている。マフィアをとある事件から執拗なまでに追っており、大のマフィア嫌い。
ドズル
警察官。マフィア対策課の長。筋肉マッチョで秀才の文武両道。戦うときは上裸の赤パン一枚になる。本人曰くコレならみんな攻撃対象がわかりやすいから、らしい。なぜか裏社会の情報に精通しており、正義には人並み外れて思いがある。
おおはらMEN
警察官、だが裏社会で情報屋もやっている。彼らの情報をまとめ、隙あらば殲滅するのが仕事のため、たいてい何やっても黙認されている。最近武器の開発も始めた。警察、マフィア両方と深く関わっていく中で、正義とは何か、わからなくなってきている節がある。