大雨の日の英国。霧深い路地裏。その奥深くにある小さな扉。
そこには世にも奇妙な魔法の料理店があった。
そこでは魔法の食材を使用した絶品料理が振舞われ、その料理を口にした者は誰一人残らず虜になってしまうという。
そんなレストランの物語をご賞味あれ。
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目次
主人公説明 〜ジョン・リドゥル〜
*Picrew掲載zumiさんの「長髪のお兄さん」というキャラメイカーのキャラデザを参考にさせていただきました。
容姿:https://firealpaca.com/get/hvDrWypi
名前:ジョン・リドゥル
性別:男
年齢:謎(見た目年齢は20代くらい)
容姿:オリーブアッシュの長髪を後ろでくくっている、明るい緑色の切れ長な瞳をしていて、まつ毛が長い儚げ美人のように見える、身長は180cm
服装は黒いコートに黒いスーツ、黒い革靴、高級ブランドのロゴが入った深緑色のネクタイをしている
性格:野心家で負けず嫌い、冷静、人の話を聞かない、子どもっぽい
立場:レストランのオーナー
イメージカラー:ブラック
魔法:謎
魔法詳細:謎です
好きな〇〇:紅茶(ストレート)、ステーキナイフ、大雨
苦手な〇〇:悪臭、悪質クレーマー、融通の効かない人、ピクルス
作るのが得意な魔法料理:ブルータランチュラのポタージュ
食べるのが好きな魔法料理:マーメイドのポワレ
一人称:私(たまに僕)
二人称:貴方、〇〇さん、〇〇ちゃん
三人称:彼、彼女、あの方
口癖:「お分かりですね。」
サンプルボイス:
「当店のオーナーのジョン・リドゥルと申します。あなたが応募してくださった〇〇さんですね。(ニッコリ)」
「あら、またあのお客様ですか。……店長さん、よろしくお願いしますね。頼りにしておりますよ。(スタコラサッサ〜)」
「これが噂の新メニューですね、良い香りです。私もお味を拝見してよろしいでしょうか。」
絡みボイス(随時追加):
「ルータさん、お肉がお好きなのでしたら毎日狩りに行っていただいても苦痛ではないですね?」
「ワインソムリエ…クレアさんは未成年ではないのですか?…まぁ、問題ないでしょう!」
「レイさんのその料理の腕前、信頼していますよ!…さて、明日も出勤していただいても?(20連勤中)」
「カレシスプさん、カレシスプさん……カ・レ・シ・ス・プ・さん?仕事中はその耳にあるものを外してくださいね?」
「アリスティアさん、このスイーツ紅茶によく合いますね。どうです、商品化してみませんか?」
「アルナさん、お客様にはもう少し丁寧な口調を心がけてください。難しいのであれば雑用専門になっていただきますが…(ニッコリ)」
「当店には変わっておられる従業員が多いですが…ヴェレーノさん、貴方が一番とんでもないことをしでかしそうです。」
「マレイ様、食後のブラックコーヒー(もどき)でございます。お気の済むまで、当店で思う存分お|寛《くつろ》ぎください。」
「ヴィアンさんの仕事は完璧で真面目、なのですが、いつ倒れるかと心配になりますね。…仕事量は減らしませんよ。」
「アルンさん、料理には絶対、断じて、決して、Absolutely、毒を入れないでくださいね?(笑顔の圧)」
「いかがしました、シャルエルさん?…ふむ、労働時間が規定を超えていると?ふふ、そんなものはあってないようなものですよ。」
「セイさん、服装のこと何度も申しておりますが直りませんので、そろそろ、私の堪忍袋の尾が切れても良い頃合いですよね?(笑顔で懐の懐中時計に手を添える)」
「…ふふふ、いえ、お気を悪くさせてしまっていたら申し訳ありません。ロン様にはどこか親近感が湧いたものでして。」
「スミスさんとブラウンさんは仲睦まじいですね。微笑ましい限りです。…しかし、業務中なのでお仕事に専念してくださいね。(圧)」
「ステラさんは私のことが苦手なのでしょうか?いえ、どこかぎこちなさを感じたものですから。」
「ぱわはら?おやおや、なんのことでしょう、アライムさんそんなものは存在しないのですよ。(ニッコリ)」
「ふふ、レムさんの料理への情熱は素晴らしいですね。これからもその調子でよろしくお願いします。」
「キャメロン様、これは失礼いたしました。直ちにお料理をお作り直させていただきます。それからお詫びにこの東方から仕入れたワインを贈らせていただきたく存じます。」
「ソフィーさんはいつも元気で素晴らしいですね。…私への呼び方(ジョンたん)は気になりますが。」
「ラミアさん、グラスは私が運びますよ。貴方はあちらの机を拭いていただけますか。そうしていただけるととても助かります。(ニッコリ)」
「ミムさん、貴方…何か私に隠していることはございませんか?たとえば、持病、のこととか。」
「クロード様は海女のムニエルがお好きなんですね。私も人魚のお肉が好きなので気が合うかと。」
「いらっしゃいませ、アレン様。こちらいつもの流氷のミントアイスでございます。楽しいひと時をお過ごしください。」
「ベルニア様、大変失礼いたしました。お料理がお口に合わないという旨、承知いたしました。早急にお取り替えさせていただきます。」
「エアちゃん…いえ、そろそろエア様と読んでも良い頃合いですね。エア様、今日のご注文はいかがなさいますか?」
「ベン様ような素晴らしい学者様にお越しいただきとても光栄です。お気に召す品物をご用意致しますので、何なりとご注文くださいませ。」
「エレン様…!大変です……エレン様の顔が般若のように…フルーツサンドをご用意しなければ…」
「ディレイル様、お褒めに頂き誠に光栄でございます。これからも誠心誠意おもてなしさせていただきますね。」
「つい先ほど新鮮なマンドラゴラが手に入りましたので、ぜひシェン様のためにサラダを作らせていただきたいのですが、いかがでしょうか?」
他のキャラの呼び方:〇〇さん(小さな生き物や子どもには〇〇ちゃん)(お客様には〇〇様)
その他:
・凄まじい笑顔の圧で業務命令という名のパワハラを強いてくる
・キレると静かに懐中時計を取り出して6秒間真顔で時計を見つめる
PROLOGUE 土砂降りの日に
主人公設定です
https://tanpen.net/novel/83eff3cb-25f3-40e2-9964-59d6b30ff990/
グシャリグシャリ、ザァザァザァザァ_
霧のかかった英国の、雨に濡れた石畳の上を、傘も差さずに笑みを湛え悠々と歩く男が一人いた。
曇天から弾丸のように降り注ぐ雨粒は、そのオリーブアッシュの長い結髪と、先端まで綺麗に整えられた長い睫毛をしとやかに濡らしている。
彼を挟むように立ち並ぶ煉瓦造りの家々は、空の濁りを受けて彼の表情とは対照的に悩ましそうな色を放っていた。
その建物のうち一つの路地裏の入り口で、彼は足を止める。
そしてその細い闇にまるで吸い込まれるように入っていった。
その奥には男の胸ほどの高さの、子どもの秘密基地の入り口のような小さな扉がある。
ひんやりと冷えたドアノブに手をかける。
扉はドアベルを鳴らして滑らかに開いた。
「ただいま帰りました。」
男は無駄にだだっ広い、音楽ホールほどの広さのこの部屋で、自分の声の反響に耳を澄ませた。
そして電気のスイッチを入れて天井のシャンデリアを点灯させる。
眩い灯りに一瞬目を瞬かせた男であったが、すぐに慣れると辺りを見渡した。
椅子はテーブルの上に逆さにかけられており、そのセットがいくつも並んでいる。
床は綺麗に磨き上げられ、シャンデリアの光を反射している。
そんな豪華な部屋だが、中には誰もいない。
「あぁ、今日は一年に一回の休日でしたね。さてと。」
彼、このレストランのオーナーであるジョン・リドゥルは、だだっ広いホールの奥にある廊下に向かってカタンカタンという小気味よい靴音を立てながら歩いて行った。
不思議なことに先程まで雨でずぶ濡れだった衣服と髪は、部屋に入った時にはすでに乾ききっていた。
廊下の突き当たりの扉の前に立つと、ふと、ジョンが笑みをこぼす。
「ふふ、楽しげに動き回っていますね。」
コートの、右のポケットを手で探り、とあるものを取り出す。
取り出したものは透明な手のひらサイズの小瓶だった。
その小瓶の中をみると_
親指の爪ほどの大きさの、青く輝く蜘蛛が大量に収められていた。
その蜘蛛は宝石のように光を反射させながら瓶の中でウゴウゴと蠢いている。
その様子を満足そうに笑顔で眺めて、ジョンは自室の扉を開ける。
---
---
---
翌日。
ジョンは扉から出てくる。
昨日と全く同じデザインの黒スーツと高級ブランドのロゴがちらりと見える深緑色のネクタイを身につけ、隙のない笑顔を貼り付けたまま。
ホールに入ると馴染みの顔があった。
「おはようございます。」
馴染みの面々に軽く挨拶をした後
「早朝早々申し訳ありませんが、お願いがあります。」
そう言って不気味な笑みを浮かべた。
ついに始まりました!「違法で魔法なレストラン」!
自主企画参加キャラの登場順番は、「主人公との出会い方」に記していただいたものや役職から考えて、ストーリーに都合の良い順番で登場させます。ゆえに参加順というわけではありません。もちろん贔屓とかもありません。気長にお待ちください!
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---
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◯Kitchen Staff
◯Hall Staff
*Location:* Rye , UK
*Employment Type:* Full-time / Part-time
*Compensation:* Salary growth depends on performance.
*What We Offer:*
Opportunities for career advancement and training
Staff meals and uniforms provided
*Our Ideal Candidate:*
Can use magic
*To Apply:*
You're welcome to visit the store anytime—no prior notice required.
--- Discover what it means to deliver extraordinary dining experiences.We look forward to meeting you. ---
英語力皆無なのでGoogleさんとChatGPTちゃんに手伝っていただきました。
正直自分でも何が書いてあるのかわかりません。
己の無力さを知る………
(AIで気を悪くした方がいたらすみません。)
EP1 妖精バジルのマルゲリータ 〜オリーブフラワーを添えて〜
キャラクターのメニュー表です
https://tanpen.net/novel/series/eb823d12-6e69-4a23-b651-9551240a2c82/
「オイオイオイ俺ァ暇じゃあねェーッての!お前がやればいいじゃねぇか!俺は今からァ……そう!トイレ行くんだよ。長めの!」
だだっ広いレストランの店内に怒号が響き渡る。
客はいないので営業に支障はないが、店内は険悪な空気に包まれる。
その声の主は彩度の高い赤い髪を持ち、常に黒のワイヤレスイヤホンと黒マスクをつけている糸目の人物だった。
怒号を飛ばされたオーナー、ジョン・リドゥルは微笑みを顔に貼り付けたまま、少し困ったような表情をする。
「カレシスプさん、誠に申し訳ないとは思っておりますが、貴方は腐っても店長でしょう。」
「腐っても、ってなんだよ!!」
二人が揉めている様子を、ウェイターの制服を着た明るい茶髪の男がニコニコと微笑んで見守りながらノートに書き記していた。
「なるほど〜店長は16:20からお手洗いに行くと…ほう、メモメモ」
「ヴィアン!そんなのメモしてんじゃねぇ!」
ヴィアンと呼ばれた男は、カレシスプから怒鳴られてもなお、事細かに今の状況を分厚いノートに書き込んでいく。
「はぁ…ちょっとうるさい、只今営業中なんですが。」
厨房から水色のサイドポニーテールをした美人が現れた。
コック帽を被ってコックコートを着ている。
「おや、レイさん、お騒がせしてしまい大変申し訳ございません。」
ジョンは一応謝ってはいるが、その言葉が心にもないということをその笑顔が物語っている。
レイはカツカツと三人の元に歩み寄り、事情を問いただす。
「実は、どうしても足りない食材がありまして〜それを店長に採りに行ってもらえないかとオーナーが交渉(強要)していたところなんです〜」
ヴィアンが説明してくれるが、交渉という言葉の裏に微かなパワハラの香りがした。
「それって、どんな食材ですか?」
説明を聞いてレイはジョンにこう尋ねる。
「『オリーブフラワー』という、南米にのみ咲く魔法植物です。とてもいい香りがするんですよ。明日の午前3時までに欲しくて。」
なるほど、南米か〜、とレイが頷いたところで
「…って!店長に南米まで行かせる気だったんですか!?しかも明日の?午前?3時?までにとってこいって…正気じゃない!」
レイは耳を疑う言葉に思わず口が滑った後、ハッとして口を押さえる。
「正気じゃない…?」
ジョンは不気味なくらいにこやかに微笑んでいるが、目の奥は笑っていない。
レイはバツが悪そうにしていたが、やがて思い出したようにハッとして提案する。
「あ、でもそれって資料とかありますか?あれば私の魔法で出せるかもしれません。」
その言葉を聞いて、嬉しさのあまりジョンはおそらく真に満面の笑みになる。
「素晴らしいですレイさん!さすがは料理長ですね!」
---
しばらくしてジョンが一冊の分厚い本を持って、レストラン奥立ち入り禁止の廊下の先の部屋から現れた。
「これがオリーブフラワーです。」
その花はとても小さく可憐で、オレンジと水色のほのかなグラデーションカラーだった。
「わかりました。これを用意すればいいんですね。」
レイが全神経を集中させて両手に力を込める。
『creator』
光の糸が集積し、一つに束ねられていく。
やがてその光の束は先ほど見た可憐な花を形作っていく。
目の前で起きる出来事に、誰もが息をのんでその様子に目を奪われていた。
ヴィアンだけはその光とノートを交互に見て書き記していた。
「…完成です!…ふぅ。」
目の前の机の上に置かれたその小さな花は本で見たものとそっくりそのままだった。
「助かりました!これで明日ご来店くださるお客様にお料理が提供できます!」
「レイ、あンがと。クソクズ、ゲホゲホ……オーナーの無理難題に対処してくれてさ。」
「いえ、これくらいあたしには朝飯前ですよ。夕飯前だけど。」
「料理長は冗談を言うことがある、っとメモメモ…」
---
翌日の午前2時。
いまだにレストランの従業員たちは働いていた。
「…んでこんな時間まで働かねぇといけねぇんだよ。明らかに労働基準ぶっ超えてんじゃねぇか!」
カレシスプは死んだような目で、目を瞑っているので実際のところはわからないが、不満をぶちまける。
「まぁ、当店デリージュは大雨の日にのみ開店するという謎ルールがありますからね〜雨が止むまでは店を閉められないですもんね〜」
このレストランの中からでも外の雨音は聞こえてくる。
まだしばらくは止むことがなさそうな勢いだ。
「ンなんだよそのクソクズルールッ!いらねぇっつうの!さすがはあのクソクズオーナーだわ…」
「その何たらオーナーというのはもしかすると私のことでしょうか?」
カレシスプの後ろから音もなくジョンが現れる。
笑顔の圧に凄みがある。カレシスプはオーナーの突然のご登場に固まった。
「皆様、お疲れだということは重々承知の上ですが、もうすぐでお客様がいらっしゃるので気を引き締めて参りましょう!」
ジョンは疲れの色を微塵も見せない様子でガッツポーズをする。
士気をあげようとしているようだがほとんど意味はないようだった。
カランカラン…
何者かが店内の扉を開ける音が聞こえてきた。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりましたキャメロン様。最上級のお席をご用意しております。」
ジョンがキャメロンという客、色白の鍛えられた体に黒い革ジャケットを着た中性的な客である、の上着と荷物を受け取る。
「お客様、どうぞこちらでェす!」
カレシスプがキャメロンをエスコートする。
キャメロンは堂々とした足取りで案内された席に着く。
「らっしゃーい!今日は何注文すんスか〜?」
「いつものだ。」
「『妖精バジルのマルゲリータ』ね、りょ〜。」
「受け答えが軽いな!…もう慣れたが、まだ多少心配になる。」
「ご安心をー。常連のことはしっかりわかってますから。トマトソースは濃いめでチーズは2.5倍に増量、ピザの耳はカリカリ、妖精バジルはあと乗せで最後にオリーブフラワーを添える、っすよね?」
「ま…まぁそうだが…」
「いちいち注文するのも疲れるでしょうし、常連についてはこっちが把握してんので無駄に喋らなくてヘーキっすよ。」
「そうか…確かにそれはそうだな」
キャメロンは何か考え込んでいたようだが、納得したように一人頷いた。
カレシスプは厨房に向かっていく。
「カレシスプさん、少々宜しいでしょうか。」
カレシスプが厨房に着くと何やらオーナーが従業員を集めていた。
三人が取り囲んでいるのはさきほどの分厚い書物だった。
「ここを見てください。」
ジョンが指さしたのはオリーブフラワーのページ。
その花の絵が描かれている横に何やら注意書きが書いてある。
『オリーブフラワーを調理するときは必ず5人以上の魔法使が花を取り囲んでください。魔力で花を威圧しないと花が暴れて周りのものを破壊します。』
「…はぁ!?」
「おやおやですね。」
こうして4人は窮地に立たされたのであった。
<キャラ原案>
カレシスプ・ヒミュー(店長)_ミルクティさん
ヴィアン・ゼアロトリィ(副店長)_♱𝖑𝖎𝖊𝖓𝖆♱さん
レイ・ルージェ(料理長)_和音さん
キャメロン・ゴア(常連)_早作花さん
ありがとうございます!
EP2 妖精バジルのマルゲリータ 〜暴れるオリーブフラワー〜
キャラクターのメニュー表です
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「はぁ!?ンでそんな重要なこと見落としてたんだよォ!」
「はぁ…すでにピザの焼く直前まで作っちゃったのに…このままじゃ味が落ちる!」
「嗚呼、このままではお客様にお料理が提供できないじゃ〜ん」
「おやおや、困りましたね。」
カレシスプ、レイ、ヴィアン、ジョンの4人は目の前に置かれたオリーブフラワーを見た。そしてそのうちの2人はジョンを睨んだ。
「いつもはすでに下処理が済んでいたものを使用しており、この過程は必要なかったので…すっかり忘れてました!」
ジョンは悪びれる風もなく、茶目っ気たっぷりな様子で微笑んだ。
レイとカレシスプの2人はジョンを軽蔑するような白い目で見たあと本へと視線を戻す。
「他にやり方はないのかなぁ?」
ヴィアンが凄まじい速さで只今のハプニングをノートに書き記しながら呟く。
「ありませんね。」
これまた凄まじい速さでジョンが即答する。
「他に魔法使いを見つけるほかありません。」
「つか、暴れたとしても押さえつければ良くね?そしたら他の協力者見つける必要もねぇし。こっちの方が現実的。」
「仕方ありませんね。それでは、みなさん頼みましたよ。」
カレシスプの言葉に頷き、ジョンは早々に退散しようと出口の扉の方に向かう。
しかし全力で3人に阻止されたので結局ジョンも参加することとなった。
「いきます!」
レイが|萼《がく》からオリーブフラワーを摘み取る。
「あ、意外に行けそうかも…」
その時であった。
オリーブフラワーが振動し始め、やがてその震えは大きくなり、ハリーポッターのクイディッチの試合に使う金のスニッチのように飛び回り始めた。
「ガフっ!」
暴れ出したオリーブフラワーが顔面に突進してきてよろめくレイ。
オリーブフラワーを掴もうと手を伸ばすカレシスプ。
メモを書いているノートで叩き落とそうとするヴィアン。
そしてそれをにこやかな表情で楽しそうに眺めるジョン。
まさに混沌の状態であった。
その間にも厨房は飛び回るオリーブフラワーによって荒らされていく。
その時であった。
「失礼します!」
何者かが厨房に侵入してきてオリーブフラワーの傍に走り寄った。
その途端、オリーブフラワーの暴走は止まり、厨房内が一気に静まり返る。
厨房に侵入してきた男、茶髪のハーフアップで整った顔立ちをしており時計などの裕福そうなアクセサリーをつけている、はオリーブフラワーを両手で包み込んでジョンに手渡す。
その様子を4人はぽかんとした顔で眺めていた。
「ぇあ…ジョ………、オーナーさん、おはようございます。大きな音が聞こえたもんだからつい…」
しどろもどろな様子で話しているが、なぜかジョンと目を合わせようとしない。
「…お客様、誠に申し訳ありません!そして誠にありがとうございます。まさかお客様に助けていただくとは…店として恥ずべきことですね。心からお詫びをさせていただきます。」
ジョンはその客の男に向かって深々と頭を下げる。
男は慌てふためいてジョンに顔を上げるように言う。
「…いっ、いえ……そんなことより…私のこと、覚えていないんですか?」
男は殴られたような顔を一瞬だけした。
しかし被りを振って元の表情に戻す。
「お客様のことを…でしょうか?………大変申し訳ありません、お名前を教えていただいても差し支えないでしょうか?」
その言葉を聞いてその男は何やら悲しそうな表情をしたが、すぐに微笑んで答えた。
「私は…クロード・アウストリア、って言います。あなたも私に見覚えはない、かぁ…。いえ、気にしなくて良いですよ。」
ジョンとクロードが話している間にカレシスプとレイはこそこそと話をする。
「でもなぁ、クロードが入ってきてからスニッチ…じゃなくて花の暴走が止まったっつーことはつまり…あれは魔法が使えるってことか?」
「なるほどですね〜!メモメモっと。」
「…え、あ、そういうこと?………あと、カレシスプ、お客さんを『あれ』と呼ばない。」
レイはオリーブフラワーによって赤くなった頬を氷で冷やしながらカレシスプに白い目を向ける。
「クロード様、怪しい者などとんでもありません。この度は当店の騒ぎに巻き込んでしまい誠に申し訳ありませんでした。お詫びと感謝のしるしに今日限り全品全て無料でご提供させていただきます。」
ジョンはクロードをエスコートして店の席に案内した。
その間に料理長のレイは調理に取り掛かる。
「まさかお客さんに助けられるなんて。」
「これはメモ案件ですね。」
「メモすんなァ、働け。」
そんなこんなで『妖精バジルのマルゲリータ』は無事完成した。
---
「お客様、お待たせいたしました。こちら、『妖精バジルのマルゲリータ〜暴れるオリーブフラワーを添えて〜』です。今日のピザはいつもとは一味も二味も違う特別な品となっております〜!なぜかと言いますと実は〜………あ…いえ、隠し味は秘密の方がよろしいですね。では、どうぞごゆっくり〜。」
ヴィアンが裏での出来事をベラベラと喋りかけたが、後ろからのジョンの無言の圧を感じ取り咄嗟の判断で口を止めたのであった。
「では、いただくとしよう。」
キャメロンがピザを一切れ片手に取り、口に運ぶ。
「うむ!これはいつもより格別に美味いじゃないか!なんというかオリーブが新鮮に感じる。」
キャメロンのピザを口に運ぶ手は止まらない。その様子を店内の従業員たちはほっと胸をなで下ろして眺めているのであった。
<キャラ原案>
クロード・アウストリア(常連)_窒素さん
ありがとうございます!
EP3 スライムのゼリーケーキ 〜甘美なる風味〜
キャラクターのメニュー表です
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「そろそろ従業員増やしませんか?あたし一人で厨房回すのいい加減キツイんですが。」
レイは常連のキャメロンが帰り、雨が上がりかけた頃、ジョンにこう話を切り出した。
ジョンは棚の上に埃が溜まっていないか点検していたところであったが、レイの声に振り返る。
「ふむ、そうですね。レイさんの言うとおり人を雇った方がいいかも知れませんね。求人を出しましょうか。」
意外にすんなりと受け入れられて、レイは少し肩透かしを食らった気分であった。
「いいんですか!?」
するとその様子を見ていたカレシスプとヴィアン、そして端っこの席で店からのおごりの『魔女の秘薬を使ったガトーショコラ』を食べていたクロードが話に参加した。
「新しい従業員を雇うゥ?マジでエ?どーせまたすぐ辞めンだろ」
イヤホンで音楽を聴きながらそう言い捨てるカレシスプ。
「今回のことがまた起きるのも大変ですしね〜。でも今まで一日で辞めた方は〜…えっと〜…ざっと20人ほどだね〜」
メモ帳をパラパラとめくりながらそう言い放つヴィアン。
「もぐもぐ……ほほひはあいほんあうおーうひおあいあうあえ?(この田舎にそんな都合よく人が来ますかね?)」
何を言っているのかあまり聞き取れないクロード。
なんとも言えない空気がレストラン内に立ち込める。
しかしジョンは笑みを崩さないままあるものを取り出す。
「はい、皆さんで求人ポスターを貼りにいきましょう!」
そうしてポスターをレイ、カレシスプ、ヴィアンに手渡す。
あまりにも量が多いので、渡された時にドサリと音がした。
「えぇ!?私たちが行くんですか!?」
「お前…オーナーは行かねえのかよ!!?」
「わ〜大量だぁ〜!しかも前に作ったやつの使い回しだ〜!」
ジョンはニコリと笑って言い訳をする。
「仕方ないじゃないですかぁ〜お客様がまだいらっしゃいますものねぇ」
そうしてクロードに軽く会釈する。
「あ、じゃあ私もう帰りますよ。」
「え。」
クロードは支払いを済ませて颯爽と帰っていった。
「おい、オーナー。」
三人の冷たい視線が引き攣った笑みのジョンに降り注ぐ。
こうして四人は一旦店じまいをして、それぞれ張り出し場所の担当を振り分けた後、ポスターを貼り出しに外に出た。
---
以前使っていた求人をそのままの形で壁に張り出していく。
たがここは田舎町、かつ魔法が使える人材であることが絶対条件であるため、すぐには人が来ないことを承知し、ジョンは同時にちょうど良い人材がいないか街を練り歩いて探すことにした。
空は快晴である。大雨が去った後はいつも爽やかで清々しい大空になる。
レストラン デリージュのあるライという街はのどかな港町であり、店に続く陰気な路地裏を出るとあっという間に別世界だ。
潮風の香りが花の香りと混ざって唯一無二のフレグランスとなり、ウミネコの影が頭上を飛び交い、えんじ色やベージュのカラフルな小石が敷き詰められた地面が視界の向こうまで続いている。
そんなフォトジェニックな街の中をしばらく歩いていると、何やら催し物が行われている広場に辿り着いた。
人だかりのある方をよく見てみると『スイーツフェスティバル』と書かれている。
「スイーツ、いいですね。」
ジョンは甘い香りに|誘《いざな》われるミツバチのように人だかりの方へと歩いて行った。
「いらっしゃいませ〜」
「焼きバナナあるヨォぉお!」
「こちらで販売しているのがかの有名な〜」
皆口々に店の宣伝をしている。
通りすがる人々も両手に甘そうなお菓子を抱えて楽しそうな笑顔を浮かべている。
「私も一ついただきましょう。」
そう思って寄った店はカップケーキを売っている『ハピネス・イーツ』という野外スイーツ店だった。
ミントグリーン屋根と花の装飾が印象的である。
「失礼、この『あまあまりんごシュガシュガスライムのちょーかわゼリーケーキ』を頂けますでしょうか。」
この無駄に長く、言うのも憚られるような商品名をジョンは噛むことも恥じらうこともなく、微笑みながらさらりと言う。
その様子を見て店員の少女は少しギョッとした様子であったが
「わかりました。ゼリーケーキを一つでよろしいですね?」
そう言って笑顔で注文を確認する。
ジョンは単にゼリーケーキと言えばよかったことにやっと気がつき少し複雑な気持ちになったが、微笑みを崩さないまま少女に向かって頷いた。
「ええ、よろしくおねがいします。」
---
受け取ったカップケーキは、表面がまるで海のように美しい青色をしていて透き通っていた。
一口食べるとほのかなりんごの甘みがふわりと広がり、みずみずしいゼリーが口の中でピチピチと踊り出す。
中に入っているレアチーズケーキのやさしい酸味が、ゼリーの甘みを柔らかな口当たりにする。
このケーキを食べた瞬間、彼の脳には電流が走った。
「こ、これは………是非シェフを呼んで礼をしたい…!」
独り言をぶつぶつと言って、周りから不審がられていることにも気が付かず、ジョンは出店に戻り店員の少女に声をかける。
「このケーキをお作りになられたのは貴方でしょうか?」
先ほど担当してくれた少女に向かって、『レストランデリージュオーナー ジョン・リドゥル』とだけ書かれた至極シンプルなデザインの名刺を差し出す。
「私、この街でレストランを営んでおります。ジョン・リドゥルと申します。」
名刺を差し出された少女は困惑した表情を見せたが、出店の奥を指さしてこう言った。
「このケーキを作ったのはあの子ですよ。」
少女の指の先にいた別の少女、左は金色、右はミントグリーンのツートンカラーのクラゲのようなハーフツインの髪でロリータ服を着ていた、は泡立て器を持って、きょとんとした顔で立っていた。
「はい、なのね?」
---
「突然のことで申し訳ありませんが、もしよろしければ私が経営するレストランのパティシエになっていただけませんでしょうか?」
「はわ……?」
ジョンの突然の言葉にアリスティアは困惑して言葉を失った。
頭の中をクエスチョンマークが埋め尽くしているようだ。
そんな彼女の様子には気が付かず、ジョンは構わず話を続ける。
「私が経営するレストランは全従業員が魔法使いなのですが、」
「え、魔法使い…なのね?」
「ただいま料理人の人手が足りず、」
「人手不足…?」
「先ほどのスウィーツのお味がとても言葉では表せないほど素晴らしく、」
「はい…なのね…」
「是非、当店のパティシエになっていただきたいのです。それにこの香り、きっとあなたはそうなのでしょう?」
「そう、って何がなの…?」
ジョンはマシンガントークに目を回している様子のアリスティアに気がつき少し会話を止めた。
「申し訳ありません。少々饒舌になってしまいました。」
アリスティアは少しの間うーんと考え込んでから、口を開いた。
「まずは…知らないことにはなんとも…言えないのね」
---
ジョンとアリスティアがレストランに戻った時には、すでに他のメンバーは揃っていた。
「え!?調理係が増えたって本当ですか?信じがたい!」
レイは今日のできごとを告げられると、嬉しさ半分懐疑半分の表情で思わずジョンを睨みつけた。
「はいもちろんです。私が嘘をついたことがありましたか?」
「いえ、違いますなのね。」
アリスティアが即座に否定すると、レイはさらに険しい表情でジョンを見た。
「どうも、ごきげんようなのね、アリスティア・シフォンテーヌと言いますのね。まだここで働くとは決まっていないけど少し様子を見せてもらってから…」
そう言って初めてアリスティアは店内を見渡した。
店内には豪奢なシャンデリア、隅々まで磨かれた滑らかなフローリング。落ち着く雰囲気の家具や小物たち。
「私…こんな素敵なところで働いても、いいのかしらね…?」
店内の息を呑む美しさに圧倒されているアリスティアの後ろで静かに頷くジョン。
「ようこそおいでくださいました。今日からあなたは当店の専属パティシエでございます。」
半ば無理矢理にアリスティアを迎え入れたオーナーは、いつもの貼り付けたような微笑みを浮かべた。
古株のメンバーも快く迎え入れてくれた。
「アリスティア、これからよろしく。気兼ねなく先輩に頼ってくれて大丈夫だからね!」
「まァ、よろしくな。__はぁァ〜〜、今度はどの期間もつか…__」
「アリスティア・シフォンテーヌさんですね〜しかとメモに書き付けました〜よろしくお願いします〜!」
「これから…よろしくお願いします、なの!」
彼女は知らなかった。
この決断がのちに彼女の身に何をもたらすのかを_
<キャラ原案>
アリスティア・シフォンテーヌ(パティシエ)_抹茶餅さん
ありがとうございます!