その日、高校生の男女二人が同時刻、別々の場所で頭を打って倒れる。
目が覚めると、二人は入れ替わっていた。
二人はそれぞれ退院し、高校へ行く。
果たして、そこで待ち受けるものは何か、
そして、二人は元の体に戻れるのか―――
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勝斗視点 目を覚ますと別人になっていた #1
これが私の初作かぁ、と思いつつ書いてます。
一応R18にしてます。主に暴力描写です。苦手な人は回れ右。
それでは、どーぞ!
俺、|佐藤勝斗《さとうかつと》は世間一般的に言うヤンキーって奴だ。
その日も俺は他校の奴と喧嘩をしていた。
理由は、グループの奴がそいつらに随分と可愛がられたらしく、お礼をしに。
一応、腕っぷしは強かったから、そのグループでは俺は上の方だった。
だから、こんなしょうもない喧嘩に駆り出されたのだ。
正直、弱い者いじめみたいで気乗りしない。
が、ひと度、人を殴ればぱっと世界に色が付く。
悲鳴、闘気、血。これを感じるとあぁ、生きてると思う。
何も無い世界が輝いて見える。
ものの数十分で相手のグループを殲滅した俺はぐるりと首を回す。
ようやく片付いたか、と思っていると、目の前にいた俺のダチが目を見開く。
「っ!?勝斗、後ろ!」
その叫び声に慌てて振り向くが、遅かった。
ゴッという音と共に俺の頭に硬いものが振り落とされる。金属バットだ。
薄れゆく意識の中俺は、殺す気か。素手でこいよ。と、思った。
---
目を覚ますと、白い天井が目に入った。
そして、ベッドを仕切るようにカーテンで覆われている。
病院か、とぼんやり思いつつゆっくり体を起こす。
「いっ!?」
頭に激痛が走った。あの野郎まぁまぁ強めに殴りやがったな?
と、思ったが、はたと気づく。俺の体、こんなに細かったか?
それに声も⋯
「美春!?大丈夫!?良かった⋯目を覚まして!!」
俺が起きた音がしたのか40代ぐらいの女性が入ってくる。
女性は俺を抱き寄せ泣いている。
⋯が、残念ながら俺の記憶の中にその人物はいない。
「あんた、誰だ?」
呟いた俺の声はやっぱり高い。女みたいだ。⋯ん?女?
言葉を失っている女性を尻目に俺は近くにあった手鏡を手繰り寄せて⋯
俺も言葉を失う。写っていたのは、クマこそあるが、かなり顔の整った女子の顔だ。
もちろんだが、俺の顔ではない。どうなってやがる?
一旦鏡を置いて目を閉じ、また鏡を見る。やっぱり、女子だ。
頬を引っ張ると鏡の女子も頬を引っ張る。ふつーに痛い。
「記憶喪失⋯。」
ポツリ、と女性が言う。顔は真っ青だ。
多分だが、違う。が、それを言う前に女性は病室を出ていってしまった。
一体何が起きているんだ?とりあえず、夢かもしれないので、寝ることにした。
---
もう一度目を覚ますと、急いで手鏡を見る。
やはり、変わっていない。女子の顔だ。
すると、シャッとカーテンが開く。白衣を着ているから医者だろう。
「君、名前言える?」
「⋯美春、だったか?」
「苗字は、思い出せる?」
思い出せるも何も、知らねぇよ。
首を横に振ると医者が険しい顔をした。
あぁ、これ、記憶喪失扱いだな。
読んでくださりありがとうございます!
かなり低浮上なので次いつ書けるかわかりませんが、見守ってくださると嬉しいです。
勝斗視点 記憶喪失扱いされている #2
二話です。一話を見てない人は先に一話を読んでください。
自殺描写があります。
苦手な人はUターンでお願いします。
「記憶障害ですね。一時的なものかはまだわかりませんが。明日、検査してみましょう。」
「⋯はい」
「娘を、よろしくお願いします」
いくつかの質問をした医者は淡々と診断をした。
正直、釈然としないが正直に言ったとして、果たして誰が信じるだろうか?
俺は大人しく頷く。女性―――この体の母親が深々と頭を下げる。
質問をされてわかったことがいくつかある。
この女子の名前は|小林美春《こばやしみはる》。年齢は俺と同じ17歳。
父、母、の三人家族。いわゆる一人っ子ってやつだ。
性格はかなりおとなしいらしく、俺とは正反対なので少し母親に驚かれてしまった。
医者が「うーん」と唸りながらカルテをじっと見つめている。
「まぁ、自殺未遂をしたようですし、もしかしたら精神的なものかもしれませんね。」
医者が言った言葉にサッと場の温度が下がった気がした。
今、なんて言った?自殺未遂⋯?
この体、美春は自殺未遂をしたのか?
「なんで、自殺未遂を⋯?」
思わず呟いた声はひどく掠れていた。
喉がカラカラになる。
自殺。それはどれほど怖くて、どれほど怖いことがあったらできるのだろうか。
医者は自分の失言に気づいたのかチラチラと母親を見ている。
母親は固い顔で頷くと、ぽつり、ぽつりと話し始めた。
---
その日、美春の母親宛に警察から一本の電話が届いた。
「近くの廃ビルで、娘さんが自殺未遂をしたようです。まだ息があったので病院へ搬送しました。」
自殺未遂⋯?昨日、大好きなハンバーグを美味しそうに頬張っていたあの子が?
今日だっていつものように明るく「いってきます」と家を出たあの子が?
それは、何かの間違いじゃないか。
そう警察に言ったのだが、なんでも服の中から遺書が出てきたのだそうだ。
嘘だ。そうに決まってる。そう自分に言い聞かせてなんとか平然を保つ。
震える足を叱咤しつつ母親は病院へ向かった。
病院には二人の警官がいた。
警官はツカツカとこっちへ近づき、母親に一つの紙を渡す。
「これが、遺書です」
母親は震える手でなんとか受け取り、その内容に絶句した。
『 遺書
私は、いじめを受けていました。
私は、なんとか自分だけで解決しようとしました。
しかし、どうにもなりませんでした。
だから、先生を頼りました。けれど、「それはいじめじゃない。遊びだ。」と、取り合ってもらえず。
どこかから先生を頼ったことが漏れ、いじめがひどくなりました。
家族を頼ろうかと思いました。けれど。
もし、先生のように真面目に取り合ってもらえなかったら?
そう考えるともう、誰のことも頼れなくなりました。
人の目が怖い。もう限界。辛い。
家族へ。親不孝な娘でごめんなさい。でも、私にはもう耐えられそうにないの。ごめんなさい。
できることならもっともっと生きたい。生きたいよ。
最後に。私をこんな目に合わせた奴らを呪いながら死のうと思います。さようなら。』
ところどころ涙の痕がある遺書は間違いなく娘の字で書かれていて。
頼ってくれなかったやるせなさと、娘がひどい目にあっていたのに気づかなかった悔しさで。
感情がぐちゃぐちゃなまま、母親はその場に泣き崩れた。
反応が来たことへの嬉しさでもう一話書けました。
応援は偉大ですね!次の話はまた今度。
勝斗視点 俺にシリアスは似合わない #3
いやぁ、2話ちょっと重すぎたかな?と思いました。
三話です。
話し終わった母親はきゅっと顔を歪めた。
途中、場の空気に耐えられなくなったのか医者は静かに去っていった。
おい、この空気の中に置いてくな。帰ってこいと思った。
「今のあなたに言うのもおかしな話だけど、ごめんなさい。」
深い深い懺悔の言葉に俺はとうとういたたまれなくなった。
大体、俺はそういう真面目な話は向いてない。
喧嘩しか能が無いのだ。おい泣くな。
にしても、いじめか。俺はいじめとは無縁の人間だった。
嫌がらせされたら倍で返した後、殴るような奴だ。
誰も好き好んでいじめたりはしないのだろう。
そう思ってはたと気づく。
そうか。俺が美春の代わりにたっぷりお礼をすればいいんだ。
俺は今までされなかったいじめを体験できる。
美春と家族は復讐できる。いいことづくめだ。
なんて素晴らしい案なのだろうか。我ながら天才だ。
「学校行きたい!」
「うぇ!?」
急な俺の申し出に母親が裏返った声を出す。
ついでに涙も止まったようだ。良かった良かった。
辛気臭いのは苦手なんだ。
「どうして?さっき聞いてたでしょ?あなたいじめられてるのよ?」
「わかってるよ母親さん。でも、行きたいんだよ。な?いいだろ?」
「母親さん⋯。⋯あなたがいいなら⋯いや、やっぱりだめよ。」
「なんでだよ?」
「なんでって⋯!あなた、いじめってわかる?」
「わかるよ。そこまで馬鹿じゃない。」
「馬鹿って言ったわけじゃ⋯あなたを危険な目には合わせられないわ。」
こんな調子で俺と母親さんは面会時間ギリギリまで話し合い、
俺は見事に学校行きをもぎ取った。
執念の勝利だ。
---
次の日。ベッドで寝ていると昨日の医者がシャッとカーテンを開けた。
昨日は良くも逃げやがったな?
医者はニコリと爽やかに笑いかけてくる。
「やぁ、美春ちゃん。よく眠れたかい?」
「あぁ。病院食はマズいけどな」
医者は俺の返しに苦笑している。
「今日は色々検査をさせてね。」
「おう。よろしくな」
ベッドから飛び起きた俺を見て「元気だね」と苦笑いしつつ、案内を始める医者。
にしても、身長が低いな。目線が下すぎてすごい違和感だ。
おとなしくついて行くと、廊下で誰かとすれ違った。
何気なく顔を見て―――絶句する。
俺だ。いや、俺の体だ。
「っ!お、おい!お前!」
慌てて呼び止める。俺の体はゆっくりこっちを振り返り―――固まる。
医者たちは怪訝そうな顔をしているが、そんなことは今は全く気にならない。
俺等は互いに見つめ合い⋯互いに理解した。
入れ替わっているのだ、と。
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇえええええ!?」」
ようやく美春が出てきました。
後、教えてほしいのですが、文字数はこれぐらいでいいですか?
多い、少ない、ちょうどいい。教えていただけると嬉しいです。
勝斗視点 コイツが同い年な訳が無い #4
4話です。
俺は医者に無理を言って二人きりにしてもらった。
そして今。近くの食堂でお互いに向き合う。
なんて気まずい雰囲気なんだ。
「俺等、やっぱ入れ替わったんだよな?」
「は、はい。そうだと思います。⋯信じられませんが。」
美春は俺の体でモジモジする。やめろ。
だが、美春に会ってなるほどと思った。
確かにおとなしくて女子っぽい。
俺の世間一般的に目つきが悪く大きな体で女子っぽい仕草。
率直に言って視界的暴力だ。
なぜよりにもよって俺と美春なんだ。
明らかに俺が戻った時ダメージが大きいだろ。
いや、その前に。
「戻れるのか、これ」
ボソっとした俺の呟きに美春がギョッとする。
いちいち可愛い動きをするな。なんの罰ゲームなんだ。
「え、えぇ?これ、戻れないんですか?」
「いや、今はわからない。⋯が、俺は一つ共通点を見つけた。」
「え!なんですか!?」
⋯コイツ自殺未遂を犯したんじゃなかったか?
意外と鬱々してないんだな。普通の女子じゃねぇか。
俺の言葉を待っている美春を見て、なんともいえない気持ちになる。
「⋯俺等の共通点は。」
「ごくり」
ごくりはやめろ。
「同時刻ぐらいに、頭をぶつけたってことだ。」
「なるほど。つまり、もう一度頭をぶつけたら⋯」
「あぁ。ってことで。」
俺は、美春の頭をしっかり持つ。
俺の顔でキョトンとしている美春に向かって頭を振りかぶり⋯
勢いよく頭突きした。ゴッといい音がなる。
「痛い!?」
「っ。」
ふむ。入れ替わらなかったか。
そう思ってチラリと美春の様子を伺うと、美春はブルブルと震えている。
痛すぎたか?と、心配するとポロポロと涙を流し始めた。え、おい。
「うわぁぁぁぁぁあああああん!!!」
まさかの大号泣である。
「は!?ちょ、待て!泣きやめ!」
「痛いよぉぉぉぉぉおおおお!」
ガラの悪い大男の大号泣は見ていてとても地獄だった。
周りの人もなんだなんだと集まってくる。
見るな。
「やめろ!その顔で泣くな!!」
「だってだって!!頭突きしたぁぁぁあああ!!」
「泣くんじゃねぇよ!男だろ!?」
「泣けないなら男なんてやめてやるぅぅぅうう!!」
もはや子供の癇癪だろ。同い年って話じゃないのか?
周りの人たちもザワザワしている。
なんの罰だよ。俺が何をしたっていうんだ。
すると、この騒ぎを聞きつけた医者が戻ってくる。
そして、交互に俺ら二人を見て俺に視線を戻す。
「何が起きたんだい?」
えーっと。とどう説明しようか考えていると、
「この子が!俺に!頭突きした!!」
と美春が俺を指さしながら泣き叫ぶ。こいつ。
というか、わざわざ一人称を変えるな。
医者は若干引き気味で美春を見る。やめろ。そんな目で見るな。
「えっと。美春ちゃん、頭突きしたの?」
「⋯はい。ごめんなさい。」
頭突きしたことは事実なので素直に認め謝罪する。
医者は困ったように頬をかいた。
---
「美春ちゃん。人を頭突きしたらだめなんだよ?」
「はい。ごめんなさい」
医者の尽力で、なんとかその場は収まった。
大号泣の美春は看護師さんたちに励まされながら病室へ連れて行かれた。
そして一通り検査を終えた俺は、医者に説教を食らっていた。
悪かったとは思っているので、素直に反省する。
が、アイツが俺の体で大泣きした事実は許さん。
一生の恥だろ。
というか、あんな奴がいじめられたりするのか?
いじめられたら癇癪起こして終わりだろ。
こんな奴いじめる奴らの神経が理解できない。
俺なら絶対にしない。面倒くさすぎるから。
すると、ガラガラっと病室のドアが開いて母親さんが入ってきた。
「こんにちは。あら?先生。どうしたんですか?」
「あ、お母さん。聞いて下さい。実は⋯」
これは、説教第二弾だな。
別に美春はいつもこんな感じなわけではありません。
おっとなしい子です。
勝斗視点 世界に別れを告げる人の気持ち #5
5話です。
あれから一週間が経った。
あれから美春には会えていない。
今日でようやく退院なので、俺は美春の家へ向かっているところだ。
「お父さんにも会えるからね。帰ってくるのは6時半ぐらいだけど。」
車を運転しつつ、母親さんが話しかけてくる。
ほう、父親。そういえば父親さんにはまだ会っていない。
どんな人物なのだろうか?
家は病院から割と近かった。
小さな赤い屋根の一軒家。
もちろん知らない家なので多少緊張する。
「お邪魔します」
「ふふ。あなたの家でもあるのだから、遠慮しなくていいのよ」
恐る恐る入る俺の姿を見て母親さんが微笑む。
その温かい目に居た堪れなさを感じつつ、玄関を上がる。
右側にドア。左側は廊下。そして、正面に階段がある。
「廊下の奥から二番目が洗面所だから、手洗ってきて」
「はい」
とりあえずその指示に従って洗面所で手を洗う。
洗面器がタイル張りになっていて可愛らしいデザインだ。
「洗い終わった?じゃああなたの部屋に案内するね。」
母親さんがこちらに声をかける。
俺は母親さんについていく。
部屋は二階にあった。
二階の角部屋だ。ドアを開けてもらって中に入る。
柔らかいピンクの壁紙にいくつかのぬいぐるみ。
女子の部屋にはあまり入ったことはないが、女子っぽい部屋だな、と思った。
「じゃあ晩ご飯ができたら呼びに来るからそれまでゆっくりしててね」
そう言って去っていく母親さんをぼんやり目で追った。
ぱたんと部屋のドアが閉められ、一人の空間になる。
別に異性の部屋のベッドでくつろげるほどの精神は持ち合わせていないので、
勉強机の椅子に腰掛ける。何気なく引き出しを開けると、スマホが入っていた。
パッと持つと、スマホの下に紙が入っていた。
どうやらこのスマホのパスワードが書いているらしい。
なんて不用心な、と思いはたと思い直す。
そうか。死んだ後のためか。
死んだ後、このスマホを家族が確認できるようにするために、この紙を。
複雑な気持ちになりつつ、スマホを開く。
一つ一つアプリを開いていき、日記が書けるアプリで目が止まった。
スマホを買ってもらった話、何気ない日常の話。
前半は実に平和なのだが、後半に行くにつれていじめの詳細が書かれ始める。
最後の日記は今までの文字数が嘘のように簡潔なたった一行。
「『さようなら、世界。』」
思わず声に出して読む。
美春の声で喋ると、まるで本当にこの後自殺しに行くみたいでゾッとした。
いやいや、と首を振る。
気を取り直し他のアプリを開こうと日記のアプリを閉じる。
「美春!ご飯できたよ!」
一階からであろう母親さんの声に重かった空気が晴れた気がした。
---
一階へ向かったはいいが、どこに行けというのだろう。
とりあえず廊下のドアをバタバタと開けていく。
物置、さっきの洗面所、脱衣所と風呂場、トイレ、誰かの寝室。
廊下のドアは全て開けた。が、違ったということは。
玄関近くのあのドアだろう。
戻ろうと思ってくるりと振り返るとメガネをかけた男性が立っていた。
⋯。
「うわぁぁぁぁぁあああああああ!」
「うぇ!?」
思わず声に出して驚いてしまった。
全く気配を感じなかった。
男性は俺の声に驚いたのか、後ろに後退る。
⋯コイツ、もしかして。
「父親、さん?」
男性―――父親さんはにへらと笑いながら頷いた。
他人のベッドでくつろげる精神は持ち合わせていなくとも、
他人のスマホを勝手に覗く精神は持ち合わしている。
それが勝斗です。
勝斗視点 温かい家族に囲まれて #6
父親さんの案内でようやくリビングにつけた。
やはり、玄関近くのあのドアだったらしい。
ダイニングテーブルの椅子に腰掛ける。
「そこは、僕の席だよ。君の席はこっち。」
なるほど。どうやらこの家では席が決まっているらしい。
俺は父親さんに指示された場所に移る。
父親さんと母親さんの席に向き合う形だ。
すると、母親さんが料理を持ってくる。
「あら、もうお父さんと会ってたのね。」
「はい。さっき会ってリビングまで案内してもらいました。」
「⋯お父さんに会っても、何も思い出せない?」
思い出せない、というより思い出がないだけなのだが。
なんだがひどく申し訳なく思いつつ、俺は静かに首を横に振る。
「そう。」と、少し寂しそうに母親さんが言う。
「⋯その、ごめんなさい」
「あら、いいのよ!思い出はまた作っていけばいいわ。」
「そうだよ。別に思い出せなくったって、君は君なんだから。」
「⋯。」
「さ!料理が冷めちゃうから食べましょ?」
パッと明るく笑う母親さん。
そんな母親さんに同意するように優しい顔で頷く父親さん。
二人の顔をみつつ、肉じゃがを口の中に入れる。
あったかくて、優しい味がした。
---
ご飯を食べ終え、風呂に入り、部屋に戻る。
女の裸は自分の親で見慣れてたが、
それでも美春は見られるのは嫌だろうから極力見ないように努めて入った。
お陰でドッと疲れた。
とりあえず、スマホの写真アプリを開いて、いじめの証拠とか撮ってないか探してみる。
昔の写真は動物や、花、空など、色とりどりだ。
どうやら、自然のものだ好きらしい。
だが、最近になるにつれてモノクロの花の写真が多くなっていく。
俺はスマホを閉じ、引き出しにしまう。
そして、電気を消す。
そろそろ寝ようと思ったのだ。
ベッドにゴロリと転がると、目を閉じた。
明日はいよいよ学校だ。
一体何が待っているのか。
俺は明日のことを考え、ニヤリと邪悪に笑った。
---
次の日、
美春のきれいな顔が良く見えるように、長めの前髪を切り、ポニーテールにする。
準備ができた俺は嬉しさをまるで隠さずとびきりの笑顔で学校へ向かった。
「|いってきまーす!《あばれてきまーす!》」
あんなにベッドでくつろぐ精神は持ち合わしていないって言ってたのに。
なんか短めなのはキリが良いからです。
勝斗視点 とても楽しい学校生活 #7
7話です。いよいよ学校です。
地図を頼りに学校についた俺は、靴箱に向かう。
靴箱は、俺の学校とは違って扉がついているタイプだった。
少し新鮮な気持ちで、【小林美春】と名前プレートのある靴箱を開ける。
バサバサッと紙がたくさん出てきた。
なんだ?果し状か?
と思い見てみると、果し状なんかよりも上品なものだった。
『死んだんじゃなかったの?』『葬式はいつですかー?』『消えろよ』
『いつまでいるの?目障りなんだけど』『気持ち悪いんだよブス』
他にも色々書かれた紙が数十枚床に落ちる。。
とりあえず、ブスはねぇだろ。こんなにかわいい顔してんのに。
けど、いいぜぇ。全てが新鮮だ。俺は床に落ちた紙をぐしゃっと踏み潰した。
血が騒ぎだし、世界が輝き出す。
俺は鼻歌交じりに上靴を取り出す。
中に画鋲が入っていて、泥で汚れている。
「く、はははははっ」
今までかつて、俺にこんなことをする猛者がいただろうか?
いや、いない。あまりにも新鮮でおかしな光景に思わず笑いが漏れてしまう。
いいな、楽しい。画鋲をザラザラと床に落とし、泥のついた上靴を履く。
職員室は確か、あっちだったか。
次は使えねぇ担任の顔でも拝みに行くか。
いじめ生活。悪くねぇな、と思いつつ、職員室へ向かっていった。
---
「聞きましたよ。記憶喪失なんだとか」
職員室に入り、小林美春の名前を出すと、しばらくして神経質そうな男が出てきた。
ほぉ。コイツが無能教師か。仕事はできそうなのにな。
「えぇ。そうなんです。どうやら私、いじめを苦に自殺を図ったみたいで」
「そんな事実はありませんよ。何か、勘違いをされているのでは?」
しれっと言う無能教師。なんて面白い世界だろう。
俺の学校の先生は大抵俺に怯えている。
言い返す奴なんて、体育科の先生だけだ。
「そういうことにしときましょっか。じゃあ先生、教室に案内してください」
「⋯えぇ。では後ろからついてきてください」
まるで物わかりの悪い生徒を見るような目でこちらを見た無能。
無能はくるりと向きを変えスタスタと歩いていく。
とりあえず、大人しくついていくことにした。
---
「はい、皆さん席についてください。お話があります。」
先生と共に教室に入った俺は、先生の言った通りに隣に立つ。
なんか、転校してきたみたいだな。
クラスの奴らは「チクリやがったな」って顔をしてるが、そうじゃない。
だって、チクったら俺が暴れらんないだろ?
「今、美春さんは《《不幸な事故》》で、記憶喪失になっています。」
ザワザワと教室が騒がしくなる。「静かに。」と先生が鎮め、続きを話す。
「なので、皆さんいつも通り優しく接してあげてください。」
くるっと無能野郎がこちらを向く。
「何か、言いたいことがあれば、どうぞ。」
ははっ。言っていいのか?言ったからな。
俺はぐるりと教室を見渡すとニヤリと笑った。
さぁ、楽しい|演説《おれい》の時間の始まりだ。
あとがき
勝斗の気持ちは「お化け屋敷を周っている少年」の気持ちです。
実際にいじめを受けた場合は先生か親。もしくはほっとらいんへご相談ください。
勝斗視点 演説 #8
8話です。
「はい。皆さんおはようございます。小林美春です。突然ですが⋯」
俺は近くの机をガッと蹴る。
机の持ち主が「ひっ」と短く悲鳴を上げる。
「私の下駄箱に細工しやがったのはどこのどいつだ?あ゙ぁ?」
シンッと教室が静まり返る。
勝斗は知る由もないが、クラスのみんなは混乱していた。
あの、いつも伏せ目がちで、長い髪をくくりもせず、大人しくいじめられているあの美春が。
今、普段の美春がしない口調で、しない態度で。こちらに詰め寄っている。
すると、|美春《かつと》はパッと顔に明るい笑顔を浮かべてみせる。
「たぁっぷり|お礼《なぐる》しなきゃだから、名乗り出てくれると嬉しいなぁ♡」
俺はニヤリと笑顔の質を変える。
気持ちは獲物を狙うハイエナだ。
が、その顔をさっとさっきの爽やか笑顔に戻す。
「以上です。ご清聴、ありがとうございました。」
一旦こんなもんか、と俺は締めくくる。
無能は呆気に取られていたが、ハッとして「あ、あぁ。ありがとう」
となんの礼だかわからない礼を言った。
とりあえず、席につく。
え?席がどこかわかったのかって?そりゃ、わかりやすく菊の花が置いてあったからな。
俺は花を床に落としてゆっくりといたぶるように踏み潰した。
---
「ねぇ美春ちゃん。記憶喪失なんだって?」
「あ?なんだ?早速名乗りに来たのか?」
先生が出ていくやいなや、俺のもとに5人ぐらいの女子が群がってきた。
リーダー各っぽい女子が俺に話しかける。が、俺の言葉に眉を動かす。
「違うわよぉ。私はあなたと友達だった|早藤《はやふじ》エリカ。よろしくねぇ」
粘着質な声はたちまち俺を不快にさせた。
早藤エリカ。俺はコイツの名前を知っている。
主に、あの美春の日記で、だ。
「そうだったの。ごめんなさい。名乗って来たのかと思って。」
俺の言葉に周りの女子たちがクスクスと陰湿に笑う。
え、俺の女子っぽい言葉遣い、そんなに変?
と、思ったが、どうやら「名乗り」の部分が変らしい。よかった。
「いいのよぉ。ねぇ、それより靴箱に何かされたのぉ?可哀想にぃ」
「そうなの。沢山の紙に画鋲。困っちゃうよ。」
「それは大変だったねぇ。それで、それらはどうしたのぉ?」
「床にばらまいて、踏みました。」
シンッと周りが静まる。
俺はキョトンと辺りを見渡す。
この時、クラス全員がこう思った。―――なんでだよ、と。
「え、えぇ?なんでそうしたのぉ?」
困惑したようなエリカの声に俺も困惑する。
なんで?特に深い理由もない。
が、強いて言うなら⋯
「ムカついた、からとか?」
またもやクラスが静まり返る。
さっきからなんなんだ?まさか、これもいじめの一環なのか?
なるほど。どうやらクラスはいじめのために一丸となっているらしい。
本当は記憶喪失になった美春の奇行に絶句しているだけだが、そんなこと勝斗は知る由もない。
とうとう誰も喋らなくなった教室に、ガラッと何かを引きずるような音が響く。
誰かが立ち上がったのだ。
パッとそちらを見ると、一人のヤンチャそうな野郎がズカズカと近づいて来ていた。
「おい。美春。お前、記憶喪失になって随分と生意気になりやがったな?
お前がどんなだったか、その身にたっぷりと教えてやるよ。」
邪悪に笑う野郎に、俺は思った。―――コイツが日記に出てきた弱い者いじめでイキってる奴か、と。
あとがき
思ったのですが、勝斗の頭、かなりズレてません?
いじめっ子視点 悪魔が彼女を乗っ取った #9
9話です。
ただいま、この小説のキャラへの質問をリクエスト箱で受け付けます。
じゃんじゃん質問お願いします。
詳細はリクエスト箱に書いてあります。
俺―――|桐山竜馬《きりやまたつま》は今、必死に逃げていた。
くそ、どうして俺がこんな目に!
事はおよそ4時間前に遡る。
---
朝礼時、いつものようにエリカが美春にちょっかいをかけていた。
記憶喪失なんて、奴には関係ないらしい。
俺はギリッと歯ぎしりをした。
許せない、エリカの奴。美春の注目を集めて。
《《美春が注目するのは俺だけじゃなきゃ》》。
ところがどうしたことだろう?
美春はちっともオドオドせず、真っ直ぐにエリカを見ている。
気に食わない。なんだあの態度。
美春はもっと怯えていなければならないのだ。《《俺にだけ》》。
思わず、椅子から立ち上がる。
美春は怯えるどころか真っ直ぐにこちらを見る。
そうだ。《《もっと俺を見ろ》》。
俺は美春に昼休み校舎裏へ来るように言った。
美春は、普段の美春がしないような禍々しい笑みを浮かべて頷く。
まさかあんなことになるだなんて、ちっとも思ってなかった。
破滅へのスタートは切って落とされた。
---
昼休み。
いつもより早く弁当を食べ終えた俺は、取り巻きたちと共に校舎裏へ向かう。
校舎裏へは既に、美春が来ていた。
俺は少し驚きつつ、美春に手を振る。
「よぉ。美春。ずいぶんと早いじゃないか。」
「そりゃそうでしょ。私、お弁当食べてないもん。」
ニンマリと笑いながらそういう美春に背筋にヒヤリとするものを覚える。
俺が美春に怯えてる?ふざけるな。
俺は美春の肩を強く掴む。美春は忌々しそうにこちらを睨む。
気に入らない。気に入らない!
俺はどんどん力を込めていく。
「ねぇ、―――いてぇんだけど?」
美春は自分の肩に乗せられた俺の手を掴む。
そして俺の視界は―――逆さになった。
「ぐはっ!」
強い衝撃と共に俺は地面に転がる。
投げられたのだと、この時初めて気づいた。
「あー。やっぱこの細腕じゃ投げ飛ばすのが精々、か。」
美春はまるで俺なんていなかったように、取り巻きたちを見る。
「じゃあ?次。誰が来るの?」
取り巻きたちは一斉に美春に飛びかかる。
美春は怯えるかと思ったが、取り巻きたちを見て、ニヤリと笑う。
ゾッと怖いものを感じた俺は取り巻きたちを静止させるべく声をあげる。
「ま、待て!そいつは何かおかし―――」
次の瞬間。取り巻きたちは全員吹き飛ばされる。
何が起きている?一体どうして―――
美春はくるりとこちらを見る。
「さぁ、第二回戦。始めよっか?」
「ひぃっ!」
凶悪な笑みを浮かべる美春。
いや、本当に美春なのか?コイツは。
とりあえず、俺はこの場から逃げ出した。
そして、冒頭に戻る。
---
体育館倉庫に隠れた俺は見つからないよう、生きを潜める。
「どこにいるの〜?返事して〜?」
「っ!」
美春の形をした悪魔が迫ってくる音がする。
普段美春がしないような媚びるような、いたぶるような声。
やっぱり、悪魔が美春を乗っ取ったんだ。
俺は、普段の美春のことを思い出していた。
---
最初に目に入ったのは入学式の時。
オドオドしている態度。俯きがちな髪。
それに似合わない綺麗な顔。
その目がこちらを見た時、ドッと心臓が音を立てた気がした。
その目はすぐに逸らされたが、俺の目はまるで縫い付けられたかのように彼女から離れなかった。
それから、美春に見られたい。見てもらいたい一心で、ちょっかいをかけだした。
始めは小突いたり、ぶつかったり。
それが段々エスカレートしていった。
髪を引っ張ったり、殴ったり、蹴ったり。
美春が怯える目をこちらに向けた時。
俺はたまらない気持ちになる。
『ご、ごめんなさい。もう、やめて⋯』
その綺麗な声が俺に向けられるたび、俺は満たされる。
その綺麗な体に痣を作るたび、耐え難い快感を覚える。
もっと、もっとだ。もっともっともっともっともっと!
美春が事故により入院。世界が凍りついたような心地がした。
頼む。無事でいてくれ。そして、もう一度、その綺麗な目をこちらに向けてくれ。
そんな願いが通じたのかは知らないが彼女は戻ってきた。―――記憶喪失になって。
ならば、思い出させればいい。そして、この俺を見ればいいんだ。
竜馬は結構やべぇ奴だと思います。
そんな奴に一目惚れされてしまった美春は普通に可哀想な子です。
勝斗視点 悪魔に対抗するのは天使か悪魔か #10
10話です。
俺は無様に逃げる奴をあえて見送りつつ、周りの奴らを縄で縛る。
にしても。この体は操りづらい。俺はつい先程の喧嘩を振り返った。
一人目。肩を手で掴みやがったから砲丸投げの容量で投げようとした。
が、圧倒的に筋肉が足りない。仕方なく、背負投げに切り替えたが。
やっぱり威力が弱い。あと1メートルほど飛ばしてやりたかった。
つづいて5人ほどが一斉に飛びかかってきた。
こんな可憐な少女に過剰戦力じゃねぇか?
とりあえず、この体で全員を一辺には無理なので、一人ずつ倒していく。
二人目。腹に左拳。顎に右拳をそれぞれ一発ずつ入れた。
本当は上に吹っ飛んでいくはずなのだが、如何せん筋肉がない。
相手は崩れ落ちるように倒れた。
三人目。手はあんましなので回し蹴りを決める。
手よりは威力があったが、あまり飛ばない。
相手は白目を剥いて気絶する。
四人目。回し蹴りも威力がイマイチなので飛び蹴りをかます。
が、体重も軽いらしく、これまた威力にかける。
相手は顔を腫らして気絶。
五人目。この威力のなさをどう埋めようか考えているうちに突っ込んでくる。
仕方ないので足払いをして転ばせた後、地面に伏せた頭を持ち上げ打ち付ける。
気絶はしてないが、すぐには起きられないだろうと判断して次の相手を見る。
六人目。低めの体制で突撃してくる。
ひらりと飛び乗り肩車の状態になったので、足で首を絞め上げる。
相手がダウンしたところで、起きそうになっていた五人目の上に勢いよく着地。
五人を戦闘不能にさせたところで最初の一人を見る。
が、あろうことか逃げ出した。
まぁ、いっか。《《追いかけっこは相手が遠くに逃げた方が楽しいし》》。
「3,2,1⋯ゼロ♡」
俺は相手が逃げた方へ向かう。
さぁ、楽しい楽しい狩りの時間だ。
---
「どこにいるの〜?返事して〜?」
ひとまずここらへんで声をかけて耳を潜める。
すると、何かがカサッと身動ぎする音がした。
なるほど。この体は耳がいいらしい。
そういえば視力もかなりいいし。
なんだ。この体にも良い所いっぱいあるじゃねぇか。
俺は音のした方へゆっくり向かう。
ガラッと体育倉庫を開ける。
相手は跳び箱の影にいた。
あまり隠れられていない気もするが、そういう演出だろうか?
俺はニンマリと笑って唄うように言う。
「みぃつけたっ♡」
「ひぃっ!」
顔面蒼白とはまさにこのことだろう。
滑稽だな。俺はニヤニヤしつつ、まるでダンスに誘うように手を差し出す。
「|一曲いかがですか?《けんかしましょ?》|王子様♡《くそやろう》」
俺の上品な申し出に相手はワナワナと体を震わせて手を振り払う。
「ふざけるな⋯ふざけるな!悪魔め!」
悪魔?悪魔、か。俺はクククッと喉を震わせる。
「たった一人のか弱い女の子をこれだけの人数でいじめる貴方達こそ悪魔なんじゃない?」
「うるさい!」
癇癪を起こしたかのように相手は理性なく突っ込んで来る。
俺はそんな馬鹿を殴りつける。
「ぐっ!」
さて。先程あんなに威力不足と言っていたのに殴ったのはなぜか?
そんなの、長く楽しむために決まっているよな?
俺は、誰にも邪魔されぬよう、扉に内側から鍵をかけた。
---
体育館倉庫は体育館が使われなければ誰も立ち入らない。
そして、校舎からはまぁまぁ離れている。
故に午後から体育館が使用されない今日、
竜馬の叫び声は誰にも聞かれることなく、昼休み中ずっと響き渡った。
あとがき
なんかやりすぎな気もしますが、ま、いっかの精神です。
ちなみに取り巻きたちは縛られたまま放置されています。
きちんと布で口を覆っているので、保護されるにはしばらく時間がかかりそうですね。
この後、竜馬もこの状態で放置です。
勝斗視点 食の恨みは恐ろしい #11
11話です。なんやかんや勝斗側は終わりが見えてきました。
昼飯を食いそびれた俺は今、とても機嫌が悪かった。
教室に戻り、買っておいたパンを探すもなかったのだ。
つまり、誰かに隠されたわけだ。
食の恨みは恐ろしい。
ぜひとも俺が暴れる前に名乗り出てほしいものだ。
その後、パンが見つかることもなく学校を終えた俺は家に着く。
俺も帰宅部なのだが、美春も帰宅部らしい。
やっぱ帰宅部は良いよな。
学校なんかに放課後まで縛られたくない。
「ただいま〜」
「おかえりなさい!」
バタバタと母親さんが玄関へ来る。
その勢いに少し押されつつ、家に入る。
「大丈夫だった?何もされてない?辛くなったらいつでも言ってね?」
「あーはいはい。とっても楽しかったです。」
「そう?無理はしちゃだめよ?今日はゆっくり休んで」
「はーい。」
少しウザさも感じるが、美春を思っていることがよくわかる。
⋯いいな、こういう家族。
考えて慌てて頭を振る。
いけね。センチメンタルになってやがる。
そういえば、ダチ、元気にやってるかな。
美春になってからあんまり考えてなかったな。
あー。だめだ。思考がマイナスになってやがる!
「母親さん。私、ちょっと走ってくる!」
「え、え?いってらっしゃい」
こういうときは走るに限る。
走って全部を有耶無耶にしよう。
---
「ぜーっはーっあ゙ーっゔーっ⋯。」
まさか、ここまで体力がないとは思わなかった。
え、待て。まだ目標の10分の1も走ってないんだが?
どうなってんだ美春の体力。
これ以上走ると帰れなくなりそうなので一度ベンチで休憩する。
いやー。明日筋肉痛になるな、これ。
「ひぃっ」
「あ?」
急に誰かの悲鳴じみた声が聞こえた。
くるりとそちらを見ると、一人の野郎が立っていた。
コイツ誰だっけ⋯あ。
体育館倉庫でボコボコにしたやつだ。
「よぉ。弱い者いじめ野郎。」
「あ、ひっ」
どうやら腰が抜けたらしい奴はヘナヘナとその場に座り込む。
昼休み、お礼しすぎたか?
びっくりするぐらい怯えてやがる。
「あ、あ、悪魔め!美春を返せ!」
「あ゙ぁ?」
「ひっ」
コイツ、何言ってんだ?
頭を強く殴りすぎたか?
奴は血走った目でこちらを睨む。
「記憶喪失ぐらいで俺の美春がこんなに変わるわけないだろ!お前みたいな野蛮な奴、美春じゃない!」
あー。負け犬が何か吠えてやがるな。
仕方ねぇ。もう一回脅すか。
俺は負け犬の顎をキツく掴む。
「ひっ」
「実はね?私、病院でとっても怖いお友達ができたの。そのお友達に復讐の仕方、教えてもらっちゃったんだよねー。それで、まだ、お前に試してない復讐法あるんだけど⋯受けてみる?」
「そ!そのお友達!なんて名前なんだよ!友達なら、名前、わかるだろ!」
なるほど。どうやら、友達を嘘だと思っているらしい。
俺はゆっくりと口角を上げる。
「佐藤勝斗くん♡」
自分の名前に君付けは少々恥ずかしいが、これで友達っぽさが出る⋯はずだ。
俺が恥ずかしさにほんの少し悶えていると、負け犬はブルブルと震えだす。
顔が真っ青だ。
「勝斗って⋯あの、他校で有名な不良のことか⋯?」
⋯俺って有名なんだ?
知らなかった。いや本当に。
が、この辺の不良で同姓同名の奴はいなかったはずだ。
俺はゆっくり頷くと、その場を去った。
もう負け犬に用はないからな。
俺は少し筋肉痛になりかけた足を庇いながら家へ帰った。
いじめっ子視点 沢山のぬいぐるみに囲まれて #12
12話です。
私―――早藤エリカは密かにイライラしていた。
今日の昼休み、いつものように竜馬が美春に構っていた。
だから、私はその隙に彼女のパンを奪った。彼女を困らせるためだ。
それが、どうしたことだろう?
昼休み後、竜馬が教室に帰ってくることはなく、
美春もケロッとした顔をしている。
許せない。《《彼女は不幸じゃないと》》。
イライラとした黒いものを抱えながら私は家へ帰る。
あぁ、家だ。
「エリカ。おかえりなさい」
「ただいまぁ、ママぁ。」
家には沢山のお客さん。
ママは子供向けの英会話教室を開いている。
私は、お客さんたちに愛想を振りまく。
ここでの私はとってもいい子だ。
さすがママの子と、お客さんに言ってもらえるような。
私は、小さい子供達の相手をする。
海外からあまり帰ってこないパパが帰ってくるたびにお土産に置いていく大量のぬいぐるみ達で。
「エリカちゃんはいつもいい子ね」
「ふふ。ありがとうございます。」
「うちの子にも見習ってほしいわ。」
「そう言ってもらえて、エリカも嬉しいと思います。」
ニコニコ。愛想笑い。
愛想笑いが貼り付いて離れない。
普通に笑おうにも、この家では何かの呪いにかかったかのように、他の表情ができない。
ニコニコ。ニコニコ。
お客さんが帰った後でも、それは変わらない。
「今日、学校どうだった?」
晩ご飯の支度をしながらママが聞いてくる。
私は愛想笑いを顔に浮かべて完璧な回答を考える。
「今日も楽しかったよぉ!未来ちゃんといっぱい話してぇ、楽しくお弁当食べてぇ」
「そう。楽しそうでママも嬉しい」
ニコニコ。誰に強要されてるわけでもないのに、愛想笑いをやめられない。
ママの笑顔。あれは本当に愛想笑いじゃない?
わからない。どこか芝居じみて見えてしまう。
いい子でいなきゃ。なんのために?誰のために?
唯一、いい子でいなくていい学校。
いや、友達の前では結局いい子。
私はぼんやりと、美春を初めて憎んだ時のことを思い出した。
---
授業参観。
この世にこんなに惨めな思いをするものがあるのだろうか?
パパはいない。ママは、ママ友とおしゃべりしてる。
そんな私の視界に入ってきたのは、美春の両親。
別に、両親共に来ている人なんていっぱいいる。
けど、なんで美春だけ目に入ったのか?
簡単だ。私にないものを持っているから。
綺麗な容姿も、温かい両親も。
私より、友達もいないし、陰気なくせに!
下にみていた美春に、私より幸せになられるのが嫌だった。
取り繕わないその性格で愛してもらえるのが妬ましかった。
羨ましい。妬ましい。⋯憎い。
その日から、私は美春をいじめ出したのだろう。
いじめだってことに気づかぬまま。
いや、本当は気づいているけど、見て見ぬふりをしているのだ。
いじめなんてしていない良い子だと、自分で思いたいのだ。
あとがき
裏設定
エリカは最初、ひらりという名前でした。
なぜエリカにしたのか。エリカという花があります。
ネガティブな方の花言葉が彼女にぴったりだな、と思ったから付けました。
他にも、エリカにはとっても素敵な花言葉があるので、よかったら検索してみてください。
勝斗視点 幸せな物語、不幸せな物語 #12
次の日、学校につくと、教科書が全てなくなっていた。
全て、だ。
おかしいな、手洗い行って帰ってきただけなのに。
教科書って家出するんだな。
だったら「探さないでください」って置き手紙ぐらい残してくれてもいいのにな。
そんな冗談は置いといて。
教科書がなくなったのならやることは一つだな。
何って?サボりだよ。さ・ぼ・り。
いや、俺だって自重してたんだよ?
普段真面目に受けない授業をきちんと座って聞いてたんだから。
美春の印象が悪くなったら可哀想だしな。
けどさ?教科書ないんだぜ?仕方ないだろ?
俺は、早々に教室を出た。
---
教室を出たはいいが、この学校の間取りあんまりわかんねぇ。
とりあえず、手当たり次第見て回る。
しばらくブラブラ歩いていると、図書室に着く。
「お邪魔しまーす」
一応言いながら中に入るが、明かりがついていないので誰もいないのだろう。
丁度いい昼寝スポット見つけたぜ。
俺は本棚の奥へ進んでいく。すると、一つの本が目に入ってくる。
「シンデレラ⋯」
物語はあまり読まない。
幸せな物語は惨めな気持ちになるし、
不幸せな物語はやっぱり救いなんてないんだと思い知らされるから。
特に、家族の話は苦手だ。
幸せな家族は羨ましい。
不幸せな家族はまるで俺を見ているような気持ちになる。
あぁ、ダメだ。美春の家族は俺には眩しすぎる。
なんで美春なんだ。なぜ。この家族なんだ。
まるで、俺の家が幸せじゃないみたいじゃないか。
そんなことはない。ないはずだ。
俺はぐちゃぐちゃな感情を小さな体に閉じ込めて、ゆっくり目を瞑った。
---
「あなた、何を考えているんですか?」
教室へ返ってくるやいなや、俺は先生に呼び出された。
仕方なく職員室に入ると、開口一番先生にこう言われてしまった。
何を考えてる、か。
「すいません、先生。何を考えてるのかわからない誰かに教科書を隠されてしまったみたいで」
しおらしい態度を作って言う。
それを見た先生が深々とため息を吐く。
「それはあなたが教科書を失くしてしまっただけでしょ?」
「教科書全部を、ですか?」
「全部失くしたんですか?全く。困った生徒ですね。」
困った先生ですね。この無能が。
んなにおっちょこちょいな人間だと思われてるのか?美春は。
いや、違うな。ナメられてるんだな。これ。
「教科書を全て失くしてしまうだなんておかしな話ですね。やっぱり誰かに盗まれたんでしょう。」
「はぁ。誰かに責任転嫁するのは良くないことですよ?」
責任取らない大人もどうなんだよ。
マジでコイツ話通じね。
じゃあなぜ俺がこの会話を繋いでいるか?
実はスマホの録画機能で撮ってるんだよね♡
一週間で弱み全て掴んでやるよ。先生。
せいぜい良い見世物になってくれよ?無能野郎。
あとがき
実はこれ、2章構成となっています。
一章目は勝斗視点。二章目は美春視点です。
勝斗の家族事情は美春視点にでてきます。
一章と二章では当然ながら物語が全く違いますので、二度楽しめます。
美味しいですね。
勝斗視点 ゴミに群がる虫は駆除しなきゃ #13
また、改めて教室に入ると、ようやく教科書を見つけた。
ただし、ゴミ箱で、だ。
なんかすごくボロボロだし、もう使えないな。
「ねー。誰かなんで私の教科書がこうなったのか知ってる人いないー?」
聞いてみたが返事がない。
みんな見て見ぬふりを貫いている。
ここまで統率が取れていると、いっそみんな洗脳されているのではないかと思ってしまう。
「えぇー美春ちゃんどぉしたのぉ?」
ニヤニヤと笑いながらエリカが取り巻きとともに近づいてくる。
俺は大げさにため息を吐きながらゴミ箱に捨てられた教科書を見る。
「いや、ね?私の教科書がゴミ箱に捨てられてるんだよね。」
「えぇー?ウケるぅ」
「いや、全然面白くねぇよ。誰がこんなひどいことしやがったのか知ってる?」
「ひどいことぉ?」
まるで意外なことを言われたかのようなエリカの声。
エリカはそのままニタリと邪悪な笑みを浮かべる。
「ゴミをゴミ箱に捨てただけじゃないぃ?どこがひどいのぉ?」
まるで当然だと言わんばかりの態度に俺は薄ら寒いものを感じる。
なぜ、美春の教科書をゴミだと言い張るのか。
確かに、ボロボロにされてはあるが、何も捨てることはないではないか。
「捨てたのは、私ぃ。だってぇ、もう使えないしぃ?親切だよねぇ?」
コイツの言葉を聞くとイライラしてくる。
なんで他人の了解も得ず、他人のものを捨てられるのか。
なぜそのことを謝るでもなくひけらかすのか。
意味がわからない。
意味がわからないから俺は
―――エリカを殴った。
---
この世の男は女に手を出してはいけないと教え込まれてきた。
小さい頃の俺はなぜなのかを考え、そして気付いた。
男のほうが力が強いからだ。
そして、女の体は弱いからだ。
弱い者いじめの趣味は俺には、ない。
弱すぎるやつ殴ったって楽しくないから。
だから、俺は強いやつと喧嘩した。
殴って、蹴って、絞め上げて。
そうしているうち、俺に勝てる奴はいなくなった。
それはとても苦しく、耐え難いものだった。
だから、俺は相手がちょっかいをかけてこない限り、喧嘩をしなくなった。
できなくなった。
だって俺より強いやつはいないから。
だが、今はどうだろうか。
小柄な女の体。筋肉なんてあるわけもなく、絞め上げるにも力が足りない。
これで誰でも殴り放題だ。
更に言うなら、女も殴れる。
だってそうだろ?
俺は今、女の体なのだから。
---
急に殴られたエリカは、何が起こったかわからない様子で呆然とこちらを見ている。
「あら、ごめんなさい。虫が止まっているように見えたの。」
でも、と呟きながら俺は口角を上げる。
エリカは何やら恐ろしいものを見るかのような目でこちらを見ている。
それを見た俺は唄うように告げる。
「虫ケラはあなただったみたいね。だったら周りに被害が及ばないように⋯殺しておかなくちゃ。
ほら、私って、⋯親切だから」
何人かのクラスメイトが小さく悲鳴を上げる。
本当は殺すつもりなんて一切ない半殺し程度で済ませるつもりだ。
だが、本気の殺気を浴びたことがないのか、ほとんどの人たちの顔は真っ青だ。
もちろん、エリカとその取り巻きたちも。
エリカは腰を抜かしたのかその場に座り込む。
俺はエリカの目の前の床をダンッと踏む。
誰かが、ひっと声を上げる。
「次はないから。ね?」
エリカはガクガクと震えながら何度も頷いた。
これにて、ヤバ男とエリカへの復讐は終わり。
最後は⋯?
勝斗視点と無能視点 面倒事が多すぎる #14
一週間が経った。
この間、変わったことといえば、エリカと竜馬。
そしてその取り巻きたちが学校に来なくなったことだ。
やりすぎたかと反省はしているが、後悔はない。
そして今日、幸運なことに、クソ野郎全員がここにいる。
俺は準備を始めるべく、放送室へ向かった。
---
先生視点
最近、面倒事が多い。
小林美春。この生徒が記憶喪失になってから面倒事ばかりだ。
桐山竜馬ら6人が校内で縛られた状態で発見された。
発見したのは他の生徒だったからよかったものの。
《《他の先生に見つかったら面倒なこと間違いなしだから気をつけなくては。》》
事情を聞くと、何やら小林美春にやられたらしい。
男子生徒が女子生徒に負けるとは、情けない。
「美春を叱れ」と桐山以外の生徒に言われたが、面倒なので適当に流した。
桐山に至っては、何も話さなかった。
真っ青な顔で、「何もなかった」と言うのだ。
まぁ、それも面倒なので深くは聞かない。
次、早藤エリカら5人がこちらへ相談へ来た。
早藤は泣いていて、周りの4人の顔も怯えていた。
仕方ないので事情を聞く。
すると、何やらまた小林絡みらしい。
曰く、小林に殺すと脅されたと。
殺すなんて小学生でも言うだろ。いちいちそんなことでこちらへ来ないでほしい。
「美春を停学にしてくれ」という彼女たちの訴えを適当に流しつつ、教室へ戻るよう促す。
その日を境に、彼ら、彼女らは学校へ来なくなった。
そして、そのことを校長に咎められた。
なぜ、不登校になるまで放っておいたのか、と。
実に面倒だ。
小林はいじめられても学校に来たのに。
というか、なぜ、生徒のことでこちらが怒られなきゃならないんだ。
あまり休みもない、仕事が多い、なのに低賃金。
それに加えて生徒の管理?ふざけてる。
今日は皆揃ったからいいものの、これ以上続いたらどうなっていたことか。
面談に行けとか言われてもごめんだ。
全く、最近忙しいのはアイツのせいだ。あの―――
『ぴぃんぽぉんぱぁんぽぉん!聞こえてる?よし。じゃあ今から―――』
校内放送で少女の声が響く。小林美春。
彼女はどこか楽しげに、唄うような声に職員室中がザワザワする。
なんだ、一体何が起こっているんだ?
『断罪の時間の始まり始まり〜!』
実に楽しげな声に、背筋が凍った。
---
校内放送ジャック。一度は誰でも夢見ることだろう。
かくいう俺も、その一人だ。
そして今、その夢が叶い、年甲斐もなく、はしゃいでいる。
しかも、放送が、この内容だ。
俄然、ワクワクする。
というか、少しばかり浮かれても許されるはずだ。
さぁ、クソ野郎共。
精々足掻け?
勝斗視点 放送室をジャックしました #15
これを書くためだけにここまでやってきたと言っても過言ではありません。
16話です。
「はーい。それじゃあ最初は、なぜ、私が記憶喪失になったのか。」
笑うように、唄うように経緯を話していく。
途中、バンバンと扉を叩く音がしだす。
けど残念。鍵閉めちゃったー。てへ。
もちろん、鍵が開けられた時のことを考え、ドアにバリケードを設置している。
いじめのこと、自殺未遂のことをある程度話し終えた。
「じゃあ、次。私がいじめられた人達の名前を一挙ご紹介!」
そのために拝借した出席表を見つつ、上から順番に読んでいく。
もちろん、クラス全員だ。全員、加害者なのだから。
そして、最後に先生の名前を挙げる。
「はい、次。今の私が、されてきたこと一覧!」
竜馬のこと、エリカのこと。先生のことは、あらかじめ撮っておいた音声付きでお送りする。
音声が流れた辺りで、凄まじくドアがノックされる。
無能ここにいるのか。最高だな。
「はーい。ギャラリーが結構盛り上がってますねー。では次。」
その後も滞りなく、日記に書いてある出来事を話していく。
ガッチャンガッチャンとギャラリーは騒がしい。
アイツらはもう少し静かに聞けないのか?
「先生の暴露話。聞きたいでしょ?一週間の成果、聞かせてあげる」
折角一週間もあんな奴に張り込んだんだ。
じゃあ暴露しないとな?
「平日、帰るのは7時。その後はコンビニで弁当買うかファミレス行くか。
あんまし面白くなくない?先生そんなんでいいの?でも大丈夫。休日は面白かったよ?」
ドンドンとドアを蹴る音を聞きつつ、笑いながら言う。
「土曜日。メイド喫茶へ行く先生。後でメイドさんに事情聴取したんだけど黒髪巨乳美人が好きなの?
まさかの清楚派かぁ。あ、私のことはそんな目で見ないでね?いくら可愛いからってそんな目で見ら
れたら流石に引いちゃう。あ、もしかして、私が好きだからあえていじめを解決しなかった?
好きな子いじめるタイプなの?先生。ガキだね。」
唄うように話す俺の耳に無能の悲鳴が聞こえる。
あぁ、いいな。その悲鳴。
とっても血が騒ぐ。
「日曜日。なんとびっくり。パパ活をする先生。先生ダメだよ。未成年の子とデートしちゃ。
面白すぎてお腹捩れちゃうじゃん。頭撫でてたけど、相手の子ちょっと嫌そうだったよ?
しかも一回のデートで5万円取られちゃってるんだもん。高いねぇ。そして黒髪美少女。
好きだねー。」
とうとう金切り声が聞こえてくる。
おー。すごいすごい。人間ってこんなに叫べるんだ。
「以上で放送を終わりまーす。この後どうしよっかなぁ。とりあえず、転校させていただきまーす。
もう、申し出も校長先生に出してるので、こんな学校こっちから願い下げでーす。
あ、それと。転校先に私のやったこと話そうものなら、私にしてきた仕打ちぜーんぶネットに
書いちゃいます♡それじゃあ。ぴぃんぽぉんぱぁんぽぉん。」
放送を切る。さて。この後どう逃げるか。流石に放送室前のドアを開けるわけにはいかない。
放送を終えたのにもかかわらず、ドアを殴る音が消えないから。
と、なると窓か。二階。いけるか。
俺は窓から飛び降りた。
あとがき
次回、勝斗視点は終了です。
続きまして、美春視点となります。
勝斗視点と美春視点 そして物語は最初に戻る #閉幕
トッと軽い音とともに着地をした俺は学校を出る。
もうこの学校に用はないからな。
さて、美春の復讐は終わった。
ではこの後、どうなるのだろうか。
ずっとこのまま?
それは。なんか嫌だ。帰りたい。
が、帰れないだろう。この体では。
家へ着くと、美春の家族が出迎えてくれた。
泣きそうなぐらい温かい家族は、やっぱり俺のものじゃなくて。
それでも、今の俺は美春だから。
家族と他愛のない話をして、一緒にご飯を食べて。
そして寝る―――
---
《《私》》は目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。
戻ってこれた。私ー美春はホッと安堵した。
私は一階のリビングへと足を運ぶ。
記憶は戻ったけど、記憶喪失中の記憶はないことを話すと、お母さんは泣きながら喜んでくれた。
お父さんも、涙ぐんでいる。
彼が、こちらに入っている間に、転校の準備がされていた。
《《あの後》》だと、どの学校でもやっていける気がする。
私は、ふふっと笑みをこぼす。
きっと今、彼は驚いていることだろう。
でも、彼も何もしていないわけじゃないだろうし、いいよね?
私は軽やかな足取りで転校先の高校へ向かった。
---
夜。
いい学校だったと思う。
みんな優しくて温かい。
そう思い出しつつ、部屋で一息ついていた。
そうだ、日記を書こうと久々にアプリを開いて、笑う。
『お前のいいとこ、いっぱいあるからな。』
そんな題と共に、私の良い所を挙げている。
やっぱり、彼は優しい。
彼が書いたであろう他の日記を見ていると、電話がかかってきた。
知らない番号ではあったが、相手が誰かよくわかった。
早速出る。
「もしもし、勝斗くん?」
『お、お前!何したんだよ!?』
開口一番、彼の上擦った声に笑いがこぼれる。
これは相当驚いているね?
イタズラが成功したような気持ちになる。
「んー?なんのこと?」
『だって、俺のダチも、母さんも⋯!』
後ろの方で、お母様が「ご飯できたわよー?」という声がする。
ひぃっと短く彼が悲鳴を上げる。
それがあんまりにおかしかったので思わず笑ってしまう。
『何笑ってんだ!?おい、お前がこっちにいた時のこと教えろ!』
「ふふ。じゃあ、あなたも、教えてね?」
夜が優しく流れていく。
私と勝斗は、今まで何をしていたかを互いに教えあった。
不思議な話。けれど、確かにここにある話。
彼との話はとても面白くて、楽しくて。
電話を切った後も、余韻が残っていた。
あぁ、会いたいな。
彼に。学校で大立ち回りをした人に。
私のために唄うように軽やかに周りを見返してくれた勝斗に。
あとがき
この後、美春視点です。
一体、美春は勝斗の体で何をしたのでしょうか?
美春視点 一体何が起こっているのだろう #1
いよいよ美春視点です。物語は最初に戻ります。
もう限界。
私―――小林美春は、廃ビルの屋上に立っていた。
遺書を服の内側に入れた私は、ぼんやりと世界を見つめる。
いつからか灰色に見えるようになった世界を眺めつつ、地面を見る。
高い。痛いだろうな。でも、もうこの世界にいなくてすむ。
私はゆっくりと屋上の外へ行き―――落ちた。
私をここまで追い詰めた人々を呪いながら。
---
目を覚ますと、そこは病院だった。
あぁ、死に損ねたんだ。私。
ん?側の椅子に誰かいる。
見ると、大柄の男子だ。髪は青い。
え、待って。誰?この不良さん。
すると、彼は私が目を覚ましたことに気付いた。
「っ!勝斗!目を覚ましたのか!」
よかった、と噛みしめるような声に私は動揺する。
待って。何かおかしい。この、視界にチラつく自分のだと思われる金髪。
そして、大きな手。
「あの、あなた、誰、ですか?」
⋯声が低い!!
大混乱真っ只中な私の言葉を聞いて、目の前の彼が青ざめる。
「記憶喪失⋯?っ!おい、霧!医者呼べ!」
「なに?陽飛。どうしたのさ?」
のんびりとした声と共にピンク髪の男子が出てくる。やっぱり知らない人だ!
そして、大柄な男子に嫌な思い出しかないので、少し怯える。
その様子を見た霧?さんが異変に気づいたのか、顔色が変わる。
「勝斗、俺のことわかる?」
「勝斗⋯それって、私⋯僕?のことですか?」
「⋯医者呼んでくる。」
真剣な顔をして、出ていく霧さんに動揺する。
え、どういうこと?転生?それとも、入れ替わり?
この手の話は好きだけど、現実になってほしいかは別である。
とりあえず、近くにあった手鏡で自分の顔を見る。
お世辞にも優しい顔とは言い難いその顔は、美人なのもあって、余計に怖い。
なんだか冷たい印象の顔にひっと手鏡を投げる。
⋯投げると結構力が強いらしく、吹っ飛んでいく。
「よっと。ほら、勝斗。物は投げるな。記憶喪失だからって、物は大切にしろよ?」
陽飛?さんがパッとキャッチしつつ、言う。
見るからに不良なのに、至極真っ当な叱られ方をしてしまった。
なんだろう。別にそんなに怖い人たちじゃないのかな?
「ごめんなさい。えっと、陽飛さん」
「おう。俺、陽飛。お前のお友達だ。」
素直に謝ると、陽飛はニカリとはみかむ。
やっぱり、そんなに怖い人達じゃなさそうだ。
ホッとしていると、ガラガラと戸が開く音と共に二人ほど誰かが入ってきた。
「呼んできたよー医者。」
いや、どうしよう。
登場人物紹介
本当に中途半端で今更なのですが、ここで登場人物を紹介しておきます。
主役
小林美春 高二
このシリーズの主人公。
いじめを苦に自殺を図るも失敗。
そしてなぜか、勝斗と入れ替わってしまう。
佐藤勝斗 高二
このシリーズの副主人公。
ケンカ相手にバットで頭を殴られ気絶。
そしてなぜか、美春と入れ替わってしまう。
一章登場人物
早藤エリカ 高二
家が英会話教室で、家に人がいっぱい来る。
お客さんに愛想笑いをしていたら、家で自然な笑みを浮かべられなくなった。
いじめっ子のリーダー的存在。
桐山竜馬 高二
金髪青年。
作者曰く「このシリーズで一番ヤバくて一番たちの悪い人間」
美春をいじめてはいるが、それは好意から来るものであり、彼自信はそれに気づいていない。
先生 32歳
本名は水谷良介。
勝斗曰く「無能教師」なのだが、本当な極端に人間関係が面倒なだけである。
面倒事が嫌いな人間で、仕事はするが、交流はしない。
なぜ教師になったのか。
美春両親
基本は優しいが、叱る時はきちんと叱る。
美春とはいい関係を築けている。
今回の一件から前よりも家族の会話の時間を多く設けることにした。
二章登場人物
加藤陽飛 高二
鮮やかな青髪の青年。
勝斗がバットで殴られた際、目の前にいた人物。実はシリーズ開始当初から喋っている。
一人っ子で一匹狼だったが、勝斗に出会い仲良くなる。
村井霧 高二
桜色の髪色の持ち主。ピアス穴の数はシリーズで一番多い。
妹が3人弟が2人いるオカン気質。怒らせると怖い。
気を許した相手しか話さないし仲良くしない。
七峰広樹 高二
茶髪。弟気質。
ヤンチャで喧嘩したがり。
基本誰でもフレンドリーに接する。
新島亜由夢 高二
このシリーズでおそらく一番身長が高い。
冷たい印象だが、優しい。
みんなの相談役。姉がいる。
勝斗母 32歳
父親は勝斗が生まれた後逃げるように出ていった。
シングルマザー。
体育科の先生 54歳
本名は土田誠。
娘が一人いる。生徒のことを気にかけている。
あとがき
意外と少ないですね。登場人物。
美春視点 子育て #2
「記憶障害、かもしれませんね。明日、検査してみましょうか」
お医者さんは私にいくつかの問診をした後、そう告げた。
それを聞いた私はというと、多分違うんだろうなーと曖昧に笑う。
お医者さんが部屋を出ると、陽飛さんがボソリと呟く。
「⋯俺があの時、勝斗の後ろの奴にもっと速く気づけたら⋯!」
悔しそうな陽飛さん。
なんだか物凄く気になることを言っている。
「あの、後ろの奴って?」
「あぁ。お前、他校のやつにバッドで頭を殴られてここに運ばれたんだよ。」
⋯え?何その世紀末。
本当に日本で起きた出来事ですか?
思わず引いてしまう私に陽飛が苦笑する。
「記憶ないとそうなるよな。俺ら、他校のやつにお礼しにいってたんだよ。」
⋯多分だろうけど、それ私の知ってるお礼じゃないよね?
すると今度は霧さんがこちらへ寄ってくる。
なんだろうと思っていると、頭を撫でられた。
「今の勝斗は子供みたいだね」
「そんなことはないと思いますよ?」
なんてこと言うんだろう!
私だって立派な高校生だ。
思わずムッとしていると、霧さんはふむ。と何か考えている。
「ねぇ、陽飛」
「どうした?」
「勝斗、このまま育て直さない?」
え、待って。今なんと?
私も、陽飛さんも混乱している。
そんな中、霧さんは至って真剣な顔をして私を見た。
「だって、今の勝斗はとっても大人しい。まるで別人のように。」
「そうだな」
「これが、環境に染まる前の人格だと仮定して。このまま心優しい勝斗に育てれば⋯?」
「なるほど。更生させる、と。」
「そういうこと!」
いい考えだ、と陽飛さんも真剣な顔をしている。
一体この体の主の素行の悪さって⋯?
考えるのはよそう。私は子育て会議をしている二人を尻目に、眠りについた。
---
目を覚ますと、若い女性がこちらを覗いていた。
「へっ?」
「あぁ。起きたの。おはよう」
「え、はい。おはようございます。えっと」
誰だろう。
あまりに若いからお母様ってわけでもなさそうだし⋯
すると、女性は「本当に記憶がないのね」と少し寂しそうな顔をした。
「私はあなたの母親。」
「へ?えぇっと。若い、ですね。」
見た所、三十代前半辺りに見えるのだが。
すると、お母様はちょっと複雑そうな顔をした。
「あなたを産んだの、15歳の時だもの。男には逃げられてずっと一人であなたを育てたのよ。」
まるでなんでもないふうに言うが、かなりすごいことじゃないだろうか?
私が十五歳の時なんて多分のほほんと暮らしてた気がする。
きっと私には想像できないような苦労と努力があったのだろう。
「えっと。すごいです。ありがとうございます。」
「⋯ふん。」
お母様は少し照れたように、そして少し後悔したように、静かに笑った。
私のなけなしの語彙力を駆使して必死に偉い、すごいと褒めちぎる。
それにいたたまれなくなったらしいお母様はぐいっと私に紙を渡した。
「ほら。地図。ここがあんたの家だから。退院したらここへ帰るのよ。」
じゃ、と出ていったお母様にペコリと頭を下げる。
よく見ると、手書きの簡単な地図だった。
いいお母さんでよかった、と思いながらベッドに寝転んだ。
美春視点 雛鳥にリンゴを #3
「わぁぁああん!勝斗ぉぉぉぉおおお!」
さて、目を覚まし、午後の面会時間がやってきた。
私は今、知らない男子に抱きつかれている。
相手は大号泣だ。
「えぇっと⋯?」
助けを求めるように陽飛さんを見ると、深々とため息を吐きながら知らない男子を引き剥がす。
「おら。まずは自己紹介。ほら、お前も。」
お前?と思っていると、背が高い男子が入ってきた。
なんだか対極的な二人だな。主に身長と性格が。
「俺、広樹!ヒロって呼んでくれよな!」
まるで先程の大号泣が嘘のような明るい挨拶にペコリと会釈する。
「⋯亜由夢だ。」
なんだか非常に冷たい印象である。少し萎縮してしまう。
それをみた亜由夢さんが少し困ったような顔をした。
そして助けを求めるように二人揃って霧さんを見る。
「みんな勝斗のお友達だよ。みんな優しいから大丈夫だよ。」
穏やかに微笑む霧さんに少しばかり、緊張がほぐれる。
すると、亜由夢さんがこちらへ近づいてくる。
なんだろう。
「その、頭は痛まないか?」
「⋯大丈夫です。」
「リンゴ食べるか?」
どこからか取り出したリンゴの皮をナイフでクルクルと剥いていく。
案外器用だな、と感心しつつ頷く。
確かに優しい人だ。ちょっと勘違いされやすいのだろう。
「俺もリンゴ食べたーい!」
「ヒロは病人じゃないから勝斗に譲ろうね?」
「はぁい」
なんだか親子みたいな会話を繰り広げる霧さんとヒロさんを見ているうちに、亜由夢さんが切ったリンゴを皿に乗せて持ってきた。速い。
亜由夢さんはフォークで切ったリンゴを刺し、私の方へ差し出す。
「ほら。食べろ。」
「あ、ありがとうございます。」
シャリッと頬張ると、甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。
それはそうと、なぜ食べさせられているんだろう?
モグモグと咀嚼していると、何やらヒロさんが顔を輝かせてこちらを見ている。
⋯嫌な予感がする。
「俺も!俺もやる!」
「ん。リンゴ落とすなよ」
「わーい!ありがとっ!」
動物園で餌付けされる動物の気持ちってこんな感じかな。
などと現実逃避をしつつ、ヒロさんからのリンゴを食べる。
それを見ていた霧さんがサッとフォークを奪ってこちらにリンゴを向ける。
「はい、あーん!」
「⋯あーん。」
なんだろう。多分女の子ならキュンとするであろうこのシチュエーション。
私には雛鳥に餌を運ぶ親鳥の図に感じる。
全くときめかない。しかも今、男子だし。
「おいしい?」
「⋯おいしいです」
よかった、と微笑む霧さんのフォークを奪う者がいた。
⋯陽飛さんまで?
こうして私は代わりばんこでリンゴを食べさせられ続けた。
美春視点 不良で紳士な彼 #4
「じゃあ、明日は検査だから。」
「はい。おやすみなさい」
夜、他のベッドの人々もすっかり寝る体制だ。
私はベッドの上で今の状況を考える。
私は、自殺をしたはずだ。
今、冷静になってみると、なんて恐ろしいことをしたのだろうと背筋が凍る。
もう一度やれと言われても、絶対に無理だろう。
というか、これはどういうことなのだろうか。
夢ではないことは確かだ。
じゃあ今、私の体はどうなっているのだろう?
この体の持ち主が使っているのか、それとも⋯
ふと、恐ろしい仮説が浮かんだ。
私の体は既に死んでいて、入れ替わったこの体の主は、入れる体がなくてどこかを彷徨っている。
そんな仮説。
だとしたら、私は彼になんてことをしてしまったのだろうか。
あぁ、夜は嫌いだ。
だって嫌なことを次々と思い浮かべてしまうから。
そして、そんな夜に限って、長いのだから。
---
翌日。
検査を一通り受け終えた私は、お医者さんに付き添われて、病室へ戻る。
何人もの人々とすれ違う。
明日にはもう家に帰れるとお医者さんが言っていたな、とぼんやり思いつつ歩く。
「っ!お、おい!お前!」
急に背後から慌てたような声が響いた。
甲高いその声、なんだか聞いたことがある気がして振り返る。
⋯私が立っていた。
お互いに顔を見合わせ、理解し、叫ぶ。
この一連の流れは一秒にも満たない速さだった。
---
「すいません。すぐ戻りますから!」
彼はそうお医者さん方にペコペコ頭を下げて、私を連れ出した。
なんだか育ちが良さそうである。
きっとあのお母様の教育の賜物なのだろう。
今の彼は私の体なので、かなり小柄なのだが、しっかりと私の手を引いて歩いていく。
なんだか、彼があの友達に好かれる理由が良くわかる。
そうして、食堂へ着くと、彼は椅子を引いて、私を座らせる。
うん。全然不良感がない。
いや、あっても困るけど。
なんだか妙なところで彼の紳士さを感じていると、「あー」っと彼が気まずそうな声をあげる。
「俺等、やっぱ入れ替わったんだよな?」
「は、はい。そうだと思います。⋯信じられませんが。」
というか、信じたくない。
すると、彼は、その、と声をあげる。
「こんな奴と入れ替わって迷惑だろう?その、すまん」
「い、いえ。あなたのせいでは⋯」
なんだか非常に申し訳なさそうな彼の態度に焦る。
「その、戻るまで絶対にお前の体に何もしないって誓うし、なんなら俺の金も持ち物好きに使ってもらって構わない。」
「あ、はい。えっと、私の持ち物も、好きに使ってください。」
ここまで紳士的な不良がいるのだろうか。
というか、この人は不良なのだろうか、と考えてしまうほどに紳士的だ。
「戻れるのか、これ」
ポツリと呟いた彼の言葉にビクリと体が強張る。
「え、えぇ?これ、戻れないんですか?」
不安そうな私の言葉にハッとした顔をする彼。
彼はわざと明るい顔を作る。
その顔は「心配するな」と元気づけてくれているようだ。
「いや、今はわからない。⋯が、俺は一つ共通点を見つけた。」
「え!なんですか!?」
思わず期待を込めた顔で彼を見ると、彼は複雑そうな顔をした。
なんとなく、私が自殺未遂をしたことを聞いたのだろうな、と感じた。
それでも私に聞いてこない彼はやはり優しい。
「⋯俺等の共通点は。」
「ごくり」
「同時刻ぐらいに、頭をぶつけたってことだ。」
確かに。私と彼の頭には包帯が巻かれている。
私の体の方は、切り傷や打撲痕が足や腕にびっしりあるが、彼の体は頭だけだ。
⋯まぁ、手足の傷は飛び降りた際のものだけじゃないだろうけど。
少しばかり暗くなった気持ちを追い払って、彼に話しかける。
「なるほど。つまり、もう一度頭をぶつけたら⋯」
「あぁ。ってことで。」
急に彼は私の頭を掴む。
え、何?
勢いよく振りかぶった彼を見て、「あ、彼は不良だった」と最悪な情報が頭をよぎった。
美春視点 デジャヴ #5
大泣きしてしまった。
私は今しがたの出来事を思い出し、ベッドで悶えていた。
正直、穴があったら入りたい。
きっと私は精神的に限界だったのだと思う。
自殺を図ったはずなのに失敗どころかなぜか入れ替わっていて、元に戻るかも不明。
何がなんだかわからないのに友達は来るわお母様は来るわでほぼパニックである。
そんな中での頭突きだ。
思わず気持ちが溢れてしまった。
彼は基本的に紳士だったのに。最後で台無しだったけど。
「勝斗、さっき医者が「女の子に頭突して大号泣してた」ってきいたけど」
ひょっこり現れた陽飛さんがこちらへ話しかけてくる。
もう話が周ってる。今から穴掘って埋まりに行きたい。
ぞろぞろと霧さん、ヒロさん、亜由夢さんも入ってくる。
「何が起きたのさ?」
「え、えぇっと。俺達二人とも記憶喪失で、話が合って。それで、その。頭を打ったら元に戻るかもってなって。⋯頭付きされました。」
しどろもどろな説明を真剣に聞いてくれている四人。
⋯いいな。彼は。こんないい友達がいて。
思わず暗い気持ちになっていると、誰かが私の頭を撫でた。
パッと顔をあげると、心配そうな霧さんの顔が目に入った。
どうやら、霧さんが頭を撫でたらしい。
「大丈夫?怖かったね?」
「あ、ありがとうございます。」
霧さんに続き、みんなが私の頭を撫でる。
なんか昨日、この状況見たなぁと思いながらワシャワシャと頭を撫でられ続けた。
---
「そういえば、勝斗は明日退院だったっけ?」
満足するまで撫でたらしいみんながそれぞれベッドの側の椅子に座ったところで、ヒロさんが言った。
コクリと頷くと、何やらみんな暗い顔をした。
どうしたのだろう?
「あー。勝斗。母親に会ったか?」
気まずさが滲む言葉に内心、不思議に思う。
会ったが、別に何もなかったかのように思う。
むしろ、素晴らしい母親だったのではないだろうか?
「はい。会いました。とてもいい人でしたよ?」
その言葉にみんな目を丸くする。
一体どうしたというのだろう?
すると、今度は陽飛さんが苦虫を噛み潰したような顔で口を開いた。
「記憶喪失前の勝斗も同じこと言ってた。やっぱ、お前はお前なんだな。」
「あはは⋯」
別人です、とは言えないので曖昧に笑っておく。
「けど、アイツはそんないい奴じゃない。」
「⋯え?」
怒りを無理やり押し込めたような声の陽飛さんに動揺する。
思わず助けを求めるように他の三人も見るけど、三人とも暗い顔で俯いている。
「もし、家での居心地が悪かったら、ここへ行け。」
ずいっと手渡された紙には簡潔な地図が書かれていた。
「ありがとうございます」と礼を言うと、サッと地図をしまった。
なぜ、お母様がここまで言われるのか、それは翌日、家に帰ってみてわかった。
美春視点 別に泣き虫なわけでは #6
ちょっとした性描写があります。
そこまで事細かには書いてませんが、苦手な方はUターンお願いします。
翌日、家に行ってみた。
お母様は迎えには来なかったので、一人で。
最初は「あー。放任主義なんだなー」なんて軽く思っていた。
幸い、病院から徒歩で10分ほど歩いたところにあったのでさほど疲れはしなかったけど。
なんだか昨日の陽飛さんからの言葉がよぎったが、自分の目で見たもの以外は信じないことにしている。
以前、色々あってひどい目にあったからだ。
パンっと両頬を叩いて活を入れる。
ちなみに家は古めなアパートだった。
今まであまりこういう場所に来たことがないので少しばかりワクワクしてしまったのは内緒だ。
「お、お邪魔します!」
部屋番号を確認して入る。
鍵は持ち物の中にあったので、開けて。
小さな部屋だ。キッチン、トイレ、そして―――
「⋯。」
畳の上に敷布団がひいてある。
その上ではお母様と、知らない男性が眠っていた。
⋯周りには衣服が散乱している。
何が行われていたかはもう、お察しである。
とりあえず、この小さな空間に自分の部屋があるとは思えないので隅の方で小さく座る。
すると、ガサゴソと布団から物音がした。
「んー?あ、今日退院だっけ?」
お母様がノッソリと起きてくる。服着てない!
一旦、今自分の着ている学ランの上着をお母様に被せる。
お母様は目を丸くしているが、驚いてるのこっちだから。
面会時、父親に逃げられたと聞いている。
つまり、父親はいないのだ。
では、この男の人は⋯?
「⋯新しい、お父様でしょうか?」
「⋯いや、昨日バーで会った人。」
カチコチに固まりながらそう聞けば、目をそらされた。
なるほど。なんとなく、昨日陽飛さんがお母様を悪く言った理由がわかった。
ただ、彼女が昔からこうだったとは思えない。
理由は、彼がお母様のことを悪く言っていないから。
それと、彼がきちんと教育されているらしかったから。
最後に、この高価なものが置かれていない部屋に立派な勉強机があるから。
きっとお母様は子供思いのいい人だったはずだ。
何があってこうなったかはわからないが、人間の性格はそうやすやすと変わらない。
これも私の経験則だ。
私は、ギュッとお母様に抱きつく。
ピクリっとお母様の肩が震えた。
「あなたに何があったかは今の俺にはわかりませんが、体は大事に、してください⋯!」
「勝斗⋯?泣いてる?」
言われて気付いた。確かに、今、泣いている。
何に?きっとここまでお母様が追い詰められていたことが悔しいから。
私は、お母様のことを最近知った。けれど、追い詰められる前に彼女を救えたなら。
「う、うわぁぁ、グズッ。うぇぇぇぇん!」
「よしよし。どうしたの?泣かないで〜?」
泣きじゃくる私をなぐさめる彼女の頬に、一つの雫が伝った。
お母様視点 決意を胸に #7
一旦回想入ります。
泣き疲れて眠ってしまった我が子を見て思う。
もしかして、あの時も泣きたかったのかも、と。
---
勝斗はあまり手のかからない子だった。
赤ちゃんの時は毎日のように夜泣きをしたりと大変だったのだが、物心がつきはじめたら大人しくなった。
家の外では友達とヤンチャに遊んでいるが、家では大人しく絵本を読む。
きっと、私に負担をかけないようにしているのだろう。
それでも私と勝斗の間にはきちんとした愛情があったと思う。
私も、時に厳しく、時に甘やかし。
妊娠してしまったから高校には行けなかった。
だから、あまりいい給料ではなかったけど、当時の職場で朝から夜遅くまで働いた。
幸せな暮らし。
けど、勝斗が十五歳になった時、プツリっと何かが切れた音がした。
あれ?勝斗はこの後、高校に行けるのか。
私は勝斗のせいで行けなかったのに。
思っちゃいけない、ダメだ。そんなこと。
わかってる。わかってる!
でも、どうしても羨ましくなった。
私だって、私のために生きて良いはずだ。
始めは休日に勝斗と会う時間を割いて遊びに行く程度だった。
けれど、どんどん悪化していって。
とうとう、会ったばかりの人を家に連れ込むようになっていた。
その頃には勝斗も、夜遅くまで外へ出歩くようになっていた。
お互い、会話する時間もほとんどなく。
二年も立つ頃にはどこで何をしているのか全く把握できなくなっていた。
ご飯も、一切作らなくなった。
友達の話も、聞かなく、なった。
自己嫌悪に陥り、また他の相手を探す。
負のループだと自分でもわかっているのに抜け出せない。
そんな自分が嫌で、嫌いだった。
今日だって、そうだ。
本当は勝斗が今日退院することぐらい、知っていた。
けど、合わせる顔がなくて。迎えに行く勇気がなくて。
だから、また、知らない人を連れ込んで気を紛らわせて。
帰ってきた勝斗は隅の方で小さくなって、静かに私の方を見ていた。
普段はすぐに家を出ていくのに。
私が起きるのを、待っていたのだ。
⋯彼には帰ってもらおう。
そして、今日こそは逃げずに我が子に向き合おう。
私の愛する可愛い息子。
「お母さん、頑張るからね」
久しぶりに作ることのない笑顔を浮かべて、我が子の頭を撫でる。
記憶喪失にはなったが、勝斗は私に向き合ってくれたのだ。
ならば、私も向き合うべきだ。
私は静かな、けど、確かな決意を抱いた。
あとがき
本当はいい人たちなんです。
会話が足りてないだけなんです。
本当はいい人たちなんです(念押し)
美春視点 料理は頑張りましょう #8
目を覚ますと、お母様に膝枕されていた。
⋯いや、どういう状況ですか?
パッと周囲を見てみると、先程の男性はいなくなっていた。
「あ、起きた?おはよう」
穏やかにこちらへ微笑みかけてくるお母様の顔は母親の顔で。
先程までの綺麗で近寄りがたい雰囲気は消え失せていた。
私は慌てて体を起こす。
「おはようございます!あの、足痛くないですか?」
「大丈夫。そこまで弱くないから」
ころころと笑いながらスッと立ち、キッチンへ向かうお母様。
どうやら、お昼ご飯を作っているようだった。
慌てて私も後を追う。
「手伝います!」
「ふふ。じゃあ、野菜切ってくれる?」
「はい!」
手伝いをするとは言ったが、私に料理の経験は、ない。
おぼつかない包丁さばきを見て、お母様が目を丸くする。
その後、ハッとした。
「そっか。勝斗、記憶がないんだったね」
「えっと。前の俺は料理できたんですか?」
「えぇ。」
お母様は昔をひどく懐かしむような顔をした。
「小学2年生のときだった。私が帰ってくると、勝斗がオムライスを作ってたの。卵は焦げてて上手に包めてないし、味もちょっと薄かった。」
でも、とお母様は幸せそうな笑顔を浮かべた。
「でも、今まで食べたどの料理よりも美味しかった。それから勝斗の料理はどんどん上達していった。」
きっとあなたも上手になる、とお母様は微笑む。
が、全くの別人なのであまり期待しないでほしい。
とてもじゃないが、料理上手と比べると私はさほど上手くはならないだろう。
もちろん、普段やらないのもあるが。
戻れたら料理を頑張ろう、と私はキツく決意した。
そうして、野菜を一緒に切るだけで終わった私のお手伝い。
後は任せて、と言われたので待つ。
この家、テレビも漫画も本もない。
仕方なく、スマホを開く。顔認証なので、開いた。
適当にポチポチといじっていると、ピコンと通知が来た。
見てみると、メッセージアプリのようだ。
私は家族の間でもあまり使わないからちょっと新鮮な気持ちで開く。
---
<「陽飛 おい、勝斗大丈夫か?」
<「キリ 辛かったら無理しないで」
<「ヒロ 明日は学校行ける?」
<「あゆ そもそも勝斗はスマホ開けるのか?」
<「キリ あ」
<「陽飛 忘れてた」
---
友達っぽいやり取りに思わず、笑みがこぼれる。
いいな、友達。私にもできたら⋯。
スッと気持ちが暗くなる。無理、かな。
おっと、暗くなってる場合じゃない。速く返信しなきゃ。
---
「お母様いい人です。一緒に料理しました。ほとんどお母様が作ってしまいましたが。明日は学校行きます。」>
---
「これでよし。」
返信を打った後、お母様がちゃぶ台に料理を並べる。
「ご飯できたよ。一緒に食べよっか。」
「⋯!はい!」
何やらスマホがピコピコとうるさかったが、無視して一緒にご飯を食べた。
幸せ味のご飯だった。
美春視点 彼は驚くだろう #9
お昼ご飯を食べ終え、お皿を洗う。
作ってもらったのでせめて洗い物だけでも、と言って任せてもらった。
その後、冷蔵庫を勝手に見せてもらった。
なるほど。とてもじゃないけど、最近、料理をしたようには思えない物の少なさだった。
今日食べたものの中にあった味噌も、新品だ。
つまり、少なくともここ数日お味噌汁を作る機会はなかった。
さらに言えば、牛乳パックも新品で未開封だ。
この家で牛乳をいつ飲むのかは不明だが、大きなパックで買ってくるということは使用頻度は高いと考えるのが妥当。
その牛乳パックは今、新品未開封。
つまり、この家で最近、牛乳を飲まなかったということ。
もちろん、飲み終えた可能性も考えたが、ゴミの回収日は明日。
つまり、ここ一週間で飲み終えたならゴミが残っているはず。
が、残っていないということは。
最近、この家で飲食をした人はいないと言えるだろう。
まぁ、お母様がああだったのなら頷ける。
ただ、彼は料理ができる。
なのに、なぜ最近は料理をした形跡がないのか。
陽飛さんたちの会話を思い出す。
確か、地図が渡されたはずだ。
なるほど。つまり、彼はあまり家に帰ることなく、そこに入り浸っていた。
理由は、まぁ。
以上のことにより、最近の親子間はあまり良くなかったのだろう。
というか、会話が足りていないのだろう。
そして今、私はお母様に頭を撫でられている。
これが本当に年頃の男子なら「やめてくれ」と言うのだろう。
ただ、生憎私は男子ではない。さらに言えば、他人の好意を断れない。
それはきっと彼も一緒だろう。彼は紳士だから。
よって私はただただ撫でられていた。
ちなみに、無言で、である。
多分、この親子は不器用なのだろう。
優しくしたい、甘やかしたい。
それはお母様から痛いほど伝わる。
けど、そのやり方をあまり知らない。
なので、無言なのだろう。
けれど、気まずい。
なんだ、この状況。
「あ、あの」
「ん?」
「い、いえ。」
もう、どうしよう。
とりあえず、満足するまで撫でてもらおう。
---
撫で終わる頃には夜になっていた。
意外と長かった。
加減とか知らないんですかね。
さて、頭を撫でられて疲れるという今後起きないだろう体験をした私は、スマホを開く。
お母様は買い物に出ている。
彼に電話でもかけようか、とほんの少し思い、やめる。
だって、驚いてほしいもの。
お母様の変わりように。
彼が慌てふためきこちらに電話してくる未来を想像し、ふふっと笑う。
彼は一体、どんな反応を見せてくれるかな?
あとがき
そんなに長時間頭を撫でられたらハゲそうですよね。
頭皮が強いのかもしれません。
美春視点 失礼先生 #10
翌日。
学校についた私は、困っていた。
職員室の場所も、教室の場所も知らないのだ。
気づけ私!
学校に行く時点で!
どうするの!知り合いいないし!
「あれ?勝斗。おはよう」
背後から声をかけられた。
一呼吸おいて、自分は今、彼であることを思い出した私は振り返る。
いた。知り合い。陽飛さんだ。
「おはようございます。あ、あの!職員室ってどこですか?」
「え?」
陽飛さんはキョトンとした顔をしたが、すぐにハッと何かを思い出したようだ。
少し悲しそうな顔で、こちらを見ている。
なんだか申し訳なくなっていると、陽飛さんはパッと明るい顔を作った。
「いいぜ、案内してやるよ。ほら、こっちだ。」
「ありがとうございます。」
いいな、彼は。慕ってくれる友達がいて。
それに比べて、私は⋯。
思わず暗くなる思考を頭を振って無理やり飛ばして、陽飛さんについて行った。
---
「え?君、本当に佐藤くん?記憶喪失になったぐらいでここまで礼儀正しくなる?」
気弱そうな先生が、私を見て言った。
どうやら担任らしいその先生は、生徒に対してとても失礼な事を言っている。
とりあえず、曖昧に微笑んでおく。
「なんてこった⋯!愛想笑いも使えるなんて⋯!う、うぅぅ。」
とうとう泣き出してしまった。
失礼すぎやしないだろうか?
後で彼が不機嫌になりそうだ。
「おい先生。もう行って良いのか?あぁ?」
既に陽飛さんは不機嫌である。いつ手が出てもおかしくないぐらい顔を歪めている。
「あ、こっちは平常運転。辛い。」
本当に失礼な先生だ。陽飛さんは既に用は済んだとばかりに私の手を引く。
じゃあな、と言いながらズンズンと進んで、職員室を出ていく。
そしてそのまま教室へと向かった。
---
教室には、病室へお見舞いに来てくれたあの三人がいた。
「お、勝斗と陽飛、おはよー!」
「お、おはようございます。」
ヒロさんの明るい挨拶に気圧されながら、挨拶を返す。
陽飛さんは、朝からうるさいと言いながらちゃんと挨拶を返していた。
他の二人にも挨拶をし、される。と、ここでチャイムが鳴った。
「あの、俺の席って⋯」
「ここだよ。」
霧さんがトントンと、前の席を叩く。
お礼を言って、席に着くと、みんなキョトンとした顔をした。
「あの、チャイム鳴りましたけど⋯?」
「え、あ、あぁ。」
「そうだね。」
陽飛さんと霧さんと亜由夢さんがそれぞれ席に着く。
ヒロさんは少し不服そうな顔をして周りを見た。
「えー?今日は遊ばないのー?」
「え?学校ですよ?」
「⋯サボろって言ってr⋯痛ぇ!」
急に霧さんがヒロさんを殴った。ゴッと痛そうな音がしたけど、大丈夫だろうか?
霧さんはそのことを謝ることなく、ヒロさんの両肩を掴む。
「いいか?ヒロ。これは、勝斗を教育し直すチャンスだ。この機会に真面目にさせるんだよ」
「えぇ。俺は遊びに行きたい⋯。」
「お前もこの機会にサボりをやめろ。勝斗の教育に悪い。」
周りもうんうんと頷いているが、殴るのはいいのか?
よくわからないみんなの基準に、ほんの少しばかり疎外感を感じた。
霧視点 勝斗という人間 #11
配分ミスっているので、一幕より長いです。
まだ家族の問題しか解決していない⋯。
初めて記憶喪失の勝斗の性格を目の当たりにした時、これが幼少期の勝斗の性格なのだろう、と考えた。
---
俺が初めて勝斗に会ったのは、中3の冬。
クズ両親によって、俺等兄弟は冬空の下、追い出された。
真夜中なこともあり、やっている店もほとんどない。仕方なく、近くの公園のベンチに座る。
「兄ちゃん⋯」
「大丈夫。大丈夫だよ」
追い出された理由としては、俺が風邪をひいたからだ。
風邪を移されるとかなわないと、兄弟共々家の外へ出されてしまった。
上の弟の心配そうな顔に心が痛む。
そうだよな。
家に帰れなくて、不安だよな。
俺が風邪なんかひいたばかりに。
今にも泣き出してしまいそうな兄弟たちの頭を撫でる。
「心配しなくても、温かい場所すぐに見つけるから。」
「ちがっ!そうじゃなくて⋯」
上の弟が何か弁解しようとした時、ガサガサッと後ろの茂みから物音がした。
慌てて振り返ると、俺と同い年ぐらいの少年が顔を出した。
俺は兄弟を庇うべく、後ろに隠す。少年はこちらを見てキョトンとしている。
「あの、何か用ですか?」
「え?」
いやーっと頭をポリポリとかく少年。
「子供がこんな夜中にいるなんて危ねぇなーって思って。」
「⋯。」
お前も子供だろ、というツッコミが頭の中によぎった。
きっと、兄弟たちも一緒だろう。
急に、少年が手をこちらへ出して俺の額に手を当てた。
「ん?お前⋯。熱あんだろ!」
「え、あぁ、はい。」
「マジか!そりゃ、コイツらも心配そうな顔してるよな!ちょっと待ってろ」
そう言って少年は走ってどこかへ行ってしまった。
なんだったのだろうか?とりあえず、眠ってしまった末の妹をベンチで寝かせた。
少年は10分程度で帰ってきた。
「はい。薬と水とゼリー。」
「⋯どうも。」
ガサゴソとレジ袋から取り出した少年は、こっちに色々渡してくる。
それらを受け取り、いただく。
すると少年は兄弟たちにも近づいていく。慌てて距離をとる。
「警戒しすぎだろ。子猫を守る野良猫か、お前は。」
呆れたような少年の態度にムッとする。
会ったばかりの人間を野良猫呼ばわりとは何事だ。
こちらが何か言う前に少年はお菓子を取り出す。
「ほら、これをそいつらにと思ってさ。どうせ、心配で眠れないだろうしな」
「あ、ありがとう。」
お菓子をもらい、兄弟たちに手渡す。
「あ、そういえば、お前、名前は?」
「⋯霧。上の弟が|氷《ひょう》。下の弟が|雨《うる》。双子の妹たちの|水《すい》と|露《つゆ》。寝てるのが|海《うみ》。君は?」
「全員水にちなんだ名前なのか。俺は、勝斗。よろしくな!」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべて名乗られる。
これが、勝斗と俺の出会いだ。
亜由夢視点 心地良い空間 #12
前回に引き続き、回想入ります。
俺が勝斗と会ったのは高一の時。
中学の連れは大体別の学校に行ってしまったので、一人でポツンとしていた。
別に積極的に友達を作ろうとも思わなかった俺は、5月になる頃にはすっかり孤立していた。
昔から、背が高くて悪人顔なのもあったのだろう。
別に好きでこんな容姿になってるわけではないのだが。
このクラスには不良グループがいた。
自分とは違い、真面目に授業を受けることは少ない彼ら。
人の目を気にしない彼らに俺は少し、羨ましいな、と思った。
だが、別に関わりはなかった。そう、なかったのだ。
それは突然だった。
昼休み、リーダーらしい勝斗は、俺の席の前に座った。
そこは彼の席ではない。俺が怪訝に思っていると勝斗はまっすぐに俺をみた。
「なぁ、お前いつも一人だよな。友達は?」
「⋯いないけど。」
正直、驚いた。
普段ほとんど教室にはいないし、周りなんて気にしていなさそうなのに、俺が一人なことを知っていたのだ。
勝斗はふむ、と何かを考え込んで、こちらを見た。
「じゃあ、ちょっと来てくれ」
「は?」
「いいから。」
ニヤリと邪悪に笑う勝斗に不安を感じた。
---
「俺、陽飛。よろしくな」
「俺は霧。で、こっちのうるさいのが、」
「広樹!ヒロって呼んでくれよな!」
何が起きていると言うのだろうか。
とりあえず、会釈する。
俺は今、屋上に連れて行かれて、話したことがないのに、一緒にお弁当を食べていた。
意味がわからない。
大体なぜ俺なんだ。
いや、クラスであぶれてるのは俺だけだが⋯。
「お、勝斗。その卵焼き美味しそうだね。」
「ん?自分で作った。その唐揚げくれるならやってもいい」
「やった。ありがと」
⋯意外と器用な不良なんだな。
形の整った綺麗な卵焼きを見て感心していると、勝斗と目が合う。
「なんだ?お前も卵焼きほしいのか?」
「え、いや。料理上手なんだなって見てただけ。」
予想外のことを言われたように勝斗が目をパチパチ瞬かせる。
すると、ヒロが何やら自慢げに胸を張った。
「そうなんだよ!勝斗ってマジで料理が上手くて!この前作ってくれたオムライスなんて⋯」
「なんでヒロが自慢げなのさ?ねぇ、亜由夢くん?」
「え、あ。」
急に話を振られてリアクションに困ってしまう。
が、二人は特に気にした様子もなく話を続ける。
それが口下手な俺にはなんだか心地よくて。
友達になるのにはそう時間はかからなかった。
あとがき
亜由夢くんは別に不良なわけではありません。
と、言うか不良ってなんでしょうね⋯。(見失いつつある)
美春視点 固まる皆と固まる私 #13
質問そろそろ応募終わりですので、ありましたら、リクエスト箱へお急ぎください。
「え!?じゃあお母さんもとに戻ったの!?」
昼休み、屋上でご飯を食べようと言われ、私は、ご飯を食べながら質問攻めにあっていた。
内容としては主に、お母様と私のこと。
ちなみに屋上は鍵が壊れていて勝手に入っているっぽかった。見ないふりしました。
そんなこんなでお母様との今の関係を教えた私はひどく驚かれていた。
いや、そこまでではないでしょ。とはあまり言えないので曖昧に微笑んでおく。
すると、ヒロさんがはー、と何やら落ち込んだ様子だった。
「じゃあ、もう一緒に泊まれないのかー」
「え?どこかに泊まってたんですか?」
あぁ、そっか、と今度は亜由夢さんが会話に入ってくる。
「前までお前ら家で居心地悪い組がよく俺か陽翔のところに泊まりに来てたんだよ」
「へ?」
要約すると、霧さん、ヒロさん、そして彼の三人が家に居場所がなくて帰りづらいということで、家族とはそこそこな亜由夢さんか、基本家族が家にいない陽翔さんのどちらかの家に泊まるのが日常となっていたらしい。
「勝斗がいないと誰がご飯作るんだよー」
「確かに」
「まぁまぁ、俺も一応作れるからさ」
ヒロさんの不満に陽翔さんが同意する。
そんな二人を霧さんがなだめる。亜由夢さんはどこ吹く風といった態度だ。
あ、言ってなかったことがありました。
「あの、俺、料理ができなくなりました」
おずおずと私が言うとみんなが一斉にこちらを向いた。
「え、マジ?」
「は、はい」
「じゃあ、その弁当は?」
「あ、お母様が作ってくださって」
カチッとみんなが固まる。
そんなに料理ができなくなったことが信じられないのだろうか?
と、思っていたが、そうではなかったようで、陽翔さんが物凄い形相で肩を掴んだ。
「え、それ、本当にお母さんが作ったの?」
「は、はい。」
「何時起きで作ってた?」
「ご、五時に起きて⋯」
全員がお化けに会ったかのような顔をしている。
そんなにお母様がお弁当作ったことが信じられないのか。
私は密かにお母様に同情した。
---
放課後、友達と一緒に帰るという長年の夢を達成した私はとても機嫌がよかった。
正しくは、彼の友達だけど。
が、途中でヒロさんのあ、と何かを思い出したような声に私の機嫌は一変する。
「そういえば、勝斗。バイトは大丈夫なのか?」
「⋯へ?」
私の何も知らないといった顔に、全員が固まる。
霧さんがおそるおそるといった風にこちらを伺う。
「⋯もしかして、まだ連絡してない?」
私は思い出した。
陽翔さんたちのグループチャットの下の欄に凄まじい数の通知がついたグループがあったことを。
美春視点 バイトにて #14
「記憶喪失ぅ!?」
店内に素っ頓狂な声が響いた
みんなの連れ添いにより、なんとかバイト先の店長さんらしき人に事情を説明した。
こぢんまりした喫茶店は温かい雰囲気で緊張を少しほぐしてくれた。
「そ、そうか。それは大変だったな。勝坊。」
「かつぼう⋯。」
「あ、あぁ。あだ名みたいなもんだ」
「はぁ。」
とりあえず、なんとかなったみたいでホッとする。
すると、店長さんがなぁ、と声をかけてきた。
「勝坊。お前、まだ料理作れんのか?」
「そ、それが全然⋯。」
これは追い出されてしまうのでは?
と密かに震えていると、店長さんはそうか、と一言言った。
「じゃあ配膳と皿洗いとレジ打ち。できるか?」
「は、はい!頑張ります!」
私の真剣な表情に、店長さんは満足そうに頷いた。
---
喫茶店はあまり人が来ない。
お陰で色々教えてもらえる時間ができてホッとした。
陽翔さんたちは邪魔になるから、と帰っていった。
「勝坊、記憶喪失になったんだって?」
店に入ってきたお客さんが私に手を振りながら言った。
当然、知らない人である。
ええっと?と様子を伺っていると相手は少し驚いたような顔をした。
「はぁ、本当に記憶喪失なんだな。俺ぁここの常連だよ。覚えてない?」
「は、はい。」
「おじちゃん悲しいなー」
「へ!?あ、す、すいません」
申し訳なくなって謝ると常連さんの目が丸くなる。
「はぁ、こらまた随分行儀よくなっちまって。」
「え?」
するとその話を聞いていたらしい店長さんもこちらへ来る。
「だろ!?こいつ本当に勝坊なのかって思っちまうよな!」
「おぉ!人間記憶なくなったぐらいでこんなに落ち着くもんなんだな。」
「お前も記憶なくしとけよ。」
「バッカ!俺が記憶なくした程度で変わるかよ!」
「違いねぇ!」
ガハハハと笑い合う店長さんと常連さんの会話についていけなくなったので、仕事に戻る。
彼はどこへいても慕われてるな。
それに比べて私は⋯。
食器をガチャガチャ洗いながら気持ちがどんどん沈んでいくのを感じた。
---
「勝坊。あがっていいぞ」
「はい」
すっかり日が沈んだ時間。
そう店長さんに言われた私は、帰る支度を始める。
すると、店長さんがあ、と何やら思い出したかのような声を出した。
「勝坊、お母さん元気か?」
「え、はい。知り合いなんですか?」
店長さんはいや、と顔を横に振る。
ではなぜお母様の話を?と怪訝に思っていると、あー、と店長さんが言葉に詰まったかのような声を出した。
「いや、忘れてるだろうから言うけど、勝坊がバイトしてる理由ってお母さんを楽させたいからだって、いつも言ってたから。」
「⋯」
そっか。彼はずっとお母様のことを想っていたのか。
思わず笑みが溢れた。
裏設定
実は最初、勝斗のバイト先は工事現場でした。
ですが、それでは美春が大変そうなので、カフェになりました。
美春視点 ごめんなさい #15
「おかえりなさい。どこ行ってたの?」
「た、ただいま。えっと、バイトに」
家に帰るとお母様が出迎えてくれた。
可愛いエプロンをつけている。
そして私の言葉にキョトンとしている。
「勝斗、バイトなんてしてたの?」
「あ、そうみたいです。」
ふぅん?と意外そうな顔で頷くお母様。
なんて説明すべきか悩んでいたが、私がなにか言う前にそのままキッチンへ向かってしまった。
私としてもあまり聞かれると困るのでホッと胸を撫で下ろす。
「今日は手伝うことありますか?」
「ん?えーっと。食器並べてくれる?」
「はい」
食器を並べつつ、ふと気になったことがあったことを思い出した。
聞いて良いのかな?と少し思ったが多分大丈夫だろうと聞いてみる。
「あの、もしこのまま記憶が戻らなかったら、どうしますか?」
その言葉に一瞬お母様の手が止まった。
やっぱり聞いちゃまずかったかなと少し後悔しているとお母様が真っ直ぐにこちらを見る。
「うーん。戻ってほしいとは思う。だって勝斗生活しづらいでしょ?」
「そう、ですね。」
「でも。戻らなくても私の息子ってことは変わらない。どちらも私の愛する我が子だよ。」
だからそんな顔しないで、と少し困ったような顔を向けられ、ハッとした。
今の私はきっとひどく思い詰めた顔をしていたのだろうと悟ったから。
ずっと。考えていた。
もし、このまま死ぬまで元に戻れなかったら?
そしたらお母様と彼はずっとすれ違ったままになってしまう。
そして、私も他人の人生を貸してもらって生きていくことになってしまう。
そんな考えても仕方のない答えのないことを永遠に考えて。
どんどん気持ちが沈んでいって。
辛くて苦しくなって。
私はいつもこんな感じだ。
どんどん良くない方向に思考を持っていって。
なんだか自分一人になってしまった気がして。
世界に「いらない」と言われてる気がして。
だから。だから、私は飛び降りたんだ。
ふいに視界が滲み出す。そんな私をお母様が優しく抱きしめてくれる。
あぁ、家族に会いたい。
会って、きちんとごめんなさいって言わなきゃ。
急にいなくなろうとしてごめんなさい。
もらった大切な命を粗末にしてしまってごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
私はお母様の腕の中で静かに泣いた。
夜の星は優しく、私を見守っているような気がした。
美春視点 五人でお泊り #16
「なぁ!久しぶりにみんなで陽飛ん家に泊まりに行こうぜ!」
あれから一週間が経過した昼休み。
突然、ヒロくんがみんなに提案してきた。
あまりの突拍子のなさに驚いていると、他の人たちはいいな、と同意している。
「俺も今日は兄弟たちが修学旅行に行ってたりしていないから行けるよ。」
「やった!霧も行けるのか!勝斗はどうだ?」
ヒロくんがこちらに話題を降ってくる。
私は慌てて頷いた。
---
「と、いうことでお友達の家にお泊りしてきます。」
「随分急だね?いいけど。」
一応お母様に報告した所、びっくりしていたが、許してくれた。
急いで荷物をまとめていく。
服、お菓子などなど。
リュックにぎゅうぎゅう詰めにして家を出た。
⋯ところで、陽飛くんの家どこ?
---
「お前なぁ。そういうのは昼休み中に言えよ」
家の場所がわからない、と連絡して数分後、呆れたような顔をした陽飛くんが迎えに来てくれた。
とりあえずお礼を言って家に向かう。
勝斗は記憶がなくなってから少し抜けてるよな、と言われてしまった。
ぐぅの音も出ない。
なんだかいたたまれなくなって俯きがちに歩いていたらどうやらついたらしい。
ドアを開けると、ヒロくんが立っていた。⋯クラッカーを持って。
「ようこそ!陽飛の家へ!」
パァンと軽快な音と共にクラッカーが弾け、紙吹雪が舞う。
これは掃除が大変そうだな、と思っていると、陽飛くんが流れるようにヒロくんの頭を小突いた。
「いて!」
「家の中でクラッカー鳴らすな!掃除が面倒だろ!」
「だってクラッカーやったことなかったんだもん!こんなに散らかるなんて知らなかった!」
「言い訳するな!ほら、掃除するぞ。勝斗も手伝え」
「あ、はい」
お泊り早々、掃除をする羽目になってしまった私達がリビングに着く頃には晩ご飯が並んでいた。
どうやら霧くんと亜由夢くんが頑張ってくれたらしい。
「おー!美味そう!」
「ありがと」
目を輝かせるヒロくんに亜由夢くんが照れたように言った。
楽しくご飯を食べた私達。
その後、霧くんと一緒にお皿を洗っていると、他の三人はテレビゲームを始めていた。
「よっしゃ!」
「陽飛速い⋯。」
「次これするか」
どうやら一番ゲームが上手いらしい陽飛くんをみて関心した。
亜由夢くんはマイペースに次々にゲームを変えている。
それをみた霧くんは苦笑しつつお皿を片付け始めた。私も手伝う。
穏やかで楽しい時間が流れていく。
---
「怖い話しないか?」
布団に入った頃、普段あまり提案しない亜由夢くんが珍しく提案してくる。
正直、私は怪談が苦手なのだが、始まってしまったのは仕方ないので話す。
みんなの話は怖くて夜トイレに行きたくなったらどうしようと本気で考えた。
私の番になり、ポツリ、ポツリと話し始める。
内容としては女の子が心霊スポットに行って呪われてしまうというありきたりな話だけど。
それを話し終え、《《六人目が話し始める》》。
怪談が終わると、みんな疲れたのかすぐに寝息が聞こえてきた。
今日は楽しかったな、と余韻に浸りながら私は眠りについた。
翌日、私は廃墟で知らない人に拉致されていた。
美春視点 治外法権がすぎるよね!? #17
ことの発端は朝の登校時。
「おい、お前。勝斗だな?」
私は全く知らない人に話しかけられた。
どうやら他校の先輩らしいその人はとてもじゃないけど優しくは見えない。
「はい。そうですが⋯」
なにか、と言う前に私は首トンされて気絶した。
---
「ん⋯?」
目を覚ますと廃墟らしい場所に縛られて寝ていた。
現実で本当にこんなことあるんだ、と妙なところで感心していると、
「お?起きたのか?」
ニヤニヤと先程の先輩がこちらを覗いてくる。
なるほど。気を失った私はどうやら人質として連れ去られたらしい。
全くなるほどじゃないね。どうしよう。
「そろそろお仲間たちがこっちにやってくるぞ?」
先輩は彼のスマホを私に見せる。
見てみると、私、まぁ体は彼なのだけど。
が、捕らえられている写真がグループチャットの方で流されていた。
わー。こんなことって本当にあるんだー。
殴られることは悲しきかな日常だったので痛い思いはあまりしたくはないけど慣れている。
そのせいか、恐怖心よりも非日常体験の驚きが上回っていた。
謎のアトラクション気分の私だったのだが、事態は急変する。
急に入口付近の人間が吹っ飛んできたのだ。
⋯は?
慌ててそちらを見ると、陽飛くんと霧くんとヒロくんが立っていた。
完全に目が据わっている。
「おい、お前ら。勝斗から離れろ」
いつも穏やかな霧くんからは想像できないぐらい低い声で先輩に告げる。
わー。普段穏やかな人を怒らせると怖いって本当なんだなー。
と必死に現実逃避を始めているうちに、大勢が一斉に三人に飛びかかった。
今知ったけど、結構人いたんだね。
そしてその戦力差をまるで感じさせずに蹂躙していく三人。
陽飛くんが喧嘩しているところは想像できたけど、二人はちょっと想像できなかった。
ヒロくんは普段人懐っこいし。⋯今は満面の笑みで人殴ってるけど。
霧くんは普段穏やかだし。⋯今は血が騒いでるように怖い目をして人蹴り飛ばしてるけど。
なんだろう。この治外法権。
本当に現実なのかな?
思わず乾いた笑いが漏れる私にパタパタと近づいてくる人がいた。
亜由夢くんだ。
「勝斗、大丈夫?」
「あ、はい。俺は大丈夫なんだけど⋯あの三人、その。情緒とか、大丈夫かな?」
「え。あ、あはは」
亜由夢くん?目を逸らさないでもらっていい?
かくして普段あまりない人質体験は、四人の協力で短期間で終わらせられた。
---
「勝斗、大丈夫?」
「ダイジョウブデス」
「なんで片言?」
霧くんが怪訝そうな顔をしている。
が、さすがにバッタバッタ人を倒していく人の接し方なんて知らない。
みんな包帯巻いたり消毒液かけたり甲斐甲斐しく世話してくれる。
「痛かったよな?飴食べるか?」
「アリガトウゴザイマス」
「俺のポテチあげるよー!」
「ドウモ」
「怖かっただろ?よしよし」
「ありがとう」
「「「なんで亜由夢には片言じゃないの?」」」
そんなにハモらなくても⋯。
あれが日常なんだろうな、と少し遠い目をした私だった。
その後、家に帰るとぐっすりと眠った。
あとがき
次回最終回です。
勝斗視点 怖い #閉幕
目を覚ますと、自分の家の天井だった。
なんだ?帰ってきたのか?
ゆっくりと起き上がる。
すると、グツグツと何かを茹でているような音がした。
キッチンの方へ目を向けると、母さんが料理をしていた。
⋯は?
「おはよう、勝斗。」
起きたことに気付いた母さんが笑顔で俺に話しかける。
そう、まるで愛する我が子を見る母親の顔で⋯。
俺は思わず後ずさった。
---
「記憶が戻ったけど、記憶喪失中の記憶がない⋯そう」
一応母さんに説明すると、心底どうでも良さそうにキッチンへ去っていった。
⋯頭を撫でてから。一体何が起こっているというのだろう。
中3の途中らへんから俺は母さんと滅多に話さなくなったはずだ。
というか、料理。
目の前に置かれた自分の分もある朝食を見て驚く。
料理は小5辺りから自分の当番になっていた。
というより、母さんが夜帰ってきて疲れているだろうと気を使っていただけなのだが。
ということで、最近本当に母さんが料理なんて作っているところを見ていなかった。
全てが怖い。
ご飯を完食しただけで「偉いね」と褒めてくるのだ。
そしてギュッと抱きしめられた。怖い。
もう何がなんだかわからなかったので、俺は逃げるように家を出た。
---
学校に行ってダチ達にも同じ説明をすると、なんだか寂しそうだった。
「そっか。俺達の勝斗はいなくなっちまったのか⋯」
「いや、俺ここにいるから」
うんうんといいながら霧が頭を撫でてくる。
「⋯いや、何してんだよ?」
「あ、ごめん。つい、昨日までの癖で。」
パッと頭から手を離す霧。
目が完全に弟達を見る目になってる。
ひどく居心地が悪い。
「ほら、勝斗。美味い菓子見つけた。あーん。」
「いや、自分で食うから!」
「あ、すまん。昨日までの癖で。」
陽飛が悪びれもせずに言う。
すると今度はヒロが抱きついてきた。
「⋯くっつくな」
「あ、ごめん。昨日までの癖で。」
パッと離れたかと思ったら頭を撫でてくる。
愛玩動物を愛でるような態度にいたたまれなくなる。
すると、座っていた亜由夢が俺を持ち上げて膝に乗せた。
「⋯お前もか。」
「え、あ。そっか。記憶が戻ったんだからこれはおかしいよな」
普段積極性のない亜由夢まで⋯!
物凄く恥ずかしくなってきた。
すると、多分顔が赤くなっていたのだろう。
ダチ達がニマァとからかうような顔をしている。
「⋯っ!んだよ!?」
「勝斗、照れてる?」
「っるっせぇ!野良猫野郎!」
学校にいる間、抱きつかれたり、頭を撫でられたり、食べ物を食べさせたりし続けた。
---
「記憶が戻ったぁ!?」
素っ頓狂な声をあげる店長の反応にうんざりしていると、常連のおっちゃんも驚いていた。
「はぁ、なんだ。折角饅頭やろうと思って持ってきたのに。」
「俺はあんたの孫か。」
とりあえず、美春の存在のデカさはわかった。
そしてすごく可愛がられていたのも、わかった。
というか、怖い。みんなの変わりようが。
---
バイト後。
流石に夜は母さんも遊んでるだろうけど、一応家に帰ってみると、母さんが晩ご飯の支度をしていた。
「おかえり。」
「⋯ただいま」
「おいで」
「⋯?」
母さんの側に寄ると、膝枕をされて愛おしそうに頭を撫でられた。
「⋯っな!?」
真っ赤になってるであろう俺の顔を見て母さんはクスッと笑う。
楽しそうな母さんをやめさせるわけにもいかず、仕方なく顔を手で覆う。
恥ずかしさで死にそう⋯
もう、美春が怖い。
何をどうしたらここまでみんなを変えれるのか。
これ以上何もやっていないよな?
なんだか怖くなって俺は急いで美春の番号に電話した。
そして、俺達は夜がふけるまで電話し続けた。
この奇妙な体験はこれで終わりだ。
あとがき
ついに完結しました!長かった⋯!
次回質問回答コーナーです。
質問回答コーナー
<「こんにちは。弐虎れいなです。」
---
勝斗への質問
<「では、勝斗。よろしく」
「んでタメ?」>
Q、お父さんは今どこにいますか?
A、遠くの家で今ものうのうと生きてます。
<「とりあえず、呪っておきますね」
「やめい」>
Q、好きな食べ物は?
A、オムライスです。
<「意外と可愛いものが好きなんですね」
「っるせぇほっとけ。」>
Q、陽飛とはどこで会いましたか?
A、小学校からの腐れ縁です。
<「そうだったんですね。」
「なんで作者なのに知らないんだよ」>
Q、兄弟はいますか?
A、勝斗や母親は知りませんが、異母兄弟がいます。
<「やっぱり呪っておきますね」
「やめろ」>
Q、その後の勝斗と母親の関係は?
A、頭を撫でられたり、ハグされたりなどなど。
勝斗は基本、人からの善意を断れないのでされるがままになっています。
Q、その後、お友だちとの関係は?
A、いつものように戻りました。
が、たまに恥ずかしがっている勝斗を見るために頭を撫でたりしてからかっています。
<「よかったですね」
「どこがだよ!」>
---
美春への質問
<「では美春ちゃん。よろしくお願いします」
「はい」>
Q 、美春はこれまでも厄介な男に好かれたことはあるのでしょうか?
A,顔が綺麗なので、かなり男が寄ってきます。
厄介な男で言うと、自分の血で書いたラブレターを送った男が一人います。
彼女がいる男が美春に惚れて大変なことになったこともあったようです。
勝斗も若干美春を気に入っているので、男運が悪いのかもしれません。
<「可哀想に⋯」
「あ、あはははは。」>
Q、その後、勝斗との関係はどうなりましたか?
A、頻繁に電話して頻繁に会っています。
次回作の「オタクな王子はギャップに弱い」で美春と勝斗の関係が出てきますよ?
<「あ、ネタバレ⋯」
「ふぇ!?ネタバレなんですか!?」>
Q、その後の家族関係はどうですか?
「良好ですよ。私も家族とよく話し合いをするようになりました!」>
<「いがったなぁ」
Q、兄弟はいますか?
A、一人っ子です。
Q、好きな食べ物は?
A、基本甘いものならなんでも好きです。
<「なのに太らないのは魔法ですか?」
「あまり多くは食べられないので⋯」>
Q、勝斗のことどう思ってますか?
A、現段階では「紳士的ないい人(不良)」という印象です。
<「現段階⋯?」
「ノーコメントで!!」>
---
あとがき
以上でこのシリーズは終了となります。
これまで見てくださった皆様、本当にありがとうございました。
本作品は最初、正反対の二人が入れ替わったら面白いことが起きそうだな、という安直すぎる考えから生まれました。
そうしてできた二人が美春ちゃんと勝斗です。
性格も境遇も正反対な二人ですが、一つだけ共通点がありました。
気づきましたか?
二人の共通点、それは「現状を変えたいとは思っているが、変える力を持っていない」ことです。
変える力、とはここでは勇気のことです。
現状が変わる。それは誰にとっても怖いことです。
それが「まぁこのままでもいいか」と思っているなら尚更です。
そんな二人が入れ替わると問題はいとも容易く解決します。
それは正反対だからでもあり、それだけではありません。
それが何であるのか、それはきっと大体の人が人生の中で見つけてくるでしょう。
なんて意味深にかっこつけて言っていますが、私もまだまだ経験が足りていません。
はいはい。真面目な話終了です!
本作品、いかがでしたでしょうか?
え?イマイチ?面白かった?色々な声が聞こえてきますね。
面白かったのならそれでよし。
イマイチだと言われたのならもっと頑張ります。
それと、裏話になるのですが、ところどころ登場人物が抜けています。
最後の最後で美春(中身は勝斗)に告白して振られるいじめの傍観者くん。
立入禁止の屋上にいる勝斗(中身は美春)にキレる体育科の教師。
そして、本来一番重要なはずのヒロを救う話。
等々、なぜかわかりませんが、物語に置いていかれた者たちです。
振り落とされるんじゃねぇぞ、と言いながら猛スピードで駆け抜けていったがために出た弊害です。
本作品の一番の被害者はヒロかもしれません。ごめんねヒロ。
そして本作品で最も私のヘイトを稼いだのが、勝斗父です。
設定がどんどん浮き彫りになるたび、「呪ってやるぅぅうう!」と呪術師も真っ青なぐらいに呪言を言ってました。
とりあえず、いつかどこかの作品でコテンパンにしてやろうと決めています。
皆様はどの人がヘイトを稼いでいますか?
竜馬でしょうか?エリカでしょうか?それとも、勝斗母?あ、先輩を忘れてますね。
そうそう。言い忘れていたのですが、物語開幕時、勝斗をバットで殴ったのも先輩です。
一体誰が一番気に食わなかったかをファンレターで教えてください。
ではまた他の作品でお会いしましょう。