アンドロイドが普及した世界で
人々はアンドロイドを持つようになった。
この世界では、人とアンドロイドは一心同体。
そんな中、アンドロイドを利用した犯罪が増え、人々の犯罪意識が変わりつつあった。
様々な囚人を抱えている、大きな牢獄の話。
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目次
全てあなたの選択です。 No.0
朝8時、鐘が鳴る。
囚人の点呼が始まる時間だ。
一定のリズムで淡々とした足音が、牢獄に響く。
「4902番。」
静かな声の後に、囚人がそこにいる事を返事で示す。
看守はその一瞬で異変が無いかを見る。
彼の鋭い目つきが、囚人達には余程恐ろしく感じていたそうだ。
ピクリとも動かない彼の表情を、誰もが嫌がった。
命令であれば、情もなく撃ち抜く彼を、囚人達はこう呼んだ。
“薄情の悪魔”と。
---
髪をオールバックにして看守の帽子を被る男、フィリップはこの牢獄の看守だった。
やけに整った顔、動かない表情、いつから付けられたのかも分からない最悪とも呼べる二つ名。
言うまでもなく、フィリップは囚人達から恐れられていた。
彼はそれを知っているのかは分からないが、知っていたとしても変わらないのだろう。
彼からしたら“ただの仕事”なのだから。
今日もいつも通り、異変が無いかを確認するために牢獄へ向かう。
ぷ、プロローグなんか、これは…??
まぁ、珍しくこの視点で書いていこっかなって思ってます!
まだまだキャラは募集してますので、ぜひどうぞ!
全てあなたの選択です。 No.1
ノロノロ執筆中…。
決まった時間にいつも通り、牢獄へ向かう。
フィリップは何も考えず足を運ぶ。
看守の朝は早い。4時には持ち場にいる必要があった。
朝の囚人は、意外にも大人しいのが救いだろうか。
ここでは囚人の1日のスケジュールというものがある。
朝8時の点呼を終えたら、次は彼らを食堂に彼らを向かわせる。
全員の食事が終えれば、10時までは各自で支度。
その後、13時までは持ち場で仕事。
仕事は日によって変わり、今日の仕事は草むしり。
仕事が終われば昼食を挟む。
それからは夕食まで自由に過ごす。
夜の点呼を終えたら彼らは眠りにつく。
囚人の1日は必ず時間通りに進む。
看守はそれに付き添うだけ。
看守の1日も思っている程大した事はないが、彼ら囚人と違い責任が大きい。
それに加え、文句を言える立場ではない。
だから文句を吐かずに仕事をこなすフィリップは、まさに適任だったのだ。
牢獄までもう少しといった所で、フィリップは1人の男と鉢合わせた。
「あ、フィリップさん。おはよう、まだ全員寝てるよ。人数も変わってない。」
その男は黒い髪をセンター分けにして、ニコニコと微笑みながらそう言った。
フィリップは彼の顔を見て、
「あぁ…、ヴェラさんですか。おはようございます。報告、感謝します。」
と、淡々とした口調のまま告げる。
ヴェラという男、本名はヴェラ・クロッキー。
彼は数年前からここで看守をしていた。
言わばフィリップにとっての仕事仲間。
「相変わらず表情変わんないね…。ホント、機械に育てられたのかってぐらい。」
ヴェラは苦笑しながら、そんな事を言うと、
「機械…?アンドロイドではなく…?どちらにせよ、私は機械に育てられていませんよ。」
フィリップは中々ド真面目に返す。
世間ではそれを天然というのだろうか。
これには慌ててヴェラも、
「いやいや、そういうジョークだから!」
と返す羽目になる。
フィリップはもう少しジョークが通じるようになるべきだ。
仕事に熱心なのは良いが、人間味がない。
多分皆そう思っている。
「失礼しました。これからは面白く返せるように努力します。」
「いや、別にそこまでしてほしい訳じゃないんだけど…。まぁ良いや、俺はいつも通り、しばらく仮眠とるよ。おやすみ。」
「はい、おやすみなさい。椅子で寝ると老けやすくなるらしいので、気を付けて。」
「え!?それマジ!?」
「いえ、そういう冗談です。」
「…………。」
---
フィリップはいつもより5分遅れて牢獄へ着いた。
牢獄からは寝息がよく聞こえる。
フィリップは、いつもの椅子に腰を下ろす。
そこからは牢獄の中までは見えないものの、牢が動けば聞こえ、牢から手を出せば見える。
終わりがないと錯覚してしまう程の長い通路。
それを見ても尚、姿勢正しく座るフィリップの姿は、まさに見本と言えるのだろう。
ふと、声が聞こえたため、顔を上げると、遠くの方でフィリップを呼んでいる手が見える。
フィリップは小さく息を吐き、そこまで向かう。
どうせ用などないのだろう、行く必要はない。
彼はそんな事を考える事もなく、真面目に、足を進めていく。
フィリップが呼ばれたところで立ち止まると、そこには見慣れた顔がいた。
「おはよう、私の友人。」
まるでアルビノのような白い髪と赤い目を輝かせる男は微笑んだ。
牢獄は、それぞれの2人〜4人程のペアでそれぞれの牢に分けられているため、彼の後ろにはまだ寝ている囚人がいる。
フィリップは変わらない表情のまま、
「私はあなたの友人ではありません。」
と微かに首を傾げた。
白髪の三つ編み男は“シラ・スペード”という。
5、6年前に、ここにぶち込まれた、紛れもない囚人。
フィリップが告げた通り、友人なんかではない。
「フフ、残念ですね…。私達、長い付き合いなんですから、それぐらい親睦は深められているのではないでしょうか?」
それでも、シラは否定をしない。
頑固者…、いや、一途と言うべきか。
「…ところで、何か用があるのですか?」
きりが無いと判断したフィリップは、本来の目的を尋ねる。
シラはニッコリと微笑んで、
「貴方と話したかっただけです。」
とだけ言った。
こんなやり取りを、彼らは毎朝、もう3年は続けている。
いい加減どちらかが止めたら良いものを、クソ真面目看守と友人気取りのイカれ野郎の2人だからか、なかなか終わらないのだ。
「では、今日の天気の話をしましょうか。今日は17時までは雲量が2から4の晴れとなりそうです。後に曇りになり、23時には大雨になる予想です。風向は東北東、風量は…」
フィリップは大した世間話を持ち合わせていないため、話が思いつかない時の会話で定番の天気の話をする。
まるで気象予報士のようにスラスラと言う。
フィリップと会話がしたかっただけのシラは、ニコニコと相槌を打ちながら聞いていた。
「看守ー!」
しかし、丁度その時、もう少し行ったところでフィリップを呼ぶ声が聞こえる。
「すぐに向かいます。」
フィリップは天気の話を止め、シラには「では」とだけ言い足を進めた。
シラは自分を後回しにされたのが嫌だったのか、はたまたフィリップとの会話を邪魔されたのが嫌だったのか、小さく舌打ちをした。
---
やっと一段落落ち着いた時、8時を知らせる鐘が鳴った。
「点呼を始めます。」
フィリップはそう言い、バインダーを手にする。
牢獄は意外にも天井が高く、彼の声がよく響いた。
「1804番。」
『きりの悪い数字から点呼がスタートする。
しかし、それは仕方がない事なのだ。
それ以前の番号の者は、全員死んだ。
ただの“死刑”で。
ここはシンセシアB棟プリズン。
ネオシンセシアという街の9割を占める、大規模な拘置所だった。
アンドロイドを利用した犯罪が膨大に増えてきてから造られたもの。
街、と言ったが、ネオシンセシアに住む人は1人としていなかった。
いや、いなくなった。
皆、囚人達を恐れたのだ。
何年もしないうちに、この街は静寂を保つようになり、今ではまた領土を増やそうとしているらしい。
本部はネオシンセシアの中心区域にあたる。
そこから十字になるように拘置所が建てられている。
それぞれA棟、B棟、C棟、D棟と呼ぶ。
そしてフィリップは、いつからか看守として働き始めた。
当初から素晴らしい結果を残していたそうだ。
少なくとも、当初の彼を知る人は少なかった。
その時の看守達も、多くは亡くなったからだ。
理由は単純なものばかり。
囚人に殺されたか、シンセシアプリズンから逃げようとしたか。
辞職は、裏切りを示す。
だから、フィリップの事をよく知る者はここにはいないのだ。
知っている者がいるとすれば、それは本部のみとも言える。
しかし本部は囚人に直接的に関わる事はないから、知れるとしても看守のみだろう。
ところで聞いたことあるだろうか、
“薄情の悪魔”と呼ばれる彼の噂を。
実は……』
「そこ、私語を慎みなさい。」
囚人達が牢獄の中でコソコソと話していると、フィリップが冷たい言葉を吐き捨てる。
『ヒェッ!すみませんッ!!!!』
フィリップは、殺されるのではと息を呑む彼らに目もくれず、すぐに足を進め直す。
「今から朝食の時間です。鍵が空いたら素早く通路に出て、番号順に直立して待つこと。」
そう言って彼は胸元のポケットに入った機器を押す。
すると、途端に牢屋の牢が一斉に開いた。
囚人はゾロゾロと牢から出る。
何千人もいるというのに、彼らはズラリと真っ直ぐに並んだ。
何度もさせられて、慣れているといった所なのだろうか。
フィリップはそれを確認次第、彼らの前を歩く。
食堂までの廊下には、足音のみが聞こえた。
この囚人の中には、人のみならず持ち主の犯行に加担したアンドロイドも入っている。
今ではアンドロイドを持つ事が、主流となっていた。
それに漬け込んだ阿呆共が、“ガラクタ”を利用して犯罪を犯すのだ。
しかも、一昔前のアンドロイドとは違い、この時代のアンドロイドは、それぞれの意思がある。
今では意思のない機械の方が珍しい程。
それに加え、プログラムで全て言わされているだけのアンドロイドも珍しいものだった。
だから好きでそんな阿呆を慕っている馬鹿をいる訳になる。
人間とは違う厄介さがあるため、包み隠さずに言えば面倒くさいもの。
感情はあれど、“ガラクタ”は“ガラクタ”。
そう思わないだろうか。
プラスチックで出来ているのだから。
それでも彼らを対等に扱うフィリップは、彼らに可能性でも見出しているのか。
今じゃ、人とアンドロイドの違いを見抜くのは、もはや至難の業。
しかし、全く見抜けない事は無く、
彼らとのの違いはおおよそ3つある。
1つは人知を超えた技が出来るか否か。
2つは痛みを感じるのか。
3つは、血の色だ。
たったこの3つでしか、我々は判断が出来ない。
だが決定的とも言える違いだ。
壊せば分かる、そう言いたい訳だろう。
これらが完全に改善された時には、アンドロイドも1人の人間になりつつあるのかもしれない。
フィリップは食堂の扉を押し、囚人達が食堂に入りやすいようにする。
食堂の広さは学校の校庭の3倍以上もの大きさだった。
しかしその中に何千人が入るのだから、一丸にこれを広いとは言えない。
食堂はここが拘置所とは到底思えない程賑わっていた。
机にはすでに朝食が置かれており、必ず1人1食食べれるようになっている。
質素で味の薄い食事で到底美味しいとは言えない。
それでも賑わうのは、会話が許されているから。
フィリップは食堂の扉の近くで、手を後ろで組んで立っていた。
今から1時間はそこで監視する必要があるため、食堂を出る訳にはいかない。
とはいえ座ってしまえば、食堂の全貌が見えない。
もはや彼からすれば慣れている事だったため、すでに澄ました顔をしている。
食堂では様々な会話が出来る。
脱獄の機会を伺っているという話も、どこにどんな道があるという情報共有も可能だ。
看守からしたら面倒な場所なのだ。
全てひっくるめた意味で。
すると、丁度奥の方で囚人達が、騒然としていた。
どうやら1人の人間の男がアンドロイドの少女に暴力を振るおうとしているようだ。
囚人が他の囚人への暴力は、ここではよくある事だった。
特に食堂は、最も囚人同士が関わる場所だ。
さぞかし、目障りだったのだろう。
彼女の持ち主は、非力ながらも身を挺してまで仲介に入ろうとしていた。
男はそれを見て躊躇う事もなく、腕を振り上げる。
誰かの悲鳴とともに、そこには冷たい銃声が響いた。
男は喉を撃たれ、赤い液体を当たりに撒き散らしながらその場に倒れる。
銃声がした方には、煙たくなった銃を構えたフィリップが、静かに立っていた。
ツカツカと男の傍まで歩いてくる。
その姿は、まさに心がない、“薄情の悪魔”と言えるのだろう。
「5907番、息無し。……怪我はありますか?」
男の首元に手を当て、死んでいる事を確認した後、地面に膝をついたままアンドロイドの少女、ルラに尋ねる。
「うん、ありがとう!フィリップちゃん!」
純粋無垢なアンドロイドは輝かしい笑顔でお礼を言う。
色にばらつきがない綺麗なボブカットの髪がふわりと揺れる。
彼女と同じ髪色の髪をした、彼女の持ち主のサファイアも慌てて言った。
「フィリップさん!ほんっとうにありがとうございます!!!ルラに傷でも付けられたら、僕、僕………!!」
彼は途中泣きそうな顔で嗚咽を漏らす。
まだ泣いてはないが、きっと言葉にならないのだろう。
「…いえ、仕事ですのので。」
フィリップは内心感謝された事に疑問を抱きつつも、変わらない表情のまま、男の死体を抱える。
誰もがアンドロイドを認めている訳ではないのだ。
その事を誰もが重々理解した上で、こんな世界になっている。
誰も、止められなかったのだ。
彼が食堂を出た後、食堂はまた楽しそうな声で賑わい始めた。
フィリップは死体を食堂の外に放り出し、本部へと知らせる。
彼らが食事を終えるまでには回収に来てくれるだろう。
いつまでも外にいる訳にもいかないため、すぐに食堂に戻る。
たった1秒の隙が、彼らにとっての好機となる。
それを与える事で脱獄なんて試みられたら、本部からの印象はきっと悪くなるだろう。
食堂は何も変わらない様子だった。
念の為、食堂の扉を閉じる。
そしてまた、フィリップは後ろで手を組む。
彼の目には、何も映っていなかった。
ただ静かに、冷静に、水面のようにそこにいるだけ。
ここでの生活にも、慣れてしまった。
いつまで彼は看守として働かされるのか。
本来であれば、もうすでに本部で働いても良いはずだった。
数少ない看守仲間も、何人かは本部へ移っている。
やはり、本部からはフィリップは優秀な駒なのだろう。
フィリップもそれを知っているはず。
だが何も行動する事は無かった。
昇級は望んでいないのか。
こんなゴミ溜めのような場所とは、全くもって違うというのに。
フィリップには、欲がないのだ。
何か欲を持つべきだ。
些細な事も、欲望のために努力しようと思えるはず。
だが彼には分からないのだろう。
欲望と言うものが何か、どういった感情で生まれるのか。
経験を積むべきだったのだ。人間らしい経験を。
ふと、食堂の扉がフィリップにしか聞こえないであろう力でノックされる。
扉の向こうから、少なくとも今聞きたくない言葉が聞こえた。
ハッハーー!!!!
書き方変えて、めちゃ楽しんでるぅ!!!
楽しいぃーー!!!!!((
好きなところで切れるーー!!!!
1日1話とかじゃないって楽ーー!!!
本来はもう少し長かったけど、ちょっとフィリップの見せ場が多かったから分けました。
正直、キャラの使い方が荒い人間なんで、出てきてすぐ死んだとかあるかと思いますが、……大目に見て下さい。
これでも頑張って書くんで、それなりにファンレターとかくれたらもっと頑張ります…()
選択肢の方はもう少ししてから導入予定…。
流石に今は選択するとこないんで()
全てあなたの選択です。 No.2
『D棟で、“また”反乱だ。』
そう、廊下から扉越しに伝えてくる。
反乱、というのは囚人達が看守に暴力を与えた事を指す。
反乱が起きた場合、その場で死刑が命じられている。
また、命知らずが動いたのだ。
フィリップは静かに、ソイツの話を聞いた。
どうやら何人かの看守はすでに撃たれたそうだ。
せいぜい看守の拳銃を奪い取ったのだろう。
看守が少ないとなれば、警備が薄くなる。
脱獄も時期に試みるはず。
フィリップは本部に食堂の見張りを要請し、すぐにその場を後にした。
---
D棟は、まさに監獄らしいといえる姿だった。
囚人達は興奮した様子で、ここから出せ、と何度も何度も言う。
目の前で看守が倒れているのに、呑気なものだな。
フィリップは亡き同僚のために拳銃を手に取り、息を吸った。
そして、拳銃はけたたましい大きな音を響かせた。
辺りは一瞬して沈黙を得る。
その銃声に、犠牲者はいない。ただの威嚇射撃だ。
フィリップは静かになった廊下を黙って歩き進める。
この先にいるそうだ。奥の方はまだざわついている。
“目的”は何人かの仲間を連れ、逃げる準備をしているようだった。
計6人、そのうちの2人はアンドロイドか。
“奴ら”はフィリップに気づき、すぐに1人の男を引っ張りだす。
最近、ここへ当てられた新人の看守だ。
彼は各棟の責任者ではないため、拳銃を持ち合わせていない。
きっと非力に見られたから、人質という扱いなのだろう。
『それ以上近づくな。近づいたらコイツを撃つ。』
“奴”はそう言って、看守の喉元に拳銃を当てつける。
拳銃があるかないか以前に、新人の看守は怯えて使えそうにもない。
フィリップは拳銃を構えたまま、動かなかった。
その距離からなら、確実に撃てる。
到底近い距離ではなかったが、フィリップの経験上であれば、外す事はそうそうないだろう。
『銃を下ろして、床に置け。』
看守を人質に取る“奴”は、緊迫しているものの冷静に指示を出す。
それでもフィリップは拳銃を構えたまま立つ。
“奴”もそれには焦るように威嚇射撃をして、さらに声を荒げる。
『銃を下ろせ!!!』
次第に、銃を構えたままのフィリップへ銃を向ける。
今度は威嚇射撃ではない。
確かにフィリップに銃を向けたまま、引き金を引く。
だが、フィリップは微かに首を傾け、弾はそのままフィリップの横を通り過ぎた。
その拍子に、フィリップも引き金を引き、“奴”の隣にいた女の囚人の頭を撃ち抜いた。
「まだ、続けますか?」
フィリップのその言葉に奴は頭に血が上ったように激上する。
獣のように言葉にならない叫びを上げながら、もう一度銃を構えた。
しかし、どれだけ引き金を引いても弾は出なかった。
弾切れだ。
廊下で倒れていた看守は合計8名。
弾の使い方が荒く、弾数は12、3発程消費しているとみただけだった。
賭けるなんて、フィリップらしくない。
『クソッッ!!!!クソッッッッッ!!!!!!こんなとこで俺はッ___』
“奴”は女と同様、頭を撃たれて倒れた。
“奴”が倒れると同様に、怯えた様子で見ていたアンドロイドもその場で崩れ落ちる。
持ち主が死ぬとアンドロイドの機能は強制的に停止するからだ。
“奴”のアンドロイドだったのだろう。
停止するのは持ち主の意志を、永遠に生き続ける事の出来るアンドロイドに継がせないため。
フィリップは一瞬、どこか人間らしい顔を見せた後、すぐに人質にされていた看守の元へと歩く。
この人質を撃っていれば良かったものを、何故フィリップに銃を向けたのか。
死んだ後を考えて、犠牲の多い方を選ぶべきではないのか。
理解し難い行為だ。
犯罪を犯した者に、正しい行動も糞もないだろうが。
残された仲間はフィリップが近づいてきた途端にビクリと体が跳ねた。
小動物のようにうずくまって小刻みに震える。
そんな囚人には目もくれず、フィリップの視線は看守に向く。
看守はすでに足を撃たれていたものの、無事のようだった。
「あなたはこの後すぐに怪我の手当てを受けてきて下さい。次第に十字部が来るでしょう。」
フィリップは持っていたハンカチーフを当ててから、やむを得ず自身のシャツの左袖を破り包帯代わりにする。
血はまだ止まった訳ではなかったが、無いよりはマシだと判断したのだろう。
肩を貸しながら看守が歩くのをサポートしてやるフィリップ。
残された仲間は顔を上げる。
自分は殺さないのか、そう聞こうとしたんだろう。
それは声になる事はなく、囚人の喉に弾が通り抜いた。
使い物にならない“ガラクタ”も音を立てて崩れる。
フィリップはそれをしっかりと目で確認してから、拳銃を手にしたままゆっくりと足を前へ動かす。
『こ、殺さなくても良かったのでは…?彼はもう…逃げる気は無かったようでしたよ…?』
先輩が相手でも、看守は自分の意見を言う。
良い人材だ。素直というものだろう。
フィリップは彼に目を合わせる事もなく、口を開いた。
「…命令でしたので。」
足を撃たれた看守を十字部に引き渡し、今回もまた反乱を抑える事が出来た。
フィリップは露わになった自分の腕を見て、どうしようかと少しだけ悩む。
看守の制服であるスーツを上から着ているものの、シャツが破れていては困る。
わざわざ看守用休憩室に戻り、着替えようか迷っているというところだろう。
その時、ふと目の前に人影が立つ。
「…どこにいたのですか?ここはあなたの担当でしょう。」
フィリップがそう言いながら顔を上げると、そこにはフィリップより25cmは高い男がいた。少なくとも、2mはある。
無造作なグレーの髪の上からウシャンカを被った長身の男はどこか面倒くさそうに頭を掻く。
「……ちょっと呼ばれてただけだ。」
切れ長でラベンダーの色をした男の目は、ぶっきらぼうに答えながら、極力フィリップを見ないようにしていた。
「本部にですか?」
「…………。」
フィリップの言葉に、沈黙を生む男。
互いに無表情を安定させていた。
ポーカーフェイスを顔に張り付かせ、両者共に折れやしない。
だが次第に、フィリップの口が開いた。
「…その方達は?」
フィリップの視線は男の足元に向く。
男の足元には、ゴロリと寝転んだ死体が複数あった。
フィリップが撃った者達ではないのは確かだ。
来た時にもこんなものは無かった。
「…お前が向こうに行ってる間に逃げようとしてた奴らだ。たまたま見つけたから殺した。」
男は気だるそうに灰色混じりのため息を吐く。
本当に面倒くさそうだ。
多分出来るだけ早く帰りたいのだろう。
「そうでしたか、ありがとうございます。本部にも、そう伝えておきますね。」
フィリップは抑揚のない淡々とした声を見せる。
男は先程よりも尚嫌そうに眉間にシワを寄せ、
「………いや、やめてくれ。これ以上仕事が増えるのは勘弁だ。」
と頭を振った。
「困ります。私が貢献したものでは無いのですから、報告させて下さい。」
「……ハァ…、命令だと言ったら?」
ふと、男はその言葉を出す。
フィリップの顔は変わらないままだったが、微かに指がピクリと反応した。
「命令とあらば、その命に従いますとも。」
彼が胸に手を当て、深々と頭を下げると男はどこか困ったように頭を掻く。
「…待て待て、お前が彼奴らに忠実なのは分かってるが、俺は本部の人間じゃない。知ってるだろ…?」
事実、一応男はフィリップとは多少立場は違うものの、本部程上の立場では無いのは確かだった。
それでもフィリップは意見を曲げずに口を開く。
「それでも貴方は私よりも先にここにいました。でしたら、私は貴方の命令に従う理由は大いにあります。」
フィリップは変わらず真面目に告げた。
本当に忠実すぎるのだ。しかも真面目なのだから一層どうしようもない。
救いようがない、哀れな人形と言えば聞こえが良い。
だがコレに関しては、一種の馬鹿だ。
忠実に生きる事のみを鍛えられた犬に変わりない。
これには流石に男も頭を抱えた。
「………もう良い。とにかく今はゆっくりしたい。」
「そうでしたか。では、失礼します。」
フィリップは丁寧に頭を下げ、男の横を通り過ぎる。
男も微かに息を吐くだけで何も言わない。
次第に男は、転がった死体を気にせず踏んづけながら、奥の方へと向かっていった。
---
「だからってさ、俺の貴重な睡眠時間に呼ぶのは違くない?」
ヴェラはわざわざ仕事中の囚人達の前で皮肉そうに言った。
囚人達が黙々と草むしりをしているにも関わらず。
「あー…そりゃああれっすよ!看守さん以外頼れる人がいなかったんでしょ!」
次第に栗色の髪をしたたれ目の男のアンドロイド、リロルはだるそうにするヴェラを励ますように言った。
後に、リロルは隣にいた黒髪の男に向いて「ね!」と同意を求める。
その男は彼とは対照的なつり目であり、彼の持ち主でもある人間の男、マックは微笑みを返すだけで返事はしなかった。
多分どうでもいいと思ってるんだろう。
「ホントに俺らの使い方が荒いよ、本部は。」
ヴェラはため息を吐く。
囚人にそんな話をした所で、どうしようもないのに。
本部がどうとか、そういうのは彼らには関係ない。
今を生きるためには多分邪魔な人達、という認識程度なんだろう。
「てか喋ってないで仕事してね。」
ふと、自分から話しだしたのにも関わらず、ヴェラは彼に辛辣に返す。
それには流石に沈黙を貫く囚人一同。
反論をする者はいなかった。
それは命を捨てるような行動だから。
皆、いつ殺されるか分からない、そんな状態なのだ。
1つ言うとすれば、B棟の責任者はフィリップのため、ヴェラは拳銃を持っていない。
だが、フェイク用の拳銃は持っている。
弾も入っていない、形だけの拳銃。
囚人になれば、誰が本物の拳銃か分からなくなり混乱するそうだ。
それも面倒な事に、時々フェイクじゃない時もある。
何も信じれない状況に陥るのも仕方がない。
いや、そもそも彼らは看守を信じていない。
囚人から見た看守は“敵”であるから。
物語の勇者が魔王を倒そうとするように、誰もが自分を中心とした考えをする。
それが心理なのだ。
それで当たり前なのだ。
人は皆、平等に醜い生き物なのだから。
---
時刻はもう、囚人達が昼食を終えている頃、フィリップはやっと本部から解放された。
何事もなかったように、澄ました顔をしながらB棟へと戻る。
途中、本部の職員達に挨拶をされ、軽く会釈を返した。
彼らも、フィリップより先に本部へと移された。
フィリップよりも後に、ここへ来たにも関わらず。
先日も、本部で良い結果を残したそうだ。
比べ、フィリップは、囚人とは言え今日も人を殺した。
慣れた日常になんの疑問も抱かずに。
もちろん、看守からすればソレは1つの実績だ。
本部から望まれている事であり、大切な事。
だからフィリップは小さく、息を吐いた。
この仕事に、意思なんて必要ないとでも言うように。
黙々と足を進めていると、次第にフィリップは看守用休憩室へと辿り着いた。
そこにはヴェラの姿はなかった。
多分今頃、ヴェラが代わりに見張りをしてくれているだろう。
袖の破れたシャツを替えて、またいつも通り身だしなみを整える。
それ以上の事は何もせず、すぐに拘置所へと向かった。
なんか微妙な切り方で申し訳ないけど、まぁ、いっか!!!!()
途中出てきた謎の高身長の男は、優しくて天才的で神絵師で最高のリア友が作ってくれました…!!!!
マジでありがとう。
2話連続で人殺してるけど、まぁそんな大した語彙力ねぇからグロくないね!!
てか小説にグロいも糞もあんのか…?()
明日ってか今日から3週間程は浮上しなくなるかと思います。
テスト入るんで。
あー…だるいだるい。テスト終わりカラオケ行こっかな…。
全てあなたの選択です。 No.3
こちらの都合により追記です…!
えっとNo.1にて、食堂でルラちゃんが変なおっさんに殴られちゃう、みたいなシーンがあったと思います。
あのブラコンシスコン組がB棟だと人数が合わないって言う訳で、あの兄妹はC棟の囚人さんっていう事にします!
そのため、食堂では主にB棟とC棟、A棟とD棟がペアで食事をすると思ってもらえると助かります!
たまにA棟とC棟、B棟とD棟がペアになります。
なんでこんなにグチャグチャなのかは、気にしないで下さい。
こうでもしないと、色々辻褄が合わなかったんです。
意味がよく分からなかったら、もう分からないで大丈夫です!
あと勝手に棟ごとに分けていますが、それは絡み台詞が無いキャラをどう扱えばいいか分からなかった末路なので気にしないでもらえたら嬉しいです!
絡んでほしいという希望も上手く組み合わせているため、問題ないと思います!
まぁ、なんとかなるだろうの精神です。
ならなくても怒らないで、いや怒れるはずないよなァ!?
俺言ったからなぁ!?希望叶わん事もあるって!!!なぁ!?(情緒不安定)
「聞いてくださいよ、マックさんってば酷いんですよ?」
今朝の続きと言うべきか、またフィリップは見回り中に、ダル絡みされていた。
誰とは言わないが、白髪の三つ編みの男に。
「朝食の時、彼の真正面で食事をしていたら三つ編み三つ編みって呼ばれて、あぁ悲しい。せっかく監獄中のみの友人、まさに特別な関係なんですから私の事を名前で読んでくれても良いのに…。もしかして彼はシャイなんでしょうか?」
現在は囚人達の自由時間のため、自身の棟から出なければある程度の移動は認められている。
中々優しい規則だとは思うが、最も平和で楽な時間でもある。
D棟の担当の場合はこんな時間クソ喰らえだろうが。
「いやぁ難しい事も多いけれど、友情は美しい!!見えない絆で結ばれているがきっとそれはキラキラしたものなんでしょう!それは一体どんな姿か…、フフ、想像してだけでも感動してしまいそうですよ…!!」
相変わらずシラは見回り中のフィリップの後ろをつけている。
もちろんフィリップは話をまるで聞いていない。
朝と変わらぬ様子でバインダーを手に持ち、囚人の数を確認している。
だが、いつもよりも顔が死んでいる。
冷酷や悪魔、死人だったりと散々言われているが、フィリップにも感情はある。
無論、薄すぎて四捨五入すれば無いに等しい程だが。
そんなフィリップがこんな顔をするのだ。
気付かないうちに溜まった日頃のストレスも相まって、今日は朝から反乱の鎮圧、その後本部にも立ち寄った。
一般人ならすでにハゲている頃だろう。
「フィリップさん、聴いていますか?我々にもその美しい絆があると思うでしょう?」
とうとうシラはフィリップへ答えを求めてきた。
フィリップは早歩きで背を向けたまま口を開く。
「いえ、全く。」
答えは当然NO。
選択肢が2つあれば、両方NOであってもおかしくない。
「そうですよね、やはり私達には絆に結ばれている。…貴方もそう思っていると信じていましたよ。」
シラのまさかの言葉に、フィリップは思わず足を止める。
今度はしっかりとシラの顔を見て、
「いえ、だから友人では、」
と言った所で、シラは静かにと言わんばかりに、人差し指を立てフィリップの唇を抑える。
「大丈夫、言わなくても分かりますとも。私もこの素晴らしい絆に感動しています…!本当、ここに来て正解だった!」
少なくともフィリップからすれば全くもって大丈夫ではない。
そもそもこの拘置所は出会いのためのものではない。
指を折るかのような力でフィリップはシラの指を掴み、
「いや、少しは人の話を、」
と言うものの、
次はその発言を気にしないかのようにシラは笑みを浮かべ、
「フフフ、ここまで気が合うなんて、親友になれる時も近いでしょうね…!!この調子なら、マックさんとももっと仲良く出来そうです!」
と言った。
「……。」
フィリップは諦めた。
多分自分に似た誰かと勘違いしているんだ、と自己解釈で解決させようとすら思っている。
何も聞かなかった事にして、フィリップはまた足を進めていく。
後ろのシラは何かまだ話しているが、耳にすら通っていないようだった。
すると少しした所で、右目の隠れた気弱そうな少女と長髪の執事服の男が近くまで駆け寄ってきた。
気弱そうな少女が囚人服を着ているのに対して、長髪の男は執事服を着ている事から男の方はアンドロイドだ。
「あ、あの!えと、フィリップさん、こんにちは…。その…、今日は良い天気ですね…?」
右目が髪で隠れた少女は、ぎこちない様子でフィリップに声をかける。
看守に会話どころか挨拶をするのは非常に珍しい。
もちろんそれだけが目的ではないため、どうとも言いづらいが少なくとも正しい教育を受けていたのは確かだ。
「こんにちは、看守。」
少女に続いて、執事服のアンドロイドも丁寧に頭を下げて挨拶をする。
特にこのアンドロイドがよく出来ており、少女に挨拶をするよう促しているのも彼だ。
「…こんにちは。」
フィリップは2人を前に足を止め、素知らぬ顔をしているが、もちろん彼らの事は知っている。
片目隠れの少女はフワシェ・ヴァナロと言い、公衆の場で喧嘩の挙句、相手に暴力などを振るったとされ暴行罪・傷害罪で逮捕。
彼女の隣にいる執事服の男、ラナロも、その喧嘩に加担したとし、ここに入れられた。
たかだか喧嘩。本来なら2年やそこら牢に入れられるだけで済む。
それでもアンドロイドも関われば、死刑を渡される。
これを正義と見るか、理不尽と見るかは人によって変わるが、何を言ってもそれが法となればどうしようも出来ない。
だが、彼女達はそれで片付ける訳にはいかないようだった。
「それで…、どうしましたか?」
フィリップは一度ため息を見せてから、2人にそう問う。
2人は顔を見合わせて頷き、次第にアンドロイドが口を開いた。
「看守、私たちは罪を犯しておりません。証拠はありませんが本当です。」
「ほんとに!私やってないんです!信じてください……!」
ラナロに続きフワがフィリップに縋るように伝える。
そう、彼らは自身の罪を冤罪だと訴えているのだ。
確か、この2人がここへ来てからすぐ、数日に1回は必ず、看守にそれを訴えている。
ただ、たった一度『私がやりました。』と認めたものを取り消すのは難しい。
ここにいるという事は尋問の際、主人である彼女がそう言ってしまったのだろう。
尋問にはアンドロイドの意見はろくに通されない。
アンドロイドはあくまで主人に忠実なものだから。
つまり、必然的に彼女は圧に負けて白旗を上げてしまった事が推測出来る。
その白旗を下ろすのは難しい、という訳だ。
「以前も言いましたが、」
フィリップがその言葉を落とした途端、フワの肩は一瞬ビクリと跳ねた。
ラナロも噛み締めるような悲しい表情を見せる。
「貴方方の話が正しいとして、私には釈放させる権利も力もありません。本部に話をしても、マトモに話を聞かないどころか、下手をすれば私の首が飛んでしまう。」
静かな冷たい空気が辺りを包む。
それには周囲で会話をしていた囚人達も気付いたようで、いそいそと離れ始める。
誰もが、今度は撃ち殺されるのではないか、と思ってしまう程の冷たさだったからだ。
それでも、優しい命を持ったアンドロイドは希望を捨てない目でフィリップの顔を見つめる。
何度拒まれようと、今更諦める訳にはいかなかったのだ。今まで主人のために戦ってきたのだ。
ここまで健気に主人を守るアンドロイドがいただろうか。
シラはフィリップの背中で頭をグリグリ押し付けているだけで何も言わなかった。
そもそも話を聞いているのかすら怪しい。
フィリップは自身の冤罪を訴える2人を交互に見て、次第に足を進める。
シラも黙って後をついていくと、急に足を止めたフィリップに自身の体をぶつけた。
「明日、本部にも話をしておきますが、期待はしないように。」
看守のその言葉に、嬉しさで溢れた2人の笑顔も見ないまま、フィリップは早々と立ち去ってしまった。
「もっと適当にあしらうのかと思ってました。」
ふと、シラが話を終えたフィリップの背中にゴツゴツと頭をぶつけながら言った。
「何故です?彼らはそもそも法に障る事はしていない。真実を聞き入れるのは当然でしょう。」
「そうかもしれませんが…、それでも貴方の首が飛ぶのは嫌ですねぇ…。」
「犠牲は生まれるものですよ。それに看守は人手不足なので簡単には撃たれません。」
「昔はよく撃たれていたんでしたっけ?」
「…それなりには。」
微かにフィリップの右手が、強くペンを握った。
左手に持ったバインダーにも、力がこもったようにも見える。
その様子にシラは気付いていたが、いつもと変わらない調子で、
「いっそ、私が本部の連中を殺しましょうか?貴方が望めば、いつでも殺して差し上げます。」
と冗談には聞こえづらい事を発言する。
やりかねそうなのだ。ここが牢獄だから一層。
フィリップは、表情を変えず人数を確認を続ける。
「私は本部を恨んでいる訳ではないので…。そもそも人殺しはいけません。」
「へぇ、…人殺しの私は嫌いですか?」
シラの言葉にフィリップは足を止め、数秒の沈黙の後、
「……………分かりません。」
とだけ応えた。
「曖昧ですねぇ…。こういうのは、はっきりしておいた方が身のためですよ?ほら、知らないうちに相手を勘違いさせてしまう。」
シラがハハハと軽いアドバイスを寄越すと、フィリップは少しだけ悩んだ末やっと口を開いた。
「嫌いであれば話はしていませんよ。」
シラの顔を見てそう告げると、また足を前へ出して、進んで行く。
シラは一瞬固まったが、次第に嬉しそうな笑顔を見せる。
それ以上彼は何も言わず、ただ無言で彼の後ろを雛鳥のように歩いていった。
好んで話をしたい訳でもないので、好きでもない……、とフィリップが言わなかったせいで、若干1名を勘違いさせてしまっている。
お気付きの通り、すでに手遅れのようだ。
幸せそうな笑顔を向けてくるシラに、嫌な気しか抱かないフィリップ。
だがその気が何かを特定する事も出来ず、またバインダーに顔を向け、気にしない事にした。
それが賢明の判断と言えるだろうか。
斜陽はネオシンセシアの街を照らし、悠々と没んでいった。
その時丁度夕食の時間を知らせる鐘がB棟に鳴り響いた。
あれ、おっかしいな…。
自分のメモ帳で書いた時の字数と合わない…。
なんで増えてるんだ…?普通減るんじゃ……。
あれ、…まぁ良いか。
なんとなく分かってた人もいるかもしれませんが、A棟には罪がマシだったり性格に特別難がある訳ではない人が多め。
B棟C棟は罪がそれなりに重いけど性格にあまり難がない、素直に従う人たちが多い。
D棟はアタオカが多いって感じです。
自身のキャラどこかなって予想したりして楽しんで下さい。
ちなみに個人的な主観と共に、絡みを良い感じに出来るように分けたため、変更は出来ないです。
でもストーリー上では大して関係ないと思います。多分。
また、フィリップは他の看守と違い、前回のように、他の棟で反乱が起きた際、要請されたりします。
まぁ銃を使い慣れてるため、死者が多数出た時の特攻隊員とでも思って貰えればしっくりくるかと。
それに加え、フィリップのみ日替わりで他の棟で看守をします。要するに、決まった棟を担当している訳ではないってことです。
しかし、前回、B棟の責任者はフィリップ、と言いましたが、それには間違いないです。あぁ、もう分からなくなってきそう。
まぁ、何か聞きたい事があれば気軽に質問してください。
こういうの、あまり皆さんに伝えずに脳内で解決してしまうので、気になることはぜひ聞いてくださいね。
次回の次回ぐらいには、別日になっていると思うので、次の棟です。
…いや、もう次回のうちに別の棟行くべきか…?
まぁ今後の事も考えて、次回には…いや、うん、次回には別の棟に行かせます。
全てあなたの選択です。 No.4
今まで1日が1話分だったから、夜まで書かないとって思ったけど、この場合はしなくても良いんだ…。
そっか、…楽だけど、妙な所で慣れたから違和感半端ねぇな…。
まだ日も昇っていない頃、フィリップは淡々と荷物を片していた。
荷物と言っても、ペンと手帳ぐらいしかなく、すぐに暇を持て余してしまう。
強いて言えば、異国の文字で記された本が何冊かある程度だが、フィリップはこれを片付けるつもりはないようだ。
男の両手にはしっかりと黒い革手袋を着用してある。
今日はC棟の担当だ。
C棟もB棟と似て、大きな問題児はいない。
A棟程ではないが比較的過ごしやすい場所だと言えるだろう。
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蜥蜴のように足を忍ばせながら、彼は自身の部屋を出る。
もちろん大した目的はなく、ただフラフラと拘置所の中を歩くと言う方が的確だろう。
静かな拘置所は、フィリップの足音を淡々と響かせている。
窓を覗いても鳥は鳴かず、風も吹かない。
静寂な朝はフィリップに微笑みを見せるだけで何一つ行動を示してはくれない。
食堂に向かうつもりだった彼の足は、途中で進行を変えた。
フィリップは予定よりもかなり早く、C棟に向かう事にしたようだ。
C棟には囚人達の寝息が騒がしく響いていた。
フィリップは今日、一睡でもしただろうか。
目の下には隈はなく、見た目からは到底分からない事だが、多分寝ていない。
看守であれば、夜遅くまで仕事をするのは論を俟たないが、今や人手不足の時期。
俗に言う、オールする、なんて事もかなりの頻度である。
言わずとも分かるだろうが、この仕事は中々ブラック企業だ。
フィリップは牢獄の全貌が見れる木製の椅子に腰を下ろした。
一つ息を漏らして、自身の体重を椅子に預けるように座り直す。
目を閉じようとしたが、すぐに目を開ける。
別に、拘置所に異変があった訳ではない。
ただ、寝ることに対して嫌悪感でも抱いたのだろう。
気持ちは寝たいと感じていても、体は寝たくないと感じる。
今のフィリップはまさにそれだ。
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時間は存外早く過ぎた。
囚人の中にも、目を覚ました者もいる頃だ。
B棟のように、例の問題児がいないためか、非常に穏やかな朝に見える。
いや、きっと穏やかなんだろう。
フィリップはいつの間にか姿勢よく座り直していた。
しかし、前は見ずに、少しだけ俯いている。
もうしばらくすると、とうとう鐘が鳴った。8時になったのだ。
フィリップは静かに立ち上がり、
「点呼を始めます。」と抑揚のない声で告げた。
C棟では2000番台後半の数から点呼が始まる。
看守の声と囚人の声が交互に繰り返されるのが、5分…いや10分はとうに過ぎた頃、フィリップに無線が繋がった。
『こちら本部。D棟でまた反乱だ。至急向かえ。』
フィリップはすぐに無線で、
「こちらC棟。点呼を終了次第向かいます。」
と告げる。
点呼が終わるまであと少しといったところだ。
納得が出来る言い分だろう。
だが本部からの返事は、実に面倒なものだった。
『こちら本部。駄目だ、すぐに向かえ。』
これにはフィリップも明らかにため息を吐く。
フィリップが分かりました、と応答しようとした途端、別の棟から無線が繋がる。
『こちらD棟。…全員片付けた、気にするな。』
D棟を担当する者、以前の長身の男がいつもより低音でそう告げた。
大方、機嫌が良くないのだろう。
微かに、何かを引きずるような音も聞こえた。
『こちら本部ッ!片付けただと!?どうしたんだ、殺したのか!?』
本部は焦るようにそう聞くが、男からは何の返事も来ない。
フィリップは無線の声を気にしないように、点呼を再開した。
片付けた、とは言葉の通りだ。
それをわざわざ聞くなんて、本部も趣味が悪い。
おそらく彼は今頃、遺体を棟を出た廊下に捨て置いてるんだろう。
それぐらい、本部なら分かっているだろうに。
フィリップがやっと点呼を終えた時、また本部から無線が繋がった。
『こちら本部。ヴェルダ、フィリップ、双方に告ぐ。この後すぐに本棟に来い。』
フィリップに関しては飛び火な気もするが、こうなったら行かざるを得ない。
「…こちらフィリップ、Roger。」
『チッ…、こちらヴェルダ、Так точно。』
面倒な事になってしまった。
向こうの連中は、頭の硬い奴しかいない。
言い訳は通じない、話を聞かない、古い規律を愛してやまない、そんな連中だ。
フィリップはため息混じりに本部に代わりを要請し、本棟へ足を運んだ。
たまにルビを付けるべきか迷うもんがあるんよね。
こういう風に読むつもりで書いたけど、大抵そうは呼ばへんみたいなんが多いんよ。
今回やと、“数”やね。カズって大抵呼ぶけど、自分は“スウ”って呼ぶ体で書いてたからさ。
正直そうなったらルビばっかになるから嫌なんよな…。
まぁ、ここまでくると読者の読解力に全部任せてまおう。
てか中々進まん。ごめんね。