1人暮らしを始めた女子高生・花園かおるが越してきてしまった町――
それは、20歳以下の者が足を踏み入れてしまうと、必ず何かしらの理由で死んでしまう町だった。
その呪いを解くためには、1人で町の7不思議すべてに会い、“涙”を流させなければいけない、らしい……。
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目次
涙7粒、人形劇。 +1+ 死の呪いに抗え
妖魔町は、呪いの町。
20歳にならないものが足を踏み入れたなら、必ず死んでしまう呪いがある。
その呪いを解くためには――。
は?私、死ぬわけ?
|花園《はなぞの》 かおるは、高校のクラスメートに、そう大声で言った。
夕暮れの帰り道、まだ部活に入学していない1年生の彼女らは帰宅時間だ。
「どこから通ってん?」と聞かれたから自分の町を答えただけなのに、突然余命宣告されるという急スピードっぷりだ。
「うん、確実に」
対して、元々クールな彼女は冷酷に言う。
「ちゃんと下調べしないと~。この辺りじゃ、|妖魔《ようま》町の7不思議でさえ有名すぎてもはや飽きられてるのに」
「それって……ガチのやつ?」
「うん。うちのばーちゃんの友達の姪っ子さんのいとこの娘さんのクラスメートも亡くなってる」
「それホントの情報?遠すぎない?」
「でも、かおるの近所、子供いないでしょ」
想像してみると……こどものいる風景はない。
けど……。
「じゃあなんで駄菓子屋が……」
「あぁ、それは7不思議の1番『だがしわらべ』の被害者を減らすため」
「『だがしわらべ』……?」
「その駄菓子屋の前の横断歩道で昔、駄菓子を買いに来た子供たちが交通事故に巻き込まれて亡くなったらしくて。その子たちに会ったら、夕暮れまでにお菓子をあげなきゃいけないの」
「もしあげられなかったら――?」
「1週間ぐらい付き纏われる」
……はい?それだけ?
「え、思ったより雑魚いね……」
「まぁ2番目の雑魚らしいからね、『だがしわらべ』は」
あ、あと、と彼女が言う。
「呪いを解くには、自分の力で7不思議の全員を泣かせなきゃいけないらしいよ」
「泣かせる?」
「うん、自分1人で会って泣かせる。嬉し涙でも、悲し涙でも。何でもいい」
彼女によると、町の7不思議を管理しているという6番は、町の中にある小高い丘の頂上に佇む神社を住処としているらしい。
「6番がピカイチでチョロいんだって」
「チョロ……?あ、ところで他の7不思議については?」
「私は知らない。妖魔町の7不思議は、外の人間が4つ知ると死ぬから」
なにそれだる、ペナルティ多すぎない?
「早めに行ったほうがいいよ、たぶん」
かおるは、まだ混乱したまま、とりあえず「だよねー」とだけ言った。
---
「……本当に、あなたが7不思議の6番?」
かおるは混乱していた。なぜなら。
「うん!あたしが6番の『守り神』|柴野《しの》 |春美《はるみ》だよっ♪」
6番――春美が、かおるの想像していたキャラじゃなかったからだ。巫女の服を着た、13歳くらいの元気はつらつといった顔の少女だったのだ。
「7不思議の中ではあたしが1番歴があるんだけどね!そう、たしか2、300年くらい前からなんだけど~」
「……えっと」
「かおるちゃんがここにいるってことは、呪いがかかってるってことなんだよね?つまりあたしに泣いてほしいわけだ!」
さすが300年も7不思議をやってるだけある、話が早い。
「最近は便利な時代、ということで!その“すまぁとふぉん”とやらで、泣ける“どらま”見して‼」
「……え?」
--- ~・~・~ ---
「うわぁぁぁぁぁん!なんでっ!やっと結ばれたのになんで死んじゃったのぉぉぉぉぉっ‼」
春美は、ドラマを見ないかおるの適当な直感セレクトに見事に号泣してくれた。もはや直感に感謝である。
「ありがとかおるちゃん!あとでお礼に7不思議の場所教えるからね‼」
かおるは、まだ目が赤い春美に「ありがとう……」と返すので精一杯だった(ドラマが終わるまでずっとスマホ構えてあげてたので腕が死にそう)。
書きたくて書く。(?)
+0+ まだ無題の物語
7不思議。
それは、この町の守護神であり、死神である。
「おねーちゃん、おかしちょうだい」
1番、『だがしわらべ』。
「待っても待っても、いつまでも青にならない……」
2番、『赤色さん』。
「サイコーな夢を見せながら殺してあげるからね!」
3番、『仮面くん』。
「あなたの幸せを代償に、願いをかなえて差し上げます」
5番、『幸殺し』。
「この町の守り神として――」
6番、『守り神』。
「流れ星の夜に亡くなった男の子の話をしましょう」
7番、『語り部さん』。
4番がどこにいったのか、ですって?
……さぁ?私にはわかりません。
涙7粒、人形劇。 +2+ 赤色さん 前編
春美の涙腺が落ち着くまでは分かる子泣かしに行ってて、と言われ、丘の上の神社を後にしたかおる。
癖っ毛な髪がくるくるとはね始めた。
「あ……雨が降るな」
今日は、クラスメートに教えてもらった『だがしわらべ』にはもう会えない。
その子たちは、どうやら午後3時くらいにしか現れないらしいのだ。
「――帰るか」
本格的に降り始めてきてしまった。
横断歩道に向かいながら、折り畳みを持ち運んでいてよかった……と独りごちた。
けど、かおるの髪型がボブからボンバー・ボブに変わってることには変わりなく。
そんなとき、声が聞こえたのだ。
「青にならない……」
かおるが見ると、そこには羨ましいほどのロングストレートの少女が、傘をさして立っていた。
一体前世でどんな善行したらあんな美髪になれるの……。
そう思って見ていると、少女が振り返った。
「すみません……青になるまで話を聞いてもらっていいですか?」
……び、美形だ……。
「あ、いいですよ……?」
「ありがとうございます、ホントに」
少女は綺麗な歯を見せ笑った。
……いや、前世で神にでも気に入られてたの?
「私、今年受験生なんです。だから早く帰って勉強したいんですけど、信号がなかなか変わらなくて。雨だから、参考書も開けないんです」
「えらいね……どこ高に行くつもりなの?」
「○○女子高校です」
「え⁉県で2番目に偏差値高いとこじゃん‼」
「だから、今必死に勉強してて。ずっと頑張ってたんです。だから――」
少女の顔から、一瞬にして笑みが消えた。
`「なんでこんな時に死んじゃったんだろ、私」`
涙7粒、人形劇。 +3+ 赤色さん 後編
`「なんでこんな時に死んじゃったんだろ、私」`
「え――」
「考えてもみてください。受験期まであと1か月なんです。そんな時に私は……」
少女は足元の花束を見た。
「この横断歩道で、 `信号待ち中にトラックに突っ込まれた`んです」
かおるは呆然とした。
目の前にいる人間は、もう人間じゃなかったのだから。
「……もう到底難しいんですけど、生まれ変わったら、今度こそはあの門をくぐりたいんです」
少女は泣き笑いのように言い、吹っ切れたようにかおるを見た。
「愚痴に付き合ってくれてありがとうございました。来世は、頑張りますね」
その目から涙を零しながら、微笑んだ。
かおるが我に返ると、そこに少女の姿はなかった。
信号機が、暗がりの中で煌々と青緑に輝いていた。
「あんたが噂の子だね」
後ろから声がした。そこには、THE近所のおばちゃんって感じの女性がいた。
「呪われちゃってかわいそうにねぇ。でも、『赤色さん』も悲惨な子だよ」
「『赤色さん』……?」
「あんたがさっきまで話してた子だよ。聞いたでしょ?受験前に亡くなっちゃってねぇ」
「そうなんですか……」
「ってことはね、あんた、2番の『赤色さん』泣かせられたわね。呪い解くのに1歩前進よぉ」
よくやったよくやった、と、おばちゃんは傘の下に手を入れてかおるの頭を撫でた。
「けどね、どうやら一筋縄ではいかないみたいなのよ。いままで呪いを解けた子はいないらしいから」
けれど、おばちゃんのそのひとことで、かおるの中に不安が募った。