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目次
さくらと共に、君は散る。
初の短編です。頑張った。
注意
・ぬるめですが自殺描写があります。
数日前、僕の彼女が亡くなった。自殺だった。
彼女の名前は佐倉花。
名前の通り可憐で可愛くて、触れたらすぐ散ってしまいそうな儚げな少女だった。
学校ではいじめられており、親からネグレクトを受けていた花は
「葉(よう)だけが心の支えなんだ。」
と、いつも言っていた。
花は桜が好きだった。
中学一年の頃から付き合い始めて、毎年デートとして花見に行っていた。花冠を髪に付けて、
「どう?似合う?」
と言っている花の笑顔が、僕は大好きだった。
最後のデートは、3月9日。
花の15歳の誕生日に行った。
場所は毎年花見に来ていた、人があまり来ない自然豊かな丘の上。まだ少し寒さが残る中、桜の蕾が膨らんでいた。
「ねえ、咲いてないけどいいの?」
僕は問いかけた。
「いいんだよ。葉と来れただけで、私は嬉しい。」
その花の笑みに、鼻の奥がツンと痛くなった。
まだ完全に緑ではない草むらを、二人で駆け回ったあの日。転んだ花を、僕が手を出して起こしたあの日。思い出すだけで、涙が滲む。
家へ帰る分かれ道で、花との最期の会話。
「またね。」
ふんわりとした笑顔。
もう二度と会わないはずなのに、またね、と言った花。
最後に届けられた手紙は桜色の便箋に書かれていて、封筒にたった一つだけ桜の花冠が入っていた。まだ咲く時期じゃないのに。これ以上は追求してはいけない気がした。
テレビのニュースで
『15歳の女子中学生、自殺で死亡。』
と目にした時、なぜか悲しくなかった。
花が死ぬのを知っていたのは、僕だけだったから。
親よりも、担任よりも、友達よりも、僕のことを信用していた花。
また会える。僕はそう信じて、橋の上から目の前の川へと飛び込んだ。
どうでしたか?書いててめっちゃ楽しかった。
影の中の光
家を出た。駅まで歩かなきゃ。駅に着いた。電車に乗らなきゃ。電車に乗った。降りるまで立ちっぱなしだ。電車を降りた。学校に行かなきゃ。2年生に進級してから、ずっとこの繰り返し。入学した頃は、全然こんな感じじゃなかった。義務教育から解放されてからの高校生活はすごく楽しみにしていたし、第一志望の高校でたくさんの友達を作って、みたいな。中学のときよりも広くなった世界で、自分も中学のときよりもたくさんのものを見て、大学生まで頑張ろうと決意をしていた。それなのに。2年生になって、理想は、俺の希望は、全部打ち砕かれた。
---
始めは、ただのパシリだけだった。アイツらが忙しそうだったからまあいいか、と手伝うつもりでやった。でも段々要望が増えてきて、しんどくなった。俺にも俺の事情があるからそろそろもうパシリはやめて欲しい。そう伝えた。そうしたら、対応が一気に変わった。まず、物を隠されることが増えた。シャーペンとか、授業のノートとか。シャーペンはすぐに見つけたし、ノートは替えが利くからどうしても見つからない時は新しく買った。でも、見つからないと復習ができないし、親も怪しいと思うかもしれない。だからまた、やめて欲しいと伝えた。
「隠されんのが嫌ならまた購買行ってくんね?そしたらやめてやんよ」
「つーかさ、やめて欲しいとか言う前に理由考えたら?脳味噌あんだろ?ちゃんと使えよ」
ここまで面と向かって悪口を言われたのは生きてきて初めてで、その日の帰りは電車の中で泣きそうになりながら帰った。
---
それからも、いじめがどんどん激しくなった。仲間外れとか、俺と話した子を無視したりとか。そんな様子を見ていられなくて、学校では先生以外と話さなくなった。机の中に悪口が書かれた紙が入っていたり、美術の時間に彫刻刀で傷つけられたり。体も心も、全部が痛かった。先生や親に相談するか迷った。でも相談することでいじめがエスカレートするかもしれない、いじめられるような弱い自分が嫌われてしまうかもしれない。そんな考えばかり頭に浮かんで、結局相談はできなかった。
---
「久しぶりじゃん、|昴《すばる》。なんか痩せた?」
「|直兄《なおにい》………」
また学校で誰とも話さなかった日。家の最寄り駅から歩いていたら俺が生まれてから高校1年生まで家が隣だった2つ年上の大学生、|月岡直斗《つきおかなおと》に会った。血の繋がりはないけれど、昔からよく遊んでくれて、今でも会うと直兄と呼んでいる。今は大学生だけど、最寄り駅は同じまま引っ越したからたまに遭遇するんだよな。
「どう?学校は」
「………うん、楽しいよ」
「今なんか間あったんだけど?」
「なんでもないよ。疲れただけ」
直兄鋭いな。ちゃちゃっと受け流して帰ろう。
「手の甲の傷、どうした」
やばい、制服の袖から出ていた手の甲の傷が見えていたらしい。消毒だけして、保健室にも行ってないんだよな。痕残るかもしれない。
「別に、美術でちょっと失敗しちゃっただけ。俺そんな器用じゃないからさ」
「………そう。なんかあったらいつでも連絡していいからな。どうせ家近いんだし」
「………………うん」
そんな事言われたって、言える訳ない。
---
「なあなあ、俺たち今日昼休みも部活あってさ。悪いけどこの金でパン買って体育館まで届けてくれない?」
「……わかった。どのパンがいいの?」
またか。いい加減にしてくれよ、と心の中で呟く。でも本当に言ったらもっとひどくなるから。我慢しなきゃ。
---
昼休みになった。購買まで走って、言われた通りのパンを買って、体育館に直行する。でも、体育館は電気も消されていて、人はいなかった。おかしいな。
「そこ、2年か?今日の昼休みは体育館使えないぞ?」
驚いて固まっていると、その辺にいた先生に言われた。
「え、ああ、すみません……」
どういう事だろう。とりあえずまた走って、3階にある教室まで戻る。
「おい遅いぞ!!」
「教室で食べるって言っただろ?どこまで行ってんだよ」
………は?ふざけるな。お前らが言ったんだろ。体育館って。俺にイライラをぶつけるために………わざとか?
「いい加減にしろよ毎回毎回。こうやって、お前の価値を作ってやってんだよ。こんなのもできないとか、本当に何で学校来てんの?お前」
「っ、ごめんなさ」
「謝るぐらいなら最初からやんなよ。できないならもう来なくていい。いちいち謝罪聞くのももうウザいんだよ」
じゃあどうしろって言うんだよ………
「放課後、屋上来いよ。あ、でも屋上って入れねえよな……屋上まで行く階段上がって、扉の手前まで来い。来なくても遅刻しても殺すからな」
「……………はい」
---
放課後。言われた時間より2分早く、階段のところに着いた。そして、杉田と米島_________俺をいじめている二人が来た。
「お前、もうパシられんの嫌だろ?」
「う、うん」
なんだ急に。
「もうそろそろ、お前をパシリにすんのやめようと思ってさ」
「ほ、本当か____」
「ただし、俺等が今からお前のこと2発ずつ殴るから、それに耐えたらな」
「そんな____何でそんな事」
「気に入らないから。お前のこと」
は?そんなことで?そんな簡単な理由で四発も殴られなきゃいけないのか?ふざけんなよ。でも、これに耐えれば、俺は、もう苦しまなくていいんだ。
「わかった。受ける」
親への言い訳は、後で考えよう。
---
「まず一発目な」
杉田がそう言って、右頬にビンタが飛んでくる。痛い。でもこのぐらいなら全然平気だ。
「二発目!」
米島の腹パン。一瞬吐き気がせり上がって来たけど、まだ大丈夫。
「三発目。そろそろキツイんじゃね?」
左頬に杉田の拳。衝撃が大きく、視界が歪む。
「ラスト!これで終わりだ!良かったな!」
右足に思い切り蹴りが入る。バランスを崩して階段から落ちかけたが、手すりを掴んで踏みとどまった。ただ遠心力で階段の柵に背中を打ちつけたのと、着地の時に左足首をひねってしまった。
「マジで耐えるとはな」
「お疲れ。やっと安心して学校行けるな。ははっ」
そう言って笑う2人に|苛々《いらいら》し、無言で鞄を掴んで階段を降りた。
---
「昴……だよな!?顔どうした!」
口の中の血の味や、いつまで経ってもジンジンしている背中に顔を顰めつつ、最寄り駅から家まで歩いていると、直兄に会った。
「別に、前見ずに歩いてたらうっかり電柱にぶつかっただけだよ」
「……………本当か?」
「嘘つく必要ないでしょ」
さ、バレないうちにさっさと帰ろう。足首に湿布貼りたい。
「なあ、今日俺の家泊まってかないか?」
「はあ?」
「どうせ同じ駅の範囲だし、そんな遠くないし。明日土曜だから、学校の心配もない。宿題とかわかんない所あったら教えるよ」
いや、突拍子もなさすぎる。よくそんな思いつくな。
「でも服とかさ……」
「じゃ、一旦持ち物の準備してから来なよ!1時間後ぐらいに俺の家集合ね!部屋、402だから!」
言うだけ言うと、直兄は爽やかに行ってしまった。………行かなくてもいいかな。
---
とまあ魔が差しかけたものの、久しぶりに直兄とたくさん話せるのが嬉しくて、今は直兄に言われたマンションの番号の部屋の前まで来ている。インターホンを押すと、引くぐらいニッコニコな直兄が出迎えてくれた。うん、やっぱ帰ろうかな。
「いやちょっと、引くなよ!」
「………なんでそんなニコニコなの」
「久しぶりに昴とたくさん話せそうだからな!ほら、上がって上がって!」
「お邪魔します」
直兄が一人暮らししている部屋は、初めて入ったけど一人暮らしの大学生にしては広かった。だってリビングと寝室分かれてるんだもん。社会人でも最初の方はワンルームじゃないのかな。まいっか。
「荷物ここ置いといていいよ。そしたらまず、お風呂入ってきな」
「直兄は?」
「俺?昴が準備してうちに来るまでにもう入ったよ。昴が入ってるうちに夜ご飯作るよ。何食べたい?」
「うーん、スパゲッティがいい」
「味付けは?」
「和風のやつ」
俺は直兄が作ってくれる料理の中で、ベーコンとネギとしめじと舞茸が入ってて、醤油とニンニクで味付けしたスパゲッティが好き。直兄って料理上手なんだよね。
「じゃ、いってらっしゃい。ゆっくり浸かってね」
「うん。ありがと」
---
「おかえり。あれ、お風呂上がりにそんな格好で暑くないの?」
風呂から上がって、パジャマに着替えてリビングに戻ると、直兄にそんなことを言われた。確かに10月に入ったとはいえまだ暑さが粘り強く残っている今の時期に、半袖長ズボンで上にはパーカーを羽織っている俺は直兄から見たら暑そうなんだろうな。でも足蹴られたところとか、今までに受けた傷とかは見えないようにしたいからな。
「とりあえず、ご飯食べようか。飲む物麦茶しかないけどいいよね?」
「うん、いいよ」
『いただきまーす』
ちゃんと手を合わせ、いただきますを言ってから食べる。うん、やっぱり直兄の料理は美味しい。夕方は大変だったけど、癒されるな〜。
「昴、学校楽しい?授業ついていけてる?友達ちゃんといる?」
「っ、うん。大丈夫だよ。心配しすぎだって」
できる限り動揺しているのを悟られないように、笑顔を作る。
「嘘………ついた?」
「え?」
「昴、今嘘ついたよね?」
なんで、わかったの。その感情が、俺の顔に出ていたんだろう。直兄は一度ため息をついて、俺の目をまっすぐに見て話し始めた。
「背中の痣、どうしたの?」
「!?」
「ごめんね。多分、隠したかったよね。昴がさっき着替えてる時、見えちゃったんだ」
「直………兄……」
直兄は、どこまで俺の事わかってるんだろう。
「電柱にぶつかっちゃったとか、美術の時間に失敗しちゃったとか、昴らしくないと思ったんだ。左足引きずって歩いてるのも気になったし。誰にやられたの?」
「クラスの……男子。杉田と、米島っていう……」
「いつから?」
俺は隠しても無駄だと悟り、全てを直兄に話した。
---
「そんな事を……?半年間も耐えてたの……?」
俺から全てを聞いた直兄は、信じられない、というような顔をしていた。
「そんな事って、別にパシられてただけだよ。こんなに怪我させられたのも、たまにしかなかったし」
「馬鹿!!」
「えっ」
直兄は今までに見たことがないような、辛そうで泣きそうで、それでいて少し怒ったような顔をしていた。
「なんで、もっと早く言ってくれなかったの?もっと早く言ってくれれば、こんなに殴られることも無かったんだよ?…………もっと、自分のこと大切にしてよ、昴」
こんなに感情をむき出しにした直兄、初めてだ。それにつられて、俺もなんか涙が出てきた。
「俺……さ……」
泣きながら話し始める俺を、直兄が抱きしめてくれる。
「俺……いじめられてるって言うの……怖くて……誰かに言ったら……もっとひどくなるんじゃないかって、それで……」
「うん、うん」
頭を優しく撫でながら、直兄は俺の話を聞いてくれる。
「直兄とかに……俺が…いじめられるような弱い奴って思われたくなくて……失望されたりしたら……嫌だなって………だから…………言えなかった……」
「そっか。心配しなくても、弱いからとかそんな理由で昴に失望したりしないよ」
そう言って、直兄は微笑んだ。その優しい笑顔に、また泣きそうになる。
「あーもうそんな泣かないで〜」
「だって……直兄優しいからっ………」
「可愛いな〜昴は。いつまでも俺の弟だよ〜」
「うんっ………」
---
「直兄……」
「何?」
「皿、俺が洗うよ」
たくさん話を聞いてもらって、泣いてた俺をなぐさめてくれたお詫びとお礼として夕飯の後そう言ってみた。
「マジで?ありがと。じゃあ俺コンビニ行ってアイスとかお菓子買ってこようかな。今まで昴が頑張ったご褒美だよ」
「やった。待ってるね」
「うん。行ってきまーす」
めっちゃ嬉しい。楽しみだな〜。
---
「昴、そろそろ起きな。もう10時だよ」
「ん〜…‥.」
そっか、今日土曜日か。昨日の夜11時過ぎまで直兄とお菓子食べながら話してたんだった。直兄の家のベッド、一人暮らしのくせにセミダブルだから普通に俺も入って寝れた。あの後、俺の傷とか捻挫の手当ても直兄がしてくれた。直兄にはお世話になりっぱなしだ。
「学校の先生には言わなくていいのか?」
朝ごはんにおにぎりを食べながら、直兄が俺に聞いた。
「迷ってるとこ。でも、言ったほうがいいよね」
「そうだね〜。もう絶対にいじめられないっていう確証はない訳だし」
「よし、言ってみようかな」
「よく決断した。偉い偉い」
そう言うと、直兄は俺の頭をわしわし撫でる。ただでさえ寝癖でボサボサな髪がさらによく分からない方向にハネる。
「なんかあったら、昨日みたいにちゃんと教えてね。絶対にもう我慢しないこと。いい?」
「うん」
「頑張ってね」
直兄は俺の手を握って、笑顔でエールをくれた。
---
月曜日。朝、先生に今まであったことを話した。証拠として、傷も見せた。先生は信じられないといった顔をして、それから俺にこう聞いた。
「お前はどうしたい?杉田と米島が俺に叱られれば満足するか?」
「いいえ。でも謝られたところで、なんかなーって感じです。謝罪とかはいらないので、反省だけして欲しいです」
「わかった。じゃあ必ず俺が2人にそうさせるからな。よく話してくれた。あとは先生に任せとけよ」
「ありがとうございます」
俺は一礼して、生徒指導室を出た。
---
それからというもの、杉田と米島は2週間の停学になり、停学が明けてから俺には謝罪してきた。納得した………とは言えないけど、とりあえず安心。直兄も、たまに会うと色々話してくれるし、俺のことも色々話す。またちゃんと、楽しく学校に行けるようになって良かった。先生にも勿論感謝しているし、何よりも直兄。本当にありがとう。
どうも、花粉で鼻詰まり&喉腫れてるぱるしいです。鼻声ハスキーボイスになってます。この小説書き始めたのが5日ぐらい前なんですけど、文字数長い小説書くの久々過ぎて時間かかっちゃいました。良ければ感想とかファンレター待ってます。
ヒガンバナ
※BL要素あります。
ずっと、後悔していた。助けられなかった。
手を差し伸べる勇気を出せなかった。
苦しんでいるのを目の前で見ていたのに、見たくなくて目を逸らした。
いつも近くにいたのに、心だけは、ずっと遠く離れていた。
どれだけ悔やんでも、今はもう会うことも話すこともできない。
あいつの笑顔を最後に見たのは、いつだっただろうか。
---
「全国、行きてえよな」
「なんだ急に」
俺の呟きにツッこんだ友人を横目に、俺は歩く。9月末の夕方、まだ少し残暑が残っているけどだいぶ涼しくなってきた。部活で流れた汗も、秋風が気持ち良く冷やしてくれる。
「てか俺これから部まとめられる自信ないんだけど」
「まとめるも何もサッカーなんてパス以外ほぼ個人プレーだし、仲良くできてればいいんじゃねえの?」
「お前はサッカーを何だと思ってんだよ」
いま俺の隣を歩く俺と同じサッカー部の友人、|和泉涼助《いずみりょうすけ》は部の次期キャプテンに選ばれているのだ。俺の前ではこうやって愚痴とか弱音を吐いたりしているけど、クラスでも部でも明るくて良い奴だ。試合になると、いつもの調子が一変して急にイケメンになるし。
「…………もうすぐ、2年になるのか」
「あーあ、せっかく俺がお前に気ぃつかってその話題避けてたのに、自分で言っちゃうんだ」
「ヒス構文みたいになるのやめろ。どうしても、頭から離れないんだよ」
恋かよ、と俺は心の中で呟く。こいつの幼馴染の|佐竹雅貴《さたけまさき》は、2年前に亡くなったのだ。俺は学校が違ったし交流も少なかったけど、こいつがいなくなってからの涼助の落ち込みようを見た感じめちゃくちゃ大事な幼馴染だったんだろう。ていうか今も落ち込んでるけど。
「きっと雅貴は今も涼助の傍にいて見守ってくれてるだろ。だからもうそんな落ち込むなよ」
「そっか……ん?」
いきなり、涼助が振り返った。でも誰もいない。
「嘘だろ?マジで?」
「どうした?」
「いる………雅貴が…………」
涼助が、信じられないといった顔で呟く。そうだ、こいつは幽霊を見ることができるのだ。
「え、ガチ?佐竹?そこにいるのか?」
俺は涼助が見ている方向に向かって聞く。俺は幽霊を見ることはできないけど、会話することはできるんだ。
「久しぶり。涼助、|響人《きょうと》」
小さく足音がして、目の前に、亡くなったはずの佐竹が立っていた。
---
「え、なんで俺にも見えてんの………?俺見えないはずなんだけど……俺もしかして死んだ?」
「大丈夫。響人はちゃんと生きてる」
あまりにも唐突に起きた出来事に呆然としている俺に対して、佐竹が落ち着かせてくれる。
「雅貴、今それ実体あるの?触れるの?」
「あるし、触れるよ」
「わっ、やば……意味わかんねえ……」
約2年ぶりにあう幼なじみと握手をして手を見つめたまま、放心状態の涼助。まともなのが佐竹しかいない。
「今日は2人に頼みたいことがあって来たんだ」
涼助も俺も落ち着いたところで、佐竹が口を開いた。
「どうした?」
「2人に、僕が成仏するのを手伝って欲しい」
佐竹の口から出た言葉に、また俺と涼助が固まる。
「成仏……ってなんだっけ?」
「あれだよ、天国に行くやつ」
「でも死んだ時点で天国行くんだから違くね?ちょっとGoo○le先輩に聞こうぜ」
「先輩じゃなくて先生だろ」
何がなにやら意味がわからなくて、涼助と俺はスマホを取りだして成仏について調べる。
「この世に未練が無くなって仏になること……え、じゃあ佐竹には今未練があるってこと?」
「うん」
「……………雅貴の心残りって何?」
「行きたかった所とか、やりたかった事とかがあるんだ。これから説明するからそれに付き合って欲しい」
うん?と涼助と俺は眉をひそめる。まあ要するにやり残したことあるから付き合えってことだな。
「そんな大事なこと頼まれちゃったら断れねえな。よし、俺手伝う」
「わかった。俺も手伝うよ、雅貴」
「ありがとう。涼助、響人」
---
モヤモヤするって、こういう時のことを言うんだな。俺はスマホのカメラを構えてはしゃぐ響人と雅貴を見ながらそう思った。一緒に高校に行く、とか某ターバックスのフラペチーノを飲む、とか雅貴がやりたかったことを色々やって、今は3人で遊園地に来ている。いや、別に遊園地が嫌な訳じゃない。人の多いところには慣れてるから人混みが嫌じゃないし、さっき食べたクレープだって美味しかった。でも、なんか違う。心の底から楽しめないというか、楽しいと思えないというか。よく分からない不安みたいなものが心の中で渦巻いている。……………あんなに楽しそうな雅貴の姿を見るのは久々だ。俺の記憶の中の雅貴は、暗い顔ばかりしていた。
「涼助、どうかした?次、あれ乗るって」
雅貴が指差している先には、メリーゴーランドがあった。
「……大丈夫だよ。行こう」
---
はしゃぎ、食べ、写真を撮り、思いっきり学生を満喫した俺たちは最寄り駅から家までの道を歩いていた。
「成仏って、どうやったら出来んの?やり残したことはもう無いって、誰が判断すんの?」
俺が気になっていたことを、響人がストレートに雅貴に聞く。
「僕もその辺はよくわかんないんだ。神様が判断するんじゃない?」
「そっかー」
信号を待つ間、赤く染まり始めた秋の空を眺めながら、俺はまだモヤモヤしていた。…………雅貴がやり残したのって、本当にこんなこと?好きな子に告白するとか、最期に会いたかった人に会いに行くとか、もっとあるんじゃないのか?
「こんなに色々あったのに、涼助も響人も付き合ってくれてありがとう。やり残したことあと一個だけだし、それだけは一人で解決しなきゃいけないから。2人の手を借りるのはここまでにするよ」
信号が青に変わって、3人で歩き出した。
「えー、じゃああとちょっとで佐竹に会えなくなっちゃうのか。寂しー…………涼助!!」
響人に大声で呼びかけられて、俺は慌てて振り向く。なんか、やけにスローに見える。エンジン音が段々と近くに聞こえて、大きな衝撃を痛みを感じて、俺の体は道路に打ちつけられた。
---
海底から少しずつ水面に体が浮き上がっていくように、目を覚ました。辺りは真っ暗だった。俺は起き上がって、雅貴と響人の姿を探す。でも、何も見えないし何も聞こえない。闇雲に歩き続けていると遠くに雅貴の姿が見えたので、俺はそっちに走り出す。
「おーい、雅貴………」
「佐竹って、ホモなんだろ?」
明らかに雅貴のものじゃない声が聞こえて、俺は立ち止まった。よく見ると、雅貴は中学の時の制服を着ていた。
「うわキッショ。近づかない方がいいって」
「おい、誰のことが好きなんだよ。このクラスにいんの?」
周りの男子から浴びせられる心無い言葉に、雅貴は俯いて黙って耐えている。部活でも避けられて、雅貴はずっと独りぼっちだ。俺は、この光景を知っている。同性愛者であること馬鹿にされている雅貴も、たまに一緒に帰ると俺に心配をかけないように無理して作った雅貴の笑顔も、全部覚えている。なのに、俺は助けなかった。結局、自分が標的にされるのが怖かった。だから、この間また雅貴に会えたから、謝ろうと思ってたのに。今度は、俺が死ぬのかな。交通事故で死ぬとか、運悪すぎだろ。死ぬ時期ぐらい選ばせろよ………
---
「涼助」
「雅貴………?」
呼び掛けられて振り向くと、中学時代の雅貴じゃない、数時間前まで一緒に遊んでいた雅貴がいた。
「雅貴………ごめん。あの時、助けられなくて。怖かったんだ、自分が標的にされるのが。また会えたら謝りたいって、ずっと思ってた。結局こんな結果になっちゃったけど…………俺のこと、許してくれるか?」
そう言って俺は頭を下げた。雅貴は、しばらく黙っていた。やっぱ無理か。自分が助けなかったくせに許してなんて、都合が良すぎるもんな。
「………最初から、涼助のこと恨んだりなんてしてないよ。涼助が僕のこと助けて涼助が標的にされたら、僕にはそっちの方がしんどかったと思うよ」
そんなの、嘘だ。だったら自殺なんてする訳がない。
「僕のやり残したことあと1個、今ここでやってもいい?」
「………駄目だ」
「どうして?」
どうして、って………そんなの………
「あと1個やり終わったら、お前成仏しちゃうんだろ?………もう二度と会えなくなっちゃうんだろ?せっかくもういじめられなくなって、響人とも一緒に3人で遊べて楽しかったのに………」
「ごめんね。でも、生きてたってずっと一緒にいられる訳じゃないんだ。どっちかが絶対、先に死ぬんだよ。そのタイミングがずれちゃっただけだよ」
正論だ。確かに、高校生になっても大学生になっても大人になっても、人なんていつかは死ぬものだ。でも………
「ずれただけって……早すぎるんだよ!せめて、大学ぐらいは一緒に行きたかったよ………」
「涼助。この状態が、いつまでも持つ訳じゃないんだ。今の涼助は、病院のベットで管に繋がれて眠ってるんだよ。涼助のお母さんとか、響人とかがそばにいて、いつ君が目覚めるのかってずった心配してる。涼助の目が覚めた時には、もう僕はそばにいないんだ。そばにいられないんだ。だから最後ぐらい、僕のお願いを聞いてよ、涼助」
頼みというより、懇願。雅貴に会うのは、これが本当に最後になってしまうのか。
「………わかった。なあ、雅貴のやり残したことって、何?」
緊張なのか恐怖なのか震えている右手を左手で押さえて、俺は雅貴に聞いた。
「…涼助。僕は、君のことが好きだ。」
「……………は?」
まさかの言葉に、俺は固まった。
「これを言えないまま死んだのが、僕のやり残したこと。他の人に同性愛者であることを否定されたみたいに、涼助に嫌われるのが怖かったんだ。でも今はもう、失うものなんて何も無いから」
そう言って笑った雅貴の声も表情も明るくて、嘘をついているようには見えなかった。
「なんだよ、それ」
何とか頑張って出した声は、自分の想像以上に震えていた。
「そんな事かよ、やり残したことって」
雅貴に背を向けた自分の口から出た言葉は、震えた声だったけどはっきりと雅貴への軽蔑が込められていた。
「…………うん。そんな事だよ」
表情は見えなかったけど、悲しそうな声を聞いて雅貴が傷ついていることがわかった。
「最後の最後まで困らせてごめんね、涼助。バイバイ」
慌てて振り向くと、そこにもう雅貴はいなかった。
---
「涼助!?俺のことわかる!?」
目が覚めて一番最初に見たのは、心配そうな響人の顔と病院の天井だった。
「幸い、頭は打ってなかったって。手足の怪我も、サッカーができなくなる程の怪我じゃないらしい。良かったな」
「……は?」
「うん?」
寝起きだからか、声が上手く出ない。
「雅貴……は?どこ行った?」
もういないのはわかっているけど、聞かずにはいられなかった。
「雅貴は………涼助と話してくるって言って、いなくなった。戻ってきてついさっきまでここにいたけど、俺にさよならを言ってそのままどっか行っちゃった」
「そっか………」
助けるどころか、また傷つけてしまった。
「っ………なんで……」
「涼助?」
「ごめん、雅貴………」
俺は泣きながら、そう謝ることしかできなかった。
---
やっぱ、屋上は入れなかった。俺は校舎の3階の渡り廊下から地面を見下ろしてため息をついた。響人とか、後輩にも先生にも迷惑かけることになっちゃうけど、生きてるよりはマシだ。俺は深呼吸して、手すりに足をかける。もう片方の足もかけて手を離したら、俺の人生は終わるんだ。
「涼助!!」
俺の名前を呼ぶ声がして、思わずそっちの方を振り向く。響人や同級生たちがいる。駄目だ、振り向いたら死ねない。
「お願いだから、一旦待て!踏みとどまれ!」
響人に強く腕を引かれ、俺は響人と一緒に渡り廊下でひっくり返る。
「なんで、俺がここにいるって、わかったんだ?」
「4時間目終わってすぐに、お前と一緒に食堂行こうと思ったらいなかったから。学校中探してて、外にいた後輩から涼助が渡り廊下の方に見えるって連絡来たんだ。普通に渡ってる感じじゃない、様子がおかしいって言ってたから、もしかしてと思って」
「………俺なんか、いなくてもいいだろ。なんで止めたんだよ」
俺は俯いて投げやりに言った。
「いないと困るよ!キャプテンに選ばれたのも、涼助に任せても良いと皆が思ってくれたからじゃん。話はこれから聞くから、とりあえず飯食いに行こうぜ。な?」
「……………うん。ありがと」
俺は響人に手を引かれ歩き出した。
「涼助」
「えっ?」
雅貴の声が、俺を呼んだ気がした。慌てて振り向くと、そこには最後に会った日のままの雅貴がいた。
「涼助なら、僕がいなくても大丈夫だよ。見えないところからずっと応援してる。こんな事を言ったらまた君は嫌がるかもしれないけど、………涼助。僕は君が好きだから」
「こないだはひどいこと言ってごめん。俺もだよ、雅貴」
俺は雅貴だけに聞こえるようにそう言った。
お久しぶりです、ぱるしいです。なんか毎回お久しぶりですって言ってますね。このお話、最初は演劇部の台本のアイデアとして考えていたのですが他の子の考えたアイデアが次の発表会の台本の原案として採用されることになったのでそれなら小説にしてしまえ!というノリで書きました。時間かかりました。シリーズ物でもないこういう単発の話で5000文字超えるの初めてです。このお話はちょうど今頃の季節だと思って書いているのでタイトルを「ヒガンバナ」にしました。お彼岸の時期って意味です。結構頑張って書いたので、感想とか頂けたら嬉しいです。