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目次
さくらと共に、君は散る。
初の短編です。頑張った。
注意
・ぬるめですが自殺描写があります。
数日前、僕の彼女が亡くなった。自殺だった。
彼女の名前は佐倉花。
名前の通り可憐で可愛くて、触れたらすぐ散ってしまいそうな儚げな少女だった。
学校ではいじめられており、親からネグレクトを受けていた花は
「葉(よう)だけが心の支えなんだ。」
と、いつも言っていた。
花は桜が好きだった。
中学一年の頃から付き合い始めて、毎年デートとして花見に行っていた。花冠を髪に付けて、
「どう?似合う?」
と言っている花の笑顔が、僕は大好きだった。
最後のデートは、3月9日。
花の15歳の誕生日に行った。
場所は毎年花見に来ていた、人があまり来ない自然豊かな丘の上。まだ少し寒さが残る中、桜の蕾が膨らんでいた。
「ねえ、咲いてないけどいいの?」
僕は問いかけた。
「いいんだよ。葉と来れただけで、私は嬉しい。」
その花の笑みに、鼻の奥がツンと痛くなった。
まだ完全に緑ではない草むらを、二人で駆け回ったあの日。転んだ花を、僕が手を出して起こしたあの日。思い出すだけで、涙が滲む。
家へ帰る分かれ道で、花との最期の会話。
「またね。」
ふんわりとした笑顔。
もう二度と会わないはずなのに、またね、と言った花。
最後に届けられた手紙は桜色の便箋に書かれていて、封筒にたった一つだけ桜の花冠が入っていた。まだ咲く時期じゃないのに。これ以上は追求してはいけない気がした。
テレビのニュースで
『15歳の女子中学生、自殺で死亡。』
と目にした時、なぜか悲しくなかった。
花が死ぬのを知っていたのは、僕だけだったから。
親よりも、担任よりも、友達よりも、僕のことを信用していた花。
また会える。僕はそう信じて、橋の上から目の前の川へと飛び込んだ。
どうでしたか?書いててめっちゃ楽しかった。
影の中の光
家を出た。駅まで歩かなきゃ。駅に着いた。電車に乗らなきゃ。電車に乗った。降りるまで立ちっぱなしだ。電車を降りた。学校に行かなきゃ。2年生に進級してから、ずっとこの繰り返し。入学した頃は、全然こんな感じじゃなかった。義務教育から解放されてからの高校生活はすごく楽しみにしていたし、第一志望の高校でたくさんの友達を作って、みたいな。中学のときよりも広くなった世界で、自分も中学のときよりもたくさんのものを見て、大学生まで頑張ろうと決意をしていた。それなのに。2年生になって、理想は、俺の希望は、全部打ち砕かれた。
---
始めは、ただのパシリだけだった。アイツらが忙しそうだったからまあいいか、と手伝うつもりでやった。でも段々要望が増えてきて、しんどくなった。俺にも俺の事情があるからそろそろもうパシリはやめて欲しい。そう伝えた。そうしたら、対応が一気に変わった。まず、物を隠されることが増えた。シャーペンとか、授業のノートとか。シャーペンはすぐに見つけたし、ノートは替えが利くからどうしても見つからない時は新しく買った。でも、見つからないと復習ができないし、親も怪しいと思うかもしれない。だからまた、やめて欲しいと伝えた。
「隠されんのが嫌ならまた購買行ってくんね?そしたらやめてやんよ」
「つーかさ、やめて欲しいとか言う前に理由考えたら?脳味噌あんだろ?ちゃんと使えよ」
ここまで面と向かって悪口を言われたのは生きてきて初めてで、その日の帰りは電車の中で泣きそうになりながら帰った。
---
それからも、いじめがどんどん激しくなった。仲間外れとか、俺と話した子を無視したりとか。そんな様子を見ていられなくて、学校では先生以外と話さなくなった。机の中に悪口が書かれた紙が入っていたり、美術の時間に彫刻刀で傷つけられたり。体も心も、全部が痛かった。先生や親に相談するか迷った。でも相談することでいじめがエスカレートするかもしれない、いじめられるような弱い自分が嫌われてしまうかもしれない。そんな考えばかり頭に浮かんで、結局相談はできなかった。
---
「久しぶりじゃん、|昴《すばる》。なんか痩せた?」
「|直兄《なおにい》………」
また学校で誰とも話さなかった日。家の最寄り駅から歩いていたら俺が生まれてから高校1年生まで家が隣だった2つ年上の大学生、|月岡直斗《つきおかなおと》に会った。血の繋がりはないけれど、昔からよく遊んでくれて、今でも会うと直兄と呼んでいる。今は大学生だけど、最寄り駅は同じまま引っ越したからたまに遭遇するんだよな。
「どう?学校は」
「………うん、楽しいよ」
「今なんか間あったんだけど?」
「なんでもないよ。疲れただけ」
直兄鋭いな。ちゃちゃっと受け流して帰ろう。
「手の甲の傷、どうした」
やばい、制服の袖から出ていた手の甲の傷が見えていたらしい。消毒だけして、保健室にも行ってないんだよな。痕残るかもしれない。
「別に、美術でちょっと失敗しちゃっただけ。俺そんな器用じゃないからさ」
「………そう。なんかあったらいつでも連絡していいからな。どうせ家近いんだし」
「………………うん」
そんな事言われたって、言える訳ない。
---
「なあなあ、俺たち今日昼休みも部活あってさ。悪いけどこの金でパン買って体育館まで届けてくれない?」
「……わかった。どのパンがいいの?」
またか。いい加減にしてくれよ、と心の中で呟く。でも本当に言ったらもっとひどくなるから。我慢しなきゃ。
---
昼休みになった。購買まで走って、言われた通りのパンを買って、体育館に直行する。でも、体育館は電気も消されていて、人はいなかった。おかしいな。
「そこ、2年か?今日の昼休みは体育館使えないぞ?」
驚いて固まっていると、その辺にいた先生に言われた。
「え、ああ、すみません……」
どういう事だろう。とりあえずまた走って、3階にある教室まで戻る。
「おい遅いぞ!!」
「教室で食べるって言っただろ?どこまで行ってんだよ」
………は?ふざけるな。お前らが言ったんだろ。体育館って。俺にイライラをぶつけるために………わざとか?
「いい加減にしろよ毎回毎回。こうやって、お前の価値を作ってやってんだよ。こんなのもできないとか、本当に何で学校来てんの?お前」
「っ、ごめんなさ」
「謝るぐらいなら最初からやんなよ。できないならもう来なくていい。いちいち謝罪聞くのももうウザいんだよ」
じゃあどうしろって言うんだよ………
「放課後、屋上来いよ。あ、でも屋上って入れねえよな……屋上まで行く階段上がって、扉の手前まで来い。来なくても遅刻しても殺すからな」
「……………はい」
---
放課後。言われた時間より2分早く、階段のところに着いた。そして、杉田と米島_________俺をいじめている二人が来た。
「お前、もうパシられんの嫌だろ?」
「う、うん」
なんだ急に。
「もうそろそろ、お前をパシリにすんのやめようと思ってさ」
「ほ、本当か____」
「ただし、俺等が今からお前のこと2発ずつ殴るから、それに耐えたらな」
「そんな____何でそんな事」
「気に入らないから。お前のこと」
は?そんなことで?そんな簡単な理由で四発も殴られなきゃいけないのか?ふざけんなよ。でも、これに耐えれば、俺は、もう苦しまなくていいんだ。
「わかった。受ける」
親への言い訳は、後で考えよう。
---
「まず一発目な」
杉田がそう言って、右頬にビンタが飛んでくる。痛い。でもこのぐらいなら全然平気だ。
「二発目!」
米島の腹パン。一瞬吐き気がせり上がって来たけど、まだ大丈夫。
「三発目。そろそろキツイんじゃね?」
左頬に杉田の拳。衝撃が大きく、視界が歪む。
「ラスト!これで終わりだ!良かったな!」
右足に思い切り蹴りが入る。バランスを崩して階段から落ちかけたが、手すりを掴んで踏みとどまった。ただ遠心力で階段の柵に背中を打ちつけたのと、着地の時に左足首をひねってしまった。
「マジで耐えるとはな」
「お疲れ。やっと安心して学校行けるな。ははっ」
そう言って笑う2人に|苛々《いらいら》し、無言で鞄を掴んで階段を降りた。
---
「昴……だよな!?顔どうした!」
口の中の血の味や、いつまで経ってもジンジンしている背中に顔を顰めつつ、最寄り駅から家まで歩いていると、直兄に会った。
「別に、前見ずに歩いてたらうっかり電柱にぶつかっただけだよ」
「……………本当か?」
「嘘つく必要ないでしょ」
さ、バレないうちにさっさと帰ろう。足首に湿布貼りたい。
「なあ、今日俺の家泊まってかないか?」
「はあ?」
「どうせ同じ駅の範囲だし、そんな遠くないし。明日土曜だから、学校の心配もない。宿題とかわかんない所あったら教えるよ」
いや、突拍子もなさすぎる。よくそんな思いつくな。
「でも服とかさ……」
「じゃ、一旦持ち物の準備してから来なよ!1時間後ぐらいに俺の家集合ね!部屋、402だから!」
言うだけ言うと、直兄は爽やかに行ってしまった。………行かなくてもいいかな。
---
とまあ魔が差しかけたものの、久しぶりに直兄とたくさん話せるのが嬉しくて、今は直兄に言われたマンションの番号の部屋の前まで来ている。インターホンを押すと、引くぐらいニッコニコな直兄が出迎えてくれた。うん、やっぱ帰ろうかな。
「いやちょっと、引くなよ!」
「………なんでそんなニコニコなの」
「久しぶりに昴とたくさん話せそうだからな!ほら、上がって上がって!」
「お邪魔します」
直兄が一人暮らししている部屋は、初めて入ったけど一人暮らしの大学生にしては広かった。だってリビングと寝室分かれてるんだもん。社会人でも最初の方はワンルームじゃないのかな。まいっか。
「荷物ここ置いといていいよ。そしたらまず、お風呂入ってきな」
「直兄は?」
「俺?昴が準備してうちに来るまでにもう入ったよ。昴が入ってるうちに夜ご飯作るよ。何食べたい?」
「うーん、スパゲッティがいい」
「味付けは?」
「和風のやつ」
俺は直兄が作ってくれる料理の中で、ベーコンとネギとしめじと舞茸が入ってて、醤油とニンニクで味付けしたスパゲッティが好き。直兄って料理上手なんだよね。
「じゃ、いってらっしゃい。ゆっくり浸かってね」
「うん。ありがと」
---
「おかえり。あれ、お風呂上がりにそんな格好で暑くないの?」
風呂から上がって、パジャマに着替えてリビングに戻ると、直兄にそんなことを言われた。確かに10月に入ったとはいえまだ暑さが粘り強く残っている今の時期に、半袖長ズボンで上にはパーカーを羽織っている俺は直兄から見たら暑そうなんだろうな。でも足蹴られたところとか、今までに受けた傷とかは見えないようにしたいからな。
「とりあえず、ご飯食べようか。飲む物麦茶しかないけどいいよね?」
「うん、いいよ」
『いただきまーす』
ちゃんと手を合わせ、いただきますを言ってから食べる。うん、やっぱり直兄の料理は美味しい。夕方は大変だったけど、癒されるな〜。
「昴、学校楽しい?授業ついていけてる?友達ちゃんといる?」
「っ、うん。大丈夫だよ。心配しすぎだって」
できる限り動揺しているのを悟られないように、笑顔を作る。
「嘘………ついた?」
「え?」
「昴、今嘘ついたよね?」
なんで、わかったの。その感情が、俺の顔に出ていたんだろう。直兄は一度ため息をついて、俺の目をまっすぐに見て話し始めた。
「背中の痣、どうしたの?」
「!?」
「ごめんね。多分、隠したかったよね。昴がさっき着替えてる時、見えちゃったんだ」
「直………兄……」
直兄は、どこまで俺の事わかってるんだろう。
「電柱にぶつかっちゃったとか、美術の時間に失敗しちゃったとか、昴らしくないと思ったんだ。左足引きずって歩いてるのも気になったし。誰にやられたの?」
「クラスの……男子。杉田と、米島っていう……」
「いつから?」
俺は隠しても無駄だと悟り、全てを直兄に話した。
---
「そんな事を……?半年間も耐えてたの……?」
俺から全てを聞いた直兄は、信じられない、というような顔をしていた。
「そんな事って、別にパシられてただけだよ。こんなに怪我させられたのも、たまにしかなかったし」
「馬鹿!!」
「えっ」
直兄は今までに見たことがないような、辛そうで泣きそうで、それでいて少し怒ったような顔をしていた。
「なんで、もっと早く言ってくれなかったの?もっと早く言ってくれれば、こんなに殴られることも無かったんだよ?…………もっと、自分のこと大切にしてよ、昴」
こんなに感情をむき出しにした直兄、初めてだ。それにつられて、俺もなんか涙が出てきた。
「俺……さ……」
泣きながら話し始める俺を、直兄が抱きしめてくれる。
「俺……いじめられてるって言うの……怖くて……誰かに言ったら……もっとひどくなるんじゃないかって、それで……」
「うん、うん」
頭を優しく撫でながら、直兄は俺の話を聞いてくれる。
「直兄とかに……俺が…いじめられるような弱い奴って思われたくなくて……失望されたりしたら……嫌だなって………だから…………言えなかった……」
「そっか。心配しなくても、弱いからとかそんな理由で昴に失望したりしないよ」
そう言って、直兄は微笑んだ。その優しい笑顔に、また泣きそうになる。
「あーもうそんな泣かないで〜」
「だって……直兄優しいからっ………」
「可愛いな〜昴は。いつまでも俺の弟だよ〜」
「うんっ………」
---
「直兄……」
「何?」
「皿、俺が洗うよ」
たくさん話を聞いてもらって、泣いてた俺をなぐさめてくれたお詫びとお礼として夕飯の後そう言ってみた。
「マジで?ありがと。じゃあ俺コンビニ行ってアイスとかお菓子買ってこようかな。今まで昴が頑張ったご褒美だよ」
「やった。待ってるね」
「うん。行ってきまーす」
めっちゃ嬉しい。楽しみだな〜。
---
「昴、そろそろ起きな。もう10時だよ」
「ん〜…‥.」
そっか、今日土曜日か。昨日の夜11時過ぎまで直兄とお菓子食べながら話してたんだった。直兄の家のベッド、一人暮らしのくせにセミダブルだから普通に俺も入って寝れた。あの後、俺の傷とか捻挫の手当ても直兄がしてくれた。直兄にはお世話になりっぱなしだ。
「学校の先生には言わなくていいのか?」
朝ごはんにおにぎりを食べながら、直兄が俺に聞いた。
「迷ってるとこ。でも、言ったほうがいいよね」
「そうだね〜。もう絶対にいじめられないっていう確証はない訳だし」
「よし、言ってみようかな」
「よく決断した。偉い偉い」
そう言うと、直兄は俺の頭をわしわし撫でる。ただでさえ寝癖でボサボサな髪がさらによく分からない方向にハネる。
「なんかあったら、昨日みたいにちゃんと教えてね。絶対にもう我慢しないこと。いい?」
「うん」
「頑張ってね」
直兄は俺の手を握って、笑顔でエールをくれた。
---
月曜日。朝、先生に今まであったことを話した。証拠として、傷も見せた。先生は信じられないといった顔をして、それから俺にこう聞いた。
「お前はどうしたい?杉田と米島が俺に叱られれば満足するか?」
「いいえ。でも謝られたところで、なんかなーって感じです。謝罪とかはいらないので、反省だけして欲しいです」
「わかった。じゃあ必ず俺が2人にそうさせるからな。よく話してくれた。あとは先生に任せとけよ」
「ありがとうございます」
俺は一礼して、生徒指導室を出た。
---
それからというもの、杉田と米島は2週間の停学になり、停学が明けてから俺には謝罪してきた。納得した………とは言えないけど、とりあえず安心。直兄も、たまに会うと色々話してくれるし、俺のことも色々話す。またちゃんと、楽しく学校に行けるようになって良かった。先生にも勿論感謝しているし、何よりも直兄。本当にありがとう。
どうも、花粉で鼻詰まり&喉腫れてるぱるしいです。鼻声ハスキーボイスになってます。この小説書き始めたのが5日ぐらい前なんですけど、文字数長い小説書くの久々過ぎて時間かかっちゃいました。良ければ感想とかファンレター待ってます。
ヒガンバナ
※BL要素あります。
ずっと、後悔していた。助けられなかった。
手を差し伸べる勇気を出せなかった。
苦しんでいるのを目の前で見ていたのに、見たくなくて目を逸らした。
いつも近くにいたのに、心だけは、ずっと遠く離れていた。
どれだけ悔やんでも、今はもう会うことも話すこともできない。
あいつの笑顔を最後に見たのは、いつだっただろうか。
---
「全国、行きてえよな」
「なんだ急に」
俺の呟きにツッこんだ友人を横目に、俺は歩く。9月末の夕方、まだ少し残暑が残っているけどだいぶ涼しくなってきた。部活で流れた汗も、秋風が気持ち良く冷やしてくれる。
「てか俺これから部まとめられる自信ないんだけど」
「まとめるも何もサッカーなんてパス以外ほぼ個人プレーだし、仲良くできてればいいんじゃねえの?」
「お前はサッカーを何だと思ってんだよ」
いま俺の隣を歩く俺と同じサッカー部の友人、|和泉涼助《いずみりょうすけ》は部の次期キャプテンに選ばれているのだ。俺の前ではこうやって愚痴とか弱音を吐いたりしているけど、クラスでも部でも明るくて良い奴だ。試合になると、いつもの調子が一変して急にイケメンになるし。
「…………もうすぐ、2年になるのか」
「あーあ、せっかく俺がお前に気ぃつかってその話題避けてたのに、自分で言っちゃうんだ」
「ヒス構文みたいになるのやめろ。どうしても、頭から離れないんだよ」
恋かよ、と俺は心の中で呟く。こいつの幼馴染の|佐竹雅貴《さたけまさき》は、2年前に亡くなったのだ。俺は学校が違ったし交流も少なかったけど、こいつがいなくなってからの涼助の落ち込みようを見た感じめちゃくちゃ大事な幼馴染だったんだろう。ていうか今も落ち込んでるけど。
「きっと雅貴は今も涼助の傍にいて見守ってくれてるだろ。だからもうそんな落ち込むなよ」
「そっか……ん?」
いきなり、涼助が振り返った。でも誰もいない。
「嘘だろ?マジで?」
「どうした?」
「いる………雅貴が…………」
涼助が、信じられないといった顔で呟く。そうだ、こいつは幽霊を見ることができるのだ。
「え、ガチ?佐竹?そこにいるのか?」
俺は涼助が見ている方向に向かって聞く。俺は幽霊を見ることはできないけど、会話することはできるんだ。
「久しぶり。涼助、|響人《きょうと》」
小さく足音がして、目の前に、亡くなったはずの佐竹が立っていた。
---
「え、なんで俺にも見えてんの………?俺見えないはずなんだけど……俺もしかして死んだ?」
「大丈夫。響人はちゃんと生きてる」
あまりにも唐突に起きた出来事に呆然としている俺に対して、佐竹が落ち着かせてくれる。
「雅貴、今それ実体あるの?触れるの?」
「あるし、触れるよ」
「わっ、やば……意味わかんねえ……」
約2年ぶりにあう幼なじみと握手をして手を見つめたまま、放心状態の涼助。まともなのが佐竹しかいない。
「今日は2人に頼みたいことがあって来たんだ」
涼助も俺も落ち着いたところで、佐竹が口を開いた。
「どうした?」
「2人に、僕が成仏するのを手伝って欲しい」
佐竹の口から出た言葉に、また俺と涼助が固まる。
「成仏……ってなんだっけ?」
「あれだよ、天国に行くやつ」
「でも死んだ時点で天国行くんだから違くね?ちょっとGoo○le先輩に聞こうぜ」
「先輩じゃなくて先生だろ」
何がなにやら意味がわからなくて、涼助と俺はスマホを取りだして成仏について調べる。
「この世に未練が無くなって仏になること……え、じゃあ佐竹には今未練があるってこと?」
「うん」
「……………雅貴の心残りって何?」
「行きたかった所とか、やりたかった事とかがあるんだ。これから説明するからそれに付き合って欲しい」
うん?と涼助と俺は眉をひそめる。まあ要するにやり残したことあるから付き合えってことだな。
「そんな大事なこと頼まれちゃったら断れねえな。よし、俺手伝う」
「わかった。俺も手伝うよ、雅貴」
「ありがとう。涼助、響人」
---
モヤモヤするって、こういう時のことを言うんだな。俺はスマホのカメラを構えてはしゃぐ響人と雅貴を見ながらそう思った。一緒に高校に行く、とか某ターバックスのフラペチーノを飲む、とか雅貴がやりたかったことを色々やって、今は3人で遊園地に来ている。いや、別に遊園地が嫌な訳じゃない。人の多いところには慣れてるから人混みが嫌じゃないし、さっき食べたクレープだって美味しかった。でも、なんか違う。心の底から楽しめないというか、楽しいと思えないというか。よく分からない不安みたいなものが心の中で渦巻いている。……………あんなに楽しそうな雅貴の姿を見るのは久々だ。俺の記憶の中の雅貴は、暗い顔ばかりしていた。
「涼助、どうかした?次、あれ乗るって」
雅貴が指差している先には、メリーゴーランドがあった。
「……大丈夫だよ。行こう」
---
はしゃぎ、食べ、写真を撮り、思いっきり学生を満喫した俺たちは最寄り駅から家までの道を歩いていた。
「成仏って、どうやったら出来んの?やり残したことはもう無いって、誰が判断すんの?」
俺が気になっていたことを、響人がストレートに雅貴に聞く。
「僕もその辺はよくわかんないんだ。神様が判断するんじゃない?」
「そっかー」
信号を待つ間、赤く染まり始めた秋の空を眺めながら、俺はまだモヤモヤしていた。…………雅貴がやり残したのって、本当にこんなこと?好きな子に告白するとか、最期に会いたかった人に会いに行くとか、もっとあるんじゃないのか?
「こんなに色々あったのに、涼助も響人も付き合ってくれてありがとう。やり残したことあと一個だけだし、それだけは一人で解決しなきゃいけないから。2人の手を借りるのはここまでにするよ」
信号が青に変わって、3人で歩き出した。
「えー、じゃああとちょっとで佐竹に会えなくなっちゃうのか。寂しー…………涼助!!」
響人に大声で呼びかけられて、俺は慌てて振り向く。なんか、やけにスローに見える。エンジン音が段々と近くに聞こえて、大きな衝撃を痛みを感じて、俺の体は道路に打ちつけられた。
---
海底から少しずつ水面に体が浮き上がっていくように、目を覚ました。辺りは真っ暗だった。俺は起き上がって、雅貴と響人の姿を探す。でも、何も見えないし何も聞こえない。闇雲に歩き続けていると遠くに雅貴の姿が見えたので、俺はそっちに走り出す。
「おーい、雅貴………」
「佐竹って、ホモなんだろ?」
明らかに雅貴のものじゃない声が聞こえて、俺は立ち止まった。よく見ると、雅貴は中学の時の制服を着ていた。
「うわキッショ。近づかない方がいいって」
「おい、誰のことが好きなんだよ。このクラスにいんの?」
周りの男子から浴びせられる心無い言葉に、雅貴は俯いて黙って耐えている。部活でも避けられて、雅貴はずっと独りぼっちだ。俺は、この光景を知っている。同性愛者であること馬鹿にされている雅貴も、たまに一緒に帰ると俺に心配をかけないように無理して作った雅貴の笑顔も、全部覚えている。なのに、俺は助けなかった。結局、自分が標的にされるのが怖かった。だから、この間また雅貴に会えたから、謝ろうと思ってたのに。今度は、俺が死ぬのかな。交通事故で死ぬとか、運悪すぎだろ。死ぬ時期ぐらい選ばせろよ………
---
「涼助」
「雅貴………?」
呼び掛けられて振り向くと、中学時代の雅貴じゃない、数時間前まで一緒に遊んでいた雅貴がいた。
「雅貴………ごめん。あの時、助けられなくて。怖かったんだ、自分が標的にされるのが。また会えたら謝りたいって、ずっと思ってた。結局こんな結果になっちゃったけど…………俺のこと、許してくれるか?」
そう言って俺は頭を下げた。雅貴は、しばらく黙っていた。やっぱ無理か。自分が助けなかったくせに許してなんて、都合が良すぎるもんな。
「………最初から、涼助のこと恨んだりなんてしてないよ。涼助が僕のこと助けて涼助が標的にされたら、僕にはそっちの方がしんどかったと思うよ」
そんなの、嘘だ。だったら自殺なんてする訳がない。
「僕のやり残したことあと1個、今ここでやってもいい?」
「………駄目だ」
「どうして?」
どうして、って………そんなの………
「あと1個やり終わったら、お前成仏しちゃうんだろ?………もう二度と会えなくなっちゃうんだろ?せっかくもういじめられなくなって、響人とも一緒に3人で遊べて楽しかったのに………」
「ごめんね。でも、生きてたってずっと一緒にいられる訳じゃないんだ。どっちかが絶対、先に死ぬんだよ。そのタイミングがずれちゃっただけだよ」
正論だ。確かに、高校生になっても大学生になっても大人になっても、人なんていつかは死ぬものだ。でも………
「ずれただけって……早すぎるんだよ!せめて、大学ぐらいは一緒に行きたかったよ………」
「涼助。この状態が、いつまでも持つ訳じゃないんだ。今の涼助は、病院のベットで管に繋がれて眠ってるんだよ。涼助のお母さんとか、響人とかがそばにいて、いつ君が目覚めるのかってずった心配してる。涼助の目が覚めた時には、もう僕はそばにいないんだ。そばにいられないんだ。だから最後ぐらい、僕のお願いを聞いてよ、涼助」
頼みというより、懇願。雅貴に会うのは、これが本当に最後になってしまうのか。
「………わかった。なあ、雅貴のやり残したことって、何?」
緊張なのか恐怖なのか震えている右手を左手で押さえて、俺は雅貴に聞いた。
「…涼助。僕は、君のことが好きだ。」
「……………は?」
まさかの言葉に、俺は固まった。
「これを言えないまま死んだのが、僕のやり残したこと。他の人に同性愛者であることを否定されたみたいに、涼助に嫌われるのが怖かったんだ。でも今はもう、失うものなんて何も無いから」
そう言って笑った雅貴の声も表情も明るくて、嘘をついているようには見えなかった。
「なんだよ、それ」
何とか頑張って出した声は、自分の想像以上に震えていた。
「そんな事かよ、やり残したことって」
雅貴に背を向けた自分の口から出た言葉は、震えた声だったけどはっきりと雅貴への軽蔑が込められていた。
「…………うん。そんな事だよ」
表情は見えなかったけど、悲しそうな声を聞いて雅貴が傷ついていることがわかった。
「最後の最後まで困らせてごめんね、涼助。バイバイ」
慌てて振り向くと、そこにもう雅貴はいなかった。
---
「涼助!?俺のことわかる!?」
目が覚めて一番最初に見たのは、心配そうな響人の顔と病院の天井だった。
「幸い、頭は打ってなかったって。手足の怪我も、サッカーができなくなる程の怪我じゃないらしい。良かったな」
「……は?」
「うん?」
寝起きだからか、声が上手く出ない。
「雅貴……は?どこ行った?」
もういないのはわかっているけど、聞かずにはいられなかった。
「雅貴は………涼助と話してくるって言って、いなくなった。戻ってきてついさっきまでここにいたけど、俺にさよならを言ってそのままどっか行っちゃった」
「そっか………」
助けるどころか、また傷つけてしまった。
「っ………なんで……」
「涼助?」
「ごめん、雅貴………」
俺は泣きながら、そう謝ることしかできなかった。
---
やっぱ、屋上は入れなかった。俺は校舎の3階の渡り廊下から地面を見下ろしてため息をついた。響人とか、後輩にも先生にも迷惑かけることになっちゃうけど、生きてるよりはマシだ。俺は深呼吸して、手すりに足をかける。もう片方の足もかけて手を離したら、俺の人生は終わるんだ。
「涼助!!」
俺の名前を呼ぶ声がして、思わずそっちの方を振り向く。響人や同級生たちがいる。駄目だ、振り向いたら死ねない。
「お願いだから、一旦待て!踏みとどまれ!」
響人に強く腕を引かれ、俺は響人と一緒に渡り廊下でひっくり返る。
「なんで、俺がここにいるって、わかったんだ?」
「4時間目終わってすぐに、お前と一緒に食堂行こうと思ったらいなかったから。学校中探してて、外にいた後輩から涼助が渡り廊下の方に見えるって連絡来たんだ。普通に渡ってる感じじゃない、様子がおかしいって言ってたから、もしかしてと思って」
「………俺なんか、いなくてもいいだろ。なんで止めたんだよ」
俺は俯いて投げやりに言った。
「いないと困るよ!キャプテンに選ばれたのも、涼助に任せても良いと皆が思ってくれたからじゃん。話はこれから聞くから、とりあえず飯食いに行こうぜ。な?」
「……………うん。ありがと」
俺は響人に手を引かれ歩き出した。
「涼助」
「えっ?」
雅貴の声が、俺を呼んだ気がした。慌てて振り向くと、そこには最後に会った日のままの雅貴がいた。
「涼助なら、僕がいなくても大丈夫だよ。見えないところからずっと応援してる。こんな事を言ったらまた君は嫌がるかもしれないけど、………涼助。僕は君が好きだから」
「こないだはひどいこと言ってごめん。俺もだよ、雅貴」
俺は雅貴だけに聞こえるようにそう言った。
お久しぶりです、ぱるしいです。なんか毎回お久しぶりですって言ってますね。このお話、最初は演劇部の台本のアイデアとして考えていたのですが他の子の考えたアイデアが次の発表会の台本の原案として採用されることになったのでそれなら小説にしてしまえ!というノリで書きました。時間かかりました。シリーズ物でもないこういう単発の話で5000文字超えるの初めてです。このお話はちょうど今頃の季節だと思って書いているのでタイトルを「ヒガンバナ」にしました。お彼岸の時期って意味です。結構頑張って書いたので、感想とか頂けたら嬉しいです。
また会う日を楽しみに
https://tanpen.net/novel/3af0b076-27d6-4801-b5e4-708b7e8abb2e/
⬆こちらの『ヒガンバナ』という小説のスピンオフというか別視点バージョンというかそんな感じのお話です。『ヒガンバナ』を先に読んでからこの小説を読むことを強くおすすめします。
ずっと、謝りたかった。
心配をかけ続けて、たくさん悩ませて。
全然大丈夫じゃなかったのに、「大丈夫」と言い続けて、気づいた時には限界が来ていた。
ずっと一緒にいたのに、頼れなかった。頼らなかった。
あの時「辛い」と言っていれば、まだ隣にいることが出来たのだろうか。
---
「お前に後悔はあるか?」
死んでからもうすぐ2年経つのに、まだ未練がましく成仏せずにいた僕に神様が聞いてきた。
「………あります。たくさん」
「具体的には?」
なんでそんなことを聞くんだろう、とか言ったところで何になるんだろう、とかひねくれた考えが頭をよぎったけど、僕は素直に口を開いた。
「涼助に想いを伝えられなかったこととか、高校行けなかったこととかですかね」
「そうか。では今から現世に行き、その後悔を全部無くして来い。そしてお前は成仏しろ」
「はあ?」
いきなりそんなことを言われて、神様に対して失礼なリアクションをしてしまった。
「いや、いきなりすぎませんか?」
「あのなあ、普通は死んだら盆の時期に家帰って成仏するもんなんだよ。それなのにお前は何だ?もうすぐ死んでから2年だぞ?若くして死んだんだからさっさと成仏して生まれ変わって新しき人生歩めばいいってのにずっと残りやがって」
神様は呆れたようにため息をついて、僕に対しての文句を並べ立てた。
「その涼助とかいう奴も、お前が死んでからずっと助けられなかったとか後悔して今でも夜中に泣いてる時があるんだぞ?お前が成仏しなきゃずっと涼助の人生を縛り続けることにもなるんだ。わかるか?」
「そうだったんですか……?」
生きてた時はずっと心配をかけていたのに、死んでもなお涼助の負担になってたなんて……本当に申し訳ない。いやダメだ、このままだとネガティブループになる。やめよう。
「アイツのこれからの人生のためにも、お前の未来のためにも、そうするべきだ。ていうか、そうして来い。今から涼助がいる場所に飛ばしてやるから、さっさと行ってこい」
「あ、え?もう行くんですか?」
「善は急げって言うだろ。期限とかは特に定めないけど、上から見ててもう大丈夫だなって思ったら勝手に呼び戻すから、それまで楽しくやってろ」
神様がそう言うと、急に体がふわっと浮き、目の前の景色が変わった。
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「うわ………久々の現世だ……」
草の匂いも、夕方になりだんだんと暗くなる空も、風に吹かれて髪が耳をくすぐるのも、全部久しぶりだ。いや、ていうかここどこだろう。流石に手ぶらは厳しいよ……と思っていたが、何故かたまたまショルダーバッグを肩にかけていた。中を見ると、財布やスマホがある。え、これ僕が生きてた時に使ってたやつだ。神様、ありがとうございます。ひとまず地図アプリを開き、現在地を探る。涼助の家と、涼助が通ってる高校の間ぐらいみたいだ。うーん、涼助の家まで行くか普通に連絡取るか、悩む。道端で悩んでるのはただの怪しい人だから、ひとまず歩こう。3分ほど川沿いを歩いていると、見たことある後ろ姿が目に入った。黒より少し明るいブラウンの髪、筋肉のついた足、特徴的な笑い方。間違いない、あれは涼助だ。僕は走り出し、涼助の肩を叩いた。
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成仏するのを手伝ってくれ、という僕のよくわからないお願いを、涼助も響人も快く引き受けてくれた。休日になり、まずは何をしたいか聞かれた僕は某ターバックスのフラペチーノを飲みたいと答えた。
「雅貴、何飲む?」
店まで行くバスの中で、一番後ろの席に3人で座って涼助のスマホを覗き込む。
「抹茶クリームフラペチーノかな……?あれ、なんかサイズが4種類もある」
「雅貴は某タバ行くの初めてだっけ?初めてならこのTallがいいんじゃないかな」
「ほう」
サイズすら分からない僕に、響人がそう教えてくれる。
「カスタムは?クリーム山盛りにしたり、ミルク変えたりできるけど」
「じゃあ、せっかくだからクリーム山盛りにしてみようかな。ありがとう2人とも」
そんな感じで話していると、バスがショッピングモールに着いた。行き慣れている2人に案内してもらい、店へと向かう。
「席混んでるし、テイクアウトにするか」
「だな〜」
並びながら2人が話しているのを横目に、僕は心の中で自分の注文内容を反芻する。抹茶クリームフラペチーノのTallサイズで、クリーム山盛り……いや、多めって言ったほうが分かりやすいか。そうしよう。
「次のお客様ー。ご注文どうぞ」
「えっと……」
僕の番が来て、思い切って口を開く。
「抹茶クリームフラペチーノのTallサイズで、クリーム多めでお願いします」
よし、言えた。
「出来上がったらこちらのレシートの番号でお呼びするので、そちらに並んでしばらくお待ちください」
「わかりました」
支払いを済ませてレシートをもらい、先に注文を終えていた涼助達に合流する。
「涼助は何頼んだ?」
「俺は期間限定のやつ。響人は?」
「ドリップコーヒーのアイス」
「渋いね」
ちなみに、僕はカフェラテにガムシロを2個入れないと飲めない程度には甘党である。だからアイスコーヒーをブラックのまま飲むという響人みたいな飲み方は僕には絶対にできない。
「雅貴、よく抹茶飲めるな。俺は飲めない」
そうだ、涼助は修学旅行で京都に行った時班の皆がお店で抹茶の試飲をしている中、ひとりペットボトルの水を飲んでたな。
「でも、お前紅茶は飲めるじゃん。何が違うの?」
響人がそう聞くと、
「日本茶が無理なのかもしれない」
と涼助は遠い目をして呟いた。
「いや涼助、抹茶も紅茶も元は同じ葉だよ。製造工程とかが違うだけだよ。あとアールグレイとかフレーバーティーは香料とかでアレンジされてるんだってさ」
「詳しいな雅貴」
「まあ僕紅茶飲めないけどね。風味が無理」
そんなどうでもいい会話をしていると、次々に番号を呼ばれ、全員のドリンクが出揃った。
「よし、じゃあどっか座れるとこ探すか」
店を出るなり、響人がそう言った。
「あ、あそこにベンチあるよ」
「ナイス。行こう」
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1週間後。もちろん僕の要望で、都内の遊園地に来ていた。かなり歴史のあるところで、老若男女関係なく賑わっている。僕達はクレープ片手に写真を撮っていた。
「響人、それ撮ってどうすんの?」
「インスタのストーリーにあげる」
「顔は隠しといてね」
響人がノリノリでスマホを構え、自撮りで3人が写った写真を撮る。
「いただきまーす!うん、上手いな」
「雅貴、一口くれない?」
「いいよ。じゃあ涼助のも一口ちょうだい」
「全然いいよ」
響人が一番ハイテンションで、僕と涼助はほどほどのテンションで楽しんでいる。
「昼飯どうする?仲見世通り行って食べ歩きする?」
「話早いよ。まだクレープ食べ始めたばっかだろ」
「響人って食欲旺盛だね」
一応金銭的には余裕がある、というか僕は使い切ったところで困らないので別にどこ行ったっていいんだけど。
「ま、運動部ですから。ましてやサッカーなんてずっと走り回ってるし。ていうか、俺が食う量が多いんじゃなくて涼助の食う量が少ないんだよ。お前早弁とかしないし」
「別に、朝飯食って朝練のあとにプロテインバー食ったら午前中は持つだろ」
「俺は持たないよ。だから朝練の後におにぎり食うし2時間目と3時間目の間に小さめの弁当食うし」
卓球部だった僕との差が大きすぎて、少し驚く。でも思い返せば、涼助は昔から早食いだけど大食いではなかったな。給食は5分あれば食べ終わってるぐらいには早かったし、カレーの日は3分で食べてたもんな。
「それでいて全然太んねえもんな〜」
「食った分動いてんだよ」
話しながらクレープを食べているけど、涼助は相槌をうちながらいつの間にか食べ終わっていた。
「涼助食い終わるのはっや」
「もっと味わえばいいのに」
「俺が早いんじゃなくて2人が遅いの。ほら、早く早く」
涼助はベンチから立ち上がり、手を叩いて僕らを急かす。
「まあ待てって。あ、次ローラーコースター乗ろうな」
響人が笑顔でそう言うと、
「「勝手に決めんな!」」
僕と涼助は今日イチの大声が出た。
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なんだろう。なんでだろう。涼助の表情がとても曇って見える。
遊園地で遊び尽くして、最寄り駅からの帰り道3人で歩きながら、僕はそれとなく涼助の表情を観察していた。僕はもう2週間ぐらい2人にはお世話になっているし、そろそろけじめを付けなきゃいけない。と言ってもあとやり残したことといえば、涼助に自分の気持ちを伝えることしかないんだけど。
「こんなに色々あったのに、涼助も響人も付き合ってくれてありがとう。やり残したことあと一個だけだし、それだけは一人で解決しなきゃいけないから。2人の手を借りるのはここまでにするよ」
立ち止まって僕がそう言うと、2人の表情が一気に寂しげになった。涼助は何も言わず唇をかみしめ、黙ってまた歩き出す。
「えー、じゃああとちょっとで佐竹に会えなくなっちゃうのか。寂しー…………涼助!!」
響人が急に大声をあげたのでびっくりして涼助の方を見ると、暴走している車が涼助に思い切りぶつかった。頭は打ってなさそうだけど、涼助が意識を失い道路に倒れる。車は止まることなく、勢いそのままにどこかへ走っていった。
「どうしよう、佐竹。とりあえず救急車?だよね?」
「うん。お願い。車のナンバー覚えたから、僕は警察呼ぶね」
それぞれスマホを取り出し、救急車や警察を呼ぶ。10分もかからず、あっという間に救急車が来た。
「どちらかお1人、付き添いをお願いできますか?」
救急隊員の人にそう言われ、僕と響人は顔を見合わせる。
「響人は、涼助の両親への連絡とか警察への説明とかお願いできる?………僕、一応死んでる身じゃん?それで涼助の両親に会うことはできないからさ」
隊員の人に聞こえないように、小声で響人に耳打ちすると、
「わかった。涼助をよろしく」
と力強く頷いてくれた。
「僕が行きます」
「わかりました。こちらに乗ってください」
死ぬ程の怪我ではないはずだけど、どうしても不安で手が震える。
「………頼むから、早く目を覚ましてよ、涼助」
僕はそう呟き、眠る涼助の手を握った。
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病院に着いて処置室に運ばれる涼助を見送り人気のないところで椅子に座ると、どこからか声が聞こえてきた。
「和泉涼助に会わせてやる。誰にも会わない所まで出てこい」
多分この声は……神様だ。どういう仕組みかはよく分からないけど、涼助に会えるのなら行くしかない。その前に、響人に挨拶をしなきゃ。連絡が来ていたから、もう病院にはいるはずだ。
「あ、いた!佐竹、あのさ……」
「ごめん、ちょっと僕涼助と話してくる」
「え?ちょっと待てどういうこと____」
振り切るような感じになってしまって申し訳ないけど、響人に心の中で謝りながら適当に廊下を歩き奥まで進む。ふわっと体が軽くなり、周りの景色が変わった。
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「涼助」
「雅貴………?」
真っ暗な闇の中独りで立っている涼助を見つけ、名前を呼ぶと不思議そうな顔で振り向いた。そして涼助は、僕に頭を下げた。
「雅貴………ごめん。あの時、助けられなくて。怖かったんだ、自分が標的にされるのが。また会えたら謝りたいって、ずっと思ってた。結局こんな結果になっちゃったけど…………俺のこと、許してくれるか?」
急にそんなことを言われて、僕は面食らった。だって、涼助がこんなに深く、後悔に苛まれてたなんて。僕なんかのことを、気にかけてくれていたなんて。
「………最初から、涼助のこと恨んだりなんてしてないよ。涼助が僕のこと助けて涼助が標的にされたら、僕にはそっちの方がしんどかったと思うよ」
僕がそう言うと涼助は、そんな訳ないだろとでも言いたげな顔をしたけど、これは本心だ。誰かが傷付くぐらいなら、僕が傷付けばいいんだと思って、いじめられていたのもずっと我慢した。
「僕のやり残したことあと一個、今ここでやってもいい?」
「………駄目だ」
不意に、涼助の声に涙の色が滲んだ。
「どうして?」
「あと1個やり終わったら、お前成仏しちゃうんだろ?………もう二度と会えなくなっちゃうんだろ?せっかくもういじめられなくなって、響人とも一緒に3人で遊べて楽しかったのに………」
涼助の声があまりに悲痛で、僕を見る目があまりにまっすぐで、気を抜くと泣きそうになる。でも、今ここで泣いちゃいけない。僕は拳を握りしめ、口を開く。
「ごめんね。でも、生きてたってずっと一緒にいられる訳じゃないんだ。どっちかが絶対、先に死ぬんだよ。そのタイミングがずれちゃっただけだよ」
高校生だろうが大学生だろうが、人なんていつ死ぬかわからない。
「ずれただけって……早すぎるんだよ!せめて、大学ぐらいは一緒に行きたかったよ………」
「涼助。この状態が、いつまでも持つ訳じゃないんだ。今の涼助は、病院のベットで管に繋がれて眠ってるんだよ。涼助のお母さんとか、響人とかがそばにいて、いつ君が目覚めるのかってずっと心配してる。涼助の目が覚めた時には、もう僕はそばにいないんだ。そばにいられないんだ。だから最後ぐらい、僕のお願いを聞いてよ、涼助」
涼助が僕に対して言葉をぶつけるのと同じくらいの必死さで、僕は涼助に言葉をぶつける。本当は、こんなことを涼助には言いたくない。僕だって成仏なんてしたくないし、一緒にいたい。
「………わかった。なあ、雅貴のやり残したことって、何?」
涼助は納得してくれたのか、一呼吸おいて僕に聞いてきた。僕は声が震えそうになるのをなんとか堪えて、口を開く。
「…涼助。僕は、君のことが好きだ」
「……………は?」
涼助の目が、大きく見開かれた。
「これを言えないまま死んだのが、僕のやり残したこと。他の人に同性愛者であることを否定されたみたいに、涼助に嫌われるのが怖かったんだ。でも今はもう、失うものなんて何も無いから」
泣きそうな気持ちと緊張を誤魔化すために、明るい声で笑顔を向ける。
「なんだよ、それ」
数秒経ち、涼助はそう言った。
「そんな事かよ、やり残したことって」
僕に背を向けた涼助は、冷たくそう言い放った。やっぱり、そう簡単に受け入れてくれなかったか。当たり前だ。
「…………うん。そんな事だよ」
僕がそう言うと、涼助の肩がなにかハッとしたように揺れた。
「最後の最後まで困らせてごめんね、涼助。バイバイ」
僕は、涼助に背を向けて歩き出した。
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顔を上げると、僕は涼助の病室にいた。
「佐竹?どうだった?」
「響人……一応話せた、けど」
「けど?」
ああそうだ、響人にも別れの挨拶をしなくちゃいけないんだ。
「僕、もう成仏するみたい」
「そう、なのか……」
「本当に色々とありがとう。元気でね。……さようなら」
「うん、じゃあな」
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「あんな終わり方で良かったのか?」
「あんな終わり方って?」
「ほぼ喧嘩別れだろあれは」
成仏……は出来ず数週間。僕は神様と一緒に涼助の高校のそばの公園でベンチに座って話していた。
「別に、僕はそう思いませんけどね。言いたいことは言えたわけだし」
「やりたいこと全部やって成仏しろとは言ったけど、あの終わり方じゃ成仏させる気にはなれねえよ」
「そういうもんですかね?」
喧嘩別れとまではいかないが、スッキリしない別れであることは確かだ。でも、生まれ変わったら涼助のことだって忘れちゃうし。
「………死の気配がする」
「はい?」
しばし沈黙が流れ、神様が急にそんなことを呟いた。
「死の気配ってなんですか?」
「もうすぐ死にそうな奴がこの辺にいるみたいなんだよな」
「へえ。怪我とか病気で?」
「いや、違う」
神様は眉間にシワを寄せて、立ち上がった。
「………自殺だな」
「こんな昼間に?」
「自殺に時間は関係ないよ。しかも、和泉涼助の学校の方からだ」
なんだと。つまり、涼助の学校の誰かってことだよな。
「行くぞ」
「あ、はい」
神様が走り出したので、僕も慌てて着いて行った。
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「涼助!?」
「あー、まさかの本人だったか」
学校に向かうと、渡り廊下のふちに涼助が立っていた。その目は虚ろで、いつもの涼助のようなエネルギーはどこにも感じられない。
「止めるか?やろうと思えばできるけど」
「でも……」
涼助が死んだら、僕はまた涼助に会える。でも、涼助が今あそこにいるのはきっと僕のせいだ。僕が、涼助を困らせるようなことを言ったから。それに、死んでから会ったってちっとも嬉しくない。どうすればいいんだ。
「あ、止める必要なかったみたい」
「えっ?」
校舎から響人が走ってきて、涼助を引っ張って手すりから距離を取らせた。肩を掴んで何かを話すと、涼助も頷いた。ああ、良かった。
「じゃあ、本当の最後の挨拶してこい」
「え、どういうことですか」
「和泉涼助への、最後の挨拶。これがマジで最後だからな。今回は、後悔しないように」
神様は僕の目をしっかり見て、そう言った。
「ありがとうございます」
「よし、いってらっしゃい」
僕は強く背中を押され、気づくと渡り廊下の上にいた。校舎へと向かう涼助の背中に
「涼助」
と声をかける。
「えっ?」
慌てて振り向いた涼助は、信じられないというような顔をしていた。
「涼助なら、僕がいなくても大丈夫だよ。見えないところからずっと応援してる。こんな事を言ったらまた君は嫌がるかもしれないけど、………涼助。僕は君が好きだから」
好き、なんて本当は言うつもりじゃ無かったけど、最後だから言ってしまった。涼助は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐ笑顔になって、
「こないだはひどいこと言ってごめん。俺もだよ、雅貴」
と言ってくれた。響人に連れていかれる涼助の後ろ姿を見ながら僕は、気づいたら大粒の涙を流していた。ありがとう、涼助。
昨年の9月頃に投稿した『ヒガンバナ』という小説の雅貴視点です。前回は響人視点と涼助視点で書きましたが、雅貴視点なので前回とは違う見方ができるかもしれません。おかげで前回のは5000文字ぐらいだったのに今回は7000文字超えました。我ながらびっくりです。
感想などあれば、ファンレターくださると嬉しいです。
解説的な?
『ヒガンバナ』と『また会う日を楽しみに』という私が書いた2つの小説の解説的な感じです。2つの小説を読んでからこちらを読んだほうがいいです絶対に。
まず、タイトルについて。
『ヒガンバナ』はお彼岸の時期のことです。9月下旬ぐらいですね。本当はご先祖様を供養するらしいのですが、彼岸(死者がいる方)と此岸(私たちがいる方)が最も近づく時期らしいので、死んだ幼なじみが戻ってくるというお話の内容に合ってるかなと思ってタイトルをつけました。
『また会う日を楽しみに』は彼岸花の花言葉です。彼岸花は色によって花言葉が色々あるらしいですが、白い彼岸花の花言葉です。『ヒガンバナ』と別視点のお話だったので、絶対に彼岸花に絡めたタイトルにしたくて、最初は『悲しき思い』というタイトルで書いていました。(『悲しき思い』というのも彼岸花の花言葉の一種です)
ですが本文を書き終わった時に、絶対これなんか違うわと思って花言葉を調べ直し、『また会う日を楽しみに』というタイトルをつけました。
成仏した雅貴が、此岸でこれからも生きる涼助に向けた言葉というイメージです。
次に、作品が生まれたきっかけとキャラクターについて。
『ヒガンバナ』のあとがきでも書いた通り、最初は演劇の台本として考えていました。(部活の発表会の演目で創作台本をやることになり、部員全員がアイデアを出す必要があった)
採用はされなかったけど、この話を絶対に無駄にはできない、ボツにはしたくないという思いがあり小説として書くことにしました。
アイデアをまとめている際、登場人物の名前にめちゃくちゃ迷いました。私はキャラの持っている力や物語と繋がりがある名前をつけるのが好きなのですが、今回のような単発のお話で、なおかつ死というテーマを扱うお話ではそのような名前の付け方はできないと思いました。かっこつけたような言い方をしていますが要するに、名前が思いつきませんでした。はい。
結局は私が通っている塾の先生の名前を借りました。もちろん下の名前だけです。名字はなんら本人と関係ありません。涼助の名前を借りた先生が私の担任の先生なのですが、その先生は高校時代ガチでサッカー部でした。そこのところはキャラを作る上で参考にさせてもらいました。
雅貴の名前を借りた先生は最近あまり会わないのですが、めっちゃくちゃ優しい先生です。一問正解しただけで褒めてくれます。雅貴のキャラ作りはその先生を参考にして、とにかく優しいキャラにしようと思って書きました。
響人の名前を借りた先生もたまに挨拶をする程度でお話しはできていないのですが、いい先生です。響人は涼助や雅貴に比べると物語に深く入ってくるキャラではないので、キャラ作りもそんなしっかりできていません。が、仲間思いでいい奴を書こうと思って書きました。その先生はめっちゃ面白いです。その先生の授業の時は恋バナになります。
最後、ストーリーについて。と言っても感覚でほいほい作ったのでそんな長々と語ることもありませんw
アイデアをまとめる時ストーリーも全然思いつかなくて、とりあえずキャラだけ作ってそこからストーリーを練っていきました。幽霊が見える涼助と幽霊と話せる響人という設定を作り、じゃあ幽霊が出てくる話にしよう、じゃあもう既に亡くなってるキャラを出そう、って感じです。ただ幽霊どうのこうのの設定は全然関係ない感じで出来上がったのでその設定いらなかったなーとは思ってます。
以上、解説というか裏話的な感じになりましたね。受験生ですがこれからも勉強の息抜きに小説は書いていくので、出したら見ていただけると嬉しいです。( ^_^)/~~~バイバイ