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目次
寄り道
国道を運転中、助手席君から話しかけられた。
「酒たばこ寄ってかね?」
私はそれをやんわりと断る。
飲酒運転で逮捕される気はないし、タバコは吸わない。
「酒たばこで飯買いてぇんすよ」
後部座席のコンビニ弁当の入ったビニール袋を黙って指差す。
助手席君は嬉しそうに袋から弁当を出し、早速食い始めた。
「酒かたばこがあればもっと旨いんだけどな」
国道がぶつかる交差点で渋滞に捕まったときには完食していた。
食ってる間は静かだったが、また酒やらたばこやら騒ぎ始めた。
「酒たばこ、この辺多いっすよね」
渋滞で遅れそうだとLINEをうっているときにも話しかけてくる。
俺の店のバイトの助手席君、酒癖が悪い。
帰りの運転のために酒を我慢してる人を見て上手そうに酒を飲むクズだと先月のドライブで知った。
渋滞を抜け出し、
「ん、あれ酒たばこかと思ったら違う店やん。あんなにロゴ似てるの著作権的にはええん?」
横目でその店を見たが何の酒のデザインに似てるか分からなかった。
30分後、目的地が近いことを伝える。
「え?マジ?俺らの反対斜線にしか酒たばこなかったんだけど?」
酒もたばこも買う気はねぇ。
《コノ先目的地周辺デス。ルート案内ヲ終リマス》
旧友達は既に到着していた。
俺達は束の間の休みにBBQを計画していた。
助手席君には一缶開けられてしまった。
《コレヨリ自宅ニ案内シマス》
半分程の距離を進み、行きと同じ場所でかなりの渋滞が起きてることをカーナビが知らせる。
「長丁場になりそうだし、酒・たばこで眠気覚まし買いましょうよ」
セブンイレブンを指差している。
???
「お前、酒・たばこってセブンのことかよ」
セブンイレブンのデカ看板ロゴの下には[酒・たばこ]と書かれていた。
《ありがとうございましたー》
コーヒーとおにぎりを買った。
車に乗ると助手席君はグローブボックスを漁り、タバコの箱を手に取った。
「この前のドライブのときのへそくり」
窓を開けずに吸い始めたので車から降ろされかけた。
夜の8時。セブンイレブンのロゴが光っていた。
満月だった。
2人は3ヶ月後またドライブすることになる。
そのときセブンイレブンと呼ぶように矯正させたところ、行きも帰りも愛車を擦ってしまう。
助手席君にやっぱり酒・たばこの呼び方に戻すよう頼んだ。
今ではATMと読んでいる。
余暇、満月、渋滞予報
風鈴町奇譚
遊民がいた。
故郷を飛び出し全国を遊び歩いていた。
ある日、和風な風鈴町という街に来た。
名産は風鈴、提灯の様にあちこち下がっている。
遊民はその町と、そこに住む1人の鈴師―この町での風鈴職人の呼び名―に惚れた。
遊民は一度この町に腰を降ろし、1年程住んだ。
そして鈴師の家を特定した。
一月後偶然を装い再会し、お付き合いからでもと告った。
鈴師の家に赤子がいたときは心臓が止まるかと思ったが、聞けば未亡人だという。
鈴師は告白に驚いたものの承諾した。
3年後、遊民は決意を決めた。
結婚を切り出そう。
この町に来て4年目。
遊民が同じ場所にこんなに留まり続けたのは初めてだった。
レストランの食後、プロポーズをしようとした。
と、赤子が泣き始めた。
周りの席の人も慌てて駆け付けてくれた。
遊民だけがその場から動けなかった。
その後気不味くなって婚約を切り出せなかった。
遊民は精神的に疲弊し二月程入院した。
退院後、直ぐに鈴師を訪れ元通りの仲になるよう努めた。
四ヶ月後、また遊民は心を決めた。
何があろうと婚約を切り出す。
そしてプロポーズの瞬間、また赤子が泣いたのだ。
さっきまで寝ていたのに。
前と同じだ。
遊民は絶望というより復讐心に燃えていた。
あの赤子さえいなければ今頃…
夜、遊民は鈴師の家に行った。
鍵のかかっていない扉を開け、寝ている赤子を拉致した。
家を出るとき軒の風鈴を鳴らしてしまった。
が、鈴師は起きなかった。
近くの川辺で赤子を見て思う。
俺は四年も鈴師を想っていたのに…!
四年?
そうだ。この赤子に会ったのも四年前、ということはこいつは四歳以上...
四歳っていうと自分で歩けるし言葉も喋れる…
こいつ、本当に人間か?
ふっと顔を上げると鈴師がいた。
子が人外なら親だって…
呟きながら歩いてくる。
「…子、降ろせ、降ろせ…」
声が聞こえた瞬間遊民は赤子を放り出し全速力で逃げた。
鈴師は遊民の侵入に気付いていた。
風鈴の音を聞き、確信した。
狸寝入りを続けた後、尾行した。
現行犯を抑える算段だ。
遊民は川辺に着くと震えだした。
気付かれたと思い、遊民の前に姿を現す。
その子は捨て子で、何年も私が育ててきた。
その子は人間じゃないかもしれない、でも、だからこそ…
私を苦しませないで。
その子から解放して。
震える声で、頼む。
その子、落とせ、殺せ
夏の夜長
ある、満月の日のことだった。
唐突に外に飛び出したくなった。
親友のあいつも同じ気持ちだったようで、
玄関の前で待っていてくれた。
日は既に沈んでいたがアスファルトから照り返しを感じる。
祭の屋台は解体中。
靴紐が解けていることに気付く。
夏の夜は短いけど、どこまで征けるだろう。
祭の跡を過ぎると、橋を渡る。
もう俺達が住んでる町から出てしまう。
水面には満月が写っていた。
写った物も満月なのだろうか。
いつも通り俺が話し役に、
あいつは聞き役に。
もっと遠くへ行こうぜ。
道をずっと真っ直ぐに進んでさ、
突き当りで漸く曲がるのさ。
あいつは頷いてくれた。
電車の駅が見えた。
勿論乗らなかった。
いつかこの駅も無人になるのだろうか。
あいつは自販機でジュースを買った。
お釣りの80円を見たのは何回目だろう。
この夏で何回目だろう。
線路沿いを真っ直ぐ進む。
この線路は途中で左に迂回する。
そう考えると少し悲しくなった。
次の電車の駅が見えた。
別の路線も通る大きい駅だ。
向かいのホームに渡る歩道橋があった。
上から電車を見るためにある物だと思っていた。
俺達の町を通る路線はまだ真っ直ぐ伸びている。
何故だか嬉しい。
街の灯りが近付いてくる。
俺達が近付いているんだ。
見上げると月も同じ様に付いて来てくれた。
街の雑踏に懐かしさを感じた。
あいつの声が聞こえたから振り返ったけど、声の似た別人だった。
あいつはスマホを弄ってた。
いつ入手していたのだろう。
後でLINEを交換しよう。
街を抜けた。
呆気なかった。
この一夜も過去になれば呆気なくなるのかもしれない。
側を沿う線路はゆっくりと離れていく。
俺達が真っ直ぐ進んできた道も、ここで左右に別れていた。
俺は左に進もうと言った。
あいつは深く頷いた。
と、風が吹いた。
温い風だ。
俺はその中に鈴の音を聞いた。
何故だろう。
周りに風鈴なんてないのに。
雲が月をゆっくりと隠すのが見えた。
半分位隠れたところであいつはスマホのライトを点けた。
今度は強い風が吹いた。
一斉に鳴る風鈴の音が聞こえる。
雲が月を完全に隠してしまう。
雨が降るかもしれない。
そろそろ帰ろう。
風が吹き終わって響く風鈴の余韻に、掠れる様な声を聞いた。
その声の主の方へ振り向く。
誰もいない道で気付く。
あいつもいないことに。
想い出、誘蛾灯、盆招き
行間には化け物が潜んでいる。
皆様、本日はお集まり頂き、誠に有難う御座います。
只今より作家先生の新作、「852字の物語」の朗読会を開会致します。
スマートホン、その他音を発する恐れのある機器の電源を切り、今暫く静かにお待ち下さい。
ブザーが鳴り、幕が上がる。
朗読者が椅子に座っていた。
「
」
幕が閉じる。
敬具、謹言、草草
後書き
「寄り道」は勢いで書いた作品。言う事はない。
「行間には化け物が潜んでいる。」は行数までカウントするとどれも1000字で書かれている小説。他の小説も1000字になってるはず。空白の部分を読んでいるときの感想が、この小説の内容。
「夏の夜長」は色々考察できそうな感じにした。一応正解は主人公が死んでいるってことにしている。
「風鈴町奇譚」はホラーを書こうとしている。ホラー風ファンタジーから抜け出せてない作品。
この四作品は風鈴町から地図を広げていって書いた。風鈴町自体は架空の町でモデルも特にない。