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目次
Prologue ‥
___その世界は滅びかけていた。
国同士の戦争は長く続き、多くの死傷者が出た。
その戦争も終わり、世界には再び平和が訪れた。
また恐ろしい事が始まるまでは。
とある街の少女が事の始まりとなった。
少女の体は謎の生き物に寄生されていた。
人格は支配され、人を傷つける存在となった。
その国にそんなバケモノは存在しなかった。
皆他国との戦争中に持ち込まれた物だと考えた。
元凶の国として最も疑われたその国は、バケモノを欲しがった。
とある国はバケモノを消したがっていた。
とある国はバケモノを研究したかった。
国の考え方が違う事で、また戦争が起きる。
青年は戦争が始まるまでに解決したいと願った。
青年はバケモノから人を守る為の組織を作った。
組織は次第に国からも認められるようになった。
そんな青年は一人の少女に出会う。
青年はバケモノを消したがっている。
少女はバケモノを救いたがっている。
二人の願いは別々だった。
過去の記憶を失った青年と、不思議な少女。
戦争まで彼らはどう生きるのか。
これは、とある組織を中心とした物語___。
アイディアを書いただけなのでキャラ募集するとか小説として書くかまだ決めてません(
1.バケモノ
その部屋には二人の男女が向かい合わせに座っていた。二人とも真剣な表情だ。
「‥と言うわけでして‥」
「なるほど‥夜普通の犬の鳴き声ではなく、《《ヴィス》》に寄生されたような鳴き声が聞こえる、と言うわけですね‥」
ヴィスと言うのは最近戦争によって持ち込まれたとされるバケモノの事だ。生き物全てに寄生することができ、安全な対処法が見つかっていない。
「あの‥どうにか出来ますか?」
女性は不安そうな目で彼を見つめた。
「‥えぇ、解決できるよう努力致します。」
「ありがとうございます‥!」
深々と頭を下げて女性は外へ出て行った。
「‥《《アレル》》くん、紅茶が欲しいな〜‥なんて」
アレルと呼ばれた少女は奥から紅茶のカップを持ってきて青年の前に置いた。
「用意してあります。」
「流石だね〜」
青年はケラケラと笑って紅茶を一口飲む。
「‥《《シェリア》》さんが自分で用意していいんですよ?」
「やだよ面倒くさい」
シェリアと呼ばれた青年は即答した。
「面倒くさい事人にやらせるとか終わってる」
「まぁね〜」
気にしない様子で紅茶を飲み続けるシェリア、呆れた様子で資料の整理を始めるアレル。
資料にはこの事務所メンバーの個人情報、依頼の内容整理、ヴィスの情報や対処方法などがある。
「‥日が沈んできたね。」
そう言われてアレルが顔をあげ窓を見ると、空は夕焼け色に染まっていた。もう少ししたら完全に日が沈み、夜へと変わるだろう。
「そろそろヴィスが動き出してしまう。」
シェリアは先程までののんびりとした口調や雰囲気は何処に行ったんだと思うほどに真剣で、また冷たい声でそう言った。
「‥じゃあ、準備しますか?」
「そうだね、被害報告も増えてきてるし早いところ片付けちゃおう。」
シェリアは飲み干した紅茶のカップを片し、上着を羽織る。窓やカーテンを閉め、玄関以外に戸締りしていない場所がないか確認してから電気を消す。これはヴィスが事務所内に侵入することを防ぐ為である。
玄関扉を開ける。外は部屋の中より少し肌寒く、風が吹いていた。夜空には星が淡く輝き、建物には明かりがつく。
シェリアとアレルは階段を降り、横断歩道を渡る。先程相談された場所へと歩いていく。
遠く歩いた場所にある路地裏へと入り込み、奥へ奥へと進んで行った。ヴィスに呪われた犬を探す為に二手に分かれる事になり、シェリアはもっと奥まで進んで行った。
--- ♢ Alelu side ♢ ---
「‥犬か。」
月明かりだけが灯る路地裏で、暗闇に慣れた目を頼りに歩く。犬種も大きさも知らないのに探すのは凄く大変なのでは?とシェリアさんと別れてから気付いた。
「グァン」
壊れた犬のオモチャのような声が響き、後ろを振り返ると、そこに恐らく犬がいた。
それを犬と言うには形がおかしく、ヴィスに寄生されてもう体はヴィスのものとなっているだろう。自我が残っていないはず。
ピピッ
シェリアさんに電話をかけ、こちらに来てもらうようにする。
「‥もしもし、ヴィスに寄生された犬らしきものを見つけました。」
『早いね〜、流石アレルくん。わかった、今行くね。何処にいる?』
「今は‥何処でしょう?」
『本当に方向音痴だねアレルくん。』
「あ、月がビルの間から綺麗に見えます。」
『んー‥大体の場所はわかった。探し回るからちょっと耐えててね。』
流石シェリアさん。少し見直しました。
「グガァンン¿?」
「‥」
犬の首と体が皮一枚で繋がっているような状態になってしまった。完全に離れたらそこからヴィスが現れるだろう。そうなっては対応が困難になる。
シェリアさんが来るまで私が何か刺激を与えてしまうと確実にヴィスが出てくる。音を立てないように少しずつ後ろに下がる事にした。
ガコン‥カラカラカラ‥
空き缶が足元にあった事に気付かず蹴ってしまった。音が路地に響き、ヴィス犬がゆっくりとこちらを振り返った。
「ひっ‥」
この状況で落ち着けるわけがない。シェリアさんはまだ来ないし、私の逃げ場はないし、ヴィス犬にはバレるし、落ち着いてなんか居られない。
「グルルルルルル⁇」
光のない真っ黒な目で私を見る。私は資料に書いてあった事を思い出す。
【ヴィスに寄生されたもの、もしくはヴィスの視界に入ってしまったら生きて帰る事は不可能。】
思い出してしまった瞬間、ヴィス犬の頭が落ちた。中から赤黒い何かがゆっくりと絶望を与えるように出てくる。私を逃さないというようにヴィスが私の方に伸びてきて、私の腕を掴もうとした瞬間だった。
--- 『ℐ𝓇ℴ𝓃 𝓉𝓎𝓅ℯ𝑔𝒶𝓃』 ---
銃弾がヴィスを通り抜け、反対側の壁に当たる。私に寄生しようとしていたヴィスは引っ込んでいった。
今の私はヴィスより気になる事があった。今の声の主だ。
「‥シェリアさん‥?」
ゆっくりと後ろを振り向き、建物の屋上を見つめるとそこに人が居た。ふわりと上着が舞い、静かに地面に降り立つその姿はまるで天使だ。
「ごめん、遅れちゃった。」
そういい申し訳なさそうに微笑む姿は聖母のよう。彼の性別は男だけれど。
「今回のヴィスは結構気付くの遅れちゃった感じかな。新たな寄生先を探している。」
「どうしますか?」
「うーん‥《《パリス》》が来るのを待っ___」
「ギギリリリァァァ」
「___ってる時間はなさそうだね!!」
グチャグチャのヴィスが私達に襲いかかってくる。シェリアさんはパリスを呼ぶためのスマホを仕舞い、代わりに手鏡を取り出した。
--- 「特待能力 |𝒯𝒽ℯ 𝒹ℯ𝒶𝒹 𝓁𝒶𝓊𝑔𝒽《死人は笑う》」 ---
ヴィスに鏡を向けながらその言葉を唱えれば鏡が光り、ヴィスが吸い込まれていった。鏡の光が消える瞬間、私はその鏡の向こう側が見えた。そこに映るのは裏路地ではなく、綺麗な花が咲き誇る暗い場所だった。
「‥一件落着だね!」
シェリアさんは鏡を仕舞いながら元の明るいテンションで話す。
「あの‥さっきのなんですか。」
「あぁ、アレルくんは今のが初めての依頼だったっけ?」
「‥まぁ、ヴィス関連のは初めてです。」
「だったら驚くのも当たり前か!」
シェリアさんは納得と言いたげな顔で私を見る。初めての任務がどうかも覚えてないのは少し驚いたけど。
「まずヴィスに寄生されたモノは基本助からない。寄生されたばかりならまだ助かるかもだけど、時間が経っていれば絶対に助からない。これはわかってるよね?」
「えぇ、資料で見ました。」
「よかったよかった。で、さっきのは完全に寄生されててどう頑張っても助けれない状態だった。中から本体出てきちゃったしね。」
「赤黒い何か‥やっぱりあれがヴィスの本体なんですね。」
「うん。で‥鏡の話に飛んじゃっていいかな?」
「はい、それが一番気になります。」
「さっきの鏡は僕が昔から持っていた鏡だよ。鏡とさっきの呪文が書かれた紙を一緒に持っていたんだ。紙にはその呪文を唱えながら鏡をヴィスに向けるとヴィスが消える、とも書いてあってね。」
「‥」
「あ、呪文を使わなければ普段使いできる手鏡だから安心してね!?」
シェリアさんは雰囲気ぶち壊しの天才かもしれない。悪い意味で本当に天才だ。
「この鏡の向こう側がどんな世界か、ヴィスは何処へ消えたのか、何故ヴィスを吸い込めるのか、謎は沢山あるのにどれも答えが分からない。」
そう話すシェリアさんの表情はさっきとは違い、悲しそうだけど笑っていて、怒っていそうだけど苦しそうで‥よく分からない表情をしていた。
--- ♢ No side ♢ ---
「鏡の事は紙に書かれていたこと以外何もわからないんだ。おかしいね、昔から持っていたのに記憶がない。」
「‥鏡の事がわからないのなら、これから知っていけばいいじゃないですか。」
「‥それも、そうだね。考えてなかったよ、そんな簡単な事さえも。」
その瞳に影がさす。口元は笑っているのに目が笑っていない。寂しそうな瞳を地面に向け、彼は笑う。
「‥帰りましょ、私食べたいものがあるんです!」
「えぇ‥?まさか僕の奢りとか言わないよね?」
「よくわかりましたね。」
「当てたくなかったよ。」
事務所に居たときのようにのんびりとした会話をテンポよく続ける二人。そこに先程までの雰囲気はなかった。
ヴィスによる恐怖がこの国を支配している。
そんなヴィスの依頼を受け付けている事務所。
信頼度はピカイチ。解決速度もピカイチ。
これは、とある国のとある事務所・《《リュネット》》の物語。
用語一覧 (追加あり
話が進めばどんどん増やしていきます。
・ヴィス
戦争によって他国から持ち込まれたとされるバケモノ。寄生されれば死からは逃れられない。
人間に寄生したり動物に寄生したり、生き物なら何にでも寄生できる。
・パリス
ヴィスをこの世から消そうと働く組織。リュネットと同盟関係にある。
・リュネット
主人公・アレルが働くヴィスによる被害依頼を受け付けている組織。ヴィス以外の依頼も受けている事務所。
・ルーヴ
リュネットやパリスと敵対関係にある別国の組織。ヴィスを手に入れ研究に使おうとしている。
・ℐ𝓇ℴ𝓃 𝓉𝓎𝓅ℯ𝑔𝒶𝓃
シェリアの能力名。鉄のタイプを変えて攻撃手段にも防御手段にも使える。
・特待能力 𝒯𝒽ℯ 𝒹ℯ𝒶𝒹 𝓁𝒶𝓊𝑔𝒽
シェリアの手鏡で別世界とこの世界をつなぐ呪文。シェリアが唱えた時だけ手鏡が反応する。
・ℛℯ𝓁𝒾ℯ𝒻
レルヴィに寄生しているヴィスが唱えた呪文。
そのまんま、人に寄生することができる能力。
・𝒮𝓅𝒾𝓇𝒾𝓉 (New)
メルマイユの王子・ルミエールが使う呪文。
精霊を呼び出して扱う事ができる。銃や剣などの武器・バリアなど使い方は何百通り。
・リーヴァ
この世界の名前。
「地球」みたいなモノ。
・メルマイユ
南の国。
リュネットがある。
・ヘルーマ
東のリーヴァと同盟関係にある国。
パリスがある。
・ミレイヤ
西のメルマイユと敵対関係にある国。
ルーヴがある。
・セラメデス
北のメルマイユと敵対関係にある国。
最強・最恐の国。不明な点が多い。
・トワイライト
セラメデスにいる、とある一族の名前。
夕暮れ時だけ力が二倍になり、この世界を滅ぼす力を持っていると噂がある。
・聖祭 (New)
聖祭とは、他国から沢山の人が集まって“神”からこの世界の運命を聞く儀式の事。神からそれを直接聞くのではなく、“神の声を聞く少女”を通してその言葉を聞く。
2.秘密と呪文
--- ♢ No side ♢ ---
「冗談さておき、晩御飯どうしようか?」
「そうですね‥事務所の冷蔵庫に何か残ってましたっけ?」
「残ってなかったと思うな‥最後買い出しに行ったの二週間前とかだから。」
「じゃあ今日何か食べて帰って、冷蔵庫に残ってたらまた明日食べましょうか。」
「そだね〜!」
歩幅の違う足音がコツコツと路地に響く。
その後ろに二人とは違う三つ目の足音がなっている事に、二人は気づいているのだろうか。
「何がいいかな〜‥麺、米、パン‥いや、パンはないか。だったら麺か米なんだけど‥シェリアさんはどちらがいいですか?」
「僕はどっちでも構わないんだけど‥君は何が食べたい?《《レルヴィ》》。」
シェリアが後ろを振り向くと後ろを歩く足音が止まり、月明かりがほんのりその正体を照らしていった。
「‥」
そこにいたのは目が真っ黒で白髪の少女だった。
「えぇ!?レルヴィさんいたんですか!?」
「アレルくん失礼だよ(笑」
「‥貴方達が、事務所へ帰るところあたりから後ろにいた。」
「え”」
アレルが驚いた顔をして青ざめていく。シェリアはその様子を見て笑っているが、思い出したかのように話し始める。
「僕は気づいてたけどね〜!足音は静かだったからあんま聞こえなかったけど、やっぱり気配があったからね!」
「‥私に気づかない、アレルが普通だから、安心して。」
「よ、よかったです‥?」
「で、レルヴィは夜ご飯何がいい?」
話の切り替えが雑なシェリア。いつもの事なので誰もそれを指摘しない。
「‥私は、ラーメンがいい。」
「ラーメンですか?結構重いの選んできますね‥明日顔浮腫まないかな‥」
「‥どんなでも、アレルは可愛い。」
「え、本当ですか?嬉しいです!!」
さっきの落ち込んだ顔から嬉しいと顔全体に書いているような表情となった。彼女は感情がわかりやすい。
「‥私、味噌ラーメン。」
「じゃあ私は‥醤油ラーメンで!」
「なら僕は塩ラーメン‥って、これもしかして僕が払う流れなの!?奢り!?」
「‥貴方が、一番年上。」
「私、いつも紅茶入れてあげてます。」
「‥しょうがないな奢ってあげるよ!!」
「やったー!」
「‥あそこ、美味しい店、だよ。」
「本当?じゃああそこにしようか。」
「‥あ、」
「?どうかしましたかレルヴィさん?」
「‥私、お店行けない。」
「どうして‥って、あぁ!」
何かに気付き納得した様子だ。
「そうだったね‥外食は無理だった‥じゃあ、持ち帰りで頼もうか。」
「‥ごめん。」
「気にしないでください!シェリアさんの奢りなので!」
「僕のお財布事情は気にして欲しいけどね(泣」
「‥帰ったら、何か作ってあげる。」
「レルヴィさんの手料理ですか!?凄く楽しみです!私レルヴィさんのオムライスが大好きなんです!」
「‥卵、あるの?」
「ん〜‥多分あると思うけど、人数分あるかな?って問題がある。」
「なかったらジャン負けが買い出しで!」
「ねぇ待って僕また負けるんだけどそれ!!」
冷蔵庫に何があったか、あれはまだ残っていたのか話しながら彼らは事務所へと歩いて行った。
♢
--- ♢ Shelia side ♢ ---
「もう0時‥すっかり夜中だ。」
壁にかけられた時計を見ながらそう呟く。出て行ったのは確か10時くらいだから二時間ほどあっちの方にいた事になる。テンポよく進めたはずなんだけど、やっぱり少し手間取っちゃったな。
「‥皆、もう寝てる。」
「そりゃ0時ですから。いい子は寝てる時間だよ〜!」
「夜ご飯食べたらお風呂入って私達も寝ましょうか。ささ、ご飯食べましょ!」
レルヴィがキッチンへと姿を消し、冷蔵庫を開ける音がしたすぐ後の話だ。
「‥卵、ないよ。」
「え?」
アレルくんが凄い速さでレルヴィを見ていた。振り返るの早すぎて面白い。そんなにオムライス食べたかったんだ。
「‥買いに、行く?」
「‥‥‥いえ、大丈夫です。」
アレルくんは凄く悔しそうな顔をしてそう言った。今度オムライスの材料を揃えといてあげようと思う。流石になんか申し訳ない。
「僕は夜ご飯抜こっかな。明日の朝ごはんしっかり食べることにするよ!」
「‥大丈、夫?」
「ん?大丈夫に決まってるじゃないか!少し疲れてるようでね‥早めに寝たいんだ。」
「‥分かりました、おやすみなさい。」
「うん、おやすみ。」
リビングの扉を開けて自室への廊下を歩く。皆を起こさないように足音を立てず、静かに。
ふわりふわりと上着が舞う。その姿はまるで水中を泳ぐ海月のよう。シャラリシャラリと音を立てるピアスは鈴の音だ。
自室の扉をゆっくりと開けて中へ入る。上着を上着掛けへと掛け、ベットの上に座り込む。ギシリと骨組みの軋む音が聞こえた。
手鏡を手に持ち、見つめる。そこに映るのは虚ろな目をした僕だけ。何度覗き込んでもその先の世界は見えなかった。
「‥ 特待能力 𝒯𝒽ℯ 𝒹ℯ𝒶𝒹 𝓁𝒶𝓊𝑔𝒽 。」
そう唱えれば光り輝き、別世界を映し出す鏡。
その世界は此方とは違い、暗い花園が広がっている。中に入ればもっと見れるのだろうけど、ヴィスでもない普通の人間が入って簡単に出られる場所ではない。
ヴィスを彼方の世界へ連れ込む呪文を唱えてから時間が経ってもヴィスの姿を認識できなかった鏡は輝きを失い、普通の鏡へと戻った。そして気の抜けた僕の顔が映る。
目覚めた時に鏡と共に握っていた手紙に書かれていた呪文。謎の言語で書かれていたそれを僕は何故かスラスラと読めた。きっと過去の記憶が関係してるのだろう。
「‥はぁ」
力を抜いて後ろに倒れる。真っ白な天井を見つめ、襲ってくる睡魔に抵抗せずに瞼を閉じた。
【行き過ぎた愛は世界を壊す‥ならばいっそ、世界を壊してしまうほどの愛を貴方に___】
--- 【 𝒹𝒾𝓈𝓉ℴ𝓇𝓉ℯ𝒹 】 ---
意識が完全に落ちる前にいつも聞こえる呪文。
頬を撫でられるような感覚を感じながら、僕は意識を闇の中へと落とした。
3.日常
コンコンコンと、扉を叩く控えめな音が聞こえる。今さっきまで何の夢を見てたか忘れてしまった。思い出そうとすると記憶がぐちゃぐちゃになる。僕はそんなに記憶力がないのか。
「‥はい?」
扉の向こうにあるであろう人に声をかける。
「あ、アレルです!」
「どうしたのアレルくん。今‥2時だよ?」
「それが‥シェリアさんは夜ご飯を食べてなかったですよね。やっぱり何か食べなきゃだと思うんです!だからですね、あの‥」
「焦らなくていいよ〜!」
「あ‥えっと、だから今からでも一緒にご飯どうですか?って聞きに来まして‥」
確かに寝る前は腹が減っていなかった。だが今は少し‥いや、かなり減っているような気がする。昼に食べたきりだったからだろう。
「うん、今行くね!」
「ま、待ってます!」
廊下を軽く走る音が遠ざかっていき、扉の前からアレルくんがいなくなった事を認識した後準備を始めた。取り敢えずシャツを脱ぎ、部屋着(と言うらしい)を着る。その後は髪を軽く梳かして外へ出た。廊下は暖房がついていなく、しかも夜中なのでとても寒い。上着を持ってくればよかったと少しだけ‥とても思った。
リビングの扉を開ければ空腹を煽るような香り。この香りに覚えがあったがなんだったか‥
「‥ラーメン?」
「‥正解、その通り。」
レルヴィがキッチンから三つ目のラーメンを持ってきて机の上にそっと置いた。
「さぁさ、シェリアさんも食べましょう!」
アレルくんが待ちきれないと言うような表情で席に座っていた。レルヴィも同じように席は座ったので、僕も座ることにした。
皆普段の手間のかかった服とは違い、ラフな服を着ていて少し珍しい。夜に集まる事はあまりないからだろう。
「いただきまーす! / ‥いただき、ます。」
テンションの違う挨拶が聞こえた後、僕もワンテンポ遅れて食べ始める。
「いただきます。」
湯気が出ていて今出来上がったばかりのようだ。麺を一口食べてみると、麺がモチモチで味もしっかりついていて美味しかった。
「これは何処のラーメンかな?」
「‥インスタント、ラーメン。」
「ゴフッ‥インスタントラーメン!?」
驚いたせいで謎に吹き出してしまった。インスタントラーメンって初めて食べるな‥記憶にある中だと。
「美味しいですよね、ラーメン!私も結構好きです!」
「うん、美味しい‥!夜中にラーメンは駄目な事感があるな‥」
ズルズルと麺を啜る音だけが常夜灯の部屋にあり、喋り声は段々となくなっていった。
「‥ご馳走様でした!」
アレルくんのお皿はいつの間にか空っぽになっており、満足と言いたげな顔をしていた。
「‥ご馳走、様でした。」
レルヴィのお皿の中も空っぽ。
‥ん?
「待って食べ終わってないの僕だけ!?」
焦る、焦るよ。だって一番腹減ってそうなのに食べ終わってないだなんて!!一人残ってるなんて!!なんか嫌じゃん!!
「‥焦る必要、ない。」
「|ふぇほふぁんふぁふぃふぁふぁん!!《でもなんか嫌じゃん!!》」
「食べ終わってから喋ってください!!」
アレルくんに怒られてしまった。
「だってゴホッ‥う゛ゲホッ‥」
慌てて一気に沢山口に入れたら変なところに麺が入った。苦しい‥
「‥馬鹿?」
「ゴホッ‥それ失礼だからねレルヴィ!!」
やっとの思いで(?完食した。美味しいけど最後の方あんま味わかんなかったな。
「‥また、こうやって夜にラーメン食べたいですね。」
「‥その時は、また作ってあげる。」
「やった〜!!」
「ふふっ‥アレルくんってば、そんなに美味しかったの?」
「いえ!いや、美味しかったのは本当なんですけど、‥この世界じゃ、明日なんて当たり前に来るものじゃないから、って言うかなんと言うか‥こう言う日常的なの嬉しいなぁって。」
その言葉に段々と勢いが無くなっていき、表情も暗くなっていった。ヴィスにいつ寄生されるかわからない職業の為、明日がそう簡単に訪れるものではない事を皆知っている。
「まぁ‥僕らが日常を送るって難しいよね。」
皆分からない事だらけだしさ。
そう言うと二人が僕を見つめた。「貴方のことも何も知らない」と言いたげな瞳だ。
僕も知らない事を二人が知ってるわけがないことはわかっているはずだが、それでも聞きたいのだろう。記憶がなくなった理由も、24より過去の話は本当に何も覚えてないのだ。
「そんな目しないでよ‥しょうがないじゃないか、何もわからないんだから。」
分かってたらこんな組織作ってないよ。
「‥私、早めに寝る。‥おやすみ。」
「あ‥お、おやすみなさい!」
「‥おやすみ、また明日。」
「‥」
「‥僕、食器片しとくからアレルくん寝てていいよ!」
「え、で、でも‥」
「僕、さっき寝ちゃってたからあんま眠くないんだ〜‥って事で、一睡もしてないアレルくんは早めに寝てください!」
「‥分かりました。おやすみなさい!」
アレルくんが扉を閉めると、暗い部屋に一人きりになる。孤独だ。
‥記憶を全てを思い出す方法は一つだけある。けれど、代償が必要だから避けてる。まだ代償を払うには早すぎる気がした。
ただ、この日々を手放したくないだけなんだ。
その為ならこの手を汚す事だって躊躇わない。
人を騙す事に、何の感情も湧かない。
食器を洗いながら、取り戻した記憶の中に良くない事があったらどうするのかを考えてみる。
そのまま伝えるのか、伏せておくのか。
出来るだけ皆を傷つけない方を選びたいな。
明日もまた、皆と笑い合って過ごせるかな。
明日もまた、日常を過ごしていられるのかな。
番外編 クッキングタイム
※本編とは関係ないのんびり回です。
こんにちわ、シェリア・ヴィクトリアです。
突然ですが今僕はキッチンに立っています。
理由ですか?
そんなの腹が減ったかr‥日頃のお礼として皆にお昼ご飯を作ってあげようと思ったからですよ。
まぁまず料理なんてあんましない人間なので(昔は出来てたかもしれないけど記憶にございません)、簡単に作れるオムライスでも作ろうと思います。失敗したら無かった事にします。
「てか材料あったかな‥あれ、卵がない」
♢
グタグタ始まりましたが、卵を買ってきました。
しかもちょっとお高めなやつ。失敗は許されない、成功したら感謝して欲しい。
まず材料は、
・ごはん 200g
・玉ねぎ 1/4個
・ピーマン 1/2個
・ソーセージ 1本
・有塩バター 5g
・ケチャップ 大さじ1
・卵 (Mサイズ) 2個
・(A)牛乳 大さじ1
・(A)塩こしょう 少々
・サラダ油 大さじ1
・ケチャップ 大さじ1
‥らしい。
早速成功するか怪しくなってきたぞ〜!?
てか有塩バターって何?無塩バターもあるの?
ピーマンいらないよ!!誰が食べるんだよ!!
サラダ油って何!?普通の油じゃ駄目なの!?
なんにも意味がわからないよ!!
‥失礼、取り乱しました。
取り敢えずレシピ通り作れば問題ないはず。
さぁて心配だらけのクッキング始まるよ〜☆
♢
1.玉ねぎ、ピーマンはみじん切りにします。ソーセージは小口切りにします。
“小口切り”
‥
なにそれ。一口サイズってこと?
「まぁなんとかなるよね!!」
2.中火で熱したフライパンに有塩バターを溶かし、1を加えて炒めます。
有塩バターはこれだけでいいのかな?
1ってなに?‥あ、さっきのか。
「炒めるって何?火にかけとけば炒めてる?」
3.ケチャップライスを作ります。 玉ねぎがしんなりしたらごはんを入れて中火で炒め、ケチャップを加えて炒め合わせ、全体に味がなじんだら火から下ろします。
“しんなり”
だから何それ!?しんなりってどんくらいのことを言ってるの!?これ正解!?
“全体に味がなじんできたら”
それって目で見てわかるもの!?色が混ざったらってことでいいのかなぁ!?
「ケチャップってどんくらい出せばいいの!?」
4.ボウルに卵、(A)を入れて、フォークで卵をときほぐしながら混ぜます。
“(A)”
「何これ!?」
材料の欄にそんなのあった!?てか作った!?
“(A)牛乳 ‥ (A)塩こしょう ‥”
もしかしなくてもこれ!?わかりづらい書き方しないでよ!!(
フォークでほぐすってなにさ!!ほぐすってどれが正解なの!?グチャってやるのが正解!?
5.中火で熱したフライパンにサラダ油をひき、4を入れて手早く混ぜ、半熟状になったら火から下ろします。
「もうわかんないよ!!」
手早く混ぜるって難しくないかな!?そんな早く手は動かないよ!!
半熟って何さ!?見てわかるのそれ!?もう熟してるよ!!
6.器に3、5を盛り付け、ケチャップをかけて完成です。
「んー‥つまり完成って事?」
なんやかんやあったけどやっと完成かな‥
‥待ってこれ一人分しか作ってないの!?
え、先に言ってよ!!(先に書いてました)
「嘘だろ‥」
成人男性、キッチンで絶望中。
♢
「おかえり皆!!」
「ただい‥オムライス?」
「そう、その通りだよ!!」
レルヴィってば流石!!
「‥ケチャップのは、ヴィス?」
「猫です!!」
レルヴィってば酷い!!
「シェリアさんが料理してるの初めて見ました‥」
「うーん、アレルくんそれは失礼!!」
泣いちゃうよ僕!!
「でも事実じゃないですか。」
図星すぎて何も言えない!!
「おかしいな‥『わ〜✨流石ですシェリアさん!』とか『‥美味しそう、凄い』って反応を期待してたんですけど!!」
「いやいや、流石とか思いませんよ。」
「‥やっと、動いたって感じ。」
「二人とも辛辣!!ちょっとは褒めてよ!!」
「わぁ〜凄いですシェリアさん!」
「なんか嘘言ってるの分かってるのに凄い嬉しくなった。ありがとう(泣」
「そんな泣くほど嬉しい事ですかね‥?」
「そりゃそうだよ!!材料無かったりレシピの意味がわからなかったり全員分だと思ってたら一人分しか作ってなかったりハプニングだらけだったんだから!!」
本当よく完成させたな僕!!すごすぎる!!
「‥まぁ、美味しそう。」
「さぁさ食べて!!他の皆が帰って来る前に食べ終わって感想教えて!!」
「ちょっと待ってください先に手洗いです!!」
「それもそうだね!?」
♢
いやー、問題点しかないなこの組織!!
アレルくんはオムライス睨みすぎ!!異物混入はしてないから安心して欲しいな!!
お、優しいレルヴィはスプーンを手に取った!!
「‥いただき、ます。」
「召し上がれ!!味わえ!!」
「‥おい、しい。絵を気にしなければ、普通のオムライス。」
「絵が壊滅的ですよね〜‥私のなんて何描いてるかわからないですし。鯨?」
「残念イルカです!!」
「イルカですかねこれ!?」
どっからどう見てもイルカの筈なんだけどな‥
「まぁ、取り敢えずいただきます!‥ん、意外に美味しい!」
「やった!一言余計だけど嬉しい!!」
「にしても、なんで急に料理なんて‥」
「ん?そんなの僕の腹が減ったついでに決まってるじゃないか!」
「‥え?」
「は?」
「あ」
↓使ったオムライスレシピサイト↓
https://www.kurashiru.com/recipes/2952479a-81cc-4ed8-acc5-45a7cf4c8ea5?source=yahoo&search_index=2&bucket=control
シェリアさんの心の声で「○○ってなんだよ!!」って言ってるやつは俺自身が思ってる事です。俺マジで料理出来ない(泣
4.依頼
--- ♢ No side ♢ ---
依頼人の前にコトリと置かれた紅茶のカップ。
依頼人は自分の膝の上で強く拳を握りしめていた。全身に力が入っていて、緊張しているよう。
「‥紅茶でも飲んで力を抜いてください。力を込めたまま話すのは、感情的になりやすくてあまりよくないですから。」
紅茶を指しながら優しく喋るシェリア。
アレルがシェリアの横にお盆を持って立っていた。依頼人は二人の事を見て、紅茶のカップを手に取った。
「‥」
一口だけ飲んだ後、震える手で紅茶を机に戻し、やっと全身の力を抜いた。
「‥それで、依頼の内容というのをお話頂けますか?ゆっくりで大丈夫ですので。」
「‥妹が、」
依頼人はポツリポツリと語り出す。
「妹が行方不明だったんです、少し前から。それで探して欲しくて。‥だけど、ヴィスに寄生されてたらどうしようと考えてしまって。」
「‥妹さんの捜索・ヴィスに寄生されてないかの確認が依頼内容という事ですね。」
「はい。‥あの、依頼代はいくらでしょうか?」
「依頼代は受け取っておりません。僕自身、金銭を使ったやり取りが苦手なもんで‥問題になりやすいじゃないですか、そう言うの。」
「そうなんですね、有難いです。」
依頼人は初めより楽になったような表情になり、微笑んでいた。
「では、今日から全力で探しますので見つかり次第ご連絡させてもらいます。」
「はい、有難うございます。‥お待ちしています。」
依頼人はソファから立ち玄関へと向かい、一度頭を下げてから外へ出ていった。
「‥さて、誰を連れて依頼に応えようか‥」
「なんかゲームみたいな台詞ですね。仲間選びの時の。」
「確かにそれっぽいけど凄い急だね。」
「依頼内容にあってそうな人を連れてくのがいいですよね‥」
「スルーしたね。そうだなぁ‥」
「‥あの、《《エフ》》さんの能力使ったらすぐ終わりませんか?」
「確かに!」
「だけど疲れるんだよなぁ‥」
「そうですよね‥って、エフさん!?」
「やっほ〜、ついさっき依頼終わって帰ってきた!」
「おかえり〜、どうだった?」
「やっぱりヴィスの住処になってました。全員潰してきましたけど。」
「流石うちの社員!給料ないからタダ働きだけど!」
「凄いブラック会社ですよねここ。」
「‥あの、エフさんを連れてくのは確定ですか?」
「いや、連れてかないよ?」
「え」
「だって今さっき帰ってきたのに今から働かせるなんてブラックブラック!」
「給料ない時点でブラックですよ。」
「うるさいよ‥取り敢えず、エフは連れてかない!僕らが不在中に依頼人が来たら対応してもらう担当!」
「了解です!さて三徹後にしてやっと睡眠だー!」
「お疲れ様ですエフさん‥」
エフは扉を開けて自室へと向かった。
「そして代わりにコイツを召喚!探し物に便利な能力者・《《オスカー》》!」
「‥」
呆れ顔でアレルの後ろに立っていたのはオスカー・インペリアル。いつも顔色が悪い。
「相変わらず顔色が悪いですね‥大丈夫ですか?」
「あぁ、ただの二日酔いだ。」
「いつも二日酔いなんですか!?」
「そうだが?」
「そ、そうなんですね‥」
「‥で、オスカーくんは今から出れる?」
「一応出れるが、少し休みたい。」
「OKOK、じゃあ六時になったら依頼解決に動こうか。アレルくんも準備しといてね!」
「わかりました‥!」
リビングから皆が消え、自室へ戻る。
この世はヴィスへの恐怖でいっぱいだ。
救いなんてない。
それでも彼らは救いを求める。
メーデー。
悲しき少年少女に救済を。
本日お借りしたのは
Sui様の「オスカー・インペリアル」さん、星守伊織様の「エフ・リヴァラ」さんです‼︎
・https://tanpen.net/novel/c171b3e6-d90b-4b48-be05-ee79f9cf558f/
・https://tanpen.net/novel/3ecb7f39-7db8-490a-a20d-225a4099e59b/
ありがとうございます‼︎
登場が遅くなるキャラが多いですが、必ず登場させますので‼︎ありがとうございました‼︎
5.捜索
なんか検索欄にならない設定になってました(
--- ♢ No side ♢ ---
現在時刻五時五十六分。集合時間である六時まであと少しだ。入り口にはシェリアとアレルが揃い、オスカーはまだ集合していなかった。
「殺人って遺体が発見されないと立証されないらしいですね。」
「怖いなどうしたの急に」
「いや、チーム分けに腹が立ってきて。」
「なんで?」
「いや、おかしくないですか?なんでレルヴィさんとシェリアさんペアなんですか?」
「だって知り合いだし。てか仲間だし。」
「なのに私はあんま話した事ないオスカーさんとペア!!私何話せばいいんですか!?」
「それオスカーくんが聞いてたら君気まずくなって死んでるよ?」
「大丈夫です、オスカーさんはさっきキッチンにいましたから。」
「確認してから話さないでよ。」
何かと騒ぎながら、気付けば六時。オスカーがリビングから出てきて靴を履きにきた。
「‥どうかしたのか?」
「いえ何にも!!」
「怪しいな‥」
怪しいと言う目を向けられながらアレルは思った。「あれ、私今からこの人と妹さんを探すんだよね‥?」と。
♢
彼らは依頼主の家と妹が最後に出掛けると言っていた場所との中心、十字路にいた。
「じゃ、僕とレルヴィは依頼主の家がある東の路地を。オスカーくんとアレルくんは妹さんが出掛けて行った西の路地をお願い!」
「わかった。」
「了解です。‥ところで、レルヴィさんはどちらに?」
「もう集合場所にいるよ〜!だって彼女、人に見つかったら終わりだし。」
「確かに‥そうですね。」
「‥行くぞアレル。目指すは早期解決だ。」
「あ、はい!」
二人一組で行動を開始した。だが寝不足のせいだろうか、シェリアはある事を見逃していた。
アレルとオスカーコンビがヴィスを見つけたとして、オスカーは戦闘向きな能力ではないことを。アレルが能力を使うにはかなりの量の血が必要であることを。依頼主と出掛けた場所はかなりの距離がある事を。
その事を、考えていなかった。
♢
--- ♢ Aller side ♢ ---
「ん〜っと‥この先にある公園に出掛けると言っていたのが最後なんですよね‥」
「‥申し訳ないが、私はその依頼内容を詳しく聞いていない。一から話してもらってもいいか?」
「あ、はい!‥えっと、まず“ライアン”さんという方が妹さんの捜索依頼をしにきたんです。二日前に妹さんが『あの公園に遊びに行く』と言ったっきり帰ってこないみたいで‥一応探したけど公園にもいないから何処に行ったのかわからなくて心配だ、と言う内容でした。」
「成程‥ところで、あの公園とはなんだ?」
「あ、数年前に人が寄り付かなくなって古びてしまった公園のことです。あっちに住宅街が出来てしまったので、そっちの公園に人が集まるようになったみたいで。」
「教えてくれてありがとう。物知りだな。」
「いえ、偶然知ってた事ですので!‥あの、話変わって聞いてみたい事があるんですけど、行方不明者の捜索依頼って困りますか‥?」
「まぁ‥行方不明者は生死すらもわからないから困るな。」
「やっぱそうなりますよね‥」
「せめて生きてるかだけでも知れればいいんだが‥そんな事分かってたら行方不明じゃないんだよ‥」
妹さん、大丈夫かな‥
「‥分かれ道に来てしまったが、ここからどっちに進めば公園につくんだ?」
「えっと、ちょっと待ってください!」
私方向音痴だから勘で行くのは危険すぎるんだよなぁ‥大人しく地図を見よう。スマホを起動させて地図アプリを開いた。どうやら左に進むのが正解らしい。
「左‥みたいですね。左に行きましょう!」
「すまない、スマホを持っていなかったから助かった。では左に行こう。」
オスカーさんと私にはかなりの身長差があるから歩幅も随分と変わるはずなんだけど、さっきから同じペースで歩いてるな‥オスカーさんは私に歩幅を合わせてくれているみたい。少し話すのに緊張していたけど、思ったより怖くない人のよう。
「‥人がいるぞ。」
「人、ですか?」
「あぁ、黒髪ロングの女性‥のようだ。」
「黒髪ロングの女性‥それ、依頼人さんと同じ特徴です!ってか、何処にいるんですか!?」
「路地の突き当たりだ。」
「突き当たり暗すぎてよく見えないんですけど‥あ、いますね。」
「どうだ、依頼人と同じか?」
「‥はい、依頼人さんで間違いないと思います。でもとうしてここに‥」
「‥さっき地図で見させてもらったが、この突き当たりはあの公園のはずだ。」
「え、あ、そうですね!」
ヤバいオスカーさんとの話題考えてたせいでこの先が公園ってすっかり忘れてた‥しっかりしないと!
「私達に協力しようといるのかもしれない。話しかけてみよう。」
「そうですね‥私、先に行って話しかけてみます!」
そう言って私は依頼人さんの元へと駆け出した。だって全然私役に立ててないし!恥だし!!なんかオスカーさんが言ってるけど‥
「いや、一緒に行けば良くないか‥?」
キコエナイキコエナイ。
♢
--- ♢ No side ♢ ---
「あの〜‥ライアンさんですよね?」
アレルは依頼人・ライアンらしき人物に声をかけた。オスカーも追いついてきて、返事を待っていた。するとライアンはゆっくりとこちらを振り返り、2人を視界に収める。
真っ赤な瞳と幼さ残る顔、サラサラの黒髪を伸ばした見た目はまるで人形のように美しい。
「‥」
彼女はただ二人を見つめるだけで、返事をしなかった。瞬きはするので生きてはいるようだ。
「‥あの、私達依頼を受けたリュネットの者ですので、疑っているのならば御安心を。」
「‥」
オスカーが安心するよう味方だということを伝えても何も変わらなかった。
「‥と、」
小さな唇が少し動き、何かを呟いた。
真っ赤な瞳が閉じられ、その口が弧を描く。
「やっと来おったか。」
ブチッ。
皮膚を破る音が聞こえ、少女の首から何かが飛び出した。その血液は黒。閉じられた瞳が開けば、その瞳は先程の熟れた林檎のような赤い瞳ではなく、深淵のように真っ黒な瞳だった。
「長らく待ったぞ、人間達よ。」
目を細めて笑う姿はまるで悪女。そこに依頼しにきた少女の面影はない。
「え‥」
二人は理解が追いついていなかった。血の色が黒なのも、目の色が黒に変わるのも、ヴィスに寄生された人間の特徴なのだ。ヴィスに寄生され、体を突き破られれば喋ることはできないだろう。つまり彼女は、
「ヴィスと‥共存した‥?」
レルヴィのようにヴィスでもあり人間でもある存在になっていたのだ。
6.正体
--- ♢ No side ♢ ---
「‥君は何故生きられている?ヴィスに寄生され、その姿になれば死ぬだろう。」
「やはり初めはその質問をするか。まぁよい、答えてやろう。精神を交換したんじゃ、この娘とな。」
「‥精神を、交換?」
「多重人格というものがあるじゃろう?あれに近い感覚でなぁ‥妹が死んだ事を受け入れられなかったこの娘の体に寄生し、弱った精神を奪い取ったんじゃ。誰しも絶望した時に救いの手を差し伸ばされれば、その手を掴んでしまうじゃろうなぁ。」
「‥君の考えは理解できない。」
「それは残念じゃ。まぁ、お前らが理解するという事に初めから期待していない。」
「‥私から、質問いいですか。」
「いきなり質問するんじゃなくて許可をとるとは‥そこの小娘は思ったより真面目なようじゃな。一つ質問したところで終わりにしようと思っていたが、気が変わった。いいぞ、質問してみない。答えてやろう。」
「‥貴方の名前は、なんですか。」
「わしの名か?そんな事を聞くとは珍しい。じゃが答えると言ったのは事実であるの。わしの名は‥そちらの世界じゃヴィスと呼ばれておる‥が、小娘が聞きたいのはその名ではないな?」
「‥えぇ。」
「そうじゃなぁ‥数えきれないほど人に寄生してきたからどの名を名乗るかと困るが‥初めの名を名乗っておこう。」
彼女はスカートの裾をドレスのように摘み上げ、深々と頭を下げてお辞儀する。
「わしの名は“グラン”。人に何度も寄生しなおして、長年生き続けておるヴィスじゃ。」
飲み込まれてしまいそうなほど真っ黒な瞳を細め、恐ろしい程歪んだ笑みを浮かべた。
「‥何故、リュネットへ依頼に来た。」
「あそこは乗り移るのに丁度よさそうな人間が揃っておったからなぁ、次に会った奴に乗り移ろうと思っただけじゃ。」
毛先を指でいじりながら話し、品物を見定めるかのように二人の全身を眺め始めた。
「してそこの男。」
「‥私、だな。」
「そうじゃ。貴様、中々いい体じゃなぁ‥能力は何かわからぬが、そんなのどうでもいい。」
「悪いが、寄生先に選ぶなら間違いだ。」
「ほぉ‥何故じゃ?」
「私の能力は戦闘向きではない。寄生したところで、ろくな人生を送れないだろう。」
「そんなのどうでもよい。能力の良さ悪さなんぞ、散歩にスニーカーを履くかサンダルを履くかぐらいどうでもよい。」
「__例えが微妙‥__」
「失礼じゃぞ小娘。」
「すみません」
「‥まぁ、寄生させる気がないのなら仕方がない。」
彼女は一歩前へ出て、左手を前に突き出した。その人差し指でオスカーを指差し、一層不気味に微笑んだ。
「無理矢理にでも奪わせてもらおう。」
彼女の足元からタコの足のようなものが飛び出し、オスカー目掛けて物凄いスピードで飛んで行った。
「危ないっ、!」
アレルがオスカーを突き飛ばし、攻撃から避けさせた。
「アレルすまない、怪我は?」
「えっと‥大丈夫です、!」
「‥嘘はいけない、右腕から血が出ているぞ。」
「え、あ、本当だ‥すみません、でもこれくらいなら大丈夫ですので!」
そう言いながらも押さえている右腕からの出血は止まらない。左手や右腕の服が血に染まっていく。
「__止血できるようなものがないな‥__」
「おやすまない、男を狙ったつもりじゃったが小娘に当たってしまったのぉ。じゃが、これは好都合。それ以上小娘に傷がつく前にわしに体をよこしぃな。さすれば助けてやろう。」
オスカーは考えた。アレルが死ぬ前に体を渡せば、アレルは助かる。ならばいっそ渡してしまおうか、と。
「‥オスカーさん、体を渡そうとか考えないでくださいね。」
「‥どうしてだ?」
「だってあの人、オスカーさんが体を渡したってどうせ私の事を殺します。」
「‥ほぉ、勘が鋭い小娘じゃな。」
「だから、私の事は気にしないでください。自分が死なないようにだけ気を付けて。」
「‥アレル、少しいいか?」
「え、はい。」
「__君は、戦闘向きな能力だったかな。__」
「__‥えぇ、今が丁度いいです。血が大量に出ていますから、私の能力が使えます。__」
「__では今、頼んでもいいか。__」
「__えぇ、シェリアさんを呼ぶまでの時間稼ぎですよね。__」
「__あぁ、拘束を頼む。__」
「__了解です。__」
「なんじゃなんじゃ、作戦でも練っておったのか。」
「‥えぇ、人生賭けた最高の作戦を練っていました。」
アレルが右腕を押さえていた手を下ろし、地面に血を垂れ流しにする。服の右袖は白ではなく赤に染まっていた。アレルは呼吸を整え、その瞳を敵意で染め上げた。
「“ 𝒷𝓁ℴℴ𝒹 𝓇ℴ𝓈ℯ ” !!」
その呪文が路地に響いた瞬間、アレルと彼女の足元に赤い魔法陣が現れた。右腕から垂れる血がドクドク流れ続ける。彼女の足元にある魔法陣から糸が飛び出し、彼女の手足を縛る。
「‥面倒な能力持ちじゃったのか、小娘よ。」
「面倒な能力ですみませんね。」
オスカーは後ろで手を組み、ポケットにあるスマホでシェリアにメールをする。
『西路地 ヴィス ピンチ』
彼女にスマホで連絡していることを悟られる訳にはいかない為、簡単な単語しか打てなかったがシェリアにはそれが伝わったようだ。
『急いで向かう』
すぐにそう返信が来た。
彼が来るまで、二人は耐えられるのだろうか。
♢
「‥不味い。」
「‥どうか、したの?」
「アレルくん達の方にヴィスがいた。よくわからない部分が多いけど、取り敢えず行かなきゃ二人とも死んでしまう。」
「‥私みたいな、人がいる。」
「‥どういうこと?」
「‥私は、ヴィスと共存した人間。ヴィスでもあり、人間でもある。そんな人が、西にいる。」
「‥アレルくん達が会ったヴィスの事かな。」
「‥多分、そう。」
「‥レルヴィ、ここは頼める?」
「‥わかった。お母様達は、任せて。」
「ごめん、ありがとう。」
屋上へ向かって飛び、建物の上を通って西へ走る。普通の人間じゃありえないような姿を、バケモノと呼ぶのかもしれない。
ポケットに入っているスマホの着信があった事に、急いでいたシェリアは気づいていなかった。
『拘束 外れた』
ポツリポツリと、雨が降り始めた。
7.晴れ
--- ♢ Aller side ♢ ---
「ッ‥」
今の状況を一言で言うのならば、“絶望”だ。
「壊すのに少し時間がかかったのぅ。全く、面倒な拘束をかけよって。まぁまだまだ未熟なものだった故に壊しやすかったが。」
グランさんは私の拘束を簡単に壊してしまった。簡単に、壊されてしまった。
「‥アレル、動けるか。」
「‥ごめんなさい、フラフラして動けないかも、です。」
「‥参ったな。」
私は血を流しすぎて貧血、オスカーさんは私がいるから逃げれない、グランさんはまだピンピンしている。なす術がない。
「シェリアが来るのを待つしかないが‥」
「‥」
私は今この状況で、所謂“お荷物”なのかもしれない。オスカーさんは私がいなければ今既に逃げられている。グランさんに狙われる事もなかったはず。私が怪我をしたから、私の能力が弱かったからオスカーさんもピンチになってしまっている。
「‥__私、何がしたいんだろう。__」
助けるはずが助けられてて、役に立とうとしたら迷惑になってて、全部空回りだ。
「そろそろお遊びは飽きた故に、本気で行かせてもらおう。そこの小娘、次男を庇ったら、右脚を思わずもいでしまうかもしれないなぁ。」
クスクスと笑いながら私に話しかけるグランさんに、恐怖心を抱かないなんて無理な話だ。
私は弱いから、誰かに頼らなきゃ生きていけない。オスカーさんみたいに自立していない。まだ未成年なんだから、平気だと世間は言う。それでいいんだと自分が納得してしまったら、きっと私は成長しない。このまま、弱いまま生き続ける。そんなのは、嫌だ。死んでも嫌だ。
「“ 𝒷𝓁ℴℴ𝒹 𝓇ℴ𝓈ℯ ” !!」
“薔薇のように美しく、棘のように恐ろしい華を咲かせましょう。”体を突き刺すような鋭い棘は、グランさんに狙いを定めた。
「‥小娘を少々下に見過ぎたようじゃな。」
棘はグランさんの両足を突き刺した。地面から離れぬよう、ずっと太い束で。
「だが貴様はなにがしたいのじゃ?この拘束を先程といたのを見ていなかったのか?」
「‥見てましたよ。だけど、それが諦める理由にはなりません。」
「‥どういうことじゃ?」
「‥私は弱いです。誰かに頼らなきゃ生きていけない。今だって、オスカーさんに助けて貰ってたし、迷惑かけてばっかり。いつも誰かが支えてくれて、そこに立っている。」
無意識の内に体に力が入る。掌に爪が食い込んで痛い。けど、それ以上に心が痛くて仕方がない。
「だけど、それでも今は一人で立っている。どんなに苦しくても辛くても、この二本の足で地面の上に立っている。自立って、そう言う事を言うんです。」
「‥」
「私は一人で立っていたい。その為には、何に対してでもすぐに諦めちゃ駄目だから。弱い自分じゃなくなりたいなら、強くなりたいなら人に頼りきりじゃ駄目だから。」
ふらつく脚に力を入れて必死に立つ。荒くなる呼吸を整えて、私は彼女に言う。
「だから、どんなに絶体絶命の状況だって私は諦めない。人に頼られる人間になりたいから。貴方を、後悔させたいから。」
「‥つまらぬ小娘かと思えば、案外芯のある小娘じゃったな。じゃが、貴様一人に何が出来る。この拘束をわしがまた壊す事は考えてないのか?」
「考えてますよ。けど、それは貴方を殺す為にやってる訳じゃない。」
あの人が来るまでの時間稼ぎにやっているから。
「あの人、それは誰じゃ?教えてくれな。」
「君に教えることはない。アレル、もう休んでおけ。__もう少しだ。__」
「‥」
大人しくここは引き下がる。出しゃばっていい時を見極めなければ、それはただの我儘になってしまうから。
「わしを後悔させるとは、どうするんじゃ?」
--- ♢ No side ♢ ---
「“ ℐ𝓇ℴ𝓃 𝓉𝓎𝓅ℯ𝓀𝓃𝒾𝒻ℯ ” 」
街灯照らす路地にそこにいた三人ではない声が響く。それと同時に空から降ってきたナイフがグランの足を拘束していた血を切った。
「ぇ‥」
アレルの顔が青ざめていく。拘束が何者かによって外された事に対する絶望だ。諦めないとは言ったが、貧血の状態で血を使う能力はもう使えない。
そんなアレルとは違い、オスカーは安心していた。その能力の呪文を唱える人物を、オスカーは待ち望んでいたから。
ふわりふわりと動く上着はまるで海月のよう。耳につけられたピアスが月明かりに反射して輝いた。開いた瞳はアクアマリンのよう。二人の前に降り立ち、振り返るその顔にアレルも安堵した。
「もう大丈夫、僕が来たからね。」
シェリア・ヴィクトリアの到着だ。
「おぉ!其方はリュネットでわしの依頼を受けた男じゃないか!」
「会った時は少女だったんだけど‥その正体はバケモノだったか。困った奴だねぇ‥」
「シェリア、さ‥」
「お疲れ様、アレルくん。オスカーくんもお疲れ様、何があったか後で聞かせてね。」
「あぁ、ちゃんと報告する。」
「うん、じゃあ安全な場所に行っててね。今からヴィスを取り除く。」
「‥あの、シェリア、さん。」
「ん?どうしたのアレルくん?」
「その人、殺しちゃうんですか、?」
「だってヴィスだよ?」
「でも、その体は、普通の女の子の体ですし‥殺さないで、すみませんか?」
「‥ねぇ、アレルくん。」
「はい‥?」
「この世に存在してていいヴィスなんていないんだよ。」
そう言うシェリアの瞳は、見た事がないほど冷たい目だった。
「‥ぁ、」
マジックのようにシェリアの手に現れたナイフを振りかぶり、グランの首元にいるヴィスを切った。グランの首元からは大量の血が吹き出し、シェリアに返り血がつく。グランの体は地面へと倒れ込み、目を見開いたまま動かなくなった。首から流れる血は真っ黒で、止まることはない。グランの死体から離れたヴィスは逃げようとしたが、シェリアに踏まれて逃げられなくなっていた。
「“ 特待能力 𝒯𝒽ℯ 𝒹ℯ𝒶𝒹 𝓁𝒶𝓊𝑔𝒽 ”」
輝く鏡に吸い込まれ、ヴィスはその場から消えた。残ったのは驚いて動かなくなったアレルギと、倒れそうになるアレルを支えて見てはいけないものを見たかのような顔をしたオスカー、そして動かなくなったグランと、グランの死体の前にいるシェリアだけだった。
「‥シェリア、さん。」
「‥ここで見たことは全部忘れて、ね?」
シェリアは泣きそうな顔でこちらを向き、無理矢理口角を上げて微笑む。何かを押し殺すように微笑み、ゆっくりとアレル達の方へと歩いてきた。
「‥お疲れ様アレルくん。ゆっくりおやすみ。」
そうシェリアが言った瞬間、アレルの体から力が抜けて倒れそうになる。それをオスカーが受け止め、どうしたのか確認すると眠っているだけだった。
「‥一体、何をしたんだ。」
「何もしてないよ、本当に。無理に意識を保ってる状態だったから、安心させるような言葉をかければ意識が落ちるだろうな〜と思ってただけ。」
「‥助かった、ありがとう。」
「ううん!こういう時に助け合うのが仲間ってもんでしょ!」
「それもそうだな‥では、さっきの感謝はなかった事に‥」
「なんでぇ!?それはおかしくない!?」
先程までの雰囲気はどこかへ行き、二人はいつものおふざけ雰囲気に戻っていた。
「‥私はアレルを運ぶ。」
「およ、ありがとうね〜!じゃ、帰ろっか!」
♢
あの後にアレルが地図を開いた分かれ道へ戻って行き、路地を抜けるのもあと少しというところまだ来た時のことだった。
「‥ねぇ、オスカーくん。」
「?どうかしたか?」
「君は僕を殺せる?」
「‥は?」
「あぁいや、この質問は変だったかな。‥君は僕がヴィスに寄生されたら、迷いなく殺せる?」
「‥どうした急に。」
「さぁ?どうしてだろうね〜、なんか聞きたくなっちゃった。」
ケラケラと笑う彼に、何か隠しているのではないか、と思ってしまうのは普通の事だろうか。
「‥わからないな。お前がヴィスに寄生される場面に出会っていないから答えられない。」
「あ〜そっか。僕ヴィスに寄生される訳ないから想像できないか。」
「寄生される訳がないって、凄い自信だな。」
「だってこの僕だよ?そう簡単には寄生されないさ!君だって、そう思うだろう?」
「‥まぁな。」
「でしょ!」
「‥君は、どうなんだ。」
「ん?」
「君は、私を殺せるのか。ヴィスに寄生された私を、迷いなく。」
「殺せるよ。」
「‥」
「だって、寄生されたら君の体は残っても君じゃなくなるでしょ。ヴィスは駆除しなきゃ。」
「‥私はそう簡単にヴィスに寄生されない。」
「あれ、何処かのイケメンと同じ事言ってる〜!」
「誰だイケメン?」
「いやほら、目の前にいるでしょ?」
「‥いないぞ?」
「失礼だなオスカーくんってばもぉ〜!!」
「叩くな、アレルが落ちる。」
「落ちても大丈夫!気付かないでしょ!」
「よし、アレルに教えとくか。」
「やめて〜!!」
雲の隙間から太陽が顔を出し、彼らの進む道に光が差した。水溜まりに二人の姿が反射する。
天気は絶望の雨ではなく、“希望の晴れ”だ。
第一章 天気は晴れ
「終」
8.出航
--- ♢ No side ♢ ---
普段は人っこ一人いない港に、珍しく十一人の陰があった。
天気は晴れ。雲一つない快晴だ。
そんな十一人に数人の影が近づく。先頭を歩くものが十一人の前で足を止めた。
「お待ちしておりました、リュネットの皆様。」
「態々付き添いにありがとうございます、《《ルミエール王子》》。」
この世界・リーヴァで三番目に強いとされ、世界最強四天王の一人とも呼ばれている。彼はこの国・メルマイユの王子である。
「おや‥そちらの紅髪のお嬢様とは初対面ですね。お名前をお聞きしても?」
「あ、アレル・ミスリアと申します!」
「アレルさん、本日からよろしくお願いします。僕はルミエール・フォーツグラインと申します。」
ルミエールは頭を下げ、礼をする。
アレルは思い出した。この港に着く前に通りすがりの人達が話していた内容を___、
♢
「ねぇねぇ、あの噂聞いた?」
「あの噂ぁ?何よそれ。」
「アンタ知らないの!?ルミエール王子がこの辺に来てるって噂!」
「え!?あの王子様が!?」
「そう!容姿端麗、頭脳明晰のルミエール王子が王都からこっちに来てるのよ!」
「凄い事じゃないのそれ!会えるかしら‥」
「会えなくてもいいわ、私は一目見てみたいの!絵のように美しいと噂の容姿を!」
「あわよくば目が合うといいわね〜‥ま、無理でしょうけど。」
「そうよねぇ〜‥私達みたいな庶民が会える人じゃないか。」
「そりゃそうよ。」
「‥」
アレルは思った。
そんな美しくて頭良くて凄い人なのか‥?と。
♢
「__イケメンだぁ‥__」
見惚れるほど沼ってしまったアレル。
「おーい、アレルちゃん?」
「わっ!?」
「うわっ!!?」
「あ、《《リュオル》》さん!すみません!」
「急に大きい声出したのは吃驚したけど、謝るような事じゃないよ!」
リュオル・フォルテーオ。リュネット所属の20歳。身長が低い事を気にしているそう。
「皆もう船乗ってるから俺らも乗ろ!」
「あ、はい!」
東の国・ヘルーマに向かう船に二人も乗り込んだ。彼らが何故この国を離れて他国へ行くのか。それは“聖祭”があるからだ。
聖祭とは、他国から沢山の人が集まって“神”からこの世界の運命を聞く儀式の事。神からそれを直接聞くのではなく、“神の声を聞く少女”を通してその言葉を聞く。
「神の声を聞く少女‥」
アレルはデッキに出て自分がさっきまでいた国を見つめる。潮の匂いがしてなんだか心地が良い。程よい風が髪を流し、朝日の眩しさに目を細める。
「不安かい?」
「!シェリアさん‥」
「安心してね。今から行く場所は恐ろしい国じゃないよ。」
「‥お見通し、なんですね。」
「まぁ雰囲気でわかるんだよねぇ、不安かそうじゃないかって。」
「‥シェリアさんは、怖くないんですか?」
「怖くないよ?だって何度も行ってるもん。」
「ヴィスに寄生されるかもしれないって、不安じゃないんですか?」
「不安じゃないよ。だって、寄生されたらその時はその時だもの。怖がったってどうにもならないよ。」
「確かにそうですけど‥」
「‥どうしても不安なら、おまじないを教えてあげよ〜う!」
「お、おまじない?」
「うん、困った時に唱えるとなんとかなるおまじない!」
「‥危険じゃないですか?」
「それはわかんない!」
「え」
「だって使った事ないもの〜!なんか知ってるおまじないだから危険かどうか知らな〜い!」
「えぇ!?」
「それでも、君を助けてくれるのは確かだから!きっと大丈夫!」
「駄目じゃないんですかそれ!?」
「大丈夫だってば大丈夫!」
「えぇ‥?‥‥一応、聞くだけ聞かせてもらいます。」
「『行き過ぎた愛は世界を壊す‥ならばいっそ、世界を壊してしまうほどの愛を貴方に___、𝒹𝒾𝓈𝓉ℴ𝓇𝓉ℯ𝒹 』。」
「‥それが呪文なんですか?」
「うん、多分ね。」
「‥ありがとうございます。」
「うんうん!‥元気出してね、これからもっと大変な事があるんだから。」
「え?」
アレルがその言葉に対して質問しようとした時には、もうシェリアは隣ではなく艦内に戻っている途中だった。
「もっと大変な事、か。」
晴れた空にカモメが飛んでいた。
予告
--- 神の声聞こえし少女、我のモノなり____ ---
港に佇む十一人の陰。
そこに近づくは彼らの新たな仲間。
「お待ちしておりました、リュネットの皆様。」
彼らは船に乗り込み、他国を目指す。
目的地は東の国・“ヘルーマ”。
“神の声が聞こえるという少女がいる国”。
♢
神の声の元、命を捧げよ。
「あっれれ〜?リュネットの皆様じゃないですか〜!」
♦︎
神の声の元、常識を覆してみよ。
「僕の仲間に手を出すなんて、常識ってものを習った事がないのかい?」
♢
神の声の元、全てを捧げよ。
「俺はお前らみたいなヴィスに信仰してる奴じゃねぇんだよ。」
♦︎
神の声の元、世界を壊してみよ。
「私だって死にたくてここに来てるんじゃない!生きる為にここに来たの!!」
♢
神の声の元、手足を捧げよ。
「ヴィスは私達のモノよ。殺すだなんてしないで頂戴。」
♦︎
神の声の元、命を賭けよ。
「僕は死んでもこの国を‥妻を守る。だって、命より大事な物だから。」
♢
神の声の元___、
「私に全てを託しなさい。」
さすればきっと、
「貴方も私も、救われるから。」
♦︎
神の声の元、少女を逃がすな。
--- 第二章 神の声 ---
9.東の国
今回は会話文多め(物語の9割くらい)です。
--- ♢ No side ♢ ---
「わぁ‥!」
船を降りて広がる世界に思わず声が漏れる。
「なんか前より凄くなりました?」
「なんか派手になったよねぇ。」
木や花が沢山生え、整備された道や装飾された入口。自然が沢山の国で美しい。
「皆が観光したいと思うところで残念なお知らせ!今から王都に行ってお話し合いです!!」
「やだー!!」
「エフくん!嫌なのはめっちゃ共感だけど諦めて!!僕も凄く嫌だから!!」
「所長がそれでいいのか‥?」
オスカーがシェリアを呆れた様子で見る。エフは観光したい(遠くでやっているマジックを見たい)と騒いで、シェリアも何かを堪えるように共感しまくっている。
「子供みたいですねぇ〜‥」
「本当ですよね‥《《ラミィ》》さんみたいに少しはちゃんとしてくれれば‥」
「えへへ、私ちゃんとしてるかな〜?」
「してますよ!少なくてもシェリアさんよりは!」
「ちょっと全部聞こえてるからね!?」
騒ぎに騒いでいるが、ここはまだ国の入り口である。国の中にすら入っていない。それなのにこんなに騒げるのはある意味彼らの才能なのかもしれない。
「リュネットの皆様、体に違和感等ございませんでしょうか?」
ルミエール王子がリュネットの元に近づき、シェリアと会話をする。
「えぇ、特に問題ないです。いつも通り騒がしくてすみませんね!」
「主にシェリアさんのせいですよ。」
「まぁそういう事でもあるかもしれませんね。」
「あはは‥では、王都へご案内致します。何かあれば遠慮なく聞いてください。」
「‥わっ‥‥!!《《レン》》、さ‥あそこ、凄い、綺麗‥!」
「何処何処〜?‥わ、綺麗なお花〜!!」
「だよ、ね‥!」
「オスカーさん、せめてここでは禁酒してくださいね。」
「‥《《ネイ》》は厳しいな。」
「オスカーさんが前から禁酒するって言ってるのに禁酒してないからですよ。これは注意です。」
「__キラキラ‥__」
「あそこのイヤリングでも欲しいのですか、アレルくん。」
「わっ!?‥って、《《ルイシェ》》さんですか‥えぇ、あのイヤリング可愛いなぁと‥」
この人いろいろと謎多くて少し怖いんだよなぁ‥と、アレルは心の中で呟いた。
「見てラミィ〜!あそこにお化けの看板あるよ〜!!」
「やめて引っ張らないで《《ミオネ》》〜!!お化けとか嫌ァァァァァ!!」
「あっはははは!!」
「ふふっ、リュネットは賑やかで楽しそうですね。」
「いやお恥ずかしい‥皆ちょっと静かにして!!」
「静かにだとか気にしなくてもいいのですよ?この国はいつでも賑やかですし。」
「なんか気分的なやつなんですよねぇ〜自分達が一番騒いでそう。」
「成る程‥?僕にはよく分かりませんが、賑やかなのが僕は好きですよ。」
「その優しさがありがたいです‥ところで、《《あの方》》は何方に?」
「先に王都に向かっています。我々と共に行動しては疲れてしまうでしょうから‥あ、これは決して騒がしいからという訳ではなく、気を使ってしまうのではないかという事ですから!」
「訂正しなくても分かっていますよ!まぁあの方もこれから大変でしょうからねぇ‥」
「僕に出来ることは彼女の側にいること。《《聖祭》》の途中で何かしてあげられる事はありません。」
「まぁ僕らにもないですからねぇ〜‥」
「聖祭の前は仕事ありますからね?」
「考えたくないですねぇ〜」
「‥あの、シェリアさん、ルミエール王子。」
「?どうかしたのアレルくん。」
「えっと、王都ってどうやって行くんですか?」
「そりゃもう‥」
「僕の《《精霊》》に乗って王都まで飛んでいきます。」
「せ、精霊‥?」
「えぇ、空の精霊や風の精霊を使って移動していきます。座り心地はいいので安心してくださいね。」
聞きたいのは|そこ《座り心地》じゃないんだよなぁ、と一同。
「‥ですが乗る場所に気を付けなければいけないので少し歩きます。」
「そうなんですね、ありがとうございます‥では、もう一つシェリアさんに質問です。」
「ん?」
「レルヴィさんは何処ですか。」
「‥レルヴィかい?」
「船に乗る時から見かけないのですが、一体何処へ?」
「彼女は先に行ってる。日中は僕らと一緒に行動してはいけないんだ‥理由はわかるね?」
「‥レルヴィさんは納得してるのですか。」
「してるに決まってるだろう。無理強いするほど、僕は酷な人間じゃないからね。」
「‥なら、いいんですけど。」
「アレルちゃん、大丈夫‥?」
「リュオルさん‥大丈夫です!普段と違う環境でちょっと‥不安になっちゃってるみたい。」
「なんか困ったらいつでも頼ってね!他の皆も嫌々ながら手伝ってくれるよ!」
「ありがとう、リュオルさん。」
「‥へへ、やっぱ“ごめん”より“ありがとう”の方が好きだな!」
晴れた空を仰ぎながらリュオルは笑った。
♢
のほほんとした雰囲気のまま歩き続ける事約十五分。ルミエールの足が止まった。
「‥皆様、沢山歩いて疲れたでしょう。これからは飛んで移動するので、飛びやすそうな装飾品は飛ばないように気を付けてください。」
「リボンって飛ぶかな‥?」
「飛びますね、間違いなく飛んでます。」
「ルイシェさん、まさかですけど未来見てます‥?」
「それは‥ご想像にお任せします。」
「あれ」
なんやかんやあって全員が精霊‥龍に乗った後ルミエールも精霊の上に乗り、呪文を唱える。
「“ 𝒮𝓅𝒾𝓇𝒾𝓉 ” !」
空高く龍が舞い、街を一望できる高さへと登った。御老人がベンチに座って話している様子や子供達が公園ではしゃぐ様子、学生の幸せそうな顔が空から見え、自然と幸せな気持ちになっていた。だが時間がない中のんびりと空を飛んでいく訳がなかった。急に龍のスピードが上がり、全員の心臓が一度止まりかけた事だろう。
「イヤァァァァァァァァァァ!!!!!」
名前を出して誰とは言わないが、方向音痴の人間の悲鳴が街に響いた事だろう。
上手く出来た自信なくてすみません‥(
シェリアさんの過去編を何処ら辺で書こうかめっちゃ悩んでます。書くとしたら記憶を取り戻した後かな。第二章の最後に公開か三章、四章(あるかな)で公開か‥どっちがいいですかね?(
10.集会
--- ♢ No side ♢ ---
城の前につき、精霊が元に戻っていった。だが彼らは乗る前よりも元気がなくなっているよう。
「あ”〜死ぬかと思った‥」
地面に手をつきそう呟くリュオル。
「それなです‥」
そんなリュオルに共感するネイ。
「なんなら一人死にかけてるけどね‥」
そう言いとある人物を哀れみの目で見つめるシェリア。
「え?」
リュオルが振り返ったそこには、倒れ込んでしまっているアレルの姿があった。
「アレルちゃぁぁぁぁん!?」
「アレルくんって激しい動きに弱いねぇ‥」
「無理ですよあんなの‥ほぼジェットコースターのベルトなしだったし‥」
「ジェットコースターより酷かった気がするよね。」
シェリアが笑いながらアレルの言葉に突っ込む。
「スピード出しすぎて悪かったですね」
シェリアを睨みながらそう言うルミエール。申し訳ないがあんまり怖くはない。
「正直貴方達の行動が早ければこんな事にはならなかったんですよ」
「何の事だか」
「すっとぼけないでください」
ルミエールとシェリアが会話をし、周りの皆が王都のいろんな店やおしゃれな建造物に興味津々で話していると、そこに一人の少女が現れた。そのひとに気がつくとルミエールは頭を下げ、お辞儀をする。
「《《アイリス》》様、お久しぶりです。」
「えぇ、お久しぶりです。お元気なようで何よりですよ、ルミエール王子。」
黄緑色の髪を揺らし、皆の前に現れた少女は、“神の声を聞くことができる”と噂のアイリス・フォーツグラインだ。聖母のような優しい視線をルミエールに向け、それから皆の元へ向き直った。
「集会は城の二階で行われます。そこまでご案内しますので、ついてきてください。」
そう言って彼女は前を歩き始めた。ルミエールはそんな彼女の横へ並んで歩き、話しかける。
「どうして一人で来たんですか。君は人に狙われやすいんだから、出掛ける時は必ず護衛を用意してと何度も言ったのに‥!」
「だってここまでくれば貴方がいますもの。護衛だなんていりません。だって、貴方が守ってくれるでしょう?」
「使命なので守りますが‥そういう考えはおやめください。城内に敵がいるかもしれないんですよ。」
「その時はその時です。私もそう簡単にはやられません。だって、」
「神が味方してくれるから、ですか?」
「‥えぇ、その通りです。」
「そんなの、神を信じていない訳ではないですが心配でしかありません。大事な時に助けてくれるか、それすらわからないというのに‥」
「‥貴方って、ちょっぴり重いです。」
「え」
「私だって貴方に守られなくなるくらいには強いと言うのに、何故そこまで心配するのですか。なんだか弱いと言われているようで腹が立ちます。」
「それは‥申し訳ありません。少し心配しすぎましたね。」
「でも、貴方が私をどれだけ愛しているのかよく分かるので、心配されるのもそんなに嫌じゃないですよ。」
「‥ほどほどにしておきます。」
「それでいいんです。」
二人の何歩か後ろを歩くアレルが、幸せそうな二人を見つめながら一言呟く。
「‥__ルミエール様彼女さんいるんだ‥__」
「なにアレルくん。ルミエール様狙ってたの?」
「狙ってなんかいません!ただ、彼女いるんだなぁって思っただけで!」
「ちなみにあの方彼女じゃなくて奥さん。」
「既婚者って事ですか!?」
「うん。」
驚きのあまり声が大きくなってしまった事に恥じらいを感じ、静かになるアレル。
♢
城内へと入り、アイリスの後ろを歩いて目的の部屋へと向かう。すれ違うメイド達から向けられる冷たい視線を感じるのはきっと気のせいだと皆自分に言い聞かせながら。
大きなシャンデリアが輝き、丁寧に掃除されているであろう階段を登る。そこから少し歩き、まるで御伽話の世界でしか見たことがないようなおしゃれな扉をルミエールが開ける。中に一歩入れば、空気がピンと張り詰めた空間だ。国の重要な役職についている者達が集まり、シェリア達を見つめる。何人か冷めた視線を向けているが、それはきっと気のせいだ。
「ここでは初めまして皆様。リュネットです。この度は聖祭の手伝いに呼んでいただき、ありがとうございます。」
シェリアが頭を下げ、重役達に挨拶をする。
皆指定された席に座り、呼吸すら忘れてしまいそうなほど緊張感が張り詰める空間で会議の開始を待つ。マイクの電源が入る音がし、それからルミエールが全員の前に立った。
「皆様集まったという事で、これより聖祭の会議を始めます。」
後ろのモニターの画面がついた。
一日で完成させたのはある意味才能(⁇
ちょっと雑クオだけど許してください