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目次
あの日消えてしまった君は
蝉の声が、遠くで鳴いている。
夏の夕暮れ、空気は熱をまとっていて、どこか重く、 生ぬるい風が、れるの頬を優しくなでた。
💫🎨「こえくん……また来たで」
れるは、手に小さな花束を抱えていた。白いリンドウと、スターチス。
ぽつん、と並ぶ墓石の前に膝をつき、れるは手を合わせる。
一年に一度、この日だけは、何があっても休みを取ってここへ来ると決めていた。
こえが死んだのは、ちょうど一年前の今日。
もう一年経つ。
信じられないくらい早くて、でも、毎日がとてつもなく長かった。
突然の交通事故だった。
何の前触れもなく、「ちょっとコンビニ行ってくるね」って笑ったきり、もう戻ってこなかった。
💫🎨「……お前、ほんま、急やったな。何の前触れもなく……」
震えそうになる声を押し殺して、れるは唇を噛み締めた。
思い出すのは、あの朝。
笑って手を振った姿。
**「行ってきます」**
その最後の一言が、焼きついたまま消えない。
そして――
「……れるち」
背後から聞こえた声に、思わず心臓が跳ねた。
まさか、と思って振り返った瞬間、目が大きく見開かれる。
そこに____
こえが立っていた。
💫🎨「……は?」
れるは、言葉を失った。白いシャツ、赤のパーカー。
あのときと、何ひとつ変わらない姿で。
風もないのに、髪がふわりと揺れていた。
💫🎨「……こえくん……?」
💫🎨「……なんやそれ、え? え?」
れるの身体が震える。
目を疑った。
涙が、あふれた。
何回も目をこすっても、消えない。
そこに確かに、こえが立ってる。
❣🌸「れるち……ひさしぶり」
こえが、そう言った。
💫🎨「あかん……あかんやろ、なんで、なんでお前……っ!ほんまにこえくんなんか…?」
❣🌸「うん、僕だよ。ここに、いる」
💫🎨「いや、……いやいや、なんでお前、……死んだんちゃうんか……!」
涙が一瞬であふれた。視界がにじんで、何も見えない。
でも、こえの声だけは、はっきり聞こえた。
❣🌸「僕にも……よくわからない。気がついたら、ここに立ってた。れるちの声が聞こえて……それで……」
💫🎨「なんやそれ……夢か、これ……。せやろ? これ夢やんな……っ」
れるは両手で顔を覆った。
でも、現実はあまりにも鮮明やった。
声も、姿も、匂いさえも――
全部、こえのまんまだった。
❣🌸「ほら、泣かないで」
こえが、そっとれるに手を伸ばした。
その指先は――れるの肩に触れた。
❣🌸「……僕ね、幽霊、なんだと思う」
💫🎨「…っなんで今さら出てくんねん……れる、ずっと、ずっとお前のこと忘れられへんかった……!」
膝から力が抜けて、地面に崩れ落ちた。
こえがいなくなってから、毎晩泣いた。
食べることも、寝ることもまともにできない日が続いて、
やっと、少しだけ日常を取り戻しかけてたのに。
❣🌸「ごめん……でも、僕にもわからないんだ、」
その優しい声が、れるの心を再び壊していった。
生きてるときと、なんも変わらない。
いや、生きてるときよりも、優しい気がした。
れるは肩を揺らして泣いていた。声にならない嗚咽が、喉の奥で震えていた。
涙が頬を伝い、こえのシャツに染みていく。
れるは目を伏せた。
でも、視界の端にうつるこえの顔が、泣きそうなほど懐かしくて、美しかった。
こえは生きていた頃のまんま、あの優しい声も、笑い方も、全部そのままだった。
💫🎨「れるにだけ、見えてるんか?」
❣🌸「たぶん。さっきから誰にも気づかれなかった」
こえは小さく頷いた。
❣🌸「お墓の前でれるちの声、聞こえて。気づいたらここにいた。……会いたかった」
れるは唇を噛みしめた。声を出すのも、やっとやった。
💫🎨「……れるも、会いたかった」
その一言で、何年分の寂しさが胸の奥から一気に噴き出した。
涙が止まらなかった。
こえの存在が嬉しい。でも、怖かった。
これは奇跡で、
その奇跡はいつか終わってしまう――
そう思った瞬間、胸が痛くてたまらなかった。
💫🎨「こえくん、どれくらいここにおれるんや……?」
❣🌸「わからない。でも……れるちがいるなら、もうそれでいい」
こえが笑った。
それは、生きていた頃と同じ、あの“甘い笑顔”だった。
れるは、こえの目を見つめ返して、言った。
💫🎨「……ほな、今からまた、一緒におろな」
それがどんなに儚い願いでも。
もう一度、ふたりで過ごせるなら――
2話
墓地を出て、れるは黙ったまま歩いていた。
こえはその隣を、静かに並んで歩いていた。
誰にも気づかれない。
けど、れるにはちゃんと感じられる。
確かに、隣にこえがいる。
腕のあたりに、ほんのり温度みたいなものを感じる。
💫🎨「……なぁ」
ぽつりと、れるがつぶやく。
❣🌸「ん?」
💫🎨「このあと……、こえくん家、行くんやけど」
こえは足を止めた。
❣🌸「僕んち?」
💫🎨「……うん、その、……命日やし……ご家族に、花だけでも渡そうかな、って。……あ、別に、無理に一緒に来いとか言うつもりはないんやけど……」
💫🎨「……でも、もし……一緒に来てくれたら、ちょっと……、ご家族も嬉しいかなって思っただけで……」
こえは静かに微笑んだ。
❣🌸「うん。行く。……僕も、久しぶりに、行きたい」
その返事を聞いて、れるの目にじんわり涙が浮かんだ。
こえはもう、この世の存在じゃない。
でも、「一緒に行く」って言ってくれたその言葉が、何よりも嬉しかった。
---
バスに揺られて、こえの家まで向かう。
れるの隣にこえが座っている。
けど、車内の誰もこえに気づかない。
❣🌸「ふふ、なんか、透明人間になったみたい」
こえが冗談っぽく笑う。
💫🎨「笑いごとやないやろ。こっちはまだ、頭こんがらがってんねん」
❣🌸「……ごめん」
💫🎨「……でも、なんやろな。こうして喋ってると、やっぱりお前が死んだなんて思えへん。いつもみたいでさ……」
れるはそっと、こえの手に触れてみた。
ふわりと、指先にぬくもりが伝わってきた。
💫🎨「あ……やっぱり、触れられるんやな。れるだけ触れられるんや」
❣🌸「うん。れるちだけ。……不思議だね」
💫🎨「不思議どころちゃうわ、もう全部おかしい」
でも、そのおかしさが、愛しくてたまらなかった。
---
こえの家に着くと、れるは深呼吸をしてインターホンを押した。
こえの母親が出てきて、れるの顔を見て一瞬表情を和らげた。
「……れるくん。暑い中、わざわざありがとうね」
💫🎨「いえ……ほんま、急にすみません。これ、花……置いといてもらえたら」
こえの母は花束を受け取り、優しく微笑んだ。
「こえもきっと喜ぶわ」
その言葉に、れるの胸がぎゅうっと締め付けられた。
隣には、本人が立っているのに。
その声も姿も、届かない。
こえは母親の顔を見て、微笑みながら小さくつぶやいた。
❣🌸「お母さん……久しぶり。元気そうで、よかった」
れるだけが、その声を聞いていた。
れるだけが、こえの寂しそうな横顔を見ていた。
---
こえの家を後にして、ふたりで帰る途中、
こえが、ぽつりと言った。
❣🌸「……やっぱり、僕、もう死んでるんだなって。……実感した」
💫🎨「……うん」
❣🌸「会えてよかったけど……見えてるのが、れるちだけってのが、逆につらいな」
れるはこえの手を握った。
ぎゅっと、強く。
💫🎨「れるが見える限りは、こえくんは生きてるのと同じや。こえくんがもし消えるとしても、消えるまで、ちゃんと一緒におるから」
その言葉に、こえは目を見開いたあと、静かに頷いた。
❣🌸「……ありがとう」
そして、ほんの一瞬、手をつなぎながら、
ふたりは静かな夕暮れの中を歩いていった。
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